(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機コア粒子上にポリマーをグラフトする工程において、無機コア粒子上に二重結合を有する官能基を導入し、前記二重結合を有する官能基を導入した無機コア粒子と、前記モノマー及び前記重合開始剤とを反応させることにより無機コア粒子上にポリマーをグラフトする、請求項1に記載のコアシェル型粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施形態のコアシェル型粒子は、無機コア粒子上に多孔質樹脂層(以下、「シェル」ということがある。)を形成することにより得られる。本実施形態のコアシェル型粒子は、分離、分取、分析、精製用途の充填剤として好適である。
無機コア粒子には金属粒子、無機酸化物粒子等が考えられるが、シリカ粒子が好ましい。この場合、実質的に無孔質のシリカ粒子がより好ましい。実質的に無孔質とは、窒素ガス吸着法にて測定したシリカ粒子の比表面積が50m
2/g以下であることを意味する。こうすることで、内部のシリカ粒子は分離特性に影響せず、コアシェル型粒子の補強材として機能する。シリカ粒子の球形度は0.8以上が好ましく、0.9以上が更に好ましく、0.95以上が特に好ましい。球形度は走査型電子顕微鏡(SEM)で1000個の粒子を撮影し、画像解析により求めた短径/長径の平均値である。
【0015】
また、使用される無機コア粒子の平均粒子径は、通常0.1μm以上であるが、1μm以上が好ましい。無機コア粒子としては、シリカ粒子が好ましいが、シリカ粒子の個数平均粒子径は0.1〜100μmが好ましく、0.3μm〜50μmが更に好ましく、1〜50μmが特に好ましく、1〜30μmが最も好ましい。
無機コア粒子の平均粒子径は、例えば、以下の方法によって算出することができる。まず、溶媒(エタノール)に、測定対象の粒子(無機コア粒子)を0.05〜20質量%、分散剤(ポリアクリル酸ナトリウム)を0.5〜10質量%添加し、振幅40μmで1〜10分間超音波処理し、分散する。なお、試料液はpH8〜14となるように調製する。次いで、約5mL程度をセルに注入して、25℃で、動的光散乱測定装置(大塚電子株式会社製、DLSZ−2Plus)にて、レーザ波長660nm、レーザ出力30mWとして粒度分布を測定する。散乱強度による粒径分布の平均値から平均粒子径を算出する。なお、シリカ粒子の個数平均粒子径も同様である。
【0016】
粒子径の変動係数(C.V.)は0.2以下が好ましく、0.15以下が更に好ましく、0.1以下が特に好ましく、0.05以下が最も好ましい。粒子径の変動係数とは、粒子径の標準偏差/平均粒子径である。
【0017】
シリカ粒子としては上記特性を有する点から金属ケイ素アルコキシドを原料とするゾルゲル反応により合成されたシリカ粒子が好ましく、stoberの方法(ゾルゲル法の1種)で合成したシリカ粒子が特に好ましい。例えば、シリカ粒子(二酸化ケイ素)をゾルゲル法で合成する場合は、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)等のアルコキシド(シリカ前駆体)を、酸性又は塩基性条件で、加水分解・重縮合反応させることによって、アルコールを脱離させて合成する。
【0018】
コアシェル型粒子は上記無機コア粒子上に多孔質樹脂層を形成したものであるが、直接ポリマーで被覆することは困難であるので、無機コア粒子上にポリマーをグラフトする工程と、ポリマーをグラフトした無機コア粒子を重合用溶媒に分散し、ポリマーに少なくとも架橋性モノマーを含む1種類又は2種類以上のモノマーと重合開始剤とを反応させる工程と、を備える製造方法によって、コアシェル型粒子を形成することが好ましい。
【0019】
無機コア粒子上にポリマーをグラフトする方法としては、無機コア粒子上にアゾ化合物、過酸化物等の重合開始剤を導入した後、溶媒中でモノマーの重合を行う方法と、無機コア粒子上にモノマーを導入し、溶媒中でモノマーと共に重合開始剤を導入し、重合を行う方法がある。
【0020】
前者は無機コア粒子とポリマーとの間で化学吸着分が多く、後者は物理吸着分が多くなる。簡便性の観点から、後者が望ましい。以後、ラジカル重合を行う場合の例を記載するが、縮合反応等でも同じ考え方が使える。
【0021】
