(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カソードと前記アノード間に前記加速電圧が印加された状態で、前記ウェネルトと前記アノード間に前記カソードを加熱しても電子が放出しない第2のバイアス電圧を印加する工程と、
前記カソードと前記アノード間に前記加速電圧が印加され、前記ウェネルトと前記アノード間に前記第2のバイアス電圧が印加された状態で、前記加速電圧電源回路と前記カソードとの間に流れる第3の電流値と、前記加速電圧電源回路と前記ウェネルトとの間に流れる第4の電流値と、のうちの少なくとも1つを測定する工程と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項3記載の電子銃電源回路のリーク電流測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、電子銃装置内の構成部品毎のリーク電流を測定することが可能な装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の電子銃装置は、
カソードと、
接地されたアノードと、
カソードとアノードとの間に配置されたウェネルトと、
カソードとアノード間に加速電圧を印加する加速電圧電源回路と、
加速電圧電源回路の陰極とウェネルトとの間に電気的に接続されるように配置され、ウェネルトにバイアス電圧を印加するバイアス電圧電源回路と、
カソードにフィラメント電力を供給するフィラメント電力供給部と、
加速電圧電源回路とカソードとの間に電気的に直列に接続されるように配置された第1の電流検出部と、
加速電圧電源回路に対して第1の電流検出部と電気的に並列に接続されると共に、加速電圧電源回路とウェネルトと
バイアス電圧電源回路との間に電気的に直列に接続されるように配置された第2の電流検出部と、
加速電圧電源回路に対して第1の電流検出部と第2の電流検出部とにそれぞれ電気的に直列に接続されるように配置された第3の電流検出部と、
を備え
、
前記第1と第2と第3の電流検出部は、前記カソードと前記アノード間に前記加速電圧が印加され、前記ウェネルトと前記アノード間に前記加速電圧と同電位のバイアス電圧が印加され、及び前記カソードにフィラメント電力を供給しない状態で、それぞれ電流値を測定することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様の描画装置は、
上述した電子銃装置と、
電子銃装置から放出される電子ビームを用いて、試料にパターンを描画する描画部と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様の電子銃電源回路のリーク電流測定方法は、
カソードと接地されたアノード間に加速電圧を印加する工程と、
カソードとアノードとの間に配置されたウェネルトと、アノードとの間に、加速電圧と同電位の第1のバイアス電圧を印加する工程と、
カソードとアノード間に加速電圧が印加され、ウェネルトとアノード間に第1のバイアス電圧が印加され、及びカソードにフィラメント電力を供給しない状態で、加速電圧を印加する加速電圧電源回路とカソードとの間に流れる第1の電流値を測定する工程と、
カソードとアノード間に加速電圧が印加され、ウェネルトとアノード間に第1のバイアス電圧が印加され、及びカソードにフィラメント電力を供給しない状態で、加速電圧電源回路とウェネルトとの間に流れる第2の電流値を測定する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、カソードとアノード間に加速電圧が印加された状態で、ウェネルトとアノード間にカソードを加熱しても電子が放出しない第2のバイアス電圧を印加する工程と、
カソードとアノード間に加速電圧が印加され、ウェネルトとアノード間に第2のバイアス電圧が印加された状態で、加速電圧電源回路とカソードとの間に流れる第3の電流値と、加速電圧電源回路とウェネルトとの間に流れる第4の電流値と、のうちの少なくとも1つを測定する工程と、
をさらに備えると好適である。
【0012】
本発明の一態様の電子銃電源回路のリーク電流判定方法は、
カソードと接地されたアノード間に加速電圧を印加する工程と、
カソードとアノードとの間に配置されたウェネルトとアノード間に加速電圧と同電位の第1のバイアス電圧を印加する工程と、
カソードとアノード間に加速電圧が印加され、ウェネルトとアノード間に第1のバイアス電圧が印加され、及びカソードにフィラメント電力を供給しない状態で、加速電圧を印加する加速電圧電源回路とカソードとの間に流れる第1の電流値を測定する工程と、
