特許第6116007号(P6116007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116007
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】薄膜形成用原料及び薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20170410BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20170410BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20170410BHJP
   C07F 19/00 20060101ALN20170410BHJP
   C07F 9/46 20060101ALN20170410BHJP
   C07F 9/48 20060101ALN20170410BHJP
   C07F 9/24 20060101ALN20170410BHJP
   C07F 9/50 20060101ALN20170410BHJP
   C07F 7/10 20060101ALN20170410BHJP
【FI】
   C23C16/42
   H01L21/316 X
   H01L21/318 B
   !C07F19/00
   !C07F9/46
   !C07F9/48
   !C07F9/24 Z
   !C07F9/50
   !C07F7/10 E
   !C07F7/10 Z
【請求項の数】2
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-190271(P2013-190271)
(22)【出願日】2013年9月13日
(65)【公開番号】特開2015-54853(P2015-54853A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100143856
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 廣己
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】東野 貴志
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 翼
(72)【発明者】
【氏名】西田 章浩
【審査官】 前田 憲彦
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00
H01L 21/00
C07F 7/00
C07F 9/00
C07F 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるケイ素化合物を含有してなる薄膜形成用原料。
【化1】
(式中、R1〜R3は各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは下記(X−1)〜(X−5)の何れかで表される基を表す。)
【化2】
(式中、R4〜R6は各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、R7〜R10は各々独立に炭素数1または2のアルキル基を表し、R11はイソプロピル基または第3ブチル基を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜形成用原料を気化させて得た、上記ケイ素化合物を含有する蒸気を、基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、該ケイ素化合物を分解及び/又は化学反応させて該基体の表面にケイ素及びリンを含有する薄膜を形成する薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するケイ素化合物を含有してなる薄膜形成用原料及び該原料を用いたケイ素及びリンを含有する薄膜を形成する薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素及びリンを含有する薄膜材料は、半導体装置等の電子デバイスにおける絶縁膜やアイソレーション溝の埋封などに用いられている材料である。該電子デバイスの高速化、高集積化を実現すべく、様々な方法によってケイ素及びリンを含有する薄膜材料を製造する方法が検討されている。
【0003】
上記の薄膜の製造法としては、塗布熱分解法やゾルゲル法等のMOD法、化学気相成長法等が挙げられる。組成制御性、段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能である等多くの長所を有しているので、ALD(Atomic Layer Deposition)法を含む化学気相成長(以下、単にCVDと記載することもある)法が好ましい製造プロセスであり、特に段差被覆性に優れることからALD法が最適なプロセスである。
【0004】
