特許第6115661号(P6115661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6115661-水処理方法 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6115661
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】水処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/01 20060101AFI20170410BHJP
   C02F 1/56 20060101ALI20170410BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20170410BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   B01D21/01 107A
   C02F1/56 Z
   B01D21/01 102
   B01D21/01 108
   B01D21/01 107Z
   C02F1/52 Z
   B01D21/01 106
   C08L101/02
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-23796(P2016-23796)
(22)【出願日】2016年2月10日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 昭宏
【審査官】 小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−102080(JP,A)
【文献】 特開昭56−021609(JP,A)
【文献】 特開平10−085797(JP,A)
【文献】 米国特許第03951792(US,A)
【文献】 特開昭57−132509(JP,A)
【文献】 特開平09−038700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00− 1/78
B01D 21/00−21/34
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物および濁質を含んだ被処理水の水処理方法であって、該被処理水に
一級アミノ基から三級アミノ基のいずれかの弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物と、ノニオン性高分子化合物と、第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物と、無機凝集剤を含む凝集剤であって、該ノニオン性高分子化合物が、アルキレンオキサイド基を有する化合物、アルコール性水酸基を有する化合物、およびカルボニル基を有し該カルボニル基の炭素原子が窒素原子と結合した構造(以下「CO−N構造」と称す場合がある。)を有する化合物(ただしアクリルアミド系重合体を除く)よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である凝集剤を添加して凝集処理した後、固液分離する水処理方法であって、
前記被処理水に前記第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物を添加して凝集処理し、
次いで、前記弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物を添加して凝集処理した後、前記無機凝集剤を添加して凝集処理するか、或いは、前記弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物、ノニオン性高分子化合物および無機凝集剤を同時に添加して凝集処理することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物が、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、およびジシアンジアミド・ホルマリン縮合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を含むことを特徴とする水処理方法
【請求項3】
請求項1又は2において、前記弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物の分子量が200〜10,000,000であることを特徴とする水処理方法
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記凝集剤がアルキレンオキサイド基を有する化合物を含み、該アルキレンオキサイド基を有する化合物が、ポリエチレングリコール、および/又はエチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体を含むことを特徴とする水処理方法
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記凝集剤がアルコール性水酸基を有する化合物を含み、該アルコール性水酸基を有する化合物が、ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする水処理方法
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記凝集剤がCO−N構造を有する化合物を含み、該CO−N構造が、下記式(1)又は(2)で表されることを特徴とする水処理方法
【化1】
(式中、Xは置換基を有していてもよい炭素数1又は2のアルキレン基或いは直接結合を表し、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基を表すが、RとRは互いに結合して置換基を有していてもよい5〜7員環のラクタム環を形成していてもよい。nは10以上の整数を表す。)
【化2】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基を表す。nは10以上の整数を表す。)
【請求項7】
請求項6において、前記CO−N構造を有する化合物が、ポリビニルピロリドンおよび/又はポリエチルオキサゾリンを含むことを特徴とする水処理方法
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記ノニオン性高分子化合物の分子量が4,000〜1,000,000であることを特徴とする水処理方法
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、前記第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物がポリジアリルジメチルアンモニウム塩であることを特徴とする水処理方法
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、前記無機凝集剤が鉄系無機凝集剤であることを特徴とする水処理方法
【請求項11】
