特許第6123391号(P6123391)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6123391-四三酸化マンガン及びその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6123391
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】四三酸化マンガン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/02 20060101AFI20170424BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20170424BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170424BHJP
【FI】
   C01G45/02
   C01G45/00
   H01M4/505
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-53880(P2013-53880)
(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公開番号】特開2014-28737(P2014-28737A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2016年2月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-65050(P2012-65050)
(32)【優先日】2012年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-152812(P2012-152812)
(32)【優先日】2012年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松永 敬浩
(72)【発明者】
【氏名】児玉 正
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直人
(72)【発明者】
【氏名】澤野 正雄
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101898796(CN,A)
【文献】 特開平05−208824(JP,A)
【文献】 特開2001−114521(JP,A)
【文献】 特開2003−272629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/00 − 45/12
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップ密度が1.5g/cm以上であり、かつ粒子径の相対標準偏差が40%以下であることを特徴とする四三酸化マンガン。
【請求項2】
平均粒子径が1μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の四三酸化マンガン。
【請求項3】
平均粒子径が20μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の四三酸化マンガン。
【請求項4】
粒子径の相対標準偏差が35%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の四三酸化マンガン。
【請求項5】
酸化還元電位が0mV以上であり、かつOH/Mn2+(mol/mol)が0.55以下となるようにマンガン水溶液とアルカリ水溶液を混合する工程を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の四三酸化マンガンの製造方法。
【請求項6】
OH/Mn2+(mol/mol)が0.35以上であることを特徴とする請求項5に記載の四三酸化マンガンの製造方法。
【請求項7】
酸化還元電位が40mV以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の四三酸化マンガンの製造方法。
【請求項8】
マンガン水溶液から四三酸化マンガンを直接析出させることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載の四三酸化マンガンの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の四三酸化マンガンを使用することを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の四三酸化マンガンを原料とすることを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
【請求項11】
請求項10に記載のリチウムマンガン系複合酸化物を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子径分布が制御された四三酸化マンガン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四三酸化マンガンは充填性が高いため、リチウムマンガン系複合酸化物のマンガン原料として注目されている。
【0003】
四三酸化マンガンの製造方法としては、マンガン溶液中から水酸化マンガンを生成させた後、これを酸化することにより四三酸化マンガンを得る方法(例えば、特許文献1、2参照)が報告されている。
【0004】
他の四三酸化マンガンの製造方法として、マンガン含有液にアリカリ液を混合し、これを酸化することで最大粒子サイズが150nm以下の四三酸化マンガンの製造方法が報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本特開2001−114521号公報
【特許文献2】日本特開2003−272629号公報
