特許第6121811号(P6121811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ADEKAの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121811
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】リタデーション上昇剤
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20170417BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20170417BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20170417BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20170417BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170417BHJP
【FI】
   G02B5/30
   C08L1/08
   C08K5/101
   C08K5/20
   C08J5/18
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-129820(P2013-129820)
(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公開番号】特開2015-4813(P2015-4813A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2015年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100161458
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 淳郎
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】原田 昌史
(72)【発明者】
【氏名】村上 聖
【審査官】 加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−060981(JP,A)
【文献】 特開2008−233814(JP,A)
【文献】 特開2011−002633(JP,A)
【文献】 特開昭58−117278(JP,A)
【文献】 特開2010−168584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CAplus/REGISTRY(STN)
G02B 5/30
C08J 5/00 − 5/02
C08J 5/12 − 5/22
C08K 3/00 − 13/08
C08L 1/00 − 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)及び(2)で表される化合物の少なくとも一種からなることを特徴とするリタデーション上昇剤。
(式中、R水素原子をし、また、Rはn1価の芳香族基、若しくは芳香族基で置換されたn1価の脂肪族基を表す。)
(式中、R11〜R17は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数5〜12のシクロアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数2〜10のアルカノイルオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数2〜20のアルコキシアルキレンオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数2〜10のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素原子数3〜21のアルコキシカルボニルアルキレンオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数3〜21のアルキルカルボニルオキシアルキレンオキシ基、シアノ基、ニトロ基、1級又は2級のアミノ基、置換基を有してもよいアミド基を表し、R11〜R15で表される基のうち隣り合う2個の基が連結してそれぞれ結合する炭素原子とともに5員環または6員環を形成していてもよい。また、R18はn2価の脂肪族基またはn2価の芳香族基、若しくは芳香族基で置換されたn2価の脂肪族基を表す。)
【請求項2】
一般式(1)のRで表される芳香族基で置換された脂肪族基における脂肪族基部分の炭素原子数が1〜4である請求項1記載のリタデーション上昇剤。
【請求項3】
一般式(1)のRで表される芳香族基が、炭素原子数6〜12の芳香族基である請求項1記載のリタデーション上昇剤。
【請求項4】
一般式(2)のn2が1である請求項1記載のリタデーション上昇剤。
【請求項5】
セルロース系樹脂100質量部に対し、請求項1〜4のうちいずれか一項記載のリタデーション上昇剤を0.1〜30質量部配合してなることを特徴とするセルロース系樹脂組成物。
【請求項6】
セルロース系樹脂が、セルロースアシレートである請求項5記載のセルロース系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5または6記載のセルロース系樹脂組成物を成形してなることを特徴とするフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムに使用されるリタデーション上昇剤、それを含有するセルロース系樹脂組成物、及び該セルロース系樹脂組成物から得られるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、セルロースアシレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン等の樹脂フィルムが主に液晶表示装置用光学補償フィルムに用いられてきている。その中でも、セルロースアシレートフィルムは偏光子に用いられるポリビニルアルコールへの貼合性が優れていることから広く用いられている。
【0003】
しかし、セルロースエステルフィルムはそのままでは光学補償フィルムに必須なリタデーション(複屈折性)が十分ではないため、セルロースエステルフィルムにリタデーションを付与するさまざまな検討がなされてきている。更に、近年は液晶テレビのさらなる視野角拡大や薄膜化のために、より大きなリタデーションが求められている。
【0004】
樹脂フィルムのリタデーションを増加させるため、リタデーション上昇剤を添加する方法が知られているが、これまでのリタデーション上昇剤では多量添加が必要となりブリードアウトなどの問題が発生するため、これまで実用化が困難であった。また、セルロースの総アシル基置換度を低下させる方法なども提案されているが、吸湿性が増加したりするなどの問題があった。
【0005】
そのような状況下、近年、実用化に向けて特定のリタデーション上昇剤を添加する方法が提案されている。例えば、特許文献1では、特定の芳香族化合物からなるリタデーション向上剤を含有するセルロースエステルフィルムからなる位相差板が提案されている。また、特許文献2では、光反応性基を有する桂皮酸誘導体化合物がリタデーション上昇剤として提案されている。さらに、特許文献3では、特定の多環芳香族化合物と糖エステル化合物との組み合わせによるリタデーション上昇剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4605908号公報
