特許第6115199号(P6115199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 栗田工業株式会社の特許一覧

特許6115199微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法および微細藻類の培養方法
<>
  • 特許6115199-微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法および微細藻類の培養方法 図000005
  • 特許6115199-微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法および微細藻類の培養方法 図000006
  • 特許6115199-微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法および微細藻類の培養方法 図000007
  • 特許6115199-微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法および微細藻類の培養方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115199
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法および微細藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20170410BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20170410BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   G01N21/27 Z
   C12N1/12 A
   C12Q1/02
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-47851(P2013-47851)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-174034(P2014-174034A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】加来 啓憲
【審査官】 小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−505462(JP,A)
【文献】 特表2011−515667(JP,A)
【文献】 特開2004−101196(JP,A)
【文献】 特開2010−151605(JP,A)
【文献】 特開2008−283946(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/109588(WO,A1)
【文献】 特開平05−268993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/27
C12N 1/12
C12Q 1/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法であって、
微細藻類を含む培養液の色合いから、青色光(450〜490nm)、緑色光(500〜570nm)及び赤色光(620〜740nm)の少なくとも2以上の波長域を分解して検出し、
これら2以上の光の波長の光強度に基づき微細藻類の脂溶性成分含量の多寡を判断することを特徴とする微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法。
【請求項2】
前記緑色光(500〜570nm)と前記赤色光(620〜740nm)とを分解して検出し、緑色光の波長の光強度と赤色光の波長域の光強度とから微細藻類の脂溶性成分含量の多寡を判断することを特徴とする請求項1に記載の微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法。
【請求項3】
前記緑色光の波長の光強度と赤色光の波長域の光強度とから赤色光の吸光度と緑色光の吸光度を算出し、該赤色光の吸光度で緑色光の吸光度を除した値で微細藻類の脂溶性成分含量の多寡を判断することを特徴とする請求項2に記載の微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法。
【請求項4】
前記微細藻類を含む培養液の分光した各波長の光強度を、それぞれ白色光を分光した各波長の光強度と対比することにより算出し、微細藻類の脂溶性成分含量の多寡を判断することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法。
【請求項5】
前記白色光が、清澄水を透過した白色光もしくは清澄水に浸漬した白色物質からの反射光であることを特徴とする請求項に記載の微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法。
【請求項6】
微細藻類を含む培養液の色合いを緑色光(500〜570nm)と赤色光(620〜740nm)とに分解して検出し、前記赤色光の吸光度を緑色光の吸光度で除した値を算出し、該値が所定の閾値を下回ったら、培養液の全部又は一部を回収することを特徴とする微細藻類の培養方法。
