(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
容器に水を準備し、これにフッ化水素酸を投入し、次にM(但し、Mは上記の通り)を含む化合物を投入して撹拌、溶解し、次いでA(但し、Aは上記の通り)を含む化合物とMnを含む化合物又はA(但し、Aは上記の通り)とMnとを含む化合物を投入して撹拌、溶解してベース溶液を調製し、最後にこのベース溶液を撹拌しながらA(但し、Aは上記の通り)のフッ化物又は該フッ化物を溶解したフッ化水素酸溶液からなる添加用剤を添加して、ベース溶液中にA2MF6:Mn(但し、A及びMは上記の通り)を晶析させる請求項1記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
白色LED(Light Emitting Diode)の演色性向上、あるいは白色LEDを液晶ディスプレイのバックライトとして用いる場合の色再現性の向上の目的で、近紫外から青色のLEDに相当する光で励起されて赤色に発光する蛍光体が必要とされ、研究が進められている。この中で特表2009−528429号公報(特許文献1)には、A
2MF
6(AはNa,K,Rb等、MはSi,Ge,Ti等)などの式で表される複フッ化物にMnを添加したもの(複フッ化物蛍光体)が有用であることが記載されている。
【0003】
上記蛍光体の製造方法については、特許文献1では構成各元素を全て溶解又は分散させたフッ化水素酸溶液を蒸発濃縮させて析出させる方法が開示されている。別の製法として、米国特許第3576756号明細書(特許文献2)には、構成各元素をそれぞれ溶解させたフッ化水素酸溶液を混合後、水溶性有機溶剤であるアセトンを加えて溶解度を低下させることにより析出させる方法が開示されている。更に、特許第4582259号公報(特許文献3)、及び特開2012−224536号公報(特許文献4)には、上記式における元素Mと、元素Aをそれぞれ別々の、フッ化水素酸を含む溶液に溶解し、そのどちらかにMnを添加しておいたものを改めて混合することにより蛍光体を析出させる方法が開示されている。
【0004】
この場合、Mn賦活複フッ化物赤色蛍光体(複フッ化物蛍光体)において、Mnは4価のMnであることが必要で、Mn
4+が発光中心であり、2価、3価のMnや6価等のMnでは赤色蛍光体の発光中心とはなり得ないものであるが、従来のA
2MF
6:Mnの製造方法においては、製造中におけるMn
4+の酸化については十分な考慮がされず、一方、Mn
2+、Mn
3+やMn
6+等が反応用液中に存在していても、その処置については考慮されていないものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、Mn
4+を酸化させることなく、Mn
2+やMn
3+をMn
4+に電解酸化させることができ、Mnを有効活用することができ、高性能の赤色蛍光体を得ることができる複フッ化物蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、複フッ化物蛍光体の晶析用液を陽極室に入れて電解しながら晶析反応を行うことが有効であり、この場合、陽極室内に配設された電極(陽極)からは酸素ガスが発生するが、意外にもA
2MF
6:Mnの4価のMnはこれによって酸化せず、Mn
2+、Mn
3+等の価数の少ないMnイオンがMn
4+に電解酸化されることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、本発明は下記複フッ化物蛍光体の製造方法を提供する。
〔1〕
下記式(1)
A
2MF
6:Mn (1)
(式中、MはSi、Ti、Zr、Hf、Ge及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素、AはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれ、かつ少なくともNa及び/又はKを含む1種又は2種以上のアルカリ金属である。)
で表されるMn賦活複フッ化物である赤色蛍光体の製造において、原料として、Mを含む化合物とAを含む化合物とMnを含む化合物、Mを含む化合物とA及びMnを含む化合物、M及びAを含む化合物とMnを含む化合物、又はA及びMnを含む化合物とM及びAを含む化合物を用いて、フッ化水素酸もしくはその塩を含む液中で上記原料を反応槽内で混合してA