ケイ素及びリンを含有する薄膜材料を製造するために用いられるCVD法用原料としては、従来、様々なCVD法用原料が知られている。例えば、酸化剤として酸素、ケイ素原料としてモノシラン、リン原料としてホスフィンを用いる方法が知られているが、得られる膜の段差被覆性が悪いという問題があった。なかでも、ホスフィンは自然発火性があり、極めて毒性が強いという物性を持つ化合物であることから、ホスフィンを用いない方法が望まれていた。そこで、現在、実用化されている方法としては、酸化剤としてオゾン、ケイ素原料としてアルコキシシランおよびリン原料としてトリアルキルホスフィン、トリアルキルホスファイトまたはトリアルキルホスフェートを用いる方法が知られている。しかし、この方法でも高密度化、高集積化に対応できるほどの段差被覆性に優れた薄膜材料を形成することはできていなかった。特許文献1にはこれらの問題を解決すべく、構造中にケイ素原子およびリン原子を含有する特定のケイ素化合物を用いたCVD法用原料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−133754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CVD法等の化合物を気化させて薄膜を形成するために用いられる薄膜形成用原料に求められる性質は、融点が低く液体の状態で輸送が可能であること、液体の粘度が低いこと、蒸気圧が大きく気化させやすいこと、熱安定性が高いこと、所望の組成の薄膜を得ることができることである。CVD法によってケイ素及びリンを含有する薄膜を得る方法としては、上述した公知技術のようにケイ素原料とリン原料を各々用意して行う方法や、構造中にケイ素原子およびリン原子を含有する特定のケイ素化合物を用いて行う方法が知られている。ケイ素原料とリン原料を各々用意して行う方法では、各原料の粘度、蒸気圧及び熱安定性などが違うことから、原料供給のコントロールが難しく、生産性が悪いことが大きな問題となっていた。従来知られた構造中にケイ素原子およびリン原子を含有する特定のケイ素化合物を用いて行う方法では、用いるケイ素化合物の熱安定性が低いことや、該ケイ素化合物だけではリン含有量が10〜20質量%である薄膜を得ることができないことや、反応性ガスとの反応性が悪いことや、段差被覆性に優れたALDプロセスに適用することができないことが問題となっていた。そこで、熱安定性が高く、リン含有量が10〜20質量%であるケイ素及びリンを含有する薄膜を得ることができる薄膜形成用原料や、反応性ガスとの反応性に優れ、かつ段差被覆性に優れるALD法に適用できる薄膜形成用原料が求められている。従来の薄膜形成用原料について、これらの点で充分に満足し得る薄膜形成用原料はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、検討を重ねた結果、特定の構造を有するケイ素化合物を含有してなる薄膜形成用原料が上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0008】
本発明は、下記一般式(1)で表されるケイ素化合物を含有してなる薄膜形成用原料を提供するものである。
【0009】
【化1】
(式中、R1〜R3は各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは下記(X−1)〜(X−5)の何れかで表される基を表す。)
【0010】
【化2】
(式中、R4〜R6は各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、R7〜R10は各々独立に炭素数1または2のアルキル基を表し、R11はイソプロピル基または第3ブチル基を表す。)
【0011】
また本発明は、上記薄膜形成用原料を気化させて得た、上記ケイ素化合物を含有する蒸気を、基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、該ケイ素化合物を分解及び/又は化学反応させて該基体の表面にケイ素及びリンを含有する薄膜を形成する薄膜の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱安定性が高く、反応性ガスとの反応性に優れ、かつ段差被覆性に優れるALD法に適用できる薄膜形成用原料を提供することができる。また、リン含有量が10〜20質量%である薄膜を得ることができる薄膜形成用原料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係るケイ素及びリンを含有する薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の一例を示す概要図である。
図2図2は、本発明に係るケイ素及びリンを含有する薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の別の例を示す概要図である。
図3図3は、本発明に係るケイ素及びリンを含有する薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の別の例を示す概要図である。
図4図4は、本発明に係るケイ素及びリンを含有する薄膜の製造方法に用いられる化学気相成長用装置の別の例を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明に用いられるケイ素化合物は、上記一般式(1)で表されるものであり、CVD法等の気化工程を有する薄膜製造方法の薄膜形成用原料として好適なものである。なかでも、ALD法に用いることができることからALD用の薄膜形成用原料としても好適なものである。また、リン含有量が10〜20質量%である薄膜を得るための薄膜形成用原料として好適なものである。
【0015】
本発明の上記一般式(1)において、R1〜R6で表される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第2ブチル基、第3ブチル基が挙げられ、R7〜R10で表される炭素数1または2のアルキル基としては、メチル基およびエチル基が挙げられる。
【0016】
