(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固体金属酸化物に含まれる対象金属を浸出させるに当り、対象金属とは別種の金属イオンを含む溶液中に、前記対象金属を含む固体金属酸化物が存在する状態として、その溶液中で、該固体金属酸化物と前記金属イオンとを接触させることにより、対象金属を溶かし出す金属溶解工程を含み、
前記金属溶解工程で、前記固体金属酸化物に接触させる前記金属イオンとして、該固体金属酸化物中の前記対象金属における酸化還元反応の酸化還元平衡電位に比べ、酸化還元反応の酸化還元電位の低い金属イオンである低電位金属イオンを用い、前記低電位金属イオンが、異なる酸化数をとりうる金属イオンであり、
前記金属溶解工程で、前記低電位金属イオンが小さい酸化数の状態で、固体金属酸化物と接触し、当該低電位金属イオンの酸化数が大きくなるとともに対象金属の酸化数が小さくなる酸化還元反応が起こり、前記低電位金属イオンを酸化により酸化物として沈殿させる、金属酸化物の浸出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、酸浸出で対象金属を直接溶解させる従来の方法では、対象金属の回収率を向上させるために、硫酸等によって対象金属を十分に溶解させることが必要になるが、それには、理論値を大きく上回る過剰な量の酸を要するとともに、還元剤としての過酸化水素水の量も多大なものとなる。たとえば、リチウムイオン二次電池用正極活物質は酸化物であるから、これからCo及びNiを対象金属として回収するには、上記の方法では多くの還元剤が必要であった。
それにより、従来のこの方法では、浸出処理に要するコストが大きく嵩むという問題があった。
【0005】
この発明は、従来技術が抱える上記問題点を解決することを課題とするものであり、その主たる目的は、対象金属を浸出させるに当って、添加する還元剤の量を減らし、又は還元剤の添加を不要とし、それによりコストを有効に低減させることのできる金属酸化物の浸出方法を提供することにある。また、この発明の他の目的は、対象金属の浸出に要する酸の量をも減らすことのできる金属酸化物の浸出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は鋭意検討の結果、たとえば、浸出の対象とする金属を含む粉末状等の固体金属酸化物を、浸出の対象とする金属とは別種の金属イオン溶液中に添加することによって、その溶液中の金属イオンと、固体金属酸化物とを接触させることで、対象金属が溶解する一方で、上記の金属イオンが酸化によって沈殿することを見出した。
そして、このことを利用することで、従来は金属の浸出に必要であった多量の硫酸や過酸化水素等を減らすことができると考えた。
【0007】
このような知見の下、この発明の金属酸化物の浸出方法は、固体金属酸化物に含まれる対象金属を浸出させるに当り、対象金属とは別種の金属イオンを含む溶液中に、前記対象金属を含む固体金属酸化物が存在する状態として、その溶液中で、該固体金属酸化物と前記金属イオンとを接触させることにより、対象金属を溶かし出す金属溶解工程を含
み、前記金属溶解工程で、前記固体金属酸化物に接触させる前記金属イオンとして、該固体金属酸化物中の前記対象金属における酸化還元反応の酸化還元平衡電位に比べ、酸化還元反応の酸化還元電位の低い金属イオンである低電位金属イオンを用い、前記低電位金属イオンが、異なる酸化数をとりうる金属イオンであり、前記金属溶解工程で、前記低電位金属イオンが小さい酸化数の状態で、固体金属酸化物と接触し、当該低電位金属イオンの酸化数が大きくなるとともに対象金属の酸化数が小さくなる酸化還元反応が起こり、前記低電位金属イオンを酸化により酸化物として沈殿させるものである。
【0008】
ここで、前記
対象金属は、Bi、Co、Mn、Ni、Sn、Fe、Mo、Pb、Sb及びTiから選択される少なくとも一種類の金属であることが好ましい
。
またここで、前記
低電位金属イオンが、Pb、Bi、Co、Sn、Zn及びMnから選択される少なくとも一種類の金属のイオンであることが好ましい。
【0009】
ところで、ここでいう固体金属酸化物には、一種類の金属による金属酸化物だけでなく、複数種類の金属による複合金属酸化物も含むものである。この複合金属酸化物の場合は、対象金属と、前記金属溶解工程で固体金属酸化物に接触させる前記金属イオンと同一元素の金属とを含むことがある。
