特許第6114205号(P6114205)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114205
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20170403BHJP
   H01L 31/0236 20060101ALI20170403BHJP
   H01L 31/068 20120101ALI20170403BHJP
【FI】
   H01L31/04 262
   H01L31/04 280
   H01L31/06 300
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-10883(P2014-10883)
(22)【出願日】2014年1月24日
(65)【公開番号】特開2015-138920(P2015-138920A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2015年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】大塚 寛之
【審査官】 佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−009247(JP,A)
【文献】 特開2009−147070(JP,A)
【文献】 特開2012−054457(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161373(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/125036(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0090673(US,A1)
【文献】 特開2013−187287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/078、31/18−31/20、
51/42−51/48
H02S 10/00−10/40、30/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶シリコン基板の少なくとも非受光面の一部に、凹凸構造を形成する工程と、
前記基板の受光面の少なくとも一部に添加不純物濃度が前記基板の添加不純物濃度より高く、かつ前記基板と異なる導電型を有する第1高濃度層を形成する工程と、
前記基板の非受光面に添加不純物濃度が前記基板の添加不純物濃度より高く、かつ前記基板と同じ導電型を有する第2高濃度層を局所的に形成する工程と、
前記基板を熱酸化する工程と、
前記熱酸化する工程で形成された酸化膜をエッチングし、非受光面の前記第2高濃度層が形成された領域以外の少なくとも一部の領域において前記基板のシリコン表面を露出させる工程と、
前記基板に入射した光により励起された電荷を外部に取り出す集電極を、前記第1高濃度層上および前記第2高濃度層上に形成する工程と、
前記基板の非受光面において前記第2高濃度層が形成された領域以外の領域における前記凹凸構造の少なくとも一部を平滑化する工程と
を備える太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記熱酸化する工程は、前記第1高濃度層および前記第2高濃度層の上に、前記第1高濃度層および前記第2高濃度層が形成された領域以外の領域上よりも酸化膜を厚く形成することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記露出させる工程は、前記第1高濃度層および前記第2高濃度層が形成された領域以外の領域に形成された酸化膜を酸溶液中で選択的に除去することを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記熱酸化する工程は、前記非受光面の前記第2高濃度層が形成された領域に膜厚が20nm以上200nm以下の酸化膜を形成することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記平滑化する工程が、露出したシリコンをアルカリ溶液でエッチングする工程を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ溶液は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウムのいずれか又はこれらの組合せから選択されることを特徴とする請求項5に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項7】
