【実施例】
【0072】
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
実施例1〜4では、一次粒子の平均粒径の目標を0.75μmとして受槽内の酸化還元電位(ORP)を制御して銀粉を得た。
【0074】
(実施例1)
実施例1では、38℃の温水ジャケットで加熱した槽中において液温32℃に保持した25質量%アンモニア水540Lに、塩化銀45.00kg(住友金属鉱山株式会社製、水分率15.01%)を撹拌しながら投入して銀溶液を作製した。消泡剤(株式会社アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液374mLを作製した銀溶液に添加して、得られた銀溶液を温浴中において32℃に保持した。
【0075】
次に、分散剤のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA205)1.76kgを36℃の純水147Lに溶解し、塩化銀53.4g(住友金属鉱山株式会社製、水分率12.41%)をアンモニア水2.18Lに溶解した銀溶液を加え、さらに純水24.5Lにヒドラジン10.1mlを加えた核用銀液を添加して粒径80nmの銀核溶液を作製した。この溶液に還元剤のアスコルビン酸20.10kg(関東化学株式会社製、試薬)を添加し、純水を加えて液量を220Lとして還元剤溶液とし、温度を36℃に調整した。
【0076】
次に、銀溶液と還元剤溶液を、スムーズフローポンプ(株式会社タクミナ製APL−5、BPL−2)を使用して、銀溶液2.7L/分、還元剤溶液を0.9L/分で反応管に供給を開始した。反応管としては、銀溶液の供給方向に対する還元剤溶液の供給方向を同一としたガラス製の同芯管(銀溶液供給管:内径10.0mm、還元剤溶液供給管:内径3.6mm、混合管長:100mm)を用いて、両液を混合撹拌した。この反応管には、内径12mm長さ10mの軟質塩化ビニル樹脂製チューブを反応管出口側に接続した。チューブの出口、即ち流路の出口には、受槽を設けた。
【0077】
そして、チューブ(流路)出口と受槽内でORPを測定しながら受槽内のORPが−555mVになるように銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整し、チューブから排出された反応液(銀粒子スラリー)を撹拌しながら受槽で保持した。このときの還元速度は、銀量で144.0g/分であり、反応液中の銀濃度は40.0g/Lとなる。また、分散剤のポリビニルアルコールの量は、混合時の反応液中の銀量に対して5.0質量%となる。還元中のチューブ(流路)出口のORPは、−73〜−78mVであり、受槽内ORPは−558〜−553mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.54であった。銀溶液と還元剤溶液の供給が終了した後受槽内での攪拌を60分継続した。
【0078】
撹拌終了後の銀粒子スラリーを、フィルタープレス機を使用して全量濾過し、銀粒子を固液分離した。
【0079】
続いて、回収した銀粒子を0.2%の水酸化ナトリウム水溶液343L中に投入し、15分間撹拌した後、フィルタープレス機で濾過して回収した。水酸化ナトリウム水溶液への投入、撹拌、及び濾過からなる操作を更に2回繰返した後、回収した銀粒子を純水343L中に投入し、撹拌及び濾過からなる操作を行った。濾過後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で15時間乾燥し、解砕して銀粉を得た。
【0080】
得られた銀粉を走査電子顕微鏡(SEM)のより観察したところ、SEM観察による平均粒径は0.74μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値(表1中の分散度)は0.20であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は7.6mL/100gであった。
【0081】
さらに、銀粉の塩素含有量について測定した。塩素含有量の測定は、得られた銀粉を硝酸で分解し、塩化銀をろ過分離した後に還元して遊離した塩化物イオンをイオンクロマトグラフ装置(日本ダイオネクス株式会社製、ICS−1000)を用いて分析したところ、塩素含有量は26質量ppmであった。
【0082】
銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D
50は、1.7μmであり、タップ密度(T.D)は、5.4g/mlであった。
【0083】
得られた銀粉を80質量%、エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、819)を20質量%となるように秤量し、自公転ミキサー(株式会社シンキー製、ARE−250)を用いて、420Gの遠心力で混練してペースト化した後、さらに3本ロールミル(ビューラー株式会社製、3本ロールミル SDY−300)を用いて混練して評価を行った。3本ロールミルによる混練中、目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
【0084】
(実施例2)
実施例2では、受槽内のORPが−533mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様に銀粉を製造した。還元中のチューブ(流路)出口ORPは−69〜−72mVであり、受槽内ORPは−535〜−531mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.36であった。
【0085】
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は0.74μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.23であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は8.5mL/100gであった。
【0086】
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は25質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D
50は、2.0μmであり、タップ密度は、5.1g/mlであった。
【0087】
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
【0088】
(実施例3)
実施例3では、受槽内のORPが−495mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様に銀粉を製造した。還元中のチューブ(流路)出口ORPは−54〜−48mVであり、受槽内のORPは−499〜−493mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.29であった。
【0089】
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は0.71μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.18であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は9.4mL/100gであった。
【0090】
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は33質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D
50は、2.2μmであり、タップ密度は、5.0g/mlであった。
【0091】
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
【0092】
(実施例4)
実施例4では、受槽内のORPが−545mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様に銀粉を製造した。還元中のチューブ出口のORPは、−76〜−72mVであり、受槽内のORPは、−547〜−541mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.42であった。
【0093】
