特許第6119920号(P6119920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6119920
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】近赤外線カットフィルタおよび撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20170417BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20170417BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20170417BHJP
   H01L 27/14 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   G02B5/22
   G02B5/28
   G02B5/26
   H01L27/14 D
【請求項の数】23
【全頁数】48
(21)【出願番号】特願2016-545370(P2016-545370)
(86)(22)【出願日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】JP2016051021
(87)【国際公開番号】WO2016114363
(87)【国際公開日】20160721
【審査請求日】2016年7月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-5383(P2015-5383)
(32)【優先日】2015年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-163264(P2015-163264)
(32)【優先日】2015年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 誠
(72)【発明者】
【氏名】杉山 亨司
【審査官】 濱野 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−159658(JP,A)
【文献】 特開2001−042230(JP,A)
【文献】 特開2000−137172(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/030628(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/158635(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 5/26
G02B 5/28
H01L 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収層と、反射層とを備え、下記(1)〜(3)の要件を満たすことを特徴とする近赤外線カットフィルタ。
(1)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620〜750nmの光の平均透過率(R)が20%以下であり、波長495〜570nmの光の平均透過率(G)が90%以上であり、かつ前記平均透過率の比(R)/(G)が0.20以下である。
(2)入射角0°の分光透過率曲線における波長600〜725nmの光の透過率の積分値T0(600−725)と、入射角30°の分光透過率曲線における波長600〜725nmの光の透過率の積分値T30(600−725)の差|T0(600−725)−T30(600−725)|が3%・nm以下である。
(3)波長450〜650nmの光の最大透過率で規格化した入射角0°の分光透過率曲線において、波長550〜750nmに透過率が80%となる波長λIRT(80)、50%となる波長λIRT(50)、および20%となる波長λIRT(20)を有し、かつ前記各波長λIRT(80)、λIRT(50)およびλIRT(20)が、それぞれ次式(a)、(b)および(c)を満たしている。
0≦λIRT(80)−λT(80)≦30nm …(a)
0≦λIRT(50)−λT(50)37nm …(b)
0≦λIRT(20)−λT(20)≦37nm …(c)
(式中、λT(80)、λT(50)およびλT(20)は比視感度曲線において比視感度がそれぞれ0.8、0.5および0.2を示す長波長側の波長である)
【請求項2】
要件(3)において、前記波長λIRT(80)、λIRT(50)およびλIRT(20)が、さらに次式(d)および(e)を満たしている請求項1に記載の近赤外線カットフィルタ。
(λIRT(80)−λT(80))/(λIRT(50)−λT(50))≦1.5 …(d)
(λIRT(20)−λT(20))/(λIRT(50)−λT(50))≦2.0 …(e)
【請求項3】
前記吸収層は下記(4)〜(6)の要件を満たす請求項1または2に記載の近赤外線カットフィルタ。
(4)波長500〜900nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長650〜900nmに吸収極大波長を有する。
(5)入射角0°の分光透過率曲線において、波長600〜800nmに少なくとも2つの透過率が10%となる波長を有し、前記透過率が10%となる波長のうち、最も長波長側の波長IR10(L)と最も短波長側の波長IR10(S)の差IR10(L)−IR10(S)が30〜70nmである。
(6)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620〜700nmの光の平均透過率T(620−700)と、495〜570nmの波長領域の平均透過率T(495−570)の比T(620−700)/T(495−570)が0.35以下である。
【請求項4】
前記吸収層は下記(5)´の要件をさらに満たす請求項3に記載の近赤外線カットフィルタ。
(5)´入射角0°の分光透過率曲線において、波長600〜800nmに少なくとも2つの透過率が1%となる波長を有し、前記透過率が1%となる波長のうち、最も長波長側の波長IR1(L)と最も短波長側の波長IR1(S)の差IR1(L)−IR1(S)が25〜50nmである。
【請求項5】
前記反射層は下記(7)の要件を満たす請求項1〜4のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
(7)入射角0°の分光透過率曲線において、波長420〜695nmの光の平均透過率が90%以上であり、かつ波長750〜1100nmの光の平均透過率が10%以下である。
【請求項6】
前記反射層は下記(8)の要件をさらに満たす請求項1〜5のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
(8)入射角0°の分光透過率曲線において、波長350〜400nmの光の平均透過率が10%以下である。
【請求項7】
下記(9)の要件をさらに満たす請求項1〜6のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
(9)入射角0°の分光透過率曲線において、波長750〜850nmの光の平均透過率が0.2%以下である。
【請求項8】
透明基材を有し、該透明基材の主面上に前記吸収層および前記反射層を備える請求項1〜7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項9】
前記透明基材の一方の主面上に前記吸収層を備え、前記透明基板の他方の主面上に前記反射層を備える請求項8に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項10】
前記吸収層上に反射防止層を備える請求項9に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項11】
前記吸収層上に前記反射層を備える請求項9に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項12】
前記透明基材の両主面上に前記吸収層と前記反射層とを備える請求項8に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項13】
前記透明基材は、樹脂またはガラスを含む請求項8〜12いずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項14】
前記透明基材は、吸収型のガラスを含む請求項13に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項15】
前記吸収層は、近赤外線吸収材を含む請求項1〜14のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項16】
前記近赤外線吸収材は、下記式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物を含む請求項15に記載の近赤外線カットフィルタ。
【化1】
式(F1)における記号は以下のとおりである。
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1〜10のアシルオキシ基、または−NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R(Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数6〜11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18のアルアリール基))を示し、
とR、RとR、およびRとR、のうち少なくとも一組は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成し、複素環を形成していない場合のRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基を示し、複素環を形成していない場合のRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
【請求項17】
前記吸収層は、透明樹脂を含み、該透明樹脂の質量に対して前記近赤外線吸収材を0.1〜30質量%含有する請求項15または16に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項18】
前記吸収層は、紫外線吸収材を含む請求項1〜17のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項19】
前記吸収層は、前記紫外線吸収材を含有する紫外線吸収層を含む請求項18に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項20】
前記吸収層は、透明樹脂を含み、該透明樹脂の質量に対して前記紫外線吸収材を0.01〜30質量%含有する請求項18または19に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項21】
前記紫外線吸収材は、下記式(M)で表される化合物を含む請求項18〜20のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【化3】
式(M)における記号は以下のとおりである。
Yは、QおよびQで置換されたメチレン基または酸素原子(ここで、QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基)を示し、
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を示し、
〜Qは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、
Zは、下記式(Z1)で表される2価の基を示す。
【化4】
(ここで、QおよびQは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を示す)
【請求項22】
前記吸収層は、波長350〜800nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長360〜415nmに吸収極大波長を有する請求項18〜21のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタを備えたことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線カットフィルタおよび撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ等の固体撮像素子を用いた撮像装置では、固体撮像素子の感度を人の視感度に近づけるため、固体撮像素子までの光路中に、可視光は透過するが、赤外光は遮蔽する近赤外線カットフィルタを一般に配置している。
