特許第6119215号(P6119215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119215
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】電界効果トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20170417BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20170417BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20170417BHJP
   H01L 29/808 20060101ALI20170417BHJP
   H01L 21/337 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
   H01L29/80 C
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-264546(P2012-264546)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-110345(P2014-110345A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】谷本 真士
【審査官】 恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−523700(JP,A)
【文献】 特開2004−273486(JP,A)
【文献】 特開2008−153330(JP,A)
【文献】 特開2010−056250(JP,A)
【文献】 特開2011−029247(JP,A)
【文献】 特開2012−174714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 21/337
H01L 27/098
H01L 29/778
H01L 29/808
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の窒化物半導体からなる第1の半導体層と、前記第1の窒化物半導体よりもバンドギャップエネルギーが大きい第2の窒化物半導体からなる第2の半導体層とを有し、前記第1の半導体層の前記第2の半導体層側の界面に2次元電子ガス層が生じる半導体積層構造と、
ソース電極と、ドレイン電極と、前記第2の半導体層上に設けられ、前記ソース電極と前記ドレイン電極間にある2次元電子ガス層を流れる電子の流れを制御するゲート電極と、
を備え、
前記ゲート電極と前記第2の半導体層との間に、p型窒化物半導体からなる第3の半導体層と、前記第3の半導体層と前記ゲート電極の間に設けられた窒化物半導体からなる第4の半導体層とを含み、
前記ゲート電極は前記第4の半導体層と接して設けられ、
前記第3の半導体層及び前記第4の半導体層は、前記ゲート電極の直下に選択的に設けた形状であり、
前記第4の半導体層は、アンドープ層であり、かつ膜厚が3nm以上であることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記第3の半導体層は、p型GaNからなる請求項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記第4の半導体層は、GaNからなる請求項1又は2に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記第4の半導体層の膜厚が10nm以上である請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記第4の半導体層の膜厚が50nm以上である請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の電界効果トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体を用いた電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GaAs系化合物半導体に代えてGaN系化合物半導体を用いた高電子移動度トランジスタ(GaN系HEMT)に代表される電界効果トランジスタ(以下、「GaN系FET」という)が、次世代型の高速FETとして注目されている。GaN系化合物半導体はバンドギャップが広く、電子有効質量から見積もられる飽和電子移動度も高いことから、より大出力で高耐圧かつ高温動作可能な高周波デバイスを実現できる可能性があり、研究が重ねられている。
【0003】
GaN系化合物半導体を用いたGaN系FETは、例えば、絶縁性のサファイア基板上にバッファ層、GaN層、AlGaN層を順次積層し、AlGaN層の上面に、ソース電極、ゲート電極、ドレイン電極が形成されることにより構成される。この構造のHEMTは、不純物のドーピングにより発生したキャリアにより駆動するGaAs系化合物半導体FETとは異なり、自発分極とピエゾ分極との両作用により発生する高濃度のキャリアによって動作する。すなわち、GaN層の上にAlGaN層を成長すると、自発分極とピエゾ分極との両作用によりヘテロ界面に正の固定電荷が発生し、AlGaN層表面には負の分極電荷が発生する。分極電荷濃度はAlGaN層の組成や膜厚によって変化するが、AlGaN/GaNヘテロ構造では、1×1013/cm程度の極めて大きなシート電子濃度が発生する。このヘテロ構造にオーミック電極を形成し電極間に電界を印加すると、1×1013/cm程度の高電子濃度の電荷輸送に基づく電流が流れる。
