(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115634
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】p型選択エミッタ形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/22 20060101AFI20170410BHJP
H01L 21/225 20060101ALI20170410BHJP
H01L 31/18 20060101ALI20170410BHJP
H01L 31/068 20120101ALI20170410BHJP
【FI】
H01L21/22 T
H01L21/225 R
H01L31/04 440
H01L31/06 300
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-521326(P2015-521326)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2014059448
(87)【国際公開番号】WO2014196253
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2015年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-119755(P2013-119755)
(32)【優先日】2013年6月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光人
(72)【発明者】
【氏名】白井 省三
(72)【発明者】
【氏名】大塚 寛之
【審査官】
桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−026343(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/090090(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/036760(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/020833(WO,A1)
【文献】
特開2007−194306(JP,A)
【文献】
特開2010−205965(JP,A)
【文献】
特開2014−103232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/22
H01L 21/225
H01L 31/068
H01L 31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の受光面側にポリシラザン膜又はポリシロキサン膜を形成する工程と、このポリシラザン膜又はポリシロキサン膜のうち高濃度拡散層を形成すべき領域を除去して当該領域に開口部を形成する工程と、次いで前記ポリシラザン膜又はポリシロキサン膜及び開口部を覆って第一のドーパント塗布剤を塗布し、更に800〜1100℃で熱処理して前記ポリシラザン膜又はポリシロキサン膜をシリコン含有無機薄膜とすると共に、該シリコン含有無機薄膜及び前記開口部から前記シリコン基板に第一のドーパントを拡散させ、前記開口部から第一のドーパントを拡散した部分に高濃度拡散層を、前記シリコン含有無機薄膜を通して第一のドーパントを拡散した部分に低濃度拡散層を形成する工程を含むことを特徴とするp型選択エミッタ形成方法。
【請求項2】
シリコン基板の受光面となる表面にポリシラザン溶液を塗布し、80〜200℃で加熱乾燥して前記ポリシラザン膜を形成する請求項1記載の選択エミッタ形成方法。
【請求項3】
シリコン基板の受光面となる表面に、側鎖又は末端に反応性有機基を有する反応性ポリシロキサンを含有する組成物を塗布し、加熱硬化させて前記ポリシロキサン膜を形成する請求項1記載の選択エミッタ形成方法。
【請求項4】
シリコン基板がn型である請求項1〜3のいずれか1項記載の選択エミッタ形成方法。
【請求項5】
ポリシラザン膜又はポリシロキサン膜を5〜300nmの厚さで形成する請求項1〜4のいずれか1項記載の選択エミッタ形成方法。