【0003】
このような近赤外線カットフィルタとして、近赤光を吸収する色素を含有させた吸収層と、屈折率の異なる誘電体薄膜を積層し、光の干渉によって近赤外光を反射して遮蔽する反射層を組み合わせたフィルタが知られている。
しかしながら、このフィルタにおいて、反射層を構成する誘電体多層膜は、光の入射角によって各膜の光学膜厚が異なるため、分光特性に入射角依存性があり、入射角によって色再現性が異なってくるという問題がある。
【0004】
一方、特許文献1には、近赤外光を選択的に吸収するように、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラスにCuO等を添加した近赤外線吸収ガラスを用いたフィルタが開示されている。しかし、このフィルタにおいても、入射角依存性が認められ、入射角によって色再現性が異なるという問題は解消されない。
【0005】
また、特許文献2には、吸収層と誘電体多層膜からなる反射層を含む近赤外線カットフィルタにおいて、可視波長領域で90%を超える高い透過率を示し、赤外波長領域では5%以下という低い透過率を示す分光特性を有するものが開示されている。しかし、このフィルタは、例えば、透過率が50%となる波長が650nm付近であり、比視感度曲線を基準としたとき、長波長側の透過率が高いため、特に赤味の色再現性が高い精度で得られない問題がある。
【0006】
さらに、特許文献3には、同様に、吸収層と誘電体多層膜からなる反射層と、を含む近赤外線カットフィルタが開示されている。このフィルタは、特許文献2に記載のものに比べて、長波長側で比視感度曲線に近い分光特性を備えている。しかし、このフィルタの分光特性は、前述した入射角依存性が大きく、入射角によって色再現性が異なるという問題が依然としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4169545号公報
【特許文献2】特開2008−051985号公報
【特許文献3】特開2014−052482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来の近赤外線カットフィルタには、特に長波長側で比視感度曲線に近い分光特性を備えるものは少なく、また、そのような比視感度曲線に近い分光特性を備えたものであっても、分光特性に入射角依存性があるため、良好な色再現性を得ることができないという問題があった。
したがって、本発明は、特に長波長側で比視感度曲線に近い分光特性を示し、かつ入射角依存性が少なく斜入射特性に優れる近赤外線カットフィルタ、およびそのようなフィルタを用いた色再現性に優れる撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る近赤外線カットフィルタは、吸収層と、反射層とを備え、下記(1)〜(3)の要件を満たすことを特徴とする。
(1)入射角0°の分光透過率曲線において、620〜750nmの波長領域の平均透過率(R)が20%以下であり、495〜570nmの波長領域の平均透過率(G)が90%以上であり、かつ前記平均透過率の比(R)/(G)が0.20以下である。
(2)入射角0°の分光透過率曲線における600〜725nmの波長領域の透過率の積分値T0(600−725)と、入射角30°の分光透過率曲線における600〜725nmの波長領域の透過率の積分値T30(600−725)の差|T0(600−725)−T30(600−725)|が3%・nm以下である。
(3)450〜650nmの波長領域の最大透過率で規格化した入射角0°の分光透過率曲線において、550〜750nmの波長領域に透過率が80%となる波長λIRT(80)、50%となる波長λIRT(50)、および20%となる波長λIRT(20)を有し、かつ前記各波長λIRT(80)、λIRT(50)およびλIRT(20)が、それぞれ次式(a)、(b)および(c)を満たしている。
0≦λIRT(80)−λT(80)≦30nm …(a)
0≦λIRT(50)−λT(50)37nm …(b)
0≦λIRT(20)−λT(20)≦37nm …(c)
(式中、λT(80)、λT(50)およびλT(20)は比視感度曲線において比視感度がそれぞれ0.8、0.5および0.2を示す長波長側の波長である)。
また、本発明の他の態様に係る撮像装置は、上記近赤外線カットフィルタを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特に長波長側で比視感度曲線に近い分光特性を示し、かつその入射角依存性が少ない近赤外線カットフィルタを得ることができ、また、そのような近赤外線カットフィルタを用いた色再現性に優れる撮像装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】一実施形態のNIRフィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図1B】一実施形態のNIRフィルタの他の例を概略的に示す断面図である。
図1C】一実施形態のNIRフィルタの他の例を概略的に示す断面図である。
図1D】一実施形態のNIRフィルタの他の例を概略的に示す断面図である。
図1E】一実施形態のNIRフィルタの他の例を概略的に示す断面図である。
図2】一実施形態の撮像装置の一例を概略的に示す断面図である。
図3】実施例のNIRフィルタに用いた反射層の分光透過率曲線を示す図である。
図4】実施例で得られたNIRフィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書中、近赤外線カットフィルタを「NIRフィルタ」と略記することもある。
【0013】
<NIRフィルタ>
本発明の一実施形態のNIRフィルタ(以下、「本フィルタ」という)は、吸収層と反射層を有する。
吸収層と反射層は本フィルタの中にそれぞれ1層有してもよく、一方を2層以上有してもよく、両方を2層以上有してもよい。2層以上有する場合、各層は同じ構成でも異なってもよい。一例を挙げれば、吸収層を2層有する場合、一方の層を、後述するような近赤外線吸収色素を含む樹脂からなる近赤外線吸収層とし、もう一方の層を、後述するような紫外線吸収色素を含む樹脂からなる紫外線吸収層としてもよい。
また、本フィルタは、透明基材をさらに有してもよい。この場合、吸収層と反射層は、透明基材の同一主面上に有してもよく、異なる主面上に有してもよい。吸収層と反射層を同一主面上に有する場合、これらの積層順は特に限定されない。
本フィルタは、さらに反射防止層等の他の機能層を有してもよい。
【0014】
以下、本フィルタの構成例を、図面を用いて説明する。
【0015】
図1Aは、吸収層11および反射層12を備えた構成例である。
図1Bは、透明基材13の一方の主面に吸収層11を備え、透明基材13の他方の主面上に反射層12を備える構成例である。
なお、「透明基材13の一方の主面に、吸収層11、反射層12等の他の層を備える」とは、透明基材13に接触して他の層が備わる場合に限らず、透明基材13と他の層との間に、別の機能層が備わっている場合も含み、以下の構成も同様である。
【0016】
図1A、1Bにおいて、吸収層11は、近赤外線吸収層および紫外線吸収層の2層が含まれてもよい。図1Aにおいて、反射層12上に近赤外線吸収層を有し、近赤外線吸収層上に紫外線吸収層を有する構成でもよく、反射層12上に紫外線吸収層を有し、紫外線吸収層上に近赤外線吸収層を有する構成でもよい。
同様に、図1Bにおいて、透明基材13上に近赤外線吸収層を有し、近赤外線吸収層上に紫外線吸収層を有する構成でもよく、透明基材13上に紫外線吸収層を有し、紫外線吸収層上に近赤外線吸収層を有する構成でもよい。
【0017】
図1Cは、透明基材13の一方の主面に吸収層11を備え、他方の主面上および吸収層11の主面上に、反射層12aおよび12bを備えた構成例である。
図1Dは、透明基材11の両主面に吸収層11aおよび11bを備え、さらに吸収層11aおよび11bの主面上に、反射層12aおよび12bを備えた構成例である。
【0018】
図1Cおよび図1Dにおいて、組み合わせる2層の反射層12a、12bは、同一でも異なってもよい。例えば、反射層12a、12bは、紫外波長領域および近赤外波長領域を反射し、可視波長領域を透過する特性を有し、反射層12aが、紫外波長領域と第1の近赤外波長領域を反射し、反射層12bが、紫外波長領域と第2の近赤外波長領域を反射する構成でもよい。なお、近赤外波長領域のうち、第1の近赤外波長領域は、第2の近赤外波長領域よりも短波長側に位置するものとする。
【0019】
また、図1Dにおいて、2層の吸収層11aと11bは、同一でも異なってもよい。2層の吸収層11aと11bが異なる場合、吸収層11aが近赤外線吸収層、吸収層11bが紫外線吸収層でもよく、吸収層11aが紫外線吸収層、吸収層11bが近赤外線吸収層でもよい。
【0020】
図1Eは、図1Bに示すフィルタの吸収層11の主面上に、反射防止層14を備えた構成例である。図1Bに示すフィルタのように、吸収層が最表面の場合、吸収層上に反射防止層を設けるとよい。なお、反射防止層は、吸収層の最表面だけでなく、吸収層の側面全体も覆う構成でもよい。その場合、吸収層の防湿の効果を高めることができる。
【0021】
本フィルタは、下記(1)〜(3)の要件を満たす。
(1)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620〜750nmの光の平均透過率(R)が20%以下であり、波長495〜570nmの光の平均透過率(G)が90%以上であり、かつ前記平均透過率の比(R)/(G)が0.2以下である。
(2)入射角0°の分光透過率曲線における波長600〜725nmの光の透過率の積分値T0(600−725)と、入射角30°の分光透過率曲線における波長600〜725nmの光の透過率の積分値T30(600−725)の差|T0(600−725)−T30(600−725)|が3%・nm以下である。
(3)波長450〜650nmの光の最大透過率で規格化した入射角0°の分光透過率曲線(以下、「入射角0°の規格化分光透過率曲線」ともいう)において、波長550〜750nmで、透過率が80%となる波長λIRT(80)、50%となる波長λIRT(50)、および20%となる波長λIRT(20)を有し、かつ前記各波長λIRT(80)、λIRT(50)およびλIRT(20)が、それぞれ次式(a)、(b)および(c)を満たしている。
0≦λIRT(80)−λT(80)≦30nm …(a)
0≦λIRT(50)−λT(50)37nm …(b)
0≦λIRT(20)−λT(20)≦37nm …(c)
(式中、λT(80)、λT(50)およびλT(20)は比視感度曲線において比視感度がそれぞれ0.8、0.5および0.2を示す長波長側の波長である)
【0022】
要件(1)、(3)を満たすことで、比視感度曲線に近い分光曲線が得られ、余分な赤色が除かれた色味を再現することができる。
要件(2)を満たすことで、波長600〜725nmの光の入射角依存性を低くできる。その結果、入射角による色再現性の異なりを抑制できる。
【0023】
本明細書において「入射角0°の分光透過率曲線」は、光学フィルタの主面に垂直に入射する光の分光透過率曲線を、「入射角30°の分光透過率曲線」は、光学フィルタの主面に垂直な方向に対して30°の角度で入射する光の分光透過率曲線をいう。
【0024】
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長620〜750nmの光の平均透過率(R)が20%以下であればよく、19%以下が好ましく、17%以下がより好ましく、14%以下がさらに好ましい。波長620〜750nmの光の平均透過率(R)が低いほど、人の目の感度が低い赤色の透過率を低くできる。
【0025】
本フィルタは、入射角0°の分光透過率曲線において、波長495〜570nmの光の平均透過率(G)は90%以上であればよく、93%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。波長495〜570nmの光の平均透過率(G)が高いほど、人の目の感度が高い緑色の透過率を高くできる。
【0026】
