(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の各実施形態においては、例えば、酸化アルミニウム膜で構成されたガスバリア性フィルムを製造する例について説明する。
【0014】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る巻取式成膜装置1の構成を示す概略側断面図である。
【0015】
[巻取式成膜装置の構成]
巻取式成膜装置1は、巻出しローラ2と、巻取りローラ3と、冷却ローラ4と、ガイドローラ5A及び5Bと、蒸発源ユニットEU1と、これらを収容する真空チャンバ9と、コントローラ18とを備える。
【0016】
各図において、X軸、Y軸及びZ軸は相互に直交する3軸方向を示している。X軸及びY軸は水平方向、Z軸は高さ方向を示す。
【0017】
(真空チャンバ)
真空チャンバ9は、密閉構造を有し、排気ラインLを介して真空ポンプPに接続される。これにより、真空チャンバ9は、その内部が所定の減圧雰囲気に排気又は維持可能に構成される。
【0018】
真空チャンバ9は内部に仕切板10を有する。当該仕切板10は、真空チャンバ9のZ軸方向における略中央部に配置されており、所定の大きさの開口部を有する。当該開口部の周縁部は、所定の隙間を空けて冷却ローラ4の外周面に対向している。真空チャンバ9の内部は、仕切板10により、仕切板10よりZ軸方向の上側にある搬送室11と、仕切板10よりZ軸方向の下側にある成膜室12とに区画される。
【0019】
真空チャンバ9に接続される排気ラインLは、成膜室12に接続されている。したがって、真空チャンバ9を排気する際には、まず、成膜室12の内部が排気される。一方、上述のように仕切板10と冷却ローラ4との間には所定の隙間があるため、この隙間を通して搬送室11の内部も排気される。これにより、成膜室12と搬送室11との間に圧力差が生じる。この圧力差により、後述する蒸発材料の蒸気流が搬送室11に侵入するのを防ぐことができる。
なお、本実施形態では、排気ラインLを成膜室12にのみ接続したが、搬送室11にも別の排気ラインを接続することにより、搬送室11と成膜室12とを独立して排気してもよい。
【0020】
以下、真空チャンバ9内に収容される各部材の構成について説明する。
【0021】
(フィルムの搬送機構)
巻出しローラ2、巻取りローラ3、冷却ローラ4、ガイドローラ5A及びガイドローラ5Bは、フィルム13の搬送機構を構成する。巻出しローラ2、巻取りローラ3及び冷却ローラ4は、それぞれ図示しない回転駆動部を備え、X軸に平行な軸まわりに回転可能に構成される。
【0022】
巻出しローラ2及び巻取りローラ3は、搬送室11内に配置され、それぞれの回転駆動部により
図1の矢印で示す方向(時計回り)に所定速度で回転可能に構成される。なお、巻出しローラ2の回転方向はこれに限られず、冷却ローラ4に向かってフィルムを繰り出せる限り、どの方向に回転させてもよい。同様に、巻取りローラ3の回転方向も時計回りに限られず、冷却ローラ4からフィルムを巻き取れる限り、どの方向に回転させてもよい。
【0023】
冷却ローラ4は、フィルム13の搬送経路において巻出しローラ2と巻取りローラ3との間に配置される。具体的には、冷却ローラ4のZ軸方向における下部の少なくとも一部が、仕切板10に設けられた開口部を通して成膜室12に臨むような位置に配置される。
【0024】
また、冷却ローラ4は、巻出しローラ2及び巻取りローラ3と同様に、回転駆動部により時計回りに所定速度で回転可能に構成される。さらに、冷却ローラ4は、鉄等の金属材料で筒状に構成され、その内部に図示しない冷却媒体循環系等の冷却機構を備える。冷却ローラ4の大きさは特に限定されないが、典型的には、軸方向の長さ(軸長)はフィルム13の幅と同じかそれよりも長い。
【0025】
ガイドローラ5Aは巻出しローラ2と冷却ローラ4との間に配置され、ガイドローラ5Bは巻取りローラ3と冷却ローラ4との間に配置される。各ガイドローラ5A,5Bは、独自の回転駆動部を備えていないフリーローラで構成される。
【0026】
本実施形態では、ガイドローラの数を2つとしたが、これに限られない。搬送するフィルムの弛みを防止し、所望とする搬送姿勢が得られる限り、ガイドローラや駆動ローラの数や場所は適宜設定可能である。
【0027】
以上のようにして構成された搬送機構により、真空チャンバ9内においてフィルム13が所定の速度で搬送される。
【0028】
フィルム13は、材料としてポリエチレンテレフタレートを含むが、これに限られない。その他の材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、又はアクリル樹脂等の透明な樹脂を用いることができる。
【0029】
フィルム13の厚さは、特に限定されず、例えば、約5μm〜100μmである。また、フィルム13の幅や長さについては特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。
【0030】
フィルム13は、巻出しローラ2により、時計回りに連続的に巻き出される。巻出しローラ2から巻き出されたフィルム13は、ガイドローラ5Aによって走行をガイドされながら、冷却ローラ4と仕切板10との間に形成された所定の隙間を通って、所定の抱き角で冷却ローラ4の周面に巻回される。これにより、冷却ローラ4の外周面に接触するフィルム13の内側の面が冷却ローラ4によって所定温度以下に冷却される。冷却ローラ4に巻回されたフィルム13は、冷却ローラ4の回転により時計回りに搬送され、その搬送過程で、蒸発源ユニットEU1により蒸発材料の膜がフィルム13の外側の面(成膜面)に形成される。
【0031】
以下、蒸発源ユニットEU1について詳細に説明する。
【0032】
(蒸発源ユニット)
蒸発源ユニットEU1は、成膜室12に配置され、蒸発源アレイ6と、ガス供給部7と、支持体8とを有する。
【0033】
(蒸発源アレイ)
蒸発源アレイ6は、冷却ローラ4のZ軸方向における直下に配置される。
図2は、蒸発源アレイ6の配置を概略的に示す平面図である。
【0034】
蒸発源アレイ6は、複数の第1の蒸発源と、複数の第2の蒸発源とを有する。
