(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記事情に鑑みて成されたものであって、高分解能の観察や微細な加工が可能な複合集束イオンビーム装置及びそれを用いた加工観察方法、加工方法を提供する点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
本発明の複合集束イオンビーム装置は、上記課題を解決するために、第1のイオンを発生させる液体金属イオン源を備えた第1のイオンビーム照射系と、第2のイオンを発生させるガスフィールドイオン源を備えた第2のイオンビーム照射系と、を有し、前記第2のイオンビーム照射系から射出される第2のイオンビームのビーム径が、前記第1のイオンビーム照射系から射出される第1のイオンビームのビーム径よりも小さいこととした。
この構成によれば、2種類のイオンビーム照射系を備えているので、一方のイオンビーム照射系により試料観察を行いつつ、他方のイオンビーム照射系を用いた試料加工を行うことができる。特にガスフィールドイオン源を備えた第2のイオンビーム照射系は、ビーム径を1nm以下に小さく絞ることができるため超高分解能の観察が可能である。
また、SEMとは異なりイオンビームを用いていることから、回折収差の影響をほとんど無視することができ、したがってWD(Working Distance)を大きくしてもビーム径を小さく絞ることができるため、イオンビーム照射系同士の干渉が生じにくく、装置設計の自由度が大きくなる。
【0007】
前記第2のイオンの質量は前記第1のイオンの質量よりも小さいことが好ましい。
これにより、小さい質量のイオンを射出する第2のイオンビーム照射系を観察装置に用いる場合に、イオンビーム照射による試料のスパッタを抑えることができ、それによって極微小ビーム径を活かした超高分解能観察が可能となる。
【0008】
前記第1のイオンビームと前記第2のイオンビームとが鋭角に交差するように、前記第1のイオンビーム照射系と前記第2のイオンビーム照射系とが配置されていることが好ましい。
第1及び第2のイオンビーム照射系をこのように配置することで、試料を観察しつつ加工する用途に好適に用いることができる複合集束イオンビーム装置とすることができる。
【0009】
前記第1及び第2のイオンビームが照射される試料を支持する支持台を備え、前記第2のイオンビーム照射系が前記支持台の鉛直方向の上方に配置される一方、前記第1のイオンビーム照射系が鉛直方向に対して傾斜して配置されていることが好ましい。
このように第2のイオンビーム照射系を試料台の鉛直上方に配置することで、ビーム径が小さく高精度の位置制御を要する第2のイオンビーム照射系を用いた加工及び観察をより容易に行えるようになる。
【0010】
前記第1及び第2のイオンビームが略直交するように前記第1及び第2のイオンビーム照射系が配置されている構成としてもよい。
このような構成とすれば、一方のイオンビーム照射系を用いた試料の加工部位に対して、他方のイオンビーム照射系からのイオンビームを垂直に照射できるようになるため、特に加工中の観察を要する用途に好適な構成となる。
【0011】
前記ガスフィールドイオン源が、エミッタと、前記エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、前記第2のイオンとなるガスを供給するガス供給部とを備えていることが好ましい。
かかる構成のガスフィールドイオン源により、小さいビーム径のイオンビームを安定的に形成できる。
【0012】
前記第2のイオンが、ヘリウムイオンであることが好ましい。
この構成により、試料のスパッタをほとんど生じさせることなく試料像を得ることができる第2のイオンビーム照射系を備えた複合集束イオンビーム装置となる。前記第2のイオンとしては、ネオンイオンを用いてもよい。
【0013】
前記第1のイオンビームと前記第2のイオンビームとが45度〜60度で交差するように、前記第1のイオンビーム照射系と前記第2のイオンビーム照射系とが配置されていることが好ましい。
この構成により、TEM試料を作製する際の加工効率の向上が図れる。
【0014】
また、前記第1のイオンビーム照射系と前記第2のイオンビーム照射系の軸はステージチルト軸と直交し、かつ前記第3のイオンビーム照射系の軸と前記ステージチルト軸は同一平面内に位置するように配置されていることが好ましい。
このような配置にすることによって、各イオンビーム照射系から照射されるイオンビームの試料に対する角度設定が容易になり、結果的に試料に対する加工性を向上できる。
【0015】
前記第1のイオン又は前記第2のイオンの照射によって試料から発生または反射する二次荷電粒子と前記試料を透過した荷電粒子の少なくとも一方を検出する検出装置と、前記検出装置の出力に基づいて前記試料の画像を表示する画像表示装置とを備えていることが好ましい。
この構成により、イオンビーム照射による試料像の観察が可能な構成となる。
【0016】
前記検出装置が、第1のイオンビーム照射系から発生する第1のイオンの照射によって発生する二次イオンを検出する第1のイオン検出器と、第2のイオンビーム照射系から発生しかつ第1のイオンよりも軽い第2のイオンが試料に当たって反射する反射イオンを検出する第2のイオン検出器を備えていることが好ましい。
この構成によれば、二次イオンから得られる画像と、反射イオンから得られる画像を取得することができる。このため、例えば加工中において、試料の加工部分の試料表面の画像と加工部分の試料断面の画像とを同時に取得することができる。
【0017】
前記検出装置が、電子検出器、イオン検出器、及び透過荷電粒子検出器の少なくとも1つを備えていることが好ましい。すなわち、イオンビーム照射により試料から発生する二次電子、二次イオン、散乱イオン、及び透過荷電粒子の少なくとも1種を検出できるものを備えていることが好ましい。
【0018】
前記第1及び第2のイオンビームを照射される試料の近傍にデポジション用又はエッチング用の機能ガスを供給するガス銃を備えていることが好ましい。
この構成によれば、ガスアシストデポジションによる構造物の形成、及びガスアシストエッチングによる試料の加工等を迅速かつ容易に行える複合集束イオンビーム装置となる。
【0019】
本発明の加工観察方法は、試料にイオンビームを照射して加工及び観察を行う方法であって、第1のイオンを発生させる液体金属イオン源を備えた第1のイオンビーム照射系から前記試料に第1のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップと、第2のイオンを発生させるガスフィールドイオン源を備え、前記第1のイオンビームよりも小さいビーム径のイオンビームを射出する第2のイオンビーム照射系から前記試料に第2のイオンビームを照射して前記試料を観察するステップとを有することを特徴とする。