【請求項6】
第一のドーパントがボロンである請求項1〜5のいずれか1項記載の選択エミッタ形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物からなる膜をドーパントの拡散を抑制する拡散抑制マスクに使用し、p層に選択エミッタ層を形成する方
法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、光エネルギーを電力に変換する半導体素子であり、p−n接合型、pin型、ショットキー型などがあり、特にp−n接合型が広く用いられている。また、太陽電池をその基板材料を基に分類すると、シリコン結晶系太陽電池、アモルファス(非晶質)シリコン系太陽電池、化合物半導体系太陽電池の3種類に大きく分類される。シリコン結晶系太陽電池は、更に、単結晶系太陽電池と多結晶系太陽電池に分類される。太陽電池用シリコン結晶基板は比較的容易に製造できることから、その生産規模は現在最大となっており、今後も更に普及していくものと思われる(例えば、特許文献1:特開平8−073297号公報)。
【0003】
太陽電池の出力特性は、一般に、ソーラーシミュレーターを用いて出力電流電圧曲線を測定することにより評価される。この曲線上で出力電流I
maxと出力電圧V
maxとの積、I
max×V
maxが最大となる点を最大出力P
maxとよび、該P
maxを太陽電池に入射する総光エネルギー(S×I:Sは素子面積、Iは照射する光の強度)で除した値:
η={P
max/(S×I)}×100(%)
が太陽電池の変換効率ηとして定義される。
【0004】
変換効率ηを高めるには、短絡電流Isc(電流電圧曲線にてV=0の時の出力電流値)あるいはVoc(電流電圧曲線にてI=0の時の出力電圧値)を大きくすること、及び出力電流電圧曲線をなるべく角形に近い形状のものとすることが重要である。なお、出力電流電圧曲線の角形の度合いは一般に、
FF=P
max/(Isc×Voc)
で定義されるフィルファクタ(曲線因子)により評価でき、該FFの値が1に近いほど出力電流電圧曲線が理想的な角形に近づき、変換効率ηも高められることを意味する。
【0005】
上記変換効率ηを向上させるには、キャリアの表面再結合を低減させることが重要である。シリコン結晶系太陽電池においては、太陽光の入射光によって光生成した少数キャリアが、主に拡散によってp−n接合面へ到達した後、受光面及び裏面に取り付けられた電極から多数キャリアとして外部へ取り出され、電気エネルギーとなる。
【0006】
その際、電極面以外の基板表面に存在する界面準位を介して、本来電流として取り出すことのできたキャリアが再結合して失われることがあり、変換効率ηの低下に繋がる。
【0007】
そこで、高効率太陽電池においては、シリコン基板の受光面と裏面とを、電極とのコンタクト部を除いて絶縁膜で保護し、シリコン基板と絶縁膜との界面におけるキャリア再結合を抑制し、変換効率ηの向上が図られている。
【0008】
太陽電池が今後更に普及するためには、より高い変換効率が求められる。変換効率を高める手段として、例えば電極直下のみにドーパントを高濃度に含む高濃度拡散層を形成し、受光面の他の部分の拡散層の表面ドーパント濃度を下げること、つまり選択エミッタを形成することにより変換効率を向上させる方法がある。
【0009】
これに対し、特許文献2(特開2007−081300号公報)では、酸化ケイ素膜を拡散制御マスク(拡散抑制マスク)に適用し、パターニングされた拡散層を形成する方法が提案されている。しかしながら、酸化ケイ素膜を拡散制御マスク(拡散抑制マスク)に適用した場合においては、酸化ケイ素膜の膜厚を均一に形成することが困難であり、その結果、拡散濃度にムラが発生し均一な拡散層が形成できない等の問題がある。
【0010】
また、特許文献3(特開2004−221149号公報)では、インクジェット方式により複数の種類の塗布剤の塗り分けを同時に行い、ドーパント濃度やドーパント種類が異なる領域を簡単な工程で作り出すことを提案している。しかしながら、このようなインクジェット方式において、ドーパントとしてリン酸等を用いると腐食対策が必要であり、装置が複雑となる上に、メンテナンスも煩雑となる。また、ドーパント濃度や種類が異なる塗布剤をインクジェットで塗り分けても、1回の熱処理で拡散させると、オートドープにより所望の濃度差が得られなくなってしまう。
