(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119586
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法、炭化珪素被覆黒鉛部材、及びシリコン結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/87 20060101AFI20170417BHJP
C04B 41/82 20060101ALI20170417BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20170417BHJP
C01B 32/956 20170101ALI20170417BHJP
【FI】
C04B41/87 V
C04B41/82 C
C01B31/04 101A
C01B31/36 601S
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-252246(P2013-252246)
(22)【出願日】2013年12月5日
(65)【公開番号】特開2015-107896(P2015-107896A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝世
(72)【発明者】
【氏名】小内 駿英
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
【審査官】
浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−281085(JP,A)
【文献】
特開昭52−006714(JP,A)
【文献】
特開平09−190730(JP,A)
【文献】
特開昭63−166789(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/043427(WO,A1)
【文献】
特開昭56−096788(JP,A)
【文献】
特開2011−079725(JP,A)
【文献】
特開平03−275579(JP,A)
【文献】
特開平11−273835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/205
C01B 32/956
C04B 35/52−35/536
C04B 41/80−41/91
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にSiC層が形成された黒鉛部品に、シリコーンオイルを塗布含浸し、焼成することにより、前記SiC層を緻密化する方法であり、
前記黒鉛部品の表面に形成されたSiC層は、前記黒鉛部品とSiOガス又はSi蒸気との接触により形成され、
前記黒鉛部品をスリットを有する抵抗加熱ヒーターとし、該抵抗加熱ヒーターの前記スリット周囲のみに前記シリコーンオイルを塗布含浸し、通電焼成することを特徴とする炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法。
【請求項2】
前記黒鉛部品とSiOガス又はSi蒸気との接触手段として、シリコン結晶製造装置において、石英ルツボでSiメルトを保持することにより発生させたSiOガス又はSi蒸気を前記黒鉛部品と接触させることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法。
【請求項3】
前記シリコーンオイルの塗布含浸を、前記黒鉛部品表面の一部に実施することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法。
【請求項4】
前記シリコーンオイルを塗布含浸後に風乾もしくは100℃以下の温度で加熱乾燥させた後、前記焼成を、不活性ガス雰囲気中で、1段以上の加熱ステップを経由し、最高焼成温度1,500℃以上にて行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法。
【請求項5】
前記シリコーンオイルの塗布含浸は、刷毛又はスプレーで塗布することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法。
【請求項6】
炭化珪素被覆黒鉛部材であって、
黒鉛部品の表面に、空隙が埋められ緻密化したSiC層を有するものであり、
前記黒鉛部品がスリットを有する抵抗加熱ヒーターであり、該抵抗加熱ヒーターの前記スリット周囲のみに前記緻密化したSiC層を有するものであることを特徴とする炭化珪素被覆黒鉛部材。
【請求項7】
