(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(メタ)アクリル酸系共重合体が、アクリル酸、メタクリル酸、及びアクリル酸ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸系単量体(A)由来の構造単位(a)と、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム由来の構造単位(b)とからなるものである、請求項1に記載の冷却水系の処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の冷却水系の処理方法は、カルシウム硬度が、CaCO
3として250mg/L以下である水質を有する冷却水系において、特定の構造と重量平均分子量を有する(メタ)アクリル酸系共重合体を含有する処理剤を添加し、熱交換器や配管等の伝熱面の金属腐食を防止することを特徴とする。
【0013】
[(メタ)アクリル酸系共重合体]
本発明の冷却水系の処理方法において用いる処理剤に含有する(メタ)アクリル酸系共重合体は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸系単量体(A)由来の構造単位(a)と、下記一般式(2)で表される(メタ)アリルエーテル系単量体(B)由来の構造単位(b)を含み、主鎖末端の少なくとも一方がスルホン酸基又はその塩である共重合体である。
【0014】
【化3】
(式中、R
1は、水素原子又はメチル基を示し、Xは、水素原子、金属原子、アンモニウム基、又は有機アミン基を示す。)
【0015】
【化4】
(式中、R
2は、水素原子又はメチル基を示し、Y及びZは、それぞれ独立して、水酸基、スルホン酸基、又はその塩であって、Y及びZのうちの少なくとも一方は、スルホン酸基又はその塩を示す。)
上記構造単位(a)、構造単位(b)とは、具体的にはそれぞれ下記一般式(3)、(4)で表される構造単位をいう。
【0016】
【化5】
(式中、R
1及びXは、前記一般式(1)と同じである。)
【0017】
【化6】
(式中、R
2、Y及びZは、前記一般式(2)と同じである。)
【0018】
((メタ)アクリル酸系単量体(A))
(メタ)アクリル酸系単量体(A)は、前記一般式(1)で表されるものであるが、一般式(1)中のXである金属原子の具体例としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、有機アミン基の具体例としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
当該(メタ)アクリル酸系単量体(A)の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)が挙げられる。これらの中では、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸が好ましく、アクリル酸(AA)がより好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、前記「(メタ)アクリル酸系」は、アクリル酸系及びメタクリル酸系の両方を指す。他の類似用語も同様である。
【0019】
((メタ)アリルエーテル系単量体(B))
(メタ)アリルエーテル系単量体(B)は、前記一般式(2)で表されるものであるが、一般式(2)中、Y及びZであるスルホン酸基又はその塩のうち、金属塩の具体例としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等の塩が挙げられ、有機アミン基の塩の具体例としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
前記(メタ)アリルエーテル系単量体(B)の具体例としては、例えば、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸及びその塩、3−(メタ)アリルオキシ−1−ヒドロキシ−2−プロパンスルホン酸及びその塩が挙げられる。これらの中でも、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウムが好ましく、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(HAPS)がより好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、前記「(メタ)アリルエーテル系」は、アリルエーテル系及びメタリルエーテル系の両方を指す。他の類似用語も同様である。
【0020】
<モル比>
当該(メタ)アクリル酸系共重合体は、(メタ)アクリル酸系単量体(A)由来の構造単位(a)と、(メタ)アリルエーテル系単量体(B)由来の構造単位(b)とを含む共重合体であり、構造単位(b)の含有量は、全単量体由来の構造単位100モル%中1〜15モル%であり、好ましくは2〜10モル%である。構造単位(b)の含有量が1モル%未満であると、防食成分を分散する能力が低くなり、性能を発揮できないことになり、15モル%を超えると、防食成分を分散しすぎ防食被膜が形成されないため、防食性能が低下する。
一方、構造単位(a)の含有量は、防食性能の観点から、全単量体由来の構造単位100モル%中、好ましくは99〜50モル%、より好ましくは98〜60モル%である。
また、(メタ)アクリル酸系共重合体における、[メタ)アリルエーテル系単量体(B)/(メタ)アクリル酸系単量体(A)]のモル比は、防食性能の観点から、好ましくは0.01〜0.2、より好ましくは0.02〜0.15である。
【0021】
<重量平均分子量>
当該(メタ)アクリル酸系共重合体の重量平均分子量は、防食性能の観点から、7,000〜28,000であり、好ましくは8,000〜26,000である。重量平均分子量が前記範囲以外では防食効果が低下する。
なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)による標準ポリアクリル酸換算の値である。
【0022】