【0011】
更に、特許文献4(特開2004−281569号公報)では、低濃度拡散層と高濃度拡散層を2回の熱処理により形成する方法を提案している。しかしながら、この方法では2回のドーパントの熱拡散を行う必要があり、工程が煩雑となって製造コストの増加を招くおそれがある。だからといって熱処理を1回にすると、オートドーピングにより受光面の電極直下以外の部分もドーパントが高濃度となり、高変換効率を示さなくなる。
【0012】
受光面がp型となる太陽電池においても、高変換効率とするには選択エミッタの形成は必要不可欠であり、表面ドーパント濃度のコントロールが重要である。しかしながら、ボロンの選択エミッタを形成することは容易ではなく、従来の方法では複数回の拡散抑制マスク形成や熱処理が必要であり、工程が複雑で煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−073297号公報
【特許文献2】特開2007−081300号公報
【特許文献3】特開2004−221149号公報
【特許文献4】特開2004−281569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、簡便な方法でp型選択エミッタ層を形成することができ、高いエネルギー変換効率を有する太陽電池
が得られるp型選択エミッタ形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、シリコン基板の受光面側に有機ケイ素化合物からなる膜を形成し、p層高濃度拡散領域に相当する部位の有機ケイ素化合物の膜を除去し開口部を形成した後、ボロンを含有した塗布剤を有機ケイ素化合物の膜及び開口部を覆って塗布し拡散処理することで、複数回の熱処理工程を必要とせず、簡便かつ確実にp型選択エミッタ層を形成することができることを知見した。
【0016】
すなわち、ポリシラザン膜等の有機ケイ素化合物の膜を、ボロンドーパントに対して該ドーパントの拡散を抑制する拡散抑制マスクを適用した場合、膜厚に比例した濃度でボロンがシリコン基板中に拡散する現象が確認された。
太陽電池において、短波長領域での変換効率を向上させるためには、受光面における表面ドーパント濃度は低いほうがよいが、電極接触抵抗を低減するためには、ドーパント濃度を高くする必要がある。拡散層中のドーパント濃度が低下すると、オーミックコンタクトが得られないこととなる。
【0017】
本発明においては、シリコン基板の受光面側の電極接続位置となる領域には有機ケイ素化合物の膜を形成せず、それ以外の領域に有機ケイ素化合物からなる膜を用いて拡散処理することで、電極接続位置となる領域に高濃度拡散層が形成されることから、電極接触抵抗を低減できる一方、前記有機ケイ素化合物からなる膜形成領域の表面ドーパント濃度は低くなり、表面パッシベーションが改善され、短波長領域での変換効率を向上させることができると共に、p型拡散層において高濃度拡散層と低濃度拡散層とを有するp型選択エミッタ層を簡便に形成することができる。
【0018】
従って、本発明は、下記のp型選択エミッタ形成方
法を提供する。
[1]シリコン基板の受光面側に
ポリシラザン膜又はポリシロキサン膜を形成する工程と、この
ポリシラザン膜又はポリシロキサン膜のうち高濃度拡散層を形成すべき領域を除去して当該領域に開口部を形成する工程と、次いで前記
ポリシラザン膜又はポリシロキサン膜及び開口部を覆って第一のドーパント塗布剤を塗布し、
更に800〜1100℃で熱処理して前記
ポリシラザン膜又はポリシロキサン膜をシリコン含有無機薄膜とすると共に、該シリコン含有無機薄膜及び
前記開口部から前記シリコン基板に第一のドーパントを拡散させ、前記開口部から第一のドーパントを拡散した部分に高濃度拡散層を、前記
シリコン含有無機薄膜を通して第一のドーパントを拡散した部分に低濃度拡散層を形成する工程を含むことを特徴とするp型選択エミッタ形成方法。
[2]
シリコン基板の受光面となる表面にポリシラザン溶液を塗布し、80〜200℃で加熱乾燥して前記ポリシラザン膜を形成する[1]記載の選択エミッタ形成方法。
