特許第6119610号(P6119610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許6119610エポキシ樹脂組成物、半硬化エポキシ樹脂組成物、硬化エポキシ樹脂組成物、樹脂シート、プリプレグ、積層板、金属基板、配線板、半硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法及び硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法
<>
  • 特許6119610-エポキシ樹脂組成物、半硬化エポキシ樹脂組成物、硬化エポキシ樹脂組成物、樹脂シート、プリプレグ、積層板、金属基板、配線板、半硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法及び硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法 図000062
  • 特許6119610-エポキシ樹脂組成物、半硬化エポキシ樹脂組成物、硬化エポキシ樹脂組成物、樹脂シート、プリプレグ、積層板、金属基板、配線板、半硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法及び硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法 図000063
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119610
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、半硬化エポキシ樹脂組成物、硬化エポキシ樹脂組成物、樹脂シート、プリプレグ、積層板、金属基板、配線板、半硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法及び硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20170417BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20170417BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   C08G59/24
   C08G59/62
   C08J5/24CFC
【請求項の数】18
【全頁数】55
(21)【出願番号】特願2013-541829(P2013-541829)
(86)(22)【出願日】2012年10月31日
(86)【国際出願番号】JP2012078240
(87)【国際公開番号】WO2013065759
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2011/075345
(32)【優先日】2011年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-241668(P2011-241668)
(32)【優先日】2011年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-90473(P2012-90473)
(32)【優先日】2012年4月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 優香
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 由高
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 靖夫
【審査官】 藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−231790(JP,A)
【文献】 特開2004−256576(JP,A)
【文献】 特開2011−074366(JP,A)
【文献】 特開2007−262398(JP,A)
【文献】 特開2010−132838(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040416(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/027802(WO,A1)
【文献】 特表2010−518183(JP,A)
【文献】 特開2006−131852(JP,A)
【文献】 特許第4619770(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C08G 59/24
C08G 59/62
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーと、2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂を含む硬化剤と、α−アルミナを含むアルミナフィラーと、を含有し、前記硬化剤が、下記一般式(II−1)及び(II−2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含むノボラック樹脂であるエポキシ樹脂組成物。
【化1】

[一般式(I)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す]
【化2】

[一般式(II−1)及び(II−2)中、R21及びR24はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R22、R23、R25及びR26はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。m21及びm22はそれぞれ独立に0〜2の整数を示す。n21及びn22はそれぞれ独立に1〜7の整数を示す]
【請求項2】
前記硬化剤が、下記一般式(III−1)〜(III−4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含むノボラック樹脂である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

[一般式(III−1)〜(III−4)中、m31〜m34及びn31〜n34はそれぞれ独立に、正の整数を示す。Ar31〜Ar34はそれぞれ独立に、下記一般式(III−a)で表される基及び下記一般式(III−b)で表される基のいずれかを示す]
【化7】

[一般式(III−a)及び(III−b)中、R31及びR34はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を示す。R32及びR33はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]
【請求項3】
前記硬化剤は、前記ノボラック樹脂を構成するフェノール化合物であるモノマーの含有比率が5質量%〜80質量%である請求項1又は請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記アルミナフィラーの含有率が、全体積中の60体積%〜90体積%である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
更に下記一般式(IV)で表わされる構造単位を有するエラストマーを含有する請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化8】

[一般式(IV)中、R41、R42及びR43はそれぞれ独立して、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は水素原子を示す。R44は直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。n4は任意の整数を示す]
【請求項6】
前記エラストマーは下記一般式(V)で表される構造単位を含むアクリルエラストマーを含有する請求項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化9】

[一般式(V)中、a、b、c及びdは全構造単位における各構造単位のモル%を示し、a+b+c+d=90モル%以上である。R51及びR52はそれぞれ独立して、互いに炭素数の異なる直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。R53〜R56はそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示す]
【請求項7】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の半硬化体である半硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化体である硬化エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物のシート状成形体である樹脂シート。
【請求項10】
繊維基材と、前記繊維基材に含浸された請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物と、を有するプリプレグ。
【請求項11】
被着材と、前記被着材上に配置され、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物、請求項に記載の樹脂シート、及び請求項10に記載のプリプレグからなる群より選択される少なくとも1つの半硬化体である半硬化エポキシ樹脂組成物層、又は硬化体である硬化エポキシ樹脂組成物層と、を有する積層板。
【請求項12】
金属箔と、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物、請求項に記載の樹脂シート、及び請求項10に記載のプリプレグからなる群より選択される少なくとも1つの硬化体である硬化エポキシ樹脂組成物層と、金属板と、がこの順に積層された金属基板。
【請求項13】
金属板と、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物、請求項に記載の樹脂シート、及び請求項10に記載のプリプレグからなる群より選択される少なくとも1つの硬化体である硬化エポキシ樹脂組成物層と、配線層と、がこの順に積層された配線板。
【請求項14】
下記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマー、2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂を含む硬化剤及びα−アルミナを含むアルミナフィラーを含有するエポキシ樹脂組成物を、基材上に付与してエポキシ樹脂層を形成する工程と、
前記エポキシ樹脂層を加熱処理して半硬化エポキシ樹脂層とする工程と、
を含み、前記硬化剤が、下記一般式(II−1)及び(II−2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含むノボラック樹脂である半硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【化10】

[一般式(I)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す]
【化11】

[一般式(II−1)及び(II−2)中、R21及びR24はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R22、R23、R25及びR26はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。m21及びm22はそれぞれ独立に0〜2の整数を示す。n21及びn22はそれぞれ独立に1〜7の整数を示す]
【請求項15】
前記硬化剤が、下記一般式(III−1)〜(III−4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含むノボラック樹脂である請求項14に記載の半硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

[一般式(III−1)〜(III−4)中、m31〜m34及びn31〜n34はそれぞれ独立に、正の整数を示す。Ar31〜Ar34はそれぞれ独立に、下記一般式(III−a)で表される基及び下記一般式(III−b)で表される基のいずれかを示す]
【化16】

[一般式(III−a)及び(III−b)中、R31及びR34はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を示す。R32及びR33はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]
【請求項16】
下記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマー、2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂を含む硬化剤及びα−アルミナを含むアルミナフィラーを含有するエポキシ樹脂組成物を、基材上に付与してエポキシ樹脂層を形成する工程と、
前記エポキシ樹脂層を加熱処理して半硬化エポキシ樹脂層とする工程と、
前記半硬化エポキシ樹脂層を加熱処理して硬化エポキシ樹脂層とする工程と、
を含み、前記硬化剤が、下記一般式(II−1)及び(II−2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含むノボラック樹脂である硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【化17】

[一般式(I)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す]
【化18】

[一般式(II−1)及び(II−2)中、R21及びR24はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R22、R23、R25及びR26はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。m21及びm22はそれぞれ独立に0〜2の整数を示す。n21及びn22はそれぞれ独立に1〜7の整数を示す]
【請求項17】
前記硬化剤が、下記一般式(III−1)〜(III−4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含むノボラック樹脂である請求項16に記載の硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

[一般式(III−1)〜(III−4)中、m31〜m34及びn31〜n34はそれぞれ独立に、正の整数を示す。Ar31〜Ar34はそれぞれ独立に、下記一般式(III−a)で表される基及び下記一般式(III−b)で表される基のいずれかを示す]
【化23】


[一般式(III−a)及び(III−b)中、R31及びR34はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を示す。R32及びR33はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す]
【請求項18】
金属板、はんだ層及び半導体チップがこの順に積層された半導体モジュールと、
放熱部材と、
前記半導体モジュールの前記金属板と前記放熱部材との間に配置された請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化体と、
を含むパワー半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、半硬化エポキシ樹脂組成物、硬化エポキシ樹脂組成物、樹脂シート、プリプレグ、積層板、金属基板、配線板、半硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法及び硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機及びモーターからプリント配線板及びICチップに至るまでの電子機器及び電気機器の多くは、電気を通すための導体と絶縁材料とを含んで構成される。近年、これらの機器の小型化に伴って発熱量が増大したため、絶縁材料においていかに熱を放散させるかが重要な課題となっている。
【0003】
これらの機器に用いられている絶縁材料としては、絶縁性、耐熱性等の観点から、熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂硬化物が広く使われている。しかし、一般的に樹脂硬化物の熱伝導率は低く、熱放散を妨げている大きな要因となっているため、高熱伝導性を有する樹脂硬化物の開発が望まれている。
【0004】
高熱伝導性を有する樹脂硬化物として、分子構造中にメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂組成物の硬化物が提案されている(例えば、特許第4118691号公報参照)。分子構造中にメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂としては、特許第4619770号公報、特開2011−74366号公報、特開2011−84557号公報等に示されている化合物を挙げることができる。
