(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115654
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】発泡樹脂成形用金型及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20170410BHJP
B29K 25/00 20060101ALN20170410BHJP
【FI】
B29C67/22
B29K25:00
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-559739(P2015-559739)
(86)(22)【出願日】2014年11月17日
(86)【国際出願番号】JP2014080296
(87)【国際公開番号】WO2015114911
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2016年5月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-18389(P2014-18389)
(32)【優先日】2014年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石本 龍太
(72)【発明者】
【氏名】萩原 隆
(72)【発明者】
【氏名】上山 正人
(72)【発明者】
【氏名】勅使河原 守
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆文
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−151538(JP,A)
【文献】
実開昭57−144524(JP,U)
【文献】
特開2000−062031(JP,A)
【文献】
特開2006−212814(JP,A)
【文献】
特開平8−143674(JP,A)
【文献】
特開2012−46694(JP,A)
【文献】
特開2012−158701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C44/00
C08L 1/00〜101/14
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材にて形成された発泡樹脂成形用金型本体の少なくともキャビティを形成する内壁面の一部又は全部に、1分子中にジオルガノヒドロキシシリル基又は1〜3個の加水分解性基を含有するトリオルガノシリル基を2個以上有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンを主剤とし、アルコキシ基又はケトオキシム基が3個以上ケイ素原子に結合した多官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を架橋剤とする脱アルコール型又は脱オキシム型の1液型液状室温硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物であって、JIS−A硬度が50〜70のシリコーンゴム層が厚さ1〜3mmの断熱層として形成されてなることを特徴とする発泡樹脂成形用金型。
【請求項2】
更に、金型本体の外壁面の一部又は全部に、1分子中にジオルガノヒドロキシシリル基又は1〜3個の加水分解性基を含有するトリオルガノシリル基を2個以上有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンを主剤とし、アルコキシ基又はケトオキシム基が3個以上ケイ素原子に結合した多官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を架橋剤とする脱アルコール型又は脱オキシム型の1液型液状室温硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物であって、JIS−A硬度が50〜70のシリコーンゴム層が厚さ1〜3mmの断熱層として形成された請求項1記載の金型。
【請求項3】
発泡樹脂が発泡スチロールであり、金型本体キャビティ内に発泡スチロール用原料ビーズを充填し、金型本体をスチーム加熱して発泡スチロールを成形するものである請求項1又は2記載の金型。
【請求項4】
シリコーンゴム層の厚さが1.5〜2.5mmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の金型。
【請求項5】
アルミニウム材にて形成された発泡樹脂成形用金型本体の少なくともキャビティを形成する内壁面の一部又は全部に、25℃の粘度が0.1〜50Pa・sで、JIS−A硬度が50〜70の硬化物を与える、1分子中にジオルガノヒドロキシシリル基又は1〜3個の加水分解性基を含有するトリオルガノシリル基を2個以上有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンを主剤とし、アルコキシ基又はケトオキシム基が3個以上ケイ素原子に結合した多官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を架橋剤とする脱アルコール型又は脱オキシム型の1液型液状室温硬化性シリコーンゴム組成物を塗布し、乾燥、硬化して、上記内壁面に厚さ1〜3mmのシリコーンゴム層を断熱層として形成することを特徴とする発泡樹脂成形用金型の製造方法。
