(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体デバイス等の試料の観察や各種の評価、解析や、試料から微細な薄片試料を取り出した後、該薄片試料を試料ホルダに固定してTEM試料を作製するための装置として、集束イオンビーム装置が知られている。
この集束イオンビーム装置は、イオンを発生させるイオン源を備えており、ここで発生したイオンを加速してイオンビームにし、さらにこのイオンビームを集束して集束イオンビーム(FIB:Focused Ion beam)にした状態で照射している。
【0003】
イオン源としては、いくつか種類があるが、過去実用化されている集束イオンビーム装置では主に液体金属イオン源(特にガリウム)が用いられてきた。しかしながら、フォトマスク等の試料によってはガリウムの注入による透過率低下等を招いてしまうおそれがあり、低加速化等の対策が取られてきた。また、ナノメートルサイズの試料観察を低ダメージで行いたいというニーズもあり、ビーム径のさらなる縮径化が求められている。
【0004】
そこで、近年、非汚染イオン源として希ガス等をイオン種とし、液体金属イオン源よりもビーム径が小さく、高輝度のイオンビームを発生させることができるガス電界電離型イオン源(GFIS:Gas Field Ion Source)が用いられるようになり、上記した課題に対して一定の効果を有することが確認されている。
【0005】
ガス電界電離型イオン源は、先端が原子レベルで先鋭化された針状のエミッタを備えている。このエミッタは、ガスをイオン化させるための重要部材であるため、その表面構造が重要とされている。輝度の高いイオン源を実現するためには、エミッタの先端をできるだけ先鋭化し、イオン化領域が数原子で形成されるように先端形状を整える必要がある。このようにすることで、局所的にガスをイオン化してガスイオンにすることが可能であるので、ビーム系の小さいイオンビームを発生させることができる。
【0006】
エミッタの先端を先鋭化する方法としては、いくつか知られているが、その中でも酸素や窒素をエミッタ近傍に供給しながらエミッタの先端を局所的にエッチングする電界誘起ガスエッチング法が有望な方法として知られている(例えば、特許文献1参照)。
この方法によれば、エミッタの先端のエミッションパターン像、即ちFIM像(電界イオン像)を取得し、このFIM像を観察(FIM観察)しながらエッチングの進行状況を把握することができるので先鋭化を図り易く、有望な方法とされている。
【0007】
ところで、FIM像を取得するには、裏面側が蛍光面とされ、イオンビームの光路上に配置されるMCP(マイクロチャネルプレート)を備えた装置を一般的に利用する場合が多い。この装置は、ビーム鏡筒に組み込み可能とされ、照射されたイオンビーム(又は集束イオンビーム)をMCPで増幅した後に蛍光面に入射させることで、この蛍光面にFIM像を映し出すことが可能とされる。これにより、エミッタの先端のFIM観察を行っている。
【0008】
また、上記したMCP方式ではなく、走査電界イオン顕微鏡(Scanning−FIM)によりエミッタの先端のFIM観察を行う方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
この方法では、軸合わせ偏向器を用いて絞り表面をラスター走査することで、エミッタの先端の電界放射パターン像を取得することが可能とされ、これによりエミッタの先端のFIM観察を行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、電界誘起ガスエッチングを行う場合、エミッタの先端におけるエッチング進行状況を正確に把握するためには、できるだけ広い視野領域でエミッタの先端を確認する必要がある。具体的には、電界研磨後のエミッタにおいて、数十原子以上を確認できる程度の広い視野が必要とされる。
ところが、集束イオンビーム装置に上記MCPを具備する装置を組み込む場合には、
図12に示すように、イオン源であるエミッタ100の近くにコンデンサレンズ(集束レンズ電極)101を配置したうえで、このコンデンサレンズ101の直下にMCP102を配置することが望まれる。これは、集束イオンビーム装置としての性能を確保するためには、エミッタ100とコンデンサレンズ101との距離を短くする必要があるためである。
【0011】
しかしながら、エミッタ100とコンデンサレンズ101との距離を近接配置すると、MCP102の直上にコンデンサレンズ101等の構造物が配置されることになるので、イオンビーム103における外周成分(
図12に示す斜線部分)が構造物によって遮られてしまい、MCP102に入射するイオンビーム103の入射量が低減してしまう。従って、視野が狭くなり、エミッタ100の先端を広範囲で確認することが難しかった。
加えて、MCP102を利用して長時間に亘ってFIM像を観察し続けると、MCP102の倍増率や蛍光面の劣化が進んでしまい、FIM像が暗くなってしまう。そのため、エミッタ100の先端を明瞭に観察することが難しく、FIM観察を正確に行うことが難しくなってしまう。
【0012】
一方、上記特許文献2に記載の走査電界イオン顕微鏡による方法では、MCPを利用しないので、FIM像を長時間観察したとしてもFIM像が暗くなるおそれがない。しかしながら、走査電界イオン顕微鏡の場合であっても、同様にコンデンサレンズ等の構造物による視野の制限を受けてしまうものであった。
