【実施例】
【0037】
以下、アルミニウムよりなる正極集電体の例を用い、さらに詳細に実施例を説明するが、本発明は本明細書に記載した実施例に限定されるものではなく、他の正極集電体及び負極集電体にも使用できる。例えば、下記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0038】
まず、各実施例について説明する前に、集電体20の三次元中心面平均粗さSRa及び実表面積、幾何学面積の測定方法、剥離強度の測定方法について説明する。
【0039】
<集電体の三次元中心面平均粗さSRaおよび実表面積、幾何学面積の測定方法>
集電体20の三次元中心面平均粗さSRa、実表面積、幾何学面積は、走査型共焦点レーザー顕微鏡(オリンパス製 LEXT OLS3100)を用いて、以下のように測定した。まず、波長408±5nmの半導体レーザー、対物レンズ50倍(開口数:NA(numerical aperture)=0.95、作動距離:WD(working distance)=0.3mm)、ズーム1倍の条件で共焦点観察した。次に、集電体粗部の高さに合わせて3D走査範囲の上下限を設定し、Fineモードで3D画像を取り込んだ。取り込んだ3D画像のX−Y方向の範囲は約256μm×192μmであった。その後、x−y方向の傾きを補正し、三次元中心面平均粗さSRaと、実表面積及び幾何学面積を解析した。
【0040】
三次元中心面平均粗さSRaは、読み込まれた画像から半導体レーザーの波長の1/3より長い表面うねり成分を除去して得られた断面曲面を用いた。幾何学面積は、読み込まれた画像のX−Y距離から算出した。実表面積は、取り込まれた画像の凹凸を平面化した時の面積から算出した。
【0041】
<剥離強度の測定方法>
電極の剥離強度Pは表面・界面切削装置(ダイプラ・ウィンテス製 SAICAS DN−20S型)を用いて、以下のように測定した。まず、打ち抜き冶具を用いて、正極1を直径15mmの円盤状に打ち抜いて試料を作製した。剥離強度の測定は、材質:ボロンナイトライド、刃幅(w):1mmの切削刃を用いて刃先合せし、押圧荷重0.5Nの定荷重モードで水平速度を2.0μm/secとして電極合剤層が集電体20から剥離する時の水平力FHを測定した。剥離強度Pは次式(2)により計算される。
P=FH/w ・・・(2)
【0042】
以下に示す実施例1〜9は、剥離強度及びレート特性のいずれも満足する場合の例を示したものである。ここでは、剥離強度の閾値を1.0kN/m、レート特性の閾値を80%とし、実施例に示したものは、いずれの条件も満足しているものである。
(実施例1)
集電体20として、電解法で作製した厚さ15μmのアルミニウム箔を用いた。三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.23μm、実表面積と幾何学面積の比Bは1.9であって、(B/A)=8.3であった。正極活物質には、平均一次粒子径300nm、平均二次粒子径5μmに造粒されたLi
1.2Ni
0.25Mn
0.55O
2を用いた。正極活物質、カーボンブラック及び、予め溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させた結着剤を質量比で85:10:5の割合で混合し、均一に混合されたスラリを厚さ200μmのブレードを用いてアルミニウム集電体上に塗布した。その後、120℃で乾燥し、プレスにて電極密度が2.5g/cm
3になるよう圧縮成型した。圧縮成型後、直径15mmの円盤状に、打ち抜き冶具を用いて打ち抜き、試験電池用の正極を作製した。表面・界面切削装置を用いて剥離強度を算出した結果、実施例1の剥離強度は、1.4kN/mと高い値を示した(
図4)。
【0043】
上記のように作製した正極を用い、金属リチウムを対極とし、1.0モルのLiPF
6を電解質としたEC(エチレンカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)の混合溶媒を電解液として、試験電池を作製した。
【0044】
この試験電池のレート特性を以下の手順で評価した。充電レートを0.1C(10時間で100%の充電が完了する速さ)として4.6Vまで定電流/定電圧で充電した後、2.5Vまで0.1Cの放電レート(10時間で100%の放電が完了する速さ)で定電流放電した。この動作を、充電と放電とを1回ずつ行うことを1サイクルとして、3サイクル繰り返した。その後、充電レートを0.1Cとして4.6Vまで定電流/定電圧で充電した後、0.1Cの放電レートで2.5Vまで定電流放電し、そのときの放電容量を測定した。同様に、充電レートを0.1Cとして4.6Vまで定電流/定電圧で充電した後、3Cの放電レートで2.5Vまで定電流放電し、そのときの放電容量を測定した。そして、そのときの容量比、すなわち(3C放電時の放電容量)/(0.1C放電時の放電容量)をレート特性とした。実施例1におけるレート特性は、81%と高い値を示した(