【請求項6】
更に、金型本体の外壁面の一部又は全部に請求項5記載の液状室温硬化性シリコーンゴム組成物を塗布し、乾燥、硬化して、上記外壁面に厚さ1〜3mmのシリコーンゴム層を断熱層として形成した請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
発泡樹脂が発泡スチロールであり、金型本体キャビティ内に発泡スチロール用原料ビーズを充填し、金型本体をスチーム加熱して発泡スチロールを成形するものである請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
シリコーンゴム層の厚さが1.5〜2.5mmである請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
液状室温硬化性シリコーンゴム組成物を2回塗布、乾燥する工程を含むことを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材にて形成された発泡スチロール等の発泡樹脂成形用金型及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発泡スチロールの成形には、発泡ビーズ成型法が知られている。これは、アルミニウム製の金型キャビティ内にEPS(expanded polystyrene,ビーズ法発泡スチロール)原料を充填し、通常、100℃,1気圧程度のスチームを導入してEPSビーズを加熱、溶融し、発泡スチロール成形体を得るものである。
【0003】
しかし、アルミニウム製の金型は、アルミニウムは熱伝導性が良好であるので、加熱工程において、金型からの放熱が大きく、通常、成形工程中の所定の金型温度を保持するために多量のスチーム等の熱媒による金型の加熱・保温が必要となるため、熱効率が低下し、これによって原料費が高騰する。
このため、アルミニウム製金型からの放熱を防止するため、断熱対策を施すことが行われており、従来はEPDMゴム(エチレン・プロピレン・ジエン系ゴム)ライニングシートで金型のキャビティを形成する内壁面の一部を断熱加工することが行われていた。しかし、EPDMゴムライニングシートはアルミニウム製金型に対する接着性がないため、金型バックプレートにアルミニウム板との組み合わせでボルト固定していたため、コストが高い上、施工が難しいという問題がある。更に、金型全体への施工が困難で、通常、バックプレートの移動側の一部しか施工ができないので、金型全体に十分な断熱性を付与できないという問題もあった。
なお、本発明に関連する先行技術文献としては下記のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−260254号公報
【特許文献2】特開2013−221306号公報
【特許文献3】国際公開第2013/008372号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、アルミニウム製の発泡樹脂成形用金型本体の少なくともキャビティを形成する内壁面に容易に断熱層を形成でき、金型からの放熱を顕著に軽減できて熱効率の高い発泡樹脂成形用金型及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、アルミニウム材にて形成された発泡樹脂成形用金型本体の少なくともキャビティを形成する内壁面の一部又は全部、又は該内壁面に加えて金型本体の外壁面(外表面)の一部又は全部に特定粘度の液状の室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物を塗布し、これを乾燥、硬化して、JIS
K 6249に規定するJIS−A硬度で20〜70のシリコーンゴム層を形成することにより、アルミニウム製金型との接着性に優れたシリコーンゴム被覆層を形成することができ、このシリコーンゴム層が断熱層として有効に作用し、金型本体からの放熱が効果的に抑制されて熱効率が向上し、しかもかかる断熱層形成方法は施工性に優れ、容易に所用の厚さのシリコーンゴム層を形成し得ることを知見し、本発明をなすに至ったものである。なお、本発明において室温とは25℃±10℃を意味する。
【0007】
従って、本発明は、下記の発泡樹脂成形用金型及びその製造方法を提供する。
〔1〕
アルミニウム材にて形成された発泡樹脂成形用金型本体の少なくともキャビティを形成する内壁面の一部又は全部に
、1分子中にジオルガノヒドロキシシリル基又は1〜3個の加水分解性基を含有するトリオルガノシリル基を2個以上有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンを主剤とし、アルコキシ基又はケトオキシム基が3個以上ケイ素原子に結合した多官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を架橋剤とする脱アルコール型又は脱オキシム型の1液型液状室温硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物であって、JIS−A硬度が