本フィルタは、上記平均透過率の比(R)/(G)が、0.20以下であり、0.18以下が好ましく、0.15以下がより好ましい。(R)/(G)が小さいほど、緑色に対して赤色の透過率が低くなり、比視感度曲線に近い分光透過率曲線が得られる。
【0027】
本フィルタは、|T0(600−725)−T30(600−725)|が3%・nm以下であればよく、2%・nm以下が好ましく、1%・nm以下がより好ましい。なお、|T0(600−725)−T30(600−725)|は、波長600〜725nmにおける本フィルタの光の入射角依存性を示す指標である。この値が小さいほど入射角依存性が低いことを示す。
【0028】
本フィルタは、入射角0°の規格化分光透過率曲線において、波長λIRT(80)、波長λIRT(50)、および波長λIRT(20)が、波長550〜750nmにあればよく、波長580〜720nmにあれば好ましく、波長600〜700nmにあればより好ましい。λIRT(80)、λIRT(50)、およびλIRT(20)が、波長550〜750nmにあれば、比視感度曲線に近い分光透過率曲線が得られる。
【0029】
本フィルタは、λIRT(80)、λIRT(50)およびλIRT(20)各々式(a)、(b)および(c)を満たし、それぞれ次式を満たすことがより好ましい。
0≦λIRT(80)−λT(80)≦25nm
0≦λIRT(50)−λT(50)≦32nm
0≦λIRT(20)−λT(20)≦35nm
λIRT(80)−λT(80)、λIRT(50)−λT(50)およびλIRT(20)−λT(20)は、いずれもその値が小さいほど(ただし、0以上)、長波長側で人の視感度により近い分光特性を備えることができ、長波長側の色再現性の精度を高めることができる。
λIRT(80)−λT(80)、λIRT(50)−λT(50)およびλIRT(20)−λT(20)がそれぞれ0未満、すなわち、NIRフィルタの分光透過率が比視感度曲線の内側(比視感度曲線よりも短波長側)に入る場合、赤色が削られる形となり良好な色再現性が得られない。そのため、本フィルタは、比視感度曲線よりも短波長側に入らない程度に、比視感度曲線に近づけた規格化分光透過率曲線を実現できる。
上記λIRT(80)−λT(80)、λIRT(50)−λT(50)およびλIRT(20)−λT(20)は、その総和が、0〜102nmである。なお、分光特性を人の視感度により近づける観点から、該総和は、0〜92nmが好ましく、0〜80nmがより好ましい。また、(λIRT(80)−λT(80))/(λIRT(50)−λT(50))≦1.5、(λIRT(20)−λT(20))/(λIRT(50)−λT(50))≦2.0であると、分光特性を人の視感度により一層近づけることができ、さらに好ましい。
【0030】
本フィルタは、さらに下記(9)の要件を満たすことが好ましい。
(9)入射角0°の分光透過率曲線において、波長750〜850nmの光の平均透過率が0.2%以下である。
該波長領域の平均透過率が0.2%以下であれば、人間の目では感度が無いものの、固体撮像素子では感度を有する近赤外光を大きく遮断できるので、コントラストの高い画像が得られやすい。また、波長750〜850nmの光の平均透過率は、0.15%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
【0031】
以下、本フィルタを構成する透明基材、吸収層、反射層および反射防止層について説明する。
[透明基材]
透明基材の形状は特に限定されず、ブロック状、板状、フィルム状いずれでもよい。透明基材の厚さは、構成する材料にも依存するが、0.03〜5mmが好ましく、薄型化の点から、0.05〜1mmがより好ましい。
【0032】
透明基材は、可視光を透過すれば、構成材料は特に制限されない。例えば、ガラスや結晶等の無機材料や、樹脂等の有機材料が挙げられる。透明基材として無機材料を用いる場合は、光学フィルタとしての光学特性、機械特性等の長期にわたる信頼性に係る形状安定性の観点、フィルタ製造時のハンドリング性等の点で好ましく、この中でも、加工性の観点からは、ガラスが好ましい。また、透明基材として有機材料を用いる場合は、薄型化等の点から好ましい。
【0033】
透明基材に使用できる樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0034】
透明基材に使用できるガラスは、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。なお、「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiOで構成されるケイリン酸塩ガラスも含む。
また、透明基材に使用できる結晶材料は、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の複屈折性結晶が挙げられる。
透明基材に使用されるCuOを含有するガラスの具体的な組成例を記載する。
【0035】
(1)質量%表示で、P 46〜70%、AlF 0.2〜20%、LiF+NaF+KF0〜25%、MgF+CaF+SrF+BaF+PbF 1〜50%、ただし、F 0.5〜32%、O 26〜54%を含む基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuO:0.5〜7質量部を含むガラス。
【0036】
(2)質量%表示で、P 25〜60%、AlOF 1〜13%、MgO 1〜10%、CaO 1〜16%、BaO 1〜26%、SrO 0〜16%、ZnO 0〜16%、LiO 0〜13%、NaO 0〜10%、KO 0〜11%、CuO 1〜7%、ΣRO(R=Mg、Ca、Sr、Ba) 15〜40%、ΣR’O(R’=Li、Na、K) 3〜18%(ただし、39%モル量までのO2−イオンがFイオンで置換されている)からなるガラス。
【0037】
(3)質量%表示で、P 5〜45%、AlF 1〜35%、RF(RはLi、Na、K) 0〜40%、R’F(R’はMg、Ca、Sr、Ba、Pb、Zn) 10〜75%、R”F(R”はLa、Y、Cd、Si、B、Zr、Ta、mはR”の原子価に相当する数) 0〜15%(ただし、フッ化物総合計量の70%までを酸化物に置換可能)、およびCuO 0.2〜15%を含むガラス。
【0038】
(4)カチオン%表示で、P5+ 11〜43%、Al3+ 1〜29%、Rカチオン(Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、Znイオンの合量) 14〜50%、R’カチオン(Li、Na、Kイオンの合量) 0〜43%、R”カチオン(La、Y、Gd、Si、B、Zr、Taイオンの合量) 0〜8%、およびCu2+ 0.5〜13%を含み、さらにアニオン%でF 17〜80%を含有するガラス。
【0039】
(5)カチオン%表示で、P5+ 23〜41%、Al3+ 4〜16%、Li 11〜40%、Na 3〜13%、R2+(Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+の合量) 12〜53%、およびCu2+ 2.6〜4.7%を含み、さらにアニオン%でF 25〜48%、およびO2− 52〜75%を含むガラス。
【0040】
(6)質量%表示で、P 70〜85%、Al 8〜17%、B 1〜10%、LiO 0〜3%、NaO 0〜5%、KO 0〜5%、ただし、LiO+NaO+KO 0.1〜5%、SiO 0〜3%からなる基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuOを0.1〜5質量部含むガラス。
【0041】
市販品を例示すると、例えば、(1)のガラスとしては、NF−50E、NF−50EX、NF−50T、NF−50TX(旭硝子(株)製、商品名)等、(2)のガラスとしては、BG−60、BG−61(以上、ショット社製、商品名)等、(5)のガラスとしては、CD5000(HOYA(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0042】
上記したCuO含有ガラスは、金属酸化物をさらに含んでもよい。金属酸化物として、例えば、Fe、MoO、WO、CeO、Sb、V等の1種または2種以上を含有すると、CuO含有ガラスは紫外線吸収特性を有する。これらの金属酸化物の含有量は、上記CuO含有ガラス100質量部に対して、Fe、MoO、WOおよびCeOからなる群から選択される少なくとも1種を、Fe 0.6〜5質量部、MoO 0.5〜5質量部、WO 1〜6質量部、CeO 2.5〜6質量部、またはFeとSbの2種をFe 0.6〜5質量部+Sb 0.1〜5質量部、もしくはVとCeOの2種をV 0.01〜0.5質量部+CeO 1〜6質量部とすることが好ましい。
【0043】
透明基材の光学特性は、吸収層、反射層等を積層して得られるNIRフィルタとしたとき、本発明の光学特性を満足すればよい。
【0044】
透明基材は、その主面上に以下の吸収層を積層させるにあたって、その積層面にシランカップリング剤による表面処理を施してもよい。該表面処理が施された透明基材の使用により、吸収層との密着性を高められる。シランカップリング剤としては、例えば、以下の吸収層で用いるのと同じものを使用できる。
【0045】
[吸収層]
吸収層は、近赤外線吸収材(A)と、透明樹脂(B)とを含有する層であり、典型的には、透明樹脂(B)中に近赤外線吸収材(A)が均一に分散した層である。吸収層は、さらに紫外線吸収材(U)を含有することが好ましい。
吸収層は、例えば、近赤外線吸収材(A)を含む層と、紫外線吸収材(U)を含む層を別の層として複数の吸収層を設けるようにしてもよい。
【0046】
吸収層の厚さは、0.1〜100μmが好ましい。吸収層が複数の吸収層からなる場合、各吸収層の合計の厚さが0.1〜100μmとなることが好ましい。吸収層の厚さは、用途に応じ定められる。厚さが0.1μm未満では、所望の光学特性を十分に発現できないおそれがある。また、厚さが100μm超では平坦性が低下し、吸収率に面内バラツキが生じるおそれがある。吸収層の厚さは、0.3〜50μmがより好ましい。厚さが0.3〜50μmであれば、さらに十分な光学特性と層の平坦性を両立できる。
【0047】
本フィルタにおいては、典型的には、近赤外線吸収材(A)として近赤外線吸収色素が使用され、紫外線吸収材(U)として紫外線吸収色素が使用されるが、特にこれらに限定されない。以下、典型的に使用される近赤外線吸収色素、紫外線吸収色素を詳述する。
(近赤外線吸収色素(A))
近赤外線吸収色素(A)(以下、色素(A)ともいう)は、可視波長領域(450〜600nm)の光を透過し、近赤外波長領域(700〜1100nm)の光を吸収する能力を有すれば特に制限されない。色素は顔料、すなわち分子が凝集した状態でもよい。以下、近赤外線吸収色素を必要に応じて「NIR吸収色素」という。
【0048】
色素(A)は、この色素(A)が透明樹脂(B)中に分散して得られる樹脂膜を使用して測定される波長400〜900nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長650〜900nm内に吸収極大波長を発現するものが好ましく、波長650〜750nm内に吸収極大波長を発現するものがより好ましい。この吸収特性を有する近赤外線吸収色素を色素(A1)という。この吸収スペクトルにおける吸収極大波長を、色素(A1)のλmaxという。なお、色素(A1)の吸収スペクトルは、波長λmaxに吸収の頂点を有する吸収ピーク(以下、「λmaxの吸収ピーク」という)を有する。色素(A1)の吸収スペクトルは、波長650〜900nm内にλmaxを有することに加えて、可視光の吸収が少なく、λmaxの吸収ピークからみて可視光側の傾きが急峻であることが好ましい。さらに、λmaxの吸収ピークは長波長側(吸収ピークからみて可視光側とは反対側)では傾きは緩やかであることが好ましい。
【0049】
色素(A1)としては、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、スクアリリウム系化合物等が挙げられる。
【0050】
これらの中ではスクアリリウム系化合物、シアニン系化合物およびフタロシアニン系化合物がより好ましく、スクアリリウム系化合物が特に好ましい。スクアリリウム系化合物からなる色素(A1)は、上記吸収スペクトルにおいて、可視光の吸収が少なく、λmaxの吸収ピークが可視光側で急峻な傾きを有するとともに、保存安定性および光に対する安定性が高いため好ましい。シアニン系化合物からなる色素(A1)は、上記吸収スペクトルにおいて、可視光の吸収が少なく、λmax近傍において長波長側で光の吸収率が高いため好ましい。また、シアニン系化合物は、塩形成することにより長期の安定性も確保できる。フタロシアニン系化合物からなる色素(A1)は、耐熱性や耐候性に優れるため好ましい。
