特許第6120199号(P6120199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6120199固体酸化物形燃料電池用鋼及びその製造方法
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  • 特許6120199-固体酸化物形燃料電池用鋼及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120199
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170417BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20170417BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20170417BHJP
   B21B 3/02 20060101ALI20170417BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20170417BHJP
   H01M 8/0202 20160101ALI20170417BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20170417BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/50
   B21B1/22 K
   B21B3/02
   C21D9/46 R
   H01M8/02 B
   H01M8/02 Y
   H01M8/12
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-552106(P2016-552106)
(86)(22)【出願日】2015年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2015077679
(87)【国際公開番号】WO2016052591
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2016年12月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-199725(P2014-199725)
(32)【優先日】2014年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山村和広
(72)【発明者】
【氏名】上原利弘
(72)【発明者】
【氏名】田中茂徳
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−116686(JP,A)
【文献】 特開2004−269915(JP,A)
【文献】 特開2013−001962(JP,A)
【文献】 特開2014−031572(JP,A)
【文献】 特開2014−139342(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/034002(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/144600(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
B21B 1/22
B21B 3/02
C21D 9/46
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
H01M 4/86 − 4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でC:0を超えて0.05%以下、N:0.050%以下、O:0.01%以下、Al:0.15%以下、Si:0.15%以下、Mn:0.1〜1.0%、Cr:20.0〜25.0%、Ni:0%を超えて1.0%以下、La:0.02〜0.12%、Zr:0.1〜0.5%、La+Zr:0.15〜0.5%、残部Fe及び不純物からなる固体酸化物形燃料電池用鋼において、前記固体酸化物形燃料電池用鋼が下記の関係式を満足し、かつ前記固体酸化物形燃料電池用鋼は、フェライト基地中に見られるFeとZrを含む金属間化合物が視野面積率で1.1%以下であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用鋼。
5(7C+6N)/(7−4(7C+6N))≦Zr≦41(7C+6N)/(7+66(7C+6N))
【請求項2】
前記固体酸化物形燃料電池用鋼は、更に質量%でCu:0.5〜2.0%、W:1.0〜3.0%を含有し、且つ前記MnとCrの含有量が、Mn:0.1〜0.4%、Cr:22.0〜25.0%であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用鋼。
【請求項3】
厚さが0.5mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池用鋼。