2MF
6:Mnの複フッ化物蛍光体を晶析させるに際し、上記反応槽内に隔膜を設けて反応槽内を陽極室と陰極室とに仕切るか、又は反応槽内を陽極室とすると共に反応槽とは別途に陰極室を設けて陽極室と陰極室とを塩橋を介して連通し、上記陽極室を上記A
2MF
6:Mnの晶析用室とし、陰極室には少なくともフッ化水素酸を収容し、かつ上記両室にそれぞれ電極を設置してこれら電極間に電流を流し、電解を行いながら陽極室においてA
2MF
6:Mnの晶析反応を行うことを特徴とする複フッ化物蛍光体の製造方法。
〔2〕
容器に水を準備し、これにフッ化水素酸を投入し、次にM(但し、Mは上記の通り)を含む化合物を投入して撹拌、溶解し、次いでA(但し、Aは上記の通り)を含む化合物とMnを含む化合物又はA(但し、Aは上記の通り)とMnとを含む化合物を投入して撹拌、溶解してベース溶液を調製し、最後にこのベース溶液を撹拌しながらA(但し、Aは上記の通り)のフッ化物又は該フッ化物を溶解したフッ化水素酸溶液からなる添加用剤を添加して、ベース溶液中にA
2MF
6:Mn(但し、A及びMは上記の通り)を晶析させる〔1〕記載の製造方法。
〔3〕
隔膜がイオン交換膜である〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔4〕
電解電流が0.5mA/cm
2以上0.1A/cm
2以下である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の製造方法。
〔5〕
少なくとも晶析反応を不活性ガス雰囲気下で行う〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の製造方法。
〔6〕
陽極室内のA
2MF
6:Mn晶析用液を不活性ガスにてバブリングしながら電解を行う〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上述したように電解させながら晶析反応を行うことによりA
2MF
6:Mnの4価のMnを酸化させることなく、晶析用液中の価数の少ないMnイオンをMn
4+に電解酸化することで、Mnを有効活用することができ、高性能の赤色蛍光体を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る製造方法は、下記式(1)
A
2MF
6:Mn (1)
(式中、MはSi、Ti、Zr、Hf、Ge及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素、AはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれ、かつ少なくともNa及び/又はKを含む1種又は2種以上のアルカリ金属である。)
で示される複フッ化物蛍光体を得るための方法である。
ここで、MとしてはSi、Ti又はGe、特にSi又はTiが好ましく、またAとしてはNa又はKが好ましい。
【0013】
本発明においては、Mを含む化合物とAを含む化合物とMnを含む化合物、Mを含む化合物とA及びMnを含む化合物、M及びAを含む化合物とMnを含む化合物、又はA及びMnを含む化合物とM及びAを含む化合物を用いて、フッ化水素酸もしくはその塩を含む液中でこれら化合物を反応槽内で混合してA
2MF
6:Mnの複フッ化物蛍光体を晶析させる。
【0014】
この場合、A
2MF
6:Mnを製造する方法は、上記化合物を用い、湿式で行ういずれの方法であっても差し支えないが、例えば、水に原料となる各種成分を順次溶かし込み、得られた水溶液から最終的に上記式(1)の赤色蛍光体を析出させる方法が好ましい。
この場合、原料としては、M源(4価元素源)、A源(アルカリ金属源)、Mn源、フッ素源、更には反応媒質としてフッ化水素酸を用いる。これらの原料を水に溶解させて反応させ、蛍光体を沈殿として得る。この溶解させる順序は限定的でないが、他のものがすべて溶解しているところへ、アルカリ金属Aを加える方法が好ましい。また、溶解しやすいようにフッ化水素酸はMの源及びMnの源に先立って加えることが好ましい。
【0015】
特に、4価元素Mのフッ化物を含む第1の溶液、及び