【0013】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、エミッタの先端における広範囲のFIM像を取得することができ、広視野でFIM観察を行うことができる集束イオンビーム装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
(1)本発明に係る集束イオンビーム装置は、先端が先鋭化されたエミッタを有し、該エミッタの先端でガスをイオン化させてガスイオンを発生させるガス電界電離型イオン源と、前記ガスイオンを試料に向けて引き出しながら加速させ、イオンビームとして照射させるイオン銃部と、集束レンズ電極を少なくとも有し、前記イオンビームを集束させながら前記試料に照射させるビーム光学系と、前記イオンビームに基づいて前記エミッタの先端のFIM像を取得する画像取得機構と、を備え、前記画像取得機構は、前記イオン銃部と前記集束レンズ電極との間に設けられ
、印加されるアライメント電圧に応じて前記イオンビームを偏向し、前記イオンビームの照射方向を調整するアライメント電極と、前記アライメント電極に
異なる複数のアライメント電圧を印加するアライメント制御部と、取得した前記FIM像を記憶する記憶部と、
を備え、前記アライメント制御部は、異なるアライメント電圧を前記アライメント電極に印加することで、前記イオンビームのうち前記集束レンズ電極を通過できる部分を変化させ、前記記憶部は、前記イオンビームのうち前記集束レンズ電極を通過できる部分の変化により、異なる視野の前記FIM像を記憶し、前記画像取得機構は、前記記憶部に記憶された前記FIM像のうち、異なる前記アライメント電圧の印加時に取得された複数枚の
異なる視野のFIM像同士を、画像処理により繋ぎ合わせて1枚の合成FIM像を作成する画像処理部を
さらに備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る集束イオンビーム装置において、イオンビームを試料に照射する場合には、ガス電界電離型イオン源を作動させて、エミッタの周囲に供給されたガスをエミッタの先端で電界電離させてイオン化し、ガスイオンを発生させる。イオン銃部は、このガスイオンを試料に向けて引き出しながら加速させ、イオンビームとして照射させる。このイオンビームは、ビーム光学系によって集束された状態(集束イオンビーム)で試料に照射される。これにより、例えば試料の観察や加工等を行える。
【0016】
ここで、エミッタの先端を観察する場合には、画像取得機構によりエミッタの先端のFIM像を取得する。この際、アライメント制御部によりアライメント電圧を変化させながらFIM像を取得する。アライメント電極にアライメント電圧を印加すると、その電圧値等に応じて照射されたイオンビームを偏向することができ、その照射方向を変化させることができる。従って、イオンビームが集束レンズ電極を通過する際、外周成分等の一部が集束レンズ電極によって遮られてしまったとしても、アライメント電圧を変化させることで、イオンビームのうち先ほど遮られてしまった部分を通過させることができる。そのため、アライメント電圧を変化させる前後で、異なる視野のFIM像を取得することができる。
【0017】
このように、画像取得機構はアライメント電圧を変化させることで異なる視野のFIM像を複数枚取得し、記憶部に記憶させる。そして、画像処理部は、これら取得した複数枚のFIM像同士を画像処理により繋ぎ合わせて1枚の合成FIM像を作成する。これにより、集束レンズ電極等の構造物に影響されることなく、エミッタの先端における広範囲のFIM像を取得することができる。
【0018】
特に、各FIM像には、エミッタの先端における凸部分に対応した輝点が表示されているので、合成FIM像によりエミッタの先端の結晶構造を広範囲でFIM観察することができる。従って、エミッタの先端の結晶構造が理想的な状態(例えばエミッタの先端がピラミッド状の原子配列となり、最先端が1個又は数個の原子からなる状態)であるか否かを正確に把握することができる。
よって、例えば電界誘起ガスエッチングによりエミッタの先端をエッチングする場合等、エッチングの進行状況を正確に把握でき、エミッタの先端を所望の先鋭化状態に確実に仕上げ易い。
【0019】
(2)上記本発明に係る集束イオンビーム装置において、前記画像処理部は、前記FIM像に表示される輝点のパターンに基づいて、複数枚の
異なる視野の前記FIM像同士を繋ぎ合わせることが好ましい。
【0020】
この場合には、画像処理部がFIM像同士を繋ぎ合わせる際、各FIM像に表示される輝点のパターンに基づいて繋ぎ合わせる。例えば、1枚目及び2枚目のFIM像にそれぞれ表示されている複数の輝点のうち、共通する輝点のパターンを重ね合わせるようにFIM像同士を繋ぎ合わせる。これにより、マッチングを行いながらFIM像同士を繋ぎ合わせることができ、正確な合成FIM像を得ることができる。特に、FIM像に表示される輝点を利用するので、繋ぎ合わせる際の指標等を別個に用意する必要がなく、画像処理作業を簡便且つ正確に行える。
【0021】
(3)上記本発明に係る集束イオンビーム装置において、前記集束レンズ電極と前記試料との間において、前記イオンビームの光路上の位置と光路外の位置との間で移動可能に配置され、前記集束レンズ電極を通過した前記イオンビームを入射させて、前記FIM像を蛍光スクリーンに映し出すマイクロチャネルプレートを備え、前記画像取得機構は、前記蛍光スクリーンに映し出された前記FIM像を取得することが好ましい。
