特許第6115401号(P6115401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115401
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】カソード吊手矯正具
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/02 20060101AFI20170410BHJP
【FI】
   C25C7/02 302F
   C25C7/02 304
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-173678(P2013-173678)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2014-101575(P2014-101575A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-233407(P2012-233407)
(32)【優先日】2012年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土岐 典久
(72)【発明者】
【氏名】加集 裕久
(72)【発明者】
【氏名】秋山 達也
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−023861(JP,U)
【文献】 特開2008−115415(JP,A)
【文献】 特開平08−001528(JP,A)
【文献】 特開平03−086250(JP,A)
【文献】 特開2004−144153(JP,A)
【文献】 実開昭58−000861(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード板をカソードビームに連結するカソード吊手を矯正するカソード吊手矯正具であって、
互いに回動可能に連結された一対の挟み部材と、
前記一対の挟み部材の開閉端部に設けられ、前記カソード吊手を挟む一対の当接板と、
前記カソードビームに載置され、該カソードビームに対して前記一対の挟み部材を位置決めする支持部材と、を備え
前記カソード吊手は、1枚の前記カソード板に2本設けられており、
前記一対の挟み部材を2組備え、
前記2組の挟み部材は、各回動軸が同軸であり、前記2本のカソード吊手と同間隔に配置されており、互いに同期して回動するよう構成されている
ことを特徴とするカソード吊手矯正具。
【請求項2】
前記支持部材は、前記一対の挟み部材の開閉方向に対して垂直方向に並び、該一対の挟み部材を挟んで2つ設けられている
ことを特徴とする請求項1記載のカソード吊手矯正具。
【請求項3】
前記当接板は、前記挟み部材の開閉端部に対して位置および/または角度を調整可能に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1または2記載のカソード吊手矯正具。
【請求項4】
前記一対の挟み部材は互いに交差して回動可能に連結されている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載のカソード吊手矯正具。
【請求項5】
前記支持部材に対する前記一対の挟み部材のそれぞれの回動角度を同調させる同調機構を備える
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載のカソード吊手矯正具。
【請求項6】
前記一対の挟み部材の開閉端部の最大開き幅が、前記一対の挟み部材が互いに接触することにより制限されている
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載のカソード吊手矯正具。
【請求項7】
前記一対の挟み部材は、一方の前記挟み部材に固定された円管と、他方の前記挟み部材に固定された円管とが、連結軸に挿入されて連結されており、
前記一対の挟み部材の開閉端部の最大開き幅が、一方の前記挟み部材に固定された前記円管に形成された当接面が、他方の前記挟み部材と接触することにより制限されている
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載のカソード吊手矯正具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード吊手矯正具に関する。さらに詳しくは、電解精製や電解採取に用いられるカソードのカソード吊手を矯正して、カソード板の懸垂性を向上させるためのカソード吊手矯正具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、銅の電解精製においては、電解液を満たした電解槽に複数枚の粗銅アノードと純銅カソードを交互に挿入し、アノードとカソードとの間に通電して、カソード上に銅を析出させて、電気銅を得ている。アノードは、銅精錬炉で精製された精製粗銅を鋳造することで得られる。カソードは、縦横寸法が約1mであり厚さが約1mmの純銅薄板をカソード板とし、短冊状の純銅薄板を二又状に折り曲げたカソード吊手をカソード板の上縁に2本取り付け、それらカソード吊手の輪の中にカソードビームを通すことで形成される。
【0003】
電気銅は、その表面に金属粒などがなく滑らかであることが要求される。これは、外観品質を向上させるという目的のほか、得られた電気銅を積み重ねて荷山として取り扱う場合に、表面の金属粒により荷山の安定が悪くなることを防止するためでもある。また、電気銅の運搬には真空吸着装置を利用することが多いが、表面に金属粒があるとその凹凸により真空吸着装置で吸着できなくなり、搬送できないという問題も生じる。