アルカリ金属Aのフッ化物、フッ化水素塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩及び水酸化物から選ばれる化合物を含む第2の溶液及び/又はアルカリ金属Aの化合物の固体
の各々を準備する工程、
上記第1の溶液と上記第2の溶液及び/又は固体とを混合して、上記4価元素Mのフッ化物と上記アルカリ金属Aの化合物とを反応させる工程、及び
反応により生じた固体生成物を固液分離して回収する工程を含む方法、
とりわけ、容器に水を準備し、これにフッ化水素酸を投入し、次にM(但し、Mは上記の通り)を含む化合物を投入して撹拌、溶解し、次いでA(但し、Aは上記の通り)を含む化合物とMnを含む化合物又はA(但し、Aは上記の通り)とMnとを含む化合物を投入して撹拌、溶解してベース溶液を調製し、最後にこのベース溶液を撹拌しながらA(但し、Aは上記の通り)のフッ化物又は該フッ化物を溶解したフッ化水素酸溶液からなる添加用剤を添加して、ベース溶液中にA
2MF
6:Mn(但し、A及びMは上記の通り)を析出させる方法が好ましく採用される。
【0016】
4価元素Mの源としては、フッ化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩などを用いることができ、好ましくは酸化物、フッ化物であり、これらは1種単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。例を挙げれば、SiO
2、TiO
2などである。これらをフッ化水素酸水溶液と共に水に溶解させると、実質的に元素Mのポリフルオロ酸塩を含む水溶液となっている。またH
2SiF
6などのポリフルオロ酸塩の溶液を入手して使用することもできる。
【0017】
マンガンの原料としては、マンガンのフッ化物、炭酸塩、酸化物、水酸化物などを用いることができるが、AとMnとを含む化合物(フッ化物、酸化物、塩化物等)の形態で用いることが好適であり、マンガンの酸化状態と溶解しやすさの点からA
2MnF
6で表される複フッ化物や、A
2MnO
3で表される複酸化物が好ましい。実例を挙げれば、K
2MnF
6などである。
【0018】
アルカリ金属A(AはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれる1種又は2種以上、少なくともNa及び/又はKを含む)の源としては、フッ化物AF、フッ化水素塩AHF
2、硝酸塩ANO
3、硫酸塩A
2SO
4、硫酸水素塩AHSO
4、炭酸塩A
2CO
3、炭酸水素塩AHCO
3及び水酸化物AOHから選ばれる化合物を、必要に応じてフッ化水素(フッ化水素酸水溶液)と共に水に溶解させて水溶液として調製することができる。一方、固体(第2の溶液に対応する固体)の場合は、フッ化物AF、フッ化水素塩AHF
2、硝酸塩ANO
3、硫酸塩A
2SO
4、硫酸水素塩AHSO
4、炭酸塩A
2CO
3、炭酸水素塩AHCO
3及び水酸化物AOHから選ばれる化合物を、固体として準備すればよい。好ましいのはフッ化物又はフッ化水素塩である。
【0019】
上記原料を用いて複フッ化物蛍光体を製造する好適な方法としては、まず反応容器に水を入れ、更にこれにフッ化水素酸を投入する。この場合、フッ化水素酸の濃度は、後述するベース溶液中、10〜50質量%、特に15〜45質量%であることが好ましい。
【0020】
次に、M(但し、Mは上記の通り)を含む化合物を投入して撹拌、溶解する。これらMの化合物を上記フッ化水素酸水溶液に溶解する場合の濃度は、後述するベース溶液中、0.02〜1.0モル/リットル、特に0.05〜0.5モル/リットルであることが好ましい。
【0021】
次いで、A(但し、Aは上記の通り)を含む化合物とMnを含む化合物、好ましくはAとMnとを含む化合物の1種又は2種以上を投入して撹拌、溶解し、これによってベース溶液を調製する。この場合、Aの濃度、Mnの濃度は、それぞれベース溶液中、0.00005モル/リットル以上、特に0.0001〜0.2モル/リットルであることが好ましい。
【0022】
