【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/要素技術開発/高容量・低コスト新規酸化物正極材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0082】
以下、実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例、比較例に限定されるものではない。
【0083】
実施例1
30%硫酸チタン(IV)水溶液40.00 g、及び塩化マンガン(II)4水和物39.58 g (全量0.25 mol、Ti:Mnモル比=2:8)を500 mlの蒸留水に加え、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水1000 mlに無水水酸化リチウム60 gを溶解させた溶液)を作製した。この水酸化リチウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ攪拌した。攪拌された水酸化リチウム水溶液に上記金属塩水溶液を2〜3時間かけ、室温にて徐々に滴下して、Ti-Mn沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で1日間空気を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させた。
【0084】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿生成物を水酸化リチウム1水和物50
g、及び蒸留水600 mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220 ℃で5時間水熱処理した。
【0085】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオー
トクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過および100 ℃で乾燥することにより、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0086】
比較例1
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例1と同様にして行い、、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 g
を蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加して、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。
【0087】
次いで、得られた粉末を窒素中で一時間かけて500 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。
X線回折による評価
図2に、実施例1および比較例1で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。こ
れらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater.
Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表1に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0088】
【表1】
【0089】
図2に示す実施例1で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告されている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi
2MnO
3の単位胞(空間群
【0090】
【数2】
【0091】
a=4.937(1) Å , b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å ,β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)と、立方晶岩
塩型構造を有するLi
2TiO
3の単位胞(空間群
【0092】
【数3】
【0093】
a=4.1405(3)Å, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Shigemura, K. Ado, H. Kobayashi, H. Sakaebe, K. Tatsumi, H. Kageyama, T. Nakamura and R. Kanno, Chemistry of Materials, 13, 1747-1757 (2003). )を用いて指数付けが可能であり、両結晶相が共存している構造モデルでフィット可能であることがわかった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表1から72:28であった。
【0094】
一方、比較例1で得られた試料のXRD回折図は、上記単斜晶層状岩塩型構造を有するLi
2M
nO
3結晶相単相で問題なくフィット可能であった。
【0095】
以上のことから、実施例1及び比較例1で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0096】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi
2MnO
3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施
例1および比較例1で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表2に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0097】
【表2】
【0098】
表2に示す元素分析結果から、上記方法で得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx
値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0099】
Mnの価数については、実施例1で得られた試料では、比較例1で得られた試料やLi
2MnO
3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例1で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0100】
比較例1で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0101】
充放電特性評価
実施例1および比較例1で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、以下の電池構成及び充放電試験条件で充放電試験を行った。結果を下記表3及び
図3に示す。
電池構成及び充放電試験条件:
正極:活物質5 mg+AB 5mg+PTFE 0.5mgを混合しAlメッシュ上に圧着
負極:金属リチウム
電解液:LiPF
6をEC+DMC溶媒中に溶解させたもの
試験温度:30 ℃
電流密度(活物質あたり):40 mA/g、
電位範囲:1.5-4.8 V(初期充電のみ5.0Vまでの定電流―定電圧充電(10 mA/gに下がるまで))
AB:アセチレンブラック、PTFE:ポリテトラフルオロエチレン、EC:エチレンカーボネート、DMC:ジメチルカーボネート
【0102】
【表3】
【0103】
図3および表3に示す結果より、実施例1で得られた試料は、比較例1で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は同等であった。その結果、実施例1で得られた試料は、初期充放電効率が97%であり、比較例1で得られた試料(初期充放電容量67 %)と比較して、初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0104】
尚、実施例1で得られた試料は、初期放電エネルギー密度、平均初期放電電圧、及び10サイクル後放電容量が、比較例1で得られた試料とほぼ同等であることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例1で得られた試料は、比較例1で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0105】
また、実施例1で得られた試料は、初期充電曲線の形状が比較例1の試料と大きく異な
るものである。前述した参考文献1によると、Li
2MnO
3は初期充電時に4.5 V付近にLi
2O脱離に伴う電位平坦部が出現するが、4.5Vに達するまでの容量は20 mAh/gと報告されている。これに対して、実施例1で得られた試料は、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が53 mAh/gに達し、参考文献1に記載されたLi
2MnO
3の値(20 mAh/g)および比較例1の試料の値(19 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi
2MnO
3系正極が作製できていると考えられる。
【0106】
次いで、
図3に示す実施例1の試料の初期放電曲線をみると、2.0 V以下の容量はかな
り小さいことが判明したので、より狭い電位範囲、具体的には放電下限電圧を1.5 Vから2.0 Vに上げて充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vと