そしてこの場合は、前記金属溶解工程に先立ち、たとえば、鉱酸溶液に当該固体金属酸化物を添加することにより、前記固体金属酸化物中の、主として、前記金属イオンと同一元素の金属を溶解して、該金属イオンを含む溶液を生成する溶液生成工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明の金属酸化物の浸出方法によれば、金属イオンを含む溶液中で、固体金属酸化物と金属イオンとを接触させることにより、固体金属酸化物に含まれる対象金属を、多量の酸や還元剤を要せずして容易に浸出させることができるので、金属浸出処理に要するコストを、従来の方法に比して有効に低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に例示説明する。
この発明の一の実施形態の金属酸化物の浸出方法は、固体金属酸化物に含まれる対象金属を浸出させることを目的として、金属溶解工程を含むものである。この金属溶解工程では、対象金属とは別種の金属イオンを含む溶液中に、前記対象金属を含む固体金属酸化物が存在する状態として、その溶液中で、該固体金属酸化物と前記金属イオンとを接触させることにより、対象金属を溶液中に溶かし出す。
【0012】
ここで、固体金属酸化物は、鉱石を粉砕したもの、又は、各種電池、半導体もしくは電子部品等の様々な用途で使用された金属のリサイクルを目的とする使用済み金属ないし合金を粉砕したもの等のスクラップに含まれることがあり、多くは粒状ないし粉状をなす。この発明の一の実施形態は、そのような固体金属酸化物を含むスクラップに対して実施して、スクラップに含まれる特定の対象金属を浸出させた後に溶媒抽出法または電解法等を行う、スクラップからの金属の回収プロセスの一部として用いることができる。
【0013】
なお、上記の使用済み金属ないし合金としては、たとえば、半導体、電子部品、液晶ディスプレイ、工具コーティング、ガラスコーディング、光ディスク、ハードディスク、太陽電池、リチウムイオン2次電池用正極材、及び、その正極材に用いたスパッタリングターゲット材その他の金属材料等を挙げることができる。
仮に、リチウムイオン電池正極材の粒状もしくは粉状のスクラップを用いる場合は、そのスクラップは、Li、Ni、Co及びMnからなる群から選択される一種類又は二種類以上を含有するものとすることができる。ここでの各金属の含有量は、たとえば、Liを1〜10質量%、Niを5〜50質量%、Coを1〜70質量%、Mnを3〜50質量%とすることができる。
【0014】
またここで、このような固体金属酸化物に含まれ、浸出の対象とする対象金属は、たとえば、Bi、Co、Mn、Ni、Sn、Fe、Mo、Pb、Sb、Ti等から選択される少なくとも一種類とすることができる。
【0015】
そしてまた、固体金属酸化物は、たとえば、一般式A−Oで表わされる単独金属酸化物、又は、一般式A−B−Oで表される複合金属酸化物とすることができる。
固体金属酸化物が、単独金属酸化物(A−O)又は複合金属酸化物(A−B−O)の場合は、金属溶解工程で、それに含まれる対象金属との関係で決定することができる所定の金属イオン(C
+)を含む溶液中に入れることによって、その溶液中に単独金属酸化物又は複合金属酸化物が存在する状態となり、溶液中で単独金属酸化物又は複合金属酸化物と金属イオンとが接触して、当該金属イオン(C
+)が酸化物(C−O)を形成するとともに、単独金属酸化物又は複合金属酸化物に含まれていた対象金属が溶解して他の金属イオン(A
+、B
+)となる。なお、複合金属酸化物(A−B−O)の場合、複合金属酸化物中の特定の金属元素(たとえばA)のみが溶解し、他の金属元素(たとえばB)は当該金属イオン(C
+)との酸化物(B−C−O等)を形成することもある。
【0016】
それにより、この実施形態によれば、溶液中の金属イオンと固体金属酸化物との酸化還元反応で、固体金属酸化物に含まれる対象金属が有効に溶解することになるので、対象金属を直接的に酸浸出させることとする従来の方法に比して、浸出に要する酸や過酸化水素水の量を大きく減らすことができる。それ故に、浸出処理のコストを大幅に低下させることができる。
【0017】
ここにおいて、上述したような、対象金属の浸出における反応を効果的に促進させるため、固体金属酸化物に接触させる前記金属イオンとしては、低電位金属イオンとすることが好ましい。従って、この場合、固体金属酸化物に接触させる金属イオンは、浸出の対象金属の種類に応じて、低電位金属イオンより選択して決定することができる。たとえば、金属イオンとしては、Pb、Bi、Mn、Co、Sn、Z
n等の中から選択される、低電位金属イオンとすることができる。
【0018】
また、上記の低電位金属イオンとする場合、金属イオンは、異なる酸化数をとりうる金属イオンとすることが好ましい。それにより、価数が変化することにより、対象金属を還元して溶解し、自らが酸化し酸化物として沈殿しやすいからである。この異なる酸化数をとりうる金属イオンの元素としては、たとえば、Mn、Pb、Bi、Co等を挙げることができる。なおこれらの金属イオンは固形金属酸化物(対象金属)の中に含有されていても良い。一度酸で浸出してイオン化し供給すれば良いからである。
