【文献】
BRAKEMANN, T. et al.,Molecular Basis of the Light-driven Switching of the Photochromic Fluorescent Protein Padron,J. Biol. Chem.,2010年,285 (19),p.14603-14609,特に、14603頁要旨、14604頁右欄RESULTSの1段落、14604頁左欄2段落
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1又は2に記載の蛍光蛋白質が融合された融合蛋白質であって、該蛍光蛋白質の部分が、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質として機能可能である、融合蛋白質。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、光切替速度が速くかつ光安定性の高い、フォトクロミズム効果を示す蛍光特性を有する蛍光蛋白質を開発するために、まず、公知のRSFPのうち蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質であるPadron(アミノ酸配列は配列番号2)に着目した。そして、本開示は、Padronのアミノ酸配列において7つの変異(N102I、L141P、F173S、S190D、D192V、K202R、E218G)を行うことによって、光切替速度が速くかつ高い光安定性を示し、さらに無蛍光性から蛍光性へ及び/又は蛍光性から無蛍光性への切替サイクル数(リバースサイクル)が増加した、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質が得られるとの知見に基づく。
【0011】
本開示の蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、光切替速度が向上するという効果を奏し、その他の一又は複数の実施形態において、Padronよりも速い光切替速度を示すという効果を奏する。ライブセルイメージングにおいては観察対象がブラウン拡散や定方向変異などの運動をしている。1撮影中に観察対象が運動すると空間分解能が低下する。そのため、光切替速度が向上するとイメージングの空間分解能が向上するという効果が奏されうる。
【0012】
本開示の蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、光安定性が向上するという効果を奏し、その他の一又は複数の実施形態において、Padronよりも高い光安定性を示すという効果を奏する。蛍光蛋白質はブリーチング(褪色)してしまうと蛍光を発しなくなるため観察ができなくなる。そのため、ブリーチングするまでの時間が長いほど、すなわち、光安定性が高いほど、観察可能な時間が長くなるという効果が奏されうる。
【0013】
本開示の蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、光切替サイクル数、すなわち、ブリーチングするまでに可能な無蛍光性から蛍光性へ及び/又は蛍光性から無蛍光性への光切替の回数が向上するという効果を奏し、その他の一又は複数の実施形態において、Padronよりも多い光切替サイクル数を示すという効果を奏する。蛍光蛋白質はブリーチングしてしまうと蛍光を発しなくなるため観察ができなくなる。そのため、ブリーチングするまでに可能な光切替のon/off回数が多いほど、すなわち、光切替サイクル数が多いほど、観察可能な時間が長くなるという効果が奏されうる。
【0014】
本開示の蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、光切替速度が速くかつ高い光安定性を示すという効果を奏する。また、本開示の蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、さらに、増加した光切替サイクル数を示すという効果を奏する。
【0015】
本開示の蛍光蛋白質は、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質であり、励起光照射中であっても安定して蛍光性がonの状態となるため、一又は複数の実施形態において、検出器露光時間内に十分なシグナルを検出できるという効果を奏する。
【0016】
本開示の蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、蛍光性の状態で発現する蛋白質である。「蛍光性の状態で発現する」とは、細胞内で発現した最初の状態で蛍光性を示すことをいう。一方、Padronは、無蛍光性の状態で発現する蛋白質である。本開示の蛍光蛋白質は蛍光性の状態で発現するから、一又は複数の実施形態において、どの細胞が本開示の蛍光蛋白質を発現しているか確認しやすいという効果を奏し得る。