【請求項4】
質量%でC:0を超えて0.05%以下、N:0.05%以下、O:0.01%以下、Al:0.15%以下、Si:0.15%以下、Mn:0.1〜1.0%、Cr:20.0〜25.0%、Ni:0%を超えて1.0%以下、La:0.02〜0.12%、Zr:0.1〜0.5%、La+Zr:0.15〜0.5%、残部Fe及び不純物からなり、且つ下記の関係式を満足する固体酸化物形燃料電池用鋼の冷間圧延用素材を用いて、冷間圧延を行う冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程中の焼鈍を800〜1100℃で行う中間焼鈍工程と、
圧延率30%以上の最終冷間圧延を行った冷間圧延材に750〜1050℃の最終焼鈍を行って、フェライト基地中に見られるFeとZrを含む金属間化合物が視野面積率で1.1%以下とする最終焼鈍工程と、
を含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用鋼の製造方法。
5(7C+6N)/(7−4(7C+6N))≦Zr≦41(7C+6N)/(7+66(7C+6N))
【請求項5】
請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池用鋼の製造方法であって、前記固体酸化物形燃料電池用鋼は、更に質量%でCu:0.5〜2.0%、W:1.0〜3.0%を含有し、且つ前記MnとCrの含有量が、Mn:0.1〜0.4%、Cr:22.0〜25.0%であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸化性に優れた固体酸化物形燃料電池用鋼及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は、600〜1000℃程度の高温で作動するため、その発電効率が高いこと、SOx、NOx、COの発生量が少ないこと、負荷の変動に対する応答性が良いこと、燃料多様性に対応できること、コンパクトであること等の優れた特徴を有するため、火力発電の代替としての大規模集中型、都市近郊分散配置型、及び自家発電用分散電源、自動車等の補助電源等の幅広い発電システムへの適用が期待されている。その中で、セパレータ、インターコネクタ、集電体等の固体酸化物形燃料電池用の部品には、当初、作動温度の主流が1000℃程度の高温であったため、耐酸化性、電気伝導性、及び、電解質・電極に近い熱膨張係数等の特性を要求されることからセラミックスが多く用いられてきた。
しかし、セラミックスは加工性が悪く、高価であること、また、近年、固体酸化物形燃料電池の作動温度が低下し、600〜900℃程度になってきたことから、例えば、セパレータの部品等にはセラミックスより安価で、かつ加工性が良く、耐酸化性の優れた金属製の部品を用いる検討が盛んに行われている。
前述の固体酸化物形燃料電池用に用いられる金属製の部品には、優れた耐酸化性が求められ、本願出願人も特開2007−16297号公報(特許文献1)、特開2005−320625号公報(特許文献2)、WO2011/034002号パンフレット(特許文献3)、WO2012/144600号パンフレット(特許文献4)等として、耐酸化性に優れるフェライト系ステンレス鋼を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−016297号公報
【特許文献2】特開2005−320625号公報
【特許文献3】WO2011/034002号パンフレット
【特許文献4】WO2012/144600号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した本願出願人の提案による固体酸化物形燃料電池用鋼は、優れた耐酸化性と電気伝導性を有するものである。ところで、特許文献3に記載されるように、炭素(C)及び窒素(N)は耐酸化性を劣化する元素として、低く規制される元素である。本発明者の検討によれば、炭素や窒素の含有量が極めて少ない原料を使用し、真空製錬を行うことで固体酸化物形燃料電池用鋼中の炭素及び窒素含有量を低下させることが可能である。
しかし、本発明者らは、前記の特許文献1〜4の固体酸化物形燃料電池用鋼のC、Nを大幅に低減したところ、必ずしも耐酸化性が大幅に向上しない場合があることを知見した。これは特に、酸化膜の成長を抑制し、酸化被膜を緻密化させたり、酸化被膜の密着性を向上させる働きを有するZrを含む合金で、かつ板厚が0.5mm以下である薄板において特に顕著であることを新たに知見した。
本発明の目的は、Zrを含む固体酸化物形燃料電池用鋼において、安定して優れた耐酸化性を得ることのできる組成バランスを有する固体酸化物形燃料電池用鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、Zrを含有する固体酸化物形燃料電池用鋼において、良好な耐酸化性を安定して得られる組成や金属組織を詳細に検討した。