【0004】
また、カソード板に針状電析が生じ、その針状電析が成長してアノードに達するとショートが発生する。ショートが発生すると電力が無駄となり操業コストが増加するという問題がある。
【0005】
このような金属粒や針状電析は、カソード板に凹凸がある場合などアノードとカソードとの間の距離が部分的に短くなっている場合に生じやすい。アノードとカソードとの間の距離が短い部分は他の部分よりも電気抵抗が小さいため、優先的に金属が析出して金属粒が生じるからである。また、この金属粒が針状に成長すると針状電析となる。そのため、アノードとカソードとの面間距離を均等にすれば、金属粒やショートの発生を抑制できる。
【0006】
アノードとカソードとの面間距離を均等にするためには、アノードとカソードが平坦である必要がある。アノードは鋳造で得られるため比較的平坦なものを得ることができる。一方、カソードはカソード板が薄板であるため曲がりやすく凹凸が生じやすいという性質を有する。そのため、従来はカソードを組み立てる工程において、カソード板をロール成形して平坦性を向上することが行われていた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−360050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者は、二又状に折り曲げたカソード吊手の湾曲形状にバラつきがあることから、カソード板がカソードビームに対して傾いて取り付けられている場合があるという知見を得た。カソード板がカソードビームに対して傾いて取り付けられていると、カソード板が平坦であっても、アノードとカソードとの面間距離が均等とならず、金属粒やショートの発生の原因となる。そこで、本願発明者は、カソード吊手の湾曲形状を一律に矯正することで、カソード板の懸垂性が向上し、アノードとカソードとの面間距離が均等となって、金属粒やショートの発生をさらに抑制できると考えた。ここで、カソード板の懸垂性とは、カソードビームの軸心に対するカソード板の平行(カソード板を延長した面内にカソードビームの軸心が含まれる場合も含む)の度合いおよび鉛直下向きに垂れ下がる度合いを意味する。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、カソード吊手を矯正することで、カソード板の懸垂性を向上できるカソード吊手矯正具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明のカソード吊手矯正具は、カソード板をカソードビームに連結するカソード吊手を矯正するカソード吊手矯正具であって、互いに回動可能に連結された一対の挟み部材と、前記一対の挟み部材の開閉端部に設けられ、前記カソード吊手を挟む一対の当接板と、前記カソードビームに載置され、該カソードビームに対して前記一対の挟み部材を位置決めする支持部材と、を備え、前記カソード吊手は、1枚の前記カソード板に2本設けられており、前記一対の挟み部材を2組備え、前記2組の挟み部材は、各回動軸が同軸であり、前記2本のカソード吊手と同間隔に配置されており、互いに同期して回動するよう構成されていることを特徴とする。
第2発明のカソード吊手矯正具は、第1発明において、前記支持部材は、前記一対の挟み部材の開閉方向に対して垂直方向に並び、該一対の挟み部材を挟んで2つ設けられていることを特徴とする。
第3発明のカソード吊手矯正具は、第1または第2発明において、前記当接板は、前記挟み部材の開閉端部に対して位置および/または角度を調整可能に取り付けられていることを特徴とする。
第4発明のカソード吊手矯正具は、第1、第2または第3発明において、前記一対の挟み部材は互いに交差して回動可能に連結されていることを特徴とする。
第5発明のカソード吊手矯正具は、第1、第2、第3または第4発明において、前記支持部材に対する前記一対の挟み部材のそれぞれの回動角度を同調させる同調機構を備えることを特徴とする。
第6発明のカソード吊手矯正具は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記一対の挟み部材の開閉端部の最大開き幅が、前記一対の挟み部材が互いに接触することにより制限されていることを特徴とする。
第7発明のカソード吊手矯正具は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記一対の挟み部材は、一方の前記挟み部材に固定された円管と、他方の前記挟み部材に固定された円管とが、連結軸に挿入されて連結されており、前記一対の挟み部材の開閉端部の最大開き幅が、一方の前記挟み部材に固定された前記円管に形成された当接面が、他方の前記挟み部材と接触することにより制限されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、一対の挟み部材を支持部材で位置決めして開閉端部を閉じれば、一対の当接板でカソード吊手を挟んで、カソード吊手の湾曲形状を一律に矯正できる。そうすると、カソード板がカソードビームに対して平行となり、鉛直下向きに垂れ下がるので、カソード板の懸垂性を向上できる。そのため、アノードとカソードとの面間距離が均等となり、金属粒やショートの発生を抑制できる。また、一対の挟み部材を2組備えるので、2本のカソード吊手を同時に矯正して、ズレなく一律に矯正できる。そのため、カソード板がカソードビームに対してより平行となり、カソード板の懸垂性をより向上できる。
