(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118566
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】波力発電装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
F03B 13/18 20060101AFI20170410BHJP
H02P 9/00 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
F03B13/18
H02P9/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-5953(P2013-5953)
(22)【出願日】2013年1月17日
(65)【公開番号】特開2014-137013(P2014-137013A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 訓雄
(72)【発明者】
【氏名】中川 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宮島 省吾
(72)【発明者】
【氏名】川口 隆
【審査官】
北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−518024(JP,A)
【文献】
特開2000−154774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 13/18
H02P 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体と、前記胴体に沿って上下運動するフロートと、前記フロートの上下運動を回転運動に変換する伝達機構と、前記伝達機構に連結された発電機と、を有する波力発電装置において、
前記波力発電装置が、前記発電機のトルクを制御する制御装置を有しており、
前記制御装置が、前記発電機の回転数又は回転速度のデータから前記フロートの変位z及び速度z’を推定し、前記変位z及び前記速度z’から波の周期を推定し、予め記憶しているデータテーブルから、前記波の周期に対応する変位係数Aを決定する構成と、
前記変位係数Aと前記変位zの積を算出したものを前記発電機にトルク指令Tq1として送信し、前記発電機のトルクを制御する構成と、を有していることを特徴とする波力発電装置。
【請求項2】
前記制御装置が、前記データテーブルから、前記波の周期に対応する前記変位係数Aに加えて、速度係数Bを決定する構成と、
前記変位係数Aと前記変位zの積に、前記速度係数Bと前記速度z’の積を加えたものを前記発電機にトルク指令Tq2として送信し、前記発電機のトルクを制御する構成と、を有していることを特徴とする請求項1に記載の波力発電装置。
【請求項3】
前記制御装置が、
異なる波高ごとに作成された複数の前記データテーブルからなるデータテーブル群を備えていて、
前記変位z及び前記速度z’から前記波の周期および前記波高を推定し、前記データテーブル群から推定された前記波高に対応する前記データテーブルを選択し、このデータテーブルから前記波の周期に対応する前記変位係数Aを決定する構成を備える請求項1または2に記載の波力発電装置。
【請求項4】
胴体と、前記胴体に沿って上下運動するフロートと、前記フロートの上下運動を回転運動に変換する伝達機構と、前記伝達機構に連結された発電機と、前記発電機のトルクを制御する制御装置と、を有する波力発電装置の制御方法であって、
前記制御装置が、前記発電機の回転数又は回転速度を取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップで取得したデータから、前記フロートの変位z及び速度z’を
推定するフロート状態推定ステップと、
前記変位z及び前記速度z’から波の周期を推定する波状態推定ステップと、
予め記憶しているデータテーブルから前記波の周期に対応する変位係数Aを決定する係数決定ステップと、
前記変位係数Aと前記変位zの積を算出したものを前記発電機にトルク指令Tq1として送信し、前記発電機のトルクを制御するトルク制御ステップと、を有していることを特徴とする波力発電装置の制御方法。
【請求項5】
前記制御装置が、
予め記憶しているデータテーブルから前記波の周期に対応する前記変位係数Aに加えて、速度係数Bを決定する係数決定ステップと、