その結果、フェライト基地中に見られるFeとZrを含む金属間化合物の量を低く抑えることによって安定して良好な耐酸化性を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、質量%でC:0を超えて0.05%以下、N:0.050%以下、O:0.01%以下、Al:0.15%以下、Si:0.15%以下、Mn:0.1〜1.0%、Cr:20.0〜25.0%、Ni:0%を超えて1.0%以下、La:0.02〜0.12%、Zr:0.1〜0.5%、La+Zr:0.15〜0.5%、残部Fe及び不純物からなる固体酸化物形燃料電池用鋼において、前記固体酸化物形燃料電池用鋼が下記の関係式を満足し、かつ前記固体酸化物形燃料電池用鋼は、フェライト基地中に見られるFeとZrを含む金属間化合物が視野面積率で1.1%以下である固体酸化物形燃料電池用鋼である。
5(7C+6N)/(7−4(7C+6N))≦Zr≦41(7C+6N)/(7+66(7C+6N))
好ましくは更に質量%でCu:0.5〜2.0%、W:1.0〜3.0%を含有し、且つ前記MnとCrの含有量が、Mn:0.1〜0.4%、Cr:22.0〜25.0%である固体酸化物形燃料電池用鋼である。
更に好ましくは厚さが0.5mm以下である前記何れかに記載の固体酸化物形燃料電池用鋼である。
また本発明は前記固体酸化物形燃料電池用鋼として規定した組成を有する冷間圧延用素材を用いて、冷間圧延を行う冷間圧延工程と、冷間圧延工程中の焼鈍を800〜1100℃の中間焼鈍工程と、
30%以上の最終冷間圧延を行った冷間圧延材に750〜1050℃の最終焼鈍を行って、フェライト基地中に見られるFeとZrを含む金属間化合物が視野面積率で1.1%以下とする最終焼鈍工程と、
を含む固体酸化物形燃料電池用鋼の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼は、特にZrを含む固体酸化物形燃料電池用鋼の耐酸化性を安定的に向上することで燃料電池の長時間使用での性能の低下を安定的に抑制することができる。また、電気伝導性や、電解質や電極材との熱膨張差が小さいという特徴はそのまま維持したものである。さらにこうした特徴を薄板においても維持したものである。従って、固体酸化物形燃料電池の部品において、金属材料製の部品として最も要求特性の厳しいセパレータ、インターコネクタや集電体等として用いた場合に、長時間での耐久性向上、高性能化に大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例と比較例の化学組成を表す図である。
図2】FeとZrを含む金属間化合物(Laves相)の視野面積率と酸化増量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述したように、本発明の重要な特徴は固体酸化物形燃料電池用鋼において耐酸化性を大きく改善する適切な金属組織を見出したことにある。以下に本発明を詳しく説明する。
<金属組織>
上述したように、本発明はZrを必須で含有する。Zrは少量添加により酸化膜の成長を抑制し、酸化被膜を緻密化させたり、酸化被膜の密着性を向上させることで、耐酸化性、及び酸化被膜の電気伝導度を大幅に改善する効果を有する。その一方で、ZrはFeとの金属間化合物を生成する。なお、ここでいうFeとZrを含む金属間化合物とは一般に化学式FeZrで表されるラーベス(Laves)相と呼ばれる金属間化合物であり、化合物中に他の元素、例えばCrを含むこともある。
本発明者らの知見によればFeとZrを含む金属間化合物の析出量が多くなるにつれて耐酸化性が悪化することが明らかとなった。この詳細な理由については明らかではないが、以下のように推定することができる。
前述したように合金中に固溶したZrにより上述した耐酸化性の向上に効果を得ることができるが、FeとZrとを含む金属間化合物が析出するにつれて、合金基地中に固溶している実効Zr量が減少すると考えられる。その結果、本来、適正に調整した合金組成で発揮されるはずの耐酸化性向上効果が小さくなったと考えられる。
上述したFeとZrを含む金属間化合物相がフェライト基地中の結晶粒界に連続して1.1%を超えると耐酸化性の劣化が大きくなることから、FeとZrを含む金属間化合物は1.1%以下とする。
また視野面積率を測定する場合、経験上、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用い、視野面積0.25mmの面積を観察し、面積率を測定すれば十分である。
【0009】
次に本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼において、各元素の含有量の範囲を規定した理由を述べる。
<C:0を超えて0.05%以下>
Cは、耐酸化性の劣化を抑制するために規定すべき最も重要な元素の一つである。Cは、上述したようにCrと結び付くことによりCr炭化物を形成して母相の固溶Cr量を減少させ、耐酸化性を低下させる元素である。そのため、耐酸化性を向上させるためには、Cは低くすることが有効であり、本発明では0.05%以下の範囲に限定する。なお好ましい上限は0.040%であり、より好ましい上限は0.030%であり、更に好ましい上限は0.025%である。
