(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6116009
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】軟骨再生用組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 27/20 20060101AFI20170410BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/54
【請求項の数】16
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-530080(P2013-530080)
(86)(22)【出願日】2012年8月22日
(86)【国際出願番号】JP2012071749
(87)【国際公開番号】WO2013027854
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2015年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-181662(P2011-181662)
(32)【優先日】2011年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 倫政
(72)【発明者】
【氏名】祐川 敦
(72)【発明者】
【氏名】三浪 明男
(72)【発明者】
【氏名】大澤 伸雄
【審査官】
石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/102855(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/048418(WO,A1)
【文献】
KITAORI,T. et al,Stromal cell-derived factor 1/CXCR4 signaling is critical for the recruitment of mesenchymal stem ce,Arthritis & Rheumatism,2009年,Vol.60, No.3,p.813-823
【文献】
北折俊之 他,骨治癒における間葉系幹細胞の誘導:ケモカインSDF-1の機能的役割,日本骨代謝学会学術集会プログラム抄録集,2009年,Vol.27th,p.160
【文献】
LU,D. et al,Expression of stromal cell-derived factor-1 after articular cartilage injury,Zhongguo Zuzhi Gongcheng Yanjiu Yu Linchuang Kangfu,2011年 7月 2日,Vol.15, No.27,p.5063-5067
【文献】
MAZZETTI,I. et al,A role for chemokines in the induction of chondrocyte phenotype modulation,Arthritis and rheumatism,2004年,Vol.50, No.1,p.112-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)100EU/g以下のエンドトキシン含有量である低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1を組み合わせて用い、投与時に流動性を有する軟骨再生用組成物(ただし、TGF−βを用いるものを除く)。
【請求項2】
(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1があらかじめ混合され製剤化されている配合剤の形態である、請求項1に記載の軟骨再生用組成物。
【請求項3】
(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1を別々に製剤化して得られる2種類の製剤を組合せたキットの形態である、請求項1に記載の軟骨再生用組成物。
【請求項4】
(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1を別々に製剤化して得られる2種類の製剤が別々に提供される、請求項1に記載の軟骨再生用組成物。
【請求項5】
(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含有し、(b)SDF−1と併用する、請求項1に記載の軟骨再生用組成物。
【請求項6】
前記組成物が、細胞成長因子を含有しない、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記SDF−1が、0.2μg/ml以上100μg/ml未満の濃度で前記組成物中に含有される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、軟骨損傷部に適用され、その組成物の表面に架橋剤が適用されることで硬化する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記架橋剤がCa2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属イオン化合物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、架橋剤を含有しない、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
前記アルギン酸の1価金属塩は、ゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が50万以上である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、粘度400mPa・s〜20000mPa・sである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、軟骨再生のための細胞を含有しない、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩以外に、細胞のための足場材料を含有しない、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記アルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸カリウムまたはアルギン酸ナトリウムである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記軟骨再生用組成物が、軟骨損傷部治療または軟骨疾患治療に用いられる、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨再生用組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
関節軟骨は硝子軟骨であり、少数の細胞、コラーゲン性の細胞外マトリックス、多くのプロテオグリカンおよび水からなる。骨の場合、血管や神経ネットワークが存在し、自己修復能を有するため、骨折したときでも、十分に骨折部分が修復されることが多い。しかし、関節軟骨には血管および神経ネットワークが存在しない。このため、自己修復能がほとんどなく、特に大きな軟骨欠損部が形成された場合、軟骨欠損部は十分には修復されない。修復される部分にしても、硝子軟骨と力学的特性の異なる線維軟骨が形成される。このため、軟骨欠損部が形成されると、関節痛および関節機能の喪失がもたらされ、しばしば変形性関節症へと発展する。また、加齢や関節の酷使によって関節軟骨の表面の磨耗が始まった変形性関節症の初期段階から、病状が進行した結果として、広範な領域での軟骨欠損に至ることもある。
このように、関節軟骨は自己修復能が十分ではないので、自家骨軟骨柱移植術(mosaicplasty)、ピックで穿孔する方法(microfracture)、ドリリング(drilling)、バーで軟骨下骨を削る方法(abrasion法)、および損傷軟骨切除(debridement)のような軟骨損傷を治療するための外科的処置を必要とする。これらのうち、microfracture法、drilling、abrasion法は、骨髄刺激法(Marrow stimulation technique)と呼ばれ、骨髄から出血を促し、骨髄由来の軟骨前駆細胞を誘導し、軟骨への分化を期待するものである。しかし、これらは、広範囲の軟骨欠損に対しては限界があり、この方法で再生されるものは、硝子軟骨と力学的特性の異なる線維軟骨である。
Petersonら、およびGrandeらは、1984年に、ウサギの関節軟骨の非全層において、自家培養軟骨細胞移植(ACI)法を試験した。ACI法は、自己の正常な軟骨から組織を採取して培養し、培養した細胞を培地に浮遊させた状態で患部に移植し、細胞が漏れないように骨膜で軟骨欠損部を覆っておく方法である。ACI法は当初1994年に臨床に応用され、現在15年を超える。現在までに、何例かの成功例が臨床で報告されている。しかし、最近の臨床試験では、関節軟骨欠損の修復に対しての他の手術よりACI法が有意に優れているという結果を示さなかったという報告もある。
このようなACI法の芳しくない結果には二つの主たる理由がある。一つは、関節欠損部への細胞と足場の固定、および骨膜パッチによる被覆が技術的に困難であることである。ACI法では、細胞懸濁液を骨膜パッチで被覆し縫合するために、関節切開により幅広く関節を露出させる必要がある。さらに、骨膜肥厚、欠損化、関節内癒着を含む骨膜パッチに関するいくつかの複雑な問題も報告されている。もう一つの理由は、軟骨細胞の使用の限界である。軟骨細胞は単層培養で急速にその分化表現型を失い、線維芽細胞へトランスフォームする。さらに別の問題として、ACI法は、患部関節の重量のかからない部位から軟骨を採取する必要があるが、供与部位は、軟骨細胞が採取されるので、問題のある状態のままになるという問題もある。
一方、コラーゲン、キトサン、アガロース、アルギン酸などの天然ポリマーを、関節軟骨の再生医療に利用しようとする試みが進められている。しかし、ポリマーのみで十分な軟骨再生効果を得ることは難しく、培養軟骨細胞や骨髄間葉系幹細胞と組み合わせて用いられることが通常である。例えば、特許文献1には、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を含有する組成物に骨髄間葉系幹細胞を包埋し軟骨損傷部に適用することで正常軟骨とほぼ同等の良好な硝子軟骨再生が得られることが開示されている。また、軟骨再生医療において、成長因子やサイトカインを利用する試みも進められている。軟骨細胞を分化・増殖させる代表的な因子としては、TGF−βやbFGFが知られている。
