(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
細胞は、高度に保存された酸素、鉄、及び2−オキソグルタレート依存性のプロリルヒドロキシラーゼ(PHD)酵素ファミリーによる、低酸素誘導因子(HIF)の翻訳後修飾によって、低酸素症に応答する(Ivanら、2001,Science,292:464〜68、Jaakkolaら、2001,Science,292:468〜72)。酸素正常状態では、PHDはHIF内に保存されている2つのプロリン残基のヒドロキシル化を触媒する。酸素に対するPHDの親和性は酸素の生理学的範囲内にあり、酸素はヒドロキシル化HIFを修飾するのに必須の補助因子であるため、酸素圧が低下するとPHDは不活性化される。このようにして、HIFは酸素正常状態で急速に分解するが、低酸素状態又はPHDが阻害されている場合には細胞に蓄積する。
【0004】
PHDの4つのアイソタイプPHD1、PHD2、PHD3、及びPHD4が記述されている(Epsteinら、2001,Cell,107:43〜54、Kaelin,2005,Annu Rev Biochem.,74:115〜28、Schmidら、2004,J Cell Mol Med.,8:423〜31)。様々なアイソタイプが遍在して発現するが、異なって調節され、低酸素症に対する細胞応答において異なる生理学的役割を有する。この様々なアイソタイプが、3つの異なるHIF−αサブタイプに対して異なる選択性を有するということが証明されている(Epsteinら、上記)。細胞の局所化については、PHD1は主に細胞核、PHD2は主に細胞質、そしてPHD3は細胞質及び細胞核の両方にあると見られる(Metzen Eら、2003,J Cell Sci.,116(7):1319〜26)。PHD2は、酸素正常状態で主要なHIF−αプロリルヒドロキシラーゼであると思われる(Ivanら、2002.Proc Natl Acad Sci.USA,99(21):13459〜64;Berraら、2003,EMBO J.,22:4082〜90)。この3つのアイソタイプは高度なアミノ酸相同性を有し、酵素の活性部位は高度に保存されている。
【0005】
小分子によるPHD酵素活性の標的破壊は、酸素検知と分配の障害の治療において、潜在的な有用性を有する。その例としては、貧血症、鎌状赤血球貧血、末梢血管疾患、冠状動脈疾患、心不全、虚血(心筋虚血、心筋梗塞及び脳卒中などの状態におけるもの)からの組織保護、移植用臓器の保存、組織虚血の処置(血流の調節及び/若しくは回復、酸素供給、並びに/又はエネルギー利用による)、特に糖尿病及び高齢の患者の創傷治癒の促進、火傷の処置、感染症の処置、骨の治癒、並びに骨の成長が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、PHDの標的破壊は、糖尿病、肥満、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、及びクローン病などの関連疾患などの代謝性疾患の治療に有用性を有すると見込まれている。(Recent Patents on Inflammation & Allergy Drug Discovery,2009,3:1〜16)。
【0006】
HIFは、低酸素状態でエリスロポエチン産生を増加させる主要な転写因子であることが示されている(Wangら、1993、上記)。組換え型ヒトエリスロポエチンでの治療は、貧血治療の有効な方法として示されているが、小分子介在PHD阻害は、エリスロポエチンでの治療を上回る利点を提供することが見込まれ得る。具体的には、他のHIF遺伝子産物の機能は造血(hematopoesis)に不可欠であり、この因子の調節が、造血(hematopoesis)の効率を増大させる。造血(hematopoesis)に必須であるHIF標的遺伝子産物の例としては、トランスフェリン(Rolfsら、1997,J Biol Chem.,272(32):20055〜62)、トランスフェリン受容体(Lokら、1999,J Biol Chem.,274(34):24147〜52、Tacchiniら、1999,J Biol Chem.,274(34):24142〜46)及びセルロプラスミン(Mukhopadhyayら、2000,J Biol Chem.,275(28):21048〜54)が挙げられる。またヘプシジン発現がHIFによって抑制され(Peyssonnauxら、2007,J Clin Invest.,117(7):1926〜32)、PHDの小分子阻害物質がヘプシジン産生を低下させることが示されている(Braliouら、2008,J Hepatol.,48:801〜10)。ヘプシジンは、造血(hematopoesis)に必要な鉄の利用可能性に対する負の制御因子であり、よってヘプシジン産生の低下は、貧血治療に有用であることが見込まれる。PHD阻害も、鉄補充及び/又は外因性エリスロポエチンを含むその他の貧血治療と組み合わせて使用した場合、有用であり得る。ヒト母集団において自然に発生するPHD2遺伝子における突然変異の研究は、PHD阻害の貧血治療への利用に関する更なる根拠を提供している。2つの最近の報告により、PHD2遺伝子に機能不全の突然変異を有する患者が、赤血球増多及び血液ヘモグロビン増加を呈することが示されている(Percyら、2007,PNAs,103(3):654〜59、Al−Sheikhら、2008,Blood Cells Mol Dis.,40:160〜65)。加えて、小分子PHD阻害物質が、健康なボランティア及び慢性腎臓病を有する患者において評価されている(2006年12月7日出願の米国特許出願第2006/0276477号)。血漿中エリスロポエチンは用量依存的に増加し、血中ヘモグロビン濃度は慢性腎臓病患者において上昇した。
【0007】
低酸素状態におけるHIFの全体的蓄積が、糖分解の適応的上方制御を支配し、過酸化水素及び超酸化物の産生の低減をもたらす酸化的リン酸化の低減、虚血性損傷に対して細胞を保護する酸化的リン酸化の最適化が生じる。よって、PHD阻害物質は、臓器及び組織移植の保全に有用であると見込まれる(Bernhardtら、2007,Methods Enzymol.,435:221〜45)。移植用の臓器を採取する前にPHD阻害物質を投与することによって利益が得られる可能性があるが、採取後の臓器/組織(保存中(例えば心停止液)又は移植後のいずれか)に阻害物質を投与することにより、治療的利益が得られる可能性もある。
【0008】
PHD阻害物質は、部分的な虚血及び/又は低酸素状態から組織を保護するのに有効であると見込まれる。これには、とりわけ、狭心症、心筋虚血、脳卒中、骨格筋虚血に関連する虚血/低酸素状態が含まれる。最近では、虚血プレコンディショニングが、HIF依存性の現象であることが示されている(Caiら、2008,Cardiovasc Res.,77(3):463〜70)。プレコンディショニングの概念は心臓の保護効果に関して最もよく知られているが、肝臓、骨格筋、肝臓、肺、腎臓、腸及び脳を含むがこれらに限定されないその他の組織にも適用される(Pasupathyら、2005,Eur J Vasc Endovasc Surg.,29:106〜15、Mallickら、2004,Dig Dis Sci.,49(9):1359〜77)。PHD阻害及びHIF増加の組織保護効果に関する実験的証拠は、数多くの動物モデルにおいて得られており、これには、虚血侵襲に対する骨格筋の保護をもたらすPHD1の生殖系列ノックアウト(Aragonesら、2008,Nat Genet.,40(2):170〜80)、虚血侵襲に対して心臓を保護するsiRNAの使用によるPHD2のサイレンシング(Natarajanら、2006,Circ Res.,98(1):133〜40)、虚血障害から心筋を保護する、一酸化炭素投与によるPHDの阻害(Chinら、2007,Proc Natl Acad Sci.U.S.A.,104(12):5109〜14)、虚血に対する耐性を増強した脳の低酸素状態(Bernaudinら、2002,J Cereb Blood Flow Metab.,22(4):393〜403)が挙げられる。加えて、PHDの小分子阻害物質は、実験脳卒中モデルにおいて脳を保護する(Siddiqら、2005,J Biol Chem.,280(50):41732〜43)。更に、HIF上方制御は、糖尿病マウスの心臓を保護することが示されているが、結果は全般により不良である(Natarajanら、2008,J Cardiovasc Pharmacol.,51(2):178〜187)。組織保護効果は、バーガー病、レイノー病、及び先端チアノーゼにおいても観察され得る。
【0009】
