(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6121874
(24)【登録日】2017年4月7日
(45)【発行日】2017年4月26日
(54)【発明の名称】フッ素を含む燃焼炉の排ガスの処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/68 20060101AFI20170417BHJP
F23G 5/14 20060101ALN20170417BHJP
F23G 5/02 20060101ALN20170417BHJP
F23J 15/00 20060101ALN20170417BHJP
F23G 7/00 20060101ALN20170417BHJP
【FI】
B01D53/68 200
!F23G5/14 E
!F23G5/02 A
!F23J15/00 Z
!F23G7/00 G
!F23J15/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-224401(P2013-224401)
(22)【出願日】2013年10月29日
(65)【公開番号】特開2015-85242(P2015-85242A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎保
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅史
【審査官】
小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭49−039565(JP,A)
【文献】
特開2008−229416(JP,A)
【文献】
特開平08−108040(JP,A)
【文献】
特開2002−257328(JP,A)
【文献】
特開平05−261359(JP,A)
【文献】
特許第5279062(JP,B2)
【文献】
特開昭55−102422(JP,A)
【文献】
米国特許第04042667(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34−53/96
F23C 9/08
F23C 13/00−13/08
F23C 99/00
F23G 5/00− 5/50
F23G 7/00− 7/14
F23J 1/00− 1/08
F23J 7/00− 9/00
F23J 13/00−99/00
F23K 1/00− 3/22
F23L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉で燃焼して得られるフッ素を含む排ガスの処理方法において、
排ガスにカルシウム塩類を投入し、反応させた後に生じた粉塵を集塵し、フラックスの添加を有する溶融炉に当該粉塵を添加して粉塵中のフッ化カルシウムを前記フラックスが形成するスラグに分配し固定化することを含む溶融炉からの排ガスの処理方法。
【請求項2】
前記排ガスは、予め除塵してからカルシウム塩との反応に供されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
排ガスにカルシウム塩を投入する際に、さらに炭素系吸着剤も併せて添加されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
排ガスにカルシウム塩を投入する際に、当該排ガスが300℃以下に調整されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶融炉の排気ガスの処理方法。
【請求項5】
排ガスにカルシウム塩を投入する際に、当該排ガスが廃熱ボイラーにより温度調整されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
カルシウム塩を反応させて粉塵を固気分離した後の排ガスに、炭酸ナトリウム塩を投入し、反応させた後に生じる粉塵を、固気分離を行って集塵することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
炭酸ナトリウム塩を投入し反応させて生じた粉塵を固気分離した後の排ガスを脱硝処理することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
