(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115767
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】ディスク状素材の熱間鍛造方法
(51)【国際特許分類】
B21J 13/02 20060101AFI20170410BHJP
B21K 1/32 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
B21J13/02 Z
B21K1/32 Z
B21J13/02 L
B21J13/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-75815(P2013-75815)
(22)【出願日】2013年4月1日
(65)【公開番号】特開2014-200792(P2014-200792A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古曵 聡志
(72)【発明者】
【氏名】福井 毅
(72)【発明者】
【氏名】栂 貴志
(72)【発明者】
【氏名】松本 英樹
【審査官】
塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−205222(JP,A)
【文献】
特開2001−062541(JP,A)
【文献】
再公表特許第2012/090892(JP,A1)
【文献】
特開2011−177785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 13/02
B21K 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被鍛造材を上型と下型の間に配置して熱間鍛造するディスク状素材の熱間鍛造方法において、
前記上型および前記下型のうち少なくとも前記上型の作業面には型彫面が形成され、且つ、前記上型の中心軸には半球状の突起部を有し、該突起部から前記上型の外周方向に延びる独立した複数の凸部と、該凸部の両側に凹部を具備し、上型の型彫面をその上方向からみたとき、前記凸部は、前記半球状の突起部と接する前記凸部の円弧部分が前記凸部の外周端部の円弧部分よりも小さな円弧となる扇状をなし、
前記上型を用いて被鍛造材を鍛造するとき、
(1)前記上型と被鍛造材の中心軸を合わせる位置合わせ工程と、
(2)前記上型を圧下することにより、前記上型に設けられた凸部により被鍛造材を強圧下しつつ、前記凹部により被鍛造材を低圧下する押圧工程と、
(3)前記押圧工程後に被鍛造材を相対的に円周方向に回転させることにより、次の押圧する位置に回転移動させる回転移動工程と、
を含み、前記(2)及び(3)を繰返すことにより、被鍛造材の押圧面全面を熱間鍛造することを特徴とするディスク状素材の熱間鍛造方法。
【請求項2】
前記上型の突起部には、Ni基超耐熱合金の肉盛層が形成されているか、或いは、前記上型の突起部がNi基超耐熱合金でなることを特徴とする請求項1に記載のディスク状素材の熱間鍛造方法。
【請求項3】
前記下型の作業面にも型彫面が形成され、且つ、前記下型の中心軸には半球状の突起部を有し、該突起部から前記下型の外周方向に延びる独立した複数の凸部と、該凸部の両側に凹部を具備し、前記下型の型彫面をその上方向からみたとき、前記凸部は、前記半球状の突起部と接する前記凸部の円弧部分が前記凸部の外周端部の円弧部分よりも小さな円弧となる扇状をなすことを特徴とする請求項1または2に記載のディスク状素材の熱間鍛造方法。
【請求項4】
前記下型の突起部には、Ni基超耐熱合金の肉盛層が形成されているか、或いは、前記下型の突起部がNi基超耐熱合金でなることを特徴とする請求項3に記載のディスク状素材の熱間鍛造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク状素材の熱間鍛造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、タービンディスク等に用いられるディスク状素材を製造するにあたり、通常の熱間鍛造装置を用いて、製品形状の上型と下型を用意し、上型と下型との間に被鍛造材を配置し、上型と下型とで被鍛造材の上下全面を圧縮し、鍛造する方法がある。
しかしながら、この方法では上下の各金型と被鍛造材との当接面積が広く、押圧力が分散するため型閉めには巨大な駆動力を要する。しかも、タービンディスク等に用いる被鍛造材はTi合金やNi基超耐熱合金等の難加工性材として知られるものであるため、ディスク状素材を得ようとすると、鍛造装置や金型に大きな負荷がかかる。
この課題を解決する方法として、鍛造領域を小さくし、被鍛造材を回転させてディスク状素材とする、所謂回転鍛造として、例えば、特開2001−340938号公報(特許文献1)や特開2009−12059号公報(特許文献2)の提案がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−340938号公報
【特許文献2】特開2009−12059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の提案では、複数の凹凸を有する特殊な上型を用いて鍛造し、表面に複数の凹凸のある中間素材とするものである。この特許文献1のように、上型に凹凸を形成して、被鍛造材を鍛造し、次に凹凸面を下型側として鍛造を行うと、被鍛造材の凹凸面にかぶりきずが発生するおそれがある。
