(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位が、マレイン酸モノアルキルエステル単位である請求項1〜4のいずれか1項に記載の高飽和ニトリルゴム組成物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
高飽和ニトリルゴム組成物
本発明の高飽和ニトリルゴム組成物は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位5〜30重量%、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位1〜20重量%、および、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位1〜50重量%を含有し、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を5〜30重量%含有し、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0.9重量%以下であり、ヨウ素価が120以下である高飽和ニトリルゴム(A2)と、ポリアミド樹脂(B)とを含有するものである。そして、該高飽和ニトリルゴム組成物は、空中で使用するゴム部材用に好適に用いられる。なお、空中で使用するゴム部材とは、通常の使用態様において、油中に浸漬した状態では使用しないゴム部材をいう。従って、油中ベルトのように、その一部または全部を、油中に浸漬した状態で使用するゴム部材は含まれない。
【0013】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位5〜30重量%、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位1〜20重量%、および、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位1〜50重量%を含有し、ヨウ素価が120以下のゴムである。また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体、および必要に応じて加えられる共重合可能なその他の単量体を共重合することにより得られる。
【0014】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0015】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、5〜30重量%であり、好ましくは10〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が多すぎると、得られるゴム架橋物の耐寒性が低下する傾向がある。また、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の硬度が低下する場合がある。
【0016】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。これらのなかでも、マレイン酸モノアルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数が2〜6のマレイン酸モノアルキルエステルがより好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0017】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、1〜20重量%であり、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜8重量%である。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が少なすぎると、ロール加工性が低下するとともに、得られるゴム架橋物が引張強度に劣るものとなってしまう傾向がある。一方、多すぎると、耐圧縮永久歪み性および耐熱性が悪化するおそれがある。
【0018】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ペンチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(「メタクリル酸アルキルエステル及びアクリル酸アルキルエステル」の略記。以下同様。);アクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどの炭素数5〜10のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;アクリル酸メチルシクロペンチル、メタクリル酸エチルシクロヘキシルなどの炭素数6〜15のアルキルシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルシクロアルキルエステル;クロトン酸メチル、クロトン酸n−ブチル、クロトン酸n−ドデシル、クロトン酸2−エチルヘキシルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有するクロトン酸アルキルエステル;クロトン酸シクロペンチル、クロトン酸シクロヘキシルなどの炭素数5〜10のシクロアルキル基を有するクロトン酸シクロアルキルエステル;クロトン酸メチルシクロペンチル、クロトン酸エチルシクロヘキシルなどの炭素数6〜15のアルキルシクロアルキル基を有するクロトン酸アルキルシクロアルキルエステル;
【0019】
アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−n−プロポキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸2−イソプロポキシエチル、メタクリル酸2−n−ブトキシエチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸シアノアルキルエステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1〜12のフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸フルオロアルキルエステル;などが挙げられるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルが好ましく、炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび炭素数2〜8のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルがより好ましく、(メタ)アクリル酸n−ブチルおよび(メタ)アクリル酸2−メトキシエチルが特に好ましい。
【0020】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、1〜50重量%であり、好ましくは5〜45重量%、より好ましくは10〜40重量%である。α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位の含有量が少なすぎると、耐寒性が低下する傾向がある。一方、多すぎると、耐疲労性や、動特性が悪化するおそれがある。
【0021】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)は、得られるゴム架橋物がゴム弾性を有するものとするために、共役ジエン単量体単位をも含有することが好ましい。
