特許第6119256号(P6119256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6119256セメント焼成排ガスの処理方法及び処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119256
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】セメント焼成排ガスの処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/64 20060101AFI20170417BHJP
   B01D 53/72 20060101ALI20170417BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170417BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   B01D53/64 100
   B01D53/72ZAB
   B09B3/00 303L
   C04B7/38
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-4436(P2013-4436)
(22)【出願日】2013年1月15日
(65)【公開番号】特開2014-136169(P2014-136169A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】古屋 一寿
(72)【発明者】
【氏名】上河内 貴
(72)【発明者】
【氏名】門野 壮
(72)【発明者】
【氏名】岡田 豊
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−129514(JP,A)
【文献】 特開2007−039296(JP,A)
【文献】 特開2002−355531(JP,A)
【文献】 特開2011−084425(JP,A)
【文献】 特開2006−096615(JP,A)
【文献】 特開2011−088770(JP,A)
【文献】 特表平08−501601(JP,A)
【文献】 特開2010−058099(JP,A)
【文献】 特開2001−259610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/00−5/00
B01D 53/34−53/85
B09B 1/00−5/00
C04B 2/00−32/02
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント製造設備の集塵機でセメント焼成排ガス中から捕集された集塵ダストを第1加熱炉に導き、
該第1加熱炉にキャリアガスである空気を導入しながら150〜200℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀以外の揮発成分を揮発させ、
該第1加熱炉から出た集塵ダストを第2加熱炉に導くとともに、第1加熱炉から出た水銀以外の揮発成分を含む空気をセメント焼成装置に導入して有機成分を分解し、
該第2加熱炉にキャリアガスである不活性ガスを導入しながら250〜400℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀を揮発させ、
前記第2加熱炉で集塵ダスト中の水銀を揮発させた後の集塵ダストをセメント原料に利用し、
該第2加熱炉から排出された排ガスを水銀回収装置中で冷却液と接触させて水銀を回収し、
該水銀回収装置から排出された排ガスを水銀除去装置に通過させて排ガス中に残存する微量の水銀と水銀以外の揮発性成分とを吸着して除去することを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理方法。
【請求項2】
請求項1記載のセメント焼成排ガスの処理方法において、更に、該水銀除去装置から排出された排ガスを、セメント焼成装置に導入することを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のセメント焼成排ガスの処理方法において、前記第1加熱炉で集塵ダスト中の水銀以外の揮発性成分を揮発させた後に、第1加熱炉に設けられた固気分離フィルターで、揮発させた該水銀以外の揮発性成分と集塵ダストとを分離し、該揮発性成分を含む分離した空気をセメント焼成装置に導入し、
前記第2加熱炉で集塵ダスト中の水銀を揮発させた後に、第2加熱炉に設けられた固気分離フィルターで、揮発させた該水銀と集塵ダストとを分離し、該分離した集塵ダストをセメント原料に利用することを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載のセメント焼成排ガスの処理方法において、第2加熱炉で揮発した水銀は、ガス状の原子状水銀であり、該原子状水銀を水銀回収装置で金属水銀として回収することを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかの項記載のセメント焼成排ガスの処理方法において、水銀回収装置中の冷却液をセメント焼成装置に導入することを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理方法。