ミトコンドリア内のクレブス回路を介する好気性代謝に対する依存性の低下、及びPHD阻害によって産生された嫌気性糖分解に対する依存性の増加は、酸素正常状態の組織において有利な効果を有し得る。PHD阻害は酸素正常状態でHIFを高めることも示されていることに注意するのが重要である。よって、PHD阻害は、HIFによって開始された低酸素反応を伴う擬似低酸素状態を生み出すが、組織酸素化状態は正常のままである。PHD阻害によってもたらされた代謝の変化も、糖尿病、肥満及び関連疾患(併存疾患を含む)の治療パラダイムを提供することが見込まれる。
【0010】
全体に、PHD阻害によりもたらされた遺伝子発現変化の集合は、グルコース単位当たり発生するエネルギー量を低下させ、エネルギーバランスを維持するために身体がより多くの脂肪を燃やすよう刺激する。糖分解増加のメカニズムは、上記で検討されている。他の観測結果は、低酸素状態の反応と、糖尿病及び肥満の治療に有益であることが見込まれる効果とを結びつけている。低酸素状態、及びデスフェリオキサミンなどの低酸素模倣物質は、脂肪細胞分化を防ぐことが示されている(Linら、2006,J Biol Chem.,281(41):30678〜83、Carriereら、2004,J Biol Chem.,279(39):40462〜69)。脂肪形成の初期段階におけるPHD活性の阻害は、新たな脂肪細胞の形成を阻害する(Floydら、2007,J Cell Biochem.,101:1545〜57)。低酸素状態、塩化コバルト、及びデスフェリオキサミンはHIFを増加させ、PPARγ2核ホルモン受容体転写を阻害した(Yunら、2002,Dev Cell.,2:331〜41)。PPARγ2は脂肪細胞分化の重要な信号であるため、PHD阻害は、脂肪細胞分化を阻害すると見込まれ得る。これらの効果は、HIFで制御された遺伝子DEC1/Stra13によって媒介されることが示されている(Yunら、上記)。
【0011】
PHDの小分子阻害物質は、糖尿病及び肥満の動物モデルにおいて有益な効果を有することが示されている(2004年6月24日出願の国際特許出願公開第2004/052284号、2004年6月24日出願の国際特許出願公開第2004/052285号)。マウスの食事由来肥満におけるPHD阻害物質について示された効果の中で、db/dbマウス及びZucker fa/faラットモデルでは、血中グルコース濃度、腹部及び内臓脂肪層の両方における脂肪量、ヘモグロビンA1c、血漿中トリグリセリド、体重が低下し、並びにアドレノメデュリン及びレプチンの濃度増加など、確立された疾患バイオマーカーの変化をもたらしている。レプチンは既知のHIF標的遺伝子産物である(Grosfeldら、2002,J Biol Chem.,277(45):42953〜57)。脂肪細胞における代謝に関与する遺伝子産物は、PHD阻害によってHIF依存型で制御されることが示されている(国際特許出願公開第2004/052285号、上記)。これらには、アポリポタンパク質A−IV、アシルCoAチオエステラーゼ、カルニチンアセチルトランスフェラーゼ、及びインスリン様成長因子結合タンパク質(IGFBP)−1が挙げられる。
【0012】
PHD阻害物質は、脈管形成、血管形成、及び動脈形成の刺激物質として治療に有用であることが見込まれる。これらのプロセスは、虚血及び/又は低酸素状態にある組織への血流及び酸素化を確立又は回復する(Semenzaら、2007,J Cell Biochem.,102:840〜47、Semenza,2007,Exp Physiol.,92(6):988〜91)。身体的エクササイズは実験動物モデル及びヒトにおいてHIF−1及び血管内皮成長因子を増加させ(Gustafssonら、2001,Front Biosci.,6:D75〜89)、その結果として、骨格筋内の血管の数が増えることが示されている。VEGFは、血管形成の主要な推進力である既知のHIF標的遺伝子産物である(Liuら、上記)。PHD阻害は、複数の血管由来成長因子の制御された発現をHIF依存型で刺激し、その成長因子としては、胎盤成長因子(PLGF)、アンジオポエチン−1(ANGPT1)、アンジオポエチン−2(ANGPT2)、血小板由来成長因子β(PDGFB)(Carmeliet、2004,J Intern Med.,255:538〜61;Kellyら、2003,Circ Res.,93:1074〜81)、及び間質細胞由来因子1(SDF−1)(Ceradiniら、2004,Nat Med.,10(8):858〜64)が挙げられるが、これらに限定されない。血管形成中のアンジオポエチン−1の発現は、VEGF単独投与によって生じた血管とは対照的に、漏れ抵抗性の血管を生成する(Thurstonら、1999,Science,286:2511〜14、Thurstonら、2000,Nat Med.,6(4):460〜3;Elsonら、2001,Genes Dev.,15(19):2520〜32)。間質細胞由来因子1(SDF−1)は、組織損傷部位に対し内皮前駆細胞を補充するプロセスに必須であることが示されている。SDF−1発現は、虚血組織に対するCXCR4−陽性前駆細胞の接着、移動、及び循環回帰を増加させた。更に、虚血組織におけるSDF−1の阻害、又は循環細胞に対するCXCR4の遮断は、損傷部位への前駆細胞補充を阻む(Ceradiniら、2004、上記、Ceradiniら、2005,Trends Cardiovasc Med.,15(2):57〜63)。重要なのは、内皮前駆細胞の損傷部位への補充は、高齢のマウスでは減少し、これは、損傷部位でHIFを高める介入を行うことによって修正されることである(Changら、2007,Circulation,116(24):2818〜29)。PHD阻害は、数々の血管形成作用の発現を増加させるだけでなく、血管形成プロセス全体にわたる発現の協調、及び虚血組織への内皮前駆細胞の補充を増加させる利点をもたらす。
【0013】
PHD阻害物質は、血管新生促進療法においても同様に有用である。アデノウイルス介在のHIF過剰発現は、成体動物の非虚血組織において血管形成を誘発していることが示されており(Kellyら、2003,Circ Res.,93(11):1074〜81)、HIFを高める治療(例えばPHD阻害など)が、血管形成を誘発することの根拠を提供している。胎盤成長因子(PLGF)は、HIF標的遺伝子でもあり、虚血組織における血管形成に重要な役割を果たしていることが示されている(Carmeliet,2004,J Intern Med.,255(5):538〜61、Luttunら、2002,Ann N Y Acad Sci.,979:80〜93)。骨格筋において(Pajusolaら、2005,FASEB J.,19(10):1365〜7、Vincentら、2000,Circulation,102:2255〜61)、及び心筋において(Shyuら、2002,Cardiovasc Res.,54:576〜83)、HIF過剰発現を介して、HIFを高める治療の強力な血管新生促進効果が示されている。HIF標的遺伝子SDF−1による、虚血心筋への内皮前駆細胞の補充についても示されている(Abbottら、2004,Circulation,110(21):3300〜05)。よって、PHD阻害物質は、組織虚血、特に筋肉虚血の状況において、血管形成を刺激するのに有効である可能性が高い。PHD阻害物質によって生じた治療的血管形成は、組織への血流を回復させ、よって、狭心症、心筋虚血及び心筋梗塞、末梢虚血疾患、跛行、胃潰瘍及び十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、並びに炎症性腸疾患を含むがこれらに限定されない疾患を改善させる可能性が高い。
【0014】
PHD及びHIFは、損傷及び潰瘍の治療を含む組織修復及び再生において中心的役割を果たす。最近の研究では、高齢のマウスの損傷部位で、3種類のPHD全ての発現の増加と、その結果としてHIF蓄積の減少が示されている(Changら、上記)。ここで、デスフェリオキサミン投与による高齢のマウスでのHIF上昇は、創傷治療の度合を、若いマウスで観察されるレベルにまで戻って高めた。同様に、糖尿病マウスモデルにおいて、HIFの上昇は、非糖尿病の同腹仔に比べて抑制されていた(Maceら、2007,Wound Repair Regen.,15(5):636〜45)。塩化コバルト(低酸素状態模倣物質)の局所投与、又は酸素依存性分解範囲を欠いているためHIFの常時活性型を提供するハツカネズミHIFの過剰発現は、創傷部位におけるHIFの増加、HIF標的遺伝子(VEGF、Nos2、及びHmox1など)の発現増加、並びに創傷治癒の加速をもたらした。PHD阻害の有益な効果は、皮膚に限定されず、PHDの小分子阻害物質は最近、大腸炎のマウスモデルに効果をもたらすことが示されている(Robinsonら、2008,Gastroenterology,134(1):145〜55)。
【0015】
