特許第6115451号(P6115451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許6115451半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115451
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20170410BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20170410BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   C08G59/20
   H01L23/30 R
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-235798(P2013-235798)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-93971(P2015-93971A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】長田 将一
(72)【発明者】
【氏名】横田 竜平
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−284461(JP,A)
【文献】 特開2003−192876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/20
H01L 23/29
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤としてフェノール樹脂:エポキシ樹脂中に含まれるエポキシ基1モルに対して、フェノール樹脂中に含まれるフェノール性水酸基のモル比が0.5〜1.5の範囲
(C)無機質充填剤:(A),(B)成分の総量100質量部に対し、400〜1,200質量部
(D)水酸化ビスマス又は次炭酸ビスマス:(A),(B)成分の総量100質量部に対し、3〜10質量部
(E)下記平均組成式(1)で示されるホスファゼン化合物:(A),(B)成分の総量100質量部に対し、1〜10質量部
【化1】
[式中、Xは単結合、又はCH2、C(CH32、SO2、S、O、及びO(CO)Oから選ばれる基であり、d,e,nは0≦d≦0.25n、0≦e<2n、2d+e=2n、3≦n≦1,000を満たす数である。]
を必須成分とし、臭素化物、赤リン、リン酸エステル及びアンチモン化合物を実質的に含まないことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物
【請求項2】
(A)エポキシ樹脂のエポキシ当量が210未満であることを特徴とする請求項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
(A)エポキシ樹脂が、下記一般式(2)で示されるエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化2】
(式中、aは1〜10の整数である。)
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止した半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期高温放置時の信頼性に優れ、Cuリードフレーム(LF)やAgメッキ部との剥離が少なく、かつ、Cuワイヤーの腐食やマイグレーションが発生しない半導体封止用エポキシ樹脂組成物、及びこの硬化物で封止された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策、化石燃料からのエネルギー転換などの地球レベルでの環境対策が進められており、自動車はハイブリット車や電気自動車の生産台数が増えてきている。また中国やインドなど新興国の家庭用電気機器も省エネルギー対策としてインバーターモータ搭載機種が増えてきている。
【0003】
上記ハイブリッド車や電気自動車、インバータには、交流を直流、直流を交流に変換したり、電圧を変圧する役割を担うパワー半導体が重要となる。しかしながら、長年半導体として使用されてきたシリコン(Si)は性能限界に近づいており、飛躍的な性能向上を期待することが困難になってきた。そこで、炭化ケイ素(SiC),チッ化ガリウム(GaN),ダイヤモンドなどの材料を使った次世代型パワー半導体に注目が集まるようになってきている。例えば、電力変換の際のロスを減らすためにパワーMOSFETの低抵抗化が求められているが、現在主流のSi−MOSFETでは大幅な低抵抗化が難しい。そこでバンドギャップが広い(ワイドギャップ)半導体であるSiCを使った低損失パワーMOSFETの開発が進んでいる。SiCやGaNは、バンドギャップがSiの約3倍、破壊電界強度が10倍以上という優れた特性を持っている。また高温動作(SiCでは650℃動作の報告がある)、高い熱伝導度(SiCはCu並み)、大きな飽和電子ドリフト速度などの特徴もある。この結果、SiCやGaNを使えばパワー半導体のオン抵抗を下げ、電力変換回路の電力損失を大幅に削減することが可能である。しかし、素子上の温度が175℃以上に発熱することが予想されることから、封止剤をはじめ周辺材料には耐熱特性が求められている。
【0004】