(その他単量体(C))
当該(メタ)アクリル酸系共重合体は、少なくとも前記構造単位(b)を全単量体由来の構造単位100モル%中1〜15モル%の割合で有していればよいが、前記構造単位(a)を前記の割合で有していることが好ましく、これらの他に(メタ)アクリル酸系単量体(A)又は(メタ)アリルエーテル系単量体(B)と共重合可能な他の単量体(C)由来の構造単位(c)を含んでいてもよい。この場合、構造単位(c)の比率は、全単量体由来の構造単位100モル%に対して10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0023】
他の単量体(C)としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチルメタクリレート等のスルホン酸基含有不飽和単量体、及びそれらの塩;N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニル−メチルアセトアミド、N−ビニルオキサゾリドン等のN−ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド等の窒素含有ノニオン性不飽和単量体;3−(メタ)アリルオキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、(メタ)アリルアルコール、イソプレノール等の水酸基含有不飽和単量体;3−(メタ)アリルオキシ−1,2−ジヒドロキシプロパンにエチレンオキサイドを1〜200モル程度付加させた化合物(3−(メタ)アリルオキシ−1,2−ジ(ポリ)オキシエチレンエーテルプロパン)、(メタ)アリルアルコールにエチレンオキサイドを1〜100モル程度付加させた化合物等のポリオキシエチレン基含有不飽和単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル;イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸単量体;スチレン等の芳香族不飽和単量体等が挙げられる。
これらの単量体(C)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
(製造方法)
当該(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法としては、前記単量体(A)、(B)及び必要に応じて用いられる(C)を含む単量体混合物(以下、単に「単量体混合物」ともいう)を、重合開始剤の存在下で重合させる方法が挙げられる。
【0025】
<重合開始剤>
重合開始剤としては、公知のものを使用することができる。例えば、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物等が好適である。これらの重合開始剤のうち、得られる重合体の耐ゲル性を向上させる観点から、後述する過硫酸塩を使用することが好ましい。
【0026】
この重合開始剤の使用量は、単量体混合物の共重合を開始できる量であれば特に制限されないが、以下に特に記載する場合を除き、単量体混合物1モルに対して、好ましくは15g以下、より好ましくは1〜12gであることが望ましい。
【0027】
<連鎖移動剤>
当該(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法においては、必要に応じ、重合に悪影響を及ぼさない範囲内で、重合体の分子量調整剤として連鎖移動剤を用いてもよい。
連鎖移動剤としては、具体的には、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、2−メルカプトエタンスルホン酸、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ブチルチオグリコレート等の、チオール系連鎖移動剤;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等の、ハロゲン化物;イソプロパノール、グリセリン等の、第2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸、及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)や、亜硫酸、重亜硫酸、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸、及びその塩(以下、「重亜硫酸(塩)類」ともいう。例えば重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、亜二チオン酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム等)等の、低級酸化物及びその塩等が挙げられる。上記連鎖移動剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
この連鎖移動剤を使用すると、製造される共重合体が必要以上に高分子量化することを抑制でき、低分子量の共重合体を効率よく製造することができる。これらのうち、本発明に係る共重合反応においては、重亜硫酸(塩)類を用いることが好適である。これにより、得られる共重合体の主鎖末端に効率良くスルホン酸基を導入することができると共に、耐ゲル性を向上することが可能となる。また、連鎖移動剤として、重亜硫酸(塩)類を用いることにより、共重合体(組成物)の色調を改善することができるので好ましい。
連鎖移動剤の添加量は、単量体混合物が良好に重合する量であれば制限されないが、以下に特に記載する場合を除き、好ましくは単量体混合物1モルに対して、好ましくは1〜20g、より好ましくは2〜15gである。
【0029】
<開始剤系>
当該(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法においては、開始剤系(重合開始剤と連鎖移動剤との組み合わせ)として、過硫酸塩及び重亜硫酸(塩)類をそれぞれ1種類以上組み合わせて用いることが好ましい。これにより、重合体主鎖末端にスルホン酸基を効率良く導入し、分散能やキレート能に加えて耐ゲル性にも優れた低分子量の水溶性重合体を得、本発明の作用効果を有効に発現させることができる。過硫酸塩に加えて、重亜硫酸(塩)類を開始剤系に加えることで、得られる重合体が必要以上に高分子量化することが抑制され、低分子量の重合体を効率よく製造することができる。