SDF−1(Stromal cell−derived factor 1)はケモカインの一種である。SDF−1は心筋梗塞、脳梗塞、皮膚損傷などの虚血組織で発現し、血管前駆細胞を虚血部位に遊走させ、血管新生をもたらす。非特許文献1には、骨移植部位にSDF−1の発現が認められ、骨治癒においてSDF−1が間葉系幹細胞を局所に誘導する役割を果たしていることが記載されている。特許文献2には、SDF−1と修飾ゼラチンからなるハイドロゲルとを含有する徐放性組成物が開示されている。この組成物は、SDF−1を持続的に放出できることから虚血性疾患等の治療に利用されている。一方で、SDF−1が軟骨損傷部で発現しているかどうか、また、軟骨損傷部に投与した場合に有利な効果を発揮するかどうかはこれまで知られていなかった。SDF−1は、変形性関節症や関節リウマチの病態組織において正常組織に比べ高濃度で存在し、高濃度(200ng/ml以上、正常組織では100ng/ml未満)のSDF−1は軟骨細胞のネクローシスをもたらすとの報告もある(非特許文献2)。
特許文献3には、開放多孔性構造形成マトリックスおよび血清を含む、無細胞移植片が開示されている。この無細胞移植片は、移植片に含まれる血清が間葉系前駆細胞の欠損部への遊走を促進することから、軟骨再生に使用できる可能性が記載されているが、実際に生体内において軟骨再生効果を発揮するかどうかは明らかにされていない。一般に、軟骨再生医療においては、in vitroでの軟骨再生試験や細胞遊走試験のみから、in vivoでの移植治療の効果を予測することは困難である。すなわち、軟骨再生医療における移植片は、損傷部に数週間留まることができる、移植片が再生軟骨に置き換わり周りの組織とうまく接合する、といった性能を有する必要があり、このような性能はin vivoでないと確認が困難である。
特許文献4には、SDF−1またはTGF−βを含む一方で細胞を含まない足場を細胞と流体的に連絡するように配置することで、その足場に細胞を遊走させることが記載されている。特許文献4で、実際に足場として用いたのは、コラーゲンスポンジの上を架橋アルギン酸カルシウムで覆ったものである。足場の架橋アルギン酸カルシウム層にはSDF−1および/またはTGF−βを含むゼラチンマイクロスフィアが包埋された。そして、引用文献4は、その足場を、コラーゲンスポンジ側を下にして、コラーゲンスポンジと骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)、ヒト脂肪由来幹細胞(ASC)、および滑膜幹細胞(SYN)に接触させたところ、いくつかのケースでは、足場のコラーゲンスポンジに細胞が遊走したと報告している。足場にTGF−βを含ませた場合は細胞遊走は中程度であるが軟骨形成が認められたこと、TGF−βとSDF−1を両方含ませた場合は良好な細胞遊走が起こりかつ軟骨形成が認められたことが記載されている。しかしながら、引用文献4は、足場の架橋アルギン酸カルシウム層に細胞が遊走することは示していない。また、引用文献4は、TGF−βを含まずSDF−1のみを含む足場にはMSCとASCが遊走したものの、SDF−1単独では軟骨形成を誘導するには不十分であったと結論付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008/102855号パンフレット
【特許文献2】WO2009/060608号パンフレット
【特許文献3】WO2007/003324号パンフレット
【特許文献4】WO2010/048418号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】北折俊之ら、臨床整形外科、Vol.45,No.1,pp72−75(2010)
【非特許文献2】Lei Weiら、The Journal of Rheumatology、Vol.33,pp1818−1826(2006)
【発明の開示】
【0005】
上記状況において、軟骨再生医療において、細胞採取、関節切開などの患者への負担を軽減でき、軟骨損傷部への適用が容易であり、in vivoで軟骨再生効果を発揮することができる軟骨再生用組成物などが求められていた。特に、移植細胞を用いずとも、正常軟骨に近い良好な硝子軟骨再生効果を得られる、新たな軟骨再生用組成物の提供が期待されていた。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1を組み合わせて用いる軟骨再生用組成物を軟骨損傷部に適用することで、移植用の細胞を用いずとも良好な軟骨の再生を軟骨損傷部で誘導することができることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下に示す、軟骨再生用組成物を提供する。
[1−1](a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1を組み合わせて用いる、軟骨再生用組成物。
[1−2]前記組成物が、細胞成長因子を含有しない、上記[1−1]に記載の組成物。
[1−3]前記SDF−1が、0.2μg/ml以上100μg/ml未満の濃度で前記組成物中に含有される、上記[1−1]または[1−2]に記載の組成物。
[1−4]前記組成物が、軟骨損傷部に適用され、その組成物の表面に架橋剤が適用されることで硬化する、上記[1−1]〜[1−3]のいずれか1項に記載の組成物。
[1−5]前記架橋剤がCa
2+、Mg
2+、Ba
2+、Sr
2+からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属イオン化合物である、上記[1−4]に記載の組成物。
[1−6]前記アルギン酸の1価金属塩は、ゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が50万以上である、上記[1−1]〜[1−5]のいずれか1項に記載の組成物。
[1−7]前記組成物が、粘度400mPa・s〜20000mPa・sである、上記[1−1]〜[1−6]のいずれか1項に記載の組成物。
[1−8]前記組成物が、軟骨再生のための細胞を含有しない、上記[1−1]〜[1−7]のいずれか1項に記載の組成物。
[1−9]前記組成物が、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩以外に、細胞のための足場材料を含有しない、上記[1−1]〜[1−8]のいずれか1項に記載の組成物。
[1−10]前記アルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸カリウムまたはアルギン酸ナトリウムである、上記[1−1]〜[1−9]のいずれか1項に記載の組成物。
[1−11]前記低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩が、100EU/g以下のエンドトキシン含有量である、上記[1−1]〜[1−10]のいずれか1項に記載の組成物。
[1−12]前記軟骨再生用組成物が、軟骨損傷部治療または軟骨疾患治療に用いられる、上記[1−1]〜[1−11]のいずれか1項に記載の組成物。
また、本発明は、以下に示す、軟骨再生方法を提供する。
[2−1](a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1を組み合わせて用いる組成物を軟骨損傷部に適用することを特徴とする、軟骨再生方法。
[2−2]前記組成物が、細胞成長因子を含有しない、上記[2−1]に記載の方法。
[2−3]前記成物中のSDF−1濃度が、0.2μg/ml以上100μg/ml未満である、上記[2−1]または[2−2]に記載の方法。
[2−4]前記組成物が、軟骨損傷部に適用され、その組成物の表面に架橋剤が適用されることで硬化する、上記[2−1]〜[2−3]のいずれか1項に記載の方法。
[2−5]前記架橋剤がCa
2+、Mg
2+、Ba
2+、Sr
2+からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属イオン化合物である、上記[2−4]に記載の方法。
[2−6]前記アルギン酸の1価金属塩は、ゲルろ過クロマトグラフィーにおける重量平均分子量が50万以上である、上記[2−1]〜[2−5]のいずれか1項に記載の方法。
[2−7]前記組成物が、粘度400mPa・s〜20000mPa・sである、上記[2−1]〜[2−6]のいずれか1項に記載の方法。
[2−8]前記組成物が、軟骨再生のための細胞を含有しない、上記[2−1]〜[2−7]のいずれか1項に記載の方法。
[2−9]前記組成物が、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩以外に、細胞のための足場材料を含有しない、上記[2−1]〜[2−8]のいずれか1項に記載の組成物。
[2−10]前記アルギン酸の1価金属塩が、アルギン酸カリウムまたはアルギン酸ナトリウムである、上記[2−1]〜[2−9]のいずれか1項に記載の方法。
[2−11]前記低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩が、100EU/g以下のエンドトキシン含有量である、上記[2−1]〜[2−10]のいずれか1項に記載の方法。
[2−12]前記方法が、軟骨損傷部治療または軟骨疾患治療に用いられる、上記[2−1]〜[2−11]のいずれか1項に記載の方法。
本発明は、軟骨再生医療において、細胞採取、関節切開などの患者への負担を軽減でき、軟骨損傷部への適用が容易であり、in vivoで軟骨再生効果を発揮することができる軟骨再生用組成物を提供する。本発明の好ましい態様の軟骨再生用組成物は、移植用の細胞を用いずとも正常軟骨に近い良好な硝子軟骨再生を誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1は、実施例1のウサギ骨軟骨欠損モデルにおけるSDF−1蛋白質の発現を示す図である。(A−D)は骨軟骨全層欠損作製術後各時点での軟骨損傷部でのSDF−1の免疫組織染色像を示す。黒矢印はSDF−1蛋白質を発現している細胞を示している。(E−H)は偽手術群における無傷の関節表面の各時点でのSDF−1の免疫組織染色像を示す。スケールバーは50μmである。(I)は術後1週間の軟骨損傷部の低倍率の図である。スケールバーは1mmである。(J)はウエスタンブロットを示す。Shamは偽手術群、defectは骨軟骨全層欠損作製群である。
