(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物に接触する測定子を有するプローブと、プローブを移動させる移動機構と、移動機構を制御する制御装置とを備え、測定子を被測定物に押し込んだ状態で被測定物の測定対象面に倣って測定子を移動させることによって被測定物の形状を測定する形状測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の三次元測定機(形状測定装置)では、モーションコントローラは、測定子を被測定物に押し込んだ状態で被測定物の測定対象面に倣って測定子を移動させるための速度ベクトル(プローブ指令値)を生成する自律倣いベクトル生成部を備える。
【0003】
図18は、円錐台状の被測定物Wの測定対象面(円錐台状の側面)に倣って測定子100を移動させている状態を示す図である。
自律倣いベクトル生成部では、
図18に示すように、被測定物Wの中心軸をZ
W軸とし、Z
W軸に直交する2軸をX
W軸及びY
W軸とした被測定物Wの形状を測定するためのワーク座標系を設定している。以下では、Z
W軸方向、すなわち、被測定物Wの高さ方向における座標値をZ
hで一定とする拘束平面S(
図18中、二点鎖線)内において、被測定物Wの測定対象面に倣って測定子100を移動させることによって、Z
W軸座標値Z
hにおける被測定物Wの形状を測定する場合(以下、高さ一定倣い測定)について説明する。なお、
図18では、測定対象となる点(以下、測定対象点)の軌跡LSを二点鎖線で示している。また、
図18では、図面を簡略化するため、前述したZ
W軸座標値Z
hの他、後述する数式内で用いられる一部の符号を省略している。
【0004】
自律倣いベクトル生成部は、測定子100を被測定物Wに押し込む方向、言い換えると、測定子100を被測定物Wに押し込んだ状態としたときの測定子100の振れ方向を、被測定物Wの測定対象面と、測定子100との接触点における法線方向であるとして、以下の式(1)に示すように、倣いプローブの進行方向に係る速度ベクトルV
Pを生成する。
【0005】
【数1】
【0006】
式(1)において、V
Sは、進行方向の速度を制御するためのパラメータであり、例えば、振れ方向、または高さ方向の目標値からの偏差が大きくなると、V
Sは小さくなるように設定される。
また、ベクトルP
uは、以下の式(2)によって求められるベクトルPの単位ベクトルである。
【0007】
【数2】
【0008】
式(2)において、演算子×は、ベクトルの外積を示している。以下の式でも同様である。
したがって、ベクトルPは、測定子100の振れ量に基づくベクトルEと、Z
W軸方向の単位ベクトルZ
uとの外積である。
また、自律倣いベクトル生成部は、以下の式(3)に示すように、振れ方向に係る速度ベクトルV
Eを生成する。
【0009】
【数3】
【0010】
式(3)において、V
eは、振れ方向の速度を制御するためのパラメータである。また、E
0は、振れ方向の目標値となる倣いプローブの基準振れ量である。さらに、ベクトルE
uは、ベクトルEの単位ベクトルである。
また、自律倣いベクトル生成部は、以下の式(4)に示すように、倣いプローブの高さ方向に係る速度ベクトルV
Hを生成する。
【0011】
【数4】
【0012】
式(4)において、V
hは、高さ方向の速度を制御するためのパラメータである。また、C
hは、測定子100の中心位置のZ
W軸座標値であり、Z
hは、高さ方向の目標値となる拘束平面SのZ
W軸座標値である。
さらに、ベクトルH
hは、Z
W軸方向における大きさが1となる被測定物Wの測定対象面と平行なベクトルであり、以下の式(5),(6)によって求められる。
【0013】
【数5】
【0014】
式(5)において、演算子(,)は、ベクトルの内積を示している。以下の式でも同様である。
したがって、ベクトルH
hは、ベクトルH
uと、Z
W軸方向の単位ベクトルZ
uとの内積でベクトルH
uを除したものであり、ベクトルH
uは、ベクトルP
uと、ベクトルE
uとの外積である。
【0015】
そして、自律倣いベクトル生成部は、以下の式(7)に示すように、各速度ベクトルV
P,V
E,V
Hを合成することによって、被測定物Wの測定対象面に倣って測定子100を移動させるための倣い方向に係る速度ベクトルV
C(プローブ指令値)を生成する。
【0016】
【数6】
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