本実施形態では、複数の第1の蒸発源は、各々同一の構成を有する5つの蒸発源61A,61B,61C,61D,61E(以下、個別に説明する場合を除き、複数の第1の蒸発源61と総称する)を有する。一方、複数の第2の蒸発源は、各々同一の構成を有する6つの蒸発源62A,62B,62C,62D,62E,62F(以下、個別に説明する場合を除き、複数の第2の蒸発源62と総称する)を有する。
【0035】
第1及び第2の蒸発源61,62は、フィルム13の成膜面に堆積させる蒸発材料の蒸気を生成する。第1及び第2の蒸発源61,62には、同一の蒸発材料が収容されており、本実施形態では、蒸発材料としてアルミニウムが用いられる。
【0036】
第1の蒸発源61はそれぞれ、略同じ量の蒸気流を生成するように、コントローラ18によって制御される。また、第2の蒸発源62もそれぞれ、複数の第1の蒸発源61と略同じ量の蒸気流を生成するように、コントローラ18によって制御される。
【0037】
第1及び第2の蒸発源61,62は、相互に同一の蒸発源で構成され、本実施形態では誘導加熱式の蒸発源で構成される。第1及び第2の蒸発源61,62は、蒸発材料を保持する容器としての丸型(有底円筒状)の坩堝と、当該坩堝の外周部を取り囲む誘導コイルとを含む。当該誘導コイルは、真空チャンバ9の外部に設置された図示しない交流電源に電気的に接続されている。
【0038】
図2に示すように、複数の第1の蒸発源61は、X軸方向に平行な第1のラインL1上に配列されている。第1のラインL1は、蒸発源アレイ6において仮想的に設定されたものである。複数の第1の蒸発源61は、第1のラインL1上に所定の間隔P1を置いて配置される。当該所定の間隔P1は、各蒸発源61の中心間距離であり、各蒸発源61の大きさ等に応じて適宜設定可能である。
【0039】
一方、複数の第2の蒸発源62は、第1のラインL1と平行な第2のラインL2上に配列されている。第2のラインL2は、蒸発源アレイ6において仮想的に設定されたものである。複数の第2の蒸発源62は、第2のラインL2上に所定の間隔P1を置いて配置される。
【0040】
第1のラインL1と第2のラインL2とは、相互に同一の高さ位置(Z軸方向に沿った高さ位置)に設定される。第1のラインL1は、第2のラインL2よりもフィルム13の搬送方向に関して上流側に位置し、第1のラインL1と第2のラインL2は、所定の間隔P2を置いてY軸方向に平行な方向に相互に対向している。所定の間隔P2は特に限定されず、第1及び第2の蒸発源61,62の大きさ、形状、間隔P1の大きさ等に応じて適宜設定可能である。
【0041】
複数の第1の蒸発源61と複数の第2の蒸発源62とは、どちらも所定の間隔P1を置いて配置されているが、複数の第2の蒸発源62は、複数の第1の蒸発源61とX軸方向に半ピッチずれて配置されている。すなわち、Y軸方向から見て、第1及び第2の蒸発源61,62がX軸方向に沿って等間隔に配置される。
【0042】
また、
図2に示す距離Dxは、蒸発源アレイ6のX軸方向における両端の距離である。距離Dxは、冷却ローラ4の軸長よりも短い。すなわち、第1及び第2の蒸発源61,62は、
図2において二点鎖線で示す冷却ローラ4の幅の範囲に収まるように配置される。
なお、本実施形態では、複数の第1の蒸発源61の数が複数の第2の蒸発源62の数よりも1つ少ないが、フィルム幅にあわせて、蒸発源61,62の数を適宜設定できる。また、フィルム幅にあわせて、予め設置された複数の蒸発源61,62の中から、使用する蒸発源の位置あるいは数を選択してもよい。
【0043】
複数の第1の蒸発源61及び複数の第2の蒸発源62は個々に独立して構成されるが、図示しないベース部に共通に支持されてもよい。この場合、各蒸発源が当該ベース部において位置や数を変更可能に設置されてもよい。これにより、フィルムの種類や成膜条件に応じて、蒸発源アレイのレイアウトを適宜変更することが可能となる。
【0044】
(ガス供給部)
ガス供給部7は、
図1に示すように、蒸発源アレイ6と冷却ローラ4との間に配置される。
図3は、ガス供給部7と蒸発源アレイ6の配置を概略的に示す平面図である。
【0045】
ガス供給部7は、複数の第1のノズル部と、複数の第2のノズル部とを有する。
本実施形態では、複数の第1のノズル部は、各々同一の構成を有する5つのノズル部71A,71B,71C,71D,71E(以下、個別に説明する場合を除き、複数の第1のノズル部71と総称する)を有する。一方、複数の第2のノズル部は、各々同一の構成を有する6つのノズル部72A,72B,72C,72D,72E,72F(以下、個別に説明する場合を除き、複数の第2のノズル部72と総称する)を有する。
【0046】
本実施形態において、複数の第1のノズル部71及び複数の第2のノズル部72は、X軸方向に平行な第3のラインL3上にそれぞれ所定の間隔P3を置いて配置される。具体的には、第1及び第2のノズル部71,72がX軸方向に交互に配置されるように、複数の第2のノズル部72が複数の第1のノズル部71に隣接して配置される。
【0047】
第3のラインL3は、仮想的に設定されたものであり、第1及び第2のラインL1,L2よりもフィルム13の搬送方向の上流側(
図3において上方側)に位置する。また、第3のラインL3は、第1及び第2のラインL1,L2よりも冷却ローラ4側(
図1において上方側)に位置する。
【0048】
当該所定の間隔P3は、複数の第1のノズル部71のノズルの中心間距離である。本実施形態では、所定の間隔P3は、所定の間隔P1と略等しい。ただし、所定の間隔P3は、複数の第1のノズル部71を構成するノズル2つ分の長さ以上の間隔とする。
【0049】
複数の第1のノズル部71は、複数の第1の蒸発源61に対して、
図3において(Z軸方向における高さ位置は異なるが)Y軸方向に対向するように配置される。具体的には、第1のノズル部71A,71B,71C,71D,71Eは、各第1のノズル部71から噴出された酸素が第1の蒸発源61A,61B,61C,61D,61Eの直上の位置を通過するような位置にそれぞれ配置される。これにより、複数の第1のノズル部71は、それぞれ対応する第1の蒸発源61からの蒸気流に向けて酸素を噴出することができる。
【0050】
一方、複数の第2のノズル部72は、複数の第2の蒸発源62に対して、