請求項ないし10のいずれか1項において、前記固液分離を、沈殿処理、加圧浮上処理、濾過、もしくは膜分離により行うことを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業排水や生活排水又は該排水の生物処理水、あるいは表層水、地下水などの被処理水に含まれる有機物および濁質を、効率的に凝集処理するための凝集剤と、この凝集剤を用いた水処理方法に関する。本発明の凝集剤および水処理方法は、特に高pH、高アルカリ度で、従来の凝集剤では凝集効果の低下が起こりやすい被処理水に対する凝集処理に有効な方法である。
【背景技術】
【0002】
i) 現在、水中の有機物や濁質の除去方法としては、無機凝集剤の添加による凝集・固液分離が広く行われている。しかし、無機凝集剤のみでの凝集処理では、大量の無機凝集剤が必要となり汚泥発生量の増加に繋がる。さらには、大量の無機凝集剤を添加することで、凝集処理水の浮遊物質(SS)濃度が増加した場合は、後段の砂濾過処理や膜分離処理への負荷が増加し、処理水の水質悪化や閉塞による処理水量の低減が生じる。
【0003】
ii) 特に、被処理水が高pH、高アルカリ度である場合は、アルカリ成分との中和反応に無機凝集剤が消費されるため、凝集作用を生じさせるためにはさらに大量の無機凝集剤が必要となる。酸などのpH調整剤の添加で無機凝集剤の必要量を低減させる場合には、高アルカリ度の被処理水に対して大量のpH調整剤が必要となり、コストの増加に繋がるため不適当である。
【0004】
iii) 一方、汚泥発生量を削減する試みとして、無機凝集剤とカチオン性高分子凝集剤の併用も行われてきたが(特許文献1)、生物代謝物などの有機物の除去効果は十分なものではなかった。特に、高分子量の有機物が残存すると、後段に精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜などを用いた膜分離処理を行う場合、膜の汚染(ファウリング)が生じやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−202452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、従来法では、有機物および濁質を含む被処理水の凝集処理において、特に高pH、高アルカリ度の被処理水の場合、大量の無機凝集剤が必要になり、汚泥発生量が増加する問題があった。また、有機物の除去が不十分な凝集処理で、後段の膜分離処理における膜の汚染が生じる問題があった。
【0007】
本発明は、有機物および濁質を含む被処理水、特に高pH、高アルカリ度の被処理水の凝集処理において、pH調整や大量の無機凝集剤を必要とすることなく、効率的にかつ高度に凝集処理することができる凝集剤および水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、従来のカチオン性高分子凝集剤に代えて、特定の弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物とを併用することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] 有機物および濁質を含んだ被処理水の水処理方法であって、該被処理水に、一級アミノ基から三級アミノ基のいずれかの弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物と、ノニオン性高分子化合物と、第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物と、無機凝集剤を含む凝集剤であって、該ノニオン性高分子化合物が、アルキレンオキサイド基を有する化合物、アルコール性水酸基を有する化合物、およびカルボニル基を有し該カルボニル基の炭素原子が窒素原子と結合した構造(以下「CO−N構造」と称す場合がある。)を有する化合物(ただしアクリルアミド系重合体を除く)よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である凝集剤を添加して凝集処理した後、固液分離する水処理方法であって、前記被処理水に前記第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物を添加して凝集処理し、次いで、前記弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物を添加して凝集処理した後、前記無機凝集剤を添加して凝集処理するか、或いは、前記弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物、ノニオン性高分子化合物および無機凝集剤を同時に添加して凝集処理することを特徴とする水処理方法
【0011】
[2] [1]において、前記弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物が、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、およびジシアンジアミド・ホルマリン縮合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を含むことを特徴とする水処理方法
【0012】
[3] [1]又は[2]において、前記弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物の分子量が200〜10,000,000であることを特徴とする水処理方法
【0013】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記凝集剤がアルキレンオキサイド基を有する化合物を含み、該アルキレンオキサイド基を有する化合物が、ポリエチレングリコール、および/又はエチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体を含むことを特徴とする水処理方法
【0014】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記凝集剤がアルコール性水酸基を有する化合物を含み、該アルコール性水酸基を有する化合物が、ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする水処理方法
【0015】
[6] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記凝集剤がCO−N構造を有する化合物を含み、該CO−N構造が、下記式(1)又は(2)で表されることを特徴とする水処理方法
【0016】
【化1】
【0017】
(式中、Xは置換基を有していてもよい炭素数1又は2のアルキレン基或いは直接結合を表し、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基を表すが、RとRは互いに結合して置換基を有していてもよい5〜7員環のラクタム環を形成していてもよい。nは10以上の整数を表す。)
【0018】
【化2】
【0019】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基を表す。nは10以上の整数を表す。)
【0020】
[7] [6]において、前記CO−N構造を有する化合物が、ポリビニルピロリドンおよび/又はポリエチルオキサゾリンを含むことを特徴とする水処理方法
【0021】
[8] [1]ないし[7]のいずれかにおいて、前記ノニオン性高分子化合物の分子量が4,000〜1,000,000であることを特徴とする水処理方法
【0023】
