特許第6120370号(P6120370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6120370
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】パーソナルビークル
(51)【国際特許分類】
   B62D 11/04 20060101AFI20170417BHJP
   A61G 5/04 20130101ALI20170417BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20170417BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20170417BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20170417BHJP
【FI】
   B62D11/04 CZYW
   A61G5/04 708
   A61G5/04 710
   B62D11/04 Z
   B62D6/00
   B62D101:00
   B62D113:00
【請求項の数】3
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-155553(P2013-155553)
(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公開番号】特開2015-24745(P2015-24745A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2016年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 努
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】松本 治
【審査官】 粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−193939(JP,A)
【文献】 特開2013−226387(JP,A)
【文献】 特開2004−113375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 11/04
A61G 5/04
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が着座する着座部を有する車体と、前記車体に設けられ前記着座部に着座する使用者の右側の右車輪と、前記車体に設けられ前記着座部に着座する使用者の左側の左車輪と、前記左右車輪を駆動する駆動部と、前記右車輪および前記左車輪の回転角速度に関する実指令値に基づいて前記駆動部を制御する制御装置とを有するパーソナルビークルであって、
前記制御装置は、
前記車体の目標旋回角速度を含んだ原指令値を入力するための操作部と、
前記車体のヨー軸に対する実旋回角速度を検出するための旋回角速度検出部と、
前記目標旋回角速度と前記実旋回角速度との差である旋回角速度差を時間で積分した積分値と、前記旋回角速度差とにより、前記原指令値を補正して、前記旋回角度差が小さくなるように前記実指令値を求める制御部と、
前記旋回角速度差の大きさに応じて求められる寄与に応じて前記制御部における積分値による補正の程度を変化させる積分値寄与度変更部とを備える、
パーソナルビークル制御装置。
【請求項2】
前記実指令値への前記積分値の前記寄与の程度は前記旋回角速度差の大きさに比例して前記原指令値を補正することで変化させる請求項1に記載のパーソナルビークル制御装置。
【請求項3】
前記車体のピッチ軸に対する実ピッチ角度と、前記車体のロール軸に対する実ロール角度を含む傾斜角度を検知する傾斜角度センサを備え、
前記制御部は、前記傾斜角度に基づいて、前記右車輪の径および前記左車輪の径の大きさの変化を推定する車輪有効径補正部をもち、
前記旋回角速度検出部は、前記車輪有効径補正部が推定した前記左右車輪の径の大きさと前記左右車輪の回転速度とに基づいて前記実旋回角速度を求める手段である、
請求項1又は2に記載のパーソナルビークル制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動式の車いす等のパーソナルビークルに関する。
【背景技術】
【0002】
車いす等のパーソナルビークルは、使用者が着座する着座部を有する車体と、車体に設けられ着座部に着座する使用者の右側の右車輪と、車体に設けられ着座部に着座する使用者の左側の左車輪とを有する。パーソナルビークルの車体には、車体走行速度および車体の旋回角度に関する指令値が入力される操作部が設けられている。
【0003】
ところで、傾斜している路面を横切る方向などパーソナルビークルが左右の何れかに傾きながら直進走行(以降ではカント走行と記す)する際に、その車体のロール軸に対するロール角度に応じて車体の直進性が低下するおそれがある。すなわち、カント走行を行っていると、パーソナルビークルが直進走行するように使用者が操作部を操作しているにもかかわらず、車体の傾きに起因して路面上で車体のずり落ち(片流れ)が発生し、パーソナルビークルの直進走行性が損なわれるおそれがある。
【0004】
本願出願人は、上記の問題を低減したパーソナルビークルを特許文献1に開示している。特許文献1のパーソナルビークルの制御装置は、パーソナルビークルがカント走行するにあたり、パーソナルビークルのロール角度が大きい場合であっても、操作部が直進するように操作されている限り車体のずり落ちが抑制され、パーソナルビークルの直進走行性が確保されるように制御(便宜的にこの制御を制御則4と呼ぶ)する制御部を備えている。
【0005】
図14に、特許文献1に開示された制御則4のフローチャートを示す。制御則4は次のように実行される。まず、制御部は、路面のロール角度を読み込む(ステップS402)。路面のロール角度が一定以上であれば(ステップS404でYESの場合)、制御部は、パーソナルビークルに備わるレートジャイロにより検知されるヨー軸に対するパーソナルビークルの旋回角速度ωgyawを求める(ステップS406)。次に、制御部は、操作部から入力された旋回角速度指令値ωrefを求める(ステップS408)。更に、制御部は、旋回角速度指令値ωrefと旋回角速度ωgyawとの差または比率を求める(ステップS410)。
【0006】
そして、差または比率が一定値以上あれば(ステップS412でYESの場合)、制御部は、旋回角速度指令値ωrefと旋回角速度ωgyawとの差または比率に旋回角速度フィードバックゲインを乗算して、左右の車輪の回転角速度補正値を求める。そして、この回転角速度補正値により、使用者が指令した右車輪の回転角速度指令値θドットR_refを補正し、且つ、使用者が指令した左車輪の回転角速度指令値θドットL_refを補正する(ステップS414)。
【0007】
更に、制御部は、右車輪エンコーダにより検知された右車輪の回転角速度θドットRと右車輪の回転角速度指令値θドットR_refとの差、および右車輪エンコーダにより検知された右車輪の回転角度θRと回転角速度指令値θドットR_refの積分値との差に基づいて右車輪の駆動トルクTRを補正する。また、制御部は、左の車輪エンコーダにより検知された左車輪の回転角速度θドットLと左車輪の回転角速度指令値θドットL_refとの差、および左の車輪エンコーダにより検知された左車輪の回転角度θLと回転角速度指令値θドットL_refの積分値との差に基づいて左車輪の駆動トルクTLを補正する(ステップS416)。これにより、カント走行しているパーソナルビークルのずり落ちが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−193939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した制御則4においては、パーソナルビークルの旋回角速度の指令値と実測値との差に基づいて、左右の車輪の回転角速度補正値を求めている。従って、制御則4が繰り返し実行されることにより、旋回角速度の指令値と実測値との差が徐々に0に近づいて、パーソナルビークルのずり落ちが徐々に抑制されていく。しかし、この制御則4においては、一度パーソナルビークルに発生したずり落ち(片流れ)や旋回角度のずれを元に戻すことはできない。従って、カント走行が長時間継続されると、ずり落ちや旋回角度のずれが蓄積されてパーソナルビークルの直進走行性が損なわれるという問題がある。