〔三次元測定機の概略構成〕
図1は、第1実施形態における三次元測定機1を示す全体模式図である。
図2は、三次元測定機1の概略構成を示すブロック図である。
なお、
図1では、上方向を+Z軸方向とし、このZ軸に直交する2軸をそれぞれX軸及びY軸として説明する。なお、当該X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向により、マシン座標系が規定される。以下の図面においても同様である。
また、本実施形態では、説明の便宜上、被測定物を
図19に示すすぐば傘歯車W1(測定対象面を歯面WF1)として説明する。
【0028】
形状測定装置としての三次元測定機1は、
図1または
図2に示すように、三次元測定機本体2と、三次元測定機本体2の駆動制御を実行するモーションコントローラ3と、操作レバー等を介してモーションコントローラ3に指令を与え、三次元測定機本体2を手動で操作するための操作手段4と、モーションコントローラ3に所定の指令を与えるとともに、演算処理を実行するホストコンピュータ5と、ホストコンピュータ5に接続される入力手段61(
図1)及び出力手段62(
図1)とを備える。
なお、入力手段61は、三次元測定機1における測定条件等をホストコンピュータ5に入力するものであり、出力手段62は、三次元測定機1による測定結果を出力するものである。
【0029】
〔三次元測定機本体の構成〕
三次元測定機本体2は、
図1に示すように、被測定物を測定するための球状の測定子211Aを有するプローブ21と、プローブ21を保持するとともに、プローブ21を移動させる移動機構22と、移動機構22が立設される定盤23とを備える。
プローブ21は、
図1に示すように、測定子211Aを先端側(−Z軸方向側)に有するスタイラス211と、スタイラス211の基端側(+Z軸方向側)を支持する支持機構212とを備える。
【0030】
支持機構212は、スタイラス211をX,Y,Z軸の各軸方向に付勢することで所定位置に位置決めするように支持する。そして、支持機構212は、外力が加わった場合、すなわち測定子211Aが被測定物に当接した場合には、スタイラス211を一定の範囲内でX,Y,Z軸の各軸方向に移動可能としている。
この支持機構212は、具体的な図示は省略したが、スタイラス211の各軸方向の位置をそれぞれ検出するためのプローブセンサを備える。
なお、各プローブセンサは、スタイラス211の各軸方向の移動量に応じたパルス信号を出力する位置センサである。
【0031】
移動機構22は、
図1または
図2に示すように、プローブ21を保持するとともに、プローブ21のスライド移動を可能とするスライド機構24と、スライド機構24を駆動することでプローブ21を移動させる駆動機構25とを備える。
スライド機構24は、
図1に示すように、定盤23におけるX軸方向の両端から+Z軸方向に延出し、Y軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられる2つのコラム241と、各コラム241にて支持され、X軸方向に沿って延出するビーム242と、Z軸方向に沿って延出する筒状に形成され、ビーム242上をX軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられるスライダ243と、スライダ243の内部に挿入されるとともに、スライダ243の内部をZ軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられるラム244とを備える。
【0032】
駆動機構25は、
図1または
図2に示すように、各コラム241のうち、+X軸方向側のコラム241を支持するとともに、Y軸方向に沿ってスライド移動させるY軸駆動部251Yと、ビーム242上をスライドさせてスライダ243をX軸方向に沿って移動させるX軸駆動部251X(
図2)と、スライダ243の内部をスライドさせてラム244をZ軸方向に沿って移動させるZ軸駆動部251Z(
図2)とを備える。
【0033】
X軸駆動部251X、Y軸駆動部251Y、及びZ軸駆動部251Zには、具体的な図示は省略したが、スライダ243、各コラム241、及びラム244の各軸方向の位置を検出するためのスケールセンサがそれぞれ設けられている。
なお、各スケールセンサは、スライダ243、各コラム241、及びラム244の移動量に応じたパルス信号を出力する位置センサである。
【0034】
〔モーションコントローラの構成〕
制御装置としてのモーションコントローラ3は、