] [ないし[8]のいずれかにおいて、前記第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物がポリジアリルジメチルアンモニウム塩であることを特徴とする水処理方法
【0024】
10] [ないしのいずれかにおいて、前記無機凝集剤が鉄系無機凝集剤であることを特徴とする水処理方法
【0030】
11] []ないし[10]のいずれかにおいて、前記固液分離を、沈殿処理、加圧浮上処理、濾過、もしくは膜分離により行うことを特徴とする水処理方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、特定の弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物を用いることで、被処理水中に含まれる有機物および濁質を、無機凝集剤による凝集フロックに取り込まれやすくするとともに、無機凝集剤を加えることで生じた微細なコロイドを除去することで、凝集処理水の水質を向上させることができる。
特に、高pH、高アルカリ度の被処理水に対し、pH調整や大量の無機凝集剤の添加を行うことなく、高い凝集効果を発揮できるため、薬剤コストの低減、汚泥発生量の低減、更には後段処理の負荷の軽減、後段の膜分離処理の膜汚染の防止が可能となり、安定かつ効率的な水処理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の凝集剤による作用機構を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0034】
本発明は、有機物および濁質を含んだ被処理水の凝集処理において、被処理水に弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物を含む凝集剤(以下、「アミン・ノニオン凝集剤」と称す場合がある。)を添加することにより、本発明の課題を解決するものである。なお、本発明における弱カチオン性のアミノ基とは、第一アミノ基、第二アミノ基、第三アミノ基を指す。該アミン・ノニオン凝集剤の添加後、あるいは同時に、無機凝集剤をさらに添加して凝集処理してもよい。また、アミン・ノニオン凝集剤を添加する前あるいは同時に第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物を添加して凝集処理してもよい。弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物はどちらを先に添加しても、これらを同時に添加しても構わない。弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物とを別々に添加する場合、これらは別の薬剤として供給されるが、弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物とを同時に添加する場合、弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物とは一剤化して供給されることが好ましく、特にこれらを混合した水溶液として被処理水に添加することが、凝集設備において薬注設備を削減できるため望ましい。
【0035】
[作用機構]
本発明による凝集処理の作用機構の詳細は明らかではないが、以下の通りと考えられる。
以下に、本発明の凝集剤による作用機構を説明する模式図である図1を参照して、本発明の凝集剤による凝集処理機構を説明する。
【0036】
1)被処理水中に含まれる有機物(A)、例えば、生物代謝物に含まれる多糖類などに対し、ノニオン性高分子化合物(B)が水素結合を介して結合し、結合物(C)が生じる。
2)弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物(D)と結合物(C)が水素結合を介してさらに結合し、結合物(E)を形成する。また、弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物(D)は、被処理水中に含まれる濁質(F)とも静電的相互作用により結合する。
なお、この弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物(D)の濁質(F)への結合は、pH9以下の条件で、弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物(D)の弱カチオン性のアミノ基が電荷を有し、濁質(F)に対して十分な静電相互作用を示す場合に起こる。そのため、高pHの場合には、以下の3)の通り、第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物を添加して、第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物(G)による凝集効果を利用することが好ましい。
3)第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物(G)は、被処理水中に含まれる濁質(F)に静電的相互作用により結合し、結合物(H)を形成する。
4)結合物(E)と結合物(H)はそれぞれ核となり、鉄系無機凝集剤を加えた際に鉄フロック(I)に取り込まれやすくなる。一方、鉄系無機凝集剤を加えたことにより、鉄フロックが生じるとともに微細な鉄コロイド(J)も生じる。
5)微細な鉄コロイド(J)は後段の沈殿処理、加圧浮上処理および濾過処理で分離しにくく、後段の膜処理における膜の目詰まりを引き起こす。しかし、弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物(D)が鉄フロック(I)と鉄コロイド(J)を架橋することで、粗大なフロック(K)を形成するとともに、微細な鉄コロイドを除去することができる。
【0037】
[被処理水]
本発明で凝集処理対象となる被処理水は、有機物および濁質を含む各種産業排水や生活排水又は該排水の生物処理水、あるいは表層水、地下水などであるが、中でも生物処理水が望ましく、特に、水質としてpH6〜11、アルカリ度100mg/L as CaCO以上、例えば100〜5,000mg/L as CaCOの被処理水であると、本発明の凝集剤による凝集効果がより一層顕著に得られるため好ましい。
【0038】
[弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物]
本発明で用いる弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物としては、第一アミノ基(一級アミノ基)から第三アミノ基(三級アミノ基)のいずれかのアミノ基を有する高分子化合物であればよく、第一アミノ基を有する、分岐型ポリエチレンイミン、直鎖型ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミジン、ポリリジン、キトサン、ポリアミドアミンデンドリマー、第二及び第三アミノ基を有するジシアンジアミド・ホルマリン縮合物などが挙げられ、これらの中でも、第一アミノ基を有する高分子化合物の重量あたりアミノ基含有率の高さから、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミンが好ましい。
【0039】
弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物の分子量は200〜10,000,000、特に1,000〜4,000,000であることが好ましい。この範囲よりも分子量が小さいものでは凝集効果が劣る傾向にあり、大きいものでは残存時に後段の膜を閉塞させる可能性がある。なお、ここで、弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物の分子量は粘度法あるいは沸点上昇法により求めた数平均分子量の値である。
【0040】
これらの弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
被処理水への弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物の添加量は、被処理水の水質や、用いる弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物の種類、アミン・ノニオン凝集剤以外の凝集薬剤の併用の有無、要求される処理水水質等によっても異なるが、有効成分量として0.5〜10mg/Lの範囲とすることが好ましい。
【0042】
[ノニオン性高分子化合物]
本発明で用いるノニオン性高分子化合物は、後掲の比較例1−3に示されるように、本発明による効果が得られないアクリルアミド系重合体を除き、アルキレンオキサイド基を有する化合物、アルコール性水酸基を有する化合物、カルボニル基を有し該カルボニル基の炭素原子が窒素原子と結合した構造(以下「CO−N構造」と称す場合がある。)を有する化合物のいずれかである。
【0043】
アルキレンオキサイド基を有する化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン(POE)−ポリオキシプロピレン(POP)ブロック共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルが挙げられる。これらのうち、アルキレンオキサイド基を有する化合物の重量あたりのアルキレンオキサイド基含有率の高さから、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン(POE)−ポリオキシプロピレン(POP)ブロック共重合体等のエチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体が好ましい。
【0044】
アルコール性水酸基を有する化合物としては、例えば、ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0045】
CO−N構造を有する化合物のCO−N構造としては、下記式(1)又は(2)で表される構造が好ましく、このようなCO−N構造を有する化合物としては、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルピペリドン、ポリビニルカプロラクタム、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリビニルアセトアミド、ポリビニルホルムアミドが挙げられ、好ましくはポリビニルピロリドン、ポリエチルオキサゾリン(ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン))である。
【0046】
【化3】
【0047】
(式中、Xは置換基を有していてもよい炭素数1又は2のアルキレン基或いは直接結合を表し、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基を表すが、RとRは互いに結合して置換基を有していてもよい5〜7員環のラクタム環を形成していてもよい。nは10以上の整数を表す。)
【0048】
【化4】
【0049】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜3のアルキル基を表す。nは10以上の整数を表す。)
【0050】
ノニオン性高分子化合物の分子量は、4,000〜1,000,000、特に6,000〜100,000であることが好ましい。この範囲よりも分子量が小さいものでは凝集効果が劣る傾向にあり、大きいものでは残存時に後段の膜を閉塞させる可能性がある。なお、ここで、ノニオン性高分子化合物の分子量は粘度法により測定した数平均分子量の値である。
【0051】
ノニオン性高分子化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。即ち、アルキレンオキサイド基を有する化合物の1種のみを用いてもよく、アルコール性水酸基を有する化合物の1種のみを用いてもよく、CO−N構造を有する化合物の1種のみを用いてもよく、アルキレンオキサイド基を有する化合物の1種又は2種以上とアルコール性水酸基を有する化合物の1種又は2種以上を併用してもよく、アルキレンオキサイド基を有する化合物の1種又は2種以上とCO−N構造を有する化合物の1種又は2種以上とを併用してもよく、アルコール性水酸基を有する化合物の1種又は2種以上とCO−N構造を有する化合物の1種又は2種以上を併用してもよく、アルキレンオキサイド基を有する化合物の1種又は2種以上とアルコール性水酸基を有する化合物の1種又は2種以上とCO−N構造を有する化合物の1種又は2種以上を併用してもよい。
【0052】
被処理水へのノニオン性高分子化合物の添加量は、被処理水の水質や、用いるノニオン性高分子化合物の種類、アミン・ノニオン凝集剤以外の凝集薬剤の併用の有無、要求される処理水水質等によっても異なるが、有効成分量として0.1〜20mg/Lの範囲とすることが好ましい。
【0053】
前述の通り、ノニオン性高分子化合物は、弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物と同時に被処理水へ添加してもよく、別々に添加してもよく、別々に添加する場合、ノニオン性高分子化合物を添加した後弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物を添加してもよく、弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物を添加した後ノニオン性高分子化合物を添加してもよいが、弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物とを同時に添加する場合は、一剤化したアミン・ノニオン凝集剤として用いることが好ましい。
【0054】
また、本発明における弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物との作用による凝集性の向上効果を相乗的な効果として得る上で、弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物とは、重量比で弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物:ノニオン性高分子化合物=1:4〜0.05、特に1:2〜0.1の範囲で用いることが好ましい。従って、アミン・ノニオン凝集剤を一剤化して用いる場合は、この範囲で弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物とノニオン性高分子化合物を含むことが好ましい。
【0055】
[無機凝集剤]