[3]
シリコン基板の受光面となる表面に、側鎖又は末端に反応性有機基を有する反応性ポリシロキサンを含有する組成物を塗布し、加熱硬化させて前記ポリシロキサン膜を形成する[1]記載の選択エミッタ形成方法。
[
4]シリコン基板がn型である[1]
〜[3]のいずれかに記載の選択エミッタ形成方法。
[
5]有機ケイ素化合物の膜を5〜300nmの厚さで形成する[1]〜[
4]のいずれかに記載の選択エミッタ形成方法。
[
6]第一のドーパントがボロンである[1]〜[
5]のいずれかに記載の選択エミッタ形成方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高濃度拡散層と低濃度拡散層とを有するp型選択エミッタ層を有する太陽電池を簡便に製造することができ、製造歩留まりを高レベルで維持しながら高性能の太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(A)〜(H)は、本発明の太陽電池の製造方法の一例についてその工程を順次説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のp型選択エミッタ形成方法により形成されたp型選択エミッタ層を有する太陽電池は、
図1(H)を参照すると、シリコン基板1と、前記シリコン基板1の受光面側に形成され、p型高濃度拡散層4aとこの高濃度拡散層4aよりもドーパント濃度が低い低濃度拡散層4bとを有するp型選択エミッタ層4と、前記p型選択エミッタ層の高濃度拡散層4aと電気的に接続する受光面電極7と、前記シリコン基板1の裏面側に形成されたn型拡散層5と、前記n型拡散層5と電気的に接続する裏面電極8とを備えた太陽電池であり、このp型選択エミッタ形成方法は、シリコン基板のp型拡散層となる側に有機ケイ素化合物からなる膜を形成し、このp型拡散層の電極接続位置となる領域に対応する有機ケイ素化合物の膜を部分的に除去し高濃度拡散領域となる領域に開口部を形成した後、前記有機ケイ素化合物からなる膜上にドーパントを塗布し、開口部と有機ケイ素化合物からなる膜を通して同時にシリコン基板中にドーパントを拡散させることで、p型選択エミッタ層を形成するものである。
【0022】
以下、本発明のp型選択エミッタ形成方法を利用した太陽電池の製造方法を、図面を用いて説明するが、この説明により本発明が限定されるものではない。
【0023】
図1(A)〜(H)は、本発明の太陽電池の製造方法における一実施形態の製造工程を示す概略断面図である。以下、各工程について詳細に説明する。
(1)シリコン基板1はn型でもp型でもよいが、本発明の実施例1においてはn型基板を使用する。このシリコン単結晶基板はチョクラルスキー(CZ)法及びフロートゾーン(FZ)法のいずれの方法によって作製されていてもよい。シリコン基板1の比抵抗は、高性能の太陽電池を作る点から、0.1〜20Ω・cmが好ましく、0.5〜2.0Ω・cmがより好ましい。シリコン基板としては、リンドープn型単結晶シリコン基板が好ましい。リンドープのドーパント濃度は1×10
15cm
-3〜5×10
16cm
-3が好ましい[
図1(A)]。
【0024】
(2)ダメージエッチング/テクスチャ形成
シリコン基板1を例えば水酸化ナトリウム水溶液に浸し、ダメージ層をエッチングで取り除く。この基板のダメージ除去は、水酸化カリウム等の強アルカリ水溶液を用いてもよく、フッ硝酸等の酸水溶液でも同様の目的を達成することが可能である。ダメージエッチングを行った基板1にランダムテクスチャを形成する。太陽電池は通常、表面に凹凸形状を形成するのが好ましい。その理由は、可視光域の反射率を低減させるために、できる限り2回以上の反射を受光面で行わせる必要があるためである。これら一つ一つの山のサイズは1〜20μm程度が好ましい。代表的な表面凹凸構造としては、V溝、U溝が挙げられる。これらは、研削機を利用して形成可能である。また、ランダムな凹凸構造を作るには、水酸化ナトリウムにイソプロピルアルコールを加えた水溶液に浸してウェットエッチングする方法や、他には、酸エッチングやリアクティブ・イオン・エッチング等を用いることができる。なお、図面では両面に形成したテクスチャ構造は微細なため省略する。
【0025】