具体的には、シリカ粒子にシランカップリング剤等で二重結合を有する官能基を導入する。シランカップリング剤は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。処理方法としてはメタノール等の溶媒中にシリカ粒子を分散し、最小被覆理論量の1〜100倍のシランカップリング剤と任意の触媒を加えて反応を行う。これにより、シリカ粒子の表面のほぼ全てが二重結合を有する官能基で覆われる。
【0022】
次に、水及び/又はアルコール溶媒中に表面に二重結合を有する官能基で覆われたシリカ粒子を分散し、重合開始剤とモノマーを加えてラジカル重合により表面にポリマーをグラフトする。モノマーは表面に二重結合を有する官能基で覆われたシリカ粒子の5〜100質量%投入する。モノマーには二重結合を有するものであれば、用いることができる。モノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン単量体、ジオレフィン等が挙げられる。
【0023】
モノマーとして、具体的には、スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン誘導体;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のエチレン不飽和モノオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、弗化ビニル等のハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチルクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸フェニル、α−クロロアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のα−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のアクリル酸又はメタクリル酸誘導体が挙げられ、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸等も使用できる。また、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物、ビニルナフタレン塩なども重合性単官能ビニルモノマーとして挙げられる。この中でも、重合のしやすさを考えると、スチレン、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0024】
重合開始剤としては、通常の乳化重合に使用されているものであればよく、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、ベンゾイルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類等が挙げられる。必要に応じて、還元剤と組合せて、レドックス系開始剤として使用することもできる。
【0025】
ポリマーは全体でシリカ粒子に対し3〜20質量%がよい。この内、トルエン中で超音波洗浄を行い、3回以上繰り返しても剥離しないものを化学吸着と定義し、剥離したものを物理吸着と定義することができる。全てが化学吸着であると後述するようにポリマーを膨潤できないおそれがある。
【0026】
全ポリマーの内、物理吸着分の割合が30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましい。
物理吸着の割合が30質量%未満であると、後述のシード重合ができないおそれがある。
【0027】
上記のように合成した粒子を水及び/又はアルコール溶媒で洗浄し、過剰なモノマーの除去を行う。洗浄強度を調整し、シリカ粒子に対し3〜20質量%のポリマーが残るようにすることが好ましい。
【0028】
ここで、物理吸着しているポリマーの分子量が大きすぎるとシード重合の際、ポリマーを膨潤させにくい。物理吸着しているポリマーの重量平均分子量は10万以下であることが好ましい。必要に応じて酸素を溶存させる方法や連鎖移動剤を添加する方法を用いることができる。連鎖移動剤として、モノスルフィド又はジスルフィド系連鎖移動剤が好ましい。
なお、ポリマーの重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算した。検量線は、標準ポリスチレンの5サンプルセット(PStQuick MP−H、PStQuick B[東ソー株式会社製、商品名])を用いて3次式で近似した。GPCの条件は、以下に示す。