一方、パワー半導体は、一般的にエポキシ樹脂によるトランスファー成形、シリコーンゲルによるポッティング封止により保護されている。最近は小型、軽量化の観点(特に自動車用途)からエポキシ樹脂によるトランスファー成形が主流になりつつある。エポキシ樹脂は成形性、基材との密着性、機械的強度に優れるバランスの取れた熱硬化樹脂であるが、175℃を超える温度領域での信頼性特性は疑問視されている。実際既存の封止材料で封止した半導体装置を200℃、500時間で高温放置したところ、封止材料にクラックが入った事例、封止材料とAgメッキダイパッド部界面にて剥離が発生した事例、Cuワイヤー/Alパッドの合金層にクラックが入った事例等、信頼性に影響がある事例が発生している。
なお、本発明に関連する従来技術として、下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IEEE Transactions on Components and packing Technology, Vol.26, No.2, 367-374
【非特許文献2】SEMICON Singapore 2005, 35-43
【非特許文献3】Journal of Materials Science(2008)43, 6038-6048
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、175〜250℃の高温に長期保管した場合でも、CuLFやAgメッキとの密着性に優れ、Cuワイヤー、Cuワイヤー/Alパッドの接合部の断線、腐食がない信頼性に優れた半導体装置となり得る半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)無機質充填剤、(D)水酸化ビスマス又は次炭酸ビスマス、及び(E)下記平均組成式(1)で示されるホスファゼン化合物を必須成分とし、臭素化物、赤リン、リン酸エステル及びアンチモン化合物を実質的に含まない半導体封止用エポキシ樹脂組成物が、高温に長期保管した際の信頼性に優れ、かつ難燃性、耐湿信頼性に優れる硬化物を得ることができるものであり、該組成物の硬化物で封止した半導体装置が、難燃性、高温放置信頼性に優れることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は、下記に示す半導体封止用エポキシ樹脂組成物及び半導体装置を提供する。
〔1〕
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤としてフェノール樹脂:エポキシ樹脂中に含まれるエポキシ基1モルに対して、フェノール樹脂中に含まれるフェノール性水酸基のモル比が0.5〜1.5の範囲
(C)無機質充填剤:(A),(B)成分の総量100質量部に対し、400〜1,200質量部
(D)水酸化ビスマス又は次炭酸ビスマス:(A),(B)成分の総量100質量部に対し、3〜10質量部
(E)下記平均組成式(1)で示されるホスファゼン化合物:(A),(B)成分の総量100質量部に対し、1〜10質量部
【化1】
[式中、Xは単結合、又はCH2、C(CH32、SO2、S、O、及びO(CO)Oから選ばれる基であり、d,e,nは0≦d≦0.25n、0≦e<2n、2d+e=2n、3≦n≦1,000を満たす数である。]
を必須成分とし、臭素化物、赤リン、リン酸エステル及びアンチモン化合物を実質的に含まないことを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物
〔2
(A)エポキシ樹脂のエポキシ当量が210未満であることを特徴とする〔1〕に記載のエポキシ樹脂組成物。

(A)エポキシ樹脂が、下記一般式(2)で示されるエポキシ樹脂であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化2】
(式中、aは1〜10の整数である。)

〔1〕〜〔〕のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止した半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、成形性に優れるとともに、難燃性及び高温放置信頼性に優れた硬化物を得ることができる。しかも、臭素化エポキシ樹脂等の臭素化物、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物をエポキシ樹脂組成物中に含有しないので、人体、環境に対する悪影響もないものである。更に、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、赤リン、リン酸エステル等のリン系難燃剤を添加したエポキシ樹脂組成物と比較して、熱水抽出特性に優れ、耐湿信頼性に特に優れる硬化物を得ることができる。また、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置は、難燃性、高温放置信頼性に優れたものであり、産業上特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、
(C)無機質充填剤、
(D)水酸化ビスマス又は次炭酸ビスマス、
(E)下記平均組成式(1)で示されるホスファゼン化合物
【化3】
[式中、Xは単結合、又はCH2、C(CH32、SO2、S、O、及びO(CO)Oから選ばれる基であり、d,e,nは0≦d≦0.25n、0≦e<2n、2d+e=2n、3≦n≦1,000を満たす数である。]
を必須成分とし、臭素化物、赤リン、リン酸エステル及びアンチモン化合物を実質的に含まないものである。
ここで、実質的に含まないとは、組成物中に意図的に添加していないという意味で、工業的にはコンタミで混入する可能性を許容するものである。
【0011】