【0017】
[本開示の蛍光蛋白質]
本開示は、一態様において、以下の(a)又は(b)に示す蛍光蛋白質(以下、「本開示の蛍光蛋白質」ともいう)に関する。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質;
(b)配列番号1に記載されたアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質として機能可能な蛋白質。
【0018】
配列番号1に記載されたアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有する蛋白質の蛍光特性は、一又は複数の実施形態において、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質と同等のものでもよいし、異なるものでもよい。本開示における「1から数個」とは、一又は複数の実施形態において、1〜50、1〜40、1〜35、1〜30、1〜25、1〜20、1〜15、1〜10、1〜9、1〜8、1〜7、1〜6、1〜5、1〜4、1〜3、1〜2、又は1個を含む。
【0019】
本開示において「蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質」とは、一又は複数の実施形態において、ポジティブ光切替型の可逆的に光切替可能な蛍光蛋白質をいう。本開示において「光切替型の可逆的に光切替可能な蛍光蛋白質」とは、一又は複数の実施形態において、蛍光のonとoffを波長の異なる2つの光照射によって制御ができ、かつ、onとoffの切り替えが繰り返し行うことができる蛋白質をいう。
【0020】
本開示の蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、化学合成により合成した蛋白質であってもよいし、遺伝子組み換え技術により作製した組み換え蛋白質であってもよい。遺伝子組み換え技術による組み換え蛋白質の作製としては、一又は複数の実施形態において、本開示の蛍光蛋白質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換した宿主を用いて作製する方法が挙げられる。
【0021】
本開示の蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、前記(b)の蛋白質は、蛍光性の状態で発現する蛋白質である。
【0022】
本開示の蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、前記(a)又は(b)に示す蛍光蛋白質が他の蛋白質又はペプチドと融合した融合蛋白質であって、該蛍光蛋白質の部分が、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質として機能可能な融合蛋白質である。本開示の融合蛋白質は、一又は複数の実施形態において、該蛍光蛋白質の部分が、蛍光性の状態で発現する融合蛋白質である。
【0023】
前記融合蛋白質において前記(a)又は(b)に示す蛍光蛋白質に結合される蛋白質は、限定されない一又は複数の実施形態において、シグナル配列、発現タグ、又は、蛋白質(必要に応じてリンカー配列)が挙げられる。
【0024】
本開示の蛍光蛋白質は、光切替速度が速く、また繰り返しの蛍光の読み出しが可能であるため、一又は複数の実施形態において、超解像イメージング、超高密度光メモリー及び超高感度蛍光イメージング等に用いることができる。本開示の蛍光蛋白質は、蛍光の光切替のon/offを協同的に繰り返し行うことができることから、一又は複数の実施形態において、FDAP法による細胞内分子拡散計測を行うことができる。また、本開示の蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、光切替が可能な蛍光蛋白質を利用した蛍光性機能指示薬、発光蛋白質、発光性機能指示薬として使用することができる。
【0025】
[本開示のDNA]
本開示は、一態様において、本開示の蛍光蛋白質をコードするDNAに関する。また、本開示は、その他の一態様において、以下の(a)〜(c)のいずれかに示す蛋白質をコードするDNA及び以下の(d)又は(e)に示すDNA(以下、「本開示のDNA」ともいう)に関する。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質。
(b)配列番号1に記載されたアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質として機能可能な蛋白質。