【0022】
この場合には、エミッタの先端を観察する際、マイクロチャネルプレートをイオンビームの光路上に移動させて、集束レンズ電極を通過したイオンビームを入射させる。これにより、蛍光スクリーンにエミッタの先端のFIM像を映し出すことができ、FIM像を取得することができる。そして、アライメント電圧を変化させることで、変化前の段階では集束レンズ電極で遮られていたイオンビームの一部を、変化後に通過させることが可能となるので、異なる視野のFIM像を複数枚取得することができる。
【0023】
従って、集束イオンビーム装置としての性能を確保するために、エミッタに対して集束レンズ電極を近接配置し、それによりマイクロチャネルプレートの直上に集束レンズ電極を配置しても、該集束レンズ電極に影響されることなく、合成FIM像に基づいてエミッタの先端を広範囲でFIM観察することができる。
【0024】
(4)上記本発明に係る集束イオンビーム装置において、前記画像取得機構は、前記集束レンズ電極への電圧印加を停止させた状態で前記FIM像を取得することが好ましい。
【0025】
この場合には、集束レンズ電極で集束(屈折)されることなくイオンビームを通過させることができるので、イオンビームをマイクロチャネルプレートに対してより広い面積で入射させることができる。従って、より鮮明で屈折の影響のない正確なFIM像を取得することができ、より正確なFIM観察を行い易い。
【0026】
(5)上記本発明に係る集束イオンビーム装置において、前記集束レンズ電極と前記試料との間に配置され、前記集束レンズ電極を通過した前記イオンビームの照射方向を補正すると共に、補正後の前記イオンビームを前記試料の表面に対して平行な方向に走査する偏向器と、前記偏向器に対して補正信号を印加して前記補正を行わせると共に、走査信号を印加して前記走査を行わせる偏向制御部と、を備え、前記偏向器は、前記集束レンズ電極を通過した後の前記イオンビームの照射方向が、前記エミッタの軸線に対して平行になるように前記補正を行い、前記画像取得機構は、前記イオンビームの入射時に前記試料から発せられる二次荷電粒子の検出信号と前記走査信号とに基づいて、又は前記試料に入射する前記イオンビームのビーム電流の検出信号と前記走査信号とに基づいて、前記FIM像を取得することが好ましい。
【0027】
この場合には、エミッタをFIM観察する際、アライメント電極によって照射方向が変化したイオンビームが、集束レンズ電極の通過時に集束されると共にその際の屈折作用により照射方向がエミッタの軸線に対して傾斜した状態となって偏向器に入射する。このとき、偏向器は偏向制御部から印加された補正信号により、イオンビームの上記傾斜を補正して、照射方向がエミッタの軸線に対して平行になるように再調整する。これにより、試料の表面に対して集束したイオンビーム(集束イオンビーム)を垂直に入射させることが可能となる。それに加え、偏向器は偏向制御部から印加された走査信号により、試料の表面に対して垂直に入射するイオンビームを試料の表面に対して平行な方向に走査する。
【0028】
そして、画像取得機構は、イオンビームの入射時に試料から発せられる二次荷電粒子の検出信号(強弱変化)と走査信号とに基づいて、又は試料に入射するイオンビームのビーム電流の検出信号(電流変化)と走査信号とに基づいて、エミッタの先端の電界放射パターン像を得ることができ、これによってFIM像を取得することができる。具体的には、検出信号と走査信号とを同期させることでFIM像を構築でき、これによりFIM像を取得できる。そして、アライメント電圧を変化させながら上述したFIM像の取得を同様に行うことで、異なる視野のFIM像を複数枚取得することができる。
【0029】
特に、偏向器によって、イオンビームの照射方向を試料の表面に対して垂直な方向に再調整した状態で、試料の表面に対して平行な方向に走査させるので、例えば試料の周辺に導入したガスがガス電界電離型イオン源側に混入することを防止するための小径のオリフィスを設けたとしても、走査に伴ってイオンビームを通過させることができる。従って、このようなオリフィス等が設けられている場合であっても、エミッタの先端の広範囲なFIM観察を確実に行える。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、エミッタの先端における広範囲のFIM像を取得することができ、広視野でFIM観察を行うことができる。従って、例えば電界誘起ガスエッチングによりエミッタの先端をエッチングする場合等、エッチングの進行状況を正確に把握でき、エミッタの先端を所望の先鋭化状態に確実に仕上げ易い。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る第1実施形態について、図面を参照して説明する。なお、第1実施形態では、MCPを利用してエミッタの先端のFIM像(電界イオン像)を取得する場合を例に挙げて説明する。
(集束イオンビーム装置の構成)
【0033】
図1に示すように、本実施形態の集束イオンビーム装置1は、試料Sが載置されるステージ2と、イオンビーム3Aを照射するビーム鏡筒3と、イオンビーム3Aの照射によって発生した二次荷電粒子Rを検出する検出器4と、デポジション膜を形成するための原料ガスG1を供給するガス銃5と、検出された二次荷電粒子Rに基づいて画像データを生成すると共に、該画像データを表示部6に表示させる制御部7と、を主に備えている。
【0034】