【0004】
このGaN系FETは、従来のSiパワーデバイス(MOSFETやIGBT)に比べると高耐圧でかつ低オン抵抗のデバイスが作製できると言われており、このGaN系FETを用いることにより、機器の消費電力を低減できると期待される。
【0005】
しかしながら、窒化物半導体からなる電界効果トランジスタには、ノーマリオフ化が難しいという課題があった。
【0006】
上記課題に鑑み、特許文献1には、ノーマリオフ型の窒化物半導体からなる電界効果トランジスタを提供することを目的として、窒化物半導体積層構造の上に、高濃度p型GaN層を介してゲート電極を形成してゲート電極と高濃度p型GaN層とをオーミック接合させてゲート領域にpn接合を形成することが開示されている。
また、特許文献2には、特許文献1と同様の目的で形成されたp−GaN選択再成長層28の上層に、厚さ1nm程度のi−GaN選択再成長層29を形成してp−GaN選択再成長層28の表層酸化を防止して、安定したエンハンスメントモードGaN−HEMT特性を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−339561号公報
【特許文献2】特開2008−153330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された窒化物半導体からなる電界効果トランジスタは、ノーマリオフ化が実現できても、閾値電圧が十分に高くないという問題があった。
また、特許文献1及び2に開示された電界効果トランジスタは、ゲートリーク電流が大きく、損失が大きいという問題があった。このような電界効果トランジスタにおいて、ゲートリーク電流を抑制するためには、小さいゲートバイアスで駆動する必要があるが、そうするとチャネルが生じる部分にある空乏層をゲートバイアスによって十分に消滅させることができず、チャネルに空乏層が一部残存した状態となってしまうという問題があった。
その結果、ソース−ドレイン間の抵抗を充分に小さくすることができず、得られる最大電流が小さくなってしまううえ、損失が大きく、ゲートリーク電流が大きいという問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題を解決し、高い閾値電圧を有し、ゲート電極に順方向バイアスを印加した際におけるゲートリーク電流が低減でき、しかも大きな最大電流が得られる窒化物半導体からなる電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、
本発明に係る電界効果トランジスタは、
第1の窒化物半導体からなる第1の半導体層と、前記第1の窒化物半導体よりもバンドギャップエネルギーが大きい第2の窒化物半導体からなる第2の半導体層とを有し、前記第1の半導体層の前記第2の半導体層側の界面に2次元電子ガス層が生じる半導体積層構造と、
ソース電極と、ドレイン電極と、前記第2の半導体層上に設けられ、前記ソース電極と前記ドレイン電極間にある2次元電子ガス層を流れる電子の流れを制御するゲート電極と、
を備え、
前記ゲート電極と前記第2の半導体層との間に、p型窒化物半導体からなる第3の半導体層と、前記第3の半導体層と前記ゲート電極の間に設けられた窒化物半導体からなる第4の半導体層とを含み、
前記ゲート電極は前記第4の半導体層と接して設けられ、前記ゲート電極はショットキー接触していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る電界効果トランジスタは、
第1の窒化物半導体からなる第1の半導体層と、前記第1の窒化物半導体よりもバンドギャップエネルギーが大きい第2の窒化物半導体からなる第2の半導体層とを有し、前記第1の半導体層の前記第2の半導体層側の界面に2次元電子ガス層が生じる半導体積層構造と、
ソース電極と、ドレイン電極と、前記第2の半導体層上に設けられ、前記ソース電極と前記ドレイン電極間にある2次元電子ガス層を流れる電子の流れを制御するゲート電極と、
を備え、
前記ゲート電極と前記第2の半導体層との間に、p型窒化物半導体からなる第3の半導体層と、前記第3の半導体層と前記ゲート電極の間に設けられた窒化物半導体からなる第4の半導体層とを含み、
前記第4の半導体層は、そのp型不純物濃度が5×1017cm−3以下であり、かつ膜厚が3nm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
したがって、本発明によれば、高い閾値電圧を有し、ゲートリーク電流が低減でき、しかも大きな最大電流と低い抵抗とが得られる窒化物半導体からなる電界効果トランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る実施形態の電界効果トランジスタの構成を模式的に示す断面図である。
図2図1の電界効果トランジスタのバンド構造を示す図である。
図3】本発明に係る実施例4及び5の、ゲート電圧Vに対するドレイン電流Iを示すグラフである。
図4】本発明に係る実施例4及び5の、ゲートリーク電流Igを示すグラフである。
図5】本発明に係る実施例1〜5の、閾値Vthを示すグラフである。
図6】本発明に係る実施例の電界効果トランジスタの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施形態の電界効果トランジスタについて説明する。
【0015】
実施形態.
