(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のIII族元素および前記第2のV族元素を含む化合物のバンドギャップエネルギーは、前記第2のIII族元素および前記第2のV族元素を含む化合物のバンドギャップエネルギーより小さい
請求項1に記載の光素子。
前記第1のIII族元素および前記第2のV族元素を含む化合物のバンドギャップエネルギーは、前記第2のIII族元素および前記第2のV族元素を含む化合物のバンドギャップエネルギーより小さい
請求項15に記載の光素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
発明の実施形態について説明する前に、発明の技術的背景について、図面を使いつつ説明する。
図1は、従来の光素子500の断面図である。光素子500は、例えば、半導体レーザを構成するIII−V族化合物半導体の積層構造を有する。光素子500は、n型InPから形成された基板10と、基板10上に順次エピタキシャル成長された、n型InPから形成された下部クラッド層20、AlGaInAsから形成された活性層30、p型InPから形成された上部クラッド層40、及びp型GaInAsPから形成されたコンタクト層50を備える。
【0011】
下部クラッド層20は、III族原子のIn原子とV族原子のP原子が結合した結晶構造(すなわちInP)を全体に有する。活性層30は、III族原子のAl原子、Ga原子、In原子と、V族原子のAs原子が結合した結晶構造(すなわちAlGaInAs)を全体に有する。
【0012】
従来、例えば有機金属気相成長法によってInP上にAlGaInAsを形成する際に、リアクター内のInPのV族原料ガスであるPH3をAlGaInAsのV族原料ガスであるAsH3へと置換する必要があった。置換によって、InP表面へIII族元素(たとえばAl,Ga、In)とV族元素(たとえばAs)が同時に到着し結晶を形成することが理想的であるが、一般的に、配管の距離やバルブ開閉タイミングによりInP表面へ各元素が同時に到着させることは困難である。そのため、一度リアクター内のPH3ガスとAsH3ガスを十分に置換させる時間を設けている(この時間を待機時間と呼ぶ)。この待機時間中、InP表面はAsH3雰囲気に曝されることになる。
【0013】
図2は、
図1に示した領域60の概要を説明する図である。
図2においては、左側に理想的な領域60を示し、右側に実際の領域60を示す。後述する理由により、AsH3のAsとInP中のPが置換され(P/As置換)、界面32に遷移層36(InAs
1−yP
y)が形成される(
図2「実際」参照)。この置換反応の程度により、Asの組成と反応層厚が変化する。反応の程度が大きいときには、Asの組成比が大きく、かつ、反応層が比較的厚くなる。逆に、反応の程度が小さいときには、Asの組成比が小さく、反応層が比較的薄くなる。このように、
図2「理想」に示す界面32に形成されるInAsP層は、InP層、およびAlGaInAs層に比べ、バンドギャップが小さくなる。その結果、置換の程度によっては、発光素子の発光を吸収し発光素子の性能を劣化せしめる場合がある。
【0014】
図3は、領域60のバンド図である。活性層30と下部クラッド層20との界面32に形成された遷移層36は、活性層30よりバンドギャップエネルギーが小さい部分を有する。つまり、レーザまたは電子等によって励起されたキャリアは、活性層30よりも優先的に遷移層36に落ち込み、長波長のPL光を発光する。そのため所望の活性層30による光強度が低下して特性を劣化させる。
【0015】
また、InAsP層の格子定数は、下部クラッド層20のInPの格子定数と異なるため、結晶欠陥を生じさせる原因となりやすく、置換の程度によっては、転位や凹凸を発生させ、発光素子の特性や信頼性に大きな影響を与える場合もある。その他、電子デバイスに応用する際には、ショットキ電極のリーク電流を増加させる原因ともなる。
【0016】
次に、置換反応が生じるメカニズムについて考察する。このような置換反応が生じるのは、結晶成長を支配している反応の平衡定数Kが、
図4に示す関係を有するためと考えられる。
図4に示した二元化合物の平衡定数Kは、標準状態における自由エネルギーΔG0に対して、以下の関係式で与えられる。
ΔG0=−RTlog
eK
ただし、Rは気体定数、Tは温度(単位はケルビン)である。なお、窒化物以外の反応は、以下の式に従う。
III(g)+1/4V(g) ⇔ III・V(s)
ここで(g)は気相を示しており、(s)は固相を示す。また、窒化物の反応は以下の式に従う。
III(g)+NH3(g) ⇔ III・N(s)+3/2H2(g)
【0017】
InNを除けば、
図4に示した二元化合物の平衡定数Kの値は非常に大きいので、上記の反応は固相の析出する方向に進行し、不可逆反応的に固相を生成する。
図4から、III−V族の二元化合物に対して、同一の温度条件において以下のような平衡定数Kの序列が得られる。
AlN>AlP>AlAs>GaP>GaAs>GaN>GaSb>InAs>InP>InSb>InN
この序列は、成長する混晶中に、その混晶を構成する二元化合物の取り込まれやすさを示している。なお、上記の平衡定数は、熱力学的平衡定数とも呼ばれる。
【0018】
ここで、InPとInAsの二元化合物の反応式を以下に示す。
In(g)+P(g)⇔ In・P(s)
In(g)+As(g)⇔ In・As(s)
この二つの式から、InPとInAsで以下の反応式が得られる。
In・P(s)+In(g)+As(g)⇔ In・As(s)+In(g)+P(g)
In・P(s)+As(g)⇔ In・As(s)+P(g)・・・(1)
この式(1)は、InPのP/As置換反応を表している。
ここで、置換反応定数log
eK[InAsP]=log
eK[InAs]-log
eK[InP]とすると、
図4から、log
eK[InAs] > log
eK[InP]であるため、log
eK[InAsP]は正となり、式(1)は右に進みやすくなる。
In・P(s)+As(g)→ In・As(s)+P(g)
したがって、InP表面のIn原子はAsH3由来のAs原子と結合し、InAsとなりやすい。
【0019】
図5Aは、InPクラッド層20の表面33のP/As置換31を模式的に示した図である。このように、InP表面がAsH3に暴露されることにより、表面33においてInAsP層が形成される。そこで、鋭意研究を重ねた末、表面33においてInAsP層の形成を抑制する方法を考案した。
【0020】
図4の平衡定数の序列によれば、GaPやAlPはそれぞれGaAsとAlAsよりも平衡定数が大きいので、AlおよびGaの組成によっては、P/As置換を生じにくくすることが可能となる。
ここで、AlGaInPにおいて、式(1)と同様のP/As置換反応は以下の式に従う。
AlxGayIn1-x-yP+As(g) ⇔ AlxGayIn1-x-yAs + P(g) ・・・(2)
ここで、置換反応平衡定数log
eK[AlGaInAsP]は、
log
eK[AlGaInAsP]=log
eK[AlGaInAs]-log
eK[AlGaInP]=x(log
eK[AlAs]-log
eK[AlP])+y(log
eK[GaAs]-log
eK[GaP])+(1-x-y)(log
eK[InAs]-log
eK[InP])・・・(3)
となる。
【0021】
図5Bは、InPクラッド層20を薄いAlGaInP層35で覆ったときの表面37のP/As置換31の様子を概略的に示した図である。AlGaInP層35の表面37は、InP表面とは異なり、III族原子に一定の割合でAlおよびGa原子を含んでいる。そのためP/As置換しにくいAl−PおよびGa−P結合を含んでいるため、AlGaInP層35の表面37はP/As置換が生じにくい。
【0022】
図6は、成長温度付近である700℃におけるAlGaInAsおよびAlGaInPのP/As置換反応平衡定数のAlおよびGaの組成比依存性を示す。log
eK[AlGaInAs
P]が正の値となる領域αでは、式(2)の反応は右に進むためP/As置換が生じることとなる。一方、logeK[AlGaInAs
P]が負の値となる領域βでは式(2)の反応は左に進むため、はじめにAlGaInPだった結晶はAs雰囲気中でもP/As置換が生じない(P/As安定)。従って、AlGaInPの組成が領域αにある場合では、P/As置換が生じ、領域βにある場合ではP/As置換を抑制することができる。
【0023】
AlGaInP層のIII族組成比をInP上部に成長させるAlGaInAsのIII族組成比と同じにすることで、P/As置換反応が生じたとしても、結局、界面にはAlGaInAsが形成されることになるので、実害がない。したがって、AlGaInPのIII族組成比を、InP上部に成長させるAlGaInAs層のIII族組成比と同じにするのであれば、
図6に示すような制限を気にすることなく自由な組成比にすることができる。
【0024】
中間層のIII族組成比を上部のAlGaInAs層のIII族組成比と同じとするか、あるいは、