【0051】
スクアリリウム系化合物である色素(A1)は、具体的には、下記式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、式(F1)で示される化合物を化合物(F1)ともいう。他の化合物も同様である。
【0052】
化合物(F1)は、スクアリリウム骨格の左右にベンゼン環が結合し、さらにベンゼン環の4位に窒素原子が結合するとともに該窒素原子を含む飽和複素環が形成された構造を有するスクアリリウム系化合物であり、上記色素(A1)としての吸光特性を有する化合物である。化合物(F1)においては、近赤外線吸収層を形成する際に用いる溶媒(以下、「ホスト溶媒」ということもある。)や透明樹脂(B)への溶解性を高める等のその他の要求特性に応じて、以下の範囲でベンゼン環の置換基を適宜調整できる。
【0053】
【化1】
【0054】
式(F1)中の記号は以下のとおりである。
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1〜10のアシルオキシ基、または−NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R(Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数6〜11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18のアルアリール基))を示す。
【0055】
とR、RとR、およびRとR、のうち少なくとも一組は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、B、およびCを形成する。
【0056】
複素環Aが形成される場合のRとRは、これらが結合した2価の基−Q−として、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
【0057】
複素環Bが形成される場合のRとR、および複素環Cが形成される場合のRとRは、これらが結合したそれぞれ2価の基−X−Y−および−X−Y−(窒素に結合する側がXおよびX)として、XおよびXがそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、YおよびYがそれぞれ下記式(1y)〜(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。XおよびXが、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、YおよびYはそれぞれ単結合でもよい。
【0058】
【化2】
【0059】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または−NR2829(R28およびR29は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す)を示す。R21〜R26はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を、R27は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を示す。
【0060】
、R、R、R、R、R21〜R27、複素環を形成していない場合のR〜R、およびRは、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R21とR26、R21とR27は直接結合してもよい。
【0061】
複素環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
以下、複素環Aを単に環Aということもある。複素環B、Cについても同様である。
【0062】
化合物(F1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、上記の原子または基を示す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。RおよびRは、いずれか一方が水素原子であって、他方が−NRである組合せが好ましい。
【0063】
化合物(F1)が、環A〜環Cのうち、環Aのみ、環Bと環Cのみ、環A〜環Cをそれぞれ有する場合、−NRは、RとRのいずれに導入されてもよい。化合物(F1)が、環Bのみ、環Aと環Bのみをそれぞれ有する場合、−NRは、Rに導入されるのが好ましい。同様に、環Cのみ、環Aと環Cのみをそれぞれ有する場合、−NRは、Rに導入されるのが好ましい。
【0064】
−NRとしては、ホスト溶媒や透明樹脂(B)への溶解性の観点から、−NH−C(=O)−Rが好ましい。Rとしては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、または置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18のアルアリール基が好ましい。置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフロロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基等が挙げられる。
【0065】
としては、これらの中でも、フッ素原子で置換されてもよい直鎖状、分岐鎖状、環状の炭素数1〜17のアルキル基、炭素数1〜6のフロロアルキル基および/または炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基、および炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18の、末端に炭素数1〜6のフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基および/または炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基を有するアルアリール基から選ばれる基が好ましい。
【0066】
としては、独立して1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい、少なくとも1以上の分岐を有する炭素数5〜25の炭化水素基である基も好ましく使用できる。このようなRとしては、例えば、下記式(1a)、(1b)、(2a)〜(2e)、(3a)〜(3e)で示される基が挙げられる。
【0067】
【化3】
【化4】
【0068】
化合物(F1)において、RとR、RとR、およびRとRが、それぞれ互いに連結して形成される員数5または6の環A、環B、および環Cは、少なくともこれらのいずれか1個が形成されていればよく、2個または3個が形成されていてもよい。
【0069】
環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。置換基としては、水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基、および炭素数1〜3のアシルオキシ基が挙げられる。環を形成していない場合の、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。これらの中でも、R、R、R、Rとしては、ホスト溶媒や透明樹脂(B)への溶解性の観点から、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、2−プロピル基が特に好ましい。
【0070】
また、化合物(F1)において、スクアリリウム骨格の左右に結合するベンゼン環が有する基R〜Rは、左右で異なってもよいが、左右で同一が好ましい。
なお、化合物(F1)は、上記一般式(F1)で示される構造の共鳴構造を有する式(F1−1)で示される化合物(F1−1)を含む。
【0071】
【化5】
式(F1−1)中の記号は、上記式(F1)における規定と同じである。
【0072】
化合物(F1)として、より具体的には、環Bのみを環構造として有する式(F11)で示される化合物、環Aのみを環構造として有する式(F12)で示される化合物、環Bおよび環Cの2個を環構造として有する式(F13)で示される化合物が挙げられる。なお、式(F11)で示される化合物は、化合物(F1)において環Cのみを環構造として有しRが−NRである化合物と同じ化合物である。また、式(F11)で示される化合物および式(F13)で示される化合物は、米国特許第5,543,086号明細書に記載された化合物である。
【0073】
【化6】
式(F11)〜(F13)中の記号は、式(F1)における規定と同じであり、好ましい態様も同様である。
【0074】
化合物(F11)において、Xとしては、(2x)で示される水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいエチレン基が好ましい。この場合、置換基としては炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。Xとして、具体的には、−(CH−、−CH−C(CH−、−CH(CH)−C(CH−、−C(CH−C(CH−等が挙げられる。化合物(F11)における−NRとしては、−NH−C(=O)−CH、−NH−C(=O)−C13、−NH−C(=O)−C、−NH−C(=O)−CH(C)−C、−NH−C(=O)−C(CH−C、−NH−C(=O)−C(CH−C、−NH−C(=O)−C(CH−(CH−O−C(CH等が好ましい。
【0075】
化合物(F11)として、例えば、式(F11−1)〜(F11−7)でそれぞれ示される化合物等が挙げられる。これらの中でもホスト溶媒や透明樹脂(B)に対する溶解性が高いことから、化合物(F11−2)〜(F11−7)がより好ましい。
【0076】
【化7】
【0077】
【化8】
【0078】
化合物(F12)において、Qは、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアシルオキシ基に置換されてもよい炭素数4または5のアルキレン基、炭素数3または4のアルキレンオキシ基である。アルキレンオキシ基の場合の酸素の位置はNの隣以外が好ましい。Qとしては、炭素数1〜3のアルキル基、特にはメチル基に置換されてもよいブチレン基が好ましい。
【0079】
化合物(F12)において、−NRは、−NH−C(=O)−(CH−CH(mは、0〜19)、−NH−C(=O)−Ph−R10(−Ph−はフェニレン基を、R10は、水素原子、水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、または炭素数1〜3のアルコキシ基をそれぞれ示す。)等が好ましい。
【0080】
化合物(F12)は、そのλmaxが上記波長領域の中でも比較的長波長側にあることから、化合物(F12)を用いれば可視光の透過領域を広げられる。化合物(F12)として、式(F12−1)〜(F12−3)で示される化合物等が挙げられる。
【0081】
【化9】
【0082】
化合物(F13)において、XおよびXとしては、独立して(2x)で示される水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいエチレン基が好ましい。この場合、置換基としては炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。XおよびXとして、具体的には、−(CH−、−CH−C(CH−、−CH(CH)−C(CH−、−C(CH−C(CH−等が挙げられる。YおよびYとしては、独立して−CH−、−C(CH−、−CH(C)−、−CH((CHCH)−(mは0〜5)等が挙げられる。化合物(F13)において、−NRは、−NH−C(=O)−C2m+1(mは1〜20であり、C2m+1は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。)、−NH−C(=O)−Ph−R10(−Ph−はフェニレン基を、R10は、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜3のパーフロロアルキル基をそれぞれ示す。)等が好ましい。
化合物(F13)として、式(F13−1)、式(F13−2)でそれぞれ示される化合物等が挙げられる。
【0083】
【化10】
【0084】