本発明では、上記のアミン・ノニオン凝集剤と共に無機凝集剤として、pH4〜14という高pH領域を含む幅広いpH範囲でフロックを形成することができる鉄系又はアルミ系の無機凝集剤を併用することが好ましい。鉄系無機凝集剤としては、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などが挙げられ、アルミ系無機凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウムや硫酸アルミニウムが挙げられる。特に凝集効果とコストの面で鉄系無機凝集剤である塩化第二鉄が好ましい。これらの無機凝集剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0056】
被処理水への無機凝集剤の添加量は、被処理水の水質や、用いる無機凝集剤の種類、要求される処理水水質等によっても異なるが、有効成分量として2〜100mg/Lの範囲とすることが好ましい。
【0057】
前述の通り、無機凝集剤は、アミン・ノニオン凝集剤と同時に被処理水へ添加してもよく、別々に添加してもよいが、アミン・ノニオン凝集剤と無機凝集剤とを同時に添加する場合は、一剤化して用いてもよい。
【0058】
[第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物]
アミン・ノニオン凝集剤を被処理水に添加する前に、第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物を添加することが好ましい。第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物は、強カチオン性基を有しており、pH9以上というような高pHの被処理水に対しても荷電中和能力を維持できるため、特に効果的である。ただし、アミン・ノニオン凝集剤の凝集効果が低下するため、アミン・ノニオン凝集剤の添加後あるいは同時に第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物を添加することは好ましくない。被処理水に第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物を添加した場合は、ラインミキサーあるいは撹拌翼による撹拌などで均一に混合し30秒以上の時間を空けてから、アミン・ノニオン凝集剤を添加することが望ましい。
【0059】
第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物としては、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)等のポリジアリルジメチルアンモニウム塩やポリ(メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル)などが挙げられ、薬剤コスト面から、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩が好ましい。
【0060】
第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物の分子量は10,000〜10,000,000、特に100,000〜10,000,000であることが好ましい。この範囲よりも分子量が小さいものでは凝集効果が劣る傾向にあり、大きいものでは残存時に後段の膜を閉塞させる可能性がある。なお、ここで、第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物の分子量は粘度法により測定した数平均分子量の値である。
【0061】
第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
被処理水への第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物の添加量は、被処理水の水質や、用いる第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物の種類、要求される処理水水質等によっても異なるが、有効成分量として0.1〜10mg/Lの範囲とすることが好ましい。
【0063】
[水処理方法]
本発明の水処理方法は、上述のような本発明の凝集剤を被処理水に添加して凝集処理した後、固液分離するものである。
【0064】
凝集処理水の固液分離方法としては特に制限はなく、沈殿処理、加圧浮上処理、濾過、膜分離のいずれの方法も採用することができる。
特に本発明によれば、本発明の凝集剤を用いることで、被処理水中の有機物や濁質を高度に凝集処理することができるため、固液分離として膜分離を行う場合や、更に固液分離水を逆浸透膜分離する場合であっても、膜汚染を防止して長期に亘り安定処理が可能となる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0066】
[被処理水]
以下の実験1〜3で用いた被処理水は以下の通りである。
被処理水A:工場Aの排水の生物処理水に、炭酸水素ナトリウムを0.08重量%になるよう加え、アルカリ度を約500mg/L as CaCO相当に調整したもの(pH9.0)。
被処理水B:工場Bの排水の生物処理水に、炭酸水素ナトリウムを0.08重量%になるよう加え、アルカリ度を約500mg/L as CaCO相当に調整したもの(pH8.6)。
被処理水C:工場Cの排水の生物処理水に、炭酸水素ナトリウムを0.08重量%になるよう加え、アルカリ度を約500mg/L as CaCO相当に調整したもの(pH9.0)。
被処理水D:工場Dの排水の生物処理水に、炭酸水素ナトリウムを0.08重量%になるよう加え、アルカリ度を約500mg/L as CaCO相当に調整したもの(pH9.2)。
被処理水E:工場Eの排水の生物処理水に、炭酸水素ナトリウムを0.08重量%になるよう加え、アルカリ度を約500 mg/L
as CaCO相当にしたもの(pH8.5)。
【0067】
[凝集薬剤]
凝集薬剤としては以下のものを用いた。
【0068】
<第一アミノ基を有する高分子化合物>
ポリエチレンイミン:分子量2,000,000、25,000、10,000、2,000、1,800、600、又は400の分岐型ポリエチレンイミン
ポリビニルアミン:ポリビニルアミン(分子量5,000,000)
【0069】
<第二及び第三アミノ基を有する高分子化合物>
ジシアンジアミド・ホルマリン縮合物:下記式(A)で示されるジシアンジアミド・ホルマリン縮合物(分子量10,000)
【0070】
【化5】
【0071】
<ノニオン性高分子化合物>
PEG:分子量400,000、20,000、10,000、6,000又は4,000のポリエチレングリコール(分子量400,000)
PVP:ポリビニルピロリドン(分子量40,000)
PVA:ポリビニルアルコール(分子量20,000)
PEO:ポリ(2−エチル−オキサゾリン)(分子量50,000)
POE/POP/POE:ポリオキシエチレン(POE)−ポリオキシプロピレン(POP)−ポリオキシエチレン(POE)トリブロック共重合体(プルロニック型ノニオン性界面活性剤、POE/POPモル比:30/7、分子量9,000)
ブリッジ700:ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(分子量5,000)
PAA:ポリアクリルアミド(分子量40,000)