第2発明によれば、支持部材が一対の挟み部材を挟んで2つ設けられているので、一対の当接板がカソードビームに対して平行になるように正確に位置決めできる。そのため、カソード板の懸垂性をより向上できる。
第3発明によれば、当接板とカソード吊手との接触位置および/または接触角度を調整できるので、カソード吊手を適切な湾曲形状に矯正でき、効果的にカソード板の懸垂性を向上できる。
第4発明によれば、一対の挟み部材の他端を閉じれば、開閉端部が閉じてカソード吊手を矯正できるので、作業員がカソード吊手を矯正する力を発揮しやすい。
第5発明によれば、支持部材に対する一対の挟み部材のそれぞれの回動角度が同調するので、一対の当接板が互いに接する位置が常に一定となり、カソード吊手の湾曲形状をより一律に矯正できる。そのため、カソード板の懸垂性をより向上できる。
第6発明によれば、一対の挟み部材の開閉端部の最大開き幅が制限されており、開きすぎることがないので、カソード吊手矯正具をカソードに設置する際に、隣接するアノードに引っ掛かることがなく、作業が容易となる。
第7発明によれば、一対の挟み部材の開閉端部の最大開き幅が制限されており、開きすぎることがないので、カソード吊手矯正具をカソードに設置する際に、隣接するアノードに引っ掛かることがなく、作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係るカソード吊手矯正具の正面図である。
図2】同カソード吊手矯正具の開閉端部を開いた状態の側面図である。
図3図2におけるIII-III線矢視断面図である。
図4】同カソード吊手矯正具をカソードに設置した状態の正面図である。
図5】同カソード吊手矯正具の部分拡大側面図であり、(a)は開閉端部を開いた状態、(b)は開閉端部を閉じた状態を示す。
図6】本発明の第2実施形態に係るカソード吊手矯正具の正面図である。
図7】同カソード吊手矯正具の開閉端部を開いた状態の側面図である。
図8図2におけるVIII-VIII線矢視断面図である。
図9】同カソード吊手矯正具の開閉端部を閉じた状態の側面図である。
図10】本発明の第3実施形態に係るカソード吊手矯正具の正面図である。
図11】同カソード吊手矯正具の開閉端部を開いた状態の側面図である。
図12図2におけるXI-XI線矢視断面図である。
図13】同カソード吊手矯正具の開閉端部を閉じた状態の側面図である。
図14】本発明の第4実施形態に係るカソード吊手矯正具の正面図である。
図15】同カソード吊手矯正具の開閉端部を開いた状態の側面図である。
図16】本発明の第5実施形態に係るカソード吊手矯正具の正面図である。
図17】同カソード吊手矯正具の開閉端部を開いた状態の側面図である。
図18】同カソード吊手矯正具の開閉端部を閉じた状態の側面図である。
図19】同カソード吊手矯正具をカソードに設置した状態の正面図である。
図20】その他の実施形態に係るカソード吊手矯正具の部分拡大側面図である。
図21】さらに他の実施形態に係るカソード吊手矯正具の(a)部分拡大側面図、(b)側面視縦断面図である。
図22】カソード吊手の測定箇所の説明図である。
図23】カソードの(a)正面図、(b)側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明に係るカソード吊手矯正具は、銅、金、ニッケル、コバルト、鉛、亜鉛などの電解精製や電解採取に用いられるカソードのカソード吊手を矯正するためのものである。いずれの場合においても、同様の構成で同様の効果を奏することができるので、以下、銅の電解精製を例に説明する。
【0014】
銅の電解精製においては、電解液を満たした電解槽に複数枚の粗銅アノードと純銅カソードを交互に挿入し、アノードとカソードとの間に通電して、カソード上に銅を析出させて、電気銅を得ている。電解槽に挿入されたアノードとカソードとの面間距離は約20〜30mmである。
【0015】
図23に示すように、銅の電解精製に用いられるカソードCは、カソード板c1と、電解槽の両縁に掛け渡され、カソード板c1を吊り下げるカソードビームc2と、カソード板c1をカソードビームc2に連結する2本のカソード吊手c3、c3とからなる。
【0016】
このカソードCは、例えば以下の手順で製造される。
まず、カソード板c1として用いられる種板が製造される。種板は、予め種板製造用の電解槽において、母板と称される陰極上に薄く電着した電気銅を剥ぎ取ることにより製造される。この種板を所定の寸法(例えば、縦横寸法が約1m、厚さが約1mm)の四角形に切断することでカソード板c1が製造される。また、種板は短冊状に切断され、カソード吊手c3として用いられる吊手用短冊となる。
【0017】
カソード吊手c3は、吊手用短冊をピンセットに似た二又状に折り曲げたものである。このカソード吊手c3を2本用い、それぞれの端部をカソード板c1の上端縁に固定する。そして、カソードビームc2をカソード吊手c3の輪の中に通すことでカソードCが製造される。なお、カソードビームc2は厚さが約24mmの角棒である。
【0018】
以上のようにカソード吊手c3は吊手用短冊を二又状に折り曲げたものであり、個々のカソード吊手c3の湾曲形状にはバラつきがある。例えば、図22に示すように、(a)側面視において左右均等に湾曲したカソード吊手c3もあれば、(b)左右の突出長さL1、L2が異なるカソード吊手c3もあり、(c)左右の傾斜角度θ1、θ2が異なるカソード吊手c3もある。本発明に係るカソード吊手矯正具を用いれば、このようなカソード吊手c3を一律に矯正して湾曲形状のバラつきをなくすことができる。
【0019】
(第1実施形態)