図2は、実施例2のウサギ骨軟骨欠損モデルにおける、4週目の肉眼的所見(A−D)と16週目の肉眼的所見(E−H)を示す図である。Defectは無治療群、vehicleはアルギン酸群、SDF−1はアルギン酸+SDF−1投与群、AMD3100はアルギン酸+AMD3100投与群を示す。(I)は4週目の肉眼的スコア、(J)は16週目の肉眼的スコアを示す(n=10)。*p<0.05,**p<0.01,†p<0.001
図3は、実施例2のウサギ骨軟骨欠損モデルにおける、4週目の組織切片の図である。Defectは無治療群、vehicleはアルギン酸群、SDF−1はアルギン酸+SDF−1投与群、AMD3100はアルギン酸+AMD3100投与群を示す。(A−D)はサフラニン−O染色、(E−H)は抗タイプIコラーゲン抗体による染色、(I−L)は抗タイプIIコラーゲン抗体による染色である。スケールバーは500μmである。(M)は4週目の組織学的スコアを示す(n=5)。*p<0.01,**p<0.001
図4は、実施例2のウサギ骨軟骨欠損モデルにおける、16週目の組織切片の図である。Defectは無治療群、vehicleはアルギン酸群、SDF−1はアルギン酸+SDF−1投与群、AMD3100はアルギン酸+AMD3100投与群を示す。(A−D)はサフラニン−O染色、(E−H)は抗タイプIコラーゲン抗体による染色、(I−L)は抗タイプIIコラーゲン抗体による染色である。スケールバーは500μmである。(M)は16週目の組織学的スコアを示す(n=5)。*p<0.01,**p<0.001
図5は、実施例2の(2−5)SDF−1投与量の評価における、4週目の肉眼的所見(A−D)と12週目の肉眼的所見(E−H)を示す図である。
図6は、実施例2の(2−5)SDF−1投与量の評価における、12週目の組織切片の図である。(A−D)はサフラニン−O染色、(E−H)は抗タイプIコラーゲン抗体による染色、(I−L)は抗タイプIIコラーゲン抗体による染色である。
図7は、実施例3のIn vivo 細胞誘導(cell homing)評価における、移植したアルギン酸ゲルのH−E染色の図である。(A−D)は術後1週間の標本切片である。(A)は低倍率の図で、スケールバーは1mmである。(B−D)は高倍率で、スケールバーは100μmである。(B)はアルギン酸群、(C)はアルギン酸+SDF−1投与群、(D)はアルギン酸+AMD3100投与群である。(E)はフィールド内の細胞数である(n=5)。*p<0.01,**p<0.001
図8は、実施例4のSDF−1がBMSCの挙動に与える影響のIn vitro評価を示す図である。(A)はCytoSelect
TM を用いたSDF−1あり・なし培地での細胞遊走試験の結果である。縦軸は細胞数を反映する蛍光強度である(n=16)。(B)は細胞増殖試験の結果である。縦軸は細胞数を反映する吸光度である(n=5)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の実施の形態は本発明を説明するための例示であり、本発明はその要旨を逸脱しない限りさまざまな形態で実施することができる。
1.軟骨再生
「軟骨」は、関節、胸郭壁、椎間板、半月板や、喉頭、気道、耳などの管状構造にみられ、硝子軟骨、弾性軟骨、線維軟骨の3種に分類できる。例えば、関節軟骨は硝子軟骨であり、軟骨細胞、コラーゲン性の細胞外マトリックス、プロテオグリカンおよび水からなり、血管が分布していない。硝子軟骨は、タイプIIコラーゲンに富み、抗タイプIIコラーゲン抗体により染色される、プロテオグリカンを染色するサフラニン−0染色で赤色に染色される、などの特徴を有する。
「軟骨損傷」とは、加齢や外傷、その他様々な要因によって、軟骨が障害を受けている状態をいい、例えば、何らかの要因で、軟骨の独特の粘弾性(荷重がかかるとゆっくりと縮んで,荷重がとれるとゆっくりと元に戻る)が低下し、可動性を保ちながら荷重を支えることに支障をきたすなど、軟骨の機能が低下した状態を含む。変形性関節症、関節リウマチなどの疾患においても、軟骨損傷が見られる。本発明は、この軟骨損傷部に適用することのできる軟骨再生のための組成物に関する。軟骨欠損とは、軟骨層が欠けてなくなっている部分をいい、軟骨組織の空洞部ならびに該空洞部を形成する周りの組織のことをいう。軟骨欠損は軟骨損傷の一態様であり、本発明の組成物は軟骨欠損部の治療に、好ましく用いられる。
より具体的には、本発明の組成物は、軟骨再生用組成物であって、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1を組み合わせて用いる。本発明の組成物を用いることで、アルギン酸の1価金属塩を単独で用いた場合と比較して、より良好な軟骨を再生することができる。本発明の組成物は、軟骨損傷部への付着性が良く、しかも、シリンジ等で適用できるので、軟骨損傷部に適用し易い。関節鏡下で投与が可能であり、広範な関節切開を避けることができる。本発明の好ましい態様の組成物は、移植用の細胞を用いずとも正常軟骨に近い良好な硝子軟骨再生を誘導することができる。
本発明において、「軟骨再生」または「軟骨組織再生」とは、機能障害や機能不全に陥った軟骨損傷部において軟骨の機能の再生をはかることをいう。本発明において、機能の再生は、必ずしも完全な機能の再生を必要とせず、本発明の組成物適用前の軟骨損傷部の状態と比較して、その機能が回復していればよい。損傷を受ける前の正常な軟骨の状態を100%、本発明の組成物適用前の軟骨損傷部の状態を0%とした場合に、その30%以上が再生していることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、とりわけ好ましくは、ほぼ損傷前の状態にまで回復させることが望ましい。好ましくは、再生軟骨中に硝子軟骨以外の軟骨、例えば線維軟骨等の生じる割合が少ないことが望ましい。また、「軟骨損傷部の治療」または「軟骨欠損部の治療」とは、加齢や外傷、変形性関節症、椎間板損傷、半月板損傷、離断性骨軟骨炎等において見られる軟骨損傷部や軟骨欠損部で軟骨を再生させることにより、これらの症状を緩和しあるいは治癒することをいう。さらに、「軟骨疾患の治療」とは、変形性関節症、関節リウマチ、神経原性関節症などの軟骨疾患において見られる軟骨損傷部や軟骨欠損部で軟骨を再生させることにより、これらの症状を緩和しあるいは治癒することをいう。本発明の軟骨再生用組成物の態様の1つは、硝子軟骨再生のための組成物である。硝子軟骨再生とは、線維軟骨に比べ硝子軟骨の比率が高い軟骨が再生されることを目的とするものであり、II型コラーゲンやプロテオグリカンに富む軟骨組織が再生されることを意図するものである。
また、「軟骨損傷部に適用する」とは、軟骨再生用組成物を軟骨損傷部に接触させるように使用することを指し、好ましくは、軟骨欠損部に対して、本発明の組成物を注入し、該欠損部を埋めるように使用する。あるいは、軟骨損傷部、好ましくは、軟骨欠損部にさらに1以上の比較的小さい穴を形成し、その穴に対して、本発明の組成物を注入し、穴を埋めるように使用してもよい。軟骨損傷部への適用は、患部の空洞容積を十分に満たすように注入されるのが望ましい。患部は、本組成物を適用する前に、必要な前処置を施されるのが望ましく、必要ならば患部を洗浄する。「患部を洗浄する」とは、例えば、生理食塩水などを用いて、本発明の組成物を適用しようとする部位の、血液成分、その他不要な組織などを取り除くことをいう。患部は洗浄後、残存する不要の液体成分などをふき取る等により乾燥させた後に、本発明の組成物を適用するのが望ましい。
2.アルギン酸の1価金属塩
本発明の軟骨再生用組成物に含有させる「アルギン酸の1価金属塩」は、アルギン酸の6位のカルボン酸の水素原子を、Na
+やK
+などの1価金属イオンとイオン交換することでつくられる水溶性の塩である。アルギン酸の1価金属塩としては、具体的には、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムなどを挙げることができるが、特には、市販品により入手可能なアルギン酸ナトリウムが好ましい。アルギン酸の1価金属塩の溶液は、架橋剤と混合したときにゲルを形成する。
本発明に用いる「アルギン酸」は、生分解性の高分子多糖類であって、D−マンヌロン酸(M)とL−グルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖状に重合したポリマーである。より具体的には、D−マンヌロン酸のホモポリマー画分(MM画分)、L−グルロン酸のホモポリマー画分(GG画分)、およびD−マンヌロン酸とL−グルロン酸がランダムに配列した画分(MG画分)が任意に結合したブロック共重合体である。アルギン酸のD−マンヌロン酸とL−グルロン酸の構成比(M/G比)は、主に海藻等の由来となる生物の種類によって異なり、また、その生物の生育場所や季節による影響を受け、M/G比が約0.4の高G型からM/G比が約5の高M型まで高範囲にわたる。
アルギン酸の1価金属塩は高分子多糖類であり、分子量を正確に定めることは困難であるが、一般的に重量平均分子量で1万〜1000万、好ましくは5万〜300万の範囲である。分子量が低いと、軟骨損傷部における軟骨再生効果、特に硝子軟骨再生効果に劣るため、本発明に用いるアルギン酸の1価金属塩は、重量平均分子量が50万以上であることが好ましい。
通常、高分子多糖類の分子量をゲルろ過クロマトグラフィーにより算出する場合、10〜20%の測定誤差を生じうる。例えば、40万であれば32〜48万、50万であれば40〜60万、100万であれば80〜120万程度の範囲で値の変動が生じうる。したがって、アルギン酸の1価金属塩について、軟骨への効果が特に優れている好適な重量平均分子量範囲は、少なくとも50万以上、より好ましくは65万以上、さらに好ましくは80万以上である。分子量が高すぎるものは製造が困難であるとともに、水溶液とする際に粘度が高くなりすぎる、溶解性が低下するなどの問題を生じるため、重量平均分子量が500万以下であることが好ましく、より好ましくは300万以下である。
一般に天然物由来の高分子物質は、単一の分子量を持つのではなく、種々の分子量を持つ分子の集合体であるため、ある一定の幅を持った分子量分布として測定される。代表的な測定手法はゲルろ過クロマトグラフィーである。ゲルろ過クロマトグラフィーにより得られる分子量分布の代表的な情報としては、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散比(Mw/Mn)が挙げられる。
分子量の大きい高分子の平均分子量への寄与を重視したのが重量平均分子量であり、下記式で表される。
Mw=Σ(WiMi)/W=Σ(HiMi)/Σ(Hi)
数平均分子量は、高分子の総重量を高分子の総数で除して算出される。
Mn=W/ΣNi=Σ(MiNi)/ΣNi =Σ(Hi)/Σ(Hi/Mi)
ここで、Wは高分子の総重量、Wiはi番目の高分子の重量、Miはi番目の溶出時間における分子量、Niは分子量Miの個数、Hiはi番目の溶出時間における高さである。