ツイン85:ポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(分子量2,000)
<第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物>
ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(分子量300,000)
<鉄系無機凝集剤>
塩化第二鉄(FeCl、3.8重量%水溶液)
上記凝集薬剤は、いずれも水溶液として添加した。
【0072】
[凝集処理水の水質判断指標]
凝集処理水の水質判断の指標としては、SFF値、MFF値、MF値を用いた(大井康裕、分離技術45巻4号(2015)、216−223)。
SFF値は高分子有機物の汚染指標を、MFF値は微粒子の汚染指標を示す。MF値は、−67kPaの減圧下で測定試料300mLが有効膜面積3.0cm、孔径0.45μmのニトロセルロース膜(以下MF膜)を透過するのに要した時間を示したものである。SFF値、MFF値、MF値が低いほど、良好な凝集処理水が得られていることを示す。
【0073】
SFF値、MFF値、MF値の測定方法を簡潔に以下に示す。
【0074】
MF膜を吸引濾過装置にセットし、−67kPaの減圧下で溶解性高分子物質および微粒子フリーの基準水150mLの透過時間T0を測定した後に、測定試料(150mL)の1回目通水時間T1、2回目通水時間T2を測定する。
SFF値、MFF値、MF値は以下の式で算出される。
SFF値=T1/T0
MFF値= T2/T1
MF値=T1+T2
【0075】
[実験1]
<実施例1−1>
被処理水A500mLをビーカーに入れ、150rpmで撹拌している最中に、分子量300,000のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を2mg/Lになるよう添加し2分間撹拌した。その後、分子量25,000の分岐型ポリエチレンイミンを3.5mg/Lになるよう添加し、さらに分子量400,000のポリエチレングリコール(PEG)を1.8mg/Lになるよう添加し、2分間撹拌した。その後、塩化第二鉄を成分として20mg/Lになるよう添加し6分間撹拌した後、凝集反応時のpHを測定した。さらに、50rpmで6分間撹拌することで凝集処理を行った。凝集処理により生じたフロックの平均の大きさは目視で計測した。凝集処理後の水は、孔径7μmの濾紙で濾過し、固液分離を行った。
この濾過水に対して、SFF値、MFF値、MF値を測定した。
【0076】
<実施例1−2>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量20,000のPEGを使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0077】
<実施例1−3>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量10,000のPEGを使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0078】
<実施例1−4>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量6,000のPEGを使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0079】
<実施例1−5>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量4,000のPEGを使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0080】
<実施例1−6>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量40,000のポリビニルピロリドン(PVP)を使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0081】
<実施例1−7>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量20,000のポリビニルアルコール(PVA)を使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0082】
<実施例1−8>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量50,000のポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)(PEO)を使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0083】
<実施例1−9>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量9,000のPOE/POP/POE系トリブロック共重合体を使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0084】
<実施例1−10>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量5,000のポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル(ブリッジ700)を使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0085】
<実施例1−11>
分子量25,000の分岐型ポリエチレンイミンの代わりに分子量5,000,000のポリビニルアミンを使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0086】
<比較例1−1>
被処理水A500mLをビーカーに入れ、150rpmで撹拌している最中に、塩化第二鉄を成分として150mg/Lになるよう添加し6分間撹拌した後、凝集反応時のpHを測定した。さらに、50rpmで6分間撹拌することで凝集処理を行った。凝集処理により生じたフロックの平均の大きさは目視で計測した。凝集処理後の水は、孔径7μmの濾紙で濾過し、固液分離を行った。この濾過水に対して、SFF値、MFF値、MF値を測定した。
【0087】
<比較例1−2>
分子量400,000のPEGの代わりに同量の純水を添加した。その他は実施例1−1と同様である。
【0088】
<比較例1−3>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量40,000のポリアクリルアミド(PAA)を使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0089】
<参考例1−1>
分子量400,000のPEGの代わりに分子量2,000のポリオキシエチレンソルビタントリオレアート(ツイン85)を使用した。その他は実施例1−1と同様である。
【0090】
<結果>
実施例1−1〜1〜11、比較例1−1〜1−3および参考例1−1の結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
<考察>