50〜70のシリコーンゴム層が
厚さ1〜3mmの断熱層として形成されてなることを特徴とする発泡樹脂成形用金型。
〔2〕
更に、金型本体の外壁面の一部又は全部に
、1分子中にジオルガノヒドロキシシリル基又は1〜3個の加水分解性基を含有するトリオルガノシリル基を2個以上有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンを主剤とし、アルコキシ基又はケトオキシム基が3個以上ケイ素原子に結合した多官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を架橋剤とする脱アルコール型又は脱オキシム型の1液型液状室温硬化性シリコーンゴム組成物の硬化物であって、JIS−A硬度が
50〜70のシリコーンゴム層が
厚さ1〜3mmの断熱層として形成された〔1〕記載の金型。
〔3〕
発泡樹脂が発泡スチロールであり、金型本体キャビティ内に発泡スチロール用原料ビーズを充填し、金型本体をスチーム加熱して発泡スチロールを成形するものである〔1〕又は〔2〕記載の金型。
〔4〕
シリコーンゴム層の厚さが
1.5〜
2.5mmである〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の金型。
〔
5〕
アルミニウム材にて形成された発泡樹脂成形用金型本体の少なくともキャビティを形成する内壁面の一部又は全部に
、25℃の粘度が
0.1〜
50Pa・sで、JIS−A硬度が
50〜70
の硬化物を与える
、1分子中にジオルガノヒドロキシシリル基又は1〜3個の加水分解性基を含有するトリオルガノシリル基を2個以上有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンを主剤とし、アルコキシ基又はケトオキシム基が3個以上ケイ素原子に結合した多官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を架橋剤とする脱アルコール型又は脱オキシム型の1液型液状室温硬化性シリコーンゴム組成物を塗布し、乾燥、硬化して、上記内壁面に
厚さ1〜3mmのシリコーンゴム層を断熱層として形成することを特徴とする発泡樹脂成形用金型の製造方法。
〔
6〕
更に、金型本体の外壁面の一部又は全部に〔
5〕記載の液状室温硬化性シリコーンゴム組成物を塗布し、乾燥、硬化して、上記外壁面に
厚さ1〜3mmのシリコーンゴム層を
断熱層として形成した〔
5〕記載の製造方法。
〔
7〕
発泡樹脂が発泡スチロールであり、金型本体キャビティ内に発泡スチロール用原料ビーズを充填し、金型本体をスチーム加熱して発泡スチロールを成形するものである〔
5〕又は〔
6〕記載の製造方法。
〔
8〕
シリコーンゴム層の厚さが
1.5〜
2.5mmである〔
5〕〜〔
7〕のいずれかに記載の製造方法。
〔
9〕
液状室温硬化性シリコーンゴム組成物を2回塗布、乾燥する工程を含むことを特徴とする〔
5〕〜〔
8〕のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の発泡樹脂成形用金型は、ビーズ成型法による発泡ポリスチレン等の成形に有効に使用し得、断熱性能が高く、熱効率よく発泡樹脂成形体を成形し得、またかかる金型を施工性よく容易に製造し得る。
この場合、シリコーンゴム層は断熱性に優れると共に、アルミニウム製金型への接着性に優れ、アルミニウム材にて形成された金型本体の熱膨張にも十分に追随すると共に、特に、このシリコーンゴム層の形成に、25℃での粘度が0.01〜100Pa・sの液状シリコーンゴム組成物を用いる場合、金型本体の内壁面に十分な厚さのシリコーンゴム層をコーティングでき、十分な厚さのシリコーンゴム層を形成できるので、この点からも良好な断熱性能を与えることができ、また液状のシリコーンゴム組成物は刷毛塗り等の方法によって容易に塗工できるため、作業性にも優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る発泡樹脂成形用金型本体の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明に係る発泡樹脂成形用金型本体の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発泡樹脂成形用金型は、
図1に示したように、金型本体10のキャビティ20を形成する内壁面30の一部又は全部、好適には内壁面30の全部(即ち、内壁面を形成するフレーム及びバックプレートの全面)に断熱層としてシリコーンゴム層40を形成したものである。
この場合、
図2に示したように、金型本体10のキャビティ20を形成する内壁面30の一部又は全部、好適には内壁面30の全部にシリコーンゴム層40を形成すると共に、更に必要に応じ金型本体10の外壁面50にもシリコーンゴム層40を形成してもよい。