請求項6に記載の炭化珪素被覆黒鉛部材を使用することを特徴とするシリコン結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン結晶製造装置などに使用される炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法、これにより製造される炭化珪素被覆黒鉛部材、及びこれを用いたシリコン結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン結晶製造装置内では多くの黒鉛部品が使用されている。シリコン結晶製造の操業時には石英ルツボに保持されたSi(シリコン)メルトからSiOガス及びSi蒸気が発生する。発生したSiOガス及びSi蒸気はシリコン結晶製造装置内のガスの流れに従い移動し、シリコン結晶製造装置内高温部の黒鉛部品表面にて下記反応式(1)及び(2)の反応により、黒鉛部品表面が粗なSiC(炭化珪素)層に転化する。なお、式中、(g)は気体、(s)は固体を示す。
SiO(g)+2C(s)→SiC(s)+CO(g) (1)
Si(g)+C(s)→SiC(s) (2)
【0003】
上記のように黒鉛部品表面が転化し形成されたSiC層は粗であり、この粗なSiC層にSiOガス及びSi蒸気が通過して、黒鉛部品の未転化部分では上記と同様の反応が起こり、黒鉛部品は連続的に転化侵食される。
このようにして形成された粗なSiC層は、機械的強度をほとんどもたないため、転化後に残る黒鉛部分が薄肉化すると強度が低下し、自重等による変形量の増大や、クラックの発生、最悪の場合には破壊につながる。このように、SiOガス及びSi蒸気によって黒鉛部品が粗なSiC層へ転化することで黒鉛部品のクラックや破壊を引き起こし、結果として黒鉛部品の寿命が短くなるという問題があった。
【0004】
一方、SiC自体はシリコン結晶製造環境で安定に存在しており、特許文献1、2では、黒鉛部品表面にCVD法によってSiC膜を形成し、黒鉛部品表面の粗なSiC層への転化を抑制する技術が開示されているが、CVD装置による多大な設備コスト、部材サイズ制約に加え、母材黒鉛部品とSiC膜の熱膨張差による割れが生じる問題があった。
特許文献3では、黒鉛部品表面にガラス状カーボン層を形成し、その上にSiC層を積層形成することで母材黒鉛部品とSiC層の熱膨張差による割れを抑制するSiC成膜方法が開示されているが、この方法でも形成されるSiC層は粗であり、SiOガス及びSi蒸気の母材黒鉛部品への到達を防ぐことができないため、母材黒鉛部品の粗なSiC層への転化を抑制する効果が十分に得られない。
【0005】
また、特許文献4には、母材黒鉛部品とSiC膜の熱膨張差による割れを抑制するため母材を高強度の炭素繊維強化炭素材として、その気孔部にCVI法(化学気相浸透法)によりSiCを析出させることで、炭素繊維強化炭素材の気孔内面とSiOガスの反応を抑制させる技術が開示されているが、炭素材露出部分が多く母材が粗なSiC層へ転化するのを抑制する効果が十分に得られない上、CVI装置による多大な設備コスト、部材サイズの制約が問題であった。
【0006】
このように、従来技術では、SiC被覆時のSiCと黒鉛部品の熱膨張差に起因する黒鉛部品の割れを抑制しつつ、SiOガス及びSi蒸気による黒鉛部品のSiC層への転化を十分に抑制することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−291896号公報
【特許文献2】特開平11−273835号公報
【特許文献3】特開平7−315967号公報
【特許文献4】特開2000−247779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、黒鉛部品のSiC層への転化を効果的に抑制することで黒鉛部品の寿命を飛躍的に向上させた炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、表面にSiC層が形成された黒鉛部品に、シリコーンオイルを塗布含浸し、焼成することにより、前記SiC層を緻密化する炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法であれば、黒鉛部品表面のSiC層を緻密化することで黒鉛部品の表面が粗なSiC層へ転化することを効果的に抑制し、これによって黒鉛部品の寿命を飛躍的に向上させた炭化珪素被覆黒鉛部材を製造することができる。
【0011】
またこのとき、前記黒鉛部品の表面に形成されたSiC層は、前記黒鉛部品とSiOガス又はSi蒸気との接触により形成されることが好ましい。