図6に示すP/As安定の領域β内にある組成比とすることで、界面における吸収性遷移層および結晶欠陥の形成を防止する。下部クラッド層とAlGaInP層との格子定数の違いによる欠陥および転位発生の可能性はあるが、AlGaInP層を臨界膜厚以下である1ML〜15ML程度の厚さにすることで、シュードモルフィックな膜を形成し、欠陥の発生を抑制することが出来る。したがって、吸収性遷移層および欠陥の形成による、上部半導体層の結晶品質および光学的特性の劣化を抑制することが可能となる。
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下の説明において、「上」の用語は、基板の表面に対して遠ざかる方向を指し、「下」の用語は、基板の表面に対して近づく方向を指す。したがって、素子が実装されたときの上下関係を指すものではない。
【0026】
図7は、本発明の第1実施形態にかかる光素子100の断面図を示す。光素子100は、基板110と、基板110上に形成されたIII−V族半導体の第1化合物半導体層120(第1半導体層)と、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130の間に形成された中間層170と、第1化合物半導体層120の上に中間層170を介して形成された第2化合物半導体層130(第2半導体層)と、第2化合物半導体層130上に形成された第3化合物半導体層140と、第3化合物半導体層140上に形成された第4化合物半導体層150とを備える。
【0027】
本例の基板110は、面方位(100)のn型InP基板である。本例の第1化合物半導体層120はn型InPで下部クラッド層として機能する。本例の第2化合物半導体層130は、第1化合物半導体層120とくらべ、少なくとも一部のIII族元素および少なくとも一部のV族元素が異なるIII−V族半導体により形成される。本例では、例えば第2化合物半導体層130は、AlGaInAsから形成される。第2化合物半導体層130は、活性層であってよい。その場合、第2化合物半導体層130は、多重量子井戸構造の井戸層またはバリア層であってもよい。また、当該活性層は、光・キャリア分離閉じ込め型多重井戸構造の活性層であってもよい。この場合、第2化合物半導体層130は、光・キャリア分離閉じ込め層であってよい。本例の第3化合物半導体層140はp型InPで上部クラッド層として機能する。
【0028】
本例の第4化合物半導体層150はp型GaInAsPであってよい。第4化合物半導体層150はコンタクト層として機能する。本例の光素子100は、第4化合物半導体層150の上面および基板110の下面にそれぞれ電極を有してよい。
【0029】
ここで、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素を第1のIII族元素とし、第1化合物半導体層120に含まれるV族元素のうちのいずれかを第1のV族元素とする。また、第2化合物半導体層130に含まれるIII族元素を第2のIII族元素とし、第2化合物半導体層130に含まれるV族元素のいずれかを第2のV族元素とする。ただし、本例において第1および第2のIII族元素およびV族元素は、以下の条件を満たす。
条件1:同一の温度条件で、第1のIII族元素および第2のV族元素の二元化合物の熱力学的平衡定数が、第1のIII族元素および第1のV族元素の二元化合物の熱力学的平衡定数より大きい。
条件2:第1のIII族元素および第2のV族元素の二元化合物のバンドギャップエネルギーは、第2のIII族元素および第2のV族元素の二元化合物のバンドギャップエネルギーより小さい。
【0030】
このとき、第1化合物半導体層120におけるV族元素が、第2化合物半導体層130におけるV族元素により置換されやすくなる。また、置換後の化合物により、第2化合物半導体層130が発光した光が吸収され、置換の程度によっては欠陥や転位が発生し、素子特性を劣化せしめる。
【0031】
そこで、後述する組成から成る中間層170が、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130の間に形成される。中間層170の形成後、第2のV族元素原料が中間層170表面到達時において、第1化合物半導体層120の第1のIII族元素と、第2化合物半導体層130の第2のV族元素との結合が抑制される。つまり、中間層170は、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間に、第1のIII族元素および第2のV族元素の二元化合物が生成されることを抑制する。これにより、第2化合物半導体層130が発光した光が界面に生成された化合物によって吸収されることが防止される。
【0032】
中間層170に含まれるIII族元素の組成は、第2化合物半導体層130に含まれるIII族元素の組成比と同じか、または、異なってもよい。このとき中間層170が、たとえP/As置換されたとしても、結果的に第2化合物半導体層130と同等の半導体層が形成されるため、第2化合物半導体層130の発光の吸収および転位・欠陥の発生が抑制される。なお、中間層170は、下側の化合物半導体層が第1のV族元素、上側の化合物半導体層が第2のV族元素で構成される場合、第2のV族元素で構成される半導体層の直下に形成されるのが好ましい。また、中間層170は、光素子100において複数設けられてもよい。中間層170は、光素子100において意図しない遷移層が形成されうる2つの層の間に配置してよい。
【0033】
本例の中間層170は、第1のV族元素を含む。中間層170は、第2のV族元素よりも多くの第1のV族元素を含んでよい。より好ましくは、中間層170は、第2のV族元素を含まない。
【0034】
本例において、第1のIII族元素はInであり、第1のV族元素はPであり、第2のIII族元素はAlまたはGaであり、第2のV族元素はAsである。中間層170は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130に含まれるIII族元素を全て含んでよい。例えば、第1化合物半導体層120はInPであり、第2化合物半導体層130はAlGaInAsであり、中間層170は、AlGaInPである。
【0035】
なお、第1および第2のIII族元素およびV族元素は、それぞれ第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130における主たるIII族元素およびV族元素であってよい。主たる元素とは、例えば同族の元素のうち組成比が最大の元素を指す。
【0036】
また、中間層170は、第2化合物半導体層130よりもバンドギャップエネルギーが大きい。つまり、中間層170は、第2化合物半導体層130よりもピーク波長の短いPL光を発光する。例えば、第2化合物半導体層130のPL光のピーク波長が約1300nmから1400nmであり、中間層170のPL光のピーク波長は約1200nm以下である。中間層170は、第2化合物半導体層130よりもバンドギャップエネルギーが大きいので、光素子100が生成する光に対して非吸収性である。本例のように、第2化合物半導体層130が多重量子井戸構造を有する場合、中間層170は、多重量子井戸構造の井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい。本明細書において、第2化合物半導体層130が多重量子井戸構造を有する場合、第2化合物半導体層130のバンドギャップエネルギーとは、井戸層のバンドギャップエネルギーを指してよい。
【0037】
なお、中間層170の膜厚は、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130の間に、第1のIII族元素と第2のV族元素の二元化合物が生成されることを抑制できる程度であってよい。また、層間の格子定数差を考慮し、中間層170の膜厚は、臨界膜厚相当が好ましい。例えば、層間の格子定数差が3%程度の場合では、膜厚は3nm程度が好ましい。中間層170は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130のいずれよりも薄くてよい。また、中間層170は、光素子100に含まれる半導体層において最も薄い層であってよい。
【0038】
図8は、
図7に示す領域62のバンド図である。本例において、第1化合物半導体層120はInPであり、第2化合物半導体層130はAlGaInAsであり、中間層170は、AlGaInPである。第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間には、バンドギャップエネルギーが第1化合物半導体層120よりは小さく、かつ、第2化合物半導体層130より大きい中間層170が形成されている。中間層170は第2化合物半導体層130よりバンドギャップエネルギーが大きいため、励起光により再結合が起こると第2化合物半導体層130より波長の短いPL光を発光する。また、中間層170は、第2化合物半導体層130が生成する光を吸収しない。つまり、光素子100は、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間にバンドギャップエネルギーが第2化合物半導体層130より小さい吸収性の遷移層を有しない。