この方法によれば、ビーム電流の大きい第1のイオンビーム照射系を用いて試料を迅速に効率よく加工しつつ、ビーム径の小さい第2のイオンビーム照射系を用いて試料の損傷を回避しながら高分解能の観察を行うことができる。
【0020】
また、第2のイオンとして第1のイオンよりも小さい質量のイオンを用いることが好ましい。これにより、第2のイオンビームを照射して試料の観察を行う際の試料のスパッタを防止でき、試料の状態を変化させることなく正確な観察結果を得ることができる。
【0021】
前記第1のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップと前記第2のイオンビームを照射して前記試料を観察するステップとが同時に行なわれることが好ましい。
この構成によれば、第1のイオンビームの照射して加工するときに、リアルタイムで加工部分の観察が行えることとなり、加工精度を向上させることができる。
【0022】
前記第1のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップの後に、第3のイオンを発生させるプラズマ型ガスイオン源を備えた第3のイオンビーム照射系から前記試料に第3のイオンビームを照射するステップを有する方法とすることもできる。第3のイオンビームは、1keV以下の低加速アルゴンイオンビームが好適である。
この方法によれば、TEM試料薄片作製の場合、第1のイオンビームによる薄片加工で生じたダメージ層を、第3のイオンビームの照射によって除去することができる。
【0023】
前記試料のイオンビーム照射位置にガスを供給しながら前記試料に対して前記第2のイオンビームを照射することで前記試料を加工するステップを有する方法とすることもできる。
このように第2のイオンビーム照射系を用いて試料の加工を行うようにすれば、第1のイオンビーム照射系を用いた場合よりも微細な加工が可能であるため、第1のイオンビーム照射系による加工と第2のイオンビーム照射系による加工との組み合わせによって、微細かつ高精度の加工を容易に行うことができ、より高度の分析を実施することができる。
【0024】
本発明の加工方法は、試料にイオンビームを照射して加工する方法であって、第1のイオンを発生させる液体金属イオン源を備えた第1のイオンビーム照射系から前記試料に第1のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップと、第2のイオンを発生させるガスフィールドイオン源を備え、前記第1のイオンビームよりも小さいビーム径のイオンビームを射出する第2のイオンビーム照射系から前記試料に第2のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップとを有している。
この加工方法によれば、相対的に小さいビーム径を有する第2のイオンビームによる試料の加工を行うので、第1のイオンビーム照射系を用いた試料の加工とともに、より微小な領域の加工が可能になる。したがってこの加工方法によれば、高精度の加工を効率よく迅速に行うことができる。
【0025】
また、本発明の他の加工方法は、試料にイオンビームを照射して加工する方法であって、第1のイオンを発生させる液体金属イオン源を備えた第1のイオンビーム照射系から前記試料に第1のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップと、第2のイオンを発生させるガスフィールドイオン源を備え、前記第1のイオンビームよりも小さいビーム径のイオンビームを射出する第2のイオンビーム照射系から、前記試料の前記第1のイオンビームの照射によって加工された部分の少なくとも一部にさらに第2のイオンビームを照射して前記試料を後加工するステップとを有している。
この加工方法によれば、第1のイオンビームを照射して試料を加工した後に、その加工部分について、相対的に小さいビーム径の第2のイオンビームを射出して後加工ができる。つまり、第1のイオンビームの照射による粗加工の後に、第2のイオンビームの照射による仕上げ加工が行えることとなり、高精度の加工を効率よく行える他、第1のイオンビーム照射によって生じたダメージ部分を除去することもできる。
【0026】
前記試料に第1のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップと、前記試料の前記第1のイオンビームの照射によって加工された部分の少なくとも一部にさらに第2のイオンビームを照射して前記試料を後加工するステップとを同時に行うことが好ましい。
この場合、第1のイオンビームの照射による粗加工と、第2のイオンビーム照射による仕上げ加工とを同時に行うことができ、加工効率をより一層向上することができる。
【0027】
前記試料のイオンビーム照射位置にガスを供給しながら前記試料に対して前記第2のイオンビームを照射することで前記試料を加工するステップを有することが好ましい。
このような加工方法とすることで、第2のイオンビーム照射系を用いた加工の効率を向上させることができる。
【0028】
本発明の複合集束イオンビーム装置は、第1のイオンを発生させる液体金属イオン源を備えた第1のイオンビーム照射系と、第2のイオンを発生させるガスフィールドイオン源を備えた第2のイオンビーム照射系と、前記ガスフィールドイオン源にガスを供給するガス供給源と、を有し、前記第2のイオンビーム照射系から射出される第2のイオンビームのビーム径が、前記第1のイオンビーム照射系から射出される第1のイオンビームのビーム径よりも小さく、前記ガス供給源は、前記ガスフィールドイオン源に供給するガスの種類を切り替え可能としている。
【0029】
本発明の加工観察方法は、試料にイオンビームを照射して加工及び観察を行う方法であって、第1のイオンを発生させる液体金属イオン源を備えた第1のイオンビーム照射系から前記試料に第1のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップと、第2のイオンを発生させるガスフィールドイオン源を備え、前記第1のイオンビームよりも小さいビーム径のイオンビームを射出する第2のイオンビーム照射系から前記試料に第2のイオンビームを照射して前記試料を観察するステップと、前記試料を観察するステップにおいて前記ガスフィールドイオン源に供給するガスの種類を切り替えるステップとを有している。
【0030】
本発明の加工方法は、試料にイオンビームを照射して加工する方法であって、第1のイオンを発生させる液体金属イオン源を備えた第1のイオンビーム照射系から前記試料に第1のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップと、第2のイオンを発生させるガスフィールドイオン源を備え、前記第1のイオンビームよりも小さいビーム径のイオンビームを射出する第2のイオンビーム照射系から前記試料に第2のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップと、前記試料を加工するステップにおいて前記ガスフィールドイオン源に供給するガスの種類を切り替えるステップとを有している。