上記一般式(1)において、R1〜R10は、化合物を気化させる工程を有する薄膜の製造方法に用いる場合は、常温常圧下において液体状態であり、蒸気圧が大きいものが好ましい。液体状態の粘度が低い場合は、輸送が容易であることから特に好ましい。具体的には、Xが(X−1)であってR1〜R6がメチル基またはエチル基である場合、Xが(X−2)であってR1、R2、R3、R7及びR8がメチル基またはエチル基である場合、Xが(X−3)であってR1、R2、R3、R9及びR10がメチル基またはエチル基である場合、Xが(X−4)であってR1、R2、R3がメチル基またはエチル基であり、R11がイソプロピル基または第3ブチル基である場合、Xが(X−5)であってR1〜R3がメチル基またはエチル基である場合は、蒸気圧が大きいことから好ましい。なかでも、Xが(X−1)であってR1〜R6がメチル基である場合、Xが(X−2)であってR1、R2、R3、R7及びR8がメチル基である場合、Xが(X−3)であってR1、R2、R3、R9及びR10がメチル基である場合、Xが(X−4)であってR1、R2、R3がメチル基であり、R11がイソプロピル基または第3ブチル基である場合、Xが(X−5)であってR1〜R3がメチル基である場合は、オゾンとの反応性が良好なことから特に好ましい。また、気化工程を伴わないMOD法による薄膜の製造方法の場合は、R1〜R11は、使用される溶媒に対する溶解性、薄膜形成反応等によって、任意に選択することができる。
【0017】
本発明に用いられるケイ素化合物の好ましい具体例としては、例えば、下記化合物No.1〜No.41が挙げられる。尚、下記化学式中の「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「iPr」はイソプロピル基を表し、「tBu」は第3ブチル基を表す。
【0018】
【化3】
【0019】
【化4】
【0020】
【化5】
【0021】
【化6】
【0022】
【化7】
【0023】
【化8】
【0024】
【化9】
【0025】
本発明の上記一般式(1)において、Xが(X−1)〜(X−5)の何れである場合も、オゾンに代表される反応性ガスとの反応性が非常に良好であり、更にALD法用原料としても適用することができる。なかでもXが(X−3)である場合は、化学気相成長法用原料として用いた場合、リン含有量が10〜20質量%である薄膜を得ることができる薄膜形成用原料であることから特に好ましい。
【0026】
本発明の薄膜形成用原料に用いられるケイ素化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造される。例えば、上記一般式(1)においてXが(X−4)である化合物の製造方法としては、対応する構造のトリアルキルシリルアルキルアミンをノルマルブチルリチウムと反応させて得られた中間体に三塩化リンを反応させ、更に臭化メチルマグネシウムを反応させることが得ることができることが知られている。上記一般式(1)においてXが(X−1)、(X−2)、(X−3)又は(X−5)である化合物についても、後述する製造例1〜3及び5としてそれぞれ記載された方法又はそれらを応用した方法により製造することができる。
【0027】
本発明の薄膜形成用原料とは、上記説明のケイ素化合物を薄膜のプレカーサとしたものであり、その形態は、該薄膜形成用原料が適用される製造プロセスによって異なる。例えば、リン珪酸ガラス薄膜を製造する場合、上記説明の一般式(1)で表されるケイ素化合物のみを用いればよい。一方、リン及びケイ素以外の金属及び/又は半金属を含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成用原料は、上記説明のケイ素化合物に加えて、ケイ素以外の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、他のプレカーサともいう)を含有する。本発明の薄膜形成用原料が、他のプレカーサを含有する場合、他のプレカーサの含有量は、上記説明の一般式(1)で表されるケイ素化合物1モルに対して、好ましくは0.01モル〜10モルであり、より好ましくは0.1〜5モルである。本発明の薄膜形成用原料は、後述するように、更に、有機溶剤及び/又は求核性試薬を含有してもよい。
【0028】
本発明の薄膜形成用原料が化学気相成長用原料である場合、その形態は使用されるCVD法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0029】
上記の輸送供給方法としては、CVD用原料を、原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、該基体が設置された成膜チャンバー内(以下、堆積反応部と記載することもある)へと導入する気体輸送法、CVD用原料を、液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて、成膜チャンバー内へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(1)で表されるケイ素化合物そのものがCVD原料となり、液体輸送法の場合は、上記一般式(1)で表されるケイ素化合物そのもの又は該化合物を有機溶剤に溶かした溶液がCVD用原料となる。
【0030】
また、多成分系のCVD法においては、CVD用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、上記一般式(1)で表されるケイ素化合物からなる混合物若しくは混合溶液、又は該ケイ素化合物と他のプレカーサからなる混合物若しくは混合溶液がCVD用原料である。
【0031】
上記の有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることが出来る。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独又は二種類以上の混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中における上記一般式(1)で表されるケイ素化合物及び他のプレカーサの合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0032】