【0039】
光素子100は、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間に中間層170を介在させることによって、光素子100が生成する光を吸収する遷移層の形成を抑制する。また、中間層170は、臨界膜厚以下の膜厚を有することで、格子欠陥の発生が抑制される。さらに、活性層として機能する第2化合物半導体層130と中間層170の界面172においてバンドギャップエネルギーの変化は急峻であるため、発光や吸収特性への影響が小さい。
【0040】
図9は、参考例の光素子501の断面図である。光素子501は、例えば、半導体レーザを構成するIII−V族化合物半導体の積層構造を有する。光素子501は、n型InPから形成された基板10と、基板10上に順次エピタキシャル成長された、n型InPから形成された下部クラッド層20、AlGaInPから形成された中間層、AlGaInAsから形成された活性層30、p型InPから形成された上部クラッド層40、及びp型GaInAsPから形成されたコンタクト層50を備える。AlGaInP中間層は結晶品質の劣化を抑制するため、臨界膜厚以下の3nm程度となっている。活性層30は、少なくともAlGaInAsの多重量子井戸構造(MQW)を含み、分離閉じ込めヘテロ構造(SCH)を有していてもよい。
【0041】
また、光素子501は、光素子501を冷却するペルチェ素子を更に備えてよい。光素子501は、GaInAsPの活性層を有する光素子に比べ、高温でのレーザ特性の劣化が小さい。したがって、光素子501をそれほど冷却せずともよく、ペルチェ素子の消費電力を低く抑えることができる。
【0042】
図10は、中間層170を含む領域のTEM(透過電子顕微鏡)観察像である。約5nmの厚さの中間層170がInPからなる第1化合物半導体層120とAlGaInAsからなる第2化合物半導体層130の間に配置され、意図しない遷移層が形成されることを防いでいることがわかる。
【0043】
図5Aおよび
図5Bを用いて、光素子500の領域60における原子結合を説明する。領域60は、下部クラッド層20、下部クラッド層20上に結晶成長された活性層30、及び下部クラッド層20と活性層30との境界に形成された界面を有する。下部クラッド層20は、III族原子のIn原子とV族原子のP原子が結合した結晶構造(すなわちInP)を全体に有する。活性層30は、III族原子のAl原子、Ga原子、In原子と、V族原子のAs原子が結合した結晶構造(すなわちAlGaInAs)を全体に有する。
【0044】
界面32の形成過程では、
図5Aに示されるように、下部クラッド層のInP表面が、V族原料ガス(すなわちAs)に曝される。この部分において、後記する理由により、AsとPの置換反応が起きやすい。置換反応の結果、
図5Aに示されるように、下部クラッド層InPの表面には、部分的もしくは全体にInAs
yP
1-yが形成される。置換反応の程度によって、形成されるInAsPのAs組成および膜厚が大きくなる。
【0045】
このように形成されたInAsP層は、AsとPの置換反応の程度が大きいとAsの割合が大きくなるため、界面32を元々形成しているInP、および、AlGaInAsに比較して、バンドギャップが小さくなり、変性の程度によっては、発光素子の発光を吸収し発光素子の性能を劣化せしめる場合がある。また、InAsPの格子定数は、AsとPの置換反応の程度によって、下地のInPの格子定数差が大きくなるため、結晶欠陥を生じさせる原因となりやすく、格子定数差が大きくなると、転位や凹凸を発生させ、発光素子の特性や信頼性に大きな影響を与える。その他にも、電子デバイスに応用する際には、ショットキ電極のリーク電流を増加させる場合がある。
【0046】
このような置換反応が生じるのは、結晶成長を支配している反応の平衡定数Kが、
図4に示す関係を有するためと考えられる。
図4に示した二元化合物の平衡定数Kは、標準状態における自由エネルギーΔG
0に対して、以下の関係式で与えられる。
ΔG
0=−RTlog
eK
ただし、Rは気体定数、Tは温度(単位はケルビン)である。なお、窒化物以外の反応式は、
III(g)+1/4V(g)=III・V(s)
である。ここで(g)は気相を示しており、(s)は固相を示す。また、窒化物の反応式は、
III(g)+NH
3(g)=III・N(s)+3/2H
2(g)
である。
【0047】
InNを除けば、
図4に示した二元化合物の平衡定数の値は非常に大きいので、上記の反応は固相の析出する方向に進行し、不可逆反応的に固相を生成する。
図4から、III−V族の二元化合物に対して、同一の温度条件において以下のような平衡定数の序列が得られる。
AlN>AlP>AlAs>GaP>GaAs>GaN>GaSb>InAs>InP>InSb>InN
この序列は、成長する混晶中に、その混晶を構成する二元化合物の取り込まれやすさの序列を示している。なお上記の平衡定数は、熱力学的平衡定数とも称される。
【0048】
ここで、InPとInAsの二元化合物の反応式を以下に示す。
In(g)+P(g)⇔ In・P(s)
In(g)+As(g)⇔ In・As(s)
この二つの式から、InPとInAsで以下の反応式が得られる。
In・P(s)+In(g)+As(g)⇔ In・As(s)+In(g)+P(g)
In・P(s)+As(g)⇔ In・As(s)+P(g)・・・(1)
この式(1)は、InPのP/As置換反応を表している。
ここで置換反応定数log
e[InAsP]=log
e[InAs]-log
e[InP]とすると、
図4から、log
e[InAs] > lnK[InP]であるため、log
e[InAsP]は正となり、式(1)は右に進みやすくなる。
In・P(s)+As(g)→ In・As(s)+P(g)
したがって、InP表面のIn原子はAsH3由来のAs原子と結合し、InAsとなりやすい。
図5AはInPクラッド層20の表面33のP/As置換31を模式的に示した図である。このように、InP表面がAsH3に暴露されることにより、表面33においてInAsP層が形成される。
【0049】
図4の平衡定数の序列によれば、GaPやAlPはそれぞれGaAsとAlAsよりも平衡定数が大きいので、AlおよびGaの組成によっては、P/As置換を生じにくくすることが可能となる。ここで、AlGaInPにおいて、式(1)と同様のP/As置換反応は以下の式に従う。
AlxGayIn1-x-yP+As(g) ⇔ AlxGayIn1-x-yAs + P(g) ・・・(2)
ここで、置換反応平衡定数log
e[AlGaInAsP]は、
log
e[AlGaInAsP] = log
e[AlGaInAs] - log
e[AlGaInP]= x( log
e[AlAs] - log
e[AlP] )+ y( log
e[GaAs] - log
e[GaP] )+ ( 1-x-y )(log
e[InAs] - log
e[InP] ) ・・・(3)
となる。
【0050】
図5Bに示したAlGaInP層35表面はInP表面とは異なり、III族原子に一定の割合でAlおよびGa原子を含んでいる。そのためP/As置換しにくいAl−PおよびGa−P結合を含んでいるため、AlGaInP層表面はP/As置換が生じにくい。
【0051】
図4に示したようにlog
eK[AlGaInAs]が正の値となる領域αでは、式(2)の反応は右に進むためP/As置換が生じることとなる。一方、log
eK[AlGaInAs]が負の値となる領域βでは式(2)の反応は左に進むため、はじめにAlGaInPだった結晶はAs雰囲気中でもP/As置換が生じない(P/As安定)。従って、AlGaInPの組成が領域αにある場合では、P/As置換が生じ、領域βにある場合ではP/As置換を抑制することができる。
【0052】
AlGaInP層のIII族組成比をInP上部に成長させるAlGaInAsのIII族組成比と同じにすることで、P/As置換反応が生じたとしても、結局、界面にはAlGaInAsが形成されることになるので、実害がない。したがって、AlGaInPのIII族組成比を、InP上部に成長させるAlGaInAs層のIII族組成比と同じにするのであれば、
図4に示すような制限を気にすることなく自由な組成比にすることができる。
【0053】
中間層のIII族組成比を上部のAlGaInAs層のIII族組成比と同じとするか、あるいは、
図4に示すP/As安定の領域β内にある組成比とすることで、界面における吸収性遷移層および結晶欠陥の形成を防止する。下部クラッド層とAlGaInP層との格子定数の違いによる欠陥および転位発生の可能性はあるが、AlGaInP層を臨界膜厚以下である1ML〜15ML程度の厚さにすることで、シュードモルフィックな膜を形成し、欠陥の発生を抑制することが出来る。したがって、吸収性遷移層および欠陥の形成による、上部半導体層の結晶品質および光学的特性の劣化を抑制することが可能となる。