本発明のエポキシ樹脂組成物を構成する(A)エポキシ樹脂は、特に限定されない。一般的なエポキシ樹脂としては、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格含有アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、スチルベン型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を併用することができる。本発明においては、臭素化エポキシ樹脂は配合されない。
【0012】
これらのうち、高温での絶縁性、機械的強度が要求される半導体装置に関しては、一般的にガラス転移温度が高い硬化物が好まれており、このような硬化物としては、架橋密度が高く、エポキシ基濃度が高い、すなわちエポキシ当量が低いエポキシ樹脂が好適に使用される。エポキシ当量として、好ましくは210未満、更に好ましくは170未満である。下記一般式(2)で示されるトリフェノールアルカン型はエポキシ当量168である。
【0013】
【化4】
(式中、aは1〜10の整数である。)
【0014】
上記エポキシ樹脂は、加水分解性塩素が1,000ppm以下、特に500ppm以下であり、ナトリウム及びカリウムはそれぞれ10ppm以下の含有量とすることが好ましい。加水分解性塩素が1,000ppmを超えたり、ナトリウム又はカリウムが10ppmを超えたりする場合は、長時間高温高湿下に半導体装置を放置すると、耐湿性が劣化する場合がある。
【0015】
本発明に用いる(B)硬化剤も特に限定されるものではない。一般的な硬化剤としては、フェノール樹脂が好ましく、具体的には、フェノールノボラック樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、トリフェノールアルカン型フェノール樹脂、ビフェニル骨格含有アラルキル型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、脂環式フェノール樹脂、複素環型フェノール樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂等のビスフェノール型フェノール樹脂などが挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0016】
上記硬化剤は、エポキシ樹脂と同様に、ナトリウム及びカリウムの含有量をそれぞれ10ppm以下とすることが好ましい。ナトリウム又はカリウムが10ppmを超える場合は、長時間高温高湿下に半導体装置を放置すると、耐湿性が劣化する場合がある。
【0017】
ここで、エポキシ樹脂、硬化剤の配合量は特に制限されないが、エポキシ樹脂中に含まれるエポキシ基1モルに対して、硬化剤に含まれるフェノール性水酸基のモル比が0.5〜1.5、特に0.7〜1.2の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、本発明において、エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を促進させるため、硬化促進剤を用いることが好ましい。この硬化促進剤は、硬化反応を促進させるものであれば特に制限はなく、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンとベンゾキノンの付加物などのリン系化合物、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7などの第3級アミン化合物、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物等を使用することができる。
【0019】
硬化促進剤の配合量は有効量であるが、上記リン系化合物、第3級アミン化合物、イミダゾール化合物等のエポキシ樹脂と硬化剤(フェノール樹脂)との硬化反応促進用の硬化促進剤は、(A),(B)成分の総量100質量部に対し、0.1〜5質量部、特に0.5〜2質量部とすることが好ましい。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物中に配合される(C)無機質充填剤としては、通常エポキシ樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化チタン、ガラス繊維等が挙げられる。
【0021】
これら無機質充填剤の平均粒径や形状及び無機質充填剤の充填量は、特に限定されないが、難燃性を高めるためには、エポキシ樹脂組成物中に成形性を損なわない範囲で可能な限り多量に充填させることが好ましい。この場合、無機質充填剤の平均粒径、形状として、平均粒径5〜30μmの球状の溶融シリカが特に好ましく、また、(C)成分の無機質充填剤の充填量は、(A),(B)成分の総量100質量部に対し、400〜1,200質量部、特に500〜1,000質量部とすることが好ましい。
【0022】
なお、無機質充填剤は、樹脂と無機質充填剤との結合強度を強くするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤で表面処理したものを使用することが好ましい。このようなカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランなどのシランカップリング剤の1種又は2種以上を用いることが好ましい。ここで表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については、特に制限されるものではない。
【0023】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、(D)水酸化ビスマス又は次炭酸ビスマスを使用するものである。