図3において(Z軸方向における高さ位置は異なるが)Y軸方向に対向するように配置される。具体的には、第2のノズル部72A,72B,72C,72D,72E,72Fは、各第2のノズル部72から噴出された酸素が第1の蒸発源62A,62B,62C,62D,62E,62Fの直上の位置を通過するような位置にそれぞれ配置される。これにより、複数の第1のノズル部72は、それぞれ対応する第2の蒸発源62からの蒸気流に向けて酸素を噴出することができる。
【0051】
本実施形態において、複数の第1のノズル部71の数と複数の第1の蒸発源61の数は同じであり、複数の第2のノズル部72の数と複数の第2の蒸発源62の数は同じである。すなわち、複数の第1のノズル部71の数が複数の第1の蒸発源61の数に対応し、複数の第2のノズル部72の数が複数の第2の蒸発源62の数に対応している。
【0052】
第1及び第2のノズル部71,72は、相互に同一のノズル部で構成される。本実施形態では、複数の第1及び第2のノズル部71,72は、第3のラインL3の軸方向に長手の筒状にそれぞれ形成される。複数の第1及び第2のノズル部71,72は、Y軸方向に向かって酸素ガスを噴出する単数又は複数の噴出口をそれぞれ有する。上記単数又は複数の噴出口は、各ノズル部71,72の周面の一部に設けられる。複数の噴出口を用いる場合、各ノズル部71,72の周面の一部にX軸方向に沿って当該複数の噴出口を配列すればよい。
【0053】
複数の第1のノズル部71からは、それぞれ同じ流量の酸素ガスが噴出される。
図3において、第1のノズル部71から噴出される酸素を破線で示す(なお、
図3では、第1のノズル部71Aから噴出されるガスの噴出形態のみを示すが、図示せずとも、その他の第1のノズル部71B〜71Eから噴出されるガスについても同様である)。
【0054】
同様に、複数の第2のノズル部72からは、それぞれ同じ流量の酸素ガスが噴出される。
図3において、第2のノズル部72から噴出される酸素を破線で示す(なお、
図3では、第2のノズル部72Aから噴出されるガスの噴出形態のみを示すが、図示せずとも、その他の第2のノズル部72B〜72Fから噴出されるガスについても同様である)。
【0055】
第1及び第2のノズル部71,72から噴出されたガスは、それぞれ対応する蒸発源の直上の位置で蒸気流と接触する。蒸気流と接触する酸素の量に差があると、蒸発材料の酸化度に違いが生じるため、得られる膜の透過率にも差が生じてしまう。
そこで、本実施形態では、第1及び第2の蒸発源61,62からの蒸気流と反応する酸素ガスの量を均一にするため、以下に説明するように、第1及び第2のノズル部71,72から噴出されるガスの量を蒸発源毎に最適化している。
【0056】
複数の第1のノズル部71は、ガス供給ラインG1を介して、ガスボンベ等のガス供給源Sに接続される。同様に、複数の第2のノズル部72は、ガス供給ラインG2を介して、ガスボンベ等のガス供給源Sに接続される。ガス供給源Sは、各ガス供給ラインG1,G2に共通としたが、それぞれ別個に設けられてもよい。
【0057】
ガス供給ラインG1は、ガス供給源Sに接続される1本の主配管と、主配管から各々分岐し各ノズル部71A〜71Eに接続される5本の支管とを有する。
同様に、ガス供給ラインG2は、ガス供給源Sに接続される1本の主配管と、主配管から各々分岐し各ノズル部72A〜72Fに接続される6本の支管とを有する。
【0058】
ガス供給ラインG1の主配管には、さらに流量調整部V1が接続される。流量調整部V1は、例えば、流量制御弁と流量センサとを有するマスフローコントローラ(MFC)を含み、複数の第1のノズル部71から噴出される酸素の流量を制御可能に構成される。流量調整部V1,V2の制御は、典型的には、コントローラ18からの制御指令に基づき、ガス供給部7によって行われる。
【0059】
また、ガス供給ラインG2の主配管にも、流量調整部V1と同様の構成を有する流量調整部V2が接続される。流量調整部V2は、複数の第2のノズル部72から噴出される酸素の流量を制御可能に構成される。
【0060】
ガス供給ラインG1を介して複数の第1のノズル部71から噴出する酸素の流量は、
図3に示す距離D1に応じて決められる。また、ガス供給ラインG2を介して複数の第2のノズル部72から噴出する酸素の流量は、
図3に示す距離D2に応じて決められる。
【0061】
図3に示す距離D1は、複数の第1のノズル部71の噴出口と、それぞれ対応する複数の第1の蒸発源61の直上までの最短距離を示す。本実施形態では、複数の第1のノズル部71と、対応する複数の第1の蒸発源61の直上との距離D1が、それぞれ等しい。したがって、複数の第1のノズル部71から等しい量の酸素を噴出させた場合、対応する複数の第1の蒸発源61からの蒸気流に対してそれぞれ等しい量の酸素を反応させることができる。
【0062】
また、
図3に示す距離D2は、複数の第2のノズル部72の噴出口と、それぞれ対応する複数の第2の蒸発源62の直上までの最短距離を示す。複数の第2のノズル部72と、対応する複数の第2の蒸発源62との距離D2は、それぞれ等しい。したがって、複数の第2のノズル部72から等しい量の酸素を噴出させた場合、対応する複数の第2の蒸発源62からの蒸気流に対してそれぞれ等しい量の酸素を反応させることができる。
【0063】
一方、距離D2が距離D1よりも大きいため、複数の第1のノズル部71から噴出される酸素の流量と、複数の第2のノズル部72から噴出される酸素の流量とが同じ場合、第1及び第2の蒸発源61,62からの蒸気流と反応する酸素の量に差が出てしまう。本実施形態では、複数の第2のノズル部72が複数の第1のノズル部71から噴出されるガスの量よりも多くのガスを噴出するように構成される。これにより、第1及び第2の蒸発源61,62からの蒸気流と反応する酸素の量をフィルム13の幅方向(X軸方向)において略均一にすることができる。
【0064】