図1図2および図3に示すように、本発明の第1実施形態に係るカソード吊手矯正具1は、連結軸10を中心として互いに回動可能に連結された一対の挟み板20、20を備えている。より詳細には、丸棒である連結軸10の略中央には3つの円管11、12、13が挿入されており、中央の円管12と一方(図3における下側)の挟み板20とが溶接され、両側の円管11、13と他方(図3における上側)の挟み板20とが溶接されている。これにより、一対の挟み板20、20は連結軸10を介して回動可能に連結されている。
【0020】
なお、本実施形態では、一対の挟み板20、20は連結軸10を介して連結されているが、一対の挟み板20、20は互いに回動可能に連結されていればよく、他の方法で連結されてもよい。
【0021】
連結軸10には、3つの円管11、12、13を間に挟んで一対のリング14、15が挿入されている。リング14、15は連結軸10に溶接されており、3つの円管11、12、13を連結軸10の略中央から横ずれしないように止めている。これにより、一対の挟み板20、20は連結軸10の略中央に位置決めされている。
【0022】
挟み板20は、縦長の長方形の板材である。一対の挟み板20、20は、それぞれ側面視において角度の浅いS字形に屈曲しており、互いに対称に対向して配置されている。
なお、挟み板20が特許請求の範囲に記載の挟み部材に相当する。挟み部材は板状でなくてもよく、その形状は特に限定されない。
【0023】
一対の挟み板20、20の連結軸10より下側の開閉端部には、それぞれ当接板30、30が取り付けられている。当接板30は挟み板20と同一の幅寸法を有する長方形の平板である。後述のごとく、一対の挟み板20、20の開閉端部を閉じて、この一対の当接板30、30でカソード吊手c3を表裏から挟むことで、カソード吊手c3の湾曲形状を矯正できる。
【0024】
当接板30は、カソード吊手c3を矯正するのに必要な強度があればよく、その材質は特に限定されないが、例えば鉄などで形成される。また、カソード吊手c3に傷がつかないように、当接板30を木材や強化プラスチックなどで形成してもよいし、当接板30の表面(カソード吊手c3と当接する面)をゴムやプラスチックなどで覆ってもよい。
【0025】
当接板30の裏面(挟み板20と対向する面)には2本のボルト31、31が立設されている。一方、挟み板20の開閉端部には、2つの縦長の長孔21、21が形成されており、それぞれにボルト31が挿入可能となっている。当接板30は、ボルト31にワッシャ32を挿入して、挟み板20の内面(一対の挟み板20、20が互いに対向する面)からボルト31を長孔21に通し、外面に突き出たボルト31の先端にナットを締結することで、挟み板20に取り付けられている。
【0026】
ボルト31は縦長の長孔21に通されているので、当接板30を挟み板20に対して縦方向に位置調整できる。また、当接板30と挟み板20との間のワッシャ32の数を変えることで、あるいはワッシャ32を挿入しないことで、挟み板20に対する当接板30の突出高さを調整できる。さらに、当接板30に対するボルト31の角度を調整可能とし、挟み板20に対する当接板30の角度を調整可能としてもよい。
【0027】
なお、当接板30の位置、角度調整は、上記方法に限定されない。当接板30の表面にテープなどを貼り付けて当接板30の厚みを調整し、挟み板20に対する当接板30の突出高さを調整してもよい。種々の厚みや形状の当接板30を予め用意しておき、当接板30を付け替えることで、当接板30の位置や角度を調整可能としてもよい。
【0028】
また、上記のように、当接板30を付け換え可能とすれば、当接板30が磨耗や損傷した場合に交換することができる。
【0029】
一対の挟み板20、20の上端部には、それぞれ棒状の持ち手22、22が固定されている。そのため、作業員が持ち手22、22を持って開閉することで、一対の挟み板20、20の開閉端部を開閉できる。
【0030】
持ち手22の長さは、操作性を考慮して適宜決めればよい。連結軸10を中心として、当接板30までの距離と、持ち手22の上端部までの距離の比率を変えることで、一対の挟み板20、20の開閉端部を開閉するために必要な持ち手22、22の開閉量を調整できる。また、作業員が持ち手22、22に加える力に対する当接板30がカソード吊手c3を加圧する力を調整できる。
【0031】
持ち手22は、一対の挟み板20、20の開閉端部を開閉するのに必要な強度があればよく、その素材は特に限定されないが、例えば鉄などで形成される。また、持ち手22の形状も特に限定されず、作業者が操作しやすい形状とすればよい。
【0032】
前述のごとく、一対の挟み板20、20は、それぞれ角度の浅いS字形に屈曲しており、互いに対称に配置されているので、開閉端部を開くと上端同士が接触する(図2参照)。これにより、一対の挟み板20、20の開閉端部の最大開き幅Lが所定の寸法に制限されている。
【0033】
連結軸10の両端には、それぞれ支持部材40、40が設けられている。すなわち、支持部材40、40は、一対の挟み板20、20の開閉方向(図3における上下方向)に対して垂直方向(図3における左右方向)に並び、一対の挟み板20、20を挟んで2つ設けられている。なお、支持部材40と連結軸10とは回転不可能に固定してもよいし、回転可能に取り付けてもよい。
【0034】
支持部材40は略直方体の部材であり、その底面に連結軸10と平行な凹溝41が形成されている。凹溝41は、カソードビームc2の厚さと同じか、若干大きい幅寸法を有しており、カソードビームc2を挿入可能となっている。
【0035】