【特許文献3】日本特開2001−261343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2の四三酸化マンガンは、タップ密度が比較的高いものであるが、その粒子径は不均一、かつ、分布が広いものであった。また、特許文献3に開示された四三酸化マンガンは、粒子径分布は狭いが、その平均粒子径は100nmと非常に小さいために密度が低く、リチウムマンガン系複合酸化物等のマンガン原料として適したものではなかった。
【0007】
本発明は、これらの課題を解決し、タップ密度が高く、なおかつ、均一な粒子径分布を有する四三酸化マンガン及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、リチウムマンガン系複合酸化物の原料に用いられるマンガン酸化物の製造方法について鋭意検討を重ねた。その結果、高いタップ密度に加え、均一な粒子径分布を有する四三酸化マンガンを見出した。さらに、このような四三酸化マンガンは、化学的方法による四三酸化マンガンの製造方法であって、四三酸化マンガンを得るときの原料溶液の比を制御することによって得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)タップ密度が1.5g/cm以上であり、かつ粒子径の相対標準偏差が40%以下であることを特徴とする四三酸化マンガン。
(2)平均粒子径が1μm以上であることを特徴とする上記(1)に記載の四三酸化マンガン。
(3)平均粒子径が20μm以下であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の四三酸化マンガン。
(4)粒子径の相対標準偏差が35%以下であることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の四三酸化マンガン。
(5)酸化還元電位が0mV以上であり、かつOH/Mn2+(mol/mol)が0.55以下となるようにマンガン水溶液とアルカリ水溶液を混合する工程を有することを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の四三酸化マンガンの製造方法。
(6)OH/Mn2+(mol/mol)が0.35以上であることを特徴とする上記(5)に記載の四三酸化マンガンの製造方法。
(7)酸化還元電位が40mV以上であることを特徴とする上記(5)又は(6)に記載の四三酸化マンガンの製造方法。
(8)マンガン水溶液から四三酸化マンガンを直接析出させることを特徴とする上記(5)乃至(7)のいずれか一項に記載の四三酸化マンガンの製造方法。
(9)上記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の四三酸化マンガンを使用することを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法。
(10)上記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の四三酸化マンガンを原料とすることを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物。
(11)上記(10)に記載のリチウムマンガン系複合酸化物を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、タップ密度が高く、なおかつ、均一な粒子径分布を有する四三酸化マンガンを提供することができる。
【0011】
本発明の四三酸化マンガンは、サイクル特性、特に高温下におけるサイクル特性に優れたリチウムマンガン系複合酸化物の原料とすることができる。
【0012】
さらに、本発明により、分級、整粒又は粉砕等の製造後の粒度調整を必要としない四三酸化マンガンの製造方法を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の四三酸化マンガンの粒子径分布
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の四三酸化マンガンについて説明する。
【0015】
本発明の四三酸化マンガンのタップ密度は、1.5g/cm以上であり、1.6g/cm以上であることが好ましく、1.8g/cm以上であることがより好ましく、1.9g/cm以上であることが更に好ましく、2.0g/cm以上であることが更により好ましい。タップ密度が1.5g/cm未満では四三酸化マンガンの充填性が低くなる。したがって、このような四三酸化マンガンから得られるリチウムマンガン系複合酸化物の充填性は低くなる。
【0016】
四三酸化マンガンはタップ密度が高いほど充填性が高くなる傾向がある。しかしながら、本発明の四三酸化マンガンのタップ密度は2.6g/cm以下であることが好ましく、2.5g/cm以下であることがより好ましく、2.4g/cm以下であることが更に好ましい。このような範囲とすれば、リチウムとの高い反応性を維持したまま、高い充填密度とすることができる。
【0017】
本発明における「タップ密度」は、一定条件で容器をタッピングして得られる粉末のかさ密度である。そのため、粉末を容器に充填し、一定の圧力で加圧成型をした状態の粉末の密度、いわゆるプレス密度とは異なる。タップ密度は、例えば、後述する実施例に示す方法で測定できる。
【0018】
リチウム化合物との反応性を一層均一にする観点から、本発明の四三酸化マンガンは、粒子径の相対標準偏差が40%以下である。粒子径の相対標準偏差が40%以下となることで粒子径分布が狭く、粒子径が均一な四三酸化マンガンとなる。粒子径の相対標準偏差が小さいほど、粒子径分布が均一になり、四三酸化マンガンとリチウム化合物との反応が均一になりやすい。そのため、粒子径の相対標準偏差は、35%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。これにより電池特性、特に高温におけるサイクル特性に優れたリチウムマンガン系複合酸化物が得られやすくなる。
【0019】
なお、粒子径の標準偏差は、四三酸化マンガンの粒子径分布を測定することで求めることができ、粒子径の相対標準偏差は以下の式から求めることができる。