上記過硫酸塩としては、具体的には、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等を挙げることができる。
また、本発明において重亜硫酸(塩)類とは、上記のとおりであるが、中でも重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、重亜硫酸アンモニウムが好ましい。
【0030】
過硫酸塩及び重亜硫酸(塩)類を併用する場合の添加比率は、過硫酸塩1質量部に対して、重亜硫酸(塩)類は、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.2〜3質量部、更に好ましくは0.2〜2.5質量部の範囲内である。過硫酸塩1質量部に対して重亜硫酸(塩)類が0.1質量部未満であると、重亜硫酸(塩)による効果が少なくなる傾向にある。そのため、重合体の末端のスルホン酸基の導入量が低下し、共重合体の耐ゲル性が低下する傾向にある。また、(メタ)アクリル酸系共重合体の重量平均分子量も高くなる傾向にある。一方、過硫酸塩1質量部に対して重亜硫酸(塩)類が5質量部を超えると、重亜硫酸(塩)類による効果が添加比率に伴うほど得られない状態で、重合反応系において重亜硫酸(塩)類が過剰に供給され(無駄に消費され)る傾向にある。このため、過剰な重亜硫酸(塩)類が重合反応系で分解され、亜硫酸ガス(SO
2ガス)が多量に発生する。そのほか、(メタ)アクリル酸系共重合体中の不純物が多く生成し、得られる(メタ)アクリル系共重合体の性能が低下する傾向にある。また、低温保持時の不純物が析出しやすくなる傾向にある。
【0031】
過硫酸塩及び重亜硫酸(塩)類を使用する場合の添加量は、単量体混合物1モルに対して、過硫酸塩及び重亜硫酸(塩)類の合計量が、好ましくは2〜20g、より好ましくは2〜15g、更に好ましくは3〜10g、より更に好ましくは4〜9gである。前記過硫酸塩及び重亜硫酸(塩)類の添加量が2g未満の場合には、得られる重合体の分子量が増加する傾向にある。そのほか、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体の末端に導入されるスルホン酸基が低下する傾向にある。一方、添加量が20gを超える場合には、過硫酸塩及び重亜硫酸(塩)類の効果が添加量に伴うほど得られなくなり、逆に、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体の純度が低下する傾向にある。
【0032】
過硫酸塩は、後述する溶媒、好ましくは水に溶解して過硫酸塩の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加されてもよい。該過硫酸塩溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、好ましくは1〜35質量%、より好ましくは5〜35質量%、更に好ましくは10〜30質量%である。ここで、過硫酸塩溶液の濃度が1質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送及び保管が繁雑となる。一方、過硫酸塩溶液の濃度が35質量%を超える場合には、取り扱いが難しくなる。
【0033】
重亜硫酸(塩)類は、後述する溶媒、好ましくは水に溶解して重亜硫酸(塩)類の溶液(好ましくは水溶液)の形態で添加されてもよい。該重亜硫酸(塩)類溶液(好ましくは水溶液)として用いる場合の濃度としては、好ましくは10〜42質量%、より好ましくは20〜42質量%、更に好ましくは32〜42質量%である。ここで、重亜硫酸(塩)類溶液の濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまい、輸送及び保管が繁雑となる。一方、重亜硫酸(塩)類溶液の濃度が42質量%を超える場合には、取り扱いが難しくなる。
【0034】
<その他の添加剤>
当該(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法において、前記単量体混合物を水溶液中で重合する際に重合反応系に用いることのできる開始剤や連鎖移動剤以外の他の添加剤としては、本発明の作用効果に影響を与えない範囲で適当な添加剤、例えば、重金属濃度調整剤、pH調整剤等を適量加えることができる。
【0035】
重金属濃度調整剤は、特に制限はなく、例えば多価金属化合物又は単体が利用できる。具体的には、オキシ三塩化バナジウム、三塩化バナジウム、シュウ酸バナジル、硫酸バナジル、無水バナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムハイポバナダス[(NH
4)
2SO
4・VSO
4・6H
2O]、硫酸アンモニウムバナダス[(NH
4)V(SO
4)
2・12H
2O]、酢酸銅(II)、銅(II)、臭化銅(II)、銅(II)アセチルアセテート、塩化第二銅アンモニウム、塩化銅アンモニウム、炭酸銅、塩化銅(II)、クエン酸銅(II)、ギ酸銅(II)、水酸化銅(II)、硝酸銅、ナフテン酸銅、オレイン酸銅(II)、マレイン酸銅、リン酸銅、硫酸銅(II)、塩化第一銅、シアン化銅(I)、ヨウ化銅、酸化銅(I)、チオシアン酸銅、鉄アセチルアセナート、クエン酸鉄アンモニウム、シュウ酸第二鉄アンモニウム、硫酸鉄アンモニウム、硫酸第二鉄アンモニウム、クエン酸鉄、フマル酸鉄、マレイン酸鉄、乳酸第一鉄、硝酸第二鉄、鉄ペンタカルボニル、リン酸第二鉄、ピロリン酸第二鉄等の水溶性多価金属塩;五酸化バナジウム、酸化銅(II)、酸化第一鉄、酸化第二鉄等の多価金属酸化物;硫化鉄(III)、硫化鉄(II)、硫化銅等の多価金属硫化物;銅粉末、鉄粉末等を挙げることができる。