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は、0.80μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.23であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は8.1mL/100gであった。
【0094】
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は26質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D
50は、2.1μmであり、タップ密度は、5.3g/mlである。
【0095】
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
【0096】
次に、実施例5、6では、銀核作製条件を変更して一次粒子の平均粒径の目標を0.4μmとし、チューブ(流路)出口のORPを制御して銀粉を得た。銀核作製は、分散剤のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、PVA205)1.76kgを36℃の純水147Lに溶解し、塩化銀50.1g(住友金属鉱山株式会社製、水分率12.41%)をアンモニア水1.13Lに溶解した銀溶液を加え、さらに純水24.5Lにヒドラジン11.4mlを加えた核用銀液を添加して粒径40nmの銀核溶液を作製した。この溶液に還元剤のアスコルビン酸20.10kg(関東化学株式会社製、試薬)と純水を加えて液量を220Lとして還元剤溶液とし、温度を36℃に調整した。
【0097】
(実施例5)
実施例5では、チューブ(流路)出口のORPが−67mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様に銀粉を製造した。還元中のチューブ(流路)出口のORPは、−69〜−65mVであり、受槽内のORPは、−541〜−533mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.37であった。
【0098】
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は0.37μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.23であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は9.7mL/100gであった。
【0099】
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は、14質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D
50は、2.1μmであり、タップ密度は、4.5g/mlである。
【0100】
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
【0101】
(実施例6)
実施例6では、チューブ(流路)出口のORPが−86mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様にした。還元中のチューブ(流路)出口のORPは、−88〜−82mVであり、受槽内のORPは、−550〜−543mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.47であった。
【0102】
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は0.46μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.19であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は8.3mL/100gであった。
【0103】
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は26質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D
50は、1.3μmであり、タップ密度は、5.0g/mlであった。
【0104】
また、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
【0105】
実施例7、8では、実施例1と同様に銀核を作製しその溶液から9.0Lを分取し、そこに純水を加え、アスコルビン酸とPVAをそれぞれの濃度が実施例1と同じになるように添加して還元剤溶液220Lを準備し、一次粒子の平均粒径の目標を1.9μmとしてチューブ出口のORPを制御して銀粉を得た。
【0106】
(実施例7)
実施例7では、チューブ(流路)出口のORPが−69mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様にした。還元中のチューブ出口ORPは−72〜−66mVであり、受槽内ORPは−568〜−561mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.41であった。
【0107】
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は1.83μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.25であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は7.0mL/100gであった。
【0108】
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は12質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D
50は、3.7μmであり、タップ密度は、5.6g/mlであった。
【0109】
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
【0110】
(実施例8)
実施例8では、チューブ(流路)出口のORPが−90mVになるよう銀溶液ポンプと還元剤溶液ポンプの流量を調整したこと以外は実施例1と同様に銀粉を製造した。還元中のチューブ(流路)出口のORPは、−93〜−88mVであり、受槽内のORPは、−591〜−583mVであった。また、還元終了後、用意した液量から残液量を差し引いて求めた送液量から計算される還元当量は、1.28であった。
【0111】
得られた銀粉のSEM観察による平均粒径は1.92μmであり、粒径の標準偏差を平均粒径で除した値が0.18であり、ペースト用銀粉として良好な粒度分布を有していることが確認された。また、JIS−K6217−4法で測定したフタル酸ジブチルの吸収量は4.3mL/100gであった。
【0112】
さらに、銀粉の塩素含有量について分析したところ、塩素含有量は11質量ppmであった。さらにまた、銀粉のレーザー回折錯乱法で得られる体積基準の平均粒径D
50は、2.7μmであり、タップ密度は、5.3g/mlであった。
【0113】
そして、ペースト化による混練性評価を行ったところ、3本ロールミルによる混練中に目視によるフレークの発生は認められず、混練性は良好であった。
【0114】
実施例1〜8の製造条件と得られた銀粉の特性を表1にまとめて示す。
【0115】
【表1】
【0116】
また、実施例1〜8について、受槽のORPとフタル酸ジブチルの吸収量の関係を
図1に示す。
図1に示す結果から、受槽のORPが高くなると、フタル酸ジブチルの吸収量が多くなり、受槽のORPとフタル酸ジブチルの吸収量に一定の関係が得られた。この関係からORPを制御することにより吸収量、すなわち凝集度を制御することが可能であることがわかる。
【0117】
実施例1〜8について、流路出口のORPとフタル酸ジブチルの吸収量の関係を
図2に示す。
図2に示す結果から、流路出口のORPが高くなると、フタル酸ジブチルの吸収量が多くなり、特に同じ粒径同士の比較において、流路出口のORPとフタル酸ジブチルの吸収量に一定の関係が得られた。すなわち、流路出口では還元反応が完全に終了していないため、平均粒径が異なるとORPの差が大きくなるが、同じ平均粒径同士の比較ではORPとフタル酸ジブチルの吸収量に一定の関係が得られ、この関係からORPを制御することにより吸収量、すなわち凝集度を制御することが可能であることがわかる。