【0020】
相対標準偏差(%) = (粒子径の標準偏差/平均粒子径)×100
【0021】
本発明の四三酸化マンガンの粒子径の相対標準偏差が小さいため、その粒子径分布はピークが一つのもの、いわゆる単分散(monomodal)の粒子径分布となり易い。
【0022】
本発明の四三酸化マンガンをリチウムマンガン系複合酸化物の原料として使用したリチウムマンガン系複合酸化物の電池特性、特に充放電サイクル特性及び出力特性を高くする観点から、本発明の四三酸化マンガンの平均粒子径は1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが更に好ましく、8μm以上であることが更により好ましく、10μm以上であることが特に好ましい。一方、操作性(ハンドリング)の観点から、平均粒子径は、50μm以下、更には20μm以下であればよい。
【0023】
本発明の四三酸化マンガンは、上記の範囲の粒子径の相対標準偏差を有することに加え、上記の範囲の平均粒子径を有することがより好ましい。本発明の粒子径の相対標準偏差、及び、平均粒子径の両者を兼ね備えることで、本発明の四三酸化マンガンが、リチウム化合物との反応性に優れるだけでなく、操作性(ハンドリング性)にも優れ、リチウムマンガン系複合酸化物のマンガン原料としてより適した粉末となる。
【0024】
本発明の四三酸化マンガンは、水銀圧入法によって測定される直径10μm以上の細孔の細孔体積率(以下において、単に「直径10μm以上の細孔の細孔体積率」という。)が20%以下であることが好ましい。直径10μm以上の細孔の細孔体積率が20%以下となることで、リチウム化合物との反応が均一になりやすい。
【0025】
本発明における「細孔体積率」は、四三酸化マンガンの全ての細孔の合計体積に対する所定範囲の直径を有する細孔(例えば、細孔直径10μm以上の細孔など)の合計体積の比率である。なお、細孔の直径分布及び細孔体積は、水銀圧入法を採用した市販のポロシメータで測定することができる。
【0026】
本発明の四三酸化マンガンは、水銀圧入法により測定される直径0.1μm以下の細孔の細孔面積率が15%以下(以下において、単に「直径0.1μm以上の細孔の細孔面積率」という。)であることが好ましい。直径0.1μm以下の微細細孔が少なくなることで、四三酸化マンガンとリチウム化合物との反応がより均一になる傾向にある。
【0027】
本発明の四三酸化マンガンは、水銀圧入法により測定される直径0.05μm以下の細孔の細孔面積率が5%以下であることが好ましい。直径0.1μm以上の細孔と同様に、直径0.05μm以下の微細な細孔が少なくなることで、四三酸化マンガンとリチウム化合物との反応がより均一になる傾向にある。
【0028】
本発明における「細孔面積率」は、四三酸化マンガンの全ての細孔の合計面積に対する所定範囲の直径を有する細孔(例えば、細孔直径0.1μm以下の細孔など)の合計面積の比率である。なお、細孔の直径分布及び細孔面積は、水銀圧入法を採用した市販のポロシメータで測定することができる。
【0029】
本発明の四三酸化マンガンのBET比表面積は、5m/g以下であることが好ましい。BET比表面積が5m/g以下であることで、四三酸化マンガンとリチウム化合物との反応がより均一になる。
【0030】
本発明の四三酸化マンガンが、リチウムマンガン系複合酸化物の原料として優れた性能を有する理由のひとつとして、本発明の四三酸化マンガンが高い充填性を有するだけではなく、均一な粒子径分布を有しているため、リチウム化合物との反応性の均一性が向上することが挙げられる。
【0031】
四三酸化マンガンの結晶構造はスピネル構造である。この結晶構造は、JCPDSパターンのNo.24−734のX線回折パターンと同等のX線回折パターンを示す。
【0032】
四三酸化マンガンの化学式はMnと表わされる。そのため、四三酸化マンガンをMnOで表記した場合において、そのマンガン元素と酸素元素の比xは、x=1.33〜1.34となる。しかしながら、本発明の四三酸化マンガンのマンガンと酸素の比xは1.33〜1.34に限定されるものではない。本発明の四三酸化マンガンは、上記の結晶構造を有しており、MnOで表記した場合において、x=1.20〜1.40の範囲で表されるマンガン酸化物であってもよい。xは1.25〜1.40であることが好ましく、1.30〜1.40であることがより好ましい。
【0033】
次に、本発明の四三酸化マンガンの製造方法について説明する。
【0034】
本発明の四三酸化マンガンは、酸化還元電位が0mV以上であり、かつOH/Mn2+(mol/mol)(以下において、「マンガンモル比」という。)が0.55以下となるようにマンガン水溶液とアルカリ水溶液を混合する工程を有する四三酸化マンガンの製造方法により製造することができる。
【0035】
本発明の製造方法は、上記の酸化還元電位及びマンガンモル比となるようにマンガン水溶液とアルカリ水溶液を混合する工程を有する。これにより、マンガン水溶液から四三酸化マンガンの析出を行なうことができる。即ち、本発明の製造方法では、マンガン水溶液からマンガン水酸化物の結晶を生成する工程を経ずに、四三酸化マンガンを析出させることができる。
【0036】
従来の製造方法では、最初にマンガン水溶液から水酸化マンガンを生成させ、その後、酸素又は空気等の酸化雰囲気下でこれを酸化して四三酸化マンガンを生成させていた。このような製造方法では、四三酸化マンガンを得るために反応雰囲気を工程の途中で変更する必要があった。そのため、このような水酸化マンガンを経由する製造方法では、四三酸化マンガンを連続的に製造することができなかった。
【0037】
これに対し、本発明の製造方法では、上記の酸化還元電位及びマンガンモル比として四三酸化マンガンを製造することで、マンガン水溶液から四三酸化マンガンが直接析出する。そのため、本発明の製造方法では反応雰囲気を工程の途中で変更する必要がない。したがって、マンガン水溶液とアルカリ水溶液とを混合して連続的に四三酸化マンガンを製造することができる。