(c)(a)又は(b)の蛋白質が融合された融合蛋白質であって、前記蛋白質の部分が、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質として機能可能な融合蛋白質。
(d)配列番号3に記載の塩基配列を有するDNA。
(e)配列番号3に記載の塩基配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質として機能可能な蛋白質をコードする塩基配列を有するDNA。
【0026】
本開示のDNAは、一又は複数の実施形態において、前記(b)、(c)、(e)における蛋白質が蛍光性の状態で発現する蛋白質であるDNAである。
【0027】
本開示のDNAによれば、一又は複数の実施形態において、本開示のDNAを含む組み換えベクターを宿主に導入することによって、本開示の蛍光蛋白質を発現し、産生することができる。本開示のDNAは、一又は複数の実施形態において、特異的プライマーを用いたPCRや、ホスホアミダイト法等によって製造することができる。
【0028】
[本開示のベクター]
本開示は、一態様において、本開示の蛍光蛋白質を発現可能なベクターに関する。本開示のベクターは、一又は複数の実施形態において、本開示のDNAを有するベクターである。本開示のベクターは、一又は複数の実施形態において、本開示のDNAを適当なベクターに挿入することによって得ることができる。本開示のDNAを挿入するベクターとしては、一又は複数の実施形態において、宿主中で複製可能なものであれば特に制限されず、プラスミド、及びファージ等が挙げられる。
【0029】
プラスミドとしては、一又は複数の実施形態において、大腸菌由来のプラスミド、枯菌草由来のプラスミド、及び酵母菌由来のプラスミド等が挙げられる。
【0030】
[本開示の形質転換体]
本開示は、一態様において、本開示の蛍光蛋白質を発現する形質転換体に関する。本開示の形質転換体は、一又は複数の実施形態において、本開示の蛍光蛋白質を発現する細胞、又は、該細胞を含む組織、器官、生体である。また、本開示は、一又は複数の実施形態において、本開示のDNA又は組み換えベクターを有する形質転換体に関する。本開示の形質転換体は、一又は複数の実施形態において、本開示のDNA又は組み換えベクターを宿主に導入することによって作成することができる。
【0031】
宿主としては、一又は複数の実施形態において、通常使用される公知の微生物、及び培養細胞等が挙げられる。微生物としては、一又は複数の実施形態において、大腸菌又は酵母等が挙げられる。培養細胞としては、一又は複数の実施形態において、動物細胞(例えば、CHO細胞、HEK−293細胞、又はCOS細胞)又は昆虫細胞(例えば、BmN4細胞)等が挙げられる。
【0032】
[イメージング方法]
本開示は、一態様において、本開示の蛍光蛋白質、本開示のDNA、又は、本開示のベクターを用いるイメージング方法に関する。本開示のイメージング方法は、一又は複数の実施形態において、本開示の蛍光蛋白質を細胞等に導入すること、本開示の蛍光蛋白質の光切替を行い蛍光性をon/offすること、及び/又は、本開示の蛍光蛋白質の蛍光シグナルを検出することを含む。本開示のイメージング方法は、一又は複数の実施形態において、超解像イメージングであって、一又は複数の実施形態において、PALM(photoactivated localization microscopy)、STORM(stochastic optical reconstruction microscopy)、RESOLFT(reversible saturable optical fluorescence transition)、又は、SOFI(stochastic optical fluctuation imaging)が挙げられる。
【0033】
一又は複数の実施形態において、RESOLFTによる超解像イメージングにおいて、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって無蛍光性から蛍光性になり蛍光励起のための光照射によって蛍光性から無蛍光性になるネガティブ光切替型(例えば、DronpaやrsEGFP)を用いる場合、488 nmはドーナツ光と通常光が必要で、405 nmは通常光が必要で、計3種類の光が必要となり光学系が複雑になる。一方、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になるポジティブ光切替型の本開示の蛍光蛋白質であれば、488 nmの通常光と、405 nmはドーナツ光の2種類で済むため、光学系が簡単になるという利点がある。
また、ネガティブ光切替型の場合、蛍光観察のための励起光照射によって蛍光性がoffになることから、蛍光観察中に蛍光がoffになり、高いS/N比を保ちつつ高速に蛍光の切り替えを行うことが難しいという問題がある。
【0034】
[フォトクロミック材料]