なお、各ノズル部71,72から噴出される酸素の流量は、距離D1,D2の大きさ、成膜時の真空チャンバ9内の圧力、蒸発源61,62とノズル部71,72との高さの差などに応じて設定され、各蒸発源61,62からの蒸気流に対して各ノズル部71,72からの酸素の供給量が均一となるように、各々の噴出量が最適化される。したがって、複数の第1のノズル部71を構成する各ノズル部71A〜71Eからの酸素噴出量は、相互に同一である場合に限られず、複数の第2のノズル部72を構成する各ノズル部72A〜72Fからの酸素噴出量もまた、相互に同一である場合に限られない。
【0065】
(支持体)
支持体8は、
図1に示すように、開口部14と、防着板15と、天板16とを有し、冷却ローラ4と蒸発源アレイ6との間に配置される。また、支持体8は、図示しない支持部を介して真空チャンバ9の内壁に接続され、複数の第1のノズル部71及び複数の第2のノズル部72を支持可能に構成される。支持体8を構成する材料は特に限定されず、典型的にはステンレス鋼や銅等の金属材料で構成される。
【0066】
開口部14は、天板16の略中央部に設けられた貫通孔であり、冷却ローラ4の外周面に対向して配置される。開口部14の大きさや形状は特に限定されず、蒸発源アレイとの距離やフィルム13との距離等に応じて適宜設定可能である。
図2に示すように、開口部14のX軸方向における長さは、冷却ローラ4の軸長よりも短く、また、フィルム13の幅と同等かそれよりも短い。本実施形態では、開口部14は、フィルム13の成膜領域を規定するマスクとして機能する。
【0067】
防着板15は、
図1に示すように、蒸発源アレイ6とガス供給部7との間に配置され、蒸発源アレイ6から蒸発した蒸発材料がガス供給部7に付着するのを防止するように構成される。防着板15は、Z軸方向から見て開口部14の周囲を囲むように設けられる。
【0068】
天板16は、冷却ローラ4に近接して配置される。天板16の大きさ及び形状は、開口部14を設けることができ、所望の強度を得られるものであれば特に限定されない。天板16は防着板15と連結される。これにより、支持体8を一体的に形成することができる。
【0069】
(コントローラ)
コントローラ18は、
図1に示すように、真空チャンバ9の外部に設置される。コントローラ18は、例えば、CPU(Central Processing Unit)及びメモリを含むコンピュータ等により構成され、巻取式成膜装置1の各部を統括的に制御する。コントローラ18は、例えば、真空ポンプPの動作の制御、各ローラの回転駆動制御、各蒸発源における蒸発材料の蒸発量の制御、ガス供給部7の動作や流量の制御等を行う。
【0070】
[巻取式成膜装置の動作]
次に、以上のようにして構成される巻取式成膜装置1の動作について説明する。
【0071】
真空ポンプPにより、成膜室12内が排気され、成膜室12内の圧力が所定の圧力まで減圧される。巻出しローラ2、巻取りローラ3、及び冷却ローラ4は、各々の回転軸のまわりに
図1中矢印で示す方向(時計回り)にそれぞれ所定の速度で回転する。フィルム13は、巻出しローラ2により、時計回りに連続的に巻き出される。巻出しローラ2から巻き出されたフィルム13は、ガイドローラ5Aによって走行をガイドされながら、所定の抱き角で冷却ローラ4の外周面に巻回される。そして、フィルム13は、冷却ローラ4による冷却作用を受けながら、蒸発源ユニットEU1の直上を通過した後、ガイドローラ5Bを介して巻取りローラ3に巻き取られる。
【0072】
蒸発源ユニットEU1においては、図示しない交流電源から第1及び第2の蒸発源61,62が有する誘導コイルに交流電流が供給され、第1及び第2の蒸発源61,62内に収容された蒸発材料としてのアルミニウムが加熱され、蒸発する。ガス供給源Sから各ガス供給ラインG1,G2を通して供給された酸素が、第1及び第2のノズル部71,72からそれぞれ所定の流量で噴出される。また、コントローラ18及びガス供給ラインG1、G2の流量調整部V1,V2により、第1及び第2のノズル部71,72から噴出される酸素の量が制御される。
【0073】
次に、蒸発源ユニットEU1による成膜工程の詳細について説明する。
【0074】
本実施形態においては、複数の第2の蒸発源62が第2のラインL2上に複数の第1の蒸発源61と半ピッチずれて配置されている。そのため、後述するように、複数の第1の蒸発源61からの蒸発材料の膜がフィルム13の第1の領域に形成され、複数の第2の蒸発源62からの蒸発材料の膜が第1の領域に隣接する第2の領域に形成される。
【0075】
図4は、蒸発源アレイ6の配置と、フィルム13上に形成される酸化アルミニウム膜の厚さとの関係を示す図であり、Aは蒸発源アレイ6の概略平面図、Bはその蒸発源アレイ6によって形成される酸化アルミニウム膜のフィルム幅方向における膜厚分布を示す図である。
図4B中、細実線は複数の第1の蒸発源61(61A〜61E)から蒸発した蒸発材料により形成される膜の厚み分布を示し、二点鎖線は複数の第2の蒸発源62(62A〜62F)から蒸発した蒸発材料により形成される膜の厚み分布を示し、太実線は全体として形成される膜の厚み分布を示す。
【0076】
図4Bに示すように、第1及び第2の蒸発源61,62の直上の位置においては、これらの直上でない位置と比較して、厚い膜が形成される。したがって、仮に蒸発源を一列に配置した場合、X軸方向における厚さに差がある膜が形成されることになる。
本実施形態では、複数の第1の蒸発源61と複数の第2の蒸発源62がY軸方向に所定の間隔P2だけずれて配置されている。しかも、これら第1及び第2の蒸発源61,62は、相互に半ピッチずれて配置されている。このように、複数の第1の蒸発源61からの蒸発材料の膜が、これら第1の蒸発源61各々の直上位置に対応するフィルム13の第1の領域に形成され、複数の第2の蒸発源62からの蒸発材料の膜が、これら第2の蒸発源62各々の直上位置に対応する第2の領域に形成される。フィルム13はY軸方向に所定の速度で搬送されるため、第1の領域と第2の領域とはフィルム幅方向(X軸方向)に相互に隣接する。これにより、フィルム幅方向において膜厚のばらつきが抑制されることになる。
【0077】
また、本実施形態においては、ガス供給部7が、複数の第1の蒸発源61からの蒸気流に向けてガスを噴出する複数の第1のノズル部71と、複数の第2の蒸発源62からの蒸気流に向けてガスを噴出する複数の第2のノズル部72とを有する。そのため、各蒸発源からの蒸気流に対して所望の量のガスを供給することが可能となる。