【0038】
ここで、マンガン水溶液から四三酸化マンガンが直接析出する、とは、マンガン水溶液から六角板状のマンガン水酸化物の結晶が生じないことであり、これには、マンガン水酸化物の結晶相が全く生成しない態様、及び、マンガン水酸化物の微結晶が短時間析出した後、それが六角板状の結晶に成長する前に四三酸化マンガンに転化する態様を含む。
【0039】
なお、六角板状のマンガン水酸化物の結晶が生じたか否かは、得られた四三酸化マンガンの粒子形状を観察することによって判断できる。
【0040】
本発明の製造方法で使用するマンガン水溶液は、マンガンイオンを含有する水溶液であればよく、硫酸マンガン、塩化マンガン、硝酸マンガン、及び酢酸マンガンなどの水溶液や、金属マンガン、マンガン酸化物等を硫酸、塩酸、硝酸、及び酢酸などの各種の酸水溶液に溶解したものを例示することができる。
【0041】
マンガン水溶液のマンガンイオン濃度は任意な濃度を選択することができるが、例えば、マンガンイオン濃度は1mol/L以上であることが好ましい。マンガン水溶液のマンガンイオン濃度を1mol/L以上とすることで、四三酸化マンガンを効率よく得ることができる。
【0042】
マンガン水溶液の温度は40℃以上であることが好ましく、60℃以上、95℃以下であることがより好ましく、70℃以上、80℃以下であることがさらに好ましい。析出をする際のマンガン水溶液の温度をこの範囲とすることで、四三酸化マンガンの析出が促進され、かつ、四三酸化マンガンの粒子径が均一になりやすくなる。
【0043】
本発明の製造方法で使用するアルカリ水溶液は、アルカリ性を示す水溶液であればよく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液を例示することができる。
【0044】
アルカリ水溶液の濃度に限定は無い。反応効率の観点から、アルカリ水溶液の水酸化物イオン(OH)の濃度は1mol/L以上であることが好ましい。
【0045】
マンガン水溶液とアルカリ水溶液を混合させる工程では、酸化還元電位を0mV以上として行う。酸化還元電位が0mV未満では、四三酸化マンガン以外のマンガン酸化物を含み、充填性の低いマンガン酸化物が生成する。四三酸化マンガンをマンガンイオンから直接析出しやすくするため、酸化還元電位は40mV以上であることが好ましく、60mV以上であることがより好ましく、80mV以上であることが更に好ましい。
【0046】
酸化還元電位が高くなることで四三酸化マンガンの単一相が得られやすくなり、300mV以下、さらには200mV以下であれば、単一相の四三酸化マンガンが一層得られやすくなる。なお、酸化還元電位は標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode;SHE)に対する値として求めることができる。
【0047】
マンガン水溶液とアルカリ水溶液を混合させる工程では、マンガンモル比を0.55以下とする。マンガンモル比が0.55を超えた場合、得られるマンガン酸化物のタップ密度が低下するだけでなく、粒子径の相対標準偏差が大きくなり、さらには、四三酸化マンガンの単一相が得られにくくなる。マンガンモル比は0.52以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
【0048】
また、マンガンモル比が0.35以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.45以上であれば、四三酸化マンガンが効率よく製造できる。
【0049】
本発明の四三酸化マンガンの製造方法では、酸化剤を使用して四三酸化マンガンを析出させることが好ましい。酸化剤の種類は特に限定されないが、酸素含有ガス(空気を含む)、及び過酸化水素等が例示できる。簡便に使用できるため、酸化剤として酸素含有ガスを使用することが好ましく、空気を使うことがより好ましい。
【0050】
本発明の製造方法では、上記の酸化還元電位及びマンガンモル比を満たしてマンガン水溶液とアルカリ水溶液とが混合されれば、得られる四三酸化マンガンは、タップ密度が高く、粒子径分布が均一になる。そのため、上記の酸化還元電位及びマンガンモル比を満たせば、マンガン水溶液とアルカリ水溶液との混合方法は任意の方法を選択することができる。
【0051】
混合方法としては、酸化還元電位及びマンガンモル比が本発明の範囲となるようにマンガン水溶液とアルカリ水溶液を直接混合する方法、及び、水やスラリーなどの溶媒中に、酸化還元電位及びマンガンモル比が本発明の範囲となるようにマンガン水溶液とアルカリ水溶液を添加して、これを混合する方法が例示できる。
【0052】
マンガン水溶液とアルカリ水溶液を十分かつ均一に反応させる観点から、混合方法は溶媒中にマンガン水溶液とアルカリ水溶液を添加して、これを混合する方法が好ましい。この場合、溶媒中の酸化還元電位及びマンガンモル比が本発明の範囲となるようにマンガン水溶液とアルカリ水溶液を混合すればよい。より好ましい混合方法として、マンガン水溶液とアルカリ水溶液とを溶媒に対してそれぞれ一定の速度で溶媒に添加して混合する方法や、マンガン水溶液とアルカリ水溶液とのマンガンモル比が本発明のマンガンモル比の範囲となるような添加速度で溶媒中に添加して混合する方法を例示することができる。更に好ましい混合方法として、溶媒に水などのマンガンイオンを含有しないものを使用し、マンガン水溶液とアルカリ水溶液とのマンガンモル比が本発明のマンガンモル比の範囲となるような添加速度で、マンガン水溶液とアルカリ水溶液とを溶媒中に添加して混合する方法を例示することができる。マンガン水溶液とアルカリ水溶液をこのように添加、混合することで、四三酸化マンガンの連続的な製造が一層行いやすくなる。
【0053】
本発明の四三酸化マンガンの製造方法では、マンガン水溶液とアルカリ水溶液を混合する際に錯化剤を使用しないことが好ましい。本発明における錯化剤とは、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、及びEDTAの他、これらと同様の錯化能を有するものを指す。
【0054】
