(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6118865
(24)【登録日】2017年3月31日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 1/08 20060101AFI20170410BHJP
【FI】
B63B1/08 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-188459(P2015-188459)
(22)【出願日】2015年9月25日
(65)【公開番号】特開2017-61270(P2017-61270A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2017年2月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】山本 虎卓
(72)【発明者】
【氏名】秋林 秀聡
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智
(72)【発明者】
【氏名】岡 沙織
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−119695(JP,U)
【文献】
特開平8−318896(JP,A)
【文献】
特開平8−216992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾においてプロペラの前方に船尾バルブを備え、
該船尾バルブの後側下部に垂直部材を下方に突出して設けており、
前記垂直部材を、船体の前後方向に関しては、その後端が船尾ボス後端よりも後方に位置するように連続して配置していると共に、
前記垂直部材の幅を20mm以上で、且つプロペラ直径の25%以下に形成していることを特徴とする船尾バルブ付き船舶。
【請求項2】
船尾においてプロペラの前方に船尾バルブを備え、
該船尾バルブの後側下部に垂直部材を下方に突出して設けており、
前記垂直部材の下部に水平方向に展開する保針力増加部材を設けており、
前記保針力増加部材の船体の前後方向の取付け範囲に関しては、その前端を、船尾垂線から垂線間長の15%前方の第1位置と船尾垂線から垂線間長の10%前方の第2位置との間の第1領域に配置し、その後端を、プロペラボスの前端からプロペラ直径の30%前方の第3の位置と前記プロペラの直前の第4の位置との間の第2領域に配置していると共に、
前記保針力増加部材を船体の上下方向に関してはプロペラ中心よりプロペラ半径の半分下の位置から船底面の延長上までの間の第3領域に配置していることを特徴とする船尾バルブ付き船舶。
【請求項3】
前記保針力増加部材を、船体の後方から見たときに、凹凸部若しくはトンネル部を有する形状に形成、又は、折れ曲がり形状若しくは波打ち形状となる板状形状に形成していることを特徴とする請求項2に記載の船尾バルブ付き船舶。
【請求項4】
前記保針力増加部材の後端の位置を前記垂直部材の後端の位置にしていることを特徴とする請求項2又は3に記載の船尾バルブ付き船舶。
【請求項5】
前記垂直部材を船体と一体構造で形成していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の船尾バルブ付き船舶。
【請求項6】
前記垂直部材の後端部の形状を、船体の側面から見て、前記プロペラの回転面の凹凸に合わせて凹凸の形状に形成していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の船尾バルブ付き船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船尾においてプロペラの前方に船尾バルブを備え、旋回初期において旋回モーメントに対抗する反旋回モーメントを増加させて進路安定性を向上させると共に、船尾バルブにおける整流効果を維持して推進性能の低下を防止する船尾バルブ付き船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、船舶の船尾において、
図10〜
