特許第6115995号(P6115995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日清製粉グループ本社の特許一覧 ▶ 学校法人東海大学の特許一覧

<>
  • 特許6115995-非酵素的糖化反応抑制剤 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6115995
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】非酵素的糖化反応抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20170410BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20170410BHJP
   A61K 8/97 20170101ALI20170410BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170410BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20170410BHJP
   A23L 3/3472 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   A61K36/899
   A61P17/00
   A61K8/97
   A61Q19/00
   A61Q19/08
   A23L3/3472
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-91077(P2013-91077)
(22)【出願日】2013年4月24日
(65)【公開番号】特開2014-214104(P2014-214104A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 真人
(72)【発明者】
【氏名】福留 真一
(72)【発明者】
【氏名】永井 竜児
【審査官】 前田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/041515(WO,A1)
【文献】 特表2006−501214(JP,A)
【文献】 特開2011−057642(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/148739(WO,A1)
【文献】 特開2007−119373(JP,A)
【文献】 特開2005−068132(JP,A)
【文献】 特開2002−275078(JP,A)
【文献】 J Nutr,2003年 2月,133(2),468-475
【文献】 internat j cos science,2009年,31,403
【文献】 フレグランスジャーナル,2008年11月15日,36(11),62-63
【文献】 Biotherapy,1991年 4月,5(4),617-621
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/899
A23L 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦ふすまの熱水抽出物を有効成分として含有する非酵素的糖化反応抑制剤。
【請求項2】
前記熱水抽出物は、60〜95℃の熱水による抽出物である請求項1記載の非酵素的糖化反応抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質と糖とが非酵素的に結合するタンパク質の非酵素的糖化反応を効果的に抑制し得る非酵素的糖化反応抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質中に存在するアミノ基とグルコース等の還元糖のアルデヒド基とが、非酵素的に反応すると、糖化産物が形成される。この反応は、非酵素的糖化反応又はメイラード反応と称され、古くより食品化学の分野において利用されてきた。非酵素的糖化反応は、生体内においても起きており、糖化されたタンパク質は常に形成されている。非酵素的糖化反応は、シッフ塩基を経てアマドリ転位生成物が形成される前期反応と、複雑な開裂や縮合等が起こる後期反応との2段階で起こると考えられ、後期反応では、AGEs(=Advanced Glycation End Products:最終糖化産物)と呼ばれる、単一ではない様々な物質が生成する。
【0003】