【0031】
本発明の加工方法は、試料にイオンビームを照射して加工する方法であって、第1のイオンを発生させる液体金属イオン源を備えた第1のイオンビーム照射系から前記試料に第1のイオンビームを照射して前記試料を加工するステップと、第2のイオンを発生させるガスフィールドイオン源を備え、前記第1のイオンビームよりも小さいビーム径のイオンビームを射出する第2のイオンビーム照射系から、前記試料の前記第1のイオンビームの照射によって加工された部分の少なくとも一部にさらに第2のイオンビームを照射して前記試料を仕上げ加工するステップと、前記試料を仕上げ加工するステップにおいて前記ガスフィールドイオン源に供給するガスの種類を切り替えるステップとを有している。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、従来の複合集束イオンビーム装置あるいは複合荷電粒子ビーム装置では不可能であった超高分解能の観察や超高精度の加工が可能な複合集束イオンビーム装置を提供することができる。
本発明の複合集束イオンビーム装置は、SEMの代わりに長WDでも超高分解能の得られる、ガスフィールドイオン源Heイオンビームを用いることが特徴である。これにより、SEMをはるかにしのぐ超高分解能断面観察が可能になった。
本発明によれば、試料を加工しつつ従来をはるかにしのぐ超高分解能の観察を行える加工観察方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の複合集束イオンビーム装置の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の複合集束イオンビーム装置の概略斜視図である。
図2は、複合集束イオンビーム装置100の概略断面図である。
【0035】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の複合集束イオンビーム装置100は、真空室13と、第1のイオンビーム照射系10と、第2のイオンビーム照射系20と、試料ステージ16と、マニピュレータ17と、二次荷電粒子検出器18と、透過荷電粒子検出器19と、ガス銃11とを備えている。真空室13は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、上記の各構成品はそれらの一部又は全部が真空室13内に配置されている。
【0036】
本実施形態において、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20は、それぞれが集束イオンビーム鏡筒を備えており、真空室13内に配置された試料ステージ16上の試料(加工対象物あるいは観察対象物)に対して集束イオンビーム(第1のイオンビーム10A、第2のイオンビーム20A)を照射する。第1のイオンビーム10Aと第2のイオンビーム20Aとは鋭角に交差し、かかる交差位置に配置された試料上の同一位置に照射される。
【0037】
ここで、前記第1のイオンビームと前記第2のイオンビームとが45度〜60度で交差するように、前記第1のイオンビーム照射系と前記第2のイオンビーム照射系とが配置されている。言い換えれば、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20が、それらの軸線のなす開き角度θaを45度〜60度となるように配置されている。
【0038】
第1のイオンビーム照射系10は、液体ガリウム等を用いた液体金属イオン源34と、液体金属イオン源34から射出されたイオンをイオンビームに成形して射出するイオン光学系35とを備えている。
液体金属イオン源34を構成するイオンとしては、例えばガリウムイオン(Ga+)などである。液体金属イオン源34は、イオン源制御電源(図示略)と接続されている。そして、イオン源制御電源によって加速電圧及び引き出し電圧を印加することで引き出されたイオンを加速させてイオンビームとして放出することができる。
【0039】
イオン光学系35は、例えば、液体金属イオン源34側から順に、イオンビームを集束するコンデンサーレンズと、イオンビームを絞り込む絞りと、イオンビームの光軸を調整するアライナと、イオンビームを試料に対して集束する対物レンズと、試料上でイオンビームを走査する偏向器とを備えて構成される。
【0040】
第2のイオンビーム照射系20は、第2のイオンを発生させるとともに流出させるガスフィールドイオン源21と、ガスフィールドイオン源21から流出した第2のイオンを集束イオンビーム(第2のイオンビーム20A)に成形するイオン光学系25とを備えている。
【0041】
イオン光学系25は、第1のイオンビーム照射系10に備えられたイオン光学系35と共通の基本構成を備えており、例えば、イオンビームを集束するコンデンサーレンズと、イオンビームを絞り込む絞りと、イオンビームの光軸を調整するアライナと、イオンビームを試料に対して集束する対物レンズと、試料上でイオンビームを走査する偏向器とを備えて構成される。
【0042】
ここで
図3は、ガスフィールドイオン源21を示す概略断面図である。
図3に示すように、ガスフィールドイオン源21は、イオン発生室21aと、エミッタ22と、引出電極23と、冷却装置24とを備えて構成されている。イオン発生室21aの壁部に冷却装置24が配設されており、冷却装置24のイオン発生室21aに臨む面に針状のエミッタ22が装着されている。冷却装置24は、内部に収容された液体窒素等の冷媒によってエミッタ22を冷却する。そして、イオン発生室21aの開口端近傍に、エミッタ22の先端22aと対向する位置に開口部23aを有する引出電極23が配設されている。
【0043】
イオン発生室21aは、図示略の排気装置を用いて内部が所望の高真空状態に保持されるようになっている。イオン発生室21aには、ガス導入管26aを介してガス供給源26が接続されており、イオン発生室21a内に微量のガス(例えばヘリウムガス)を供給するようになっている。
なお、ガスフィールドイオン源21においてガス供給源26から供給されるガスは、ヘリウムに限られるものではなく、ネオン、アルゴン、キセノン等のガスであってもよい。また、ガス供給源26から複数種のガスを供給可能に構成し、第2のイオンビーム照射系20の用途に応じてガス種を切り替えられるようにしてもよい。
【0044】