当該(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法においては、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体の重金属イオン濃度が0.05〜10ppmであることが好ましいことから、前記重金属濃度調整剤を必要に応じて適量添加するのが望ましい。
【0036】
(重合溶媒)
当該(メタ)アクリル酸系共重合体の製造においては、通常は前記単量体混合物を溶媒中で重合することになるが、その際に重合反応系に用いられる溶媒は、水、アルコール、グリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール類等の水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、前記単量体混合物の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒を適宜加えてもよい。
【0037】
有機溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノール等の低級アルコール;ジメチルホルムアルデヒド等のアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;等から、1種類又は2種類以上を適宜選択して用いることができる。
有機溶媒の使用量は、単量体混合物全量に対して、好ましくは40〜200質量%、より好ましくは45〜180質量%、更に好ましくは50〜150質量%の範囲である。該溶媒の使用量が40質量%未満の場合には、分子量が高くなってしまう。一方、該溶媒の使用量が200質量%を超える場合には、製造された(メタ)アクリル酸系共重合体の濃度が低くなり、場合によっては溶媒除去が必要となる。なお、該溶媒の多く又は全量は、重合初期に反応容器内に仕込んでおけばよいが、例えば溶媒の一部を、単独で重合中に反応系内に適当に添加(滴下)されてもよく、単量体混合物成分や開始剤成分やその他の添加剤を予め溶媒に溶解させた形で、これらの成分と共に重合中において、反応系内に適当に添加(滴下)されてもよい。
【0038】
(重合温度)
前記単量体混合物の重合温度は、特に限定はされない。効率よく重合体を製造する観点から、重合温度は50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、または99℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましい。重合温度が50℃未満の場合には、分子量の上昇、不純物が増加するほか、重合時間が長くかかりすぎるため、生産性が低下する。一方、重合温度を99℃以下にする場合には、開始剤系として重亜硫酸(塩)を使用する場合に重亜硫酸(塩)が分解して亜硫酸ガスが多量に発生することを抑制できることから好ましい。ここでの重合温度とは、反応系内の反応溶液温度をいう。
【0039】
特に、室温から重合を開始する方法(室温開始法)の場合には、例えば、1バッチ当たり180分で重合を行う場合(180分処方)であれば、70分以内に、好ましくは0〜50分間、より好ましくは0〜30分間で設定温度(上記重合温度の範囲内であればよいが、好ましくは70〜90℃、より好ましくは80〜90℃程度)に達するようにする。その後、重合終了までかかる設定温度を維持することが望ましい。昇温時間が上記範囲を外れる場合には、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体が高分子量化するおそれがある。なお、重合時間が180分の例を示したが、重合時間の処方が異なる場合には当該例を参照に、重合時間に対する昇温時間の割合が同様になるように昇温時間を設定するのが望ましい。
【0040】
(反応系の圧力、反応雰囲気)
前記単量体混合物の重合に際して、反応系内の圧力は、特に限定されず、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下の何れの圧力下であってもよい。好ましくは、開始剤系として重亜硫酸(塩)を使用する場合に、重合中、亜硫酸ガスの放出を防ぎ、低分子量化を可能にするため、常圧又は、反応系内を密閉し、加圧下で行うのがよい。また、常圧(大気圧)下で重合を行うと、加圧装置や減圧装置を併設する必要がなく、また耐圧製の反応容器や配管を用いる必要がない。このため、製造コストの観点からは、常圧(大気圧)が好ましい。すなわち、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体の使用目的によって、適宜最適な圧力条件を設定すればよい。
反応系内の雰囲気は、空気雰囲気のままでもよいが、不活性ガス雰囲気とするのがよい。例えば、重合開始前に系内を窒素等の不活性ガスで置換することが望ましい。これにより、反応系内の雰囲気ガス(例えば、酸素ガス等)が液相内に溶解し、重合禁止剤として作用することが防止できる。その結果、開始剤(過硫酸塩等)が失活して低減するのが防止され、より低分子量化が可能となる。
【0041】
(重合中の中和度)
当該(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法においては、前記単量体混合物の重合反応は、酸性条件下で行うのが望ましい。酸性条件下で行うことによって、重合反応系の水溶液の粘度の上昇を抑制し、低分子量の(メタ)アクリル酸系共重合体を良好に製造することができる。しかも、従来よりも高濃度の条件下で重合反応を進行させることができるため、製造効率を大幅に上昇させることができる。特に、重合中の中和度を0〜25モル%と低くすることで、前記開始剤量低減による効果を相乗的に高めることができ、不純物の低減効果を格段に向上させることができる。更に、重合中の反応溶液の25℃でのpHが1〜6となるように調整するのが望ましい。このような酸性条件下で重合反応を行うことにより、高濃度かつ一段で重合を行うことができるため、濃縮工程を省略することもできる。それゆえ、生産性が大幅に向上し、製造コストの上昇も抑制しうる。
【0042】