【請求項7】
微細藻類を含む培養液の色合いを緑色光(500〜570nm)と赤色光(620〜740nm)とに分解して検出し、前記赤色光の吸光度を緑色光の吸光度で除した値を算出し、該値が経時的に低下する傾向を示したら、培養液の全部又は一部を回収することを特徴とする微細藻類の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類の培養状態を判断するための微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法に関する。また、本発明はこの判断方法を利用した微細藻類の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類は、数μm〜数十μmの大きさの単細胞生物であり、このうち光合成を行うものは、太陽エネルギーを効率よく脂肪酸や油脂といった脂質やワックス成分、トリテルペン系炭化水素などの脂溶性成分に転換して蓄積し、また各種ミネラルや不飽和脂肪酸などを高濃度に含有することから、体内に産生された脂質や炭化水素などの脂溶性成分をジェット燃料やディーゼル燃料などの石油代替燃料として用いたり、クロレラに代表されるようにそれ自身を健康食品としたり、不飽和脂肪酸などの機能性の脂質を抽出してサプリメントや機能性飼料とするなど種々の利用法が提案されている。特に近年、バイオ燃料としての利用が注目されている。
【0003】
このような微細藻類は、燃料を生産する目的の場合、所定の育成プロセスにより生産したら、微細藻類を培養液から分離し、該微細藻類中から脂肪酸や油脂といった脂溶性成分を抽出する必要がある。この微細藻類から脂溶性成分を抽出しその抽出された脂溶性成分含量を計測する方法としては、脂溶性成分を溶媒により抽出して重量を測定する方法、溶媒で抽出した後にガスクマトグラフィーにより脂溶性成分の重量等を測定する方法などが一般に知られている。
【0004】
これらの方法は、脂溶性成分含量の計測精度が高いものの、固液分離、乾燥、抽出及び分析と多くの工程を経る必要があり、分析完了までに長時間を要するため、分析の結果を反映させた最適なタイミングでの回収(収穫)ができない、という問題点がある。微細藻類の培養においては、培養池への原生動物やバクテリアの混入により短時間のうちに微細藻類が死滅するおそれがあるため、収穫時期の判断を迅速に行えることは重要である。
【0005】
そこで、微細藻類の収穫時期を迅速に判断する方法として、微細藻類細胞内の脂溶性成分を蛍光染料などで染色し、蛍光検出器を用いて蛍光強度から脂溶性成分を推定する方法が種々開示されている。例えば、特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2には、それぞれナイルレッドで微細藻類細胞内の脂溶性成分を染色し、蛍光顕微鏡で染色部位の大きさから脂溶性成分の量を判断する方法が提案されている。また、非特許文献3には、BODIPYで微細藻類細胞内の脂溶性成分を染色し、蛍光プレートリーダーで蛍光強度を判断する方法が提案されている。これらの方法は、前述した脂溶性成分を溶媒により抽出して重量を測定する方法と比べて脂溶性成分含量の計測精度がやや劣るものの比較的高く、簡便な装置で済むという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−268993号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Determination of Algal Cell Lipids Using Nile Red Using Microplates to Monitor Neutral Lipids in Chlorella Vulgaris” K.Raymond et al.,Application Note,Bio Tek Instrument,Inc.,AN071211_08,Rev07/12/11,2011
【非特許文献2】“A high throughput Nile red method for quantitative measurement of neutral lipids in microalgae” Q.Hu et al.,Journal of Microbiological Methods,Vol.77,No.1,pp.41−47,2009
【非特許文献3】“Visualizing“green oil”in live algae cells” R.A.Cattolico et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering,Vol.109,No.2,pp.198−201,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3に記載の方法は、操作が煩雑なため現場においてオンラインでの自動分析には不適であるという問題がある。そこで現場における分析を完全に自動化するシステムを構成することが考えられるが、そのためには機器コストが非常にかさむという問題がある。
【0009】