エミッタ22は、タングステンやモリブデンからなる針状の基材に、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、金等の貴金属を被覆したものからなる部材であり、その先端22aは原子レベルで尖鋭化されたピラミッド状になっている。またエミッタ22は、イオン源の動作時には冷却装置24によって78K程度以下の低温に保持される。エミッタ22と引出電極23との間には、電源27によって電圧が印加されるようになっている。
【0045】
エミッタ22と引出電極23との間に電圧が印加されると、鋭く尖った先端22aにおいて非常に大きな電界が形成されるとともに、分極してエミッタ22に引き寄せられたヘリウム原子26mが、先端22a表面の高電界位置で電子をトンネリングにより失ってヘリウムイオン(第2のイオン)となる(電界イオン化)。そして、このヘリウムイオンが正電位に保持されているエミッタ22と反発して引出電極23側へ飛び出し、引出電極23の開口部23aからイオン光学系25へ射出されたヘリウムイオンがイオンビームを構成する。
【0046】
エミッタ22の先端22aは極めて尖鋭な形状であり、ヘリウムイオンはこの先端22aから飛び出すため、ガスフィールドイオン源21から放出されるイオンビームのエネルギー分布幅は極めて狭く、液体金属イオン源34やプラズマ型ガスイオン源と比較して、ビーム径が小さくかつ高輝度のイオンビームを得ることができる。
【0047】
なお、エミッタ22への印加電圧が大きすぎると、ヘリウムイオンとともにエミッタ22の構成元素(タングステンや白金)が引出電極23側へ飛散するため、動作時(イオンビーム放射時)にエミッタ22に印加する電圧は、エミッタ22自身の構成元素が飛び出さない程度の電圧に維持される。
一方、このようにエミッタ22の構成元素を操作できることを利用して、先端22aの形状を調整することができる。例えば、先端22aの最先端に位置する元素を故意に取り除いてガスをイオン化する領域を広げ、イオンビーム径を大きくすることができる。
またエミッタ22は、加熱することで表面の貴金属元素を飛び出させることなく再配置させることができるため、使用により鈍った先端22aの尖鋭形状を回復することもできる。
【0048】
図1及び
図2に戻り、試料ステージ16は、試料台14と試料ホルダ15とを移動可能に支持している。試料台14上には試料Wa(例えば半導体ウエハ等)が載置され、試料ホルダ15上には、試料Waから作製される微小な試料Wbが載置される。そして、試料ステージ16は、試料台14及び試料ホルダ15を5軸で変位させることができる。すなわち、試料台14を水平面に平行で且つ互いに直交するX軸及びY軸と、これらX軸及びY軸に対して直交するZ軸とに沿ってそれぞれ移動させるXYZ移動機構16bと、試料台14をZ軸回りに回転させるローテーション機構16cと、試料台14をX軸(又はY軸)回りに回転させるチルト機構16aとを備えて構成されている。試料ステージ16は、試料台14を5軸に変位させることで、試料Wa(試料Wb)の特定位置をイオンビームが照射される位置に移動するようになっている。
【0049】
真空室13は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、真空室13内にはマニピュレータ17と、二次荷電粒子検出器18と、透過荷電粒子検出器19と、ガス銃11とが設けられている。
マニピュレータ17は、試料Waから作製される試料Wbを支持するものであり、試料Wbを指示した状態でマニピュレータ17と試料ホルダ15とを相対的に移動させることで、試料台14から試料ホルダ15に試料Wbを運搬する。運搬に際しては、マニピュレータ17を固定した状態で試料ステージ16を駆動して試料ホルダ15を試料Wbが支持されている位置まで移動させてもよく、マニピュレータ17を移動させて試料Wbを運搬してもよい。
【0050】
二次荷電粒子検出器18は、第1のイオンビーム照射系10又は第2のイオンビーム照射系20から試料Wa又は試料Wbへ集束イオンビームが照射された際に、試料Wa又は試料Wbから発せられるまたは反射される二次電子や二次イオンあるいは反射イオンを検出する。また透過荷電粒子検出器19は、第2のイオンビーム照射系20から試料Wa又は試料Wbへ集束イオンビームが照射された際に試料Wa又は試料Wbを透過したイオンを検出する。
【0051】
二次荷電粒子検出器18は、この実施形態の場合、第1のイオンビーム照射系10から発生する第1のイオンの照射によって発生する二次イオンを検出する第1のイオン検出器18Aと、第2のイオンビーム照射系から発生しかつ第1のイオンよりも軽い第2のイオンが試料に当たって反射する反射イオンを検出する第2のイオン検出器18Bとを備える。第1のイオン検出器18Aは、第1のイオンの照射によって発生する二次イオンが広範囲に亘って放射されるので、配置の自由度が高い。これに比べ、第二イオン検出器18Bは、試料Wa、Wbに当たって反射する反射イオンの放射角度がある程度定まっているので、第1のイオンビーム照射系10のビーム鏡筒の近傍に配置されるのが好ましい。
【0052】
ガス銃11は、試料Wa、Wbに対して、ガスアシスト用エッチングガスやガスアシスト用デポジションガスなどの所定のガスを放出する。そして、ガス銃11からエッチングガスを供給しながら試料Wa、Wbに第1のイオンビーム10A又は第2のイオンビーム20Aを照射することで、イオンビームによる試料のエッチング速度を高めることができる。一方、ガス銃11からデポジションガスを供給しながら試料Wa、Wbにイオンビームを照射すれば、試料Wa、Wb上に金属や絶縁体の堆積物を形成することができる。
【0053】
また、複合集束イオンビーム装置100は、当該装置を構成する各部を制御する制御装置30を備えている。制御装置30は、第1のイオンビーム照射系10、第2のイオンビーム照射系20、二次荷電粒子検出器18、透過荷電粒子検出器19、及び試料ステージ16と接続されている。また、二次荷電粒子検出器18あるいは透過荷電粒子検出器19からの出力に基づき試料Wa及び試料Wbを映像として表示する表示装置38を備えている。
【0054】
制御装置30は、複合集束イオンビーム装置100を総合的に制御するとともに、二次荷電粒子検出器18又は透過荷電粒子検出器19で検出された二次荷電粒子又は透過荷電粒子を輝度信号に変換して画像データを生成し、この画像データを表示装置38に出力している。これにより表示装置38は、上述したように試料像を表示する。
【0055】
また制御装置30は、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ16を駆動し、試料Wa又は試料Wbの位置や姿勢を調整する。これにより、試料表面におけるイオンビームの照射位置や照射角度を調整自在である。例えば、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20との切替操作に連動して試料ステージ16を駆動し、試料Waや試料Wbを移動させたり、傾けることができる。
【0056】