また、多成分系のCVD法の場合において、上記一般式(1)で表されるケイ素化合物と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、CVD用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
【0033】
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と金属及び/又は半金属(但しケイ素を除く)との化合物が挙げられる。また、プレカーサの金属又は半金属種としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、アルミニウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムが挙げられる。
【0034】
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、第2ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、第3ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−メトキシ−1−メチルエタノール、2−メトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−エトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエタノール、2−プロポキシ−1,1−ジエチルエタノール、2−s−ブトキシ−1,1−ジエチルエタノール、3−メトキシ−1,1−ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類等が挙げられる。
【0035】
上記グリコール化合物としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0036】
また、上記β−ジケトン化合物としては、アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、5−メチルヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、2−メチルヘプタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン等のアルキル置換β−ジケトン類;1,1,1−トリフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,3−ジパーフルオロヘキシルプロパン−1,3−ジオン等のフッ素置換アルキルβ−ジケトン類;1,1,5,5−テトラメチル−1−メトキシヘキサン−2,4−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−メトキシヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−(2−メトキシエトキシ)ヘプタン−3,5−ジオン等のエーテル置換β−ジケトン類等が挙げられる。
【0037】
また、上記シクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、第3ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられる。
上記有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、第2ブチルアミン、第3ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0038】
上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、本発明の薄膜形成用原料に用いられるケイ素化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましく、カクテルソース法の場合は、本発明の薄膜形成用原料に用いられるケイ素化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応による変質を起こさないものが好ましい。
【0039】
また、本発明の薄膜形成用原料には、必要に応じて、本発明の薄膜形成用原料に用いられるケイ素化合物及び他のプレカーサの安定性を付与するため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン等のβ−ジケトン類が挙げられ、これら求核性試薬の使用量は、プレカーサ1モルに対して通常0.1モル〜10モルの範囲で使用され、好ましくは1〜4モルで使用される。
【0040】
本発明の薄膜形成用原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素等の不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及び同属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が更に好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましい。また、水分は、化学気相成長用原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、金属及び/又は半金属化合物、有機溶剤、及び、求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。金属及び/又は半金属化合物、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下が更に好ましい。
【0041】