カソードCの上からカソード吊手矯正具1を降ろしていき、凹溝41にカソードビームc2を挿入すれば、支持部材40をカソードビームc2に載置して、カソードCにカソード吊手矯正具1を設置できる。ここで、支持部材40と一対の挟み板20、20とは連結軸10で連結されているから、支持部材40をカソードビームc2に載置することで、カソードビームc2に対して一対の挟み板20、20を位置決めできる。この際、凹溝41は連結軸10と平行に形成されているから、連結軸10をカソードビームc2の真上に平行に位置決めできる。そして、一対の挟み板20、20の回動によらず、一対の当接板30、30の表面がカソードビームc2の軸心に対して平行(当接板30の表面を延長した面内にカソードビームc2の軸心が含まれる場合も含む)になる。
【0036】
なお、2つの支持部材40、40の間隔を広くすれば、カソードビームc2に対する一対の挟み板20、20の位置決め精度が高くなり、2つの支持部材40の間隔を狭くすればカソード吊手矯正具1の設置作業が容易となる。支持部材40を連結軸10に沿って移動可能とし、位置決め精度と作業性を調整できるように構成してもよい。
【0037】
また、支持部材40は、連結軸10の一方の端部に1つだけ設けてもよい。ただし、本実施形態のように、支持部材40を2つ設けた方が、カソードビームc2に対する一対の挟み板20、20の位置決め精度が高くなるので好ましい。
【0038】
また、支持部材40の凹溝41に、ゴムなどのクッション材を取り付けてもよい。クッション材を取り付けることで、カソードビームc2が傷つくことを防止できる。カソードビームc2が腐食などにより細くなっている場合でも、クッション材により支持部材40とカソードビームc2とを密着できるので、位置決め精度が高くなる。
【0039】
つぎに、カソード吊手矯正具1を用いたカソード吊手c3の矯正方法を説明する。
まず、電解槽に複数枚のアノードとカソードCを交互に挿入する。
つぎに、図4に示すように、電解槽に挿入されたカソードCの上から、一対の挟み板20、20の開閉端部を開いた状態でカソード吊手矯正具1を降ろしていき、支持部材40をカソードビームc2に載置する。この際、2本のカソード吊手c3うちの一方に一対の挟み板20、20が位置するようにする。このようにして、カソード吊手矯正具1をカソードCに設置するとともに、支持部材40、40で一対の挟み板20、20をカソードビームc2に対して位置決めする。
【0040】
一般に、電解槽に挿入された状態において隣接するアノードの間隔は約80〜120mmであり互いに接近している。そのため、カソード吊手矯正具1をカソードCに設置する際には、一対の挟み板20、20がアノード間の隙間に収まらないと、アノードに引っ掛かってしまう。
【0041】
この点、本実施形態のカソード吊手矯正具1は一対の挟み板20、20の開閉端部の最大開き幅Lが制限されており、開きすぎることがない。そのため、カソード吊手矯正具1をカソードCに設置する際に、隣接するアノードに引っ掛かることがない。換言すれば、一対の挟み板20、20の開閉端部の最大開き幅Lは、アノードの間隔よりも小さく制限されている。このように、一対の挟み板20、20の開閉端部の最大開き幅Lが制限されていることから、カソード吊手矯正具1をカソードCに設置する作業が容易となる。
【0042】
また、カソード吊手矯正具1は、支持部材40、40が一対の挟み板20、20を挟んで2つ設けられているので、カソードビームc2に対する一対の挟み板20、20の位置決めが正確となり、一対の当接板30、30がカソードビームc2に対して平行になるように、正確に位置決めできる。そのため、後述のカソード吊手c3の矯正により、支持部材40が1つの場合に比べてカソード板c1の懸垂性をより向上できる。
【0043】
図5(a)に示すように、カソード吊手矯正具1をカソードCに設置した直後は、一対の挟み板20、20の開口端部が開いた状態である。この状態から、図5(b)に示すように、持ち手22、22を開いて、一対の挟み板20、20の開口端部を閉じれば、一対の当接板30、30でカソード吊手c3を表裏から挟んで、その加圧力によりカソード吊手c3の湾曲形状を矯正できる。
【0044】
以上の操作を、2本のうちのもう一方のカソード吊手c3にも行うことで、カソードCに設けられた2本のカソード吊手c3を一律に矯正し、カソード吊手c3の下部分をカソードビームc2に対して平行にできる。そうすると、カソード板c1がカソードビームc2の軸心に対して平行となり、鉛直下向きに垂れ下がるので、カソード板c1の懸垂性を向上できる。そのため、アノードとカソードCとの面間距離が均等となり、金属粒やショートの発生を抑制できる。
【0045】
ここで、カソードビームc2の底面から当接板30の上縁までの距離dが長いと、カソード吊手c3の矯正が不十分となり、一対の挟み板20、20の開口端部を開くと、カソード吊手c3の弾性力により元の湾曲形状に近づく場合がある。距離dを短くすれば、カソード吊手c3の湾曲形状が十分に矯正され、一対の挟み板20、20の開口端部を開いても、矯正後の湾曲形状を保つことができる。しかも、カソード吊手c3がカソードビームc2に密着して巻き付けられるので、カソード吊手c3がカソードビームc2に対してズレることがなく、カソード板c1がカソードビームc2を中心に揺れることも防止できる。
本実施形態のカソード吊手矯正具1は、当接板30を挟み板20に対して縦方向に位置調整できるので、距離dを適切な長さに設定でき、カソード吊手c3を好ましい湾曲形状に矯正できる。
【0046】