前記第2高濃度層を形成する工程は、前記第2高濃度層を前記電極が形成される領域にパターン形成する工程を含むこと特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項8】
前記第2高濃度層を形成する工程が、ホウ素を前記基板に添加する工程を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項9】
前記第2高濃度層を形成する工程が、リンを前記基板に添加する工程を含み、且つ、前記熱酸化する工程が800℃以上950℃以下の熱処理を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高効率な太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶や多結晶シリコン(Si)基板を用いた一般的な太陽電池の模式図を図1に示す。基板101にはホウ素(B)、ガリウム(Ga)またはインジウム(In)などのIII族元素が添加された、p型シリコン基板が主に用いられ、基板101の受光面には、光閉じ込めのための凹凸構造(テクスチャ)102が形成される。テクスチャ102は、基板101を酸性またはアルカリ性の溶液に一定時間浸漬することで得られる。酸性溶液には一般にフッ硝酸に酢酸、リン酸、硫酸、水などを混合した混合酸溶液が用いられ、これに基板101を浸漬すると、基板加工時に荒れた表面の微細な溝が優先的にエッチングされるなどして、テクスチャが形成される。またアルカリ溶液は、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム水溶液、あるいは水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液が用いられる。アルカリエッチングはSi−OH結合を形成することでエッチングを進行させるためエッチング速度が結晶面方位に依存するので、エッチング速度の遅い面が露出したテクスチャが得られる。
【0003】
また、基板101の受光面には、リン(P)やヒ素(As)またはアンチモン(Sb)などのV族元素を熱拡散させて、基板101の導電型と反対の導電型を有する第1高濃度層103が形成される。
【0004】
さらに第1高濃度層103上には、これを覆うように保護膜104が形成されている。保護膜104には、以下のような2つの役割がある。
【0005】
1つ目の役割は、太陽電池に入射する光を最大限取り込むための反射防止膜としての役割であり、屈折率が結晶シリコンより小さく、空気よりも大きい誘電体が用いられる。具体的には酸化チタン、窒化シリコン、炭化シリコン、酸化シリコン、酸化アルミニウムなどが利用でき、また、これらの膜厚は、膜の屈折率により異なるが、窒化シリコン膜の場合は一般的に受光面で80〜100nm程度である。
【0006】
2つ目の役割は、シリコン表面のキャリア再結合抑制である。光生成したキャリアを消滅させるシリコン基板表面の欠陥を終端させる、パッシベーションの役割がある。結晶内部のシリコン原子は隣接する原子同士で共有結合し安定な状態にある。しかしながら原子配列の末端である表面では結合すべき隣接原子が不在となることで、未結合手またはダングリングボンドといわれる不安定なエネルギー準位が出現する。ダングリングボンドは電気的に活性であるためシリコン内部で光生成された電荷を捕らえて消滅させてしまい、太陽電池の特性が損なわれる。この損失を抑制するため、太陽電池では何らかの表面終端化処理を施してダングリングボンドを低減するか、または反射防止膜に電荷を持たせることにより、表面における電子あるいは正孔のいずれかの濃度を大幅に低下させることにより電子と正孔の再結合を抑制する。特に後者は電界効果パッシベーションと呼ばれる。窒化シリコン膜などは正電荷を持つことが知られており、電界効果パッシベーションとしてよく知られている。
【0007】
さらに第1高濃度層103上には、光生成したキャリアを取り出すための電極105が、保護膜104を貫通して形成されている。この電極の形成方法としては、コストの面から銀などの金属微粒子を有機バインダーに混ぜた金属ペーストを、スクリーン版などを用いて印刷し、熱処理を行って基板と接着する方法が広く用いられている。電極形成は誘電体膜形成後に行うのが一般的である。そのため電極とシリコンを接触させるには、電極−シリコン間の誘電体膜を除去する必要があるが、金属ペースト中のガラス成分や添加物を調整することで、金属ペーストが保護膜104を貫通してシリコンに接触する、所謂ファイヤースルーが可能になっている。
