【文献】
Linyan Li et al.,Recovery of Ni, Co and rare earths from spent Ni-metal hydride batteries and proparation of spherica,Hydrometallurgy,米国,Elsevier,2009年10月 7日,100,41-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
希土類系磁石の中で特にR−Fe−B系焼結磁石(RはYを含む希土類元素のうち少なくとも一種以上でありNdを必ず含む)は、磁気特性が高く、広く使用されているが、主たる成分として含有されているNdやFeは非常に錆びやすい。このため耐食性を向上させることを目的として、磁石表面に防錆被膜が施される。中でも電気ニッケルめっきは硬度も高く、めっき工程の管理が無電解めっきに比較して簡便であり、本系磁石にも広く採用されている。
上記電気ニッケルめっきによるめっき被膜の成長過程のごく初期においては、成膜と同時に被めっき物の成分がめっき液中に溶解することがある。
特にめっき液のpHが酸性側に傾いている場合や被めっき物がめっき液に溶解しやすい場合、めっき液に被めっき物が溶解し不純物としてめっき液中に蓄積する。
R−Fe−B系焼結磁石の場合は、主成分であるNd等の希土類元素やFeがめっき液に溶解し不純物となる。
よって継続してめっき処理を行うとめっき液中に磁石素材の主成分であるNd等の希土類不純物やFeが溶解し蓄積していく。不純物が無い状態でめっきを行うためにはめっき処理毎に新しいめっき液を建浴することが必要となる。製造工程においてめっき処理毎に新たなめっき液を建浴することはコストアップとなり困難である。実質的には不可能といえる。
【0003】
電気ニッケルめっきの場合は、一般的にめっき液中に不純物が含有されていると、光沢の変化や被めっき物との密着不良、やけ(焦げ)などが発生し易い。
例えば、希土類元素がめっき液中に不純物として蓄積し一定量以上になると、めっき被膜と磁石素材の間で密着性が低下し剥離が発生したり、めっき被膜成膜中の電流断続を起因とする層内剥離である2重めっきが発生する。
密着性が低下し2重めっきのような不良が発生するか否かはめっき液の組成やめっき条件によるが、本発明者の実験によると希土類不純物量が700ppm(主にNd不純物)を超えると発生しやすくなる。さらにバレル方式によるめっきは、局部的に大きな電流が被めっき物に流れるため、2重めっきが発生しやすいことも確認している。
工業的量産規模で電気ニッケルめっきを実施する場合に、電気ニッケルめっき液中の希土類不純物が全くない状態を維持することは、製造コストの観点からも非現実的であり、一般的に採用されていない。しかし、品質管理の観点から希土類不純物量が700ppmを超えず、低く管理するのが望ましい。
【0004】
電気ニッケルめっき液に溶解しているFeなどの不純物を除去する方法としては、めっき液に炭酸ニッケル等のニッケル化合物を添加し、めっき液のpHを上げ(同時に活性炭を添加し有機不純物を除去する場合もある)、さらにエアー攪拌することで不純物を析出させ、その後、濾過する方法や、めっき液中に鉄の網や板を浸漬し、低電流密度で陰極電解する方法が一般的に行われている。
これらの方法は電気ニッケルめっき液に溶解した鉄や有機物の不純物を除去する方法としては有効だが、希土類不純物を除去することは極めて困難である。
特許文献1には、希土類金属の精製や分離に使用される薬剤を用い、電気ニッケルめっき液から希土類不純物を除去する方法及び装置が開示されている。
この方法は、電気ニッケルめっき液中の希土類不純物を低減する方法の一つとして有効と考えられる。
しかし、この方法の実現のためには、複雑な工程を採用する必要があり効率的でなく、しかも、特別な薬剤が必要である。このようなことから、装置も操作が煩雑となり、必然的に構成も複雑となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、電気ニッケルめっき液中の希土類不純物の除去装置であって、希土類不純物を含む電気ニッケルめっき液を加温する加温手段、前記加温手段による加温により析出した析出物を含む電気ニッケルめっき液を冷却する冷却手段、前記冷却手段により冷却された電気ニッケルめっき液から前記析出物を分離し除去する分離除去手段を有することを特徴とする除去装置である。
