【実施例】
【0055】
以下、製造例、実施例及び評価例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0056】
[製造例1]化合物No.1(一般式(1)中、Xが(X−1)である化合物)の製造
アルゴンガス雰囲気下で、500mL四つ口反応フラスコにヘキサメチルジシラザン16.1gと脱水処理したジエチルエーテル73.6gを仕込みドライアイスにより冷却した。そこに、ノルマルブチルリチウム(1.6mol/L)のヘキサン溶液43.8gを滴下しながら反応させた。滴下終了後、室温に戻して約2時間反応を継続させた。続いて、再びドライアイスとイソプロパノールにより反応フラスコを−70℃まで冷却し、三塩化リン13.6gを白色懸濁液中へ滴下して反応させた。0℃まで昇温していくと反応溶液は、黄色懸濁液から淡黄色、白色懸濁液となり、0℃で1時間反応を継続した後、そのまま0℃で臭化メチルマグネシウム(3mol/L)のジエチルエーテル溶液68.1gを滴下して反応させ、滴下終了後、0℃で2時間攪拌を行い、更に室温下で1時間撹拌を行った。0.5μmのメンブレンフィルターによりろ過を行い、得られたろ液からジエチルエーテルおよびヘキサンを除去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、3.5Torrの減圧下、バス75℃で蒸留し、塔頂温度44℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は54%であった。得られた化合物は常温常圧(25℃、1atm、以下同様)で無色透明の液体であった。元素分析及び
1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.1と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0057】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
Si:25.0質量%、P:13.8質量%、C:43.7質量%、H:11.1質量%、N:6.24質量%(理論値;Si:25.37質量%、P:13.99質量%、C:43.39質量%、H:10.92質量%、N:6.33質量%)
(2)
1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(0.259ppm:s:18.1)(1.21ppm:d:6.0)
(3)TG−DTA
TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量8.903mg) 50質量%減少温度 122℃
【0058】
[製造例2]化合物No.5(一般式(1)中、Xが(X−2)である化合物)の製造
アルゴンガス雰囲気下で、500mL四つ口反応フラスコに金属マグネシウム5.45gと脱水処理したテトラヒドロフラン221.14gを仕込み45℃バスに加熱し、クロロメチルトリメチルシラン25.0gを滴下しながらGrignard溶液を調製した。反応が完了した後、再びドライアイスにより反応フラスコを−5℃に冷却し、クロロビス(ジメチルアミノ)ホスフィン32.3gを滴下して反応させた。反応溶液は灰色懸濁液となり、室温下で約2時間反応を継続した。続いて、0.5μmのメンブレンフィルターによりろ過を行い、得られたろ液からヘキサンおよびテトラヒドロフランを除去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、4Torrの減圧下、バス95℃で蒸留し、塔頂温度56℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は51%であった。得られた化合物は常温常圧で無色透明の液体であった。元素分析及び
1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.5と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0059】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
Si:13.6質量%、P:14.8質量%、C:46.6質量%、H:11.0質量%、N:14.1質量%(理論値;Si:13.61質量%、P:15.01質量%、C:46.57質量%、H:11.23質量%、N:13.58質量%)
(2)
1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(0.145ppm:d:9.0)(0.919ppm:d:2.1)(2.54ppm:d:12.3)
(3)TG−DTA
TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量8.733mg) 50質量%減少温度125℃
【0060】
[製造例3]化合物No.18(一般式(1)中、Xが(X−3)である化合物)の製造
アルゴンガス雰囲気下で、100mL四つ口反応フラスコにトリス(ジメチルアミノ)ホスフィン16.3gを仕込みトリメチルシリルアジド11.5gをバス55℃に加熱しながら滴下して反応させた。N
2ガスを発生しながら反応した。反応が完了した後、そのまま、1Torrの減圧下、バス115℃で蒸留し、塔頂温度53℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は51%であった。得られた化合物は常温常圧で無色透明の液体であった。元素分析及び