AGEsについては、タンパク質の非酵素的糖化反応に関係して生じる症状、疾患(疾病)等を発展・進展させる因子として作用している可能性が指摘されている。例えば非特許文献1〜3には、AGEsが加齢と共に生体内に蓄積し、加齢で認められる種々の組織障害、例えば、皮膚、血管壁、関節等の結合組織の硬化に関連し、皮膚の肥厚、しわの形成、動脈硬化、関節炎等の原因になり得ることが開示されている。また非特許文献4には、AGEsが白内障に関連していることが開示されている。また、については、加齢による組織障害の原因となるだけではなく、日光性弾力繊維症、アルツハイマー病、糖尿病合併症等の疾病に関与することも指摘されており、例えば特非許文献5には、日光性弾力線維症の皮膚組織に、AGEsの一種であるNε−(カルボキシメチル)リジン(Nε-(carboxymethyl)lysine:CML)が検出されていることが開示されており、CMLの蓄積が深いしわや皮膚組織の硬化等の病変に関わっていることが示唆されている。また、非特許文献6には、アルツハイマー病におけるβ−アミロイドペプチドの脳内蓄積にAGEsが関与していることが開示されている。
【0004】
また非特許文献7には、糖尿病における腎障害、網膜症にAGEsの蓄積が関係していることが開示されている。このようなAGEsの蓄積に対し、その元となる非酵素的糖化反応を阻害する薬剤としてアミノグアニジンが知られている。非特許文献8には、このアミノグアニジンが、糖尿病合併症である網膜症、腎障害、神経障害に有効であることがモデル動物で確認された旨開示されている。しかし、アミノグアニジンについては、糖尿病合併症の治療薬としての臨床試験においては、その服用により頭痛、悪心等の副作用が報告されており、長期の使用が困難であるという問題がある。
【0005】
このような背景から、副作用の問題が少ない天然物由来の糖化阻害剤の開発が期待されている。また、タンパク質及び糖を含む飲食品においては、その保存中に非酵素的糖化反応により褐変や沈殿等を生じるといった問題がある。この問題を解決する方法として、例えば、飲食品の原料である糖として糖アルコールを使用する方法が考えられるが、この方法では使用する原料が制限されるという問題があった。
【0006】
生体内におけるAGEsの形成を阻害することにより、AGEsに関連する疾患を治療又は予防するための薬剤として、例えば特許文献1には、ムラサキ属植物の培養細胞抽出エキス若しくはその処理物、又はコーヒー酸重合体を有効成分として含有するメイラード反応阻害剤が開示されている。特許文献2には、メイラード反応阻害剤と、ビタミンB6又はその医薬的に許容される塩とを含有したAGEs生成阻害組成物が開示されている。特許文献3には、カルボニル化合物トラップ剤(メイラード反応阻害剤)を有効成分とする、腹膜透析における腹腔内のカルボニルストレス状態改善剤が開示されている。
【0007】
特許文献4には、米糠及び米糠の水抽出物がAGEsに対する特異的な結合活性を有することが開示されている。特許文献5には、アーモンド抽出物を含む抗糖化剤が、また特許文献6には、大豆抽出物を含む抗糖化剤が、それぞれ、生体内におけるAGEsの生成を抑制することが開示されている。特許文献7は、ユリ科(Liliaceae)ユリ属(Lilium)に属する植物の蕾の抽出物を有効成分とする化粧料が開示されており、この化粧料の効果として、エラスターゼ活性抑制作用、抗酸化作用、タンパク質糖化抑制作用及びチロシナーゼ活性抑制作用を有することも開示されている。特許文献8には、穀物または穀物の精製残渣を中性媒体で抽出して得られる抽出物が培養色素細胞のチロシナーゼ活性を低下させ、メラニンの生成や紫外線照射によって生じる色素沈着を抑制することが開示されており、この抽出物の具体例として、特許文献8の調製例6では、ふすまからの水抽出物が挙げられている。
【0008】
また、特許文献9には、大麦からの親水性溶剤抽出物が抗酸化作用を有し、食品中に含まれる脂質の酸化を効果的に防止し得ることが開示されている。しかし、特許文献9には、非酵素的糖化反応やAGEsについて言及がなく、麦類の溶媒抽出物と非酵素的糖化反応やAGEsとの関係について何等開示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bai P. et al., Conn Tissue Res1992; 28:1-12
【非特許文献2】Sakata N. et al., Atherosclerosis 1995 ;116:63-75
【非特許文献3】Verzijl N. et al., Biochem J 2000 ;350:381-7
【非特許文献4】Prabhakaram M. et al., Mech Ageing Dev 1996 ;91(1):65-78
【非特許文献5】Mizutari K. et al., J Invest Dermatol 1997 ;108(5):797-802