【0011】
本発明において、希土類不純物とは、例えば、R−Fe−B系焼結磁石(Rは、Yを含む希土類元素のうち少なくとも一種以上でありNdを必ず含む)を電気ニッケルめっきする際、めっき液に溶解するR成分であり、めっき液中ではそのほとんどがイオンの状態で存在するため、そのままでは濾過捕集が困難なものを指す。本発明の除去装置は、イオンの状態で存在する希土類不純物を、例えば濾過器等の公知の分離除去手段で捕集可能な固体の析出物として析出するためにめっき液を加温する加温手段を必須の構成とする。また、この析出物を沈降や濾過によりめっき液から分離除去する分離除去手段とともに、この分離除去を効率的に行うために前記加温手段によって加温された析出物を含むめっき液を冷却する冷却手段を必須の構成とするものである。なお、本発明の除去装置は、上記R−Fe−B系焼結磁石を電気ニッケルめっきする際、めっき液に溶解するR成分の除去に限定されることなく、同様にめっき液中でイオンの状態で存在する希土類不純物の除去において、適用できる。
【0012】
本発明の除去装置を構成する加温手段は、めっき液中にイオン状態で存在する希土類不純物を分離除去手段にて捕集可能な析出物として析出させることが可能な温度に加温することができればよく、めっき液の組成や量、めっき液中の希土類不純物量、要求される処理時間等に応じてそのめっき液の加温温度を調整可能な構造を有する手段が望ましい。
本発明者の実験によれば、通常、60℃以上の加温が可能であれば、上記析出物の析出が可能となる。工業規模にて一層有効に活用するためには、希土類不純物を含むめっき液を80℃以上に加温することができる加温手段を選定するのが望ましい。上記加温温度が高いほど希土類不純物の除去効率(析出物の析出効率)が上昇する傾向にあり、その上限は特に限定する必要はないが、作業性や安全性の観点、さらにめっき液の組成への影響等からめっき液の沸点未満とするのが望ましい。
めっき液を沸点以上に加温すると、めっき液から水が急激に蒸発し、めっき液を構成する成分が急激に析出する。めっき液の沸点は組成によって変動するが、例えばワット浴の沸点は約102℃となる。
このようにめっき液の沸点はモル沸点上昇により上昇するため、水の沸点である100℃を上限として管理すれば、組成の異なるめっき液の不純物除去にも対応可能である。
【0013】
上記の加温を実現する具体的な加温手段としては、加温ヒーター、加温用熱交換器等を採用することができる。このような加温手段を用いて希土類不純物を含む電気ニッケルめっき液を60℃以上に加温すること、さらに80℃から100℃の範囲、さらに望ましくは90℃から95℃の範囲に加温することで目的とする希土類不純物の除去を効率的に実現することが可能となる。
なお、本発明の除去装置を構成する各部材において、上記加温の範囲(加温によるめっき液の温度)に応じて耐熱性の高いものを使用することが必要となることから、この温度が高くなるほど必然的に装置全体のコストアップを招くことにもなる。上記加温温度範囲、特に望ましい加温温度範囲で実施することが結果的に装置のコストアップの抑制にも寄与する。
【0014】
また、上記加温中に析出物の析出を促進するために、加温状態においてめっき液を攪拌することが望ましく、上記加温手段に付属して公知の攪拌機を設置するのが望ましい。
例えば、空気撹拌、撹拌羽の回転またはポンプによる循環等による拡販を実現する構成のものが採用される。
【0015】
めっき液は、上記温度に加温した後、析出物(希土類不純物)を分離除去する前に冷却するのが望ましい。すなわち、めっき液の取り扱いが煩雑になるだけでなく、加温したままのめっき液を分離除去手段、例えば濾過器のフィルターに通すと、フィルターの寿命が極端に短くなったり、場合によってはフィルターが破損してしまい、目的とする効率的な希土類不純物の除去が達成できない恐れがある。
また、加温しためっき液を濾過後(析出物除去後)、冷却することなくめっき槽に戻すと、温度の高いめっき液が加温前の温度にあるめっき処理中のめっき液に混ざることになり、このめっき処理中のめっき液の液温が上昇する。めっき液全体の液温が加温前の温度に戻るまでめっき処理を停止することは、めっき処理の効率の観点からも望ましくない。