微細藻類から燃料を生産するプロセスにおいて、安定した燃料生産を行うためには、微細藻類が脂溶性成分を十分に蓄積したタイミングで回収(収穫)することが重要である。ここで微細藻類の培養は、現状では培養コストを削減するためオープンポンドと呼ばれる屋外開放型の培養池で行われることが多い。このオープンポンドでは、気温や日射量などの環境要因によって微細藻類の培養状況が影響を受けるため、微細藻類が回収に適した脂溶性成分を最大に蓄積するまでの培養期間は変化する。そのため、一定の培養期間の後に回収することにすると、抽出できる脂溶性成分含量にバラツキが生じてしまう。しかしながら、上述したような種々の方法により脂溶性成分含量を分析して、微細藻類を回収する最適なタイミングを計る場合には、手間とコストがかかり現実的ではない。さらに、実用化時のオープンポンドは数千ha規模と予想され、広範囲における微細藻類が蓄積した脂溶性成分を効率よくモニタリングする手法が必要であるが、このようなモニタリング技術は従来なかった。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、微細藻類の培養状態を効率よくモニタリングして、その微細藻類の脂溶性成分含量を判断するための方法を提供することを目的とする。また、本発明はこの判断方法を利用した微細藻類の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法であって、微細藻類を含む培養液の色合いから、青色光(450〜490nm)、緑色光(500〜570nm)及び赤色光(620〜740nm)の少なくとも2以上の波長域を分解して検出し、これら2以上の光の波長の光強度に基づき微細藻類の脂溶性成分含量の多寡を判断することを特徴とする微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法を提供する(発明1)。
【0012】
かかる発明(発明1)によれば、微細藻類を含む培養液の色合いを、青色光、緑色光及び赤色光に分解するには、可視光の色度をRGBに分けて検出すればよく、安価なカラーセンサを適用することができる。そして、カラーセンサを適用することで、オンラインでの計測が可能となり、測定時間の大幅な短縮及び測定の簡易化することができる。さらに、このカラーセンサは、可視光のみで衛星写真などを利用して広い範囲の色調の変化を感知することができる。これらにより、微細藻類の培養状態を効率よくモニタリングして、その微細藻類の脂溶性成分含量を判断することが可能となる。
【0013】
上記発明(発明1)においては、前記緑色光(500〜570nm)と前記赤色光(620〜740nm)とを分解して検出し、緑色光の波長の光強度と赤色光の波長の光強度とから微細藻類の脂溶性成分含量の多寡を判断するのが好ましい(発明2)。特に前記緑色光の波長の光強度と赤色光の波長域の光強度とから赤色光の吸光度と緑色光の吸光度を算出し、該赤色光の吸光度で緑色光の吸光度を除した値で微細藻類の脂溶性成分含量の多寡を判断するのが好ましい(発明3)。
【0014】
かかる発明(発明2,3)によれば、この赤色光の吸光度と緑色光の吸光度との強光度比は、光合成を行う緑色の微細藻類の脂溶性成分含量と相関性があり、脂溶性成分含量が多くなると吸光度比が低下するので、この吸光度比が微細藻類の種類に応じた所定の値を下回ったら、微細藻類が保持する脂溶性成分含量が十分であると判断することが可能となる。
【0015】
上記発明(発明1〜3)においては、前記微細藻類を含む培養液の分光した各波長の光強度を、それぞれ白色光を分光した各波長の光強度と対比することにより算出し、微細藻類の脂溶性成分含量の多寡を判断するのが好ましい(発明4)。上記発明(発明4)においては、前記白色光が、清澄水を透過した白色光もしくは清澄水に浸漬した白色物質からの反射光であるのが好ましい(発明5)。
【0016】
かかる発明(発明4,5)によれば、微細藻類を含む培養液の青色光、緑色光及び赤色光の光強度を、それぞれ白色光を分光した各波長の光強度と対比して各色光の吸光度を算出することで、微細藻類の保持する脂溶性成分含量を簡便に判断することができる。
【0017】
また、第二に本発明は、微細藻類を含む培養液の色合いを緑色光(500〜570nm)と赤色光(620〜740nm)とに分解して検出し、前記赤色光の吸光度を緑色光の吸光度で除した値を算出し、該値が所定の閾値を下回ったら、培養液の全部又は一部を回収することを特徴とする微細藻類の培養方法を提供する(発明6)。
【0018】
かかる発明(発明6)によれば、微細藻類を含む培養液の色合いを緑色光と赤色光とに分解して検出して緑色光及び赤色光の光強度を算出し、この赤色光の吸光度を緑色光の吸光度で除した値(吸光度比)を監視する。このとき光合成を行う緑色の微細藻類は保持する脂溶性成分含量が多くなると吸光度比が低下するので、この吸光度比が所定の閾値を下回ったら微細藻類の保持する脂溶性成分含量が十分であると判断して、一部もしくは全量を回収することで、微細藻類を効率的に培養することができる。
【0019】
さらに、第三に本発明は、微細藻類を含む培養液の色合いを緑色光(500〜570nm)と赤色光(620〜740nm)とに分解して検出し、前記赤色光の吸光度を緑色光の吸光度で除した値を算出し、該値が経時的に低下する傾向を示したら、培養液の全部又は一部を回収することを特徴とする微細藻類の培養方法を提供する(発明7)。
【0020】