図2に示すように、情報取得部31と、カウンタ部32と、演算処理部33と、記憶部34と、プローブ指令部35と、駆動制御部36とを備える。
情報取得部31は、ホストコンピュータ5からすぐば傘歯車W1の形状データ、及びすぐば傘歯車W1の測定条件データを取得する。
カウンタ部32は、上述した各スケールセンサから出力されるパルス信号をカウントしてスライド機構24の移動量を計測するとともに、上述した各プローブセンサから出力されるパルス信号をカウントしてスタイラス211の移動量を計測する。
演算処理部33は、カウンタ部32にて計測されたスライド機構24及びスタイラス211の各移動量に基づいて、測定子211Aの位置P
P(以下、プローブ位置P
P(
図9参照))を算出する。
そして、演算処理部33は、算出したプローブ位置P
Pを記憶部34に記憶させる。
また、演算処理部33は、カウンタ部32にて計測されたスタイラス211の移動量(各プローブセンサの検出値(x,y,z))に基づいて、以下の式(8)に示すように、測定子211Aの押込み量(ベクトルEの大きさ)を算出する。
【0036】
図3及び
図4は、プローブ指令値を概念的に説明するための図である。具体的に、
図3は、すぐば傘歯車W1の外形形状に応じて仮想的に設定される仮想円錐ICの斜視図を示している。
図4は、
図3の縦断面図を示している。
プローブ指令部35は、演算処理部33にて算出されたプローブ位置P
P及び押込み量と、情報取得部31にて取得された形状情報とに基づいて、測定子211Aをすぐば傘歯車W1の歯面WF1に押し込んだ状態で歯面WF1に倣って測定子211Aを移動させるためのプローブ指令値を算出する。
ところで、すぐば傘歯車W1の外形形状は、
図3または
図4に示すように、円錐ICの一部を構成する略円錐台形状を有する。すなわち、すぐば傘歯車W1の外形形状に応じて、仮想的な円錐IC(仮想円錐IC)を想定することができる。また、すぐば傘歯車W1の歯面WF1は、仮想円錐ICの側面に沿って延出するとともに、仮想円錐ICの縦断面に略倣う形状を有する。
そして、プローブ指令値は、仮想円錐ICにおける底面の中心位置P
C(
図9参照)を通り仮想円錐ICの側面に平行な基準軸SAx(
図9参照)と測定子211Aの位置P
P(以下、プローブ位置P
P(
図9参照))との距離が一定な状態で、仮想円錐ICの側面に沿って測定子211Aを移動させるための指令値である。
駆動制御部36は、プローブ指令部35にて算出されたプローブ指令値に基づいて、駆動機構25を制御してプローブ21を移動させる。
【0037】
〔ホストコンピュータの構成〕
ホストコンピュータ5は、CPU(Central Processing Unit)や、メモリ等を備えて構成され、モーションコントローラ3に所定の指令を与えることで三次元測定機本体2を制御する。
このホストコンピュータ5は、
図2に示すように、形状解析部51と、記憶部52とを備える。
形状解析部51は、モーションコントローラ3から出力された測定データ(記憶部34に記憶されたプローブ位置P
P)に基づいて被測定物の表面形状データを算出し、算出した被測定物の表面形状データの誤差や歪み等を求める形状解析を行う。
【0038】
記憶部52は、ホストコンピュータ5で用いられるデータ、被測定物であるすぐば傘歯車W1の形状に関する形状データ(形状情報)、及びすぐば傘歯車W1の測定条件データ等が記憶されている。
ここで、形状データは、すぐば傘歯車W1の外形形状に応じて仮想的に設定される仮想円錐ICの底面の半径r、仮想円錐ICの底面の中心位置P
Cの座標、及び仮想円錐ICの半頂角α(中心位置P
Cから仮想円錐ICの頂点に向けて広がる方向を正(+))等(
図9(A)参照)等を含んだデータである。
また、測定条件データは、すぐば傘歯車W1の外形形状に応じて指定される測定条件データであり、仮に指定された測定開始位置の座標、当該測定開始位置から測定子211Aをすぐば傘歯車W1の歯面WF1に押し込むアプローチ方向に関する情報等を含んだデータである。
【0039】
〔形状測定方法〕
次に、上述した三次元測定機1による形状測定方法について説明する。
図5は、形状測定方法を説明するフローチャートである。
図6は、形状測定方法を説明するための図である。具体的に、
図6は、ステップS2〜S7を説明するための図である。
先ず、情報取得部31は、ホストコンピュータ5からすぐば傘歯車W1の形状データ及び測定条件データ(形状データ及び測定条件データともに記憶部52に記憶)を取得する(ステップS1:情報取得ステップ)。
【0040】