【0022】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0023】
共役ジエン単量体単位(水素添加等により飽和化されている部分も含む)の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは25〜68重量%、より好ましくは35〜64重量%、さらに好ましくは37〜63重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0024】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体および、所望により共重合する共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体およびα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(エステル化されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を有さないもの)、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0025】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体およびα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(エステル化されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を有さないもの)としては、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;などが挙げられる。
【0026】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0027】
α−オレフィン単量体としては、炭素数が3〜12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0028】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0029】
フッ素含有ビニル単量体としては、たとえば、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0030】
共重合性老化防止剤としては、たとえば、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0031】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0032】
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のヨウ素価は、好ましくは120以下であり、より好ましくは60以下、さらに好ましくは40以下、特に好ましくは30以下である。ヨウ素価を120以下とすることにより、得られるゴム架橋物の耐熱性を向上させることができる。
【0033】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のポリマームーニー粘度(ML
1+4、100℃)は、好ましくは10〜200、より好ましくは20〜150、さらに好ましくは30〜110である。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、ゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0034】
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)におけるカルボキシル基の含有量、すなわち、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは0.006〜0.116ephr、より好ましくは0.012〜0.087ephr、特に好ましくは0.023〜0.058ephrである。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)のカルボキシル基含有量が少なすぎると、ロール加工性が低下するとともに、得られるゴム架橋物が引張強度に劣るものとなってしまい、また耐寒性が悪化する場合がある。一方、多すぎると耐熱性が低下する可能性がある。
【0035】
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)の製造方法は、特に限定されないが、乳化剤を用いた乳化重合により上述の単量体を共重合して共重合体ゴムのラテックスを調製し、これを水素化することにより製造することが好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0036】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0037】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0038】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜0.8重量部である。
【0039】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部である。
【0040】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0041】
なお、共重合して得られた共重合体のヨウ素価が120より高い場合には、ヨウ素価を120以下とするために、共重合体の水素化(水素添加反応)を行ってもよい。この場合における、水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0042】
高飽和ニトリルゴム(A2)
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を5〜30重量%含有し、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0.9重量%以下であり、ヨウ素価が120以下のゴムである。本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、および必要に応じて加えられる共重合可能なその他の単量体を共重合することにより得られる。
【0043】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様のものを用いることができるが、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。高飽和ニトリルゴム(A2)中における、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、5〜30重量%であり、好ましくは10〜30重量%、さらに好ましくは10〜25重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が多すぎると、得られるゴム架橋物の耐寒性が低下する傾向がある。また、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の硬度が低下する場合がある。