塩化第二鉄150mg/Lのみで凝集を行ったところ、SFF値は非常に高い値を示し、計測時にMF膜の閉塞が生じたことからMFF値、MF値は測定不能であった(比較例1−1)。また、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)とポリエチレンイミンを用いて凝集を行ったものに対し(比較例1−2)、さらにノニオン性高分子化合物を添加したもの(実施例1−1〜I−11)は、SFF値、MFF値、および、MF値が減少していることが示された。鉄系無機凝集剤のみで被処理水Aを処理する場合、150mg/Lよりさらに大量の塩化第二鉄が必要になることが想定されるが、アミン・ノニオン凝集剤と第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物を併用することで、無機凝集剤量を大幅に削減できることが示された。
【0093】
PEGの分子量に注目すると、分子量20,000(実施例1−2)が最も効果が高く、分子量400,000(実施例1−1)ではSFF値に若干の上昇が見られる。これは添加したPEGが高分子量であるため、残存したPEG自体がMF膜に吸着し閉塞させたことが考えられる。従って、非常に高分子量のノニオン性高分子化合物を使用すると、後段で膜処理を行う場合、膜を汚染する可能性があることが分かる。また、PEGの分子量が小さくなるにつれ、SFF値、MFF値、MF値が増加しており、分子量4,000(実施例1−5)では、PEG添加の効果が小さくなっていることが分かる。このことから、添加するノニオン性の高分子化合物の分子量は少なくとも4,000以上とすることが好ましいことが示された。
【0094】
効果を示したノニオン性高分子化合物はPEG、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチルオキサゾリン(実施例1−1〜1−8)のほか、POE/POP/POE系トリブロック共重合体やブリッジ700(実施例1−9、1−10)といったノニオン性界面活性剤にも効果が見られた。一方、ポリアクリルアミド(比較例1−3)ではノニオン性高分子化合物を添加していない場合(比較例1−2)と同様のSFF値、MFF値、および、MF値を示しており、効果が見られなかった。また、ノニオン性界面活性剤であるツイン85(参考例1−1)にも十分な効果が見られなかったが、これは分子量が4,000未満であり、被処理水中の有機物と結合する作用が弱くなったためだと考えられる。
【0095】
第一アミノ基を有する高分子化合物として、ポリビニルアミン(実施例1−11)を用いた場合でも、ポリエチレンイミン(実施例1−2)と同様の効果を有していた。ただし、フロック径はポリエチレンイミンを用いたほうが大きかった。これは、用いたポリエチレンイミンが分岐型であるため、かさ高いフロックが形成されたものと考えられる。従って、後段に沈殿処理や加圧浮上処理を行う場合は、分岐型の第一アミノ基を有する高分子化合物を使用した方が、フロックの固液分離が容易となるため望ましいと考えられる。
【0096】
[実験2]
<実施例2−1>
被処理水B500mLをビーカーに入れ、150rpmで撹拌している最中に、分子量300,000のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を1.5mg/Lになるよう添加し2分間撹拌した。その後、分子量25,000の分岐型ポリエチレンイミンを5mg/Lになるよう添加し、さらに分子量20,000のポリエチレングリコール(PEG)を2.5mg/Lになるよう添加し、2分間撹拌した。その後、塩化第二鉄を成分として20mg/Lになるよう添加し6分間撹拌した後、凝集反応時のpHを測定した。さらに、50rpmで6分間撹拌することで凝集処理を行った。凝集処理により生じたフロックの平均の大きさは目視で計測した。凝集処理後の水は、孔径7μmの濾紙で濾過し、固液分離を行った。この濾過水に対して、SFF値、MFF値、MF値を測定した。
【0097】
<実施例2−2>
ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を添加しなかった。その他は実施例2−1と同様である。
【0098】
<比較例2−1>
ポリエチレンイミンを添加しなかった。その他は実施例2−1と同様である。
【0099】
<比較例2−2>
PEGを添加しなかった。その他は実施例2−1と同様である。
【0100】
<結果>
実施例2−1〜2−2および比較例2−1〜2−2の結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
<考察>
アミン・ノニオン凝集剤を用いることで、SFF値、MFF値、MF値が減少していた(実施例2−1、実施例2−2)。アミン・ノニオン凝集剤のみでも十分にSFF値、MFF値、MF値を減少させることが可能であるが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を用いることで、SFF値、MFF値、MF値をさらに減少させることが可能であることが示された。
【0103】
[実験3]
<実施例3−1>
被処理水C500mLをビーカーに入れ、150rpmで撹拌している最中に、分子量300,000のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を1.8mg/Lになるよう添加し2分間撹拌した。その後、分子量25,000の分岐型ポリエチレンイミンを2mg/Lになるよう添加し、さらに分子量20,000のポリエチレングリコール(PEG)を1mg/Lになるよう添加し、2分間撹拌した。その後、塩化第二鉄を成分として20mg/Lになるよう添加し6分間撹拌した後、凝集反応時のpHを測定した。さらに、50rpmで6分間撹拌することで凝集処理を行った。凝集処理により生じたフロックの平均の大きさは目視で計測した。凝集処理後の水は、孔径7μmの濾紙で濾過し、固液分離を行った。この濾過水に対して、SFF値、MFF値、MF値を測定した。
【0104】
<実施例3−2>
分子量25,000の分岐型ポリエチレンイミンの代わりに分子量2,000の分岐型ポリエチレンイミンを使用した。その他は実施例3−1と同様である。
【0105】
<実施例3−3>
分子量25,000の分岐型ポリエチレンイミンの代わりに分子量2,000,000の分岐型ポリエチレンイミンを使用した。その他は実施例3−1と同様である。
【0106】
<実施例3−4>
被処理水B500mLをビーカーに入れ、150rpmで撹拌している最中に、分子量300,000のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、分子量25,000の分岐型ポリエチレンイミン、分子量20,000のPEGをそれぞれ1.8mg/L、2mg/L、1mg/Lになるよう同時に添加し2分間撹拌した。その後、塩化第二鉄を成分として20mg/Lになるよう添加し6分間撹拌した後、凝集反応時のpHを測定した。さらに、50rpmで6分間撹拌することで凝集処理を行った。凝集処理により生じたフロックの平均の大きさは目視で計測した。凝集処理後の水は、孔径7μmの濾紙で濾過し、固液分離を行った。この濾過水に対して、SFF値、MFF値、MF値を測定した。
【0107】
<比較例3−1>
分子量25,000の分岐型ポリエチレンイミン、および、分子量20,000のPEGの代わりに、それぞれ同量の純水を添加した。その他は実施例3−1と同様である。