【0078】
図5A,Bは、比較例に係るガス供給部17(27)と蒸発源アレイ6との配置を示す概略平面図である。
図5Aに示す例では、ガス供給部17は、各蒸発源61(61A〜61E)、62(62A〜62F)に共通の単一のノズルで構成され、図示しない複数の噴出口からそれぞれ同一の流量で酸素が噴出される。この場合、噴出口に近い蒸発源ほど酸素濃度が高く、噴出口から離れるほど酸素濃度が低くなる。したがって、ガス供給部17から遠い蒸発源(第2の蒸発源62)からの蒸気流に供給されるガスの量を、ガス供給部17に近い蒸発源(第1の蒸発源61)からの蒸気流に供給されるガスの量よりも多くする等の調整をすることはできない。
【0079】
また、
図5Bに示す例では、ガス供給部27が、複数のノズル部271を有する。複数のノズル部271は、同一直線上に配置され、1つのノズル部271から所定の複数の蒸発源からの蒸気流に対してY軸方向へ酸素を供給するようにそれぞれ構成される。この場合、ノズル部271毎にガスの噴出量を変更できたとしても、個々のノズル部271については、第1及び第2の蒸発源61,62からの蒸気流に供給されるガスの量を個別に調整することはできない。したがって、
図5Aに示す例と同様に、ガス供給部27から遠い蒸発源(第2の蒸発源62)からの蒸気流に供給されるガスの量を、ガス供給部27に近い蒸発源(第1の蒸発源61)からの蒸気流に供給されるガスの量よりも多くすることはできない。
【0080】
図6Aは蒸発源の概略平面図であり、
図6Bは比較例に係るガス供給部17,27を用いて形成された酸化アルミニウムの透過率分布を、
図6Cは本実施形態に係るガス供給部7を用いて形成された酸化アルミニウムの透過率分布をそれぞれ示す模式図である。
【0081】
図6Bに示すように、比較例のようなガス供給部の構成では、フィルム幅方向(X軸方向)における透過率のばらつきを抑制することはできない。上記のように、ガス供給部17及び27は、第1及び第2の蒸発源61,62からの蒸気流に対してそれぞれ所望の量のガスを噴出させることはできない。これにより、特にフィルム幅方向(X軸方向)において、第1及び第2の蒸発源61,62からの蒸気流(蒸発したアルミニウム)と反応する酸素の量に差が生じてしまう。このため、形成される酸化アルミニウム膜の酸化度にもフィルム幅方向において差が生じてしまう。すなわち、これらガス供給部を用いて蒸発材料をフィルム13上に成膜すると、フィルム幅方向において透過率のバラツキが大きい膜が形成されることになる。
【0082】
これに対して、本実施形態では、複数の第1のノズル部71は、複数の第1の蒸発源61に対応する数のノズル部を有し、複数の第2のノズル部72は、複数の第2の蒸発源62に対応する数のノズル部を有する。したがって、第1及び第2のノズル部71,72から噴出される酸素の流量を、蒸発源ごとに個別に調整することが可能である。
【0083】
また、本実施形態では、複数の第2のノズル部72が複数の第1のノズル部71から噴出される酸素の量よりも多くの酸素を噴出するように構成されるため、第1及び第2の蒸発源61,62からの蒸気流と反応する酸素の量は、フィルム幅方向において略均一にすることができる。これにより、
図6Cに示すように、フィルム幅方向における膜の透過率のばらつきを大きく改善することができる。
【0084】
以上のように、本実施形態に係る巻取式成膜装置1によれば、フィルムの幅方向における厚さ及び透過率のばらつきを抑制することができる。したがって、膜厚や透過率のばらつきが抑えられた酸化アルミニウム膜からなるガスバリア性フィルムを安定に製造することが可能となる。
なお、本発明者らの実験によれば、フィルム幅方向における透過率のバラツキが3%以下に抑えられることが確認されている。
【0085】
さらに、本実施形態によれば、第1及び第2のノズル部71,72が第3のラインL3に沿って交互に一列に配置されているため、容易にガス供給部7を構成することができる。例えば、第1及び第2のノズル部71,72は同一のノズル部で構成されるため、1つのユニットとして一体的にガス供給部7を形成することができ、組立性が向上する。また、第1及び第2のノズル部71,72が離れて配置される場合に比べて、第1及び第2のノズル部71,72を容易にガス供給ラインG1,G2に接続することができる。さらに、ガス供給部7を配置する場所が1箇所で済むため、装置の省スペース化を図ることができる。
【0086】
<第2の実施形態>
図7は、本発明の第2の実施形態における蒸発源ユニットの概略平面図であり、ガス供給部と蒸発源アレイとの配置関係を示している。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0087】
本実施形態では、蒸発源ユニットの構成が第1の実施形態と異なり、より詳細には、蒸発源ユニットにおけるガス供給部の構成が、第1の実施形態と異なる。
【0088】
本実施形態の蒸発源ユニットEU2は、蒸発源アレイ6と、ガス供給部7とを有し、ガス供給部7は、複数の第1のノズル部71と、複数の第2のノズル部72とを有する。第1及び第2のノズル部71,72は、支持体8に支持されるとともに、ガス供給ラインG1,G2を介してガス供給源にそれぞれ接続される。
【0089】
なお、蒸発源アレイ6の構成は、第1の実施形態と同様であるためその詳細な説明は省略する。第1及び第2のノズル部71,72の構成も、第1の実施形態と共通であるためその詳細な説明は省略するが、これら第1及び第2のノズル部71,72の配置が第1の実施形態と異なる。
【0090】
すなわち、本実施形態において、複数の第1のノズル部71(71A〜71E)は、第1のラインL1と平行な第3のラインL3上に配置される。第1のラインL1と第3のラインL3との間には、高さ方向(Z軸方向)から見て、所定の間隔P4が置かれている。
【0091】
一方、複数の第2のノズル部72(72A〜72F)は、第2のラインL2と平行な第4のラインL4上に配置される。第4のラインL4は仮想的なものであり、第2のラインL2よりもフィルム13の搬送方向の下流側(