【0044】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、得られるゴム架橋物がゴム弾性を有するものとするために、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合する単量体として、共役ジエン単量体を用いることが好ましい。共役ジエン単量体としては、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様のものを用いることができるが、1,3−ブタジエンおよびイソプレンが好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。
高飽和ニトリルゴム(A2)中における、共役ジエン単量体単位(水素添加等により飽和化されている部分も含む)の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは20〜69重量%、より好ましくは30〜65重量%、さらに好ましくは35〜65重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0045】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、得られるゴム架橋物の耐寒性向上の観点から、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体および所望により共重合する共役ジエン単量体と共重合する単量体として、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体を用いることが好ましい。
【0046】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体としては、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様のものを用いることができるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルが好ましく、炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび炭素数2〜8のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルがより好ましく、炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルがさらに好ましく、(メタ)アクリル酸n−ブチルが特に好ましい。
【0047】
高飽和ニトリルゴム(A2)中における、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは1〜50重量%であり、より好ましくは5〜40重量%、さらに好ましくは10〜40重量%である。
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体単位の含有量が上記範囲にある場合に、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0048】
さらに、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、ならびに、所望により共重合する共役ジエン単量体、およびα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体およびα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル単量体以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(エステル化されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を有さないもの)、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが挙げられ、その具体例は上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)の場合と同様である。
【0049】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)は、共重合可能なその他の単量体として、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体を用いてもよいが、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、0.9重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以下であり、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が0重量%であることが特に好ましい。α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が多すぎると、耐圧縮永久歪み性および耐熱性が悪化するおそれがある。なお、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様のものを挙げることができる。
【0050】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)のヨウ素価は、好ましくは120以下であり、より好ましくは60以下、さらに好ましくは40以下、特に好ましくは30以下である。ヨウ素価を120以下とすることにより、得られるゴム架橋物の耐熱性を向上させることができる。
【0051】
高飽和ニトリルゴム(A2)のポリマームーニー粘度(ML
1+4、100℃)は、好ましくは10〜200、より好ましくは20〜150、さらに好ましくは30〜110である。高飽和ニトリルゴム(A2)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、ゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0052】
また、高飽和ニトリルゴム(A2)におけるカルボキシル基の含有量、すなわち、高飽和ニトリルゴム(A2)100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは0.005ephr以下、より好ましくは0.003ephr以下であり、0ephrであることが特に好ましい。高飽和ニトリルゴム(A2)のカルボキシル基含有量が多すぎると、耐熱老化性が悪化する可能性がある。
【0053】
本発明の高飽和ニトリルゴム組成物中における、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と高飽和ニトリルゴム(A2)との含有割合は、「カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1):高飽和ニトリルゴム(A2)」の重量比で、好ましくは2:98〜98:2の範囲であり、より好ましくは3:97〜50:50の範囲、特に好ましくは5:95〜40:60の範囲である。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)の含有割合が多すぎると、耐圧縮永久歪み性および耐熱性が低下する傾向にあり、また、高飽和ニトリルゴム(A2)の含有割合が多すぎると、ロール加工性が低下するとともに、得られるゴム架橋物の引張強度が低下するおそれがある。