さらにこのとき、前記黒鉛部品とSiOガス又はSi蒸気との接触手段として、シリコン結晶製造装置において、石英ルツボでSiメルトを保持することにより発生させたSiOガス又はSi蒸気を前記黒鉛部品と接触させることが好ましい。
【0012】
このような手段であれば、容易に黒鉛部品表面にSiC層を形成することができる。
【0013】
またこのとき、前記シリコーンオイルの塗布含浸を、前記黒鉛部品表面の一部に実施することが好ましい。
特に、前記黒鉛部品をスリットを有する抵抗加熱ヒーターとし、該抵抗加熱ヒーターの前記スリット周囲のみに前記シリコーンオイルを塗布含浸し、通電焼成することが好ましい。
【0014】
これにより、SiC層と黒鉛部品の熱膨張差に起因する黒鉛部品の割れを抑制しつつ、SiOガス及びSi蒸気による黒鉛部品の粗なSiC層への転化を効果的に抑制することができるため、さらに寿命を向上させることができる。また、通電焼成とすることで、効率的に焼成を行うことができる。
【0015】
前記シリコーンオイルを塗布含浸後に風乾もしくは100℃以下の温度で加熱乾燥させた後、前記焼成を、不活性ガス雰囲気中で、1段以上の加熱ステップを経由し、最高焼成温度1,500℃以上にて行うことが好ましい。
【0016】
乾燥させることで、シリコーンオイル中の溶剤を完全に除去でき、またこのような焼成温度とすることで、シリコーンオイルを完全に熱分解して緻密なSiC化をすることができる。また、焼成の際に加熱ステップを設けることで、緻密なSiC層が形成される前に金属不純物を排除する効果が得られるため、特に半導体用シリコン結晶製造装置など高純度が要求される場合に好適に用いられる炭化珪素被覆黒鉛部材が得られる。
【0017】
また、このとき前記シリコーンオイルの塗布含浸は、刷毛又はスプレーで塗布することが好ましい。
このような手段であれば、容易に任意の箇所へシリコーンオイルの選択的塗布を施すことができる。
【0018】
また、本発明では、上記の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法によって製造された炭化珪素被覆黒鉛部材を提供する。
【0019】
このような炭化珪素被覆黒鉛部材であれば、黒鉛部品表面のSiC層を緻密化することで黒鉛部品の表面が粗なSiC層への転化を効果的に抑制できるため、黒鉛部品の寿命が飛躍的に向上した炭化珪素被覆黒鉛部材となる。
【0020】
さらに、本発明では、上記の炭化珪素被覆黒鉛部材を使用するシリコン結晶の製造方法を提供する。
【0021】
このようなシリコン結晶の製造方法であれば、黒鉛部品の寿命が飛躍的に向上した炭化珪素被覆黒鉛部材を用いるため、従来黒鉛部品の交換に要した時間やコストを削減することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法であれば、SiC層と黒鉛部品の熱膨張差による割れを抑制しつつ、SiC層の緻密化によって黒鉛部品の粗なSiC層への転化を抑制できるため、黒鉛部品の寿命を飛躍的に向上させることができ、さらに半導体用シリコン結晶製造装置など高純度が要求される場合に好適に用いられる炭化珪素被覆黒鉛部材を得ることができる。
また、このような炭化珪素被覆黒鉛部材を使用する本発明のシリコン結晶の製造方法であれば、黒鉛部品の寿命が飛躍的に向上した炭化珪素被覆黒鉛部材を用いるため、従来黒鉛部品の交換に要した時間やコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】本発明のシリコン結晶の製造方法に用いられるシリコン結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
【
図3】実験例の各サンプルの総灰分を示すグラフである。
【
図4】実施例1、比較例1の黒鉛ヒーターの破壊にいたるまでのライフを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述のように、黒鉛部品の長寿命化のために、黒鉛部品の粗なSiC層への転化を効果的に抑制する方法の開発が求められていた。
【0025】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、黒鉛部品の表面に形成された粗なSiC層にシリコーンオイルを塗布含浸し焼成することで、粗なSiC層を緻密化させ、この緻密化したSiC層により黒鉛部品のそれ以上のSiC層への転化を抑制できる、即ち黒鉛部品を長寿命化させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0026】
即ち、本発明は、表面にSiC層が形成された黒鉛部品に、シリコーンオイルを塗布含浸し、焼成することにより、前記SiC層を緻密化する炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法である。
