【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体クロマトグラフに設ける、送液手段、試料導入手段、分離カラム、検出手段のいずれか一つ以上を一定の温度に保持する恒温槽は、通常、前記手段のいずれか一つを収容する筐体と、前記筐体内を加温するヒータと、前記筐体内の空気を循環させるファンとを有しており、前記ヒータにより加温させた空気を前記ファンで循環させることで、前記筐体内の温度を一定の温度に保持している。
【0005】
前述した恒温槽では、筐体内の空気温度が所定の値となるように、ヒータに供給する電力を制御することでヒータの発熱量を制御する。液体クロマトグラフで使用する溶離液として可燃性有機溶媒を使用する場合、ヒータの温度は筐体内の空気温度より高くなるため、たとえ筐体内の空気温度が液体クロマトグラフで使用する溶離液(有機溶媒)の発火点より低かったとしても、ヒータの温度が溶離液の発火点を超えるおそれがある。また、ファンの回転数が落ちる、または停止することで、筐体内の空気循環効率が悪くなると、ヒータの温度が上昇し溶離液の発火温度を超えるおそれもある。
【0006】
そこで本発明の目的は、溶離液として有機溶媒を使用する液体クロマトグラフに設ける、送液手段、試料導入手段、分離カラム、検出手段のいずれか一つ以上を収容する筐体と、前記筐体内を加温するヒータと、前記筐体内の空気を循環するファンとを有した、前記手段のいずれか一つ以上を温調する恒温槽において、前記ヒータの温度が前記有機溶媒の発火点を超えることがないよう制御可能な恒温槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する。
【0008】
本発明の第一の態様は、
送液手段と、試料導入手段と、分離手段と、検出手段とを備えた液体クロマトグラフに設ける、前記手段のいずれか一つ以上を収容する筐体と、前記筐体内を加温するヒータと、前記筐体内の空気を循環させるファンとを有した、前記手段のいずれか一つ以上を温調する恒温槽であって、
前記筐体内の空気温度を検知する第一温度センサと、前記ヒータの温度を検知する第二温度センサとをさらに有し、かつ、
前記第一温度センサで検知した値および前記第二温度センサで検知した値に基づいて前記ヒータの発熱量を制御する、前記恒温槽である。
【0009】
また本発明の第二の態様は、前記第一温度センサで検知した値が所定の目標値となるよう前記ヒータの発熱量を制御する一方、前記第二温度センサで検知した値と所定のしきい値との比較に応じて前記ヒータの発熱量を制御する、前記第一の態様に記載の恒温槽である。
【0010】
また本発明の第三の態様は、前記第二温度センサで検知した値が前記しきい値を超えた場合は前記ヒータの発熱量を抑制または前記ヒータによる加温を停止する、前記第二の態様に記載の恒温槽である。
【0011】
また本発明の第四の態様は、前記所定のしきい値を超えた場合に警告を発する手段をさらに有した、前記第一から第三の態様のいずれかに記載の恒温槽である。
【0012】
また本発明の第五の態様は、前記所定のしきい値が、第一しきい値と第二しきい値とからなり、前記第二温度センサで検知した値が前記第一しきい値を超えた場合は前記ヒータの発熱量を抑制または前記ヒータによる加温を停止し、前記第二しきい値を超えた場合は警告を発する手段により警告を発する、前記第二の態様に記載の恒温槽である。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の恒温槽は、溶離液として有機溶媒を使用する液体クロマトグラフにおいて、送液手段、試料導入手段、分離カラム、検出手段のいずれか一つ以上を温調するために液体クロマトグラフに設けている。本発明における有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、オルソジクロロベンゼン(ODCB)、トリクロロベンゼン(TCB)、1−クロロナフタレン(1−CN)など、液体クロマトグラフによる分析で通常用いられる有機溶媒が例示できる。またメタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンなどの水溶性有機溶媒と水系緩衝液との混合溶媒も本発明における有機溶媒に含まれる。
【0015】
