(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118799
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】光透過性粒子測定方法及び光透過性粒子測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/06 20060101AFI20170410BHJP
G01N 21/49 20060101ALI20170410BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
G01N15/06 E
G01N15/06 C
G01N21/49 Z
G01N33/18 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-522519(P2014-522519)
(86)(22)【出願日】2013年6月11日
(86)【国際出願番号】JP2013066062
(87)【国際公開番号】WO2014002748
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年3月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-142308(P2012-142308)
(32)【優先日】2012年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「最先端研究開発支援プログラムMega−ton Water System」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】江原 克信
(72)【発明者】
【氏名】石井 章夫
【審査官】
土岐 和雅
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−198605(JP,A)
【文献】
特表平05−505026(JP,A)
【文献】
特開平05−040118(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/038329(WO,A1)
【文献】
FATIBELLO S H S A, VIEIRA A A H, FATIBELLO‐FILHO O,A rapidspectrophotometric method for the determination of transparentexopolymer particles (TEP) in freshwater ,Talanta,2004年 1月 9日,Vol.62 No.1,Page.81-85
【文献】
FUKAO Tsuyoshi, KIMOTO Katsunori, KOTANI Yuichi , YAMATOGIToshifumi, YAMAMOTO Ken‐ichi,Marine mucilage in Ariake Sound,Japan, is composed of transparent exopolymer particles producedby the diatom Coscinodiscus granii,Fish Sci,2009年 7月,Vol.75 No.4,Page.1007-1014
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N15/00〜15/14、21/00〜21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル液に含まれており、負電荷の官能基を有する生物由来の多糖からなる光透過性粒子を測定する光透過性粒子測定方法であって、
前記光透過性粒子の負電荷の官能基に結合して前記光透過性粒子を染色する染色剤を前記サンプル液に添加する染色工程と、
前記サンプル液のイオン強度を低下させて前記光透過性粒子を凝集させる凝集工程と、
前記染色工程及び前記凝集工程により染色及び凝集された光透過性粒子に検査光を照射し、それによって生じる散乱光を検出して、前記サンプル液の濁度を測定する濁度測定工程とを備える光透過性粒子測定方法。
【請求項2】
前記光透過性粒子が、光透過性細胞外ポリマー粒子であり、
前記サンプル液中に前記染色剤としてアルシアンブルー液を添加することによって、前記染色工程及び前記凝集工程を同時に行う請求項1記載の光透過性粒子測定方法。
【請求項3】
サンプル液に含まれており、負電荷の官能基を有する生物由来の多糖からなる光透過性粒子を測定する光透過性粒子測定装置であって、