上記酸性条件のうち、重合中の反応溶液の25℃でのpHは、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜5、更に好ましくは1〜4である。該pHが1未満の場合には、例えば開始剤系として重亜硫酸(塩)を使用する場合に、亜硫酸ガスの発生、装置の腐食が生じるおそれがある。一方、pHが6を超える場合には、開始剤系として重亜硫酸(塩)類を使用する場合に、重亜硫酸(塩)類の効率が低下し、分子量が増大する。
反応溶液のpHを調整するためのpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。本明細書では、これらのものを単に「pH調整剤」又は「中和剤」と言う場合がある。
【0043】
重合中のカルボン酸の中和度は、好ましくは0〜30モル%、より好ましくは1〜25モル%、更に好ましくは2〜23モル%の範囲内である。重合中の中和度がかかる範囲内であれば、最も良好に共重合することが可能であり、不純物を低減し、耐ゲル性の良好な重合体を製造することが可能になる。また、重合反応系の水溶液の粘度が上昇することがなく、低分子量の重合体を良好に製造することができる。しかも、従来よりも高濃度の条件下で重合反応を進行させることができるため、製造効率を大幅に上昇させることができる。
一方、重合中の中和度が25モル%を超える場合には、重亜硫酸(塩)類の連鎖移動効率が低下し、分子量が上昇する場合がある。そのほか、重合が進行するに伴い重合反応系の水溶液の粘度の上昇が顕著となる。その結果、得られる重合体の分子量が必要以上に増大して低分子量の重合体が得られなくなる。更に、上記中和度低減による効果を十分に発揮できず、不純物を大幅に低減するのが困難になる場合がある。
【0044】
ここでの中和方法は、特に制限されない。例えば、(メタ)アクリル酸ナトリウム等の(メタ)アクリル酸の塩を原料の一部として使用してもよいし、中和剤として、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等を用いて重合中に中和してもよいし、これらを併用してもよい。また、中和の際の中和剤の添加形態は、固体であってもよいし、適当な溶媒、好ましくは水に溶解した水溶液であってもよい。
水溶液を用いる場合の水溶液濃度は、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは20〜55質量%、更に好ましくは30〜50質量%である。該水溶液濃度が10質量%未満の場合には、製品の濃度が低下し、輸送及び保管が繁雑となり、60質量%を超える場合には、析出のおそれがあり、粘度も高くなるので送液が煩雑となる。
【0045】
(原料の添加条件)
重合に際しては、前記単量体混合物、開始剤、連鎖移動剤その他の添加剤は、これらを予め適当な溶媒(好ましくは被滴下液用の溶媒と同種の溶媒)に溶解し、単量体混合物溶液、開始剤溶液及び連鎖移動剤溶液その他の添加剤溶液として、それぞれを反応容器内に仕込んだ(水性の)溶媒(必要があれば所定の温度に調節したもの)に対して、所定の滴下時間に渡って連続的に滴下しながら重合することが好ましい。更に水性の溶媒の一部についても、反応系内の容器に予め仕込んでなる初期仕込みの溶媒とは別に、後から滴下してもよい。ただし、かかる製造方法に制限されるものではない。
例えば、滴下方法に関しては、連続的に滴下しても、断続的に何度かに小分けして滴下してもよい。単量体の1種又は2種以上を、一部又は全量を初期仕込みしてもよい。また、単量体の1種又は2種以上の滴下速度(滴下量)も、滴下の開始から終了まで常に一定(一定量)として滴下してもよいし、又は重合温度等に応じて経時的に滴下速度(滴下量)を変化させてもよい。また、すべての滴下成分を同じように滴下せずとも、滴下成分ごとに開始時や終了時をずらせたり、滴下時間を短縮させたり延長させてもよい。また、溶液の形態で各成分を滴下する場合には、反応系内の重合温度と同程度まで滴下溶液を加温しておいてもよい。こうしておくと、重合温度を一定に保持する場合に、温度変動が少なく温度調整が容易である。
重合の際の単量体の滴下時間に関して、単量体(B)の滴下終了は、単量体(A)の滴下終了よりも好ましくは1〜50分、より好ましくは1〜40分、更に好ましくは1〜30分早めることが好ましい。
【0046】
開始剤系として重亜硫酸(塩)類を使用する場合、重合初期の分子量は最終分子量に大きく影響する。このため、初期分子量を低下させるために、重合開始より、好ましくは60分以内、より好ましくは30分以内、更に好ましくは10分以内に重亜硫酸(塩)類又はその溶液を5〜40質量%添加(滴下)するのが望ましい。特に、後述するように、室温から重合を開始する場合には有効である。
また、重合の際の滴下成分のうち、開始剤系として重亜硫酸(塩)類を使用する場合における、重亜硫酸(塩)類又はその溶液の滴下時間については、単量体(A)の滴下終了よりも、好ましくは1〜30分、より好ましくは1〜20分、更に好ましくは1〜15分滴下終了を早めることが好ましい。これにより、重合終了後の重亜硫酸(塩)類量を低減でき、該重亜硫酸(塩)類による亜硫酸ガスの発生や不純物の形成を有効かつ効果的に抑制することができる。そのため重合終了後、気相部の亜硫酸ガスが液相に溶解してできる不純物を格段に低減することができる。重合終了後に重亜硫酸(塩)類が残存する場合には、不純物を生成し重合体の性能低下や低温保持時の不純物析出等を招くことにつながる。したがって、重合の終わりには重亜硫酸(塩)類を含む開始剤系が消費され残存していないことが望ましい。
【0047】
ここで、重亜硫酸(塩)類(溶液)の滴下終了時間を、単量体(A)の滴下終了時間よりも1分未満しか早めることができない場合には、重合終了後に重亜硫酸(塩)類が残存する場合がある。かような場合としては、重亜硫酸(塩)類又はその溶液の滴下終了と単量体(A)の滴下終了が同時である場合や、重亜硫酸(塩)類(溶液)の滴下終了の方が単量体(A)の滴下終了よりも遅い場合が含まれる。こうした場合には亜硫酸ガスの発生や不純物の形成を有効かつ効果的に抑制しにくくなる傾向にあり、残存する開始剤が得られる重合体の熱的安定性に悪影響を及ぼす場合がある。一方、重亜硫酸(塩)類又はその溶液の滴下終了時間が単量体(A)の滴下終了時間よりも30分を超えて早い場合には、重合終了までに重亜硫酸(塩)類が消費されてしまっている。このため、分子量が増大する傾向にある。そのほか、重合中に重亜硫酸(塩)類の滴下速度が単量体(A)の滴下速度に比して速く、短時間で多く滴下されるために、この滴下期間中に不純物や亜硫酸ガスが多く発生する傾向にある。