したこと以外は、上記充放電試験と同様である。結果を
図4および表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
図4及び表4から明らかなように、実施例1で得られた試料は、下限電圧を2.0 Vとしても初期充放電効率は78%を確保しており、比較例1で得られた試料の値(54 %)より大きく、初期平均放電電圧は3.3 Vに向上していることがわかる。また10サイクル後の放電容量も219 mAh/gを確保しており、比較例1で得られた試料の値(191 mAh/g)より大きく、初期放電エネルギー密度も実施例1で得られた試料の方が大きいことが判る。
【0109】
以上のことから、実施例1で得られた3.9価以下のMn価数を有する試料は、より電位範囲の狭い2.0-4.8 Vの条件でも、比較例1で得られたMn価数が3.9価を超える試料と比較して
充放電特性上優れたものであることが明らかである。
【0110】
実施例2
30%硫酸チタン(IV)水溶液を100.00 gと塩化マンガン(II)4水和物を24.74 g (全量0.25mol、Ti:Mnモル比=5:5)用い、水熱処理時に、沈殿物及び水酸化リチウムに、更に、水酸化カリウム309gを加えた水溶液を用いること以外は、実施例1と同様にして、粉末状生成物(リチウムマンガン酸化物)を得た。
【0111】
比較例2
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例2と同様にして行い、、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 g
を蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加して、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。 次いで、得られた粉末を窒素中で一時間かけて600 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。
【0112】
X線回折による評価
図5に、実施例2および比較例2で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater.
Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表5
に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0113】
【表5】
【0114】
図5に示す実施例2で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告され
ている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi
2MnO
3の単位胞(空間群
【0115】
【数4】
【0116】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)と、立方晶岩塩型構造を有するLi
2TiO
3の単位胞(空間群
【0117】
【数5】
【0118】
a=4.1405(3) Å, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Shigemura, K. Ado, H. Kobayashi, H.
Sakaebe, K. Tatsumi, H. Kageyama, T. Nakamura and R. Kanno, Chemistry of Materials, 13, 1747-1757 (2003). )を用いて指数付けが可能であり、両結晶相が共存している構造モデルでフィット可能であることがわかった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表5から33:67であった。
【0119】
一方、比較例2で得られた試料のXRD回折図は、同様の2相構造モデルで問題なくフィット可能であった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表5
から52:48であった。
【0120】
以上のことから、実施例2及び比較例2で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0121】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi
2MnO
3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施
例2および比較例2で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表6に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0122】
【表6】
【0123】
表6に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0124】
Mnの価数については、実施例2で得られた試料では、比較例2で得られた試料やLi
2MnO
3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例2で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0125】
比較例2で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9を上回る値となったと考えられる。
【0126】
充放電特性評価
実施例2及び比較例2で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとした
こと以外は、実施例1における上記充放電試験と同様とした。結果を下記表7及び
図6に示す。
【0127】
【表7】
【0128】
図6よび表7に示す結果より、実施例2で得られた試料は、比較例2で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例2で得られた試料は、初期充放電効率が70%であり、比較例2で得られた試
料(初期充放電容量44 %)と比較して初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0129】
尚、実施例2で得られた試料は、初期放電エネルギー密度、平均初期放電電圧、及び10サイクル後放電容量が、比較例2で得られた試料とほぼ同等であることから、3.9価以下
のMn価数を有する実施例2で得られた試料は、比較例2で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0130】
また、実施例2で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例2の試料と大きく異なるものであり、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が34 mAh/gに達し、上記した参
考文献1に記載されたLi
2MnO
3の値(20 mAh/g)および比較例2の試料の値(14 mAh/g)
に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元され
たMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果と
して初期充放電可逆性に優れたLi
2MnO
3系正極が作製できていると考えられる。
【0131】
実施例3
実施例2と同様にして、Mn原料およびTi原料の秤量、共沈物作製、及び沈殿熟成処理を行った。
【0132】
次いで、得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿物を水酸化リチウム1水和物50g、水酸化カリウム309g、亜硫酸ナトリウム7水和物50g、及び蒸留水600mlとともに
ポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れて、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で8時間水熱処理した。
【0133】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過および100℃で乾燥することにより、目的物である
粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0134】
比較例3
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例3と同様にして行い、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 gを
蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加し、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。 次いで得られた粉末を窒素中で一時間かけて600 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。
【0135】
X線回折による評価
図7に、実施例3および比較例3で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater.
Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表8
に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0136】
【表8】
【0137】
図7に示す実施例3で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告され
ている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi
2MnO
3の単位胞(空間群
【0138】
【数6】
【0139】
a=4.937(1) Å , b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å ,β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)と、立方晶岩塩型構造を有するLi
2TiO
3の単位胞(空間群
【0140】
【数7】
【0141】
a=4.1405(3)Å, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Shigemura, K. Ado, H. Kobayashi, H. Sakaebe, K. Tatsumi, H. Kageyama, T. Nakamura and R. Kanno, Chemistry of Materials, 13, 1747-1757 (2003). )を用いて指数付けが可能であり、両結晶相が共存している構造モデルでフィット可能であることがわかった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表8から31:69であった。
【0142】
一方、比較例3で得られた試料のXRD回折図は、同様の2相構造モデルで問題なくフィット可能であった。2相構造モデルにおける単斜晶相と立方晶相の割合(重量比)は、表8
から51:49であった。
【0143】
以上のことから、実施例3及び比較例3で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0144】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi
2MnO
3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施
例3よび比較例3で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表9に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0145】
【表9】
【0146】
表9に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0147】
Mnの価数については、実施例3で得られた試料では、比較例3で得られた試料やLi
2MnO
3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例3で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0148】
比較例3で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0149】
また、実施例3では、水熱処理の際に、沈殿物を含む水溶液中に、還元剤である亜硫酸ナトリウム7水和物を添加して水熱処理を行っている。このため、得られた粉末状生成物では、Mnの価数は、3.78であり、実施例2で得られた試料と比較して、Mn価数が低減されている。この結果から、水熱処理時に還元剤を添加することによって、Mn価数を低減する効果が大きくなることが判る。
【0150】
充放電特性評価
実施例3及び比較例3で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとした
こと以外は、実施例1における上記充放電試験と同様とした。結果を下記表10及び
図8に示す。
【0151】
【表10】
【0152】
図8よび表10に示す結果より、実施例3で得られた試料は、比較例3で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例3で得られた試料は、初期充放電効率が78%であり、比較例3で得られた
試料(初期充放電容量45 %)と比較して大幅に改善されていた。
【0153】
尚、実施例3で得られた試料は、初期放電エネルギー密度、及び10サイクル後放電容量が、比較例3で得られた試料より優れており、平均初期放電電圧は、比較例3で得られた試料に近い値であることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例3で得られた試料は、
比較例3で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0154】
また、実施例3で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例3の試料と大きく異なるものであり、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が41 mAh/gに達し、上記した参
考文献1に記載されたLi
2MnO
3の値(20 mAh/g)および比較例3の試料の値(12 mAh/g)
に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元され
たMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果と
して初期充放電可逆性に優れたLi
2MnO
3系正極が作製できていると考えられる。
【0155】
また、還元剤を添加した水溶液を用いて水熱処理を行って得られた実施例3の試料は、
還元剤を添加することなく、水熱処理を行って得られた実施例2の試料と比較して、初期充放電効率、及び初期放電容量が大きく向上している。このことからも水熱処理時に還元剤を添加して処理することによりMn還元が進行し、結果としてさらに充放電特性に優れた材料が得られることが明らかである。
【0156】
実施例4
塩化鉄(III)6水和物13.52g、及び塩化マンガン(II)4水和物39.58g (全量0.25mol、Fe:Mn
モル比=2:8)を500 mlの蒸留水に加え、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウ
ム水溶液(蒸留水1000 mlに無水水酸化リチウム60 gを溶解させた溶液)を作製した。これ
らの水溶液を用いること以外は、実施例1と同様にして、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン酸化物)を得た。
【0157】
比較例4
沈殿作製、水熱処理、その後水洗処理・濾過までの工程を実施例4と同様にして行い、濾過して得た粉末(リチウムマンガン系複合酸化物)を、水酸化リチウム1水和物5.25 gを
蒸留水100 mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液中に添加して、撹拌しつつ分散・混合し、撹拌後、100 ℃において一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。 次いで得られた粉末を窒素中で一時間かけて500 ℃まで昇温後、その温度で窒素中において20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物を得た。
【0158】
X線回折による評価
図9に、実施例4および比較例4で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater.
Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表1
1に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0159】
【表11】
【0160】
図9に示す実施例4で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告され
ている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi
2MnO
3の単位胞(空間群
【0161】
【数8】
【0162】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0163】
一方、比較例4で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデル
で問題なくフィット可能であった。
【0164】
以上のことから、実施例4及び比較例4で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状
岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0165】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi
2MnO
3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施
例4および比較例4で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表12に示す。
【0166】
なお、ヨウ素滴定ではMnとFeの平均価数しか見積もることができないため、室温において
57Feメスバウワ分光スペクトルを測定することによりFeのみの価数を見積もり、MnとFeの平均価数とそれぞれの含有量からMn価数を求めた。結果を下記表12に示す。
【0167】
具体的には、MnとFeの平均価数は、下記式で表される。
【0168】
MnとFeの平均価数
=(鉄含有量m値×鉄の価数)+(マンガン含有量(1-m)×マンガンの価数)
故に、マンガンの価数は、下記式となる。
マンガンの価数
=(MnとFeの平均価数―(鉄含有量m値×鉄の価数))/マンガン含有量(1-m)
鉄の価数は、実施例4および比較例4で得られた両試料とも、
図10に示される
57Feメスバウワ分光スペクトルが対照なダブレットを示し、単一の異性体シフト成分で解析可能なことと、得られた異性体シフト値が実施例4で+0.3223(5) mm/s、比較例4で+0.3357(8) mm/sと、典型的な鉄3価の酸化物LiCo
0.8Fe
0.2O
2の値(+0.3212(3) mm/s、V. McLaren, A. West, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Takahara, H. Kobayashi, H. Sakaebe, H. Kageyama, A. Hirano and Y. Takeda, J. Electrochem. Soc., 151 [5] A672-681 (2004).)に近いものであることから、3価と判断できる。
【0169】
従ってMn価数は、上記式に下記表12に示すMnとFeの平均価数、鉄含有量m、鉄の価数
を適用することにより計算できる。
【0170】
【表12】
【0171】
表12示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびm値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0172】
Mnの価数については、実施例4で得られた試料では、比較例4で得られた試料やLi
2MnO
3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例4で得られた試料は、本発明の複合酸化物であることが明らかである。
【0173】
比較例4で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0174】
充放電特性評価
実施例4及び比較例4で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲を1.5-4.8 V)。結果を下記表13及び
図11に示す。
【0175】
【表13】
【0176】
図11よび表13に示す結果より、実施例4で得られた試料は、比較例4で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例4で得られた試料は、初期充放電効率が87%であり、比較例4で得られ
た試料(初期充放電容量71 %)と比較して大幅に改善されていた。
【0177】
尚、実施例4で得られた試料は、平均初期放電電圧は、比較例4で得られた試料と同等であるが、初期放電エネルギー密度、及び10サイクル後放電容量が、比較例4で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例4で得られた試料は、
比較例4で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0178】
また、実施例4で得られた試料は、初期充電曲線の形状が比較例4の試料と大きく異なるものである。実施例4で得られた試料及び比較例4で得られた試料は、共にFeを含んでおり、Feは4V付近から酸化によるLi脱離を引き起こすために、4.0Vを超える部分の容量に寄与するものと考えられるが、両試料は、4.0 Vまでの電位における容量が大きく異なる
ものである。具体的には、実施例4で得られた試料は、初期充電時の4.0 Vに達するまで
の容量が36 mAh/gに達し、上記した参考文献1に記載された値(20 mAh/g)および比較例4の試料の値(11 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を
有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.0 V以下の電位における高容量化に寄与して
いることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi
2MnO
3系正極が作製できてい
ると考えられる。
【0179】
次いで、上記した充放電試験について、放電下限電圧を1.5 Vから2.0 Vに上げて、より狭い電位範囲において充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、電位範囲を2.0-4.8 Vとしたこと以外は、上記充放電試験と同様である。結果を
図12および表14に示
す。
【0180】