【0054】
上記の反応の概略を説明する。
図5Aの例では、InP層20の上にAlGaInAs層30を積む際に、InP表面がP雰囲気からAs雰囲気へと切り替わる。このとき、InPに比べてInAsの反応平衡定数が大きいためInP表面のAs原子はInP結晶中のIn原子と結合しやすく、InP層表面はInAsPへと変化する。長時間InPがAs雰囲気に暴露されるなど、この反応が大きく進むとInAsPのAs組成は大きくなり、また形成するInAsP膜厚も大きくなる。このため、界面32において格子欠陥が生じる。
【0055】
図4の平衡定数の序列により、他の材料の組み合わせにおいても同様に界面における置換反応の発生を検証できる。同様に、例えば、InGaP上にGaAsを積層する場合は、平衡定数がGaAsよりもInGaPの方が小さいため、InGaPの表面の一部は、InGaAsに変性する。InGaPに比べてInGaAsはエネルギーギャップが小さく、格子定数が大きいため、発光素子の光吸収や結晶品質の低下を引き起こし、ショットキ電極のリーク電流の原因となる場合がある。
【0056】
また、遷移層36は活性層30よりも小さいバンドギャップエネルギーを有する化合物を含む。結果として、遷移層36は、活性層30が出力する光を吸収する。また、遷移層36は励起光が照射されると1500nm以上の長波長のPL光を発光する。本例において、下部クラッド層20のIII族元素(In)と、活性層30のV族元素(As)との二元化合物の平衡定数は、当該III族元素(In)と、下部クラッド層20のV族元素(P)との二元化合物の平衡定数より大きい。この場合、上述したように、InPにおけるV族元素PがAsに置換され、InAs等を含む遷移層が生成されてしまう。
【0057】
次に、光素子の製造方法について説明する。まず、従来の光素子500の製造方法から説明する。光素子500の製造方法は、n型InPから形成される面方位(100)の基板10を用意する段階と、基板10上に、n型InPから形成される下部クラッド層20を形成する下部クラッド形成段階と、下部クラッド層20上にAlGaInAsから形成される多重量子井戸構造の活性層30を形成する活性層段階と、活性層30上にp型InPから形成される上部クラッド層40を形成する上部クラッド形成段階と、上部クラッド層40上にp型GaInAsPから形成されるコンタクト層50を形成するコンタクト形成段階とを備える。それぞれの半導体層は、MOCVD法により順次エピタキシャル成長される。
【0058】
図11は、下部クラッド形成段階と活性層形成段階におけるIII族及びV族原料ガスの供給シーケンスである。本例において、III族原料ガスAはTMI(トリメチルインジウム)である。また、III族原料ガスBは、TMA(トリメチルアルミニウム)、TMG(トリメチルガリウム)及びTMI(トリメチルインジウム)の混合ガスである。V族原料ガスAは、PH3(ホスフィン)である。V族原料ガスBは、AsH3(アルシン)である。
【0059】
下部クラッド形成段階(t0−t1)は、III族原料ガスAの供給を開始し、V族原料ガスAの供給を開始する段階を有する。下部クラッド形成段階はn型ドーパントとしてSiをドーピングする段階を含む。時刻t0からt1までの間、反応容器内に所定の流量及び圧力のTMIガス及びPH3ガスが供給され、所定の温度に加熱された基板10上にn型InPからなる下部クラッド層20がエピタキシャル成長される。
【0060】
次に、待機段階(t1−t2)において、III族原料ガスAおよびV族原料ガスAの供給を停止し、V族原料ガスBの供給を開始する。つまり、時刻t1においてV族原料ガスをPH3からAsH3に切り替える。待機段階において、反応容器内にはAsH3ガスのみが供給され、下部クラッド層20の表面がAsH3ガスに曝露される。この待機段階において、上述したP原子とAs原子との置換反応が生じ、下部クラッド層20の表面にInとAsとPからなるInAs
yP
1-yの層が形成される。ここで、待機段階の時間の長さが長いほど、基板温度が高いほど、AsH3流量の量が多いほど、PとAsの置換反応が進みやすくなる。このため、InAs
yP
1-yのAs組成は大きくなり、InAs
yP
1-yの膜厚も厚くなる。InAs
yP
1-yの組成が大きいほど下地となるInP層との格子定数差が大きくなるため歪みが大きくなり、InAs
yP
1-y層が3次元の島状成長しやすくなりこの層よりも上に結晶成長する際に成長する半導体層に欠陥や転位を形成しやすい。また、このように歪みの大きなInAsP層の膜厚が増加することでも、3次元の島状成長しやすくなるため同様にInAsP層よりも上で結晶成長する際に成長する半導体層に欠陥や転位を形成しやすい。
【0061】
活性層形成段階(t2−t3)は、V族原料ガスBの供給を維持しつつ、III族原料ガスBの供給を開始する段階を有する。III族原料ガスBの供給の際、キャリアガスとしてN2を導入してもよい。時刻t2からt3までの間、反応容器内に所定の流量及び圧力でTMA、TMG、TMI、AsH3の混合ガスが供給され、下部クラッド層20上に多重量子井戸構造の活性層30がエピタキシャル成長される。
【0062】
図12は、下部クラッド形成段階と活性層形成段階におけるIII族及びV族原料ガスの供給シーケンスの変形例である。本例は、下部クラッド形成段階が、待機段階を有しない点で上述した製造方法と異なる。つまり、III族原料ガスの切替えとV族原料ガスの切替えが同時に行われる。
【0063】
本例の製造方法は、待機段階を有しないため、InPがAsH3ガスに曝露される時間を短縮することができる。しかし、実際には、それぞれの原料ガスの供給装置から反応容器までの配管の長さが異なるので、供給装置のバルブを同時に切り替えても、反応容器に供給されるIII族原料ガスの切替えとV族原料ガスの切替えを同時に行うのは困難である。V族原料ガスの切替えのタイミングが配管の長さやバルブの開閉タイミングによってInP表面にAsH3が暴露されてしまった場合に、前記と同様のInAsP層が形成される。また、III族原料ガスの切替タイミング等のずれも含むと、InAsP層に加え、GaInAsP、AlGaInP、AlGaInAsP層などの意図しない化合物半導体層が形成されうる。
【0064】
光素子500は、上述したいずれの製造方法によっても、InPからなる下部クラッド層20と、AlGaInAsからなる活性層30との界面32において、As原子とP原子の置換反応が生じる。その結果、InAsPからなる遷移層36が形成される。
【0065】
図13は、光素子500のPL特性の実験結果を示すグラフである。実験では、光素子500に励起光を照射し、光素子500の端面から発光される光の波長及び強度を測定した。グラフの縦軸はPL光の強度を示し、横軸は発光される光の波長を示す。中間層なしのPL特性を示す曲線は、2つのピーク(ピークP1及びピークP2)を有する。ピークP1は活性層30(AlGaInAs)からの発光を示している。一方、ピークP2は、遷移層36からの発光を示している。ピークP1より長波長側にあり、かつ、ピークP1よりPL強度が大きい。この実験結果から、中間層AlGaInP層なしの場合では、活性層30よりもバンドギャップエネルギーの小さい化合物が遷移層36に含まれており、遷移層36は、活性層30よりも長波長で、かつ、高強度の光を発光することがわかる。
【0066】
図14は、光素子500のレーザ発振のしきい値電流と、遷移層/活性層PL強度比(P2/P1)の関係を示すグラフである。PL強度比が小さいほど、閾値電流値は小さく、PL強度比が大きいほど閾値電流値は大きくなることがわかる。また、PL強度比が4.0を超えると光素子500は発振しないことがわかる。つまり、遷移層36からのPL発光強度を抑制することがレーザ特性の向上につながる。
【0067】
また第二の例では、第1化合物半導体層120はInPであり、第2化合物半導体層130はAlGaInAsであり、中間層170は、AlGaInPである。
【0068】
図7を用いて、本発明の第1実施形態にかかる光素子100を説明する。本例の基板110は、面方位(100)のn型InP基板である。また、基板110はn型GaAs基板であってもよい。本例の第1化合物半導体層120は下部クラッド層として機能する。本例の第2化合物半導体層130は、光素子100の活性層として機能する。本例の第3化合物半導体層140は、上部クラッド層として機能する。第3化合物半導体層140は、第1化合物半導体層120とは逆の導電型であり、第1化合物半導体層120と同一組成を有する。例えば第1化合物半導体層120がn型InPで形成される場合、第3化合物半導体層140は、p型InPから形成される。また、第1化合物半導体層120がn型GaAsで形成される場合、第3化合物半導体層140はp型GaAsから形成される。
【0069】
本例の第4化合物半導体層150は、コンタクト層として機能する。本例の第4化合物半導体層150は、p型GaInAsPにより形成される。本例の光素子100は、第4化合物半導体層150の上面および基板110の下面にそれぞれ電極を有する。
