特許第6123952号(P6123952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6123952
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20170424BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20170424BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   H01L21/68 R
   H02N13/00 D
   H01L21/302 101G
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-556915(P2016-556915)
(86)(22)【出願日】2016年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2016073428
【審査請求日】2017年1月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-168230(P2015-168230)
(32)【優先日】2015年8月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】小坂井 守
(72)【発明者】
【氏名】前田 進一
(72)【発明者】
【氏名】前田 佳祐
【審査官】 儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−515760(JP,A)
【文献】 特表2009−503816(JP,A)
【文献】 特開平08−316299(JP,A)
【文献】 特開2002−064134(JP,A)
【文献】 特開2004−079588(JP,A)
【文献】 特開2001−308165(JP,A)
【文献】 特開2005−347559(JP,A)
【文献】 特表2015−517224(JP,A)
【文献】 特開2004−071791(JP,A)
【文献】 特開平09−213773(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/145070(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/3065
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電チャック部と、温度調節用ベース部とを備え、
前記静電チャック部は、一方の面が板状試料を載置する載置面であるセラミックプレートと、前記セラミックプレートの前記載置面とは他方の面側に設けられた静電吸着用電極とを有し、
前記温度調節用ベース部は、前記静電吸着用電極の前記セラミックプレート側とは他方の面側に配置され、前記静電チャック部を冷却するベース部であり、
前記セラミックプレートは、前記温度調節用ベース部側に延び、かつ前記静電吸着用電極の周縁を囲む、堤部を有し、
前記温度調節用ベース部は、前記堤部の先端部を収容する溝部を有し、
前記溝部と前記堤部との間には、樹脂材料からなる充填部が充填された、
静電チャック装置。
【請求項2】
前記堤部が閉環形状を有し、前記溝部が前記堤部と対応する閉環形状の溝である、請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記堤部には、前記温度調節用ベース部側の先端部に向うにつれ堤部の幅が段階的に薄くなる、堤部側段差が設けられ、
前記溝部には、前記堤部側段差に対応して底側に向かって幅が狭くなる溝部側段差が設けられている、請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記堤部の前記温度調節用ベース部側の先端部に面取りが施された、請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項5】
前記充填部の外部に露出する部分が、オーリングで覆われている、請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項6】
前記静電チャック部と前記温度調節用ベース部とを接着する接着層を備え、
前記接着層は、
前記充填部と、
前記静電吸着用電極と前記温度調節用ベース部との間に位置する介在部と、
を有する、請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項7】
前記接着層が、
第1の樹脂材料からなる部位と、
前記第1の樹脂材料より耐プラズマ性に優れた第2の樹脂材料とからなる部位と、に区分され、
前記接着層の外部に露出する部分が前記第2の樹脂材料からなる、
請求項6に記載の静電チャック装置。
【請求項8】
前記セラミックプレートと前記静電吸着用電極との間に設けられた、第1有機絶縁層を有する、請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項9】
前記温度調節用ベース部と前記静電吸着用電極との間に設けられた、第2有機絶縁層を有する、請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項10】