【0027】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材及びその材料となる黒鉛部品として、シリコン結晶の製造に用いられる黒鉛ヒーターを例に挙げて説明するが、もちろん本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材及びその材料となる黒鉛部品は、黒鉛ヒーター以外であってもよい。
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法について説明する。
図1は本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法の一例を示すフロー図である。
本発明では、表面にSiC層1が形成された黒鉛部品2に、(i)シリコーンオイルを塗布含浸することで、SiC層1をシリコーンオイルを含浸させたSiC層3とする。次に、これを(ii)焼成することで、シリコーンオイルを含浸させたSiC層3を緻密化したSiC層4とし、本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材5を製造する。
【0029】
本発明では、このような製造方法で製造された炭化珪素被覆黒鉛部材を提供する。
このようにして製造された本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材は、黒鉛部品表面のSiC層を緻密化することでその後の使用において黒鉛部品のさらなるSiC層への転化を効果的に抑制できるため、黒鉛部品の寿命が飛躍的に向上した炭化珪素被覆黒鉛部材となる。
【0030】
以下、本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法における各工程についてさらに詳しく説明する。
まず、表面にSiC層が形成された黒鉛部品を用意する。黒鉛部品表面のSiC層の形成は、例えば黒鉛部品とSiOガス又はSi蒸気との接触により形成されることが好ましく、黒鉛部品とSiOガス又はSi蒸気との接触手段としては、例えばシリコン結晶製造装置において、石英ルツボでSiメルトを保持することにより発生させたSiOガス又はSi蒸気を黒鉛部品と接触させることが好ましい。
【0031】
より具体的には、例えば黒鉛部品が黒鉛ヒーターである場合、黒鉛ヒーターをシリコン結晶製造装置内に設置して実際にシリコン結晶の製造を行い、その際に石英ルツボ内のSiメルトから発生したSiOガス又はSi蒸気によって黒鉛ヒーター表面に目的の厚さまでSiC層を成長させることでSiC層の形成を行うことができる。
このような手段であれば、容易に黒鉛部品表面にSiC層を形成することができるが、もちろんその他の方法で黒鉛部品表面にSiC層を形成したものを用いてもよい。
【0032】
次に、上記のようにして表面に粗なSiC層が形成された黒鉛部品に、シリコーンオイルを塗布し、含浸させる(
図1中の(i)工程)。
SiC層に含浸したシリコーンオイルは、焼成によって熱分解してSiCを生成し、これが粗なSiC層の空隙を埋めることで、緻密化したSiC層が形成される。このようにして形成された緻密化したSiC層は、粗なSiC層と比較してSiOガスやSi蒸気を透過させにくいため、その後の黒鉛部材を使用しても黒鉛部品のさらなるSiC層への転化を効果的に抑制できる。
【0033】
このとき用いられるシリコーンオイルとしては、特に限定されないが、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等が好ましい。
【0034】
また、シリコーンオイルは、室温にて刷毛又はスプレーにて塗布することが好ましい。
シリコーンオイルは黒鉛部品及びSiC層に高い親和性を有し、塗布直後に浸透含浸させることができるため、刷毛又はスプレーを用いて容易に任意の箇所への選択的塗布を施すことができる。
【0035】
シリコーンオイルの塗布含浸後、焼成を行う(
図1中の(ii)工程)。
このとき、シリコーンオイル中の溶剤を完全に除去するため、焼成前に、風乾もしくは100℃以下の温度で加熱乾燥させ、Ar、N
2などの不活性ガス雰囲気中で、1段以上の加熱ステップを経由し、最高焼成温度1,500℃以上にて焼成を行うことが好ましい。
また、最高焼成温度は1,500℃以上2,000℃以下、最高焼成温度保持時間は1時間以上5時間以内とすることがより好ましい。
【0036】