カソードとアノード間に加速電圧が印加され、ウェネルトとアノード間に第1のバイアス電圧が印加され、及びカソードにフィラメント電力を供給しない状態で、加速電圧電源回路とウェネルトとの間に流れる第2の電流値を測定する工程と、
第1の電流値をカソードとグランド間の第1のリーク電流と判定する工程と、
第2の電流値をウェネルトとグランド間の第2のリーク電流と判定する工程と
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、少なくともカソードとグランド間およびウェネルトとグランド間のリーク電流をそれぞれ把握できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態では、電子ビーム装置の一例として、可変成形型(VSB方式)の描画装置について説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、電子銃装置112と描画部150と制御回路160(制御部)を備えている。描画装置100は、電子ビーム描画装置の一例である。特に、可変成形型の描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、照明レンズ202、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208及び副偏向器209が配置されている。電子鏡筒102内には、その他、上述した電子銃装置112のうちのハード構造部分である電子銃201が配置される。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスクが含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。
【0017】
電子銃装置112は、電子銃201と電子銃電源装置110とを有している。電子銃201内には、カソード10(カソード電極)と、ウェネルト12(ウェネルト電極)と、アノード14(アノード電極)と、が配置される。カソード10として、例えば、六ホウ化ランタン(LaB
6)結晶等を用いると好適である。ウェネルト12は、カソード10とアノード14との間に配置される。また、アノード14は、接地され、電位がグランド電位に設定されている。電子銃201には、電子銃電源装置110が接続される。
【0018】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0019】
図2は、実施の形態1における電子銃装置の内部構成とリーク電流の一例とを示す図である。
図2において、電子銃電源装置110内では、加速電圧電源回路62とバイアス電圧電源回路64とフィラメント電力供給回路66(フィラメント電力供給部)とが配置される。加速電圧電源回路62の陰極(−)側が電子鏡筒102内のカソード10に接続される。加速電圧電源回路62の陽極(+)側は、電子鏡筒102内のアノード14に接続されると共に接地(グランド接続)されている。また、加速電圧電源回路62の陰極(−)は、バイアス電圧電源回路64の陽極(+)にも分岐して接続され、バイアス電圧電源回路64の陰極(−)は、カソード10とアノード14との間に配置されたウェネルト12に電気的に接続される。言い換えれば、バイアス電圧電源回路64は、加速電圧電源回路62の陰極(−)とウェネルト12との間に電気的に接続されるように配置される。また、カソード10の電子放出面とは反対側の部分は図示しないヒータ部材に覆われている。そして、フィラメント電力供給回路66は、かかるカソード10のヒータ部材に接続される。加速電圧電源回路62は、カソード10とアノード14間に加速電圧を印加することになる。バイアス電圧電源回路64は、ウェネルト12にバイアス電圧を印加することになる。そして、フィラメント電力供給回路66は、ヒータ部材を介してカソード10にフィラメント電力を供給することになる。
【0020】
ここで、実施の形態1では、さらに、加速電圧電源回路62とカソード10との間に電気的に直列に接続されるように電流計70(第1の電流検出部)が配置される。電流計70は、加速電圧電源回路62の陰極(−)側であって、バイアス電圧電源回路64の陽極(+)側に分岐した後のカソード10側の回路上に電気的に直列に接続される。
【0021】
そして、加速電圧電源回路62に対して電流計70と電気的に並列に接続されると共に、加速電圧電源回路62とウェネルト12との間に電気的に直列に接続されるように電流計72(第2の電流検出部)が配置される。
図2の例では、電流計72は、バイアス電圧電源回路64の陰極(−)とウェネルト12との間に電気的に直列に接続される。