また、特許文献2のように、上型の押圧面の中心部が平坦な形状では、熱間鍛造中の素材安定性に問題がある。具体的には、薄肉ディスクの場合には、鍛造中の材料に反りが生じ型内での中心軸がずれてしまい、偏肉等の不良が発生するおそれがある。
本発明の目的は、被鍛造材の表面欠陥の防止と、鍛造中の被鍛造材の中心軸の位置ずれを確実に防止し、偏肉などの不良を防止することが可能な回転鍛造によるディスク状素材の熱間鍛造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、
被鍛造材を上型と下型の間に配置して熱間鍛造するディスク状素材の熱間鍛造方法において、
前記上型および前記下型のうち少なくとも前記上型の作業面には型彫面が形成され、且つ、前記上型の中心軸には
半球状の突起部を有し、該突起部から前記上型の外周方
向に延び
る独立した複数の凸部と、該凸部の両側に凹部を具備し、
上型の型彫面をその上方向からみたとき、前記凸部は、前記半球状の突起部と接する前記凸部の円弧部分が前記凸部の外周端部の円弧部分よりも小さな円弧となる扇状をなし、
前記上型を用いて被鍛造材を鍛造するとき、
(1)前記上型と被鍛造材の中心軸を合わせる位置合わせ工程と、
(2)前記上型を圧下することにより、前記上型に設けられた凸部により被鍛造材を
強圧下しつつ、前記凹部により被鍛造材を低圧下する押圧工程と、
(3)前記押圧工程後に被鍛造材を相対的に円周方向に回転させることにより、次の押圧する位置に回転移動させる回転移動工程と、
を含み、前記(2)及び(3)を繰返すことにより、被鍛造材の押圧面全面を熱間鍛造するディスク状素材の熱間鍛造方法である。
【0006】
好ましくは、前記上型の突起部には、Ni基超耐熱合金の肉盛層が形成されているか、或いは、前記上型の突起部がNi基超耐熱合金でなるディスク状素材の熱間鍛造方法である。
また、本発明は、前記下型の作業面にも型彫面が形成され、且つ、前記下型の中心軸には
半球状の突起部を有し、該突起部から前記下型の外周方
向に延び
る独立した複数の凸部と、該凸部の両側に凹部を具備
し、前記下型の型彫面をその上方向からみたとき、前記凸部は、前記半球状の突起部と接する前記凸部の円弧部分が前記凸部の外周端部の円弧部分よりも小さな円弧となる扇状をなすディスク状素材の熱間鍛造方法である。
好ましくは、前記下型の突起部には、Ni基超耐熱合金の肉盛層が形成されているか、或いは、前記下型の突起部がNi基超耐熱合金でなるディスク状素材の熱間鍛造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被鍛造材の表面欠陥の防止と、鍛造中の被鍛造材の中心軸の位置ずれを確実に防止し、偏肉などの不良を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のディスク状素材の鍛造方法の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明に係る下型の一の実施形態を示す模式図である。
【
図4】本発明に係る下型の他の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を図面を用いて説明する。
先ず、本発明で用いる上型について説明する。
図2は本発明に係る上型1の作業面の模式図である。上型1の作業面には型彫面が形成される。そして、上型1の中心軸には半球状の突起部2を有し、前記の突起部2から上型の外周方向に延びた凸部3と、該凸部の両側に凹部4を具備する。
前述の突起部2は被鍛造材5の中心軸を合わせるときの目印となり、最初の押圧工程以降は、被鍛造材の位置ずれを防止するストッパの役割を果たす。また、型彫面に形成された凸部3は強圧下する押圧面となり、凹部4は低圧下する押圧面となる箇所である。
なお、
図2では、凸部3と凹部4とをそれぞれ2個としているが、例えば、凸部の個数を3個とし、凹部の個数を3個等としても良く、凸部と凹部の個数については特に限定しない。また、強圧下する凸部は幅が狭いほど成形荷重を大きくできることから、被鍛造材の大きさや被鍛造材の材質等を考慮して凸部の幅を決定すると良い。
【0010】
次に、本発明で用いる下型6について説明する。
図3及び
図4は本発明で用いる下型6の模式図である。下型6は
図3に示すように平坦な構造でもよいが、好ましくは
図4に示すように前記上型と同じく、作業面に型彫面が形成され、且つ、下型の中心軸には突起部7を有し、該突起部から下型6の外周方
向に延びた凸部8と、該凸部の両側に凹部9を具備する構造が良い。
これは、下型6にも前述の上型1と同じ型彫面とし、下型6の中心軸の突起部7とで被鍛造材5の中心軸を上下で固定することにより、鍛造中の被鍛造材の位置ずれをより確実の防止することができる。また、下型6に形成された型彫面の凸部8と上型に形成された凸部3とで被鍛造材を鍛造することにより、より成形荷重を大きくすることができる。従って、下型に型彫面を形成するときは、その凸部と凹部の個数や幅を上型と同じとするのが良い。
【0011】
また、上型や下型に形成された半球状の突起部は、最も荷重が加わるため、半球状の突起部を突起部以外の材質よりも高強度な材料で被覆するか、或いは、突起部自体を高強度の異種金属を用いるのが好ましい。中でもNi基超耐熱合金であれば、高温強度に優れるため、特に好ましい。