本開示の蛍光蛋白質は、フォトクロミズム効果を示すため、一又は複数の実施形態において、CD、DVD、ホログラフィー記録媒体、スマートカードなどの光記録媒体の用途、広告板、蛍光板、TV、コンピュータモニターなどの表示素子の用途、或いは、レンズ、バイオセンサー、バイオチップ、フォトクロミック繊維素材などの用途に適用できるフォトクロミック材料とすることができる。
【0035】
本開示はさらに以下の限定されない一又は複数の実施形態に関する。
〔1〕 以下の(a)又は(b)に示す蛍光蛋白質。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質;
(b)配列番号1に記載されたアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質として機能可能な蛋白質。
〔2〕 前記(b)の蛋白質が、蛍光性の状態で発現する蛋白質である、〔1〕記載の蛍光蛋白質。
〔3〕 〔1〕又は〔2〕に記載の蛍光蛋白質が融合された融合蛋白質であって、該蛍光蛋白質の部分が、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質として機能可能である、融合蛋白質。
〔4〕 前記蛍光蛋白質の部分が、蛍光性の状態で発現する、〔3〕記載の融合蛋白質。
〔5〕 〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の蛋白質をコードする塩基配列を有するDNA。
〔6〕 以下の(c)又は(d)に示すDNA。
(c)配列番号3に記載の塩基配列を有するDNA。
(d)配列番号3に記載の塩基配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加された塩基配列を有し、蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質として機能可能な蛋白質をコードする塩基配列を有するDNA。
〔7〕 前記(d)の蛋白質が、蛍光性の状態で発現する蛋白質である、〔6〕記載のDNA。
〔8〕 〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の蛋白質を発現可能なベクター。
〔9〕 〔5〕から〔7〕のいずれかに記載のDNAを有するベクター。
〔10〕 〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の蛋白質を発現する形質転換体。
〔11〕 〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の蛋白質、〔5〕から〔7〕のいずれかに記載のDNA、〔8〕若しくは〔9〕に記載のベクター、又は、〔10〕に記載の形質転換体を用いるイメージング方法。
〔12〕 〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の蛍光蛋白質を含むフォトクロミック材料。
【0036】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0037】
[実施例1の蛍光蛋白質の作製]
蛍光励起のための光照射によって無蛍光性から蛍光性になり、蛍光励起しない特定の波長の光照射によって蛍光性から無蛍光性になる蛍光蛋白質であるPadron(アミノ酸配列は、配列番号2)に7つの変異;N102I、L141P、F173S、S190D、D192V、K202R、及びE218Gを導入して配列番号1のアミノ酸配列で表される蛍光蛋白質(実施例1の蛍光蛋白質)を作製した。
【0038】
[バクテリア発現ベクターの作製]
実施例1の蛍光蛋白質のバクテリア発現ベクターは、実施例1の蛍光蛋白質をコードする遺伝子(配列番号3の塩基配列)をバクテリア発現ベクターpRSET
Bに導入して作製した。同様にPadron、Dreiklang、rsEGFP及びDronpaの4つの可逆的に光切替可能な蛍光蛋白質についても同様にバクテリア発現ベクターを作製した。
【0039】
[哺乳類発現ベクターの作製]
実施例1の蛍光蛋白質の哺乳類発現ベクターは、実施例1の蛍光蛋白質をコードする遺伝子(配列番号3の塩基配列)を哺乳類発現ベクターpcDNA3に導入して作製した。
また、下記のシグナル配列又はシグナル蛋白質を融合させた実施例1の蛍光蛋白質の哺乳類発現ベクターも作製した。すなわち、1)ヒトシトクロムcオキシダーゼのサブユニットVIII(COX-VIII)の前駆体由来の重複ミトコンドリア標的シグナル、2)β−N−アセチルグルコサニル−グリコペプチドβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼのゴルジ体局在シグナル配列、3)DNA結合蛋白質H2B、及び4)核小体蛋白質フィブリラリンを、それぞれ、ミトコンドリア、ゴルジ体、核、及び核小体を実施例1の蛍光蛋白質の標的とするため、結合させた。