【非特許文献6】Vitek MP. et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994;91(11):4766-70
【非特許文献7】McCance DR. et al., J Clin Invest 1993; 91: 2470-8
【非特許文献8】Brownlee M., Diabetes Care 1992;15:1835-43
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−214250号公報
【特許文献2】特開平10−324629号公報
【特許文献3】特開2006−305345号公報
【特許文献4】特開2010−209003号公報
【特許文献5】特開2012−72103号公報
【特許文献6】特開2012−219014号公報
【特許文献7】特開2011−225564号公報
【特許文献8】特開2004−83594号公報
【特許文献9】特開平10−140153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、タンパク質の非酵素的糖化反応を抑制し、該反応に関係して生じる各種不都合の解消に有用な非酵素的糖化反応抑制剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦等の麦類の種子のエタノール抽出物が、タンパク質の非酵素的糖化反応を抑制し、AGEsの生成を効果的に阻害し得ることを知見した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、麦類の溶媒抽出物を有効成分として含有する非酵素的糖化反応抑制剤である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非酵素的糖化反応抑制剤は、タンパク質の非酵素的糖化反応を抑制し、該反応に関係して生じる各種不都合の解消、例えば、各種症状若しくは疾患の予防/治療に有用である。また、本発明の非酵素的糖化反応抑制剤は、化粧品、飲食品及び動物用飼料の品質改善にも有用であり、例えば、タンパク質及び糖を含む化粧品、飲食品及び動物用飼料の保存中において、タンパク質の非酵素的糖化反応により褐変や沈殿等が発生することを効果的に予防し、あるいは発生した褐変や沈殿等を効果的に抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、タンパク質と糖との混合系に各種溶媒抽出物を添加した場合のAGEs(CML)の生成度を対照と比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の非酵素的糖化反応抑制剤(以下、単に、糖化反応抑制剤ともいう)は、麦類の溶媒抽出物を有効成分として含有する。本発明で抽出源として用いられる麦類は、通常、食用のイネ科植物である。具体的には例えば、パン小麦、デュラム小麦、クラブ小麦、スペルト小麦、エンマ小麦、硬質小麦、中間質小麦、軟質小麦等の小麦(イネ科コムギ属)、大麦(イネ科オオムギ属)、ライ麦(イネ科ナガハグサ属)、オーツ麦(イネ科カラスムギ属)の他、イネ科ジュズダマ属のハト麦、イネ科エギロプス属のタルホ小麦及びクサビ小麦、イネ科ドクムギ属のドク麦、ホソ麦、ネズミ麦、アマドクムギ、ノゲナシドクムギ及びボウムギ、イネ科スズメノチャヒキ属のイヌムギ等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの麦類の中でも、特に小麦、大麦、ライ麦及びオーツ麦は、溶媒抽出物の非酵素的糖化反応抑制効果に優れるため、本発明で好ましく用いられる。
【0017】
上記麦類において、本発明で抽出源として用いられる部位は、通常、小麦粒、大麦粒、ライ麦粒、オーツ麦粒等の種子である。ここでいう「種子」は、胚芽(胚)、胚乳、ふすま(外皮、種皮)を含む。本発明では、種子以外の他の部分(細胞壁が含まれる部分)、例えば、花、穂、花柄、茎、葉、根等も抽出源として用い得る可能性はあるが、溶媒抽出物の非酵素的糖化反応抑制効果に最も優れるのは種子であり、抽出源としては麦類の種子を用いることが好ましい。
【0018】
本発明では、麦類の種子の全部(全粒穀物)を抽出源として用いても良く、麦類の種子の一部(胚芽、胚乳、ふすま等)を抽出源として用いても良い。麦類の種子の一部を抽出源として用いる場合、特にふすま(種子の外皮部を主体とするもの)、とりわけ小麦ふすま(ブラン)は、溶媒抽出物の非酵素的糖化反応抑制効果に優れるため、本発明で好ましく用いられる。ふすま(小麦ふすま)としては、通常の製粉工程で生じる、種子(全粒穀物)から胚乳を除去した残部、あるいはこの残部から更に胚芽を除去したもの等を用いることができ、組成や製造過程を問わない。
【0019】