【0008】
一方、受光面の反対側である非受光面には、光生成したキャリアの再結合を抑制するために、基板101と同じ導電型を発現させる不純物を高濃度に拡散させた第2高濃度層106が形成され、さらに第2高濃度層106を覆うように電極107が形成されている。
【0009】
第2高濃度層106の形成方法としては、コストの面から、上記p型シリコン基板に対してアルミニウム(Al)微粒子を有機バインダーに混ぜたアルミニウムペーストを、スクリーン版などを用いて印刷し、シリコンとアルミニウムの共融点(577℃)以上の温度で熱処理を行う方法が一般的である。この温度で熱処理を行うと、冷却の過程でシリコンが多くのアルミニウムを取り込みながら再結晶化し、ベース層が形成される。
【0010】
また、上記熱処理と再結晶化の過程で、シリコンとの接触界面から離れたところの大部分のアルミニウムペーストはそのまま残り、電極107となる。
【0011】
ところが一方で、アルミニウムを使った第2高濃度層−電極構造は、太陽電池裏面におけるキャリア再結合抑制効果が限定的であり、さらに光の吸収係数が大きいため、光学的な損失が大きいという問題があった。
【0012】
そこでこれらの問題を回避し、太陽電池を高効率化するために、図2に示すような、所謂PR(Passivated Rear)構造型太陽電池が提案されている。PR構造の特徴は、基板201の非受光面を平坦化し、さらにパッシベーション効果の高い保護膜207で覆い、さらにベース層206と電極208を局在化し、キャリアの表面再結合を低減している点である。
【0013】
受光面がテクスチャ形成され且つ非受光面を平滑化する方法としては、スライス加工後のシリコン基板をアルカリまたは酸溶液に浸してダメージエッチングを行い、その後受光面のみを反応性イオンやエッチングガスに曝してテクスチャを形成する方法や、ダメージエッチング後の基板をさらにアルカリまたは酸溶液に浸して基板両面にテクスチャを形成し、その後スピンエッチャーやコンベア型の片面エッチング装置を使って非受光面のテクスチャをウェットエッチングする方法がある。
【0014】
また、ベース層と電極を局所的に形成する方法としては、保護膜をフォトリソグラフィーやエッチングペーストなどでパターニングして開口を設け、熱拡散などで開口部に不純物を添加し、その後アルミニウムや銀(Ag)などの金属を物理蒸着により第2高濃度層上へ形成する方法が一般的に用いられる(非特許文献1)。
【0015】
しかしこれらの方法では、生産性が悪く、工程も煩雑でコストが高いという問題があった。そのため現在では、通常太陽電池の受光面電極形成に使われているファイヤースルーを非受光面に適用することで、上記のような保護膜のパターニングや金属の物理蒸着など高コストな工程を省略し、PR構造を安価に作製する検討が成されている(例えば非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】J.Knobloch,et.al., IEEE PVSC(1993年) 271〜276頁
【非特許文献2】A.Weeber,et.al., proc.the 24th EUPSEC(2009年) 891〜895頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、図2に示したPR構造のような平滑化した面に対して、焼結性の導電性ペーストでは基板との十分な密着性と電気的接触が得られず、電極が剥離したり、抵抗損が増大したりする問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、上記太陽電池の非受光面において、非電極形成領域のみを平滑化することで、生産性が高く、良好な出力特性と信頼性を有する太陽電池が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0019】