前記変位係数Aと前記変位zの積に、前記速度係数Bと前記速度z’の積を加えたものを前記発電機にトルク指令Tq2として送信し、前記発電機のトルクを制御するトルク制御ステップと、を有していることを特徴とする請求項4に記載の波力発電装置の制御方法。
【請求項6】
前記制御装置が、
波の周期に加え、波高を推定する前記波状態推定ステップと、
予め記憶しているデータテーブルから前記波の周期及び前記波高に対応する少なくとも前記変位係数Aを決定する前記係数決定ステップと、を有することを特徴とする請求項4または5に記載の波力発電装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上に浮かべたフロートの運動により、波からエネルギを取り出し発電を行う波力発電装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、波力発電装置として、海上又は海水中にフロートを浮かべたものがある(例えば特許文献1参照)。この波力発電装置は、フロートが波から受けた外力を、電気に変換して発電を行う発電機を有している。
図4に、波力発電装置の1例を示す。この波力発電装置1Xは、胴体3と、胴体3に沿って上下運動するフロート4と、フロート4の上下運動を回転運動に変換する伝達機構8と、伝達機構8に連結された発電機5を有している。この伝達機構8は、例えば、ボールねじ6とボールナット7の組み合わせで構成されている。なお、胴体3は、係留ワイヤ11で海底に固定される浮体式、又は海底から直立する着床式により設置される。
【0003】
次に、波力発電装置1Xの作動について説明する。まず、波力発電装置1Xのフロート4が、波から外力を受け、上下運動する。フロート4の上下運動に伴い、フロート4に固定されたボールナット7が上下に移動する。このボールナット7の上下運動により、ボールねじ6が回転し、連結された発電機5に回転運動を伝達する。ここで、
図4左方は、ボールナット7の上昇によりボールねじ6が矢印の方向に回転している様子を示し、
図4右方は、ボールナット7の下降によりボールねじ6が前述と反対方向に回転する様子を示している。
【0004】
この構成により、波力発電装置1Xは、波の運動エネルギで発電機5を回転させ、発電を行うことができる。ここで、フロート4の上下運動を、波の周期に共振(同調ともいう)させ、適切な発電負荷を与えると、発電効率を向上できることが知られている。そのため、フロート4は、その固有周期が、波力発電装置1Xを設置する海域の波の周期で共振(同調)するように設計される。ここで、フロート4の上下運動を波の周期で共振(同調)させるためには、波の周期におけるフロート4の慣性力と復元力を等しくすればよい。
【0005】
以下に、フロート4の固有周期Tが決定される過程について説明する。まず、一般的に、バネ定数k
0(N/m)のばねの片端を固定し、片端に質量M
0(kg)をつけた単振動系の固有周期T
0(sec)は、以下の式で表すことができる。
【数1】
【0006】
次に、フロート4が水面に浮いている場合、フロートにかかる復元力(浮力から重量を引いたもの)は、バネ力として働く。今、フロート4を円柱形状と仮定すると、このバネ定数kは、円柱断面積Sを用いて以下の式で表すことができる。
【数2】
【0007】
ここで、ρは水の密度(1000kg/m
3)、gは重力加速度(9.8m/sec
2)を示す。また、フロート4の質量M(kg)は、喫水(水没深さ)をd
f(m)とすると以下の式で表すことができる。
【数3】
【0008】
以上より、フロート4の固有周期T(sec)は、以下の式で表すことができる。なお、フロート4は、水上にあることから、質量比αの付加質量を考慮している。この付加質量とは、フロート4が上下運動を行う際に、周辺の水が共に動くことにより、見かけ上増加した質量をいう。
【数4】
【0009】
上記の式より、円柱のように断面積が一定のフロート4の固有周期Tは、フロート4の直径とは無関係であり、その喫水d
fにのみ依存することがわかる。つまり、波力発電装置1Xを設計する時点で、フロート4の固有周期Tは、設置海域の発電設計波(発電効率を最大としたい波)の周期に固定される。他方で、波の周期Tsは、例えば4〜10秒で常時変化する。
【0010】
次に、波力発電装置1Xが、波のエネルギを吸収し、発電を行う原理について説明する。まず、発電機5のみを積んだ波力発電装置1Xのフロート4の上下運動は、以下の式で表すことができる。