一方、Zrを含む本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼の場合、Cが低すぎるとZr炭化物(Nも存在する場合はZr炭窒化物)を形成し、さらにZrがフェライト基地中に固溶してもなお余剰のZrが残存する場合がある。余剰のZrはFeと反応してLaves相等の金属間化合物を形成して析出し耐酸化性を低下させる。そのため、Cは0%を超える必要がある。Cの好ましい下限は0.001%である。
【0010】
<N:0.050%以下>
Nは、Crと結びつくことでCr窒化物を形成して母相の固溶Cr量を減少させ、耐酸化性を劣化させる元素であるため低い方が好ましい。しかしながら、低窒素とするには、窒素含有量の低い原料を使用して溶解したり、炉外製錬により溶鋼中の窒素を低減したりする必要があり、製造時のコストの上昇を招く。耐酸化性を向上させるためには、Nは低くすることが有効であり、また、NはC、Zrと反応してZr炭窒化物を形成して熱間加工性、冷間加工性を害することから、本発明では0.050%以下の範囲に限定する。好ましい上限は0.040%であり、より好ましい上限は0.030%であり、更に好ましい上限は0.020%である。
一方、Zrを含む本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼の場合、Nが低すぎるとZr窒化物(Cも存在する場合はZr炭窒化物)を形成し、さらにZrがフェライト基地中に固溶してもなお余剰のZrが残存する場合がある。余剰のZrがFeと反応してLaves相等の金属間化合物を形成して析出し耐酸化性を低下させる。そのため、Nは0%を超える必要がある。Nの好ましい下限は0.001%である。
【0011】
<Zr:0.1〜0.5%>
Zrは、少量添加により酸化膜の成長を抑制し、酸化被膜を緻密化させたり、酸化被膜の密着性を向上させることで、耐酸化性、及び酸化被膜の電気伝導度を大幅に改善する効果を有する。Zrは0.1%より少ないと酸化膜の成長抑制、酸化被膜の緻密性、密着性を向上させる効果が少なく、一方、0.5%より多く添加するとZrを含む粗大な化合物が多く形成され、熱間加工性及び冷間加工性が劣化するおそれがあることから、Zrは0.1〜0.5%とする。好ましいZrの下限は0.15%であり、より好ましくは0.20%である。また、好ましいZrの上限は0.45%であり、より好ましくは0.4%である。
<La:0.02〜0.12%>
Laは、少量添加により、酸化膜の成長を抑制し、主としてCrを含む酸化被膜を緻密化させたり、酸化膜の密着性を向上させることによって、良好な耐酸化性を発揮させており、添加が不可欠である。Laは0.02%より添加が少ないと酸化被膜の緻密性、密着性を向上させる効果が少なく、一方0.12%より多く添加するとLaを含む酸化物等の介在物が増加し熱間加工性が劣化するおそれがあるため、Laは0.02〜0.12%とする。Laの好ましい下限は0.03%であり、より好ましい下限は0.04%である。また、Laの好ましい上限は0.11%であり、より好ましい上限0.10%である。
<La+Zr:0.15〜0.5%>
本発明では、前述のLa及びZrについて、何れも優れた高温での耐酸化性を向上させる効果を有することから複合添加することで、より効果を発揮させることができる。その場合、LaとZrの合計が0.15%より少ないと耐酸化性向上への効果が少なく、一方、0.5%を超えて添加するとLaやZrを含む化合物が多く生成することによって熱間加工性や冷間加工性の低下が心配されることから、LaとZrは合計で0.15〜0.5%とする。好ましいLa+Zrの下限は0.20%である。
【0012】
<O:0.01%以下>
Oは、耐酸化性の劣化を補償するために制限すべき重要な元素の一つである。Oは、Al、Si、Mn、Cr、Zr、La等と酸化物系介在物を形成して、熱間加工性、冷間加工性を害するだけでなく、耐酸化性向上に大きく寄与するLa、Zr等の固溶量を減少させるため、これらの元素による耐酸化性向上効果を減じる。従って、0.01%以下に制限すると良い。好ましくは、0.008%以下、より好ましくは0.005%以下である。
<Al:0.15%以下>
Alは、脱酸のために少量添加され、鋼中の酸素量を低減することで耐酸化性に有効なZr、Laの固溶量を増加させて、耐酸化性を向上させる重要な元素の一つである。また、Alは、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、Cr酸化被膜近傍の金属組織中にAlを粒子状、及び針状に形成する。これにより、Crの外方拡散を不均一にして安定なCr酸化被膜の形成を妨げることで、耐酸化性を劣化させる。このため、本発明では0.15%以下の範囲に限定する。前述のAlを低減した場合の効果をより確実に得るには、Alを0.1%以下とするのが好ましい。更に好ましくは0.05%以下とする。
【0013】
<Si:0.15%以下>