【請求項6】
セメント製造設備のセメント焼成排ガスに含まれるダストを捕集するための集塵機、
該集塵機でセメント焼成排ガス中から捕集された集塵ダストを導き、キャリアガスである空気を導入しながら150〜200℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀以外の揮発性成分を揮発させるための第1加熱炉、
該第1加熱炉から排出された、水銀以外の該揮発性成分を含む空気をセメント焼成炉へ排気して有機成分を分解するためのダクト
該第1加熱炉から排出された集塵ダストを導き、キャリアガスである不活性ガスを導入しながら250〜400℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀を揮発させる第2加熱炉、
第2加熱炉から排出された集塵ダストをセメント原料に利用するための輸送機、
該第2加熱炉から排出された排ガスを冷却して水銀を凝縮、回収する水銀回収装置、
該水銀回収装置から排出された排ガス中に残存する微量の水銀と水銀以外の揮発性成分とを吸着する水銀除去装置を備えることを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理装置。
【請求項7】
請求項6記載のセメント焼成排ガスの処理装置において、更に、該水銀除去装置から排出された排ガスを、セメント焼成装置に導入するためのダクトを備えることを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理装置。
【請求項8】
請求項6または7記載のセメント焼成排ガスの処理装置において、第1加熱炉は、揮発させた、水銀以外の該揮発性成分と集塵ダストとを分離するための固気分離フィルターを備え、
2加熱炉には、揮発させた該水銀と集塵ダストとを分離するための固気分離フィルターを備えることを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理装置。
【請求項9】
請求項6〜8いずれかの項記載のセメント焼成排ガスの処理装置において、水銀回収装置は、第2加熱炉で揮発したガス状の原子状水銀を含有する排ガスを水銀の露点以下に冷却し、金属水銀として回収する装置であることを特徴とする、セメント排ガスの処理装置。
【請求項10】
請求項6〜9いずれかの項記載のセメント焼成排ガスの処理装置において、水銀回収装置から排出された冷却液をセメント焼成装置に導入するための配管を備えることを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント焼成排ガスの処理方法及び処理装置に関し、特にセメント製造設備を構成するセメントキルンから排出される燃焼排ガス中の水銀を低減する、セメント焼成排ガスの処理方法及びセメント焼成排ガスの処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント製造原料として使用する石灰石等の天然原料や石炭灰等のリサイクル原料には微量の水銀が含まれており、セメン焼成排ガス中に含有され、一部は煙道から外気へ排出される。
【0003】
従って、近年の廃棄物のセメント原料化及び燃料化の増加に伴い、セメント製造設備の煙突から排出される排ガス中の水銀排出量が増加する等の問題を発生するおそれがある。
【0004】
そこで、セメント製造設備からの排ガスを処理する方法として、例えば、特開2007−39296号公報(特許文献1)には、残留性有機汚染物質、水銀含有物質、酸性ガス、悪臭物質、及びダストを含む、セメント製造装置の排ガスの処理方法であって、
(A)集塵手段を用いて、前記排ガスに含まれているダストを捕集して、該捕集したダストをセメント製造装置に返送する工程と、
(B)工程(A)の処理後の排ガスと、吸着材を接触させて、該吸着材に、前記排ガスに含まれている残留性有機汚染物質、水銀含有物質、酸性ガス、及び悪臭物質を吸着させる工程と、
(C)工程(B)の処理後の吸着材を、不活性ガス雰囲気中で300℃以上に加熱することによって、該吸着材に吸着している残留性有機汚染物質及び悪臭物質を分解し、かつ、該吸着材から水銀含有物質及び酸性ガスを離脱させる工程と、
(D)工程(C)で得られた水銀含有物質及び酸性ガスを含む不活性ガスを処理して、無害化する工程とを含み、
工程(B)及び工程(C)において、前記吸着材を、工程(B)と工程(C)の間で連続的に循環させることを特徴とするセメント製造装置の排ガスの処理方法が開示されている。
【0005】
また、特開2006−96615号公報(特許文献2)には、水銀、有機塩素化合物及びダストを含む、セメントキルンの排ガスの処理方法であって、
(A)集塵手段を用いて、前記排ガスに含まれているダストの少なくとも一部を捕集して、水銀、有機塩素化合物及びダストの残部を含む排ガスを得る工程と、
(B)工程(A)で得られた排ガスと、吸着性能を有する物質を接触させて、該吸着性能を有する物質に、前記排ガス中の水銀及び有機塩素化合物を吸着させる工程と、
(C)工程(B)で得られた吸着性能を有する物質を、不活性ガス雰囲気中で350℃以上に加熱して、吸着している水銀及び有機塩素化合物を除去する工程と
を含むことを特徴とするセメントキルンの排ガスの処理方法が開示されている。