【特許文献2】特開2007−25203号公報
【特許文献3】国際公開WO2007/125764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1における特定の芳香族化合物からなるリタデーション上昇剤を含有するセルロースエステルフィルムは相溶性が不十分なため、光学特性向上効果が不十分であった。また、特許文献2における光反応性基を有する桂皮酸誘導体化合物をリタデーション上昇剤として使用する場合には、非液晶性高分子との光照射反応が必要であり、工程数の増加や付帯設備が必要なことによるコスト面で不利となる。このため、特別な設備を有せず、リタデーションを向上させる技術が望まれている。また、特許文献3においては、リタデーション上昇剤として糖エステル化合物が挙げられており、酸の例示として桂皮酸は記載されているものの、具体的に桂皮酸を用いた化合物については記載がない。また、糖エステルをリタデーション上昇剤として使用することにより、却って未添加と比べてリタデーションが低下している。
【0008】
従って、本発明の目的は、相溶性に優れ、かつ大きなリタデーションを付与し得るリタデーション上昇剤を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、該リタデーション上昇剤を含有するセルロース系樹脂組成物を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、該セルロース系樹脂組成物から得られる優れた光学特性を有するフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の化合物をリタデーション上昇剤とすることにより上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明のリタデーション上昇剤は、下記一般式(1)及び(2)で表される化合物の少なくとも一種からなることを特徴とするものである。
(式中、R〜Rは水素原子を表し、また、Rはn1価の芳香族基、若しくは芳香族基で置換されたn1価の脂肪族基を表す。)
(式中、R11〜R17は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数5〜12のシクロアルキル基、置換基を有してもよい炭素原子数2〜10のアルカノイルオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数2〜20のアルコキシアルキレンオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数2〜10のアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよい炭素原子数3〜21のアルコキシカルボニルアルキレンオキシ基、置換基を有してもよい炭素原子数3〜21のアルキルカルボニルオキシアルキレンオキシ基、シアノ基、ニトロ基、1級又は2級のアミノ基、置換基を有してもよいアミド基を表し、R11〜R15で表される基のうち隣り合う2個の基が連結してそれぞれ結合する炭素原子とともに5員環または6員環を形成していてもよい。また、R18はn2価の脂肪族基またはn2価の芳香族基、若しくは芳香族基で置換されたn2価の脂肪族基を表す。)
【0011】
本発明のリタデーション上昇剤は、一般式(1)のRで表される芳香族基で置換された脂肪族基における脂肪族基部分の炭素原子数が1〜4であることが好ましく、また、一般式(1)のRで表される芳香族基が、炭素原子数6〜12の芳香族基であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のリタデーション上昇剤は、一般式(2)のn2が1であることが好ましい。
【0013】
本発明のセルロース系樹脂組成物は、セルロース系樹脂100質量部に対し、上記リタデーション上昇剤を0.1〜30質量部配合してなることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のセルロース系樹脂組成物において、セルロース系樹脂が、セルロースアシレートであることが好ましい。
【0015】
本発明のフィルムは、上記セルロース系樹脂組成物を成形してなることを特徴とするものである。
【0016】
尚、本発明において光学特性に優れているとは、大きなリタデーションが付与されていることを意味し、このリタデーションは一般にはフィルムの厚み方向のリタデーション値(Rth)によって把握することが可能である。
Rthは下記式で定義される値である。
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
[式中,nxはフィルム面内の屈折率が最も大きい方向の屈折率、nyはnxに直角な方向でのフィルム面内の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚み(nm)を表す。]
これらリタデーション値、Rthは、例えば、KOBRA−WR(王子計測機器(株)製)やRETS−100(大塚電子(株)製)などの自動複屈折率計を用いて測定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた光学特性を有し、即ち大きなリタデーションが付与され、液晶表示装置、特にVAモードの液晶セルを用いるVA型液晶表示装置用の位相差フィルムとして好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
<セルロース系樹脂>
本発明に用いられるセルロース系樹脂としては、いずれの種類のものであってもよいが、セルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。セルロースの低級脂肪酸エステルとしては、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等や、特開平10−45804号公報、特開平8−231761号公報、米国特許第2,319,052号明細書等に記載されているようなセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0019】
<リタデーション上昇剤>
一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0020】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうる置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−アミル、1,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、1,3−ジメチルブチル、1−イソプロピルプロピル、1,2−ジメチルブチル、n−ヘプチル、2−ヘプチル、1,4−ジメチルペンチル、tert−ヘプチル、2−メチル−1−イソプロピルプロピル、1−エチル−3−メチルブチル、n−オクチル、tert−オクチル、2−エチルヘキシル、2−メチルヘキシル、2−プロピルヘキシル、n−ノニル、イソノニル、n−デシル、イソデシル等が挙げられる。