以上の構成を備えた本実施形態の複合集束イオンビーム装置100では、第2のイオンビーム照射系20から射出される第2のイオン(ヘリウムイオン)が、第1のイオンビーム照射系10から射出される第1のイオン(ガリウムイオン)よりも質量が小さいものとなっている。そのため、第2のイオンビーム20Aを試料Wa又は試料Wbに照射しても、試料がスパッタされにくく、試料Wa又は試料Wbの二次荷電粒子像観察に好適なイオンビーム照射系となっている。
【0057】
また、第2のイオンビーム照射系20では、ソースサイズ1nm以下、イオンビームのエネルギー広がりも1eV以下にできるため、ビーム径を1nm以下に絞ることができる。
1nm以下のビーム径を得るには、SEM(走査型電子顕微鏡)では回折収差の影響を回避するためにWDを1〜2mm以下にしなければならない。しかしながら、複数のビーム照射系を有する複合装置では鏡筒同士の機械的干渉によりWDを5mm以下にするのは極めて困難である。
これに対して、第2のイオンビーム20Aでは、用いられているヘリウムイオンの運動量がSEMで用いられる電子の運動量に比べて非常に大きく、ドブロイ波長が非常に小さくなるため、回折効果が無視できる程度に小さくなる。
したがって、第2のイオンビームでは回折収差を無視できるのでWDを長くしても細いビーム径を得ることができ、大型の試料に対しても高分解能観察、計測が可能である。
【0058】
また、第2のイオンビーム20Aでは、試料における相互作用体積が表面からの深さ方向に長く延び、試料表面での面方向の広がりは小さくなることからイオンビームを照射した位置の情報を正確に反映した試料像を得ることができ、試料のチャージアップも抑えることができる。さらに、ヘリウムイオンの運動量は電子の運動量に対して非常に大きいため、試料表面からより多くの二次荷電粒子が放出される。
これらにより、第2のイオンビーム20Aを試料に照射して二次荷電粒子像観察を行うことで、高分解能かつ高コントラストの試料像を得ることができる。
【0059】
また第2のイオンビーム照射系20は、先の第1のイオンビーム照射系10よりも小さいビーム径のイオンビームを射出できるものとなっている。このようなビーム径の小さい第2のイオンビーム20Aを用いることで、第1のイオンビーム10Aを用いて試料を加工する場合に比して微細な加工(エッチング、デポジション)が可能である。
【0060】
なお、第2のイオンビーム20Aをヘリウムイオンにより構成すると、単にイオンビームを試料に照射したのでは試料はほとんどエッチングされないが、ガス銃11からエッチングアシスト用のガスを供給しながら第2のイオンビーム20Aを試料に照射することで、実用的な速度で試料を加工することができる。また第2のイオンビーム20Aを、ヘリウムイオンよりも質量の大きいネオンイオンやアルゴンイオンによって構成すれば、加工の効率を向上させることができる。
【0061】
そして、本実施形態の複合集束イオンビーム装置100では、加工寸法の異なる2つのイオンビーム照射系が備えられているため、用途に応じてこれらのイオンビーム照射系を選択し、あるいは組み合わせて用いることができる。
より詳細には、第1の組み合わせとして、ビーム径の大きい第1のイオンビーム照射系10を主に加工用途に用い、ビーム径が小さく試料のスパッタを回避できる第2のイオンビーム照射系20を主に観察用途に用いる組み合わせを例示することができる。
また第2の組み合わせとして、第1のイオンビーム照射系10を試料の粗加工に用い、第2のイオンビーム照射系20を試料の精密加工に用いる組み合わせを例示することができる。
【0062】
本実施形態では、
図2に示したように、第2のイオンビーム照射系20を試料ステージ16の鉛直上方に配置して試料Wa又は試料Wbに対して第2のイオンビーム20Aを鉛直方向に照射する。一方、第1のイオンビーム照射系10は鉛直方向に対して傾いて配置され、試料Wa又は試料Wbに対して斜め方向に第1のイオンビーム10Aを照射する。このように、ヘリウムイオンからなる第2のイオンビーム20Aを鉛直方向に沿って射出させる構成とすれば、観察や加工に際して高精度のステージ制御が容易になり、特に第2のイオンビーム20Aによる加工処理における所望の精度を得やすくなる。
【0063】
なお、第1のイオンビーム照射系10、及び第2のイオンビーム照射系20の配置は、
図2に示したものに限定されず、種々の配置形態を採用することが可能である。例えば、
図2において、第2のイオンビーム照射系20を、試料Wa又は試料Wbに対して斜め方向から第2のイオンビーム20Aを照射するように配置してもよい。
【0064】
図4は、第1のイオンビーム照射系10及び第2のイオンビーム照射系20の配置を変更した複合集束イオンビーム装置100Aを示す図である。
図4に示す複合集束イオンビーム装置100Aでは、試料Waの鉛直上方に第2のイオンビーム照射系20が配置される一方、試料Waの側方に第1のイオンビーム照射系10が配置されている。第1のイオンビーム10Aと第2のイオンビーム20Aとは、互いに略直交するように射出される。
【0065】
図4に示すように第1のイオンビーム10Aと第2のイオンビーム20Aとが互いに略直交するように配置することで、第1のイオンビーム照射系10による試料の加工を、第2のイオンビーム照射系20による観察を行いながら実施することができる。したがって
図4に示す複合集束イオンビーム装置100Aは、TEM(透過型電子顕微鏡)試料の作製やアトムプローブなどのナノオーダーサイズの加工用途に好適に用いることができる。また、第1のイオンビーム照射系10を用いてTEM試料を作製した場合には、試料ステージ16を駆動することなくそのまま第2のイオンビーム照射系20を用いた透過荷電粒子像を得ることができる。
なお、複合集束イオンビーム装置100Aにおいて、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20とを入れ替えて配置してもよいのはもちろんであり、この場合にも同様の作用効果を得ることができる。
【0066】
[加工観察方法及び加工方法]
次に、先の実施形態の複合集束イオンビーム装置100を用いた加工観察方法及び加工方法について、図面を参照しつつ説明する。複合集束イオンビーム装置100は、試料の断面加工観察、TEM(透過型電子顕微鏡)試料の作製及び観察、イオン散乱分光等の試料分析用途、及び、試料への微細構造形成、電子デバイスの配線変更加工等の試料加工用途に好適に用いることができる。
【0067】
<断面加工観察及び試料分析>
図5は、複合集束イオンビーム装置100による試料の断面加工観察方法を示す図である。なお、
図5では図面を見やすくするために試料の一部のみを図示している。
本例の加工観察方法では、第1のイオンビーム照射系10を用いて試料Waを連続的に加工しつつ、加工により露出した試料Waの内部表面に第2のイオンビーム照射系20を照射して試料の断面観察を行う。
