【文献】
井上尚三 他,プラズマ発光強度信号による高周波反応性スパッタリングプロセスの動的制御,日本金属学会誌,日本,日本金属学会,1997年,第61巻 第10号,PP1108-1114,URL,Https://www.jim.or.jp
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、以下に実施形態及び実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態及び実施例に限定されるものではない。
また、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0015】
(1)スパッタリング装置の全体構成及び動作
図1はスパッタリング装置1の概略構成の一例を示す断面模式図である。
スパッタリング装置1は、縦型のインターバック式の装置であり、真空チャンバ11を有している。真空チャンバ11は、仕込み/取り出し室(以下L/UL室と記す。)12とゲートバルブ13を介して接続されている。L/UL室12は、被成膜物の一例としての処理基板Sを保持するトレイ14の仕込み、取り出しを行うように構成されており、L/UL室12内のトレイに処理基板Sを保持させ、ゲートバルブ13を開け、真空チャンバ11の内部に搬入する。
【0016】
真空チャンバ11の内部には、トレイ14を搬送するための搬送機構(不図示)が取り付けられ、処理基板Sを保持したトレイ14は真空チャンバ11の内部を搬送され(
図1中 矢印参照)成膜処理がなされるように構成されている。
【0017】
真空チャンバ11の内部には、処理基板Sの表面に成膜しようする膜の組成に応じて所定形状に作製された複数のターゲット15が配置され、真空チャンバ11内にはスパッタガスと反応ガスとを導入するガス導入手段としてのガス導入機構16が接続されている。
【0018】
スパッタリング装置1は、反応ガスの導入量を制御するコントローラ18からなるプラズマエミッションモニタ(PEM)17を備えている。
【0019】
また、このプラズマエミッションモニタ(PEM)17には、ターゲット15と処理基板Sとの間でのグロー放電により形成されるプラズマの発光強度をモニターする光量センサ17bを更に備えている。光量センサ17bは、ターゲットごとに、特定波長の光強度をモニターし、ターゲットごとに光強度を出力する。
【0020】
圧力センサ17aで読み取られた圧力情報はコントローラ18で処理され、後述する閾値を超えた際に、アラーム出力を行う。
【0021】
光量センサ17bで読み取られた光量情報は、ガス導入機構16にフィードバックされて、真空チャンバ11内に導入する反応ガスの流量を調整する。この時、前述した圧力情報と併用して反応ガスの流量を調整する構成であってもよい。
【0022】
ターゲット15には直流(DC)電圧と高周波(RF)電圧が重畳されたスパッタ電圧を印加する電源(不図示)が接続されており、この電源によってターゲット15に電力が供給される。
ターゲット15に印加されるスパッタ電圧はコントローラ18で処理され、コントローラ18からガス導入機構16にフィードバックされる。そして、ターゲット15に供給される電力が所定の電力になるように、ガス導入機構16のマスフローコントローラ(MFC)19を介して真空チャンバ11内に導入する反応ガスの流量が調整される。
尚、電源としては、パルス電源、非対称パルス波を印加する電源、サイン波を印加する電源等を用いることができる。
【0023】
(2)スパッタリング装置の成膜制御
(2.1)成膜制御
スパッタリング装置1は、ガス導入機構13によって真空チャンバ11内にガスを導入しながら、真空チャンバ11内の内部を減圧して真空状態にする。
次いで、ガス導入機構16を介してスパッタガスと反応ガスを導入し、ターゲット15に電源を介してスパッタ電圧を印加すると、ターゲット15の前方にプラズマ雰囲気が形成される。この状態で、処理基板Sが保持されたトレイ14を、L/UL室12から真空チャンバ11の内部に搬入して処理基板S表面に薄膜が形成される。
この成膜時に、光量センサ17bで読み取られた光量情報をプラズマエミッションモニタ(PEM)17で読み取り、その光量値が所定値となるように反応ガスの流量を制御する。
【0024】