【0006】
更に特開2002−35531号公報(特許文献3)には、セメント焼成炉より発生する集塵ダストを加熱し、水銀を揮発させ回収する方法及び装置が提案されており、具体的には、セメント製造工程の排ガスから捕集した集塵ダストを加熱炉に導き、集塵ダストに含まれる揮発性金属成分の揮発温度以上に加熱して上記揮発性金属成分をガス化して除去し、揮発性金属成分を除去した集塵ダストをセメント原料の一部に用いることを特徴とするセメント製造排ガスの処理方法であり、前記揮発性金属成分が水銀であって、水銀蒸気を含む排ガスを水銀除去装置に導いて排ガスから水銀を除去する、排ガスの処理方法及び装置が記載されている。
【0007】
また、特開2011−207658号公報(特許文献4)には、セメントキルンの排ガスに含まれるダストを集塵する集塵装置と、該集塵装置で集塵されたダストを、該セメントキルンを含むセメント焼成装置の排ガスを利用して流動層を形成しながら加熱する流動層加熱装置と、該流動層加熱装置からの排ガスを除塵する除塵装置と、前記加熱によって揮発した水銀を回収する水銀回収装置とを備えることを特徴とするセメントキルン排ガスの処理装置等が記載されている。
【0008】
更に特開2011−84425号公報(特許文献5)には、セメント製造設備の集塵機後半部分で捕集された集塵ダストを加熱炉に導き、キャリヤガス導入下、300〜600℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀成分及び有機塩素化合物を揮発させ、該加熱炉を出た排ガスを、水銀成分除去装置中で洗浄水と接触させて水銀成分を吸収し、該水銀成分除去装置を出た排ガスを800℃以上のセメント製造設備内の高温部に導いて有機塩素化合物を分解することを特徴とするセメント製造設備からの排ガス中の水銀成分及び有機塩素化合物の低減方法が提案されている。
【0009】
しかし、上記従来の集塵ダストを加熱して水銀を回収する方法は、揮発成分の影響が考慮されておらず、加熱排ガスに有機物が含まれると、活性炭等の吸着剤の寿命が短くなる。また、水銀の回収方法としては、吸着、吸収方法等が提案されているが、吸着剤、吸収剤、吸収液等を埋立等の廃棄物処理をしなければならず、環境負荷の上昇を招く等の問題がある。
【0010】
さらに、集塵ダストを空気雰囲気中で水銀の沸点以上まで加熱した場合、集塵ダストに含まれる水銀以外の揮発成分が同時に揮発するため、後段の水銀回収装置において水銀を単独で回収することが困難であり、水銀の単離、回収、保管を行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−39296号公報
【特許文献2】特開2006−96615号公報
【特許文献3】特開2002−35531号公報
【特許文献4】特開2011−207658号公報
【特許文献5】特開2011−84425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記課題を解決し、セメント製造設備から排出される排ガス中に含まれる水銀を純度よく回収して、該水銀の保管を容易に行なうことができ、これにより、セメント製造設備から排出される排ガス中の水銀の排出量を効率的に低減させることができるセメント焼成排ガスの処理方法及び処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、セメント焼成排ガス中に含まれる水銀と水銀以外の揮発成分の揮発温度に差を有効に利用することで、セメント製造設備の集塵機でセメント焼成排ガス中から捕集された集塵ダストから純度の高い水銀を回収することができることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
本発明のセメント焼成排ガスの処理方法は、
セメント製造設備の集塵機でセメント焼成排ガス中から捕集された集塵ダストを第1加熱炉に導き、
該第1加熱炉にキャリアガスである空気を導入しながら150〜200℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀以外の揮発成分を揮発させ、
該第1加熱炉から出た集塵ダストを第2加熱炉に導くとともに、第1加熱炉から出た水銀以外の揮発成分を含む空気をセメント焼成装置に導入して有機成分を分解し、
該第2加熱炉にキャリアガスである不活性ガスを導入しながら250〜400℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀を揮発させ、
前記第2加熱炉で集塵ダスト中の水銀を揮発させた後の集塵ダストをセメント原料に利用し、
該第2加熱炉から排出された排ガスを水銀回収装置中で冷却液と接触させて水銀を回収し、
該水銀回収装置から排出された排ガスを水銀除去装置に通過させて排ガス中に残存する微量の水銀と水銀以外の揮発性成分とを吸着して除去することを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理方法である。
【0015】
好適には、上記本発明のセメント焼成排ガスの処理方法は、更に、該水銀除去装置から排出された排ガスを、セメント焼成装置に導入することを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理方法である。