本発明では、必要に応じ、麦類(抽出源)の抽出処理の前処理として、麦類の粉砕処理を行うことができる。特に、抽出源が麦類の種子(全粒穀物)である場合は、有効成分をより確実に抽出する観点から、溶媒による抽出処理の前に粉砕処理を実施することが好ましい。粉砕処理の方法は特に制限されず、例えば、ロール式、気流式、衝撃式、胴搗式等の公知の粉砕機を用いて粉砕処理を実施し得る。更に粉砕処理に先立って、酸、アルカリ酵素等を用いて種子の粉砕・抽出効率を高める前処理も合わせて実施し得る。また、麦類(抽出源)は、通常、乾燥させたものを用い、粉砕処理をする場合は、通常、乾燥させた麦類を粉砕処理する。麦類の乾燥法は特に制限されず、例えば、加熱乾燥法、風乾法、減圧乾燥法、凍結乾燥法、スプレードライ法等の公知の乾燥法を用いることができる。
【0020】
麦類(抽出源)の抽出処理に用いられる溶媒としては、例えば、水、並びにメタノール、エタノール、アセトン等の有機溶媒が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記有機溶媒は水を含んでいても良く、含水メタノール、含水エタノール、含水アセトン等の含水有機溶媒を抽出溶媒として用いることもできる。上記含水有機溶媒中の有機溶媒含有量は、抽出源の種類等に応じて適宜調整し得る。これらの抽出溶媒の中でも、特に水、エタノール、とりわけエタノールは、当該溶媒を用いて麦類から抽出された抽出物の非酵素的糖化反応抑制効果に優れるため、本発明で好ましく用いられる。
【0021】
抽出溶媒として水を用いる場合、抽出法としては、熱水抽出法が好ましい。熱水抽出法としては、麦類(抽出源)を熱水に投入する方法が挙げられる。熱水に抽出源が投入された状態において、抽出源をそのまま熱水中に固定(浸漬固定)しても良く、あるいは熱水を撹拌又は還流しても良い。熱水の温度は、好ましくは60〜95℃、更に好ましくは80〜95℃である。一方、抽出溶媒としてメタノール、エタノール、アセトン等の有機溶媒(含水有機溶媒を含む)を用いる場合、該溶媒の温度は、通常、室温(約25℃)と同じに設定する。
【0022】
麦類(抽出源)の抽出時間(抽出溶媒による抽出源の処理時間)及び抽出溶媒の使用量は、それぞれ、抽出源や抽出溶媒の種類等に応じて適宜選択し得る。抽出後、遠心分離、濾過等の適当な分離手段によって沈殿物又は不溶性画分を除き、上清又は可溶性画分を回収する。必要に応じ、初回の抽出処理で得られた沈殿物又は不溶性画分について、再度同様の抽出処理を行って、上清又は可溶性画分を回収することもできる。こうして回収された上清又は可溶性画分を、凍結乾燥、真空乾燥、減圧乾燥法等の公知の乾燥法により乾燥することにより、目的とする「麦類の溶媒抽出物」の固形物が得られる。
【0023】
こうして得られた麦類の溶媒抽出物は、後述の〔実施例〕の項に記載の試験結果から明らかなように、タンパク質の非酵素的糖化反応を抑制し、AGEsの生成を効果的に阻害し得る。従って、このような溶媒抽出物を有効成分として含有する本発明の糖化反応抑制剤は、AGEsの生成に関係して生じる各種不都合の解消、例えば、化粧品、飲食品及び動物用飼料の品質改善(例えば褐変や沈殿等の予防/抑制)、又は各種症状若しくは疾患の予防/治療に有用である。本発明の糖化反応抑制剤が予防/治療に有効に作用する症状・疾患としては、例えば、糖尿病合併症、アルツハイマー病、骨疾患、皮膚のたるみ・しわ、皮膚の弾力の低下が挙げられる。
【0024】
また、麦類の溶媒抽出物は、食経験が豊富な麦類に含まれている成分であることから、長期間継続的に摂取しても生体に有害な作用をもたらす懸念が少ない、安全な物質である。従って、斯かる溶媒抽出物を含有する本発明の糖化反応抑制剤は、健常者や成人だけでなく、高齢者や病弱者にも、安全且つ継続的に摂取され得るものであり、ヒト又は動物用の医薬の他、化粧品、ヒト用飲食品若しくは動物用飼料等として、又はそれらを製造するための原料として有用である。ここでいう「動物」には、ヒト以外の哺乳類が含まれる。
【0025】
上記医薬及び化粧品は、上記溶媒抽出物に加えて、必要に応じて、薬学的に許容される種々の担体、例えば賦形剤、安定化剤、その他の添加剤等を含有していても良く、あるいは、更に他の薬効成分、例えば各種ビタミン類、ミネラル類、生薬等を含有していても良い。また、上記医薬の剤型は、特に制限されず、上記溶媒抽出物を含有可能な全ての剤型が含まれ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤;吸入剤、経皮製剤、坐剤、点滴剤、注射剤等の非経口剤が挙げられる。また、上記医薬及び化粧品の製造は、当業者が通常用いる方法によって行われ得、上記溶媒抽出物の配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。上記医薬及び化粧品における上記溶媒抽出物の含有量は、好ましくは0.05〜5質量%、更に好ましくは0.5〜5質量%である。