本発明に係る実施形態の電界効果トランジスタは、GaN系HEMTであり、図1に示すように、例えば、アンドープのGaNからなる第1の窒化物半導体層11(第1の半導体層)と、例えば、アンドープ又はn型不純物を含有させたAlGaNからなる第2の窒化物半導体層12(第2の半導体層)とを含む半導体積層構造10を備える。以上の半導体積層構造10において、第2の窒化物半導体層は、第1の窒化物半導体よりもバンドギャップエネルギーが大きい第2の窒化物半導体によって構成されており、これにより、第2の窒化物半導体層との界面近傍の第1の窒化物半導体層11に2次元電子ガス層15が形成される。以上の構成において、後述するゲート電極21に印加される電圧に対応して、空乏層16が2次元電子ガス層15(チャネル)を制御する。
尚、実施形態の半導体積層構造10は、さらに第1の窒化物半導体層11と第2の窒化物半導体層12の間に、例えば、AlNからなるスペーサ層13を含んでいてもよい。
【0016】
また、実施形態の半導体積層構造10では、例えば、ストライプ状にメサ部10aが形成されており、2次元電子ガス層15はメサ部のみに存在する。すなわち、メサ部10aはその両側が例えばエッチング等により第1の窒化物半導体層11の途中まで除去されることにより形成されており、2次元電子ガス層15は、メサ部10aにおいて、第1の窒化物半導体層11における第2の窒化物半導体層12との界面近傍の全体にわたって形成される。
【0017】
実施形態の電界効果トランジスタにおいて、ソース電極32は、例えば、メサ部の2つの側面の一方(第1側面)に設けられて2次元電子ガス層15に接続される。ソース電極32は、メサ部の第1側面からメサ部上面に延在して設けられていてもよいし、2次元電子ガス層15に電気的に接続される限り、メサ部上面のみに設けられていてもよい。ソース電極32をメサ部上面のみに設ける場合には、例えば、第2の窒化物半導体層12にn型不純物をドープして低抵抗にしたり、ソース電極32を形成する部分に高濃度にn型不純物をドープして低抵抗の高濃度ソース領域を形成するようにすることができる。
【0018】
実施形態の電界効果トランジスタにおいて、ドレイン電極33は、例えば、メサ部の2つの側面の他方(第2側面)に設けられて2次元電子ガス層15に接続される。ドレイン電極33は、メサ部10aの第2側面からメサ部上面に延在して設けられていてもよいし、2次元電子ガス層15に電気的に接続される限り、メサ部上面のみに設けられていてもよい。ドレイン電極33をメサ部上面のみに設ける場合には、ソース電極32の場合と同様、例えば、第2の窒化物半導体層12にn型不純物をドープして低抵抗にしたり、ドレイン電極33を形成する部分に高濃度にn型不純物をドープして低抵抗の高濃度ドレイン領域を形成するようにすることができる。
【0019】
実施形態の電界効果トランジスタにおいて、ゲート電極21を含むゲート構造20は、例えば、p型GaNからなる第3のp型窒化物半導体層23(第3の半導体層)と、例えばアンドープのGaNからなりゲート電極21とショットキー接触する第4の窒化物半導体層22(第4の半導体層)とをさらに含んでなる。
【0020】
以上のようなゲート構造とすることにより、以下のような作用効果が得られる。
まず、p型である第3のp型窒化物半導体層23を第2の窒化物半導体層12の上に形成することにより、第1の窒化物半導体層11と第2の窒化物半導体層12のポテンシャルエネルギーが引き上げられ、ノーマリオフ化が容易になる。すなわち、ノーマリオフ化は、ゲート電圧をゼロとしたときに、2次元電子ガス層15が生じる部分(第1の窒化物半導体層11の第2の窒化物半導体層12との界面近傍)の伝導帯の下端がフェルミ準位より高くなることで実現されるが、ポテンシャルエネルギーが引き上げられた分、伝導帯の下端が引き上げられ、ノーマリオフが容易になるというものである。尚、2次元電子ガス層15の伝導帯の下端の位置は、第1の窒化物半導体層11と第2の窒化物半導体層12の組成を適宜変更することによっても調整できる。
【0021】
さらに、p型である第3のp型窒化物半導体層23に加えて、本実施形態では、アンドープの第4の窒化物半導体層22を第3のp型窒化物半導体層21とゲート電極21の間に設けている。