【0019】
固体金属酸化物が単独金属酸化物である場合の代表的な金属溶解工程における反応を、以下に例示する。
・固体金属酸化物であるBi−O(5価)1当量に、Pb(2価)イオン2当量を添加することにより、対象金属であるBiがBi
3+として溶解し、PbO
2が析出する。
Bi
2O
5 + 2Pb
2+ + 2H
+→ 2Bi
3+ + 2PbO
2 + H
2O
【0020】
・固体金属酸化物であるBi−O(5価)1当量に、Sn(2価)イオン2当量を添加することにより、対象金属であるBiがBi
3+として溶解し、SnO
2が析出する。
Bi
2O
5 + 2Sn
2+ + 2H
+→2SnO
2 + 2Bi
3+ + H
2O
・固体金属酸化物であるMn−O(4価)1当量に、Sn(2価)イオン1当量を添加することにより、対象金属であるMnがMn
2+として溶解し、SnO
2が析出する。
MnO
2 + Sn
2+ → SnO
2 + Mn
2+
・固体金属酸化物であるCo−O(4価)1当量に、Sn(2価)イオン1当量を添加することにより、対象金属であるCoがCo
2+として溶解し、SnO
2が析出する。
CoO
2 + Sn
2+ →SnO
2 + Co
2+
【0021】
・固体金属酸化物であるNi−O(3価、4価)1当量に、Mn(2価)イオン1当量を添加することにより、対象金属であるNiがNi
2+として溶解し、MnO
2が析出する。
NiO
2 + Mn
2+ → Ni
2+ + MnO
2
Ni
2O
3 + Mn
2+ + 2H
+ → 2Ni
2+ + MnO
2+H
2O
【0022】
・固体金属酸化物であるCo−O(4価)1当量に、Mn(2価)イオン1当量を添加することにより、対象金属であるNiがNi
2+として溶解し、MnO
2が析出する。
CoO
2 + Mn
2+ → Co
2+ + MnO
2
【0023】
また、複合金属酸化物(A−B−O)の場合は、その複合金属酸化物が、対象金属と、その対象金属に接触することによって対象金属を溶解させることのできる金属イオンと同種の金属とを含むものであることが好ましい。
この場合、金属溶解工程に先立つ溶液生成工程にて、鉱酸を添加した水溶液中に、上記の複合金属酸化物を加えることで、この複合金属酸化物に含まれる複数種類の金属のうち、主に、上述した金属イオンと同種の金属が金属イオンとして溶解して、金属イオンを含む溶液が生成される。それにより、その後の金属溶解工程では、上記の溶液生成工程で生成された金属イオンを含む溶液中に、対象金属を含む固体金属酸化物が存在することになって、金属イオンと固体金属酸化物との接触により、対象金属が溶け出すことになる。すなわち、ここでは、複合金属酸化物中の、対象金属とは異なる金属が、酸浸出によって金属イオンとなって対象金属を溶かすので、外部からの金属イオンの添加は不要である。なお、溶液生成工程で用いる鉱酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等が含まれるが、なかでも硫酸が好ましい。
【0024】
このような浸出反応の具体例を以下に示す。
・固体金属酸化物であるNi−Mn−Oに対して硫酸を添加し、それにより、MnがMnイオンとして溶解する。なおここでは一部Niも溶解される。そして、そのMnイオンで、当該固体金属酸化物中に残存するNiが溶解され、MnはMnO
2として沈殿することになる。
・固体金属酸化物であるNi−Co−Mn−Oに対して硫酸を添加し、それにより、MnがMnイオンとして溶解する。なおここでは一部Co、Niも溶解される。そして、そのMnイオンで、当該固体金属酸化物中に残存するCo、Niが溶解され、MnはMnO
2として沈殿することになる。
【0025】
なお、かかる複合金属酸化物の代表的な例として、リチウムイオン二次電池用正極活物質を挙げることができる。このようなリチウムイオン二次電池用正極活物質から対象金属であるCo及びNiを回収するに当り、従来の浸出方法では、酸浸出によって、Co及びNiのみならずMnまでもが溶解することになり、その後に溶解液からMnを除去する工程が必要となるので、それによるコストの大幅な増大が否めない。
これに対し、この発明の一の実施形態に係る上記の方法によれば、MnはNiやCoを溶解してMnO
2として沈殿することから、固液分離等により溶解液からのMnの除去を容易に行うことができる。
【0026】
そしてまた、対象金属を浸出する際の溶液の酸化還元電位(ORPvsAgCl)は、800mA〜1400mAとすることができ、好ましくは、これを、1000mA〜1200mAとする。またpHは、好ましくは0〜4、より好ましくは0〜1とする。温度は、たとえば0℃〜100℃程度とし、特に、50℃〜80℃とすることが好ましい。
【0027】