最後に、このベース溶液を撹拌しながらA(但し、Aは上記の通り)のフッ化物又は該フッ化物を溶解したフッ化水素酸溶液を添加用剤として添加する。この場合、フッ化物としては、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化水素カリウムが挙げられ、特にフッ化水素ナトリウム又はフッ化水素カリウムが好ましい。また、このフッ化水素酸溶液中におけるフッ化水素酸の濃度はA原料としてフッ化物、フッ化水素塩以外を用いた場合はAの濃度と同じかそれ以上、特にAの濃度の2倍以上であることが好ましい。A原料としてフッ化物、又はフッ化水素塩を用いた場合はフッ化水素酸の濃度は限定的でない。アルカリ金属Aの濃度は0.25モル/リットル以上、特に0.5モル/リットル以上であることが好ましい。なお、添加するアルカリ金属Aの量は、ベース溶液中のMとMnの合計に対し、2.0〜10.0(モル比)、特に2.0〜5.0(モル比)であることが好ましい。
【0023】
反応物質がすべて混合された状態での濃度は、元素MとMnの合計の濃度で、0.02〜1.0モル/リットルが好ましい。より好ましくは0.05〜0.5モル/リットルである。特に0.05モル/リットル以上とすることが好ましい。
また、反応物質がすべて混合された状態での4価元素MとMnの合計とアルカリ金属Aの比は、A/(M+Mn)=2.0〜10.0(モル比)、特に2.0〜5.0(モル比)とすることが好ましい。
反応系に加えるMnのMに対する比は、Mn/(M+Mn)=0.002〜0.4(モル比)、特に0.005〜0.2(モル比)が好ましい。
【0024】
反応中の液の温度は−20〜100℃の範囲で、加熱又は冷却して行うことができる。フッ化水素のガスの揮発を抑制する意味では60℃以下、特に50℃以下が好ましい。
この場合、反応槽には撹拌機を設置することができ、撹拌軸に撹拌翼が取り付けられ、撹拌軸ごと回転する形式が好ましい。撹拌翼の形状は任意に選択できるが、例を挙げれば平板状(傾斜なし又は有り)、アンカー状などである。反応中は、反応槽中の溶液を回転数が、0.5回/秒から100回/秒の範囲で撹拌することが好ましく、より好ましくは1〜10回/秒である。
【0025】
また、反応槽には滴下槽を付設することができる。滴下槽は、反応容器の上方に設けて、バルブを開けることにより液を反応容器に加えられるようにするか、又はポンプなどを設けて反応容器に流速を制御して液を添加できるようにするか、いずれかを選択できる。アルカリ金属Aを溶解したフッ化水素酸溶液を溶液に滴下する際に、投入フッ化水素酸溶液全量の1/500から1/10の量を一定で毎秒溶液中に滴下するようにできることが好ましい。この速度はより好ましくは1/200〜1/20である。
【0026】
本発明の製造方法においては、上記の晶析反応を電解しながら行うことを特徴とする。即ち、上記反応槽内に隔膜を設けて反応槽内を陽極室と陰極室とに仕切るか、又は反応槽内を陽極室とすると共に反応槽とは別途に陰極室を設けて陽極室と陰極室とを塩橋を介して連通し、上記陽極室を上記A
2MF
6:Mnの晶析用室とし、上記両室にそれぞれ電極を設置してこれら電極間に電流を流し、電解を行いながら陽極室においてA
2MF
6:Mnの晶析の晶析反応を行うものである。
【0027】
図1は、かかる装置の一例を示す。即ち、この反応装置1の反応槽2は、反応槽本体2aと、その一側上部に設けられた付属槽2bとを有し、反応槽本体2aと付属槽2bとの間を隔膜3によって液流通可能に仕切り、反応槽本体2a内を陽極室4とし、付属槽2b内を陰極室5とし、これら陽極室4、陰極室5にそれぞれ電極(陽極と陰極)6,7をそれぞれ設ける。この場合、陽極室4には、K
2MF
6:Mn晶析用の液を入れ、一方、陰極室5には、少なくともフッ化水素酸を入れ、電源8によって上記電極6,7間に電流を流しながら、陽極室4においてK
2MF
6:Mnの晶析を行うものである。なお、図中、9は撹拌機である。
また、
図2に示す反応装置1を用いてもよい。この
図2の反応装置1は、反応槽2とは別途に付属槽10を設置し、反応槽2(反応槽本体2a)内を陽極室4とし、付属槽10内を陰極室5とし、陽極室4と陰極室5とを塩橋11によって連通させたもので、
図1の場合と同様に電極6,7間に電源8から電流を流し、電解しながらK
2MF
6:Mnの晶析を行うものである。
【0028】