これらの錯化剤は、四三酸化マンガンの析出挙動に影響を及ぼす。そのため、錯化剤の存在下で得た四三酸化マンガンは、本発明の四三酸化マンガンとは充填性、粒子径分布などが異なるものになりやすい。
【0055】
本発明の製造方法において、晶析工程の後、ろ過及び洗浄工程又は乾燥工程若しくはその両者を含んでいてもよい。
【0056】
ろ過及び洗浄工程では、反応スラリーから四三酸化マンガンを回収する。洗浄方法として、晶析した四三酸化マンガンをろ過して固液分離し、これを純水等で洗浄することが挙げられる。
【0057】
乾燥工程では、晶析後又はろ過及び洗浄後の四三酸化マンガンの水分を除去する。乾燥方法として、四三酸化マンガンを空気中、100℃から120℃程度に5〜24時間程度おくことが挙げられる。
【0058】
本発明の製造方法によれば、充填性が高い四三酸化マンガンを製造できるだけでなく、分級や粉砕等の追加的な整粒処理を行う必要なく、均一な粒子径分布を有する四三酸化マンガンを製造することができる。そのため、本発明の製造方法では、四三酸化マンガンの粒子径を調整する粉砕や分級などの整粒工程を含まなくてもよい。
【0059】
本発明の四三酸化マンガンは、リチウムマンガン系複合酸化物のマンガン原料として使用することができる。以下、本発明の四三酸化マンガンをマンガン原料として使用した、リチウムマンガン系複合酸化物の製造方法について説明する。
【0060】
本発明のリチウムマンガン系複合酸化物の製造方法は、上述の四三酸化マンガンとリチウム及びリチウム化合物の少なくとも一方とを混合する混合工程と、熱処理する加熱工程と、を有する。
【0061】
混合工程において、四三酸化マンガンをリチウム化合物と混合する際に、リチウムマンガン系複合酸化物のリチウム二次電池正極材料の特性を改善するために、異種金属化合物を添加してもよい。異種金属化合物は、構成元素としてマンガン及びリチウムとは異なる金属元素を有する。例えば、構成元素としてAl、Mg、Ni、Co、Cr、TiおよびZrの群から選ばれる少なくとも1種以上を含む化合物である。このような異種金属化合物を加えても同様の効果が得られる。
【0062】
リチウムマンガン系複合酸化物は結晶構造がスピネル型であることが好ましい。リチウムマンガン系複合酸化物は下記化学式(1)で表される。
【0063】
Li1+xMn2−x−y (1)
【0064】
上記式(1)中、MはLi,Mn,O以外の元素から選ばれる少なくとも1種類以上の金属元素を示し、x,yはそれぞれ下記式(2),(3)を満たす。
【0065】
0≦x≦0.33 (2)
0≦y≦1.0 (3)
【0066】
リチウム化合物は、如何なるものを用いてもよい。リチウム化合物として、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、シュウ酸リチウム、及びアルキルリチウム等が例示される。好ましいリチウム化合物としては、水酸化リチウム、酸化リチウム、及び炭酸リチウムなどが例示できる。
【0067】
本発明の四三酸化マンガンを原料として得られたリチウムマンガン系複合酸化物は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用することができる。
【実施例】
【0068】
次に、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各実施例及び比較例の評価は以下の通り行った。
【0069】
(タップ密度)
試料5gを10mLメスシリンダーに充填し、200回タッピングした後の密度をタップ密度とした。
【0070】
(平均粒子径、粒子径の標準偏差)
試料の平均粒子径として、存在する体積分率が最も高い粒子の粒子径(以下において、「最頻粒子径」という。)を測定した。最頻粒子径の測定には市販の粒度測定装置(商品名:MICROTRAC HRA 9320−X100,日機装株式会社製)を用いた。なお、測定前に試料を純水に分散させて測定溶液とし、そこにアンモニア水を添加してpH8.5にした。その後、測定溶液を3分間の超音波分散をした後、最頻粒子径及び粒子径の標準偏差を測定した。
【0071】
測定した最頻粒子径及び粒子径の標準偏差から以下の式に基づき粒子径の相対標準偏差を求めた。
【0072】
相対標準偏差(%) = (粒子径の標準偏差/平均粒子径)×100
【0073】
(X線回折測定)
試料の結晶相をX線回折によって測定した。測定は一般的なX線回折装置で測定した。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は3秒、および測定範囲は2θとして5°から80°の範囲で測定した。
【0074】
実施例1
80℃の純水に空気を吹き込みながら、これを攪拌した。当該純水の酸化還元電位が100mVと一定になるようにしながら、2mol/Lの硫酸マンガン水溶液、及び、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ当該純水中に添加することによりマンガン酸化物を析出させ、スラリー(以下において、「混合反応スラリー」という。)を得た。
【0075】
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液の添加する速度を調整し、添加する硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比が0.49となるように、硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを連続的に純水(混合反応スラリー)中に添加した。
【0076】
得られた混合反応スラリーをろ過、洗浄後、乾燥してマンガン酸化物を得た。
【0077】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0078】
実施例1の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0079】