詳細には、ターゲットごとの特定波長の光強度を検出する光量センサ17bで検出された光量情報をプラズマエミッションモニタ(PEM)17で読み取り、その読み取られた光量値からの情報をコントローラ18で処理し、コントローラ18からマスフローコントローラ(MFC)19にフィードバックする。
すなわち、光量値を読み取ったときのスパッタ現象が遷移領域からどれだけずれているかのずれ量を、光量からの情報としてコントローラ18で取得する。そして、そのずれ量から遷移領域のスパッタ現象となる反応ガスの流量を算出し、その算出結果を信号としてマスフローコントローラ(MFC)19にフィードバックする。
そして、マスフローコントローラ(MFC)19を介して反応ガスの流量を読み取られた光量情報に基づいて制御することにより、ターゲット15のスパッタ現象を遷移領域となるように制御する。
【0025】
このような制御を行ないながら、スパッタリングにより処理基板S上に反応性膜を成膜する。このようにスパッタ現象のなかで遷移領域の制御を行なうことにより、成膜速度を高速化している。尚、遷移領域については後述する。
【0026】
(2.2)遷移領域
図2は、代表的な材料としてのNbの反応性スパッタを行なうときに生じるヒステリシスカーブを示す図である。
図2において、縦軸はNbの発光波長の強度としての光量を示し、横軸は反応ガスの流量を示している。
以下、
図2を参照しながら遷移領域について説明する。
【0027】
金属酸化物の薄膜を形成する反応性スパッタリングにおいては、反応ガスの流量に依存して、二つの安定的なスパッタ状態(モード)が現れる。金属のターゲット材料がそのままスパッタされるメタルモードと、ターゲット金属表面が酸化された状態でスパッタされる酸化物モードがある。
【0028】
反応ガスとしての酸素の分圧が低い状態、すなわちスパッタガスとしてアルゴンガスが多い状態では、ターゲット15の表面は金属(Nb)が露出した状態に保たれ、その材料がそのままスパッタされるのでNbのまま処理基板Sに成膜され、吸収膜となり最も早い積層速度となる(メタルモード)。
【0029】
また反応ガスとしての酸素の分圧が処理基板S表面上に金属化合物(NbO
x)の所定比の膜を形成するのに適当なレベルに達すると、同種の金属化合物(NbO
x)がターゲット15の表面にも形成されはじめる。そのために、ターゲット15表面から蒸発する金属の量が減少し、成膜速度が低下する(酸化物モード)。
この状態は、酸素量の多少の変動が合っても、成膜速度が変わらないという利点はあるが、成膜速度が遅くなるという大きな欠点がある。
【0030】
図2に、酸素流量とプラズマの発光強度としての光量との関係を示す。
図2によれば、酸素流量が増加する過程と、減少する過程とで特性が異なるヒステリシスカーブを描く。 しかるに、メタルモードと酸化物モードの中間においては、成膜速度はメタルモードに近く、積層した膜は透明な酸化膜となるような領域となる(遷移領域)。つまり、遷移領域となるようにスパッタ現象を制御することにより、高い成膜速度で酸化物を成膜することが可能となる(遷移モード)。
【0031】
図2に示すヒステリシスカーブによれば、酸素流量が増加すれば、発光が小さくなり、メタルモードに対して酸素流量を制御すれば、ヒステリシスカーブの中での位置を知ることができることがわかる。特に、微量酸素を精度よく制御できれば、高い成膜速度で酸化物を成膜することが可能な位置である遷移領域にプロセスを維持できることになる(
図2中のA点)。
【0032】
一方、遷移領域であるA点近傍においては、酸素流量の変化に対する発光量の変化が急峻であり、酸素流量のオーバーシュートが発生した場合、遷移モードから酸化物モードへ移行してしまい、成膜速度が低下する虞がある。一旦、酸化物モードに移行した状態から、酸素流量を制御して(減少させて)遷移モードへ移行する場合は、酸素流量の減少過程となり、ヒステリシスカーブ上の位置は同じの発光量であるB点(光量10%)となる。
【0033】
従来のように、ターゲットから発生する発光に基づいて酸素流量を調整してターゲット15のスパッタ現象を遷移領域となるように制御する場合、成膜が開始される前に、
図2におけるA点(光量10%)で成膜されるのか、B点(光量10%)で成膜されるのか判別できない虞があった。表1に、