さらに、βアクチン、ビメンチン、パキシリン、及びザイキシンをそれぞれ実施例1の蛍光蛋白質と17アミノ酸長のリンカー配列(GGSGGSGGSGGSGGQFQ)を介して融合させた融合蛋白質の哺乳類発現ベクターも作製した。同様に、クラスリンと実施例1の蛍光蛋白質とが15アミノ酸長のリンカー配列を介して融合した融合蛋白質の哺乳類発現ベクターも作製した。
【0040】
[実施例1の蛍光蛋白質の精製]
N末にポリヒスチジンタグを持つ実施例1の蛍光蛋白質をバクテリア発現ベクターpRSET
Bに導入し、大腸菌で発現させた。23℃65時間LB培地で培養した後、菌体をフレンチプレスで破砕し、上清をNi−NTAアガロースアフィニティカラム(Qiagen社製)、及びPD−10カラム(GE Healthcare社製)によるゲルフィルトレーションで精製し、さらに、AKTA 10S (GE Healthcare)Hi-load 20/60 Superdex 200 pgカラムで再精製した。
【0041】
[実施例1の蛍光蛋白質のキャラクタライゼーション]
実施例1の蛍光蛋白質の光切替のon及びoffは、それぞれ、475±28 nm 及び 386±23 nm のLED光源で行った。吸収スペクトルは、V-630 BIO スメクトロフォトメーター(JASCO社製)を用いて測定した。蛍光励起及び蛍光発光スペクトルはF-7000蛍光スペクトロフォトメーター(Hitachi社製)を用いて測定した。モル吸収係数は、ブラッドフォードアッセイにより測定した既知濃度の精製蛋白質の吸光度を使用して計算した。蛍光絶対量子収率は、QuantaurusQY-C11347(浜松ホトニクス社製)を使用して測定した。この測定において蛋白質吸光度を0.05未満に調節した。上記全ての測定は、20 mM HEPESバッファー中の蛋白質を用い、生理学的pH条件下で行った。
光誘導on/offの量子収率は、吸光度における照射依存変化をV-630 BIO スメクトロフォトメーター(JASCO社製)にて測定することで算出した。具体的な方法は、Gayda, S., Nienhaus, K. &Nienhaus, G.U. Biophysical journal 103, 2521-31 (2012).に記載される方法に従った。
蛍光性offからonへの熱緩和時間の測定は、10 mlの20μM蛋白質溶液(20 mM HEPES buffer, pH 7.4)を測定前に405 nm波長光で蛍光性offしてから、蛍光スペクトルを測定した。
【0042】
上記の結果を
図1−1〜
図2、及び表1〜表3に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0043】
図1−1〜
図1−4は、実施例1の蛍光蛋白質のキャラクタライゼーションを行った結果の一例を示す図である。
図1−1a及び
図1−2bは、pH7.4における実施例1の蛍光蛋白質(a)及びPadron(b)の照射依存吸光度スペクトルの変化を示す。
図1−3cは、実施例1の蛍光蛋白質の蛍光発光及び励起スペクトルを示す。
図1−3dは、実施例1の蛍光蛋白質及びPadronの光切替のon/offキネティクスを示す。
図1−3eは、実施例1の蛍光蛋白質及びPadronの連続光切替の一例を示す。
図1−4fは、実施例1の蛍光蛋白質、Padron、Dreiklang、rsEGFP及びDronpaの光褪色キネティクスの一例を示す。実施例1の蛋白質とDreiklangの光褪色では蛍光は488 nmレーザー(7.1 kW/cm
2)を照射して記録され、rsEGFP及びDronpaの光褪色では蛍光は488 nmレーザー(7.1 kW/cm
2)とともに405 nmレーザー(29.1 kW/cm
2)を照射して記録された。
図1−4gは、光切替により促進される光褪色の一例を示す。
【0044】
量子収率が0.58のPadronとは対照的に、実施例1の蛍光蛋白質は蛍光性の状態で量子収率0.67という明るい蛍光状態を示した(表1)。実施例1の蛍光蛋白質は、蛍光性がon状態で386 nmと495 nmの2つの吸収ピークを示し、蛍光性がoff状態で単一の495 nmの吸収ピークを示した(
図1−1a)。495 nmの吸収は、onへの光切替と発色団励起の双方に寄与し、514 nmの蛍光発光となる(
図1−3c)。蛍光状態の実施例1の蛍光蛋白質に405 nmの光を照射すると初期状態の2〜3%の蛍光の無蛍光暗状態となった(データ示さず)。実施例1の蛍光蛋白質は、488 nm光及び405 nm光の照射により繰り返して蛍光性のon及びoffができた。実施例1の蛍光蛋白質は、蛍光性の状態で発現し、一方、Padronは無蛍光性の状態では発現した(データ示さず)。実施例1の蛍光蛋白質の熱緩和半減期は51分であった(表1)。実施例1の蛍光蛋白質の発色団は、37℃の半減期t