矯正後において、カソード吊手c3のカソードビームc2より下側の部分は、カソードビームc2の軸心と平行であればよく、その厚み方向の位置(図5(b)における左右方向の位置)は、カソードビームc2の軸心からズレていてもよい。ただし、カソード吊手c3がカソードビームc2の厚み方向のどちらか一方に偏るよりも、カソードビームc2の軸心の真下に位置するように矯正した方が好ましい。カソード吊手c3がカソードビームc2の軸心の真下に位置すれば、カソード板c1がカソードビームc2の軸心の真下に懸垂するため、カソードビームc2にかかる荷重に偏りがなくなり安定するからである。また、隣接する2枚のアノードとの距離が均等になるため、カソード板c1の一方の面と他方の面とで電着が均等になるためである。
本実施形態に係るカソード吊手矯正具1は、挟み板20に対する当接板30の突出高さを調整できるので、カソード吊手c3の厚み方向の位置を適切な位置に調整できる。
【0047】
また、挟み板20に対する当接板30の角度を調整可能とすれば、一対の挟み板20、20の開口端部を閉じたときに、当接板30がカソード吊手c3と面接触するように調整できる。そのため、カソード吊手c3に当接板30の縁が当たって損傷することを防止できる。
【0048】
以上のように、当接板30とカソード吊手c3との接触位置および接触角度を調整できるので、カソード吊手c3を適切な湾曲形状に矯正でき、効果的にカソード板c1の懸垂性を向上できる。
【0049】
(第2実施形態)
図6図7および図8に示すように、本発明の第2実施形態に係るカソード吊手矯正具2は、第1実施形態に係るカソード吊手矯正具1において、一対の挟み板20、20が、ハサミのように互いに交差して回動可能に連結されている構成である。
【0050】
より詳細には、一対の挟み板20、20は、それぞれ連結軸10より上方の位置において、その側部に幅方向中央まで至る嵌合溝23が形成されており、それら嵌合溝23、23が互いに嵌め合わされている。これにより、一対の挟み板20、20は、連結軸10より上方で互いに交差している。その余の構成は、第1実施形態に係るカソード吊手矯正具1と同様であるので、同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0051】
本実施形態に係るカソード吊手矯正具2は、以上のような構成であるから、図7に示すように、持ち手22、22を開けば、一対の挟み板20、20の開閉端部が開く。逆に、図9に示すように、持ち手22、22を閉じれば、一対の挟み板20、20の開閉端部が閉じて、カソード吊手c3を挟んで矯正できる。カソード吊手c3を矯正するには、作業員は持ち手22、22を閉じる力を加えればよいので、作業員がカソード吊手c3を矯正する力を発揮しやすい。
【0052】
なお、一対の挟み板20、20が交差する位置は、連結軸10より上方に限られず、連結軸10より下方でもよいし、連結軸10と同じ位置でもよい。また、挟み板20の一部を構成する持ち手22が互いに交差するように構成してもよい。このように、特許請求の範囲に記載の「一対の挟み部材は互いに交差して」とは、持ち手22のように挟み部材の一部を構成する部材が交差する場合も含まれる。
【0053】
本実施形態では、嵌合溝23の位置および範囲により、一対の挟み板20、20の回動角度を制限することができ、一対の挟み板20、20の開閉端部の最大開き幅Lを所定の寸法に制限できる。
【0054】
また、持ち手22、22の内側に互いに接触する突起を設け、持ち手22、22を閉じてもそれらの間に隙間が確保されるように構成してもよい。このようにすれば、持ち手22、22を閉じた際に、持ち手22、22の間に手を挟むことを防止でき、作業の安全を確保できる。突起の位置は、持ち手22、22の中央や上端など、いずれも場所でもよい。
【0055】
(第3実施形態)
上記実施形態においては、支持部材40に対して一対の挟み板20、20が任意の角度で回動可能であるため、作業員の操作によっては、カソード吊手c3が鉛直方向に対して斜めに矯正される場合があり、カソード吊手c3の角度にバラつきが生じる可能性がある。
このような問題に対応するため、本発明の第3実施形態に係るカソード吊手矯正具3は、第1実施形態に係るカソード吊手矯正具1において、支持部材40に対する一対の挟み板20、20のそれぞれの回動角度を同調させる同調機構が備えられたものである。
【0056】
より詳細には、図10図11および図12に示すように、カソード吊手矯正具3は、水平面内において平行に配置された2本の連結軸10、10を備えており、各連結軸10に、それぞれ一の挟み板20が回動可能に取り付けられている。また、各連結軸10には、それぞれ歯車50が回転可能に取り付けられている。この歯車50は、同一の連結軸10に取り付けられた挟み板20とともに回転するように構成されている。
【0057】
2つの歯車50、50は互いに噛み合っており、一方の挟み板20が回動すると、他方の挟み板20が逆方向に同じ角度だけ回動するように構成されている。また、連結軸10、10の両端には、それぞれ支持部材40が回転不可能に固定されており、その凹溝41は鉛直下向きに開口している。図13に示すように、一対の挟み板20、20の開閉端部を閉じた状態では、一対の当接板30、30の接触面が支持部材40の凹溝41に沿って鉛直になるように構成されている。その余の構成は、第1実施形態に係るカソード吊手矯正具1と同様であるので、同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0058】
本実施形態に係るカソード吊手矯正具3は、以上のような構成であるから、歯車50、50により、支持部材40に対する一対の挟み板20、20のそれぞれの回動角度を同調させることができる。しかも、一対の当接板30、30の接触面が常に鉛直となる。そのため、カソード吊手c3を鉛直に矯正でき、カソード吊手c3の湾曲形状をより一律に矯正できる。これより、カソード板c1の懸垂性をより向上できる。