例えば、Ni基超耐熱合金で突起部を被覆するのであれば、肉盛溶接によって突起部を被覆するのが最も簡便な方法であるだけでなく、費用も比較的安価となる。
また、半球状の突起部自体をNi基超耐熱合金としても良い。突起部自体をNi基超耐熱合金とすると、突起部の強度は前述のNi基超耐熱合金の肉盛と比較して高くなることから、突起部の割れや欠け等の欠陥の発生を抑制できる。
何れの方法を採用しても良いが、肉盛溶接は突起部自体をNi基超耐熱合金とするよりも安価である反面、強度的には突起部自体をNi基超耐熱合金よりもやや劣る。そのため、強度と費用とを勘案し、何れの方法を採用するかを決定すると良い。
【0012】
本発明では、上述した上型及び下型を用いて回転鍛造による熱間鍛造を行う。
先ず、本発明では、前記上型、被鍛造材及び前記下型のそれぞれの中心軸を合わせる位置合わせ工程を行う。
上述したように、上型には突起部が設けられており、これが被鍛造材と上型との中心軸を合わせる目印となる。また、下型にも突起部が設けられている場合は、上型及び下型に設けられた突起部を目印として、被鍛造材の中心軸を合わせれば良い。位置合わせの手段としては、例えば、予め上型と下型の中心軸を合わせておき、被鍛造材をマニピュレータで把持しつつ突起部を目印として位置わせを行う方法が簡便である。
次に、押圧工程として、前記上型を圧下することにより、前記上型に設けられた凸部により被鍛造材を押圧する。上述したように凸部は押圧面となる部位であるため、凸部により被鍛造材の所定の箇所を押圧(鍛造)する。また、金型に形成された凸部と凹部の高さの差が小さかったり、押圧力が大きかったりすると、凸部が強圧下領域、凹部が低圧下領域となる。なお、このとき、下型にも上型と同じ凸部が設けられていると、一度の押圧により押圧量を多くすることが可能となる。下型が平坦な場合であると、被鍛造材の上型に接触する面側を鍛造し終わってから、被鍛造材を反転して再度押圧する場合があるため、下型にも凸部を設けておく方が、生産性の観点から有利である。
前記押圧工程後に被鍛造材を相対的に円周方向に回転させることにより、次の押圧する位置に回転移動させる回転移動工程を行う。次の押圧する位置としては、前記の押圧工程で押圧した場所の一部が重複するように回転移動させるとかぶり傷を防止することが可能となる。また、凸部から凹部に向かってテーパーを形成しておけば、回転移動が容易となって好ましい。
以上の押圧工程と回転移動工程とを繰返すことにより、被鍛造材を効率よくディスク状素材とすることが可能となる。
なお、本発明でいう熱間鍛造は、熱間プレス、恒温鍛造やホットダイ等も熱間鍛造に含むものとする。
【実施例】
【0013】
上型1として、
図2に示す構造のものを用意した。
図2に示すように、上型1は、作業面に型彫面が形成され、且つ、上型の中心軸には突起部2を有し、該突起部から上型の外周方
向に延びた2ヶ所の凸部3と、前記凸部3の両側に2ヶ所の凹部4を具備するものである。なお、凸部3と凹部4とは中心軸から90°の範囲で放射状に外周方向に形成されたものである。
また、下型6として、
図4に示すように、前記の上型1の凸部と凹部の個数や幅を上型と同じとした凸部8と凹部9とを有し、下型6の中心軸に突起部7を有するものを用意した。
前記上型1と下型6の突起部(2、7)には、肉盛溶接によりUdimet(Udimet(R)はスペシャルメタルズ社の登録商標))520で被覆した。
被鍛造材5として円柱状のワスパロイ(United Technologies社の商標)相当合金を1060℃に加熱して被鍛造材5とした。
【0014】
図1に示す下型6上に被鍛造材5を配置して、上型1で熱間鍛造した。このとき、下型3には突起が形成されているため、被鍛造材が不安定とならないように、マニピュレータで被鍛造材を把持し、上型1及び下型6突起を目印として、計測器を用いて上型、被鍛造材及び下型のそれぞれの中心軸を合わせる位置合わせを行った後に熱間鍛造を行った。
続いて、上型1の圧下により被鍛造材5を押圧して最初の押圧を行って、被鍛造材5の中心軸を上型1及び下型6の突起部(2、7)により中心軸を固定するとともに、上型1及び下型6に形成された凸部(3、8)により強圧下し、凹部(4、9)により低圧下した。
続いて、前記最初の押圧工程後に被鍛造材を相対的に円周方向に回転させることにより、前記最初の押圧工程にて、押圧さた位置に一部が重複する位置を次の押圧する位置に回転移動させた。回転はマニピュレータで行った。このとき、被鍛造材5の中心軸は下型6で固定され、被鍛造材の位置ずれはなかった。
続いて、上型1の圧下により被鍛造材5を押圧する押圧工程と、前記押圧工程後に被鍛造材を相対的に円周方向に回転させることにより、前記押圧工程にて、押圧さた位置に一部が重複する位置を次の押圧する位置に回転移動させる回転移動とを10回繰返して被鍛造材の押圧面全面を熱間鍛造して、ディスク状素材に成形した。
鍛造中の被鍛造材5の中心軸は下型6で固定され、最後の熱間鍛造が終了するまで被鍛造材の位置ずれはなかった。
その結果、ディスク状素材も偏肉などの不良もなく、良好なディスク状素材が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の熱間鍛造方法は、熱間プレス、恒温鍛造やホットダイ等の熱間鍛造にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0016】
1 上型
2 突起部
3 凸部
4 凹部
5 被鍛造材
6 下型
7 突起部
8 凸部
9 凹部