軟骨損傷部における軟骨再生効果(特に硝子軟骨再生効果)は、分子量の大きい分子種の寄与が大きいと考えられるため、分子量の指標としては重量平均分子量を用いればよい。
天然物由来の高分子物質の分子量測定では、測定方法により値に違いが生じうることが知られている(ヒアルロン酸の例:Chikako YOMOTA et.al.Bull.Natl.Health Sci.,Vol.117,pp135−139(1999)、Chikako YOMOTA et.al.Bull.Natl.Inst.Health Sci.,Vol.121,pp30−33(2003))。アルギン酸塩の分子量測定については、固有粘度(Intrinsic viscosity)のから算出する方法、SEC−MALLS(Size Exclusion Chromatography with Multiple Angle Laser Light Scattering Detection)により算出する方法が記載された文献がある(ASTM F2064−00(2006),ASTM International発行)。なお、当該文献では、サイズ排除クロマトグラフィー(=ゲルろ過クロマトグラフィー)により分子量を測定するにあたっては、プルランを標準物質として用いた較正曲線に加え多角度光散乱検出器(MALLS)を併用すること(=SEC−MALLSによる測定)を推奨している。また、SEC−MALLSによる分子量を、アルギン酸塩のカタログ上の規格値として用いている例もある(FMC Biopolymer社、PRONOVA
TM sodium alginates catalogue)。
本明細書中においてアルギン酸塩の分子量を特定する場合は、特段のことわりがない限り、ゲルろ過クロマトグラフィーにより算出される重量平均分子量である。
ゲルろ過クロマトグラフィーの代表的な条件としては、プルランを標準物質とした較正曲線を用いることが挙げられる。標準物質として用いるプルランの分子量としては、少なくとも160万、78.8万、40.4万、21.2万および11.2万のものを標準物質として用いることが好ましい。その他、溶離液(200mM 硝酸ナトリウム溶液)、カラム条件などを特定できる。カラム条件としては、ポリメタクリレート樹脂系充填剤を用い、排除限界分子量1000万以上のカラムを少なくとも1本用いることが好ましい。代表的なカラムは、TSKgel GMPWx1(直径7.8mm×300mm)(東ソー株式会社製)である。
アルギン酸の1価金属塩は、褐藻類から抽出された当初は、分子量が大きく、粘度が高めだが、熱による乾燥、凍結乾燥、精製などの過程で、分子量が小さくなり、粘度は低めとなる。したがって、製造の各工程において適切な温度管理をすることにより、分子量の異なるアルギン酸の1価金属塩を製造することができる。製造の各工程における温度が低めとなるよう管理することで分子量の大きいアルギン酸の1価金属塩が得られ、温度が高くなるほど分子量の小さいアルギン酸の1価金属塩が得られる。また、原料とする褐藻類を適宜選択する、あるいは、製造工程において、分子量による分画を行う、などの手法によっても、分子量の異なるアルギン酸の1価金属塩を製造することができる。さらに、各手法で製造したアルギン酸の1価金属塩について、分子量あるいは粘度を測定した後、異なる分子量あるいは粘度を持つ別ロットのアルギン酸の1価金属塩と混合することにより、目的とする分子量を有するアルギン酸の1価金属塩とすることも可能である。
本発明に用いるアルギン酸は、天然由来でも合成物であってもよいが、天然由来であるのが好ましい。天然由来のアルギン酸としては、例えば、褐藻類から抽出されるものを挙げることができる。アルギン酸を含有する褐藻類は世界中の沿岸域に繁茂しているが、実際にアルギン酸原料として使用できる海藻は限られており、南米のレッソニア、北米のマクロシスティス、欧州のラミナリアやアスコフィラム、豪のダービリアなどが代表的なものである。アルギン酸の原料となる褐藻類としては、例えば、レッソニア(Lessonia)属、マクロシスティス(Macrocystis)属、ラミナリア(Laminaria)属(コンブ属)、アスコフィラム(Ascophyllum)属、ダービリア(Durvillea)属、アラメ(Eisenia)属、カジメ(Ecklonia)属などがあげられる。
本発明の軟骨再生用組成物中でのアルギン酸の1価金属塩の含有量は、0.5〜10%w/v程度となるようにすることが好ましい。
本発明の軟骨再生用組成物において、アルギン酸の1価金属塩は、患部に遊走してきたホスト由来の間葉系幹細胞等の軟骨再生に寄与する細胞の軟骨細胞への分化と、軟骨細胞による軟骨再生に適した環境を提供することで効果を発揮する、有効成分である。
3.低エンドトキシン処理
本発明の軟骨再生用組成物に含有されるアルギン酸の1価金属塩は、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩である。低エンドトキシンとは、実質的に炎症、または発熱を惹起しない程度にまでエンドトキシンレベルを低下させたものである。すなわち、低エンドトキシン処理に供されたものである。本発明の組成物において低エンドトキシンアルギン酸を用いることにより、周囲の軟骨における変性や炎症反応が少なく、生体親和性の高い組成物とすることができる。
低エンドトキシン処理は、公知の方法またはそれに準じる方法によって行うことができる。例えば、ヒアルロン酸ナトリウムを精製する、菅らの方法(例えば、特開平9−324001号公報など参照)、β1,3−グルカンを精製する、吉田らの方法(例えば、特開平8−269102号公報など参照)、アルギネート、ゲランガム等の生体高分子塩を精製する、ウィリアムらの方法(例えば、特表2002−530440号公報など参照)、ポリサッカライドを精製する、ジェームスらの方法(例えば、国際公開第93/13136号パンフレットなど参照)、ルイスらの方法(例えば、米国特許第5589591号明細書など参照)、アルギネートを精製する、ハーマンフランクらの方法(例えば、Appl Microbiol Biotechnol(1994)40:638−643など参照)等またはこれらに準じる方法によって実施することができる。本発明の低エンドトキシン処理は、それらに限らず、洗浄、フィルター(エンドトキシン除去フィルターや帯電したフィルターなど)によるろ過、限外ろ過、カラム(エンドトキシン吸着アフィニティーカラム、ゲルろ過カラム、イオン交換樹脂によるカラムなど)を用いた精製、疎水性物質、樹脂または活性炭などへの吸着、有機溶媒処理(有機溶媒による抽出、有機溶剤添加による析出・沈降など)、界面活性剤処理(例えば、特開2005−036036号公報など参照)など公知の方法によって、あるいはこれらを適宜組合せて実施することができる。これらの処理の工程に、遠心分離など公知の方法を適宜組み合わせてもよい。アルギン酸の種類に合わせて適宜選択するのが望ましい。
エンドトキシンレベルは、公知の方法で確認することができ、例えば、リムルス試薬(LAL)による方法、エントスペシー(登録商標)ES−24Sセット(生化学工業株式会社)を用いる方法などによって測定することができる。本発明の組成物に含有されるアルギン酸のエンドトキシンの処理方法は特に限定されないが、その結果として、アルギン酸の1価金属塩のエンドトキシン含有量が、リムルス試薬(LAL)によるエンドトキシン測定を行った場合に、500エンドトキシン単位(EU)/g以下であること好ましく、さらに好ましくは、100EU/g以下、とりわけ好ましくは50EU/g以下、特には30EU/g以下である。低エンドトキシン処理されたアルギン酸ナトリウムは、例えば、Sea Matrix(滅菌)((株)キミカー(株)持田インターナショナル)、PRONOVA
TM UP LVG(FMC)など市販品により入手可能である。
4.SDF−1
本発明の軟骨再生用組成物は、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩に加えて、SDF−1を組み合わせて用いることを特徴とする。
本発明におけるSDF−1とは、アルギン酸に添加して用いることで、アルギン酸単独に比べて改善された軟骨再生効果を発揮させられるものである。本発明の軟骨再生用組成物において、SDF−1は、患部へのホスト由来細胞(例:間葉系幹細胞等の軟骨再生に寄与する細胞)の遊走を促進することで効果を発揮する、有効成分である。
SDF−1(Stromal cell−derived factor 1)は、CXCL−12またはPBSFと称されることもあるタンパク質であり、4つのシステイン残基が保存されたCXCケモカインファミリーに属する。
本発明で用いるSDF−1は、ヒト由来のものであっても、または非ヒト哺乳動物、例えば、ウシ、サル、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、ウマなど由来のものであってもよい。好ましくは、ヒト由来のものである。
ヒトSDF−1としては、SDF−1α(Genbank登録番号NP_954637)、SDF−1β(Genbank登録番号NP_000600)、SDF−1
Y(Genbank登録番号NP_001029058)、SDF−1δ(Genbank登録番号NP_001171605)等のアイソフォームの存在が確認されている。SDF−1αは89a.a.からなるペプチドであるが、アイソフォーム間でSDF−1αの1−88a.a.の配列は保存されており、β、γ、δではそれに加えてそれぞれC端側に+5a.a.、+31a.a.、+52a.a.が付加されている。また、SDF−1αは成熟ペプチドとなる際にN端の1−21a.a.は切断される。すなわち、SDF−1αの22−88a.a.が最小活性単位と考えられ、この単位を有する限り、SDF−1として用いることができる。本発明で用いるSDF−1は、好ましくは成熟型ヒトSDF−1αまたはヒトSDF−1βである本発明で用いるSDF−1は、そのケモカインとしての活性を有する限り、アミノ酸配列中の1もしくは複数のアミノ酸が、置換、挿入、欠失および/または付加されたものでもよく、および/または糖鎖が置換、欠失および/または付加されたものでもよい。少なくとも4つのシステイン残基(ヒトSDF−1αの場合、Cys30、Cys32、Cys55およびCys71)が保持されており、かつ天然体のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有する範囲であれば、アミノ酸変異が許容される。また、生理学的に許容される塩の形態で提供されてもよい。「生理学的に許容される塩」としては、生理学的に許容される塩基(例、アルカル金属等)や酸(有機酸、無機酸)との塩が用いられるが、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば無機酸(例えば塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