【0010】
特に、パーソナルビークルのカント走行においては、カント走行開始時や急な路面の傾斜変化、マンホールの乗り越え時などに、パーソナルビークルのずり落ちや旋回角度のずれが大きく発生し易い。ところが、上述したように、制御則4においては、一度発生したずり落ちや旋回角度のずれを元に戻すことはできない。また、制御則4のようなフィードバック補正による制御では、発生したずり落ちや旋回角度のずれを元に戻すまでに時間を要するという問題がある。
【0011】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、カント走行開始時や急な路面の傾斜変化、マンホールの乗り越え時などにも速やかに、且つ使用者の操作も考慮してパーソナルビークルの走行を制御するパーソナルビークル制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記課題を解決するための本発明の構成上の特徴は、使用者が着座する着座部を有する車体と、前記車体に設けられ前記着座部に着座する使用者の右側の右車輪と、前記車体に設けられ前記着座部に着座する使用者の左側の左車輪と、前記左右車輪を駆動する駆動部と、前記右車輪および前記左車輪の回転角速度に関する実指令値に基づいて前記駆動部を制御する制御装置とを有するパーソナルビークルであって、
前記制御装置は、
前記車体の目標旋回角速度を含んだ原指令値を入力するための操作部と、
前記車体のヨー軸に対する実旋回角速度を検出するための旋回角速度検出部と、
前記目標旋回角速度と前記実旋回角速度との差である旋回角速度差を時間で積分した積分値と、前記旋回角速度差とにより、前記原指令値を補正して、前記旋回角度差が小さくなるように前記実指令値を求める制御部と、
前記旋回角速度差の大きさに応じて求められる寄与に応じて前記制御部における積分値による補正の程度を変化させる積分値寄与度変更部とを備えることにある。
【0013】
フィードバック補正の積分項は、後から遅れて緩やかに制御が効いてくるという特徴があり、路面の急な傾斜変化などにより車体が使用者の意図しない方向に旋回した際は、実指令値への積分項の寄与の程度を大きくすることで、本来の旋回方向に車体を回復する方向に緩やかに旋回させる作用が働く。しかし、傾斜面を横切るようなカント走行ではない通常走行の場合、実指令値への積分項の寄与の程度が大きいと、左右操作に対するレスポンスが悪くなる。
【0014】
そこで、旋回角速度差が大きいときに実指令値への積分項の寄与の程度を大きく変化させることで、通常走行には影響を与えず、急な挙動変化には速やかに対応した制御を行うことができる。特に、積分項は、使用者の操作で決まる目標旋回角速度と実際の車体の実旋回角速度との旋回角速度差を時間積分するため、使用者の意図する方向に基づいて急な挙動変化による車体の方向を補正することができる。
【0015】
ここで、積分項の寄与の程度を大きくする(小さくする)方法としては積分項により補正する程度を大きく(小さく)する方法があり、その場合にその補正の大きさ自体を寄与の程度の変動に応じて変化させる方法の他、補正の大きさ自体の変化に加えて補正の大きさを変化させる時間を変化(補正の大きさを大きくする時間を変動させる。時間を長くすることで寄与の大きさを大きく出来る)させる方法が例示できる。
【0016】
上記(1)の発明は以下に記す(2)および(3)の構成のうちの1つ以上を任意に加えて採用できる。
【0017】
(2)前記実指令値への前記積分値の前記寄与の程度は前記旋回角速度差の大きさに比例して前記原指令値を補正することで変化させる。車体の挙動変化が大きい場合には旋回角速度差も大きくなると考えられるため、旋回角速度差が大きければ大きく、旋回角度差が小さければ小さく、補正において積分項の寄与の程度を変えることで、通常走行に大きな影響を与えずに使用者の意図しない方向への車体の急な旋回時に速やかに対応した制御を行うことができる。
【0018】
(3)前記車体のピッチ軸に対する実ピッチ角度および前記車体のロール軸に対する実ロール角度を含む傾斜角度を検知する傾斜角度センサを備え、
前記制御部は、前記傾斜角度に基づいて、前記右車輪の径および前記左車輪の径の大きさの変化を推定する車輪有効径補正部をもち、
前記旋回角速度検出部は、前記車輪有効径補正部が推定した前記左右車輪の径の大きさと前記左右車輪の回転速度とに基づいて前記実旋回角速度を求める手段である。
【0019】
車体の傾斜角度が変わると複数有る車輪に対して加わる荷重のバランスも変化する。車輪に加わる荷重の大きさが変わると車輪が弾性変形の大きさが変化するため、車輪の見かけの径(有効径)も変化する。つまり、荷重の大きさが大きくなった車輪(車体が傾斜した方向にある車輪)は弾性変形(車輪が潰れる方向への変形)が大きくなって車輪の有効径が相対的に小さくなる。
【0020】
車輪の径は車速の制御などに利用しているため、車輪の有効径を精確に検出すると制御がより精密になる。また、傾斜角度により左右の車輪への荷重バランスが変動することで、車輪の凹み具合が変動し、左右の車輪の実質的な径が変化する。つまり、傾斜角度に応じて左右車輪の径が変動することになる。そこで、傾斜角度に基づいて車輪の径の変化を推定し、推定した径の変化をも考慮して左右の車輪の回転数差から旋回角速度を検出する機構を旋回角速度検出部として採用することにより旋回角速度の検出精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、使用者の操作で決まる目標旋回角速度と実際の車体の実旋回角速度との旋回角速度差の大きさに応じて積分値が補正に寄与する程度を変化させて実指令値を求めることにより、カント走行開始時や急な路面の傾斜変化時など急な姿勢変化が起こったときにも、使用者の操作を考慮した適正な制御による走行が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態のパーソナルビークル制御装置が装備されたパーソナルビークルが平地直進走行している状態を模式的に説明する側面図である。
図2図1に示したパーソナルビークルが傾斜している路面を上がる方向に走行している状態を模式的に説明する側面図である。
図3】実施形態のパーソナルビークル制御装置の構成を説明するブロック図である。
図4】加速度信号およびレートジャイロ信号に基づいた物理量をフィルタ処理して路面傾斜角度を算出する形態を説明する説明図である。
図5図1に示したパーソナルビークルがカント走行している状態を模式的に説明する背面図である。
図6】加速度信号およびレートジャイロ信号に基づいた物理量をフィルタ処理して路面のロール角度を算出する形態を説明する説明図である。
図7】実施形態のパーソナルビークル制御装置で実施する制御則3の効果を説明するグラフであって、パーソナルビークルがマンホールに乗り上げたときの走行距離と進行方向と角速度との関係を示している。
図8】実施形態のパーソナルビークル制御装置に備わる制御部が実行する制御則1を示すフローチャートである。
図9】実施形態のパーソナルビークル制御装置に備わる制御部が実行する制御則2を示すフローチャートである。
図10】実施形態のパーソナルビークル制御装置に備わる制御部が実行する制御則3を示すフローチャートである。
図11】実施形態のパーソナルビークル制御装置に備わる制御部が実行する制御則3を示すブロック図である。
図12】変形形態のパーソナルビークル制御装置に備わる制御部が実行する車輪有効半径補正部及び旋回角速度検出部を示すブロック図である。
図13】変形形態2のパーソナルビークル制御装置で実施する制御則3の効果を説明するグラフであって、パーソナルビークルが傾いたときの走行距離と進行方向からのずれとの関係をシミュレーションした結果を示している。