すなわち、本発明の実施形態に係る太陽電池の製造方法は、結晶シリコン基板の少なくとも非受光面の一部に、凹凸構造を形成する工程と、基板の受光面の少なくとも一部に添加不純物濃度が基板の添加不純物濃度より高く、かつ基板と異なる導電型を有する第1高濃度層を形成する工程と、基板の非受光面に添加不純物濃度が基板の添加不純物濃度より高く、かつ基板と同じ導電型を有する第2高濃度層を局所的に形成する工程と、基板を熱酸化する工程と、熱酸化する工程で形成された酸化膜をエッチングし、非受光面の第2高濃度層が形成された領域以外の少なくとも一部の領域において基板のシリコン表面を露出させる工程と、基板に入射した光により励起された電荷を外部に取り出す集電極を、第1高濃度層上および第2高濃度層上に形成する工程と、基板の非受光面において第1高濃度層および第2高濃度層が形成された領域以外の領域における凹凸構造の少なくとも一部を平滑化する工程とを備える。
【0020】
本発明では、熱酸化する工程は、第1高濃度層および第2高濃度層の上に、第1高濃度層および第2高濃度層が形成された領域以外の領域上よりも酸化膜を厚く形成するとよい。
【0021】
本発明では、露出させる工程は、第1高濃度層および第2高濃度層が形成された領域以外の領域に形成された酸化膜を酸溶液中で選択的に除去するとよい。
【0022】
本発明では、熱酸化する工程は、非受光面の第2高濃度層が形成された領域に膜厚が20nm以上200nm以下の酸化膜を形成するとよい。
【0023】
本発明では、平滑化する工程が、露出したシリコンをアルカリ溶液でエッチングする工程を含むように構成するとよい。
【0024】
本発明では、アルカリ溶液は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウムのいずれか又はこれらの組合せから選択されるとよい。
【0025】
本発明では、第2高濃度層を形成する工程は、第2高濃度層を電極が形成される領域にパターン形成する工程を含むように構成するとよい。
【0026】
本発明では、p型基板を採用する場合、第2高濃度層を形成する工程が、ホウ素を基板に添加する工程を含むように構成するとよい。
【0027】
本発明では、n型基板を採用する場合、第2高濃度層を形成する工程が、リンを基板に添加する工程を含み、且つ、熱酸化する工程が800℃以上950℃以下の熱処理を含むように構成するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】従来技術による、一般的な太陽電池の構造を示す図である。
図2】従来技術による、一般的な太陽電池の構造を示す図である
図3】本発明に係る太陽電池基板の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る太陽電池の製造方法の一例を、図3を参照しつつ以下に述べる。ただし、本発明は本実施形態の方法で作製された太陽電池に限定されるものではない。
【0030】
高純度シリコンにリンやヒ素またはアンチモンのようなV族元素をドープして抵抗率0.1〜5Ω・cmとしたアズカットn型結晶シリコン基板を準備し、その表面のスライスダメージを、濃度5〜60%の水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような高濃度のアルカリ、もしくは、フッ酸と硝酸の混酸などを用いてエッチングする。結晶シリコン基板は、キャスト法、Cz法またはFZ法のどの方法によって作製されたものでもよい。
【0031】
続いて、基板301の両面にテクスチャ302を形成する(図3(a))。テクスチャ302は、加熱した水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウムなどのアルカリ溶液(濃度1〜10%、温度60〜100℃)中に10分から30分程度浸漬することで容易に作製される。上記溶液中に、所定量の2−プロパノールを溶解させ、反応を制御することが多い。この方法を結晶面方位<100>の単結晶シリコン基板に適用すると、面方位<111>がピラミッド型に多数露出した所謂ランダムピラミッド構造が得られる。一方、結晶面方位がランダムな多結晶シリコン基板の場合には、上記の方法ではテクスチャが面内均一に形成できないので、例えばH2やCHF3、SF6、CF4、C26、C38、ClF3などのガスを圧力1〜20Pa程度で高周波により励起した反応性イオンでシリコンをエッチングする方法や、より好ましくは、フッ化水素、硝酸、酢酸、リン酸などの酸性混合溶液に基板を浸漬させる方法が適用できる。後者の酸エッチングのより具体的な方法としては、たとえば、15〜31wt%濃度の硝酸と、10〜22wt%濃度のフッ酸と混合したエッチャントを使用するとよい。さらに好ましくは、前記混酸溶液にさらに酢酸を10〜50w%混合させるとよい。液温を5〜30℃としてシリコン基板を10分から30分程度浸漬すること円弧状の等方性テクスチャが容易に得られる。光閉じ込め効果を高めるため、テクスチャの高低差は一般に数μm〜10μm程度と成るように形成される。