(3)有機ケイ素化合物膜形成
テクスチャ形成したシリコン基板の受光面となる表面に有機ケイ素化合物からなる膜を形成する[
図1(B)]。有機ケイ素化合物からなる膜として、ポリシラザン膜又はポリシロキサン膜が挙げられる。膜の形成方法として、ポリシラザン膜の場合は、ポリシラザン溶液をシリコン基板の受光面となる表面に塗布し、加熱乾燥処理により溶媒を除去することで、自己架橋反応が進行し、ポリシラザン膜が形成される。ポリシラザン溶液の塗布方法としてはスピンコート法、スプレー法、ディップ法等、特に限定されないが、スピンコート法が簡便で好適である。
【0026】
ポリシラザン溶液、即ちポリシラザン膜を形成するために用いる塗布組成物は、ポリシラザンと溶媒を含むものとする。
ポリシラザンとしては、下記一般式(1)
−(SiH
2NH)
n− (1)
で表されるパーヒドロポリシラザンが、転化後の膜中に残存する不純物が少ないことから好ましい。なお、パーヒドロポリシラザンは、−(SiH
2NH)−を基本ユニットとし、その側鎖すべてが水素であり有機溶剤に可溶な無機ポリマーである。
【0027】
また、溶媒としては、パーヒドロポリシラザンと混ぜて反応しない溶媒であればよく、トルエン、キシレン、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、THF(tetrahydrofuran)、PGME(propylene glycol methoxy ether)、PGMEA(propylene glycol ether monomethyl acetate)、ヘキサンのような芳香族溶媒、脂肪族溶媒、エーテル系溶媒を用いることができる。
【0028】
溶媒中のポリシラザンの濃度は1〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましい。1質量%未満では塗布後の膜厚が薄くなり、p型拡散層における拡散濃度差が得られなくなるおそれがあり、30質量%を超えると溶液の安定性が低下する場合がある。
【0029】
ポリシラザン膜を形成するための乾燥温度としては、使用している溶媒の沸点以上であれば問題ないが、80〜200℃の範囲で行うことが望ましい。加熱方法は、特に制限されないが、ホットプレートで加熱する方法、電気炉を用いる方法等が挙げられ、コスト上、作業上の簡便さからホットプレートを用いる方法が好ましい。ポリシラザン膜の膜厚は、5〜300nmが好ましく、より好ましくは50〜100nmである。膜厚が薄すぎると、p型拡散層における拡散濃度差が得られなくなり、厚すぎてもボロンがポリシラザン膜を通して拡散できなくなるおそれがある。
【0030】
なお、ポリシラザン膜は、この後に行われるp型エミッタ層形成時の熱処理によって焼成され転化してシリコン含有無機薄膜となり、拡散抑制マスクとしての機能を発揮する。
【0031】
ポリシロキサン膜の形成方法としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等のポリシロキサンの側鎖又は末端をビニル基、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、シラノール基、メタクリル基等の反応性有機基で変性した反応性ポリシロキサンを用い、ポリシラザン膜と同様な処理によりポリシロキサン膜を形成する。この場合、必要によってはこれらポリシロキサンの種類に応じた適宜な公知の架橋剤を使用い、架橋ポリシロキサン膜として形成し得る。
【0032】
この場合、ポリシロキサンとしては、直鎖状、分岐状、環状のいずれのものでもよく、具体的には下記式(2)のものが好適に用いられる。
R’R
2SiO−(R
2SiO)−SiR
2R’ (2)
ここで、上記式において、Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、R’はビニル基、アミノ基、エポキシ基、カルビノール基、シラノール基、メタクリル基等の反応性有機基を示す。
【0033】
ポリシロキサン膜の膜厚は、5〜300nmが好ましく、より好ましくは50〜100nmである。膜厚が薄すぎると、p型拡散層における拡散濃度差が得られなくなり、厚すぎてもボロンがポリシロキサン膜を通して拡散できなくなるおそれがある。