要約すると、HIFの蓄積をもたらすPHD阻害は、少なくとも次の4つのメカニズムによる作用で、創傷の治癒加速及びより完全な治癒に寄与する可能性が高い:1)低酸素状態及び/又は虚血により危機に曝された組織の保護、2)適切な血流をその部位に確立又は回復するための血管形成の刺激、3)創傷部位への内皮前駆細胞の補充、4)特に治癒及び再生を刺激する成長因子の放出の刺激。
【0016】
PDGFはHIF遺伝子標的であるため(Schultzら、2006,Am J Physiol Heart Circ Physiol.,290(6):H2528〜34、Yoshidaら、2006,J Neurooncol.,76(1):13〜21)、PHD阻害は、内因性PDGFの発現を増加させ、PDGF単独で産生されるのと同様か又はより有益な効果を生み出す可能性が高い。動物研究では、PDGFの局所適用により、損傷DNA、タンパク質、及びヒドロキシプロリンの量の増加がもたらされ、より厚い肉芽組織及び表皮組織が形成され、創傷部位の細胞再増殖が増加したことが示されている。PDGFは、新しい結合組織の形成を強化する局所的効果を発揮する。PHD阻害の有効性は、HIFが介在する追加の組織保護効果及び血管新生促進効果により、PDGFによってもたらされる有効性を超える可能性が高い。
【0017】
PHDの阻害の有益な効果は、皮膚及び大腸の創傷治癒を促進するだけに留まらず、胃腸潰瘍、皮膚移植置換、火傷、慢性創傷、及び凍傷などを含むがこれらに限定されないその他の組織損傷の治癒にも拡大される。
【0018】
体内の低酸素性適所には幹細胞及び前駆細胞が見出されており、低酸素状態がその分化及び細胞の運命を制御している(Simonら、2008,Nat Rev Mol Cell Biol.,9:285〜96)。よって、PHD阻害物質は、幹細胞及び前駆細胞を多能性状態に維持し、所望の細胞種へ分化させるのに有用であり得る。幹細胞は、幹細胞集団の培養及び拡大に有用であり得、細胞を多能性状態に保持しながら、ホルモン及びその他の因子を細胞に投与して分化及び細胞の運命に影響を与えることができる。
【0019】
幹細胞及び前駆細胞による治療分野における、PHD阻害物質の更なる使用は、これら細胞を調整して体内への着床プロセスに耐えるようにし、身体に対する適切な反応を起こして、幹細胞及び前駆細胞の着床を生存可能なものにする、というPHD阻害物質の利用に関する(Huら、2008,J Thorac Cardiovasc Surg.,135(4):799〜808)。より具体的には、PHD阻害物質は、幹細胞の同化を促進し、同化した後の幹細胞を維持するために適切な血液供給を招くことができる。この血管形成は、これらの細胞から身体の他の部分へと放出されるホルモン及びその他の因子を運ぶ機能も果たす。
【0020】
PHD阻害物質は、感染症の治療にも有用であり得る(Peyssonnauxら、2005,J Invest Dermatol.,115(7):1806〜15、Peyssonnauxら、2008 J Invest Dermatol.,2008 Aug;128(8):1964〜8)。HIFの増加は、食細胞及びケラチノサイトにおける感染症に対する内在的免疫反応を高めることが示されている。HIFが増加しているときの食細胞は、殺菌活性の増加、一酸化窒素産生の増加、及び抗菌ペプチドカテリシジンの表現の増加を示す。これらの効果も、火傷による感染症の治療に有用である可能性がある。
【0021】
HIFは骨の成長及び治癒にも関与していることが示されており(Pfander Dら、2003 J Cell Sci.,116(Pt 9):1819〜26、Wangら、2007 J Clin Invest.,17(6):1616〜26)、よって、骨折の治癒又は予防に用いることができる。HIFは糖分解を刺激してエネルギーを供給することにより、低酸素環境における骨端軟骨細胞の細胞外マトリックスの合成を可能にする。HIFはまた、骨治癒プロセスにおいてVEGFの放出及び血管形成を推進する役割を果たす。成長中又は治癒中の骨の中に血管を成長させるのは、プロセスの律速段階であり得る。
【0022】
PHDの小分子阻害物質は、限定されるものではないが、imidazo[1,2−a]pyridine derivatives(Warshakoonら、2006,Bioorg Med Chem Lett.,16(21):5598〜601)、substituted pyridine derivatives(Warshakoonら、2006,Bioorg Med Chem Lett.,16(21):5616〜20)、pyrazolopyridines(Warshakoonら、2006、Bioorg Med Chem Lett.,16(21):5687〜90)、bicyclic heteroaromatic N−substituted glycine derivatives(国際特許出願公開第2007/103905号、2007年9月13日)、quinoline based compounds(国際特許出願公開第2007/070359号、2007年6月21日)、pyrimidinetrione N−substituted glycine derivatives(国際特許出願公開第2007/150011号、2007年12月27日)、substituted aryl or heteroaryl amide compounds(米国特許出願公開第2007/0299086号、2007年12月27日)、及びsubstituted 4−hydroxypyrimidine−5−carboxamides(国際特許出願公開第2009/117269号、2009年9月24日)などの文献に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、プロリルヒドロキシラーゼ(PHD)酵素の阻害物質である下記式:
【0031】
【化2】
の化合物の新規な塩、及びプロリルヒドロキシラーゼ酵素の調節と関連した障害及び疾患の治療、改善、又は阻害のためのその組成物に関する。本発明はまた、かかる化合物、その医薬組成物、医薬的に許容される塩、医薬的に許容されるプロドラッグ、及び医薬的に活性の代謝産物の製造方法に関する。
【0032】
A)用語
本発明は、下記の定義、図面、及び本明細書に提供されている代表的な開示を参照することにより、最もよく理解される。
【0033】
用語「備える」、「含有する」、及び「含む」は本明細書においては、それらの開放された非限定的な意味で用いられる。
【0034】
「投与する」又は「投与」は、薬理学上有用な方法で患者に薬剤を提供することを意味する。
【0035】
「組成物」は、本発明の化合物を含む製品(例えば、特定の量で特定の成分を含む製品、及び特定の量での特定の成分のこのような組み合わせから直接的又は間接的に得られる任意の製品など)を意味する。
【0036】
「化合物」又は「薬剤」は、式(1)の化合物又はその医薬的に許容される形態を意味する。
【0037】
「形態」は、式(1)の1つ以上の化合物及びその塩又は水和物の異性体及び混合物を意味する。用語「異性体」は、組成及び分子量は同じであるが、物理的及び/又は化学的特性が異なる化合物を指す。このような物質が有する原子の数及び種類は同じであるが、構造は異なる。その構造の違いは構成の違い(幾何異性体)又は偏光面を回転させる能力の違い(立体異性体)であり得る。用語「立体異性体」は、構成は同じであるが原子の空間配置が異なる異性体を指す。鏡像異性体及びジアステレオマーは、不斉置換されている炭素原子がキラル中心として働く立体異性体である。用語「キラル」は、分子が鏡像に重なり合わないことを指し、これは、対称軸及び面又は中心が存在しないことを意味する。
【0038】
用語「低酸素状態」又は「低酸素疾患」は、血中又は組織及び臓器に供給される酸素量が不十分である状態を指す。低酸素疾患は、様々なメカニズムによって起こる可能性があり、これには酸素を運ぶ血液の能力が不十分な場合(即ち貧血)、心不全又は血管及び/若しくは動脈の遮断によって組織及び/若しくは臓器への血流が不十分な場合(即ち虚血)、気圧低下がある場合(即ち高標高の場所での高山病)、あるいは、機能不全細胞が酸素を適切に利用できない場合(即ち組織毒性状態)が挙げられる。したがって、本発明は、貧血、心不全、冠状動脈疾患、血栓塞栓症、脳卒中、狭心症及び同様疾患などの様々な低酸素状態の治療に有用であることが、当業者には容易に認識されるであろう。
【0039】
「患者」又は「被験者」は、動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトで、治療的介入を必要としている者を意味する。
【0040】
「医薬的に許容される」は、本発明の組成物又は薬剤の製剤において使用するのに十分な純度と品質とを有する、分子的実体及び組成物を意味する。ヒトでの使用(臨床及び市販)及び獣医学的使用の両方が本発明の範囲内に等しく含まれることから、製剤には、ヒトでの又は獣医学的用途でのいずれの組成物又は薬剤も含まれるであろう。