なお、高飽和ニトリルゴム(A2)を全く使用しない場合には、耐熱老化性および引張強度が、悪化する。
【0054】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A2)の製造方法は、特に限定されないが、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と同様とすることができる。
【0055】
ポリアミド樹脂(B)
本発明の高飽和ニトリルゴム組成物は、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、および高飽和ニトリルゴム(A2)に加えて、ポリアミド樹脂(B)を含有する。本発明においては、高飽和ニトリルゴムとして、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が所定範囲にあるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位の含有量が所定量以下である高飽和ニトリルゴム(A2)との2種類のゴムを併用し、これに、ポリアミド樹脂(B)を配合することにより、ゴム組成物をロール加工性に優れたものとすることができ、さらには、架橋後のゴム架橋物を、引張強度、引張応力および耐寒性に優れたものとすることができる。
【0056】
なお、高飽和ニトリルゴムの引張強度を改善するために高飽和ニトリルゴムにポリアミド樹脂を配合することが有効であるが、単に、高飽和ニトリルゴムに、ポリアミド樹脂を配合した場合には、ロール加工性が悪化し、得られるゴム架橋物の引張強度が低下し、耐寒性が悪化するという不具合が発生する場合がある。
これに対して、本発明では、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と、高飽和ニトリルゴム(A2)とを併用し、これらに、ポリアミド樹脂(B)を配合することにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)が相溶化剤として作用し、これにより、ロール加工性を向上させることができるとともに、ゴム架橋物とした際における引張強度を向上させることができ、また耐寒性の悪化を抑制できる。
【0057】
本発明で用いるポリアミド樹脂(B)は、酸アミド結合(−CONH−)を有する重合体であれば限定されないが、例えば、ジアミンと二塩基酸との重縮合により得られる重合体、ジホルミルなどのジアミン誘導体と二塩基酸との重縮合により得られる重合体、ジメチルエステルなどの二塩基酸誘導体とジアミンとの重縮合により得られる重合体、ジニトリルまたはジアミドとホルムアルデヒドとの反応により得られる重合体、ジイソシアナートと二塩基酸との重付加により得られる重合体、アミノ酸またはその誘導体の自己縮合により得られる重合体、ラクタムの開環重合により得られる重合体などが挙げられる。また、これらのポリアミド樹脂は、ポリエーテルブロックを含有していてもよい。
【0058】
ポリアミド樹脂(B)の具体例としては、ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、のような脂肪族ポリアミド樹脂;ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−p−ベンズアミド、ポリ−p−アミドヒドラジド、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド−3,4−ジフェニルエーテルテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミドのような芳香族ポリアミド樹脂が挙げられる。これらのなかでも、本発明の効果がより一層顕著になることから、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、ナイロン6、ナイロン66およびナイロン610がより好ましく、ナイロン66およびナイロン610が特に好ましい。
【0059】
また、本発明で用いるポリアミド樹脂(B)は、融点が、100〜350℃であることが好ましく、より好ましくは120〜300℃、さらに好ましくは150〜280℃である。融点が低すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性が低下するおそれがあり、一方、融点が高すぎると、ロール加工性が低下するおそれがある。なお、ポリアミド樹脂(B)の融点とは、JIS K7121にて定義される、示差走査熱量分析(DSC)によって測定される融解ピーク温度である。
【0060】
なお、本発明においては、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−p−ベンズアミド、ポリ−p−アミドヒドラジド、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド−3,4−ジフェニルエーテルテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミドなどの融点が350℃を超える(加熱しても融解せずに、灰化するものも含む)芳香族ポリアミド樹脂を繊維状にし、アラミド短繊維として、上記脂肪族ポリアミド樹脂と併用しても良い。
アラミド短繊維の平均繊維長は、0.1〜12mmが好ましく、0.2〜5mmが特に好ましい。また、アラミド短繊維の平均繊維直径は、1〜100μmが好ましく、2〜50μmが特に好ましい。さらに、アラミド短繊維の使用量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と高飽和ニトリルゴム(A2)との合計含有量100部に対し、好ましくは0.1〜20重量部、特に好ましくは0.5〜10重量部である。アラミド短繊維の平均繊維長、平均繊維直径および使用量が上記範囲にある場合に、分散不良が発生しにくく、ロール加工性が良好で、得られるゴム架橋物の引張応力の向上効果が得られやすい。
【0061】
本発明の高飽和ニトリルゴム組成物中における、ポリアミド樹脂(B)の含有割合は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と高飽和ニトリルゴム(A2)との合計(以下、「ニトリルゴムの合計量」とする。)に対して、「ニトリルゴムの合計量:ポリアミド樹脂(B)の含有量」の重量比で、好ましくは95:5〜50:50の範囲、より好ましくは90:10〜60:40の範囲である。ポリアミド樹脂(B)の含有割合が、上記範囲にある場合に、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0062】
架橋性ニトリルゴム組成物
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物は、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、高飽和ニトリルゴム(A2)およびポリアミド樹脂(B)を含む高飽和ニトリルゴム組成物と、架橋剤とを含有してなるものであり、該架橋剤が有機過酸化物架橋剤(C)であることが好ましい。本発明の架橋性ニトリルゴム組成物において、架橋剤として、有機過酸化物架橋剤(C)を用いることにより、架橋性ニトリルゴム組成物の加工性が向上し、また、得られるゴム架橋物が、引張強度に優れる。
【0063】