Siは、脱酸のために少量添加され、鋼中の酸素量を低減することで耐酸化性に有効なZr、Laの固溶量を増加させて、耐酸化性を向上させる重要な元素の一つである。また、Siは、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、Cr酸化被膜と母材の界面付近に膜状のSiOを形成する。SiOの電気比抵抗がCrの酸化物よりも高いことから、電気伝導性を低下させる。また、上述のAlの形成と同様に、安定なCr酸化被膜の形成を妨げることで、耐酸化性を劣化させる。このため、本発明では0.15%以下の範囲に限定する。前述のSiを低減した場合の効果をより確実に得るには、Siの上限を0.10%以下とすると良い。好ましくは0.08%以下であり、更に好ましくは0.07%以下、更に好ましくは0.06%以下である。
<Mn:0.1〜1.0%>
Mnは、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、Crと共にスピネル型酸化物を形成することによって高温での導電性を向上させる重要な元素である。Mnを含むスピネル型酸化物層は、Cr酸化物層の外側(表面側)に形成される。ここでCr表面酸化層から蒸発したCrは固体酸化物形燃料電池のセラミックス部品に蒸着して燃料電池の性能を劣化させる複合酸化物を形成することが知られている。このスピネル型酸化物層は、固体酸化物形燃料電池用鋼のCr表面酸化層からCrが蒸発するのを防ぐ保護効果を有する。また、このスピネル型酸化物は、通常Crに比べると酸化速度が大きいので、耐酸化性そのものに対しては不利に働く一方で、酸化被膜の平滑さを維持して、接触抵抗の低下や燃料電池セルに対して有害なCrの蒸発を防ぐ効果を有している。このため、最低限0.1%を必要とする。好ましいMnの下限は0.2%である。
一方、過度に添加すると酸化被膜の成長速度を速めるために耐酸化性が悪くなる。従って、Mnは1.0%を上限とする。好ましいMnの上限は0.6%であり、より好ましくは0.4%である
【0014】
<Cr:20.0〜25.0%>
Crは、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、緻密なCrに代表されるCr酸化被膜の生成により、優れた耐酸化性を実現するに基本的に必要な元素である。また、電気伝導性を維持するために重要な元素である。安定して良好な耐酸化性及び電気伝導性を得るため最低限20.0%を必要とする。
しかしながら、過度の添加は耐酸化性向上にさほど効果がないばかりか加工性の劣化を招くので上限を25.0%に限定する。好ましいCrの下限は21.0%であり、より好ましい下限は22.0%である。
<Ni:0%を超えて1.0%以下>
Niは、少量添加することで靱性の向上に効果がある。その一方で、オーステナイト生成元素であるため、過度に含有した場合、フェライト−オーステナイトの二相組織となり易く、熱膨張係数を増加させる。また、本発明のようなフェライト相を母相とする鋼を製造する際に、例えば、リサイクル材の溶解原料を用いたりすると、不可避的に混入する場合もある。Niの含有量が多くなり過ぎると、熱膨張係数の上昇によりセラミックス系の部品との接合性が低下することが懸念されるため、多量の添加または混入は好ましくない。そのため本発明においては、Niは0%を超えて1.0%以下とする。Niの好ましい上限は0.8%、更に好ましい上限は0.7%である。
なお、本発明において後述のようにCuを含む場合は、赤熱脆性により熱間加工性が低下することが心配される。これを抑制するために少量のNiを添加することが有効である。なお、熱間加工性の改善の効果を得ようとする場合には、Cuを含む場合のNiの下限は0.1%が良く、好ましい下限は0.2%、更に好ましい下限は0.3%である。
【0015】
<Cu:0.5〜2.0%>
本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼は、700〜900℃程度の作動温度では、Cr酸化物層上に、Mnを含むスピネル型酸化物層が形成された2層構造のCr酸化被膜を形成する。
Cuは、Cr酸化物層上に形成されるMnを含むスピネル型酸化物を緻密化することで、Cr酸化物層からのCrの蒸発を更に抑制する効果がある。しかし、Cuの添加量が少なすぎてもCr蒸発を更に抑制する効果は不十分となる。このためCuを添加することによるCr蒸発の抑制効果を発揮させるためには、Cuを0.5%以上添加する。しかし、Cuを2.0%より多く添加すると母相中にCu相が析出して、Cu相の存在場所でち密なCr酸化物が形成されにくくなり、耐酸化性が低下したり、熱間加工性が低下したり、フェライト組織が不安定となる可能性があるので、Cuを0.5〜2.0%とした。好ましいCuの下限は、0.7%、更に好ましくは0.8%である。好ましいCuの上限は1.5%、更に好ましくは1.3%である。
<W:1.0〜3.0%>
一般に、固溶強化等に対してWと同じ作用効果を発揮する元素としてMoが知られている。しかし、WはMoと比較して、固体酸化物形燃料電池の作動温度で酸化したときのCrの外方拡散を抑制する効果が高い。このことは特に耐酸化性が低下しやすい薄板において大きな効果をもたらし、薄板の耐酸化性を大幅に向上させる効果を有する。そのため、Wを添加することによる耐酸化性向上を発現させるために本発明では、Wを1.0〜3.0%添加することができる。