【表14】
【0181】
図12及び表14から明らかなように、実施例4で得られた試料は、下限電圧を2.0 V
としても初期充放電効率は71%を確保しており、比較例4で得られた試料の値(59 %)よ
り大きく、初期平均放電電圧は、下限値1.5Vの場合と比較して、0.3 V向上していること
がわかる。また10サイクル後の放電容量も221 mAh/gを確保しており、比較例4で得られ
た試料の値(177 mAh/g)より大きく、初期放電エネルギー密度も実施例4で得られた試
料の方が大きい値であった。
【0182】
以上のことから、実施例4で得られた3.9価以下のMn価数を有する試料は、電位範囲の
狭い2.0-4.8 Vの電位範囲でも、比較例4で得られたMn価数が3.9価を超えるの試料と比較して充放電特性上優れたものであることが明らかである。
【0183】
実施例5
30%硫酸チタン(IV)水溶液60.00g、及び塩化マンガン(II)4水和物34.63g (全量0.25mol、Ti:Mnモル比=3:7)を500mlの蒸留水に加えて、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水500mlに水酸化リチウム一水和物50gを溶解させた溶液)を作製した。この水酸化リチウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、200mlのエタノールを加えた後、-10℃に冷却された恒温槽内に静置後、攪拌した。この撹拌された水酸化リチウム水溶液に上記金属塩水溶液を2〜3時間かけて徐々に滴下して、Ti-Mn沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、撹拌下に共沈物を含む反応液に室温で2日間空気を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させた。
【0184】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿生成物を水酸化リチウム1水和物50g、及び蒸留水600mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で48時間水熱処理した。
【0185】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過した。濾過して得た粉末を、水酸化リチウム1水和
物5.25gを蒸留水100mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液と混合し、攪拌後、100℃にお
いて一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。
【0186】
次いで、得られた粉末を大気中で一時間かけて750℃まで昇温後、その温度で20時間焼
成後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕した。
【0187】
その後、スクロース粉末0.71gを蒸留(炭素元素量として、リチウムマンガン系酸化物
仕込みモル量の0.1倍モルに相当)水100mlに溶解させたものに焼成物を加え、よく撹拌後、乾燥した。乾燥物を粉砕し、窒素気流中で3時間かけて500℃まで昇温後、その温度で窒素中において1時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕した。
【0188】
残留するリチウム塩等を蒸留水洗浄の繰り返しで除き、濾過後、100℃乾燥して、目的
物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0189】
比較例5
沈殿作製、水熱処理、その後の750℃での大気中での焼成までの工程を実施例5と同様にして行い、その後、スクロース粉末の存在下での焼成を行うことなく、そのまま過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物として得た。
【0190】
X線回折による評価
図13に、実施例5および比較例5で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表15に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0191】
【表15】
【0192】
図13に示す実施例5で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告さ
れている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi
2MnO
3の単位胞(空間群
【0193】
【数9】
【0194】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0195】
一方、比較例5で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデル
で問題なくフィット可能であった。
【0196】
以上のことから、実施例5及び比較例5で得られた粉末状生成物は、ともに本発明の単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0197】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi
2MnO
3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施
例5よび比較例5で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。結果を表16に示す。なおヨウ素滴定ではTiの価数を見積もることができないため、得られる遷移金属価数はMn価数に対応する。
【0198】
【表16】
【0199】
表16に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0200】
Mnの価数については、実施例5で得られた試料では、比較例5で得られた試料やLi
2MnO
3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例5で得られた試料は、本発明の目的物質であることが明らかである。
【0201】
比較例5で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9を上回る値となったと考えられる。
【0202】
これに対して、実施例5では、比較例5と同様にして焼成処理を行った後、更に、有機物を加えて不活性雰囲気中で焼成処理を行うことによって、Mn価数が低減されて、3.9を下回る価数となったと考えられる。
【0203】
充放電特性評価