【0068】
まず、
図5Aに示すように、試料Waの表面に第1のイオンビーム10Aを走査しつつ照射することで、試料Waの表面部を部分的に除去し、矩形状の凹部Wrを形成する。これにより、凹部Wrの内壁として測定面Ws1が露出する。
次に、
図5Bに示すように、形成した測定面Ws1に対して第2のイオンビーム20Aを照射する。そして、発生した二次電子や二次イオンを二次荷電粒子検出器18で検出し、かかる検出結果に基づいて表示装置38に試料像が表示され、試料Waの特定位置の断面観察を行うことができる。
その後、第1のイオンビーム10Aによる加工を継続すると、
図5Cに示すように、測定面Ws1のさらに内部の構造を、測定面Ws2として露出させることができる。そして、
図5Dに示すように、測定面Ws2に対して第2のイオンビームを照射することで、異なる断面の試料像を得ることができる。
【0069】
ここで、試料Waの表面に第1のイオンビーム10Aを照射して加工することと、加工中の試料Waの表面に第2のイオンビーム20Aを照射して観察することを同時に行うことができる。つまり、試料Waの表面に第1のイオンビーム10Aと第2のイオンビーム20Aとを同時に照射すると、試料Waからは、第1のイオンビーム10Aと第2のイオンビーム20Aの照射によって二次イオンや反射イオンなどが発生する。このうち反射イオンは、入射イオンビームの質量や検出角度に依存するので、他の検出粒子から容易に区別できる。このため、加工中でありながら、第2のイオン検出器18Bによって試料からの反射イオンのみを検出することで、高分解能かつ高コントラストの試料像を得ることができる。このように加工と該加工部分の観察とを同時に行えることは、試料に対してどの程度加工が進んでいるかをリアルタイムで正確に知ることができるため、加工精度を向上させることができる。
【0070】
図5Eに測定プロセスの概略を示すように、本例の加工観察方法では、試料Waの加工と、加工により露出した測定面Ws(Ws1、Ws2)の観察とを連続的に行うことで、試料Waに形成されたデバイス等の断面構造を詳細に解析することができる。
なお、本例の加工観察方法において、試料Waに対して第2のイオンビーム20Aを照射して発生した散乱イオンを検出、分析すれば、イオン散乱分光による試料分析(組成分析)を行うことができる。
【0071】
<TEM試料作製及び観察>
図6は、複合集束イオンビーム装置100によるTEM試料の加工観察方法を示す図である。なお、
図6では図面を見やすくするために試料の一部のみを図示している。
本例の加工観察方法では、試料Wa又は試料Wbの加工に第1のイオンビーム照射系10を用い、加工された試料Wa又は試料Wbの観察に第2のイオンビーム照射系20を用いる。
【0072】
まず、
図6Aに示すように、試料Waの表面に第1のイオンビーム10Aを走査しつつ照射することにより試料Waの表面部を部分的に除去し、TEM試料となる試料Wbの両側に、底面がスロープ状の凹部Wr、Wrを形成する。その後、試料Wbをマニピュレータ17によって支持した状態で試料Waから切り離し、切り離された試料Wbをマニピュレータ17によって試料ホルダ15に移動させる。
そして、
図6Bに示すように、試料ホルダ15上の試料Wbに対して、第2のイオンビーム20Aを照射することで、透過したイオンを透過荷電粒子検出器19で検出し、かかる検出結果に基づいて表示装置38に試料像(透過荷電粒子像)を表示することができる。
【0073】
なお、本例の加工観察方法において、
図6Aに示す試料Waの加工ステップで第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20とを併用こともできる。第2のイオンビーム照射系20は第1のイオンビーム照射系10よりもビーム径の小さい第2のイオンビーム20Aを照射できるので、TEM試料となる部位の周辺部を第1のイオンビーム10Aを用いて粗加工し、TEM試料の仕上げ加工に第2のイオンビーム照射系20とガス銃11とを用いる方法としてもよい。
【0074】
第2のイオンビーム20Aを用いた加工では、第1のイオンビーム10Aと比べてビーム径を小さく絞ることができるため、削りたい部分に集中的にビームを当てることができる。このため、第1のイオンビーム10Aの照射による加工では得ることができなかった、高精度の加工が可能となる。
【0075】
加えて、第2のイオンビーム20Aを用いた加工では、第1のイオンビーム10Aと比べて第2のイオン自体の質量が小さいため、照射したイオンがそのまま試料中に残るといった、試料に与えるダメージがほとんどない。このため、第2のイオンビーム20Aをガス銃11からのエッチングガス雰囲気中で照射することで、事前に行った第1のイオンビーム10Aを照射したときに試料に残るダメージ部分を容易に除去できる。この結果、ダメージ部分の少ないTEM試料を作製することができる。
【0076】
また、
図7はTEM試料を作製する手順を示す図である。ここでは、まず、
図7における左側のスロープ状の凹部Wr(図中Iで示す)を、第1のイオンビーム10Aを照射することで除去する。次に、
図7における右側の部分スロープ状の凹部Wr(図中IIで示す)を、第1のイオンビームを照射することで除去する。これと同時に、除去した左側のスロープ状の凹部WrのTEM試料となる部分Wcに隣接する部分(図中IIIで示す)を第2のイオンビーム20Aを照射することで除去する。次に、除去した右側のスロープ状の凹部WrのTEM試料となる部分Wcに隣接する部分(図中IVで示す)を第2のイオンビーム20Aを照射することで除去する。
【0077】
つまり、このTEM試料作製方法では、2番目の工程で、右側の部分スロープ状の凹部Wr(図中IIで示す)を除去する粗加工と、除去した左側のスロープ状の凹部WrのTEM試料となる部分Wcに隣接する部分を除去する仕上げ加工を同時に行っており、これにより、加工効率の向上を図ることができる。このとき、粗加工を行う際に除去した材料が仕上げ加工部分に再付着することが懸念されるが、双方の加工領域の間には、TEM試料となる部分Wcが存在するので、そのような不具合の発生は生じにくい。また、上記のように粗加工と仕上げ加工を同時の行うときに、第1のイオンの照射によって発生する二次イオンを第1のイオン検出器18Aで検出することができ、しかも、第2のイオンが試料に当たって反射する反射イオンを第2のイオン検出器18Bによって検出することができるので、それら加工部分を同時にモニタリングすることができる。この点においても加工効率の図ることができる。
【0078】
図8、
図9はTEM試料作製工程においてTEM試料となる部分Wcに隣接する部分を除去する場合の加工状況を説明する図である。これらの図は第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20と試料台14との相対的な関係を示すものであり、これらの図において、第1のイオンビーム照射系10が図における上下方向を向くように描いている。