【0021】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうる置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルコキシ基の例としては、上記アルキル基に対応したものが挙げられ、具体的には、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、1,2−ジメチル−プロポキシ、n−ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、1,3−ジメチルブトキシ、1−イソプロピルプロポキシ等が挙げられる。
【0022】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうる置換基を有してもよい炭素原子数6〜20のアリールオキシ基の例としては、上記アリール基に対応したものが挙げられ、具体的には、フェノキシ、ナフトキシ等が挙げられる。
【0023】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうる置換基を有してもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基の例としては、ベンジル、フェネチル、2−フェニルプロパン−2−イル、スチリル、シンナミル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル等が挙げられる。
【0024】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうる置換基を有してもよい炭素原子数5〜12のシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル、シクロドデシル、4−メチルシクロヘキシル等が挙げられる。
【0025】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうる置換基を有してもよい炭素原子数2〜10のアルカノイルオキシ基の例としては、前記アルキル基に対応したアルカノイルオキシ基が挙げられる。
【0026】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうる置換基を有してもよい炭素原子数2〜20のアルコキシアルキレンオキシ基の例としては、前記アルキル基に対応したアルコキシアルキレンオキシ基が挙げられる。
【0027】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうる置換基を有してもよい炭素原子数2〜10のアルコキシカルボニル基の例としては、前記アルキル基に対応したアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0028】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうる置換基を有してもよい炭素原子数3〜21のアルコキシカルボニルアルキレンオキシ基の例としては、前記アルキル基に対応したアルコキシカルボニルアルキレンオキシ基が挙げられる。
【0029】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R、R及びR11〜R17がとりうる置換基を有してもよい炭素原子数3〜21のアルキルカルボニルオキシアルキレンオキシ基の例としては、前記アルキル基に対応したアルキルカルボニルオキシアルキレンオキシ基が挙げられる。
【0030】
また、一般式(1)及び(2)において、R〜R及びR11〜R15で示される基のうち隣り合う2個の基は連結してそれぞれが結合する炭素原子とともに5員環または6員環を形成してもよい。
5員環の例としては、シクロペンテン環、シクロペンタジエン環、イミダゾール環、チアゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピロール環等が挙げられる。6員環の例としては、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環、ベンゼン環、ピリジン環、ピペラジン環、ピペリジン環、モルフォリン環、ピラジン環、ピロン環、ピロリジン環等が挙げられる。5員環および6員環は置換基を有してもよい。
【0031】
前記一般式(1)及び(2)において、R18で表される脂肪族のn2価の有機基としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、2−メチルプロパン、ペンタン、2,2−ジメチルプロパン、2−メチルブタン、へキサン、ヘプタン、オクタン、2−エチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、ノナン、デカンなどのアルカンやエチレン、プロピレン、ブテンなどのアルケンからn個の水素原子を除いた基が挙げられる。除かれる水素原子の位置は特に限定されず、1級、2級、3級のいずれでもよい。これらn価の脂肪族有機基はヒドロキシ基やハロゲン原子などの置換基を有してもよく、またエーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合などの結合を有してもよい。また、R及びR18で表される芳香族のn1及びn2価の有機基としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、ターフェニルなどの芳香族化合物やトルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの脂肪族置換基を有する芳香族化合物からn1及びn2個の水素原子を除いた基が挙げられる。除かれる水素原子の位置は特に限定されず、芳香族基からでも脂肪族基からでもよい。これらn1及びn2価の芳香族有機基はヒドロキシ基やハロゲン原子などの置換基を芳香族基または脂肪族基に有してもよく、またエーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミド結合などの結合を有してもよい。さらに、R及びR18で表される、芳香族基で置換されたn1及びn2価の脂肪族基としては、上記芳香族基及び脂肪族基が挙げられる。
【0032】
一般式(1)において、入手のし易さの観点よりn1は好ましくは1〜10であり、より好ましくは1〜6である。同様の理由により、一般式(2)において、n2は好ましくは1〜20であり、より好ましくは1〜10である。
【0033】
以下に本発明で使用されるリタデーション上昇剤の具体例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。
これら化合物は単独で用いても二種類以上を混合物として用いてもよい。
【0034】
また、これら化合物の使用量は、セルロース系樹脂100質量部に対し、0.1〜30質量部、好ましくは1〜20質量部である。この使用量が0.1質量部未満ではその効果が十分に発揮されず、一方、30質量部を超えて使用した場合には、ブリードを生じるため、好ましくない。
【0035】