【数5】
【0011】
ここで、Mはフロートの質量、mは付加質量、Nはフロートの造波減衰、dは発電機の負荷減衰、Cはフロートの復元力係数、F
zは波による強制力を示す。z、z’及びz’’は、それぞれフロートの上下変位、速度、及び加速度を示す。波が、規則波の場合、上記数5の式は、以下の式で表わすことができる。
【数6】
【0012】
ここで、ωは、規則波の円周波数を示す。また、フロートで吸収される波のエネルギは、(dz’)×z’の時間平均で計算される。従って、上記数6の式の左方第1項のかっこ内の値が0となるように調整すれば、フロートの上下運動を波の周期に共振させることができ、発電機の負荷減衰dを適切な数値に調整すれば、発電効率を向上することができる
。
【0013】
しかし、上記の波力発電装置1Xは、いくつかの問題を有している。第1に、波力発電装置1Xの発電効率の向上は困難であるという問題を有している。これは、フロート4の固有周期Tが、設計及び製造された時点で決定されるのに対して、波の周期Tsは季節や時間帯により変化するからである。
【0014】
この問題に対して、フロート4の質量や復元力を調整する調整機構により、フロート4の固有周期Tを調整することも考えられる。具体的には、フロート4にバラスト水を入れて質量を変化させたり、フロート4の水中部分に薄板等を設置し、付加質量を変化させたりする調整機構が考えられる。また、フロート4の水線面積を変化させたり、フロート4と胴体3の間にバネ等を設置したりする調整機構が考えられる。
【0015】
しかし、上記の調整機構を採用した場合は、第2の問題点として、波力発電装置の製造コストが増加してしまうという問題が生じてしまう。これは、調整機構を新たに付加することにより、そのコストが増加するからである。また、調整機構を構成する機器等の設置に伴い、フロートの重量が増加し、その強度計算等が必要となり、設計が複雑になるからである。
【0016】
第3に、調整機構の採用により、故障やメンテナンス頻度が増加するという問題を有している。これは、調整機構を構成する機器等が故障等を引き起こす可能性が増加するからである。特に、波力発電装置1Xを、過酷な環境である外洋に設置した場合は、メンテナンス頻度が更に増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2007−132336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、フロートへの質量や形状の変化に係る調整機構や波高計等の外部センサの追加を不要として、波力発電装置の製造コストを抑制しながら、あらゆる波の周期に対してフロートの上下運動を同調させ、発電効率を向上することのできる波力発電装置及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するための本発明に係る波力発電装置は、胴体と、前記胴体に沿って上下運動するフロートと、前記フロートの上下運動を回転運動に変換する伝達機構と、前記伝達機構に連結された発電機と、を有する波力発電装置において、前記波力発電装置が、前記発電機のトルクを制御する制御装置を有しており、前記制御装置が、前記発電機の回転数又は回転速度のデータから前記フロートの変位z及び速度z’を推定し、前記変位z及び前記速度z’から波の周期を推定し、予め記憶しているデータテーブルから、前記波の周期に対応する変位係数Aを決定する構成
と、前記変位係数Aと前記変位zの積を算出したものを前記発電機にトルク指令Tq1として送信し、前記発電機のトルクを制御する構成と、を有していることを特徴とする。
【0020】
この構成により、波力発電装置の発電効率を向上することができる。これは、発電機を
トルク制御する構成により、フロートに付加質量力相当の力を与えることができ、フロートの上下運動を波に同調できるからである。また、波力発電装置の製造コストを抑制することができる。これは、調整機構等を付加することなく、フロートの上下運動を波に同調できるからである。更に、波力発電装置に発生する故障等を抑制することができる。これは、波高計等の外部センサや調整機構等を設置する必要がないからである。
【0022】
上記の波力発電装置において、前記制御装置が、前記データテーブルから、前記波の周期に対応する変位係数Aに加えて、速度係数Bを決定する構成と、前記変位係数Aと前記変位zの積に、前記速度係数Bと前記速度z’の積を加えたものを前記発電機にトルク指令Tq2として送信し、前記発電機のトルクを制御する構成と、を有していることを特徴とする。