また、得られた四三酸化マンガンについて、JIS R1628に準じた測定方法による密度(以下において、「JIS密度」という。)を測定した。その結果、実施例1のマンガン酸化物のJIS密度は2.2g/cmであり、タップ密度の1.1倍であった。
【0080】
実施例2
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.45としたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0081】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0082】
実施例2の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0083】
実施例3
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.485としたこと、及び、純水の酸化還元電位が80mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0084】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0085】
実施例3の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0086】
実施例4
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.495としたこと、及び、純水の酸化還元電位が180mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0087】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.33であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0088】
実施例4の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0089】
実施例5
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.505したとしたこと、及び、純水の酸化還元電位が60mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0090】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0091】
また、実施例5のマンガン酸化物のJIS密度は2.6g/cmであり、タップ密度の1.1倍であった。
【0092】
なお、ICP発光分光分析により、得られた四三酸化マンガンの組成を測定した。その結果、実施例5の四三酸化マンガンの主な組成はMnが70.3重量%、Naが120重量ppm、及び、Caが120重量ppmであった。
【0093】
実施例5の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0094】
実施例6
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.48としたこと、及び、純水の酸化還元電位が40mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0095】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.33であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0096】
実施例6の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0097】
実施例7
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.48としたこと、及び、純水の酸化還元電位が200mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0098】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0099】
実施例7の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0100】
実施例8
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.4としたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0101】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0102】
実施例8の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0103】
実施例9
60℃の純水に空気を吹き込みながらこれを攪拌したこと、硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.455としたこと、及び、純水の酸化還元電位が150mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0104】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0105】
実施例9の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0106】
実施例10
60℃の純水に空気を吹き込みながらこれを攪拌したこと、硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.485としたこと、及び、純水の酸化還元電位が180mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0107】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0108】