図7において下方側)に位置するように設定される。第4のラインL4は、第3のラインL3と同一の高さ位置に設定されており、第3のラインL3とY軸方向に相互に対向している。第2のラインL2と第4のラインL4との間には、高さ方向(Z軸方向)から見て、上記間隔P4が置かれている。
【0092】
図7に示すように、複数の第1のノズル部71(71A〜71E)は、第1の実施形態と同様に、第3のラインL3上に所定の間隔P3を置いて配置され、第1の蒸発源61(61A〜61E)の直上の位置に所定量の酸素ガスを供給することが可能に構成される。
【0093】
一方、複数の第2のノズル部72(72A〜72F)は、第4のラインL4上に上記間隔P3を置いて配置され、第2の蒸発源62(62A〜62F)の直上の位置に所定量の酸素ガスを供給することが可能に構成される。
【0094】
以上のように、複数の第1のノズル部71(71A〜71E)の各ガス噴出口と複数の第1の蒸発源61(61A〜61E)の直上位置との間のY軸方向に沿った距離D1と、複数の第2のノズル部72(72A〜72F)の各ガス噴出口と複数の第2の蒸発源62(62A〜62F)の直上位置との間のY軸方向に沿った距離D3とは、相互に同一となるように設定される。
【0095】
そして、本実施形態では、複数の第1のノズル部71は、複数の第2のノズル部72から噴出される酸素ガスの量と等しい量の酸素ガスを噴出するように制御される。これにより、各蒸発源61,62からの蒸気流に対して均一な量の酸素が供給されることになり、フィルム13の幅方向に関して、酸化度の均一性の高い酸化アルミニウム膜が形成されることになる。
【0096】
以上のように、本実施形態においても第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。すなわち本実施形態によれば、フィルムの幅方向における厚さ及び透過率のばらつきを抑制することができる。したがって、膜厚や透過率のばらつきが抑えられた酸化アルミニウム膜からなるガスバリア性フィルムを安定に製造することが可能となる。
【0097】
<第3の実施形態>
図8は、本発明の第3の実施形態における蒸発源ユニットの概略平面図であり、ガス供給部と蒸発源アレイとの配置関係を示している。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0098】
本実施形態では、蒸発源ユニットの構成が第1の実施形態と異なり、より詳細には、蒸発源ユニットにおけるガス供給部の構成が、第1の実施形態と異なる。
【0099】
本実施形態の蒸発源ユニットEU3は、蒸発源アレイ6と、ガス供給部7とを有し、ガス供給部7は、複数の第1のノズル部71と、複数の第2のノズル部72とを有する。第1及び第2のノズル部71,72は、支持体8に支持されるとともに、ガス供給ラインG1,G2を介してガス供給源にそれぞれ接続される。
【0100】
なお、蒸発源アレイ6の構成は、第1の実施形態と同様であるためその詳細な説明は省略する。第1及び第2のノズル部71,72の構成も、第1の実施形態と共通であるためその詳細な説明は省略するが、これら第1及び第2のノズル部71,72の配置が第1の実施形態と異なる。
【0101】
すなわち、本実施形態において、複数の第1のノズル部71(71A〜71E)は、第2のラインL2と平行な第3のラインL13上に配置される。第3のラインL13は、第2のラインL2と冷却ローラ4との間に仮想的に設定される。そして、複数の第1のノズル部71は、冷却ローラ4から見たときに、第2のラインL2上の複数の第2の蒸発源62(62A〜62F)と対向しない位置にそれぞれ配置される。
【0102】
一方、複数の第2のノズル部72(72A〜72F)は、第1のラインL1と平行な第4のラインL14上に配置される。第4のラインL14は、第1のラインL1と冷却ローラ4との間に、第3のラインL3と同一の高さ位置に仮想的に設定される。そして、複数の第2のノズル部72は、冷却ローラ4から見たときに、第1のラインL1上の複数の第1の蒸発源61(61A〜61E)と対向しない位置にそれぞれ配置される。
【0103】
図8に示すように、複数の第1のノズル部71(71A〜71E)は、第1の実施形態と同様に、第3のラインL13上に所定の間隔(P3)を置いて配置され、第1の蒸発源61(61A〜61E)の直上の位置に所定量の酸素ガスを供給することが可能に構成される。
【0104】
一方、複数の第2のノズル部72(72A〜72F)は、第4のラインL14上に上記間隔(P3)を置いて配置され、第2の蒸発源62(62A〜62F)の直上の位置に所定量の酸素ガスを供給することが可能に構成される。
【0105】
以上のように、複数の第1のノズル部71(71A〜71E)の各ガス噴出口と複数の第1の蒸発源61(61A〜61E)の直上位置との間のY軸方向に沿った距離D1と、複数の第2のノズル部72(72A〜72F)の各ガス噴出口と複数の第2の蒸発源62(62A〜62F)の直上位置との間のY軸方向に沿った距離D3とは、相互に同一となるように設定される。
【0106】
そして、本実施形態では、複数の第1のノズル部71は、複数の第2のノズル部72から噴出される酸素ガスの量と等しい量の酸素ガスを噴出するように制御される。これにより、各蒸発源61,62からの蒸気流に対して均一な量の酸素が供給されることになり、フィルム13の幅方向に関して、酸化度の均一性の高い酸化アルミニウム膜が形成されることになる。
【0107】
以上のように、本実施形態においても第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。すなわち本実施形態によれば、フィルムの幅方向における厚さ及び透過率のばらつきを抑制することができる。したがって、膜厚や透過率のばらつきが抑えられた酸化アルミニウム膜からなるガスバリア性フィルムを安定に製造することが可能となる。
【0108】
<第4の実施形態>