図14】従来のパーソナルビークル制御装置に備わる制御部が実行する制御則4を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態1)
本実施形態で、パーソナルビークル1(以下、単にビークル1と呼ぶ)は電動式の車いすに相当する。図1は、実施形態のビークル1が平地直進走行している状態を模式的に説明する側面図である。図1で、前方(矢印Fx方向)は、ビークル1に正規に着座している使用者の顔面が向いている方向を示し、かつビークル1が前進する方向を示す。後方(矢印Rx方向)は、ビークル1に正規に着座している使用者の顔面が背向している方向を示し、かつビークル1が後退する方向を示す。また、図2は、図1に示したパーソナルビークル1が傾斜している路面90を上がる方向に走行している状態を模式的に説明する側面図である。そして、図5は、図1に示したパーソナルビークル1が傾斜している路面90をその傾斜(右下がりの方向)に直交する方向(紙面奥側に向けて)に走行している状態を模式的に説明する背面図である。
【0024】
ビークル1は、使用者が着座する着座部10をもつ車体11と、車体11の左右に取り付けられた回転可能な駆動輪である左右の車輪12R、12Lと、車輪12を回転駆動させる駆動源としての左右の車輪モータ13R、13Lと、車輪モータ13R、13Lの駆動を操作する操作部14と、車輪12の前方に位置して車体11に取り付けられた回転可能な左右の前輪15と、車輪12の後方に向けて延びるように車体11に取り付けられたサポート部材16と、サポート部材16の先端部16aに取り付けられた回転可能な後輪17とを備えている。着座部10は、使用者の臀部を支える座部10aと、使用者の背中を支える背もたれ部10bとを備えている。
【0025】
左右の車輪12R、12Lは回転軸にスポークなどにより固定されたリムとそのリムに配設されたチューブラータイヤなどの弾性変形可能なタイヤとをもつ。左右の車輪12R、12Lの回転中心12a(図2参照)を結んだ回転軸線は、ビークル1の前後方向において重心位置Gの直下またはその付近に配置されている。前輪15は、左右の車輪12R、12Lの径よりも小さい径をもつキャスターである。前輪15は、左右に設けられているが、場合によっては車幅方向の中央に設けた単数でも良い。後輪17は、車体11の左右方向に配置され、左右に移動可能なオムニホィールが例示されるが、これに限定されない。なお、後輪17は車幅方向の中央に配置されても良く、後輪17の数も特に限定されない。
【0026】
図3は、実施形態のパーソナルビークルが備えるパーソナルビークル制御装置(制御装置)の構成を説明するブロック図である。図3に示すように、パーソナルビークル制御装置は、操作部14、センサ系、制御部2、および車輪駆動系で構成されている。
【0027】
操作部14は、着座部10に着座している使用者が操作し易いように、着座部10付近に設けられている。なお、操作部14を設ける位置や態様は、特に限定されず、車体11から分離するリモコン方式の操作部でもよい。操作部14は、制御部2内のAD変換器21を経由してCPU23に原指令値を入力するための部位であり、いわゆるジョイスティックで形成されている。操作部14は、車両走行速度を指令する速度指令部141と、旋回角速度を指令する旋回角速度指令部142とを備えている。操作部14を前方に傾けると、速度指令部141から前進指令が出力される。操作部14を後方に傾けると、速度指令部141から後退指令が出力される。そして、操作部14の前後方向の傾き角度に応じて、直進速度指令値Vrefが増加する方式が採用されている。また、操作部14を右方に傾けると、旋回角速度指令部142から車体11を右旋回させる指令が出力される。操作部14を左方に傾けると、旋回角速度指令部142から車体11を左旋回させる指令が出力される。そして、操作部14の右左方向の傾き角度に応じて、旋回角速度指令値(目標旋回角速度)ωrefが増加する方式が採用されている。但し、操作部14はジョイスティックを用いた方式に限定されるものではない。
【0028】
図3に示すように、センサ系は、車体11に設けられたレートジャイロ(ヨー方向(天地方向、図1および2における±Z方向)を軸とする旋回角速度(ヨーレート)を検出する旋回角速度検出部を含む)51、加速度計52、右の車輪エンコーダ53R、および左の車輪エンコーダ53Lを備えている。レートジャイロ51および加速度計52の信号は、それぞれ制御部2内のAD変換器21を介してCPU23に入力される。各車輪エンコーダ53R、53Lの信号は、それぞれ制御部2内のカウンタ22を介してCPU23に入力される。なお、レートジャイロ51の機能のうちヨーレートを検出する機能は左右車輪の車輪エンコーダ53R、53Lにより代用することが出来る。つまり、左右車輪の回転速度をそれぞれの車輪エンコーダ53R、53Lから取得し、その回転速度差を算出した上で、それぞれの車輪の径を考慮することで車体11のヨーレートを検出することができる(レートジャイロ51のヨーレート検出機能に代えて車輪エンコーダ53R、53Lを採用した場合、ヨーレートの測定は以下の説明におけるレートジャイロ51を用いてヨーレートを測定する際の説明がほぼそのまま適用できる。)。
【0029】
レートジャイロ51によれば、車体11の重心位置Gを中心とするピッチ方向の角速度、ロール方向の角速度、およびヨー方向の角速度(実旋回角速度)がそれぞれ検知される。ピッチ方向とは、ビークル1の前進後退方向(図2の矢印Fx、Rx方向)において、車輪12の径方向の中心12aの周りに回転運動する方向を意味する。なお、左右の車輪12R、12Lの回転中心12aを結んだ回転軸線は、ピッチ方向の運動の中心であるピッチ軸に相当する。
【0030】
加速度計52は、ビークル1の車体11の前進後退方向(x方向)の加速度、車体11の左右移動方向(y方向)の加速度、車体11の上下方向(z方向)の加速度をそれぞれ検知することができる。加速度計52の出力値は、ビークル1がピッチ方向に傾斜しているとき、重力加速度gの影響を受ける。このため、加速度計52は、ビークル1のピッチ角度θ1(図2参照)やロール角度を検知することができる。
【0031】
このように、レートジャイロ51および加速度計52は、図2の水平線に対する路面90の路面傾斜角度αx、すなわち車体11のピッチ方向の傾斜角度θ1を求めるセンサとして機能することができる。更に、レートジャイロ51および加速度計52は、図Aの水平線に対する路面90の路面傾斜角度αy、すなわち車体11のピッチ方向の傾斜角度θ2を求めるセンサとしても機能することができる。
【0032】
路面傾斜角度αxの検知形態について、更に説明を加える。図4は、加速度信号およびレートジャイロ信号に基づいた物理量をフィルタ処理して路面傾斜角度αxを算出する形態を説明する説明図である。加速度計52は、路面90の路面傾斜角度αxを検知する傾斜計としての利用が可能である。しかしながら、加速度計52は車体11の前進後退の加速度の影響を受けるため、それが路面傾斜角度αxの計測誤差の要因となる。一方、レートジャイロ51が求めたレートジャイロ信号をCPU23で積分することにより路面傾斜角度αxが得られるが、積分によるドリフトの累積誤差が問題となる。ピッチ方向の路面傾斜角度αxにおける上述の説明はロール方向の路面傾斜角度αyについても同様に適用できる(図4における記載のうち、x軸方向をy軸方向に、ピッチ方向をロール方向にそれぞれ修正することによりロール方向の路面傾斜角度αyについての説明に変換できる。以下、「ピッチ方向の路面傾斜角度αx」についての説明を行うことにより「ロール方向の路面傾斜角度αy」についての説明も併せて行う。)。
【0033】
そこで、図4に示すように、制御部2は、一方のセンサとしての加速度計52から求めたビークル1のx方向の加速度の出力accxに基づいて、重力加速度gを考慮し、sin−1(accx/g)の値を求める。更に、その値をローパスフィルタ(カットオフ周波数fc)でフィルタリングして、高周波域のノイズを除去した値θHL1xを求める。また、制御部2は、他方のセンサとしてのレートジャイロ51の出力値であるピッチ方向の旋回角速度ωgpitを時間積分した積分値を求め、その積分値をハイパスフィルタ(カットオフ周波数fc)でフィルタリングして、低周波域のノイズを除去した値θHL2xを求める。