実施例5及び比較例5で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲:1.5-4.8 V)。結果を下記表17及び
図14に示す。
【0204】
【表17】
【0205】
図14よび表17に示す結果より、実施例5で得られた試料は、比較例5で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例5で得られた試料は、初期充放電効率が63%であり、比較例5で得られ
た試料(初期充放電容量54 %)と比較して初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0206】
尚、実施例5で得られた試料は、平均初期放電電圧は、比較例5で得られた試料と同等であるが、初期放電エネルギー密度、及び20サイクル後放電容量が、比較例5で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例5で得られた試料は、
比較例5で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0207】
また、実施例5で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例5の試料と大きく異なるものであり、初期充電時の4.4 Vに達するまでの容量が28 mAh/gに達し、上記した参
考文献1に記載されたLi
2MnO
3の値(20 mAh/g)および比較例5の試料の値(8 mAh/g)に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4.5 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi
2MnO
3系正極が作製できていると考えられる。
【0208】
実施例6
硝酸鉄(III)9水和物30.30g、及び塩化マンガン(II)4水和物34.63g (全量0.25mol、Fe:Mn
モル比=3:7)を500mlの蒸留水に加えて、完全に溶解させた。別のビーカーに水酸化リチウム水溶液(蒸留水1000mlに無水水酸化リチウム60gを溶解させた溶液)を作製した。この水
酸化リチウム水溶液をチタン製ビーカーに入れ、室温で攪拌した。この攪拌された水酸化リチウム水溶液に上記金属塩水溶液を2〜3時間かけて徐々に滴下して、Fe-Mn沈殿物を形
成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で1日間空気を吹き込んで湿式酸化処理して、沈殿を熟成させた。
【0209】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄して濾別し、この沈殿生成物を水酸化リチウム1水和物50g、塩素酸カリウム50g及び蒸留水600mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した。この水溶液のpHは11以上であった。その後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で5時間水熱処理した。
【0210】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過した。濾過して得た粉末を、水酸化リチウム1水和
物5.25gを蒸留水100mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液と混合し、攪拌後、100℃にお
いて一晩乾燥し、粉砕して粉末を作製した。次いで得られた粉末を大気中で一時間かけて650℃まで昇温後、その温度で20時間焼成後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物を粉砕
した。その後、スクロース粉末0.71g(炭素元素量として、リチウムマンガン系酸化物仕
込みモル量の0.1倍モルに相当)を蒸留水100mlに溶解させたものに焼成物を加え、よく攪拌後、100℃乾燥した。乾燥後粉砕し、窒素気流中で3時間かけて500℃まで昇温後、その
温度で窒素気流中において1時間焼成した。その後、炉中で室温付近まで冷却し、焼成物
を粉砕した。残留するリチウム塩等を蒸留水洗浄を繰り返して除き、濾過後、100℃乾燥
して、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0211】
比較例6
沈殿作製、水熱処理、その後の650℃での大気中での焼成までの工程を実施例6と同様にして行い、その後、スクロース粉末の存在下での焼成を行うことなく、そのまま過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物として得た。
【0212】
X線回折による評価図15に、実施例6および比較例6で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi
and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表18に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0213】
【表18】
【0214】
図15に示す実施例6で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告さ
れている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi
2MnO
3の単位胞(空間群
【0215】
【数10】
【0216】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0217】
一方、比較例6で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデル
で問題なくフィット可能であった。
【0218】
以上のことから、実施例6及び比較例6で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0219】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi
2MnO
3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施
例6および比較例6で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。
【0220】
なお、ヨウ素滴定ではMnとFeの平均価数しか見積もることができないため、実施例4と同様にして、室温において
57Feメスバウワ分光スペクトルを測定することによりFeのみの価数を見積もり、遷移金属価数とそれぞれの遷移金属含有量からMn価数を求めた。結果を下記表19に示す。