ここで、金型本体10は、フレーム10aとこのフレーム10aに脱離可能に設けられたバックプレート10bとを有し、フレーム10aにバックプレート10bがセットされた状態で内部にキャビティ20が形成され、図示していないが、フレーム10aの側板を気密に貫通して挿入されたノズルによって発泡原料がキャビティ20に充填され、図示していないが、金型本体10の外部にスチーム供給部が設けられて、金型本体10を介してキャビティ20の内部に充填された発泡原料にスチームからの熱が与えられて発泡原料が発泡されるようになっている。このように発泡原料が発泡形成された後は、スチームを吸引除去して発泡体を冷却し、次いでバックプレート10bをフレーム10aから移動、離間させ、図示していないが、離型ピンによって成形された発泡体をフレーム10aから突き出して発泡体を回収するものである。
【0011】
上記金型本体はアルミニウム材により形成されており、またシリコーンゴム層はJIS
K 6249に規定するJIS−A硬度が20〜70、好ましくは40〜70、更に好ましくは50〜70である。JIS−A硬度が低すぎると耐スチーム性が悪いという問題が生じ、一方、JIS−A硬度が高すぎると基材との密着性が悪くなり、断熱効果が低下するという問題が生じ、好ましくない。特に、硬度がJIS K 6249に規定するJIS−A硬度で85以上、特に90以上のシリコーン樹脂層を形成した場合は、クラックが生じ易く、結果的に優れた断熱効果が得られないため、高硬度の被膜を形成する三次元網状構造のいわゆるシリコーンレジンを主成分とするシリコーン断熱塗料などは、使用し得ない。
【0012】
また、上記シリコーンゴム層は、厚さが0.5〜5mm、より好ましくは1〜3mm、更により好ましくは1.5〜2.5mmに形成することが推奨される。
【0013】
なお、シリコーンゴム層は、金型本体のキャビティ内壁面全面(全部)に形成することが好ましいが、金型本体のキャビティ形状によっては部分的に(即ち、キャビティ内壁面の一部に)シリコーンゴム層を形成してもよい。また、キャビティ外壁面にシリコーンゴム層を形成する場合、
図2に示したように、外壁面全面(全部)に形成しても、外壁面の一部に形成してもよい。
【0014】
上記シリコーンゴム層をアルミニウム製の金型本体のキャビティ内壁面に形成する場合は、液状シリコーンゴム組成物、特に液状の室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物を金型本体のキャビティ内壁面に好ましくは硬化後の厚さが上述した0.5〜5mmとなるように塗布し、これを乾燥、硬化する方法を採用することができる。
【0015】
この場合、金型本体のキャビティ内壁面に塗布する液状シリコーンゴム組成物の25℃の粘度は、回転粘度計による測定で0.01〜100Pa・s、好ましくは0.1〜50Pa・s、更に好ましくは0.5〜20Pa・sである。粘度が低すぎると必要な膜厚が確保できず、逆に粘度が高すぎると塗布に時間を要したり、作業性の点で不利となるばかりでなく、平滑な表面が確保できなくなる。なお、上記粘度を有する液状シリコーンゴム組成物は、希釈溶剤を加えない無溶剤タイプのシリコーンゴム組成物自体の粘度が上記粘度であるものを用いることが好ましいが、溶剤を加えて希釈した状態で上記粘度になったものでもよく、この点で高粘度乃至固体状のシリコーンゴム組成物を溶剤で希釈して上記粘度としたものも使用することができる。回転粘度計としては、例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等を使用することができる。
【0016】
液状シリコーンゴム組成物としては、特に制限はないが、室温硬化性(RTV)のものが作業性等の点で好ましく、公知の組成のものが用いられる。その硬化型(架橋反応のタイプ)も特に制限はなく、付加反応硬化型等のものを用いることもできるが、縮合反応硬化型(縮合型)のものが好ましく、分子鎖両末端が水酸基(シラノール基)又は加水分解性基(加水分解性基含有トリオルガノシリル基)で封鎖され、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる線状のオルガノポリシロキサンをベース樹脂(主剤又はベースポリマー)とし、これに加水分解性基を3個以上有する有機ケイ素化合物(例えば、加水分解性基を3個又は4個含有するオルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物)を架橋剤として配合し、更に必要により硬化触媒、無機質充填剤(補強性シリカ、非補強性シリカ、炭酸カルシウム等)及び/又は接着性付与剤等を配合した液状RTVシリコーンゴム組成物が好適に用いられる。
【0017】
この縮合タイプのRTVシリコーンゴム組成物として、より具体的には、ベースポリマーが、1分子中に縮合可能な反応基(例えば、ジオルガノヒドロキシシリル基又は1〜3個の加水分解性基を含有するトリオルガノシリル基)を2個以上(好ましくは分子鎖両末端に)有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンを主剤とするものであり、好ましくは硬化触媒(縮合反応触媒)の存在下に、架橋剤(硬化剤)である加水分解性基を3個以上有する有機ケイ素化合物との縮合反応により立体網目構造のゴム状被膜(シリコーンゴム)を形成するものである。このRTVシリコーンゴム組成物は、縮合型の硬化機構であれば、特に制限されず、例えば、主成分である上記ベースポリマーの加水分解性基含有直鎖状ジオルガノポリシロキサン中の加水分解性基(硬化反応性官能基)としては、ケイ素原子に直接結合した水酸基(シラノール基)、アルコキ