W添加によりCrの外方拡散を抑制することで、Cr酸化被膜形成後の合金内部のCr量の減少を抑制することができる。また、Wは合金の異常酸化も防止して、優れた耐酸化性を維持することができる。このようなW添加による耐酸化性向上効果は、同時にCr量を高めることによって更に高い効果をもたらすことから、Wを添加するとともにCr量の下限を高めるのがよい。しかし、Wを3.0%を超えて添加してもより一層の向上効果はなく、一方で熱間加工性が劣化するため、Wは3.0%以下とする。なお、好ましい上限は2.5%、更に好ましくは2.3%であり、好ましい下限は1.5%、更に好ましくは1.7%である。
【0016】
本発明では、上述した元素以外は、Fe及び不純物とする。以下、代表的な不純物とその好ましい上限を以下に示しておく。なお、不純物元素であるため、各元素の好ましい下限は0%である。
<Mo:0.2%以下>
Moは、耐酸化性を低下させることから積極的な添加は行わず0.2%以下に制限する。
<S:0.015%以下>
Sは、希土類元素と硫化物系介在物を形成して、耐酸化性に効果をもつ有効な希土類元素量を低下させ、耐酸化性を低下させるだけでなく、熱間加工性、表面肌を劣化させるため、0.015%以下にすると良い。好ましくは、0.008%以下が良い。
<P:0.04%以下>
Pは酸化被膜を形成するCrよりも酸化しやすい元素であり、耐酸化性を劣化させるため、0.04%以下に制限すると良い。好ましくは、0.03%以下が良く、更に好ましくは、0.02%以下、更には0.01%以下が良い。ただし、Cu、Wを含む場合にはこれらの元素の耐酸化性向上効果により、やや多めでも許容され、Pは、0.04%以下に制限すると良く、好ましくは0.03%以下である。
<B:0.003%以下>
Bは、約700℃以上の高温で酸化被膜の成長速度を大きくし、耐酸化性を劣化させる。また、酸化被膜の表面粗さを大きくして酸化被膜と電極との接触面積を小さくすることによって接触抵抗を劣化させる。そのため、Bは0.003%以下に制限すると良く、できるだけ0%まで低減させる方が良い。好ましい上限は0.002%以下が良く、更に好ましくは0.001%未満が良い。
<H:0.0004%以下>
Hは、Fe−Cr系フェライト母相中に過剰に存在すると、粒界等の欠陥部へ集まり易く、水素脆化を起こすことで製造中に割れを発生させる場合があることから、0.0004%以下に制限すると良い。更に好ましくは0.0003%以下が良い。
【0017】
<関係式>
本発明において、良好な耐酸化性を確保するためのC、N及びZrは、密接に関係しており、下記の関係式を満足する範囲とするのが必要である。
5(7C+6N)/(7−4(7C+6N))≦Zr≦41(7C+6N)/(7+66(7C+6N))…(1)
なお関係式中のZr、C、Nはそれぞれ、Zr、C、Nの質量%を示す。
本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼におけるC、N及びZrの組成範囲は金属組織中に析出する化合物相によって規定される。関係式で表されるものは耐酸化性に有害な化合物相の析出を抑制するC、N及びZrの範囲を表す指標を示すものである。ここで、耐酸化性に有害な化合物とは、作動温度付近で析出したり、製造工程中に残存する可能性のあるCr炭化物、FeとZrを含む金属間化合物をいう。この関係式は、本発明者らが多数の固体酸化物形燃料電池用鋼における金属間化合物、炭化物の析出状況と酸化増量の大小、更に化学成分との関係を入念に調査した結果から導いたものであり、図1によって説明される。
【0018】
本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼中においてC及びNは、Zrと化合してZr炭窒化物(Zr(C,N))を形成している。Zr(C,N)の形成は、合金母相中のC及びNを低減することによって、耐酸化性、加工性等を向上させる効果を有する一方で、過度に合金母相中のC及びN量を低減すると逆に耐酸化性等の低下を招く。また、Zr量が不十分で合金母相中のC及びN量を十分低減できない場合もまた、耐酸化性の低下を招く。即ち、C、N及びZr量のバランスには、最適な範囲が存在する。
本発明者らはZr(C,N)を形成する組成比に着目し、CとNとの原子量を考慮した値としてZr/(C+6N/7)をC、N、Zrのバランスの指標として採用した。続いて、図1に示すように、本発明者らが調査した固体酸化物形燃料電池用鋼におけるZr量とZr/(C+6N/7)の関係を整理し、金属組織の観察結果および酸化増量の大小を比較したところ、以下の2式でC、N、Zrの最適な範囲を説明できることを見出したのである。
Zr/(C+6N/7)≧4Zr+5…(2)
5(7C+6N)/(7−4(7C+6N))≦Zr…(2)’;
Zr/(C+6N/7)が図1で示された関係式(2)で規定する下限を下回ると、Zr炭窒化物を形成するために必要なZrが不足するため、余剰のC及びNは鋼中のCrと結合し、Cr炭化物やCr窒化物を形成する。その結果、母材の有効Cr量を低下させ、ひいては固体酸化物形燃料電池用鋼の耐酸化性を低下させる。そのため、Zr、C、Nは関係式(2)を満たすことが好ましい。なお、関係式(2)をZrについて整理することで関係式(2)’を得ることができる。