図4)。
【0045】
(実施例2)
本実施例2では、集電体20として、電解法で作製した厚さ15μmのアルミニウム箔を使用し、三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.28μm、実表面積と幾何学面積との比Bは2.4、(B/A)=8.6であった。実施例1と同様に試験電池用の正極を作製し、剥離強度を算出した結果、剥離強度=1.5kN/mと高い値を示した(
図4)。また、実施例1と同様に試験電池を作製してレート特性を評価した結果、レート特性=84%と高い値を示した(
図4)。
【0046】
(実施例3)
本実施例3では、集電体20として、厚さ15μmの電解法で作製したアルミニウム箔を使用し、三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.11μm、実表面積と幾何学面積との比Bは1.6、(B/A)=14.5であった。実施例1と同様に試験電池用の正極を作製し、剥離強度を算出した結果、剥離強度=1.1kN/mと高い値を示した(
図4)。また、実施例1と同様に試験電池を作製してレート特性を評価した結果、レート特性=80%と高い値を示した(
図4)。
【0047】
(実施例4)
本実施例4では、集電体20として、厚さ20μmの電解法で作製したアルミニウム箔を使用し、三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.42μm、実表面積と幾何学面積との比Bは4.3、(B/A)=10.2であった。実施例1と同様に試験電池用の正極を作製し、剥離強度を算出した結果、剥離強度=1.8kN/mと高い値を示した(
図4)。また、実施例1と同様に試験電池を作製してレート特性を評価した結果、レート特性=86%と高い値を示した(
図4)。
【0048】
(実施例5)
本実施例5では、集電体20として、厚さ25μmの電解法で作製したアルミニウム箔を使用し、三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.60μm、実表面積と幾何学面積との比Bは3.9、(B/A)=6.5であった。実施例1と同様に試験電池用の正極を作製し、剥離強度を算出した結果、剥離強度=1.8kN/mと高い値を示した(
図4)。また、実施例1と同様に試験電池を作製してレート特性を評価した結果、レート特性=83%と高い値を示した(
図4)。
【0049】
(実施例6)
本実施例6では、集電体20として、厚さ30μmの電解法で作製したアルミニウム箔を使用し、三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.68μm、実表面積と幾何学面積との比Bは4.4、(B/A)=6.5であった。実施例1と同様に試験電池用の正極を作製し、剥離強度を算出した結果、剥離強度=2.0kN/mと高い値を示した(
図4)。また、実施例1と同様に試験電池を作製してレート特性を評価した結果、レート特性=83%と高い値を示した(
図4)。
【0050】
(実施例7)
本実施例7では、集電体20として、厚さ20μmの電解法で作製したアルミニウム箔を使用し、三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.35μm、実表面積と幾何学面積との比Bは3.1、(B/A)=8.9であった。実施例7では、平均一次粒子径100nm、平均二次粒子径3μmに造粒された炭素被覆LiFe
0.2Mn
0.8PO
4を正極活物質として用いた。炭素を含んだ正極活物質、カーボンブラック及び、予め溶媒のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させた結着剤を質量比で85:10:5の割合で混合し、均一に混合されたスラリを厚さ200μmのブレードを用いてアルミニウム集電体上に塗布した。その後、120℃で乾燥し、プレスにて電極密度が2.2g/cm
3になるよう圧縮成型した。圧縮成型後、直径15mmの円盤状に、打ち抜き冶具を用いて打ち抜き、試験電池用の正極を作製した。
【0051】
実施例1と同様に剥離強度を算出した結果、剥離強度=1.6kN/mと高い値を示した(
図4)。また、実施例1と同様に試験電池を作製し、充電の終止電圧を4.6Vから4.5Vに変更した以外は、実施例1と同様にレート特性を評価した結果、レート特性=92%と高い値を示した(
図4)。
【0052】
(実施例8)
本実施例8では、集電体20として、電解法で作製した厚さ15μmのアルミニウム箔を用いた。三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.15μm、実表面積と幾何学面積との比Bは1.8、(B/A)=12.0であった。実施例8では、平均一次粒子径500nm、平均二次粒子径12μmに造粒されたLiNi