また、本発明の薄膜形成用原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが更に好ましい。
【0042】
本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する本発明の薄膜の製造方法としては、上記一般式(1)で表されるケイ素化合物、及び必要に応じて用いられる他のプレカーサ等の任意成分を気化させた蒸気と、必要に応じて用いられる反応性ガスを、基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、次いで、プレカーサを基体上で分解及び/又は化学反応させて薄膜を基体表面に成長、堆積させるCVD法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法を用いることができる。
【0043】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられ、また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等が挙げられ、これらは1種類又は2種類以上使用することができる。なかでも、本発明の薄膜形成用原料はオゾンとの反応性が特に良好である。
【0044】
また、上記の輸送供給方法としては、前記に記載の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0045】
また、上記の堆積方法としては、原料ガス又は原料ガスと反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD,熱とプラズマを使用するプラズマCVD、熱と光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALDが挙げられる。
【0046】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、本発明の薄膜形成用原料等が充分に反応する温度である100℃以上が好ましく150℃〜400℃がより好ましい。また、反応圧力は、熱CVD、光CVDの場合、大気圧〜10Paが好ましく、プラズマを使用する場合は、2000Pa〜10Paが好ましい。
また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.01〜100nm/分が好ましく、1〜50nm/分がより好ましい。また、ALD法の場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0047】
例えば、リン珪酸薄膜をALD法により形成する場合は、前記で説明した原料導入工程の次に、堆積反応部に導入した本発明の薄膜形成用原料により、基体表面に前駆体薄膜を成膜させる(前駆体薄膜成膜工程)。このときに、基体を加熱するか、堆積反応部を加熱して、熱を加えてもよい。この工程で成膜される前駆体薄膜は、リン珪酸薄膜、又は、本発明の薄膜形成用原料の一部が分解及び/又は反応して生成した薄膜であり、目的のリン珪酸薄膜とは異なる組成を有する。本工程が行われる際の基体温度は、室温〜500℃が好ましい。
【0048】
次に、堆積反応部から、本発明の薄膜形成用原料ガスや副生したガスを排気する(排気工程)。未反応の本発明の薄膜形成用原料ガスや副生したガスは、堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01〜300Paが好ましく、0.01〜100Paがより好ましい。
【0049】
次に、堆積反応部に酸化性ガスを導入し、該酸化性ガス又は酸化性ガス及び熱の作用により、先の前駆体薄膜成膜工程で得た前駆体薄膜からリン珪酸薄膜を形成する(リン珪酸薄膜形成工程)。本工程において熱を作用させる場合の温度は、室温〜500℃が好ましく、150〜450℃がより好ましい。本発明の薄膜形成用原料は、オゾンに代表される酸化性ガスとの反応性が良好であり、効率よくリン珪酸薄膜を得ることができる。
【0050】
本発明の薄膜の製造方法において、上記のようにALD法を採用した場合、上記の原料導入工程、前駆体薄膜成膜工程、排気工程、及びリン珪酸薄膜形成工程からなる一連の操作による薄膜堆積を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返してもよい。この場合、1サイクル行った後、上記排気工程と同様にして、堆積反応部から未反応の本発明の薄膜形成用原料ガス及び酸化性ガス、更に副成したガスを排気した後、次の1サイクルを行うことが好ましい。
【0051】
また、リン珪酸薄膜のALD法による形成においては、プラズマ、光、電圧等のエネルギーを印加してもよい。これらのエネルギーを印加する時期は、特には限定されず、例えば、原料導入工程における本発明の薄膜形成用原料ガス導入時、前駆体薄膜成膜工程又はリン珪酸薄膜形成工程における加温時、排気工程における系内の排気時、リン珪酸薄膜形成工程における酸化性ガス導入時でもよく、上記の各工程の間でもよい。
【0052】
また、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、通常200〜1000℃であり、250〜500℃が好ましい。
【0053】
本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する装置としては、周知な化学気相成長法用装置を用いることができる。具体的な装置の例としては図1のようなプレカーサをバブリング供給で行うことのできる装置や、図2のように気化室を有する装置や、図3又は図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置等が挙げられる。また、図1図2図3及び図4のような枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。