シ基などが挙げられ、また主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位中の前記加水分解性基以外のケイ素原子に直接結合した有機基(置換又は非置換の一価炭化水素基)としては、メチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ビニル基等のアルケニル基などが挙げられる。ベースポリマーとしての上記加水分解性基含有直鎖状ジオルガノポリシロキサンに、加水分解可能な基(例えばアセトキシ基等のアシロキシ基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、ケトオキシム基、エノキシ基(アルケニルオキシ基)、アミド基など)が3個以上ケイ素原子に結合した多官能性シラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物(シロキサンオリゴマー)を架橋剤とし、金属有機酸塩(例えば鉛、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛などのナフテン酸塩、オクチル酸塩、過酸化物、有機アミンなど)を硬化触媒(縮合反応触媒)とし、これらの中から少なくとも1種を配合することによって、1液型又は2液型のRTVシリコーンゴム組成物とすることができ、更に、必要に応じて、無機質充填剤(補強性シリカ、非補強性シリカ、炭酸カルシウム等)や接着性付与剤(例えば、アミノ官能性、エポキシ官能性、(メタ)アクリル官能性、メルカプト官能性等の各種官能性基を含有するシランカップリング剤など)等を配合することができる。これらは室温もしくは加熱することにより加水分解すると同時に、脱アルコール、脱酢酸、脱オキシム、脱ヒドロキシルアミン反応などの縮合反応によって三次元的に架橋して硬化するが、作業性の容易さから1液型でかつ常温で硬化する形態のシリコーンゴム組成物が好ましく、更には硬化時に発生する副生成物の刺激性が少ないもの(脱アルコール型、脱オキシム型等)が最も好ましい。前記縮合反応硬化型RTVシリコーンゴム組成物の具体例としては、市販品であれば、KE44RTV、KE445RTV、KE4895、KE4896(商品名、信越化学工業(株)製)、TSE387、TSE388、TSE389(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・インク製)、SE9187、SE9186(商品名、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製)などが挙げられる。
【0018】
なお、上記シリコーンゴム組成物は、市販品をそのまま、もしくは溶剤で希釈して使用することができる。
また、希釈に用いる溶剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系化合物、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系化合物、メタノール、エタノール等のアルコール系化合物などの、室温(25℃)で液状の有機化合物等が好適に用いられる。
【0019】
上記の液状RTVシリコーンゴム組成物を金型本体の内壁面の一部又は全部や外壁面の一部又は全部に塗布する方法としては、必要によりアルミニウム製金型本体をプライマー処理した後、刷毛塗り、ローラー塗り、スプレー等、公知の方法を採用し得るが、刷毛塗り、ローラー塗りが好ましい。なお、刷毛塗り、ローラー塗り等のコーティング施工は、上述した厚さになるように複数回コーティング処理し得るが、十分な膜厚を確保しつつ、作業性を考慮すると2回塗りが好ましい。
【0020】
液状シリコーンゴム組成物を塗布した後の乾燥、硬化はその組成物の種類に応じて適宜選定される。例えば、縮合型RTVシリコーンゴム組成物の場合は、空気中(大気中)、0〜50℃、特に10〜35℃で、1時間〜7日、特に2時間〜3日の条件を採用し得る。
【0021】
上記のようにして断熱層としてシリコーンゴム層(被覆層)を形成した発泡樹脂成形用金型は、特にビーズ成型法による発泡ポリスチレン成形体の成形用金型として好適に用いられる。この場合、この金型を用いた成型法は、樹脂の種類に応じた公知の方法が採用し得る。
【0022】
例えば、発泡ポリスチレン成形体を得る場合であれば、EPS原料を金型本体のキャビティ内に充填し、次いで金型本体をスチームで加熱し、EPSビーズを加熱溶融して成形体を形成し、その後金型本体を冷却し、金型本体を開いて成形体を脱型するという公知のビーズ成型法を採用して発泡ポリスチレン成形体を得ることができる。なお、上記スチーム加熱において、スチームは100℃,1気圧程度のスチームを用いることができるが、これに制限されるものではなく、EPSビーズが良好に融解して成形体が形成されればよい。また、成形後は約60℃程度に冷却することができる。
【0023】
本発明による発泡樹脂成形用金型は、断熱性能が高く、熱効率がよいため、例えばビーズ成型法により発泡ポリスチレン成形体を得るためスチームを用いて金型本体を加熱する場合に、断熱層を設けない金型に比べてスチーム量を約20〜30%程度削減することができ、従って、スチームを行うための石油燃料等の燃料使用量も大幅に削減できる。