【0005】
また、樹脂硬化物の高熱伝導化を達成する手法として、高熱伝導性セラミックスからなる熱伝導性フィラーを樹脂組成物に充填してコンポジット材料とする方法がある。高熱伝導性セラミックスとしては、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シリカ、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、炭化ケイ素等が知られている。高熱伝導性と電気絶縁性を両立する熱伝導性フィラーを樹脂組成物に充填することにより、コンポジット材料において高熱伝導性と電気絶縁性との両立を図るものである。
【0006】
上記に関連し、ビフェニル骨格を有する所謂メソゲン骨格含有エポキシ樹脂とフェノール樹脂と球状アルミナを必須成分とする樹脂組成物が開示され(例えば、特許2874089号公報参照)、高熱伝導性に優れた半導体封止用樹脂組成物であると報告されている。また、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂とキサンテン骨格を有する硬化剤と無機充填材とを含有する樹脂組成物が開示され(例えば、特開2007−262398号公報参照)、放熱性に優れる樹脂組成物であるとされている。更に、3環型メソゲン骨格含有エポキシ樹脂と硬化剤とアルミナ粉末とを含む樹脂組成物が開示され(例えば、特開2008−13759号公報参照)、高い熱伝導率及び優れた加工性を有するとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
分子構造中にメソゲン骨格を有するエポキシ樹脂モノマーは、高熱伝導性を有する熱硬化性樹脂として知られているが、組み合わせる硬化剤によって得られる樹脂硬化物の高熱伝導率は大きく変わってくる。該エポキシ樹脂モノマーは高い秩序性を有する高次構造を形成し、これが高熱伝導率に寄与しているが、組み合わせる硬化剤によっては高次構造が形成できず、高熱伝導率が得られなくなってしまう。つまり、高熱伝導性を有する樹脂硬化物を得るためには熱硬化性樹脂と硬化剤との両者の選定が重要となってくる。
一方、放熱用途としての絶縁材料には高熱伝導性に加え、近年、高耐熱性が求められるようになっている。
【0008】
このような状況の下、様々なエポキシ樹脂モノマーと硬化剤とを組み合わせた検討がなされている。しかしながら、上記公知文献に開示されている樹脂組成物を含めて、熱伝導性、耐熱性ともに充分に満たす樹脂組成物はこれまでに報告されていない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、高熱伝導性と高耐熱性を有する硬化体を形成可能なエポキシ樹脂組成物、半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物、並びにその製造方法を提供することを課題とする。また、該エポキシ樹脂組成物を用いて構成され、高熱伝導性と高耐熱性を有する樹脂シート、プリプレグ、積層板、金属基板及び配線板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
<1> 下記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーと、2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂を含む硬化剤と、α−アルミナを含むアルミナフィラーと、を含有するエポキシ樹脂組成物である。
【0011】
【化1】
【0012】
一般式(I)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。
【0013】
<2> 前記硬化剤が、下記一般式(II−1)及び(II−2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含むノボラック樹脂である<1>に記載のエポキシ樹脂組成物である。
【0014】
【化2】
【0015】
一般式(II−1)及び(II−2)中、R21及びR24はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R22、R23、R25及びR26はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。m21及びm22はそれぞれ独立に0〜2の整数を示す。n21及びn22はそれぞれ独立に1〜7の整数を示す。
【0016】
<3> 前記硬化剤が、下記一般式(III−1)〜(III−4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含むノボラック樹脂である<1>に記載のエポキシ樹脂組成物である。
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】
【化5】
【0020】
【化6】
【0021】
一般式(III−1)〜(III−4)中、m31〜m34及びn31〜n34はそれぞれ独立に、正の整数を示す。Ar31〜Ar34はそれぞれ独立に、下記一般式(III−a)で表される基及び下記一般式(III−b)で表される基のいずれかを示す。
【0022】
【化7】
【0023】
一般式(III−a)及び(III−b)中、R31及びR34はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を示す。R32及びR33はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0024】
<4> 前記硬化剤は、前記ノボラック樹脂を構成するフェノール化合物であるモノマーの含有率が5質量%〜80質量%である<1>〜<3>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物である。
【0025】
<5> 前記アルミナフィラーの含有率が、全体積中の60体積%〜90体積%である<1>〜<4>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物である。
【0026】
<6> 更に下記一般式(IV)で表わされる構造単位を有するエラストマーを含有する<1>〜<5>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物である。
【0027】
【化8】
【0028】
一般式(IV)中、R41、R42及びR43はそれぞれ独立して、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は水素原子を示す。R44は直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。n4は任意の整数を示す。
【0029】
前記エラストマーは下記一般式(V)で表される構造単位を含むアクリルエラストマーを含有する<6>に記載のエポキシ樹脂組成物である。
【0030】
【化9】
【0031】
一般式(V)中、a、b、c及びdは全構造単位における各構造単位のモル%を示し、a+b+c+d=90モル%以上である。R51及びR52はそれぞれ独立して、互いに炭素数の異なる直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。R53〜R56はそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示す。
【0032】
<8> <1>〜<7>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物の半硬化体である半硬化エポキシ樹脂組成物である。
【0033】
<9> <1>〜<7>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物の硬化体である硬化エポキシ樹脂組成物である。
【0034】
<10> <1>〜<7>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物のシート状成形体である樹脂シートである。
【0035】
<11> 繊維基材と、前記繊維基材に含浸された<1>〜<7>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物と、を有するプリプレグ。
【0036】
<12> 被着材と、前記被着材上に配置され、<1>〜<7>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物、<10>に記載の樹脂シート、及び<11>に記載のプリプレグからなる群より選択される少なくとも1つの半硬化体である半硬化エポキシ樹脂組成物層、又は硬化体である硬化エポキシ樹脂組成物層と、を有する積層板である。
【0037】
<13> 金属箔と、<1>〜<7>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物、<10>に記載の樹脂シート、及び<11>に記載のプリプレグからなる群より選択される少なくとも1つの硬化体である硬化エポキシ樹脂組成物層と、金属板と、がこの順に積層された金属基板。
【0038】
<14> 金属板と、<1>〜<7>のいずれか1つに記載のエポキシ樹脂組成物、<10>に記載の樹脂シート、及び<11>に記載のプリプレグからなる群より選択される少なくとも1つの硬化体である硬化エポキシ樹脂組成物層と、配線層と、がこの順に積層された配線板である。
【0039】
<15> 下記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマー、2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂を含む硬化剤及びα−アルミナを含むアルミナフィラーを含有するエポキシ樹脂組成物を、基材上に付与してエポキシ樹脂層を形成する工程と、前記エポキシ樹脂層を加熱処理して半硬化エポキシ樹脂層とする工程と、を含む半硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法である。
【0040】
【化10】
【0041】
一般式(I)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。
【0042】
<16> 前記硬化剤が、下記一般式(II−1)及び(II−2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含むノボラック樹脂である<15>に記載の半硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【0043】
【化11】
【0044】
一般式(II−1)及び(II−2)中、R21及びR24はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R22、R23、R25及びR26はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。m21及びm22はそれぞれ独立に0〜2の整数を示す。n21及びn22はそれぞれ独立に1〜7の整数を示す。
【0045】
<17> 前記硬化剤が、下記一般式(III−1)〜(III−4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含むノボラック樹脂である<15>に記載の半硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法である。
【0046】
【化12】
【0047】
【化13】
【0048】
【化14】
【0049】
【化15】
【0050】
一般式(III−1)〜(III−4)中、m31〜m34及びn31〜n34はそれぞれ独立に、正の整数を示す。Ar31〜Ar34はそれぞれ独立に、下記一般式(III−a)で表される基及び下記一般式(III−b)で表される基のいずれかを示す。
【0051】
【化16】
【0052】
一般式(III−a)及び(III−b)中、R31及びR34はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を示す。R32及びR33はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0053】
<18> 下記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマー、2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂を含む硬化剤及びα−アルミナを含むアルミナフィラーを含有するエポキシ樹脂組成物を、基材上に付与してエポキシ樹脂層を形成する工程と、前記エポキシ樹脂層を加熱処理して半硬化エポキシ樹脂層とする工程と、前記半硬化エポキシ樹脂層を加熱処理して硬化エポキシ樹脂層とする工程と、を含む硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法である。
【0054】
【化17】
【0055】
一般式(I)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示す。
【0056】
<19> 前記硬化剤が、下記一般式(II−1)及び(II−2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含むノボラック樹脂である<18>に記載の硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法である。
【0057】
【化18】
【0058】
一般式(II−1)及び(II−2)中、R21及びR24はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R22、R23、R25及びR26はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。m21及びm22はそれぞれ独立に0〜2の整数を示す。n21及びn22はそれぞれ独立に1〜7の整数を示す。
【0059】
<20> 前記硬化剤が、下記一般式(III−1)〜(III−4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含むノボラック樹脂である<18>に記載の硬化エポキシ樹脂組成物の製造方法である。
【0060】
【化19】
【0061】
【化20】
【0062】
【化21】
【0063】
【化22】
【0064】
一般式(III−1)〜(III−4)中、m31〜m34及びn31〜n34はそれぞれ独立に、正の整数を示す。Ar31〜Ar34はそれぞれ独立に、下記一般式(III−a)で表される基及び下記一般式(III−b)で表される基のいずれかを示す。
【0065】
【化23】
【0066】
一般式(III−a)及び(III−b)中、R31及びR34はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を示す。R32及びR33はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0067】
<21> 金属板、はんだ層及び半導体チップがこの順に積層された半導体モジュールと、放熱部材と、前記半導体モジュールの前記金属板と前記放熱部材との間に配置された<1>〜<7>のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化体と、を含むパワー半導体装置である。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、高熱伝導性と高耐熱性を有する硬化体を形成可能なエポキシ樹脂組成物、半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物、並びにその製造方法を提供することができる。また、該エポキシ樹脂組成物を用いて構成され、高熱伝導性と高耐熱性を有する樹脂シート、プリプレグ、積層板、金属基板、及び配線板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】本発明にかかる樹脂シートを用いて構成されるパワー半導体装置の構成の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明にかかる樹脂シートを用いて構成されるパワー半導体装置の構成の別の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。更に組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0071】
<エポキシ樹脂組成物>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、下記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーと、2価のフェノール化合物をノボラック化した樹脂を含む硬化剤と、α−アルミナを含むアルミナフィラーとを含有する。エポキシ樹脂組成物は、必要に応じてその他の成分を更に含有していてもよい。