フッ化カルシウムを固定化したスラグを回収することを含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物溶融炉の排ガス処理において、その中に含まれるフッ素を安定な形で排出処理し、排ガスに含まれる各種排出規制物質を環境基準以下に浄化して排出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素はハロゲン族元素でありその極めて高い電子求引力と、炭素と作る強力な共有結合とを利用し、繊維や樹脂、薬品等広く日用品に用いられている。使用用途の拡大に伴い、産業廃棄物として排出される量も増加している。
【0003】
フッ素を含む製品を廃棄したときはまず高温で熱分解する。その時分解されたフッ素は焼却残渣や排ガスに分配する。排ガスに分配したフッ素は反応性に富み、煙道や集塵機さらには処理の段階で発生する硫黄酸化物や窒素酸化物を無害化する触媒、例えば脱硫触媒や脱硝触媒を冒す。
【0004】
そのためにこれを除去することが必須であり、最もよく知られる方法はアルカリ性水溶液による吸収である。これによりフッ素は吸収液中にアニオンとしてトラップされる。
【0005】
こうして吸収液中に回収されたフッ化物イオンはそのまま排出することはできない。フッ化物イオンには排出基準があり、基準値以下となるまで所定の排水処理を施した後に排出しなければならない。その排出基準値は8mg/L(環境基準値は0.8mg/L)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5279062号明細書
【特許文献2】特開2008−229416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水中の低濃度フッ素の処理法はカルシウム化合物として沈澱させる方法が一般的である。しかしこのフッ素を完全に除去することは、フッ化カルシウムの水に対する低い溶解度と、カルシウム塩を固体で投入したときの低い反応性により、簡単ではない。実操業ではカルシウム塩を添加しても排水中にフッ素との沈殿反応を妨害する成分が共存しているのでフッ素濃度は10〜15mg/Lまでしか下がらず、別に安定な形でフッ素を排出することは重要である。
【0008】
アルカリ吸収法は吸収液を繰り返し使用することでフッ化物イオンを濃縮できるという長所があり、吸収効率も高いことから乾式法よりも採用される頻度が高い。しかし吸収したフッ化物イオンからフッ素を除く工程を必要とすることや、処理のために排ガスの温度を急激に下げる必要があり、その後に脱硝工程や脱硫工程を置く場合は再度加熱する必要が生じる。
【0009】
加えて、最終的に生じるフッ化カルシウムの回収と、その回収物の最終処分とを必要とするためコスト面で問題が残っている。
【0010】
アルカリ吸収を行わない乾式処理法はガスの中和と脱硫、脱硝を目的として知られている(特許文献1)。反応性の面で塩基性ナトリウム塩が使用される。しかしナトリウム塩ではフッ素を回収することはできない。
【0011】
カルシウム塩を排ガスと接触させることでフッ素を除くことも可能である(特許文献2)。しかしこの方法ではカルシウム塩粒子表面しか反応に関与しないことから多量のカルシウム塩が必要となり、使用した後の多量のフッ素含有カルシウム塩の処理が問題となる。
【0012】
以上のことから本発明はフッ素を含む燃焼炉の排ガスの処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、溶融炉から排出されるフッ素を含む排ガスをカルシウム塩と接触させてフッ素含有カルシウム塩とし、固体となったフッ素含有カルシウム塩を排ガスから除去することができ、さらにその固体をフラックス成分として溶融炉に添加し、フッ化カルシウムがスラグとして回収することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、フッ素が除去された排ガスは炭酸ナトリウムによる中和処理に供され、さらに脱硝処理に供された後に排出される。
【0014】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、溶融炉で燃焼して得られるフッ素を含む排ガスの処理方法において、
排ガスにカルシウム塩類を投入し、反応させた後に生じた粉塵を集塵し、当該粉塵を前記溶融炉に添加して燃焼させる溶融炉からの排ガスの処理方法を提供する。
また、この処理方法は、一実施態様において、排ガスは、予め除塵してからカルシウム塩との反応に供されることを特徴とする。
また、この処理方法は、別の一実施形態において、排ガスにカルシウム塩を投入する際に、さらに炭素系吸着剤も併せて添加されることを特徴とする。