【0032】
次に第1高濃度層(エミッタ層)303を形成する(図3(b))。一般にBBrが好適に用いられ、900〜1100℃で気相拡散法によりホウ素(B)を基板301に添加する。またこれに限らず、化学気相法で堆積させた化合物やスクリーン印刷、あるいはスピンコートが可能な化合物を用いて、ホウ素を添加してもよい。
【0033】
第1高濃度層303は受光面にのみ形成する必要があり、これを達成するために非受光面を2枚の基板301の向かい合わせて重ねた状態で拡散したり、非受光面に窒化シリコンなどのバリアを形成したりして、非受光面に添加不純物が添加されないように工夫を施す必要がある。
【0034】
第1高濃度層303表面の添加不純物濃度は、1×1019以上3×1020atoms/cmにするのがよく、さらに好ましくは5×1019以上1×1020atoms/cm程度にするのがよい。1×1019atoms/cm未満であると基板と電極の接触抵抗が大きくなり、また3×1020atoms/cm以上にすると、第1高濃度層中の欠陥とオージェ再結合による電荷キャリアの再結合が顕著になって太陽電池の出力が低下する。第1高濃度層形成後、表面にできたガラスをフッ酸などで除去する。
【0035】
次に第2高濃度層(ベース層)304を、後段の工程において電極308が形成される電極形成領域に形成する(図3(c))。一般的には窒化シリコンなどの拡散バリアを非受光面全面に形成し、電極形成領域をフォトリソグラフィーやスクリーン印刷可能なエッチングペーストなどで開口した後、POClを用いて800〜1000℃で気相拡散法によりリン(P)を基板301に添加する。
【0036】
一般的なシリコン太陽電池は第2高濃度層304を非受光面にのみ形成する必要があり、これを達成するために2枚の基板301の受光面を向かい合わせた状態で重ね合わせて拡散したり、受光面側にも窒化シリコンなどの拡散バリアを形成したりして、受光面にリンが拡散しないような工夫を施す必要がある。
【0037】
また別の方法としては、イオン注入により、電極形成領域の形状にパターニングされたマスクを介してイオン化したリンを基板301に添加してもよいし、あるいはスクリーン印刷可能な化合物を電極形成領域の形状に形成し、さらにこれを熱処理して添加不純物を基板301に添加してもよい。
【0038】
第2高濃度層304の表面不純物濃度は、基板と電極の良好な電気的接触を得るために、1×1019以上1×1021atoms/cmにするのがよく、さらに好ましくは5×1019以上1×1021atoms/cm以下程度するのがよい。1×1019atoms/cm未満であると基板と電極の接触抵抗が大きくなり、太陽電池の出力が低下する。1×1021atoms/cm以はシリコンに対するリンの固溶限である。
【0039】
次に、熱酸化を行い、基板表面に酸化膜305を形成する(図3(d))。熱酸化膜305の成長速度はシリコン基板表面の添加不純物濃度に依存し、高濃度層表面では成長が促進される性質がある。本実施形態では受光面には第1高濃度層が均一に形成されている一方で、非受光面には第2高濃度層が局所的に形成されているため、非受光面の第2高濃度層形成領域を除く領域では酸化膜305が比較的薄く形成される。したがって、続く工程において基板をフッ酸水溶液に浸漬することにより、非受光面における非拡散領域表面の酸化膜305のみを選択的に除去し、シリコン表面を露出させる(図3(e))。
【0040】
熱酸化膜305は、上記エッチング工程を経た後においても最低限第2高濃度層表面を十分被覆する必要性および生産性のため、膜厚は20nm以上200nm以下、好ましくは40〜70nm程度になるように形成するのがよい。
【0041】
熱酸化の方法に特に制限は無いが、例えば石英チューブ内でのドライO酸化やウェット酸化またはパイロジェニック酸化が好適に用いられる。酸化膜305の膜厚は上述の通り基板表面の不純物濃度により異なるため、拡散条件との兼ね合いになるが、一般に700℃〜950℃で20〜90分程度、好ましくは800℃〜920℃で30〜60分行うのがよい。800℃より低温では酸化膜305の成長速度が遅くなるため生産性が悪くなる。また950℃より高温にすると、酸化膜305の膜厚が熱酸化処理前のシリコン表面における添加不純物濃度に依存しなくなり、添加不純物濃度の濃淡による酸化膜厚差が得られなくなる。これはリンのシリコン酸化膜中とシリコン中での固溶度および拡散速度の関係から、熱酸化の進行に伴いシリコン表面にリンが偏析して空孔濃度を高めるため、熱酸化が非高濃度層表面でも促進されることによると理解されている。