かかる構成であることで、本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化後に優れた高熱伝導性と高耐熱性を示すことができる。更に本発明のエポキシ樹脂組成物は、優れた成形性を示す。
【0072】
【化24】
【0073】
上記一般式(I)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。
【0074】
上記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーは、分子構造中にメソゲン基を有するエポキシ樹脂モノマーである。分子構造中にメソゲン基を有するエポキシ樹脂モノマーの硬化体が熱伝導性に優れることは、特許第4118691号明細書に記載されている。しかし、一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーに2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂を組み合わせることで、特許第4118691号公報の記載からは予想できないほど硬化エポキシ樹脂組成物の熱伝導性が向上し、かつ耐熱性も向上する。これは例えば、該エポキシ樹脂モノマーと該ノボラック樹脂からなる硬化体においては、非常に高密度な架橋が形成されるためであると考えられる。一般的に、架橋密度が高いと硬化体のガラス転移温度(Tg)が高くなり、硬化体のTgが高くなると熱伝導性及び耐熱性も向上する傾向がある。
【0075】
ここで、メソゲン基とは、分子間相互作用の働きにより結晶性又は液晶性を発現し易くするような官能基のことを指す。具体的には、ビフェニル基、フェニルベンゾエート基、アゾベンゼン基、スチルベン基、それらの誘導体等が代表として挙げられる。一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーも、分子構造中にメソゲン基を有するエポキシ樹脂モノマーの1種である。
【0076】
また、本発明者らは、分子構造中にメソゲン基を有する一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーは、α−アルミナフィラーを中心としてより高い秩序性を有する高次構造を形成し、硬化体の熱伝導性が飛躍的に向上することを見出した。つまり、該エポキシ樹脂モノマーの硬化体がα−アルミナフィラー間の熱伝導経路となるため、より高い熱伝導性を達成することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化した硬化エポキシ樹脂組成物においても、一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーがα−アルミナフィラーを中心としてより高い秩序性を有する高次構造を形成し、優れた熱伝導性を発揮する。
【0077】
ここで、高次構造とは、その構成要素が配列してミクロな秩序構造を形成した高次構造体を含む構造を意味し、例えば、結晶相又は液晶相が相当する。このような高次構造体の存在確認は、偏光顕微鏡観察によって容易に判断することが可能である。即ち、クロスニコル状態での観察において、偏光解消による干渉縞が見られることで判別可能である。
この高次構造体は、通常硬化エポキシ樹脂組成物中に島状に存在して、ドメイン構造を形成しており、その島の1つが1つの高次構造体に対応する。この高次構造体の構成要素自体は一般には共有結合により形成されている。
【0078】
なお、α−アルミナフィラーを含む硬化エポキシ樹脂組成物における高次構造の存在は、以下のようにして確認することができる。
分子構造中にメソゲン基を有する一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーと硬化剤にα−アルミナフィラーを5体積%〜10体積%添加して得られる組成物の硬化体(厚さ:0.1μm〜20μm)を調製する。得られた硬化体をスライドガラス(厚さ:約1mm)に挟んだ状態で偏光顕微鏡(例えば、オリンパス株式会社製、BX51)を用いて観察を行う。α−アルミナフィラーが存在する領域ではα−アルミナフィラーを中心として干渉模様が観察されるが、α−アルミナフィラーが存在しない領域では干渉模様は観察されない。このことより、α−アルミナフィラーを中心として一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーの硬化体が高次構造を形成していることが分かる。
【0079】
なお、観察はクロスニコル状態ではなく、偏光子に対して検光子を60°回転させた状態で行うことが必要である。クロスニコル状態で観察すると、干渉模様が観察されない領域(つまり、樹脂硬化体が高次構造を形成していない領域)が暗視野となり、α−アルミナフィラー部分と区別がつかなくなってしまう。しかし、偏光子に対して検光子を60°回転させることで、干渉模様が観察されない領域は暗視野ではなくなり、アルミナフィラー部分との区別をつけることができる。
【0080】
アルミナフィラーを含まず、樹脂と硬化剤のみから構成される硬化体では、クロスニコル状態での観察において干渉模様が観察されるか又は暗視野となるかで、樹脂が高次構造を形成しているか否かを判断できる。
一方、アルミナフィラーを含んだ硬化体では、クロスニコル状態で観察を行うと、干渉模様が観察されない暗視野の領域は、樹脂が高次構造を形成していないためであるのか、アルミナフィラー由来のものであるのかの判別が不可能である。そこで、偏光子に対して検光子を60°回転させた状態での観察が必要となる。アルミナフィラーは偏光子と検光子の角度に関係なく暗視野となるが、樹脂が高次構造を形成していない部分は、偏光子に対して検光子を60°回転させた状態で観察を行うと、暗視野ではなく、多少ではあるが光が透過して明るく見える。つまり、樹脂が高次構造を形成していない部分と、アルミナフィラー由来のものとの判別が可能となる。
【0081】
つまり、上記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーと、2価のフェノール化合物をノボラック化した樹脂と、α−アルミナフィラーと、を組み合わせることで、高熱伝導性と高耐熱性を有する硬化体を形成可能なエポキシ樹脂組成物が得られる。
また、該エポキシ樹脂組成物を用いて構成された樹脂シート及びプリプレグ、更に、該エポキシ樹脂組成物を硬化した絶縁層を備える積層板、金属基板、及び配線板は、より高い熱伝導性及び高い耐熱性を発揮する。
以下、エポキシ樹脂組成物に用いる材料及びエポキシ樹脂組成物の物性について説明する。
【0082】
(エポキシ樹脂モノマー)
前記エポキシ樹脂組成物は、下記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーの少なくとも1種を含む。
【0083】
【化25】
【0084】
一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーはα−アルミナを中心としてより高い秩序性を有する高次構造を形成する傾向にある。その結果、硬化後の熱伝導性が飛躍的に向上する傾向にある。これは、α−アルミナが存在することで高次構造を形成した前記エポキシ樹脂の硬化体が効率的な熱伝導パスとなり、高熱伝導性が得られると考えられている。
【0085】
一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーは液晶相へと転移する温度、つまり溶融温度が150℃と高い。よって、前記エポキシ樹脂モノマーを溶融させようとすると、使用する硬化剤及び硬化触媒にもよるが、たいていは溶融と同時に硬化反応が進行してしまう。その結果、前記エポキシ樹脂モノマーが高次構造を形成する前に硬化体となってしまう。しかしながら、α−アルミナを含む系では、高温で加熱しても前記エポキシ樹脂モノマーが高次構造を形成した硬化体が得られる傾向にある。
【0086】
これは、α−アルミナを使用することによる前記エポキシ樹脂モノマーの高次構造形成効果が顕著であるためと考えられる。すなわち、α−アルミナを中心として、前記エポキシ樹脂モノマーの硬化反応が進む前にすばやく高次構造が形成されるためと考えられる。
【0087】
更に、一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーは、エポキシ樹脂モノマー単体ではネマチック構造しか示すことができない。このため、分子構造中にメソゲン基を有するエポキシ樹脂モノマーの中では高次構造を比較的形成し難い。しかし、α−アルミナを含むアルミナフィラーと組み合わせたコンポジット材料とすることで、一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーはネマチック構造よりも高い秩序性を有するスメクチック構造を示すようになる。その結果、エポキシ樹脂モノマー単体からなる硬化体からは予想もできないほど高い熱伝導性を示す。
【0088】
なお、ネマチック構造及びスメクチック構造はそれぞれ液晶構造の一種である。ネマチック構造は分子長軸が一様な方向を向いており、配向秩序のみを持つ液晶構造である。これに対し、スメクチック構造は配向秩序に加えて一次元の位置の秩序を持ち、層構造を有する液晶構造である。秩序性はネマチック構造よりもスメクチック構造の方が高い。このため、樹脂硬化体の熱伝導性もスメクチック構造を示す場合の方が高くなる。
【0089】
上記一般式(I)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
更にR〜Rのうちの2〜4個が水素原子であることが好ましく、3個又は4個が水素原子であることが好ましく、4個すべてが水素原子であることが好ましい。R〜Rのいずれかが炭素数1〜3のアルキル基の場合、R及びRの少なくとも一方が炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましい。
【0090】
なお、前記エポキシ樹脂モノマーの好ましい形態としては、特開2011−74366号公報に記載されている通りである。具体的には、前記エポキシ樹脂モノマーは、4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル−4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート及び4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル−4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3−メチルベンゾエートが好ましい。
【0091】
また、前記エポキシ樹脂モノマーは、エポキシ樹脂モノマーを後述の硬化剤等と部分的に反応させたプレポリマーの状態として用いてもよい。分子構造中にメソゲン基を有するエポキシ樹脂モノマーは一般に結晶化し易く、溶媒への溶解度も一般的なエポキシ樹脂モノマーと比べると低いものが多い。上記一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーもこれに該当する。しかし、一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーを一部重合させることで結晶化を抑制することができるため、溶媒への溶解性が向上し、更に成形性も向上する場合がある。
【0092】
前記エポキシ樹脂モノマーは、成形性、接着性及び熱伝導性の観点から、エポキシ樹脂組成物の全固形分の全体積中の10体積%〜40体積%で含有されることが好ましく、15体積%〜35体積%で含有されることがより好ましく、15体積%〜30体積%で含有されることが更に好ましい。
なお、前記エポキシ樹脂組成物が後述の硬化剤又は硬化促進剤を含む場合、ここでいうエポキシ樹脂モノマーの含有率には、特に断らない限り、これら硬化剤及び硬化促進剤の含有率を含めるものとする。
【0093】
なお、本明細書における硬化剤及び硬化促進剤を含むエポキシ樹脂モノマーの含有率(体積%)は、次式により求めた値とする。以下、エポキシ樹脂組成物に用いる材料の含有率(体積%)は、本方法に基づいて求めた値である。
【0094】
エポキシ樹脂モノマーの含有率(体積%)={((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd))/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+(Dw/Dd)+(Ew/Ed))}×100
【0095】
ここで、各変数は以下の通りである。
Aw:エポキシ樹脂モノマーの質量組成比(質量%)
Bw:硬化剤の質量組成比(質量%)
Cw:硬化促進剤(任意成分)の質量組成比(質量%)
Dw:アルミナフィラーの質量組成比(質量%)
Ew:その他の任意成分(有機溶剤を除く)の質量組成比(質量%)
Ad:エポキシ樹脂モノマーの比重
Bd:硬化剤の比重
Cd:硬化促進剤(任意成分)の比重
Dd:アルミナフィラーの比重
Ed:その他の任意成分(有機溶剤を除く)の比重
【0096】
(硬化剤)
前記エポキシ樹脂組成物は、2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂(以下、「特定ノボラック樹脂」と称する場合がある)を含む硬化剤を含む。
【0097】
2価のフェノール化合物としては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,2−ナフタレンジオール、1,3−ナフタレンジオール等が挙げられる。2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂とは、これら化合物をメチレン鎖で連結したノボラック樹脂を示す。2価のフェノール化合物を用いることでエポキシ樹脂組成物の熱伝導性が向上し、これら化合物をノボラック化することで更に耐熱性が向上する。
【0098】
特定ノボラック樹脂は、下記一般式(II−1)及び(II−2)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造単位を有する化合物を含むことが好ましい。
【0099】
【化26】
【0100】
上記一般式(II−1)及び(II−2)において、R21及びR24はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R21又はR24で表されるアルキル基、アリール基及びアラルキル基は、可能であれば更に置換基を有していてもよい。該置換基としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。
【0101】
21及びR24はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示すが、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基又は炭素数7〜13のアラルキル基であることが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましい。
【0102】
m21及びm22はそれぞれ独立に、0〜2の整数を表す。m21が2の場合、2つのR21は同一であっても異なっていてもよく、m22が2の場合、2つのR24は同一であっても異なっていてもよい。本発明において、m21及びm22はそれぞれ独立に、0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
また、n21及びn22はそれぞれ独立に、1〜7の整数を表し、一般式(II−1)で表される構造単位又は一般式(II−2)で表される構造単位の含有数をそれぞれ示す。
【0103】
上記一般式(II−1)及び(II−2)においてR22、R23、R25及びR26はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。R22、R23、R25又はR26で表されるアルキル基、アリール基、及びアラルキル基は、可能であれば置換基を更に有していてもよい。該置換基としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、水酸基等を挙げることができる。
【0104】
本発明におけるR22、R23、R25及びR26としては、保存安定性と熱伝導性の観点から、水素原子、アルキル基、又はアリール基であることが好ましく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
更に、耐熱性の観点から、R22及びR23の少なくとも一方、又はR25及びR26の少なくとも一方はアリール基であることもまた好ましく、炭素数6〜12のアリール基であることがより好ましい。
なお、上記アリール基は芳香族基にヘテロ原子を含んでいてもよく、ヘテロ原子と炭素の合計数が6〜12となるヘテロアリール基であることが好ましい。
【0105】
前記硬化剤は、一般式(II−1)で表される構造単位又は一般式(II−2)で表される構造単位を有する化合物を1種単独で含むものであってもよいし、2種以上を含むものであってもよい。前記硬化剤は熱伝導性の観点から、一般式(II−1)で表される構造単位を有する化合物を少なくとも含むことが好ましく、一般式(II−1)で表され、レゾルシノールに由来する構造単位を有する化合物を少なくとも含むことがより好ましい。