また、この処理方法は、更に別の一実施形態において、排ガスにカルシウム塩を投入する際に、当該排ガスが300℃以下に調整されていることを特徴とする。
また、この処理方法は、更に別の一実施形態において、排ガスにカルシウム塩を投入する際に、当該排ガスが廃熱ボイラーにより温度調整されることを特徴とする。
また、この処理方法は、以上に記載の各実施態様において、
カルシウム塩を反応させて粉塵を固気分離した後の排ガスに、炭酸ナトリウム塩を投入し、反応させた後に生じる粉塵を、固気分離を行って集塵してもよい。
また、さらに、この処理方法は、炭酸ナトリウム塩を投入し反応させて生じた粉塵を固気分離した後の排ガスを脱硝処理してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低コストで廃棄物溶融炉の排ガスを、フッ素濃度の観点から排出基準を満たす濃度まで浄化処理する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は廃棄物溶融炉の排ガスの処理方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る溶融炉のフッ素含有排ガス処理方法の実施形態を説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る排ガス処理方法のフロー図を示す。
【0018】
本発明に係る溶融炉のフッ素含有排ガス処理方法は、フッ素を含む溶融炉で燃焼して得られる排ガスの処理方法において、排ガスにカルシウム塩類を投入して反応させる工程1と、反応後のフッ素含有カルシウム塩からなる粉塵を集塵する工程2と、集塵した粉塵を溶融炉に添加して燃焼させる工程3と有する。なお、工程1にて粉塵を固気分離した後の排ガスに炭酸ナトリウム塩を投入して中和反応を行う工程4、および工程4の中和反応で生じた粉塵を集塵する工程5を有していてもよく、およびさらに工程5にて粉塵を固気分離した後の排ガスを脱硝処理する工程6を有していてもよい。
【0019】
溶融炉で廃棄物を焼却処理した場合、その排ガスは粉塵、鉛化合物、ハロゲン化金属といった低融点揮発物などの数マイクロメートルオーダーの有害成分から、硫黄酸化物、窒素酸化物といった分子レベルの有害成分まで排出される。前者数マイクロメートルオーダーの有害成分は後段の処理工程で試薬の反応率を下げるため、
図1には現れていないが、排ガスを予め除塵しておくことが望ましい。
【0020】
除塵により回収されたダストは炉に繰り返しても再度ダストなり系内を循環する事になるので、別途処理工程を設けて有価物を回収後に溶出しないよう安定化させて系外に排出する。
【0021】
溶融炉からの排ガスを予め除塵するに際して、燃焼炉からの排ガスが高温であるため、廃熱ボイラーに導入し、300℃以下になるようにする。これは、温度が高い場合は未浄化の有害ガス成分が各種設備や機器を痛めることが懸念されるために行う処理である。
【0022】
次に適当な集塵機で排ガス中の塵を除く。この除塵を行うことで後工程、特に後述する工程1のカルシウム塩との反応効率を上げることができる。集塵機はいずれのタイプでもよいが大きさや処理能力の面から電気集塵機が最も適する。
【0023】
図1において、工程1では、予め集塵しておいた排ガスにフッ素を除去するためのカルシウム塩を投入する。カルシウム塩としては生石灰、消石灰、塩化カルシウム、石膏、炭酸カルシウム何れでも使用することが可能である。排ガスは、燃焼炉にて生成した硫黄酸化物や窒素酸化物を含有する酸性ガスであることから、中でも塩基性の消石灰や炭酸カルシウムは中和の効果もあり好ましい。
【0024】
またカルシウム塩を投入する時には、活性炭に代表される炭素系吸着剤をも添加するとさらに清浄効果が期待される。
【0025】
工程2では、投入されたカルシウム塩や活性炭が適当な集塵機、例えばバグフィルターにより分離回収される。回収物としてのカルシウム塩にはフッ素がフッ化カルシウムとして含有されている。
【0026】
工程3では、この回収物を特に処理することなくフラックスと共に溶融炉へ装入する。
【0027】
なお、溶融炉に装入された炭素系吸着剤は燃焼する一方、カルシウム塩に含まれるフッ化カルシウムはフラックスが形成するスラグに分配する。フッ素との捕捉反応時に未反応だったカルシウム塩の一部は溶融炉内で再度フッ素と反応してフッ素の固定化に寄与する。
【0028】
スラグに分配したフッ化カルシウムは非常に安定であり、通常フッ素は溶出しない。
【0029】