【0024】
得られた発泡樹脂成形用金型は、例えばトロ箱、梱包材、建築資材等として使用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、粘度は回転粘度計による測定値を示す。
【0026】
[実施例1]
分子鎖両末端が水酸基(シラノール基)で封鎖された25℃の粘度が20,000mPa・sの直鎖状ジメチルポリシロキサン50質量部、炭酸カルシウム50質量部、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン10質量部、3−アミノプロピルトリエトキシシラン1質量部、ジブチル錫ジラウレート0.1質量部を均一になるまで混合し、更にキシレン30質量部を混合して、25℃の粘度が5Pa・sの液状室温硬化性シリコーンゴム組成物を調製した。
キャビティ容積が0.05m
3であり、厚さが20mmであるアルミニウム製発泡スチロール成形用金型本体の内壁面(全面)に上記の液状室温硬化性シリコーンゴム組成物を2回の刷毛塗りによって塗布し、空気中、室温(25℃)で24時間放置して、金型本体の内壁面(全面)に、厚さ2mmで、JIS K 6249に規定するJIS−A硬度が60のシリコーンゴム層(被覆層)を形成した。
この内壁面(全面)にシリコーンゴム層(被覆層)を形成した金型本体を使用して発泡ポリスチレン成形体を形成した際の、スチーム削減率を以下の方法によって評価した。この場合、スチーム削減率は、内壁面にシリコーンゴム層を形成していない金型本体を用いた場合のスチーム量(対照スチーム量)に対する削減割合とした。
【0027】
即ち、アルミニウム金型のフレーム上部に設けたスチーム導入口に、スチーム流量計((株)キーエンス製FD−V40)を設置し、発泡ポリスチレン成形体の原料であるEPS原料(ビーズ)を金型本体のキャビティ内に充填した後、約100℃、1気圧のスチームを導入してスチームによる金型の加熱を開始(加熱工程開始)してから、EPSビーズを約90℃以上で加熱溶融して発泡ポリスチレン成形体を形成した後、金型本体の冷却/脱型工程(約60℃)に至る前にスチームによる加熱を終了する(加熱工程終了)までの、加熱工程開始から終了までに金型を60℃(加熱開始時)〜100℃(加熱終了時)の金型温度範囲に加熱、保温するために使用するスチーム量を上記スチーム流量計により測定した。なお、測定は、加熱工程開始から終了までのサイクル(即ち、EPS成形サイクル)を2回繰り返した時点において評価した。
その結果、スチーム量は対照スチーム量100に対して約70であり、約30%のスチーム量が削減されたものであった。
【0028】
[比較例1]
実施例1において、シリコーンゴム層を形成する代わりに金型本体内壁面に厚さ3mmのEPDMゴムライニングを施した金型を使用し、実施例1と同様にして発泡ポリスチレン成形体を形成した際のスチーム削減量を評価した。この場合、EPDMゴムライニングシートは、ボルト固定が必要で、この点からフレームには取り付け難く、このためバックプレートにのみボルトで固定した。
このようにしてEPDMゴムライニングシートを設けた金型本体を使用して実施例1と同様にして発泡ポリスチレン成形体を形成した場合のスチーム量は、対照スチーム量100に対して約90であり、スチーム削減量は約10%であった。
なお、コスト比較した場合、上記EPDMゴムライニングシートを金型のバックプレートのみに取り付けた場合のコストは、金型本体(フレーム及びバックプレート)全面にシリコーンゴム層を形成した場合(実施例1)のコストと比較すると、EPDMゴムライニングシートをバックプレートに取り付けるためにバックプレートを改良する必要が生じるため、約100%(約2倍)のコスト高となった。また、作業性の点からは、実施例1の刷毛塗り法の方が非常に簡便であった。
【0029】
[比較例2]
実施例1において、シリコーンゴム層を形成する代わりに、シリコーンワニス(即ち、三次元網状構造のシリコーンレジン)を主成分とする断熱塗料(信越化学工業(株)製KR271)で金型本体内壁面全面をスプレー塗装した金型を使用して実施例1と同様にして発泡ポリスチレン成形体を形成した。なお、塗装厚さは0.5mmであった。
この場合のスチーム量は、対照スチーム量100に対して約90であり、スチーム削減量は約10%であった。
【0030】
[比較例3]
JIS K 6249による硬度が85であり、実施例1のシリコーンゴム硬度より高い硬度の硬化物を与えるシリコーンゴム組成物を用いる以外は、実施例1と同様にして金型本体を作製した。このような高硬度シリコーンゴム層を形成した金型本体は、冷熱時にコーティング材の金型への追従性が不十分であることにより、容易にクラックが生じた。
【0031】
[比較例4]
JIS K 6249による硬度が15である低い硬度の硬化物を与えるシリコーンゴム組成物を用いる以外は、実施例1と同様にして金型本体を作製した。この金型本体は、スチームによりコーティング材が劣化してしまい、容易にクラックが生じた。
【符号の説明】
【0032】
10 金型本体
10a フレーム
10b バックプレート
20 キャビティ
30 内壁面
40 シリコーンゴム層
50 外壁面