【0034】
制御部2は、2つの値θHL1xおよび値θHL2xを加算して路面傾斜角度αxを求める。上記したように加速度計52の出力値に基づく値θHL1xについては、ローパスフィルタによりフィルタリングしている。これに対して、レートジャイロ51の出力値に基づく値θHL2xについては、ハイパスフィルタによりフィルタリングしている。つまり、高周波域で精度が充分ではない加速度計52と、低周波域で精度が充分ではないレートジャイロ51とで、それぞれのセンサ特性を互いに補い合っている。これにより、低周波数域から高周波数域を通して路面傾斜角度αxの検知精度を高めることができる。なお、ローパスフィルタのカットオフ周波数fcはハイパスフィルタのカットオフ周波数fcと同値にするのが好ましく、これに限定されない。
【0035】
右の車輪エンコーダ53Rは、右車輪12Rの回転角度θRを検知する右車輪センサであり、後述する左の車輪のエンコーダ53Lと併せてビークル1の速度センサとしても機能する。左の車輪エンコーダ53Lは、左車輪12Lの回転角度θLを検知する左車輪センサであり、右の車輪エンコーダ53Rと併せてビークル1の速度センサとしても機能する。CPU23により、右車輪12Rの回転角度θR、および左車輪12Lの回転角度θLをそれぞれ時間微分すると、右車輪12Rの回転角速度θドットR、および左車輪12Lの回転角速度θドットLが得られる。ドットは微分値を意味する。つまり、右左の車輪エンコーダ53R、53Lは、回転角速度θドットR、θドットLを検知する回転角速度センサとしても機能する。
【0036】
制御部2は、インターフェース機能をもつAD変換器21と、カウンタ22と、単数または複数のCPU23と、インターフェース機能をもつDA変換器24とを備える。AD変換器21は、操作部14、レートジャイロ51、および加速度計52から入力された信号をAD変換してCPU23に受け渡す。カウンタ22は、右の車輪エンコーダ53Rおよび左の車輪エンコーダ53Lから入力された信号をCPU23に受け渡す。CPU23は、AD変換器21およびカウンタ22から各種信号を受け取り、後述する各種の演算を行ってビークル1の走行制御に必要な実指令値を求める。DA変換器24は、CPU23の実指令値をDA変換して車両駆動系に出力する。
【0037】
車輪駆動系は、右の車輪モータ13R、右の車輪モータドライバ131、左の車輪モータ13L、および左の車輪モータドライバ132を備えている。右左の車輪モータドライバ131、132には、CPU23からDA変換器24を介して実指令値が入力される。右の車輪モータドライバ131により右の車輪モータ13Rが制御され、右車輪12Rの回転駆動が制御される。左の車輪モータドライバ132により左の車輪モータ13Lが制御され、左車輪12Lの回転駆動が制御される。
【0038】
着座部10に着座している使用者が操作部14を操作すると、操作部14の操作に応じて、ビークル1の直進速度指令値Vrefおよび旋回角速度指令値ωrefが制御部2へと出力される。制御部2で、直進速度指令値Vrefおよび旋回角速度指令値ωrefは、例えば、次の式(1)に基づいて右車輪12Rの回転角速度指令値θドットR_refに変換され、且つ、式(2)に基づいて左車輪12Lの回転角速度指令値θドットL_refに変換される。式(1)および式(2)において、Tは右車輪12Rと左車輪12Lとの間の距離(トレッド)を示す。R_rは右車輪12Rの半径を示す。R_lは左車輪12Lの半径を示す。
【0039】
【数1】
【0040】
【数2】
【0041】
式(1)および式(2)によれば、直進速度指令値Vrefが大きいほど、且つ、右車輪12Rの半径R_rおよび左車輪12Lの半径R_lが小さいほど、右車輪12Rの回転角速度指令値θドットR_refおよび左車輪12Lの回転角速度指令値θドットL_refは増加する。右左の回転角速度指令値θドットR_ref、θドットL_refは、実指令値である。
【0042】
更に、制御部2で、下記の式(3)に基づいて右車輪12Rの駆動トルクTRが求められ、同様に、下記の式(4)に基づいて左車輪12Lの駆動トルクTLが求められる。
【0043】
【数3】
【0044】
【数4】
【0045】
式(3)および式(4)において、KVRは右車輪12Rの回転角速度フィードバックゲインを示し、KVLは左車輪12Lの回転角速度フィードバックゲインを示す。また、KPRは右車輪12Rの回転角度フィードバックゲインを示し、KPLは左車輪12Lの回転角度フィードバックゲインを示す。θRは右車輪12Rの回転角度を示し、θLは左車輪12Lの回転角度を示す。θドットRは右車輪12Rの回転角度を時間で微分した回転角速度を示す。θドットLは左車輪12Lの回転角度を時間で微分した回転角速度を示す。求められた右左の駆動トルクTR、TLは実指令値である。
【0046】
式(3)によれば、検知された右車輪12Rの回転角速度θドットRと、指令された右車輪12Rの回転角速度指令値θドットR_refとの差が大きいほど、右車輪12Rの駆動トルクTRが大きい。また式(4)によれば、検知された左車輪12Lの回転角速度θドットLと、指令された左車輪12Lの回転角速度指令値θドットL_refとの差が大きいほど、左車輪12Lの駆動トルクTLが大きい。
【0047】
このように求められた右車輪12Rの駆動トルクTRおよび左車輪12Lの駆動トルクTLに基づいて、ビークル1の前進後退の制御および旋回の制御が制御部2により実現される。右車輪12Rの駆動トルクTRおよび左車輪12Lの駆動トルクTLが基本的に同一であれば、ビークル1は直進する。右車輪12Rの駆動トルクTRが左車輪12Lの駆動トルクTLよりも大きければ、ビークル1は左方に旋回走行する。左車輪12Lの駆動トルクTLが右車輪12Rの駆動トルクTRがよりも大きければ、ビークル1は右方に旋回走行する。
【0048】
なお、右車輪12Rおよび左車輪12Lの半径R_r、半径R_lは、基本的には通常ほぼ同じ長さであると考えられるため、次の式(5)が成立する。従って、式(1)および式(2)において式(5)を代入し、演算処理を簡素化してもよい。
【0049】
【数5】
【0050】
本実施形態において、制御部2は、制御則1(図8参照)、制御則2(図9参照)および制御則3(図10図11参照)を実施する。制御則1は、ビークル1の車体走行速度が法定最高速度を超えないように実指令値を補正する制御である。制御則2は、ビークル1の右車輪12Rおよび左車輪12Lの径のアンバランスや、車体11のフレームの歪みに対して直進走行性を確保するために実指令値を補正する制御である。制御則3は、本発明のパーソナルビークルの制御部が必須に行う演算内容に相当し、カント走行時にビークル1のずり落ちを防止して直進走行性を向上するための制御である。
【0051】
(制御則1)
本実施形態で実施する制御則1は次のとおりである。通常、ビークル1の車体走行速度は、次のように制御部2で求められる。すなわち、右車輪12Rの回転角速度θドットRおよび左車輪12Lの回転角速度θドットLは、車輪エンコーダ53R、53Lにて検知された回転角度θR、θLを時間微分して求められる。従って、ビークル1の車体走行速度Venは、回転角速度θドットRと右車輪12Rの半径R_rとの乗算、および回転角速度θドットLと左車輪12Lの半径R_lとの乗算で算出される。
【0052】
しかし、タイヤ空気圧の増加や新品のタイヤへの交換等によってタイヤ径(車輪の径)が増加しているおそれがある。この場合、車輪エンコーダ53R、53Lに基づいて算出されたビークル1の車体走行速度Venに誤差が生じ、実際の車体走行速度が法定最高速度を超えてしまうおそれがある。ビークル1は電動式の車いすであり、法定最高速度が6km/hに規定されているので、これを超えて走行することを回避する必要がある。
【0053】