ステージ2は、制御部7の指示に基づいて5軸に変位可能とされている。即ち、このステージ2は、水平面に平行で且つ互いに直交するX軸及びY軸と、これらX軸及びY軸に対して直交するZ軸とに沿って移動する水平移動機構8aと、ステージ2をX軸(又はY軸)回りに回転させて傾斜させるチルト機構8bと、ステージ2をZ軸回りに回転させるローテーション機構8cとから構成される変位機構8によって支持されている。
【0035】
よって、変位機構8によりステージ2を5軸に変位させることで、イオンビーム3Aを所望する位置に向けて照射することが可能とされている。これらステージ2及び変位機構8は真空チャンバ9(試料室)内に収納されており、この真空チャンバ9内でイオンビーム3Aの照射や原料ガスG1の供給等が行える。
【0036】
ビーム鏡筒3は、
図2に示すように、ガス電界電離型イオン源(GFIS)10と、イオン銃部11と、ビーム光学系12と、MCP(マイクロチャネルプレート)13と、画像取得機構14と、を備えている。
【0037】
ガス電界電離型イオン源10は、エミッタ20を有し、該エミッタ20の先端でガスG2をイオン化させてガスイオンを発生させるユニットである。
このエミッタ20は、
図3に示すように先端が先鋭化された針状の部材であり、例えば、タングステン(W)等からなる基材20aにイリジウム(Ir)等の貴金属20bが被膜されることで構成されている。エミッタ20の先端は、原子レベルで先鋭化されており、例えばその理想状態としては、
図4に示すように結晶構造がピラミッド状になるように構成されている。なお、
図4は結晶軸<111>のエミッタ20を加熱によってファセット成長させた結晶面を示した図である。
【0038】
このように構成されたエミッタ20は、
図2に示すように、内部が高真空状態に維持可能なイオン発生室21内に収容された状態で支持されている。このイオン発生室21には、ガス導入管22aを通じてガス源22が接続され、エミッタ20の周囲に微量のガス(例えば、ヘリウム(He)ガス)G2を供給している。
また、エミッタ20には、該エミッタ20の先端を局所的に加熱する加熱部23が接続されている。この加熱部23は例えばフィラメントであり、制御部7からの指示によって作動する電流源24からの電流によりエミッタ20の先端を局所的に所定温度まで加熱して、エミッタ20を構成する原子の再配列を行わせる働きをしている。
【0039】
イオン発生室21の開口には、引出電極25がエミッタ20の先端から離間した状態で配設されている。この引出電極25には、エミッタ20の先端に対向する位置に開口部が形成されている。そして、この引出電極25とエミッタ20との間には、両者の間に引出電圧を印加する引出電源部26が接続されている。この引出電源部26が引出電圧を印加することにより、エミッタ20の先端でガスG2をイオン化させてガスイオンにさせた後、このガスイオンを引出電極25側に引き出させる役割を果している。
【0040】
ところで、イオン発生室21及び引出電極25を含む空間は、冷却部27によって冷却されている。この冷却部27は、液体ヘリウム若しくは液体窒素等の冷媒を利用して、上記空間の全体を冷却することでエミッタ20を冷却することが可能とされている。
但し、この場合に限定されるものではなく、少なくともエミッタ20を冷却できればどのように構成されていても良く、例えば冷却ブロックや冷凍機等を使用してエミッタ20だけを冷却する構成としても構わない。
【0041】
なお、上述したエミッタ20、ガス源22、加熱部23、引出電極25、引出電源部26、イオン発生室21及び冷却部27は、上記ガス電界電離型イオン源10を構成している。
【0042】
引出電極25の下方には、接地電位の陰極30が設けられている。この陰極30とエミッタ20との間には、加速電源部31から加速電圧が印加されるようになっており、上記ガスイオンにエネルギーを与えることで、試料Sに向けてさらに引き出しながら加速させ、イオンビーム3Aにしている。
よって、これら陰極30及び加速電源部31は、ガスイオンをイオンビーム3Aとして照射させる上記イオン銃部11として機能する。
【0043】
陰極30の下方には、アライメント電圧が印加されることでイオンビーム3Aの照射方向を変化させて調整するアライメント電極32が設けられている。このアライメント電極32は、
図5に示すように、後述する集束レンズ電極35よりもイオンビーム3Aの外周成分が多く入射するように配置されている。具体的には、イオンビーム3Aがアライメント電極32に入射する見込み角θ1(例えば3〜4°)が、集束レンズ電極35に入射する見込み角θ2(例えば1〜2°)よりも大きくなるように配置されている。
【0044】
そして、
図2に示すように、アライメント電極32の下方には、イオンビーム3Aを集束して集束イオンビーム(FIB)にする集束レンズ電極(コンデンサレンズ)35が設けられている。
集束レンズ電極35の下方には、イオンビーム3Aを絞り込むオリフィス36が設けられている。このオリフィス36は、微小な小径の開口36aを有しており、ガス銃5によって試料Sの周辺に供給された原料ガスG1がビーム鏡筒3内においてガス電界電離型イオン源10のイオン発生室21側に混入してしまうことを防止するガスG2の混入防止部材としても機能している。
なお、オリフィス36に代えて上記開口36aの径を変化自在な可動絞りとしても構わない。
【0045】
そして、オリフィス36の下方には、試料S上でイオンビーム3Aを走査する走査電極37が設けられている。さらに、この走査電極37の下方には対物レンズ絞り38が設けられ、この対物レンズ絞り38の下方に、イオンビーム3Aの焦点を試料S上に合わせる対物レンズ電極39が設けられている。