【0221】
尚、鉄の価数は、実施例6の試料が
図16に示される
57Feメスバウワ分光スペクトルが
対照なダブレットを示し、単一の異性体シフト成分で解析可能なことと、得られた異性体シフト値が+0.3402(8) mm/sと典型的な鉄3価の酸化物LiCo
0.8Fe
0.2O
2の値(+0.3212(3) mm/s、V. McLaren, A. West, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Takahara, H. Kobayashi, H. Sakaebe, H. Kageyama, A. Hirano and Y. Takeda, J. Electrochem. Soc., 151 [5] A672-681 (2004).)に近いものであることから、3価と判断できる。一方、比較例6の試料
は、非対称なダブレット成分を示し、面積比95.6%を占める主成分の異性体シフト値が+0.3450(10) mm/sと上述のような典型的な鉄3価の酸化物の値と一致することから、ほとんどが鉄3価であるが、わずかに残り4.4%の成分があり、その異性体シフト値-0.120(17) mm/sは、典型的な鉄4価の酸化物Li
0.28Ni
0.9Fe
0.1O
2の値(-0.11 mm/s, C. Delmas, M. Menetrier, L. Croguennec, I. Saadoune, A. Rougier, C. Pouillerie, G, Prado, M. Grune, and L. Fournes, Electrochim. Acta., 45, 243-253 (1999).)成分と帰属できる。従って両成分の面積比がそのまま価数比と考えると鉄の価数は3.044と推定される。
【0222】
従ってMn価数は、上記式に下記表19に示すMnとFeの平均価数、鉄含有量y、鉄の価数
を適用することにより、実施例4と同様にして計算できる。
【0223】
【表19】
【0224】
表19に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値およびm値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0225】
Mnの価数については、実施例6で得られた試料では、比較例6で得られた試料やLi
2MnO
3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例6で得られた試料は、本発明の目的物質であることが明らかである。
【0226】
比較例6で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9を上回る値となったと考えられる。
【0227】
これに対して、実施例6では、比較例6と同様にして焼成処理を行った後、更に、有機物を加えて不活性雰囲気中で焼成処理を行うことによって、Mn価数が低減されて、3.9を下回る価数となったと考えられる。
【0228】
充放電特性評価
実施例6及び比較例6で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲を1.5-4.8 Vとし、初期充電のみ4.8Vまでの定電流―定電圧充電
(10 mA/gに下がるまで)を行った)。結果を下記表20及び
図17に示す。
【0229】
【表20】
【0230】
図17及び表20に示す結果より、実施例6で得られた試料は、比較例6で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例6で得られた試料は、初期充放電効率が72%であり、比較例6で得られ
た試料(初期充放電容量64 %)と比較して、初期充放電効率が大幅に改善されていた。
【0231】
尚、実施例6で得られた試料は、平均初期放電電圧は比較例6で得られた試料と同等であるが、初期放電エネルギー密度及び20サイクル後放電容量は、比較例6で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例6で得られた試料は、比較
例6で得られた試料と比較して充放電特性に優れたものであることが明らかである。
【0232】
また、実施例6で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例6の試料と大きく異なるものである。実施例6で得られた試料は及び比較例6で得られた試料は、共にFeを含むため、4.0Vを超える部分の容量は鉄の酸化に伴うものと考えられるが、4.0 Vまでの電
位における容量が両者で大きく異なる。比較例6で得られた試料は、4.0 Vに達するまで
の容量が12mAh/gと小さいが、実施例6で得られた試料は、初期充電時の4.0 Vに達するまでの容量が19 mAh/gに達し、比較例6で得られた試料の値に比べて大きい値である。この
ことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi
2MnO
3系正極が作製できていると考えられる。
【0233】
実施例7
硝酸鉄(III)9水和物及び塩化マンガン(II)4水和物を含む水溶液に代えて、硝酸鉄(III)9水和物20.20g、塩化マンガン(II)4水和物29.69g、及び30%硫酸チタン(IV)溶液40.00g(全
量0.25mol、Fe:Mn:Tiモル比=2:6:2)を含む水溶液を用いること以外は、実施例6と同様の操作を行い、目的物である粉末状生成物(リチウムマンガン系複合酸化物)を得た。
【0234】
比較例7
沈殿作製、水熱処理、その後の650℃での大気中での焼成までの工程を実施例7と同様にして行い、その後、スクロール粉末の存在下での焼成を行うことなく、そのまま過剰のリチウム塩を除去するために焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して最終的に粉末状生成物として得た。
【0235】
X線回折による評価
図18に、実施例7および比較例7で得られた各粉末生成物のX線回折(XRD)図を示す。これらのXRDパターンに対して解析プログラムRIETAN-2000(F. Izumi and T. Ikeda, Mater. Sci. Forum, vol.321-324 p.198-203 (2000).)によるリートベルト解析を実施し、表21に示す結晶学パラメーターを算出した。
【0236】
【表21】
【0237】
図18に示す実施例7で得られた試料のX線回折ピークから、この試料は以前に報告さ
れている単斜晶層状岩塩型構造を有するLi
2MnO
3の単位胞(空間群
【0238】
【数11】
【0239】