【0023】
この構成により、更に波力発電装置の発電効率を向上することができる。これは、フロートの上下運動を波の周期に同調させた状態で、フロートの速度z’に比例する負荷減衰dを適切な数値に調整し、発電効率を向上できるからである。
【0024】
上記の目的を達成するための本発明に係る波力発電装置の制御方法は、胴体と、前記胴体に沿って上下運動するフロートと、前記フロートの上下運動を回転運動に変換する伝達機構と、前記伝達機構に連結された発電機と、前記発電機のトルクを制御する制御装置と、を有する波力発電装置の制御方法であって、前記制御装置が、前記発電機の回転数又は回転速度を取得するデータ取得ステップと、前記データ取得ステップで取得したデータから、前記フロートの変位z及び速度z’を推定するフロート状態推定ステップと、前記変位z及び前記速度z’から波の周期を推定する波状態推定ステップと、予め記憶しているデータテーブルから前記波の周期に対応する変位係数Aを決定する係数決定ステップと、前記変位係数Aと前記変位zの積を算出したものを前記発電機にトルク指令Tq1として送信し、前記発電機のトルクを制御するトルク制御ステップと、を有していることを特徴とする。この構成により、前述と同様の作用効果を得ることができる。
【0026】
上記の波力発電装置の制御方法において、前記制御装置が、予め記憶しているデータテーブルから前記波の周期に対応する前記変位係数Aに加えて、速度係数Bを決定する係数決定ステップと、前記変位係数Aと前記変位zの積に、前記速度係数Bと前記速度z’の積を加えたものを前記発電機にトルク指令Tq2として送信し、前記発電機のトルクを制御するトルク制御ステップと、を有していることを特徴とする。この構成により、前述と同様の作用効果を得ることができる。
【0027】
上記の波力発電装置の制御方法において、前記制御装置が、波の周期に加え、波高を推定する前記波状態推定ステップと、予め記憶しているデータテーブルから前記波の周期及び前記波高に対応する少なくとも変位係数Aを決定する前記係数決定ステップと、を有することを特徴とする。この構成により、更に波力発電装置の発電効率を向上することができる。これは、波の周波数に加え、異なる波高ごとに最適な変位係数A及び速度係数Bを決定することができるからである。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る波力発電装置及びその制御方法によれば、フロートへの質量や形状の変化に係る調整機構や波高計等の外部センサの追加を不要として、波力発電装置の製造コストを抑制しながら、あらゆる波の周期に対してフロートの上下運動を同調させ、発電効率を向上することのできる波力発電装置及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係る実施の形態の波力発電装置の断面概略図である。
【
図2】本発明に係る実施の形態の波力発電装置の制御の概略図である。
【
図3】波力発電装置の制御に使用するデータテーブルの1例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施の形態の波力発電装置について、図面を参照しながら説明する。
図1に本発明の実施の形態の波力発電装置1の断面概略図を示す。波力発電装置1は、胴体3と、胴体3に沿って上下運動するフロート4と、フロート4の上下運動を回転運動に変換する伝達機構8と、伝達機構8に連結された発電機(以下、モータという)5と、を有している。この伝達機構8は、例えば、ボールねじ6とボールナット7の組み合わせで構成されている。なお、胴体3は、係留ワイヤ11で海底に固定される(単索緊張係留方式)、又は海底から直立するように固定される(着床式)。
【0031】
また、波力発電装置1は、モータ5のトルクを制御する制御装置2を有している。更に、波力発電装置1は、波高計等の外部センサを有していない。
【0032】
次に、波力発電装置1の制御について説明する。
図2に、波力発電装置1の制御の概略図を示す。まず、波力発電装置1の制御装置2は、フロート4の上下運動により回転するモータ5から、モータ5の回転数又は回転速度を取得する(データ取得ステップS01)。このデータ取得ステップは、連続且つ継続的に行われることが望ましい。
【0033】