本発明において所定の目標値とは、液体クロマトグラフで試料分析を行なうのに適した温度のことを指し、その温度は使用する溶離液(有機溶媒)や使用する分離カラムによって異なる。具体的には、サイズ排除クロマトグラフィーを用いた分析において、常温で溶解する合成高分子に対して使用する溶離液(有機溶媒)である、テトラヒドロフラン(THF)の場合は40℃から50℃付近を所定の目標値として制御すればよい。また常温で溶解しない合成高分子に対して使用する溶離液(有機溶媒)のうち、オルソジクロロベンゼン(ODCB)やトリクロロベンゼン(TCB)の場合は150℃付近を所定の目標値として制御すればよく、1−クロロナフタレン(1−CN)の場合は220℃付近を所定の目標値として制御すればよい。
【0016】
本発明において所定のしきい値とは、溶離液として使用する有機溶媒の発火点より低い温度のことを指し、好ましくは発火点より25℃以上低い温度、より好ましくは30℃以上低い温度、さらに好ましくは50℃以上低い温度である。前述した溶離液(有機溶媒)のうち、THF、ODCB、TCB、1−CNの発火点は、それぞれ、230℃、648℃、571℃、558℃であることから、これらの値を参考に安全率を考慮の上、適宜しきい値を設定すればよい。なお、しきい値の設定は、使用する溶離液ごとに個別に設定してもよいが、使用する溶離液のうち発火点の近いもの(例えば、TCBと1−CN)を一つのグループとし、当該グループ毎にしきい値を設定してもよい。さらに使用する溶離液のうち、最も発火点の低い溶離液(有機溶媒)に合わせて、しきい値を設定してもよい。
【0017】
本発明の恒温槽では、筐体内の空気温度を検知する第一温度センサと、ヒータの温度を検知する第二温度センサとを有している。このうち第一温度センサは、筐体内の位置によって空気温度が変化することから、筐体に収容する各手段(例えば、送液ポンプや分離カラム)の温度とセンサを設置する箇所の空気温度の差が小さく、しかも風がよくあたる位置に設けると好ましい。第一温度センサで使用可能な温度センサの種類としては、白金抵抗測温体、熱電対、サーミスタなどがあげられ、使用する温度範囲に応じて適宜選択すればよい。第一温度センサは空気温度を測定するため、熱容量が小さく時間応答性のよい、小型のセンサを用いると好ましい。第一温度センサの被覆に用いる材料は、塩化ビニール、ポリエチレン、フッ素樹脂、ガラス繊維、セラミック等の中から使用する温度範囲に応じて適宜選択すればよい。第二温度センサで使用する温度センサの種類も、第一温度センサのときと同様、予想されるヒータの最大温度に応じて適宜選択すればよいが、ヒータが高温になることから白金抵抗測温体または熱電対がより好ましい。第二温度センサの被覆に用いる材料も、ヒータが高温になることから、耐熱性に優れるガラスやセラミックがより好ましい。なお熱電対は補償接点の温度変動の影響を受けたり、長期使用により測定精度が落ちることがあるが、変化の程度や精度が数℃程度であれば、本発明の恒温槽に設けるセンサとして問題はない。
【0018】
本発明の恒温槽が有する、筐体内を加温するためのヒータとしては、当該ヒータに接した空気に熱を伝える電熱ヒータや、熱放射によって周囲を加熱する赤外線ランプ等が使用できるが、通常は電熱ヒータを用いる。電熱ヒータには、細長い電熱線を渦巻状またはらせん状に巻いたヒータや、電熱線をステンレスの筒の中に封入したヒータや、パワートランジスタなどの半導体や、半導体セラミックで作られたPTCヒータ等が知られており、いずれのヒータを用いてもよい。ステンレスの筒の中に封入したヒータを用いる場合は、空気への熱伝達をよくするため、外側にフィンを設けるとよい。パワートランジスタを用いる場合は、ヒートシンク等に取り付ければよい。本発明の恒温槽においてヒータは一つでもよく、複数でもよい。複数のヒータを使用する場合は、各ヒータ毎に第二温度センサを設けるとよいが、当該複数のヒータ間の温度差が大きくならないように設置した場合は一つのヒータに第二温度センサを設けるだけでもよい。また使用するヒータは一つであるものの、第二温度センサは複数設けた態様としてもよい。第二温度センサを複数設ける場合、各センサで検知した値(温度)の平均値または最大値を第二温度センサで検知した値(温度)とすればよく、また各センサ毎に同一またはそれぞれ異なるしきい値を設定してもよい。
【0019】