【0059】
(第4実施形態)
支持部材40に対する一対の挟み板20、20のそれぞれの回動角度を同調させる同調機構は、第3実施形態に係るカソード吊手矯正具3のように歯車を用いた機構に限られず、種々の機構を採用することができる。
本発明の第4実施形態に係るカソード吊手矯正具4は、上記同調機構が、パンタグラフ機構で実現された実施形態である。
【0060】
図14および図15に示すように、本実施形態における同調機構60は、一端が一方の挟み板20に回動可能に取り付けられた第1リンク61と、一端が他方の挟み板20に回動可能に取り付けられた第2リンク62とを備えている。第1リンク61および第2リンク62の他端同士はピン63を介して互いに回動可能に連結されている。また、ピン63は、連結軸10の軸心の真上に位置している。一対の挟み板20、20と、第1リンク61および第2リンク62とでパンタグラフ機構が形成されており、ピン63は、一対の挟み板20、20の回動にともない上下動し、連結軸10に接近離間する。
【0061】
ピン63は、一方の支持部材40までのびており、支持部材40に形成された縦長の長孔42に挿入されている。ピン63は、常に連結軸10の軸心の真上に位置したまま、一対の挟み板20、20の回動にともない連結軸10に対して上下動するのみであるので、連結軸10とピン63が挿入された支持部材40は、常に長孔42が鉛直となるように姿勢が維持される。また、2つの支持部材40は、連結軸10の両端に回動不可能に固定されており、一方の支持部材40の姿勢が決まることで、他方の姿勢も決まるようになっている。そのため、同調機構60により、支持部材40に対して一対の挟み板20、20のそれぞれの回動角度を同調させることができる。
【0062】
本実施形態においても、第3実施形態に係るカソード吊手矯正具3と同様の効果を奏することができる。
【0063】
(第5実施形態)
図16図17および図18に示すように、本発明の第5実施形態に係るカソード吊手矯正具5は、一対の挟み板20、20を2組備えた構成である。より詳細には、カソード吊手矯正具5は、1本の連結軸10を備えており、その連結軸10に2組の挟み板20、20が取り付けられている。各組の挟み板20、20は連結軸10を中心として互いに回動可能に連結されており、2組の挟み板20、20は回動軸が同軸となっている。また、2組の挟み板20、20は、カソードCの2本のカソード吊手c3、c3と同間隔に配置されている。
【0064】
各持ち手22は逆U字形に形成されており、その一端は一方の組の挟み板20に固定され、他端は他方の組の挟み板20に固定されている。すなわち、2組の挟み板20、20は持ち手22、22が共通となっている。そのため、作業員が持ち手22、22を持って開閉することで、2組の挟み板20、20は互いに同期して回動するよう構成されている。
【0065】
支持部材40は、2組の挟み板20、20を挟んで2つ設けられている。本実施形態の支持部材40は、逆U字形に形成された剛性を有する線材であり、その上部が連結軸10の両端に溶接されている。支持部材40の開口幅はカソードビームc2の厚さと同じか、若干大きい幅寸法を有しており、カソードビームc2を挿入可能となっている。
【0066】
図19に示すように、カソード吊手矯正具5は一対の挟み部材20、20を2組備えるので、カソードCの上からカソード吊手矯正具5を降ろし、支持部材40をカソードビームc2に載置すると、2本のカソード吊手c3、c3のそれぞれに一対の挟み板20、20が位置する。そして、持ち手22、22を開くと、2組の挟み部材20、20の開口端部が同期して閉じ、2本のカソード吊手c3、c3を同時に矯正できる。そのため、2本のカソード吊手c3、c3をズレなく一律に矯正できる。その結果、カソード板c1がカソードビームc2に対してより平行となり、カソード板c1の懸垂性をより向上できる。
【0067】
なお、一のカソード吊手矯正具5に一対の挟み板20、20を3組以上設けてもよい。一般に、1枚のカソードCには2〜4枚のカソード吊手c3が設けられている。カソード吊手矯正具5に、複数組の挟み板20、20を設ければ、1枚のカソードCに設けられた複数のカソード吊手c3を、一度に矯正することができる。
【0068】
(その他の実施形態)
一対の当接板30、30の構成は、上記実施形態における構成に限られず、種々の構成を採用することができる。例えば、図20(a)に示すように、一方の挟み板20に取り付けられる当接板30を上下複数枚からなる構成としてもよい。この場合には、挟み板20に対する各当接板30の位置や角度を調節することで、カソード吊手c3の矯正後の形状を細かく調節することができる。
【0069】
また、図20(b)に示すように、当接板30の上面を厚み方向に傾斜した形状としてもよい。このようにすれば、カソード吊手c3のカソードビームc2の下側部分の傾斜角度を、当接板30の上面の傾斜角度に従って、好ましい角度に矯正できる。
【0070】
また、図20(c)に示すように、当接板30と挟み板20とを一体の部材として構成してもよい。この場合において、図20(d)に示すように、当接板30の上面を厚み方向に傾斜した形状としてもよい。
【0071】
さらに、一対の挟み板20、20の開閉端部を閉じた状態において、挟み板20とカソードビームc2との間に隙間があくように構成してもよいし、隙間がなく、一対の挟み板20、20でカソード吊手c3をカソードビームc2とともに表裏から挟むように構成してもよい。この場合には、カソード吊手c3の全体を挟み板20および当接板30で囲まれた形状に矯正するようになる。