【0106】
上記一般式(II−1)で表される構造単位を有する化合物が、レゾルシノールに由来する構造単位を有する場合、更にレゾルシノール以外のフェノール化合物に由来する部分構造の少なくとも1種を更に含んでいてもよい。上記一般式(II−1)におけるレゾルシノール以外のフェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、カテコール、ヒドロキノン、1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン等を挙げることができる。上記一般式(II−1)で表される構造単位を有する化合物は、これらのフェノール化合物に由来する部分構造を1種単独でも、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
また、上記一般式(II−2)で表わされ、カテコールに由来する構造単位を有する化合物においても、カテコール以外のフェノール化合物に由来する部分構造の少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0107】
ここで、フェノール化合物に由来する部分構造とは、フェノール化合物の芳香環部分から1個又は2個の水素原子を取り除いて構成される1価又は2価の基を意味する。なお、水素原子が取り除かれる位置は特に限定されない。
【0108】
一般式(II−1)で表される構造単位を有する化合物において、レゾルシノール以外のフェノール化合物に由来する部分構造としては、熱伝導性、接着性及び保存安定性の観点から、フェノール、クレゾール、カテコール、ヒドロキノン、1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン及び1,3,5−トリヒドロキシベンゼンから選ばれる少なくとも1種に由来する部分構造であることが好ましく、カテコール及びヒドロキノンから選ばれる少なくとも1種に由来する部分構造であることがより好ましい。
【0109】
また、一般式(II−1)で表される構造単位を有する化合物がレゾルシノールに由来する構造単位を含む場合、レゾルシノールに由来する部分構造の含有比率については特に制限はない。弾性率の観点から、一般式(II−1)で表される構造単位を有する化合物の全質量に対するレゾルシノールに由来する部分構造の含有比率は、55質量%以上であることが好ましく、Tgと線膨張率の観点から、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、熱伝導性の観点から、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0110】
更に、特定ノボラック樹脂は、下記一般式(III−1)〜(III−4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含むノボラック樹脂であることがより好ましい。
【0111】
【化27】
【0112】
【化28】
【0113】
【化29】
【0114】
【化30】
【0115】
一般式(III−1)〜(III−4)中、m31〜m34及びn31〜n34はそれぞれ独立に、正の整数を示す。Ar31〜Ar34はそれぞれ独立に、下記一般式(III−a)で表される基及び下記一般式(III−b)で表される基のいずれかを示す。
【0116】
【化31】
【0117】
一般式(III−a)及び(III−b)中、R31及びR34はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基を示す。R32及びR33はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0118】
上記一般式(III−1)〜(III−4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造を有する硬化剤は、2価のフェノール化合物をノボラック化する後述の製造方法によって、副生成的に生成可能なものである。
【0119】
上記一般式(III−1)〜(III−4)からなる群より選択される少なくとも1つで表される構造は、硬化剤の主鎖骨格として含まれていてもよく、また、側鎖の一部として含まれていてもよい。更に、一般式(III−1)〜(III−4)のいずれか1つで表される構造を構成するそれぞれの繰り返し単位は、ランダムに含まれていてもよいし、規則的に含まれていてもよいし、ブロック状に含まれていてもよい。
また、上記一般式(III−1)〜(III−4)において、水酸基の置換位置は芳香環上であれば特に制限されない。
【0120】
上記一般式(III−1)〜(III−4)のそれぞれについて、複数存在するAr31〜Ar34はすべて同一の原子団であってもよいし、2種以上の原子団を含んでいてもよい。なお、Ar31〜Ar34はそれぞれ独立に上記一般式(III−a)で表される基及び上記一般式(III−b)で表される基のいずれかを表す。
【0121】
上記一般式(III−a)及び(III−b)におけるR31及びR34はそれぞれ独立に、水素原子又は水酸基であり、熱伝導性の観点から水酸基であることが好ましい。また、R31及びR34の置換位置は特に制限されない。
【0122】
また、上記一般式(III−a)及び(III−b)におけるR32及びR33はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。前記R32及びR33における炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。また、上記一般式(III−a)及び(III−b)におけるR32及びR33の置換位置は特に制限されない。
【0123】
上記一般式(III−1)〜(III−4)におけるAr31〜Ar34はそれぞれ独立に、本発明の効果、特に優れた熱伝導性を達成する観点から、ジヒドロキシベンゼンに由来する基(すなわち、上記一般式(III−a)においてR31が水酸基であって、R32及びR33が水素原子である基)、及びジヒドロキシナフタレンに由来する基(すなわち、上記一般式(III−b)においてR34が水酸基である基)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0124】
ここで「ジヒドロキシベンゼンに由来する基」とは、ジヒドロキシベンゼンの芳香環部分から2つの水素原子を取り除いて構成される2価の基を意味し、水素原子が取り除かれる位置は特に制限されない。また、「ジヒドロキシナフタレンに由来する基」等についても同様の意味である。
【0125】
また、前記エポキシ樹脂組成物の生産性及び流動性の観点からは、Ar31〜Ar34はそれぞれ独立に、ジヒドロキシベンゼンに由来する基であることが好ましく、1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基及び1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。更に、より熱伝導性を特に高める観点から、Ar31〜Ar34は、レゾルシノールに由来する基を少なくとも含むことが好ましい。
また、熱伝導性を特に高める観点から、含有数がn31〜n34で表される構造単位は、レゾルシノールに由来する部分構造を少なくとも含んでいることが好ましい。
【0126】
前記特定ノボラック樹脂がレゾルシノールに由来する部分構造を含む場合、レゾルシノールに由来する部分構造の含有率は、一般式(III−1)〜(III−4)のうちの少なくとも1つで表される構造を有する化合物の総質量中において55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0127】
上記一般式(III−1)〜(III−4)におけるm31〜m34及びn31〜n34についてはそれぞれ、流動性の観点から、m/n=20/1〜1/5であることが好ましく、20/1〜5/1であることがより好ましく、20/1〜10/1であることが更に好ましい。また、(m+n)は流動性の観点から20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましい。なお、(m+n)の下限値は特に制限されない。ここでnがn31の場合、mはm31であり、nがn32の場合、mはm32であり、nがn33の場合、mはm33であり、nがn34の場合、mはm34である。
【0128】
一般式(III−1)〜(III−4)からなる群より選ばれる少なくとも1つで表される構造を有するノボラック樹脂は、特にAr31〜Ar34が置換又は非置換のジヒドロキシベンゼン及び置換又は非置換のジヒドロキシナフタレンの少なくともいずれか1種である場合、これらを単純にノボラック化したノボラック樹脂等と比較して、その合成が容易であり、軟化点の低いノボラック樹脂が得られる傾向にある。したがって、このようなノボラック樹脂を硬化剤として含む樹脂組成物の製造及び取り扱いも容易になるという利点がある。
なお、上記一般式(III−1)〜(III−4)のいずれかで表される構造を有するノボラック樹脂は、電界脱離イオン化質量分析法(FD−MS)によって、そのフラグメント成分として前記構造を特定することができる。
【0129】
上記一般式(III−1)〜(III−4)のいずれかで表される構造を有するノボラック樹脂の分子量は特に制限されない。流動性の観点から、数平均分子量(Mn)として2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、350以上1500以下であることが更に好ましい。また、重量平均分子量(Mw)としては2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、400以上1500以下であることが更に好ましい。
これらMn及びMwは、GPCを用いた通常の方法により測定される。
【0130】
上記一般式(III−1)〜(III−4)のいずれかで表される構造を有するノボラック樹脂の水酸基当量は特に制限されない。耐熱性に関与する架橋密度の観点から、水酸基当量は平均値で50以上150以下であることが好ましく、50以上120以下であることがより好ましく、55以上120以下であることが更に好ましい。
【0131】
特定ノボラック樹脂は、ノボラック樹脂を構成するフェノール化合物であるモノマーを含んでいてもよい。特定ノボラック樹脂を構成するフェノール化合物であるモノマーの含有比率(以下、「モノマー含有比率」ともいう)としては特に制限はない。熱伝導性、耐熱性、及び成形性の観点から、モノマー含有比率は5質量%〜80質量%であることが好ましく、15質量%〜60質量%であることがより好ましく、20質量%〜50質量%であることが更に好ましい。
【0132】
モノマー含有比率が80質量%以下であることで、硬化反応の際に架橋に寄与しないモノマーが少なくなり、架橋する高分子量体が多くなるため、より高密度な高次構造が形成され、熱伝導性が向上する。また、5質量%以上であることで、成形の際に流動し易いため、フィラーとの密着性がより向上し、より優れた熱伝導性と耐熱性が達成できる。
【0133】
前記エポキシ樹脂組成物中の硬化剤の含有量は特に制限されない。硬化剤におけるフェノール性水酸基の活性水素の当量(フェノール性水酸基当量)と一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーのエポキシ当量との比(フェノール性水酸基当量/エポキシ当量)が0.5〜2となることが好ましく、0.8〜1.2となることがより好ましい。
【0134】
またエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて硬化促進剤を更に含んでいてもよい。硬化促進剤を更に含むことで更に十分に硬化させることができる。硬化促進剤の種類及び含有量は特に限定されず、反応速度及び反応温度、保管性等の観点から、適切な種類及び含有率を選択することができる。硬化促進剤の具体例としては、イミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらは1種単独でも、2種類以上を併用してもよい。
中でも、耐熱性の観点から、有機ホスフィン化合物、及び有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0135】
有機ホスフィン化合物としては、具体的には、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキルアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等が挙げられる。
【0136】
また、有機ホスフィン化合物と有機ボロン化合物との錯体としては、具体的には、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ−p−トリルボレート、テトラブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムn−ブチルトリフェニルボレート、ブチルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、メチルトリブチルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0137】
硬化促進剤は1種類単独でも2種類以上を併用して用いてもよい。後述の半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物を効率よく作製する手法として、エポキシ樹脂モノマーとノボラック樹脂との反応開始温度及び反応速度が異なる2種類の硬化促進剤を混合して用いる方法が挙げられる。
【0138】
硬化促進剤の2種類以上を併用して用いる場合、混合割合は上記半硬化エポキシ樹脂組成物に求める特性(例えば、どの程度の柔軟性を必要とするか)によって特に制限されることなく決めることができる。
【0139】
エポキシ樹脂組成物が硬化促進剤を含む場合、エポキシ樹脂組成物中の硬化促進剤の含有率は特に制限されない。成形性の観点から、硬化促進剤の含有率は分子内にメソゲン基を有する熱硬化性樹脂と硬化剤の合計質量の0.5質量%〜1.5質量%であることが好ましく、0.5質量%〜1質量%であることがより好ましく、0.75質量%〜1質量%であることが更に好ましい。
【0140】
(アルミナフィラー)
前記エポキシ樹脂組成物は、α−アルミナを含むアルミナフィラーを含む。フィラーとしてアルミナを用いることで、熱伝導性、成形性、接着性、機械的強度、及び電気絶縁性に優れ、α−アルミナを含むことで、更に熱伝導性、機械的強度、及び電気絶縁性に優れる。
【0141】
前記アルミナフィラーは、必要に応じてα−アルミナ以外のアルミナを更に含んでいてもよい。α−アルミナ以外のアルミナとしては、γ−アルミナ、θ−アルミナ、δ−アルミナ等が挙げられるが、熱伝導性の観点から、α−アルミナのみで構成されていることが好ましい。なお、アルミナフィラーの形状は丸み状であることが好ましい。アルミナフィラーの形状は走査型電子顕微鏡(SEM)によって確認することができる。
【0142】
アルミナフィラーにおけるα−アルミナの存在は、X線回折スペクトルによって確認することができる。具体的には、特許第3759208号公報の記載に準じて、α−アルミナに特有のピークを指標としてα−アルミナの存在を確認することができる。
【0143】
アルミナフィラーにおけるα−アルミナの含有率は、熱伝導性及び流動性の観点からアルミナフィラーの総体積の80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、100体積%であることが更に好ましい。α−アルミナの含有率が大きいアルミナフィラーを使用した場合は、一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーに起因する高次構造形成力が大きく、より優れた熱伝導性が得られる傾向にある。なお、アルミナフィラーにおけるα−アルミナの含有率は、X線回折スペクトルによって確認することができる。
【0144】
エポキシ樹脂組成物における前記アルミナフィラー含有率は特に制限されない。アルミナフィラー含有率は、エポキシ樹脂組成物の全固形分の全体積中の60体積%〜90体積%であることが好ましい。エポキシ樹脂組成物におけるアルミナフィラーの含有率が60体積%以上であると熱伝導性により優れる。アルミナフィラーの含有率が90体積%以下であると成形性及び接着性がより向上する。アルミナフィラーの含有率は、熱伝導性を高める観点からエポキシ樹脂組成物の全固形分の全体積中の65体積%〜85体積%であることがより好ましく、70体積%〜85体積%であることが更に好ましい。
【0145】
なお、本明細書におけるアルミナフィラーの含有率(体積%)は、次式により求めた値とする。
【0146】
アルミナフィラーの含有率(体積%)={(Dw/Dd)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+(Dw/Dd)+(Ew/Ed))}×100
【0147】
ここで、各変数は以下の通りである。
Aw:エポキシ樹脂モノマーの質量組成比(質量%)
Bw:硬化剤の質量組成比(質量%)
Cw:硬化促進剤(任意成分)の質量組成比(質量%)