かかる発明(発明7)によれば、微細藻類を含む培養液の色合いを緑色光と赤色光とに分解して検出し、赤色光の吸光度を緑色光の吸光度で除した値(吸光度比)を算出しながら監視する。このとき光合成を行う緑色の微細藻類は保持する脂溶性成分含量が多くなると吸光度比が低下するので、この吸光度比が経時的に低下する傾向を示したら、微細藻類の保持する脂溶性成分含量が十分になったと判断して、一部もしくは全量を回収することで、微細藻類を効率的に培養することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、微細藻類を含む培養液の色合いを、青色光、緑色光及び赤色光に分解して検出し、これらの波長域の光強度を対比することで微細藻類の保持する脂溶性成分含量を判断するので、微細藻類の脂溶性成分含量のオンラインでの計測が可能となり、測定時間の大幅な短縮及び測定の簡易化することができる。これにより、微細藻類の培養状態を効率よくモニタリングして、その微細藻類の脂溶性成分含量の判断することが可能となる。
【0022】
特に、光合成を行う緑色の微細藻類を含む培養液の色合いを緑色光と赤色光とを分解して検出し、緑色光の波長の光強度と赤色光の波長の光強度とから赤色光の吸光度を緑色光の吸光度で除した値(吸光度比)を算出し、これら吸光度の比が所定の値を下回ったら、微細藻類が保持する脂溶性成分含量が十分であると判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一の実施形態に係る微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法を実施可能な装置を示す概略図である。
図2】本発明の第二の実施形態に係る微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法を実施可能な装置を示す概略図である。
図3】実施例1における微細藻類(イカダモ)の脂溶性成分含量の判断方法における脂溶性成分含量と吸光度との関係を示すグラフである。
図4】実施例2における微細藻類(クロレラ)の脂溶性成分含量の判断方法における脂溶性成分含量と吸光度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、本実施形態はいずれも例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
本発明は、微細藻類を含む培養液の色合い(色度)から青色光(450〜490nm)、緑色光(500〜570nm)及び赤色光(620〜740nm)の少なくとも2以上の波長域に分解して検出し、これら2以上の光の波長域の光強度により微細藻類の脂溶性成分含量の多寡を判断する。
【0026】
具体的には、光合成を行う緑色の微細藻類の場合、微細藻類を含む培養液の色合い(色度)から緑色光(500〜570nm)と赤色光(620〜740nm)とに分解して検出し、緑色光の波長域の光強度と赤色光の波長域の光強度とから微細藻類の蓄積する脂溶性成分含量を判断する。ここで、緑色の微細藻類としては、最大脂溶性成分含量の高いもの、すなわち脂溶性成分生産能に優れているものが好ましい。
【0027】
また、この培養液の色度を検知する手段としては、安価で緑色光、赤色光及び青色光をそれぞれ分けて検出可能であることから、カラーセンサを用いるのが好ましい。このカラーセンサは、測定した色をカラー・フィルタによってRGB成分に分解し、それぞれの色成分の光強度をフォトダイオード等により検知する仕組みを有するものである。このカラーセンサは、可視光のみで衛星写真などを利用して広い範囲の色調の変化を感知することができる。
【0028】
具体的には、カラーセンサを用いて、以下のようにして微細藻類の脂溶性成分含量を判断する。すなわち、まず、光の吸収が生じない透明な水(例えば純水)に白色光を照射して、透過した光をカラーセンサで検出する。この白色光は、カラーセンサのカラー・フィルタによってRGB成分に分解されて受光されるので、このときの赤色帯域光(緑色光)R1と緑色帯域光(緑色光)G1とのそれぞれの光強度を計測する。
【0029】
次に微細藻類を含む培養液を同じカラーセンサを用い、同様に白色光を照射して、透過した光をカラーセンサで検出する。この透過光は、カラーセンサのカラー・フィルタによってRGB成分に分解されて受光されるので、このときの赤色帯域光(赤色光)R2と緑色帯域光(緑色光)G2とのそれぞれの光強度を計測する。
【0030】
この赤色帯域光(赤色光)と緑色帯域光(緑色光)とは、例えば、特開2010−151605号に記載されている図1に示すような透過型カラーセンサ1を用いて測定することができる。この透過型カラーセンサ1は、発光部2とカラー・フィルタ(図示せず)を備えた受光部3とを有し、発光部2から白色光を照射して、培養液4を透過してきた光を受光部3で受光し、図示しない制御機構で赤色帯域光(緑色光)と緑色帯域光(緑色光)とのそれぞれの光強度を算出する。
【0031】
また、特開2010−181150号に記載されている図2に示すような反射型カラーセンサ11を用いることもできる。この反射型カラーセンサ11は、発光部12とカラー・フィルタ(図示せず)を備えた受光部13と、反射板14とを有し、発光部12から白色光を照射して、反射板14を経由して培養液15を透過してきた光を受光部13で受光し、図示しない制御機構で赤色帯域光(緑色光)と緑色帯域光(緑色光)とのそれぞれの光強度を算出する。
【0032】
このようにして、透明な水と微細藻類を含む培養液の赤色光と緑色光の吸光強度を測定したら、下記式により赤色光の吸光度と緑色光の吸光度と両者の比(吸光度比)とをそれぞれ算出する。