次に、制御装置2は、取得したモータ5の回転数又は回転速度の連続するデータからフロートの上下運動の状態(変位z、及び速度z’)を推定する(フロート状態推定ステップS02)。更に制御装置2は、推定したフロートの変位z及び速度z’から、波の状態(周期Ts)を推定する(波状態推定ステップS03)。その後、制御装置2は、予め記憶しているデータテーブルから、この波の周期Tsに対応する変位係数Aを決定する(係数決定ステップS04)。
【0034】
次に、制御装置2は、以下の式に示すように、フロート4の変位zと変位係数Aの積をトルクTq1として算出し、このトルクTq1をトルク指令としてモータ5に送信し、モータ5のトルクを制御する(トルク制御ステップS05)。
【数7】
【0035】
つまり、制御装置2は、フロート4の変位zに比例するトルクTq1を、トルク指令としてモータ5を制御する構成を有している。以上を繰り返して、波力発電装置1は、モータ5のトルク制御により、フロート4の上下運動と波の同調を実現する。
【0036】
なお、フロートの変位z及び速度z’は、フロートに設置された加速度センサ等を利用して取得してもよい。この加速度センサは、安価であるため波力発電装置の製造コストを増加させない。また、加速度センサは、フロートの内部に容易に設置することができるため、故障等の問題をほとんど引き起こすことがない。
【0037】
次に、波力発電装置1の制御の異なる実施形態について
図2を参照しながら説明する。この実施形態においては、まず、係数決定ステップS04で、制御装置2は、予め記憶しているデータテーブルから、この波の周期Tsに対応する変位係数Aに加えて、速度係数Bを決定する。
【0038】
最後に、トルク制御ステップS05では、制御装置2は、以下の式に示すように、フロート4の変位zと変位係数Aの積に、速度z’と速度係数Bの積を加算したものをトルクTq2として算出し、このトルクTq2をトルク指令としてモータ5に送信し、モータ5のトルクを制御する。
【数8】
【0039】
つまり、制御装置2は、フロート4の変位zに比例するトルクと、フロート4の速度z’に比例するトルクを加算して求めたトルクTq2を、トルク指令としてモータ5を制御する構成を有している。
【0040】
次に、制御装置2に予め記憶されているデータテーブルについて詳しく説明する。
図3に、データテーブルの1例を示す。データテーブルは、波の周期Tsごとに対応する変位係数A及び速度係数Bを格納している。つまり、例えば波の周期Tsが5secの場合の最適な変位係数はA
5であり、速度係数はB
5となる。この変位係数A及び速度係数Bは、フロート4の質量、浮力、形状等と、波の周期Tsに依存する値であり、以下の複数の方法によって決定することができる。
【0041】
第1の方法として、変位係数A及び速度係数Bを実験により予め求めておく方法がある。具体的には、実験水槽等に、予め製作した波力発電装置を配置し、ある周期Tsを有する波を発生させる。この間に、変位係数A及び速度係数Bを変化させながら、波力発電装置による発電量をデータとして取得していく。発電量が最も高かった場合の変位係数A及び速度係数Bを、最適な係数としてデータテーブルに記憶する。波の周期Tsを変えながら、以上を繰り返し、データテーブルを作成することができる。このとき、フロートの質量や復元力等を正確に把握する必要がないため、容易に最適な係数A及びBを決定することができる。この方法は、特に、フロートと共に上下する発電装置内の機構の質量や摩擦力等の推定が複雑となる場合に、有利な効果を奏する。
【0042】
第2の方法として、シミュレーション(計算)により、変位係数A及び速度係数Bを予め求めておく方法がある。具体的には、製造予定のフロートや発電装置の設計データ(質量や復元力)を基に、前述の実験と同様の内容のシミュレーションを行い、発電量が最も高くなる場合の変位係数A及び速度係数Bを、最適な係数としてデータテーブルに記憶する。波の周期Tsを変えながら、以上を繰り返し、データテーブルを作成することができ
る。このとき、実験水槽等が不要であるため、時間的及び金銭的コストを抑制しながら、最適な係数A及びBを決定することができる。この方法は、特に発電装置内の機構の質量や摩擦力等の推定が容易である場合に、有利な効果を奏する。
【0043】