前記光透過性粒子の負電荷の官能基に結合して前記光透過性粒子を染色する染色剤を前記サンプル液に添加する染色剤添加手段と、
前記サンプル液のイオン強度を低下させて前記光透過性粒子を凝集させる凝集手段と、
前記染色剤添加手段及び前記凝集手段により染色及び凝集された光透過性粒子に検査光を照射し、それによって生じる透過光及び散乱光を検出して、前記サンプル液の濁度を測定する濁度測定手段とを備える光透過性粒子測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光透過性細胞外ポリマー粒子(TEP(Transparent Exopolymer Particles))等の負電荷の官能基を有する生物由来の多糖からなる光透過性粒子を測定する方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の海水淡水化処理としては、特許文献1に示すように、海水をUF膜(限外ろ過膜)及び/又はMF膜(精密ろ過膜)を用いて前処理し、その後、RO膜(逆浸透膜)により塩分を分離して真水を得るようにしたものがある(逆浸透法)。
【0003】
ところで、RO膜における目詰まりが問題となっており、RO膜が目詰まりを起こしてしまうと、プラントを停止させて、RO膜のメンテナンスを行う必要がある。ここで、RO膜の目詰まりの原因としては、光透過性細胞外ポリマー(TEP)が考えられており、RO膜に供給される海水中のTEP濃度が高い場合には、RO膜の目詰まりのリスクが高まるため、海水中のTEP濃度を測定することが望まれている。
【0004】
そして、従来のTEP測定は、(1)採取したサンプル液を濾過する濾過工程と、(2)当該濾過工程によって分離したTEPを含む濾物に染色剤を添加してTEPを染色する染色工程と、(3)当該染色工程を経た濾物に硫酸(H
2SO
4)を添加することで染色剤及びTEPの結合物を抽出する抽出工程と、(4)当該抽出工程により抽出された染色剤及びTEPの結合物の吸光度からTEPを定量するTEP定量工程とを備えている。
【0005】
しかしながら、従来のTEP測定では、上記(1)〜(4)といった煩雑な工程を経てTEPを抽出して吸光度測定する必要があり、また、その抽出までに時間がかかってしまうという問題がある。また、廃液が硫酸を含む強酸性のものであるため、取り扱いに十分気をつける必要があるだけでなく、その廃液処理にコストもかかってしまう。さらに、吸光度測定を行うに際して、測定セルの内面が染色剤により染色されてしまい、測定セルを頻繁に洗浄又は交換する必要があり操作が煩雑になる。また、連続測定や現場での測定(オンサイト測定)を行うことが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−58080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決すべくなされたものであり、光透過性細胞外ポリマー粒子(TEP)等の負電荷の官能基を有する生物由来の多糖からなる光透過性粒子を、煩雑な測定処理を行うことなく簡単に測定でき、連続測定も可能にすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る光透過性粒子測定方法は、サンプル液に含まれており、負電荷の官能基を有する生物由来の多糖からなる光透過性粒子を測定する光透過性粒子測定方法であって、前記光透過性粒子の負電荷の官能基に結合して前記光透過性粒子を染色する染色剤を前記サンプル液に添加する染色工程と、前記サンプル液のイオン強度を低下させて前記光透過性粒子を凝集させる凝集工程と、前記染色工程及び前記凝集工程により染色及び凝集された光透過性粒子に検査光を照射し、それによって生じる散乱光を検出して、前記サンプル液の濁度を測定する濁度測定工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような光透過性粒子測定方法であれば、光透過性粒子を染色剤を用いて染色し、サンプル液のイオン強度を低下させて光透過性粒子を凝集させて、それによって染色及び凝集された光透過性粒子の散乱光を検出するものであり、煩雑な測定処理を行う必要が無く簡単に測定でき、連続測定やオンサイト測定をも可能となる。
【0010】
前記光透過性粒子が、光透過性細胞外ポリマー粒子(TEP)であり、前記サンプル液中に前記染色剤としてアルシアンブルー液を添加することによって、前記染色工程及び前記凝集工程を同時に行うことが望ましい。アルシアンブルーは正電荷に帯電しており、負電荷の官能基を有するTEPにイオン結合し易く、TEPを染色するのに好適である。また、アルシアンブルー液を添加することによってサンプル液が希釈されて、そのイオン強度が低下するため、TEPが凝集し易い。このようにアルシアンブルー液をサンプル液に添加するだけで、TEPの染色及び凝集を行うことができるため、TEPの測定処理を極めて簡便にすることができ、TEPの連続測定が可能となる。