したがって、本発明の除去装置を構成する冷却手段は、上記のように分離除去手段への影響、析出物除去後にめっき槽に戻した際にめっき処理中のめっき液への影響を考慮して、その冷却温度を調整可能なものであり、望ましくは加温前の温度(実質的にめっき処理中の温度とほぼ同一温度)まで冷却可能な手段を選定するのが望ましい。
上記の冷却を実現する具体的な冷却手段としては、冷却パイプ、冷却用熱交換器等を採用することができる。
【0016】
なお、めっき槽には通常、温度計によるめっき液温度の測温結果からヒーターのON、OFFを自動的に行う自動調節機能を有しており、加温しためっき液を冷却した後の温度が、加温前の温度に対して高い場合であっても、低い場合であっても、この自動調節機能で、設定しためっき温度の範囲に入る温度であれば、実用上問題にはならない。
【0017】
本発明の除去装置を構成する分離除去手段は、上記加温手段によって析出した析出物を分離し除去することができればよく、析出物の大きさや、析出物の量、処理するめっき液の量等に応じて選定するのが望ましく、具体的な分離除去手段としては、公知の濾過器、沈降槽等を用いることができる。
【0018】
本発明の除去装置は、上記加温手段、冷却手段及び分離除去手段を有する構成からなり、それら各手段の間にて効率よくめっき液を移動するために、通常、各手段を配管によって接続して一体化する。また、めっき液の移動をより円滑に行うため、所定箇所(例えば、各手段間)にポンプ等の移動手段を設けるのが望ましい。
【0019】
本発明の除去装置は、上記加温手段、冷却手段及び分離除去手段に、さらに加温手段を介して希土類不純物を含む電気ニッケルめっき液を溜める貯液槽を接続する構成を採用することができる。長時間使用した希土類不純物を多く含むめっき液を、いったんめっき処理中のめっき槽から上記貯液槽に移し、この貯液槽内のめっき液を先に説明したようにして加温手段、冷却手段及び分離除去手段を順次経由して希土類不純物(析出物)を除去することができる。必要に応じて、上記の貯液槽以外に分離除去手段を経由しためっき液(希土類不純物が除去されためっき液)を溜める貯液槽を分離除去手段に接続配置し、その貯液槽に希土類不純物を除去しためっき液を必要時間貯蔵しておくことが可能となる。
この構成では、希土類不純物を除去中、除去後においても、めっき処理中のめっき液になにも影響を与えることがなく、また、希土類不純物を除去しためっき液の温度調整や組成調整なども上記貯液槽内で容易に行うことができる等の効果を実現できる。
【0020】
さらに、本発明の除去装置は、上記加温手段を介して希土類不純物を含む電気ニッケルめっき液を溜める貯液槽をめっき槽とし、前記分離除去手段により前記析出物が除去された電気ニッケルめっき液を、前記めっき槽に戻すことが可能に接続する構成を採用することができる。この構成を採用することで、上記めっき液中の希土類不純物の除去を最も効率的に行うことができる。すなわち、めっき処理中のめっき槽からのめっき液の抜き取り(移動)→加温手段によるめっき液の加温→冷却手段によるめっき液の冷却→分離除去手段による析出物(希土類不純物)の分離除去(濾過)→析出物を分離除去(濾過)しためっき液のめっき槽への移動(送液)を連続して行うことができる。
上記構成においては、上記めっき槽、加温手段、冷却手段、分離除去手段を配管によって接続するだけでなく、さらに分離除去手段を経由しためっき液をめっき槽に戻す配管を接続することが効果的である。なお、このような装置にて、連続処理を行うためには、先に説明した通り、冷却手段によるめっき液の冷却に際して、一旦加温手段にて加温しためっき液を加温前の温度まで冷却することで、めっき条件の変化を抑制し、得られるめっき膜の性質に変化が生じないようにすることが望ましい。
上記装置を用いれば、連続して希土類不純物の除去を行うことでめっき処理中の希土類不純物の増加を抑えることができる。よって、先に説明した構成のように、希土類不純物を除去するためにめっき液をめっき槽以外の別の貯液槽に移して、希土類不純物を除去する等の工程を採る必要が無く、めっき処理を停止する必要が無い。
また、上記連続処理とともに、必要に応じてめっき処理を停止しめっき液を別の貯液槽に移して希土類不純物を除去するとしても、希土類不純物の増加を抑えているため、その頻度を低くすることができ、生産性の向上につながり望ましい。