この場合、上記隔膜としてはイオン交換膜を用いることが好ましい。隔膜で液を分離しても、その両側の電極の間に電流が流れることが必要なので、イオンの移動が可能であるべきである。イオン交換膜のうちでは、スルホン酸基を導入したフッ素樹脂を用いた陽イオン交換膜が、フッ化水素酸を含む液での耐食性が高いこと、透過が1価陽イオンに選択的であってマンガンイオンを通過させにくいことなどから好ましい。デュポン社製のナフィオンの各品種、旭硝子(株)製のセレミオン(DMV等)などを好適に用いることができる。
【0029】
また、電流は直流であることが好ましく、電解電流は0.5mA/cm
2以上0.1A/cm
2以下、特に0.01〜0.08A/cm
2であることが好ましい。また液温は室温で良いが、電流を流すと液温が上昇することがあるので、60℃以下、好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下にする。
【0030】
このような方法により、晶析されたK
2MF
6:Mnは、その4価のMnは酸化されず、また晶析用液中のMn
2+、Mn
3+等の価数の少ないMnイオンはMn
4+等に電解酸化される。一方、Mn
6+等の価数の多いMnイオンは、隔膜又は塩橋を通過して陰極室に移行し、Mn
4+に還元される。反応雰囲気は特に限定されないが、少なくとも晶析反応を窒素、Ar等の不活性雰囲気下で行うことが好ましく、特にAのフッ化物を溶解したフッ化水素酸溶液を投入する工程以降を、Ar又は窒素雰囲気とすることが好ましい。
【0031】
また、上記晶析用液を窒素やAr等の不活性ガスによってバブリングしながら晶析反応を行うことが好ましい。
このように、不活性ガス雰囲気で反応を行ったり、不活性ガスバブリングを行うことにより、Mn
4+の酸化を有効に防止することができる。
【0032】
本発明の複フッ化物蛍光体を固体生成物として得ることができる。固液分離後の固体生成物は、必要に応じて、洗浄、溶媒置換などの処理を実施することができ、また、真空乾燥などによって乾燥することができる。
【0033】
本発明の製造方法によって得られた蛍光体はMnを発光中心とする複フッ化物蛍光体であり、青色(400〜480nm、1例として450nm)光の励起により赤色発光を示す。630nm前後に最強ピークを有し、数本の鋭い線幅のピークからなる発光スペクトルを示す。本発明の範囲の標準的な条件で製造した場合、450nmの光に対する吸収率が0.7以上、好ましくは0.71以上、内部量子効率が0.8以上、好ましくは0.82以上を示し、青色LEDを励起源とする白色LED用の赤色蛍光体として好適である。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
反応容器内にデュポン社製のナフィオンN−324のイオン交換膜を配置し、反応容器内を陽極室と陰極室に区分した。陽極室と陰極室に向き合うように白金電極(60×110mm)を配置し、直流電源に結線した。
陽極室内で、40質量%のケイフッ化水素酸(H
2SiF
6)水溶液(森田化学工業(株)製)234cm
3を、まず50質量%フッ化水素酸(HF)(SA−X、ステラケミファ(株)製)2,660cm
3と混合した。これに、予め後述の参考例の方法で作製したK
2MnF
6粉末を13.32g加えて撹拌し溶解させた(溶液A)。陰極室には、50質量%フッ化水素酸(HF)を電極が浸るように入れた。
これとは別に、フッ化水素カリウム(ステラケミファ製酸性フッ化カリウム、KHF
2)210.5gを50質量%フッ化水素酸水溶液680cm
3、純水1,270cm
3と混合し溶解させた(溶液B)。
溶液Aを室温(15℃)で撹拌翼とモーターを用いて撹拌しながら、直流電源より4A(60mA/cm
2)の電流を流し、溶液B(15℃)を1分30秒かけて少しずつ加えていった。液の温度は25℃になり、淡榿色の沈殿(K
2SiF
6:Mn)が生じた。更に電流を流しながら10分撹拌を続けたのち、電流を止めてから、この沈殿をブフナー漏斗でろ別し、できるだけ脱液した。更にアセトンで洗浄し、脱液、真空乾燥して、粉末製品K
2SiF
6:Mn180.9gを得た。
得られた粉末製品の粒度分布を、気流分散式レーザー回折法粒度分布測定器(HELOS&RODOS、Sympatec社製)によって測定した。その結果、粒径8.83μm以下の粒子が全体積の10%(D10=8.83μm)、粒径21.47μm以下の粒子が全体積の50%(D50=21.47μm)、粒径32.78μm以下の粒子が全体積の90%(D90=32.78μm)を占めた。