本発明で用いるSDF−1は、公知の技術に従って容易に作製することができるし、あるいは、市販品のものを入手することができる。SDF−1を作製する場合には、例えば、遺伝子工学的手法により組換え体SDF−1として作製する、ペプチド合成により作製するといった手法を用い得る。SDF−1を市販品より入手する場合には、例えば、Recombinant Human/Rhesus Macaque/Feline CXCL12/SDF−1 alpha(#350−NS−050,R&D Systems Inc.)、同beta(#351−FS−050,R&D Systems Inc.)、Human SDF−1α(#130−096−137,Miltenyi Biotec Inc.)などを用いる。
本発明の軟骨再生用組成物中にSDF−1を含有させる場合、本発明の軟骨再生用組成物中でのSDF−1の含有量が、0.2μg/ml以上100μg/ml未満となるように添加することが好ましい。より好ましくは、1μg/ml以上60μg/ml未満である。
5.軟骨再生用組成物の調製
本発明の軟骨再生用組成物は、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1を組み合わせて用いることを特徴とする。以下、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩を(a)成分、(b)SDF−1を(b)成分と記載することがある。
本発明において「組み合わせて用いる」とは、併用することであり、本発明の組成物を軟骨損傷部に適用する際に、(a)成分と(b)成分の両方が含まれていればよいことを意味し、販売を含む流通段階における形態を特に問うものではない。例えば、(1)(a)成分と(b)成分の両方があらかじめ混合され製剤化されている配合剤の形態、(2)(a)成分と(b)成分を別々に製剤化して得られる2種類の製剤を組合せてキットとし、または組合せないで別々に用意し、適用する際に混合して使用する形態のいずれでもよい。すなわち、(b)成分のSDF−1は、(a)成分と予め配合し製剤化した配合剤の形態で提供してもよく、(a)成分と(b)成分を別々に製剤化して得られる2種類の製剤を組合せてパッケージ化したキットとして提供してもよい。
(a)成分と(b)成分は、それぞれが、または混合物が、溶媒を用いて溶液状態で提供されてもよいし、凍結乾燥体などの固形物として提供されてもよい。ただし、固形物として提供される場合でも、本発明の組成物は、投与時には溶媒を用いて流動性を有する溶液状で使用される。
溶媒は、生体へ適用可能な溶媒であれば特に限定されないが、例えば、注射用水、精製水、蒸留水、イオン交換水(または脱イオン化水)、ミリQ水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。好ましくは、注射用水、蒸留水、生理食塩水などである。
本発明の好ましい態様の軟骨再生用組成物では、当該組成物中でのアルギン酸の1価金属塩の含有量は0.5〜10%w/v程度、SDF−1の含有量は0.2μg/ml以上100μg/ml未満である。
例えば、2%w/vアルギン酸・10μg/mlSDF−1の組成物を提供するには、アルギン酸とSDF−1が予め規定量含まれた水溶液製剤を製造して、配合剤として提供してもよいし、4%w/vのアルギン酸水溶液1mLと、20μg/mlのSDF−1水溶液1mLを別々の製剤として同梱したキット製剤とし、使用時に、両者の全量を混合することで、最終濃度2%w/vアルギン酸・10μg/mlSDF−1を含有する組成物としてもよい。
6.軟骨再生用組成物の粘度
本発明の軟骨再生用組成物の粘度は、本発明の効果が得られれば、特に限定されないが、好ましくは、400mPa・s〜20000mPa・sである。例えば、前記溶媒などを用いて、適度な粘度に調製することができる。このような粘度範囲であれば、軟骨損傷部への付着性がよいし、また、シリンジ等で関節腔内または軟骨損傷部に注入することもできる。また、本発明の軟骨再生用組成物の粘度は、約2000mPa・s以上であれば、軟骨損傷部への付着性がさらに向上し、特に粘度が約5000mPa・s以上であれば、例えば、ヒトの大腿骨関節面の軟骨損傷部を関節鏡視下で操作する場合など、軟骨欠損部の開口部側が、下を向いた状態であっても、軟骨欠損部に対して本発明の組成物を注入することにより、軟骨損傷面と本発明の組成物を接触させて、固定のない状態で少なくとも1分以上、付着させておくことが可能である。付着している間に、必要があれば、組成物の表面を固定化させることができる。軟骨損傷部への付着性は、粘度が上昇するにつれて、さらに向上し、例えば、粘度が10000mPa・sの場合には、粘度が5000mPa・sと比較して、より長時間、固定のない状態で患部に付着させておくことができる。したがって、本発明の組成物は、軟骨欠損部の開口部、または軟骨損傷部もしくは軟骨欠損部に形成した穴の開口部が、傾斜している、または、下方を向いている状態の軟骨損傷部に適用した場合に、固定手段を付さない状態で、少なくとも5秒以上損傷部に付着することが望ましく、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、とりわけ好ましくは1分以上付着していることが望ましい。本発明の組成物は、粘度を調節することにより、組成物の表面に固定化手段を施すまでの時間を確保することができる。ここで「損傷部に付着する」とは、本発明の組成物が損傷部から脱落しないで、損傷部に留まることを指す。このように、本発明の組成物は、粘度を調節することにより、施術時に患部が下を向くような、施術者にとって治療しにくい体勢であっても、注入という簡便な方法で治療を行うことができるという利点を有する。
一方、粘度が約20000mPa・s以下のときに、シリンジ等での注入がより容易になる。例えば、粘度が20000mPa・s程度の場合でもシリンジ等での注入は可能であるが、粘度が高くて注入が困難な場合には、その他の手段を用いて、本発明の組成物を軟骨損傷面に適用してもよい。シリンジ操作のしやすさの点から、本発明の組成物の粘度は、20000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは15000mPa・s以下である。従って、軟骨欠損部の開口部、または軟骨損傷部もしくは軟骨欠損部に形成した穴の開口部が、傾斜している、または、下方を向いている状態の軟骨損傷部への適用に適する本発明の組成物の粘度は、付着性の観点から2000mPa・s程度以上、組成物の取り扱いやすさの観点から、20000mPa・s程度以下であることが望ましく、好ましくは、3000mPa・s〜15000mPa・s、より好ましくは4000mPa・s〜10000mPa・s、とりわけ好ましくは5000mPa・s〜6000mPa・sである。
軟骨再生用組成物の粘度は、例えば、アルギン酸濃度、アルギン酸の分子量、アルギン酸のM/G比等を制御することにより調整することができる。
アルギン酸の1価金属塩の溶液の粘度は、溶液中のアルギン酸濃度が高い場合に高く、溶液中のアルギン酸濃度が低い場合に低くなる。またアルギン酸の分子量が大きい場合に高く、小さい場合に低くなる。例として、分子量約170万Daのアルギン酸(Sea Matrix)を用いて、400mPa・s〜20000mPa・sの粘度を得るには、約1%w/v〜3%w/vのアルギン酸水溶液とすればよい。より分子量が小さいアルギン酸を用いる場合は、これよりアルギン酸の濃度を高める必要がある。アルギン酸水溶液の粘度は、例えば、回転粘度測定器(コーンプレートタイプ)(TVE−20LT,TOKI SANGYO CO.,LTD.JAPAN)などを用いて、公知の方法で測定することができる。
アルギン酸の1価金属塩の溶液の粘度は、M/G比によって影響を受けるため、例えば、溶液の粘度等により好ましいM/G比を有するアルギン酸を適宜選択することができる。本発明に用いるアルギン酸のM/G比は、約0.4〜4.0であり、好ましくは約0.8〜3.0、より好ましくは約1.0〜1.6である。
前述のように、M/G比が主に海藻の種類によって決まることなどから、原料として用いられる褐藻類の種類はアルギン酸の1価金属塩の溶液の粘度に影響を及ぼす。本発明で用いられるアルギン酸としては、好ましくは、レッソニア属、マクロシスティス属、ラミナリア属、アスコフィラム属、ダービリア属の褐藻由来であり、より好ましくはレッソニア属の褐藻由来であり、特に好ましくはレッソニア・ニグレッセンズ゛(Lessonia nigrescens)由来である。
7.組成物表面のゲル化
本発明のいくつかの態様の軟骨再生用組成物は、架橋剤を含有しない。軟骨再生用組成物が架橋剤を含有しない場合、アルギン酸の1価金属塩の溶液を含む軟骨再生用組成物を軟骨損傷部に適用し、その組成物の表面に架橋剤を適用するようにしてもよい。組成物表面をゲル化して、表面を固めることで、軟骨損傷部から組成物が漏れ出すのを効果的に防ぐことができる。
そのような架橋剤としては、アルギン酸の1価金属塩の溶液を架橋することにより、その表面を固定化することができるものであれば、特に限定されないが、Ca
2+、Mg
2+、Ba
2+、Sr
2+などの2価以上の金属イオン化合物、分子内に2〜4個のアミノ基を有する架橋性試薬などが挙げられる。より具体的には、2価以上の金属イオン化合物として、CaCl
2、MgCl
2、CaSO
4、BaCl
2、SrCl
2等(好ましくは、CaCl
2、CaSO
4、BaCl
2等)を、分子内に2〜4個のアミノ基を有する架橋性試薬として、窒素原子上にリジル(lysyl)基(−COCH(NH
2)−(CH
2)
4−NH
2)を有することもあるジアミノアルカン、すなわちジアミノアルカンおよびそのアミノ基がリジル基で置換されてリジルアミノ基を形成している誘導体が包含され、具体的にはジアミノエタン、ジアミノプロパン、N−(リジル)−ジアミノエタン等を挙げることができる。入手しやすいこと、ゲルの強度等の理由から、Ca
2+、Mg
2+、Ba
2+、Sr
2+などの2価以上の金属イオン化合物(例、CaCl
2、MgCl
2、CaSO
4、BaCl
2、SrCl
2等)が好ましく、CaCl
2、CaSO
4、BaCl
2等とするのがより好ましく、特に、CaCl
2溶液とするのが好ましい。
組成物表面に2価以上の金属イオンを加える方法としては、特に限定されないが、例えば、シリンジ、噴射器(スプレー)などで、2価以上の金属イオンの溶液を組成物表面にかける方法などを挙げることができる。本発明の組成物の表面に架橋剤を適用するタイミングは、欠損部に本発明の組成物を適用した後でもよいし、同時でもよい。