実施例10の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0109】
実施例11
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.48としたこと、及び、純水の酸化還元電位が90mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0110】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0111】
実施例11の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0112】
比較例1
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.575したこと、及び、純水の酸化還元電位が−100mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0113】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、水酸化マンガンと四三酸化マンガンとが混合したものであった。
【0114】
硫酸マンガン水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液のマンガンモル比が高い条件で製造されたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相ではなく、さらにタップ密度が低いものであった。
【0115】
また、比較例1のマンガン酸化物のJIS密度は1.4g/cmであり、タップ密度の1.1倍であった。
【0116】
比較例1のマンガン酸化物の製造条件、及び、マンガン酸化物の評価結果を表1に示す。
【0117】
比較例2
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.485としたこと、及び、純水の酸化還元電位が−10mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0118】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、水酸化マンガンと四三酸化マンガンとが混合したものであった。
【0119】
比較例2のマンガン酸化物の製造条件、及び、マンガン酸化物の評価結果を表1に示す。
【0120】
なお、ICP発光分光分析により、得られたマンガン酸化物の組成を測定した。その結果、比較例2のマンガン酸化物の主な組成はMnが70.2重量%であり、Naが350重量ppm、Caが200重量ppmであった。
【0121】
【表1】
【0122】
これらの実施例からも明らかなように、本発明により、充填性が高いだけでなく、粒子径の相対標準偏差が40%以下であり、粒子径分布の狭い四三酸化マンガンを提供することができる。特に、本発明では、平均粒子径が3μm以上と粒子径が小さい四三酸化マンガンから、平均粒子径が15μm以上と粒子径が大きい四三酸化マンガンであっても、タップ密度が1.7g/cm以上であり、なおかつ、粒子径の相対標準偏差が35%以下である、高充填性かつ粒子径分布の狭い四三酸化マンガンを提供することができる。
【0123】
さらには、本発明では、分級や粉砕等の、四三酸化マンガン製造後の整粒工程を経ることなく、粒子径が均一な四三酸化マンガン、すなわち、粒子径分布の狭い四三酸化マンガンを提供することができる。
【0124】
[測定例]
(マンガン酸リチウムの合成、及びリチウム二次電池の作製)
実施例1、9、10及び11の四三酸化マンガンを使用してマンガン酸リチウムを製造した。
【0125】
四三酸化マンガンと炭酸マンガンとを乳鉢混合して、空気流通下850℃で12時間焼成した。これにより、構成元素としてLi及びMnを含有するリチウムマンガン系複合酸化物を得た。得られたリチウムマンガン系複合酸化物はスピネル構造の単相であり、組成はLi1.1Mn1.9のマンガン酸リチウムであった。
【0126】
次に、得られたマンガン酸リチウムを正極活物質とするリチウム二次電池を作製した。
【0127】
このマンガン酸リチウム25mgを秤量し、これと、ポリテトラフルオロエチレンとアセチレンブラックとの混合物(商品名:TAB−2)とを、重量比でマンガン酸リチウム:TAB−2=2:1の割合で混合して混合粉末を得た。得られた混合粉末を、1ton/cmの圧力でペレット状に成型した。直径16mmのメッシュ(SUS316製)上にこれを圧着した後、150℃で減圧乾燥して電池用正極とした。
【0128】
正極に得られた電池用正極、負極に金属リチウム箔(厚さ0.2mm)、及び電解液にエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比1:2)に六フッ化リン酸リチウムを1mol/dmの濃度で溶解したものを用い、CR2032型コインセルを作製した。
【0129】
この電池を用いて、充放電密度0.4mA/cm(0.3時間放電率:0.3Cに相当)、充放電電圧4.3Vから3.0V、及び温度を60℃として定電流充放電による評価を行った。充放電回数を50回とし、1回目の放電容量(105mAh/g)に対する50回目の放電容量の割合を求め、これを放電容量維持率とした。評価結果を表2に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
表2から明らかなように、本発明の四三酸化マンガンを原料として得られたマンガン酸リチウムを正極活物質とした電池は、温度が60℃という高温環境下においても、放電容量維持率が95%以上、さらには96%以上と高く、サイクル特性に優れた電池となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の四三酸化マンガンは、リチウムマンガン系複合酸化物の原料として好適に使用される。
図1