装置:(ポンプ:L−2130型[株式会社日立ハイテクノロジーズ製])、
(検出器:L−2490型RI[株式会社日立ハイテクノロジーズ製])、
(カラムオーブン:L−2350[株式会社日立ハイテクノロジーズ製])
カラム:Gelpack GL−R440+Gelpack GL−R450+Gelpack GL−R400M(計3本)(日立化成株式会社製、商品名)
カラムサイズ:10.7mmI.D×300mm
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:10mg/2mL
注入量:200μL
流量:2.05mL/分
測定温度:25℃
【0029】
次にポリマーをグラフトしたシリカ粒子を重合用溶媒である水及び/又はアルコール溶媒に分散し、シード重合を行う。シード重合は、Colloid&Polymer Science,267巻,193−200項(1989)や、Colloid&Polymer Science, 274巻, 279−284項(1996)に示される方法が一般的である。
即ち、シード重合とは、非架橋性樹脂で合成した種粒子の存在下、重合性ビニル単量体は溶解するが、生成する重合体は溶解しない媒体中で該媒体可溶の重合開始剤を用いて重合を行う重合である。本実施形態はこのシード重合の改良版であり、種粒子の代わりにポリマーをグラフトしたシリカ粒子を用いる。以後、この重合を「シード重合」と称する。
【0030】
具体的にはポリマーをグラフトしたシリカ粒子の分散液を準備する。次に重合開始剤、重合性ビニル単量体と適宜界面活性剤、多孔質剤を加え、ホモジナイザー等での乳化した液を、前記分散液に添加し、数時間〜数十時間かけてポリマーをグラフトしたシリカ粒子を膨潤させる。膨潤速度はポリマーの分子量や架橋性モノマー(重合性ビニル単量体)の種類で異なる。
【0031】
架橋性モノマー(重合性ビニル単量体)は、ポリビニル単量体、ポリビニル単量体とモノビニル単量体の混合物等を用いることができる。ポリビニル単量体としては、芳香族ポリビニル単量体、脂肪族ポリビニル単量体が好ましい。芳香族ポリビニル単量体としては、ビスビニルフェニルメタン、ビスビニルフェニルエタン等のビスビニルフェニルアルカンが、脂肪族ポリビニル単量体としては、多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート又はアルキレンポリ(メタ)アクリルアミドが好ましい。多価アルコールのポリ(メタ)アクリレートとしては、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラヒドロキシブタンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
シード重合には、架橋性モノマー以外のモノマーを用いてもよい。ここで、架橋性以外のモノマーとしては、前記ラジカル重合に用いられるモノマーが挙げられる。
【0033】
ポリビニル単量体の割合は耐圧性の観点から、架橋性モノマーの全質量を基準として、1〜100質量%が好ましく、20〜100質量%が更に好ましい。この範囲外であるとポリマーが溶けやすい上、耐圧性がなく、壊れやすいなどのおそれがある。
【0034】
モノビニル単量体としては、前述のモノビニル芳香族単量体、アクリル系単量体、ビニルエステル系単量体、ビニルエーテル系単量体、モノオレフィン系単量体、ハロゲン化オレフィン単量体等を用いることができる。
【0035】
多孔質剤としては、シード重合時に相分離剤として作用し、粒子の多孔質化を促進する有機溶媒である脂肪族又は芳香族の炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類が挙げられ、重合用溶媒に不溶の溶媒であることが好ましい。具体的には、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール等が挙げられ、単独もしくは混合して用いることができる。
【0036】
多孔質剤は架橋性モノマー(重合性ビニル単量体)に対して0〜200質量%使用できる。多孔質剤の量で粒子の空孔率をコントロールできる。さらに多孔質剤の種類によって、孔の大きさや形状をコントロールすることができる。
【0037】