最高焼成温度を1,500℃以上とすることでシリコーンオイルを完全に熱分解してSiC化することができ、加熱ステップを設けることで、緻密なSiC層が形成される前の比較的粗な状態で金属不純物が放出除去されるため、高純度化効果が得られ、半導体用シリコン結晶製造装置など高純度が要求される場合でも使用可能な炭化珪素被覆黒鉛が得られる。
【0037】
また、上述の反応式(1)、(2)で示される黒鉛部品表面の粗なSiC層への転化反応は高温部ほど顕著に進行するため、上述のシリコーンオイルの塗布含浸を、黒鉛部品全体ではなく、黒鉛部品表面の一部、特に反応が顕著となる高温部に局所的に実施することが好ましい。これにより、SiC層と黒鉛部品の熱膨張差に起因するクラックや割れ等の破損の発生を抑制できるため、結果として黒鉛部品の寿命をさらに向上させることができる。
【0038】
特に、シリコン結晶製造装置に用いられる抵抗加熱式の黒鉛ヒーター(抵抗加熱ヒーター)は、最高使用温度が1,800℃程度の高温となるため、粗なSiC層への転化反応が顕著であるが、ヒーターのスリット周囲に高温部が集中するため、この領域に形成された粗なSiC層のみに、本発明のシリコーンオイルの塗布含浸とその後の焼成によるSiC層の緻密化処理を施すことで、SiC層と黒鉛部品の熱膨張差による破壊を効果的に抑制しつつ、顕著な寿命延長効果が得られる。
【0039】
また、このとき、焼成は、通電焼成で行うことが好ましい。通電焼成であれば、シリコーンオイルの塗布含浸後、抵抗加熱ヒーターに通電し、抵抗加熱ヒーター自体の熱で焼成を行うため、効率的である。
【0040】
以上のような方法で、SiC層と黒鉛部品の熱膨張差による割れを抑制しつつ、SiC層の緻密化によって黒鉛部品の使用時のSiC層への転化を抑制できるため、黒鉛部品の寿命を飛躍的に向上させることができ、さらに半導体用シリコン結晶製造装置など高純度が要求される場合に好適に用いられる炭化珪素被覆黒鉛部材を得ることができる。
【0041】
さらに、本発明では、上述の炭化珪素被覆黒鉛部材を使用するシリコン結晶の製造方法を提供する。
以下、図面を参照しながら本発明のシリコン結晶の製造方法について説明する。
【0042】
図2は本発明のシリコン結晶の製造方法に用いられるシリコン結晶製造装置の一例を示す概略断面図である。
シリコン結晶製造装置10では、冷却チャンバー11内、支持軸12上に配置された黒鉛ルツボ13内の石英ルツボ14の内部にはSiメルト15が満たされており、シリコン結晶16は、種結晶17をSiメルト15に着液し、これを引上げ軸18に沿ってプルチャンバー19内に引上げることで製造される。Siメルト15を加熱するための黒鉛ヒーター20は黒鉛ルツボ13の外周に設置され、この黒鉛ヒーター20の外周には黒鉛ヒーター20からの熱を断熱するためにインナーシールド21と保温筒22が設置されている。
【0043】
プルチャンバー19の上部にはAr給気部23を設けてあり、不活性ガスとしてArガスを流している。このArガスはガス整流筒24とシリコン結晶16の間を通ってSiメルト15表面に導かれている。Arガスは減圧下でSiメルト15の直上に配置された遮熱部材25とSiメルト15表面とによって形成される誘導路を通じて流れ、さらに石英ルツボ14の内壁部と遮熱部材25の外側とによって形成される誘導路を通じて石英ルツボ14外へと排出される。黒鉛ヒーター20は黒鉛ルツボ13とインナーシールド21の間に配されており、冷却チャンバー11下部にあるAr排気部26からは真空ポンプによりArガスを強制排気している。
【0044】
従って、Siメルト15表面から排出されたSi蒸気及びSiOガスは、黒鉛ルツボ13の外壁とインナーシールド21の内壁部によって形成された誘導路をAr排気部26に向かって流れていく。この誘導路中央に配された黒鉛ヒーター20の表面は、特にSiOガス及びSi蒸気によるSiC層への転化反応が進行しやすい。
【0045】
そこで、本発明では、例えば上述の本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材を
図2中の黒鉛ヒーター20として使用するシリコン結晶の製造方法を提供する。
上述のように、本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材は表面に緻密なSiC層があるので、結晶製造中にさらに黒鉛部品の表面がSiC層へ転化する反応を抑制できるため、黒鉛ヒーターとして使用した場合、黒鉛ヒーターを長寿命化させることができる。即ち、従来黒鉛ヒーターの交換に要した時間やコストを削減することができる。
【0046】
以上のように、本発明の炭化珪素被覆黒鉛部材の製造方法であれば、SiC層と黒鉛部品の熱膨張差による割れを抑制しつつ、SiC層の緻密化によって黒鉛部品の粗なSiC層への転化を抑制できるため、黒鉛部品の寿命を飛躍的に向上させることができ、さらに半導体用シリコン結晶製造装置など高純度が要求される場合に好適に用いられる炭化珪素被覆黒鉛部材を得ることができる。