そこで、実施形態のパーソナルビークル制御装置は、制御則1を実施する。すなわち、加速度計52を用いる第1の方法、および車輪エンコーダ53R、53Lを用いる第2の方法で別々に車体走行速度を求め、ふたつの車体走行速度を比較して第2の方法に含まれる車輪の径を補正することにより、法定最高速度を超えて走行するおそれを解消する。まず、加速度の時間積分は速度に相当するので、加速度計52で検知されたx方向加速度accxを時間積分することにより、第1の車体走行速度Vaccを求める。ただし、加速度計52はビークル1が走行する路面90の路面傾斜角度αx(図2参照)が大きいほど重力加速度gの影響を大きく受けるおそれがあるので、この影響をキャンセルする。
【0054】
すなわち、加速度計52から出力された車体11の進行方向(x方向)の加速度accxの信号は、重力加速度gの影響で路面90の路面傾斜角度αxに応じた加速度を含んでいる。このため、次の式(6)のように、重力加速度gの影響による加速度成分をキャンセルし、1階積分を行うことにより、加速度accxに基づいて第1の車体走行速度Vaccを求めることができる。
【0055】
【数6】
【0056】
式(6)において、accxは加速度計52から出力されたx方向加速度を示す。また、路面傾斜角度αxには、図4で説明したフィルタ処理の形態で算出された値を用いる。Vaccは、加速度計52を用いる第1の方法で求めた第1の車体走行速度である。この場合、前述したように積分誤差が累積するという問題が避けられないおそれがあるため、車輪エンコーダ53R、53Lに基づいて求められた第2の車体走行速度Venが0のとき、つまり、ビークル1の停止状態において第1の車体走行速度Vaccを初期化して0とする。そして、ビークル1の加速が認められてから一定時間aの間のみ、加速度計52から出力された加速度accxに基づいて、第1の車体走行速度Vaccを求める。説明が前後するが、車輪エンコーダ53R、53Lを用いる第2の方法では、右左の車輪12R、12Lの回転角速度θドットR、θドットLに左右の車輪12R、12Lの径の平均値Rを乗算して第2の車体走行速度Ven を計算する。次に、第1の車体走行速度Vaccと、第2の車体走行速度Venとの比Z(=Vacc/Ven)を求め、閾値βを考慮し、次の式(8)および式(9)の比較を行う。なお、ビークル1の直進走行時には、左右の車輪の径Rが等しいことを条件として式(7)が成立する。
【0057】
【数7】
【0058】
【数8】
【0059】
【数9】
【0060】
第1の車体走行速度Vaccおよび第2の車体走行速度Venに差があるとき、比Zは1にならない。その比Zと一定の第1値(1+β)とを比較し、比Zと一定の第2値(1−β)とを比較する。そして、比Zが第1値(1+β)よりも大きいか、比Zが第2値(1−β)よりも小さいかを判定する。車輪12R、12Lの半径R_r、R_lが変化したことを検知するための閾値βにより、判定感度が調整される。
【0061】
式(8)および式(9)を満足させる時間が所定時間bを超えているとき、制御部2は、右車輪12Rの半径R_rおよび/または左車輪12Lの半径R_rが変化しており、ビークル1の直進速度追従性が低下していると判断する。そのとき、制御部2は、車輪12R、12Lの半径R_r、R_lの平均値Rを更新すべく、車輪の半径の更新値R_newを式(10)に基づいて求める。
【0062】
【数10】
【0063】
このように車輪の半径の更新値R_newとして、右車輪12Rの半径R_rおよび左車輪12Lの半径R_lが補正される。そして、補正された右車輪12Rの半径R_rおよび左車輪12Lの半径R_lが式(1)および式(2)に代入され、右車輪12Rの回転角速度指令値θドットR_refおよび左車輪12Lの回転角速度指令値θドットL_refが補正される。ひいては、式(3)に基づいて、右車輪12Rの駆動トルクTRが補正され、式(4)に基づいて、左車輪12Lの駆動トルクTLが補正される。このように補正された右車輪12Rの駆動トルクTRおよび左車輪12Lの駆動トルクTLに基づいて、ビークル1の走行制御が実現される。これにより、実指令値を補正して、ビークル1の車体走行速度が法定最高速度を超えないように制御できる。
【0064】
以上に説明した制御則1のフローチャートは図8に示すとおりである。図8に示すように、ビークル1の電源がオンされると(ステップS102でYESの場合)、制御部2は、車輪エンコーダ53R、53Lに基づいて算出される第2の車体走行速度Venが0か否か判定する(ステップS104)。第2の車体走行速度Venが0であるとき(ステップS104でYESの場合)、制御部2は、加速度計52の出力値の積分により得られる第1の車体走行速度Vaccを初期化する(ステップS106)。
【0065】
更に、制御部2は、レートジャイロ51からの信号により、ビークル1が平地直進の最高速度以内か否かを判定する(ステップS108)。ビークル1が平地直進の最高速度以内であれば(ステップS108でYESの場合)、制御部2は、前記した式(6)を用いて第1の車体走行速度Vaccを求める(ステップS110)。次に、制御部2は、初期化からの経過時間が所定時間a以内か否か判定する(ステップS112)。所定時間a以内であれば(ステップS112でYESの場合)、制御部2は、車輪エンコーダ53R、53Lの出力値に基づいて、第2の車体走行速度Venを求める(ステップS114)。次に、第1の車体走行速度Vaccと第2の車体走行速度Venとの比率Zを求める(ステップS116)。なお、比率Zに代えて、第1の車体走行速度Vaccから第2の車体走行速度Venを減算した差Dを求めてもよい(D=Vacc−Ven)。
【0066】
次に、制御部2は、比率Zまたは差Dが初期値または前回測定値(閾値)と差があるか否か判定する(ステップS118)。差があれば(ステップS118でYESの場合)、所定時間b以上継続しているか否かを判定する(ステップS120)。所定時間b以上継続していれば(ステップS120でYESの場合)、制御部2は、右車輪12Rの半径R_rおよび/または左車輪12Lの半径R_rが変化しており、ビークル1の車体走行速度が変化していると判断する。次に、ビークル1の実際の車体走行速度が法定最高速度を超えないように、車輪の半径R_r、R_lおよび実指令値を補正する(ステップS122)。具体的な補正については、式(10)、式(1)、式(2)、式(3)、および式(4)に基づいて実施することができる。なお、ステップS102、S104、S108、S112、S118、およびS120の各判断ステップで条件が満たされないNOの場合には、直ちにフローを終了する。
【0067】
(制御則2)
本実施形態で実施する制御則2は次のとおりである。ビークル1で、右車輪12Rの半径R_rと左車輪12Lの半径R_lとにアンバランスが発生していたり、車体11のフレームに歪みが発生していたりすることがある。その要因としては、右車輪12Rおよび左車輪12Lを構成するタイヤの空気圧の変動やタイヤの摩耗等が挙げられる。このような場合には、車体11が平地直進するように操作部14が操作されているときであっても、車体11の直進走行性が損なわれるおそれがある。
【0068】
そこで、実施形態のパーソナルビークル制御装置は、制御則2を実施する。制御部2は、レートジャイロ51からの信号によってビークル1が平地直進していると判定されるときに、制御則2を実施する。制御部2は、まず、レートジャイロ51で検知されたヨー軸に対する車体11の旋回に関する物理量である第1の旋回角速度ωgyawと、車輪エンコーダ53R、53Lに基づいて求められた車体11の旋回に関する物理量である第2の旋回角速度ωenとを求める。そして、制御部2は、両者の差または両者の比率が所定値以上で、且つ、所定時間d以上継続するとき、右車輪12Rの半径R_rと左車輪12Lの半径R_lとにアンバランスが発生し、または車体11のフレームのアンバランスが発生していると推定する。これにより、制御部2は、実指令値を補正して、車体11の平地における直進走行性が確保される。
【0069】