【0021】
なお、本発明の除去装置にて希土類不純物を除去するに際して、めっき液の濃度は、めっき処理を行う濃度と同じ濃度(1倍)で行うことが望ましい。
加温中に水分が蒸発し、めっき液の濃度が上昇する場合には適宜水を補給し、濃度を維持するのが望ましい。
【0022】
本発明の除去装置は、酸性〜中性のニッケルめっき液における希土類不純物除去に好適に適用できる。ニッケルめっき液としては、ワット浴、高塩化物浴、塩化物浴、スルファミン酸浴等に適用できる。
本発明の除去装置は、ワット浴に最も好適に適用可能である。
ワット浴の液組成としては、ごく一般的な浴組成で良い。例えば硫酸ニッケル 200〜320g/L、塩化ニッケル 40〜50g/リットル、ほう酸 30〜45g/L 添加剤として、光沢剤やピット防止剤を含んだ組成にも適用可能である。
本発明の除去装置を効果的に使用するためには、随時、めっき液の組成調整を公知の分析方法(滴定分析等)により行うことが望ましい。
例えば、ワット浴の場合、塩化ニッケル、全ニッケルを滴定により分析し硫酸ニッケルを求め、さらにホウ酸を滴定により分析する。
本発明の除去装置によって得られる希土類不純物除去後のめっき液の組成は、めっき処理開始時の組成とほとんど変化しないため、希土類不純物除去を行ったことによるめっき槽の液組成の変化は軽微である。
よって、めっき槽にあるめっき液の組成は、一定周期を決めて組成分析してもよい。分析周期はめっき槽の構成や生産量によって適宜設定すれば良い。
分析の結果、めっき液の組成が管理範囲内にある場合は必ずしも添加する必要はないが、不足する場合には不足する量の硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸をめっき液に添加しめっき液の組成を調整する。
添加する際にはめっき液をめっき温度に加温するのが望ましい。温度が低いと添加する薬剤の溶解が遅くなるか、溶解しない。その後、pHを炭酸ニッケルや硫酸で調整し、公知の光沢剤やピット防止剤を添加しめっき処理を行う。
本発明の除去装置を適用した後のめっき液を用いるめっき条件については、使用する設備、めっき方法、被めっき物の大きさ、処理個数等々によって適宜設定すれば良い。
一例として、上記ワット浴組成のめっき浴を用いた場合のめっき条件は、pH3.8〜4.5、浴温45℃〜55℃、電流密度 0.1〜10A/dm
2が望ましい。
めっき方法としてはラック方式、バレル方式があるが、被めっき物のサイズ、処理量によって適宜選定すれば良い。
【0023】
本発明の除去装置に接続する貯液槽及びめっき槽としては、処理するめっき液の組成や温度に適した材質のものを使用すれば良い。なお、めっき槽に耐熱性の高い材質の容器を用いることで、安全性をも向上することができる。
【0024】
以下に、本発明の除去装置の具体的な構成について
図1に基づいて説明する。なお、
図1は、本発明の除去装置が有する効果を最も有効に実現可能な構成、すなわち、先に説明しためっき槽に接続して連続処理を可能とした典型的な構成を示すものであり、本発明は
図1の構成に限定されるものではない。
図中4はめっき槽であり、図示しない陽極板、陰極、ヒーター、攪拌機を有し、めっき液を建浴し、電気ニッケルめっきを行うことができる。
めっき槽の材質は使用するめっき液によるが、塩化ビニル(PVC)又は耐熱塩化ビニル(PVC)が望ましい。
図中矢印でめっき液が流れる向きを示す。
図中20はめっき処理にかかるめっき液の濾過系統を示す。この濾過系統20は、めっき液中に浮遊するゴミなどを濾過することを目的に設置されるもので、本願発明の目的とするめっき液中にイオン状態で存在する希土類不純物を析出物として析出して分離し除去することはできない。
図中3はバルブ、2はポンプ、1は濾過器であり、めっき槽4→バルブ3→ポンプ2→濾過器1→めっき槽4の順序でめっき液が流れ、前述の通り、めっき液中に浮遊するゴミなどを濾過する。
図中30は本発明の除去装置を含むめっき液中にイオン状態で存在する希土類不純物を除去する不純物除去系統を示す。