1/2=20分で成熟した(データ示さず)。サイズ排除クロマトグラフィーの結果は、実施例1の蛍光蛋白質が、単一の鋭いピークのモノマーの性質を示すことが立証された(データ示さず)。
【0045】
[光切替速度]
実施例1の蛍光蛋白質の光切替特性をそのカウンターパートであるPadronと比較した。蛍光性がonになるキネティクスにつき、双方の蛋白質は、405 nm (47 kW/cm
2)で完全に蛍光性がoffにされた。その後、488 nmレーザー(95 kW/cm
2)を使用して蛍光性がonにされた。蛍光性がoffからonへの切替の半減期(t
1/2)は、実施例1の蛍光蛋白質が7.9秒、Padronが32.4秒であった(表3、
図1−3d)。蛍光性onからoffへの切替の半減期(t
1/2)は、実施例1の蛍光蛋白質が3.1秒、Padronが10.1秒であった(表3)。また、完全な光切替に要する時間は、実施例1の蛍光蛋白質が17秒、Padronが152秒であった(
図1−3e)。
【0046】
[光安定性]
実施例1の蛍光蛋白質の光安定性をPadron、Dreiklang、rsEGFP及びDronpaと比較した。実施例1の蛍光蛋白質は、これらのRSFPの中でも優れた光安定性を示した。実施例1の蛍光蛋白質の褪色半減期は、大腸菌内で発現されている場合は650秒であり、精製物を使用する場合は652秒であった(
図1−4f、表2)。一方、Padronは大腸菌内で発現されている場合は525秒であり、精製物を使用する場合は482秒であった(
図1−4f、表2)。
【0047】
蛍光性のon及びoffの量子収率は、cm
2当たりの吸光断面(488 nm及び405 nm)、光切替の速度、及び、蛍光性をon及びoffにするための光照射パワー密度(488 nm, 400μW/cm
2、及び405 nm, 250μW/cm
2)から計算した。実施例1の蛍光蛋白質の蛍光性on及びoffの量子収率は、それぞれ、0.0084及び0.0716であった。一方、Padronの蛍光性on及びoffの量子収率は、それぞれ、0.0023及び0.019であった(表3)。
【0048】
pH7.4で光切替が促進する光褪色を精製された実施例1の蛍光蛋白質及びPadronで比較した。実施例1の蛍光蛋白質は、非常にゆっくりとした褪色を示し、連続する光切替サイクル毎に0.1%であった(表3)。一方、Padronは同じ条件で2.5%であった(表3)。
【0049】
[光切替サイクル数]
実施例1の蛍光蛋白質における蛍光性on/offのスピードの向上と光安定性の向上により、光切替回数の向上をもたらした。すなわち、蛍光強度が50%減少するまでに、Padronは11サイクルしか行えなかったのに対し、実施例1の蛍光蛋白質は290サイクル行うことができた(
図1−4g、表3)。
【0050】
[PALMによる超解像イメージング]
実施例1の蛍光蛋白質とβ-アクチンとの融合蛋白質をHeLa細胞で発現させ、PALM(Phoho ActivatedLocalization Microscopy)イメージングを行った。データ収集には、sCMOSカメラを備えた広視野落射照明顕微鏡を用いた。高解像度の構造を得るため、5000〜8000画像を得た。具体的には以下のように行った。その結果を
図2に示す。
【0051】
PALMイメージングに用いる細胞は、40〜50%コンフルエンシーでリポフェクションにより一過的トランスフェクションを行った。トランスフェクションから36−48時間後に2%(W/V)パラホルムアルデヒドを使用して15分間細胞を固定化した。固定化した細胞は、ゲルバトール固定化液を用いて顕微鏡スライドグラスにマウントした。
【0052】
超解像イメージングは、APO TIRF 100x、開口数1.49、油浸対物レンズ、405 nm及び488nmレーザー、高速モータスキャニングステージ(MLS203P2, Thorlabs社製)、及びsCMOSカメラ(ORCAFlash 4.0、Hamamatsu Photonics社製)を備え、自家製のTIRF-システムで制御される倒立顕微鏡(Ti-E Nikon社製)を用いて行った。
【0053】
図2は、実施例1の蛍光蛋白質とβ-アクチンとの融合蛋白質を発現するHeLa細胞のPALMイメージングの結果の一例を示す。
図2aは、融合蛋白質の広視野イメージである。
図2b、c、及びdは、
図2aの囲み1、2、3をそれぞれ拡大した図である。
図2eは、
図2cの実線に沿って正規化した蛍光線プロフィールである。
図2fは、融合蛋白質のPALMイメージである。
図2g、h、及びjは、
図2fにおける
図2aの囲み1、2、3に相当する部分をそれぞれ拡大した図である。
図2jは、
図2hの実線に沿って正規化した蛍光線プロフィールである。
図2a、fにおけるスケールバーは5μmである。また拡大図におけるスケールバーはすべて500nmである。