【0041】
「医薬的に許容される賦形剤」は、薬理学的組成物に添加されるか、あるいは薬剤の投与を容易にする賦形剤、担体又は希釈剤として用いられかつその薬剤と相溶する、例えば、不活性な物質のような、毒性を有さないか、生物学的に許容されるか、あるいは患者に投与するうえで生物学的に適した物質を指す。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、各種糖類及び各種デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0042】
「医薬的に許容される塩」は、本発明の組成物又は薬剤の製剤に使用するのに十分な純度及び品質を有し、かつ医薬品に使用するのに忍容性であり、十分に非毒性である、本発明の化合物の酸塩又は塩基塩を意味する。好適な医薬的に許容される塩には、酸付加塩が含まれ、これは例えば薬剤化合物を、塩酸、硫酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、酒石酸、カルボン酸又はリン酸のような好適な医薬的に許容される酸と反応させることにより形成することができる。
【0043】
用語「溶媒和物」は、溶液又は固体若しくは結晶形態のいずれかである、化合物と1つ以上の溶媒分子との相互作用又は錯化から形成される化合物を意味する。用語「水和物」は、溶媒が水である溶媒和物を意味する。
【0044】
「治療的有効量」は、研究者、獣医、医師又は他の臨床医により求められている、治療される疾患又は障害の症状の治療的緩和を含む、組織系、動物又はヒト内で生物学的反応又は医薬反応を顕現させる化合物の量を意味する。
【0045】
用語「治療する」は、本明細書で使用される場合、別途記載のない限り、その用語が適用される障害若しくは状態、又はそのような障害若しくは状態の1つ以上の症状を、後退させ、緩和し、進行を阻害し、重症度を軽減し、又は予防することを意味する。本明細書で使用される場合、用語「治療」は、別途記載のない限り、治療する行為を指す。
【0046】
B)化合物
本発明は、式(1)の化合物の新規な塩に関する。具体的には、本発明は、式(1)の化合物のメグルミン塩に関する。概して、本発明は、プロリルヒドロキシラーゼ酵素の調節と関連した障害及び疾患の治療を必要とする患者に投与される全ての化合物に関する。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態は、かかる化合物の水和物、溶媒和物、又は多形体、及びこれらの混合物を含み、たとえかかる形態が本明細書に明示的に記載されていないとしてもこれらを含む。好ましくは、式(1)の化合物又はその医薬的に許容される塩のいくつかの実施形態は、溶媒和物を含む。好ましくは、式(1)の化合物又はその医薬的に許容される塩のいくつかの実施形態は、水和物を含む。
【0048】
本発明の更に別の実施形態は、結晶形態である式(1)の化合物を含み、又は式(1)の化合物の医薬的に許容される塩は、共結晶として得ることができる。
【0049】
本発明の特定の実施形態では、式(1)の化合物は結晶形態で得られた。他の実施形態では、式(1)の化合物の結晶形態は本質的に立方体であった。他の実施形態では、式(1)の化合物の医薬的に許容される塩は結晶形態で得られた。更に他の実施形態では、式(1)の化合物は、いくつかの多型形態のうちの1つで、結晶形態の混合物として、多型形態として、又は非晶質形態として得られた。他の実施形態では、式(1)の化合物は、溶液中で1つ以上の結晶形態及び/又は多型形態の間で変形する。
【0050】
本発明の薬剤化合物はまた、立体異性体の混合物又はそれぞれの純粋な異性体若しくは実質的に純粋な異性体を含む。例えば、本化合物は、所望により、任意の1つの置換基を含有する炭素原子に、1つ以上の不斉中心を有してもよい。よって、この化合物は、鏡像異性体若しくはジアステレオマー又はその混合物の形で存在してもよい。本化合物が二重結合を含有するとき、本化合物は、幾何異性(シス−化合物、トランス−化合物)の形で存在してもよく、本化合物がカルボニルのような不飽和結合を含有するとき、本化合物は、互変異性体の形で存在してもよく、本化合物はまた、これらの異性体又はこれらの混合物を含む。ラセミ混合物、鏡像異性体又はジアステレオマーの形の出発化合物を、本化合物を製造する方法で用いてもよい。本化合物がジアステレオマー又は鏡像異性体の形で得られるとき、それらはクロマトグラフィー又は分別晶出のような従来の方法により分離することができる。加えて、本化合物は、その分子内塩、水和物、溶媒和物又は同質異像を含む。好適な薬剤化合物は、粘膜、真皮に浸透した後、又は経口投与の場合には唾液と共に胃腸管へ運ばれた後に、局所的な生理学的効果、又は全身的な効果を発揮するものである。
【0051】
本発明は更に、式(1)の化合物の医薬的に許容される塩、及びかかる塩の使用方法に関する。医薬的に許容される塩は、無毒であるか、生物学的に許容されるか、あるいは別様に被験者に投与するのに生物学的に適した、化合物の遊離酸又は塩基の塩を指す。S.M.Bergeら、「Pharmaceutical Salts」、J.Pharm.Sci.,1977,66:1〜19、及びHandbook of Pharmaceutical Salts,Properties,Selection,and Use,Stahl and Wermuth編、Wiley−VCH and VHCA,Zurich,2002を参照のこと。医薬的に許容される好ましい塩とは、薬理学的に効果があり、過度の毒性、刺激、又はアレルギー反応を起こすことなく患者の組織に接触するのに適したものである。化合物は、十分に酸性の基、十分に塩基性の基、又は両方の種類の官能基を持つ可能性があり、したがっていろいろな無機又は有機塩基、並びに無機及び有機酸と反応して医薬的に許容される塩を形成し得る。医薬的に許容される塩の例としては、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、蟻酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオール酸塩、蓚酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン−1,4−二酸塩、ヘキシン−1,6−二酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸、フタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、γ−ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタン−スルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩、及びマンデル酸塩が挙げられる。
【0052】
所望の医薬的に許容される塩は、塩基性窒素の存在下で、当該技術分野で利用可能な任意の好適な方法によって調製することができ、その方法としては、例えば、遊離塩基を無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、スルファミン酸、硝酸、ホウ酸、リン酸などでか、又は有機酸、例えば酢酸、トリフルオロ酢酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、ステアリン酸、乳酸、アスコルビン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、リンゴ酸、パモ酸、イセチオン酸、コハク酸、吉草酸、フマル酸、サッカリン酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ピラノシジル酸、例えばグルクロン酸若しくはガラクツロン酸など、α−ヒドロキシ酸、例えばマンデル酸、クエン酸若しくは酒石酸など、アミノ酸、例えばアスパラギン酸若しくはグルタミン酸など、芳香族酸、例えば安息香酸、2−アセトキシ安息香酸、ナフトエ酸若しくは桂皮酸など、スルホン酸、例えばラウリルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、本明細書に例として示したような酸の適合し得る任意の混合物、並びに当該技術分野の技術の通常のレベルに照らして相当物又は許容される代替物であると見なされる任意の他の酸及びこれらの混合物で処理する方法などが挙げられる。
【0053】