図中5はバルブ、6は移動手段としてのポンプ、7は加温手段としての加温用熱交換器、8は冷却手段としての冷却用熱交換器、9は分離除去手段としての濾過器、10はバルブであり、めっき槽4→バルブ5→ポンプ6→加温用熱交換器7→冷却用熱交換器8→濾過器9→バルブ10→めっき槽4の順序でめっき液が流れ、めっき液中に溶解している希土類不純物を析出させたのち濾過して分離除去することができる。
【0025】
なお析出物をめっき液から分離除去する際、分離除去手段としての濾過器の代わりに沈降槽を設け、析出物を沈降させめっき液の上澄み液のみを連続して回収し、析出物を分離除去してもよい。
この場合沈降槽に浮遊する微量の析出物は、めっき槽に送液(移動)した後、前述のめっき槽に付随した濾過系統20にて完全に分離除去することが可能となる。
不純物除去系統30において、めっき槽4、加温用熱交換器7、冷却用熱交換器8、濾過器9の各手段を接続する配管の材質はめっき液の組成や温度によって適宜設定すれば良いが、加温用熱交換器7と冷却用熱交換器8をつなぐ配管には高温のめっき液を流すため、耐熱性の高いものを使用するのが望ましい。
耐熱性の高いものとしてはPPやフッ素樹脂コートした鉄管等を用いるのが望ましい。
加温用熱交換器7は公知のものを使用でき、特に限定されず、熱源として電気ヒータや蒸気を選択できる。蒸気を用いた熱交換器はめっき液の加温が容易であり望ましい。
冷却用熱交換器8についても公知のものを使用できる。冷却用熱交換器8に用いる冷媒としては冷媒ガスを用いる形式でもよいし、冷水を用いるものでもよい。
【0026】
加温用熱交換器7及び冷却用熱交換器8も、めっき液に接する部分の材質は、めっき液の組成や、温度によって適宜選択すれば良いが、耐食性の高いステンレスやチタン等の材質を選択するのが望ましい。
加温用熱交換器7及び冷却用熱交換器8の形式や能力は、加温及び冷却を行うめっき液の量(めっき槽の容量)やめっき処理する製品の量、めっき条件等によって適宜設定すれば良い。
例えば、
図1では温用熱交換器7を1台→冷却用熱交換器8を1台の経路を採用した構成を示したが、加温用熱交換器7を2台直列に配置し、その後に冷却用熱交換器8を2台直列に配置した構成、又、加温用熱交換器7を1台→冷却用熱交換器8を1台を1組として2組を並列に接続した構成を採用してもよい。
不純物除去系統30に流すめっき液の流量は、加温用熱交換器7及び冷却用熱交換器8の能力、めっき槽4の容量(めっき液の量)、めっき条件、めっき処理する製品の量等によって適宜設定すれば良く。流量は使用するポンプ6の能力やバルブ5の開閉量によって調整すれば良い。
また加温手段としては、上記の加温用熱交換器7に代えて所定の槽内に加温用の加温ヒーターを浸漬した構成のものを採用してもよいし、また冷却手段としては、上記冷却用熱交換器8に代えて所定の槽内に投げ込み式の冷却パイプを浸漬した構成のものを採用してもよい。
ここで冷却パイプとはパイプに冷媒や冷水を通したものを、加温手段を経由しためっき液に投げ込み、そのめっき液を冷やすもののみならずペルチェ効果等により冷却した端部を前記めっき液に投入してめっきを液を冷やすものを総称し、主にめっき液に冷却手段を構成している冷却部を投げ込み、めっき液を冷やすものを言う。
【0027】
図1では移動手段であるポンプ6を加温手段である加温用熱交換器7の前(めっき槽4と加温用熱交換器7との間)の一か所に設けたが、さらに、必要に応じて加温手段である加温用熱交換器7と冷却手段である冷却用熱交換器8の間、冷却用熱交換器8と分離除去手段である濾過器9の間又は濾過器9の後ろに配置してもよい。
例えば、加温手段や冷却手段として上部が開放された容器にヒーターやチラーの冷却部分を投げ入れ配置した場合や、分離除去手段として上部が開放された沈降槽を用いた場合、あるいは、これらを組み合わせた場合においては、めっき液の移動経路において開口部分が多く存在するため、移動手段によって上昇しためっき液の圧力が低下する。このため次の手段に移動することを目的として、一旦低下しためっき液の圧力を上昇するために複数の移動手段を設けるのが望ましい。
また、各手段間を移動するめっき液の流量が多い場合には、バルブ等をこれら各手段の間に設けて流量を調整するのが望ましい。
【0028】