a=4.937(1) Å, b=8.532(1)Å, c=5.030(2)Å , β=109.46(3)°, P. Strobel and B. Lambert-Andron, Journal of Solid State Chemistry, 75, 90-98 (1988).)のみで指数付けが可能であり、上記単斜晶単相の構造モデルでフィット可能であることがわかった。
【0240】
一方、比較例7で得られた試料のXRD回折図も、同様に単斜晶結晶相の単相構造モデル
で問題なくフィット可能であった。
【0241】
以上のことから、実施例7及び比較例7で得られた粉末状生成物は、ともに単斜晶層状岩塩型結晶相を含んでいることが明らかである。
【0242】
化学分析等による評価
ICP発光分析およびLi
2MnO
3を4価標準物質として校正したヨウ素滴定値を用いて、実施
例7及び比較例7で得られた粉末状生成物の化学組成および遷移金属価数を求めた。
【0243】
なお、ヨウ素滴定ではMnとFeの平均価数しか見積もることができないため、実施例4と同様にして、室温において
57Feメスバウワ分光スペクトルを測定することによりFeのみの価数を見積もり、遷移金属価数とそれぞれの遷移金属含有量からMn価数を求めた。結果を下記表22に示す。
【0244】
具体的には、下記表22に記載した組成式の記号を用いると、MnとFeの平均価数は、下記式で表される。
MnおよびFeの平均価数
=(鉄含有量m値÷組成式中のFeとMn量の和(1-n)値×鉄の価数)+(マンガン含有量
(1-m-n)÷組成式中のFeとMn量の和(1-n)値×マンガンの価数)
故に
マンガンの価数
=(MnおよびFeの平均価数×組成式中のFeとMn量の和(1-n)値―(鉄含有量m値×鉄の価数))/マンガン含有量(1-m-n)
尚、鉄の価数は、実施例7の試料が
図19に示される
57Feメスバウワ分光スペクトルが対照なダブレットを示し、単一の異性体シフト成分で解析可能なことと、得られた異性体シフト値が+0.3273(9) mm/sと典型的な鉄3価の酸化物LiCo
0.8Fe
0.2O
2の値(+0.3212(3) mm/s、V. McLaren, A. West, M. Tabuchi, A. Nakashima, H. Takahara, H. Kobayashi, H. Sakaebe, H. Kageyama, A. Hirano and Y. Takeda, J. Electrochem. Soc., 151 [5] A672-681 (2004).)に近いものであることから、3価と判断できる。一方比較例7の試料は、非対称なダブレット成分を示し、面積比95.2%を占める主成分の異性体シフト値が+0.3457(13) mm/sと上述のような典型的な鉄3価の酸化物の値と一致することから、ほとんどが鉄3価であるが、わずかに残り4.8%の成分があり、その異性体シフト値-0.07(2) mm/sより典型的な鉄4価の酸化物Li
0.28Ni
0.9Fe
0.1O
2の値(異性体シフト値-0.11 mm/s, C. Delmas, M. Menetrier, L. Croguennec, I. Saadoune, A. Rougier, C. Pouillerie, G, Prado, M. Grune, and L. Fournes, Electrochim. Acta., 45, 243-253 (1999).)成分と帰属できる。従って両成分の面積比がそのまま価数比と考えると鉄の価数は3.048と推定される。
【0245】
従ってMn価数は、上記式に下記表22に示すMnとFeの平均価数、鉄含有量m、FeとMn量
の和(1-n)、鉄の価数を適用することにより計算できる。
【0246】
【表22】
【0247】
表22に示す元素分析結果から、得られた粉末状組成物は、化学組成式中のx値、m値及びn値が、いずれも本発明酸化物の組成範囲内であることがわかる。
【0248】
Mnの価数については、実施例7で得られた試料では、比較例7で得られた試料やLi
2MnO
3酸化物から予想される4価より著しく低く、3.9価以下であることがわかる。従って、実施例7で得られた試料は、本発明の目的物質であることが明らかである。
【0249】
比較例7で得られた試料については、水熱処理後、LiOH共存の下において焼成処理を行っているが、この際に、有機物を添加することなく焼成処理を行ったことによって、Liが構造中に取り込まれ、Mnが酸化されたために、Mnの価数が3.9価を上回る値となったと考えられる。
【0250】
これに対して、実施例7では、比較例7と同様にして焼成処理を行った後、更に、有機物を加えて不活性雰囲気中で焼成処理を行うことによって、Mn価数が低減されて、3.9価を下回る価数となったと考えられる。
【0251】
充放電特性評価
実施例7及び比較例7で得られた各試料をそれぞれ正極活物質としてリチウム二次電池を作製し、充放電試験を行った。電池構成及び充放電条件は、実施例1における充放電試験と同様である(電位範囲を1.5-4.8 Vとし、初期充電のみ4.8Vまでの定電流―定電圧充電
(10 mA/gに下がるまで)を行った)。結果を下記表23及び
図20に示す。
【0252】
【表23】
【0253】
図20及び表23に示す結果より、実施例7で得られた試料は、比較例7で得られた試料と比較すると、初期充電容量が低いにもかかわらず、初期放電容量は大きい値であった。その結果、実施例7で得られた試料は、初期充放電効率が78%であり、比較例7で得られ
た試料(初期充放電容量62 %)と比較して大幅に改善されていた。
【0254】
尚、実施例7で得られた試料は、平均初期放電電圧、初期放電エネルギー密度、及び20サイクル後放電容量は、比較例7で得られた試料より優れていることから、3.9価以下のMn価数を有する実施例7で得られた試料は、比較例7で得られた試料と比較して充放電特
性に優れたものであることが明らかである。
【0255】
また、実施例7で得られた試料は、初期充電曲線の形状が、比較例7の試料と大きく異なるものである。実施例7で得られた試料及び比較例7で得られた試料は、共にFeを含むため、4.0Vを超える部分の容量は鉄の酸化に伴うものと考えられるが、4.0 Vまでの電位
における容量が両者で大きく異なる。比較例7で得られた試料は、4.0 Vに達するまでの
容量が14mAh/gと小さいが、実施例7で得られた試料は、初期充電時の4.0 Vに達するまでの容量が23 mAh/gに達し、比較例7で得られた試料の値に比べて大きい値である。このことは3.9価以下の平均価数を有する特異な一部還元されたMnの存在が、4 V以下の電位における高容量化に寄与していることを意味し、結果として初期充放電可逆性に優れたLi
2MnO
3系正極が作製できていると考えられる。
【0256】
以上の実施例及び比較例の結果から、マンガン元素の平均価数が3.9価以下という特徴を有する本願発明のリチウムマンガン系複合酸化物は、優れた充放電特性を有する正極材料であることが明らかである。