更に好適には、上記本発明のセメント焼成排ガスの処理方法は、前記第1加熱炉で集塵ダスト中の水銀以外の揮発性成分を揮発させた後に、第1加熱炉に設けられた固気分離フィルターで、揮発させた該水銀以外の揮発性成分と集塵ダストとを分離し、該揮発性成分を含む分離した空気をセメント焼成装置に導入し、
前記第2加熱炉で集塵ダスト中の水銀を揮発させた後に、第2加熱炉に設けられた固気分離フィルターで、揮発させた該水銀と集塵ダストとを分離し、該分離した集塵ダストをセメント原料に利用することを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理方法である。
【0016】
また好適には、上記本発明のセメント焼成排ガスの処理方法は、第2加熱炉で揮発した水銀は、ガス状の原子状水銀であり、該原子状水銀を水銀回収装置で金属水銀として回収することを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理方法である。
また更に好適には、上記本発明のセメント焼成排ガスの処理方法は、水銀回収装置中の冷却液をセメント焼成装置に導入することを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理方法である。
【0017】
本発明のセメント焼成排ガスの処理装置は、
セメント製造設備のセメント焼成排ガスに含まれるダストを捕集するための集塵機、
該集塵機でセメント焼成排ガス中から捕集された集塵ダストを導き、キャリアガスである空気を導入しながら150〜200℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀以外の揮発性成分を揮発させるための第1加熱炉、
該第1加熱炉から排出された、水銀以外の該揮発性成分を含む空気をセメント焼成炉へ排気して有機成分を分解するためのダクト
該第1加熱炉から排出された集塵ダストを導き、キャリアガスである不活性ガスを導入しながら250〜400℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀を揮発させる第2加熱炉、
第2加熱炉から排出された集塵ダストをセメント原料に利用するための輸送機、
該第2加熱炉から排出された排ガスを冷却して水銀を凝縮、回収する水銀回収装置、
該水銀回収装置から排出された排ガス中に残存する微量の水銀と水銀以外の揮発性成分とを吸着する水銀除去装置を備えることを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理装置である。
【0018】
好適には、上記本発明のセメント焼成排ガスの処理装置は、更に、該水銀除去装置から排出された排ガスを、セメント焼成装置に導入するためのダクトを備えることを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理装置である。
更に好適には、上記本発明のセメント焼成排ガスの処理装置において、第1加熱炉は、揮発させた、水銀以外の該揮発性成分と集塵ダストとを分離するための固気分離フィルターを備え、該揮発性成分を含む該分離した空気をセメント焼成炉へ排気、分解するためのダクトを備え、
第2加熱炉には、揮発させた該水銀と集塵ダストとを分離するための固気分離フィルターを備え、
第2加熱炉で分離した集塵ダストをセメント原料に利用するための輸送機を備えることを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理装置である。
【0019】
また好適には、上記本発明のセメント焼成排ガスの処理装置において、水銀回収装置は、第2加熱炉で揮発したガス状の原子状水銀を含有する排ガスを水銀の露点以下に冷却し、金属水銀として回収する装置であることを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理装置である。
また更に好適には、上記セメント焼成排ガスの処理装置は、水銀回収装置から排出された冷却液をセメント焼成装置に導入するための配管を備えることを特徴とする、セメント焼成排ガスの処理装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のセメント焼成排ガスの処理方法によれば、セメント製造設備から排出される排ガス中に含まれる水銀と水銀以外の揮発性成分とを有効に分離することができる。従って、水銀を純度高く有効に回収することが可能となり、回収された水銀を有効に保管することができ、かつ、さらに保管に適正な安定した形態、例えば、硫化水銀に加工することが容易となる。また、回収した水銀の再利用を図ることもできる。
また、本発明によれば、既存のセメント製造設備に小規模な設備を付加することで、集塵機で回収される集塵ダストから、水銀を効率よく回収することができ、その結果、セメント製造設備から系外へ排出される排ガス中における、水銀の排出量を、効率的に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のセメント製造設備の集塵機でセメント焼成排ガス中から捕集された集塵ダストに含有される水銀を高純度で効率よく回収するための処理の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を以下の好適例を例示しつつ説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のセメント焼成排ガスの処理方法は、