以上では、各手段を配管で接続し、かつポンプをめっき液の移動手段として採用した構成の除去装置を説明したが、本発明はこの構成に特定されることはない。例えば、めっき槽以外に、加温手段を設置した槽、冷却手段を設置した槽、分離除去手段を設置した槽を順次高低差をつけて併設(めっき槽が最も高く、分離除去手段を設置した槽を最も低く配置)することで、必ずしも配管を接続しなくとも、また、ポンプ等の移動手段を採用することなくめっき液を各手段を経由して移動することができる。ただし、このような構成の場合でも、上記に説明した連続処理を実施するためには、分離除去手段を設置した槽とめっき槽との間は、ポンプ等の移動手段を介して接続するのが望ましい。
【0029】
本発明の除去装置の実現に際し、あらかじめ以下の実験例1〜5に示す実験を行い、その効果について確認した。
【0030】
実験例1
めっき液の組成として硫酸ニッケル 250g/L、塩化ニッケル 50g/L、ほう酸 45g/L でpH 4.5のめっき液を50℃に加温し、R−Fe−B系焼結磁石の表面に電気ニッケルめっきを施した。R−Fe−B系焼結磁石は必要な磁気特性に応じて、Nd:15〜25mass%、Pr:4〜7mass%、Dy:0〜10mass%、B:0.6mass%〜1.8mass%、Al:0.07〜1.2mass%、残部Feであり3mass%以下のCu,Gaの範囲で組成を調整した数種類のものを用いた。ただし、一回のバッチで用いる磁石の組成は同じものとした。
なおメッキ液に溶解する希土類不純物のそれぞれの組成や量はめっきに供した磁石の組み合わせ、バレルめっきやラックめっきといった処理方法、メッキ液の組成によって異なる。
【0031】
数日間メッキ処理を行った後、電気ニッケルめっき液のNd不純物、Pr不純物、Dy不純物をICP発光分析装置にて分析した。
分析結果はNd:500ppm、Pr:179ppm:、Dy:29ppmとなっていた。
上記希土類不純物を含むめっき液を一定量(3リットル)ビーカーに採取し、ヒーターで90℃に加温した状態で一定時間保持した。なお、加温中は磁石式の攪拌機(マグネットスターラー)にて攪拌した。加温中はめっき液の濃度が一定になるように水を補給した。
24時間経過後及び96時間経過後に加温を停止し冷却した後、それぞれICP発光分析に十分な量のめっき液を採取し、濾紙にて濾過した後のめっき液中に含まれるNd、Pr、Dyの濃度をICP発光分析装置にて測定した。
24時間経過後の分析結果はNd:100ppm、Pr:35ppm、Dy:16ppmとなっていた。
96時間経過後の分析結果はNd:50ppm、Pr:16ppm、Dy:2ppmとなっていた。
上記のように、電気ニッケルめっき液中に溶解しているイオン状態の希土類不純物は、所定時間の加温により析出物となり、濾紙による濾過にてめっき液と分離・除去される。所定時間の加温によっても析出物にならなかった希土類不純物は、上記分析結果に示すような割合で、イオン状態のままめっき液中に残存する。上記分析結果から明らかなように、加温時間が長いほど、析出物として分離・除去される希土類不純物の量が多くなり、結果として、めっき液中のイオン状態にある希土類不純物の量が低減されることとなる。
実験例1の処理方法により、希土類元素であるNdの不純物量低減と同時にPrとDyの不純物量も低減することがわかった。
【0032】
実験例2
めっき液の組成として硫酸ニッケル 250g/L、塩化ニッケル 50g/L、ほう酸 45g/L でpH 4.5のめっき液を50℃に加温しR−Fe−B系焼結磁石(実施例1と同じ組成範囲のものを用いた)の表面に電気ニッケルめっきを施した。数日間めっき処理を行った後、電気ニッケルめっき液中のNd不純物を分析したところ576ppmとなっていた。
上記めっき液を加温温度が50℃から95℃までの6条件(ただし50℃から90℃までは10℃きざみにて5条件)に設定し、各1条件3リットルのビーカーに採取して加温した。加温中は磁石式の攪拌機(マグネットスターラ)にて攪拌した。加温中はめっき液の濃度が一定になるように水を補給しながら、一定時間毎にめっき液をICP発光分析に十分な量を採取し、採取しためっき液を冷却し濾紙で濾過したのち、そのめっき液中のNd不純物の含有量(濃度)を分析した。分析にはICP発光分析装置を用いた。
分析結果を表1に示すと共に(50℃から90℃の結果を)
図2のグラフに示した。
【0033】
【表1】