図12に示すように、プロペラ10の前方のプロペラ推進軸12まわりに、回転体類似の形状をした船尾バルブ20を備える船尾バルブ付き船舶1Xが採用されてきている。この船尾バルブ付き船舶はある程度以上の速力を要求される高速船に採用されてきたが、最近では低速船や中速船にも適用することが考えられてきている。この船尾バルブ付き船舶の船尾バルブは、船首バルブのような造波抵抗の低減効果よりも、プロペラに流れ込む伴流を多く集め、かつ、流入する流れの平滑化によって、プロペラ円周に沿ってできるだけ流速が均一になるような流れを作って、船体とプロペラとの相互干渉を改善すること、即ち、推進性能の向上を目的に設けられている。また、均一な流れとしたことで振動の低減効果もある。
【0003】
しかしながら、この船尾バルブ付き船舶の場合には、特に肥大船では、船尾船側部から船底部へ流れ込む水流が円滑に流れてしまうため、旋回初期に、船尾部分で発生する横力による反旋回モーメントが小さく、保針性能が低下して、針路不安定になってしまうという問題がある。
【0004】
これに関連して、船尾にスケグを設けて、このスケグの下端に水平に張り出した平板を装着して、この平板により、船体の旋回時に、船尾船側部から船底部に流れ込む水流を堰止めて、船体に横力を発生させ、この横力が旋回力を減衰させる方向に作用することで、船舶の針路安定性を向上させる船体の針路安定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
更に、船尾バルブ船型の船舶において、垂直フィンの下端に固定された水平板の両舷端部に垂直端板を設けて、旋回時に垂直の流れをせき止めて、旋回時の針路の安定化を図っている船舶の針路安定フィンが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この船舶の針路安定フィンでは、垂直端板も、さらに流れをせき止める作用をすることになり、垂直フィンが垂直の流れに対して大きな抵抗を与えるとされている。また、水平板は上から見て台形状に形成され、その中心軸で垂直フィンの下端に固定されている。
【0006】
しかしながら、この水平板の両舷端部の垂直端板は、水平板の上の流れを規制しているが、この垂直端板の前端は垂直フィンの後部に配置されており、垂直フィンの後部より下流側で水平板の上の流れを規制するので、垂直フィンに対する垂直端板の影響や効果は殆ど無いと考えられる。また、船尾バルブが集めた伴流が大きく乱されることにより推進性能の低下を招くと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−216992号公報
【特許文献2】特開平8−318896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、多くの実験と思考の結果、保針性能と推進性能の両方を兼ね揃えた垂直部材を採用することにより、旋回時に旋回方向と反対側の舷側の船尾において垂直部材に横方向から流入してくる水流が下方に流れるのを効果的にせき止めるだけでなく、船尾船側から旋回方向側の船側の船尾において船尾バルブによって整流された流れを剥離などで乱すことなくプロペラに流入させることにより、船体に旋回モーメントを減衰させる方向に作用する横力及びこの横力による反旋回モーメントを増加させることができるので、船尾バルブ付き船舶においても優れた針路安定性を得ることができるとの知見を得た。
【0009】
また、保針性能と推進性能の両方を兼ね揃えた垂直部材を採用することにより、旋回側と反対舷側と旋回側と同じ舷側の両方において、船尾バルブが集めた伴流を乱すことなくプロペラに流れ込ませることができ、これにより、推進性能の低下を抑制することができるとの知見も得た。
【0010】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、船尾バルブにより直進時における推進性能の改善と振動の低減を得ることができると共に、旋回初期においても、旋回モーメントに対抗する比較的大きな反旋回モーメントを得られて、優れた針路安定性と推進性能の低下に対する抑制効果を得ることができる船尾バルブ付き船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような目的を達成するための船尾バルブ付き船舶は、船尾においてプロペラの前方に船尾バルブを備え、該船尾バルブの後側下部に垂直部材を下方に突出して設けて
おり、前記垂直部材を、船体の前後方向に関しては、その後端が船尾ボス後端よりも後方に位置するように連続して配置していると共に、前記垂直部材の幅を20mm以上で、且つプロペラ直径の25%以下に形成していることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、船体の旋回初期に、船尾船側側から反対舷に流れ込む水流を受ける垂直部材の面で、船体に生じる旋回モーメントに対抗する横力を発生させることができ、船尾バルブが集めた伴流を乱すことなくプロペラに流れ込ませることにより、保針性能の向上と推進性能の低下の抑制を得ることができる。