【0054】
本発明の薄膜形成用原料を用いて製造される薄膜は、他のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、メタル、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。製造される薄膜の組成としては、リンを含有するケイ素薄膜が挙げられる。なかでも、リン珪酸ガラス薄膜が特に好ましく製造される。リン珪酸ガラス薄膜は、電子材料の表面安定化膜、層間絶縁膜、配線保護膜として用いられている。
【実施例】
【0055】
以下、製造例、実施例及び評価例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0056】
[製造例1]化合物No.1(一般式(1)中、Xが(X−1)である化合物)の製造
アルゴンガス雰囲気下で、500mL四つ口反応フラスコにヘキサメチルジシラザン16.1gと脱水処理したジエチルエーテル73.6gを仕込みドライアイスにより冷却した。そこに、ノルマルブチルリチウム(1.6mol/L)のヘキサン溶液43.8gを滴下しながら反応させた。滴下終了後、室温に戻して約2時間反応を継続させた。続いて、再びドライアイスとイソプロパノールにより反応フラスコを−70℃まで冷却し、三塩化リン13.6gを白色懸濁液中へ滴下して反応させた。0℃まで昇温していくと反応溶液は、黄色懸濁液から淡黄色、白色懸濁液となり、0℃で1時間反応を継続した後、そのまま0℃で臭化メチルマグネシウム(3mol/L)のジエチルエーテル溶液68.1gを滴下して反応させ、滴下終了後、0℃で2時間攪拌を行い、更に室温下で1時間撹拌を行った。0.5μmのメンブレンフィルターによりろ過を行い、得られたろ液からジエチルエーテルおよびヘキサンを除去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、3.5Torrの減圧下、バス75℃で蒸留し、塔頂温度44℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は54%であった。得られた化合物は常温常圧(25℃、1atm、以下同様)で無色透明の液体であった。元素分析及び1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.1と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0057】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
Si:25.0質量%、P:13.8質量%、C:43.7質量%、H:11.1質量%、N:6.24質量%(理論値;Si:25.37質量%、P:13.99質量%、C:43.39質量%、H:10.92質量%、N:6.33質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(0.259ppm:s:18.1)(1.21ppm:d:6.0)
(3)TG−DTA
TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量8.903mg) 50質量%減少温度 122℃
【0058】
[製造例2]化合物No.5(一般式(1)中、Xが(X−2)である化合物)の製造
アルゴンガス雰囲気下で、500mL四つ口反応フラスコに金属マグネシウム5.45gと脱水処理したテトラヒドロフラン221.14gを仕込み45℃バスに加熱し、クロロメチルトリメチルシラン25.0gを滴下しながらGrignard溶液を調製した。反応が完了した後、再びドライアイスにより反応フラスコを−5℃に冷却し、クロロビス(ジメチルアミノ)ホスフィン32.3gを滴下して反応させた。反応溶液は灰色懸濁液となり、室温下で約2時間反応を継続した。続いて、0.5μmのメンブレンフィルターによりろ過を行い、得られたろ液からヘキサンおよびテトラヒドロフランを除去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、4Torrの減圧下、バス95℃で蒸留し、塔頂温度56℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は51%であった。得られた化合物は常温常圧で無色透明の液体であった。元素分析及び1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.5と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0059】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
Si:13.6質量%、P:14.8質量%、C:46.6質量%、H:11.0質量%、N:14.1質量%(理論値;Si:13.61質量%、P:15.01質量%、C:46.57質量%、H:11.23質量%、N:13.58質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(0.145ppm:d:9.0)(0.919ppm:d:2.1)(2.54ppm:d:12.3)
(3)TG−DTA
TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量8.733mg) 50質量%減少温度125℃
【0060】
[製造例3]化合物No.18(一般式(1)中、Xが(X−3)である化合物)の製造