【0046】
上述した集束レンズ電極35、オリフィス36、走査電極37、対物レンズ絞り38及び対物レンズ電極39は、イオンビーム3Aを集束して集束イオンビーム(FIB)にした後に試料Sに照射させる上記ビーム光学系12を構成している。
なお、図示していないが、従来の集束イオンビーム装置で使用されている非点補正器、ビーム位置調整機構もビーム光学径に含まれる。
【0047】
また、集束レンズ電極35とオリフィス36との間には、MCP13及びミラー40がイオンビーム3Aの光路上におけるセット位置P1と光路から離れた光路外の離間位置P2との間で移動可能に設けられている。これらMCP13及びミラー40は、制御部7からの指示に基づいて作動する移動機構41によって同期しながら移動する。つまり、イオンビーム3Aを試料Sに照射する場合には同じタイミングで光路上から離れて離間位置P2に移動し、エミッタ20先端のFIM像M(
図7参照)を取得する場合には光路上におけるセット位置P1に移動するように制御されている。
なお、MCP13は、FIM像Mの取得時にはゲインが自動調整される。また、MCP13及びミラー40は常に位置が記録されており、毎回光路上の同じセット位置P1にセットされる。
【0048】
MCP13の下面には蛍光スクリーン13aが設けられており、FIM像MをMCP13により増幅させた後に蛍光スクリーン13aに入射させている。これにより、蛍光スクリーン13aにエミッタ20先端のFIM像Mを映し出している。そして、この映し出されたFIM像Mは、ミラー40で反射されて向きが変わり、CCDカメラ等の撮像部42に導かれる。このようにして、FIM像Mを取得することが可能とされている。なお、取得されたFIM像Mは、画像取得機構14に送られる。
【0049】
図1に示すように、検出器4は、イオンビーム3Aが試料Sに照射されたときに、試料Sから発せられる二次電子、二次イオン、反射イオンや散乱イオン等の二次荷電粒子Rを検出して、制御部7に出力している。
ガス銃5は、デポジション膜の原料となる物質(例えば、フェナントレン、プラチナ、カーボンやタングステン等)を含有した化合物ガスを原料ガスG1として供給する。この原料ガスG1は、イオンビーム3Aの照射によって発生した二次荷電粒子Rによって分解され、気体成分と固体成分とに分離する。そして、分離した2つの成分のうち固体成分が堆積することで、デポジション膜となる。
【0050】
なお、ガス銃5には、エッチングを選択的に加速させる物質(例えば、フッ化キセノン、塩素、ヨウ素、水)を使用することができる。例えば、試料Sが、Si系の場合にはフッ化キセノンを、有機系の場合には水を使用する。また、イオンビーム3Aと同時に照射することで、特定の材質のエッチングを進めることができる。
【0051】
制御部7は、上述した各構成品を総合的に制御していると共に、引出電圧や加速電圧やビーム電流等を適宜変化させることが可能とされている。そのため、イオンビーム3Aのビーム径を自在に調整することが可能である。これにより、観察画像を取得するだけでなく、試料Sを局所的にエッチング加工(粗加工や仕上げ加工等)することが可能となる。
【0052】
また、制御部7は、検出器4で検出された二次荷電粒子Rを輝度信号に変換して観察画像データを生成した後、該観察画像データに基づいて表示部6に観察画像を出力させている。これにより、表示部6を介して観察画像を確認することが可能とされる。また、制御部7には、オペレータが入力可能な入力部7aが接続されており、該入力部7aによって入力された信号に基づいて各構成品を制御している。つまり、オペレータは、入力部7aを介して、所望する領域にイオンビーム3Aを照射して観察したり、所望する領域をエッチング加工したり、所望する領域に原料ガスG1を供給しながらイオンビーム3Aを照射してデポジション膜を堆積させたりすることが可能である。
【0053】
図2に示すように、上記画像取得機構14は、エミッタ20の先端のFIM像Mを取得する機構であり、本実施形態では上記した撮像部42を経由してFIM像Mを取得している。
この画像取得機構14は、例えばその一部が制御部7内に組み込まれており、取得したFIM像Mを記憶するメモリ(記憶部)45と、アライメント電極32にアライメント電圧を適宜変化させながら印加するアライメント制御部46と、メモリ45に記憶された複数枚のFIM像Mのうち、異なるアライメント電圧の印加時に取得された複数枚のFIM像M同士を画像処理により繋ぎ合わせて1枚の合成FIM像G(
図9参照)を作成する画像処理部47と、を備えている。
なお、アライメント電極32も画像取得機構14の一部として機能する。
【0054】
画像取得機構14は、メモリ45内にFIM像Mを記憶させる際、例えば印加したアライメント電圧の電圧値と関連付けて記憶させる。これにより、画像処理部47は、確実に異なるアライメント電圧の印加時に取得されたFIM像M同士を繋ぎ合わせることが可能となる。また、本実施形態の画像処理部47は、各FIM像Mに表示される輝点Q(
図7参照)パターンに基づいて、複数枚のFIM同士を繋ぎ合わせるように画像処理している。この点は、後に再度説明する。
また、制御部7は、FIM像Mを取得する場合には集束レンズ電極35への電圧印加を停止させる。そして、この間に画像取得機構14はFIM像Mの取得を行う。
【0055】
(集束イオンビーム装置の作用)