重合開始剤としては、通常の乳化重合に使用されているものであれば良く、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類、ベンゾイルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類などである。必要に応じて還元剤と組合せて、レドックス系開始剤として使用することもできる。
【0038】
膨潤後、重合開始剤の反応温度に適した温度で数時間〜数十時間反応を行う。反応前に窒素置換を行ってもよい。反応温度は通常は40〜90℃の範囲で行う。反応前にポリビニルアルコール等で粒子の分散性をコントロールして粒子の凝集を緩和してもよい。
【0039】
重合開始剤、架橋性モノマー(重合性ビニル単量体)、多孔質剤の総量によってシリカ粒子上に存在する多孔質樹脂層の厚みが決定される。本発明では、シリカ粒子の半径が数μmのオーダーであったとしても、シリカ粒子半径に等しい厚みの多孔質樹脂層を形成することができる。多孔質樹脂層の厚みは、0.1μm以上が望ましい。それより薄い場合、耐アルカリ性や耐酸性に劣るおそれがある。
通常のグラフト重合では0.5〜2.0μmの厚みのシェルを形成するのは困難であるが、本実施形態によればシェルの厚みを大きくして樹脂粒子相当の吸着特性を得ることが可能である。しかも、通常のグラフト重合では樹脂の選択や多孔質化が困難であるが、本実施形態ではポリマーを膨潤させた後に架橋性モノマーと重合開始剤とを反応させるので、樹脂の選択や多孔質化が容易であり、基本的に樹脂粒子を構成する組成はシェル形成に応用できる。
【0040】
シェルを薄くすると多孔質シリカの特性に近づき、耐圧性が高くなり、分離効率が高くなる場合もある。分析用では有望である。シェルを厚くすると、表面積が大きくなり、分取効率が高くなる。アフィニティー精製等の分取用には有望な場合がある。本発明の特徴は、用途によってシェル層の厚みを自在に調整できる点である。
【0041】
多孔質樹脂層とは、一般的に、表面積が50m
2/g以上の粒子を指す。実用性を鑑みると、80m
2/g以上であることが望ましく、300m
2/g以上であることが更に望ましい。表面積が小さいと、分析や分離に悪影響を及ぼす為、好ましくない。表面積は、例えば、窒素ガス吸着法にて測定される。
【0042】
平均細孔直径に関しては、3〜100nmの平均細孔直径を有することが好ましい。これより小さい場合、細孔に入れない物質が増えてくる為好ましくなく、これより大きい場合、表面積が小さくなる。これらは前記の多孔質剤により調整可能である。
【0043】
以上のようにして製造されたコアシェル型粒子は、適宜官能基を付与した後、分離、分取、分析、精製用充填剤として使用することができる。特に液体クロマトグラフィー用充填剤に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
(コアシェル型粒子1の合成)
無機コア粒子として平均粒子径3.0μm、変動係数C.V.=0.027のほぼ単分散であるシリカ粒子20gを準備し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液100gで洗浄した。
【0046】
次に、30質量%水酸化アンモニウム14g、メタノール70gの溶液に洗浄したシリカ粒子を分散させ40℃で2時間反応させた。次に3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン0.573g、メタノール10gを滴下し、40℃6時間反応させ、未反応のシランカップリング剤をメタノールで洗浄して表面に二重結合を有する官能基が導入されたシリカ粒子を得た。
【0047】
二重結合を有する官能基が導入されたシリカ粒子10gに対し、エタノール196g、水37.0g、6質量%PVA(ポリビニルアルコール)46.7g、スチレン9.5g、スチレンスルホン酸ナトリウム0.047g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.1497gを加え、窒素雰囲気下で1時間攪拌し、溶存酸素の除去を行った後、1時間かけて70℃に昇温し、70℃8時間の条件でラジカル重合を行い、粒子表面にスチレンを重合した。
【0048】
シリカ粒子上のスチレンポリマーの物理吸着の割合と化学吸着の割合を以下の方法で測定した。即ち、スチレンポリマーをグラフトしたシリカ粒子をトルエン中で3回洗浄を行い、洗浄前後の粒子を示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)で測定し、洗浄前のスチレンポリマー燃焼量(900℃)を全吸着ポリマー分と、洗浄後のスチレンポリマー燃焼量を化学吸着分と、全吸着ポリマー分と化学吸着分との差を物理吸着分と判断した。