【0042】
酸化膜305の選択エッチングは、酸化膜305の膜厚にもよるが、制御性を高めるためにエッチングレートを1〜10nm/min程度で行うのがよい。この範囲のレートはエッチング例えば濃度0.2〜1.0wt%のフッ酸水溶液を用い、処理温度を25℃とすることで得られる。
【0043】
続いて基板を温度60〜95℃程度に加熱した濃度20〜60%の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウムなどのアルカリ水溶液、またはこれらを組み合わせたアルカリ水溶液に浸漬する(図3(f))。
【0044】
アルカリ水溶液はシリコン酸化膜305をエッチングしないので、非受光面側ではシリコンが露出した非拡散領域がエッチングされる一方、酸化膜に覆われた第1高濃度層303および第2高濃度層304が形成された領域のテクスチャ302は保持される。
【0045】
エッチング処理時間は、アルカリ溶液の条件にもよるが、上記の温度および濃度範囲で30秒から2分程度行い、テクスチャ302を平滑化してもよいし、より好ましくは2分〜20分程度処理を行い、テクスチャ302を完全に除去する。さらに長時間処理を行うと第2高濃度層304が形成されている領域を側面からエッチングしてしまう。
【0046】
続いて1.5〜2wt%のフッ酸水溶液により、第1高濃度層303および第2高濃度層304上の酸化膜305をエッチング除去する(図3(g))。
【0047】
上記工程により形成された電極形成領域の幅Wは、太陽電池の設計にもよるが、一般に電極308の幅Wの0.8〜1.5倍、より好ましくは1.0〜1.3倍にするのがよい。0.8倍未満では電極と基板の接着が不十分になることが懸念され、また1.5倍より大きいと、キャリアの表面再結合損失が顕在化してくる。
【0048】
次に、基板301の両面に保護膜306を形成する(図3(h))。保護膜306としては、窒化シリコン膜などを約100nm程度成膜する。成膜には化学気相堆積装置を用い反応ガスとして、SiHおよびNHを混合して用いることが多いが、NHの代わりに窒素を用いることも可能であり、また、Hガスによる成膜種の希釈やプロセス圧力の調整、反応ガスの希釈を行い所望の屈折率を実現する。光学的な特性を高めるため、屈折率は1.5〜2.2程度にするのがよい。また、窒化シリコン膜に限らず、酸化シリコン、炭化シリコン、非晶質シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛などを単層またはこれらの組み合わせで用いてもよい。また受光面と非受光面で異なる膜種を適用してもよい。
【0049】
次いで上記基板301の受光面に電極307をスクリーン印刷する。銀粉末とガラスフリットを有機バインダーと混合した銀ペーストを印刷および乾燥の後、熱処理により保護膜306に銀粉末を貫通させ、電極とシリコンを導通させる(図3(i))。
【0050】
さらに非受光面のベース層上にも同様に、電極308をスクリーン印刷し、銀粉末とガラスフリットを有機バインダーと混合した銀ペーストを印刷および乾燥の後、700〜860℃の熱処理を1秒〜5分程度行い、により保護膜306に銀粉末を貫通させ、電極とシリコンを導通させる(図3(j))。
【0051】
電極307と電極308は、形成工程の順番を入れ替えてもよいし、焼成を一度に行ってもよい。
【0052】
[第2実施形態]
上記の第1実施形態では、n型シリコン基板を用いた場合の太陽電池の製造方法の一例を説明したが、本発明はp型シリコン基板を用いた太陽電池の製造方法に適用することもできる。
【0053】
p型シリコン太陽電池は、上記n型シリコン太陽電池と同様に作製することが可能であり、この場合基板301は、高純度シリコンにホウ素、アルミニウム、ガリウムまたはインジウムのようなIII族元素を添加して得られ、一般には、抵抗率が0.1〜5Ω・cmに調整されたものが用いられる。
【0054】
まず、第1実施形態と同様の方法で、基板301にテクスチャ302を形成する。次に第2高濃度層(ベース層)304を、後段の工程において電極308が形成される電極形成領域に形成する。一般的には窒化シリコンなどの拡散バリアを非受光面全面に形成し、電極形成領域をフォトリソグラフィーやスクリーン印刷可能なエッチングペーストなどで開口した後、BBrを用いて900〜1100℃で気相拡散法によりホウ素を基板301に添加する。