次に、このように構成された集束イオンビーム装置1を使用する場合について、以下に説明する。
はじめに、初期設定として、引出電圧、加速電圧やガスG2を供給するガス圧、温度等を最適な値にセットすると共に、MCP13及びミラー40をイオンビーム3Aの光路から離間した離間位置P2に移動させておく。
【0056】
上記初期設定が終了した後、イオンビーム3Aを試料Sに照射するにあたって、まずガス源22からイオン発生室21内にガスG2を供給すると共に、冷却部27によりエミッタ20を所定の温度、例えば20K程度まで冷却する。ガスG2の供給及びエミッタ20の冷却が十分に行われた後、引出電源部26により引出電極25とエミッタ20との間に引出電圧を印加する。すると、エミッタ20の先端の電界が局所的に高まるので、イオン発生室21内のガスG2がエミッタ20の先端で電界電離してイオン化し、ガスイオンとなる。そして、このガスイオンは、正電位に維持されているエミッタ20から反発して引出電極25側に引き出される。
【0057】
さらに、イオン銃部11における陰極30とエミッタ20との間に加速電圧を印加することで、引き出されたガスイオンをさらに加速させてイオンビーム3Aにし、試料Sに向けて照射させる。すると、このイオンビーム3Aは集束レンズ電極35を具備するビーム光学系12によって集束して集束イオンビーム(FIB)となり、試料Sに照射される。
これにより、試料Sの観察やエッチング加工等を行える。この際、走査電極37に電圧を印加して適宜作動させることで、イオンビーム3Aを試料S上で走査できるので、観察や加工を広範囲に亘って行える。
【0058】
また、イオンビーム3Aを照射する際に、
図1に示すように、ガス銃5から原料ガスG1を供給することで、デポジション膜を生成することも可能である。つまり、イオンビーム3Aの照射によって発生した二次電子が、原料ガスG1を分解して気体成分と固体成分とに分離させる。すると、分離した2つの成分のうち、固体成分だけが試料S上に堆積してデポジション膜となる。
このように、観察や加工だけでなくデポジション膜の生成も可能とすることができる。従って、本実施形態の集束イオンビーム装置1によれば、これらの特徴を適宜使い分けることで、顕微鏡、測長、断面観察、断面測長、TEM試料S作製、マスクリペア、描画等を行う装置して幅広く利用することができる。
【0059】
ところで、本実施形態の集束イオンビーム装置1によれば、画像取得機構14を備えているので、適宜、エミッタ20の先端をFIM観察することができる。
【0060】
FIM観察を行う場合について詳細に説明する。
まず、制御部7からの指示によって移動機構41を作動させ、
図2に示すように、MCP13及びミラー40をイオンビーム3Aの光路上におけるセット位置P1に移動させる。そして、この状態においてイオンビーム3Aを照射する。すると、イオンビーム3AはMCP13に入射して電子に変換され、且つ増幅された後に蛍光スクリーン13aに入射する。これにより、蛍光スクリーン13a上にFIM像Mを映し出すことができる。この映し出されたFIM像Mは、ミラー40を介して撮像部42で取得された後、画像取得機構14に送られる。
【0061】
画像取得機構14は、このようにして取得したFIM像Mをメモリ45に記憶する。ところで、FIM像Mを取得する際、集束レンズ電極35への電圧印加を停止させた状態で行うと共に、アライメント制御部46がアライメント電極32に対して印加するアライメント電圧を変化させながらFIM像Mを取得する。
アライメント電極32にアライメント電圧を印加すると、その電圧値に等に応じてイオンビーム3Aを偏向することができ、その照射方向を変化させることができる。従って、イオンビーム3Aが集束レンズ電極35を通過する際、外周成分等の一部が集束レンズ電極35によって遮られてしまったとしても、アライメント電圧を変化させることでイオンビーム3Aのうち先ほど遮られてしまった部分を通過させることができる。そのため、アライメント電圧を変化させる前後で、異なる視野のFIM像Mを取得することができる。
【0062】
具体的には、
図6に示すように、例えばアライメント電極32にアライメント電圧を印加しない場合、イオンビーム3Aが集束レンズ電極35を通過する際、その外周成分(
図6で示す斜線部分)Kが集束レンズ電極35によって遮られてしまう。そのため、イオンビーム3Aの中心部分だけがMCP13に入射し、これにより
図7に示すFIM像M(M1)を取得できる。
【0063】
ここで、アライメント電圧を印加すると、
図8に示すように、アライメント電極32によってイオンビーム3Aが偏向して照射方向が変化するので、先ほど遮られていた外周成分(K)を通過させてMCP13に入射させることができる。これにより、
図9に示すように先ほどとは異なる視野のFIM像M(M2)を取得することができる。
【0064】
このように、画像取得機構14は、アライメント電圧を数通り変化させることで、例えば
図9に示すように異なる視野のFIM像M(M1〜M4)を4枚取得することができ、これらをメモリ45に記憶させる。なおFIM像Mは、4枚に限定されるものではない。
【0065】
FIM像Mの取得を終了すると、画像処理部47は、
図9に示すように、これら複数枚のFIM像M(M1〜M4)同士を画像処理部47により繋ぎ合わせて1枚の合成FIM像Gを作成する。