本発明のセルロース系樹脂組成物には、可塑剤を任意に使用することができる。可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ブチルヘキシルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジラウリルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジオクチルテレフタレートなどのフタレート系可塑剤;ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ(ブチルジグリコール)アジペートなどのアジペート系可塑剤;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリ(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリ(ブトキシエチル)ホスフェート、オクチルジフェニルホスフェートなどのホスフェート系可塑剤;多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどと、二塩基酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などとを用い、必要により一価アルコール、モノカルボン酸(酢酸、芳香族酸など)をストッパーに使用したポリエステル系可塑剤;その他、テトラヒドロフタル酸系可塑剤、アゼライン酸系可塑剤、セバチン酸系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤、クエン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ビフェニレンポリカルボン酸系可塑剤、多価アルコールの芳香族酸エステル系可塑剤(トリメチロールプロパンのトリベンゾエート等)などが挙げられる。
【0036】
また、本発明のセルロース系樹脂組成物には、さらに各種の添加剤、例えば、リン系、フェノール系または硫黄系抗酸化剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤などを配合することもできる。
【0037】
上記リン系抗酸化剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ、ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2−第三ブチル−4,6−ジメチルフェニル)・エチルホスファイト、ジフェニルアシッドホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、ジブチルアシッドホスファイト、ジラウリルアシッドホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、ビス(ネオペンチルグリコール)・1,4−シクロヘキサンジメチルジホスファイト、ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ第三ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、フェニル−4,4’−イソプロピリデンジフェノール・ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(C12−15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルホスファイト、ビス[2,2’−メチレンビス(4,6−ジアミルフェニル)]・イソプロピリデンジフェニルホスファイト、水素化−4,4’−イソプロピリデンジフェノールポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)・ビス[4,4’−n―ブチリデンビス(2−第三ブチル−5−メチルフェノール)]・1,6−ヘキサンジオール・ジホスファイト、テトラトリデシル・4,4’−ブチリデンビス(2−第三ブチル−5−メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)・1,1,3−トリス(2−メチル−5−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン・トリホスホナイト、9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、2−ブチル−2−エチルプロパンジオール・2,4,6−トリ第三ブチルフェノールモノホスファイトなどが挙げられる。
【0038】
上記フェノール系抗酸化剤としては、例えば、2,6−ジ第三ブチル−p−クレゾール、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、ステアリル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジステアリル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネート、トリデシル・3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジルチオアセテート、チオジエチレンビス[(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、4,4’−チオビス(6−第三ブチル−m−クレゾール)、2−オクチルチオ−4,6−ジ(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)−s−トリアジン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)、ビス[3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、4,4’−ブチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタン、ビス[2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェニル]テレフタレート、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−第三ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリス[(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−アクリロイルオキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェノール、3,9−ビス[2−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルヒドロシンナモイルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン]、トリエチレングリコールビス[β−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。
【0039】
上記硫黄系抗酸化剤としては、例えば、チオジプロピオン酸のジラウリル、ジミリスチル、ミリスチルステアリル、ジステアリルエステルなどのジアルキルチオジプロピオネート類およびペンタエリスリトールテトラ(β−ドデシルメルカプトプロピオネート)などのポリオールのβ−アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類などが挙げられる。