【0079】
ここで、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20は、それらの軸線のなす角度θaが45度〜60度となるように配置されている。そもそも、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20が、それらの開き角度θaを45度〜60度となるように配置できるのは、第2のイオンビーム照射系20のビーム鏡筒の先端部の口径が、SEMの鏡筒よりも小さいからである。すなわち、第2のイオンビーム照射系20の代わりに例えばSEM60を配置する場合、
図9に示すように、SEM60の鏡筒の先端部は磁界レンズ発生用のコイルを設けているため、その口径が第2のイオンビーム照射系20に比べて大きい。また、SEMの場合WD((Working Distance))を大きくとることができない。このため、SEM60と第1のイオンビーム照射系10とを配置する場合、それらの開き角度がどうしても60度よりも広く角度(例えば65度)になってしまう。このように、双方の鏡筒の開き角度が広くなると、次の不具合が生じる。
【0080】
すなわち、第1のイオンビーム10AでTEM試料となる部分Wc近傍を加工する場合には、試料にできるだけダメージを与えないようにビーム電流を下げて加工することが必要になる。この場合、ビーム電流を下げれば下げるほどビーム径が拡がってしまい、ビーム径が拡がることに対応させて試料を傾斜させなければならない。つまり、試料台を大きく傾斜させる必要がある。ところが、前記SEM60と第1のイオンビーム照射系10とを配置する場合では、それらの開き角度が広くなるため、試料台と鏡筒とが干渉してしまう現象が生じ、試料台の傾斜角度(チルト角度)を大きくとることができない。つまり、
図8において試料台を右上がりに傾斜させる場合には比較的大きな角度で傾斜させることができるが、試料台を左上がりに傾斜させる場合には、試料台あるいは試料台に載置した試料とSEM鏡筒とが干渉してしまい、試料台の傾斜角度を大きくとることができなくなってしまう。これを回避するには、試料台を右上がりに傾けてTEM試料となる部分Wcの片側を除去加工した後、試料台を180度旋回させて、TEM試料となる部分Wcの逆側を除去加工すればよいが、この場合、試料台上の試料に対して再度位置決め作業を行わなければならず、この作業が非常に面倒である。
【0081】
ところが、前記実施形態のように、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20の組み合わせの場合には、それらの軸線のなす角度θaが45度〜60度と比較的狭い範囲に設定できるので、試料台14の左右の傾斜角度を大きくとることができる。このため、TEM試料となる部分Wcの左右を、試料台を180度旋回させることなく、第1のイオンビーム10Aによる低ビーム電流の加工が可能になる。
【0082】
<微細構造の形成>
図10は、複合集束イオンビーム装置100による試料への微細構造形成方法(加工方法)を示す図である。
本例の加工方法では、試料Wa又は試料Wbへの微細構造の加工に第1のイオンビーム照射系10、第2のイオンビーム照射系20、及びガス銃11を用いる。
まず、
図10Aに示すように、試料Wa又は試料Wb上にガス銃11からデポジション用ガスを吹き付けながら、第1のイオンビーム10Aを照射することで、例えばカーボンや金属からなる第1の構造物110を形成する。次いで、
図10Bに示すように、第1の構造物110上にガス銃11からデポジション用ガスを吹き付けつつ、第2のイオンビーム20Aを照射して、第1の構造物110上に第2の構造物111を形成する。第2のイオンビーム20Aを用いることで、第1のイオン(例えばガリウムイオン)を混入することなく構造物111を作製することができる。
【0083】
このように、本実施形態の複合集束イオンビーム装置100によれば、ビーム径の大きい第1のイオンビーム10Aを用いたデポジションと、ビーム径の小さい第2のイオンビーム20Aを用いたデポジションを組み合わせて微細構造の形成を行うことができる。したがって、相対的に大きい寸法の第1の構造物110を効率よく形成できるとともに、第1のイオンビーム照射系10では形成できない微小寸法の第2の構造物111についても容易かつ正確に形成することが可能である。
【0084】
なお、
図10ではガスアシストデポジションによる微細構造形成のみを示しているが、必要に応じて第1のイオンビーム10Aによるスパッタ、第2のイオンビーム20Aによるガスアシストエッチングを組み合わせることもできる。したがって本例の微細構造形成方法によれば、所望の形状の微細構造を迅速かつ正確に形成することができる。
【0085】
また、他の加工方法としては、主に第1のイオンビーム照射系10を用いて構造物を形成しつつ、かかる構造物を第2のイオンビーム照射系20を用いて観察する方法も採用できる。このような加工方法とすれば、構造物の仕上がり具合を確認しながら微細加工を施すことができるため、歩留まりよく微細構造を形成することができる。この加工方法は、例えば、極めて尖鋭な先端形状が要求されるアトムプローブの製造(エッチング加工)に好適に用いることができる。
【0086】
<配線変更>
図11は、複合集束イオンビーム装置100によるIC等の配線変更方法(加工方法)を示す図である。
本例の加工方法では、電子回路120における配線変更に第1のイオンビーム照射系10、第2のイオンビーム照射系20、及びガス銃11を用いる。
【0087】
図11Aに示す電子回路120は、論理回路121A〜121C、122A〜122C、123A〜123Cと、回路間を接続する配線群とを備えている。本例における加工対象となる配線は、論理回路121B、122B間を接続する配線125a、論理回路121C、122C間を接続する配線125b、及び論理回路122B、123A間を接続する配線125cである。
【0088】
本例の配線変更方法は、既存の配線を切断する配線切断工程と、配線の接続経路を変更する再配線工程とを有する。
まず、配線切断工程では、
図11Bに示すように、配線125aの切断部127a、配線125bの切断部127b、配線125cの切断部127cのそれぞれに対して第1のイオンビーム10Aを照射することで、配線を切断する。
【0089】
この配線切断工程において、第1のイオンビーム10Aによる加工の状態を、第2のイオンビーム照射系20を用いて観察しつつ加工してもよい。このような加工方法とすることで、配線切断工程を正確に実施することができる。特に、第2のイオンビーム20Aとしてヘリウムイオンビームを用いれば、試料(電子回路120)の表面がスパッタされるのを回避できる。