具体的には、各FIM像Mに表示される輝点Qのパターンに基づいて繋ぎ合わせる。例えば、1枚目及び2枚目のFIM像Mにそれぞれ表示されている複数の輝点Qのうち、共通する輝点Qのパターンを重ね合わせるようにFIM像M同士を繋ぎ合わせる。これにより、正確なマッチングを行いながらFIM像M同士を繋ぎ合わせることができ、正確な合成FIM像Gを得ることができる。
【0066】
その結果、集束レンズ電極35に影響されることなく、エミッタ20の先端における広範囲なFIM像を取得することができる。
特に、各FIM像Mには、エミッタ20の先端における凸部分に対応した輝点Qが表示されているので、合成FIM像Gによりエミッタ20の先端の結晶構造を広範囲でFIM観察することができる。従って、エミッタ20の先端の結晶構造が理想的な状態(例えばエミッタ20の先端がピラミッド状の原子配列となり、最先端が1個又は数個の原子からなる状態)であるか否かを正確に把握することができる。
【0067】
これにより、例えば上記集束イオンビーム装置1を利用して電界誘起ガスエッチングによりエミッタ20の先端をエッチングする場合等、エッチングの進行状況を正確に把握でき、エミッタ20の先端を所望の先鋭化状態に仕上げることが可能である。
【0068】
なお、電界誘起ガスエッチングを行う場合には、ガス源22からイオン発生室21に供給するガスG2を、ヘリウムガスに代えて例えば酸素又は窒素、或いはその両方を含む混合ガスを供給する。これにより、エミッタ20の基材20aであるタングステンの原子を奪うことでエッチングを行う電界誘起ガスエッチングを行うことができ、エミッタ20の先端を徐々に削って原子レベルオーダーで先鋭化させることができる。また、このとき先鋭化するほど、エミッタ20の最先端を構成する原子が減るので、FIM観察によって輝点Qを確認することで、エッチングの進行状況を確認することができる。
【0069】
また、FIM観察は、上記した電界誘起ガスエッチングを行う場合に限定されるものではなく、例えば使用中にエミッタ20の先端の結晶構造が壊れた場合等、結晶構造を元の状態に戻すトリートメント(原子の再配列)を行う場合に行っても良い。
このトリートメントを行う場合には、冷却部27を停止させた後に加熱部23を作動させて、エミッタ20の先端を局所的に加熱(例えば、800℃〜900℃で数分間)する。これにより、エミッタ20の先端を構成する原子が再配列され、エミッタ20の先端の結晶構造を
図4に示す元の結晶構造に戻すことが可能となる。この場合において、再配列後にFIM観察を行うことで、再配列後の結晶構造が元の理想的な状態に戻った否かを正確に判断することができる。
【0070】
上述したように、本実施形態の集束イオンビーム装置1によれば、合成FIM像Gによりエミッタ20の先端における広範囲のFIM像を取得することができるので、広視野でFIM観察を行うことができる。従って、例えば電界誘起ガスエッチングによりエミッタ20の先端をエッチングする場合や、エミッタ20の先端をトリートメントする場合等、エッチングの進行状況を正確に把握でき、エミッタ20の先端を所望の先鋭化状態に確実に仕上げ易い。
【0071】
また、画像処理部47が複数枚のFIM像M同士を繋ぎ合わせて合成FIM像Gを作成する際、各FIM像Mに表示されている輝点Qを利用するので、繋ぎ合わせる際の指標等を別個に用意する必要がない。従って、画像処理作業を簡便且つ正確に行える。
また、集束イオンビーム装置1としての性能を確保するために、エミッタ20に対して集束レンズ電極35を近接配置し、それによりMCP13の直上に集束レンズ電極35が配置されていても、集束レンズ電極35に影響されることなく、合成FIM像Gに基づいてエミッタ20の先端を広範囲でFIM観察することができる。
【0072】
なお、上記第1実施形態では、集束レンズ電極35への電圧印加を停止させた状態でFIM像Mを取得したが、集束レンズ電極35を作動させた状態で行っても構わない。
但し、集束レンズ電極35を停止させることで、該集束レンズ電極35で集束(屈折)されることなくイオンビーム3Aを通過させることができるので、イオンビーム3AをMCP13に対してより広い面積で入射させることができる。従って、より鮮明で屈折の影響のない正確なFIM像Mを取得することができ、より正確なFIM観察を行い易い。
【0073】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る第2実施形態について説明する。
第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、MCP13を利用してエミッタ20のFIM観察(MCP方式)を行ったが、第2実施形態ではイオンビーム3Aを試料S上で走査することでFIM観察((Scanning−FIM方式)を行う点である。
なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0074】
(集束イオンビーム装置の構成)
図10に示すように、本実施形態の集束イオンビーム装置50は、第1実施形態におけるMCP13、ミラー40や撮像部42等を具備しておらず、その代わりに二段偏向器(偏向器)51と、該二段偏向器51を制御する偏向制御部52と、を有している。
【0075】
二段偏向器51は、集束レンズ電極35とオリフィス36との間において上下二段に分かれて配置されており、集束レンズ電極35を通過したイオンビーム3Aの照射方向を補正すると共に、補正後のイオンビーム3Aを試料Sの表面に対して平行な方向に走査する機能を有している。特に、この二段偏向器51は、