【0034】
なお、ポリシロキサン膜は、この後に行われるp型エミッタ層形成時の熱処理によって焼成されSiO
2からなるシリコン含有無機薄膜となり、拡散抑制マスクとしての機能を発揮する。
【0035】
(4)有機ケイ素化合物膜除去
前記有機ケイ素化合物の膜のうち、p型拡散層の電極接続位置となる領域の膜を部分的に除去し、高濃度拡散領域となるべき領域に開口部2aを形成する[
図1(C)]。有機ケイ素化合物からなる膜を除去する方法としては、特に限定はなく既知の方法として、エッチングペーストによる除去や、レーザーアブレーションによる除去、除去しない領域を耐エッチングマスクで覆うマスキングエッチングによる除去方法などが挙げられる。中でもレーザーアブレーションによる除去が簡便で好適である。
【0036】
(5)p型選択エミッタ層形成
シリコン基板1の受光面側に形成されている有機ケイ素化合物の膜上及び前記開口部を覆ってボロンドーパントを含む塗布剤3を塗布する[
図1(D)]。その後熱処理を行うことでp型選択エミッタ層4を形成する[
図1(E)]。このとき、有機ケイ素化合物の膜はシリコン含有無機薄膜となり、拡散抑制マスクとしての機能を発揮する。即ち、シリコン含有無機薄膜の存在しない領域(開口部領域)ではドーパントがそのまま拡散して高濃度拡散層4aが形成され、シリコン含有無機薄膜の存在する領域ではドーパントの拡散が開口部領域よりも抑制されて低濃度拡散層4bが形成される。その後、このシリコン含有無機薄膜はガラス成分と共にエッチング除去される。
【0037】
なお、熱処理温度は800〜1,100℃、特に900〜1,000℃が好ましい。また、熱処理時間は通常20〜30分である。ドーパントはボロンが好ましく、また、p型選択エミッタ層4における高濃度拡散層4aの表面ドーパント濃度は、1×10
18cm
-3〜5×10
20cm
-3が好ましく、更には5×10
18cm
-3〜1×10
20cm
-3がより好ましい。一方、低濃度拡散層4bの表面ドーパント濃度は、1×10
17cm
-3〜5×10
19cm
-3が好ましく、更には5×10
17cm
-3〜1×10
19cm
-3がより好ましい。
【0038】
(6)n型拡散層形成
シリコン基板1の裏面に同様な処理を行うことでn型拡散層5を裏面に形成する[
図1(F)]。ドーパントはリンが好ましい。n型拡散層5の表面ドーパント濃度は、1×10
18cm
-3〜5×10
20cm
-3が好ましく、5×10
18cm
-3〜1×10
20cm
-3がより好ましい。
【0039】
(7)pn接合分離
プラズマエッチャーを用い、pn接合分離を行う。このプロセスではプラズマやラジカルが受光面や裏面に侵入しないよう、サンプルをスタックし、その状態で端面を数ミクロン削る。接合分離後、基板に付いたガラス成分、シリコン粉等はガラスエッチング等により洗浄する。
【0040】
(8)反射防止膜形成
引き続き、太陽光の光を有効的にシリコン基板内に取り込むために、シリコン基板表面及び裏面の両方[
図1(G)]に、反射防止膜6を形成する。反射防止膜としては窒化ケイ素膜が好ましい。この窒化ケイ素膜は、シリコン基板表面及び内部のパッシベーション膜としても機能する。この膜厚は70〜100nmが好ましい。他の反射防止膜として二酸化チタン膜、酸化亜鉛膜、酸化スズ膜、酸化タンタル膜、酸化ニオブ膜、フッ化マグネシウム膜、酸化アルミニウム膜等があり、代替が可能である。また、形成方法もプラズマCVD法、コーティング法、真空蒸着法等があるが、経済的な観点から、上記、窒化ケイ素膜をプラズマCVD法によって形成するのが好適である。
【0041】
(9)電極形成
スクリーン印刷装置等を用い、受光面側及び裏面側に、例えば銀からなるペーストを、スクリーン印刷装置を用いてp型高濃度拡散層4a及びn型拡散層5上に印刷し、櫛形電極パターン状に塗布して乾燥させる。最後に、焼成炉において、500〜900℃で1〜30分間焼成を行い、前記p型高濃度拡散層4a及びn型拡散層5と電気的に接続するフィンガー電極7、裏面電極8、及びバスバー電極9を形成する[
図1(H)]。
【0042】
なお、
