【実施例】
【0068】
次に、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各実施例及び比較例の評価は以下の通り行った。
【0069】
(タップ密度)
試料5gを10mLメスシリンダーに充填し、200回タッピングした後の密度をタップ密度とした。
【0070】
(平均粒子径、粒子径の標準偏差)
試料の平均粒子径として、存在する体積分率が最も高い粒子の粒子径(以下において、「最頻粒子径」という。)を測定した。最頻粒子径の測定には市販の粒度測定装置(商品名:MICROTRAC HRA 9320−X100,日機装株式会社製)を用いた。なお、測定前に試料を純水に分散させて測定溶液とし、そこにアンモニア水を添加してpH8.5にした。その後、測定溶液を3分間の超音波分散をした後、最頻粒子径及び粒子径の標準偏差を測定した。
【0071】
測定した最頻粒子径及び粒子径の標準偏差から以下の式に基づき粒子径の相対標準偏差を求めた。
【0072】
相対標準偏差(%) = (粒子径の標準偏差/平均粒子径)×100
【0073】
(X線回折測定)
試料の結晶相をX線回折によって測定した。測定は一般的なX線回折装置で測定した。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は3秒、および測定範囲は2θとして5°から80°の範囲で測定した。
【0074】
実施例1
80℃の純水に空気を吹き込みながら、これを攪拌した。当該純水の酸化還元電位が100mVと一定になるようにしながら、2mol/Lの硫酸マンガン水溶液、及び、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ当該純水中に添加することによりマンガン酸化物を析出させ、スラリー(以下において、「混合反応スラリー」という。)を得た。
【0075】
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液の添加する速度を調整し、添加する硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比が0.49となるように、硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを連続的に純水(混合反応スラリー)中に添加した。
【0076】
得られた混合反応スラリーをろ過、洗浄後、乾燥してマンガン酸化物を得た。
【0077】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0078】
実施例1の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0079】
また、得られた四三酸化マンガンについて、JIS R1628に準じた測定方法による密度(以下において、「JIS密度」という。)を測定した。その結果、実施例1のマンガン酸化物のJIS密度は2.2g/cm
3であり、タップ密度の1.1倍であった。
【0080】
実施例2
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.45としたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0081】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0082】
実施例2の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0083】
実施例3
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.485としたこと、及び、純水の酸化還元電位が80mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0084】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0085】
実施例3の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0086】
実施例4
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.495としたこと、及び、純水の酸化還元電位が180mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0087】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.33であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0088】
実施例4の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0089】
実施例5
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.505したとしたこと、及び、純水の酸化還元電位が60mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0090】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0091】
また、実施例5のマンガン酸化物のJIS密度は2.6g/cm
3であり、タップ密度の1.1倍であった。
【0092】
なお、ICP発光分光分析により、得られた四三酸化マンガンの組成を測定した。その結果、実施例5の四三酸化マンガンの主な組成はMnが70.3重量%、Naが120重量ppm、及び、Caが120重量ppmであった。
【0093】
実施例5の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0094】
実施例6
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.48としたこと、及び、純水の酸化還元電位が40mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0095】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.33であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0096】
実施例6の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0097】
実施例7
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.48としたこと、及び、純水の酸化還元電位が200mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0098】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0099】
実施例7の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0100】
実施例8
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.4としたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0101】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0102】