【0070】
図15は、光素子100の領域62における原子結合を説明する概略図である。第2化合物半導体層130は、中間層170との間に界面172を有する。第1化合物半導体層120は、中間層170との間に界面174を有する。例えば第1化合物半導体層120は、n型InPから形成される。また、第1化合物半導体層120は、n型InGaPから形成されてもよい。
【0071】
本例の第2化合物半導体層130は、第1化合物半導体層120とは、少なくとも一部のIII族元素および少なくとも一部のV族元素が異なるIII−V族半導体で形成される。第1化合物半導体層120がn型InPで形成される場合、第2化合物半導体層130は、例えばAlGaInAsから形成される。なお、第1化合物半導体層120がn型InGaPから形成される場合、第2化合物半導体層130は、例えばAlGaAsから形成される。本例の光素子100は、多重量子井戸構造の活性層を有してもよい。この場合、第2化合物半導体層130は、多重量子井戸構造の井戸層であってよい。
【0072】
ここで、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素のうちのいずれかを第1のIII族元素とし、V族元素のうちのいずれかを第1のV族元素とする。また、第2化合物半導体層130に含まれるIII族元素のうちのいずれかを第2のIII族元素とし、V族元素のいずれかを第2のV族元素とする。ただし、本例において第1および第2のIII族元素およびV族元素は、以下の条件を満たす元素である。
条件1 同一の温度条件で、第1のIII族元素と、第2のV族元素との二元化合物の熱力学的平衡定数が、第1のIII族元素と第1のV族元素との二元化合物の熱力学的平衡定数より大きい。
条件2 第1のIII族元素と第2のV族元素との二元化合物のバンドギャップエネルギーは、第2のIII族元素と第2のV族元素との二元化合物のバンドギャップエネルギーより小さい。
すなわち、第1化合物半導体層120におけるV族元素が、第2化合物半導体層130におけるV族元素により置換されやすく、かつ、置換後の化合物により、第2化合物半導体層130が発光した光が吸収される。
【0073】
これに対し、中間層170を、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130の間に形成する。中間層170は、第1化合物半導体層120の第1のIII族元素と、第2化合物半導体層130の第2のV族元素とを分離する。つまり、中間層170は、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130の間に、第1のIII族元素と第2のV族元素の二元化合物が生成されることを抑制する。これにより、第2化合物半導体層130が発光した光が吸収されることを防ぐ。なお、中間層170は、第2化合物半導体層130の近傍にあればよく、必ずしも直下に無くともよい。また、中間層170は、光素子100において複数設けられてもよい。中間層170は、光素子100において意図しない遷移層を形成したくない2つの層の間に配置することができる。当該2つの層は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130と同様の組成を有する。
【0074】
本例の中間層170は、第1のV族元素を含む。中間層170は、第2のV族元素よりも多くの第1のV族元素を含んでよい。より好ましくは、中間層170は、第2のV族元素を含まない。中間層170が第1のV族元素を含み、第2のV族元素を含まない場合、第1化合物半導体層120と中間層170とが同一のV族元素(例えばP)を含むので、第1化合物半導体層120と中間層170との界面でV族元素の置換が生じても、意図しない遷移層は形成されない。
【0075】
また、中間層170は、III族元素として、第1のV族元素との二元化合物の平衡定数が、第1のIII族元素および第2のV族元素の二元化合物の平衡定数より大きいIII族元素を含む。これにより、中間層170および第2化合物半導体層130との間において、第1のIII族元素および第2のV族元素の二元化合物の生成を抑制できる。当該III族元素は、第2化合物半導体層130に含まれる第2のIII族元素であってよい。
【0076】
本例において、第1のIII族元素はInであり、第1のV族元素はPであり、第2のIII族元素はAlまたはGaであり、第2のV族元素はAsである。中間層170は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130に含まれるIII族元素を全て含んでよい。例えば、第1化合物半導体層120はInPであり、第2化合物半導体層130はAlGaInAsであり、中間層170は、AlGaInPである。
また他の例では、第1化合物半導体層120はInGaPであり、第2化合物半導体層130はAlGaAsであり、中間層170は、AlGaInPである。
【0077】
なお、第1および第2のIII族元素およびV族元素は、それぞれ第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130における主たるIII族元素およびV族元素であってよい。主たる元素とは、例えば同族の元素のうち組成比が最大の元素を指す。
【0078】
また、中間層170は、第2化合物半導体層130よりもバンドギャップエネルギーが大きい。つまり、中間層170は、第2化合物半導体層130よりもピーク波長の短いPL光を発光する。例えば、第2化合物半導体層130のPL光のピーク波長が約1300nmから1400nmであり、中間層170のPL光のピーク波長は約1200nm以下である。中間層170は、第2化合物半導体層130よりもバンドギャップエネルギーが大きいので、光素子100が生成する光に対して非吸収性である。本例のように、第2化合物半導体層130が多重量子井戸構造を有する場合、中間層170は、多重量子井戸構造の井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい。本明細書において、第2化合物半導体層130が多重量子井戸構造を有する場合、第2化合物半導体層130のバンドギャップエネルギーとは、井戸層のバンドギャップエネルギーを指してよい。
【0079】
なお、中間層170は、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130の間に、第1のIII族元素と第2のV族元素の二元化合物が生成されることを抑制できる厚さを有すればよい。また、層間の格子定数差を考慮すると、中間層170の厚さを大きくしすぎるのは好ましくない。中間層170は、1原子層相当の厚さから、15原子層相当程度の厚さを有することが好ましい。中間層170は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130のいずれよりも薄くてよい。また、中間層170は、光素子100に含まれる半導体層において最も薄い層であってよい。
【0080】
図8を用いて、領域62のバンド図について説明する。本例において、第1化合物半導体層120はInPであり、第2化合物半導体層130はAlGaInAsであり、中間層170は、AlGaInPである。第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間には、バンドギャップエネルギーが第2化合物半導体層130より大きい中間層170が形成されている。中間層170は第2化合物半導体層130よりバンドギャップエネルギーが大きいため、中間層170は、第2化合物半導体層130が生成する光を吸収しない。つまり、光素子100は、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間にバンドギャップエネルギーが第2化合物半導体層130より小さい吸収性の遷移層36を有しない。
【0081】
次に、光素子100が、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間に吸収性の遷移層36を有しない理由について説明する。第1化合物半導体層120および中間層170の界面では、両層のV族元素がともにPであるので、V族元素の置換が生じても、意図しない遷移層は形成されない。また、中間層170および第2化合物半導体層130においては、
図4に関連して説明した平衡定数がAlP>AlAs、GaP>GaAsなので、中間層170においてAlおよびGaに結合しているPは、第2化合物半導体層130のAsで置換されにくい。また、InPの平衡定数が、AlPおよびGaPに比べて非常に小さいので、中間層170における大部分のPは、AlまたはGaと結合している。このため、中間層170においてInと結合しているPはほとんど存在せず、当該Pを第2化合物半導体層130のAsで置換したInAsPは、ほとんど生成されない。
【0082】