【0011】
上記の光透過性粒子測定方法を好適に実現するための光透過性粒子測定装置としては、サンプル液に含まれており、負電荷の官能基を有する生物由来の多糖からなる光透過性粒子を測定する光透過性粒子測定装置であって、前記光透過性粒子の負電荷の官能基に結合して前記光透過性粒子を染色する染色剤を前記サンプル液に添加する染色剤添加手段と、前記サンプル液のイオン強度を低下させて前記光透過性粒子を凝集させる凝集手段と、前記染色剤添加手段及び前記凝集手段により染色及び凝集された光透過性粒子に検査光を照射し、それによって生じる透過光及び散乱光を検出して、前記サンプル液の濁度を測定する濁度測定手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
このような光透過性粒子測定装置であれば、サンプル液を収容したセルを設置するだけで、当該サンプル液に含まれる光透過性粒子を自動的に測定することができる。また光透過性粒子を染色剤を用いて染色するだけでなく、その光透過性粒子を凝集させているので、光透過性粒子によって生じる透過光及び散乱光の光強度を大きくすることができ、光透過性粒子の測定精度を向上させることができる。このとき、染色及び凝集させた光透過性粒子を吸光度測定により測定することが考えられるが、測定セルの内面が染色剤により染色してこれによって光が吸光されてしまうため、測定誤差が生じてしまう。本発明では、透過光及び散乱光を用いて濁度測定を行うことから、測定セルの内面に吸着した染色剤に起因する測定誤差を低減して、光透過性粒子を精度良く測定することができる。また、光透過性粒子を染色剤によって染色して、凝集させることなく濁度測定することも考えられるが、濁度測定において十分な感度を得ることできない。本発明では、光透過性粒子を凝集させているので、濁度が大きくなり、感度を十分に得ることができ、測定精度を向上させることができる。
【0013】
ここで、光透過性粒子測定装置の装置構成を簡略化して、例えば小型化等を実現するためには、前記染色剤添加手段が前記凝集手段を兼ねていることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
このように構成した本発明によれば、光透過性細胞外ポリマー粒子(TEP)等の負電荷の官能基を有する生物由来の多糖からなる光透過性粒子を、煩雑な測定処理を行うことなく、連続測定を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】同実施形態のTEP測定方法のフローチャート。
【
図3】TEP濃度と濁度との関係を示す実験結果グラフ。
【
図4】干渉成分の有無におけるTEP濃度と濁度との関係を示す実験結果グラフ。
【
図5】アルシアンブルー濃度と濁度との関係を示す実験結果グラフ。
【
図6】イオン強度と感度との関係を示す実験結果グラフ。
【符号の説明】
【0016】
100・・・光透過性粒子測定装置(TEP測定装置)
S・・・測定セル
2・・・染色剤添加手段
3・・・凝集手段
4・・・濁度測定手段
41・・・光源
L1・・・検査光
L2・・・透過光
L3・・・散乱光
42・・・透過光用光検出器
43・・・散乱光用光検出器
5・・・演算手段
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明に係る光透過性粒子測定装置について図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態の光透過性粒子測定装置100は、海水、工業排水又は家庭排水などに含まれる光透過性粒子である光透過性細胞外ポリマー粒子(TEP;Transparent Exopolymer Particles)を測定するTEP測定装置である。ここで光透過性細胞外ポリマー粒子(TEP)とは、バイオフィルムの原因となる粘性重合物質であり、表面に負電荷の官能基を有し、微生物等の生物から産出される多糖からなる。
【0019】
具体的にこのものは、
図1に示すように、測定セルSに収容されたサンプル液にTEPを染色するための染色剤を添加する染色剤添加手段2と、前記測定セルSに収容されたサンプル液のイオン強度を低下させてTEPを凝集させる凝集手段3と、前記染色剤添加手段2及び前記凝集手段3により染色及び凝集されたTEPに検査光L1を照射し、それによって生じる透過光L2及び散乱光L3を検出して、サンプル液の濁度を測定する濁度測定手段4とを備えている。なお、測定セルSは、バッチ式のものとしても良いし、フロー式のものとしても良い。