Dw:アルミナフィラーの質量組成比(質量%)
Ew:その他の任意成分(有機溶剤を除く)の質量組成比(質量%)
Ad:エポキシ樹脂モノマーの比重
Bd:硬化剤の比重
Cd:硬化促進剤(任意成分)の比重
Dd:アルミナフィラーの比重
Ed:その他の任意成分(有機溶剤を除く)の比重
【0148】
前記アルミナフィラーは、横軸に粒子径を、縦軸に頻度をとった粒度分布曲線を描いた場合に単一のピークを有していてもよく、複数のピークを有していてもよい。粒度分布曲線が複数のピークを有するアルミナフィラーを用いることで、アルミナフィラーの充填性がより向上し、硬化エポキシ樹脂組成物としての熱伝導性がより向上する。
【0149】
前記アルミナフィラーが粒度分布曲線を描いたときに単一のピークを有する場合、アルミナフィラーの重量累積粒度分布の小粒径側からの重量累積50%に対応する粒子径である平均粒子径(D50)は、熱伝導性の観点から、0.1μm〜100μmであることが好ましく、0.1μm〜50μmであることがより好ましい。また、粒度分布曲線が複数のピークを有するアルミナフィラーは、例えば、異なる平均粒子径(D50)を有する2種以上のフィラーを組み合わせて構成できる。
【0150】
アルミナフィラーの平均粒子径(D50)は、レーザー回折法を用いて測定され、重量累積粒度分布曲線を小粒径側から描いた場合に、重量累積が50%となる粒子径に対応する。レーザー回折法を用いた粒度分布測定は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製、LS230)を用いて行なうことができる。
【0151】
前記アルミナフィラーの組み合わせについて、異なる平均粒子径を持つ2種類のフィラー群を組み合せる場合を例示すると、平均粒子径(D50)が10μm以上100μm以下であるアルミナフィラー(A)、及び平均粒子径(D50)がフィラー(A)の1/2以下であり0.1μm以上10μm未満であるアルミナフィラー(B)との混合フィラーを挙げることができる。前記混合フィラーはアルミナフィラーの総体積を基準(100体積%)として、アルミナフィラー(A)が60体積%〜90体積%、及びアルミナフィラー(B)が10体積%〜40体積%(ただし、アルミナフィラー(A)及び(B)の総体積%は100体積%である)の割合であると好適である。
【0152】
また、異なる平均粒子径を持つ3種類のフィラー群を組み合わせる場合を例示すると、平均粒子径(D50)が10μm以上100μm以下であるアルミナフィラー(A’)、平均粒子径(D50)がアルミナフィラー(A’)の1/2以下であり1μm以上10μm未満であるアルミナフィラー(B’)、平均粒子径(D50)がアルミナフィラー(B’)の1/2以下であり0.1μm以上1μm未満であるアルミナフィラー(C’)との混合フィラーを挙げることができる。前記混合フィラーはアルミナフィラーの総体積を基準(100体積%)として、アルミナフィラー(A’)が30体積%〜89体積%、アルミナフィラー(B’)が10体積%〜40体積%、及びアルミナフィラー(C’)が1体積%〜30体積%(ただし、フィラー(A’)、(B’)、及び(C’)の総体積%は100体積%である)の割合であると好適である。
【0153】
前記アルミナフィラー(A)及び(A’)の平均粒子径(D50)は、エポキシ樹脂組成物を後述の樹脂シート又は積層板に適用する場合には、目標とする樹脂シート又は積層板における硬化エポキシ樹脂組成物層の膜厚に、またエポキシ樹脂組成物を後述のプリプレグに適用する場合には、目標とするプリプレグの膜厚及び繊維基材の目の細かさに、それぞれ応じて適宜選択されることが好ましい。
【0154】
他の制限が特にない場合には、前記フィラー(A)及び(A’)の平均粒子径は、熱伝導性の観点からは大きいほど好ましい。一方、前記膜厚は、熱抵抗の観点からは必要な絶縁性が確保される範囲でなるべく薄くすることが好ましい。よって、前記フィラー(A)及び(A’)の平均粒子径は10μm〜100μmであることが好ましく、フィラー充填性、熱抵抗、熱伝導性の観点から10μm〜80μmであることがより好ましく、10μm〜50μmであることが更に好ましく、1μm〜30μmであることが更に好ましく、1μm〜20μmであることが更に好ましい。
【0155】
また、前記エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて平均粒子径(D50)が1nm以上100nm未満(0.001μm以上0.1μm未満)であるアルミナフィラーを更に含んでいてもよい。
【0156】
マイクロ粒子サイズのフィラーを高充填すると、フィラー表面と樹脂との相互作用により粘度が著しく上昇し、これによって空気を巻き込んで気泡を内包し易くなる場合がある。また、フィラー同士が嵌合する頻度が高くなり、流動性が著しく低下する場合がある。これらの課題に対する解決策として、ナノ粒子サイズのフィラーを少量添加する方法が挙げられ、このことは特開2009−13227号公報にも示されている。
【0157】
エポキシ樹脂組成物が、平均粒子径(D50)が1nm〜100nm(0.001μm〜0.1μm)であるアルミナフィラーを含む場合、該アルミナフィラーの含有率は特に制限はない。該アルミナフィラーの含有率は、エポキシ樹脂組成物の全固形分の全体積中の0.01体積%〜1体積%で含有されることが好ましく、0.01体積%〜0.5体積%で含有されることがより好ましい。全体積中の0.01体積%〜1体積%で含有されることで、マイクロ粒子サイズのアルミナフィラー間、及びマイクロ粒子サイズのアルミナフィラーと繊維基材間の潤滑性をより高め、かつエポキシ樹脂組成物の熱伝導性をより高める効果が期待できる。
【0158】
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じてアルミナフィラー以外の無機フィラーを更に含んでいてもよい。アルミナフィラー以外の無機フィラーとしては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シリカ、酸化マグネシウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等を挙げることができる。エポキシ樹脂組成物がアルミナフィラー以外の無機フィラーを含む場合、その含有率は、アルミナフィラーの含有量に対して50体積%以下であることが好ましく、30体積%以下であることがより好ましい。
【0159】
(エラストマー)
エポキシ樹脂組成物は、分子内に下記一般式(IV)で表わされる構造単位を少なくとも有するエラストマーを更に含むことが好ましい。一般式(IV)で表わされる構造単位を有するエラストマーを含むことで、アルミナフィラーの分散性がより向上し、後述のBステージシートにおいて柔軟性がより向上する。また、後述の樹脂シート及びプリプレグにおいて、内部のボイド低減による密度の向上、絶縁性の向上等の効果が得られる。
【0160】
【化32】
【0161】
上記一般式(IV)において、R41、R42及びR43はそれぞれ独立して、直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、又は水素原子を示す。R44は直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。n4は構造単位の含有数を示す任意の整数である。
【0162】
前記エラストマーは、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーから誘導されるホモポリマー又はコポリマーであることが好ましい。本発明の一実施形態では、前記エラストマーは、一般式(IV)で表わされる構造単位を主として含むアクリル樹脂のコポリマーを使用することが好ましい。
【0163】
一般式(IV)において、R41、R42又はR43のいずれかがアルキル基である場合、柔軟性付与の観点から、炭素数は1〜12であることが好ましく、低ガラス転移温度(Tg)の観点から、炭素数は1〜8であることがより好ましい。本発明の好ましい一実施形態においては、R41及びR42はそれぞれ水素原子であり、R43は水素原子又はメチル基であり、より好ましくは、R41、R42及びR43が水素原子である。
【0164】
上記一般式(IV)において、R44は、直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。R44におけるアルキル基は、柔軟性付与の観点から、炭素数が2〜16であることが好ましく、エポキシ樹脂モノマーにおける高次構造形成への阻害が小さい観点から、炭素数が3〜14であることがより好ましく、入手及び合成の容易性の観点から4〜12であることが更に好ましい。
【0165】
また、前記エラストマーは、R44で示されるアルキル基の炭素数が異なる2種以上の一般式(IV)で表わされる構造単位を有することが好ましい。例えば、前記エラストマーが2種の一般式(IV)で表わされる構造単位を有する場合、一方の構造単位におけるアルキル基の炭素数は、低Tgの観点から、炭素数が2〜7であることが好ましく、3〜6であることがより好ましい。また、他方の構造単位におけるアルキル基の炭素数は、柔軟性付与の観点から、炭素数が8〜16であることが好ましく、10〜14であることがより好ましい。
【0166】
上記一般式(IV)において、nは構造単位の含有数を示す任意の整数である。n4で表わされる構造単位の含有数はエラストマー分子中に含まれる一般式(IV)で表わされる構造単位の総数の平均値を意味する。n4=100〜1000であることが好ましく、柔軟性付与の観点から、n4=100〜500であることがより好ましく、低Tgの観点から、n4=100〜300であることが更に好ましい。
【0167】
主として上記一般式(IV)で表わされる構造単位を有するエラストマーを使用することによって、エポキシ樹脂組成物に軟構造(柔軟性)を付与することが可能となる。そのため、従来の熱伝導性シートに見られるような無機フィラーの高充填化によるシートの可とう性の低下といった不具合を改善することが可能となる。
【0168】
分子内に少なくとも上記一般式(IV)で表わされる構造単位を有するエラストマーは、分子内に更にカルボキシ基及びヒドロキシ基の少なくとも一方を有することが好ましく、カルボキシ基及びヒドロキシ基の少なくとも一方を有する構造単位を含むことがより好ましく、少なくともカルボキシ基を有する構造単位を含むことが更に好ましい。
【0169】
カルボキシ基を有する構造単位を形成し得るモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができる。これらの中でもアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
また、ヒドロキシ基を有する構造単位を形成しうるモノマーとしては、炭素数が2〜20のヒドロキシアルキル基を含む(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができ、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基を含む(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。具体的には(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等を挙げることができる。
【0170】
エラストマー中にカルボキシ基又はヒドロキシル基が存在する場合、これらは硬化反応時のエポキシ樹脂モノマーと架橋反応し得るため、架橋密度がより向上し、その結果、熱伝導性をより向上させることができる。
また、カルボキシ基は水素イオンを放出するため、硬化反応時にエポキシ基を開環し易く、触媒として作用する効果をもたらす。更に、カルボキシ基はアルミナフィラー表面の水酸基と作用するため、アルミナフィラーに対する表面処理の効果をもたらす。このような表面処理の効果は、アルミナフィラーとエラストマーとの濡れ性が改善されるため、溶剤を更に含むエポキシ樹脂組成物(ワニス)の粘度が下がり、塗布が容易となる傾向がある。更にまた、濡れ性の改善によってアルミナフィラーがより高度に分散されることになり、熱伝導性の向上にも寄与することになる。
【0171】
前記エラストマーがカルボキシ基及びヒドロキシ基の少なくとも一方を有する場合、エラストマーに含まれるカルボキシ基及びヒドロキシ基の少なくとも一方を有する構造単位の含有率はとくに制限されない。フィラー分散性の観点から、エラストマーにおけるカルボキシ基及びヒドロキシ基の少なくとも一方を有する構造単位の含有率は、エラストマー分子全体を基準(100モル%)として、10モル%〜30モル%であることが好ましく、14モル%〜28モル%であることがより好ましい。
【0172】
分子内に上記一般式(IV)で表わされる構造単位を少なくとも有するエラストマーは、分子内に更にアミノ基の少なくとも1種を含むことが好ましく、アミノ基を有する構造単位の少なくとも1種を含むことがより好ましい。アミノ基としては、吸湿防止の観点から、2級アミノ基又は3級アミノ基が好ましい。更に熱伝導性の向上の観点から、N−メチルピペリジノ基が特に好ましい。エラストマー中にN−メチルピペリジノ基が存在する場合、2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂を含む硬化剤との相互作用によって相溶性が著しく向上するため好ましい。このように相溶性に優れたアクリルモノマーをエポキシ樹脂組成物に添加した場合、熱伝導性の損失がより小さくなる。また、N−メチルピペリジノ基と、2価のフェノール化合物をノボラック化したノボラック樹脂を含む硬化剤との相互作用は、異種分子間のすべりによる応力緩和効果を奏し、接着力の更なる向上に寄与することになる。
【0173】
前記エラストマーがアミノ基を有する場合、エラストマーに含まれるアミノ基の含有率はとくに制限されない。相溶性の観点から、エラストマーにおけるアミノ基を有する構造単位の含有率が、0.5モル%〜5モル%であることが好ましく、0.7モル%〜3.5モル%であることがより好ましい。
【0174】
本発明の一実施形態では、下記一般式(V)で表わされる構造単位を含むアクリルエラストマーを使用することがより好ましい。一般式(V)で表わされる構造単位を含むアクリルエラストマーを含有することで、後述の半硬化エポキシ樹脂組成物であるBステージシートにおける柔軟性向上、また、後述の樹脂シート及びプリプレグにおける内部のボイド低減による密度向上、絶縁性向上等の効果がより顕著に得られる。
【0175】
【化33】
【0176】
一般式(V)中、a、b、c及びdは全構造単位における各構造単位のモル%を示し、a+b+c+d=90モル%以上である。R51及びR52はそれぞれ独立して、互いに炭素数の異なる直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。R53〜R56はそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示す。
【0177】
上記一般式(V)中、a+b+c+d=90モル%以上であるが、95モル%以上であることが好ましく、99モル%以上であることがより好ましい。
【0178】
上記一般式(V)で示されるアクリルエラストマーにおいて、aの割合で存在する構造単位(以下、「構造単位a」とも称す)は、樹脂シートに可とう性を付与することができ、また熱伝導性と可とう性との両立を可能にする。またbの割合で存在する構造単位(以下、「構造単位b」とも称す)は、先に示した構造単位aとの組み合わせにおいて、樹脂シートの可とう性をより好ましいものとする。このように、軟構造(柔軟性)を付与する構造単位a及びbにおけるR51及びR52で表されるアルキル基の炭素数は、とくに限定されるものではない。アルキル基の炭素数が16以下であるとアクリルエラストマーのガラス転移温度(Tg)が高くなりすぎず、アクリルエラストマーをエポキシ樹脂組成物中に添加して得られる可とう性改善効果が充分に得られる傾向がある。一方、R51とR52のアルキル基の炭素数が2以上であるとアクリルエラストマー自身の柔軟性がより向上し、アクリルエラストマーの添加によって得られる柔軟性効果を充分に得られる傾向がある。このような観点において、R51及びR52のアルキル基の炭素数は、2〜16の範囲が好ましく、3〜14の範囲がより好ましく、4〜12の範囲が更に好ましい。
【0179】
また、R51及びR52で表されるアルキル基は互いに炭素数が異なる。R51及びR52における炭素数の差はとくに制限されないが、可とう性と柔軟性のバランスの観点から炭素数の差が4〜10であることが好ましく、6〜8であることがより好ましい。
更に、可とう性と柔軟性のバランスの観点から、R51の炭素数が2〜6であり、R52の炭素数が8〜16であることが好ましく、R51の炭素数が3〜5であり、R52の炭素数が10〜14であることがより好ましい。
【0180】
上記一般式(V)において、構造単位a及びbのモル%の範囲はとくに限定されるものではない。また、構造単位a及びbの両者間の割合も任意であってよい。構造単位a及びbのいずれかが単独で含まれるよりも、構造単位aとbとの組み合わせを含んで構成されるアクリルエラストマーを使用することが好ましい。構造単位a及びbの組み合わせによって、側鎖数が増加しアクリルエラストマーの柔軟性が上昇するとともに、Tgも高くなる可能性がある。しかし、アクリルエラストマーにおける構造単位a及びbのモル%の割合を適切に調整することによって、Tgを好適な範囲内に制御することができる。