図2におけるA点(光量10%)とB点(光量10%)において、それぞれ遷移モードを維持して、成膜する処理基板Sのトレイ14の搬送速度等、膜厚変化に起因するパラメータを双方の条件で一致させて成膜したNb膜厚を示す。ターゲットはNbである。膜厚と光学特性は分光式エリプソメータ(測定波長633nm)にて測定した結果である。この結果から、A点(光量10%)に維持して成膜したNb膜厚は389.6nm、B点(光量10%)に維持して成膜したNb膜厚は193.49nmとなり、酸化物モードを経た遷移モードでは膜厚が略1/2となった。この膜厚差は、致命的な製品不良となってしまう。
【0035】
このため、上述したように、本発明では真空チャンバ11内の圧力値を検出する圧力センサ17aで検出された圧力情報に基づいて、
図2において同一光量であるA点(光量10%)とB点(光量10%)のいずれであるかを判別し、B点である場合にはアラーム出力を行う。
【0036】
(2.3)スパッタリング装置の制御
図3は、代表的な材料としてのNbの反応性スパッタを行なうときに生じるヒステリシスカーブを示す図である。
図3において、縦軸は真空チャンバ内の圧力値を示し、横軸は反応ガスの流量を示している。
図4は本実施形態に係るスパッタリング装置1の成膜制御における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
以下、本実施形態に係るスパッタリング装置の成膜制御について、図面を参照しながら説明する。
【0037】
図3に示すように、ターゲット15に供給される電力を一定に制御しながら、真空チャンバ11内に導入する反応ガスとしての酸素の流量を変化させた場合の、酸素流量とプラズマの発光強度としての圧力との関係は、酸素流量が増加する過程と、減少する過程とで特性が異なるヒステリシスカーブを描く。
図中A1点は、上述したプラズマの発光強度としての光量と酸素流量との関係を示した
図2のヒステリシスカーブにおけるA点と対応している。図中B1点は、同様に
図2のヒステリシスカーブにおけるB点と対応している。
【0038】
図3に示すヒステリシスカーブの酸素流量とプラズマの発光強度としての圧力との関係においては、酸素流量が増加する過程と、減少する過程とで、プラズマの発光強度としての光量が同じになる遷移モードにおいても、A1点(圧力0.3pa)とB1点(圧力0.36pa)における圧力は明確に判別されることが示されている。これにより、真空チャンバ11内の圧力値を検出する圧力センサ17aで検出された圧力情報を参照することにより、酸化物モードに至る前の遷移モードであるか、酸化物モードを経た遷移モードであるかを区別できる。
【0039】
本実施形態に係るスパッタリング装置1の成膜制御を行うプラズマエミッションモニタ(PEM)17は、光量検出手段としての光量センサ17bを備え、更に、圧力センサ17aを備えていてもよい。
圧力センサ17aによって検出された圧力が、第一の流量値と第二の流量値にそれぞれ対応する、互いに異なる第一の圧力値と第二の圧力値の範囲内に設定された第一の閾値(R1)を超えたときには、アラームとしての通知信号を出力して、成膜前に安定的に高速成膜が可能な状態か否かの判別を促す。
【0040】
以下、
図4に示すフローチャートを参照しながら、本実施形態に係るスパッタリング装置1の成膜制御における処理の流れを説明する。
【0041】
プラズマエミッションモニタ(PEM)17のコントローラ18は、ターゲット15にスパッタ電圧を印加する電源がONされる(S10)と、電源の出力が安定したか否か判断する(S11)。
電源が安定したと判断された場合(S11;Yes)、ガス導入機構16のマスフローコントローラ(MFC)19を介して真空チャンバ11内に反応ガス(O
2)を導入する(S12)。
【0042】
その後、光量値をプラズマエミッションモニタ(PEM)17で読み取り、その光量が所定値となるように反応ガス(O
2)の流量を制御する(S13)。
具体的には、ターゲットごとの特定波長の光強度を光量センサ17bで読み取り、光量を読み取ったときのスパッタ現象が遷移領域からどれだけずれているかのずれ量を光量からの情報としてコントローラ18で取得し、そのずれ量から遷移領域のスパッタ現象となる反応ガスの流量を算出し、マスフローコントローラ(MFC)19にフィードバックする。
そして、マスフローコントローラ(MFC)19を介してターゲット15のスパッタ現象を遷移領域となるように反応ガス(O
2)の流量を制御する(S13)。
【0043】
次に、コントローラ18は、圧力センサ17aによって検出された圧力が、圧力と反応ガス(O