所望の医薬的に許容される塩は、カルボン酸又はスルホン酸などの酸性基の存在下で、任意の好適な方法によって調製することができ、その方法としては、例えば、遊離酸を無機又は有機塩基、例えばアミン(第一級、第二級若しくは第三級)、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、本明細書に例として示したような塩基の任意の適合し得る混合物、並びに当該技術分野の技術の通常のレベルに照らして相当物又は許容される代替物であると見なされる任意の他の塩基及びこれらの混合物で処理する方法などが挙げられる。好適な塩の具体例としては、アミノ酸、例えばグリシン及びアルギニンなど、アンモニア、炭酸塩、重炭酸塩、第一級、第二級、及び第三級アミン、及び環式アミン、例えばベンジルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、及びピペラジンなどから生じさせた有機塩、並びにナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム及びリチウムから生じさせた無機塩が挙げられる。代表的な有機塩基又は無機塩基としては更に、ベンザチン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン、及びプロカインが挙げられる。
【0054】
本発明はまた、この化合物の医薬的に許容されるプロドラッグ、及びかかる医薬的に許容されるプロドラッグを用いた治療方法にも関する。用語「プロドラッグ」は、被験者に投与した後に化学的又は生理学的方法、例えば生体内で起こる加溶媒分解又は酵素による開裂などで、又は生理学的条件下で当該化合物になる指定化合物の前駆体を意味する。「医薬的に許容されるプロドラッグ」は、非毒性であり、生物学的に許容され、あるいは別様に被験者に投与するのに生物学的に適したプロドラッグである。好適なプロドラッグ誘導体の選択及び調製の具体的な操作手順は、例えば、「Design of Prodrugs」、H.Bundgaard編、1985,Elsevierに記載されている。
【0055】
追加的な種類のプロドラッグは、例えば、化合物の構造の遊離カルボキシル基をアミド又はアルキルエステルとして誘導体化することで製造することができる。アミドの例としは、アンモニア、第一級アルキルアミン、及び第二級ジ−アルキルアミンから誘導されるアミドが挙げられる。第二級アミンとしては、5員若しくは6員のヘテロシクロアルキル又はヘテロアリール環部分が挙げられる。アミドの例としては、アンモニア、アルキル第一級アミン及びジアルキルアミンから誘導されるアミドが挙げられる。本発明のエステルの例としては、アルキルエステル、シクロアルキルエステル、フェニルエステル、及びフェニルアルキルエステルが挙げられる。好適なエステルとしてはメチルエステルが挙げられる。プロドラッグは、ヘミコハク酸塩、リン酸エステル、ジメチルアミノ酢酸塩、及びホスホリルオキシメチルオキシカルボニルなどの基を用いて、Fleisherら、Adv.Drug Delivery Rev.,1996,19:115〜130に概略が示されている手順に従って遊離ヒドロキシ基を誘導体化することで調製することもできる。ヒドロキシ基及びアミノ基のカルバメート誘導体も、プロドラッグを生じさせることができる。また、ヒドロキシ基のカーボネート誘導体、スルホン酸エステル、及び硫酸エステルもプロドラッグをもたらし得る。また、ヒドロキシ基に誘導体化をアシルオキシメチル及びアシルオキシエチルエーテル(このアシル基はアルキルエステルであってもよく、所望により1個以上のエーテル、アミン、又はカルボン酸官能基で置換されていてもよいか、あるいはアシル基は上記のようなアミノ酸エステルである)として受けさせることも、プロドラッグを生じさせるのに有効である。この種のプロドラッグは、Greenwaldら、J.Med.Chem.,1996,39(10):1938〜40に記述されているように調製することができる。遊離アミンもまた、アミド、スルホンアミド、又はホスホンアミドとして誘導体化され得るそのようなプロドラッグ部分の全部に、エーテル、アミン、及びカルボン酸官能を包含する基が組み込まれている可能性がある。
【0056】
本発明はまた、本発明の方法で用いることもできる、式(1)の化合物の医薬的に活性の代謝産物に関する。「医薬的に活性の代謝産物」とは、化合物又はその塩の体内の代謝による医薬的に活性な生成物を意味する。化合物のプロドラッグ及び活性の代謝産物は、当該技術分野で公知又は利用可能な常規技術を用いて求めることができる。例えば、Bertoliniら、J.Med.Chem.,1997,40:2011〜2016、Shanら、J.Pharm.Sci.,1997,86(7):765〜767、Bagshawe,Drug Dev.Res.,1995,34:220〜230、Bodor,Adv.Drug Res.,1984,13:224〜331、Bundgaard,Design of Prodrugs,1985,Elsevier Press、及びLarsen,Design and Application of Prodrugs,Drug Design and Development,1991,Krogsgaard−Larsenら編、Harwood Academic Publishersを参照のこと。
【0057】
C)医薬組成物
本発明の特定の実施形態では、式(1)の化合物の塩、より詳細にはメグルミン塩は、医薬組成物を処方するために、単独で又は1つ以上の追加成分と組み合わされて用いられる。医薬組成物は、本発明による少なくとも1種の化合物を有効量で含有する。
【0058】
本開示はまた、本明細書に記述されている化合物又は誘導体と、1つ以上の医薬的に許容される担体、賦形剤、及び希釈剤とを含む組成物(医薬組成物を含む)も提供する。本発明の特定の実施形態では、組成物はまた、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含み得る。特定の一実施形態では、この医薬組成物は、ヒトに投与するのに医薬的に許容される。特定の実施形態では、この医薬組成物は、本明細書に記述される化合物又は誘導体の治療的有効量又は予防的有効量を含む。治療的に有効又は予防的に有効となる、本発明の化合物又は誘導体の量は、標準の臨床的技法によって決定することができる。代表的な有効量は、下記のセクションでより詳しく記述される。本発明の特定の実施形態では、組成物は、安定剤も含み得る。安定剤は、化合物(1)の組成物の化学的劣化速度を遅らせる化合物である。好適な安定剤には、酸化防止剤(アスコルビン酸など)、pH緩衝剤、又は塩緩衝剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
医薬組成物は、被験者、好ましくはヒト被験者に投与するのに好適な任意の形態であり得る。特定の実施形態では、この組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、及び持続放出性製剤の形態である。この組成物はまた、特定の単位剤形であり得る。単位剤形の例としては、錠剤;キャプレット;カプセル(例えばソフト弾性ゼラチンカプセル);カシェ剤;トローチ剤;口内錠;分散剤;座薬;軟膏;パップ剤(湿布);ペースト;粉末;包帯;クリーム;ギプス;溶液;パッチ;エアロゾル(例えば鼻スプレー又は吸入器);ゲル;患者に経口又は粘膜投与するのに好適な液体投与形態(懸濁液(例えば水性又は非水性の液体懸濁液、水中油型エマルション、又は油中水型液体エマルション)、溶液、及びエリキシル剤を含む);被験者に非経口投与するのに好適な液体投与形態;並びに被験者に非経口投与するのに好適な液体投与形態に還元できる滅菌固体(例えば結晶又はアモルファス固体)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
特定の一実施形態では、被験者は、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、家禽、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、又はモルモットなどの哺乳類である。好ましい実施形態では、被験体はヒトである。好ましくは、この医薬組成物は獣医学的投与及び/又はヒトへの投与に好適である。この実施形態に従い、用語「医薬的に許容される」とは、動物における使用について、及びより具体的にはヒトにおける使用について、連邦政府又は州政府の規制機関によって認可されていること、又は、米国薬局方若しくは他の一般に承認されている薬局方に記載されていることを意味する。
【0061】
この組成物における使用に好適な医薬担体は、水及び油(石油、動物、植物又は合成由来のものを含む)などの滅菌液体である。特定の一実施形態では、この油は、落花生油、大豆油、鉱物油、又はゴマ油である。医薬組成物が静注投与される場合には、水が好ましい担体である。生理食塩水並びに水性デキストロース及びグリセロール溶液も、特に注射溶液用の液体担体として採用され得る。好適な医薬担体の更なる例は、当該技術分野において既知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1990)第18版(Mack Publishing,Easton Pa.)に記述されている。