加温温度が50℃では、168時間経過後で不純物濃度は518ppmとなった。60℃では24時間以降不純物濃度が低下し216時間経過後に177ppmとなった。不純物濃度は70℃では60℃に比較して24時間以降常に低い傾向を示した。
加温温度が80℃では、加温直後から不純物濃度は低下し、96時間経過後に125ppmとなった。
加温温度が90℃では、24時間経過後で134ppm、48時間経過後で84ppmとなり、96時間経過後では59ppmとなった。加温温度が95℃では、24時間経過後と96時間経過後について分析した。Nd不純物量は90℃で加温した場合とほぼ同じであった。
以上の結果からも明らかなように、加温温度が60℃から明確な効果が確認され、80℃、さらに90℃においてその効果が一層顕著であることが確認された。
【0034】
実験例3
実験例1及び実験例2で加温処理しためっき液を冷却した後、濾紙で濾過し、めっき液から析出した析出物を回収した。
上記析出物を恒温槽で乾燥した。性状は紛体(固体)であった。
析出物をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)にて分析したところ、
Nd:32.532、Pr:11.967、Dy:1.581、Al:0.402、Ni:7.986、C:0.319、O:45.213、(mass%)であった。
めっき液中の希土類不純物は、加温処置によりめっき液から紛体(固体)として析出していることを確認した。
【0035】
実験例4
めっき液の組成として硫酸ニッケル 250g/L、塩化ニッケル 50g/L、ほう酸 45g/L でpH 4.5のめっき液を50℃に加温しR−Fe−B系焼結磁石(実施例1と同じ組成範囲のものを用いた)の表面に電気ニッケルめっきを施した。数日間めっき処理を行った後、電気ニッケルめっき液中のNd不純物を分析したところ581ppmとなっていた。
上記めっき液を3リットルのビーカーに採取し、90℃で加温した。
加温中は磁石式の攪拌機(マグネットスターラ)にて攪拌した。加温中はめっき液の濃度が一定になるように水を補給しながら、1,3,6,12、24時間で、実験例1と同じ様に、そのめっき液中のNd不純物の含有量(濃度)を分析した。
分析結果を表2に示すと共に
図3のグラフに示した。
【0036】
【表2】
90℃での加温では、加温後3時間程度から顕著にNd不純物の低下が確認できた。
【0037】
実験例5
一度析出した希土類不純物の再溶解について調べた。
めっき液の組成として硫酸ニッケル 250g/L、塩化ニッケル 50g/L、ほう酸 45g/L でpH 4.5のめっき液を50℃に加温しR−Fe−B系焼結磁石(実施例1と同じ組成範囲のものを用いた)の表面に電気ニッケルめっきを施した。数日間めっき処理を行った後、電気ニッケルめっき液中のNd不純物を分析したところ544ppmとなっていた。めっき液を3リットルのビーカーに採取し、90℃に加温した。
加温中は磁石式の攪拌機(マグネットスターラ)にて攪拌した。加温中はめっき液の濃度が一定になるように水を補給した。一定時間経過後にめっき液をICP発光分析に十分な量を採取し、採取しためっき液を冷却し濾紙で濾過したのち、そのめっき液中のNd不純物の含有量(濃度)を分析した。分析にはICP発光分析装置を用いた。
また、めっき液を採取したのち、めっき液を40℃まで冷却し40℃に保持した場合の分析結果を以下に示す。
40℃に保持後、1、3、6、24、48時間にて、めっき液をICP発光分析に充分な量採取し、濾過後、そのめっき液中のNd不純物の含有量(濃度)を分析した。
分析結果を表3に示した。
【0038】
【表3】
0hrは90℃にて採取しためっき液の分析値である。上記に説明した方法により析出した希土類不純物は、めっき処理を行う温度以下になっても、再溶解せず、めっき液中の不純物濃度は上がらないことを確認した。
【0039】
以上の実験例を踏まえ、望ましい加温温度について説明する。
実験例2の結果から、60℃以上で加温状態を保持した場合には、濾過した後のめっき液ではNd不純物の量が低減しており、また、加温温度が高くなるほど低減効果は高まった。
Nd不純物の量とめっき膜の2重めっきや剥離発生との関係はめっき条件によって変わるが、Nd不純物の量が200ppm程度では、それらの発生は見られない。