0.5Mn
1.5O
4を正極活物質として用いた。正極活物質、カーボンブラック及び、予め溶媒のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させた結着剤を質量比で85:10:5の割合で混合し、均一に混合されたスラリを厚さ200μmのブレードを用いてアルミニウム集電体上に塗布した。その後、120℃で乾燥し、プレスにて電極密度が2.6g/cm
3になるよう圧縮成型した。圧縮成型後、直径15mmの円盤状に、打ち抜き冶具を用いて打ち抜き、試験電池用の正極を作製した。
【0053】
実施例1と同様に剥離強度を算出した結果、剥離強度=1.2kN/mと高い値を示した(
図4)。また、実施例1と同様に試験電池を作製し、充電の終止電圧を4.6Vから5.1Vに変更した以外は、実施例1と同様にレート特性を評価した。その結果、レート特性=86%と高い値を示した(
図4)。
【0054】
(実施例9)
本実施例9では、集電体20として、実施例1と同様のアルミニウム箔を用いた。実施例9では、平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径1μmに造粒された以外は実施例1と同様の正極活物質を用い、試験電池用の正極を作製した。実施例1と同様に剥離強度を算出した結果、剥離強度=1.1kN/mと高い値を示した(
図4)。ただし、実施例1の場合に比べて活物質の粒径がより小さくなっていることから、実施例1の場合よりも剥離強度は低くなっているものの、通常に用いることは可能である。実施例1と同様に試験電池を作製してレート特性を評価した結果、実施例9のレート特性は、84%と高い値を示した(
図4)。
【0055】
実施例1〜9は、レート特性が80%以上の例を示したものである。実施例1〜9では、剥離強度も1.1kN/m以上と十分な強度を備えている。これに対し、
図5に示す比較例1〜3は、レート特性が80%よりも小さい場合を示す。
【0056】
(比較例1)
比較例1は、三次元中心面平均粗さSRa(A)が小さい場合の一例を示したものである。比較例1では、集電体20として、厚さ15μmの圧延法で作製したアルミニウム箔を用いた。三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.08μm、実表面積と幾何学面積との比Bは1.1、(B/A)=13.8であった。実施例1と同様に試験電池用の正極を作製したところ、プレスにて圧縮成型する際に、電極密度が2.2g/cm
3より大きくになると電極合剤層が集電体20から剥離したため、電極密度は2.2g/cm
3となるように調整した。実施例1と同様に剥離強度を算出した結果、比較例1の剥離強度は、0.8kN/mと低い値を示した(
図5)。また、実施例1と同様に試験電池を作製してレート特性を評価した結果、比較例1のレート特性は、69%と低い値を示した(
図5)。
【0057】
(比較例2)
比較例2は、三次元中心面平均粗さSRa(A)に対する実表面積と幾何学面積との比Bが、(B/A)<6の場合の一例である。なお、三次元中心面平均粗さSRa(A)はA≧0.10μmを満足している。比較例2では、集電体20としてケミカルエッチング法で作製した厚さ30μmのアルミニウム箔を使用し、三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.58μm、実表面積と幾何学面積との比Bは2.5、(B/A)は4.3であった。実施例1と同様に試験電池用の正極を作製し、剥離強度を算出した結果、剥離強度=1.6kN/mと高い値を示した(
図5)。また、実施例1と同様に試験電池を作製してレート特性を評価した結果、比較例2のレート特性は、74%と低い値を示した(
図5)。
【0058】
(比較例3)
比較例3は、三次元中心面平均粗さSRa(A)に対する実表面積と幾何学面積の比(B)が、15<(B/A)の場合の一例である。なお、三次元中心面平均粗さSRa(A)はA≧0.10μmを満足している。比較例3では、集電体20として、電解法で作製した厚さ15μmのアルミニウム箔を用いた。三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.10μm、実表面積と幾何学面積との比Bは1.7、(B/A)は17.0であった。実施例1と同様に剥離強度を算出した結果、比較例3の剥離強度は、1.1kN/mと高い値を示した(
図4)。また、実施例1と同様に試験電池を作製してレート特性を評価した結果、比較例3のレート特性は、75%と低い値を示した(
図5)。
【0059】
図4に示す実施例1〜9のように、レート特性が80%以上のデータにおいては、比(B/A)の値は6≦(B/A)≦15の範囲に含まれている。また、三次元中心面平均粗さSRa(A)は0.10μm≦A≦0.70μmの範囲に含まれている。さらに、実表面積と幾何学的面積との比Bは、1.2≦B≦4.5の範囲に含まれている。