【0062】
この組成物に使用するのに好適な賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、及びエタノールが挙げられる。特定の賦形剤が医薬組成物への組み込みに好適かどうかは、当該技術分野において周知の様々な要素に依存し、例えばその組成物の投与経路及び特定の活性成分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本明細書に記述されている化合物若しくは誘導体、又はその医薬的に許容される塩及び溶媒和物を含む医薬組成物は、意図された投与経路に適合するように製剤化される。この製剤は、好ましくは局所投与用であるが、例えば吸入又は吹送(口又は鼻を介して)、皮内、経口、皮下、舌下、非経口、経膣、又は直腸などの他の手段による投与用であり得る。好ましくは、この組成物はまた、保管及び輸送中に化合物の化学的安定性の改善をもたらすように製剤化される。この製剤は、凍結乾燥することができ、又は液体製剤であってよい。
【0064】
D)投与
本明細書に記述されている化合物若しくは誘導体、又はそれらの医薬的に許容される塩は、好ましくは、所望により医薬的に許容される溶媒を含む組成物の構成要素として投与される。この化合物又は誘導体は、好ましくは経口投与される。別の好ましい投与方法は、化合物又は誘導体の局所適用を介した投与である。
【0065】
特定の実施形態では、この化合物又は誘導体は、任意の他の便利な経路、例えば、皮膚、上皮層又は皮膚粘膜層(例えば、表皮、口腔粘膜、直腸、及び腸粘膜)からの吸収によって投与される。投与方法としては、非経口、皮内、筋肉内、腹膜内、静脈内、皮下、鼻孔内、硬膜外、経口、舌下、鼻孔内、大脳内、膣内、経皮、直腸、吸入により、又は局所的に、特に耳、鼻、目、若しくは皮膚に対しての投与が挙げられるが、これらに限定されない。多くの場合において、投与は、化合物又は誘導体の血中内への放出を生じる。好ましい実施形態では、化合物又は誘導体は経口で送達される。
【0066】
更に、本発明は、例えば貧血、血管疾患、代謝性疾患、及び創傷治癒など、プロリルヒドロキシラーゼが介在する疾患、障害、又は状態と診断された、あるいはそれらを患っている被験体を治療するために、本明細書に記述されている化合物を用いる方法に関する。
【0067】
好ましい実施形態では、本発明の化合物は、慢性腎臓疾患、多発性嚢胞腎、再生不良性貧血、自己免疫性溶血性貧血、骨髄移植貧血、チャーグ−ストラウス症候群、ダイアモンドブラックファン貧血、ファンコニ貧血、フェルティ症候群、移植片対宿主病、造血性幹細胞移植、溶血性尿毒症症候群、骨髄異形成症候群、発作性夜間ヘモグロビン尿症、骨骨髄線維症、汎血球減少症、真性赤血球無形成症、シェーンライン−ヘノッホ紫斑病、芽球増加を伴う不応性貧血、関節リウマチ、シュバッハマン症候群、鎌状赤血球症、重症型サラセミア、軽症型サラセミア、血小板減少性紫斑病、手術を受ける貧血患者若しくは非貧血患者、外傷を伴う又は外傷に従属して起こる貧血、鉄芽球性貧血、他の治療(HIV治療のための逆転写酵素抑制剤、コルチコステロイドホルモン、環状シスプラチン又は非シスプラチン含有の化学療法剤、ビンカアルカロイド、有糸分裂阻害剤、トポイソメラーゼII阻害剤、アントラサイクリン、アルキル化薬)に従属して起こる貧血、特に炎症、加齢、及び/若しくは慢性疾患に従属して起こる貧血に関連する貧血状態の治療を含む、貧血の治療又は予防に有用である。PHD阻害は、慢性疲労、蒼白及びめまいを含む、貧血症状の治療にも用いることができる。
【0068】
別の好ましい実施形態では、本発明の分子は、糖尿病及び肥満を含むがこれらに限定されない代謝性障害の疾患の治療及び予防に有用である。別の好ましい実施形態では、本発明の分子は、血管疾患の治療又は予防に有用である。これには、脈管形成、血管形成及び動脈形成のための血管新生促進媒介を必要とする疾患に関連する、低酸素状態又は創傷治癒が含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
本発明による治療方法では、かかる疾患、障害又は状態に罹患しているか、あるいはそうであると診断された被検体に、本発明による薬剤の有効量を投与する。「有効量」とは、対象の疾患、障害又は状態のかかる治療を必要とする患者において、所望の治療的又は予防的効果を一般的にもたらすのに十分な量又は投与量を意味する。本発明の化合物の有効量若しくは用量は、常法、例えばモデリング、用量漸増試験又は臨床試験など、及び常規要因、例えば投与様式若しくは経路又は薬剤送達など、化合物の薬物動態、疾患、障害又は状態の重症度及び過程、患者が以前又は現在受けている治療、患者の健康状態及び薬剤に対する反応、並びに治療を施す医者の判断などを考慮に入れることで確定することができる。化合物の用量の例は、被験体の体重1kg当たり約0.001〜約200mg/日、好ましくは約0.05〜100mg/kg/日、又は1回又は投薬単位を分割(例えば、BID、TID、QID)して約1〜35mg/kg/日の範囲である。例えば、70kgのヒトの場合の適切な投薬量の例となる範囲は、約0.05〜約7g/日又は約0.2〜約2.5g/日である。
【0070】
経口錠剤に本発明による化合物を含有させてもよく、医薬的に上許容できる賦形剤、例えば不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、滑剤、甘味剤、香味剤、着色剤及び防腐剤等と混合してもよい。好適な不活性充填剤としては、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム及びリン酸カルシウム、ラクトース、デンプン、糖、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。代表的な液体経口賦形剤としては、エタノール、グリセロール、水などが挙げられる。デンプン、ポリビニルピロリドン(PVP)、デンプングリコール酸ナトリウム、微結晶性セルロース、及びアルギン酸が、好適な崩壊剤である。結合剤にはデンプン及びゼラチンが含まれ得る。滑剤を存在させる場合、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクであってもよい。必要に応じて、錠剤をモノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの材料でコーティングすることにより胃腸管内での吸収を遅らせてもよいか、あるいは腸溶性コーティングでコーティングしてもよい。
【0071】
経口投与用カプセルには、硬質及び軟質ゼラチンカプセルが含まれる。硬質ゼラチン製カプセルの調製は、本発明の化合物を固体、半固体、又は液体希釈剤と混合することで実施可能である。軟質ゼラチン製カプセルの調製は、本発明の化合物を水、油、例えば落花生油若しくはオリーブ油、液状パラフィン、短鎖脂肪酸のモノ−グリセリドとジ−グリセリドとの混合物、ポリエチレングリコール400、又はプロピレングリコールと混合することで実施可能である。
【0072】
経口投与用の液体は、懸濁液、溶液、乳液又はシロップの形態であってもよいか、あるいは使用前に水又は他の適切な媒体でもどす乾燥製品として提供することも可能である。このような液体組成物は、所望により、医薬的に許容される賦形剤、例えば懸濁化剤(例えばソルビトール、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲルなど);非水性媒体、例えば油(例えばアーモンド油又は分別ヤシ油)、プロピレングリコール、エチルアルコール又は水;防腐剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチル又はプロピル又はソルビン酸);湿潤剤、例えばレシチンなど;及び必要ならば香味又は着色剤を含有してもよい。
【0073】
また、本発明の活性剤は、非経口経路で投与することもできる。例えば、組成物を直腸投与の目的で座薬として処方してもよい。静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下経路を包含する非経口用途の場合、本発明の化合物を、適切なpH及び等張性に緩衝された無菌の水溶液若しくは懸濁液又は非経口的に許容される油として提供してもよい。好適な水性媒体としては、リンゲル液及び等張性塩化ナトリウム溶液が含まれる。そのような形態物を単位用量形態、例えばアンプル又は使い捨て可能注射デバイスなど、複数回用量形態、例えば適量を取り出すことが可能なバイアル瓶など、又は注射可能製剤を生じさせる目的で使用可能な固体形態物若しくは予濃縮液の形態で提供してもよい。具体的な輸液用量は、数分〜数日の範囲の期間にわたって約1〜1000μg/kg/分の範囲の、医薬担体と混ざり合った化合物であってよい。