有機過酸化物架橋剤(C)としては、従来公知のものを用いることができ、ジクミルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3−トリメチルシクロヘキサン、4,4−ビス−(t−ブチル−ペルオキシ)−n−ブチルバレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、p−クロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。これらのなかでも、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0064】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物中における、架橋剤の配合量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と高飽和ニトリルゴム(A2)との合計100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部であり、より好ましくは1〜15重量部、さらに好ましくは2〜10重量部である。架橋剤の配合量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがある。一方、多すぎると、得られるゴム架橋物の耐疲労性が悪化する可能性がある。
【0065】
また、本発明の架橋性ゴム組成物において、架橋剤として有機過酸化物架橋剤(C)を用いる場合には、本発明の効果がより一層顕著になる点から、さらに共架橋剤を含有させることが好ましい。共架橋剤としては、ラジカル反応性の不飽和基を分子中に複数個有する低分子または高分子の化合物が好ましい。
共架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼンやジビニルナフタレンなどの多官能ビニル化合物;トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレートなどのイソシアヌレート類;トリアリルシアヌレートなどのシアヌレート類;ビスマレイミド、N,N−m−フェニレンジマレイミドなどのマレイミド類;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルセバケート、トリアリルホスフェートなどの多価酸のアリルエステル;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート;エチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンのトリアリルエーテル、ペンタエリトリットの部分的アリルエーテルなどのアリルエーテル類;アリル化ノボラック、アリル化レゾール樹脂等のアリル変性樹脂;トリメチロールプロパントリメタクリレートやトリメチロールプロパントリアクリレートなどの、3〜5官能のメタクリレート化合物やアクリレート化合物;などが挙げられる。これらのなかでも、本発明の効果がより一層顕著になる点で、イソシアヌレート類、および、3〜5官能のメタクリレート化合物やアクリレート化合物が好ましく、トリメチロールプロパントリメタクリレートが特に好ましい。
なお、共架橋剤を使用する場合の使用量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と高飽和ニトリルゴム(A2)との合計100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部であり、より好ましくは1〜10重量部である。
【0066】
また、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、上記以外に、ゴム分野において通常使用される配合剤、たとえば、カーボンブラックやシリカなどの補強剤、炭酸カルシウムやクレイなどの充填材、架橋促進剤、架橋助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、一級アミンなどのスコーチ防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、受酸剤、帯電防止剤、顔料、発泡剤などを配合することができる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を配合することができる。
【0067】
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、高飽和ニトリルゴム(A2)およびポリアミド樹脂(B)以外のその他の重合体を配合してもよい。その他の重合体としては、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体ゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、エピクロロヒドリンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、天然ゴムおよびポリイソプレンゴムなどを挙げることができる。その他の重合体を配合する場合における、架橋性ニトリルゴム組成物中の配合量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)と高飽和ニトリルゴム(A2)との合計100重量部に対して、好ましくは30重量部以下であり、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0068】
高飽和ニトリルゴム組成物の製造
本発明の高飽和ニトリルゴム組成物の製造方法は、上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、高飽和ニトリルゴム(A2)およびポリアミド樹脂(B)を、好ましくは200℃以上の温度で混練する。
これらを混練する方法としては、特に限定されないが、一軸押出機、二軸押出機などの押出機;ニーダー、バンバリーミキサ、ブラベンダーミキサ、インターナルミキサ、ニーダーなどの密閉型混練機;ロール混練機;などの混練機で混合する方法などが挙げられる。これらのなかでも、特に、生産効率および分散効率が高いという理由より、二軸押出機で混練する方法が好ましい。
【0069】
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、高飽和ニトリルゴム(A2)およびポリアミド樹脂(B)を混練する際の混練温度は、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは250℃以上である。また、混練温度の上限は、好ましくは400℃以下、特に好ましくは350℃以下である。混練温度を上記範囲とすることにより、溶融状態のポリアミド樹脂(B)と、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、および高飽和ニトリルゴム(A2)が良好な分散状態となり、これにより、本発明の効果がより一層顕著なものとなる。
【0070】
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A1)、高飽和ニトリルゴム(A2)およびポリアミド樹脂(B)を混練する際には、老化防止剤などの各種配合剤や、その他のゴムを同時に混合してもよい。
【0071】
架橋性ニトリルゴム組成物の調整