架橋剤の適用量は、本発明の組成物を適用した欠損部の大きさに合わせて適宜調節するのが望ましい。架橋剤は、適用した組成物の表面から徐々に内部に浸透し、架橋が進む。本発明の組成物の、損傷面との接触部分に、架橋剤の影響を強く及ぼさないためには、架橋剤の適用量を過剰にならないよう調節する。2価以上の金属イオンの適用量としては、アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物の表面を固めることができる量であれば、特に限定されない。しかし、例えば、100mMのCaCl
2溶液を加える場合には、加える量は、好ましくは、直径5mm、深さ2mm程度の欠損の場合には、0.3〜0.6ml程度であり、患部の表面積に比例させて、投与量を決めてもよい。例えば、幅(10mm×20mm)、深さ5mm程度の欠損の場合には、好ましくは、1〜12ml程度、より好ましくは2〜10ml程度である。損傷部の状態を見ながら、適宜増減できる。その適用は、例えば、ゆっくりと数秒〜10数秒、アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物の表面にかけ続けることができる。
また、時間差、温度差、あるいは生体内のカルシウムイオンとの接触などの環境の変化によりゲル化が進む架橋剤を本発明の組成物に含有させることにより、投与前は液体状態を維持し、生体内への投与後に自己ゲル化する組成物とすることもできる。このような架橋剤としては、グルコン酸カルシウム、CaSO
4、アルギン酸カルシウム塩などを挙げることができる。
ここで、架橋剤にカルシウムが含まれる場合、カルシウムの濃度が高い方が、ゲル化が早く、また、より硬いゲルを形成することができることが知られている。しかし、カルシウムには細胞毒性があるため、濃度が高すぎると、本発明の軟骨再生用組成物の軟骨再生作用に悪影響を及ぼすおそれもある。そこで、アルギン酸の1価金属塩を含有する組成物の表面を固めるのに、例えばCaCl
2溶液を用いる場合には、好ましくは、25mM〜200mM、より好ましくは、50〜100mMの濃度とするのがよい。
本発明の組成物を軟骨損傷部に適用する際に、架橋剤により表面をゲル化させ、あるいは全体がゲル化するようあらかじめ架橋剤と混合して適用すると、本発明の組成物は患部で硬化し、適用した軟骨損傷部に密着した状態で局在させることができる。これにより、(b)成分によるホスト由来細胞の患部への遊走と集積をさせることができる。加えて、本発明の組成物が軟骨損傷部に密着することにより、本発明の組成物の軟骨再生効果、特に硝子軟骨再生効果がより強力に発揮される。
8.軟骨再生用組成物の軟骨損傷部への適用
本発明の軟骨再生用組成物は、ヒトまたはヒト以外の生物、例えばウシ、サル、トリ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、ウマなどの非ヒト哺乳動物の軟骨損傷部に適用し、軟骨の再生を促進するために用いられる。
本発明の軟骨再生用組成物の形態は、好ましくは流動性のある液体状、すなわち、溶液状である。本発明において「流動性を有する」とは、その形態を不定形に変化させる性質を持つことを意味する。好ましくは、例えば、組成物をシリンジなどに封入し、患部へ注入することができるような流動性を有することが望ましい。溶液状である本発明の組成物は、シリンジ、ゲル用ピペット、専用注射器などで軟骨損傷部に容易に適用することができる。また、いずれの形状の損傷部、あるいは欠損部の形状にも適合し、欠損部全体を充填あるいは全体に接触することもできる。
本発明のいくつかの態様の組成物は、損傷部の全体を覆うことができ、軟骨欠損部への密着性も良く、容易に生体の損傷部の細胞や組織にコンタクトできる。これにより、(b)成分によるホスト由来細胞の患部への遊走が容易となる。本発明のいくつかの態様の組成物は、損傷部に適用した後、約4週間も経過すれば、適用した部位において識別できなくなるほど生体の組織と融合し、生体への親和性も高い。
本発明の軟骨再生用組成物を軟骨欠損部に充填するかたちで適用するに際し、粘度が高い場合には、シリンジで適用するのが困難になるため、加圧型や電動型などのシリンジを用いてもよい。シリンジなどを使用しなくても、例えば、へら、棒などで軟骨損傷部へ適用してもよい。シリンジで注入する場合、例えば、16G〜18Gの針を使用するのが好ましい。本発明の組成物は、好ましくは、関節鏡下、あるいは内視鏡視下で、シリンジ、ゲル用ピペット、専用充填器などで軟骨欠損部に直接注入するようにして用いられる。あるいは、例えば、傍内側膝蓋アプローチなどによる関節切開術などの公知の外科的手法により患部を露出してからシリンジ、ゲル用ピペット、専用充填器などで軟骨欠損部に直接注入するようにしてもよいが、本発明の組成物はシリンジ等で軟骨損傷部に簡単な手技で適用できるため、広範囲の関節切開は不要である。
本発明の軟骨再生用組成物の適用量は、適用する軟骨欠損部、損傷部に作成した穴のサイズに応じて決めれば良く、特に限定されないが、軟骨欠損部に直接注入する場合には、例えば、0.05〜10ml、より好ましくは、0.1〜2mlである。軟骨損傷部への適用は、患部の空洞容積を十分に満たすように注入されるのが望ましい。
本発明の軟骨再生用組成物には、必要に応じて、他の医薬活性成分や、慣用の安定化剤、乳化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤、着色剤等、通常医薬に用いられる成分を本発明の組成物に含有させることもできる。
尚、本発明の1つの態様では、本発明の組成物は、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、ならびに、SDF−1以外に、軟骨に対し薬理作用を発揮する成分を含まない。このような本発明の組成物は、充分な軟骨の再生効果を発揮しうる。
また、本発明のいくつかの態様の軟骨再生用組成物は、細胞、特には、軟骨再生のための細胞を含有しない。軟骨再生のための細胞としては、例えば、幹細胞、間質細胞などが挙げられ、由来は特に限定されないが、骨髄、脂肪細胞、臍帯血などを挙げることができる。特には、骨髄間葉系幹細胞、または、骨髄間葉系間質細胞を挙げることができる。その他、軟骨前駆細胞、軟骨細胞、滑膜細胞、血球系幹細胞、ES細胞等の細胞を挙げることができる。「軟骨再生のための細胞を含有させる」とは、骨髄等から目的とする細胞を回収し濃縮する処理や、培養して量を増やす処理を行い、調製した細胞を添加することを言う。具体的には、例えば、1×10
5個/ml以上の、軟骨再生のための細胞を含ませることを言う。
本発明の軟骨再生用組成物は、細胞の成長を促進する因子を含ませることもできる。そのような因子としては、例えば、BMP、FGF、VEGF、HGF、TGF−β、IGF−1,PDGF,CDMP,CSF,EPO、ILおよびIF等が挙げられる。これらの因子は、組み換え法により製造してもよく、あるいは蛋白組成物から精製してもよい。
尚、本発明の1つの態様では、本発明の組成物は、これらの成長因子を含まない。成長因子を含まない場合でも、軟骨の再生は十分に良好である。
本発明のいくつかの態様では、本発明の組成物は、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩以外に細胞のための足場材料を含有しない。「細胞のための足場材料」とは、遊走してきたホスト由来の間葉系幹細胞等の軟骨再生に寄与する細胞が分化及び/又は増殖するための足場となる材料である。そのような足場材料には、例えば、WO2010/048418の5頁29行〜6頁16行に記載の足場材料(ただし、低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩又はそれを硬化したゲルを除く)などが挙げられる。
さらに、本発明は、軟骨再生用組成物を製造するための、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1の使用を提供する。
また、本発明は、軟骨再生に用いるための、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1の組み合わせ、を提供する。
9.治療方法
さらに、本発明は、前記本発明の軟骨再生用組成物を用いる、軟骨再生方法を提供する。具体的には、(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1を組み合わせて用いる組成物を軟骨損傷部に適用することを特徴とする、軟骨再生方法を提供する。より具体的には、治療的有効量の(a)低エンドトキシンアルギン酸の1価金属塩、および、(b)SDF−1を組み合わせて用いる組成物を、必要とする対象の軟骨損傷部に適用することを特徴とする、軟骨再生方法を提供する。
「組み合わせて用いる」および「軟骨損傷部に適用する」とは、前記の通りである。
「対象」は、ヒトまたはヒト以外の生物、例えばウシ、サル、トリ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒツジ、ウマなどの非ヒト哺乳動物である。軟骨損傷部に本発明の軟骨再生用組成物を適用する方法は、特に限定されないが、例えば、関節鏡下、または内視鏡視下で、シリンジ、ゲル用ピペット、専用充填器などで軟骨欠損部に直接注入するようにしてよい。あるいは、例えば、傍内側膝蓋アプローチなどによる関節切開術などの公知の外科的手法により患部を露出してからシリンジ、ゲル用ピペット、専用充填器などで軟骨欠損部に直接注入するようにしてもよい。
また、軟骨損傷部に本発明の組成物を適用する前に、あるいは同時に、あるいは後で、ストレプトマイシン、ペニシリン、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、およびアンホテリシンB等の抗生物質、アスピリン、非ステロイド性解熱鎮痛剤(NSAIDs)、アセトアミノフェン等の抗炎症薬等の併用薬を投与するようにしてもよい。これらの薬剤は本発明の組成物に混入して用いてもよい。
また、軟骨損傷部に1以上の穴を形成し、形成した穴に本発明の組成物を注入してもよい。軟骨欠損部に、さらに1以上の穴を形成するようにして、同様に用いてもよい。
例えば、外科的手法により患部を露出する手法の場合、本発明の組成物を注入する前に、残存軟骨のある軟骨欠損部にパワードリル、鋼線等を用いて、例えば、直径1.5mm程度の比較的小さい直径で、軟骨下骨までに達する欠損(全層欠損)を複数作成し、そこへ、組成物を注入するようにしてもよい。全層欠損を形成したことにより、骨髄中の軟骨前駆細胞等が軟骨欠損部に遊走しやすくなる。本発明の組成物の効果により細胞の遊走と軟骨の再生が促され、軟骨再生効果を高めることが可能である。