【0074】
局所投与の場合には、本化合物を、媒体に対する薬剤の濃度が約0.1%〜約10%になるように医薬担体と混合してもよい。例としては、ローション、クリーム、軟膏及びこれらに類するものが挙げられ、これらは既知の方法により配合することができる。本発明の化合物を投与する別の様式では、経皮送達を行う目的でパッチ製剤を利用してもよい。
【0075】
開発に最も適した特性を有する化合物(1)の塩を同定するために、塩選択評価を行った。選択過程に不可欠であると考えられる基準は、結晶化度、再結晶過程からの形態再現性、加速条件下での化学的及び物理的安定性、並びに原薬開発及び製剤開発の双方を支持するために最適である溶解度であった。
【0076】
実施形態では、この化合物は、必要としている患者に投与するのに好適な剤形に製剤される。薬剤及び担体粒子の調製方法及び装置は、Pharmaceutical Sciences,Remington,1985,第17版、1585〜1594;Chemical Engineers Handbook,Perry,1984,第6版、pp.21−13から21−19(1984);Parrotら、1974,J.Pharm.Sci.,61(6):813〜829;及びHixonら、1990,Chem.Engineering,pp.94〜103に開示されている。
【0077】
本発明の剤形に組み込まれる化合物の量は、一般に治療適応及び所望の投与期間(例えば12時間おき、24時間おきなど)に応じて、組成物の重量を基準として約10重量%〜約90重量%で変化し得る。投与したい化合物の用量に応じて、1つ以上の剤形で投与することができる。製剤によっては、この化合物は、酢酸塩の形態又は遊離塩基の形態となるのが好ましい。
【0078】
更に、本発明はまた、ヒト又はヒト以外の動物体の治療又は診断方法での使用について前述した、医薬組成物又は医薬剤形にも関する。
【0079】
本発明はまた、治療を必要としている哺乳類に経口投与するための医薬剤形の製造における使用のための医薬組成物に関し、その剤形が、その哺乳類による食事摂取とは独立に、1日のうちいつでも投与できることを特徴とする。
【0080】
本発明はまた、ヒト又はヒト以外の動物体の治療又は診断方法に関し、これはその動物体に、本明細書に記述されている医薬組成物の治療的又は診断的有効量を投与することを含む。
【0081】
本発明はまた、本明細書に記述される容器、剤形を含む、商業的販売に好適な医薬品パッケージに関し、そのパッケージに、その剤形が食事と共に又は食事なしで投与できるかどうかについてなど、非限定的な書面を伴う。
【0082】
下記の製剤実施例は説明目的に限定され、本発明の範囲をいかなる意味でも制限するものではない。
【実施例】
【0083】
5つのバージョンの化合物(1)(即ち、遊離酸、ナトリウム塩、カリウム塩、トロメタミン塩、及びメグルミン塩)を生成し、それらの物理的特性及び製造可能性が、化合物の好ましい形態の選択の指針となった。
【0084】
E)合成実施例
以下の実施例に記述する化合物、及びそれに対応する分析データを得るため、別途記載のない限り、以下の実験プロトコル及び分析プロトコルを順守した。特に明記しない限り、反応混合物は室温(rt)で磁気的に攪拌され、溶液は一般に、Na
2SO
4又はMgSO
4などの乾燥剤上で「乾燥」され、混合物、溶液、及び抽出物は、典型的には、ロータリーエバポレーター上で減圧下で「濃縮」された。
【0085】
データ解析設定
薄層クロマトグラフィー(TLC)は、Merckシリカゲル60 F
254 2.5cm×7.5cm 250μm又は5.0cm×10.0cm 250μmコーティング済みシリカゲルプレートを使用して実施された。分取薄層クロマトグラフィーは、EM Scienceシリカゲル60 F
254 20cm×20cm 0.5mmコーティング済みプレートで、濃縮ゾーンが20cm×4cmのものを使用して実施された。
【0086】
順相フラッシュカラムクロマトグラフィー(FCC)は、特に明記しない限り、シリカゲル(SiO
2)用いてヘキサン/酢酸エチルで溶離させることで実施し、逆相HPLCは、Phenomenex Luna C
18(5μm、4.6×150mm)カラムが備わっているHewlett Packard HPLCシリーズ1100を用いて実施し、検出はλ=230、254、及び280nmで実施し、流量を1mL/分にして10〜99%のアセトニトリル/水(0.05%のトリフルオロ酢酸)に5.0分かけて至らせる勾配をかけた。あるいは、分取HPLC精製は、逆相YMC−Pack ODS−A(5μm、30×250mm)カラムが備わっており、Gilson Unipoint LCソフトウェアを実行するGilson自動化HPLCシステムを用いて実施し、UVピーク検出はλ=220nmで実施し、流量を10〜20mL/分にして10〜99%のアセトニトリル/水(0.05%のトリフルオロ酢酸)に15〜20分かけて至らせる移動勾配をかけた。
【0087】
マススペクトル(MS)は、別途記載のない限り、ESI/APCIポジティブ及びネガティブマルチモードソースが備わったAgilentシリーズ1100 MSDを用いて得て、核磁気共鳴(NMR)スペクトルはBrukerモデルDRX分光計を用いて得て、
1H NMRデータは、テトラメチルシラン標準のダウンフィールドへの化学シフト(ppm)(見かけの多重度、結合定数J(Hz)、積分値)を示している。
【0088】
実施例1:1−(5,6−ジクロロ−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−1H−ピラゾール−4−カルボン酸(化合物(1))の遊離酸
【0089】
【化3】
【0090】
方法A:
化合物(1)の遊離酸を、2,5,6−トリクロロ−1H−ベンゾイミダゾール及び1H−ピラゾール−4−カルボン酸を用いて調製した。MS(ESI/CI):C
11H
6Cl
2N
4O
2の質量計算値、297.1;m/z実測値、296.0[M−H]
-。
1H NMR(500MHz、DMSO−d
6):14.18−12.52(br s,2H),8.89(d,J 0.5Hz,1H),8.31(d,J=0.5Hz,1H),7.80(s,2H)。
【0091】
方法B:
工程A:5,6−ジクロロ−1,3−ジヒドロ−ベンゾイミダゾール−2−オン:乾燥DMF(200mL)中4,5−ジクロロ−ベンゼン−1,2−ジアミン(25g、0.14モル)の溶液に、固体CDI(23g、0.14モル)を添加した。この反応溶液を室温で1時間攪拌し、次に水(500mL)を加えた。沈殿固形物を濾過により回収し、水で洗浄し、完全に乾燥させて、標題化合物を得た(26.0g、90%)。この粗生成物を、更に精製することなく、次の反応に使用した。
【0092】
工程B:2,5,6−トリクロロ−1H−ベンゾイミダゾール:十分に乾燥させた5,6−ジクロロ−1,3−ジヒドロ−ベンゾイミダゾール−2−オン(28.4g、0.14モル)をPOCl
3(75mL)中に懸濁させた。この反応溶液を還流温度に3時間加熱し、室温まで冷却した。この溶液を、十分に攪拌しながら、砕いた氷/水(1.5L)にゆっくり注いだ。この溶液をNaOHでpH=7.0に中和した。沈殿固形物を濾過により回収し、水で洗浄し、乾燥させて、標題化合物を得た(27.9g、90%)。この粗生成物を、更に精製することなく、次の反応に使用した。
【0093】
工程C:1−(5,6−ジクロロ−1−ジメチルスルファモイル−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−1H−ピラゾール−4−カルボン酸エチルエステル。2,5,6−トリクロロ−1H−ベンゾイミダゾール2(27.6g、0.125モル)を乾燥DMF(200mL)に溶解し、K
2CO
3(20.7g、0.15モル)及び塩化ジメチルスルファモイル(17.9g、0.125モル)を加えた。この反応混合物を室温で16時間攪拌した。HPLC分析により、2,5,6−トリクロロ−ベンゾイミダゾール−1−スルホン酸ジメチルアミドの完全な形成が示された。同じ容器に、2,5,6−トリクロロ−ベンゾイミダゾール−1−スルホン酸ジメチルアミドを分離することなく、1H−ピラゾール−4−カルボン酸エチルエステル(17.5g、0.125モル)及びK
2CO
3(20.7g、0.15モル)を加えた。この反応混合物を70℃で4時間攪拌し、反応溶液がまだ熱いうちに水(500mL)を加えた。この反応溶液を、室温に冷却した。沈殿固形物を濾過により回収し、水で洗浄し、乾燥させた。この粗生成物を、更に精製することなく、次の反応に使用した。
【0094】