本発明の架橋性ニトリルゴム組成物の調製方法は、特に限定されないが、上記のようにして得られる本発明の高飽和ニトリルゴム組成物に、架橋剤および熱に不安定な成分を除いた各成分を、好ましくは、10〜200℃、より好ましくは20〜170℃で、バンバリーミキサ、ブラベンダーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で混練し、ロールなどに移して架橋剤や熱に不安定な架橋助剤などを加えて、好ましくは10〜80℃の条件で、二次混練することにより調製できる。
【0072】
ゴム架橋物
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、ゴム架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜6時間である。
【0073】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0074】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0075】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ニトリルゴム組成物を架橋して得られるものであるため、引張強度および引張応力が高く、耐寒性に特に優れるものである。
【0076】
このため、本発明のゴム架橋物は、空気圧機器用シール、ショックアブソーバーシールなどの空中で使用するシール材や空中で使用するガスケット;エアコンベルト、パワーステアリングベルト、タイミングベルトなどの各種空中ベルト;ターボエアーホースなどの各種空中で使用するホース;自動車用ブーツなどの各種空中で使用するブーツ;工業用ロールなどの各種空中で使用するロール;ダイナミックダンパ、防振材などの空中で使用する減衰材ゴム部品;被覆ケーブル、タイヤ、自動車内装部材;などの空中で使用するゴム部材として好適に用いることができ、空中で使用するシール材、空中で使用するガスケット、空中ベルトおよび空中で使用するホースとして特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記によった。
【0078】
ゴム組成
高飽和ニトリルゴムを構成する各単量体単位の含有割合は、以下の方法により測定した。
すなわち、マレイン酸モノn−ブチル単位およびメタクリル酸単位の含有割合は、2mm角の高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100mlを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数を求め、求めたモル数をマレイン酸モノn−ブチル単位またはメタクリル酸単位の量に換算することにより算出した。
1,3−ブタジエン単位および飽和化ブタジエン単位の含有割合は、高飽和ニトリルゴムを用いて、水素添加反応前と水素添加反応後のヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6383に従い、ケルダール法により、高飽和ニトリルゴム中の窒素含量を測定することにより算出した。
アクリル酸メトキシエチル単位およびアクリル酸n−ブチル単位の含有割合は、上記各単量体単位に対する残り成分として算出した。
【0079】
ヨウ素価
高飽和ニトリルゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0080】
カルボキシル基含有量
2mm角の高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100mlを加えて16時間攪拌した後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として求めた(単位はephr)。
【0081】
ムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)
高飽和ニトリルゴムのムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)は、JIS K6300−1に従って測定した(単位は〔ML
1+4、100℃〕)。
【0082】
ロール加工性
ゴム組成物をオープンロールで混練する際の、ロール加工性を以下の方法によって評価した。
6インチオープンロールを用い、回転比(フロントロール:バックロール)1:1.4、ロール間隙1.4mm、ロール温度50℃で、バックロールにてゴム組成物を混練し、以下の評価基準にて3点満点にて実施した。点数が高いほどロールへの巻き付き性がよく、ロール加工性に優れる。なお、以下において「バギング」とはロール加工時にゴムがロールにしっかりと巻き付かず、垂れ下がった状態となる現象のことである。
(評価基準)
点数3:バギングが全くもしくはほとんどなく、ロール巻き付き性が非常に良い。
点数2:若干のバギングはあるが、ロール巻き付き性はやや良好。
点数1:ロールに巻き付けることは何とか可能だが、すぐにバギングが発生してしまうか、ゴムがロールから外れてしまう、またはゴムをロールに巻き付けることがほぼ困難であるため、ロール加工性は悪い。
【0083】
常態物性(引張強度、伸び、引張応力)
架橋性ニトリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物を得た。得られたシート状のゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られた試験片を用いて、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の引張強度、伸び、および引張応力を測定した。
【0084】
耐熱老化性
上記常態物性の評価と同様にして、シート状のゴム架橋物を得た後、JIS K6257に従い、空気加熱老化試験を行った。該ゴム架橋物を温度150℃、168時間の条件でギヤーオーブンに保持した後、上記常態物性と同様にして引張試験を実施し、伸び変化率を測定した。伸び変化率の絶対値が小さいほど耐熱老化性に優れると判断できる。
【0085】
耐寒性(低温衝撃ぜい化試験)
上記常態物性の評価と同様にして、シート状のゴム架橋物を得た後、JIS K6261に従い、−50℃から−10℃の温度範囲で2℃間隔で低温衝撃ぜい化試験を実施し、計算によって50%衝撃ぜい化温度を求めた。50%ぜい化温度が低いほど、耐寒性に優れる。
【0086】
合成例1(カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)の合成)
反応器に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル20.4部、マレイン酸モノn−ブチル5部、アクリル酸n−ブチル35.2部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部を、この順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン39.4部を仕込んだ。次いで、反応器を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら重合反応を継続し、重合転化率が85%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した。次いで、水温60℃で減圧にして残留単量体を除去し、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0087】
次いで、上記にて得られたラテックスに、ラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対して、パラジウム量が1,000重量ppmになるように、オートクレーブ中に、ラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)のラテックスを得た。