【0020】
本実施形態の染色剤添加手段2は、正電荷の官能基を有する染色剤としてアルシアンブルー液を、測定セルS内のサンプル液に添加するものであり、アルシアンブルー液を収容する染色剤容器21と、当該染色剤容器21のアルシアンブルー液を測定セルSに供給する開閉弁及びポンプ等を有する染色剤供給機構22とを備えている。なお、染色剤供給機構22は、一連の測定シーケンスに基づいて、図示しない制御部によって制御される。
【0021】
この染色剤添加手段2によって、測定セルS内に染色剤が供給されて、サンプル液に含まれるTEPが染色される。このとき、染色剤添加手段2によりアルシアンブルー液を測定セルSに供給することによって、サンプル液が希釈されて或いは正電荷を有するアルシアンブルー液によってイオン強度が低下し、TEPが凝集することになる。つまり、本実施形態の染色剤添加手段2は凝集手段3としての機能を有する。
【0022】
ここで、アルシアンブルー液の添加量が少なすぎると、TEPの染色及び凝集が不十分となり、濁度測定手段4の濁度測定において十分な感度を得ることができない。一方、アルシアンブルーの添加量が多すぎると、TEPの染色が過度になり、また、イオン強度の低下に基づいて凝集量が多くなり過ぎて沈殿してしまい、濁度測定手段4の測定誤差を招いてしまう。このため、アルシアンブルー液の添加量は、濁度測定手段4により所定の感度が得られ、なお且つ、TEPが沈殿しない程度とすることが望ましい。
【0023】
また、濁度測定手段4は、測定セルS内のサンプル液に検査光L1を照射する光源41と、検査光L1が照射されたサンプル液から生じる透過光L2を検出する透過光検出器42と、検査光L1が照射されたサンプル液から生じる散乱光L3を検出する散乱光検出器43と、透過光検出器42及び散乱光検出器43からの検出信号(光強度信号)を取得して、それら光強度信号から濁度を算出する濁度算出部44とを備えている。また、この濁度測定手段4は、濁度算出部44により得られた濁度と予め入力された検量線とに基づいてTEP濃度を演算するTEP濃度演算部45を有する。本実施形態では、前記濁度算出部44及び前記TEP濃度演算部45の機能を発揮する情報処理装置COMが、前記光源41を制御する制御部及び前記染色剤供給機構22を制御する制御部としての機能を発揮するように構成している。
【0024】
次に、このように構成したTEP測定装置100の動作とともに、TEP測定方法について
図2を参照して説明する。
【0025】
本実施形態のTEP測定方法は、(1)アルシアンブルー液をサンプル液に添加する染色工程と、(2)サンプル液のイオン強度を低下させてTEPを凝集させる凝集工程と、(3)染色工程及び凝集工程により染色及び凝集されたTEPに検査光L1を照射し、それによって生じる透過光L2及び散乱光L3を検出して、サンプル液の濁度を測定する濁度測定工程と、(4)測定された濁度からTEP濃度を演算するTEP濃度演算工程とを備えている。そして、染色工程及び凝集工程は、アルシアンブルー液をサンプル液に添加することによって、同時に行われる同一工程とされている。
【0026】
そして、アルシアンブルー液を用いた染色及び凝集工程の後に、濁度測定手段4の光源41から検査光L1を照射し、当該検査光L1の照射によって生じる透過光L2を透過光検出器42により検出し、散乱光L3を散乱光検出器43によって検出するとともに、前記濁度算出部44が当該各光検出器42、43によって得られた透過光強度及び散乱光強度の比等を用いて、サンプル液の濁度を測定する。そして、前記TEP濃度演算部45が濁度測定工程によって得られた濁度からサンプル液に含まれるTEPの濃度を演算する。なお、演算に用いる検量線は、情報処理装置COMの内部メモリ等に設けられた格納部に予め格納しておく。
【0027】
次に、TEP濃度及び濁度の相関関係について
図3を参照して説明する。
図3は、TEPの標準物質としてキサンタンガムを用い、0.1%のアルシアンブルー液を用いて染色するとともに、サンプル液の塩分濃度を1.35%とした場合の、サンプル液に含まれるキサンタンガムの濃度及び濁度の関係を示す。
【0028】
図3から分かるように、キサンタンガムの濃度が0ppm〜20ppmに増加するに連れて、得られる濁度[NTU]も比例的に増加することが分かる。具体的には、約0.3NTU/ppmの割合で増加することが分かる。つまり、TEP濃度を濁度測定手段4を用いて定量することが可能であることが分かる。なお、この濁度及び濃度の関係式が上述した検量線となる。