アルゴンガス雰囲気下で、100mL四つ口反応フラスコにトリス(ジメチルアミノ)ホスフィン16.3gを仕込みトリメチルシリルアジド11.5gをバス55℃に加熱しながら滴下して反応させた。N2ガスを発生しながら反応した。反応が完了した後、そのまま、1Torrの減圧下、バス115℃で蒸留し、塔頂温度53℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は51%であった。得られた化合物は常温常圧で無色透明の液体であった。元素分析及び1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.18と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0061】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
Si:11.1質量%、P:12.5質量%、C:43.0質量%、H:10.9質量%、N:24.1質量%(理論値;Si:11.22質量%、P:12.37質量%、C:43.17質量%、H:10.87質量%、N:22.38質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(0.404ppm:s:9.0)(2.38ppm:d:18.3)
(3)TG−DTA
TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量9.696mg) 50質量%減少温度145℃
【0062】
[製造例4]化合物No.31(一般式(1)中、Xが(X−4)である化合物)の製造
アルゴンガス雰囲気下で、1L四つ口反応フラスコにトリメチルシリル−t−ブチルアミン30.1gと脱水処理したヘキサン142.78gを仕込み、ドライアイス冷却下、0℃でノルマルブチルリチウム(1.6mol/L)のヘキサン溶液88.77gを滴下して反応させた。室温で反応を行った後、ドライアイスとイソプロパノールにより−70℃まで冷却し、三塩化リン28.4gを滴下して反応させた。反応溶液は、淡黄色懸濁液から黄色懸濁液となった。氷水で0℃に冷却し約2時間反応させた。再度、ドライアイスとイソプロパノールで冷却した後、−5℃で臭化メチルマグネシウム(1mol/L)のテトラヒドロフラン溶液410.5gを滴下して反応させた。滴下終了後、0℃で2時間反応後、更に室温下で約2時間反応を継続した。続いて、0.5μmのメンブレンフィルターによりろ過を行い、得られたろ液からヘキサンおよびテトラヒドロフランを除去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、3Torrの減圧下、バス90℃で蒸留し、塔頂温度48℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は51%であった。得られた化合物は常温常圧で無色透明の液体であった。元素分析及び1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.31と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0063】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
Si:13.4質量%、P:14.75質量%、C:52.8質量%、H:11.8質量%、N:7.0質量%(理論値;Si:13.68質量%、P:15.08質量%、C:52.64質量%、H:11.78質量%、N:6.82質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(0.319ppm:s:9.0)(1.27ppm:s:6.07)(1.29ppm:d:9.1)
(3)TG−DTA
TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量9.799mg) 50質量%減少温度126℃
【0064】
[製造例5]化合物No.38(一般式(1)中、Xが(X−5)である化合物)の製造
アルゴンガス雰囲気下で、200mL四つ口反応フラスコにトリメチルフォスフィン(1mol/L)のトルエン溶液50.3gを仕込み、トリメチルシリルアジド6.84gを滴下し、50℃で8.5時間、更に60℃から徐々に昇温し106℃で還流させながら2時間N2ガスを発生しながら反応させた。反応が完了した後、そのまま、常圧下バス145℃で濃縮し、引き続き、減圧下バス75℃で塔頂温度45℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は49%であった。得られた化合物は常温常圧で無色透明の液体であった。元素分析及び1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.38と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0065】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
Si:16.9質量%、P:18.70質量%、C:44.1質量%、H:11.6質量%、N:8.9質量%(理論値;Si:17.20質量%、P:18.97質量%、C:44.14質量%、H:11.11質量%、N:8.58質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)(0.338ppm:s:0.96)(0.845ppm:d:1.0)
(3)TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量9.141mg) 50質量%減少温度102℃
【0066】
[評価例1]本発明の薄膜形成用原料に用いられるケイ素化合物の熱安定性評価