【0013】
また、上記の垂直部材の後端が船尾ボス後端よりも後方に位置していることにより、旋回初期において、垂直部材で発生する横力の大きさをより大きくすることができると共に、横力の作用点を船体後方に移動させることができるので、旋回モーメントに対抗する反旋回モーメントをより大きくすることができる。
【0014】
また、垂直部材を連続して配置していることにより、旋回初期において発生する横力の大きさを大きくすることができる。なお、垂直部材を船体の前後方向に複数に分割して相互の前後方向の間に隙間を設けた場合には、横からの流れにより水流がこの隙間に入り、船尾バルブで整流された水流を乱すことになるが、この構成では垂直部材を連続して形成しているので、このような水流の乱れを回避できる。
【0015】
また、垂直部材の幅をプロペラ直径の25%以下としていることにより、船尾バルブが集めた伴流を乱すことなくプロペラに流れ込ませることができる。
【0016】
上記のような目的を達成するための別の船尾バルブ付き船舶は、船尾においてプロペラの前方に船尾バルブを備え、該船尾バルブの後側下部に垂直部材を下方に突出して設けており、前記垂直部材の下部に水平方向に展開する保針力増加部材を設けており、前記保針力増加部材の船体の前後方向の取付け範囲に関しては、その前端を、船尾垂線から垂線間長の15%前方の第1位置と船尾垂線から垂線間長の10%前方の第2位置との間の第1領域に配置し、その後端を、プロペラボスの前端からプロペラ直径の30%前方の第3の位置と前記プロペラの直前の第4の位置との間の第2領域に配置していると共に、前記保針力増加部材を船体の上下方向に関してはプロペラ中心よりプロペラ半径の半分下の位置から船底面の延長上までの間の第3領域に配置していることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、船体の旋回初期に、船尾船側側から反対舷に流れ込む水流を受ける垂直部材の面で、船体に生じる旋回モーメントに対抗する横力を発生させることができ、船尾バルブが集めた伴流を乱すことなくプロペラに流れ込ませることにより、保針性能の向上と推進性能の低下の抑制を得ることができる。
【0018】
また、前記垂直部材の下部に水平方向に展開する保針力増加部材を設けていると、この保針力増加部材により、右舷側(若しくは左舷側)に船体が旋回し始めたときには、反対舷の左舷側(若しくは右舷側)においては、垂直部材に流入する横方向からの水流が垂直部材に衝突して下方に流出するのを保針力増加部材で妨げて垂直部材に沿わせて後方に流すことにより、横方向の流れによる横方向力の減少を防止することができ、旋回モーメントに対抗する横力を増加することができ、保針性能の向上と推進性能の低下の抑制を図ることができる。
【0019】
また、前記保針力増加部材の船体の前後方向の取付け範囲に関しては、その前端を、船尾垂線から垂線間長の15%前方の第1位置と船尾垂線から垂線間長の10%前方の第2位置との間の第1領域に配置し、その後端を、プロペラボスの前端からプロペラ直径の30%前方の第3の位置とプロペラの直前の第4の位置との間の第2領域に配置していると共に、前記保針力増加部材を船体の上下方向に関してはプロペラ中心よりプロペラ半径の半分下の位置から船底面の延長上までの間の第3領域に配置していると、保針力増加部材の作用効果をより高めることができる。
【0020】
上記の船尾バルブ付き船舶において、前記保針力増加部材を、船体の後方から見たときに、凹凸部若しくはトンネル部を有する形状に形成、又は、折れ曲がり形状若しくは波打ち形状となる板状形状に形成していると、次のような効果を発揮できる。
【0021】
特に、保針力増加部材に凹凸部又はトンネル部を設けていることで、垂直部材に沿って下方に向かう流れを妨げるだけの水平板に比べて、垂直部材に沿って下方に向かう水流が側方に流出するのを凹部(船体の後方から見て)によって妨げて後方に導くことができ、また、船尾バルブで整流された流れを保針力増加部材の凹凸部又はトンネル部に沿って後方に導くことができるので、旋回開始時においても、プロペラに流入する水流が乱れることを抑制でき、推進効率の低下の抑制を図ることができる。
【0022】