【0072】
上記実施形態では、一対の挟み板20、20の上端同士が接触する構成とすることにより、一対の挟み板20、20の開閉端部の最大開き幅Lを所定の寸法に制限しているが、最大開き幅Lの制限は他の構成により実現してもよく、例えば以下の構成を採用してもよい。
【0073】
図21に示すように、第1実施形態に係るカソード吊手矯正具1において、連結軸10に挿入される3つの円管11、12、13として厚肉のものを採用する。図21(a)に示すように、円管11、13は、その肉厚部分の一部が一方(図21における左側)の挟み板20の形状に切削され、その切削面11a、13aと一方の挟み板20とが溶接されている。円管11、13は、他方(図21における右側)の挟み板20と対向する肉厚部分が切削されており当接面11b、13bとなっている。一方、図21(b)に示すように、円管12は、切削面12aと他方(図21における右側)の挟み板20とが溶接されており、一方(図21における左側)の挟み板20と対向する肉厚部分が切削されており当接面12bとなっている。
【0074】
一対の挟み板20、20の開閉端部を開いた状態では、当接面11b、12b、13bの上部と、それに対向する挟み板20とが接触し、一対の挟み板20、20の回動を規制する。これにより、開閉端部の最大開き幅Lが所定の寸法に制限されている。
【0075】
なお、円管11、12、13の当接面11b、12b、13bの下部と、それに対向する挟み板20との間は隙間が形成されており、一対の挟み板20、20の開閉端部を閉じる際に干渉しないように構成されている。
【実施例】
【0076】
銅の電解精製設備において、上記第1実施形態に係るカソード吊手矯正具1の効果を試験した。本電解精製設備における電解槽は、長さ3,000mm、幅1,260mm、深さ約1,300mmである。アノードの寸法は、縦1,015mm、横1,015mm、厚さ40mmであり、カソード板の寸法は、縦1,070mm、横1,050mm、通電前の厚さ0.7mmである。
【0077】
試験には、149槽の電解槽を用いた。カソードは、1槽当たり26枚であり、合計で3,874枚である。これらのカソードを2つのグループに分け、一方のグループ(実施例)のカソード(1937枚)については、カソード吊手をカソード吊手矯正具1で矯正した。他方のグループ(比較例)のカソード(1937枚)については、カソード吊手矯正具1を用いた矯正を行わなかった。
【0078】
実施例および比較例のグループから2枚ずつ抜き出して、図22に示す位置でカソード吊手c3の形状を測定した。すなわち、側面視においてカソード板c1の延長線を中心として、カソード吊手c3の左側への突出長さL1、および右側への突出長さL2を測定した。また、カソード板c1の延長線を中心として、カソード吊手c3のカソードビームc2より下側部分の左側の傾斜角度θ1、および右側の傾斜角度θ2を測定した。
【0079】
図22(a)に示すように、左右の突出長さL1、L2が等しいほど、カソード板c1がカソードビームc2の軸心の真下に位置していることになる。また、左右の傾斜角度θ1、θ2が等しいほど、カソード板c1が鉛直下向きに垂れ下がっていることになる。すなわち、左右の突出長さL1、L2が等しく、左右の傾斜角度θ1、θ2が等しいほど、カソード板c1の懸垂性が高いということになる。これに対して、図22(b)に示すように、左右の突出長さL1、L2が異なる場合には、カソード板c1がカソードビームc2の軸心からずれていることになる。また、図22(c)に示すように、左右の傾斜角度θ1、θ2が異なる場合には、カソード板c1が鉛直方向に対して斜めになっていることになる。
【0080】
測定の結果、表1に示すように、実施例はいずれも、比較例に比べて左右の突出長さL1とL2の差が小さく、左右の傾斜角度θ1とθ2の差が小さいことが分かった。これより、カソード吊手矯正具1でカソード吊手c3を矯正することで、カソード板c1の懸垂性を向上できることが確認された。
【表1】
【0081】
電解槽に、銅濃度48g/L、遊離硫酸濃度190g/Lの電解液を流速18L/minで通液しつつ、アノード、カソード間に電流密度300A/m2の電流を流して電解精製を行った。通電中は、8時間ごとにショートの発生を監視し、ショートが発生している場合には、針状電析を除去するなどして修正を行った。
【0082】
216時間の通電後、引き上げたカソードの外観を目視で観察し、表面に付着した金属粒の状態を確認した。表2に示すように、実施例は、比較例に比べて金属粒の発生が少ないことが分かる。これにより、カソード吊手矯正具1でカソード吊手c3を矯正することで、金属粒の発生を抑制できることが確認された。
【表2】
【0083】
また、表3に示すように、実施例は、比較例に比べてショート率が低いことが分かる。ここで、ショート率とは、8時間ごとの監視で発見したショートの述べ枚数(85枚)を、カソードの述べ枚数(1937枚×9日)で除算した値である(85/(1937×9)=0.49%)。これにより、カソード吊手矯正具1でカソード吊手c3を矯正することで、ショートの発生を抑制できることが確認された。
【表3】
【符号の説明】
【0084】
1〜5 カソード吊手矯正具
10 連結軸
20 挟み板
22 持ち手
30 当接板
40 支持部材
41 凹溝
C カソード
c1 カソード板
c2 カソードビーム
c3 カソード吊手
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23