この第4の窒化物半導体層22は、アンドープであることからホール濃度が小さく、ゲート電極21との接合はショットキー性になり、ゲート電極21との界面近傍に空乏層が発生する。このような空乏層を含む積層構造のゲート構造20を備えた電界効果トランジスタにおいて、ゲート電圧が正となる方向に電圧を印加してオン動作をさせる場合、主として、ゲート構造内の主にキャリアの少ない部分、つまり第4の窒化物半導体層22内の空乏層にバイアスがかかり、第1の窒化物半導体層11の2次元電子ガス層15が生じる部分にはバイアスがかかりにくいものと考えられる。つまり、第4の窒化物半導体層22を設けることで、2次元電子ガス層15が生じる部分における、ゲート電圧の印加に伴う伝導帯の引き下げ幅を小さくすることができる。
この様子を図2のバンドギャップの模式図に示している。この図2の模式図には、閾値よりゲート電圧が低い状態でまだ2次元電子ガス層が発生していないときの様子を示している。このように、ゲート電圧が正(+)となる方向に電圧を印加しても、第4の窒化物半導体層22とゲート電極21とのショットキー接合部の空乏層が大きく下がる(矢印A1で示す)のに対して、2次元電子ガス層となる部分の低下は少ない(矢印A2で示す)。
【0022】
このように、ゲートバイアスを強く与えなければ2次元電子ガス層となる部分の伝導帯下端がフェルミ準位FL以下に下がらず、2次元電子ガス層(チャネル)が発生しない。したがって、本実施形態のゲート構造を備えることにより、ゲート電極の閾値電圧が大きいノーマリオフのトランジスタが実現できる。なお、図2ではスペーサ層13を省略したが、スペーサ層13がある場合も同様である。
また、ゲートバイアスを強めると、従来の構造ではゲートリーク電流が増える傾向にあるが、本実施形態の構造では、ゲートバイアスを強めて第1の窒化物半導体層11の伝導帯をフェルミ準位以下に下げて2次元電子ガス層を発生させても、ゲート電極21と第4の窒化物半導体層22とがショットキー性接合しているためにショットキー障壁があり、ゲートリーク電流を小さくできる。
【0023】
したがって、上記ゲート構造20を備えた本実施形態の電界効果トランジスタは、閾値を高くでき、ゲート電極に順方向バイアスを印加した際におけるゲートリーク電流が低減できる。
また、ゲートリーク電流が低減されたことで、チャネルに空乏層が残存しない程度に十分にゲート電圧を高くして駆動することができるので、ソース−ドレイン間の抵抗を充分に小さくすることができ、得られる最大電流を大きくできる。
【0024】
このように、本実施形態の電界効果トランジスタにおいて、閾値を高くするためには、ゲート電極21と第4の窒化物半導体層22とがショットキー接合していることが重要であり、ゲート電極21と良好なショットキー接合をするために、第4の窒化物半導体層22の膜厚は、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、よりいっそう好ましくは7nm以上に設定する。また、第4の窒化物半導体層22の膜厚は、好ましくは1000nm以下、より好ましくは300nm以下に設定する。さらに膜厚を薄くして100nm以下に設定することもできる。これによって、閾値電圧および実際の駆動時に必要なゲート駆動電圧の過剰な上昇を防ぐことができる。また、製造精度の点からも、このような膜厚範囲とすることが好ましい。つまり、図1に示すゲート構造20のように、第3の窒化物半導体層23および第4の窒化物半導体層22をゲート電極21の直下に選択的に設けた形状とする場合には、第3の窒化物半導体層23および第4の窒化物半導体層22を成長後、その一部をエッチング等により除去して第2の窒化物半導体層12を露出させこのような形状とするが、このとき、除去量が過剰に大きいと除去量の制御が困難となるので、第4の窒化物半導体層22の膜厚を上記の範囲とすることが好ましい。また、後述する選択的エッチングを用いる場合は、除去量の制御は容易であるが、除去量が大きいほどエッチング時間のマージンを大きく取ることとなり、露出された第2の窒化物半導体層12がエッチングに曝される時間が長くなりやすく、この結果、第2の窒化物半導体層12に対するエッチングによるダメージが大きくなりやすい。このため、第4の窒化物半導体層22の膜厚を上記の範囲とすることが好ましい。