Zr/(C+6N/7)≦−66Zr+41…(3)、
Zr≦41(7C+6N)/(7+66(7C+6N))…(3)’;
Zr/(C+6N/7)が図1で示された関係式(3)で規定する上限を上回ると、固体酸化物形燃料電池用鋼中でZr炭窒化物を形成してなお余剰のZrが生ずることになる。このとき余剰のZrは鋼中のFeと化合し、フェライト基地中にFeとZrを含む金属間化合物を形成する。このような金属間化合物は合金基地中の実効Zr濃度を低下させ、ひいては固体酸化物形燃料電池用鋼の耐酸化性を低下させる。そのため、Zrは関係式(3)を満たすことが好ましい。なお関係式(3)をZrについて整理することで関係式(3)’を得ることができる。
以上より得られた関係式(2)’、関係式(3)’を整理して関係式(1)が得られる。
【0019】
<厚さ0.5mm以下>
本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼は圧延によって、固体酸化物形燃料電池用鋼として供せられ、その板厚は0.5mm以下とすることが良い。一般に高温環境下で使用される合金の耐酸化性は板厚が薄くなるにつれて低下し、また合金素材の性質をより顕著に反映することが知られている。本発明は上述した合金組成及び合金組織を達成することで、特に薄板における耐酸化性を向上させることができる。そのため、本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼の板厚の好ましい上限を0.5mmとした。なお、板厚が0.5mm超であった場合においても本発明の合金組成及び合金組織を達成することで固体酸化物形燃料電池用鋼の耐酸化性の向上が図られることは言うまでもない。
【0020】
本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼はその合金組成だけでなく、合金組織にも特徴を有しているが、合金組織は合金組成だけで一義的に決定されるものではなく、その製造方法が極めて重要である。
<冷間圧延用素材>
先ず、前述の本発明で規定する組成を有する冷間圧延用素材を用いて、冷間圧延を行う(冷間圧延工程)。冷間圧延用の素材は、厚さが2〜5mm程度の熱間圧延材を用いればよい。この冷間圧延用素材を用いて、焼鈍と冷間圧延を繰返して所望の厚さとする。
<中間焼鈍工程>
本発明の冷間圧延工程中の焼鈍を800〜1100℃で行う一つの目的は、冷間圧延によって導入された歪みを除去して冷間圧延材を軟化させることで最終冷間圧延材の割れを防止するためである。また、本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼において、FeとZrを含む金属間化合物は前記記載の合金組成とすることで理想的にはその析出を抑制することができるが、工業的な大型鋼塊の製造時においては偏析の影響で鋼塊内部にFeとZrを含む金属間化合物の析出が認められる場合がある。このため、前記記載の組成を有する冷間圧延用素材を用いた場合において、FeとZrを含む金属間化合物を固溶させることを目的として中間焼鈍を行う。
焼鈍温度が800℃未満では冷間圧延材が十分に軟化せず、最終圧延時に割れが発生するおそれがあるだけでなく、FeとZrとを含む金属間化合物が多量に析出していた場合、FeとZrとを含む金属間化合物を十分に固溶させることができない。一方、焼鈍工程を1100℃を超えた温度で実施すると、冷間圧延材の結晶粒が粗大化してしまうため、最終冷間圧延と最終焼鈍を施しても結晶粒が微細にならない。一般に固体酸化物形燃料電池用鋼はプレス加工に代表される種々の塑性加工によって固体酸化物形燃料電池用部品として供せられるが、結晶粒が粗大な場合、塑性加工によって割れを生じやすくなるだけでなく、固体酸化物形燃料電池用の帯鋼の強度や靱性が低下するおそれがある。従って固体酸化物形燃料電池用鋼の結晶粒を微細とするため、中間焼鈍温度は800℃以上、1100℃以下とする。好ましい中間焼鈍の温度範囲は820〜1050℃であり、より好ましくは850〜1000℃である。
【0021】
<最終冷間圧延>
本発明で最終冷間圧延を30%以上とするのは、固体酸化物形燃料電池用の帯鋼に十分な歪みを導入することで、その後の最終焼鈍によって再結晶化を促進し、微細結晶粒を形成させるためである。上述したように固体酸化物形燃料電池用鋼の結晶粒は微細であることが好ましく、最終冷間圧延を30%以上実施するものとする。好ましくは35%以上であり、より好ましくは40%以上である。なお圧延の上限は特に設けないが、90%を超えて冷間圧延を施すと帯鋼の端部に割れが生じ、歩留まりを低下させるおそれがある。このため、より薄い固体酸化物形燃料電池用鋼を製造したい場合、最終圧延が90%以下となるよう、最終冷間圧延に供する素材の厚さを冷間圧延と中間焼鈍によって調整しておくことが好ましい。
<最終焼鈍>