光素子100は、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間に中間層170を介在させることによって、光素子100が生成する光を吸収する遷移層36の形成を抑制する。また、中間層170は、膜厚を1ML〜15MLの歪み量に応じた適切な膜厚にすることにより、第1化合物半導体層120とシュードモルフィックな膜に形成することで、中間層170の歪みが大きいことによる3次元成長を抑制することができ、第2化合物半導体層130における欠陥や転位の発生を抑制することができる。さらに、活性層として機能する第2化合物半導体層130と中間層170の界面172においてバンドギャップエネルギーの変化を急峻にできる。
【0083】
図16は、光素子100の製造方法の概要を説明する図である。光素子100を製造する製造方法は、基板110を用意する段階と、III−V族半導体の第1化合物半導体層120を形成する第1層形成段階と、第1化合物半導体層120上に中間層170を形成する中間層形成段階と、中間層170上に、第2化合物半導体層130を形成する第2層形成段階と、第2化合物半導体層130上に第3化合物半導体層140を形成する第3層形成段階と、第3化合物半導体層140上に第4化合物半導体層150を形成する第4層形成段階とを備える。
【0084】
例えば基板110は、面方位(100)のn型InP基板である。第1化合物半導体層120は下部クラッド層とし機能するn型InPから形成される。第2化合物半導体層130は、光素子100の活性層として機能する。第2化合物半導体層130は第1化合物半導体層120とはIII族およびV族の両方の組成が異なるIII−V族半導体で形成される。例えば、第2化合物半導体層130はAlGaInAsの多重量子井戸構造を有する。中間層170は、第2化合物半導体層130よりもバンドギャップエネルギーが大きい。中間層170は、例えば、AlGaInPから形成される。各半導体層の形成段階は、MOCVD法によるエピタキシャル成長により行う。
【0085】
第1層形成段階は、第1化合物半導体層120に対応する第1のIII族原料ガスAおよび第1のV族原料ガスAを反応容器に供給する段階を有する。本例では、第1のIII族原料ガスAはTMIであり、第1のV族原料ガスAはPH3である。第1層形成段階は、n型ドーパントとしてSi原子をドープする段階を有してもよい。
【0086】
第1の中間層形成段階は、第1のV族原料ガスAの供給を維持しつつ、第1のIII族原料ガスAの供給を停止し、第2のV族原料ガスに暴露されても第2化合物半導体層130のエネルギーギャップ以上のエネルギーギャップを有するIII族原料ガスの供給を開始する。本例では、III族原料ガスは、log
eK[AlGaInAsP]が負となるようなIII族組成に対応したTMA、TMG、TMIの混合ガスである。時刻t1で、第1のIII族原料ガスAから第2のIII族原料ガスBに切り替わる。なお、第2のIII族原料ガスBのキャリアガスとしてN2ガスを供給してもよい。時刻t1からt2までの間、PH3、TMA、TMG、TMIの混合ガスが所定の流量及び圧力で反応容器内に供給される。結果として、第1化合物半導体層120上にAsH3暴露によってもAs/P置換が生じないAlGaInPから形成される中間層170がエピタキシャル成長される。
【0087】
また、第2の中間層形成段階としては、第1のV族原料ガスAの供給を維持しつつ、第1のIII族原料ガスAの供給を停止し、第2化合物半導体層130に対応するIII族原料ガスBの供給を開始する。本例では、第2のIII族原料ガスBは、TMA、TMG、TMIの混合ガスである。時刻t1で、第1のIII族原料ガスAから第2のIII族原料ガスBに切り替わる。なお、第2のIII族原料ガスBのキャリアガスとしてN2ガスを供給してもよい。時刻t1からt2までの間、PH3、TMA、TMG、TMIの混合ガスが所定の流量及び圧力で反応容器内に供給される。結果として、第1化合物半導体層120上に第2化合物半導体層130(AlGaInAs)と同様のIII族組成を有するAlGaInPから形成される中間層170がエピタキシャル成長される。
【0088】
第2層形成段階は、第2のIII族原料ガスBの供給を維持しつつ、第1のV族原料ガスAの供給を停止し、第2化合物半導体層130に対応する第2のV族原料ガスBの供給を開始する。本例では、第2のV族原料ガスBはAsH3である。時刻t2で、第1のV族原料ガスAから第2のV族原料ガスBに切り替わる。時刻t2からt3までの間、AsH3、TMA、TMG、TMIの混合ガスが所定の流量及び圧力で反応容器内に供給される。結果として、中間層170上にAlGaInAsから形成される多重量子井戸構造の第2化合物半導体層130がエピタキシャル成長される。
【0089】
第3層形成段階では時刻t3において、第2のIII族原料ガスBの供給を停止し、第1のIII族原料ガスAの供給を開始する。また、時刻t3において、第2のV族原料ガスBの供給を停止し、第1のV族原料ガスAの供給を開始する。第3層形成段階は、p型ドーパントとしてZn原子をドープする段階を有してもよい。反応容器の内部には、PH3、TMIガスが所定の流量及び圧力で供給される。結果として、第2化合物半導体層130上にp型InPから形成される第3化合物半導体層140がエピタキシャル成長される。
【0090】
第4層形成段階は、III族原料ガスとしてTMI及びTMGガスの混合ガスを供給し、V族原料ガスとしてPH3及びAsH3の混合ガスを供給する。第4層形成段階は、p型ドーパントとしてZn原子をドープする段階を有してもよい。反応容器の内部には、PH3、AsH3、TMG、TMIガスが所定の流量及び圧力で供給される。結果として、第3化合物半導体層140上にp型GaInAsPから形成される第4化合物半導体層150がエピタキシャル成長される。
【0091】
第1の中間層形成段階を有する製造方法によれば、中間層170は、第1のV族元素を有するIII−V族化合物を含む。また、当該III−V族化合物は、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素と第2化合物半導体層130に含まれるV族元素との化合物よりも平衡定数が大きい。
【0092】
これにより、中間層170は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130の間に、第2化合物半導体層130よりバンドギャップエネルギーの小さい層が形成されるのを阻害する。第1の中間層形成段階を有する光素子100の製造方法によれば、第1化合物半導体層120及び第2化合物半導体層130との間に中間層170を設けたので、中間層170と第1化合物半導体層120との界面174及び中間層170と第2化合物半導体層130との界面172のいずれにおいてもP原子とAs原子の置換反応のような化学反応を抑制できる。結果として、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間における、第2化合物半導体層130よりバンドギャップエネルギーの小さい遷移層36の形成を抑制できる。つまり、中間層170は遷移層36の形成を阻害する。
【0093】
また、中間層170は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130の間に、光素子100が生成する光を吸収する吸収性層が形成されるのを阻害する。中間層170は第2化合物半導体層130より大きいバンドギャップエネルギーを有する。また、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130と間に第2化合物半導体層130よりバンドギャップエネルギーの小さい遷移層36は形成されない。また、界面172は非吸収性界面である。したがって、中間層170は、光素子100が生成する光を吸収する吸収性層が形成されるのを阻害する。
【0094】
また、中間層170は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130の間に、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素と、第2化合物半導体層130に含まれるV族元素との化合物が形成されるのを阻害する。上述したように、中間層170は、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素と、第2化合物半導体層130に含まれるV族元素との化合物より平衡定数が大きく、且つ、第1化合物半導体層120に含まれるV族元素を有する化合物で形成される。また、第1化合物半導体層120、中間層170、第2化合物半導体層130を形成するIII−V族化合物の平衡定数の関係より、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間には、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素と、第2化合物半導体層130に含まれるV族元素との化合物は形成されない。つまり、中間層170は、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素と、第2化合物半導体層130に含まれるV族元素との化合物の形成を阻害する。