ステップS1の後、プローブ指令部35は、演算処理部33にて算出されたプローブ位置P
Pを認識し、ステップS1にて取得されたすぐば傘歯車W1の測定条件データに基づいて、当該測定条件データに含まれる測定開始位置にプローブ位置P
Pを位置付けるためのプローブ指令値を駆動制御部36に出力する(ステップS2)。
そして、駆動制御部36は、駆動機構25を制御して、
図6(A)に示すように、測定開始位置P
sにプローブ21を移動させる。
【0041】
ステップS2の後、プローブ指令部35は、測定条件データに含まれるアプローチ方向に測定子211Aを移動させるためのプローブ指令値を駆動制御部36に出力する(ステップS3)。
そして、駆動制御部36は、駆動機構25を制御して、
図6(B)に示すように、歯面WF1に対して測定子211Aを押し込む。
【0042】
ステップS3の後、プローブ指令部35は、演算処理部33にて算出された測定子211Aの押込み量を認識しながら、測定子211Aが歯面WF1に接触し、目標とする押込み量を超えたか否かを判定する(ステップS4)。
プローブ指令部35は、ステップS4において、「Y」と判定した場合には、測定子211Aのアプローチ方向への移動を停止させるためのプローブ指令値を駆動制御部36に出力する(ステップS5)。
そして、駆動制御部36は、駆動機構25を制御して、測定子211Aのアプローチ方向への移動を停止させる。
【0043】
ステップS5の後、プローブ指令部35は、倣い経路上にプローブ位置P
Pを位置付けるためのプローブ指令値を駆動制御部36に出力する(ステップS6)。
そして、駆動制御部36は、駆動機構25を制御して、
図6(C)に示すように、倣い経路(仮想円錐ICの側面)上にプローブ21を移動させる。
【0044】
図7は、ステップS6を説明するための図である。具体的に、
図7(A)は
図6(C)に対応した図であり、
図7(B)はZ
temp軸が図中の上下方向に向くように
図7(A)の一部を回転した図である。
ステップS6において、プローブ指令部35は、以下に示すように、倣い経路上にプローブ位置P
Pを位置付けるためのプローブ指令値を算出する。
ここで、ステップS1にて取得されたすぐば傘歯車W1の形状データ(仮想円錐ICの底面の半径r、仮想円錐ICの半頂角α)から、仮想円錐ICの側面に沿う軸をZ
temp軸、Z
temp軸に直交する2軸をX
temp軸及びY
temp軸とした仮座標系を想定できる。
なお、仮座標系の原点O
tempは、Z
temp軸上の任意の点である。
【0045】
そして、プローブ指令部35は、演算処理部33にて算出されたプローブ位置P
P(
図7(A)の破線で示すプローブ21のプローブ位置P
P)を把握し、当該プローブ位置P
PにおけるZ
temp軸座標値をZ
aで一定とする拘束平面S´(
図7(B)中、二点鎖線)内において測定子211Aを移動させ、Z
temp軸(倣い経路)上にプローブ位置P
Pを位置付けるためのプローブ指令値を算出する。
ステップS6の後、モーションコントローラ3は、
図6(D)に示すように、倣い経路(仮想円錐ICの側面)に沿ってプローブ21を移動させ、自律倣い測定を開始する(ステップS7)。
【0046】
図8は、ステップS7を説明するフローチャートである。
図9は、ステップS7を説明するための図である。
なお、
図9では、図面を簡略化するため、後述する数式内で用いられる一部の符号を省略している。
先ず、演算処理部33は、カウンタ部32にて計測されたスライド機構24及びスタイラス211の各移動量を取り込む(ステップS7A)。
ステップS7Aの後、演算処理部33は、取り込んだスライド機構24及びスタイラス211の各移動量に基づいて、プローブ位置P
Pを算出するとともに、測定子211Aの押込み量を算出する(ステップS7B)。
【0047】
ステップS7Bの後、演算処理部33は、プローブ位置P
Pの移動量ΔPが指定ピッチを超えたか否かを判定する(ステップS7C)。
なお、上述した移動量ΔPは、後述するステップS7Dにてプローブ位置P
Pを測定データとして記憶部34に記憶させてから、所定のサンプリング時間(例えば、0.4msec)毎に、ステップS7Aにて取り込んだスライド機構24及びスタイラス211の各移動量に基づきステップS7Bにて算出した各プローブ位置P
Pの差分値を合計した量である。
例えば、ステップS7Dにて測定データとして記憶させたプローブ位置P
Pをプローブ位置P
P1とし、次のサンプリング時間後にステップS7Bにて算出したプローブ位置P