【0049】
TG−DTA測定結果によると、スチレンポリマーをグラフトしたシリカ粒子の質量を基準として、化学吸着ポリマーは1.5質量%で、全吸着ポリマーは8.8質量%であった。即ち、物理吸着分は7.3質量%であった。全スチレンポリマーの質量を基準として、物理吸着分は約83.0質量%であり、化学吸着分は17.0質量%であった。
【0050】
次にイオン交換水92.2質量%、エタノール7.5質量%に界面活性剤としてエマールTD(花王株式会社製、商品名、「エマール」は登録商標)0.3質量%を加えた混合溶液にシード重合の膨潤助剤としてフタル酸ジブチル2.19gを加え、ホモジナイザーで10分間超音波照射し、乳化液を得た。この乳化液に、スチレンポリマーをグラフトしたシリカ粒子10gをエタノール15gに分散したスラリーを滴下し、一次膨潤を行った。
【0051】
次に重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.67g、モノマーとしてスチレン5.0g、ジビニルベンゼン1.25g、多孔質剤としてのトルエン1.88g、ジエチルベンゼン1.88gを溶媒である純水90gに分散し、ホモジナイザーで10分間超音波照射し、乳化を行った。
【0052】
次に前述の一次膨潤を行ったスチレンポリマーをグラフトしたシリカ粒子を新たに用意した乳化液に加え、30℃20時間の条件で二次膨潤を行った。
【0053】
膨潤後、窒素パージを行い、50℃/hの昇温速度で80℃まで昇温し、80℃8時間反応することでシリカ粒子上に多孔質樹脂層を形成した。
【0054】
最後に濃硫酸にて多孔質樹脂層にスルホン酸基を付与した。具体的には、シリカ粒子上に多孔質樹脂層を形成したゲル10gに対し、ジクロロエタン57g、97質量%硫酸92gを加え、110℃で4時間反応を行い、多孔質樹脂層にスルホン酸基を導入することで、シリカ粒子上に多孔質樹脂層が被覆されたコアシェル型粒子1を合成した。
【0055】
TG−DTA(示差熱・熱質量同時測定)を用いて、20〜1000℃までの質量変化を測定したところ、シリカ/樹脂の質量割合は、ほぼ100:71の割合であった。この結果からほぼ全てのモノマーが反応していることが分かる。更に、FPIA3000(シスメックス株式会社製:商品名)により、フロー式画像解析で全粒子径(コア径とシェル層厚を含めた粒子径)を求めたところ、約4.4μmであった。約0.7μmの樹脂シェル層(多孔質樹脂層)が被覆されたことになる。以下に、フロー式画像解析の測定原理及び測定方法を示す。
フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(シスメック株式会社社製)の測定原理は、流れている粒子を静止画像として撮像し、画像解析を行うというものである。試料チャンバーへ加えられた試料は、試料吸引シリンジによって、フラットシースフローセルに送り込まれる。フラットシースフローに送り込まれた試料は、シース液に挟まれて扁平な流れを形成する。フラットシースフローセル内を通過する試料に対しては、1/60秒間隔でストロボ光が照射されており、流れている粒子を静止画像として撮影することが可能である。また、扁平な流れであるため、焦点の合った状態で撮像される。粒子像はCCDカメラで撮像され、撮像された画像は512×512画素の画像処理解像度(一画素あたり0.37×0.37μm)で画像処理され、各粒子像の輪郭抽出を行い、粒子像の投影面積Sや周囲長L等が計測される。
次に、上記面積Sと周囲長Lを用いて円相当径と円形度を求める。円相当径とは、粒子像の投影面積と同じ面積を持つ円の直径のことであり、円形度Cは、円相当径から求めた円の周囲長を粒子投影像の周囲長で割った値として定義され、次式で算出される。
円形度C=2×(π×S)1/2/L
粒子像が円形の時に円形度は1.000になり、粒子像外周の凹凸の程度が大きくなればなるほど円形度は小さい値になる。各粒子の円形度を算出後、円形度0.200乃至1.000の範囲を800分割し、得られた円形度の相加平均値を算出し、その値を平均円形度とする。