第二温度センサを設ける位置は、ヒータ表面の温度分布が判っている場合は、ヒータ表面の最も温度が高い部分に密着した状態で設けると好ましい。なおヒータ表面に温度センサを密着させることが難しい場合は、例えば、ヒータに穴を開け、当該穴の中に温度センサを挿入する方法もある。さらに、電熱線をステンレスの筒の中に封入したヒータでは、温度センサを電熱線と共に封入してもよい。
【0020】
筐体内の空気温度の制御は、通常、第一温度センサで検知した値(温度)を入力値とした、PI制御またはPID制御が用いられる。一般にヒータから空気への熱の伝達は、ヒータから液体や金属などへの熱の伝達に比べ著しく悪いため、ヒータと空気との間には大きな温度差が生じる。また断熱材から不活性ガスが抜けたり、水分等を吸収したりすることで、断熱材が劣化すると、断熱性能が悪くなり、必要な発熱量が増加し、ヒータの温度が上昇する。さらにファンの回転数低下、スクリーン等の目詰まり、筐体に収容する手段(送液ポンプや分離カラム等)の量が増えることで、筐体内における空気循環量が低下すると、ヒータから空気への熱伝達が悪くなり、ヒータの温度が上昇する。さらにまたファンが停止すると空気の循環が止まり、ヒータの温度が急激に上昇する。そこで本発明の恒温槽は、筐体内の空気温度を検知する第一温度センサで検知した値が所定の目標値(液体クロマトグラフで試料分析を行なうのに適した温度)となるよう前記ヒータの発熱量を制御する一方、ヒータの温度を検知する第二温度センサで検知した値と所定のしきい値(液体クロマトグラフで用いる溶離液(有機溶媒)の発火点に基づき設定する温度)との比較に応じてヒータの発熱量を制御する。第二温度センサで検知した値に応じたヒータの発熱量の制御を行なうには、電熱ヒータの場合、ヒータへの電力を止めるか、電力を制限するか、電力を一定の割合で低下させて、発熱量を低下させればよい。たとえば、PWM(パルス幅変調)方式の温度制御回路では、第一温度センサで検知した温度と目標温度の差をPWM制御回路に直接入力させるのではなく、一定の幅に制限して入力させることなどによってデューティ比に上限を設けることで最大電力を制限することができる。また、電圧を下げることによって電力を一定の割合で低下させることができる。昇温時には、ヒータの発熱量が大きくなるため、空気温度とヒータ温度の差が一時的に大きくなる。したがって、ヒータの温度がしきい値を超えた場合に、電力を制限するか、電力を一定の割合で低下させて発熱量を低下させることにより、温度の上昇速度が低下するが、ヒータの温度を抑えることができる。
【0021】
なお前記所定のしきい値を超えた場合、前述したヒータ発熱量の制御を行なうとともに、ブザー、ランプ、測定画面への警告表示といった警告を出すと、すぐにオペレータが異常を認識することができるため、好ましい。さらに所定のしきい値を複数設け、各しきい値毎に、ヒータの発熱量の制御方法やオペレータへの警告方法を個別に設定してもよい。
【0022】
例えば、しきい値として、ヒータ発熱量の制御方法を決定する第一しきい値と、オペレータへの警告方法を決定する第二しきい値を、溶離液の発火点より50℃低い温度、溶離液の発火点より30℃低い温度、および溶離液の発火点より25℃低い温度に、それぞれ設定する。第二温度センサで検知した値(温度)が溶離液の発火点より50℃低い温度となった場合は、ヒータ発熱量を抑制(電熱ヒータの場合、ヒータへの電力を制限)をしつつ、警告表示を行ない、低音量でブザーを鳴らす。第二温度センサで検知した値(温度)が溶離液の発火点より30℃低い温度となった場合は、さらにヒータ発熱量を抑制(電熱ヒータの場合、ヒータへの電力をさらに制限)しつつ、中音量でブザーを鳴らす。第二温度センサで検知した値(温度)が溶離液の発火点より25℃低い温度となった場合は、ヒータによる加温を停止(電熱ヒータの場合、ヒータへの電力を止める)し、大音量でブザーを鳴らす。ヒータ発熱量の制御を行なうには、PI制御またはPID制御における目標温度を下げてもよい。なお前述した例では、第一しきい値/第二しきい値の設定値は同一であったが、異なる値に設定としてもよい。
【0023】
第二温度センサを複数設けている場合は、警告表示を行なう際、しきい値を超えたセンサの設置位置を表示してもよい。また第二温度センサがヒータの最高温度位置に設置していない(または設置できない)場合は、適宜、設定するしきい値を下げ、最高温度が溶離液(有機溶媒)の発火点に近づかないようにすればよい。なお設定したしきい値が、発火点よりかなり低い値(例えば、発火点から50℃低い温度)の場合、警告表示に代え、分析終了後に点検するような指示をオペレータに与えてもよい。