以下、上記した制御則2について、更に説明を加える。制御部2は、レートジャイロ51から求めた第1の旋回角速度ωgyawと、車輪エンコーダ53R、53Lから計算で求めた第2の旋回角速度ωenとの差の絶対値Dabs(=|ωgyaw−ωen|)を求める。制御部2は、この差の絶対値Dabsと閾値βωとの大小関係を式(11)に基づいて監視する。なお、閾値βωは、右車輪12Rおよび左車輪12Lの径のアンバランスを検知するための量であり、閾値βωにより判定感度が調整される。
【0070】
【数11】
【0071】
式(11)の満足される時間が所定時間d以上継続する場合、制御部2は、車輪径のアンバランスまたはフレームの歪みが発生していると判断する。ここで、車輪径のアンバランスに起因するとき、旋回角速度の差の絶対値Dabsが大きいほど、右車輪12Rの半径R_rと左車輪12Lの半径R_lとの差が大きく、平地におけるビークル1の直進走行性が損なわれていると考えられる。なお、右車輪12Rの半径R_rと左車輪12Lの半径R_lとの差R_diff_newは、式(12)に基づいて求められる。
【0072】
【数12】
【0073】
更に、式(10)および式(12)で計算された値を用いて、右車輪12Rの半径R_rは、下記の式(13)のように補正されて更新される。また、左車輪12Lの半径R_lは、下記の式(14)のように補正されて更新される。
【0074】
【数13】
【0075】
【数14】
【0076】
そして、右車輪12Rの半径R_rおよび左車輪12Lの半径R_lが式(1)および式(2)に代入されることにより、右車輪12Rの回転角速度指令値θドットR_refが補正され、且つ、左車輪12Lの回転角速度指令値θドットL_refが補正される。そして、式(3)および式(4)に基づいて、右車輪12Rの半径R_rおよび左車輪12Lの半径R_lに応じて、右車輪12Rの駆動トルクTRおよび左車輪12Lの駆動トルクTLが補正される。これにより、ビークル1が平地を直進走行するときに、ビークル1の車体走行速度やビークル1の直進走行性を確保することができる。
【0077】
以上に説明した制御則2のフローチャートは図9に示すとおりである。図9に示すように、制御部2は、まず操作部14の原指令値の信号を読み込む(ステップS202)。制御部2は、ビークル1が平地直進指令か否かを判定する(ステップS204)。平地直進指令であれば(ステップS204でYESの場合)、制御部2は、レートジャイロ51の出力値から第1の旋回角速度ωgyawを求め(ステップS206)、且つ、車輪エンコーダ53R、53Lの出力値から第2の旋回角速度ωenを求める(ステップS208)。更に、制御部2は、第1の旋回角速度ωgyawと第2の旋回角速度ωenとの差の絶対値Dabsを求める(ステップS210)。なお、差の絶対値Dabsに限定されず、正負の符号付きの差D2、または第1の旋回角速度ωgyawを第2の旋回角速度ωenで除算した比率Z2を求めるようにしてもよい。
【0078】
次に、制御部2は、差の絶対値Dabs(または差D2あるいは比率Z2)が初期値または前回測定値(閾値)と差があるか否か判定する(ステップS212)。差があるとき(ステップS212でYESの場合)、制御部2は、差のある時間が所定時間d以上継続しているか否かを判定する(ステップS214)。そして、所定時間d以上継続していれば(ステップS214でYESの場合)、制御部2は、右車輪12Rの半径R_rと左車輪12Lの半径R_lとにアンバランスが生じていると判断する。このとき、制御部2は、右車輪12Rの半径R_rと左車輪12Lの半径R_lとの差R_diff_newを求める(ステップS216)。
【0079】
右車輪12Rの半径R_rは、式(13)のように補正されて更新され、且つ、左車輪12Lの半径R_lは、式(14)のように補正されて更新される(ステップS218)。そして、補正された半径R_r、径R_lが式(1)および式(2)に代入されて、右車輪12Rの回転角速度指令値θドットR_refおよび左車輪12Lの回転角速度指令値θドットL_refが補正される(ステップS220)。更に、式(3)および式(4)に基づいて、右車輪12Rの駆動トルクTRおよび左車輪12Lの駆動トルクTLが補正される(ステップS222)。なお、ステップS204、S212、およびS214の各判断ステップで条件が満たされないNOの場合には、直ちにフローを終了する。
【0080】
(制御則3)
本実施形態で実施する制御則3は次のとおりである。制御則3は、図5に例示されたカント走行時に行うビークル1のずり落ちを防止して直進走行性を向上する制御である。図5は、図1に示したパーソナルビークルがカント走行している状態を模式的に説明する背面図である。図5に示すように、路面90のロール角度αyが大きいとき、ビークル1がカント走行する場合に、ヨー軸回りのモーメントが発生するおそれがある。この場合、ビークル1に着座している使用者が、操作部14(ジョイスティック)で路面90を横切る方向(図5の紙面の垂直方向)に直進走行指令を入力しているにもかかわらず、路面90の斜面下方へ向けてビークル1が重力の影響でずり落ちるおそれがある(図5中の白抜きの幅広の矢印参照。片流れ。)。
【0081】
そこで、実施形態のパーソナルビークル制御装置は、制御則3を実施する。制御則3として第1演算則、および第2演算則に分解して説明する。第1および2演算則のうち、第1演算則は必須の演算則である。
第1演算則は、操作部から入力された旋回角度に関する指令値と、ヨー軸に対する旋回角速度との差および原指令値に基づいて、その差が小さくなるように実指令値を求め、更に、操作部から入力された旋回角度に関する指令値と、ヨー軸に対する旋回角速度との差を時間積分した積分値を求め、求めた積分値および原指令値に基づいて、その差が小さくなるように実指令値を求める演算則である。
【0082】
第2演算則は、算出又は検出されたロール角度および前記原指令値に基づいて、前記右車輪および前記左車輪を駆動するための回転角速度に関する実指令値を求める演算則である。
【0083】
・第1演算則(途中まで)
まず、第1演算則について説明する。制御部2は、レートジャイロ51により検知されるビークル1のヨー軸に対する旋回角速度ωgyawを求める。制御部2は、次に、操作部14から入力された旋回角速度指令値ωrefを求める。制御部2は、更に、旋回角速度指令値ωrefと旋回角速度ωgyawとの差(ωref−ωgyaw)を求める。差(ωref−ωgyaw)が大きいほど、路面90をカント走行するビークル1はずり落ちるおそれが増加する。この差(ωref−ωgyaw)はいわゆる比例項として用いる。また、式(15)に基づいて、制御部2は、差(ωref−ωgyaw)を時間積分した積分値θiを求める。積分値θiは、車体11の旋回角度の指令値と実測値との差に相当する。従って、積分値θiが大きいほど、路面90をカント走行するビークル1のずり落ち量(片流れ量)が大きい。積分値θiはいわゆる積分項として用いる。
【0084】
【数15】
【0085】
・第2演算則(途中まで)
次に、第2演算則の途中までについて説明する。制御部2は、図4で説明した路面傾斜角度αxの検知形態と同様な図6の形態で、ビークル1および路面90のロール角度αyを精度よく求める。図6は、加速度信号およびレートジャイロ信号に基づいた物理量をフィルタ処理して路面90のロール角度αyを算出する形態を説明する説明図である。図6に示すように、制御部2は、一方のセンサとしての加速度計52から求めたビークル1のy方向の加速度の出力accyに基づいて、重力加速度gを考慮し、sin−1(accy/g)の値を求める。更に、その値をローパスフィルタ(カットオフ周波数fc)でフィルタリングして、高周波域のノイズを除去した値θHL1yを求める。また、制御部2は、他方のセンサとしてのレートジャイロ51の出力値であるロール方向の旋回角速度ωgrolを時間積分した積分値を求め、その積分値をハイパスフィルタ(カットオフ周波数fc)でフィルタリングして、低周波域のノイズを除去した値θHL2yを求める。そして、制御部2は、ふたつの値θHL1yおよび値θHL2yを加算してロール角度αyを求める。
【0086】
・第1及び第2演算則(続き)