これまでにビスマス化合物の効果としては、リン酸エステル難燃材と併用することにより、リン酸エステル由来の陰イオンを交換する無機イオン交換体としての効果(特開2003−147169号公報)、レーザーマーキング性改良効果(特開平6−84601号公報)、臭素化エポキシ樹脂との組み合わせ、高温雰囲気下でのハロゲン化ガストラップ効果(特開平11−240937号公報)などが知られている。
【0024】
本発明は、ビスマス化合物のうち、水酸化ビスマス、次炭酸ビスマスだけがハロゲン以外の有機酸を補足し、かつ腐食性の陰イオンを放出しないことから長期高温保管下でもCuLFやAgメッキとの密着性を維持し、Cuワイヤー、Cuワイヤー/Alパッドの接合部の断線、腐食等を引き起こさないことを見出した。エポキシ樹脂の中でもエポキシ当量が低い樹脂、例えば上記一般式(2)で示されるトリフェノールアルカン型エポキシ樹脂は、熱分解による有機酸の発生の濃度が高いので水酸化ビスマス、次炭酸ビスマスの併用が有効である。
【0025】
(D)水酸化ビスマス又は次炭酸ビスマスの添加量としては、(A),(B)成分の総量100質量部に対して3〜10質量部が望ましく、3〜8質量部がより望ましい。3質量部未満だと、特性が十分発揮されない場合がある。10質量部を超えると流動性低下や硬化不良を引き起こす可能性がある。
【0026】
なお、水酸化ビスマス、次炭酸ビスマス中の不純物として、硝酸イオンは10質量%以下が好ましい。
【0027】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、(E)下記平均組成式(1)で示されるホスファゼン化合物を使用するものである。
【化5】
[式中、Xは単結合、又はCH2、C(CH32、SO2、S、O、及びO(CO)Oから選ばれる基であり、d,e,nは0≦d≦0.25n、0≦e<2n、2d+e=2n、3≦n≦1,000を満たす数である。]
【0028】
上記式(1)で示されるホスファゼン化合物を添加した本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、赤リン、リン酸エステル等のリン系難燃剤を添加したエポキシ樹脂組成物と比較して、熱水抽出特性に優れ、耐湿信頼性に特に優れる硬化物を得ることができる。
【0029】
ここで、式(1)において、nは3〜1,000であるが、より好ましい範囲は3〜10である。合成上特に好ましくはn=3である。
【0030】
d,eの比率は0≦d≦0.25n、0≦e<2n、2d+e=2nである。0.25n<dでは、ホスファゼン化合物の分子間架橋が多いため、軟化点が高くなり、エポキシ樹脂中に相溶しにくく、期待される難燃効果が得られない。eの比率は、0≦e<2nであるが、難燃性を高いレベルで両立するためには、1.5n≦e≦1.97nであることが望ましい。
【0031】
なお、Xが単結合である場合、
【化6】
で表される。
【0032】
上記ホスファゼン化合物の添加量は、(A),(B)成分の総量100質量部に対し、1〜10質量部、特に3〜7質量部が好ましい。添加量が1質量部未満では十分な難燃効果が得られない場合があり、また10質量部を超えると、流動性、ガラス転移温度の低下を引き起こす場合がある。
【0033】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、シリコーン系等の低応力剤、カルナバワックス、高級脂肪酸、合成ワックス等のワックス類、カーボンブラック等の着色剤、ハイドロタルサイト等の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加配合することができる。
【0034】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、例えば、エポキシ樹脂、硬化剤、無機質充填剤、水酸化ビスマス又は次炭酸ビスマス、ホスファゼン化合物及びその他の添加物を所定の組成比で配合し、これをミキサー等によって十分均一に混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等による溶融混合処理を行い、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕して成形材料とすることができる。
【0035】
このようにして得られる本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、各種の半導体装置の封止用として有効に利用でき、この場合、封止の最も一般的な方法としては、低圧トランスファー成形法が挙げられる。なお、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の成形温度は150〜180℃で30〜180秒、後硬化は150〜180℃で2〜16時間行うことが望ましい。
【実施例】
【0036】
以下、エポキシ樹脂組成物の実施例と比較例を示し、本発明を具体的に示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0037】
[合成例A]
窒素雰囲気下、0℃で水素化ナトリウム(NaOH)4.8g(119mmol)をテトラヒドロフラン(THF)50mlに懸濁させ、そこにフェノール10.2g(108mmol)、4,4’−スルホニルジフェノール0.45g(1.8mmol)のTHF50ml溶液を滴下した。30分攪拌後、ヘキサクロロトリホスファゼン12.5g(36.0mmol)のTHF50ml溶液を滴下し、5時間加熱還流を行った。そこに、別途0℃で水素化ナトリウム5.2g(130mmol)をTHF50mlに懸濁させ、そこにフェノール11.2g(119mmol)のTHF50ml溶液を滴下し、更に19時間加熱還流した。溶媒を減圧留去後、クロロベンゼンを加えて溶解し、5質量%NaOH水溶液200ml×2、5質量%硫酸水溶液200ml×2、5質量%炭酸水素ナトリウム水溶液200ml×2、水200ml×2で抽出を行った。溶媒を減圧留去し、下記式で示される黄褐色結晶のホスファゼン化合物A(リン原子量:13.36質量%)を20.4g得た。