なお、固体金属酸化物に接触させる金属イオンは、酸化されて酸化物として沈殿することがあり、この場合は、その金属イオンの極めて容易な除去が可能になり、その金属イオンを中和して除去する後工程が不要になる点で好ましい。ここでいう金属イオンには、固形物であっても、液体への添加後にイオンとなるものも含まれる。
【0028】
この実施形態によれば、対象金属を、酸によって直接溶解させるのではなく、以上に述べたような金属イオンによって反応させることにより、対象金属を浸出することが可能になるので、酸や、過酸化水素水等の還元剤を大量に使用することを要しない。従って、その分コストを低減することができる。
但し、この発明では、上記の反応をより一層促進させるとの観点から、酸や還元剤を添加することも可能である。ここで、反応促進のために用いることのできる酸としては、鉱酸等を用いることができる。また還元剤としては、過酸化水素水、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
【実施例】
【0029】
次に、この発明の金属酸化物の浸出方法を実験的に行い、それに要した酸や還元剤の量の比較・検討したので以下に説明する。なお、ここでの説明は、単なる例示を目的とするものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0030】
<実施例1:酸化ビスマス(Bi
2O
5)のPbイオンを用いた浸出>
Bi酸化物10gに90g/Lの2価のPbイオン(塩酸酸性溶液)を100ml添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、浸出率を算出した。算出したBiの浸出率は96%であり、液中のPbイオン濃度は10g/L以下であった。
【0031】
<実施例2:酸化ビスマス(Bi
2O
5)のSnイオンを用いた浸出>
Bi酸化物10gに55g/Lの2価のSnイオン(塩酸酸性溶液)を100ml添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、浸出率を算出した。算出したBiの浸出率は94%であり、液中のSnイオン濃度は10g/L以下であった。
【0032】
<比較例1:酸化ビスマス(Bi
2O
5)の塩酸浸出>
実施例1と同様の試料に塩酸を添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したBiの浸出率は12%であった。
【0033】
<比較例2:酸化ビスマス(Bi
2O
5)の塩酸+過酸化水素水浸出>
実施例1と同様の試料に塩酸及び過酸化水素水を添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したBiの浸出率は98%であった。
【0034】
<実施例3:酸化マンガン(MnO
2)のSnイオンを用いた浸出>
Mn酸化物10gに75g/Lの2価のSnイオン(硫酸酸性)を200ml添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、浸出率を算出した。算出したMn浸出率は98%であり、液中のSnイオン濃度は10g/L以下であった。
【0035】
<比較例3:酸化マンガン(MnO
2)の硫酸浸出>
実施例3と同様の試料に硫酸を添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したMnの浸出率は24%であった。
【0036】
<比較例4:酸化マンガン(MnO
2)の硫酸+過酸化水素水浸出>
実施例3と同様の試料に硫酸及び過酸化水素水を添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したMnの浸出率は95%であった。
【0037】
<実施例4:酸化コバルト(CoO
2)のSnイオンを用いた浸出>
Co酸化物10gに75g/Lの2価のSnイオン(硫酸酸性)を200ml添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、浸出率を算出した。算出したCo浸出率は97%であり、液中のSnイオン濃度は10g/L以下であった。
【0038】
<実施例5:酸化コバルト(CoO
2)のMnイオンを用いた浸出>
Co酸化物10gに65g/Lの2価のMnイオン(硫酸酸性)を100ml添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したCoの浸出率は98%であり、液中のMnイオン濃度は10g/L以下であった。
【0039】
<比較例5:酸化コバルト(CoO
2)の浸出>
実施例4と同様の試料に硫酸を添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したCoの浸出率は29%であった。