工程D:1−(5,6−ジクロロ−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−1H−ピラゾール−4−カルボン酸。粗1−(5,6−ジクロロ−1−ジメチルスルファモイル−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−1H−ピラゾール−4−カルボン酸エチルエステルを、THF(125mL)中に溶かし、水(250mL)中のLiOH・H
2O(21g、0.5モル)を加えた。この反応混合物を還流温度で2時間攪拌し、室温に冷却した。濃HClを加えて、pHを2.0に調節した。固体の沈殿を濾過により回収し、水で洗浄し、乾燥させた。この固体を熱いEtOAc(1L)中で粉砕した。室温まで冷却して濾過した後、式(I)の化合物を褐色の固体として得た(18.5g、50%)。MS[M+H]
+実測値297.0。
1H NMR(500MHz、DMSO−d
6):13.71(s,1H),12.99(s,1H),8.90(s,1H),8.32(s,1H),7.94(s,1H),7.67(s,1H)。
【0095】
化合物(1)の遊離酸の6.0gバッチの熱特性、結晶性、見かけ純度、及び吸湿性を表1に要約する。化合物(1)の飽和度データを
図1に示す。
【0096】
【表1】
a分解
【0097】
実施例2:化合物(1)のカリウム塩
1−(5,6−ジクロロ−1H−ベンゾイミダゾール−2−イル)−1H−ピラゾール−4−カルボン酸のカリウム塩の調製は、遊離酸(55g、1.7モル)をEtOH(1.5L)中に還流温度で懸濁させ、20mLの水中のK
2CO
3(12.79g、0.85モル)を5分にわたり滴加することにより行われた。適切な攪拌を確保するため、強力な機械的攪拌が必要であった。この懸濁液を還流温度で8時間攪拌した後、5時間かけて室温まで冷却した。沈殿した固体を濾過により回収し、100mLの水、続いてEtOHで素早く洗浄した。カリウム塩が白色固体として得られた(38g、65%)。その後、母液を濃縮し、上記のプロセスをもう一度繰り返して、カリウム塩の2番目の生成物(13g、22%)を得た。MS[M+H]
+=297.0。
1H NMR(500MHz、DMSO−d
6):8.65(s,1H),7.96(s,1H),7.57(s,2H)。
【0098】
上記の再スラリー化方法によって調製されたカリウム塩は非吸湿性であり、PXRD及び熱分析から分かるように低結晶性の水和物と一致する。それぞれ脱水事象及び融解/分解と関係し得る化合物(1)のカリウム塩の2つのブロードな吸熱ピークが、DSCから見て取れる(表2)。
【0099】
【表2】
d分解
【0100】
実施例3:化合物(1)のナトリウム塩
化合物(1)のナトリウム塩は、PXRD及び熱分析が示すように、低結晶性の水和固形物である。DSCは2つのブロードな吸熱ピークを明らかにし、第1の事象は水分の損失(TGAにより〜9%)と関係しており、第2の吸熱は塩の融解/分解が原因である。ナトリウム塩は、カリウム塩の調製で用いたのと同様の方法(スラリー法)で調製された。
【0101】
実施例4:化合物(1)のトロメタミン塩の結晶化手順
これまでにトロメタミン塩の2つの形態が生成されている。第1の形態は、エタノール水溶液(14%水)中の化合物(1)とトロメタミンのスラリーから得た。塩ではないが、この物理的な混合物は探求されなかった。第2の形態は、過剰量の対イオンを含む水系後処理から生成された。この形態は、カリウム塩より低い見かけの水溶解度を有することが認められた水和塩であった。この化合物はまた、不十分なバルク特性を呈した。
【0102】
実施例5:化合物(1)のメグルミン塩の結晶化手順
化合物(1)の遊離酸と1.2モル当量のメグルミンの透明溶液(30mg/mL)を、わずかに加熱した後のメタノール水溶液(12%水)中で生成した。シード添加を伴う室温での攪拌、又はシード添加を伴う若しくは伴わない冷凍は、一貫してメグルミン塩の結晶化をもたらし、これを濾過により回収した。この方法を用いて2gバッチの塩を生成した。上記手順における溶媒組成を水性エタノールに変更し、PDMS API SM開発チームがこれを使用して、FIHの効果及びFIHの研究の裏付けのためにGMPグレードの物質8.7kgを製造した。
【0103】
化合物(1)のメグルミン塩の熱特性、結晶性、及び見かけ純度を表3に要約する。
図2及び
図3はそれぞれ、PXRDデータ、並びにDSC、TGA、及びx線データを含む、化合物(1)のメグルミン塩の塩バルク特性を示している。単結晶データにより、化合物(1)のメグルミン塩は、
図4A及び
図4Bに示す実験の粉末パターンと極めてよく一致しているシミュレートした粉末パターンを有する二水和物であることが確認された。化合物(1)のメグルミン塩は、化合物(1)の遊離酸又はカリウム塩に比べて、改善されたバルク特性、溶解度、及び向上した加工性を有することが認められた。
【0104】
【表3】
【0105】
実施例6:化合物(1)のメグルミン塩の局所製剤
化合物(1)のメグルミン塩の局所製剤の開発で用いられる材料及び賦形剤を表4に列挙する。
【0106】
【表4】
*賦形剤の熱可逆特性により5℃で可溶化。
【0107】
表5は、化合物(1)のメグルミン塩の選択された製剤に対して行われた、4週間保存後の物理的及び化学安的定性の結果を一覧で示す。
【0108】
【表5】
*バイアル瓶中に認められる沈殿物
【0109】
HPLC分析は、これら6つの製剤組成物が、研究で用いた保存条件下で4週間にわたって化学的に安定であったことを示した。ポロキサマーを主にした製剤(実験4)の物質収支の見かけの損失は、40℃における化合物(1)の遊離酸の沈殿に起因したものであり、分解のせいではなかった。40℃でポリマーは分解し、その結果酢酸、アルデヒドが形成されると同時に、粘性が消失し、かつpHが低下する。結果として生じる酸性環境は、化合物(1)の不溶性遊離酸の沈殿及び製剤の退色を引き起こした。ポロキサマー(又はルトロール)の不安定性は周知であり、Erlandsson,B.,2002,Polym.Degrad.and Stab.,78:571〜575に開示されている。このような分解は、室温で保存されたか、又は冷蔵保存されたサンプルでは認められなかった。
【0110】
化合物(1)のメグルミン塩の製剤の溶解度スクリーニングの結果を表6に示す。調べた10種の媒体のうちの4種、即ち、1% Na−CMC(実験1)、1%カルボマー941(実験2)、1%カルボマー934P(実験3)、及び20% HP−β−CD(実験4)は、対象としている溶解度基準である10mg/mL(遊離酸換算)を満たさなかったか、又はHela細胞に有害であった。1% MCの媒体は、2% MCを含有する生成物に勝る顕著な利点を有さなかった。化合物(1)のメグルミン塩は、実験5及び7〜11の許容可能なpH範囲(6〜8.5)内で十分に可溶性であった。
【0111】
【表6】
*製剤はHela細胞に有害であった。
【0112】
F)生物学的実施例
HIF1−αについての細胞アッセイ
Hela細胞(ATCC(Manassas,VA))を、ウシ胎児血清10%、非必須アミノ酸1%、ペニシリン50IU/mL、及びストレプトマイシン50μg/mLを含む100μLのDMEM中、1ウェル当たり20,000個の細胞で96ウェルプレートに蒔いた(細胞培養試薬は全てInvitrogen(Carlsbad,CA)より入手)。播種の24時間後、培地を、ウシ胎児血清10%を含まない100μLのDMEMに変更し、各化合物の原液を1.1μL加え、6時間インキュベートした。全ての化合物を最終化合物濃度100μMで試験した。上清を除き、プロテアーゼ阻害物質を含有するMSD溶解バッファー55μLで細胞を溶解した。次に、ブロッキングしたMSDヒトHIF−1α検出プレート(製造元のプロトコルに従う、Meso−Scale Discovery(Gaithersburg、MD))に50μLの細胞可溶化物を移し、軌道振盪器の上で室温にて2時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、25μLの20nM抗−HIF1α検出抗体を加え、軌道振盪器の上で室温にて1時間インキュベートした。PBSで3回洗浄した後、1X読み取り用緩衝液(read buffer)150μLを加え、次に、プレートをMSD SECTOR装置で測定した。100μMの化合物の存在下でのHIF刺激率(%)を測定することにより、検定の対照化合物(7−[(4−クロロ−フェニル)−(5−メチル−イソキサゾル−3−イルアミノ)−メチル]−キノリン−8−オール)と比較してデータを分析した。化合物(1)のメグルミン塩のこの生物学的データは
図5に示されている。
【0113】
化合物(1)のメグルミン塩の製剤の更なる生物学的データは、
図6〜
図8に示されている。
【0114】
上記の明細書は、説明を目的として与えられる実施例と共に本発明の原理を教示するものであるが、本発明の実施には、以下の「特許請求の範囲」及びその均等物の範囲内に含まれる全ての通常の変形例、適合例及び/又は改変例が包含される点は理解されるであろう。