【0036】
[参考例]
(K
2MnF
6,K
2MnF
5の製造)
丸善株式会社発行、日本化学会編、新実験化学講座8「無機化合物の合成III」、1977年発行、1166ページ(非特許文献1)に記載されている方法に準拠し、以下の方法で調製した。
塩ビ樹脂製の反応槽の中央にフッ素樹脂系イオン交換膜による仕切りを設け、両側にいずれも白金板からなる陽極と陰極を設置した。この反応槽の陽極側に、フッ化マンガン(II)を溶解させたフッ化水素酸溶液、陰極側にフッ化水素酸溶液を入れ、両極に電源をつなぎ、電圧3V、電流0.75Aで電解を行った。電解を終えてから、陽極側の反応液に、フッ化水素酸で飽和させたフッ化カリウム溶液を過剰に加え、生じた黄色の沈殿をろ別回収することで、K
2MnF
6を得た。
【0037】
[実施例2]
電流を0.33Aにした以外は実施例1と同様に行い、粉末製品K
2SiF
6:Mn181.8gを得た。実施例1と同様にして測定した粒度分布の結果は、D10=7.83μm、D50=20.50μm、D90=31.62μmであった。
【0038】
[実施例3]
反応容器の外側に付属槽を別途に設け、反応容器内を陽極室、付属槽内を陰極室とし、これら両室に白金電極を配置して直流電源に結線した。反応容器内と50質量%フッ化水素酸を入れた付属槽内とを塩橋を介して連通した以外は実施例1と同様に行い、粉末製品K
2SiF
6:Mn182.3gを得た。実施例1と同様にして測定した粒度分布の結果は、D10=7.06μm、D50=19.15μm、D90=29.75μmであった。
【0039】
[実施例4]
容器内の溶液に窒素をバブリングした以外は、実施例2と同様に行い、粉末製品K
2SiF
6:Mn181.5gを得た。
実施例1と同様にして測定した粒度分布の結果は、D10=8.27μm、D50=21.74μm、D90=33.65μmであった。
【0040】
[実施例5]
溶液Bを溶液Aに投入する際に、溶液Aの入った容器内を窒素雰囲気にした以外は実施例1と同様に行い、粉末製品K
2SiF
6:Mn181.3gを得た。実施例1と同様にして測定した粒度分布の結果は、D10=9.05μm、D50=21.86μm、D90=33.42μmであった。
【0041】
[比較例1]
電流を流さなかった以外は実施例1と同様に行い、粉末製品180.4gを得た。実施例1と同様にして測定した粒度分布の結果は、D10=7.70μm、D50=19.98μm、D90=30.50μmであった。
【0042】
[比較例2]
40質量%のケイフッ化水素酸(H
2SiF
6)水溶液(森田化学工業(株)製)23cm
3を、まず50質量%フッ化水素酸(HF)(SA−X、ステラケミファ(株)製)266cm
3と混合した。これに、予め後述の参考例の方法で作製したK
2MnF
6粉末を1.33g加えて撹拌し溶解させた(溶液A)。
これとは別に、フッ化水素カリウム(ステラケミファ製酸性フッ化カリウム、KHF
2)21.05gを50質量%フッ化水素酸水溶液68cm
3、純水127cm
3と混合し溶解させた(溶液B)。
溶液Aを室温(16℃)にて撹拌しながら、溶液B(17℃)を加えた。液の温度は26℃になり、淡榿色の沈殿(K
2SiF
6:Mn)が生じた。更に10分撹拌を続けたのち、この沈殿をブフナー漏斗でろ別し、できるだけ脱液した。更にアセトンで洗浄し、脱液、真空乾燥して、粉末製品K
2SiF
6:Mn18.01gを得た。
得られた粉末製品の粒度分布を、気流分散式レーザー回折法粒度分布測定器(HELOS&RODOS、Sympatec社製)によって測定した。その結果、D10=10.53μm、D50=23.77μm、D90=35.40μmを占めた。
Abs.=0.591、IQE=0.718であった。
【0043】
実施例及び比較例によって得られた蛍光体の発光特性、発光スペクトルと吸収率、量子効率を量子効率測定装置QE1100(大塚電子(株)製)で測定した。励起波長450nmでの吸収率と量子効率を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。