次に、第1および第2演算則の途中以降について、一括して説明する。制御部2は、式(16)に基づいて、差(ωref−ωgyaw)(第1演算則)、差(ωref−ωgyaw)の積分値θi(第1演算則)、およびロール角度αy(第2演算則)を考慮しつつ、右車輪12Rの回転角速度指令値θドットR_refを求める。更に、制御部2は、式(17)に基づいて、差(ωref−ωgyaw)(第1演算則)、差の積分値θi(第1演算則)、およびロール角度αy(第2演算則)を考慮しつつ、左車輪12Lの回転角速度指令値θドットL_refを求める。このような実指令値の演算は、原指令値である直進速度指令値Vrefおよび旋回角速度指令値ωrefに基づく演算、ならびに、フィードフォワード制御およびフィードバック制御による補正演算で実現されている。
【0087】
詳述すると、式(16)および式(17)の右辺は、5つの項で構成されている。右辺の第1項は直進速度指令値Vrefを車輪の半径R_r、R_lで除算した項であり、第2項は右左の車輪間距離T(トレッド)を車輪の半径R_r、R_lの2倍で除算して旋回角速度指令値ωrefを乗算した項である。つまり、第1項および第2項は原指令値に基づいた項である。また、差(ωref−ωgyaw)に旋回角速度フィードバックゲインKωを乗算した第3項は、第1演算則に係る項であり、換言すれば比例項を用いたフィードバック制御の項である。積分値θiに旋回角度フィードバックゲインKωiを乗算した第4項は、第1演算則に係る項であり、換言すれば積分項を用いたフィードバック制御の項である。
【0088】
本実施形態では旋回角度フィードバックゲインKωiの値が可変であることが特徴になっている。旋回角度フィードバックゲインKωiは差(ωref−ωgyaw)の大きさに応じて変化させる。例えば(a)旋回角度フィードバックゲインKωiの値として複数の大きさの値を用意しておき、差(ωref−ωgyaw)の大きさにより選択する方法、(b)差(ωref−ωgyaw)の大きさに比例した値にする方法である。
【0089】
(a)の方法として具体的には差(ωref−ωgyaw)が所定値より大きくなった場合に旋回角度フィードバックゲインKωiをそれまで設定している値よりも大きな値に変更する方法が挙げられる。大きな値に変更する時間としては差(ωref−ωgyaw)が所定値より大きくなっている間だけ大きな値にする方法、差(ωref−ωgyaw)が所定値より大きくなった時から所定時間だけ大きな値にする方法、差(ωref−ωgyaw)が所定値より大きくなった後、差(ωref−ωgyaw)が所定値以下に戻った後も所定の時間は大きな値に保持する方法などがある。
【0090】
(b)の方法として具体的には、旋回角度フィードバックゲインKωiを差(ωref−ωgyaw)に比例する値にそのまま設定する方法が挙げられる。例えば、単純に比例する場合:Kωi=γ・|ωref−ωgyaw|、最低値が設定される場合:Kωi=γ・|ωref−ωgyaw|+Lなどが考えられる。ここで、|ωref−ωgyaw|は、差(ωref−ωgyaw)の絶対値である。なお、γの値は大きくすることにより差(ωref−ωgyaw)が大きくなるにつれて積分項の影響が大きくなるようになり、Lの値は差(ωref−ωgyaw)の大きさにかかわらず想定される積分項の影響を表す値である。また、差(ωref−ωgyaw)が大きくなったときに旋回角度フィードバックゲインKωiが大きくなり過ぎないように旋回角度フィードバックゲインKωiの値としては一定の上限値を設定することができる。
【0091】
更に、差(ωref−ωgyaw)に比例する場合以外に、任意の関数にて旋回角度フィードバックゲインKωiを算出するようにしても良い。例えば、前述の(a)の方法は関数としてステップ関数を採用しても表現可能である。
【0092】
また、旋回角度フィードバックゲインKωiの値を差(ωref−ωgyaw)の大きさから算出する場合であっても、一旦、旋回角度フィードバックゲインKωiの値が上昇した場合には一定時間はその値を保持し、しばらくは積分項が寄与する大きさを大きく保っておくような関数を採用することも出来る。
【0093】
なお、旋回角度フィードバックゲインKωiの値としてあまりに大きい値が設定されると積分項による補正が急激に大きなものになるため、旋回角度フィードバックゲインKωiの値としては上限を設けることが望ましい。
【0094】
ロール角度αyにロール角度フィードフォワードゲインKrを乗算した第5項は、第2演算則に係る項であり、換言すればフィードフォワード制御によりカント走行開始時などに速やかな補正行う項である。この第5項は旋回角度フィードバックゲインKωiの値を可変にしたことにより同等の機能が実現可能になったため、省略可能である。
【0095】
第1項のみは、式(16)および式(17)でともに正符号である。また、第2項〜第5項は、互いに絶対値が等しく、式(16)で正符号、式(17)で負符号となっている。なお、式(16)および式(17)の第3項は、差(ωref−ωgyaw)の代わりに旋回角速度指令値ωrefと旋回角速度ωgyawとの比率(ωref/ωgyaw)を含む項や、差(ωref−ωgyaw)および比率(ωref/ωgyaw)の両方を含む項に置き換えることもできる。
【0096】
そして、求められた回転角速度指令値θドットR_ref、θドットL_refが式(3)および式(4)に代入されることにより、右車輪12Rの駆動トルクTRおよび左車輪12Lの駆動トルクTLが求められる。これにより、路面90をカント走行するビークル1のずり落ちが抑制され、ビークル1の直進走行性が確保される。
【0097】
ここで、式(16)および式(17)に基づけば、差(ωref−ωgyaw)が大きいほど、右車輪12Rの回転角速度指令値θドットR_refと左車輪12Lの回転角速度指令値θドットL_refとの差が増加する。且つ、差(ωref−ωgyaw)が小さいほど、右車輪12Rの回転角速度指令値θドットR_refと左車輪12Lの回転角速度指令値θドットL_refとの差が減少する。このためカント走行のときには、差(ωref−ωgyaw)を減少させるように(好ましくは0にさせるように)することが好ましい。式(16)、式(17)においては右車輪12Rの回転角速度指令値θドットR_refと左車輪12Lの回転角速度指令値θドットL_refとを直接導出しているが、計算の途中に種々の物理量を介して計算を行うことができるのは言う迄も無い。
【0098】
【数16】
【0099】
【数17】
【0100】
・制御則3のフローチャートによる説明
以上に説明した制御則3のフローチャートは図10に示すとおりである。また、本制御則3のブロック図を図11に示す。図10および図11に示すように、制御部2は、操作部14から原指令値を読み込み、且つ、各センサ51、52、53R、53Lの出力値を読み込む(ステップS302)。次に、制御部2は、レートジャイロ51により検知されるヨー軸に対するビークル1の旋回角速度ωgyawを求める(ステップS306)。次に、制御部2は、原指令値のうちの旋回角速度指令値ωrefを求める(ステップS308)。更に、制御部2は、旋回角速度指令値ωrefと旋回角速度ωgyawとの差(ωref−ωgyaw)または比率を求める(ステップS310)。
【0101】
次に、制御部2は、式(13)を用いて差(ωref−ωgyaw)の積分値θiを求める(ステップS312)。このとき積分値θiに上限値を設定しておくことにより、積分値θiに基づいて急激に実指令値が補正されることを防止し、実指令値を滑らかに変化させることが可能となる。そして、積分値θiが一定値以下になっている時間が一定時間継続すると(ステップS314でYESの場合)、カント走行の状況が変化したと判断して、積分値θiを0にリセットして(ステップS316)、ステップS318に進む。一方、積分値θiが一定値を超える場合や一定値以下でも一定時間継続していない場合には(ステップS314でNOの場合)、そのままステップS318に進む。
【0102】