【0048】
また、重合の際の滴下成分のうち、開始剤系として重亜硫酸(塩)類を使用する場合における、過硫酸塩(溶液)の滴下終了時間は、単量体(A)の滴下終了時間よりも、好ましくは1〜30分、より好ましくは1〜25分、更に好ましくは1〜20分遅らせることが望ましい。これにより、重合終了後に残存する単量体成分量を低減できる等、残存モノマーに起因する不純物を格段に低減することができる。
【0049】
ここで、過硫酸塩(溶液)の滴下終了時間が単量体(A)の滴下終了時間よりも1分未満しか遅くすることができない場合には、重合終了後に単量体成分が残存する場合がある。かような場合としては、過硫酸塩(溶液)の滴下終了と単量体(A)の滴下終了が同時である場合や、過硫酸塩(溶液)の滴下終了の方が単量体(A)の滴下終了よりも早い場合が含まれる。こうした場合には、不純物の形成を有効かつ効果的に抑制するのが困難となる傾向にある。一方、過硫酸塩(溶液)の滴下終了時間が単量体(A)の滴下終了時間よりも30分を超えて遅い場合には、重合終了後に過硫酸塩又はその分解物が残存し、不純物を形成するおそれがある。
【0050】
(重合時間)
重合に際しては、重合温度を低くして開始剤系として重亜硫酸(塩)を使用する場合においても、亜硫酸ガスの発生を抑え、不純物の形成を防止することがより重要である。このため、重合の際の総滴下時間は、好ましくは150〜600分、より好ましくは160〜450分、更に好ましくは180〜300分と長くすることが望ましい。
総滴下時間が150分未満の場合には、開始剤系として添加する過硫酸塩溶液及び重亜硫酸(塩)溶液による効果が低下する傾向にあるため、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体に対して、主鎖末端に導入されるスルホン酸基等の硫黄含有基の量が低下する傾向にある。その結果、該重合体の重量平均分子量が高くなる傾向にある。
また、反応系内に短期間に滴下されることで過剰に重亜硫酸(塩)が存在することが起こり得る。このため、こうした過剰な重亜硫酸(塩)が分解して亜硫酸ガスが発生し、系外に放出されたり、不純物を形成したりすることがある。ただし、重合温度及び開始剤量を低い特定の範囲で実施することにより改善することができる。
一方、総滴下時間が600分を越える場合には、亜硫酸ガスの発生が抑えられるため、得られる重合体の性能は良好であるが、生産性が低下し、使用用途が制限される場合がある。ここでいう総滴下時間とは、最初の滴下成分(1成分とは限らない)の滴下開始時から最後の滴下成分(1成分とは限らない)を滴下完了するまでの時間をいう。
【0051】
(単量体の重合固形分濃度)
前記単量体、重合開始剤、及び連鎖移動剤の全量の滴下が終了した時点での水溶液中の固形分濃度(すなわち単量体、重合開始剤、及び連鎖移動剤の重合固形分濃度)は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40〜70質量%、更に好ましくは42〜65質量%である。重合反応終了時の固形分濃度が35質量%以上であれば、高濃度かつ一段で重合を行うことができるため、効率よく低分子量の(メタ)アクリル酸系共重合体を得ることができ、例えば、濃縮工程を省略することができる。それゆえ、その製造効率、生産性を大幅に上昇させることができ、製造コストを抑制することができる。
ここで、重合反応系において固形分濃度を高くすると、重合反応の進行に伴う反応溶液の粘度の上昇が顕著となり、得られる重合体の重量平均分子量も大幅に高くなる傾向にある。しかしながら、重合反応を酸性側(25℃でのpHが1〜6であり、カルボン酸の中和度が0〜30モル%の範囲)で行うことにより、重合反応の進行に伴う反応溶液の粘度の上昇を抑制することができる。それゆえ、重合反応を高濃度の条件下で行っても低分子量の重合体を得ることができ、重合体の製造効率を大幅に上昇させることができる。
【0052】
(熟成工程)
当該(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法においては、全ての使用原料の添加が終了した以後に、単量体の重合率を上げること等を目的として熟成工程を設けてもよい。熟成時間は、通常1〜120分間、好ましくは5〜90分間、より好ましくは10〜60分間である。熟成時間が1分間未満の場合には、熟成不十分につき単量体成分が残ることがあり、残存単量体に起因する不純物を形成し性能低下等を招くおそれがある。一方、熟成時間が120分間を超える場合には、重合体溶液の着色のおそれがある。
熟成工程における好ましい重合体溶液の温度は、上記重合温度と同様の範囲である。したがって、ここでの温度も一定温度(好ましくは滴下終了時点での温度)で保持してもよいし、熟成中に経時的に温度を変化させてもよい。
【0053】
(重合後の工程)
当該(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法においては、重合は、上記のとおり酸性条件下で行われることが好ましい。そのため、得られる(メタ)アクリル酸系共重合体のカルボン酸の中和度(カルボン酸最終中和度)は、重合が終了した後に、必要に応じて、後処理として適当なアルカリ成分を適宜添加することによって所定の範囲に設定されてもよい。前記アルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。
最終中和度は、その使用用途によって異なるため特に制限されない。
特に酸性の重合体として使用する場合のカルボン酸最終中和度は、好ましくは0〜75モル%、より好ましくは0〜70モル%である。中性又はアルカリ性の重合体として使用する場合のカルボン酸最終中和度は、好ましくは75〜100モル%、より好ましくは85〜99モル%である。また、中性又はアルカリ性の重合体として使用する場合の最終中和度が99モル%を超える場合には重合体水溶液が着色するおそれがある。