具体的な測定方法は、以下の通りである。まず、ガラス製の容器中に予め不純固形物などを除去したイオン交換水約20mlを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.2ml加える。更に測定試料を約0.02g加え、超音波分散器を用いて2分間分散処理を行い、測定用の分散液とする。その際、分散液の温度が10℃以上40℃以下となる様に適宜冷却する。超音波分散器としては、発振周波数50kHz、電気的出力150Wの卓上型の超音波洗浄器分散器(例えば「VS−150」(ヴェルヴォクリーア社製))を用い、水槽内には所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
測定には、標準対物レンズ(10倍)を搭載した前記フロー式粒子像分析装置を用い、シース液にはパーティクルシース「PSE−900A」(シスメックス株式会社製)を使用する。前記手順に従い調製した分散液を前記フロー式粒子像分析装置に導入し、HPF測定モードで、トータルカウントモードにて3000個のトナー粒子を計測する。そして、粒子解析時の2値化閾値を85%とし、解析粒子径を指定することにより、その範囲の粒子の個数割合(%)、平均円形度を算出することができる。円相当径0.50μm以上、1.98μm未満である粒子(小粒子)の割合は、円相当径の解析粒子径範囲を、0.50μm以上、1.98μm未満とし、円相当径0.50μm以上、39.69μm未満の範囲に含まれる粒子に対する、0.50μm以上、1.98μm未満の粒子の個数割合(%)を算出する。トナーの平均円形度は、円相当径の解析粒子径範囲を1.98μm以上、39.69μm未満とし、その範囲内のトナーの平均円形度を求める。
測定にあたっては、測定開始前に標準ラテックス粒子(例えば、Duke Scientific社製の「RESEARCH AND TEST PARTICLES Latex Microsphere Suspensions 5200A」をイオン交換水で希釈)を用いて自動焦点調整を行う。その後、測定開始から2時間毎に焦点調整を実施する。
【0056】
(コアシェル型粒子2の合成)
二次膨潤の際の乳化液として、過酸化ベンゾイル0.22g、モノマーとしてスチレン1.7g、ジビニルベンゼン0.41g、多孔質剤としてのトルエン0.63g、ジエチルベンゼン0.63gを溶媒である純水90gに分散し、ホモジナイザーで10分間超音波照射し、乳化を行ったものを用いた他はコアシェル型粒子1と同様に粒子を合成した。
【0057】
TG−DTA(示差熱・熱質量同時測定)を用いて、20〜1000℃までの質量変化を測定したところ、シリカ粒子/多孔質樹脂層の質量割合は、ほぼ100:23割合であった。この結果からほぼ全てのモノマーが反応していることが分かる。更に、FPIA3000(シスメックス株式会社製:商品名)により、フロー式画像解析で全粒子径を求めたところ、約3.6μmであった。約0.3μmの多孔質樹脂層が被覆されたことになる。
【0058】
(コアシェル型粒子3の合成)
二次膨潤の際の乳化液として、過酸化ベンゾイル1.34g、モノマーとしてスチレン10.0g、ジビニルベンゼン2.50g、多孔質剤としてのトルエン3.76g、ジエチルベンゼン3.76gを溶媒である純水90gに分散し、ホモジナイザーで10分間超音波照射し、乳化を行ったものを用いた他はコアシェル型粒子1と同様に粒子を合成した。
【0059】
TG−DTA(示差熱・熱質量同時測定)を用いて、20〜1000℃までの質量変化を測定したところ、シリカ粒子/多孔質樹脂層の質量割合は、ほぼ100:138の割合であった。この結果からほぼ全てのモノマーが反応していることが分かる。更に、FPIA3000(シスメックス株式会社製:商品名)により、フロー式画像解析で全粒子径を求めたところ、約4.9μmであった。約0.95μmの多孔質樹脂層が被覆されたことになる。
【0060】
(コアシェル型粒子4の合成)
二次膨潤の際の乳化液として、過酸化ベンゾイル0.11g、モノマーとしてスチレン0.85g、ジビニルベンゼン0.21g、多孔質剤としてのトルエン0.32g、ジエチルベンゼン0.32gを溶媒である純水90gに分散し、ホモジナイザーで10分間超音波照射し、乳化を行ったものを用いた他はコアシェル型粒子1と同様に粒子を合成した。
【0061】
TG−DTA(示差熱・熱質量同時測定)を用いて、20〜1000℃までの質量変化を測定したところ、シリカ粒子/多孔質樹脂層の質量割合は、ほぼ100:11割合であった。この結果からほぼ全てのモノマーが反応していることが分かる。更に、FPIA3000(シスメックス株式会社製:商品名)により、フロー式画像解析で全粒子径を求めたところ、約3.3μmであった。約0.15μmの多孔質樹脂層が被覆されたことになる。