また、それと共に、旋回方向と同じ側の舷側である右舷側(若しくは左舷側)においては、船尾バルブから流れてくる水流を保針力増加部材の凹凸部分またはトンネル部分により垂直部材に沿って流すことで、船尾バルブから流れてくる水流が垂直部材から剥離して渦流が発生するのを抑制でき、渦流発生による進路の不安定化を防止でき、また、プロペラに流入する水流の乱れも抑制できるので、推進効率の低下の抑制を図ることができる。
【0023】
また、保針力増加部材を折れ曲がり形状又は波打ち形状となる板状形状で形成していると、単純で加工し易い形状になり、強度面でも水平板より強度が向上する。
【0024】
上記の船尾バルブ付き船舶において、前記保針力増加部材の後端の位置を前記垂直部材の後端の位置にしていると、垂直部材と保針力増加部材の組み合わせによる流れの整流効果を効率よく発揮することができる。
上記の船尾バルブ付き船舶において、前記垂直部材を船体と一体構造で形成していると、大きな横力が発生する垂直部材を強固に船体に固定することができる。
【0025】
上記の船尾バルブ付き船舶において、前記垂直部材の後端部の形状を、船体の側面から見て、プロペラの回転面の凹凸に合わせて凹凸の形状に形成していると、垂直部材の面積を最大限に大きくできるので、垂直部材とプロペラとの間の隙間を最小限にすることができる。従って、旋回開始時における旋回に対抗する横力の増加効果とプロペラに流入する水流の乱れの抑制効果を極めて大きくすることができ、保針性能の向上と推進性能の低下の抑制をより図ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の船尾バルブ付き船舶によれば、船尾バルブにより直進時における推進性能の向上と振動の低減を得ることができると共に、旋回初期においても、旋回モーメントに対抗する大きな横力とこの横力による反旋回モーメントを得られて、針路安定性に対する効果と推進性能の低下に対する抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施の形態の船尾バルブ付き船舶における船尾の構成を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図1の船尾バルブ付き船舶における船尾バルブと垂直部材と保針力増加部材の配置を模式的に示す背面図である。
【
図3】
図1の船尾バルブ付き船舶における船尾バルブと垂直部材と保針力増加部材の配置を模式的に示す平面図である。
【
図4】垂直部材と折り曲げ形状の保針力増加部材を示す斜視図である。
【
図5】折り曲げ形状の保針力増加部材を示す背面図である。
【
図6】折り曲げ形状の保針力増加部材を示す平面図である。
【
図7】折り曲げ形状の保針力増加部材を示す側面図である。
【
図8】波打ち形状の保針力増加部材を示す背面図である。
【
図9】トンネル部を有する保針力増加部材を示す背面図である。
【
図10】従来技術の船尾バルブ付き船舶における船尾の構成を模式的に示す側面図である。
【
図11】
図10の船尾バルブ付き船舶における船尾バルブの形状を模式的に示す背面図である。
【
図12】
図10の船尾バルブ付き船舶における船尾バルブの形状を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施の形態の船尾バルブ付き船舶について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、この船尾バルブ付き船舶1は、船尾部においては、船側外板2と船底3と舵4とプロペラ10を有しており、このプロペラ10はプロペラボス11に接続され、このプロペラボス11は、プロペラ推進軸12にプロペラボスキャップ13で固定されている。
【0029】
また、
図1〜
図3に示すように、船尾のプロペラ推進軸12の周辺に回転体類似の形状をした船尾バルブ20を有しており、この船尾バルブ20により、プロペラ10に流入する水流を平滑化して、プロペラ10の円周Cpに沿って均一な伴流分布を作り、これにより、船体とプロペラ10との相互干渉を改善して自航要素の改善を図っている。
【0030】
そして、本発明においては、この船尾バルブ付き船舶1は、船尾にこの船尾バルブ20を備えていると共に、この船尾バルブ20の後側下部に垂直部材22を下方に突出して設けている。この垂直部材22は船体と一体構造で形成されており、これにより、大きな横力が発生する垂直部材22を強固に船体に固定している。
【0031】