患部である軟骨損傷部は、本発明の組成物を適用する前に、必要な前処置を施されるのが望ましく、必要ならば患部を洗浄する。「患部を洗浄する」とは、例えば、生理食塩水などを用いて、本発明の組成物を適用しようとする部位の、血液成分、その他不要な組織などを取り除くことをいう。患部は洗浄後、残存する不要の液体成分などをふき取る等により乾燥させた後に、本発明の組成物を適用するのが望ましい。
また、本発明の組成物を軟骨損傷部に適用した後、その組成物の表面に架橋剤が適用されることが望ましい。組成物の表面に架橋剤が適用されることで、本発明の組成物は患部で硬化する。更に、患部に残存した過剰量の架橋剤を、生理食塩水などを用いて洗浄し取り除いてもよい。
これらすべての工程は、関節鏡下で行うことができる。
本発明の好ましい態様の軟骨再生方法により、軟骨損傷部を治療または軟骨疾患を治療することができる。
10.軟骨再生用キット
さらに、本発明は、軟骨再生用キットを提供する。キットには、前記本発明の軟骨再生用組成物のうち少なくとも(a)成分を含有する製剤を含む。さらに、架橋剤、溶媒、シリンジ、ゲル用ピペット、専用充填器、取り扱い説明書等を含めることができる。キットとして好適な具体例としては、一体成型され、隔壁により仕切られた2つの部屋からなるシリンジの1室にアルギン酸溶液を封入し、他方の部屋にSDF−1の粉末を封入し、両部屋の隔壁を用時容易に開通できるよう構成し、用時両者を混合・溶解して用いることのできるキットとする。他の例としては、軟骨再生用組成物をプレフィルドシリンジに封入し、使用時に調製操作なくそのまま投与できるキットとする。他の例としては、アルギン酸溶液と架橋剤を別々のシリンジに封入し、一つのパックに同梱したキットとする。さらに、キットには、ストレプトマイシン、ペニシリン、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、およびアンホテリシンB等の抗生物質、アスピリン、非ステロイド性解熱鎮痛剤(NSAIDs)、アセトアミノフェン等の抗炎症薬等の併用薬を含めることもできる。
本キットを用いることにより、軟骨再生治療を円滑に行うことができる。
なお、本明細書において引用した全ての刊行物、例えば、先行技術文献および公開公報、特許公報その他の特許文献は、その全体が本明細書において参照として組み込まれる。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2011−181662号(2011年8月23日出願)の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を包含する。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0008】
骨軟骨欠損モデルにおけるSDF−1蛋白質の発現
ウサギ膝関節の骨軟骨欠損モデルを用いて、損傷部位におけるSDF−1蛋白質の発現の経時的変化を、免疫組織染色にて検討した。
15週齢の日本白色家兎の雌(体重2.6〜2.9kg)を用いて骨軟骨欠損モデルを作製した。麻酔方法はペントバルビタールを0.05mg/kg静脈内投与を行い、吸入麻酔としてイソフルレンを使用した。抗生剤(ペニシリンG、明治製菓)は筋肉内投与した。約2cmの皮切を加えた後、傍内側膝蓋アプローチにて膝蓋骨を翻転させ大腿骨膝蓋面を展開した。パワードリル(Rexon、川崎)を用い軟骨下骨に達する骨軟骨全層欠損(直径4.5mm、深さ3mm)を両膝、大腿骨膝蓋面に作製した。偽手術群(コントロール)には、骨軟骨全層欠損作製以外は同じ手術をした。骨軟骨全層欠損は、軟骨損傷部の好適なモデルを提供する。また、骨層も欠損させることにより、軟骨下骨の形成への影響、およびタイドマーク(軟骨と骨の境目形成)を観察することができる。
手術後3時間、1週間、2週間、および4週間の各時点で、被験体のウサギに、過量のペントバルビタールを静注し安楽死させた。脚部を動力のこぎりで切除し膝検体を得た。
軟骨損傷部位におけるSDF−1蛋白質の発現を確認するため、マウス抗SDF−1モノクローナル抗体(R&D Systems,Inc.)による免疫組織染色を行った。検体は4%リン酸バッファー含有10%ホルマリン溶液にて固定された後、パラフィン包埋した。骨軟骨欠損作製部の中心部にて厚さ5μmの切片にて標本を作製した。
ウエスタンブロッティングのために、検体を凍結後破砕し、8M尿素、50mMリン酸、10mMTris(pH8.0)バッファー中でホモジナイズし、EDTA(50mM)を加えた。室温で24時間インキュベーションしたのち、ホモジネートを遠心し上清を得た。SDF−1蛋白質の発現量をマウス抗SDF−1モノクローナル抗体によるウエスタンブロッティングで評価した。
免疫組織染色の結果、損傷部位におけるSDF−1蛋白質の発現は、骨軟骨全層欠損作製後1週間で認められた(
図1 BおよびI)。一方、損傷後、3時間、2週間、および4週間ではSDF−1蛋白質の発現は認められなかった(
図1A、C、およびD)。偽手術(sham operation)では、いずれの時点でも、SDF−1蛋白質の発現は認められなかった(
図1 E−H)。ウエスタンブロッティングでも、SDF−1蛋白質の発現は損傷後1週間の組織においてのみ認められ、免疫組織染色の結果と一致した(
図1 J)。本実験は骨軟骨損傷部位におけるSDF−1蛋白質の発現を明らかにした初の実験である。
【実施例2】
【0009】
ウサギ骨軟骨欠損モデルへのアルギン酸ゲルの適用
(2−1)アルギン酸
低エンドトキシンアルギン酸ナトリウム(Sea Matrix(滅菌)、分子量約170万Da、発売元 株式会社持田インターナショナル)を使用した。アルギン酸ナトリウム(凍結乾燥品)0.25gにフィルター法にて滅菌した脱イオン化水を12.5ml加え、2%のアルギン酸ナトリウム溶液とし実験に用いた。低エンドトキシンアルギン酸ナトリウムのエンドトキシンレベルは、5.76EU(エンドトキシン単位)/gであった。食品グレード(commercial grade)アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業(株)、アルギン酸ナトリウム500、199−09961)では、75950EU/gであり、本実験においてはエンドトキシンレベルが極めて低いアルギン酸ナトリウムを用いている。
(2−2)モデルの作製
ウサギ骨軟骨欠損モデルは、実施例1に記載の手法により作製した。作製した骨軟骨全層欠損を生食にて洗浄し、血腫が欠損部にない状態にした後、2%アルギン酸ナトリウム溶液を欠損部に満たした。以下の4群について、n=10で行った。
1)無治療群(アルギン酸投与なし;図中defectと表記)
2)アルギン酸群
(2%アルギン酸ナトリウム溶液中に、SDF−1に対する蛋白質のコントロールとして10μg/mlのBSAを含有;図中vehicleと表記)
3)アルギン酸+SDF−1投与群
(2%アルギン酸ナトリウム溶液中に10μg/mlのSDF−1(Human SDF−1α;Miltenyi Biotec Inc.,Auburn,CA)を含有;図中SDF−1と表記)
4)アルギン酸+AMD3100投与群
(2%アルギン酸ナトリウム溶液中に250μg/mlのAMD3100(CXCR4アンタゴニスト、Sigma−Aldrich,Saint Louis,MO)を含有;図中AMD3100と表記)
アルギン酸ナトリウム溶液は粘稠度が高いため欠損部より流れ出すことはなかった。欠損部に注入したアルギン酸ナトリウム溶液の表面に100mMの塩酸カルシウム(和光純薬)溶液をかけ10秒静置した後、アルギン酸の硬化を認めた。アルギン酸ナトリウム溶液注入部位には他のいかなる固定も追加しなかった。4−0ナイロン糸にて関節包、筋膜、皮膚を縫合した。ウサギはいかなる固定副子も用いず、ケージの中で自由に動くことを認めた。
(2−3)肉眼所見、組織学的評価、免疫組織学的評価
ウサギは術後4週および16週にて高濃度静脈麻酔にて屠殺した。脚部を動力のこぎりで切除し膝検体を得た後、肉眼所見評価のためデジタルカメラにて撮影した。組織学的評価および免疫組織学的評価のための検体は実施例1と同様に作製した。骨軟骨欠損作製部の中心部にて厚さ5μmの切片にて標本を作製した。標本はSafranin−0およびH‐Eにて染色した。免疫組織染色は抗タイプIコラーゲン抗体および抗タイプIIコラーゲン抗体(富士製薬)を用い染色した。肉眼および組織所見を、Niederrauerらの方法(Biomaterial 21(2000)2561−2574)に準じてスコア化した。スコアリングは、独立した、ブラインドされた観察者が行った。
(2−3−1)肉眼所見
感染、異物反応などの炎症反応はすべての膝で認めなかった。術後4週において、移植したアルギン酸ゲルは、アルギン酸群と、アルギン酸+AMD3100投与群において、欠損部に残存していた(
図2BおよびD)。無治療群とアルギン酸+AMD3100投与群では、術後16週においても、修復された組織の表面の粗さ、軽度の凹み、隣接する軟骨との融合不良が認められた(
図2 A、D、EおよびH)。
一方で、アルギン酸群と、アルギン酸+SDF−1投与群においては、術後16週において、表面は平滑であり隣接する軟骨との融合も改善されていた(
図2 FおよびG)。アルギン酸+SDF−1投与群においては、術後4週において、欠損部が硝子軟骨様の硬く光沢のある白色の組織で部分的に満たされており(
図2C)、術後16週においては、ほぼ硝子軟骨様組織に置き換わっていた(
図2 G)。
肉眼的スコアの平均は、全ての群において、術後4週に対し術後16週では有意に改善していた(
図2 IおよびJ)。群間での比較では、術後4週におけるアルギン酸+SDF−1投与群の肉眼的スコアは他の群に対し有意に高かった(
図2I)。術後4週におけるアルギン酸+AMD3100投与群の肉眼的スコアはアルギン酸群に対し有意に低かった(
図2 I)。術後16週におけるアルギン酸+SDF−1投与群の肉眼的スコアは他の群に対し有意に高かった(
図2 J)。
(2−3−2)組織学的、免疫組織学的所見(術後4週)
無治療群およびアルギン酸+AMD3100投与群の修復された組織は、主にタイプIコラーゲンからなる線維組織であった。(
図3 A、D、E、H、IおよびL)。一方で、アルギン酸群と、アルギン酸+SDF−1投与群においては、欠損部はグリコサミノグリカンとタイプIIコラーゲンを含む硝子軟骨様組織により部分的に修復されていた(
図3 B、C、JおよびK)。両群において、修復された組織には部分的にタイプIコラーゲンが含まれていた(
図3 FおよびG)。アルギン酸群では、欠損部に亀裂を認めた(
図3 B)。術後4週においては、いずれの群においても、正常な軟骨下骨の形成、平滑な軟骨表面、完全なタイドマーク(軟骨と骨の境目形成)は認めなかった(