図1(H)ではバスバー電極9が拡散層4,5と接続されていないように示されているが、焼成によりファイヤースルーされ、実際は拡散層と接続されている。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0044】
[実施例1]
結晶面方位(100)、15.65cm角200μm厚、アズスライス比抵抗2Ω・cm(ドーパント濃度7.2×10
15cm
-3)リンドープn型単結晶シリコン基板を、水酸化ナトリウム水溶液に浸してダメージ層をエッチングで取り除き、水酸化カリウム水溶液にイソプロピルアルコールを加えた水溶液に浸してアルカリエッチングすることでテクスチャ形成を行った。得られたシリコン基板1の表面に、ポリシラザン溶液を塗布し150℃のホットプレート上で乾燥させ、厚さ80nmのポリシラザン膜2を形成した。
なお、ポリシラザンとしては、AZ製 ANN120−20 パーヒドロポリシラザン20%ジブチルエーテル溶液を用いた。
その後、レーザーにより、受光面電極直下となる領域のポリシラザン膜を除去した後、ボロンドーパントを含む塗布剤をポリシラザン膜上に塗布した後に、950℃,30分間熱処理を行い、p型選択エミッタ層4を形成した。
引き続き、リンドーパントを含む塗布剤をシリコン基板1の裏面に塗布した後に、900℃,30分間熱処理を行い、n型拡散層5を裏面に形成した。熱処理後、基板に付いたガラス成分は高濃度フッ酸溶液等により除去後、洗浄した。
次に、プラズマエッチャーを用い、pn接合分離を行った。プラズマやラジカルが受光面や裏面に侵入しないよう、対象をスタックした状態で端面を数ミクロン削った。基板に付いたガラス成分を高濃度フッ酸溶液等により除去後、洗浄した。
更に、平行平板型CVD装置を用い、成膜用ガスとしてモノシランとアンモニアと水素の混合ガスを使用して、受光面側p型選択エミッタ層4、及び裏面n型拡散層5上に窒化ケイ素からなる反射防止膜6を積層した。この膜厚は70nmであった。
引き続き、受光面側の高濃度拡散層4a及び裏面側にそれぞれ銀ペーストを電極印刷し、乾燥後750℃で3分間焼成を行い、表面電極7、裏面電極8及びバスバー電極9を形成した。
【0045】
[実施例2]
ポリシラザン溶液に代わり、末端ビニル基で変性したポリシロキサンと、下記の架橋剤からなる混合溶液をシリコン基板上に塗布し、加熱硬化させ、ポリシロキサン膜を形成した以外は、実施例1と同様な方法にて太陽電池を作製した。
この場合、ポリシロキサンとしては下記式
CH
2=CHSi(CH
3)
2O−(Si(CH
3)
2O)−Si(CH
3)
2CH=CH
2
のものを使用し、架橋剤としては下記式
CH
3Si(OH)
3
のものを使用した。
【0046】
[比較例1]
シリコン基板の受光面側にポリシラザン膜の形成を除いた以外は、実施例1と同様な方法にて作製した。
即ち、p型拡散層の形成において、ボロンドーパントを含む塗布剤をシリコン基板1の受光面に直接塗布し、p型拡散層を形成したものである。
【0047】
実施例及び比較例で得られた太陽電池を、25℃の雰囲気の中、ソーラーシュミレーター(光強度:1kW/m
2,スペクトル:AM1.5グローバル)の下で電流電圧特性を測定した。結果を表1に示す。なお、表中の数字は実施例及び比較例で試作したセル10枚の平均値である。
【0048】
【表1】
【0049】
上記のように、実施例による太陽電池は、シリコン基板のp型拡散層となる側に有機ケイ素化合物膜を形成し、このp型拡散層の電極接続位置となる領域の有機ケイ素化合物膜を部分的に除去し高濃度拡散領域となる領域に開口部を形成した後、前記有機ケイ素化合物膜上にドーパントを塗布し、開口部と有機ケイ素化合物膜を通して同時にシリコン基板中にドーパントを拡散させることで、p型選択エミッタ層を形成することにより、p層パッシベーションが改善され、開放電圧と短絡電流が向上した結果となった。本発明による製造方法によれば少ない工数でp型選択エミッタを形成することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 シリコン基板
2 ポリシラザン膜
2a 開口部
3 ボロン塗布剤
4 p型選択エミッタ層
4a p型高濃度拡散層
4b p型低濃度拡散層
5 n型拡散層
6 反射防止膜
7 受光面電極(フィンガー電極)
8 裏面電極
9 バスバー電極