これにより、船体の旋回初期に、船尾船側側から反対舷に流れ込む水流を受ける垂直部材22の面で、船体に生じる旋回モーメントに対抗する横力を発生させることができ、船尾バルブ20が集めた伴流を乱すことなくプロペラ10に流れ込ませることにより、保針性能の向上と推進性能の低下の抑制を図る。
【0032】
また、垂直部材22は、船体の前後方向に関しては、その後端が船尾ボス後端Xpよりも後方に位置するように連続して配置している。これにより、旋回初期において、垂直部材22で発生する横力の大きさをより大きくすることができると共に、横力の作用点を船体後方に移動させることができるので、旋回モーメントに対抗する反旋回モーメントをより大きくすることができる。
【0033】
また、垂直部材22を連続して配置していることにより、垂直部材22を船体の前後方向に複数に分割して相互の前後方向の間に隙間を設けた場合に比べて、旋回初期において発生する横力の大きさを大きくすることができる。つまり、船尾ボス後端が船体より後方に位置する一般的な船尾バルブ付き船舶では、隙間があると横からの流れにより水流がこの隙間に入り、船尾バルブ20で整流された水流を乱すことになるが、この構成では、垂直部材22を連続して形成し、隙間が無いので、このような水流の乱れを回避できる。
【0034】
更に、垂直部材22の幅を20mm以上で、且つプロペラ直径Dpの25%以下に形成している。このように、垂直部材22の幅をプロペラ直径Dpの25%以下としていることにより、船体直進時における垂直部材22の抵抗を少なくすることができる。なお、下限は強度上必要な板厚となり、ここでは、この板厚は、船舶の大きさ等によっても異なってくるため、ここでは、強いて下限値を設けるときはゼロではない数値として20mmを採用する。これにより、適当な強度を維持しつつ、船尾バルブが集めた伴流を乱すことなくプロペラに流れ込ませることができるようになる。
【0035】
また、垂直部材22の後端部の形状を、船体の側面から見て、プロペラ10の回転面の凹凸に合わせて凹凸の形状に形成していると、垂直部材22の面積を最大限に大きくできるので、垂直部材22とプロペラ10との間の隙間を最小限にすることができる。従って、旋回開始時における旋回に対抗する横力の増加効果とプロペラ10に流入する水流の乱れの抑制効果を極めて大きくすることができ、保針性能の向上と推進性能の低下の抑制を図ることができる。
【0036】
そして、さらに、この垂直部材22で水平方向に展開する保針力増加部材21を支持している構成とする。この保針力増加部材21により、右舷側(若しくは左舷側)に船体が旋回し始めたときには、反対舷の左舷側(若しくは右舷側)においては、垂直部材22に流入する横方向からの水流が垂直部材22に衝突して下方に流出するのを保針力増加部材21で妨げて垂直部材22に沿わせて後方に流すことにより、横方向の流れによる横方向力の減少を防止することができ、旋回モーメントに対抗する横力を増加することができ、保針性能の向上と推進性能の低下の抑制を図る。
【0037】
また、保針力増加部材21を、船体の後方から見たときに、凹凸部若しくはトンネル部を有する形状に形成している。又は、折れ曲がり形状(
図2、及び
図4〜
図7)若しくは波打ち形状(
図8)となる板状形状に形成している。また、
図9にトンネル形状を示す。なお、この折り曲げ形状や波打ち形状では凹凸は片舷一つだけでなく、複数あってもよい。また、トンネル部も片舷一つだけでなく、複数あってもよい。
【0038】
この保針力増加部材21により、旋回開始時における旋回に対抗する横力の増加とプロペラ10に流入する水流の乱れの抑制により、保針性能の向上と推進性能の低下の抑制を図る。つまり、右舷側(若しくは左舷側)に船体が旋回し始めたときには、反対舷の左舷側(若しくは右舷側)においては、垂直部材22に流入する横方向の水流が垂直部材22に衝突して下方及び横方向に流出するのを、保針力増加部材21の凹凸部で妨げて垂直部材22に沿わせて後方に流すことにより、横力の減少を防止する。
【0039】
特に、保針力増加部材21に凹凸部又はトンネル部を設けていることで、垂直部材22に沿って下方に向かう流れを妨げるだけの水平板に比べて、垂直部材22に沿って下方に向かう水流が側方に流出するのを凹部(背面から見て(
図5)凹形状の誘導路21aの部分)によって妨げて後方に導くようにする。つまり、垂直部材22に沿って下方に向かう水流を、凹部となる凹形状の誘導路21aに沿って後方に導いて横方向に流れるのを妨げる。また、船尾バルブ20で整流された流れを保針力増加部材21の凹凸部の誘導路21a、21b又はトンネル部の誘導路21cに沿って後方に導く。これにより、船尾バルブ20で整流された流れを保針力増加部材21の凹凸部又はトンネル部に沿って後方に導いて、旋回開始時においても、プロペラ10に流入する水流が乱れることを抑制して、推進効率の低下量を減少させる。