【0055】
一般的なシリコン太陽電池は第2高濃度層304を非受光面にのみ形成する必要があり、これを達成するために2枚の基板301の受光面を向かい合わせた状態で重ね合わせて拡散したり、受光面側にも窒化シリコンなどの拡散バリアを形成したりして、受光面にリンが拡散しないような工夫を施す必要がある。
【0056】
また別の方法としては、イオン注入により、電極形成領域の形状にパターニングされたマスクを介してイオン化したホウ素を基板301に添加してもよいし、あるいはスクリーン印刷可能な化合物を電極形成領域の形状に形成し、さらにこれを熱処理して基板301に添加してもよい。
【0057】
第2高濃度層304の表面不純物濃度は、基板と電極の良好な電気的接触を得るために、1×1019以上1×1021atoms/cmにするのがよく、さらに好ましくは5×1019以上1×1021atoms/cm以下程度するのがよい。1×1019atoms/cm未満であると基板と電極の接触抵抗が大きくなり、太陽電池の出力が低下する。1×1021atoms/cmはIII族元素中最もシリコンに固溶しやすいホウ素の固溶限である。
【0058】
次に第1高濃度層(エミッタ層)303を形成する。一般にPOClが好適に用いられ、800〜1000℃で気相拡散法によりリンを基板に拡散させる。またこれに限らずスクリーン印刷やスピンコートが可能なリン化合物を用いてもよい。第1高濃度層303は受光面にのみ形成する必要があり、これを達成するために2枚の基板301の非受光面を向かい合わせて重ねた状態で拡散したり、非受光面に窒化シリコンなどの拡散バリアを形成したりして、非受光面に添加不純物が拡散されないように工夫を施す必要がある。
【0059】
第1高濃度層303表面のリン濃度は、1×1019以上3×1020atoms/cmにするのがよく、さらに好ましくは5×1019以上1×1020atoms/cm程度にするのがよい。1×1019atoms/cm未満であると基板301と電極の接触抵抗が大きくなり、また3×1020atoms/cm以上にすると、第1高濃度層303中の欠陥とオージェ再結合による電荷キャリアの再結合が顕著になって太陽電池の出力が低下する。
【0060】
熱酸化工程の要件は、n型基板を用いる場合と概ね同様であるが、熱処理条件は一般に800℃以上で20〜90分程度、好ましくは900℃〜1050℃で30〜60分行うのがよい。ホウ素はリンと異なり、熱酸化の進行に伴いシリコン表面のホウ素が酸化膜中に偏析するので、上記のような高温領域においても、酸化膜の膜厚が初期の表面ホウ素濃度差に依存する。またなるべく高温で処理を行うことで、上記の酸化膜厚差をより大きくすることが可能になる。しかし一方で、1150℃を超える温度領域では、石英チューブが使用に耐えず、またさらにシリコンカーバイドなどを使用した耐熱性の高い炉はコストが高くなるので、コストの面から石英チューブ炉を使用し、1100℃程度までの温度域で処理するのが好ましい。
【0061】
[実施例1]
基板厚さ250μm、比抵抗1Ω・cmの、リンドープ<100>n型アズカットシリコン基板に、熱濃水酸化カリウム水溶液によりダメージ層を除去後、水酸化カリウム/2−プロパノール水溶液中に浸漬しテクスチャ形成を行い、引き続き塩酸/過酸化水素混合溶液中で洗浄を行った。
【0062】
次に非受光面を向かい合わせて重ねた状態で、BBr雰囲気下、980℃で30分間熱処理し、第1高濃度層を形成し、引き続き熱酸化により非受光面に約200nmのシリコン酸化膜を形成した。
【0063】
次に非受光面の酸化膜を、フォトリソグラフィーによりグリッドパターンに開口し、受光面を向かい合わせて重ねた状態で、POCl雰囲気下、870℃で30分間熱処理し、第2高濃度層を形成した。拡散後、フッ酸にてガラス層を除去し、純水洗浄の後、乾燥させた。
【0064】
次に石英チューブ炉を用い、920℃で60分間のドライ酸化を行った。この後、一部の基板を抜取り、基板各部の断面をTEM観察した結果、各部表面の酸化膜厚は、第1高濃度層および第2高濃度層で約53nm、非受光面の非拡散領域で約25nmであった。
【0065】
続いて濃度0.5wt%のフッ酸水溶液を用い、液温度25℃で非受光面の非拡散領域表面が撥水性を示すまで酸化膜をエッチングし、水洗浄の後、乾燥させた。
【0066】
次に温度70℃に加熱した濃度35%の水酸化カリウム水溶液に、基板を4分間浸漬し、非受光面の非拡散領域をエッチングした。
【0067】