Nd不純物の除去に1週間(168時間)かけたとき、加温温度が60℃では約200ppmに低減している。同様に70℃では5日間(120時間)、80℃では3日間(72時間)、90℃及び95℃では24時間(1日)で、ほぼ同程度の効果を得られることが確認されている。
このように、不純物の低減に必要な時間は、めっき液の加温温度によって変化する。
1週間を生産の単位期間とした場合、60℃で168時間保持し、その後濾過しためっき液はめっき処理に十分使用可能であり、また70℃では5日間でめっき可能な不純物量に低減できる。同様に80℃、90℃、95℃ではさらに短い時間でめっき液中の不純物が低減可能である。
【0040】
加温時間24時間以下について調べた実験例4を参酌すると、90℃に加温した場合、不純物の析出は3時間程度経過した時点ですでに始まっており、約10%の不純物低下量となっている。この析出物の濾過により、不純物を除去できることがわかる。
このことから、希土類不純物の析出は加温温度が高くなるにしたがって短時間のうちに始まることが予測される。よって、希土類不純物を含んだめっき液を加温用の熱交換器等で適正温度に加温することで希土類不純物を析出し、その後冷却し濾過することで、めっき液中から希土類不純物を効率的に除去することが可能となる。実験例2の結果を参酌すると、80℃の加温では24時間で不純物量は35%程度減少しており、加温温度として80℃以上を選定すれば、短い時間での不純物の析出が可能となり、一層効率的な不純物除去が可能となることを確認した。
また実験例5の結果から、一度析出した析出物は、めっき液の温度をめっき処理温度以下に下げてもめっき液中に再溶解しないことから、加温により析出した析出物を含むめっき液を加温前の温度(めっき処理を行う温度)まで冷却し、その後濾過することで濾過後のめっき液をめっき槽に戻す際の温度調整は不要となる。したがって、めっき処理を停止することなく、めっき液中の不純物除去を連続的に実施することができ、工業規模の生産において効率的に安定した性状のめっき被膜を形成可能なめっき処理を提供することができる。
【0041】
以上の実験例において、Nd,PrやDyの不純物低減効果を確認したが、Tbや更に他の希土類不純物についても低減可能である。
更には、めっき液中のFe不純物やCu不純物についても低減可能である。
【実施例】
【0042】
上記の実験例に基づき、めっき槽、加温手段、冷却手段、分離除去手段、及び移動手段を選定し、本発明の装置を製作した。
なお本発明の除去装置を構成する各手段は、耐熱性及び少なくともめっき液に直接触れる部分は耐酸性(あるいは耐アルカリ性)を有することが望ましい。
本発明の除去装置の一実施態様を
図1に示す構成に基づいて説明する。なお、めっき槽を含み、各手段の具体的な機能や動作は先に説明した通りであり、以下では省略する。
めっき槽:図中4は電気ニッメルめっき液を行うめっき槽であり、材質はPVC(塩化ビニル)で構成した。めっき液はワット浴を用いた。めっき温度は50℃とした。
加温手段:図中7は加温手段であり、熱交換器を用いた。熱源は図示しないボイラーで発生させた蒸気を用い、めっき液が通過する部分(接液部)の材質はチタンとした。
希土類不純物を除去するに際し、この加温手段でめっき液を90℃に加温し、一定時間保持した。
冷却手段:図中8は冷却手段であり、熱交換器を用いた。公知の冷媒を冷凍機で冷却し前記加温用の熱交換器で加温された電気ニッケルめっき液を50℃に冷却した。めっき液が通過する部分(接液部)の材質はチタンとした。
分離除去手段:図中9は分離除去手段であり、糸巻フィルタを使用する公知の濾過器を用いた。
移動手段:図中6はめっき液をめっき槽4から移動するポンプであり、耐酸性を考慮し少なくともめっき液に接触する部分は樹脂製のポンプを使用した。
接続手段:上記各手段7、8、9を接続する配管及び分離除去手段9とめっき槽4とを接続する配管は耐熱塩ビとした。
なお、図中5及び10はバルブであり、各手段7、8、9及びめっき槽4へ移動(送液)されるめっき液の流量を調節した。
【0043】
上記の装置によって、実験例1と同様な条件にてR−Fe−B系焼結磁石の表面に対して電気ニッケルめっきを行いながら希土類不純物の除去を行ったところ、実験例1と同程度の希土類不純物の除去が実現でき、実質的に、めっき処理中のめっき液中の希土類不純物の増加を抑えることができることを確認した。