【0090】
また配線の切断処理を、第2のイオンビーム照射系20とガス銃11とを用いたガスアシストエッチング、あるいはアルゴンイオンからなる第2のイオンビーム20Aの照射によって行うこともできる。さらには、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20とを併用してもよい。すなわち、比較的大きな領域を第1のイオンビーム10Aを用いて加工し、微小領域については第2のイオンビーム照射系20を用いて加工する方法としてもよい。
【0091】
一方、再配線工程では、切断された配線125aのうち論理回路122B側の部分と、配線125bのうち論理回路121C側の部分とを接続するように、ガス銃11から配線形成材料を含むガスを吹き付けつつ第1のイオンビーム10Aを照射し、配線126aを形成する。
また、切断された配線125cのうち論理回路122B側の部分と、論理回路122Cから延びる配線125dとを接続するように、ガス銃11から配線形成材料を含むガスを吹き付けつつ第1のイオンビーム10Aを照射し、配線126bを形成する。
【0092】
この再配線工程において、第1のイオンビーム10Aによる加工の状態を、第2のイオンビーム照射系20を用いて観察しつつ加工してもよい。このような加工方法とすることで、再配線工程を正確に実施することができる。
【0093】
また再配線工程において、第1のイオンビーム10Aに代えて、第2のイオンビーム20Aを用いることもできる。すなわち、第2のイオンビーム照射系20とガス銃11とを用いたガスアシストデポジションにより配線126a、126bを形成することもできる。
さらに再配線工程においても、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20とを併用することができる。すなわち、比較的大きな領域を第1のイオンビーム10Aを用いて加工し、微小領域については第2のイオンビーム照射系20を用いて加工する方法としてもよい。
【0094】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、
図12を参照して説明する。
図12は、本実施形態の複合集束イオンビーム装置200の概略断面図である。なお、
図12において
図1から
図3と共通の構成要素には同一の符号を付し、それらについての詳細な説明は省略する。
【0095】
本実施形態の複合集束イオンビーム装置200は、
図12に示すように、第1のイオンビーム照射系10及び第2のイオンビーム照射系20に加えて、第3のイオンビーム40Aを射出する第3のイオンビーム照射系40を備えている。イオンビーム照射系10,20,40は、それらから射出する第1のイオンビーム10A、第2のイオンビーム20A、及び第3のイオンビーム40Aを、試料Wa(又は試料Wb)に対して照射可能に真空室13に固定されている。
【0096】
第3のイオンビーム照射系40は、プラズマ型ガスイオン源44と、イオン光学系45とを備えている。プラズマ型ガスイオン源44は、例えば、内部にプラズマを維持しつつ第3のイオンを流出させるプラズマ発生器と、プラズマ発生器から第3のイオンを引き出す引出オリフィスと、引出オリフィスを通過した第3のイオンを静電的に加速する引出電極とを備えて構成される。
【0097】
プラズマ型ガスイオン源44においてプラズマを形成するプラズマガスには希ガスが用いられる。すなわち、プラズマガスはネオン、アルゴン、キセノン、クリプトンから選ばれる1種又は複数種のガスであることが好ましく、これらのうちでもアルゴン又はキセノンを用いることがより好ましい。
【0098】
引出電極から引き出された第3のイオンはビームの形で射出され、イオン光学系45によってイオン光学的操作を加えられて集束され、集束イオンビーム(第3のイオンビーム)40Aとして試料Waに照射される。
ここで、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20と第3のイオンビーム照射系40は、
図13に示すように、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20の軸がステージチルト軸Cと直交し、かつ第3のイオンビーム照射系40の軸と前記ステージチルト軸Cが同一平面内に位置するように配置されている。
【0099】
イオン光学系45は、例えば、プラズマ型ガスイオン源44側から真空室13側に向けて順に、イオンビームを集束するコンデンサーレンズと、イオンビームを絞り込む絞りと、イオンビームの光軸を調整するアライナと、イオンビームを試料に対して集束する対物レンズと、試料上でイオンビームを走査する偏向器とを備えて構成される。
【0100】
上記構成を備えた本実施形態の複合集束イオンビーム装置200は、先の第1実施形態の複合集束イオンビーム装置100と同様の試料の分析、加工が可能であるのに加え、第1のイオンビーム照射系10及び第2のイオンビーム照射系20に加えて第3のイオンビーム照射系40を備えていることで、第1の実施形態よりも多様な観察、加工処理に対応可能な複合集束イオンビーム装置となっている。
【0101】
例えば、液体金属イオン源34を備えた第1のイオンビーム照射系10による加工の後に、第3のイオンビーム照射系40を用いて試料表面をクリーニング処理することで、第1のイオンビーム10Aの照射によって試料に注入されたガリウムイオン等を除去することができる。
【0102】
また、TEM試料の作製において、第1のイオンビーム照射系10を用いて微小な試料Wbを大型の試料Waから切り出し、切り出した後の試料Wbを第1のイオンビーム照射系10又は第2のイオンビーム照射系20を用いて仕上げ加工することもできる。このとき、第2のイオンビーム照射系20を用いて仕上げ状態を観察することができる。そして、仕上がった試料Wbで液体金属イオン照射によるダメージ部分を第3のイオンビーム照射系40を用いてクリーニング処理することでダメージ部分の少ないTEM試料を作製することができる。
【0103】
また、前記第1のイオンビーム照射系10と前記第2のイオンビーム照射系20と前記第3のイオンビーム照射系40は、第1のイオンビーム照射系10と第2のイオンビーム照射系20の軸がステージチルト軸Cと直交し、かつ第3のイオンビーム照射系40の軸と前記ステージチルト軸Cが同一平面内に位置するように配置されているので、それらイオンビーム照射系から照射される各イオンビームの試料に対する角度設定が容易になり、加工性を向上させることができる。
【0104】
さらに、配線変更処理において、第1のイオンビーム照射系10を用いた加工の後に、第3のイオンビーム照射系40を用いたクリーニング処理や、加工時に絶縁膜に形成された孔部の埋め戻しを行えば、第1のイオンビーム10Aによる注入イオンを除去しつつ、試料の回復処理を実施することができる。