【0095】
第2の中間層形成段階を有する製造方法によれば、中間層170は、第1のV族元素を有するIII−V族化合物を含む。また、当該III−V族化合物は、第2化合物半導体のIII族元素の組成が同一となる化合物半導体。
【0096】
これにより、中間層170は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130の間に、第2化合物半導体層130よりバンドギャップエネルギーの小さい層が形成されるのを阻害する。第2の中間層形成段階を有する光素子100の製造方法によれば、第1化合物半導体層120及び第2化合物半導体層130との間に中間層170を設けたので、中間層170と第1化合物半導体層120との界面174及び中間層170と第2化合物半導体層130との界面172のいずれにおいてもP原子とAs原子の置換反応が生じても、結果として、第2化合物半導体層130と同等の半導体層が形成されるため、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間における、第2化合物半導体層130よりバンドギャップエネルギーの小さい遷移層36の形成を抑制できるうえ、中間層170の格子定数と第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130の格子定数差を低減でき、格子定数差による第2化合物半導体層130形成時の欠陥および転位の形成を抑制できる。つまり、中間層170は遷移層36の形成を阻害する。
【0097】
また、中間層170は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130の間に、光素子100が生成する光を吸収する吸収性層が形成されるのを阻害する。中間層170は第2化合物半導体層130と同等のバンドギャップエネルギーを有する。また、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130と間に第2化合物半導体層130よりバンドギャップエネルギーの小さい遷移層36は形成されない。また、界面172は非吸収性界面である。したがって、中間層170は、光素子100が生成する光を吸収する吸収性層が形成されるのを阻害する。
【0098】
また、中間層170は、第1化合物半導体層120および第2化合物半導体層130の間に、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素と、第2化合物半導体層130に含まれるV族元素との化合物が形成されるのを阻害する。上述したように、中間層170は、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素と、第2化合物半導体層130に含まれるV族元素との化合物より平衡定数が大きく、且つ、第1化合物半導体層120に含まれるV族元素を有する化合物で形成される。また、第1化合物半導体層120、中間層170、第2化合物半導体層130を形成するIII−V族化合物の平衡定数の関係より、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間には、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素と、第2化合物半導体層130に含まれるV族元素との化合物は形成されない。つまり、中間層170は、第1化合物半導体層120に含まれるIII族元素と、第2化合物半導体層130に含まれるV族元素との化合物の形成を阻害する。
【0099】
図17は、光素子100のPL特性の実験結果を示すグラフである。縦軸はPL光の発光強度を示し、横軸は波長を示す。
図13に示した光素子500のPL特性に比べ、中間層170を有する光素子100は、長波長側のピークP2を有さず、短波長側のピークP1に対応するピークP3を有する。この実験結果から、中間層170は、長波長のPL光を発光する遷移層36の形成を抑制することがわかる。また、光素子100は、光素子500に比べPL強度のピーク値が大きく、半値幅が小さい。したがって、光素子100は光素子500に比べ、優れたPL特性を有することがわかる。また、他の実験結果から光素子100は、光素子500に比べPLピーク強度/波長のバッチ間での変動が小さいことがわかった。この結果から光素子100はプロセス安定性が高く、歩留まりが向上することがわかる。
【0100】
図18は、光素子500と光素子100の電流−光出力特性を比較した実験結果を示すグラフである。縦軸は光素子のレーザ光出力を示す。横軸は光素子に注入する電流密度を示す。直線84は光素子100のレーザ光出力特性を示し、直線86は光素子500のレーザ光出力特性を示す。中間層170を有する光素子100は、閾値電流Ith1を有し、中間層170を有しない光素子500は閾値電流Ith2を有する。グラフより、閾値電流Ith1は閾値電流Ith2の約1/3以下であることがわかる。また、直線84の傾きは直線86の傾きより大きい。したがって、光素子100は光素子500よりも優れたレーザ特性を有することがわかる。これは、光素子100が、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間に中間層170を有することにより、格子欠陥の発生が抑制され、第2化合物半導体層130と中間層170との界面におけるバンドギャップエネルギーの急峻性が改善されたためであると考えられる。
【0101】
本例の製造方法によれば、中間層170を形成することにより、第1化合物半導体層120と第2化合物半導体層130との間にバンドギャップエネルギーが小さい遷移層36の形成が阻害される。また、中間層170と第2化合物半導体層130とのヘテロ接合界面において欠陥および転位の発生が抑制される。さらに、中間層170と第2化合物半導体層130とのヘテロ接合の界面において、バンドギャップエネルギーの急峻性が改善される。また、PLピーク強度/波長のバッチ間での変動が低減する。また、III族原料の切替えとV族原料の切替えを同時に行わないため、配管の長さに応じてバルブの開閉タイミングを調整しなくてよい。
【0102】
図19は、本発明の第2実施形態にかかる光素子200の断面図である。光素子200は、基板210と、基板210上に形成されたIII−V族半導体の第1化合物半導体層220と、第1化合物半導体層220の上方に形成された第2化合物半導体層240と、第1化合物半導体層220および第2化合物半導体層240の間に形成された中間層230と、第2化合物半導体層240上に形成された第3化合物半導体層250とを備える。
【0103】
基板210は、III−V族化合物半導体基板である。基板210は、例えば、InPまたはGaAsから形成される。第1化合物半導体層220、中間層230、第2化合物半導体層240および第3化合物半導体層250は、MOCVD法により基板210上に順次エピタキシャル成長される。第1化合物半導体層220に含まれるIII族元素と、第2化合物半導体層240に含まれるV族元素との化合物は、意図しない吸収性遷移層を形成する。
【0104】
第1化合物半導体層220は、基板210上にエピタキシャル成長される。本例の第1化合物半導体層220は、第1のIII族元素IIIAと第1のV族元素VAとを含み、n型ドーパントがドープされたn型III−V族半導体である。第1化合物半導体層220は下部クラッド層として機能する。
【0105】
第2化合物半導体層240は、第2のIII族元素IIIBと第2のV族元素VBとを含むIII−V族半導体である。第2化合物半導体層240は、例えば多重量子井戸構造を有し、光素子200の活性層として機能する。
【0106】
中間層230は、第1化合物半導体層220および第2化合物半導体層240に含まれる元素で構成される。本例の中間層230は、第2のIII族元素IIIBと第1のV族元素VAとを含むIII−V族半導体である。中間層230は、第2化合物半導体層240よりバンドギャップエネルギーが大きい。また、中間層230は、第1化合物半導体層220に含まれる第1のIII族元素IIIAと、第2化合物半導体層240に含まれる第2のV族元素VBとの結合がない。つまり、中間層230は、第1のIII族元素IIIAと第2のV族元素VBから形成されるIII−V族半導体IIIAVBを含まない。
【0107】
中間層230は、第1化合物半導体層220の第1のIII族元素および第1のV族元素より平衡定数が大きいIII−V族化合物を含む。また、中間層230は、第1化合物半導体層220に含まれる第1のIII族元素IIIAと第2化合物半導体層240に含まれる第2のV族元素VBとの化合物IIIAVBよりも平衡定数が大きい化合物IIIBVAを含む。具体的には、第1および第2のIII族およびV族元素は、以下の平衡定数の関係を有するように選択する。
IIIBVA>IIIBVB>IIIAVB>IIIAVA
【0108】