No.1、5、18及び38並びに以下に示す比較化合物1及び2について、DSC測定装置を用いて発熱ピークが観測された温度を熱分解発生温度として測定することで、各化合物の熱安定性を確認した。結果を表1に示す。薄膜形成用原料の熱安定性が高い場合は、より高温で成膜することができる。より高温で成膜することができるということは、得られる薄膜中の炭素残渣などの不純物を少なくすることができる。よって、薄膜形成用原料の熱安定性は得られる薄膜の品質に影響するものである。
【0067】
【化10】
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果より、評価例1−1〜1−4と比較評価例1及び比較評価例2を比べると、評価例1−1〜1−4でそれぞれ用いた化合物No.1、5、18及び38は比較評価例1及び比較評価例2でそれぞれ用いた比較化合物1及び2よりも熱安定性が高いということがわかった。なかでも、化合物No.18は500℃以上の熱安定性を有し、薄膜形成用原料として非常に好適なものであることがわかった。
【0070】
[評価例2]ケイ素化合物と反応性ガスとの反応性評価
本発明の薄膜形成用原料に用いられるケイ素化合物である、化合物No.1、5、18、31及び38並びに比較化合物2について、オゾン雰囲気下でのTG−DTAの測定を行い、各化合物とオゾンとの酸化反応による発熱ピークの有無を確認した。測定条件は、O3とO2との混合ガス(混合比:O34%、O296%、)2000ml/min、10℃/min昇温、サンプル量約10mgとした。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2によれば、比較評価例3の結果より、比較化合物2はオゾンと反応しないことがわかった。また、比較評価例3及び評価例2−1〜2−5の結果より、本発明の薄膜形成用原料に用いられるケイ素化合物である化合物No.1、5、18、31及び38はオゾンと良好に反応することがわかった。
【0073】
[実施例1]ALD法によるリン珪酸ガラス薄膜の製造
化合物No.1、5、18、31及び38を化学気相成長用原料とし、各々の化合物を用いて図1に示す装置を用いて以下の条件のALD法により、基体であるシリコンウエハ上にリン珪酸ガラス薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜は全てリン珪酸ガラス薄膜であった。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.01〜0.1nmであった。
(条件)
反応温度(基体温度):300〜400℃、反応性ガス:オゾンガス
(工程)
下記(1)〜(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。
(1)原料容器温度:23℃、原料容器内圧力100Paの条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を導入し、系圧100Paで10秒間堆積させる。
(2)15秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(3)反応性ガスを導入し、系圧力100Paで10秒間反応させる。
(4)15秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
【0074】
[比較例1]ALD法によるリン珪酸ガラス薄膜の製造
比較化合物2を化学気相成長用原料とし、実施例1と同様の条件のALD法によりシリコンウエハ上にリン珪酸ガラス薄膜を製造することを試みたが、薄膜を得ることができなかった。
【0075】
実施例1では、本発明の全ての原料においてALD法によってリン珪酸ガラス薄膜を得ることができたことに対して、比較例1では薄膜を得ることすらできなかった。よって、本発明の薄膜形成用原料はALDプロセスに適用することができることから、化学気相成長用原料として優れた薄膜形成用原料であることがわかった。
【0076】
[実施例2]CVD法によるリン珪酸ガラス薄膜の製造
化合物No.18を化学気相成長用原料とし、図1に示す装置を用いて以下の条件の熱CVD法により、シリコンウエハ基板上にリン珪酸ガラス薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜はリン珪酸ガラス薄膜であった。また、膜厚は30nmであり、得られた薄膜中のリン含有量は12質量%であった。
(条件)原料容器温度:23℃、反応系圧力:100Pa、反応時間:120分、基板温度:300℃、キャリアガス(Ar):150ml/min、反応性ガス:オゾンガス
【0077】
[比較例2]CVD法によるリン珪酸ガラス薄膜の製造
比較化合物2を化学気相成長用原料とし、図1に示す装置を用いて以下の条件の熱CVD法により、シリコンウエハ基板上にリン珪酸ガラス薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜はリン珪酸ガラス薄膜であった。また、膜厚は100nmであり、得られた薄膜中のリン含有量は5質量%であった。
(条件)原料容器温度:23℃、反応系圧力:100Pa、反応時間:240分、基板温度:260℃、キャリアガス(Ar):150ml/min、反応性ガス:オゾンガス
【0078】
比較例2によって得られた薄膜はリン含有量が5質量%であったことから、比較化合物1を用いてリン含有量が10〜20質量%のリン珪酸ガラス薄膜を得るためには、比較化合物1とは別のリン供給体を添加する必要があることがわかった。一方、実施例2で得られた薄膜のリン含有量が12質量%であったことから、化合物No.18を化学気相成長用原料は、化合物No.18とは別に別のリン供給体を添加することなくリン含有量が10〜20質量%のリン珪酸ガラス薄膜を作成することができる化学気相成長用原料であることがわかった。
図1
図2
図3
図4