【0022】
そして、加速電圧電源回路62に対して電流計70と電流計72とにそれぞれ電気的に直列に接続されるように電流計74(第3の電流検出部)が配置される。
図2の例では、電流計74は、加速電圧電源62の陽極(+)とアノード54(グランド)との間に直列に接続される。
【0023】
加速電圧電源回路62からカソード10に負の加速電圧が印加され、バイアス電圧電源回路64からウェネルト12に負のバイアス電圧が印加された状態で、フィラメント電力供給回路66から供給された電力によってカソード10を加熱すると、カソード10から電子(電子群)が放出され、放出電子(電子群)は加速電圧によって加速されて電子ビームとなってアノード14に向かって進む。そして、アノード14に設けられた開口部を電子ビームが通過して、電子ビーム200が電子銃201から放出されることになる。これにより、エミッション電流Ieがカソード10とアノード14間に流れる。電子銃電源装置110内では、描画中、エミッション電流Ieを一定に維持すべく、バイアス電圧電源回路64がバイアス電圧を制御する。
【0024】
ここで、電子銃201内のリーク電流としては、
図2に示すように、カソード10とグランド間のリーク電流Icg、カソード10とウェネルト12間のリーク電流Icw、及び、ウェネルト12とグランド間のリーク電流Iwgが想定できる。従来の電子銃装置では、これら複数種のリーク電流を個別に把握することは困難であった。そのため、どの箇所の絶縁性が弱いのか判定することが困難である。そこで、実施の形態1では、3つの電流計70,72,74を上述した位置に配置して、以下に示すように、測定することで複数種のリーク電流を個別に把握する。
【0025】
図3は、実施の形態1における電子銃電源回路のリーク電流判定方法(手法1)の要部工程を示すフローチャート図である。
図3において、実施の形態1における電子銃電源回路のリーク電流判定方法(手法1)は、加速電圧印加工程(S102)と、バイアス電圧印加(短絡接続)工程(S104)と、電流測定工程(S106)と、判定工程(S114)と、いう一連の工程を実施する。また、かかる工程のうち、加速電圧印加工程(S102)と、バイアス電圧印加(短絡接続)工程(S104)と、電流測定工程(S106)とによって、電子銃電源回路のリーク電流測定方法(手法1)を構成する。
【0026】
また、電流測定工程(S106)は、内部工程として、電流Id測定工程(S108)と、電流Iw測定工程(S110)と、電流Ir測定工程(S112)とを実施する。なお、手法1では、電流Ir測定工程(S112)を省略してもよい。また、判定工程(S114)の内部工程として、リーク電流Icg判定工程(S116)と、リーク電流Iwg判定工程(S118)とを実施する。かかるリーク電流判定方法(手法1)は、描画装置100で試料101にパターンを描画する前(例えば、装置立ち上げ時)に、実施すると好適である。
【0027】
加速電圧印加工程(S102)として、手法1では、まず、加速電圧電源回路62からカソード10と接地されたアノード14間に加速電圧V
ACCを印加する。言い換えれば、加速電圧電源回路62からカソード10に負の加速電圧V
ACCを印加する。
【0028】
バイアス電圧印加(短絡接続)工程(S104)として、ウェネルト12とアノード14との間に、加速電圧V
ACCと同電位のバイアス電圧(第1のバイアス電圧)を印加する。言い換えれば、バイアス電圧電源回路64からウェネルト12に加速電圧V
ACCと同電位の負のバイアス電圧V
Bが印加される。バイアス電圧電源回路64は、陽極(+)と陰極(−)を短絡(ショート)させることで、ウェネルト12に加速電圧V
ACCと同電位の負のバイアス電圧V
Bが印加される。
【0029】
なお、手法1では、フィラメント電力供給回路66からカソード10にフィラメント電力を供給しない。すなわち、ヒータ部材にフィラメント電力が供給されないのでカソード10を加熱しない。
【0030】
電流測定工程(S106)として、かかる状態で、3つの各電流計の電流値を測定する。具体的には以下の通りである。
【0031】
電流Id測定工程(S108)として、カソード10とアノード14間に加速電圧V
ACCが印加され、ウェネルト12とアノード14間に加速電圧と同電位のバイアス電圧V
Bが印加され、及びカソード10にフィラメント電力を供給しない状態で、加速電圧電源回路62とカソード10との間に流れる電流Id(第1の電流値)を電流計70によって測定する。
【0032】
電流Iw測定工程(S110)として、カソード10とアノード14間に加速電圧V
ACCが印加され、ウェネルト12とアノード14間に加速電圧と同電位のバイアス電圧V