セメント製造設備の集塵機でセメント焼成排ガス中から捕集された集塵ダストを第1加熱炉に導き、
該第1加熱炉にキャリアガスである空気を導入しながら150〜200℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀以外の揮発成分を揮発させ、
該第1加熱炉から出た集塵ダストを第2加熱炉に導き、
該第2加熱炉にキャリアガスである不活性ガスを導入しながら250〜400℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀を揮発させ、
該第2加熱炉から排出された排ガスを水銀回収装置中で冷却液と接触させて水銀を回収し、
該水銀回収装置から排出された排ガスを水銀除去装置に通過させて排ガス中に残存する微量の水銀と水銀以外の揮発性成分とを吸着して除去する、セメント焼成排ガスの処理方法である。
好ましくは、更に、上記水銀除去装置から排出された排ガスを、セメント焼成装置に導入する。
更に好ましくは、水銀回収装置の冷却液をセメント焼成装置に導入する。
【0023】
また、本発明のセメント焼成排ガスの処理装置は、
セメント製造設備のセメント焼成排ガスに含まれるダストを捕集するための集塵機、
該集塵機でセメント焼成排ガス中から捕集された集塵ダストを導き、キャリアガスである空気を導入しながら150〜200℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀以外の揮発性成分を揮発させるための第1加熱炉、
該第1加熱炉から排出された集塵ダストを導き、キャリアガスである不活性ガスを導入しながら250〜400℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀を揮発させる第2加熱炉、
該第2加熱炉から排出された排ガスを冷却して水銀を凝縮、回収する水銀回収装置、
該水銀回収装置から排出された排ガス中に残存する微量の水銀と水銀以外の揮発性成分とを吸着する水銀除去装置を備える、セメント焼成排ガスの処理装置である。
好ましくは、更に、該水銀除去装置から排出された排ガスを、セメント焼成装置に導入するためのダクトを備える。
更に好ましくは、水銀回収装置から排出された冷却液をセメント焼成装置に導入するための配管を備える。
【0024】
即ち、本発明は、水銀と水銀以外の揮発成分を分離して、水銀回収装置に導くものである。水銀と水銀以外の成分とは、加熱・揮発後に分離することは困難であり、両者の揮発温度に差があることに着目して、加熱温度の異なった2段階の加熱装置を集塵ダストの流れに対して、直列に配置し、各排気を個別処理するものである。
【0025】
具体的に、図1を参照しながら詳細に説明する。
図1中、1は集塵機、2は第1加熱炉、3は第2加熱炉、4は水銀回収装置、5は水銀除去装置を示す。
一般に、セメント原料がプレヒーター、仮焼炉及びロータリーキルン内で加熱されることにより、セメント原料中に含まれる水銀成分や有機物は、排出ガス中に揮発し、ガスはプレヒーターの最上段のサイクロンを出て沈降室に送られる。沈降室で粒子径の大きいダストが分離され、スタビライザーでガス温度を調節された排ガスは、電気集塵機等の集塵機1に送られる。なお、沈降室を出た排ガスは原料ミルあるいは原料乾燥装置にも送られ、原料ミル、原料乾燥装置から出た排ガスは電気集塵等の集塵機1に送られる排ガスに合流する。
【0026】
かかる電気集塵機等の集塵機1では排ガス中に含まれる粒子径の小さいダストが捕集される。
集塵機1中のガス温度は、約80〜150℃程度であるので、排ガス中の水銀や有機物等の大部分はダスト中の未燃物に吸着され、特に、セメントキルンの後段に設置した集塵機1中で捕集される集塵ダストには、水銀、タリウム等の金属類、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、有機塩素化合物成分等が含まれる。
【0027】
次いで、集塵機1でセメント焼成排ガス中から捕集された集塵ダストを第1加熱炉2に導き、該第1加熱炉2にキャリアガスである空気を導入しながら150〜200℃に加熱する。
かかる温度で加熱することで集塵ダスト中の水銀以外の揮発性成分を揮発させることができる。第1加熱炉2では、水銀の揮発量は極微量である。
水銀以外の揮発成分としては、例えば芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等が例示できる。
キャリアガスである空気を導入しながら約150〜200℃に加熱するとしたのは、集塵ダスト中の水銀の揮発がほとんど起こらない200℃より低い温度で水銀以外の揮発成分を分離するためである。集塵ダスト中の水銀以外の揮発成分は雰囲気によらず150℃程度から揮発する一方、水銀は、約200℃以上において揮発する量が大きくなるからである。
【0028】
前記第1加熱炉2で集塵ダスト中の水銀以外の揮発性成分を揮発させた後に、第1加熱炉2に設けられた固気分離フィルターで、揮発させた該水銀以外の揮発性成分と集塵ダストとを分離し、該分離した揮発性成分を含む該空気はセメント焼成装置の高温部へ導入することができる。