【0181】
具体的には、例えば、樹脂シートの可とう性及びフィラー分散性の観点から、構造単位aの含有率は50モル%〜85モル%が好ましく、60モル%〜80モル%がより好ましい。また、構造単位bの含有率は、2モル%〜20モル%が好ましく、5モル%〜15モル%がより好ましい。更に、構造単位bに対する構造単位aの含有比は4〜10が好ましく、6〜8がより好ましい。
【0182】
上記一般式(V)において、cの割合で存在する構造単位(以下、「構造単位c」とも称す)に由来して、アクリルエラストマー中にカルボキシ基が存在することによって、熱伝導性の向上及びフィラーと樹脂との濡れ性の改善といった効果が得られる。また、dの割合で存在する構造単位(以下、「構造単位d」とも称す)に由来して、アクリルエラストマー中にN−メチルピペリジノ基が存在することによって、相溶性の向上及び接着性の向上といった効果が得られる。これらの効果は、アクリルエラストマー中にカルボキシ基及びN−メチルピペリジノ基が共存する場合に、より顕著となる。より具体的には、N−メチルピペリジノ基はカルボキシ基からの水素イオンを受容でき、次いで、例えば硬化剤として含まれるノボラック樹脂との相互作用が可能となる。このようにノボラック樹脂との相互作用によって、エポキシ樹脂組成物におけるアクリルエラストマーの相溶性が向上することになる。また、カルボキシ基とN−メチルピペリジノ基との間で分子内相互作用が生じることによって、低弾性化による応力緩和への寄与が大きくなる。これは、例えば、アクリルエラストマーの分子全体が直線構造ではなく、湾曲構造をとることになるからと考えることができる。このような観点から、上記一般式(V)で示されるアクリルエラストマーの一実施形態において、構造単位c及びdの割合はそれぞれ、cは10モル%〜28モル%の範囲が好ましく、より好ましくは14モル%〜28モル%の範囲、更に好ましくは20モル%〜28モル%の範囲であり、dは0.5モル%〜5モル%の範囲が好ましく、より好ましくは0.7モル%〜3.5モル%の範囲、更に好ましくは0.7モル%〜1.4モル%の範囲である。
また構造単位dに対する構造単位cの含有比は、0.01〜0.5が好ましく、0.03〜0.3がより好ましく、0.035〜0.25が更に好ましい。
【0183】
53〜R56はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であるが、R53とR54の少なくとも一方が水素原子で他方がメチル基であることが好ましく、R53が水素原子でR54がメチル基であることがより好ましい。またR55とR56の少なくとも一方が水素原子で他方がメチル基であることが好ましく、R55が水素原子でR56がメチル基であることがより好ましい。
【0184】
前記一般式(V)で示される構造を有するアクリルエラストマーは、構造単位a〜d以外の構造単位を更に含んでいてもよい。構造単位a〜d以外の構造単位としては特に制限はない。構造単位a〜d以外の構造単位としては、ヒドロキシアルキル基を含む(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位、3級アミノ基を含む(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位等を挙げることができる。
前記アクリルエラストマーにおける構造単位a〜d以外の構造単位の含有率は、10モル%以下であるが、5モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
【0185】
前記アクリルエラストマーの重量平均分子量はとくに制限されない。中でも、熱伝導性と可とう性の観点から、10,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることがより好ましく、10,000〜30,000であることが更に好ましい。更に、アクリルエラストマーの重量平均分子量が前記範囲であると、無機フィラーの分散性がより向上し、エポキシ樹脂組成物の粘度がより低下する傾向にある。
なお、アクリルエラストマーの重量平均分子量は、GPCを用いた通常の方法により測定される。
【0186】
本発明によるエポキシ樹脂組成物において、前記アクリルエラストマーの含有量は、エポキシ樹脂成分(エポキシ樹脂モノマー及び硬化剤)の総質量を100質量部としたときに、0.1質量部〜99質量部の範囲とすることができ、好ましくは1質量部〜20質量部の範囲、更に好ましくは1質量部〜10質量部の範囲である。
上記アクリルエラストマーの含有量が0.1質量部以上であると、熱伝導性の低下がより抑制され、被着体との接着力がより向上する傾向がある。一方、アクリルエラストマーの99質量部以下であると、被着体との接着力の低下がより抑制され、熱伝導性がより向上する傾向がある。したがって、アクリルエラストマーの含有量を上記範囲に調整することによって、各種特性をバランス良く発現させることが容易となる。
【0187】
(シランカップリング剤)
前記エポキシ樹脂組成物は、シランカップリング剤の少なくとも1種を更に含むことが好ましい。シランカップリング剤を添加する効果としては、アルミナフィラーの表面とその周りを取り囲む熱硬化性樹脂の間で共有結合を形成する役割(バインダ剤に相当)を果たし、熱をより効率良く伝達する効果、及び水分の浸入を妨げることによって絶縁信頼性の向上する効果を挙げることができる。
【0188】
前記シランカップリング剤の種類としては特に限定されず、市販のものから適宜選択することができる。分子構造中にメソゲン基を有する一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマー及び硬化剤との相溶性、並びにエポキシ樹脂モノマーの硬化体とアルミナフィラーとの界面での熱伝導欠損を低減することを考慮すると、本発明においては、末端にエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ウレイド基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有するシランカップリング剤を用いることが好適である。
【0189】
シランカップリング剤の具体例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイド基を有するシランカップリング剤;などが挙げられる。また、SC−6000KS2に代表されるシランカップリング剤オリゴマー(日立化成コーテットサンド株式会社製)を更に挙げることもできる。これらシランカップリング剤は1種単独でも、2種類以上を併用してもよい。
【0190】
(その他の成分)
前記エポキシ樹脂組成物は、有機溶剤の少なくとも1種を更に含んでいてもよい。有機溶剤を含むことで種々の成形プロセスに適合させることが容易にできる。有機溶剤としては通常用いられる有機溶剤から適宜選択することができる。具体的には、アルコール溶剤、エーテル溶剤、ケトン溶剤、アミド溶剤、芳香族炭化水素溶剤、エステル溶剤、ニトリル溶剤、スルホキシド溶剤等を挙げることができる。有機溶剤として具体的には、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド溶剤;γ−ブチロラクトン等のエステル溶剤;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド溶剤;などを用いることができる。これらは1種単独でも、2種類以上を併用した混合溶剤として用いてもよい。
【0191】
エポキシ樹脂組成物は、上記成分に加え、必要に応じてその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、分散剤等が挙げられる。分散剤としては、味の素ファインテック株式会社製アジスパーシリーズ、楠本化成株式会社製HIPLAADシリーズ、株式会社花王製ホモゲノールシリーズ等が挙げられる。これらは1種単独でも、2種類以上を併用してもよい。
【0192】
<半硬化エポキシ樹脂組成物>
本発明の半硬化エポキシ樹脂組成物は前記エポキシ樹脂組成物に由来するものであり、前記エポキシ樹脂組成物を半硬化処理してなる。前記半硬化エポキシ樹脂組成物は、例えば、これをシート状に成形した場合に、半硬化処理していないエポキシ樹脂組成物からなる樹脂シートに比べて取り扱い性が向上する。
【0193】
ここで、前記半硬化エポキシ樹脂組成物とは、前記半硬化エポキシ樹脂組成物の粘度が常温(25〜30℃)では10Pa・s〜10Pa・sであることに対して、100℃では10Pa・s〜10Pa・sに低下する特徴を有するものである。また、後述の硬化後の硬化エポキシ樹脂組成物は加温によって溶融することはない。なお、上記粘度は動的粘弾性測定(DMA)(例えば、TAインスツルメンツ社製ARES−2KSTD)によって測定される。なお、測定条件は、周波数1Hz、荷重40g、昇温速度3℃/分であり、せん断試験により行う。
【0194】
前記半硬化処理としては、例えば、前記エポキシ樹脂組成物を温度100℃〜200℃で1分間〜30分間加熱する方法を挙げることができる。
【0195】
<硬化エポキシ樹脂組成物>
本発明の硬化エポキシ樹脂組成物は前記エポキシ樹脂組成物に由来するものであり、前記エポキシ樹脂組成物を硬化処理してなる。前記硬化エポキシ樹脂組成物は熱伝導性に優れ、これは例えば、エポキシ樹脂組成物に含まれる分子構造中にメソゲン基を有する一般式(I)で表されるエポキシ樹脂モノマーが、α−アルミナフィラーを中心に高次構造を形成しているためと考えることができる。また、前記硬化エポキシ樹脂組成物は耐熱性に優れる。
【0196】
硬化エポキシ樹脂組成物は、未硬化状態のエポキシ樹脂組成物又は前記半硬化エポキシ樹脂組成物を硬化処理することで製造することができる。前記硬化処理の方法は、エポキシ樹脂組成物の構成、硬化エポキシ樹脂組成物の目的等に応じて適宜選択することができるが、加熱及び加圧処理であることが好ましい。
例えば、未硬化状態のエポキシ樹脂組成物又は前記半硬化エポキシ樹脂組成物を100℃〜250℃で1時間〜10時間、好ましくは130℃〜230℃で1時間〜8時間加熱することで硬化エポキシ樹脂組成物が得られる。
【0197】
<樹脂シート>
本発明の樹脂シートは、前記エポキシ樹脂組成物をシート状に成形してなる。前記樹脂シートは、例えば、前記エポキシ樹脂組成物を離型フィルム上に付与し、必要に応じて含まれる溶剤を除去することで製造することができる。前記樹脂シートは、前記エポキシ樹脂組成物から形成されることで、熱伝導性及び耐熱性に優れる。
【0198】
前記樹脂シートの密度は特に制限されず、例えば、3.0g/cm〜3.5g/cmとすることができる。樹脂シートの柔軟性と熱伝導性の両立を考慮すると、3.1g/cm〜3.4g/cmが好ましく、3.1g/cm〜3.3g/cmがより好ましい。樹脂シートの密度は、例えば、前記エポキシ樹脂組成物におけるアルミナフィラーの含有率を適宜選択することで調整することができる。
【0199】
前記樹脂シートの厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、樹脂シートの厚みとして、50μm〜500μmとすることができ、熱伝導性、電気絶縁性及び可とう性の観点から、80μm〜300μmであることが好ましい。
【0200】
前記樹脂シートは、PETフィルム等の離型フィルム上に、前記エポキシ樹脂組成物にメチルエチルケトン、シクロヘキサノン等の有機溶剤を添加して調製されるワニス状のエポキシ樹脂組成物(以下、「樹脂ワニス」ともいう)を塗布して塗布層を形成した後、塗布層から前記有機溶剤の少なくとも一部を除去して乾燥することで製造することができる。
【0201】
樹脂ワニスの塗布は、公知の方法により実施することができる。具体的には、コンマコート、ダイコート、リップコート、グラビアコート等の方法が挙げられる。所定の厚みにエポキシ樹脂組成物層を形成するための塗布方法としては、ギャップ間に被塗工物を通過させるコンマコート法、ノズルから流量を調節した樹脂ワニスを塗布するダイコート法等が挙げられる。例えば、乾燥前の塗布層(樹脂組成物層)の厚みが50μm〜500μmである場合は、コンマコート法を用いることが好ましい。
【0202】
乾燥方法は、樹脂ワニスに含まれる有機溶剤の少なくとも一部を除去できれば特に制限されず、通常用いられる乾燥方法から、樹脂ワニスに含まれる有機溶剤に応じて適宜選択することができる。一般的には、80℃〜150℃程度で加熱処理する方法を挙げることができる。
【0203】
前記樹脂シートのエポキシ樹脂組成物層は硬化反応がほとんど進行していないため、可とう性を有するものの、シートとしての柔軟性に乏しく、支持体である前記PETフィルムを除去した状態ではシート自立性に乏しく、取り扱い難い場合がある。
【0204】
前記樹脂シートは、これを構成するエポキシ樹脂組成物を半硬化処理してなる半硬化エポキシ樹脂組成物であることが好ましい。すなわち、前記樹脂シートは、半硬化状態(Bステージ状態)になるまで、更に加熱処理されてなるBステージシートであることが好ましい。前記樹脂シートが前記エポキシ樹脂組成物を半硬化処理してなる半硬化エポキシ樹脂組成物から構成されることで、熱伝導性及び耐熱性に優れ、Bステージシートとしての可とう性及び可使時間に優れる。
【0205】
ここで、Bステージシートとは、その粘度が常温(25〜30℃)では10Pa・s〜10Pa・sであることに対して、100℃では10Pa・s〜10Pa・sに低下する特徴を有するものである。また、後述の硬化後の硬化エポキシ樹脂組成物は、加温によって溶融することはない。なお、上記粘度はDMA(周波数1Hz、荷重40g:昇温速度3℃/分)によって測定される。
【0206】
前記樹脂シートを加熱処理する条件は、エポキシ樹脂組成物層をBステージ状態にすることができれば特に制限されず、エポキシ樹脂組成物の構成に応じて適宜選択することができる。加熱処理には、塗工の際に生じた樹脂層中の空隙(ボイド)をなくす目的から、熱真空プレス、熱ロールラミネート等から選択される加熱処理方法が好ましい。これにより、平坦なBステージシートを効率よく製造することができる。
【0207】
具体的には、例えば、減圧下(例えば、1kPa)、温度100℃〜200℃で1分間〜3分間、1MPa〜5MPaのプレス圧で加熱及び加圧処理することで、前記エポキシ樹脂組成物をBステージ状態にまで半硬化させることができる。
【0208】
離型フィルム上にエポキシ樹脂組成物を付与した後に乾燥して得られる樹脂シートを2枚貼り合わせた後で、上記加熱及び加圧処理を行ってBステージ状態にまで半硬化させることが好ましい。このとき、塗布面(エポキシ樹脂組成物を離型フィルムに塗布して形成したエポキシ樹脂組成物層において、離型フィルムと接している面の反対面)どうしを貼り合わせることが望ましい。このように2枚を貼り合わせると、得られるBステージ状態の樹脂シートの両面がより平坦となり、被着体との接着性が良好となるため、後述の積層板、金属基板及び配線板に適用した際により高い熱伝導性を発揮する。
【0209】
前記Bステージシートの厚みは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、50μm〜500μmとすることができ、熱伝導性、電気絶縁性及び可とう性の観点から、80μm〜300μmであることが好ましい。
【0210】
前記Bステージシートにおける溶剤残存率は、硬化時のアウトガス発生による気泡形成を抑える観点から、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0211】
溶剤残存率は、Bステージシートを40mm角に切り出し、190℃に予熱した恒温槽中で2時間乾燥させたときの、乾燥前後の質量変化から求める。
【0212】
前記Bステージシートは流動性に優れる。具体的には、前記Bステージシートにおけるフロー量は130%〜210%であることが好ましく、150%〜200%であることがより好ましい。このフロー量は熱圧着時の溶融流動性の指標である。フロー量が130%以上であると埋め込み性が充分に得られ、また、210%以下であるとフロー過剰によるバリの発生を抑制できる。
【0213】
前記フロー量は、200μm厚のBステージシートを10mm角に打ち抜いた試料を大気圧条件下、温度160℃、プレス圧1.6MPaの条件で1分間押圧したときの、押圧前後のBステージシートの面積変化率として算出される。面積変化率は試料の外形投影像を300DPI以上のスキャナで取り込み、画像解析ソフト(Adobe Photoshop)にて2値化処理した後、面積(ピクセル数)の変化率から求める。
【0214】
フロー量(%)=(押圧後のBステージシートの面積)/(押圧前のBステージシートの面積)
【0215】
また、前記樹脂シートは前記エポキシ樹脂組成物を硬化処理してなる硬化エポキシ樹脂組成物であってもよい。硬化エポキシ樹脂組成物からなる樹脂シートは、未硬化状態の樹脂シート又はBステージシートを硬化処理することで製造することができる。前記硬化処理の方法は、エポキシ樹脂組成物の構成、硬化エポキシ樹脂組成物の目的等に応じて適宜選択することができるが、加熱及び加圧処理であることが好ましい。