【0026】
また、上記飲食品及び動物用飼料としては、例えば、タンパク質の糖化反応抑制効果(AGEsの生成阻害効果)を企図して、その旨を表示した健康食品、機能性飲食品、特定保健用飲食品、病者用飲食品、家畜・競走馬・鑑賞動物等のための飼料、ペットフードを例示できる。上記飲食品及び動物用飼料の形態は、特に制限されず、上記溶媒抽出物を含有可能な全ての形態が含まれ、例えば、固形、半固形又は液状であり得、あるいは、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ、経管経腸栄養用流動食等の各種形態であり得る。
【0027】
上記飲食品の形態の具体例としては、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、精製水等の飲料、バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、クリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープまたはソース類、菓子(例えばビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)等が挙げられる。尚、動物用飼料は、飲食品とほぼ同様の組成や形態で利用できることから、本明細書における飲食品に関する記載は、特に断らない限り、動物用飼料についても同様に適用される。
【0028】
上記飲食品及び動物用飼料は、上記溶媒抽出物に加えて、必要に応じて、通常食されている一般の飲食品や動物用飼料の製造に用いられる他の飲食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(例えば呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)等を含有していても良い。また、上記飲食品及び動物用飼料の製造は、当業者が通常用いる方法によって行われ得、上記溶媒抽出物の配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。上記飲食品及び動物用飼料における上記溶媒抽出物の含有量は、好ましくは0.05〜5質量%、更に好ましくは0.5〜5質量%である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び試験例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び試験例により制限されるものではない。尚、後述する実施例1〜5、7及び8は参考例である。
【0030】
〔実施例及び比較例〕
下記<エタノール抽出処理>又は<熱水抽出処理>に従い、各種抽出源から溶媒抽出物A−1〜A−7及びB−1〜B−5を得、それぞれ、各実施例及び比較例のサンプルとした。抽出源としては次の植物の種子(乾燥させた種子)を用いた。小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦(以上、麦類)、アーモンド、大豆。小麦については、種子の全部(全粒穀物)及びその外皮部(小麦ふすま)の両方を抽出源とし、小麦以外の植物については、全粒穀物を抽出源とした。全粒穀物を抽出源とする場合は、抽出処理に先立って全粒穀物の粉砕処理を実施した。粉砕処理は、粉砕機(安井器械製、マルチビーズショッカー(登録商標))を用い、室温(25℃)下、2500rpmの条件で全粒穀物を10秒間粉砕する処理を3回行うことにより、実施した。小麦ふすまを抽出源とする場合は、粉砕処理は行わずにそのまま抽出処理に供した。上記小麦ふすまは、常法に従って調製した。
【0031】
<エタノール抽出処理>
抽出源3gに抽出溶媒としてのエタノール15mlを加え、室温(25℃)で2時間振とうさせた後、室温(25℃)下、5000rpmの条件で5分間遠心分離して、その上清を回収し、この上清を減圧乾燥させて、エタノール抽出物を得た。
<熱水抽出処理>
抽出源3gに抽出溶媒としての純水15mlを加え、加えた純水を80℃まで加温して熱水とし、その80℃の熱水中に該抽出源を2時間静置(浸漬固定)させた後、5000rpmの条件で5分間遠心分離して、その上清を回収し、この上清を減圧乾燥させて、熱水抽出物を得た。
【0032】
・実施例1:小麦のエタノール抽出物(A−1)
・実施例2:小麦ふすまのエタノール抽出物(A−2)
・実施例3:大麦のエタノール抽出物(A−3)
・実施例4:ライ麦のエタノール抽出物(A−4)
・実施例5:オーツ麦のエタノール抽出物(A−5)
・実施例6:小麦ふすまの熱水抽出物(B−1)
・実施例7:大麦の熱水抽出物(B−2)
・実施例8:オーツ麦の熱水抽出物(B−3)