【0040】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−第三ブチル−4’−(2−メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)ベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)などの2−ヒドロキシベンゾフェノン類;2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−ドデシル−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−C7〜9混合アルコキシカルボニルエチルフェニル)トリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3、5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−ベンゾトリアゾリルフェノール)、2−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾールのポリエチレングリコールエステルなどの2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシロキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−アクリロイルオキシエトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンなどの2−(2−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジ第三ブチルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ第三アミルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート類;2−エチル−2’−エトキシオキザニリド、2−エトキシ−4’−ドデシルオキザニリドなどの置換オキザニリド類;エチル−α−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレートなどのシアノアクリレート類などが挙げられる。
【0041】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)・ビス(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ビス(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/ジブロモエタン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−モルホリノ−s−トリアジン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−第三オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物、1,5,8,12−テトラキス[2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル]−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,5,8,12−テトラキス[2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル]−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,6,11−トリス[2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−s−トリアジン−6−イルアミノ]ウンデカン、1,6,11−トリス[2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ−s−トリアジン−6−イルアミノ]ウンデカン、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルオキシカルボニルオキシ)ブチルカルボニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンなどが挙げられる。
【0042】
その他、本発明には、さらに必要に応じてその他の添加剤、例えば、充填剤、着色剤、架橋剤、帯電防止剤、プレートアウト防止剤、表面処理剤、滑剤、難燃剤、蛍光剤、防黴剤、殺菌剤、金属不活性化剤、離型剤、顔料、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、発泡剤等を配合することができる。
【0043】
本発明における化合物の合成方法としては、任意の縮合反応で合成可能であり、例えば、酸ハロゲン化合物と対応するアルコールやアミン、ヒドラジン等から得ることが可能である。但し、上記の方法による化合物の合成方法に何ら制限を受けるものではない。
【0044】
次に、本発明のフィルムの製造方法について説明するが、以下の方法により限定されるものではない。
【0045】
本発明のフィルムの製造法は、セルロース系樹脂を溶剤に溶解させたドープ液を塗布、乾燥して行われる。ドープ液には必要に応じて各種添加剤を混合することができる。ドープ液中のセルロース系樹脂の濃度は、濃い方が支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロース系樹脂の濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これ等を両立する濃度としては、10〜30質量%が好ましく、更に好ましくは15〜25質量%である。
【0046】
本発明に係るドープ液の調製に用いる溶剤は、1種単独でもよく、2種以上の併用でもよいが、セルロース系樹脂の良溶剤と貧溶剤とを混合して用いることが生産効率の点で好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が30〜2質量%である。本発明に用いられる良溶剤、貧溶剤については、使用するセルロース系樹脂を単独で溶解するものを良溶剤、単独では膨潤するのみかあるいは溶解し得ないものを貧溶剤と定義する。そのため、セルロース系樹脂の平均酢化度によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えば、アセトンは、平均酢化度55%のセルロース系樹脂では良溶剤になり、平均酢化度60%のセルロース系樹脂では貧溶剤となってしまう。このように、良溶剤、貧溶剤はすべての場合に一義的に決まるものではない。本発明において好ましいセルロース系樹脂であるセルローストリアセテートの場合には、良溶剤としては、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類が挙げられ、また、セルロースアセテートプロピオネートの場合には、メチレンクロライド、アセトン、酢酸メチル等が挙げられる。一方、これらの場合、貧溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0047】