次に、膜厚約100nm窒化シリコン膜をプラズマCVDで受光面と非受光面全面に形成した。
【0068】
さらに受光面と非受光面に銀ペーストをスクリーン印刷により塗布し、乾燥の後、ベルト炉で820℃の熱処理により電極を形成した。
【0069】
[実施例2]
実施例1に対し、熱酸化工程において1100℃、60分間のドライ酸化を行った。この結果、各部表面の酸化膜厚は、第1高濃度層および第2高濃度層で約205nm、非受光面の非拡散領域で約153nmであった。続いて実施例1と同様の工程を経て、太陽電池を作製した。
【0070】
[比較例1]
実施例1と同様の、テクスチャ形成後基板を用意し、スピンエッチング装置を用いて、フッ硝酸により非受光面のテクスチャをエッチング除去した。続いて実施例1と同様の工程を経て、太陽電池を作製した。
【0071】
[実施例3]
基板厚さ250μm、比抵抗1Ω・cmの、ホウ素ドープ<100>p型アズカットシリコン基板に、熱濃水酸化カリウム水溶液によりダメージ層を除去後、水酸化カリウム/2−プロパノール水溶液中に浸漬しテクスチャ形成を行い、引き続き塩酸/過酸化水素混合溶液中で洗浄を行った。
【0072】
次に熱酸化により非受光面に約200nmのシリコン酸化膜を形成し、非受光面の酸化膜を、フォトリソグラフィーによりグリッドパターンに開口し、受光面を向かい合わせて重ねた状態で、BBr雰囲気下、980℃で30分間熱処理して第2高濃度層を形成した。
【0073】
拡散後にフッ酸にてガラス層および熱酸化膜を除去し、純水洗浄の後、乾燥させた。
【0074】
次に非受光面を向かい合わせて重ねた状態で、POCl雰囲気下、870℃で30分間熱処理し、第1高濃度層を形成した。
【0075】
次に石英チューブ炉を用い、920℃で60分間のドライ酸化を行った。この後、一部の基板を抜取り、基板各部の断面をTEM観察した結果、各部表面の酸化膜厚は、第1高濃度層および第2高濃度層で約51nm、非受光面の非拡散領域で約28nmであった。
【0076】
続いて濃度0.5wt%のフッ酸水溶液を用い、液温度25℃で非拡散領域表面が撥水性を示すまで酸化膜をエッチングし、水洗浄の後、乾燥させた。
【0077】
次に温度70℃に加熱した濃度35%の水酸化カリウム水溶液に、基板を4分間浸漬し、非受光面の非拡散領域をエッチングした。
【0078】
次に、膜厚約100nm窒化シリコン膜をプラズマCVDで受光面と非受光面全面に形成した。
【0079】
さらに受光面と非受光面に銀ペーストをスクリーン印刷により塗布し、乾燥の後、ベルト炉で820℃の熱処理により電極を形成した。
【0080】
[比較例2]
実施例3に対し、熱酸化工程において1100℃、60分間のドライ酸化を行った。この結果、各部表面の酸化膜厚は、第1高濃度層および第2高濃度層で約194nm、非受光面の非拡散領域で約145nmであった。続いて実施例3と同様の工程を経て、太陽電池を作製した。
【0081】
[比較例3]
実施例3と同様の、テクスチャ形成後基板を用意し、スピンエッチング装置を用いて、フッ硝酸により非受光面のテクスチャをエッチング除去した。続いて実施例3と同様の工程を経て、太陽電池を作製した。
【0082】
実施例1〜3と比較例1〜3の暗状態およびエアマス1.5gの擬似太陽光照射下において電流電圧特性測定した。これらの測定から、太陽電池特性と直列抵抗を評価した。
【0083】
表1に示すように、本発明の実施例1、2、3では比較例1、2、3に対して直列抵抗が低減され、これにより曲線因子および変換効率が大幅に改善することが示された。
【0084】
【表1】
【0085】
以上で説明した通り、本発明の実施形態に記載の製造方法により製造した太陽電池は、非受光面表面のキャリア再結合損失が抑制され、集電極と結晶シリコン基板間において良好な電気的接触を具備する裏面構造を有する。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本願発明に係る太陽電池の製造方法は、結晶シリコン太陽電池の裏面に高品質なPR構造を容易且つ安価に形成することができ、太陽電池の高効率化とコスト削減に極めて有効である。
【符号の説明】
【0087】
101、201、301・・・基板
102、202、302・・・テクスチャ
103、203、303・・・第1高濃度層
104、204・・・保護膜
105、205・・・電極
106、206、304・・・第2高濃度層
107・・・電極
207・・・保護膜
208・・・電極
305・・・酸化膜
306・・・保護膜
307・・・電極
308・・・電極
図1
図2
図3