第1加熱炉から排出されたガスには、水銀がほとんど含まれないため、セメント焼成装置等への導入が可能であり、該第1加熱炉2とセメント焼成炉との間にダクトが備わっていることが望ましい。
これにより、第1加熱炉から排出されたガスを、セメント焼成装置の高温部へ排気し、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等の有機成分を分解することができる。
【0029】
次いで、該第1加熱炉2から排出された集塵ダストを第2加熱炉3に導き、該第2加熱炉3にキャリアガスである不活性ガスを導入しながら250〜400℃に加熱して、集塵ダスト中の水銀を揮発させる。
かかる温度で加熱することで集塵ダスト中の水銀をガス状の原子状水銀として、含有される水銀の約90質量%以上を揮発させることができる。
キャリアガスとしては不活性ガスを用い、特に好ましくは窒素を導入しながら200〜400℃、好ましくは300〜350℃に加熱することで、水銀を原子状水銀として揮発させることができる。
また、かかる温度範囲であると、水銀以外の例えばタリウム等は揮発せず、ダスト中に残留することとなり、水銀を高純度に回収することが可能となる。
前記不活性ガスとは、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトンなどの希ガス類や炭酸ガス、水蒸気のうち1つあるいは2つ以上を組み合わせたガスを示す。
また、前記不活性ガスが不純物として含有する酸素の濃度は、5体積%以下である。
【0030】
前記第2加熱炉3で集塵ダスト中の水銀を揮発させた後に、第2加熱炉3に設けられた固気分離フィルターで、揮発させた該原子状水銀と集塵ダストとを分離し、該分離した集塵ダストはセメント原料に用いることができる。
該第2加熱炉3とセメント焼成装置との間にベルトコンベア等の輸送機が備わっていることが望ましい。
【0031】
次いで第2加熱炉3から排出された、ガス状の原子状水銀を含む排ガスを水銀回収装置4で冷却し、冷却液6と接触させて、水銀の露点以下に冷却することにより水銀を凝縮し、冷却液6と水銀の比重差を利用して水銀を回収する。
冷却液6としては、酸化や有機化等の金属水銀の形態変化を生じさせない液体であればよく、例えば、水、塩化ナトリウム溶液、塩化カリウム溶液等を例示することができる。
具体的には、例えば、水銀回収装置4において、冷却液6を噴霧することで、上記原子状水銀が該冷却液のミストに捕獲される。
【0032】
回収される水銀は、該水銀回収装置4の底部に貯留し、金属水銀として、単独で容易に分離・回収することが可能である。
上記したように、第2加熱炉のキャリアガスが不活性ガス以外の気体、特に酸素を5体積%より多く含む気体である場合は、集塵ダスト中の水銀が2価の水銀として揮発してしまう可能性が高くなり、水銀回収装置では該2価の水銀は例えば塩化水銀となってしまう。この場合、かかる2価の水銀は水溶性のため、冷却液6に溶解して、水銀の分離が困難となり、純粋な金属水銀を回収することが難しくなる。
また、加熱温度が上記温度範囲よりも高いと、タリウム等の揮発性物質が揮発し、水銀回収装置4で水銀と同様に回収されてしまうため、水銀の純度が低下する。
【0033】
また、回収した冷却液6は、比重差により水銀と分離するため、水銀をほとんど含まずセメント焼成装置に導入して処理することが可能である。或いは、排出水として適正に処理することも可能である。該冷却液をセメント焼成装置に導入するための配管を備えることが好ましい。
【0034】
次いで、該水銀回収装置から排出された排ガスを、水銀除去装置5に通過させて排ガス中に残存する微量の水銀と水銀以外の揮発性成分を吸着して除去する。
微量の水銀や有機物が含まれている可能性があるため、これを除去するものである。
かかる水銀除去装置5には、例えば活性炭を用いることができる。
該水銀除去装置から排出された排ガスは、水銀をほとんど含まないため、セメント焼成装置に導入することが可能である。
従って、該水銀除去装置とセメント焼成装置との間にダクトが備わっていることが望ましい。
【0035】
本発明においては、水銀以外の揮発成分を十分に考慮したものであり、従来の処理のように、揮発成分の影響を考慮しないため加熱排ガスに含まれる有機物により活性炭等の吸着剤の寿命が短くなることはない。
更に、従来のように、水銀を吸着・吸収した吸着剤、吸収剤、吸収液等を埋立等の廃棄物処理必要もなく、環境負荷の上昇を招くこともない。
また、本発明のセメント焼成排ガスの処理方法及び処理装置は、上記構成を有するため、セメント製造設備から排出される排ガス中に含まれる水銀と水銀以外の揮発性成分とを有効に分離することができ、水銀を金属水銀として純度高く回収することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、セメント原料として水銀を含む廃棄物等を利用してセメントを製造する場合のセメント焼成排ガス中に含まれる水銀の処理に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1・・・集塵機
2・・・第1加熱炉
3・・・第2加熱炉
4・・・水銀回収装置
5・・・水銀除去装置
6・・・冷却液
図1