1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.18と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0061】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
Si:11.1質量%、P:12.5質量%、C:43.0質量%、H:10.9質量%、N:24.1質量%(理論値;Si:11.22質量%、P:12.37質量%、C:43.17質量%、H:10.87質量%、N:22.38質量%)
(2)
1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(0.404ppm:s:9.0)(2.38ppm:d:18.3)
(3)TG−DTA
TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量9.696mg) 50質量%減少温度145℃
【0062】
[製造例4]化合物No.31(一般式(1)中、Xが(X−4)である化合物)の製造
アルゴンガス雰囲気下で、1L四つ口反応フラスコにトリメチルシリル−t−ブチルアミン30.1gと脱水処理したヘキサン142.78gを仕込み、ドライアイス冷却下、0℃でノルマルブチルリチウム(1.6mol/L)のヘキサン溶液88.77gを滴下して反応させた。室温で反応を行った後、ドライアイスとイソプロパノールにより−70℃まで冷却し、三塩化リン28.4gを滴下して反応させた。反応溶液は、淡黄色懸濁液から黄色懸濁液となった。氷水で0℃に冷却し約2時間反応させた。再度、ドライアイスとイソプロパノールで冷却した後、−5℃で臭化メチルマグネシウム(1mol/L)のテトラヒドロフラン溶液410.5gを滴下して反応させた。滴下終了後、0℃で2時間反応後、更に室温下で約2時間反応を継続した。続いて、0.5μmのメンブレンフィルターによりろ過を行い、得られたろ液からヘキサンおよびテトラヒドロフランを除去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、3Torrの減圧下、バス90℃で蒸留し、塔頂温度48℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は51%であった。得られた化合物は常温常圧で無色透明の液体であった。元素分析及び
1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.31と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0063】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
Si:13.4質量%、P:14.75質量%、C:52.8質量%、H:11.8質量%、N:7.0質量%(理論値;Si:13.68質量%、P:15.08質量%、C:52.64質量%、H:11.78質量%、N:6.82質量%)
(2)
1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(0.319ppm:s:9.0)(1.27ppm:s:6.07)(1.29ppm:d:9.1)
(3)TG−DTA
TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量9.799mg) 50質量%減少温度126℃
【0064】
[製造例5]化合物No.38(一般式(1)中、Xが(X−5)である化合物)の製造
アルゴンガス雰囲気下で、200mL四つ口反応フラスコにトリメチルフォスフィン(1mol/L)のトルエン溶液50.3gを仕込み、トリメチルシリルアジド6.84gを滴下し、50℃で8.5時間、更に60℃から徐々に昇温し106℃で還流させながら2時間N
2ガスを発生しながら反応させた。反応が完了した後、そのまま、常圧下バス145℃で濃縮し、引き続き、減圧下バス75℃で塔頂温度45℃にて留出した化合物を得た。この精製による回収率は49%であった。得られた化合物は常温常圧で無色透明の液体であった。元素分析及び
1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.38と同定された。これらの分析結果を以下に示す。以下には、TG−DTAの結果も併せて示す。
【0065】
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
Si:16.9質量%、P:18.70質量%、C:44.1質量%、H:11.6質量%、N:8.9質量%(理論値;Si:17.20質量%、P:18.97質量%、C:44.14質量%、H:11.11質量%、N:8.58質量%)
(2)
1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)(0.338ppm:s:0.96)(0.845ppm:d:1.0)
(3)TG−DTA(Ar100ml/min、10℃/min昇温、サンプル量9.141mg) 50質量%減少温度102℃
【0066】
[評価例1]本発明の薄膜形成用原料に用いられるケイ素化合物の熱安定性評価
No.1、5、18及び38並びに以下に示す比較化合物1及び2について、DSC測定装置を用いて発熱ピークが観測された温度を熱分解発生温度として測定することで、各化合物の熱安定性を確認した。結果を表1に示す。薄膜形成用原料の熱安定性が高い場合は、より高温で成膜することができる。より高温で成膜することができるということは、得られる薄膜中の炭素残渣などの不純物を少なくすることができる。よって、薄膜形成用原料の熱安定性は得られる薄膜の品質に影響するものである。