実施例8の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0103】
実施例9
60℃の純水に空気を吹き込みながらこれを攪拌したこと、硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.455としたこと、及び、純水の酸化還元電位が150mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0104】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0105】
実施例9の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0106】
実施例10
60℃の純水に空気を吹き込みながらこれを攪拌したこと、硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.485としたこと、及び、純水の酸化還元電位が180mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0107】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0108】
実施例10の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0109】
実施例11
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.48としたこと、及び、純水の酸化還元電位が90mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0110】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、JCPDSパターンのNo.24734のX線回折パターンと同等のパターンであり、その結晶相はスピネル構造であった。また、当該マンガン酸化物のマンガンの酸化度をMnOxで表記した場合、x=1.34であった。これらの結果から、得られたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相であることを確認した。
【0111】
実施例11の四三酸化マンガンの製造条件、及び、四三酸化マンガンの評価結果を表1に示す。
【0112】
比較例1
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.575したこと、及び、純水の酸化還元電位が−100mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0113】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、水酸化マンガンと四三酸化マンガンとが混合したものであった。
【0114】
硫酸マンガン水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液のマンガンモル比が高い条件で製造されたマンガン酸化物は四三酸化マンガン単一相ではなく、さらにタップ密度が低いものであった。
【0115】
また、比較例1のマンガン酸化物のJIS密度は1.4g/cm
3であり、タップ密度の1.1倍であった。
【0116】
比較例1のマンガン酸化物の製造条件、及び、マンガン酸化物の評価結果を表1に示す。
【0117】
比較例2
硫酸マンガン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とのマンガンモル比を0.485としたこと、及び、純水の酸化還元電位が−10mVと一定になるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法でマンガン酸化物を得た。
【0118】
得られたマンガン酸化物のX線回折パタ−ンは、水酸化マンガンと四三酸化マンガンとが混合したものであった。
【0119】
比較例2のマンガン酸化物の製造条件、及び、マンガン酸化物の評価結果を表1に示す。
【0120】
なお、ICP発光分光分析により、得られたマンガン酸化物の組成を測定した。その結果、比較例2のマンガン酸化物の主な組成はMnが70.2重量%であり、Naが350重量ppm、Caが200重量ppmであった。
【0121】
【表1】
【0122】
これらの実施例からも明らかなように、本発明により、充填性が高いだけでなく、粒子径の相対標準偏差が40%以下であり、粒子径分布の狭い四三酸化マンガンを提供することができる。特に、本発明では、平均粒子径が3μm以上と粒子径が小さい四三酸化マンガンから、平均粒子径が15μm以上と粒子径が大きい四三酸化マンガンであっても、タップ密度が1.7g/cm
3以上であり、なおかつ、粒子径の相対標準偏差が35%以下である、高充填性かつ粒子径分布の狭い四三酸化マンガンを提供することができる。
【0123】
さらには、本発明では、分級や粉砕等の、四三酸化マンガン製造後の整粒工程を経ることなく、粒子径が均一な四三酸化マンガン、すなわち、粒子径分布の狭い四三酸化マンガンを提供することができる。
【0124】
[測定例]
(マンガン酸リチウムの合成、及びリチウム二次電池の作製)
実施例1、9、10及び11の四三酸化マンガンを使用してマンガン酸リチウムを製造した。
【0125】
四三酸化マンガンと炭酸マンガンとを乳鉢混合して、空気流通下850℃で12時間焼成した。これにより、構成元素としてLi及びMnを含有するリチウムマンガン系複合酸化物を得た。得られたリチウムマンガン系複合酸化物はスピネル構造の単相であり、組成はLi
1.1Mn
1.9O
4のマンガン酸リチウムであった。
【0126】
次に、得られたマンガン酸リチウムを正極活物質とするリチウム二次電池を作製した。
【0127】
このマンガン酸リチウム25mgを秤量し、これと、ポリテトラフルオロエチレンとアセチレンブラックとの混合物(商品名:TAB−2)とを、重量比でマンガン酸リチウム:TAB−2=2:1の割合で混合して混合粉末を得た。得られた混合粉末を、1ton/cm
2の圧力でペレット状に成型した。直径16mmのメッシュ(SUS316製)上にこれを圧着した後、150℃で減圧乾燥して電池用正極とした。
【0128】
正極に得られた電池用正極、負極に金属リチウム箔(厚さ0.2mm)、及び電解液にエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比1:2)に六フッ化リン酸リチウムを1mol/dm
3の濃度で溶解したものを用い、CR2032型コインセルを作製した。
【0129】
この電池を用いて、充放電密度0.4mA/cm
2(0.3時間放電率:0.3Cに相当)、充放電電圧4.3Vから3.0V、及び温度を60℃として定電流充放電による評価を行った。充放電回数を50回とし、1回目の放電容量(105mAh/g)に対する50回目の放電容量の割合を求め、これを放電容量維持率とした。評価結果を表2に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
表2から明らかなように、本発明の四三酸化マンガンを原料として得られたマンガン酸リチウムを正極活物質とした電池は、温度が60℃という高温環境下においても、放電容量維持率が95%以上、さらには96%以上と高く、サイクル特性に優れた電池となることが分かった。