【0025】
以下、実施形態に係る電界効果トランジスタにおける各構成要素について詳細に説明する。
【0026】
第1の窒化物半導体層11
第1の窒化物半導体層11は、2次元電子ガス層15が形成される層であり、ソース電極32及びドレイン電極33がゲート電極21と同じ面側に設けられる構造では、アンドープの窒化物半導体により構成されることが好ましい。また、縦型GaN系HEMTに代表される、ソース電極32がゲート電極21と同じ面側(上面側)に設けられドレイン電極がゲート電極21と反対の面(下面)に設けられる構造では、n型不純物がドープされたn型窒化物半導体により構成することが好ましい。
また、2次元電子ガス層15が形成される層を構成する材料は、GaNに限定されるものではなく、III族窒化物半導体から選択することができ、InAlGa1−x−yN(0≦x、0≦y、x+y≦1)を用いることができる。
【0027】
第2の窒化物半導体層12
第2の窒化物半導体層12は、第1の族窒化物半導体層11がGaN層である場合には、AlGaN層を用いることが好ましく、AlGaN層としては、AlGa1−aN(0<a<1)を用いることができる。好ましくは、0<a≦0.4とする。Al混晶比aが0.4未満の範囲であると、結晶性の良好なAlGaN層が形成可能なため、移動度を高いものにできる。高耐圧化のためには、アンドープの層であることが好ましい。
なお、上述のように、第1の窒化物半導体層11がGaN層である場合は第2の窒化物半導体層をAlGaN層とすることが好ましいが、第2の窒化物半導体層を第1の窒化物半導体層よりもバンドギャップエネルギーが大きい層とし、第1の窒化物半導体層に2次元電子ガス層が形成される構成であればよく、第1,2の窒化物半導体層としては種々の窒化物半導体材料を採用することができる。
また、第2の窒化物半導体層12は、膜厚の増加や、n型不純物濃度の増加や、AlGaNのAl混晶比の増加などによって、電界効果トランジスタを低抵抗化することができるが、閾値上昇とトレードオフの関係である。しかし、上述したように、本実施形態の電界効果トランジスタは、抵抗を増大させることなく閾値を上昇させることができるので、このような低抵抗化の手段を採用しても十分な閾値を得ることが可能になる。
【0028】
半導体積層構造10
半導体積層構造10は、第1の窒化物半導体層11と第2の窒化物半導体層12の他に、さらに以下のような層を含んでいてもよい。
【0029】
(a)第1の窒化物半導体層11と第2の窒化物半導体層12の間に設けられるスペーサ層13
スペーサ層13は、第1の窒化物半導体層11をGaN層とし、第2の窒化物半導体層12をAlGaN層とする場合、例えば、AlN層により構成することができる。
AlNからなるスペーサ層13は、AlGaNからなる第2の窒化物半導体層12よりも薄膜で設けられる。このようなスペーサ層13を設けることで、第2の窒化物半導体層12のみの場合よりもチャネルにおけるキャリア移動度を向上させることができる。AlNによりスペーサ層13を構成する場合は、その膜厚を2nm以下の膜厚とすると、結晶性よく形成でき好ましく、特に0.5〜1nm程度の膜厚とすることが好ましい。
【0030】
ソース電極32、ドレイン電極33
ソース電極31、ドレイン電極33等の電極は、例えばTi、Al、Cu、W、Au、Ag、Mo、Ni、Pt、In、Rh、Ir、Cr等導電性に優れた材質で構成される。また金属材料に限定せず、導電性酸化物、導電性を有する導電性プラスチック等も利用できる。さらに電極は単一元素の材料のみならず、合金化、共晶化、混晶等、複数の元素で構成し、例えばITOや酸化亜鉛(ZnO)等が利用できる。さらにまた2層以上の層構造も採用できる。好ましくは、AlGaN系やGaN系半導体層に対して、Ti/Al電極が採用される。また、各電極とワイヤとの密着性等を考慮して、パッド電極を形成してもよい。なお、本明細書において、例えばTi/Alとは、半導体側からTiとAlが順に積層された構造を指す。
【0031】
ゲート構造20
本発明において、ゲート構造20は、上述したように、半導体積層構造10側から順に、第3のp型窒化物半導体層23、アンドープの第4の窒化物半導体層22、ゲート電極21を含み、第4の窒化物半導体層22がゲート電極21とショットキー接触する。