また、色素(A1)として、式(F6)で示されるスクアリリウム系化合物も使用できる。式(F6)は、式(F1)において環A〜環Cのいずれも形成されていない化合物(ただし、R〜Rは以下のとおりである。)を示す。
【0085】
【化11】
【0086】
式(F6)中の記号は以下のとおりである。
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1〜10のアシルオキシ基、または−NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R(Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数6〜11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18のアルアリール基))を示す。
化合物(F6)として、式(F6−1)、式(F6−2)で示される化合物等が挙げられる。
【0087】
【化12】
【0088】
さらに、色素(A1)として、式(F7)で示されるスクアリリウム系化合物も使用できる。
【0089】
【化13】
【0090】
化合物(F11)、化合物(F12)、化合物(F13)等の化合物(F1)や、化合物(F6)、化合物(F7)は、従来公知の方法で製造可能である。化合物(F11−1)等の化合物(F11)は、例えば、米国特許第5,543,086号明細書に記載された方法で製造できる。また、化合物(F12)は、例えば、J.Org.Chem.2005,70(13),5164−5173に記載の方法で製造できる。
【0091】
スクアリリウム系化合物である色素(A1)は、市販品を用いてもよい。市販品としては、S2098、S2084(商品名、FEWケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0092】
シアニン系化合物である色素(A1)として、具体的には、式(F5)で示されるシアニン系化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0093】
【化14】
【0094】
式(F5)中の記号は以下のとおりである。R11は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基もしくはアルキルスルホン基、またはそのアニオン種を示す。R12およびR13は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。
【0095】
Zは、PF、ClO、R−SO、(R−SO−N(Rは少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基を示す。)、またはBFを示す。R14、R15、R16およびR17は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルキル基を示す。nは1〜6の整数を示す。
【0096】
化合物(F5)におけるR11としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、R12およびR13はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。R14、R15、R16およびR17は、それぞれ独立して、水素原子が好ましく、nの数は1〜4が好ましい。n個の繰り返し単位を挟んだ左右の構造は異なってもよいが、同一の構造が好ましい。
【0097】
化合物(F5)としては、式(F51)で示される化合物、式(F52)で示される化合物等が例示される。Zが示すアニオンは化合物(F5)におけるZと同様である。
【0098】
【化15】
【0099】
【化16】
【0100】
シアニン系化合物である色素(A1)は、市販品を用いてもよい。市販品としては、ADS680HO(商品名、American dye社製)、S0830(商品名、FEW Chemicals社製)、S2137(商品名、FEW Chemicals社製)等が挙げられる。
【0101】
また、色素(A1)として使用可能なフタロシアニン系化合物としては、FB22(商品名、山田化学工業(株)製)、TXEX720(商品名、(株)日本触媒製)、PC142c(商品名、山田化学工業(株)製)等の市販品が挙げられる。
【0102】
上に例示した色素(A1)として用いられる各化合物のλmaxを、測定時に使用した透明樹脂(B)の種類と共に表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
なお、上記において透明樹脂(B)として用いた、B−OKP2、バイロン(登録商標)103は、ポリエステル樹脂、SP3810はポリカーボネート樹脂、EA−F5003はアクリル樹脂であり、詳細は後述のとおりである。
【0105】
本実施形態は、上記色素(A1)の吸光特性を有する複数の化合物から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
色素(A)は、好ましくは色素(A1)の1種または2種以上を含有する。なお、色素(A)は、色素(A1)以外に、必要に応じてその他のNIR吸収色素を含有してもよい。色素(A)として複数のNIR吸収色素を用いる場合も、これらを透明樹脂(B)に分散して作製した樹脂膜に対して測定される波長400〜900nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長650〜900nm内に吸収極大波長を発現するようにNIR吸収色素を組合せて用いることが好ましく、波長650〜750nm内に吸収極大波長を発現するよう用いることがより好ましい。さらには、該吸収スペクトルにおいて、可視光の吸収が少なく、λmaxの吸収ピークからみて可視光側の傾きが急峻であり、長波長側(吸収ピークからみて可視光側とは反対側)では傾きは緩やかとなるように、NIR吸収色素を組合せて用いることが好ましい。
【0106】
吸収層中における色素(A)の含有量は、透明樹脂(B)の質量に対して、0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜25質量%がより好ましく、1〜20質量%がより好ましい。0.1質量%以上とすることで所望の近赤外線吸収能が得られ、30質量%以下とすることで、近赤外線吸収能の低下やヘイズ値の上昇等が抑制される。色素(A)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0107】
(紫外線吸収色素(U))
紫外線吸収色素(U)(以下、色素(U)ともいう。)は、波長430nm以下の光を吸収する化合物である。色素(U)としては、下記(iv−1)および(iv−2)の要件を満たす化合物が好ましい。
【0108】
(iv−1)ジクロロメタンに溶解して測定される波長350〜800nmの光吸収スペクトルにおいて、波長415nm以下に、少なくとも一つの吸収極大波長を有し、波長415nm以下における吸収極大のうち、最も長波長側の吸収極大波長λmax(UV)は、波長360〜415nmにある。
(iv−2)ジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、前記吸収極大波長λmax(UV)における透過率を10%としたとき、前記吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が90%となる波長λL90と、前記吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が50%となる波長λL50との差λL90−λL50が13nm以下である。
【0109】
(iv−1)の要件を満たす色素(U)の吸収極大波長は、透明樹脂中においても大きく変化しない。すなわち、(iv−1)を満たす色素(U)は、該色素(U)を透明樹脂に溶解または分散した場合にも、樹脂中吸収スペクトルにおける吸収極大波長λmax・P(UV)が概ね波長360〜415nm内に存在するため、好ましい。
【0110】
(iv−2)の要件を満たす色素(U)は、透明樹脂に含まれる場合にも優れた急峻性を示す。すなわち、(iv−2)を満たす色素(U)は、該色素(U)を、透明樹脂に溶解または分散した場合にも、吸収極大波長λmax(UV)より長波長で透過率が50%となる波長λP50と透過率90%となる波長λP90の差(λP90−λP50)が概ね14nm以下となり、ジクロロメタン中と同等の急峻性を示し、好ましい。なお、色素(U)を透明樹脂に溶解または分散した場合の、λP90−λP50は13nm以下がより好ましく、12nm以下がより一層好ましい。
【0111】
(iv−1)の要件を満たす色素(U)を使用すれば、透明樹脂中に溶解または分散して近赤外線吸収層として得られる実施形態のNIRフィルタの波長λ(UV)と波長λ30(UV)を、いずれも波長450nmより短い波長領域、好ましくは波長400〜425nmに存在させることができる。
(iv−2)の要件を満たす色素(U)を使用すれば、透明樹脂中に溶解または分散して近赤外線吸収層として得られる実施形態のNIRフィルタにおいて、色素(U)による吸収極大波長の長波長側での透過率が50%となる波長と透過率が90%となる波長の差を小さくできる。すなわち、該波長領域において、分光透過率曲線の変化を急峻にできる。
【0112】
(iv−1)および(iv−2)を満たす色素(U1)を使用すれば、実施形態のNIRフィルタにおいて、波長450nmより短い領域、好ましくは波長400〜425nmに波長λ(UV)と波長λ30(UV)を存在させやすく、かつ波長450nmより短い領域における分光透過率曲線の急峻な変化が得られやすい。
【0113】
本明細書において、色素(U)を、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350〜800nmの光の吸収スペクトルを「色素(U)の吸収スペクトル」ともいう。
色素(U)の吸収スペクトルにおける吸収極大波長λmax(UV)を「色素(U)のλmax(UV)」という。
色素(U)を、ジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線を「色素(U)の分光透過率曲線」という。
色素(U)の分光透過率曲線において、色素(U)のλmax(UV)における透過率が10%となる量で含有したときに、色素(U)のλmax(UV)より長波長で透過率が90%となる波長を「λL90」といい、色素(U)のλmax(UV)より長波長で透過率が50%となる波長を「λL50」という。
【0114】
また、本明細書において、色素(U)を、透明樹脂(B)に溶解して作製される吸収層の、測定される波長350〜800nmの光の吸収スペクトルを「色素(U)の樹脂中吸収スペクトル」ともいう。
色素(U)の樹脂中吸収スペクトルにおける吸収極大波長λmax・P(UV)を「色素(U)のλmax・P(UV)」という。
色素(U)を、透明樹脂に溶解して作製される吸収層の測定される分光透過率曲線を「色素(U)の樹脂中分光透過率曲線」という。
色素(U)の樹脂中分光透過率曲線において、色素(U)のλmax・P(UV)における透過率が10%となる量で含有したときに、色素(U)のλmax・P(UV)より長波長で透過率が90%となる波長を「λP90」といい、色素(U)のλmax・P(UV)より長波長で透過率が50%となる波長を「λP50」という。
【0115】
色素(U)の波長λmax(UV)は、波長365〜415nmにあることが好ましく、波長370〜410nmにあることがより好ましい。色素(U)の波長λmax(UV)がこの波長領域にあることで上述した効果、すなわち、波長400〜425nmにおいて、分光透過率曲線の急峻な変化が得られやすい。
また、色素(U)のλL90とλL50の差(λL90−λL50)は、12nm以下が好ましく、11nm以下がより好ましく、9nm以下がより一層好ましい。λL90−λL50がこの波長領域にあることで上述した効果が得られやすい。
【0116】
上記要件(iv−1)および(iv−2)を満たす色素(U1)の具体例としては、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等の色素が挙げられる。
【0117】
市販品としては、例えば、オキサゾール系として、Uvitex(登録商標)OB(Ciba社製 商品名)、Hakkol(登録商標) RF−K(昭和化学工業(株)製 商品名)、Nikkafluor EFS、Nikkafluor SB−conc(以上、いずれも日本化学工業(株)製 商品名)等が挙げられる。メロシアニン系として、S0511(Few Chemicals社製 商品名)等が挙げられる。シアニン系として、SMP370、SMP416(以上、いずれも(株)林原製 商品名)等が挙げられる。ナフタルイミド系として、Lumogen(登録商標)F violet570(BASF社製 商品名)等が挙げられる。