第3の方法として、変位係数A及び速度係数Bを、波力発電装置1が発電を行った際のフィードバックで決定又は調整する方法がある。具体的には、海に設置された波力発電装置1において、発電量をモニターし、この発電量をフィードバックして、発電量が最も高かった場合の変位係数A及び速度係数Bを、最適な係数としてデータテーブルに記憶する。この構成により、波力発電装置1の発電効率を長期間にわたり維持することができる。これは、フロート4の固有周期Tが、経年劣化や付着物等により変化した場合であっても、発電量の減少等から係数A及びBの更新制御を開始し、データテーブルを更新することができるからである。
【0044】
なお、上記の方法を複数組み合わせて採用してもよい。例えば、フロート4を設計する段階では、第2の方法のシミュレーションにより、データテーブルを作成し、海に波力発電装置1を設置して発電を開始した後には、第3の方法のフィードバックにより、係数A及びBを調整するように構成してもよい。
【0045】
ここで、波力発電装置1を複数基設置する場合は、1つの波力発電装置1で上記のデータテーブルの作成を行い、他の波力発電装置の制御装置には、作成したデータテーブルの共有を行うように構成することができる。この構成により、複数の波力発電装置において、容易に高い発電効率を得ることができる。
【0046】
上記の構成により、波力発電装置1は、以下の作用効果を得ることができる。第1に、波力発電装置1の発電効率を向上することができる。これは、制御装置2でモータ5のトルク制御を行う構成により、フロート4の上下運動を絶えず変化する波の周期Tsに同調(共振)できるからである。
【0047】
また、トルクTq2をトルク指令として制御に利用する構成により、更に波力発電装置の発電効率を向上することができる。これは、フロートの上下運動を波の周期に同調させた状態で、フロート速度z’に比例する負荷減衰dを適切な数値に調整し、発電効率を向上できるからである。
【0048】
第2に、波力発電装置1の製造コストを抑制することができる。これは、波力発電装置1にフロートの質量や形状の調整機構等の新たな機器等を付加することなく、フロート4の同調制御を実現することができるからである。また、いかなる海域、いかなる季節であっても、同一設計のフロート4の上下運動を波の周期に同調させ、発電効率を向上できるからである。
【0049】
第3に、波力発電装置1に発生する故障等を抑制することができる。これは、外部センサや、フロートの質量や形状の調整機構等を設置する必要がないからである。
【0050】
なお、制御装置2は、異なる波高Hsごとに作成された複数のデータテーブル(以下、データテーブル群という)を記憶されるように構成してもよい。この場合、制御装置2は、まず、波状態推定ステップで、波の周期Tsに加えて、波高Hsを推定する。次に、制御装置2は、データテーブル群から推定された波高Hsに対応するデータテーブルを選択し、このデータテーブルから周期Tsに対応する変位係数A、又は変位係数A及び速度係数Bを決定する。最後に、制御装置2は、トルク指令Tq1又はTq2をモータ5に送信する。また、データテーブルを作成する際には、波高Hsを変化させながら、前述のいずれかの方法を実行する。
【0051】
この構成により、例えば、波の波高が小さく波のエネルギが小さいとき(小波高)に作成したデータテーブルを、波の波高が大きく波のエネルギが大きいとき(大波高)に利用してフロートの制御を行った際に、フロートが波面から離れかえって発電効率が低下したり、モータに負荷がかかり過ぎるという事態を回避できる。つまり、波力発電装置の発電効率を更に向上することができる。これは、波の周期Tsに加え、異なる波高Hsごとに最適な変位係数A及び速度係数Bを決定することができるからである。
【0052】
また、小波高から大波高まで、あらゆる波高の波に対して、フロートの制御が可能となるため、波力発電装置を設置する海域のさまざまな海象条件に対して、高い発電効率を実現することができる。
【0053】
更に、本発明における制御装置2及びその制御は、他の波力発電装置にも採用することができる。具体的には、例えば、伝達機構が、発電機に設置されたピニオンギアと、フロートに固定されたラックで構成された波力発電装置や、発電機がリニアモータで構成され、伝達機構がリニアモータを直動させるためのロッドで構成された波力発電装置等にも、採用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 波力発電装置
2 制御装置
3 胴体
4 フロート
5 発電機(モータ)
6 ボールねじ
7 ボールナット
8 伝達機構
A 変位係数
B 速度係数
z (フロートの)変位
z’ (フロートの)速度