図11に示すように、集束レンズ電極35を通過した後のイオンビーム3Aの照射方向がエミッタ20の軸線Oに対して平行になるように上記補正を行う。
【0076】
偏向制御部52は、二段偏向器51に対して補正信号(補正電圧)を印加して上記補正を行わせると共に、走査信号(走査電圧)を印加して上記走査を行わせることで、二段偏向器51の作動を制御している。具体的には、偏向制御部52は、上下段の二段偏向器51に対して、補正信号に走査信号を加算したものを印加することで、上記補正及び走査を同時に行わせている。この際、走査信号としては、上下段の二段偏向器51に対して絶対値は同じで極性が異なる信号を印加している。これにより、イオンビーム3Aを平行走査することが可能となる。
【0077】
なお、
図11において、走査信号を印加する前のイオンビーム3Aの軌道を実線で示し、走査信号を印加した後のイオンビーム3Aの軌道を点線で示している。従って、これら実線と点線との間で矢印に示すようにイオンビーム3Aを走査することが可能となる。なお、走査信号を大きくすることで、イオンビーム3Aを大きな走査幅で走査することができる。
【0078】
(集束イオンビーム装置の作用)
次に、上記した集束イオンビーム装置50により、エミッタ20をFIM観察する場合について説明する。
まず、
図11に示すように、アライメント電極32によって照射方向が変化したイオンビーム3Aは、集束レンズ電極35の通過時に集束されると共に、その際の屈折作用により照射方向がエミッタ20の軸線Oに対して傾斜した状態となって二段偏向器51に入射する。このとき、二段偏向器51は、偏向制御部52からの補正信号の印加によりイオンビーム3Aの傾斜を補正して、照射方向がエミッタ20の軸線Oに対して平行になるように再調整する。これにより、試料Sの表面に対して集束したイオンビーム3A(FIB)を垂直に入射させることが可能となる。
それに加え、二段偏向器51は、偏向制御部52からの走査信号の印加により試料Sの表面に対して垂直に入射するイオンビーム3Aを試料Sの表面に対して平行な方向に走査する。
【0079】
すると、この走査されたイオンビーム3Aは試料Sに入射し、
図10に示すように二次荷電粒子Rを発生させ、検出器4がこの二次荷電粒子Rを検出する。画像取得機構55は、検出器4で検出された二次荷電粒子Rの強弱変化に基づく検出信号と、二段偏向器51に印加した走査信号と、を同期させることで、エミッタ20先端の電界放射パターン像を得ることができ、これによりFIM像Mを取得することができる。
【0080】
なお、本実施形態では、二段偏向器51、偏向制御部52、検出器4、メモリ45、アライメント電極32、アライメント制御部46及び画像処理部47が画像取得機構55として機能する。
【0081】
そして、上述したFIM像Mの取得を、アライメント電圧を変化させながら同様に行うことで、異なる視野のFIM像Mを複数枚取得することができる。従って、第1実施形態と同様に、画像処理部47により合成FIM像Gを作成でき、エミッタ20の先端を広視野でFIM観察することができる。
【0082】
特に、二段偏向器51によって、イオンビーム3Aの照射方向を試料Sの表面に対して垂直な方向に再調整した状態で、試料Sの表面に対して平行な方向に走査させるので、
図10に示すように、原料ガスG1がイオン発生室21側に混入することを防止するために設けた小径の開口36aを有するオリフィス36内を、走査に伴って通過させることができる。
従って、オリフィス36が設けられている場合であっても、エミッタ20の先端の広範囲なFIM観察を確実に行える。
【0083】
なお、上記実施形態では、検出器4で検出された二次荷電粒子Rの強弱変化に基づく検出信号と、二段偏向器51に印加した走査信号と、を同期させることでFIM像Mを取得したが、この場合に限定されるものではない。
例えば、真空チャンバ9内にファラデーカップを配置し、このファラデーカップにイオンビーム3Aを入射させる。そして、ファラデーカップに入射したイオンビーム3Aのビーム電流の検出信号(電流変化)と、二段偏向器51に印加した走査信号と、を同期させることでFIM像Mを取得しても構わない。
【0084】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0085】
また、上記実施形態では、エミッタ20の基材20aをタングステン(W)としたが、モリブデン(Mo)としても構わない。また、基材20aの表面を被膜する貴金属20bをイリジウム(Ir)としたが、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)等を用いても構わない。特に、エミッタ20は、このような各種の貴金属20bによって表面が被膜されているので、化学的な耐性を有している。なお、化学的な耐性という点においては、イリジウム(Ir)を用いることが好ましい。
【0086】
また、上記実施形態では、イオン発生室21内に供給するガスG2として、ヘリウム(He)ガスを供給したが、この場合に限定されず、例えば、アルゴン(Ar)ガス、ネオン(Ne)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガス等を用いても構わない。更に、水素(H
2)、酸素(O
2)等の希ガス以外のガスも使用可能である。この際、イオンビーム3Aの用途に応じて、ガスG2の種類を途中で切り替えたり、2種類以上のガスG2を混合して供給したりするようにしても構わない。