Pをプローブ位置P
P2とし、次のサンプリング時間後(現時点)にステップS7Bにて算出したプローブ位置P
Pをプローブ位置P
P3とした場合には、移動量ΔPは、プローブ位置P
P1,P
P2の差分値と、プローブ位置P
P2,P
P3の差分値とを合計した量である。
【0048】
演算処理部33は、ステップS7Cにおいて、「Y」と判定した場合には、直近のステップS7Bにて算出したプローブ位置P
P(上記の例では、プローブ位置P
P3に相当)を測定データとして記憶部34に記憶させる(ステップS7D)。そして、モーションコントローラ3は、ステップS7Eの処理に移行する。
一方、モーションコントローラ3は、ステップS7Cにおいて、「N」と判定した場合には、ステップS7Dの処理をすることなく、ステップS7Eの処理に移行する。
ステップS7Eにおいて、プローブ指令部35は、ステップS7Bにて算出されたプローブ位置P
P及び測定子211Aの押込み量と、情報取得部31にて取得されたすぐば傘歯車W1の形状データとに基づいて、測定子211Aを歯面WF1に押し込んだ状態で歯面WF1に倣って測定子211Aを移動させるためのプローブ指令値を算出する(プローブ指令値算出ステップ)。
具体的に、プローブ指令部35は、以下に示すように、ワーク座標系(すぐば傘歯車W1の中心軸をZ
W軸とし、Zw軸に直交する2軸をX
W軸及びY
W軸とした座標系)で、前述の式(7)とは異なる速度ベクトルV
C(プローブ指令値)を生成する。
【0049】
プローブ指令部35は、プローブ位置P
Pを通り基準軸SAxに垂直な方向をV
h方向とした場合(
図9(A)参照)に、以下の式(9)に示すように、倣いプローブのV
h方向に係る速度ベクトルV
Hを生成する。
【0051】
式(9)において、hは、仮想円錐ICの側面からのプローブ位置P
Pのずれ(V
h方向の速度を制御するためのパラメータ)を示すものである。
そして、hは、V
h方向の単位ベクトルV
hu(以下の式(11)参照)、仮想円錐ICの中心軸(Z
W軸)から当該中心軸に垂直な方向に沿ってプローブ位置P
Pに向うベクトルQ(以下の式(12)参照)、及び中心位置P
Cからプローブ位置P
Pに向うベクトルSを利用して、以下の式(10)により、求められる。
【0053】
式(11)において、ベクトルQ
uは、ベクトルQを単位ベクトル化したものである。さらに、式(12)において、ベクトルZ
uは、Z
W軸方向の単位ベクトルである。
すなわち、プローブ指令部35は、式(12)により、ベクトルSと当該ベクトルSをZ
W軸方向に投影したベクトル(式(12)の右辺第2項)とを利用して、ベクトルQを求める。そして、プローブ指令部35は、式(11)によりベクトルZ
u,Q
uと半頂角αを利用して回転によりV
h方向を求めた後、式(10)によりずれhを求める。
【0054】
また、プローブ指令部35は、以下の式(13)に示すように、歯面WF1に対する測定子211Aの押込み方向(振れ方向)E(
図9(B))に係る速度ベクトルV
Eを生成する。
【0056】
式(13)において、mは、押込み方向Eの速度を制御するためのパラメータを示すものである。また、E
0は、押込み方向Eの目標値となる測定子211Aの基準変位量である。すなわち、ステップS7Bにて算出された測定子211Aの押込み量がE
0であれば、式(13)に示すように、押込み方向Eの速度は、0として求められる。さらに、ベクトルE
uは、ステップS7Bにて算出された測定子211Aの押込み量に基づくベクトルEの単位ベクトルである。
また、プローブ指令部35は、以下の式(14)に示すように、測定子211Aの進行方向V(
図9)に係る速度ベクトルV
Fを生成する。
【0058】
式(14)において、nは、進行方向の速度を制御するためのパラメータである。また、ベクトルV
uは、以下の式(15)によって求められるベクトルVの単位ベクトルである。
【0060】
したがって、本実施形態では、V
h方向の単位ベクトルV
huと、測定子211Aの押込み量に基づくベクトルEの単位ベクトルE
uとの外積方向を測定子211Aの進行方向としている。
【0061】
そして、プローブ指令部35は、以下の式(16)に示すように、各速度ベクトルV
H,V
E,V
Fを合成することによって、歯面WF1に倣って測定子211Aを移動させるための倣い方向に係る速度ベクトルV
C(プローブ指令値)を生成する。
すなわち、プローブ指令部35は、V
h方向と、押込み方向Eと、進行方向Vの和の方向に沿って測定子211Aを移動させるためのプローブ指令値を生成している。