【0062】
(樹脂粒子1の合成)
ソープフリー乳化重合により平均分子量10000、平均粒子径750nmのポリスチレン粒子を合成した。
【0063】
次にイオン交換水92.2質量%、エタノール7.5質量%に界面活性剤としてエマールTD(花王株式会社製、商品名)0.3質量%を加えた混合溶液にシード重合の膨潤助剤としてフタル酸ジブチル2.19gを加え、ホモジナイザーで10分間超音波照射し、乳化した。次に平均粒子径750nmのポリスチレン粒子を0.05g(固形分)投入し、一次膨潤を行った。
【0064】
次に重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.67g、モノマーとしてスチレン5.0g、ジビニルベンゼン1.25g、多孔質剤としてのトルエン1.88g、ジエチルベンゼン1.88gを溶媒である純水90gに分散し、ホモジナイザーで10分間超音波照射し、乳化を行った。
【0065】
次に前述の一次膨潤を行ったポリスチレン粒子を新たに用意した乳化液に加え、30℃20時間の条件で二次膨潤を行った。
【0066】
膨潤後、窒素パージを行い、50℃/hの昇温速度で80℃まで昇温し、80℃8時間反応することで樹脂粒子を合成した。
【0067】
最後に濃硫酸にて樹脂粒子にスルホン酸基を付与した。具体的には、ポリスチレン粒子上に多孔質樹脂層を形成したゲル10gに対し、ジクロロエタン57g、97質量%硫酸92gを加え、110℃で4時間反応を行い、多孔質架橋粒子上にスルホン酸基を導入することで、ポリスチレン粒子上に多孔質樹脂層が被覆された樹脂粒子1を合成した。
【0068】
FPIA3000(シスメックス株式会社製:商品名)により、フロー式画像解析で粒子径を求めたところ、約4.4μmであった。
【0069】
(実験方法)
コアシェル型粒子1〜5と樹脂粒子1を直径7.8mm、長さ150mmのステンレスカラムに、充填溶媒0.1質量%りん酸水溶液、スラリー濃度50質量%、充填圧15MPa、充填時間30minの条件で充填した。充填したカラムを用い、溶離液0.1質量%りん酸水溶液、カラム温度25℃、流速0.5ml/min、サンプル3.5質量%ギ酸、サンプル量2μL、検出器UV210nmの測定条件でクロマト特性を測定した。クロマト特性の測定により、理論段数、カラム圧、耐アルカリ性(理論段数変化率)を求め、粒子特性を評価した。
【0070】
(実験結果)
実験結果を表1に示す。以下に実験条件を纏めて示す。
(1)カラム評価条件
溶離液:0.1質量%りん酸水溶液
カラム温度:25℃
流速:0.5ml/min
サンプル:3.5質量%ギ酸
サンプル量:2μL
検出器:UV210nm
(2)カラム充填条件
充填溶媒:0.1質量%りん酸水溶液
スラリー濃度:50質量%
充填圧:15MPa
充填時間:30min
(3)交換容量測定法
0.03mol/LのNaOH水溶液100mlに粒子1gをいれ、10分間攪拌し、粒子をろ過した。ろ過後の溶液を0.01mol/LのHClで滴定(Vml)し、吸着した。滴定したHCl量から交換容量を求めた。
交換容量=(0.03×100−V×0.01)
(4)耐アルカリ性
カラムにpH10のトリエチルアミン水溶液/メタノール=1/1溶液を200時間通液後、理論段数を測定し、理論段数の変化率を確認した。
【0071】
【表1】
・表1中の「全粒子径」は、コア径とシェル厚を含めた粒子径である。
・表1中の「コア径」は、無機コア粒子の平均粒子径である。
・表1中の「シェル厚」は、多孔質樹脂層の厚みである。
【0072】
樹脂粒子1を使用した場合に比べて、シリカ粒子をコアにすることでカラム圧力を低減できることがわかる。カラム圧力はシリカ粒子/多孔質樹脂層のシリカ比率が大きいほど低くなる傾向がある。シェル厚が0.15μm以上あれば実用に耐えられる(コアシェル型粒子4)。さらに、シェル厚が十分である場合(コアシェル型粒子1〜3)は、むしろ樹脂単独よりも理論段数の値が向上する。このことから、シェル部分のみでは分離特性の向上に関して寄与は小さいと考えられる。
【0073】
以上のように本発明によれば、圧力上昇を低減させ、理論段数を向上させ、さらには耐酸アルカリ性に優れるコアシェル型粒子を提供することができる。