図10は、本発明の第4の実施形態における蒸発源ユニットの概略平面図であり、ガス供給部と蒸発源アレイとの配置関係を示している。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0109】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、複数の第1のノズル部71(71A〜71E)及び複数の第2のノズル部72(72A〜72F)が第3のラインL3上にそれぞれ配置されている点で第1の実施形態と共通する。一方、本実施形態のガス供給部70は、第1のラインL1を一単位として複数の第1のノズル部71から噴出されるガス(酸素)の量を制御するとともに、第2のラインL2を一単位として複数の第2のノズル部72から噴出されるガス(酸素)の量を制御するように構成されている点で、第1の実施形態と異なる。
【0110】
各蒸発源61(61A〜61E),62(62A〜62F)から生成される蒸気の量は均一である場合に限られず、蒸発源61,62のうち一部の蒸発源が他の蒸発源と蒸気の生成量が異なる場合がある。後者の場合、各ノズル部71,72から噴出されるガスの量が同一であると、当該一部の蒸発源から生成される蒸気流の酸化度が、他の蒸発源から生成される蒸気流の酸化度と異なることになる。こうなると、フィルムの幅方向における膜厚及び透過率のばらつきを抑制することが困難となる。
【0111】
そこで本実施形態においては、
図10に示すように、第1及び第2のノズル部71A〜71E,72A〜72Fに接続されるガス供給ラインG3の支管に対して、MFC及び開閉弁を含む流量調整部Vが個々に設けられている。これにより、各ノズル部71,72から噴出されるガスの量をそれぞれ個別に制御することが可能となり、ラインL1,L2単位で最適な量のガスを各蒸発源61,62へ供給することが可能となる。各流量調整部Vの制御は、典型的には、コントローラ18(
図1)からの制御指令に基づき、ガス供給部70によって行われる。
【0112】
各蒸発源における蒸気量のバラツキの原因として、坩堝への投入電力のバラツキ、坩堝内の蒸発材料の量のバラツキ等が挙げられる。本実施形態において、ノズル部71,72から噴出されるガスの量を各蒸発源61,62のライン単位とする理由は、各ノズル部71,72と各蒸発源61,62との間の距離(遠/近)といった一次元量の相違に依るものである。これに加え、蒸発源毎の蒸気量の相違が生じている場合は、上記距離の相違だけでなく、蒸発源毎の蒸気量の比率を重畳させる(但し、例えば±5%程度の多少のばらつきがあってもよい)。これにより、蒸発源単位で、ひいてはラインL1.L2単位で、ガス量の最適化を図ることができ、したがってフィルムの幅方向における膜厚及び透過率のばらつきが効果的に抑えられる。
【0113】
各蒸発源における蒸気量のバラツキは、例えば、事前の予備成膜工程で確認することができる。予備成膜処理は特に限定されず、例えば、ノズル部71,72からのガス供給を停止させた状態でフィルム等の適宜のサンプルに成膜処理を施すことで、当該サンプル上での膜厚分布を調整する(例えば±5%以内)。次いでノズル部71,72からガス(酸素)を供給して、膜の透過率分布をガスの噴出量で調整する。上記処理がラインL1,L2単位で実施されることで、ライン単位での供給ガス量の最適化を図ることができる。
【0114】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0115】
例えば以上の各実施形態では、複数の第1及び第2のノズル部71,72が、それぞれ独立した単一のノズル部で構成されたが、例えば
図9に示すように、2つ以上のノズル部が相互に一体的に設けられてもよい。
【0116】
図9は、本発明の変形例におけるガス供給部57と蒸発源アレイ6の配置の一部を拡大して示す概略平面図である。
【0117】
ガス供給部57は、複数の第1のノズル部571と、複数の第2のノズル部572とを有する。本変形例において、複数の第1及び第2のノズル部571,572は、ガス配管570に形成された貫通孔(図中、略円形の黒丸で示す)により構成される。ガス配管570は長尺の円筒形であり、内部に酸素を通過させるための通路部を有する。ただし、ガス配管570の形状はこれに限られず、例えば、四角柱形状等、任意の形状のガス配管を用いることができる。また、ガス配管570には、真空チャンバ9の外部に設置された図示しないガスボンベ等のガス供給源が接続される。当該ガス供給源から供給された酸素ガスは、ガス配管を通って複数の第1及び第2のノズル部571,572から噴出される。
【0118】
複数の第1のノズル部571は、同じ大きさ及び形状の2つの貫通孔をそれぞれ有する。当該2つの貫通孔は、ガス配管570の周面の一部にX軸方向に沿って設けられ、第1の蒸発源61(61A,61B)の直上に酸素ガスを供給する。一方、複数の第2のノズル部572は、複数の第1のノズル部571の貫通孔と同じ大きさ及び形状の3つの貫通孔をそれぞれ有する。当該3つの貫通孔は、ガス配管570の周面の一部にX軸方向に沿って設けられ、第2の蒸発源62(62A,62B)の直上に酸素ガスを供給する。
【0119】
本変形例において、複数の第1のノズル部571の貫通孔の数は、複数の第2のノズル部572の貫通孔の数よりも多い。したがって、複数の第1のノズル部571から噴出されるガスの量は、複数の第2のノズル部572から噴出されるガスの量よりも多くなる。これにより、ガス配管570の近くを流れる第1の蒸発源61A,61Bからの蒸気流と、ガス配管570から離間して流れる第2の蒸発源62A,62Bからの蒸気流とに対して、それぞれ略均一な量の酸素ガスを供給することが可能となる。
【0120】
また、本変形例では、貫通孔の数を変えることによって、複数の第1及び第2のノズル部571,572から噴出されるガスの量を調整したが、これに限られない。貫通孔の数だけでなく、大きさや形状を変えることによって、複数の第1及び第2のノズル部571,572から噴出されるガスの量を調整することも可能である。
【0121】
<変形例2>
上記各実施形態において、ガス供給部7のうちフィルム幅方向(X軸方向)の両端にある第2のノズル部(72A,72F)に別のガス供給ラインを設けてもよい、あるいは、第2のノズル部72A,72Fが有する貫通孔の数や面積を増やしてもよい。この場合、第2のノズル部72A,72Fは、それ以外の第2のノズル部(72B〜72E)から噴出されるガスの量よりも多くのガスを噴出するように構成される。以下、第1の実施形態(
図3)の場合について説明する。
【0122】