また、このような炭化珪素被覆黒鉛部材を使用する本発明のシリコン結晶の製造方法であれば、寿命が飛躍的に向上した炭化珪素被覆黒鉛部材を用いるため、従来黒鉛部品の交換に要した時間やコストを削減することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実験例、実施例、及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
(実験例)
表面にSiC層を形成した10mm角、厚さ5mmの黒鉛部品を用意し、この黒鉛部品に(a)シリコーンオイルを塗布含浸しないもの、(b)シリコーンオイルを塗布含浸したもの、の2サンプルを作製した。なお、シリコーンオイルはジメチルシリコーンオイルを用い、テフロン(登録商標)製刷毛にて塗布した。(b)シリコーンオイルを塗布したサンプルは1日風乾した後、(a)、(b)の両サンプルをそれぞれ、Ar雰囲気で、1,000℃/5hr、1,350℃/5hr、1,550℃/5hrの3段加熱ステップ焼成を行い、焼成後の各サンプルの灰化総灰分により純度レベルを評価した。灰化総灰分は、焼成後の各サンプルを石英容器に配置し、900℃酸素含有雰囲気にて灰化処理した後、残存灰分重量を測定した。
図3に各サンプルの総灰分を測定した結果を示す。
【0049】
図3に示されるように、焼成を3段加熱ステップ焼成で行った場合は、(a)、(b)の両サンプルの総灰分が同等であった。
このことから、シリコーンオイルを塗布含浸する場合は焼成の際に加熱ステップを設けることで、緻密なSiC層が形成される前に金属不純物を排除する効果が得られ、特に半導体用シリコン結晶製造装置など高純度が要求される場合に好適に用いられる炭化珪素被覆黒鉛部材が得られることが示唆された。
【0050】
(比較例1)
図2に示されるチョクラルスキー法によるシリコン結晶製造装置を用いてシリコン結晶の育成を繰り返し、黒鉛ヒーターの破壊にいたるまでのライフを評価した。その結果を
図4に示す。なお、
図4のグラフでは比較例1の黒鉛ヒーターの破壊にいたるまでのライフをライフ指数1とした。
【0051】
(比較例2)
比較例1において、黒鉛ヒーターを、CVD法によってSiC膜を被覆した黒鉛ヒーター(CVD−SiC被覆黒鉛ヒーター)とした以外は同条件でシリコン結晶の育成を行ったところ、CVD−SiC被覆黒鉛ヒーターは1バッチで破壊した。
【0052】
(実施例1)
まず、比較例1の条件でシリコン結晶の育成を繰り返し、黒鉛ヒーター表面に厚さ1mmのSiC層を形成させた。なお、厚さ1mmのSiC層の形成には、上記のライフ指数で、0.04を要した。
次に、形成されたSiC層にシリコーンオイルを塗布含浸した。なお、シリコーンオイルはジメチルシリコーンオイルを用い、テフロン(登録商標)製刷毛にて塗布した。また、塗布範囲はヒータースリット交差部分上20mmから下20mmの範囲全周とした。
シリコーンオイルを塗布含浸後、1日風乾した後、Ar雰囲気で1,000℃/5hr、1,350℃/5hr、1,550℃/5hrの3段加熱ステップ焼成を行い、SiC層緻密化黒鉛ヒーターとした。その後、再度、シリコン結晶の育成を繰り返し、SiC層緻密化黒鉛ヒーターの破壊にいたるまでのライフを評価した。その結果を
図4に示す。
【0053】
図4に示されるように、実施例1のSiC層緻密化黒鉛ヒーターのライフ指数は、比較例1の黒鉛ヒーターの2.3倍となった。また、実施例1の同ライフ指数における黒鉛ヒーターの減肉の程度は、比較例1の半分以下であった。
【0054】
以上のことから、本発明の製造方法によって製造された炭化珪素被覆黒鉛部材であれば、SiC層と黒鉛部品の熱膨張差による割れを抑制しつつ、SiC層の緻密化によって黒鉛部品の粗なSiC層への転化を抑制できるため、黒鉛部品の寿命を飛躍的に向上させられることが明らかとなった。
【0055】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0056】
1…SiC層、 2…黒鉛部品、 3…シリコーンオイルを含浸させたSiC層、
4…緻密化したSiC層、 5…炭化珪素被覆黒鉛部材、
10…シリコン結晶製造装置、 11…冷却チャンバー、 12…支持軸、
13…黒鉛ルツボ、 14…石英ルツボ、 15…Siメルト、
16…シリコン結晶、 17…種結晶、 18…引上げ軸、 19…プルチャンバー、
20…黒鉛ヒーター、 21…インナーシールド、 22…保温筒、
23…Ar給気部、 24…ガス整流筒、 25…遮熱部材、 26…Ar排気部。