Bが印加され、及びカソード10にフィラメント電力を供給しない状態で、加速電圧電源回路62とウェネルトとの間に流れる電流Iw(第2の電流値)を電流計72によって測定する。
【0033】
電流Ir測定工程(S112)として、カソード10とアノード14間に加速電圧V
ACCが印加され、ウェネルト12とアノード14間に加速電圧と同電位のバイアス電圧V
Bが印加され、及びカソード10にフィラメント電力を供給しない状態で、加速電圧電源回路62とグランドとの間に流れる電流Irを電流計74によって測定する。
【0034】
カソード10とアノード14間に加速電圧が印加され、ウェネルト12とアノード14間に加速電圧と同電位のバイアス電圧が印加され、及びカソード10にフィラメント電力を供給しない状態では、電子ビームは放出されない。よって、エミッション電流は流れない。そのため、各電流計には、リーク電流が検出される。電流計70には、
図2に示すように、グランドとカソード10間の漏れ50として、グランドからカソード10に向かって流れるリーク電流Icgが測定される。同様に、電流計72には、
図2に示すように、グランドとウェネルト12間の漏れ54として、グランドからウェネルト12に向かって流れるリーク電流Iwgが測定される。そして、電流計74には、
図2に示すように、グランドからカソード10に向かって流れるリーク電流Icgとグランドからウェネルト12に向かって流れるリーク電流Iwgとの合計が測定される。
【0035】
よって、判定工程(S114)として、かかる状態で、3つの電流計70,72,74で測定された電流値を用いて、以下のようにリーク電流を判定する。なお、手法1では、電流計74の測定は省略しても構わないので、少なくとも2つの電流計70,72で測定された電流値を用いて、以下のように判定できる。
【0036】
リーク電流Icg判定工程(S116)として、電流Idをカソード10とグランド間のリーク電流Icgと判定する。
【0037】
リーク電流Iwg判定工程(S118)として、電流Iwをウェネルト12とグランド間のリーク電流Iwgと判定する。
【0038】
以上のように、手法1によれば、カソード10とグランド間のリーク電流Icgと、ウェネルト12とグランド間のリーク電流Iwgとを測定および判定できる。しかし、手法1では、カソード10とウェネルト12間に電位差が生じないのでリーク電流が流れない。そのため、カソード10とウェネルト12間のリーク電流Icwを測定することが困難である。そこで、手法2として、以下のようにリーク電流Icwを測定する。
【0039】
図4は、実施の形態1における電子銃電源回路のリーク電流判定方法(手法2)の要部工程を示すフローチャート図である。
図4において、実施の形態1における電子銃電源回路のリーク電流判定方法(手法2)は、加速電圧印加工程(S102)と、バイアス電圧(エミッションカット電圧)印加工程(S105)と、電流測定工程(S106)と、判定工程(S114)と、いう一連の工程を実施する。また、かかる工程のうち、加速電圧印加工程(S102)と、バイアス電圧(エミッションカット電圧)印加工程(S105)と、電流測定工程(S106)とによって、電子銃電源回路のリーク電流測定方法(手法2)を構成する。
【0040】
また、電流測定工程(S106)は、内部工程として、電流Id測定工程(S109)と、電流Iw測定工程(S111)と、電流Ir測定工程(S113)とを実施する。なお、手法2では、電流Iw測定工程(S111)と電流Ir測定工程(S113)とを省略してもよい。或いは、電流Id測定工程(S109)と電流Ir測定工程(S113)とを省略してもよい。
【0041】
また、判定工程(S114)の内部工程として、リーク電流Icw判定工程(S120)を実施する。かかるリーク電流判定方法(手法2)は、手法1に続き、描画装置100で試料101にパターンを描画する前(例えば、装置立ち上げ時)に、実施すると好適である。
【0042】
加速電圧印加工程(S102)として、手法2では、まず、加速電圧電源回路62からカソード10と接地されたアノード14間に加速電圧を印加する。言い換えれば、加速電圧電源回路62からカソード10に負の加速電圧を印加する。
【0043】
バイアス電圧(エミッションカット電圧)印加工程(S105)として、ウェネルト12とアノード14との間にカソード10を加熱しても電子が放出しないバイアス電圧(第2のバイアス電圧)を印加する。
【0044】
図5は、実施の形態1におけるエミッション電流とバイアス電圧との関係を示すグラフ図である。所定の加速電圧V