【0067】
【化10】
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果より、評価例1−1〜1−4と比較評価例1及び比較評価例2を比べると、評価例1−1〜1−4でそれぞれ用いた化合物No.1、5、18及び38は比較評価例1及び比較評価例2でそれぞれ用いた比較化合物1及び2よりも熱安定性が高いということがわかった。なかでも、化合物No.18は500℃以上の熱安定性を有し、薄膜形成用原料として非常に好適なものであることがわかった。
【0070】
[評価例2]ケイ素化合物と反応性ガスとの反応性評価
本発明の薄膜形成用原料に用いられるケイ素化合物である、化合物No.1、5、18、31及び38並びに比較化合物2について、オゾン雰囲気下でのTG−DTAの測定を行い、各化合物とオゾンとの酸化反応による発熱ピークの有無を確認した。測定条件は、O
3とO
2との混合ガス(混合比:O
34%、O
296%、)2000ml/min、10℃/min昇温、サンプル量約10mgとした。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2によれば、比較評価例3の結果より、比較化合物2はオゾンと反応しないことがわかった。また、比較評価例3及び評価例2−1〜2−5の結果より、本発明の薄膜形成用原料に用いられるケイ素化合物である化合物No.1、5、18、31及び38はオゾンと良好に反応することがわかった。
【0073】
[実施例1]ALD法によるリン珪酸ガラス薄膜の製造
化合物No.1、5、18、31及び38を化学気相成長用原料とし、各々の化合物を用いて
図1に示す装置を用いて以下の条件のALD法により、基体であるシリコンウエハ上にリン珪酸ガラス薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜は全てリン珪酸ガラス薄膜であった。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.01〜0.1nmであった。
(条件)
反応温度(基体温度):300〜400℃、反応性ガス:オゾンガス
(工程)
下記(1)〜(4)からなる一連の工程を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。
(1)原料容器温度:23℃、原料容器内圧力100Paの条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を導入し、系圧100Paで10秒間堆積させる。
(2)15秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
(3)反応性ガスを導入し、系圧力100Paで10秒間反応させる。
(4)15秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
【0074】
[比較例1]ALD法によるリン珪酸ガラス薄膜の製造
比較化合物2を化学気相成長用原料とし、実施例1と同様の条件のALD法によりシリコンウエハ上にリン珪酸ガラス薄膜を製造することを試みたが、薄膜を得ることができなかった。
【0075】
実施例1では、本発明の全ての原料においてALD法によってリン珪酸ガラス薄膜を得ることができたことに対して、比較例1では薄膜を得ることすらできなかった。よって、本発明の薄膜形成用原料はALDプロセスに適用することができることから、化学気相成長用原料として優れた薄膜形成用原料であることがわかった。
【0076】
[実施例2]CVD法によるリン珪酸ガラス薄膜の製造
化合物No.18を化学気相成長用原料とし、
図1に示す装置を用いて以下の条件の熱CVD法により、シリコンウエハ基板上にリン珪酸ガラス薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜はリン珪酸ガラス薄膜であった。また、膜厚は30nmであり、得られた薄膜中のリン含有量は12質量%であった。
(条件)原料容器温度:23℃、反応系圧力:100Pa、反応時間:120分、基板温度:300℃、キャリアガス(Ar):150ml/min、反応性ガス:オゾンガス
【0077】
[比較例2]CVD法によるリン珪酸ガラス薄膜の製造
比較化合物2を化学気相成長用原料とし、
図1に示す装置を用いて以下の条件の熱CVD法により、シリコンウエハ基板上にリン珪酸ガラス薄膜を製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜はリン珪酸ガラス薄膜であった。また、膜厚は100nmであり、得られた薄膜中のリン含有量は5質量%であった。
(条件)原料容器温度:23℃、反応系圧力:100Pa、反応時間:240分、基板温度:260℃、キャリアガス(Ar):150ml/min、反応性ガス:オゾンガス
【0078】
比較例2によって得られた薄膜はリン含有量が5質量%であったことから、比較化合物1を用いてリン含有量が10〜20質量%のリン珪酸ガラス薄膜を得るためには、比較化合物1とは別のリン供給体を添加する必要があることがわかった。一方、実施例2で得られた薄膜のリン含有量が12質量%であったことから、化合物No.18を化学気相成長用原料は、化合物No.18とは別に別のリン供給体を添加することなくリン含有量が10〜20質量%のリン珪酸ガラス薄膜を作成することができる化学気相成長用原料であることがわかった。