また、中和せずに酸性のまま使用するような場合には、反応系内が酸性のため、反応系内及びその雰囲気中に毒性のある亜硫酸ガスが残存している場合がある。こうした場合には、過酸化水素等の過酸化物を入れて分解するか、又は空気や窒素ガスを導入(ブロー)して追い出しておくのが望ましい。
なお、当該(メタ)アクリル酸系共重合体の製造方法は、バッチ式であってもよいし、連続式であってもよい。
【0054】
このようにして得られた(メタ)アクリル酸系共重合体は、冷却水系の金属の腐食を抑制することができる。その機構については必ずしも明確ではないが、一般式(2)で表される(メタ)アリルエーテル系単量体(B)由来の構造単位(b)は、カルシウムイオンとの相互作用が小さく、溶解性が高いため、構造単位(b)を全単量体由来の構造単位100モル%中1〜15モル%含有すると、効果的にゲル化を防止することができ、また主鎖末端にスルホン酸基又はその塩を含むため、耐ゲル性能が優れている。一方、一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸系単量体(A)由来の構造単位(a)のカルボキシル基は、スケール成分であるカルシウムイオンとの親和性が強く、結晶の成長点に吸着することで成長を阻害すると考えられる。また、カルボキシル基を含む素材が防食性能を有することも知られているため、構造単位(a)を含有することで、特に構造単位(a)を全単量体由来の構造単位100モル%中99〜50モル%の割合で含有することで、高い防食効果を得ることが可能になると考えられる。
更に、(メタ)アクリル酸系共重合体の重量平均分子量が7,000〜28,000であると、防食効果が優れ、ゲル化もし難いため、冷却水系の金属腐食の抑制を効果的に行うことができると考えられる。
本発明で用いられる(メタ)アクリル酸系共重合体は、アクリル酸、メタクリル酸、及びアクリル酸ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸系単量体(A)由来の構造単位(a)と、3−(メタ)アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム由来の構造単位(b)とからなるものが好ましく、主鎖末端の少なくとも一方がスルホン酸基又はその塩である。
【0055】
次に、本発明の冷却水系の処理方法について説明する。
[冷却水系の処理方法]
本発明の冷却水系の処理方法においては、前記の(メタ)アクリル酸系共重合体を含有する処理剤を、下記の水質を有する冷却水系に添加し、冷却水系の金属の腐食を抑制する。
(メタ)アクリル酸系共重合体は前記のとおりであるが、特に好ましくは、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、及びアクリル酸ナトリウム(SA)から選ばれる1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸系単量体(A)由来の構造単位(a)と、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(HAPS)由来の構造単位(b)とからなる共重合体である。より具体的には、AA/HAPS、MAA/HAPS、AA/SA/HAPS、AA/MAA/HAPS等の共重合体である。
なお、本発明の処理方法を適用する場合の運転条件には特に制限はない。
【0056】
(冷却水系の水質)
本発明の冷却水系の処理方法は、カルシウム硬度が、CaCO
3として250mg/L以下である水質を有する冷却水系に適用される。
このような冷却水系に添加される、当該(メタ)アクリル酸系共重合体からなる防食剤(以下、「共重合体系防食剤」ともいう)の添加方法に特に制限はなく、腐食を防止したい場所や、その直前等に添加すればよい。
また、その添加量に特に制限はなく、添加する冷却水系の水質に応じて適宜選択することができるが、該共重合体系防食剤の濃度が、通常0.01〜100mg/L、好ましくは2〜50mg/Lになるように添加することが望ましい。
【0057】
当該共重合体系防食剤は、必要に応じて、他のスケール防止剤や防食剤、スライムコントロール剤と併用することができる。
(併用できる防食剤)
併用できる防食剤としては、例えば、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸やホスホノブタントリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸 ニトリロトリメチルホスホン酸等のホスホン酸、正リン酸塩、重合リン酸塩、リン酸エステル、亜鉛塩、ニッケル塩、モリブデン塩、タングステン塩、オキシカルボン酸塩、トリアゾール類、アミン類等を挙げることができる。
【0058】
(併用できるスケール防止剤)
併用できるスケール防止剤としては、例えばヒドロキシエチリデンジホスホン酸やホスホノブタントリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチルホスホン酸等のホスホン酸、正リン酸塩、重合リン酸塩、ポリマレイン酸、ポリアクリル酸、マレイン酸共重合物、マレイン酸/アクリル酸、マレイン酸/イソブチレン、マレイン酸/スルホン酸、アクリル酸/スルホン酸、アクリル酸/ノニオン基含有モノマーのコポリマー、アクリル酸/スルホン酸/ノニオン基含有モノマーのターポリマー等を挙げることができる。
前記スルホン酸としては、例えばビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、3−アリロキシー2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2―メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸4−スルホブチル、アリルオキシベンゼンスルホン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸及びそれらの金属塩等が挙げられる。