ACCが印加された状態で、カソード10が例えば動作温度になるように加熱するためのフィラメント電力を供給する場合、バイアス電圧V
Bを大きくしていくに従い、エミッション電流Ieは小さくなる。そして、バイアス電圧V
Bがある値を超えると、それ以上のバイアス電圧では、カソード10をいくら加熱しても電子が放出しない。すなわち、エミッション電流Ieが流れなくなる。実施の形態1では、かかるカソード10をいくら加熱しても電子が放出しないバイアス電圧V
Bをエミッションカット電圧(以下、同様)と定義する。ここでは、例えば、エミッション電流Ieが流れなくなる分岐点の電圧よりも若干大きなバイアス電圧V
B’をウェネルト12に印加する。これにより、エミッション電流Ieの流れ(電子の放出)を完全に停止させることができる。
【0045】
なお、手法2では、フィラメント電力供給回路66からカソード10にフィラメント電力を供給しない。すなわち、ヒータ部材にフィラメント電力が供給されないのでカソード10を加熱しない。但し、これに限るものではない。ウェネルト12にエミッションカット電圧を印加しているため、仮にカソード10を加熱してもエミッション電流Ieは流れない。よって、リーク電流を測定する上では必要性はないが、フィラメント電力供給回路66からカソード10にフィラメント電力を供給しても構わない。
【0046】
電流測定工程(S106)として、かかる状態で、3つの各電流計の電流値を測定する。具体的には以下の通りである。
【0047】
電流Id測定工程(S109)として、カソード10とアノード14間に加速電圧が印加され、ウェネルト12とアノード14間にエミッションカット電圧のバイアス電圧(第2のバイアス電圧)が印加され、及びカソード10にフィラメント電力を供給しない状態で、加速電圧電源回路62とカソード10との間に流れる電流Id(第3の電流値)を電流計70によって測定する。なお、カソード10にフィラメント電力を供給して測定しても良いことは上述した通りである。
【0048】
電流Iw測定工程(S111)として、カソード10とアノード14間に加速電圧が印加され、ウェネルト12とアノード14間にエミッションカット電圧のバイアス電圧が印加され、及びカソード10にフィラメント電力を供給しない状態で、加速電圧電源回路62とウェネルトとの間に流れる電流Iw(第4の電流値)を電流計72によって測定する。なお、カソード10にフィラメント電力を供給して測定しても良いことは上述した通りである。
【0049】
電流Ir測定工程(S112)として、カソード10とアノード14間に加速電圧が印加され、ウェネルト12とアノード14間にエミッションカット電圧のバイアス電圧が印加され、及びカソード10にフィラメント電力を供給しない状態で、加速電圧電源回路62とグランドとの間に流れる電流Irを電流計74によって測定する。なお、カソード10にフィラメント電力を供給して測定しても良いことは上述した通りである。
【0050】
カソード10とアノード14間に加速電圧が印加され、ウェネルト12とアノード14間にエミッションカット電圧のバイアス電圧が印加された状態では、電子ビームは放出されない。よって、エミッション電流は流れない。しかし、手法2では、カソード10とウェネルト12との間に電位差が生じているので、カソード10とウェネルト12との間にカソード10からウェネルト12に向かってリーク電流Icwが流れている可能性がある。そのため、電流計70には、
図2に示すように、グランドとカソード10間の漏れ50としてのグランドからカソード10に向かって流れるリーク電流Icgと、カソード10とウェネルト12間の漏れ52としてのカソード10からウェネルト12に向かって流れるリーク電流Icwとの差分が測定される。電流が流れるループの向きが逆になるので差分となる。また、電流計72には、
図2に示すように、カソード10とウェネルト12間の漏れ52としてのカソード10からウェネルト12に向かって流れるリーク電流Icwと、グランドとウェネルト12間の漏れ54としてのグランドからウェネルト12に向かって流れるリーク電流Iwgとの和が測定される。電流が流れるループの向きが同じになるので和となる。そして、電流計74には、
図2に示すように、グランドからカソード10に向かって流れるリーク電流Icgとグランドからウェネルト12に向かって流れるリーク電流Iwgとの合計が測定される。
【0051】
よって、判定工程(S114)として、かかる状態で、3つの電流計70,72,74で測定された電流値を用いて、以下のようにリーク電流を判定する。なお、手法2では、電流計74の測定は省略しても構わず、かつ、電流計70の測定と電流計72の測定の少なくとも一方を行えばよい。よって、2つの電流計70,72で測定された電流値の一方を用いて、以下のように判定できる。