第2のノズル部72B〜72Eには、隣接するノズル部がそれぞれ2つある(例えば、第2のノズル部72Bには、第2のノズル部71A,71Bが隣接している)。一方、第2のノズル部72A,72Fには、隣接するノズル部が1つしかない(例えば、第2のノズル部72Aには、第2のノズル部71Aだけが隣接している)。
【0123】
第2のノズル部72は、それぞれ対応する蒸発源62の直上に向けて酸素ガスを放出するが、当該放出された酸素の一部が、対応する蒸発源62に隣接する蒸発源からの蒸気流に接触する場合がある。例えば、第2のノズル部72Bからは蒸発源62Bの直上に向けて酸素ガスが放出されるが、当該酸素ガスが、蒸発源62Bに隣接する蒸発源61A又は61Bからの蒸気流と接触することがある。
【0124】
隣接するノズル部が1つだけの場合、当該1つのノズル部から噴出された酸素ガスの一部が対応する蒸発源からの蒸気流に接触する。一方、隣接するノズル部が2つある場合、当該2つのノズル部から噴出された酸素ガスの一部が対応する蒸発源からの蒸気流に接触する。したがって、第1の蒸発源61A,61Fからの蒸気流に接触する酸素ガスの量よりも、第2の蒸発源62B〜62Eからの蒸気流に接触する酸素ガスの量の方が多い場合がある。
【0125】
第2のノズル部72A,72Fから噴出される酸素ガスの量を、第2のノズル部72B〜72Eから噴出される酸素ガスの量よりも多くすることにより、第1及び第2の蒸発源61,62からの蒸気流と反応する酸素ガスの量のX軸方向におけるばらつきをより抑制することができる。これにより、形成される膜のX軸方向における透過率のばらつきをより抑制することができる。
【0126】
<その他の変形例>
上記各実施形態においては、蒸発材料としてアルミニウムを用いたが、これに限られない。その他の蒸発材料として、マグネシウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、インジウム、スズ、チタン、若しくは鉛等の金属、あるいはこれら金属とケイ素等の半金属との合金、若しくはこれらの酸化物、炭化物、若しくは窒化物等の金属化合物、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0127】
上記各実施形態では、複数の第1の蒸発源61の数を5つ、複数の第2の蒸発源62の数を6つとしたが、これに限られない。複数の第1の蒸発源61の数が、複数の第2の蒸発源62の数より1つ少ないか、同じであるか、1つ多い限り、第1及び第2の蒸発源61,62の千鳥配列を実現することができる。
【0128】
また、上記各実施形態においては、誘導加熱方式により蒸発材料を蒸発させたが、これに限られない。例えば、抵抗加熱方式、電子ビーム加熱方式など、各種の加熱方式を用いることができる。
【0129】
また、上記各実施形態においては、蒸発源を2列(第1のラインL1及び第2のラインL2)に配置したが、これに限られない。蒸発源の大きさや蒸発源間の間隔、及び開口部14の大きさ等を調整することにより、蒸発源を3列以上に配置することもできる。
【0130】
また、上記各実施形態においては、各ノズル部から噴出されるガスを酸素としたが、これに限られない。蒸発材料と反応する反応性ガスであればよく、例えば、窒素や、酸素と窒素の混合ガスを用いることができる。また、アルゴン等の希ガスをこれらガスに混合してもよい。
【0131】
また、上記各実施形態においては、複数の第1のノズル部71の数と複数の第1の蒸発源61の数が同じであり、複数の第2のノズル部72の数と複数の第2の蒸発源62の数は同じであったが、これに限られない。例えば、1つの蒸発源に対して2つのノズル部を割り当ててもよいし、複数の第1の蒸発源61と複数の第2の蒸発源62とで、異なる数のノズル部をそれぞれ割り当ててもよい。
【0132】
また、上記各実施形態では、第1及び第2のノズル部71,72の噴出口はY軸方向に向けられるが、各蒸発源からの蒸気流に対して適切に酸素を供給することができれば、これに限られない。例えば、Y軸方向に対して、冷却ローラ4側あるいは蒸発源アレイ6側へ斜めに傾斜する方向にガスが噴出されてもよい。また、噴出孔の大きさ及び形状は各ノズルで同一であるが、所望とする酸素の供給量に応じて適宜設定可能である。
【0133】
また、上記各実施形態では、第1のラインL1が第2のラインL2よりもフィルム13の搬送方向に関して上流側に位置するものとしたが、第1のラインL1が第2のラインL2より下流側に位置してもよい。ただし、この場合、第3のラインL3は第1のラインL1よりも下流側に位置し、第4のラインL4は、第2のラインL2よりも上流側に位置する。
【0134】
さらに以上の実施形態では、蒸発源ユニットEUとして、巻取式成膜装置における蒸発源として構成されたが、これに限られず、例えば、ガラス基板や半導体基板等の被処理基板を真空蒸着法によって通過成膜あるいは静止成膜するための蒸発源として構成されてもよい。
【0135】
本発明によれば、フィルムの幅方向における膜厚及び透過率のばらつきが抑制された酸化アルミニウム膜蒸着フィルムを提供することができる。このような酸化アルミニウム膜蒸着フィルムは、水蒸気や二酸化炭素等の各種ガスの遮蔽を必要とする物品を包装する包装用フィルムとして有用である。例えば、飲食品、医薬品、化粧品、化学品、又は電子部品等の物品を包装する包装用フィルムとして、このような酸化アルミニウム膜蒸着フィルムを用いることができる。
本発明の一形態に係る巻取式成膜装置1は、巻出しローラ2と、巻取りローラと3、冷却ローラ4と、蒸発源アレイ6と、ガス供給部7とを備える。蒸発源アレイ6は、冷却ローラ4の軸方向と平行な第1のラインL1上に所定の間隔を置いて配置された複数の第1の蒸発源61(61A〜61E)と、第1のラインL1と平行な第2のラインL2上に複数の第1の蒸発源61と半ピッチずれて上記所定の間隔を置いて配置された複数の第2の蒸発源62(62A〜62F)とを有する。ガス供給部7は、複数の第1の蒸発源61からの蒸気流に向けてガスを噴出する複数の第1のノズル部71(71A〜71E)と、複数の第2の蒸発源62からの蒸気流に向けてガスを噴出する複数の第2のノズル部72(72A〜72F)とを有し、蒸発源アレイ6と冷却ローラ4との間に配置される。