第1化合物半導体層220を形成するIII−V族半導体IIIAVAは、中間層230を形成するIII−V族半導体IIIBVAより平衡定数が小さい。したがって、第1化合物半導体層220と中間層230との界面においてIII族原子またはV族原子を置換するような化学反応は生じない。中間層230を形成するIII−V族化合物IIIBVAは、第1化合物半導体層220に含まれるIII族元素IIIAと第2化合物半導体層240に含まれるV族元素VBとの化合物IIIAVBよりも平衡定数が大きい。したがって、中間層230と第2化合物半導体層240との界面において第1のV族原子VAと第2のV族原子VBとの置換反応は生じない。つまり、第1化合物半導体層220と第2化合物半導体層240との間にIII−V族化合物IIIAVBから形成される遷移層は形成されない。
【0109】
第3化合物半導体層250は、第2化合物半導体層240上にエピタキシャル成長される。本例の第3化合物半導体層250は、p型ドーパントがドープされた第1のIII族元素IIIAと第1のV族元素VAから形成されるp型III−V族半導体IIIAVAである。第3化合物半導体層250は上部クラッド層として機能する。変形例において、第3化合物半導体層250は無くともよい。
【0110】
図20は、光素子200の製造方法における原料ガス供給シーケンスである。光素子200を製造する製造方法は、III−V族半導体から形成される基板210を用意する段階と、基板210上にIII−V族半導体の第1化合物半導体層220を形成する第1層形成段階と、第1化合物半導体層220上に中間層230を形成する中間層形成段階と、中間層230上に第2化合物半導体層240を形成する第2層形成段階と、第2化合物半導体層240上に第3化合物半導体層250を形成する第3層形成段階とを備える。基板210は、III−V族化合物半導体から形成される。本例の基板210は、InP基板またはGaAs基板である。
【0111】
第1化合物半導体層220は、下部クラッド層として機能する。第1化合物半導体層220は、III−V族化合物半導体から形成される。第2化合物半導体層240は、光素子200の活性層として機能する。第2化合物半導体層240は第1化合物半導体層220とはIII族およびV族の両方の組成が異なるIII−V族半導体で形成される。例えば、第2化合物半導体層240は四元系のIII−V族化合物半導体から形成され、多重量子井戸構造を有する。中間層230は、第2化合物半導体層240よりもバンドギャップエネルギーが大きい。中間層230は、例えば、四元系のIII−V族化合物半導体から形成される。第3化合物半導体層250は、上部クラッド層として機能する。第3化合物半導体層250は、第1化合物半導体層と組成が同じで、導電型が異なるIII−V族化合物半導体から形成される。各半導体層の形成段階は、MOCVD法によるエピタキシャル成長により行う。
【0112】
第1層形成段階は、第1化合物半導体層220に対応する第1のIII族原料ガスAおよび第1のV族原料ガスAを反応容器に供給する段階を有する。第1層形成段階は、第1導電型のドーパントをドーピングする段階を有する。所定の温度に加熱された基板210上に第1のIII族原料ガスAのIII族元素IIIA及び第1のV族原料ガスAのV族元素VAから形成される第1導電型の化合物IIIAVAを含む第1化合物半導体層220がエピタキシャル成長される。
【0113】
中間層形成段階は、第1のV族原料ガスAの供給を維持しつつ、第1のIII族原料ガスAの供給を停止し、第2化合物半導体層240に対応する第2のIII族原料ガスBの供給を開始する段階を有する。つまり、時刻t1で、III族原料ガスのみが切り替わる。時刻t1からt2までの間、第2のIII族原料ガスB及び第1のV族原料ガスAが所定の流量及び圧力で反応容器内に供給される。結果として、第1化合物半導体層220上に第2のIII族原料ガスBのIII族元素IIIB及び第1のV族原料ガスAのV族元素VAから形成される化合物IIIBVAを含む中間層230がエピタキシャル成長される。
【0114】
第2層形成段階は、第2のIII族原料ガスBの供給を維持しつつ、第1のV族原料ガスAの供給を停止し、第2化合物半導体層240に対応する第2のV族原料ガスBの供給を開始する段階を有する。つまり、時刻t2ではV族原料ガスのみが切り替わる。時刻t2からt3までの間、第2のIII族原料ガスB及び第2のV族原料ガスBが所定の流量及び圧力で反応容器内に供給される。結果として、中間層230上に、第2のIII族原料ガスBのIII族元素IIIB及び第2のV族原料ガスBのV族元素VBから形成される化合物IIIBVBを含む第2化合物半導体層240がエピタキシャル成長される。
【0115】
第3層形成段階は、第2のIII族原料ガスBの供給を停止し、第1のIII族原料ガスAの供給を開始し、第2のV族原料ガスBの供給を停止し、第1のV族原料ガスAの供給を開始する段階を有する。第3層形成段階は、第1導電型と異なる第2導電型のドーパントをドーピングする段階を有する。反応容器の内部には、第1のIII族原料ガスA及び第1のV族原料ガスAが所定の流量及び圧力で供給される。結果として、第2化合物半導体層240上に第1化合物半導体層220と組成が同じで導電型が異なる第2導電型の化合物IIIAVAを含む第3化合物半導体層250がエピタキシャル成長される。
【0116】
本例の製造方法によれば、中間層230は、第1化合物半導体層220に含まれるIII族元素IIIAと第2化合物半導体層240に含まれるV族元素VBとの化合物IIIAVBよりも平衡定数が大きい化合物IIIBVAを含む。第1化合物半導体層220を形成するIIIAVA、中間層230を形成するIIIBVA、第2化合物半導体層240を形成するIIIBVBの平衡定数の関係については上述したので説明を省略する。
【0117】
結果として、中間層230は、第1化合物半導体層220および第2化合物半導体層240の間に、第2化合物半導体層240よりバンドギャップエネルギーの小さい層が形成されるのを阻害する。また、中間層230は、第1化合物半導体層220および第2化合物半導体層240の間に、光素子200が生成する光を吸収する吸収性層が形成されるのを阻害する。また、中間層230は、第1化合物半導体層220および第2化合物半導体層240の間に、第1化合物半導体層220に含まれるIII族元素IIIAと、第2化合物半導体層240に含まれるV族元素VBとの化合物IIIAVBが形成されるのを阻害する。
【0118】
図21は、光素子200の変形例の製造方法における原料ガス供給シーケンスを示す。変形例の製造方法は、第2層形成段階を除き光素子200の製造方法と同様なので説明を省略する。光素子200の変形例の第2層形成段階では、第2のIII族原料ガスBの供給を停止し、第3のIII族原料ガスCの供給を開始し、第1のV族原料ガスAの供給を停止し、第2のV族原料ガスBの供給を開始する。
【0119】
つまり、時刻t2で、III族原料ガス及びV族原料ガスの両方が切り替わる。時刻t2からt3までの間、第3のIII族原料ガスC及び第2のV族原料ガスBが所定の流量及び圧力で反応容器内に供給される。結果として、中間層230上に、第3のIII族原料ガスCのIII族元素IIIC及び第2のV族原料ガスBのV族元素VBから形成される化合物IIICVBを含む第2化合物半導体層240がエピタキシャル成長される。
【0120】
本例の製造方法によっても、中間層230は、第1化合物半導体層220に含まれるIII族元素IIIAと第2化合物半導体層240に含まれるV族元素VBとの化合物IIIAVBよりも平衡定数が大きい化合物IIIBVAを含む。第1化合物半導体層220を形成するIIIAVA、中間層230を形成するIIIBVA、第2化合物半導体層240を形成するIIICVBの自由エネルギーの関係については上述したので説明を省略する。
【0121】
結果として、中間層230は、第1化合物半導体層220および第2化合物半導体層240の間に、第2化合物半導体層240よりバンドギャップエネルギーの小さい層が形成されるのを阻害する。また、中間層230は、第1化合物半導体層220および第2化合物半導体層240の間に、光素子200が生成する光を吸収する吸収性層が形成されるのを阻害する。また、中間層230は、第1化合物半導体層220および第2化合物半導体層240の間に、第1化合物半導体層220に含まれるIII族元素IIIAと、第2化合物半導体層240に含まれるV族元素VBとの化合物IIIAVBが形成されるのを阻害する。
【0122】
光素子100および光素子200は、ポンプレーザ、DFBレーザ、FBTレーザ等の光通信用または可視光用のレーザ素子として用いることができる。光素子100および光素子200はIII−V族化合物半導体の各層の界面に意図しない吸収性遷移層が形成される材料に広く適用可能である。
【0123】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0124】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。