【化7】
【0038】
[実施例1〜5、比較例1〜7]
表1,2に示す成分を熱2本ロールにて均一に溶融混合し、冷却、粉砕して半導体封止用エポキシ樹脂組成物を得た。これらの組成物を用いて、次の(i)〜(iv)の諸特性を測定し、結果を表1,2に併記した。
【0039】
(i)難燃性
UL−94規格に基づき、1/16インチ厚の板の難燃性を調べた。なお、1/16インチ厚の板は、温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間120秒の条件で成形、180℃で4時間ポストキュアーすることによって調製した。
【0040】
(ii)高温保管Cu/Agメッキリードフレームとの密着性
100pin−QFPフレーム(Cu合金 C7025,ダイパッド部Agメッキ)にエポキシ樹脂組成物を温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間120秒の条件で成形、180℃で4時間ポストキュアーした。パッケージサイズ14×20×2.7mm。このパッケージ20個を、250℃雰囲気中96時間保管後に超音波探傷装置を用いて剥離の有無を調べた。20%以上の面積で剥離が見られるものを不良とし、不良個数を調べた。
【0041】
(iii)Cuワイヤー高温信頼性
アルミニウム配線を形成した7×7mmの大きさのシリコンチップを100pin−QFPフレーム(Cu合金 C7025,ダイパッド部Agメッキ)に接着し、更にチップ表面のアルミニウム電極とリードフレームとを25μmφのCu線でワイヤボンディングした後、これにエポキシ樹脂組成物を温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間120秒の条件で成形、180℃で4時間ポストキュアーした。パッケージサイズ14×20×2.7mm。このパッケージ20個を200℃雰囲気中1,000時間放置した後、抵抗値を測定し、初期値の10倍以上になったものを不良とし、不良数を調べた。
【0042】
(iv)Cuワイヤーパッケージ、耐湿信頼性
アルミニウム配線を形成した7×7mmの大きさのシリコンチップを100pin−QFPフレーム(Cu合金 C7025,ダイパッド部Agメッキ)に接着し、更にチップ表面のアルミニウム電極とリードフレームとを25μmφのCu線でワイヤボンディングした後、これにエポキシ樹脂組成物を温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間120秒の条件で成形、180℃で4時間ポストキュアーした。パッケージサイズ14×20×2.7mm。このパッケージ20個を130℃,85%RH雰囲気中1,000時間放置した後、抵抗値を測定し、初期値の10倍以上になったものを不良とし、不良数を調べた。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
エポキシ樹脂1:o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エピクロンN−665−EXP−S(DIC製、エポキシ当量200)
エポキシ樹脂2:下記式(2)で示されるエポキシ樹脂、EPPN−502H(日本化薬製、エポキシ当量168、加水分解性塩素量500ppm、ナトリウム量1ppm、カリウム量1ppm)
【化8】
(式中、aは1〜10の整数である。)
硬化剤:フェノールノボラック樹脂、DL−92(明和化成製、フェノール性水酸基当量110、ナトリウム量1ppm、カリウム量1ppm)
無機質充填剤:球状溶融シリカ(龍森製、平均粒径20μm)
水酸化ビスマス(日本化学産業製、硝酸イオン量6.0質量%)
次炭酸ビスマス(日本化学産業製、硝酸イオン量0.5質量%)
ホスファゼン化合物:合成例Aで得られたホスファゼン化合物A
酸化ビスマス(和光純薬製)
ビスマス系無機イオン交換体:IXE−500(東亞合成製)
三酸化アンチモン:PATOX CZ(日本精鉱製)
水酸化アルミニウム:ハイジライト320I(昭和電工製)
酸化アルミニウム:AO−41R(アドマテックス製)
ハイドロタルサイト:DHT−4A−2(協和化学製)
硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(北興化学製)
離型剤:カルナバワックス(日興ファインプロダクツ製)
カーボンブラック:デンカブラック(電気化学工業製)
シランカップリング剤1:KBM−403、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製)
シランカップリング剤2:KBM−803P、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製)
【0046】
表1,2の結果から明らかなように、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物で成形された半導体装置は、高温に長期保管した場合でも、CuLFやAgメッキとの密着性に優れ、Cuワイヤー、Cuワイヤー/Alパッドの接合部の断線がなく、信頼性に優れている。
しかも、Br化エポキシ樹脂等の臭素化物、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物を樹脂組成物中に含有しないので、人体・環境に対する悪影響がないものである。