【0118】
色素(U1)として、下記一般式(N)で示される色素も挙げられる。本明細書中、特に断らない限り、式(N)で表される色素を色素(N)と記し、他式の色素も同様に記す。また、式(1n)で表される基を基(1n)と記し、他式の基も同様に記す。
【0119】
【化17】
【0120】
式(N)中、R18は、それぞれ独立に、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。具体的には、直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基、飽和環状炭化水素基、アリール基、アルアリール基等が挙げられる。また、式(N)中、R19は、それぞれ独立に、シアノ基、または下記式(n)で示される基である。
−COOR30 …(n)
式(n)中、R30は、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。具体的には、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基、アルケニル基、飽和環状炭化水素基、アリール基、アルアリール基等が挙げられる。
【0121】
色素(N)中のR18は、式(1n)〜(4n)で示される基が中でも好ましい。また、色素(N)中のR19は、下記式(5n)で示される基が中でも好ましい。
【0122】
【化18】
【0123】
色素(N)の具体例としては、表2に示す構成の色素(N−1)〜(N−4)が例示できる。なお、表2におけるR18およびR19の具体的な構造は、式(1n)〜(5n)に対応する。表2には対応する色素略号も示した。なお、色素(N−1)〜(N−4)において、2個存在するR18は同じであり、R19も同様である。
【0124】
【表2】
【0125】
以上例示した色素(U1)の中でも、オキサゾール系、メロシアニン系の色素が好ましく、その市販品としては、例えば、Uvitex(登録商標)OB、Hakkol(登録商標) RF−K、S0511が挙げられる。
【0126】
(メロシアニン系色素)
色素(U1)としては、特に、下記一般式(M)で示されるメロシアニン系色素が好ましい。
【0127】
【化19】
式(M)中、Yは、QおよびQで置換されたメチレン基または酸素原子を示す。ここで、QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。QおよびQは、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子であるか、少なくとも一方が水素原子で他方が炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。特に好ましくは、QおよびQはいずれも水素原子である。
【0128】
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。置換基を有しない1価の炭化水素基としては、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3〜8のシクロアルキル基、および水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
が無置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状でも、分岐状でもよく、その炭素数は1〜6がより好ましい。
【0129】
水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数3〜6のシクロアルキル基を有する炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3−ブテニル基等をいう。置換基を有する炭化水素基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子を1個以上有する炭化水素基が好ましい。これらアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1〜6が好ましい。
【0130】
好ましいQは、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。特に好ましいQは炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0131】
〜Qは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。
およびQは、少なくとも一方が、アルキル基が好ましく、いずれもアルキル基がより好ましい。QまたはQがアルキル基でない場合は、水素原子がより好ましい。QおよびQは、いずれも炭素数1〜6のアルキル基が特に好ましい。
およびQは、少なくとも一方が、水素原子が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。QまたはQが水素原子でない場合、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0132】
Zは、式(Z1)〜(Z5)で表される2価の基のいずれかを表す。
【化20】
【0133】
式(Z1)〜(Z5)において、QおよびQは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。QおよびQは、異なる基でもよいが、同一の基が好ましい。
【0134】
置換基を有しない1価の炭化水素基としては、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3〜8のシクロアルキル基、および、水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0135】
およびQが無置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状、分岐状でもよく、その炭素数は1〜6がより好ましい。水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数3〜6のシクロアルキル基を有する炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3−ブテニル基等をいう。
【0136】
置換基を有する1価の炭化水素基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子を1個以上有する炭化水素基が好ましい。これらアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1〜6が好ましい。
【0137】
好ましいQおよびQは、いずれも、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。特に好ましいQおよびQは、いずれも、炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0138】
10〜Q19は、それぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基は、前記Q、Qと同様の炭化水素基である。置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基としては、置換基を有しない炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0139】
10とQ11は、いずれも、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、それらは同一のアルキル基が特に好ましい。Q12、Q15は、いずれも水素原子であるか、置換基を有しない炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。同じ炭素原子に結合した2つの基(Q13とQ14、Q16とQ17、Q18とQ19)は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0140】
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物、および、YがQおよびQで置換されたメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物が好ましい。Yが酸素原子である場合のZとしては、Qが炭素数1〜6のアルキル基、QとQがいずれも水素原子であるかいずれも炭素数炭素数1〜6のアルキル基、Q、Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z2)がより好ましい。特に、Qが炭素数1〜6のアルキル基、QとQがいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q、Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z2)が好ましい。
【0141】
YがQおよびQで置換されたメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物としては、Qが炭素数1〜6のアルキル基、QとQがいずれも水素原子であるかいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q〜Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z5)が好ましく、Qが炭素数1〜6のアルキル基、Q〜Qがいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z5)がより好ましい。式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物が好ましく、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)である化合物が特に好ましい。
【0142】
色素(M)の具体例としては、式(M−1)〜(M−11)で表される化合物が挙げられる。
【化21】
【0143】
【化22】
【0144】
また、色素(U1)として、Exiton社製のABS407、QCR Solutions Corp.社製のUV381A、UV381B、UV382A、UV386A、VIS404A、HW Sand社製のADA1225、ADA3209、ADA3216、ADA3217、ADA3218、ADA3230、ADA5205、ADA2055、ADA6798、ADA3102、ADA3204、ADA3210、ADA2041、ADA3201、ADA3202、ADA3215、ADA3219、ADA3225、ADA3232、ADA4160、ADA5278、ADA5762、ADA6826、ADA7226、ADA4634、ADA3213、ADA3227、ADA5922、ADA5950、ADA6752、ADA7130、ADA8212、ADA2984、ADA2999、ADA3220、ADA3228、ADA3235、ADA3240、ADA3211、ADA3221、ADA5220、ADA7158、CRYSTALYN社製のDLS381B、DLS381C、DLS382A、DLS386A、DLS404A、DLS405A、DLS405C、DLS403A等を用いてもよい。
【0145】
本実施形態においては、色素(U1)として、上記色素(U1)としての吸光特性を有する複数の化合物から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0146】
色素(U)は、好ましくは色素(U1)の1種または2種以上を含有する。なお、色素(U)は、色素(U1)以外に、色素(U1)による効果を損なわない範囲で必要に応じてその他の紫外線吸収色素を含有してもよい。
【0147】
吸収層中における色素(U)の含有量は、本フィルタの入射角0°の分光透過率曲線の波長400〜425nmに透過率が50%となる波長を有するように定めることが好ましい。色素(U)は、吸収層中において、透明樹脂の質量に対して、0.01〜30質量%含有されるのが好ましく、0.05〜25質量%がより好ましく、0.1〜20質量%がより一層好ましい。
【0148】
(透明樹脂(B))