【0029】
次に、干渉成分がある場合と無い場合とにおけるTEP濃度及び濁度の相関関係について
図4を参照して説明する。
図4は、干渉成分としてポリスチレンを用い、干渉成分がある場合とは、当該ポリスチレンがサンプル液中に1NTU含まれている場合である。その他の条件は、
図3のものと同様である。
【0030】
図4から分かるように、サンプル液中に干渉成分が存在する場合であっても、キサンタンガムの濃度が0ppm〜20ppmに増加するに連れて、得られる濁度[NTU]も比例的に増加することが分かる。つまり、サンプル液中に干渉成分が存在する場合であっても、TEP濃度を濁度測定手段4を用いて定量することが可能であることが分かる。
【0031】
次に、アルシアンブルー液の濃度による濁度の変化について検証した。
図5は、塩分濃度13.5g・L
−1、TEP濃度10ppmのサンプル液に対して、アルシアンブルー液を添加した場合の濁度の変化について示している。
【0032】
図5から分かるように、アルシアンブルー液の濃度を大きくするに連れて濁度が大きくなっている。なお、アルシアンブルー液の濃度を大きくすると、サンプル液のイオン強度が低下するため、TEPの凝集が促進されて沈殿する傾向がある。
【0033】
次に、イオン強度(塩分濃度)による濁度感度の変化について検証した。
図6は、TEP濃度10ppmのサンプル液に対して0.2%のアルシアンブルー液の添加量を変化させてそのイオン強度を変化させた場合の濁度感度の変化について示している。
【0034】
図6から分かるように、イオン強度を低下させていくに連れて濁度感度が上昇し、約13.5g・L
−1で感度がピークとなることが分かる。その後、更にイオン強度を低下させていくと、濁度感度が低下してしまう。このようにイオン強度を低下させ過ぎると、TEPの凝集量が多くなりTEPが沈殿してしまい、濁度感度が低下すると考えられる。なお、測定感度がピークとなる塩分濃度は、海水の塩分濃度の約半分の場合である。
【0035】
このように構成した本実施形態に係るTEP測定装置100及びTEP測定方法によれば、光透過性粒子を染色剤を用いて染色し、サンプル液のイオン強度を低下させて光透過性粒子を凝集させて、それによって染色及び凝集された光透過性粒子の散乱光を検出するものであり、煩雑な測定処理を行う必要が無く、連続測定(オンサイト測定)が可能となる。ここで、光透過性粒子の凝集は、例えばサンプル液を希釈して、そのイオン強度を低下させるだけで良いので測定処理が容易である。また、TEPを染色剤を用いて染色するだけでなく、そのTEPを凝集させているので、TEPによって生じる透過光L2及び散乱光L3の光強度を大きくすることができ、TEPの測定精度を向上させることができる。このとき、透過光L2及び散乱光L3を用いて濁度測定を行うことから、測定セルSの内面に吸着した染色剤に起因する測定誤差を低減して、TEPを精度良く測定することができる。また、イオン強度を低下させてTEPを凝集させているので、濁度が大きくなり、感度を十分に得ることができ、測定精度を向上させることができる。
【0036】
また、アルシアンブルー液をサンプル液に添加するだけで、TEPの染色及び凝集を行うことができるため、TEPの測定処理を極めて簡便にすることができ、TEPの連続測定が可能となる。
【0037】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0038】
例えば、前記実施形態では、染色剤(染色料)としてアルシアンブルーを用いたが、その他、TEP等の光透過性粒子の負電荷の官能基に結合するものであれば、種々の染色剤を用いることができる。例えば、トルイジンブルー液やコロイド鉄液を用いることができる。
【0039】
また、前記実施形態では、光透過性粒子としてTEPを例に挙げているが、その他、負電荷の官能基を有する生物由来の多糖からなる光透過性粒子であれば適用可能である。
【0040】
さらに、前記実施形態では、アルシアンブルー液を用いることで染色工程及び凝集工程を同時に行うものであるが、その他、染色工程及び凝集工程を別々に行うようにしても良い。これならば、最適な染色を実現するための染色剤の添加量と、最適な凝集を実現するためのイオン強度の低下を行うための希釈量とを個別に制御することができる。なお、染色工程と凝集工程とは、どちらを先に行うようにしても良い。
【0041】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、光透過性細胞外ポリマー粒子(TEP)等の負電荷の官能基を有する生物由来の多糖からなる光透過性粒子を、煩雑な測定処理を行うことなく連続測定することが可能となる。