【0052】
リーク電流Icw判定工程(S120)として、以下のように、リーク電流Icwを判定する。電流Idを測定した場合には、電流Idは、リーク電流Icgとリーク電流Icwとの差分になるので、手法1で求めたリーク電流Icgから電流Idを引くことで、リーク電流Icwを演算できる。よって、手法1で求めたリーク電流Icgと電流Idとの差分をリーク電流Icwと判定する。
【0053】
或いは、電流Iwを測定した場合には、電流Iwは、リーク電流Iwgとリーク電流Icwとの和になるので、電流Iwから手法1で求めたリーク電流Iwgを引くことで、リーク電流Icwを演算できる。よって、電流Iwと手法1で求めたリーク電流Iwgとの差分をリーク電流Icwと判定する。
【0054】
図6は、実施の形態1における検出電流とリーク電流との関係を示した図である。
図6に示すように、手法1では、電流計70で計測される電流Idは、グランドからカソード10に向かって流れるリーク電流Icgとして検出できる。同様に、電流計72で計測される電流Iwは、グランドからウェネルト12に向かって流れるリーク電流Iwgとして検出できる。そして、電流計74で計測される電流Irは、グランドからカソード10に向かって流れるリーク電流Icgとグランドからウェネルト12に向かって流れるリーク電流Iwgとの合計として検出できる。
【0055】
また、
図6に示すように、手法2では、電流計70で計測される電流Idは、グランドからカソード10に向かって流れるリーク電流Icgと、カソード10からウェネルト12に向かって流れるリーク電流Icwとの差分として検出できる。また、電流計72で計測される電流Iwは、カソード10からウェネルト12に向かって流れるリーク電流Icwと、グランドからウェネルト12に向かって流れるリーク電流Iwgとの和として検出できる。そして、電流計74で計測される電流Irは、グランドからカソード10に向かって流れるリーク電流Icgとグランドからウェネルト12に向かって流れるリーク電流Iwgとの合計として検出できる。
【0056】
以上のようにして、実施の形態1によれば、複数種のリーク電流を個別に把握することができる。そのため、どの箇所の絶縁性が弱いのか判定することができる。そして、描画装置100によって描画前に測定した各リーク電流がそれぞれの閾値よりも大きいかどうかを判定し、大きければその箇所の部品交換或いは絶縁性を上げるための改良を行えばよい。その結果、例えば、装置立ち上げ時の初期トラブルを防止できる。
【0057】
以上のようにして、各リーク電流がそれぞれ閾値以下であることを確認或いは閾値以下であるようにメンテナンスした後、描画装置100において描画動作を実施することになる。
【0058】
描画工程として、描画部150は、電子銃装置112から放出される電子ビーム200を用いて、試料101にパターンを描画する。具体的には、以下のように動作する。まず、制御回路160によって、図示しない描画データを入力して、かかる描画データに対して、複数段のデータ変換処理を行って装置固有のショットデータを生成する。ここで、描画データには、通常、複数の図形パターンが定義される。描画装置100で図形パターンを描画するためには、1回のビームのショットで照射できるサイズに各図形パターンを分割する必要がある。そこで、制御回路160内では、実際に描画するために、各図形パターンを1回のビームのショットで照射できるサイズに分割してショット図形を生成する。そして、ショット図形毎にショットデータを生成する。ショットデータには、例えば、図形種、図形サイズ、及び照射位置といった図形データが定義される。その他、照射量(照射時間)データ等が定義される。生成されたショットデータは、図示しない記憶装置に記憶される。制御回路160に制御された描画部150は、かかるショットデータに従って、以下のように動作する。
【0059】
電子銃装置112内では、ウェネルト12に一定の負のウェネルト電圧(バイアス電圧)が印加され、カソード10に一定の負の加速電圧が印加された状態で、カソード10を加熱すると、カソード10から電子(電子群)が放出され、放出電子(電子群)は加速電圧によって加速されて電子ビームとなってアノード14に向かって進む。これによって電子ビーム200が電子銃201から放出される。ウェネルト12に印加されるバイアス電圧は、エミッション電流が流れる定電流制御電圧が印加される。定電流制御電圧は、例えば、所望するエミッション電流によって最適値が設定される。かかる最適値は、上述したエミッションカット電圧よりも小さい値であることは言うまでもない。また、カソード10が所望するエミッション電流に最適な動作温度になるようにフィラメント電力がカソード10(或いは図示しないヒータ)に供給される。