【0063】
ステップS7Eの後、プローブ指令部35は、ステップS7Eにて算出した速度ベクトルV
Cを駆動制御部36に出力する(ステップS7F)。
そして、測定子211Aは、式(16)に示す速度ベクトルV
Cにしたがって移動することで、基準軸SAxとプローブ位置P
Pとの距離が一定な状態で、仮想円錐ICの側面に沿って(歯面WF1に倣って)移動することとなる。
以上のように、本実施形態では、所定のサンプリング時間毎に、ステップS7Eにて速度ベクトルV
C(プローブ指令値)を算出し、ステップS7Fにて当該速度ベクトルV
Cを駆動制御部36に出力する。
【0064】
ステップS7Fの後、モーションコントローラ3は、記憶部34に記憶された測定データ(プローブ位置P
P)の数を把握し、測定データ点数が指定点数Nを超えたか否かを判定する(ステップS7G)。
モーションコントローラ3は、ステップS7Gにおいて、「N」と判定した場合には、再度、ステップS7Aに移行する。
一方、ステップS7Gにおいて、「Y」と判定された場合には、プローブ指令部35は、測定子211Aの移動を停止させるためのプローブ指令値を駆動制御部36に出力する(ステップS7H)。
そして、測定子211Aは、歯面WF1に接触した状態で移動を停止する。
【0065】
ステップS7Hの後、プローブ指令部35は、演算処理部33にて算出された測定子211Aの押込み量に基づいて、歯面WF1の法線方向に測定子211Aを移動させるためのプローブ指令値を駆動制御部36に出力する(ステップS7I)。
そして、プローブ21(測定子211A)は、歯面WF1から離脱される。
ステップS7Iの後、モーションコントローラ3は、記憶部34に記憶されたN個の測定データ(プローブ位置P
P)をホストコンピュータ5に出力する(ステップS7J)。
そして、N個の測定データに基づき、ホストコンピュータ5(形状解析部51)において、形状解析が行われる。
【0066】
上述した第1実施形態によれば、以下の効果がある。
本実施形態では、被測定物であるすぐば傘歯車W1の歯面WF1が仮想的に設定される仮想円錐ICの側面に沿って延出するとともに仮想円錐ICの縦断面に略倣うことに着目し、形状測定方法として、情報取得ステップS1及びプローブ指令値算出ステップS7Eを採用した。
そして、プローブ指令値算出ステップS7Eにより算出した速度ベクトルV
Cにしたがって測定子211Aを移動させることで、基準軸SAxとプローブ位置P
Pとの距離が一定な状態で、仮想円錐ICの側面に沿って(歯面WF1に倣って)測定子211Aを移動させることができる。すなわち、自律倣い測定により、すぐば傘歯車W1の歯面WF1を測定できる。
したがって、ポイント測定によりすぐば傘歯車W1の歯面WF1を測定する場合と比較して、測定時間を大幅に短縮できる。
【0067】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
なお、以下では、前記第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、その詳細な説明については省略する。
図10は、第2実施形態における三次元測定機1を示す全体模式図である。
図11は、三次元測定機1の概略構成を示すブロック図である。
図12は、被測定物であるはすば傘歯車W2を示す図である。具体的に、
図12(A)ははすば傘歯車W2の斜視図であり、
図12(B)は
図12(A)の領域Ar2を拡大し、測定対象面である歯面WF2を示した斜視図である。
なお、
図12(A)では、図面を簡略化するため、
図19(A)と同様に、はすば傘歯車W2において、一部の歯のみを実線で示し、他の歯については2点鎖線で仮想的に示している。
本実施形態では、前記第1実施形態に対して、
図10ないし
図12に示すように、被測定物が異なるとともに、当該被測定物に応じて、三次元測定機本体2に回転テーブル26及び回転駆動部27を追加し、モーションコントローラ3にテーブル指令部37を追加した点が異なるのみである。その他の構成は、前記第1実施形態と同様である。
【0068】
具体的に、本実施形態では、
図12に示すように、すぐば傘歯車W1とは異なり、歯すじが直線ではなく曲線であるはすば傘歯車W2(測定対象面が歯面WF2)としている。
回転テーブル26は、略円盤形状を有し、当該回転テーブル26の中心軸(Z
t軸(
図15参照))を中心として回転可能に定盤23の上面に支持されている。
そして、はすば傘歯車W2は、回転テーブル26上に、当該回転テーブル26に設けられたチャック(図示略)にて固定される。