【0040】
<比較例6:酸化コバルト(CoO
2)の硫酸+過酸化水素水浸出>
実施例4と同様の試料に硫酸及び過酸化水素水を添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したCoの浸出率は97%であった。
【0041】
<実施例6:酸化ニッケル(NiO
2)のMnイオンを用いた浸出>
Ni酸化物10gに65g/Lの2価のMnイオン(硫酸酸性)を100ml添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したNiの浸出率は97%であり、液中のMnイオン濃度は10g/L以下であった。
【0042】
<比較例7:酸化ニッケル(NiO
2)の浸出>
実施例6と同様の試料に硫酸を添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したNiの浸出率は26%であった。
【0043】
<比較例8:酸化ニッケル(NiO
2)の硫酸+過酸化水素水浸出>
実施例6と同様の試料に硫酸及び過酸化水素水を添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したNiの浸出率は98%であった。
【0044】
<実施例7:Ni、Co複合酸化物のMnイオンを用いた浸出>
Ni、Coの複合酸化物(Ni:Co=1:1)に70g/Lの2価のMnイオン(硫酸酸性)を100ml添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したNiの浸出率は98%、Coの浸出率は96%であり、液中のMnイオン濃度は10g/L以下であった。
【0045】
<比較例9:Ni、Co複合酸化物の硫酸浸出>
実施例7と同様の試料に硫酸を添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したNiの浸出率は24%、Coの浸出率は26%であった。
【0046】
<比較例10:Ni、Co複合酸化の硫酸+過酸化水素水浸出>
実施例7と同様の試料に硫酸及び過酸化水素水を添加し撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出したNiの浸出率は98%、Coの浸出率は97%であった。
【0047】
<実施例8:Ni、Co、Mn複合酸化物の浸出(酸化物から供給される金属イオンによる浸出)>
Ni、Co、Mnの複合酸化物(Ni:Co:Mn=1:1:3)を硫酸酸性溶液100mlに添加し所定時間(1h、24h)にわたって撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出した各元素の浸出率を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
<実施例9:リチウムイオン二次電池用正極活物質の浸出>
試料としてリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いた。試料の中の金属成分の組成はLi=7%、Co=20%、Ni=20%、Mn=18%である。試料10gを硫酸酸性溶液100mlに投入し35%の過酸化水素を2ml投入した後、所定時間(1h、24h)にわたって撹拌保持した。保持後の液をICP発光分光分析で濃度測定し、各元素の浸出率を算出した。算出した各元素の浸出率を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
以上に述べた実施例1〜7及び比較例1〜10の結果を表3に示す。実施例1〜7及び比較例1〜10からわかるように、各酸化物及び複合酸化物の硫酸のみの浸出に比べ、金属イオンを添加した浸出のほうが高い浸出率が得られる。また、金属イオンを添加した浸出での浸出率は、硫酸+過酸化水素水で浸出した際の浸出率と同程度である。添加した金属イオン濃度は浸出後減少しており、浸出の際、酸化物として沈殿していると考えられる。
【0052】
【表3】
【0053】
実施例8からわかるように、対象金属(Ni、Co)に接触することによって対象金属を溶解させることのできる金属イオンと同種の金属(Mn)を含む複合酸化物を硫酸中に添加することで、対象金属を溶解させることのできる金属イオンが溶解し、その後、金属イオンと固体金属酸化物との接触により対象金属が溶けだしていることがわかる。また、表1に示すところでは、24時間保持した後は、Mn濃度が減少するとともに、Co及びNi濃度が増加していることから、溶けだした金属イオンは対象金属を溶解させると自身は酸化して沈殿することがわかる。
【0054】
実施例9からわかるように、リチウムイオン二次電池用正極活物質を用いた場合であっても、対象金属(Ni、Co)を金属イオン(Mn)によって溶解可能であることがわかる。