また、前記ノニオン基含有モノマーとしては、例えば、アルキルアミド(炭素数1〜5のアルキル基を有するアルキルアミド)、ヒドロキシエチルメタクリレート、付加モル数1〜30の(ポリ)エチレン/プロピレンオキサイドのモノ(メタ)アクリレート、付加モル数1〜30のモノビニルエーテルエチレン/プロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0059】
(併用できるスライムコントロール剤)
併用できるスライムコントロール剤としては、例えばアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩、クロルメチルトリチアゾリン、クロルメチルイソチアゾリン、メチルイソチアゾリン、又はエチルアミノイソプロピルアミノメチルチアトリアジン、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸とスルホファミン酸の混合物等、酵素、殺菌剤、着色剤、香料、水溶性有機溶媒、及び消泡剤等を含むものであってもよい。
前記のスケール防止剤、防食剤、スライムコントロール剤は、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、防食性試験を下記の方法で行うと共に、重量平均分子量の測定、及び末端スルホン基の有無の確認を下記の方法により行った。
【0061】
(1)防食性試験
寸法が50mm×30mm×1mm、表面積が0.31dm
2の低炭素鋼(JIS G3141SPSS−SB)を#400研磨し、トルエン脱脂した試験片を試料とし、質量を測定して該質量を試験前質量とした。
5000mlポリ容器に栃木県下都賀郡野木町水を脱塩素した水を5000mlから各試薬添加量を差引いた量を入れ、炭酸水素ナトリウム水溶液、ケイ酸ナトリウム水溶液、ポリマー溶液、硫酸マグネシウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、リン酸溶液、塩化カルシウム水溶液、硫酸亜鉛水溶液を添加後、少量の水酸化ナトリウム水溶液と硫酸水溶液でpHを調整し試験水とした。
試験水約1000mlを1000mlビーカーに移し、40℃に保たれた腐食試験装置の恒温槽中にセットし、前記試験片を回転軸にネジ止めして浸漬し、170rpmで回転した。試験水の残液はローラーポンプで1000mlビーカーへ0.8ml/minで連続注入した。
試験片を浸漬してから3日後に試験片を取り出し、試験片表面を酸で洗浄して付着した腐食生成物を除去して乾燥した後の質量を測定し、該質量を試験後質量とした。その後、試験片の質量変化から次式により、腐食速度(mdd)を計算し、防食性能を評価した。
腐食速度(mdd)={試験前質量(mg)−試験後質量(mg)}/{試験片の表面積(dm
2)×試験日数(日)}
腐食速度が10mdd未満を◎、10mdd以上20mdd未満を○、20mdd以上30mdd未満を△、30mdd以上を×とした。水質条件を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
(2)共重合体の重量平均分子量の測定
(メタ)アクリル酸系共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製「HLC−8320GPC」)を用い、以下の条件で測定した。
検出器 :RI
カラム :昭和電工株式会社製 Shodex Asahipak GF−310−HQ, GF−710−HQ, GF−1G
溶離液 :0.1N酢酸ナトリウム水溶液
流速 :0.5ml/分
カラム温度:40℃
検量線 :POLYACRYLIC ACID STANDARD(創和科学株式会社製)
【0064】
(3)共重合体の末端スルホン酸基の有無の確認
pHを1に調整した共重合体(水溶液)を室温で減圧乾燥して水を留去した後、重水を溶媒に用いて
1H−NMR測定を行い、共重合体の主鎖末端にスルホン酸基が導入されたことに由来する2.7ppmのピークの有無により確認した。
【0065】
実施例1〜9及び比較例1〜6
実施例1〜9及び比較例1〜6で用いたポリマー溶液中の共重合体は、それぞれ表2に示す割合のモノマーを重合させて得られた共重合体であって、重量平均分子量及び末端スルホン酸基の有無はそれぞれ表2に示すとおりであった。
また、これらの共重合体を用いて、防食能評価試験を行った結果の腐食速度(mdd)は、それぞれ表2に示すとおりであった。
【0066】
【表2】
【0067】
表2の防食性試験において、水質B(カルシウム硬度がCaCO
3として200mg/L)の腐食速度は、比較例1>比較例2、6>比較例4、5、実施例1、2>比較例3、実施例3〜9の順に小さく、HAPSを含む共重合体を用いると腐食速度が低下し、さらに、HAPS含有量が1〜15モル%で、分子量7,000〜28,000であり、主鎖末端にスルホン酸基を有する共重合体を用いると、腐食速度を大幅に低減できることが分かる。比較例2は、重量平均分子量が小さいので、防食効果が低下したと考える。
より硬度の低い水質A(カルシウム硬度がCaCO
3として30mg/L)においては、腐食速度は、比較例1>比較例2〜5>比較例6、実施例8、9>実施例1〜7の順に小さく、HAPSを含む共重合体を用いると腐食速度が低下し、さらに、HAPS含有量が1〜15モル%で、分子量7,000〜28,000であり、主鎖末端にスルホン酸基を有する共重合体を用いると、腐食速度を大幅に低減できることが分かる。主鎖末端にスルホン酸基を有することで、リン酸カルシウムの析出抑制能が高まり、防食成分のリン酸カルシウムが水中で析出することなく、金属表面で防食皮膜を形成したためと考える。
比較例6と実施例4とを比較すると、主鎖末端にスルホン酸があることにより、防食効果が向上していることが分かる。
以上の結果より、水質A、Bの両方において、腐食速度を低減できたポリマーは、アクリル酸、HAPSを有するポリマーで、HAPS含有量が1〜15モル%、重量平均分子量7,000〜28,000のポリマーであり、さらに、主鎖末端の少なくとも一方がスルホン酸基又はその塩であるポリマーが、カルシウム硬度の低い水質において防食効果が高いことが分かる。