・比較例1:アーモンドのエタノール抽出物(A−6)
・比較例2:大豆のエタノール抽出物(A−7)
・比較例3:アーモンドの熱水抽出物(B−4)
・比較例4:大豆の熱水抽出物(B−5)
【0033】
〔試験例:糖化反応抑制効果の発現確認試験〕
4mg/mlになるようにゼラチンに200mMリン酸緩衝液(pH7.4)を加え、室温で30〜60分間膨潤させ、次いで、50〜60℃の湯せんで溶解後、孔径0.22μmのフィルターでろ過した。また別途、60mMリボースを200mMリン酸緩衝液(pH7.4)で調製後、孔径0.22μmのフィルターでろ過した。こうして調製・精製されたゼラチンとリボースとを等量混合して混合系を得、該混合系に被験物質を最終濃度が5mg/mlになるよう添加し、被験物質無添加(対照)の混合系と共に、37℃で1週間静置した。被験物質としては、上記各種溶媒抽出物以外に、ポジティブコントロールとしてルテオリンを用いた。ルテオリンはエタノールで融解させ、最終濃度が50ppm(C−1)又は5ppm(C−2)になるよう上記混合系に添加した。1週間静置後の上記混合系(糖化ゼラチン)について、AGEsの一種であるNε−(カルボキシメチル)リジン(CML)抗体を用いた下記ELISA法によりCMLを定量し、CML生成度を評価した。結果を図1に示す。
【0034】
<ELISA法>
CML生成度の評価対象である糖化ゼラチンをPBSで1,800倍、5,400倍希釈した。更にそのサンプルを100μlずつプレートの各ウェルに分注して室温2時間、又は4℃で一晩静置した。その後、サンプルを洗浄液で3回洗浄後、サンプルにブロッキング液200μlを分注し、室温で1時間静置し、次いで、サンプルを洗浄液で3回洗浄後、サンプルに1次抗体を100μlずつ分注し、室温で1時間静置し、次いで、サンプルを洗浄液で3回洗浄後、サンプルに洗浄液で10,000倍希釈した2次抗体を100μlずつ分注し、室温で1時間静置した。その後、サンプルを洗浄液で3回洗浄後、サンプルに発色剤を100μlずつ分注し、室温で発色させた。コントロールの発色のグラデーションがきれいに出たら、サンプルに反応停止液を100μlずつ分注して反応停止させ、492nmの吸光度を測定し、目的とするCMLを定量した。
【0035】
上記試験において、使用した試薬等の詳細は次の通り。
・ゼラチン:Gelatin,from porcine skin type A (SIGMA G2500-100G)・リボース:D(-)-Ribose (和光純薬 180-01053)。
・ブロッキング液:Gelatin hydrolysate EnzymaticをPBSで希釈して0.5質量%ゼラチン溶液としたものを使用。
・一次抗体:CML:Anti Nε-(carboxylmethyl)lysine(736μg/ml:東海大学より分与)をブロッキング液で1472倍希釈して使用。
・二次抗体:Peroxidase-Labeled Antidoby to Mouse IgG(H+L)(KPL 074-1806)。バイアル(1mg)に水500μlを添加して廻しながら溶解させた後、更にグリセロール500μlを添加してピペッティングで混合し、濃度1mg/mlとしたものを使用。
・発色剤:次の手順で調製したものを使用。100mMクエン酸100ml及び100mMリン酸水素二ナトリウム200mlをそれぞれ別途調製し、前者に後者を添加しながらpHを5.0に調整し、クエン酸緩衝液を得る。室温下、このクエン酸緩衝液10mlとOPDタブレット(和光純薬 158-02151)1粒とを混合し、更に、発色試験の直前に、32%過酸化水素水6μl(関東化学18084-00)を添加し、目的とする発色剤を調製し、使用。
・反応停止液:36N H2SO4(和光純薬 199-15995)をイオン交換水で希釈し、2N H2SO4を調製し、使用。
・洗浄液:PBS(ダルベッコの組成:日水製薬 08190)+0.5%Tween 20 (ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、東京化成工業 9005-64-5)を使用。
・反応プレート:NUNC MAXISORP(NUNC 439454)を使用。
【0036】
図1から明らかなように、麦類の溶媒抽出物A−1〜A−5及びB−1〜B−3(実施例1〜8)は、溶媒抽出物無添加の対照(ネガティブコントロール)に比べて、AGEs(CML)生成度が低く、更には、アーモンドの溶媒抽出物A−6及びB−4(比較例1及び3)並びに大豆の溶媒抽出物A−7及びB−5(比較例2及び4)に比べても、AGEs(CML)生成度が概ね低かった。このことから、麦類の溶媒抽出物が、アーモンド及び大豆の溶媒抽出物と同等以上のタンパク質の非酵素的糖化反応抑制作用を有することが明らかである。
図1