一般に、溶融炉でスラグを形成させて有価物を回収する際にはフラックスを添加するが、その主成分はケイ酸、アルミナ、カルシウム成分であることから、工程2にて回収した粉塵に含まれるカルシウム塩を添加してフラックスとして作用させることはコストの面で有利である。
【0030】
一方、工程4では、工程2にてフッ素を粉塵に含めて除去した排ガスにはさらにナトリウムの炭酸塩を投入して中和する。これは、排ガス中に酸成分、とくに硫黄酸化物(SOX)が含まれていると後工程である工程6の脱硝処理において使用するアンモニア量が増大する上、脱硝触媒が被毒されることになり好ましくない。
【0031】
工程4にて、投入するナトリウムの炭酸塩は一般的なSOX中和用試薬、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどでよい。その粒径は特に指定されないが、後述する工程5にて、投入したナトリウムの炭酸塩を中和後に生じる粉塵を回収する集塵機の能力に応じて選択される。
【0032】
工程5では、工程4で生じた粉塵、すなわち炭酸ナトリウムの中和反応により生じた硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等を固気分離する。また、この分離された粉塵は、特に処理することなく水に溶解させた後、通常の排水処理工程に投入して排出することが可能である。
【0033】
工程6では、工程5にて中和後の粉塵が除去された排ガスに、アンモニアを添加して脱硝触媒により窒素酸化物を除いて大気中に放出される。この脱硝工程は、脱硝触媒塔などを用いるなど、一般的に用いられる方法でよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
一般的な産業廃棄物炉から排出される排気ガス(表1)を廃熱ボイラーに導入しガス温度を300℃に調整して電気集塵機(日立プラント社製 型式SO−HP
12)に通じた。活性炭入り炭酸カルシウム(奥多摩工業株式会社製 商品名タマカルク)を110kg/hでガスに投入した。バグフィルター(新東工業社製 型式 UDC−1540NS(65))により使用した炭酸カルシウムを回収した。バグフィルター通過後の排ガスに炭酸ナトリウムを225kg/h(旭硝子社製 商品名アクレシア)で投入した。別のバグフィルターにより使用した炭酸ナトリウムを回収した。バグフィルター通過後の排ガスにアンモニア水5〜15L/hを添加して脱硝触媒塔で処理した。
回収した炭酸カルシウムは分析用のサンプルを取り出したのち燃焼炉へ投入した。回収した炭酸ナトリウムは100kgあたり1m
3の水に溶解し通常の工場排水処理方法により処理した。
【0035】
【表1】
【0036】
溶融炉で生成するスラグ、電気集塵機で集塵したダスト、使用後の炭酸カルシウム、使用後の炭酸ナトリウムを溶解した水の中に含まれるフッ素の濃度を定量した。固形物は硝酸で加熱分解後適当に希釈してイオンクロマトグラフィー(ダイオネックス社製 型式 ICS−900)により濃度を定量して含有量を算出した。水溶液は水で適当に希釈した後同様にイオンクロマトグラフィーにより濃度を定量した。これらの評価を実操業の中で二度ずつ行った。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2の結果から溶融炉から排出されたガスに含まれるフッ素はCaで捕捉されていることが解る。またスラグにフッ素は分配されて安定な形で系外にカットオフできることが示唆される。
【0039】
(実施例2)
スラグ固定率を調べることを目的とし、磁性製るつぼに実施例1で排出された使用後のCa塩3gを別途分離し、ケイ酸鉱34g、廃棄物焼却灰3gを添加して良く混合して混合フラックスを得た(実施例2−1)。また、実施例2−1と異なる混合比率、すなわちCa塩1.5g、ケイ酸鉱7gおよび廃棄物焼却灰1gとなる混合フラックスも得た(実施例2−2)。800℃に加熱して表層に生成したスラグを分離した。スラグは水砕して冷却した。冷却後よく乾燥させて実施例1と同様にフッ素成分を定量した。なお、これら混合比率を変えた混合フラックスのそれぞれについて評価した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3の結果からフラックスに混合されたフッ化カルシウムは殆どがスラグに固定されることが解る。すなわち表2と表3からは新規チャージされた原料に由来するフッ素は排ガスに分配するものの、本処理方法によりカルシウム塩で捕捉される。捕捉されたフッ素はスラグに分配して安定な形で排出され、ガスは中和と脱硝により浄化されて排出される。