また、本発明で最終冷間圧延を行った冷間圧延材に750〜1050℃の最終焼鈍を行うのは、固体酸化物形燃料電池用鋼中の歪みを除去して微細結晶粒にするためである。最終焼鈍以降、結晶組織を制御する工程はないため、最終的に得られる固体酸化物形燃料電池用鋼の金属組織を微細結晶粒とするため、前記の中間焼鈍以下の温度で最終焼鈍を実施し、結晶粒成長を抑制するとよい。従って最終焼鈍の温度範囲は750〜1050℃とする。好ましい温度範囲は780〜1000℃である。
なお中間焼鈍、最終焼鈍ともにその雰囲気はN等の不活性ガスやH等を使用した非酸化性雰囲気とすることが好ましい。また中間焼鈍および最終焼鈍後の冷却速度が遅い場合、一度固溶したFeとZrを含む金属間化合物が冷却中に再度析出するおそれがある。このため焼鈍後の冷却速度は50℃/h以上とすることが好ましい。より好ましくは100℃/h以上であり、更に好ましくは200℃/h以上である。
この製造方法を適用することで、上述した本発明で規定する金属組織を得ることができる。
【0022】
以上、説明する本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼は、優れた耐酸化性を有しているため、例えば、セパレータ、インターコネクタ、集電部品、エンドプレート、電流接続部品、締結ボルト等の種々の固体酸化物形燃料電池の部材に好適である。網、細線、薄板、帯材、棒材、及びこれらをプレス成形した部材、エッチング加工した部材、機械加工した部材、溶接接合した部材、ロウ付接合した部材金属または合金をクラッドした部材、金属、合金または酸化物を表面処理した部材などの種々形状に加工して使用することも可能である。
【実施例】
【0023】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明するが、これら実施例によって本発明が限定されるものではない。
真空溶解で10kg鋼塊を作製し、鍛造、熱間圧延を行い、焼鈍と冷間圧延を繰返して、厚さ0.5mmの固体酸化物形燃料電池用の帯鋼を作製した。なお中間焼鈍は820〜950℃で行い、その後50%の最終冷間圧延を実施した後、820〜950℃で最終焼鈍を行った。
本発明で規定する範囲内の合金組成を有する実施鋼1〜12、並びに本発明で規定する範囲から外れた合金組成を有する比較鋼21〜26の化学組成を表1に示す。表1に示さない不純物元素は、各合金ともに、Mo≦0.2%、H≦0.0003%、B<0.001%、P≦0.04%、S≦0.015%の範囲であった。
【0024】
【表1】
【0025】
続いてこれらのC、N量に基づき関係式(1)で規定されるZrの範囲を算出し、各々のZr含有量と比較した。また併せてZr含有量とZr/(C+6/7N)との関係を比較した。表2、図1に結果を示す。なお図1着色部は本発明の固体酸化物形燃料電池用鋼の組成範囲を表している。
【0026】
【表2】
【0027】
上記厚さ0.5mmの固体酸化物形燃料電池用鋼より15mm(w)×15mm(l)×0.5mm(t)の試験片を切り出し、大気中で850℃で1000時間の酸化処理を行った。酸化前後の重量を測定し、耐酸化性の評価を行った。この結果を表3に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
続いて本発明で規定するNo.1〜12と、比較例であるNo.21〜26の酸化前の試験片について、断面の金属組織をEPMAにて観察し、0.25mm中に見られるFeとZrを含む金属間化合物の視野面積率を調査した。
用いた素材は厚さ0.5mmの上記固体酸化物形燃料電池用鋼であり、厚さ方向の中心近傍を観察倍率400倍にて5点分析した。FeとZrを含む金属間化合物の視野面積率を画像解析にて計測した。この結果を表3に示す。また本発明で規定する化学組成を満足し、中でもCr含有量が多いNo.1〜9と本発明で規定する化学組成よりZr量が過剰であるNo.21〜25について、大気中で850℃で1000時間酸化処理した後の酸化増量とFeとZrとを含む金属間化合物の視野面積率を併せて図2に示す。
【0030】
本発明で規定する化学組成の範囲を満足するNo.1〜12の固体酸化物形燃料電池用鋼は、厚さ0.5mmの薄い板状試験片で比較鋼21〜26と比べ酸化増量が少なく耐酸化性に優れることが明らかである。またCr、W、Mn、Cu量がほぼ同等のNo.1〜9と比較鋼No.21〜25とを比較すると、FeとZrを含む金属間化合物が1.1%以上観察された比較鋼No.21〜25はCr、W、Mn、Cu量が同等の本発明鋼と比較して酸化増量が多く、金属間化合物の存在が耐酸化性を害することが明らかである。
【0031】
また表3よりCr、Mnの含有量が異なる場合においても関係式を満足する場合、金属組織中のFeとZrを含む金属間化合物の視野面積率は1.1%以下となることがわかる。特にNo.10〜12はMn量が多く、Wを含まないために本実施例の中でも耐酸化性が劣りやすい組成を有するが、金属組織中のFeとZrを含む金属間化合物の視野面積率を1.1%以下とすることで、比較鋼No.21〜25以上の耐酸化性を示すことがわかる。
一方、比較鋼No.26は組成が本発明で規定する範囲から外れていることに加え、Zr量そのものが不足し、合金母相中のC、N量を十分低減できないため、耐酸化性が良くないものと考えられる。

図1
図2