【0032】
(第3のp型窒化物半導体層23)
第3のp型窒化物半導体層23は、III族窒化物半導体により形成することができるが、好ましくは、p型AlGaN又はp型GaNにより形成する。AlGaNにより形成する場合には、第2の窒化物半導体層12よりもバンドギャップエネルギーの小さいAlGaNとする。また、上述したようにその一部を除去する場合には、第2の窒化物半導体層12が除去されないように第3のp型窒化物半導体層23が選択的にエッチングされる選択的エッチングを用いることが好ましく、この場合には、第3のp型窒化物半導体層23を第2の窒化物半導体層12と異なる組成とする。例えば、第2の窒化物半導体層12がAlGaNであれば、第3のp型窒化物半導体層23はGaNであることが好ましい。第3のp型窒化物半導体層23には、p型不純物として例えばMgを含有させる。第3のp型窒化物半導体層23のホール濃度は5×1017cm−3以上とすることができる。
また、第3のp型窒化物半導体層23の膜厚は、上述したp型層を設けた効果を得るために、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上とする。膜厚が厚くなるとゲートバイアスがチャネルに効きにくくなるため、また、製造容易のため、好ましくは1000nm以下、より好ましくは100nm以下とする。典型的には、10〜50nmとする。
【0033】
(第4の窒化物半導体層22)
第4の窒化物半導体層22は、第3のp型窒化物半導体層23よりもp型不純物濃度が小さいか、もしくはp型不純物を含有しないIII族窒化物半導体により形成することができる。具体的には、p型不純物濃度が1×1018cm−3以下であることが好ましく、さらに好ましくは1×1018cm−3より小さくし、より一層好ましくは5×1017cm−3以下とする。さらには1×1017cm−3以下とすることが好ましい。また、n型不純物濃度も同様に1×1017cm−3以下であることが好ましい。好ましくは、アンドープのGaNにより形成する。なお、本実施形態においてアンドープとは、形成時に意図的に不純物を添加しないものであり、例えば不純物濃度が1×1017cm−3以下もしくは不純物を含まないものをいう。また、第4の窒化物半導体層22のホール濃度は5×1017cm−3より小さいことが好ましい。
また、第3のp型窒化物半導体層23と第4の窒化物半導体層22とは、ゲート電極側から見た平面視において、同じ形状とすることができる。ゲート電極21はこれらの層よりも小さい幅で設け、第4の窒化物半導体層22の表面の一部をゲート電極21から露出させてもよいが、同じ幅で設け、第4の窒化物半導体層22の表面を完全に被覆させることができる。また、ゲート電極21と第2の窒化物半導体層12との間に設けられる第3,4の窒化物半導体層22,23は、ソース電極32およびドレイン電極33とは接触しないように配置する。
また、第4の窒化物半導体層22の膜厚は、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは7nm以上とする。後述する図5に示すように、3nm以上の第4の窒化物半導体層22を設けることで閾値を上昇させることができ、7nm以上とすることでさらに閾値を上昇させることができる。さらには、10nm以上とすることが好ましく、また、50nm以上とすることでゲートリーク電流を大幅に低減することができる。膜厚が厚くなるとゲートバイアスがチャネルに効きにくくなるため、また、製造容易のため、好ましくは1000nm以下、より好ましくは300nm以下とする。さらに膜厚を薄くして100nm以下とすることもできる
なお、本実施形態では、第3のp型窒化物半導体層と第4の窒化物半導体層とを別個の層として設けたが、別の形態として、第3のp型窒化物半導体層と第4の窒化物半導体層とを1つの層とし、この層のゲート電極と接する側に、第4の窒化物半導体層に相当するp型不純物低濃度領域を形成し、当該領域よりもチャネル側に、第3のp型窒化物半導体層に相当するp型不純物高濃度領域を形成することもできる。p型不純物濃度は連続的に変化させてもよい。
【0034】
(ゲート電極21)