例えば、未硬化状態の樹脂シート又はBステージシートを100℃〜250℃で1時間〜10時間、好ましくは130℃〜230℃で1時間〜8時間加熱することで硬化エポキシ樹脂組成物からなる樹脂シートが得られる。また、1MPa〜5MPaの圧力をかけながら上記加熱を行うことが好ましい。
【0216】
なお、高熱伝導性と高耐熱性を有する硬化エポキシ樹脂組成物からなる樹脂シートを製造する方法の一例として以下の方法が挙げられる。まず、Bステージシートを片面が粗化面である2枚の銅箔(厚み80μm〜120μm)の粗化面とそれぞれ接するように挟んだ状態で温度130℃〜230℃で3分間〜10分間、圧力1MPa〜5MPaのプレス圧で加熱及び加圧処理を行い、Bステージシートと銅箔を接着させる。続いて、130℃〜230℃で1時間〜8時間加熱してエポキシ樹脂組成物を硬化して銅箔付き樹脂シートを得る。得られた銅箔付き樹脂シートの銅箔部分をエッチング処理にて除去して、硬化エポキシ樹脂組成物からなる樹脂シートを得る方法がある。
【0217】
<プリプレグ>
本発明のプリプレグは、繊維基材と、前記繊維基材に含浸された前記エポキシ樹脂組成物と、を有して構成される。かかる構成であることで、熱伝導性及び耐熱性に優れたプリプレグとなる。また、アルミナフィラーを含有するエポキシ樹脂組成物は、チキソ性が向上するため、後述の塗工工程又は含浸工程におけるアルミナフィラーの沈降を抑制することができる。したがって、プリプレグの厚み方向でのアルミナフィラーの濃淡分布の発生を抑えることができ、結果として、熱伝導性及び耐熱性に優れるプリプレグが得られる。
【0218】
プリプレグを構成する繊維基材としては、金属箔貼り積層板又は多層配線板を製造する際に通常用いられるものであれば特に制限されず、通常用いられる織布、不織布等の繊維基材から適宜選択される。
【0219】
前記繊維基材の目開きは特に制限されない。熱伝導性及び電気絶縁性の観点から、目開きは前記アルミナフィラーの平均粒子径(D50)の5倍以上であることが好ましい。また、前記アルミナフィラーの粒度分布曲線が複数のピークを有する場合、粒子径が最大となるピークに対応する粒子径の5倍以上の目開きであることがより好ましい。
【0220】
繊維基材の材質は特に制限されない。具体的には、ガラス、アルミナ、ボロン、シリカアルミナガラス、シリカガラス、チラノ(tyranno)、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、カーボン等の無機繊維、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、セルロース等の有機繊維、これらの混抄系などを挙げることができる。
【0221】
中でも繊維基材としてはガラス繊維の織布が好ましく用いられる。これにより例えば、プリプレグを用いて配線板を構成する場合、屈曲性があり任意に折り曲げ可能な配線板を得ることができる。更に、製造プロセスでの温度変化、吸湿等に伴う配線板の寸法変化を小さくすることも可能となる。
【0222】
前記繊維基材の厚さは特に限定されない。より良好な可とう性を付与する観点から、30μm以下であることがより好ましく、含浸性の観点から15μm以下であることが好ましい。繊維基材の厚みの下限は特に制限されないが、通常5μm程度である。
【0223】
前記プリプレグにおける前記エポキシ樹脂組成物の含浸量(含有率)は、繊維基材及びエポキシ樹脂組成物の総質量中に50質量%〜99.9質量%であることが好ましい。
【0224】
前記プリプレグは、上記と同様にしてワニス状に調製された前記エポキシ樹脂組成物を繊維基材に含浸し、80℃〜150℃の加熱処理により有機溶剤の少なくとも一部を除去して製造することができる。
【0225】
また、エポキシ樹脂組成物を繊維基材に含浸する方法に特に制限はない。例えば、塗工機により塗布する方法を挙げることができる。詳細には、繊維基材をエポキシ樹脂組成物にくぐらせて引き上げる縦型塗工法、支持フィルム上にエポキシ樹脂組成物を塗工してから繊維基材を押し付けて含浸させる横型塗工法等を挙げることができる。繊維基材内でのアルミナフィラーの偏在を抑える観点からは横型塗工法が好適である。
【0226】
本発明におけるプリプレグは、積層又は貼付する前に、プレス、ロールラミネータ等による熱間加圧処理により、あらかじめ表面を平滑化してから使用してもよい。熱間加圧処理の方法は、前記Bステージシートの製造方法で挙げた方法と同様である。また、前記プリプレグの熱間加圧処理における加熱温度、減圧度、プレス圧等の処理条件についても、前記Bステージシートの加熱及び加圧処理で挙げた条件と同様である。
【0227】
前記プリプレグにおける溶剤残存率は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0228】
溶剤残存率は、プリプレグを40mm角に切り出し、190℃に予熱した恒温槽中に2時間乾燥させたときの、乾燥前後の質量変化から求める。
【0229】
<積層板>
本発明における積層板は、被着材と、前記被着材上に配置された半硬化エポキシ樹脂組成物層又は硬化エポキシ樹脂組成物層と、を有する。前記半硬化エポキシ樹脂組成物層及び硬化エポキシ樹脂組成物層は、前記エポキシ樹脂組成物から構成されるエポキシ樹脂組成物層、前記樹脂シート及び前記プリプレグからなる群より選択される少なくとも1つに由来する半硬化エポキシ樹脂組成物層及び硬化エポキシ樹脂組成物層からなる群より選択される少なくとも1つである。前記エポキシ樹脂組成物から形成される半硬化エポキシ樹脂組成物層又は硬化エポキシ樹脂組成物層を有することで熱伝導性及び耐熱性に優れた積層板となる。
【0230】
前記被着材としては、金属箔、金属板等を挙げることができる。前記被着材は、前記半硬化エポキシ樹脂組成物層又は硬化エポキシ樹脂組成物層の片面のみに付設しても、両面に付設してもよい。
【0231】
前記金属箔としては特に制限されず、通常用いられる金属箔から適宜選択することができる。具体的には金箔、銅箔、アルミニウム箔等を挙げることができ、一般的には銅箔が用いられる。前記金属箔の厚みとしては、1μm〜200μmであれば特に制限されず、使用する電力等に応じて好適な厚みを選択することができる。
【0232】
また、前記金属箔として、ニッケル、ニッケル−リン、ニッケル−スズ合金、ニッケル−鉄合金、鉛、鉛−スズ合金等を中間層とし、この両表面に0.5μm〜15μmの銅層と10μm〜150μmの銅層を設けた3層構造の複合箔、又はアルミニウムと銅箔とを複合した2層構造複合箔を用いることもできる。
【0233】
前記金属板は熱伝導性が高く、熱容量が大きい金属材料からなることが好ましい。具体的には、銅、アルミニウム、鉄、リードフレームに使われる合金等が例示できる。
【0234】
前記金属板の板厚は用途に応じて適宜選択することができる。例えば、前記金属板は、軽量化又は加工性を優先する場合はアルミニウムを選択し、放熱性を優先する場合は銅を選択するというように目的を応じて材質を選定することができる。
【0235】
前記積層板においては、半硬化エポキシ樹脂組成物層又は硬化エポキシ樹脂組成物層として、前記エポキシ樹脂組成物層、前記樹脂シート、又は前記プリプレグのいずれか1つに由来する1層を有する形態であってもよく、2層以上を積層して有する形態であってもよい。2層以上の半硬化エポキシ樹脂組成物層又は硬化エポキシ樹脂組成物層を有する場合、前記エポキシ樹脂組成物層を2層以上有する形態、前記樹脂シートを2枚以上有する形態、及び前記プリプレグを2枚以上有する形態のいずれであってもよい。更には、前記エポキシ樹脂組成物層、前記樹脂シート、及び前記プリプレグのいずれか2つ以上を組み合わせて有してもよい。
【0236】
本発明における積層板は、例えば、被着材上に前記エポキシ樹脂組成物を付与してエポキシ樹脂組成物層を形成し、これを加熱及び加圧処理して前記エポキシ樹脂組成物層を半硬化又は硬化させるとともに被着材に密着させることで得られる。又は、前記被着材に前記樹脂シート又は前記プリプレグを積層したものを準備し、これを加熱及び加圧して前記樹脂シート又は前記プリプレグを半硬化又は硬化させるとともに被着材に密着させことで得られる。
【0237】
前記エポキシ樹脂組成物層、樹脂シート及びプリプレグを半硬化又は硬化する硬化方法は特に制限されない。例えば、加熱及び加圧処理であることが好ましい。加熱及び加圧処理における加熱温度は特に限定されない。通常100℃〜250℃の範囲であり、好ましくは130℃〜230℃の範囲である。また、加熱及び加圧処理における加圧条件は特に限定されない。通常1MPa〜10MPaの範囲であり、好ましくは1MPa〜5MPaの範囲である。また、加熱及び加圧処理には、真空プレスが好適に用いられる。
【0238】
積層板の厚さは500μm以下であることが好ましく、100μm〜300μmであることがより好ましい。厚さが500μm以下であると可とう性に優れ曲げ加工時にクラックが発生するのが抑えられ、厚さが300μm以下の場合はその傾向がより見られる。また、厚さが100μm以上の場合には作業性に優れる。
【0239】
<金属箔付樹脂硬化体、金属基板>
前記積層板の一例として、後述の配線板を作製するのに用いることができる金属箔付樹脂硬化体及び金属基板を挙げることができる。
【0240】
前記金属箔付樹脂硬化体は、前記積層板における被着材として2枚の金属箔を用いて構成される。具体的には、一方の金属箔と、前記硬化エポキシ樹脂組成物層と、他方の金属箔とがこの順に積層されて構成される。
前記金属箔付樹脂硬化体を構成する金属箔及び硬化エポキシ樹脂組成物層の詳細は、既述の通りである。
【0241】
また、前記金属基板は、前記積層板における被着材として金属箔と金属板とを用いて構成される。具体的に、前記金属基板は、前記金属箔と、前記硬化エポキシ樹脂組成物層と、前記金属板とがこの順に積層されて構成される。
前記金属基板を構成する金属箔及び硬化エポキシ樹脂組成物層の詳細は、既述の通りである。
【0242】
前記金属板としては特に制限されず、通常用いられる金属板から適宜選択することができる。具体的にはアルミニウム板、鉄板等を挙げることができる。金属板の厚みは特に制限されない。加工性の観点から、厚みは0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0243】
また、前記金属板は、生産性を高める観点から、必要分より大きなサイズで作製されて電子部品を実装した後に、使用するサイズに切断されることが好ましい。そのため、金属基板に用いる金属板は切断加工性に優れることが望ましい。
【0244】
前記金属板としてアルミニウムを用いる場合、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金を材質として選定できる。アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金は、その化学組成と熱処理条件により多種類のものが入手可能である。中でも、切削し易い等の加工性が高く、かつ強度に優れた種類を選定することが好ましい。
【0245】
<配線板>
本発明の配線板は、金属板と、硬化エポキシ樹脂組成物層と、配線層とがこの順に積層されてなる。前記硬化エポキシ樹脂組成物層は、前記エポキシ樹脂組成物から構成されるエポキシ樹脂組成物層、前記樹脂シート及び前記プリプレグから選択される少なくとも1つに由来する硬化エポキシ樹脂組成物層である。前記エポキシ樹脂組成物から形成される硬化エポキシ樹脂組成物層を有することで、熱伝導性及び耐熱性に優れた配線板となる。
【0246】
前記配線板は、既述の金属箔付樹脂硬化体における少なくとも一方の金属箔又は金属基板における金属箔を回路加工することにより製造することができる。前記金属箔の回路加工には、通常のフォトリソによる方法が適用できる。
【0247】
前記配線板の好ましい態様としては、例えば、特開2009−214525号公報の段落番号0064に記載の配線板及び特開2009−275086号公報の段落番号0056〜0059に記載の配線板と同様のものを挙げることができる。
【0248】
<パワー半導体装置>
本発明のエポキシ樹脂組成物のシート状成形体である樹脂シートは、例えばパワー半導体装置に適用することができる。前記樹脂シートを用いて構成されるパワー半導体装置の一例を、図面を用いて説明する。図1はパワー半導体装置の構成の一例を示す概略断面図である。図1では、金属板6とはんだ層10と半導体チップ8がこの順に積層された半導体モジュールにおける金属板6と、放熱ベース基板4との間に樹脂シート硬化体2が配置され、半導体モジュールが封止材14で封止されている。また、図2はパワー半導体装置の構成の別の一例を示す概略断面図である。図2では、金属板6とはんだ層10と半導体チップ8がこの順に積層された半導体モジュールにおける金属板6と、放熱ベース基板4との間に樹脂シート硬化体2が配置され、半導体モジュールと放熱ベース基板4とがモールド樹脂12でモールドされている。
このように本発明のエポキシ樹脂組成物のシート状成形体である樹脂シートの硬化体は、図1に示すように半導体モジュールと放熱ベース基板との間の放熱性の接着層として用いることが可能である。また、図2のように全体をモールド成形する場合には、放熱ベース基板と金属板との間の放熱材として用いることが可能である。
【実施例】
【0249】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0250】
以下にエポキシ樹脂組成物の作製に用いた材料とその略号を示す。
(エポキシ樹脂モノマー)
・樹脂モノマーA:
【化34】
【0251】
4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート、エポキシ当量:212、製造方法:特開2011−74366号公報に記載。
【0252】
・樹脂モノマーB:
【化35】
【0253】
4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3−メチルベンゾエート、エポキシ当量:219、製造方法:特開2011−74366号公報に記載。
【0254】
(硬化剤)
・硬化剤1[カテコールノボラック樹脂、日立化成工業株式会社製、シクロヘキサノン50%含有]
【0255】
<硬化剤1の合成方法>
撹拌機、冷却器、温度計を備えた2Lのセパラブルフラスコに、カテコール220g、37%ホルムアルデヒド81.1g、シュウ酸2.5g、水100gを入れ、オイルバスで加温しながら約100℃に昇温した。104℃前後で還流し、還流温度で3時間反応を続けた。その後、水を留去しながらフラスコ内の温度を150℃に昇温した。150℃を保持しながら12時間反応を続けた。反応後、減圧下20分間濃縮を行い、系内の水等を除去して目的の硬化剤1であるノボラック樹脂を得た。
得られた硬化剤1についてFD−MSにより構造を確認したところ、一般式(III−1)で表される構造及び一般式(III−2)で表される構造の存在が確認できた。
【0256】
・硬化剤2[カテコールレゾルシノールノボラック(仕込み比:30/70)樹脂、日立化成工業株式会社製、シクロヘキサノン50%含有]
【0257】
<硬化剤2の合成方法>
撹拌機、冷却器、温度計を備えた3Lのセパラブルフラスコに、レゾルシノール462g、カテコール198g、37%ホルムアルデヒド316.2g、シュウ酸15g、水300gを入れ、オイルバスで加温しながら100℃に昇温した。104℃前後で還流し、還流温度で4時間反応を続けた。その後、水を留去しながらフラスコ内の温度を170℃に昇温した。170℃を保持しながら8時間反応を続けた。反応後、減圧下20分間濃縮を行い、系内の水等を除去して目的の硬化剤2であるノボラック樹脂を得た。
得られた硬化剤2についてFD−MSにより構造を確認したところ、一般式(III−1)〜(III−4)のいずれかで表される構造の全ての存在が確認できた。
【0258】
・硬化剤3[カテコールレゾルシノールノボラック(仕込み比:5/95)樹脂、日立化成工業株式会社製、シクロヘキサノン50%含有]
【0259】
<硬化剤3の合成方法>
撹拌機、冷却器、温度計を備えた3Lのセパラブルフラスコに、レゾルシノール627g、カテコール33g、37%ホルムアルデヒド316.2g、シュウ酸15g、水300gを入れ、オイルバスで加温しながら100℃に昇温した。104℃前後で還流し、還流温度で4時間反応を続けた。その後、水を留去しながらフラスコ内の温度を170℃に昇温した。170℃を保持しながら8時間反応を続けた。反応後、減圧下20分間濃縮を行い、系内の水等を除去して目的の硬化剤3であるノボラック樹脂を得た。
得られた硬化剤3についてFD−MSにより構造を確認したところ、一般式(III−1)〜(III−4)のいずれかで表される構造の全ての存在が確認できた。
【0260】
なお、上記硬化剤1〜3については、物性値の測定を次のようにして行った。
数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定は、株式会社日立製作所製の高速液体クロマトグラフィL6000及び株式会社島津製作所製のデータ解析装置C−R4Aを用いて行った。分析用GPCカラムは東ソー株式会社製のG2000HXL及びG3000HXLを使用し、試料濃度は0.2質量%、移動相にはテトラヒドロフランを用い、流速1.0ml/minで測定を行った。ポリスチレン標準サンプルを用いて検量線を作成し、それを用いてポリスチレン換算値で数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0261】