2 )の流量との関係を表す第一のヒステリシスカーブ(
図3参照)
において、反応ガス(O
2 )の第一の流量値と第二の流量値
にそれぞれ対応する、互いに異なる第一の圧力値と第二の圧力値の範囲内に設定された第一の閾値R1を超えるか否か判断する(S14)。
その結果、第一の閾値を超えている場合(S14;Yes)、処理基板Sの真空チャンバ11内部への搬入搬送は行われず、アラームを通知して(S15)、再度マスフローコントローラ(MFC)19を介してターゲット15のスパッタ現象を遷移領域となるように反応ガス(O
2 )の流量を制御する(S13)。
【0044】
第一の閾値を超えていない場合(S14;No)、処理基板Sを保持したトレイ14は真空チャンバ11の内部へ搬送され成膜処理が開始される(S16)。
【0045】
(3)作用・効果
本実施形態に係るスパッタリング装置1の制御方法によれば、遷移モードを安定して維持する場合に、圧力センサ17aによって検出された圧力が、圧力と反応ガス(O
2)の流量との関係を表す第一のヒステリシスカーブのうち、反応ガス(O
2)の第一の流量値と第二の流量値にそれぞれ対応する、互いに異なる第一の圧力値と第二の圧力値の範囲内に設定された第一の閾値を超えるか否か判断する。
そして、第一の閾値を超えている場合、処理基板Sの真空チャンバ11内部への搬入搬送は行われず、アラームを通知して、成膜前に安定的に高速成膜が可能な状態か否かの判別を促す。
【0046】
その結果、酸化物モードへ突入してしまった後に遷移モードで成膜した時に膜厚が薄くなってしまうという不具合が成膜前に判別され、安定した膜厚の高速成膜が可能になる。
【0047】
なお、上述した実施形態では、圧力センサ17aによって検出された圧力に基づいて、第一のヒステリシスカーブに設定された第一の閾値を超えるか否かで成膜前に安定的に高速成膜が可能な状態か否かの判別を促している。この判別に先だって、光量検出手段、例えば、光量センサ17bで読み取られた光量が、光量と反応ガスの流量との関係を表す第二のヒステリシスループにおいて、特定の光量値に対して2つの流量値をとる領域
である遷移領
域が存在するか否かの判別が行われる。
【実施例】
【0048】
本実施例では、
図1に示した構成の縦型のインターバック式のスパッタリング装置1において、ターゲット15としてSiターゲット及びTiターゲットを用い、それぞれのターゲットに対して、圧力と反応ガス(O
2)の流量との関係を表す第一のヒステリシスカーブ及び光量と反応ガス(O
2)の流量との関係を表す第二のヒステリシスカーブをもとめた(
図5、
図6参照)。
図5はSiターゲットを用いた場合の第一のヒステリシスカーブ及び第二のヒステリシスカーブ、
図6はTiターゲットを用いた場合の第一のヒステリシスカーブ及び第二のヒステリシスカーブである。
【0049】
図5及び
図6に示す第二のヒステリシスカーブにおいて、例えば、遷移領域の光量(20%)におけるA点とB点に対応する、第一のヒステリシスカーブである酸素流量と圧力との関係においては、酸素流量が増加する過程と、減少する過程とで、プラズマの発光強度としての光量が同じ(20%)になる遷移モードにおいても、A1点とB1点における圧力は明確に判別されることが示されている。
【0050】
そして、圧力センサ17aによって検出された圧力が、圧力と反応ガスの流量との関係を表す第一のヒステリシスカーブのうち、第一の流量値と第二の流量値にそれぞれ対応する、互いに異なる第一の圧力値と第二の圧力値の範囲内に設定された第一の閾値(R1)を超えたときには、アラームとしての通知信号を出力して、成膜前に安定的に高速成膜が可能な状態か否かの判別を促す。
【0051】
その結果、ターゲット15としてSiターゲット及びTiターゲットを用いて処理基板S表面に成膜する場合においても、酸化物モードへ突入してしまった後に遷移モードで成膜した時に膜厚が薄くなってしまうという不具合が成膜前に判別され、安定した膜厚の高速成膜が可能になる。
【0052】
以上、本発明に係る実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で種々の変更を行うことが可能である。
【0053】
例えば、スパッタリング装置1としてはインターバック式に限られず、カルーセル式、インライン式、リターンバック式、平行平板式、対向式等、他の方式のスパッタリング装置にも適用できる。