図3 A−D)。
アルギン酸+SDF−1投与群の組織学的スコアの平均は、他の群に対し有意に高かった(
図3 M)。
(2−3−3) 組織学的、免疫組織学的所見(術後16週)
無治療群では、線維組織のみによる修復を示し、複数の亀裂と重度の表面の破壊が認められた(
図4 A、EおよびI)。アルギン酸群とアルギン酸+AMD3100投与群は、弱いタイプIコラーゲンとタイプIIコラーゲン染色を示す、線維軟骨様の修復像であった(
図4 B、D、F、H、JおよびL)。アルギン酸群はアルギン酸+AMD3100投与群と比べ、軟骨下骨の再生が促進されていた(
図4B)。アルギン酸+AMD3100投与群では欠損部と隣接する軟骨との境目に亀裂が認められるが(
図4 D)、アルギン酸群では認められなかった(
図4 B)。一方で、アルギン酸+SDF−1投与群においては、豊富なグリコサミノグリカン含量と強いタイプIIコラーゲン染色、正常な軟骨下骨の形成、平滑な軟骨表面、完全なタイドマークを伴う、ほぼ正常に近い硝子軟骨再生を認めた(
図4 CおよびK)。タイプIコラーゲン染色は軟骨層において認められなかった(
図4 G)。新生軟骨組織は、隣接する軟骨と骨と良好な融合を示した(
図4 C)。
アルギン酸群とアルギン酸+SDF−1投与群の組織学的スコアは、術後4週に対し術後16週では有意に改善していた(
図3Mおよび
図4M)。術後16週におけるアルギン酸+SDF−1投与群の組織学的スコアは他の群に対し有意に高かった(
図4M)。アルギン酸群の組織学的スコアは、無治療群に対して有意に優れていた(
図4M)。無治療群とアルギン酸+AMD3100投与群の間にはスコアに有意な差は認められなかった。
なお、(2−1)において、低エンドトキシンアルギン酸ナトリウム0.25gに添加する水を6.25mLとして水溶液を作製したこと、そして、(2−2)において、その水溶液に処置ウサギから採取した血清を1:1の容量で添加して2%アルギン酸ナトリウム溶液としたものをウサギ骨軟骨欠損モデルへ投与したことを除いて、(2−1)および(2−2)と同様の方法にて、ウサギ骨軟骨欠損モデルへのアルギン酸ゲルの適用を行った(アルギン酸+自己血群)。その結果、アルギン酸+自己血群の肉眼所見、組織学的所見、および免疫組織学的所見は、アルギン酸群と同等であった。
(2−4)力学的評価
各群の術後4週および術後16週の膝検体を用い、修復組織の機械的強度を評価した。コントロール群として、正常膝検体と比較した。直径2.5mmの半球状のチップをつけたロッドを、10mm/minのスピードでサンプル表面に垂直に押し当て、圧縮係数(compression modulus)を応力−ひずみ曲線(stress−strain curves)の初期傾斜から求めた。その結果を表1に示す。
【表1】
術後4週では、全ての群の修復組織の圧縮係数は、正常膝検体の軟骨組織の圧縮係数より低かった(各群n=5、表1)。無治療群、アルギン酸群、アルギン酸+SDF−1投与群、アルギン酸+AMD3100投与群の間において、有意な差は認めなかった。術後4週に対して術後16週では、無治療群以外は圧縮係数が有意に改善した。術後16週では、アルギン酸群とアルギン酸+AMD3100投与群の圧縮係数は、無治療群に対して有意に優れていた。アルギン酸+SDF−1投与群の圧縮係数は、無治療群に対して有意に改善しており、正常軟骨の約80%に達しており、正常軟骨と有意な差を認めなかった。
(2−5)SDF−1投与量の評価
SDF−1投与量について検討するため、(2−2)と同様の方法にて、SDF−1の濃度を1、10、100μg/mlとしたアルギン酸+SDF−1投与群を3群作製し、アルギン酸群と比較した。(2−3)と同様の方法にて、肉眼的評価、組織学的評価、免疫組織学的評価を行った。評価は、術後4週および術後12週の時点で行った。
術後4週の肉眼的所見では、アルギン酸群に比較し、アルギン酸+SDF−1投与群(1、10、100μg/ml)のいずれにおいても、良好な軟骨再生を認めた(
図5)。
術後12週の免疫組織像(
図6)では、アルギン酸群およびSDF−1投与群のいずれにおいても硝子軟骨様組織による再生を認めたが、アルギン酸+SDF−1投与群ではSDF−1濃度に比例し軟骨の良好な再生を認めた。SDF−1を高濃度含有させた群(100μg/ml)では、軟骨が過形成する傾向が認められ、軟骨下骨の再生も考慮すると、このモデルにおいては1〜60μg/ml程度、特には10μg/mlが適切なSDF−1濃度と考えられた。
【実施例3】
【0010】
In vivo 細胞誘導(cell homing)評価
骨軟骨欠損部へのアルギン酸+SDF−1の適用後、生体内の細胞が損傷部に誘導・遊走される様子を定量的に評価した。実施例2に記載のウサギ骨軟骨欠損モデルと同様の方法にて、アルギン酸群、アルギン酸+SDF−1投与群、アルギン酸+AMD3100投与群を作製し、術後7日目において移植したアルギン酸ゲルを取り出し、ゲル内の細胞数を計測した。取り出したゲルは4%リン酸緩衝パラホルムアルデヒドで24時間固定し、パラフィンに包埋し、ゲルの中央部で厚さ5μmの切片にて標本を作製した。標本はH‐E(hematoxylin and eosin)にて染色した。
術後1週間目において、アルギン酸+SDF−1投与群では他の群に比べて、ゲル中に多くの細胞を認めた(
図7 C)。細胞数を定量的に評価したところ、アルギン酸+SDF−1投与群における細胞数は、他の群より有意に高かった(各群n=5、
図7 E)。アルギン酸群(
図7 E,Vehicle)ではアルギン酸+AMD3100投与群(
図7 E,AMD3100)より細胞数が多い傾向が認められたが、有意な差ではなかった。これらの結果より、軟骨損傷部へのアルギン酸+SDF−1(
図7E,SDF−1)の適用により、損傷部へのホスト由来の細胞の遊走が促進されていることが示された。
【実施例4】
【0011】
SDF−1がBMSCの挙動に与える影響のIn vitro評価
15週齢の日本白うさぎの脛骨より骨髄を採取し、骨髄間葉系間質細胞(BMSC:Bone marrow mesechymal stromal cell)を単離し、培養した。単離は脇谷らの方法に準じた(Wakitani Sら、J bone Joint Surg Am、Vol.76、p579、1994)。単離した細胞を37℃、5%CO
2、加湿下でインキュベートし、単層培養で維持した。
(4−1)BMSCのSDF−1による遊走試験
BMSCのSDF−1による遊走試験は、CytoSelect
TM96−well cell migration assay(Cell Biolabs,San Diego,CA)を用いて行った。5×10
5 cells/mlを含むBMSC培養液100μlを上部トレイに添加し、下部トレイはSDF−1無添加、またはSDF−1添加(濃度100ng/ml)した150μlの培地で満たし、37℃、5%CO
2下で8時間インキュベートし、遊走した細胞数を蛍光標識で検出した。
SDF−1添加培地では、SDF−1無添加培地に比べ、BMSCの遊走が有意に増加していた(n=16、
図8 A)。
(4−2)SDF−1がBMSCの増殖に与える影響
BMSCの増殖と分化は、BMSCをアルギン酸ゲルビーズに包埋して試験した。2%アルギン酸ナトリウム溶液に細胞を懸濁させ、懸濁液をCaCl
2溶液中にピペットで滴下してゲル化し、10分後にできたマイクロカプセルをCa・MgフリーのPBSで2回洗浄後、DMED−HGで1回洗浄した。1ビーズ40μlあたり、1×10
6個の細胞を含有するビーズとした。
アルギン酸ゲルビーズ中に、10μg/mlのSDF−1、または250μg/mlのAMD3100を含有させ、10%FBS、1%抗生物質の入ったDMED−HGで、3時間、1、2、3、7日間培養した。アルギン酸ゲルビーズからの細胞の採取は、PBSで3回洗浄し、50mMのEDTA(Gibco BRL laboratories)中で、37℃、5%CO
2下、インキュベートし、10分後に、1500gで5分間遠心分離して細胞を採取し、Cell Counting Kit−8(Dojindo Laboratories,Tokyo,Japan)により生細胞数をカウントした。
BMSCの増殖試験では、アルギン酸のみの群(control)、10μg/ml SDF−1添加群、および250μg/mlAMD3100添加群において、有意な差を認めなかった(n=5、
図8 B)。
(4−3)SDF−1がBMSCの分化に与える影響
アルギン酸ゲルビーズ中での軟骨細胞への分化は、BMSC含有ビーズを、100μg/mlピルビン酸ナトリウム(ICN Biomedicals,Aurora,OH)、40μg/mlプロリン(ICN
Biomedicals)、50μg/mlアスコルビン酸−2−リン酸(Wako,Osaka,Japan)、1×10
−7M
デキサメタゾン(ICN Biomedicals)、1% ITS plus mix(Sigma−Aldrich,St.Louis.,MO)、
1% 抗生物質、および10ng/ml組換えヒトトランスフォーミング増殖因子α3(R&DSystems,Minneapolis,MN)(1mg/mlウシ血清アルブミンの入った4mM HClで溶解)を添加したDMED−HG培地中で28日間培養して試験した。培地は3日毎に交換した。ビーズはPBSで洗浄後4%リン酸緩衝パラホルムアルデヒドで24時間固定し、パラフィンに包埋し、ゲルの中央部で厚さ5μmの切片にて標本を作製した。標本はSafranin−0およびH‐Eにて染色した。免疫組織染色は抗タイプIコラーゲン抗体および抗タイプIIコラーゲン抗体(富士製薬)を用い行った。
BMSCの軟骨細胞への分化試験では、アルギン酸のみの群、10μg/ml SDF−1添加群、および250μg/mlAMD3100添加群において、差を認めなかった。
(4−4)考察
In vitro試験においてSDF−1によりBMSCの遊走が促進されることと、実施例3において軟骨損傷部へのアルギン酸+SDF−1の適用により、損傷部へのホスト由来の細胞の遊走が促進されていることを考え合わせると、SDF−1の走化性が、ホスト由来のBMSC等の幹細胞の骨軟骨損傷部への遊走を促進させているものと考えられた。一方、SDF−1は、BMSCの増殖および軟骨細胞分化に対しては、直接的な作用は示さないことが明らかとなった。軟骨損傷部へリクルートされてきたホスト由来細胞による軟骨再生には、アルギン酸が重要な役割を果たしているものと考えられる。すなわち、アルギン酸にSDF−1を含有させた組成物を軟骨損傷部へ適用することで、SDF−1が患部へのホスト由来の幹細胞等の遊走を促進し、アルギン酸が幹細胞等の軟骨細胞への分化と軟骨再生に適した環境を提供することで、移植細胞を用いずとも良好な硝子軟骨再生効果が得られることが分かった。