【0088】
そして、得られたラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、ろ過して固形物(クラム)を取り出し、これを60℃で12時間真空乾燥することにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)を得た。得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)の組成は、アクリロニトリル単位21.0重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)44.0重量%、マレイン酸モノn―ブチル単位4.5重量%、アクリル酸n−ブチル単位30.5重量%であり、カルボキシル基含有量は0.026ephr、ヨウ素価は10、ポリマー・ムーニー粘度〔ML
1+4、100℃〕は55であった。
【0089】
合成例2(カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a2)の合成)
反応器に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル20部、マレイン酸モノn−ブチル4.5部、アクリル酸メトキシエチル35.5部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部を、この順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン40部を仕込んだ。次いで、反応器を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、攪拌しながら重合反応を継続し、重合転化率が83%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した。次いで、水温60℃で減圧にして残留単量体を除去し、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0090】
次いで、上記にて得られたラテックスに、ラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対して、パラジウム量が1,000重量ppmになるように、オートクレーブ中に、ラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a2)のラテックスを得た。
【0091】
そして、得られたラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、ろ過して固形物(クラム)を取り出し、これを60℃で12時間真空乾燥することにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a2)を得た。得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a2)の組成は、アクリロニトリル単位24.0重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)47.8重量%、マレイン酸モノn―ブチル単位5.2重量%、アクリル酸メトキシエチル単位23.0重量%であり、カルボキシル基含有量は0.030ephr、ヨウ素価は9、ポリマー・ムーニー粘度〔ML
1+4、100℃〕は53であった。
【0092】
合成例3(高飽和ニトリルゴム(a3)の合成)
反応器内でイオン交換水200部に、炭酸ナトリウム0.2部を溶解し、それに脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル9部、アクリル酸n−ブチル15部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.45部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン35部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、温度を5℃に保ちながら重合反応を継続し、重合転化率が60%になった時点で、アクリロニトリル10部、アクリル酸n−ブチル10部、および1,3−ブタジエン21部を添加し、重合転化率が85%になった時点で、濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止した。次いで、水温60℃で減圧にして残留単量体を除去し、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約25重量%)を得た。
【0093】
次いで、上記にて得られたラテックスを、そのニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液に加えて撹拌してラテックスを凝固し、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥してニトリルゴムを得た。そして、得られたニトリルゴムを、濃度12%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒をニトリルゴムに対して500重量ppm加え、水素圧3.0MPaで水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なって高飽和ニトリルゴム(a3)を得た。得られた高飽和ニトリルゴム(a3)の組成は、アクリロニトリル単位19重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)45.5重量%、アクリル酸n−ブチル単位35.5重量%であり、ヨウ素価は11、ポリマー・ムーニー粘度〔ML
1+4、100℃〕は75であった。また、高飽和ニトリルゴム(a3)について、上記方法にしたがって、カルボキシル基含有量を測定したところ、検出限界以下であり、カルボキシル基を実質的に含有しないものであった。
【0094】
合成例4(高飽和ニトリルゴム(a4)の合成)
反応器内でイオン交換水200部に、炭酸ナトリウム0.2部を溶解し、それに脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル38部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.45部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン62部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤適量を仕込み、温度を5℃に保ちながら重合反応を継続し、重合転化率が85%になった時点で、濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止した。次いで、水温60℃で減圧にして残留単量体を除去し、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約25重量%)を得た。
【0095】