赤色帯域光吸光度:A=−log(R2/R1)
緑色帯域光吸光度:A=−log(G2/G1)
吸光度比:X=A/A
【0033】
一方、初期段階においては、培養液中の微細藻類の脂溶性成分含量を計測する。微細藻類からの脂溶性成分の抽出は、例えばn−ヘキサンなどの有機溶媒を抽出溶媒に用いてソックスレー抽出法により行えばよい。
【0034】
本発明者の研究によれば、この赤色光と緑色光との吸光度比と微細藻類の脂溶性成分含量との間には高い相関が認められることがわかった。そこで、この相関性を解析した結果、吸光度比(X)(赤色光の吸光度を緑色光の吸光度で除した値)が所定の閾値を下回ると、脂溶性成分の蓄積状態(含有量)が十分に大きくなり、それ以上培養しても脂溶性成分の増加効率が低下して培養効率的に好ましくないので、微細藻類の一部もしくは全量を回収(収穫)することで、微細藻類を効率的に培養することができる。そして、この閾値は、微細藻類の種類により異なるので、あらかじめ微細藻類を培養して脂溶性成分含量との関係から閾値を設定すればよい。
【0035】
さらに、この相関性を応用すれば、吸光度比(X)が経時的に低下する傾向を示した時点で脂溶性成分が増加したと判断して、微細藻類の一部もしくは全量を回収(収穫)することで、微細藻類を効率的に培養するようにしてもよい。
【0036】
以上、本発明について前記実施形態に基づき説明してきたが、本発明は前記実施形態に限られず種々の変更実施が可能である。例えば、本実施形態では、緑色の微細藻類について、緑色光(500〜570nm)と赤色光(620〜740nm)とに基づいて、微細藻類の培養状態の判断を行っているが、ヘマトコッカスなどの赤色の微細藻類の場合には、青色光(450〜490nm)の吸光度のデータを用いることもできる。
【実施例】
【0037】
以下の具体的実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1、2)
【0038】
国立環境研究所微生物系統保存施設より分譲されたイカダモ(NIES−96株:実施例1)及びクロレラ(NIES−2170株:実施例2)を、pH6.5〜7.5に調整した表1及び表2に示す組成のC培地を用いて、このC培地に空気に工業用COを3体積%の濃度で添加したものを通気し、蛍光灯照明(明/暗=12hr/12hr)で培養を行った。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
この微細藻類の脂溶性成分含量を図1に示すカラーセンサを用いて、以下のようにして判断した。すなわち、ヤマト科学社製純水製造装置「WG270」で製造した純水を光の吸収が生じない透明な水として、この純水に白色光を照射して、透過した光をカラーセンサで検出し、赤色帯域光(赤色光)R1と緑色帯域光(緑色光)G1とのそれぞれの光強度を計測した。
【0042】
次に同じカラーセンサを用いて前述した実施例1及び実施例2の培養液に同様に白色光を照射して、透過した光をカラーセンサで検出し、赤色帯域光(赤色光)R2と緑色帯域光(緑色光)G2とのそれぞれの光強度を計測した。これらの赤色光の光強度と緑色光の光強度とから赤色光の吸光度と緑色光の吸光度を算出し、さらに両吸光度の値から吸光度比を算出した。
【0043】
一方、実施例1及び実施例2の培養液中のイカダモ及びクロレラから脂溶性成分を抽出し、その脂溶性成分含量を計測し比較を行った。抽出はn−ヘキサンを抽出溶媒に用いてソックスレー抽出法により行い、抽出物の重量を測定した。
【0044】
なお、上記培養液による培養は、表3に示す2条件でそれぞれ行い、吸光度比Xと脂溶性成分含量との関係を断続的に観測した。結果を図3及び図4に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
図3及び図4より明らかなとおり、培養条件に関係なく脂溶性成分含量と赤色光及び緑色光の吸光度比(X)とには高い相関が認められ、吸光度比(X)が脂溶性成分の蓄積状況の判断指標となりうることが確認された。また、脂溶性成分含量と吸光度比(X)との相関関係は、イカダモ(実施例1)とクロレラ(実施例2)とで異なっており、培養する微細藻類種ごとに事前に相関性を確認しておく必要があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
上述したような本発明の微細藻類の脂溶性成分含量の判断方法および微細藻類の培養方法によれば、安価なカラーセンサを適用することができ、そして、このカラーセンサを適用することで、オンラインでの計測が可能となる。これにより、測定時間の大幅な短縮、測定の簡易化及び測定費用の削減を達成できる。さらに、このカラーセンサは、可視光のみで衛星写真などを利用して広い範囲の色調の変化を感知することができる。これらにより、微細藻類の培養状態を効率よくかつ安価にモニタリングして、その微細藻類の脂溶性成分含量を判断することが可能となる。この結果、微細藻類の回収(収穫)の最適なタイミングを判定でき、燃料原料としての微細藻類の安定生産を実現することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…透過型カラーセンサ
2…発光部
3…受光部
4…培養液
11…反射型カラーセンサ
12…発光部
13…受光部
14…反射板
15…培養液
図1
図2
図3
図4