水酸基当量は塩化アセチル−水酸化カリウム滴定法により測定した。なお、滴定終点の判断は溶液の色が暗色であるため、指示薬による呈色法ではなく、電位差滴定によって行った。具体的には、測定フェノール樹脂の水酸基をピリジン溶液中塩化アセチルでアセチル化した後その過剰の試薬を水で分解し、生成した酢酸を水酸化カリウム/メタノール溶液で滴定して、水酸基当量を測定した。
硬化剤1〜3の物性値を以下に示す。
【0262】
硬化剤1:前記一般式(III−1)及び(III−2)のうちの少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含む混合物であり、Ar31及びAr32が、前記一般式(III−a)においてR31=OHであり、R32=R33=Hである1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基であるノボラック樹脂(水酸基当量:112、Mn:400、Mw:550)を含むノボラック樹脂組成物であった。
【0263】
硬化剤2:前記一般式(III−1)〜(III−4)のうちの少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含む混合物であり、Ar31〜Ar34が、前記一般式(III−a)においてR31=OHであり、R32=R33=Hである1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基又は1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基であるノボラック樹脂(水酸基当量:108、Mn:540、Mw:1,000)を含むノボラック樹脂組成物であった。
【0264】
硬化剤3:前記一般式(III−1)〜(III−4)のうちの少なくとも1つで表される構造を有する化合物を含む混合物であり、Ar31〜Ar34が、前記一般式(III−a)においてR31=OHであり、R32=R33=Hである1,2−ジヒドロキシベンゼン(カテコール)に由来する基又は1,3−ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)に由来する基であり、低分子希釈剤としてモノマー成分(レゾルシノール)を35%含むノボラック樹脂(水酸基当量:62、Mn:422、Mw:564)を含むノボラック樹脂組成物であった。
【0265】
(アルミナフィラー)
・AA−18[α−アルミナ、住友化学株式会社製、平均粒子径(D50):18μm]
・AA−3[α−アルミナ、住友化学株式会社製、平均粒子径(D50):3μm]
・AA−04[α−アルミナ、住友化学株式会社製、平均粒子径(D50):0.4μm]
【0266】
(エラストマー)
・REB122−4:
【化36】
【0267】
日立化成工業株式会社製、乳酸エチル55%含有、製造方法:特開2010−106220号公報を参照。
【0268】
(添加剤)
[硬化促進剤]
・TPP:トリフェニルホスフィン
[シランカップリング剤]
・KBM−573:3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン[信越化学工業株式会社製]
【0269】
(有機溶剤)
・MEK:メチルエチルケトン
・CHN:シクロヘキサノン
【0270】
(支持体)
・PETフィルム[藤森工業株式会社製、75E−0010CTR−4]
・銅箔[古河電工株式会社製、厚さ:80μm、GTSグレード]
【0271】
(実施例1)
<エポキシ樹脂組成物の作製>
樹脂モノマーAを15.62質量部、硬化剤1を16.51質量部、アルミナフィラーを計225.4質量部(AA−18:148.76質量部(66体積%)、AA−3:54.10質量部(24体積%)、AA−04:22.54質量部(10体積%))、TPPを0.19質量部、KBM−573を0.24質量部、及び有機溶剤を計51.44質量部(MEK:44.77質量部、CHN:6.67質量部)混合し、有機溶剤を含むエポキシ樹脂組成物としてエポキシ樹脂ワニスを得た。
【0272】
樹脂モノマーAと硬化剤1との混合物の密度を1.20g/cm及びアルミナフィラーの密度を3.97g/cmとして、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤とアルミナフィラーの総体積に対するアルミナフィラーの割合を算出したところ、74体積%であった。
【0273】
<半硬化エポキシ樹脂組成物の作製>
上記エポキシ樹脂ワニスを、アプリケーターを用いて乾燥後の厚みが200μmとなるようにPETフィルム上に塗布した後、常温(20℃〜30℃)で15分、更に130℃で5分間乾燥させた。その後、真空プレスにて熱間加圧(プレス温度:130℃、真空度:1kPa、プレス圧:1MPa、加圧時間:1分)を行い、厚みが190μmであるシート状の半硬化エポキシ樹脂組成物を得た。
【0274】
<銅箔付硬化エポキシ樹脂組成物の作製>
上記で得られたシート状の半硬化エポキシ樹脂組成物からPETフィルムを剥がした後、2枚の銅箔のマット面がそれぞれ半硬化エポキシ樹脂組成物に対向するように、2枚の銅箔で半硬化エポキシ樹脂組成物を挟み、真空プレスにて真空熱圧着(温度:150℃〜180℃、真空度:1kPa、プレス圧:4MPa、加圧時間:5分)した。その後、大気圧条件下、140℃で2時間、165℃で2時間、更に190℃で2時間加熱し、銅箔付硬化エポキシ樹脂組成物を得た。
【0275】
<熱伝導率の測定>
上記で得られた銅箔付硬化エポキシ樹脂組成物の銅箔をエッチングして取り除き、シート状の硬化エポキシ樹脂組成物を得た。得られた硬化エポキシ樹脂組成物を10mm角に切り出してグラファイトスプレーにて黒化処理した後、キセノンフラッシュ法(NETZSCH社製のLFA447 nanoflash)にて熱拡散率を評価した。この値と、アルキメデス法で測定した密度と、DSC(Perkin Elmer社製のDSC Pyris1)にて測定した比熱との積から、硬化エポキシ樹脂組成物の熱伝導率を求めた。求めた熱伝導率の結果を表1に示した。
【0276】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
上記で得られた銅箔付硬化エポキシ樹脂組成物の銅箔をエッチングして取り除き、シート状の硬化エポキシ樹脂組成物を得た。得られた硬化エポキシ樹脂組成物を30mm×5mm角に切り出した後、動的粘弾性測定(DMA)(TAインスツルメンツ社製RSAIII)より得られたtanδのピークよりTgを求めた。求めたTgの結果を表1に示した。
【0277】
<絶縁破壊電圧の測定>
上記で得られた銅箔付硬化エポキシ樹脂組成物の銅箔をエッチングして取り除き、シート状の硬化エポキシ樹脂組成物を得て、100mm角以上の寸法で切り出して試料を得た。ヤマヨ試験器(有)製YST−243−100RHOを用いて、直径25mmの円筒電極で前記試料を挟み、昇圧速度500V/s、室温、大気中にて絶縁破壊電圧を測定した。5点以上の測定を行い、その平均値と最低値とを求めた。求めた結果を表1に示した。
【0278】
(実施例2)
樹脂モノマーAを15.82質量部、硬化剤2を16.12質量部、アルミナフィラーを計225.4質量部(AA−18:148.76質量部(66体積%)、AA−3:54.10質量部(24体積%)、AA−04:22.54質量部(10体積%))、TPPを0.19質量部、KBM−573を0.24質量部、及び有機溶剤を計51.63質量部(MEK:44.77質量部、CHN:6.86質量部)混合し、有機溶剤を含むエポキシ樹脂組成物としてエポキシ樹脂ワニスを得た。
【0279】
樹脂モノマーAと硬化剤2との混合物の密度を1.20g/cm、及びアルミナフィラーの密度を3.97g/cm、として、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤とアルミナフィラーの合計体積に対するアルミナフィラーの割合を算出したところ、74体積%であった。
【0280】
上記で得られたエポキシ樹脂ワニスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物を作製し、上記と同様にして評価した。
その結果を表1に示した。
【0281】
(実施例3)
樹脂モノマーAを18.48質量部、硬化剤3を10.81質量部、アルミナフィラーを計225.4質量部(AA−18:148.76質量部(66体積%)、AA−3:54.10質量部(24体積%)、AA−04:22.54質量部(10体積%))、TPPを0.19質量部、KBM−573を0.24質量部、及び有機溶剤を計54.29質量部(MEK:44.77質量部、CHN:9.52質量部)混合し、有機溶剤を含むエポキシ樹脂組成物としてエポキシ樹脂ワニスを得た。
【0282】
樹脂モノマーAと硬化剤3との混合物の密度を1.20g/cm、及びアルミナフィラーの密度を3.97g/cm、として、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤とアルミナフィラーの合計体積に対するアルミナフィラーの割合を算出したところ、74体積%であった。
【0283】
上記で得られたエポキシ樹脂ワニスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物を作製し、上記と同様にして評価した。
その結果を表1に示した。
【0284】
(実施例4)
樹脂モノマーBを18.61質量部、硬化剤3を10.54質量部、アルミナフィラーを計225.4質量部(AA−18:148.76質量部(66体積%)、AA−3:54.10質量部(24体積%)、AA−04:22.54質量部(10体積%))、TPPを0.19質量部、KBM−573を0.24質量部、及び有機溶剤を計54.42質量部(MEK:44.77質量部、CHN:9.65質量部)混合し、有機溶剤を含むエポキシ樹脂組成物としてエポキシ樹脂ワニスを得た。
【0285】
樹脂モノマーBと硬化剤3との混合物の密度を1.20g/cm、及びアルミナフィラーの密度を3.97g/cm、として、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤とアルミナフィラーの合計体積に対するアルミナフィラーの割合を算出したところ、74体積%であった。
【0286】
上記で得られたエポキシ樹脂ワニスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物を作製し、上記と同様にして評価した。
その結果を表1に示した。
【0287】
(実施例5)
樹脂モノマーAを18.49質量部、硬化剤3を10.78質量部、アルミナフィラーを計225.4質量部(AA−18:148.76質量部(66体積%)、AA−3:54.10質量部(24体積%)、AA−04:22.54質量部(10体積%))、REB122−4を2.65質量部、TPPを0.19質量部、KBM−573を0.24質量部、及び有機溶剤を計42.37質量部(MEK:35.82質量部、CHN:6.55質量部)混合し、有機溶剤を含むエポキシ樹脂組成物としてエポキシ樹脂ワニスを得た。
【0288】
樹脂モノマーAと硬化剤3との混合物の密度を1.20g/cm、及びアルミナフィラーの密度を3.97g/cm、として、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤とアルミナフィラーの合計体積に対するアルミナフィラーの割合を算出したところ、74体積%であった。
【0289】
上記で得られたエポキシ樹脂ワニスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物を作製し、上記と同様にして評価した。
その結果を表1に示した。
【0290】
(比較例1)
一般式(I)と異なる構造のエポキシ樹脂モノマーであるYL6121H(三菱化学株式会社製)を17.55質量部、硬化剤3を12.65質量部、アルミナフィラーを計225.4質量部(AA−18:148.76質量部(66体積%)、AA−3:54.10質量部(24体積%)、AA−04:22.54質量部(10体積%))、TPPを0.19質量部、KBM−573を0.24質量部、及び有機溶剤を計53.36質量部(MEK:44.77質量部、CHN:8.59質量部)混合し、有機溶剤を含むエポキシ樹脂組成物としてエポキシ樹脂ワニスを得た。
【0291】
YL6121Hと硬化剤3との混合物の密度を1.20g/cm、及びアルミナフィラーの密度を3.97g/cm、として、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤とアルミナフィラーの合計体積に対するアルミナフィラーの割合を算出したところ、74体積%であった。
【0292】
上記で得られたエポキシ樹脂ワニスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物を作製し、上記と同様にして評価した。
その結果を表1に示した。
【0293】
(比較例2)
一般式(I)と異なる構造のエポキシ樹脂モノマーである1−(3−メチル−4−オキシラニルメトキシフェニル)−4−(4−オキシラニルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセン(エポキシ当量:201、特許第4619770号公報に記載、以下、「樹脂モノマーC」と略す)を18.25質量部、硬化剤3を11.26質量部、アルミナフィラーを計225.4質量部(AA−18:148.76質量部(66体積%)、AA−3:54.10質量部(24体積%)、AA−04:22.54質量部(10体積%))、TPPを0.19質量部、KBM−573を0.24質量部、及び有機溶剤を計54.06質量部(MEK:44.77質量部、CHN:9.29質量部)混合し、有機溶剤を含むエポキシ樹脂組成物としてエポキシ樹脂ワニスを得た。
【0294】
樹脂モノマーCと硬化剤3との混合物の密度を1.20g/cm、及びアルミナフィラーの密度を3.97g/cm、として、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤とアルミナフィラーの合計体積に対するアルミナフィラーの割合を算出したところ、74体積%であった。
【0295】
上記で得られたエポキシ樹脂ワニスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物を作製し、上記と同様にして評価した。
その結果を表1に示した。
【0296】
(比較例3)
樹脂モノマーAを16.02質量部、硬化剤TD−2131(フェノールノボラック樹脂、DIC株式会社製)を7.86質量部、アルミナフィラーを計225.4質量部(AA−18:148.76質量部(66体積%)、AA−3:54.10質量部(24体積%)、AA−04:22.54質量部(10体積%))、TPPを0.19質量部、KBM−573を0.24質量部、及び有機溶剤を計59.69質量部(MEK:44.77質量部、CHN:14.92質量部)混合し、有機溶剤を含むエポキシ樹脂組成物としてエポキシ樹脂ワニスを得た。
【0297】
樹脂モノマーAとTD−2131との混合物の密度を1.20g/cm、及びアルミナフィラーの密度を3.97g/cm、として、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤とアルミナフィラーの合計体積に対するアルミナフィラーの割合を算出したところ、74体積%であった。
【0298】
上記で得られたエポキシ樹脂ワニスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物を作製し、上記と同様にして評価した。
その結果を表1に示した。
【0299】
(比較例4)
樹脂モノマーAを18.96質量部、カテコールを4.92質量部、アルミナフィラーを計225.4質量部(AA−18:148.76質量部(66体積%)、AA−3:54.10質量部(24体積%)、AA−04:22.54質量部(10体積%))、TPPを0.19質量部、KBM−573を0.24質量部、及び溶剤を計59.69質量部(MEK:44.77質量部、CHN:14.92質量部)混合し、溶剤を含むエポキシ樹脂組成物としてエポキシ樹脂ワニスを得た。
【0300】
樹脂モノマーAとカテコールとの混合物の密度を1.20g/cm、及びアルミナフィラーの密度を3.97g/cmとして、エポキシ樹脂モノマーと硬化剤とアルミナフィラーの合計体積に対するアルミナフィラーの割合を算出したところ、74体積%であった。
【0301】
上記で得られたエポキシ樹脂ワニスを用いたこと以外は、実施例1と同様にして半硬化エポキシ樹脂組成物及び硬化エポキシ樹脂組成物を作製し、上記と同様にして評価した。
その結果を表1に示した。
【0302】
【表1】
【0303】
表1から、本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる実施例1〜5の硬化エポキシ樹脂組成物は、比較例1〜4に比べて熱伝導性に優れることが分かる。またガラス転移温度が高く、耐熱性に優れることが分かる。
【0304】
日本国特許出願2011−241668号、日本国特許出願2012−090473号及び国際出願PCT/JP2011/075345号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
図1
図2