【0040】
また、それと共に、旋回方向と同じ側の舷側である右舷側(若しくは左舷側)においては、船尾バルブ20から流れてくる水流を保針力増加部材21の凹凸部またはトンネル部により構成される凹形状の誘導路21aや凸形状の誘導路21bやトンネル形状の誘導路21c等により垂直部材22に沿って流すことで、船尾バルブ20から流れてくる水流が垂直部材22から剥離して渦流が発生するのを抑制して、渦流発生による進路の不安定化を防止する。また、プロペラ10に流入する水流の乱れも抑制して、推進効率の低下量を減少させる。
【0041】
また、保針力増加部材21を折れ曲がり形状又は波打ち形状となる板状形状で形成していることで、単純で加工し易い形状にして、強度面でも水平板より強度を向上させることが好ましい。
【0042】
更に、保針力増加部材21の後端の位置を垂直部材22の後端の位置としていることが好ましく、この場合には、保針力増加部材21と垂直部材22の組み合わせによる流れの整流効果を効率よく発揮することができる。言い換えれば、保針力増加部材21で下方に流れる水流を阻止し、この阻止した水流を垂直部材22に沿わせることができるので、水流により垂直部材22で発生する横力を増加することができ、反旋回モーメントを大きくすることができる。つまり、垂直部材22と保針力増加部材21の組み合わせによる流れの整流効果が効率よく発揮されるようになる。
【0043】
また、保針力増加部材21の船体の前後方向の取付け範囲に関しては、その前端を、船尾垂線A.P.から垂線間長Lppの15%前方の第1位置X1と船尾垂線A.P.から垂線間長Lppの10%前方の第2位置X2との間の第1領域R1に配置し、その後端を、プロペラボスの前端からプロペラ直径Dpの30%前方の第3の位置X3とプロペラ10の直前の第4の位置X4との間の第2領域R2に配置している。これにより、保針力増加部材21の作用効果をより高める。
【0044】
それと共に、保針力増加部材21を船体の上下方向に関してはプロペラ中心Pcよりプロペラ半径(Dp/2)の半分下の位置Z1から船底面3の延長上(ベースラインB.L.)までの間の第3領域R3に配置している。この上下方向に関して適正な範囲に配置された保針力増加部材21と、前後方向に連続する垂直部材22により、旋回開始時において、船尾バルブ20からの流れが乱れるのを抑制しながらプロペラ10に流入させることができ、前後方向に連続している垂直部材22により、旋回初期において発生する横力の大きさを大きくすることができる。
【0045】
なお、このプロペラ10の直前とは、回転しているプロペラ10に接触しない程度の距離だけ前方ということである。なお、一般にプロペラ10の前縁は直径方向に関して前側に凸形状となっているので、第4の位置は、保針力増加部材21の後端の上下位置(高さ)によって変化することになる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の船尾バルブ付き船舶によれば、船尾バルブにより直進時における推進性能の向上と振動の低減を得ることができると共に、旋回初期においても、旋回モーメントに対抗する大きな横力とこの横力による反旋回モーメントを得られて、針路安定性に対する効果と推進性能の低下に対する抑制効果を得ることができるので、多くの船舶、特に効果の大きい肥大船に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 船尾バルブ付き船舶
2 船側外板
3 船底
4 舵
10 プロペラ
11 プロペラボス
12 プロペラ推進軸
13 プロペラボスキャップ
20 船尾バルブ
21 保針力増加部材
21a 船体の後方から見て凹部となる凹形状の誘導路
21b 船体の後方から見て凸部となる凸形状の誘導路
21c トンネル部の誘導路
22 垂直部材
Cp プロペラの円周
Dp プロペラ直径
R1 第1領域
R2 第2領域
X1 船尾垂線から垂線間長の15%前方の第1位置
X2 船尾垂線から垂線間長の10%前方の第2位置
X3 プロペラボスの前端からプロペラ直径の30%前方の第3の位置
X4 プロペラの直前の第4の位置
Xp 船尾ボス後端
Z1 プロペラ中心よりプロペラ半径の50%下の位置