上記ドープ液を調製するときのセルロース系樹脂の溶解方法としては、一般的な方法を用いることができるが、加圧下で、溶剤の常圧での沸点以上でかつ溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱し、撹拌しながら溶解する方法が、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止することができるため、好ましい。また、セルロース系樹脂を貧溶剤と混合し、湿潤あるいは膨潤させた後、さらに良溶剤と混合して溶解する方法も好ましく用いられる。さらに、公知の冷却溶解法を用いてもよい。冷却溶解法を用いる場合には、良溶剤として酢酸メチル、アセトンを用いることができる。加圧は、窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱による溶剤の蒸気圧の上昇によって行ってもよい。加熱は、外部から行うことが好ましく、例えば、ジャケットタイプのものは温度コントロールが容易であるため、好ましい。
【0048】
溶剤を添加した後の加熱温度は、使用溶剤の常圧での沸点以上で、かつ溶剤が沸騰しない範囲の温度が、セルロース系樹脂の溶解度の観点から好ましい。加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり、生産性が悪くなる。好ましい加熱温度の範囲は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70〜105℃が更に好ましい。また、圧力は、設定温度で溶剤が沸騰しないように調整する。加熱後は、得られたセルロース系樹脂溶液を濾紙等の適当な濾材を用いて濾過する。濾材としては、不要物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾材の目詰まりが発生しやすいという問題点が生じる。このため、絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの範囲の濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの範囲の濾材が更に好ましい。濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、例えば、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材やステンレス等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく、好ましい。
【0049】
ドープ液の濾過は通常の方法で行うことができるが、加圧下で、溶剤の常圧での沸点以上でかつ溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾材前後の差圧(以下、濾圧ということがある)の上昇が小さく、好ましい。好ましい濾過の温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃が更に好ましい。濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6×10Pa以下であることが好ましく、1.2×10Pa以下であることがより好ましく、1.0×10Pa以下であることが更に好ましい。
【0050】
流延(キャスト)工程に用いる支持体は、無端ベルト状もしくはドラム状のステンレスを鏡面仕上げした支持体が好ましい。キャスト工程の支持体の温度は0℃から溶剤の沸点未満の温度までが好ましい。温度が高い方が乾燥速度を速くできるが、あまり高過ぎると発泡し、平面性が劣化する場合がある。好ましい支持体温度は0〜50℃であり、5〜30℃が更に好ましい。支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水バットを支持体に接触させる方法がある。これらの方法のうち、温水バットを用いる方法が、熱の伝達が効率的に行われ、支持体の温度が一定になる時間が短くなるため、好ましい。温風を用いる場合は、目的の温度よりも高い温度の風を使う必要がある。セルロース系樹脂フィルムが良好な平面性を示すためには、支持体から剥離する際の残存溶剤量は、10〜120質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜120質量%であり、特に好ましくは20〜30質量%または70〜115質量%である。
【0051】
本発明においては、残留溶剤量は下記式で定義される。
残留溶剤量=〔(加熱処理前のフィルム質量−加熱処理後のフィルム質量)/(加熱処理後のフィルム質量)〕×100(%)
尚、残留溶剤量を測定する際の加熱処理とは、フィルムを115℃で1時間加熱することをいう。また、セルロース系樹脂フィルムの乾燥工程においては、支持体より剥離したフィルムを更に乾燥し、残留溶剤量を3質量%以下にすることが好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。フィルム乾燥工程では一般にロール懸垂方式か、テンター方式でフィルムを搬送しながら乾燥する方式を採ることができる。
【0052】
支持体より剥離した直後の残留溶剤量の多い間に、テンター方式で幅保持または延伸を行うことが、寸法安定性向上効果をより発揮するため、好ましい。フィルムを乾燥させる手段は特に制限なく、熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことができる。簡便さの点では、熱風で行うことが好ましい。この場合、乾燥温度は40〜150℃の範囲で段階的に高くしていくことが好ましく、寸法安定性を良くするためには50〜140℃で行うことが更に好ましい。
【0053】
延伸光学補償フィルムとしての膜厚は、薄い方が液晶ディスプレイの薄膜化が容易になるため好ましいが、薄過ぎると、透湿度が増大し、引き裂き強度等が不足する。これ等を両立するセルロース系樹脂フィルムの膜厚としては、10〜150μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例によりなんら制限を受けるものではない。表中の配合量の単位は質量部とする。
≪実施例1〜9、参考例1〜4、比較例1〜4≫
セルローストリアセテート(酢化度61.5%、重合度260)を100質量部及び下記の表1〜表3記載の添加剤を同表記載の質量部で、ジクロロメタン400質量部とメチルアルコール100質量部とからなる混合溶剤に撹拌しながら均一に溶解させ、各種ドープ液を調製した。次いで、得られたドープ液をガラス板上に約80μmになるように流延し、室温で16時間乾燥させた後、50℃で1時間乾燥させ、さらに120℃で1時間乾燥させ、各種評価フィルムを得た。得られたフィルムの膜厚はいずれも約80μmであった。
【0055】
<リタデーション測定方法>
得られたフィルムについて、下記式に従い自動複屈折率計RETS−100(大塚電子(株)製)を用いて、25℃、相対湿度60%環境下、波長590nmにおける厚み方向のリタデーション(Rth)を測定した。
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
[式中,nxはフィルム面内の屈折率が最も大きい方向の屈折率、nyはnxに直角な方向でのフィルム面内の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚み(nm)を表す。]
【0056】
<揮散性評価方法>
熱量計測定装置(Rigaku社製)を用いて、下記表1〜4に示す化合物について、窒素200ml/min、20℃/min、140℃で60分ホールドした後の重量減少(%)が1.5%未満の場合は○、1.5%以上の場合は×と評価した。結果を下記表1〜4に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】