透明樹脂(B)は、屈折率が、1.45以上が好ましい。屈折率は1.5以上がより好ましく、1.6以上が特に好ましい。透明樹脂(B)の屈折率の上限は特にないが、入手のしやすさ等から1.72程度が好ましい。本明細書において屈折率とは、特に断らない限り、20℃において波長589nmにおける屈折率をいう。
【0149】
透明樹脂(B)は、具体的に、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、およびポリエステル樹脂が挙げられる。透明樹脂(B)は、これらの樹脂から1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0150】
上記の中でも、色素(A)や色素(U)の透明樹脂(B)に対する溶解性の観点から、透明樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、および環状オレフィン樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。透明樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、および環状オレフィン樹脂から選ばれる1種以上がより好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等が好ましい。
【0151】
透明樹脂(B)の屈折率は、例えば、ポリマーの主鎖や側鎖に特定の構造を有するように、原料成分の分子構造を調整することで、上記範囲に調整できる。屈折率を上記範囲に調整するためにポリマー内に有する構造としては、例えば、下記式(B1)および(B2)で示されるフルオレン骨格が挙げられる。
【化23】
【0152】
透明樹脂(B)としては、市販品を用いてもよい。アクリル樹脂の市販品としては、オグソール(登録商標)EA−F5003(商品名、大阪ガスケミカル(株)製、屈折率:1.59)を硬化させた樹脂が挙げられる。また、既にポリマーとして購入可能なアクリル樹脂として、例えば、東京化成工業(株)製のポリメチルメタクリレート(屈折率:1.49)、ポリイソブチルメタクリレート(屈折率:1.48)が挙げられる。
【0153】
また、透明樹脂のガラス転移温度(Tg)は、0〜380℃が好ましく、40〜370℃がより好ましく、100〜360℃がさらに好ましく、200〜360℃がより一層好ましい。透明樹脂のTgが上記範囲内であれば、熱による劣化や変形を抑制できる。これらの中でも、Tgが高い樹脂は、色素の熱運動を抑制でき、さらに樹脂自体の熱膨張を抑制できるので、樹脂(吸収層)上に誘電体多層膜を備える場合、クラック等の発生による外観不良を低減できる。Tgが100〜360℃である樹脂は、前述のフルオレン骨格が導入されたポリエステル樹脂等が挙げられる。Tgが200〜360℃である樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリルエーテル樹脂等が挙げられる。
【0154】
また、ポリエステル樹脂の市販品としては、大阪ガスケミカル(株)製のOKPH4HT(屈折率:1.64)、OKPH4(屈折率:1.61)、B−OKP2(屈折率:1.63)、OKP850(屈折率:1.64)やバイロン(登録商標)103(東洋紡(株)製、屈折率:1.58)が挙げられる。ポリカーボネート樹脂の市販品としては、SP3810(帝人化成(株)製、屈折率:1.64)、LeXan(登録商標)ML9103(sabic社製、屈折率1.59)が挙げられる。ポリマーアロイとしてはポリカーボネートとポリエステルのアロイであるパンライト(登録商標)AM−8シリーズ(帝人化成(株)製)やxylex(登録商標)7507(sabic社製)が挙げられる。ポリイミド樹脂の市販品としては、三菱ガス化学(株)製のC3630(屈折率:1.59)、C3450(屈折率:1.62)が挙げられる。
【0155】
(その他の成分)
吸収層には、上述の色素(A)および色素(U)の他にさらに、本発明の効果を損なわない範囲で、この種の吸収層が通常含有する各種任意成分を含有してもよい。任意成分としては、例えば、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。
(吸収層)
吸収層は、例えば、色素(A)と、色素(U)と、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを透明基材に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させることにより形成できる。
【0156】
色素(A)、色素(U)、透明樹脂(B)等を溶解または分散するための溶媒は、これらの原料成分、必要に応じて配合される各成分を、安定に分散できる分散媒または溶解できれば、特に限定されない。なお、本明細書において「溶媒」の用語は、分散媒および溶媒の両方を含む概念で用いられる。溶媒としては、例えば、ジアセトンアルコール、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、トリデシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレンアルコール、グリセリン等のグリコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、イソホロン、ジアセトンアルコール等のケトン類、1−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、スルホキシド類、エーテル類、エステル類、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロルエチレン、四塩化炭素、トリクロルエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類、芳香族、脂肪族炭化水素類、フッ素系溶剤等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で、または2種以上を混合して使用できる。
【0157】
上記溶媒に透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分を溶解させた時の濃度は、塗工液全量に対して2〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましい。
【0158】
塗工液には、界面活性剤を含有できる。界面活性剤の含有により、外観、特に、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじきを改善できる。界面活性剤は、特に限定されず、カチオン系、アニオン系、ノニオン系等を任意に使用できる。
【0159】
塗工液中の透明樹脂(B)、色素(A)、色素(U)等の固形分濃度は、一般には、10〜60質量%である。固形分濃度が低すぎると、塗工ムラが生じやすくなる。逆に、固形分濃度が高すぎると、塗工外観が不良となりやすくなる。
【0160】
塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、インクジェット法、またはコンマコーター法等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
【0161】
上記塗工液を透明基材上に塗工後、乾燥により吸収層が形成される。乾燥には、熱乾燥、熱風乾燥等を使用できる。塗工液が透明樹脂の原料成分を含有する場合、さらに硬化処理を行う。反応が熱硬化の場合は乾燥と硬化を同時に実施できるが、光硬化の場合は、乾燥と別に硬化工程を設ける。
【0162】
なお、上記塗工液を透明基材とは別の剥離性の支持基材上に塗工して形成した吸収層を、支持基材から剥離して透明基材上に貼着してもよい。剥離性の支持基材は、剥離性を有すれば、その形状、材料も特に限定されない。具体的に、ガラス板や、離型処理されたプラスチックフィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等からなるフィルム、ステンレス鋼板等が使用される。
【0163】
また、吸収層は、透明樹脂の種類によっては、押出成形によりフィルム状に製造でき、さらに、製造した複数のフィルムを積層し熱圧着等により一体化させてもよい。これらを、その後、透明基材上に貼着する。
【0164】
なお、塗工液の塗工にあたって、透明基材(または剥離性の基材)に前処理を施すこともできる。前処理剤としては、アミノシラン類、エポキシシラン類、ビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、(3−ウレイドプロピル)トリメトキシシラン等を使用できる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0165】
吸収層は、下記(4)、(5)、(6)の要件を満たすことが好ましい。また、下記(4)、(5)´、(6)の要件を満たすことがより好ましい。
(4)500〜900nmの波長領域の吸収スペクトルにおいて、波長650〜900nmに吸収極大波長を有する。また、波長650〜750nmに吸収極大波長を有することがより好ましく、波長680〜720nmに吸収極大波長を有することがさらに好ましい。
(5)入射角0°の分光透過率曲線において、波長600〜800nmに少なくとも2つ、透過率が10%となる波長を有し、該透過率が10%となる波長のうち、最も長波長側の波長IR10(L)と最も短波長側の波長IR10(S)の差、IR10(L)−IR10(S)が30〜70nmである。この差は、好ましくは35〜70nmであり、より好ましくは35〜65nmである。
上記差が30nm未満であれば、反射層による入射角による分光透過率曲線の変化により、本フィルタにおいても入射角による分光透過率曲線の変化が発生するおそれがある。一方、上記差が70nm超であれば、吸収スペクトルがブロードになり、本フィルタの分光透過率曲線が、比視感度曲線よりも大きくずれてしまい、赤味の色再現性が高い精度で得られなくなるおそれがある。
(5)´入射角0°の分光透過率曲線において、波長600〜800nmに少なくとも2つ、透過率が1%となる波長を有し、前記透過率が1%となる波長のうち、最も長波長側の波長IR1(L)と最も短波長側の波長IR1(S)の差、IR1(L)−IR1(S)が25〜50nmである。この差は、好ましくは30〜45nmであり、より好ましくは33〜40nmである。
上記差が25nm未満であれば、反射層による入射角による分光透過率曲線の変化により、本フィルタにおいても入射角による分光透過率曲線の変化が発生するおそれがある。一方、上記差が50nm超であれば、吸収スペクトルがブロードになり、本フィルタの分光透過率曲線が、比視感度曲線よりも大きくずれてしまい、赤味の色再現性が高い精度で得られなくなるおそれがある。
(6)入射角0°の分光透過率曲線において、波長620〜700nmの光の平均透過率T(620−700)と、波長495〜570nmの光の平均透過率T(495−570)の比T(620−700)/T(495−570)が0.35以下である。比T(620−700)/T(495−570)は、好ましくは0.30以下であり、より好ましくは0.28以下である。
吸収層が上記(4)、(5)、(6)の要件を満たせば、本フィルタは、(1)〜(3)の要件を満たす分光特性が容易に得られる。
【0166】
また、吸収層が(4)、(5)、(6)の要件を満たす場合、該吸収層がCuOを含有する吸収型ガラス上に備えることで、光学フィルタとして、近赤外波長領域における高い光吸収性が得られる。吸収型ガラスを用いる光学フィルタは、(4)、(5)´、(6)の要件を満たす吸収層を備えるとより好ましい。
【0167】
[反射層]
反射層は、低屈折率の誘電体膜(低誘電体膜)と高屈折率の誘電体膜(高誘電体膜)とを交互に積層した誘電体多層膜から構成される場合が多い。ここで、低屈折率と高屈折率とは、隣接する層の屈折率に対して低い屈折率と高い屈折率を有することを意味する。高誘電体膜は、好ましくは、屈折率が1.6以上であり、より好ましくは2.2〜2.5である。高誘電体膜材料としては、例えばTa、TiO、Nbが挙げられる。このうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiOが好ましい。一方、低誘電体膜は、好ましくは、屈折率1.6未満であり、より好ましくは1.45以上1.55未満であり、より一層好ましくは1.45〜1.47である。低誘電体膜材料としては、例えばSiO、SiO等が挙げられる。成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiOが好ましい。