次に、差(ωref−ωgyaw)、ωrefとωgyawとの比率、または積分値θiが一定値以上であれば(ステップS318でYESの場合)、制御部2は、レートジャイロ51から出力された旋回角速度ωgrolおよび加速度計52から出力されたy方向加速度accyに基づいて、ロール角度αyを精度よく求める(ステップS320)。更に、制御部2は、式(16)および式(17)の右辺の第1項から第5項を全て求め、最終的に左辺の回転角速度指令値θドットR_ref、θドットL_refを求める(ステップS322)。ここで、先述したように、積分項θiの係数である旋回角度フィードバックゲインKωiは差(ωref−ωgyaw)の大きさに基づいて大きさが調整される。更に、制御部2は、式(3)および式(4)に基づいて、右左の駆動トルクTR、TLを求める(ステップS324)。
【0103】
(変形形態1)
本形態のパーソナルビークルは、基本的な構成は前述の実施形態1のパーソナルビークルと同じ構成および作用効果を有する。以下では、異なる構成を中心に説明していく。
【0104】
本形態のパーソナルビークルで用いられる制御部2は、右車輪エンコーダ53Rと左車輪エンコーダ53Lと組み合わされて旋回角速度検出部を構成する。つまり、制御部2は、右車輪エンコーダ53R及び左車輪エンコーダ53Lから入力される回転角度θR及びθLから、各車輪12R及び12Lの回転角速度を算出し、その各車輪12R及び12Lの回転角速度と各車輪12R及び12Lの有効径とから各車輪12R及び12Lの速度を算出する。制御部2は算出した各車輪12R及び12Lの速度の差に基づきヨー方向の角速度(実旋回角速度)を算出する。実旋回角速度が0で有れば各車輪12R及び12Lの速度は同じになり、その差が大きいほど実旋回角速度が大きくなる。
【0105】
そのため本形態の構成においてはレートジャイロ51がヨー方向の角速度(実旋回角速度)を検知する必要がなく、ヨー方向のレートジャイロを削減できるため、安価な構成となる。
【0106】
(変形形態2)
本形態のパーソナルビークルは、基本的な構成は前述の実施形態1又は変形形態1のパーソナルビークルと同じ構成および作用効果を有する。以下では、異なる構成を中心に説明していく。
【0107】
本形態のパーソナルビークルで用いられる制御部2は、図12に示すように、車輪有効半径補正部B1と実旋回角速度計算部B2とを有する。車輪有効半径補正部B1は、ピッチ角度θ1およびロール角度θ2に基づいて、左右車輪それぞれの半径を補正して、それぞれの有効半径(R_r、R_l)を算出する。旋回角速度検出部B2は、補正・算出された左右車輪の有効半径(R_r、R_l)、左右車軸角速度(θR、θL)、および車両トレッドに基づいて、実旋回角速度を求める。車輪の有効半径を求める方法としては特に限定しないが以下のような方法が例示できる。重心の位置は左右車輪の車軸よりも上にあることが普通であるため、車体が傾くと各車輪に加わる荷重のバランスが変動する重心の車軸からの高さをhとすると、車軸における重心の移動は前後方向ではh・sinθ1、左右方向ではh・sinθ2になり、移動した分だけ、荷重バランスが変化することになる。変化した荷重バランスに応じて各車輪に印加される荷重の大きさが算出でき、その荷重に応じた各車輪の設置面への荷重の大きさ、延いては車輪の基準状態からの凹み具合が算出できる。算出された車輪の凹みを基準状態から差し引くことで各車輪の有効径が算出できる。なお、車輪の半径の補正には上限下限を設けることも出来る。
【0108】
よって、車輪の径を用いて行う制御を精密にすることが可能になる。例えば、車輪の径と車輪の角速度とから各車輪の速度を算出する場合には算出される速度が精密になる(結果、上述した制御則1などを精密に実行できる。)。また、特に変形形態1の構成と併せる場合には、左右の車輪の角速度と有効径とからヨー方向の角速度を求める際の正確性も向上するため、ヨー方向の角速度を測定するセンサを精度良く代替することが可能になる。
【0109】
(その他)
なお、本発明のパーソナルビークルは、上述した実施形態および変形形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができることは言うまでもない。
【0110】
[実施例]
(その1)
以下に述べる実施例により、実施形態で制御部2が実施する制御則3の効果を検証した。図7は、実施形態のパーソナルビークル制御装置で実施する制御則3の効果を説明するグラフであって、パーソナルビークル1において、操作部では直進状態を維持していたときに、右側車輪がマンホールに乗り上げることによって車体が左方向に急旋回したときの挙動を比較した。実施例(本発明)においては上述した制御則3をそのまま適用した場合であり、比較例(従来)では制御則3のうち、差(ωref−ωgyaw)の値によって、旋回角度フィードバックゲインKωiを変動させる制御を行わないものとした。結果を図7に示す。
【0111】
時間t0にてマンホールに乗り上げ、結果、車体が左方向に旋回していることが図7から明らかになった。実施例では実旋回角速度と目標旋回角速度との差(本実施例では目標旋回角速度が0であるため実旋回角速度がそのまま差となる)が比較例よりも小さな値で留まっている。その後、経過時間t1に至ると積分項の補正量が大きくなり、補正量の合計が実旋回角速度が増加する速度(滑りの大きさ)よりも大きくなって車体の向き(車体旋回角度)が小さくなっていくことが分かった。その後、経過時間t2において実施例においては当初の目標としていた車体旋回角度(0°)近傍に向けて車体が進行しているのに対して比較例では初期に大きく目標の方向がずれたことを補正しきれずにずれた方向に向けて直進するようになった。また、実施例の実旋回角速度の変動の幅は比較例の実旋回角速度の変動の幅よりも小さくなっており、安定した走行が実現されていることが分かった。
【0112】
(その2)
以下に述べる実施例により、変形形態2で制御部2が実施する制御則3の効果を検証した。
車体が右方向に傾いた状態で車体を真っ直ぐ直進させたときの制御部内で認識する車体の位置情報を検討した。車体が右方向に傾いているため、右車輪への荷重が左車輪への荷重に比べて高くなり、結果、右車輪の径が左車輪の径よりも小さくなる。図13より明らかなように、補正を行わない比較例では右車輪の回転速度の方が左の車輪の回転速度よりも大きくなって、車輪の径を考慮せずに左右それぞれの速度を算出することで車体は左方向(y軸のマイナス方向)に向けて曲がっているものと認識する(3m進んだところで左方向に0.3m程度曲がっているものと誤認識した)。実施例においては車体の傾きによる車輪の径の補正により右車輪の方が左車輪よりも小さくなっていることを考慮して左右の車輪における速度を算出するため、右車輪の回転速度が増加した分が右車輪の径が小さくなったことで相殺され、結果、直進状態に近い、実際の状態と近似した状態を認識することが可能になった(3m進んだところで左方向に0.05m程度曲がっているものと認識した)。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、電動式の車いす、個人用乗物等に代表されるパーソナルビークルに利用することができる。外乱などにより急激なヨー方向の旋回が生じたときの進行方向の乱れが低減できる。
【符号の説明】
【0114】
1 … パーソナルビークル 10 … 着座部
11 … 車体 12 … 車輪
12R… 右車輪 12L… 左車輪
14 … 操作部 141… 速度指令部
142… 旋回角速度指令部
2 … 制御部
51 … レートジャイロ(軸角度センサ) 52 … 加速度計(軸角度センサ)
53R… 右の車輪エンコーダ(車輪センサ)
53L… 左の車輪エンコーダ(車輪センサ)
accx … x方向加速度 R … 右左の車輪の半径の平均値
R_r … 右車輪の半径 R_l … 左車輪の半径
Vacc … 加速度計に基づく車体走行速度
Ven … 車輪センサに基づく車体走行速度
αy … ロール角度 θR … 右車輪の回転角度
θL … 左車輪の回転角度 θi … 旋回角速度の差の積分値
ωref … 旋回角速度指令値 ωgyaw… 車体の旋回角速度
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10
図11
図12
図13
図14