次いで、上記にて得られたラテックスを、そのニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液に加えて撹拌してラテックスを凝固し、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥してニトリルゴムを得た。そして、得られたニトリルゴムを、濃度12%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒をニトリルゴムに対して500重量ppm加え、水素圧3.0MPaで水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なって高飽和ニトリルゴム(a4)を得た。得られた高飽和ニトリルゴム(a4)の組成は、アクリロニトリル単位36重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)64重量%であり、ヨウ素価は5、ポリマー・ムーニー粘度〔ML
1+4、100℃〕は79であった。また、高飽和ニトリルゴム(a4)について、上記方法にしたがって、カルボキシル基含有量を測定したところ、検出限界以下であり、カルボキシル基を実質的に含有しないものであった。
【0096】
実施例1
合成例1で得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)20部、合成例3で得られた高飽和ニトリルゴム(a3)50部、およびナイロン66(商品名「アミランCM3006」、東レ社製、融点265℃)30部を、二軸押出機を用いて280℃にて混練することで、高飽和ニトリルゴム組成物を得た。
【0097】
そして、バンバリーミキサを用いて、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム組成物100部に、N550カーボンブラック(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製、カーボンブラック)30部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(「商品名「アデカサイザーC−8」ADEKA社製、可塑剤)5部、4,4’−ジ−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内振興化学社製、老化防止剤)1.5部、およびステアリン酸1部を添加して混練し、次いで、混合物をオープンロールに移して、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%品(商品名「Vul Cup 40KE」、アルケマ社製、有機過酸化物架橋剤)7部を添加して混練することで、架橋性ニトリルゴム組成物を得た。
【0098】
そして、上述した方法により、ロール加工性、常態物性、耐熱老化性、耐寒性の各評価・試験を行った。結果を表1に示す。
【0099】
実施例2
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)20部に代えて、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a2)20部を用いた以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
実施例3
バンバリーミキサでの混練時に、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド短繊維(商品名「テクノーラZCF 1−12 T323SB 1mm」、帝人テクノプロダクツ社製、パラ型アラミド短繊維、平均繊維長1mm、平均繊維直径12μm)2部を追加添加した以外は実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
実施例4
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)20部を15部に変更し、高飽和ニトリルゴム(a3)50部を55部に変更し、ナイロン66(商品名「アミランCM3006」、東レ社製、融点265℃)30部をナイロン610(商品名「ベスタミド テラ HS22」、ダイセル・エボニック社製、融点222℃)30部に変更し、二軸押出機での混練温度を250℃に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
実施例5
1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%品(商品名「Vul Cup 40KE」、アルケマ社製、有機過酸化物架橋剤)7部を5部に変更し、トリメチロールプロパントリメタクリレート(商品名「アクリエステルTMP」、三菱レイヨン社製、共架橋剤)3部をオープンロールで添加して混練したこと以外は実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
比較例1
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)20部を30部に変更し、高飽和ニトリルゴム(a3)50部を70部に変更し、ナイロン66(商品名「アミランCM3006」、東レ社製、融点265℃)を使用せず、二軸押出機による混練を行わずにバンバリーミキサで直接混合した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
比較例2
N550カーボンブラック(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製、カーボンブラック)30部を80部に変更した以外は、比較例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
比較例3
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)を使用せず、高飽和ニトリルゴム(a3)50部を70部に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
比較例4
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)を使用せず、高飽和ニトリルゴム(a3)50部を高飽和ニトリルゴム(a4)70部に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋性ニトリルゴム組成物を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1より、ゴム(A1)としてのカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)または(a2)、ゴム(A2)としての高飽和ニトリルゴム(a3)、およびポリアミド樹脂を含有してなる高飽和ニトリルゴム組成物を用いた場合には、ロール加工性に優れ、また、得られるゴム架橋物は、引張強度、引張応力が高く、耐熱老化性および耐寒性に優れる結果となった(実施例1〜5)。
【0109】
一方、ポリアミド樹脂を配合しなかった場合には、引張強度および引張応力に劣り、また耐熱老化性も悪化した(比較例1)。
そして、ポリアミド樹脂を配合しなかった場合には、カーボンブラックを増量することで、引張強度および引張応力は改善されるものの、ロール加工性、耐熱老化性および耐寒性がさらに悪化した(比較例2)。
また、ゴム(A1)としてのカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a1)または(a2)を使用しなかった場合には、ロール加工性、引張強度、耐熱老化性および耐寒性に劣るものであった(比較例3および比較例4)。