【0168】
反射層は、光の干渉を利用して特定の波長領域の光の透過と遮蔽を制御する機能を発現し、その透過・遮蔽特性には入射角依存性がある。一般的には、反射により遮蔽する光の波長は、垂直に入射する光(入射角0°)より、斜めに入射する光の方が短波長になる。
【0169】
本実施形態において、反射層を構成する誘電体多層膜は、下記(7)の要件を満たすことが好ましい。
(7)入射角0°の分光透過率曲線において、波長420〜695nmの光の平均透過率が90%以上であり、かつ波長750〜1100nmの光の平均透過率が10%以下である。波長420〜695nmの光の平均透過率は、93%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。また、波長750〜1100nmの光の平均透過率は、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
反射層が(7)の要件を満たせば、本フィルタは、(1)〜(3)の要件を満たす分光特性が容易に得られる。
【0170】
また、反射層は、さらに(8)の要件を満たすことが好ましい。
(8)入射角0°の分光透過率曲線において、波長350〜400nmの光の平均透過率が10%以下である。波長350〜400nmの光の平均透過率は、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
反射層が、(8)の要件を満たすことで、紫外波長領域の光に対してもカット性を備えたフィルタが得られる。また、本フィルタは、要件(7)を満たすと、要件(9)も満たされる。
【0171】
さらに、反射層は、透過光波長と遮光波長の境界波長領域で透過率が急峻に変化すると好ましい。この目的のため、反射層を構成する誘電体多層膜は、低屈折率膜と高屈折率膜との合計積層数として15層以上が好ましく、25層以上がより好ましく、30層以上がさらに好ましい。ただし、合計積層数が多くなると、誘電体多層膜の反り等が発生する。また、誘電体多層膜は、100層以下が好ましく、75層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。
【0172】
誘電体多層膜の膜厚としては、上記好ましい積層数を満たした上で、光学フィルタの薄型化の観点からは、薄い方が好ましい。このような誘電体多層膜の膜厚としては、選択波長遮蔽特性によるが、2〜10μmが好ましい。
【0173】
誘電体多層膜の形成にあたっては、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0174】
なお、反射層は、単層(一群の誘電体多層膜)で所定の反射特性を有してもよく、複数層で所定の反射特性を有してもよい。複数層設ける場合、例えば、透明基材の一方の側に設けてもよく、透明基材を挟んでその両側に設けてもよい。
【0175】
なお、本明細書において、特定の波長領域の透過率について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らないことをいい、同様に透過率が例えば2%以下とは、その全波長領域において透過率が2%を超えないことをいう。
【0176】
[反射防止層]
反射防止層としては、誘電体多層膜や中間屈折率媒体、屈折率が漸次的に変化するモスアイ構造などが挙げられる。なかでも光学的効率、生産性の観点から誘電体多層膜の使用が好ましい。反射防止層に用いられる誘電体多層膜は、反射層に使用される誘電体多層膜と同様に低屈折率膜と高屈折率膜を交互に積層して得られる。
【0177】
本フィルタの構成は、吸収層および反射層を有する以外は特に制限されず、他の構成要素を加えられる。他の構成要素としては、例えば、特定の波長領域の光の透過と吸収を制御する無機微粒子等が挙げられる。無機微粒子の具体例としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタン等が挙げられる。ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域も含めた広範囲の光吸収性を有するため、かかる赤外光の遮蔽性を必要とする場合に好ましい。
また、本フィルタは、撮像装置の固体撮像素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着しても使用できる。
【0178】
本発明のNIRフィルタは、デジタルスチルカメラ等の固体撮像装置において好適に用いられ、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置される。
【0179】
<撮像装置>
以下に図2を参照しながら、本発明の固体撮像装置20の一例を説明する。
本実施形態の撮像装置20は固体撮像素子21と、本発明の近赤外線カットフィルタ22と、撮像レンズ23と、これらを収容する筺体24とを有する。撮像レンズ23は、筐体24の内側にさらに設けられたレンズユニット25により固定されている。固体撮像素子21と、撮像レンズ23は、光軸xに沿って配置されている。撮像レンズ23は、固体撮像素子21は、撮像レンズ23を通過した光を電気信号に変換する電子部品であり、具体的にはCCDやCMOS等が使用される。
そして、図面の例では、近赤外線カットフィルタ22として、図1Eに示す近赤外線カットフィルタが使用され、その反射層12側を固体撮像素子21側に向けて配置されている。
【0180】
このように構成される撮像装置20においては、撮像レンズ23を通って入射した光は、近赤外線カットフィルタ22を通って固体撮像素子21に受光され、この受光した光を固体撮像素子21が電気信号に変換し、画像信号として出力される。近赤外カット線フィルタ22として、斜入射特性に優れ、かつ比視感度曲線に特に長波長側で極めて近似した分光特性を示す光学フィルタが使用されるため、撮像装置20は、色再現性に著しく優れた高品質の撮影画像が得られる。
【0181】
なお、図2に示す撮像装置20では、近赤外線カットフィルタ22は撮像レンズ23と固体撮像素子21の間に配置されているが、固体撮像素子21の前面であれば、その配置位置は特に限定されない。また、撮像装置20では、撮像レンズ23は1個のレンズのみで構成されているが、複数のレンズの組み合わせでもよい。
【実施例】
【0182】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。例1〜5、9が本発明の実施例であり、例6〜8が比較例である。
【0183】
(例1)
厚さ0.3mmのガラス(無アルカリガラス;旭硝子(株)製、商品名:AN100)基板に蒸着法により、高屈折率膜であるTiO膜と低屈折率膜であるSiO膜を交互に積層して、誘電体多層膜52層からなる反射層を形成した。反射層の構成は、誘電体多層膜の積層数、TiO膜の膜厚およびSiO膜の膜厚をパラメータとしてシミュレーションし、入射角0°の分光透過率曲線において、波長350〜400nmの光の透過率が10%以下、波長420〜695nmの光の透過率が90%以上、波長750〜1100nmの光の透過率が10%以下となるように求めたものである。図3に、上記設計をもとに作製した反射層の分光透過率曲線(入射角0°および30°)を示す。
また、ポリエステル樹脂(大阪ガスケミカル(株)製 商品名:OKP850;屈折率1.64)の18質量%シクロヘキサノン溶液に、シランカップリング剤として1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]ウレアをポリエステル樹脂の質量に対して3質量%となる割合で添加し溶解させた。さらに、この樹脂溶液に、NIR吸収色素(化合物F11−7)を、ポリエステル樹脂の質量に対して9質量%となる割合で添加し溶解させて、吸収層を形成するための塗工液を調製した。
この塗工液を、反射層を形成した上記ガラス基板の反射層形成面とは反対側の面に、スピンコート法により塗布し、大気圧下、90℃で5分間、次いで150℃で1時間加熱して、厚さ1μmの吸収層を形成した。
この後、吸収層の表面に、反射層と同様、蒸着法により、TiO膜とSiO膜を交互に積層して反射防止層を形成し、近赤外線カットフィルタを得た。
なお、反射防止層の構成もまた、誘電体多層膜の積層数、TiO膜の膜厚およびSiO膜の膜厚をパラメータとして、所望の光学特性を有するようにシミュレーションして決定した。
【0184】
(例2〜8)
吸収層を形成するための塗工液に添加するNIR吸収色素の種類および/または添加量を表3に示すように変え、さらに例5、例6については、NIR吸収色素に加え、UV吸収色素を表3に示す割合で添加した以外は例1と同様にして、NIRフィルタを製造した。
【0185】
(例9)
ガラス基板をフツリン酸ガラス(旭硝子(株)製、商品名:NF−50T、0.25mm厚)基板とし、吸収層を形成するための塗工液に使用する透明樹脂、NIR吸収色素およびUV吸収色素の種類および/または添加量を、表3に示すようにした以外は例1と同様にして、NIRフィルタを製造した。
【0186】
(吸収層の分光特性)
上記NIRフィルタの製造とは別に、ガラス基板上に、上記各例で調製した吸収層形成用の塗工液をスピンコート法により塗布し、大気圧下、90℃で5分間、次いで150℃で1時間加熱して、厚さ1μmの吸収層を形成した。
形成された各吸収層の分光透過率曲線を、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、型名:U−4100)を用いて大気をバックグラウンドとして測定し、その測定結果から各分光特性を算出した。結果を表3に併せ示す。
【0187】
(NIRフィルタの分光特性)
例1〜9で得られたNIRフィルタの分光透過率曲線(入射角0°および30°)を、上記の紫外可視分光光度計を用いて測定した。得られた分光透過率曲線を波長450〜650nmにおける最大透過率で規格化し、各分光特性を算出した。結果を表4に示す。また、例4の規格化分光透過率曲線を図4に示す。
【0188】
【表3】
【0189】
【表4】
【0190】
表3、表4等より、例1〜5、9の近赤外線カットフィルタは、入射角依存性が改善されているとともに、可視波長領域の長波長領域の透過率が比視感度曲線に非常に近くなっている。したがって、この近赤外カット線フィルタを用いた固体撮像素子の分光感度を人の通常の視感度に極めて近いものとなり、良好な色再現性が得られる。
一方、例6、7は、斜入射特性は良好であるが、緑色(G)の透過率に対して赤色(R)の透過率が高く、また比視感度曲線との乖離が大きく良好な色再現性が得られない。例8では、斜入射特性は良好で、かつ、緑色に対する赤色の透過率(R)/(G)は抑えられているものの、透過率が80%を示す波長λIRT(80)と20%を示す波長λIRT(20)が比視感度曲線(それぞれ、波長λT(80)と波長λT(20))よりも短波長側にあり、良好な色再現性が得られない。
【0191】
(耐熱性)
耐熱性を評価するため、ガラス基板(AN100)上に、式(F11−7)、(F11−5)および(F11−2)で示されるスクアリリウム系化合物を、ポリエステル樹脂(OKP850)およびポリイミド樹脂(C3630)に含有した吸収層を備えた、吸収層付ガラス基板を準備した。該吸収層付ガラス基板を160℃で3時間加熱し、含有する色素の最大吸収波長における吸光係数を測定し、次式より色素残存率(%)を算出した。結果を表5に示す。
色素残存率(%)=(加熱後の最大吸収波長における吸光係数)/(初期の最大吸収波長における吸光係数)×100
【0192】
【表5】
【0193】
表5より、スクアリリウム系化合物をポリエステル樹脂またはポリイミド樹脂に含有した吸収層を備えた吸収層付ガラス基板は、160℃で3時間加熱後も高い色素残存率を有する。したがって、上記実施例のNIRフィルタは、加熱プロセスを経ても初期の分光透過率を保持できる、すなわち、分光透過率の変化を抑制できる効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明の近赤外線カットフィルタは、入射角依存性が低い上に、人の通常の視感度に非常に近似した分光特性を有しており、高い色再現性が要求される撮像装置等に有用である。
【符号の説明】
【0195】
11…吸収層、12…反射層、13…透明基材、14…反射防止層、20…固体撮像装置、21…固体撮像素子、22…NIRフィルタ、23…撮像レンズ、24…筐体。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3
図4