ゲート電極21の材料としては、第4の窒化物半導体層22に対してショットキー接触するものを選択することができる。このような材料としては、仕事関数が小さいものが挙げられ、Hg、Zr、Ti、Ta、Al、Zn、Feを用いることが好ましい。例えば、Ti/AlやTi/Al/Ti/Ptで形成される。また、この上にさらに、ワイヤ等を接続するためのパッド電極を設けてもよい。
【0035】
以下、本発明に係る実施例について説明する。
【実施例】
【0036】
実施例
実施例として、ゲート構造において、第4の窒化物半導体層22の厚さを、3nm(実施例1)、5nm(実施例2)、7nm(実施例3)、10nm(実施例4)、50nm(実施例5)とした電界効果トランジスタを作製し、それぞれの閾値電圧を測定した。
実施例1〜5において、第4の窒化物半導体層22の膜厚以外は以下のようにした。
尚、実施例1〜5の電界効果トランジスタの上方からみた電極配置(平面構造)は、図6に示すようにし、その寸法は後述するようにした。
【0037】
半導体積層構造10
半導体積層構造10は、サファイア基板上に、バッファ層を介して、厚さが3μmのアンドープGaN層からなる第1の窒化物半導体層11と、厚さが0.75nmのアンドープAlNからなるスペーサ層13と、厚さが11nmのアンドープAl0.3Ga0.7Nからなる第2の窒化物半導体層12とを順に積層して作製した。
【0038】
メサ構造10a
メサ構造10aは、サファイア基板上に各半導体層を積層した後、メサ部10aとする部分の両側を第1の窒化物半導体層11の途中までエッチングにより除去することにより作製した。
メサ部10aは、長手方向の長さLが12μm、幅W1が100μm、高さhが100nmになるようにした。
【0039】
ゲート構造20
ゲート構造20は、厚さ20nmのp型GaNからなる第3の窒化物半導体層23とアンドープGaNからなる第4の窒化物半導体層22とを順に積層した後、第3の窒化物半導体層23および第4の窒化物半導体層22の一部を除去し、幅W2が1μmになるように、メサ構造10aの全長にわたって形成した。ゲート電極21は、第4の窒化物半導体層22の上にほぼ同じ幅で形成した。
また、ゲート電極21は、第4の窒化物半導体層22側から、Ti(厚さ10nm)/Al(厚さ100nm)/Ti(厚さ50nm)/Pt(厚さ200nm)の4層構造とした。
【0040】
ソース電極32、ドレイン電極33
ソース電極32は、例えば、メサ部10の一方の側面からメサ部10の上面に延在して形成し、ドレイン電極33は、メサ部10の他方の側面からメサ部10の上面に延在して形成した。また、ソース電極32及びドレイン電極33とゲート電極21(ゲート構造20)との間隔はそれぞれ2μm及び7μmとした。
【0041】
さらに、実施例1〜5と比較するために、アンドープGaNからなる第4の窒化物半導体層22を形成していない以外は、実施例と同様に作製した電界効果トランジスタを作製して比較例とした。
尚、実施例及び比較例の電界効果トランジスタの上面には、ゲート電極21、ソース電極32及びドレイン電極33の接続用表面を除き、SiOからなる保護膜40を形成した。
【0042】
以上のように作製した、実施例1〜5の電界効果トランジスタと比較例の電界効果トランジスタの、ゲート電極幅あたりのドレイン電流I=1mA/mmにおける閾値電圧Vthを評価した。
その結果を図5に示す。
図5に示すように、比較例の電界効果トランジスタの閾値Vthが約1.3Vであるのに対して、実施例の電界効果トランジスタの閾値Vthは、低いもの(実施例2)でも約1.9Vであり、他の実施例1,3−5は、いずれも2V以上であった。
また、第4の窒化物半導体層22の膜厚が7nm以上では膜厚の増加とともに閾値Vthが上昇する傾向にあった。
【0043】
また、実施例4及び5、比較例のゲート電圧Vに対するドレイン電流を図3に示し、ゲートリーク電流を図4に示す。
【符号の説明】
【0044】
15 2次元電子ガス層
10 半導体積層構造
11 GaN層
12 AlGaN層
16 空乏層
20 ゲート構造
21 ゲート電極
22 第4の窒化物半導体層
23 p型GaN層
32 ソース電極
33 ドレイン電極
40 保護膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6