【0060】
一方、
図5に示す比較例1は、(B/A)は6≦(B/A)≦15の条件は満足しているが、AがA<0.10μmのように小さい場合である。このようにAの値が小さい場合には、それに伴って実表面積と幾何学面積との比Bの値も小さくなり、比較例1の場合には1.1となっている。その結果、集電体表面の三次元中心面平均粗さが小さすぎ、また、Bが小さいため接触面積も小さくなり、電極合剤層と集電体20との密着性が低下したものと考えられる。また、実施例1〜9と比較してレート特性が低下しているのは、電極合剤層と集電体20との密着性が低く、電極合剤層と集電体間の電子伝導性が低下したためと考えられる。このように、三次元中心面平均粗さSRa(A)が小さすぎると、剥離強度およびレート特性の両方が低下することが分かる。
【0061】
図5に示す比較例2,3は、比(B/A)が6≦(B/A)≦15を満足しておらずレート特性が80%より小さい場合の例を示したものである。比較例2,3のいずれも、実施例1〜9の場合と同様にA,Bは0.10μm≦A≦0.70μm、1.2≦B≦4.5の範囲内に含まれており、高い剥離強度が得られている。すなわち、密着性の点では実施例1〜9と同様の性能が得られている。
【0062】
一方、レート特性が実施例1〜9と比較して低下している比較例2の場合には、(B/A)<6であるために、三次元中心面平均粗さSRa(A)が大きい割に、実表面積と幾何学面積との比Bが小さく、集電体表面の粗化が不均質なために電極合剤層と集電体との間の電子伝導性が十分に低下しなかったためと考えられる。(B/A)>15となっている比較例3の場合には、三次元中心面平均粗さSRa(A)が0.1μmと小さい割に実表面積と幾何学面積との比Bが大きい。そのため、粗さにバラツキが生じて集電体表面の粗化が不均質となり、電極合剤層と集電体間の電子伝導性が十分に低下しなかったため、レート特性が低下したものと考えられる。
【0063】
図4,5に示す実施例及び比較例から、次のようなことが結論できる。リチウムイオン二次電池に用いられ、電極合剤層が形成される集電体において、三次元中心面平均粗さSRa(A)がA≧0.10μmを満たすと共に、(B/A)が6≦(B/A)≦15を満足することにより、レート特性に優れた集電体を得ることができる。また、そのような集電体を用いることで、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池用正極が得られる。さらに、6≦(B/A)≦15の条件を前提としてA、Bの値を考えた場合、
図4から、0.10μm≦A≦0.70μm、1.2≦B≦4.5であることが好ましい。A,Bがこの範囲外になると、十分な密着性が得られない。アルミニウム系金属による集電体では電解法を用いるのが好ましく、電解法における条件を制御することにより、A≧0.10μm、かつ、6≦(B/A)≦15を満たす粗面を容易に形成することができる。
【0064】
このように、集電体表面の粗化状態をA≧0.10μm及び6≦(B/A)≦15とすることで、レート特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。正極活物質の微粒子化に伴い、集電体と合剤層との剥離が重要な課題として認識されており、集電体と合剤層との密着性が向上する本実施例はその点でも有効である。特に、活物質の平均一次粒子径を10〜500nmのように微粒子化した場合においても、従来のようにレート特性や密着性の低下が抑制され、上述したように高レート、高密着性を実現することができる。実施例1〜6、実施例7,実施例8、実施例9においてはそれぞれ活物質及び平均一次粒径、平均二次粒子径がそれぞれ異なるが、集電体の粗化状態が上記条件を満たすようにすることで、いずれの場合も優れた剥離強度及びレート特性が得られている。
【0065】
なお、上述した実施例では正極に用いられるアルミニウム集電体を例に説明したが、本発明は集電体の粗面化に関する指標A,B,(B/A)の関係に関するものであって、上述したアルミニウム集電体に限らず銅箔などの他材質の集電体にも同様に適用することができる。また、正極、負極のどちらでも適用できる。また、圧延加工により得られた箔を本発明の集電体として用いることもできる。すなわち、(B/A)を指標の一つとして使用し、(B/A)を上述のように制御することによって、
図4の場合と同様に、剥離強度及びレート特性の向上を図ることができる。
【0066】
なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。
【0067】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2013年第144766号(2013年7月10日出願)