なお、回転テーブル26上において、はすば傘歯車W2の中心軸(Z
W軸)と回転テーブル26の中心軸(Z
t軸)とが一致する位置にはすば傘歯車W2を固定してもよく、または、一致しない位置にはすば傘歯車W2を固定してもよい。後述する
図15では、後者の例を図示している。
【0069】
回転駆動部27は、回転テーブル26を定盤23の上面に沿って回転させる。
なお、図示は省略したが、回転駆動部27には、回転テーブル26の回転量を検出するためのセンサが設けられ、このセンサは、回転テーブル26の回転量に応じたパルス信号を出力する。そして、カウンタ部32は、上述したセンサから出力されるパルス信号をカウントして回転テーブル26の回転量を計測し、ホストコンピュータ5に出力する。そして、形状解析部51は、モーションコントローラ3から出力される測定データ、及び回転テーブル26の回転量に基づいて形状解析を行う。
テーブル指令部37は、プローブ指令部35にて算出された速度ベクトルV
Cに基づいて、回転テーブル26を回転させるためのテーブル指令値を算出する。
【0070】
次に、第2実施形態における形状測定方法について説明する。
図13は、第2実施形態における形状測定方法を説明するフローチャートである。
図14は、ステップS8を説明するフローチャートである。
図15ないし
図17は、ステップS8を説明するための図である。
なお、
図17は、測定子211Aの方向を一定に保つ制御を模式的に示すために、被測定物Wとしてはすば傘歯車W2とは異なる被測定物Wを図示している。
第2実施形態における形状測定方法は、前記第1実施形態の形状測定方法に対して、
図13に示すように、ステップS7の代わりに以下に示すステップS8が実行されるものである。このため、以下では、ステップS8を主に説明する。
なお、本実施形態では、ステップS1にて取得されるデータは、はすば傘歯車W2の形状に関する形状データ(はすば傘歯車W2の外形形状に応じて仮想的に設定される仮想円錐ICの底面の半径r等(
図16参照)を含んだデータ)、及びはすば傘歯車W2の外形形状に応じて指定される測定条件データ(仮に指定された測定開始位置の座標等を含んだデータ)である。
そして、ステップS2〜S6では、はすば傘歯車W2の測定条件データに基づいて、処理が実行されるものである。なお、ステップS7Eも同様である。
【0071】
先ず、モーションコントローラ3は、前記第1実施形態と同様に、ステップS7A〜S7Eを実行する。
ステップS7Eの後、テーブル指令部37は、ステップS7Eにて算出された速度ベクトルV
C(プローブ指令値)に基づいて、以下に示すように、テーブル指令値(回転テーブル26を回転させる角速度ω
t)を算出する(ステップS7K:テーブル指令値算出ステップ)。
なお、ステップS7Kは、特許第3433710号に記載の角速度ω
tの算出方法と同様である。このため、以下では、ステップS7Kの説明を簡略化する。
【0072】
先ず、テーブル指令部37は、はすば傘歯車W2の中心軸(Z
W軸)から見た、プローブ21の速度ベクトルV
Cによる回転テーブル26の角速度ω
wを算出する。
具体的に、テーブル指令部37は、以下の式(17)により、角速度ω
wを算出する。
【0074】
式(17)において、ベクトルC
rは、
図15に示すように、プローブ位置P
PからZ
W軸に下ろした垂線ベクトルである。ベクトルC
uは、ベクトルC
rに対する基準方向C(
図15)の単位ベクトルである。
なお、
図15において、基準方向Cは、回転テーブル26の回転角θとプローブ位置P
Pの位置関係が当該
図15に示す例の位置関係での場合を図示しているものであり、回転テーブル26の回転に応じて変化するものである。
次に、テーブル指令部37は、回転テーブル26の回転角θ及びプローブ位置P
Pの位置関係から、制御誤差による回転角θの目標値からの進みや遅れを調整して、基準方向Cに対してベクトルC
rが常に90°となるように、補正角速度Δωを算出する。
具体的に、テーブル指令部37は、以下の式(18)により、補正角速度Δωを算出する。
【0076】
式(18)において、Sは、回転テーブル26の角速度補償係数である。また、ベクトルC
ruは、ベクトルC
rの単位ベクトルである。
そして、テーブル指令部37は、以下の式(19)により、回転テーブル26を回転させる角速度ω
tを算出する。
【0078】
ステップS7Kの後、プローブ指令部35及びテーブル指令部37は、プローブ指令値を駆動制御部36に出力するとともに、テーブル指令値(角速度ω