【0060】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形の穴を持つ第1のアパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形に成形する。そして、第1のアパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2のアパーチャ206上に投影される。偏向器205によって、かかる第2のアパーチャ206上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させる(可変成形させる)ことができる。そして、第2のアパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器208及び副偏向器209によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料101の所望する位置に照射される。
図1では、位置偏向に、主副2段の多段偏向を用いた場合を示している。かかる場合には、試料101の描画領域が短冊上に分割されたストライプ領域をさらに仮想分割したサブフィールド(SF)の基準位置に主偏向器208によってステージ移動に追従しながら該当ショットの電子ビーム200を偏向し、副偏向器209でSF内の各照射位置にかかる該当ショットのビームを偏向すればよい。
【0061】
また、かかる描画中においても、手法3として、各電流計70,72,74の値を検出すると好適である。手法3において、
図6に示すように、電流計70で計測される電流Idは、エミッション電流Ieとリーク電流Icgとの和からリーク電流Icwを引いた値として検出できる。また、電流計72で計測される電流Iwは、リーク電流Icwとリーク電流Iwgとの和として検出できる。そして、電流計74で計測される電流Irは、エミッション電流Ieとリーク電流Icgとリーク電流Iwgとの和として検出できる。よって、電流Idからリーク電流Icgとリーク電流Icwとの差分を引いた値が、実際のエミッション電流Ieとして検出できる。或いは、電流Irからリーク電流Icgとリーク電流Iwgとの和を引いた値が、実際のエミッション電流Ieとして検出できる。試料101への描画開始前に、予め、各リーク電流の値が個別に分っているので、高精度なエミッション電流Ieを把握できる。よって、描画中、リアルタイムに高精度なエミッション電流の制御が可能となる。
【0062】
図7は、実施の形態1における電子銃装置の内部構成とリーク電流の他の一例とを示す図である。
図7において、電流計72,74の配置位置が異なる点以外は、
図2と同様である。
図2の例では、電流計72は、バイアス電圧電源回路64の陰極(−)とウェネルト12との間に電気的に直列に接続される。但し、これに限るものではなく、
図7に示すように、電流計72は、加速電圧電源回路62の陰極(−)側であって、バイアス電圧電源回路64の陽極(+)側に分岐した後のバイアス電圧電源回路64の陽極(+)までの回路上に電気的に直列に接続されてもよい。
【0063】
また、
図2の例では、電流計74は、加速電圧電源62の陽極(+)とアノード54(グランド)との間に直列に接続される。但し、これに限るものではなく、電流計74は、
図7に示すように、加速電圧電源回路62の陰極(−)側であっても、バイアス電圧電源回路64の陽極(+)側に分岐する前の回路上に電気的に直列に接続されるのであれば構わない。
【0064】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。選別されたカソードを搭載する電子銃装置は、描画装置に限るものではなく、電子顕微鏡等のその他の電子ビーム装置にも適用できる。また、カソード材料として、LaB
6結晶を例に説明したが、タングステン(W)、六ホウ化セリウム(CeB
6)等、その他の熱電子放出材料にも適用できる。また、カソードの電子放出面を限定するためにカーボン膜を使用したが、カーボンに限定されるものではない。その他、レニウム(Re)等、電子放出材料よりも高い仕事関数を持つ材料であればよい。
【0065】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0066】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのカソード選別方法、カソード選別用の測定装置、電子ビーム描画装置、及び方法は、本発明の範囲に包含される。