【0108】
<結果>
実施例3−1〜3−4および比較例3−1の結果を表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
<考察>
ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)と塩化第二鉄のみを用いて凝集処理を行ったものに対し(比較例3−1)、アミン・ノニオン凝集剤をさらに用いることで、SFF値、MFF値、MF値が減少していた(実施例3−1〜3−3)。ただし、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)とアミン・ノニオン凝集剤を同時に添加すると(実施例3−4)、SFF値の低下が見られず、アミン・ノニオン凝集剤の効果が半減していた。このことから、第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子は、アミン・ノニオン凝集剤と同時に添加しないことが望ましいことが示された。
【0111】
ポリエチレンイミンの分子量に注目すると(実施例3−1〜3−3)、SFF値、MFF値、MF値は殆ど変化しておらず、フロック径のみが変化していることが示された。このことから、後段に沈殿処理や加圧浮上処理を行う場合は、分岐型ポリエチレンイミンの中でも分子量25,000前後のものが、フロック径が最も大きくなるため、最も望ましいことが示された。
【0112】
[実験4]
<実施例4−1>
被処理水D500mLをビーカーに入れ、150rpmで撹拌している最中に、分子量300,000のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を2.5mg/Lになるよう添加し2分間撹拌した。その後、分子量10,000の分岐型ポリエチレンイミンを5mg/Lになるよう添加し、さらに分子量20,000のポリエチレングリコール(PEG)を5mg/Lになるよう添加し、2分間撹拌した。その後、塩化第二鉄を成分として20mg/Lになるよう添加し6分間撹拌した後、凝集反応時のpHを測定した。さらに、50rpmで6分間撹拌することで凝集処理を行った。凝集処理により生じたフロックの平均の大きさは目視で計測した。凝集処理後の水は、孔径7μmの濾紙で濾過し、固液分離を行った。この濾過水に対して、SFF値、MFF値、MF値を測定した。
【0113】
<実施例4−2>
分子量10,000の分岐型ポリエチレンイミンの代わりに分子量1,800の分岐型ポリエチレンイミンを使用した。その他は実施例4−1と同様である。
【0114】
<実施例4−3>
分子量10,000の分岐型ポリエチレンイミンの代わりに分子量600の分岐型ポリエチレンイミンを使用した。その他は実施例4−1と同様である。
【0115】
<実施例4−4>
分子量10,000の分岐型ポリエチレンイミンの代わりに分子量300の分岐型ポリエチレンイミンを使用した。その他は実施例4−1と同様である。
【0116】
<比較例4−1>
分子量10,000の分岐型ポリエチレンイミンの代わりに同量の純水を添加した。その他は実施例4−1と同様である。
【0117】
<比較例4−2>
分子量10,000の分岐型ポリエチレンイミン、および分子量20,000のPEGの代わりに、それぞれ同量の純水を添加した。その他は実施例4−1と同様である。
【0118】
<結果>
実施例4−1〜4−4および比較例4−1〜4−2の結果を表4に示す。
【0119】
【表4】
【0120】
<考察>
分子量2,000未満の分岐型ポリエチレンイミンでも、分子量10,000の分岐型ポリエチレンイミンと同等の凝集性能を示す(実施例4−1〜4−4−4)。
ポリエチレンイミンを添加せずポリエチレングリコール(PEG)のみを添加すると、ポリエチレンイミンとPEGの両方を添加していない場合よりも凝集性能が悪くなる(比較例4−1〜4−2)。つまり、PEGは第一アミノ基を有する高分子化合物が存在していないとまったく凝集効果を発揮せず、むしろ凝集処理水質を悪化させる方向に働く。
【0121】
[実験5]
<実施例5−1>
被処理水E500mLをビーカーに入れ、150rpmで撹拌している最中に、分子量300,000のポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を1.5mg/Lになるよう添加し2分間撹拌した。その後、分子量10,000のジシアンジアミド・ホルマリン縮合物(DCD-HCHO)を2.5mg/Lになるよう添加し、さらに分子量40,000のポリビニルピロリドン(PVP)を2.5mg/Lになるよう添加し、2分間撹拌した。その後、塩化第二鉄を成分として20mg/Lになるよう添加し6分間撹拌した後、凝集反応時のpHを測定した。さらに、50
rpmで6分間撹拌することで凝集処理を行った。凝集処理により生じたフロックの平均の大きさは目視で計測した。凝集処理後の水は、孔径7μmの濾紙で濾過し、固液分離を行った。この濾過水に対して、SFF値、MFF値、MF値を測定した。
【0122】
<比較例5−1>
PVPの代わりに同量の純水を添加した。その他は実施例5−1と同様である。
【0123】
<比較例5−2>
DCD−HCHOの代わりに同量の純水を添加した。その他は実施例5−1と同様である。
【0124】
<比較例5−3>
DCD−HCHOとPVPの代わりに同量の純水を添加した。その他は実施例5−1と同様である。
【0125】
<比較例5−4>
実施例5−1において、凝集処理を行わず、被処理水Eを孔径7μmの濾紙で濾過し、固液分離を行った。この濾過水に対して、SFF値、MFF値、MF値を測定した。
【0126】
<結果>
実施例5−1および比較例5−1〜5−4の結果を表5に示す。
【0127】
【表5】
【0128】
<考察>
第二及び第三アミノ基を有するジシアンジアミド・ホルマリン縮合物でも、第一アミノ基を有するポリエチレンイミンと同等の凝集性能を示す(実施例5−1)。
ジシアンジアミド・ホルマリン縮合物を添加せずポリビニルピロリドン(PVP)のみを添加すると、ポリエチレンイミンとPVPの両方を添加していない場合よりもMFF値が悪くなる(比較例5−2〜5−3)。つまり、PVPは第二及び第三アミノ基を有する高分子化合物が存在していないとまったく凝集効果を発揮しない。
【符号の説明】
【0129】
A 有機物
B ノニオン性高分子化合物
C,E,H 結合物
D 弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物
F 濁質
G 第四級アンモニウム塩基を含むカチオン性高分子化合物
I 鉄フロック
J 鉄コロイド
K 粗大フロック
【要約】
【課題】有機物および濁質を含む被処理水、特に高pH、高アルカリ度の被処理水の凝集処理において、pH調整や大量の無機凝集剤を必要とすることなく、効率的にかつ高度に凝集処理することができる凝集剤および水処理方法を提供する。
【解決手段】弱カチオン性のアミノ基を有する高分子化合物と、ノニオン性高分子化合物とを含む凝集剤。ノニオン性高分子化合物が、アルキレンオキサイド基を有する化合物、アルコール性水酸基を有する化合物、およびカルボニル基を有し該カルボニル基の炭素原子が窒素原子と結合した構造を有する化合物(ただしアクリルアミド系重合体を除く)よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である。
【選択図】図1
図1