t)を回転駆動部27に出力する(ステップS7L)。
なお、本実施形態では、プローブ指令部35は、ステップS7Lにおいて、特許第3433710号に記載されたプローブ指令値と同様のプローブ指令値を駆動制御部36に出力する。
具体的に、プローブ指令部35は、回転テーブル26が角速度ω
tで回転した時の点X(プローブ位置P
P)の速度ベクトルV
ωtを、以下の式(20)により算出する。
【0080】
そして、プローブ指令部35は、以下の式(21)に示すように、式(20)により算出した速度ベクトルV
ωtと、ステップS7Eにて算出した速度ベクトルV
Cとのベクトル和V
Tをプローブ指令値として出力する。
【0082】
そして、速度ベクトルV
Tにしたがってプローブ21を移動させるとともに、角速度ω
tで回転テーブル26を移動させることで、
図16に示すように、測定子211Aがはすば傘歯車W2の歯面WF2に倣って移動する。
また、速度ベクトルV
Tにおいて、速度ベクトルV
ωtの成分により、
図17に示すように、測定子211Aの方向を一定に保つことができる。
具体的に、
図17(A)〜
図17(D)の順に、時間の経過とともに回転テーブル26を回転させた場合であっても、マシン座標系から見て、被測定物Wの原点C(仮想円錐ICの底面の中心位置P
C(Z
W軸)に相当)からプローブ位置P
Pに向うベクトルを、回転テーブル26のテーブル面に投影したベクトルBを一定に保つことができる。
なお、本実施形態においても、前記第1実施形態と同様に、所定のサンプリング時間毎に、ステップS7E,S7Kにてプローブ指令値及びテーブル指令値を算出し、ステップS7Lにて当該プローブ指令値及びテーブル指令値を駆動制御部36及び回転駆動部27に出力する。
そして、ステップS7Lの後、モーションコントローラ3は、前記第1実施形態と同様に、ステップS7G〜S7Jを実行する。
【0083】
上述した第2実施形態によれば、前記第1実施形態と同様の効果の他、以下の効果がある。
本実施形態では、形状測定方法は、テーブル指令値算出ステップS7Kを備える。
このことにより、前記第1実施形態に対して、三次元測定機1に回転テーブル26、回転駆動部27、及びテーブル指令部37を追加し、形状測定方法にテーブル指令値算出ステップS7Kを追加することで、すぐば傘歯車W1とは異なり歯すじが曲線であるはすば傘歯車W2の歯面WF2についても、自律倣い測定を行うことができる。
すなわち、テーブル指令値算出ステップS7Kでは、プローブ指令値算出ステップS2で算出された速度ベクトルV
Cに基づいて、回転テーブル26を回転させるためのテーブル指令値を算出する。このため、速度ベクトルV
Cに基づく測定子211Aの移動に同期させて回転テーブル26(はすば傘歯車W2)を回転させることができ、はすば傘歯車W2における曲線的な歯すじに倣って測定子211Aを移動させることができる。
【0084】
また、速度ベクトルV
Cに基づく測定子211Aの移動に同期させて回転テーブル26を回転させることができるので、はすば傘歯車W2の歯面WF2について自律倣い測定を行う際に、はすば傘歯車W2とプローブ21との機械的な干渉を考慮してプローブ21の姿勢を変更する必要がない。すなわち、プローブ21の姿勢の変更動作を省略できるため、測定時間をさらに短縮できる。
【0085】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記各実施形態では、被測定物をすぐば傘歯車W1及びはすば傘歯車W2としていたが、これに限らず、下記(1)及び(2)の条件や、下記(1)及び(3)の条件を満たしていれば、その他の構造体を被測定物としても構わない。
(1)被測定物の形状に応じて仮想的な仮想円錐を想定することができる。
(2)被測定物の測定対象面が仮想円錐の側面に沿って延出するとともに仮想円錐の縦断面に略倣う形状を有する。
(3)被測定物の測定対象面が仮想円錐の側面に沿って延出するとともに、当該側面に沿って捻じれている。
【0086】
前記各実施形態では、モーションコントローラ3は、測定データ点数が指定点数Nに達した場合を自律倣い測定の終了条件としていたが、これに限らない。
例えば、プローブ位置P
PにおけるZ
W軸座標値が指定高さZ
e以下になった場合を自律倣い測定の終了条件としても構わない。
また、例えば、プローブ位置P
Pが予め設定された中心座標値を(X
C,Y
C,Z
C)とする半径R
Cの球内に到達した場合を自律倣い測定の終了条件としても構わない。