セラミックプレートと、温度調節用ベース部と、を備え、
前記セラミックプレートは、一方の面を、板状試料を載置する載置面を有し、
前記セラミックプレートには、静電吸着用電極が設置されており、
前記温度調節用ベース部は、前記セラミックプレートの前記載置面とは反対側から前記セラミックプレートを冷却する、ベース部であり、
前記セラミックプレートは、前記温度調節用ベース部側に延び、かつ前記静電吸着用電極の周縁を囲む、堤部を有し、
前記温度調節用ベース部は、前記堤部の先端部を収容する溝部を有し、
前記溝部と前記堤部との間には、樹脂材料からなる充填部が充填された、
静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関する。
本願は、2015年8月27日に、日本に出願された特願2015−168230号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置においては、ウエハやガラス基板などの板状試料を、試料台に簡単に取り付けて固定する装置として、静電吸着機構を用いた静電チャック装置が使用されている。静電チャック装置の構成としては、電極が誘電体に埋設された構造を有する吸着板と、接着剤を介して吸着板を支持する支持体とを有する構成が知られている。このような静電チャック装置では、半導体製造の工程に用いられるプラズマなどにより、前記接着剤がエッチングされてしまい、静電チャック装置の性能に影響を及ぼす場合があった。このため、特許文献1に記載の静電チャック装置では、吸着板に段差形状を設けて、接着剤の経路を長くすることで、吸着層の消失までの時間を遅延させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−110023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されるような、吸着板に段差形状を形成する場合では、接着剤の経路を長くする効果が不十分であり、静電チャック装置の寿命を十分に長くすることができなかった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、長寿命化が可能な静電チャック装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の装置を提供する。
すなわち、本発明の第一の態様の静電チャック装置は、以下の装置である。
静電チャック部と、温度調節用ベース部とを備え、
前記静電チャック部は、一方の面が板状試料を載置する載置面であるセラミックプレートと、前記セラミックプレートの前記載置面とは他方の面側に設けられた静電吸着用電極とを有し、
前記温度調節用ベース部は、前記静電吸着用電極の前記セラミックプレート側とは他方の面側に配置され、前記静電チャック部を冷却するベース部であり、
前記セラミックプレートは、前記温度調節用ベース部側に延び、かつ前記静電吸着用電極の周縁を囲む、堤部を有し、
前記温度調節用ベース部は、前記堤部の先端部を収容する溝部を有し、
前記溝部と前記堤部との間には、樹脂材料からなる充填部が充填されている、静電チャック装置。
【0007】
上記第一の態様の静電チェック装置は、以下の特徴を好ましく含む。これら特徴は互いに組み合わせても良い。
前記堤部が閉環形状を有し、前記溝部が前記堤部と対応する閉環形状の溝である。
【0008】
前記堤部には、前記温度調節用ベース部側の先端部に向うにつれ堤部の幅が段階的に薄くなる堤部側段差が設けられ、前記溝部には、前記堤部側段差に対応して底側に向かって幅が狭くなる溝部側段差が設けられている。
【0009】
前記堤部の前記温度調節用ベース部側の先端部に面取りが施されている。
前記充填部の外部に露出する部分が、オーリングで覆われている。
【0010】
前記静電チャック部と前記温度調節用ベース部とを接着する接着層を更に備え、前記接着層は、前記充填部と、前記静電吸着用電極と前記温度調節用ベース部との間に位置する介在部と、を有する。
【0011】
前記接着層が、第1の樹脂材料からなる部位と、前記第1の樹脂材料より耐プラズマ性に優れた第2の樹脂材料とからなる部位とに区分され、前記接着層の外部に露出する部分が前記第2の樹脂材料からなる。
【0012】
前記セラミックプレートと前記静電吸着用電極との間に、第1有機絶縁層が設けられている。
【0013】
前記温度調節用ベース部と前記静電吸着用電極との間に、第2有機絶縁層が設けられている。
【0014】
本発明の第二の態様の静電チャック装置は、以下の装置である。第二の態様の静電チャック装置は、第一の態様の装置の好ましい特徴を、同様に好ましく含むことができる。
セラミックプレートと、温度調節用ベース部と、を備え、
前記セラミックプレートは、一方の面を、板状試料を載置する載置面を有し、
前記セラミックプレートには、静電吸着用電極が設置されており、
前記温度調節用ベース部には、前記セラミックプレートの前記載置面とは反対側から前記セラミックプレートを冷却するベース部であり、
前記セラミックプレートは、前記温度調節用ベース部側に延び、かつ前記静電吸着用電極の周縁を囲む、堤部を有し、
前記温度調節用ベース部には、前記堤部の先端部を収容する溝部を有し、
前記溝部と前記堤部との間には、樹脂材料からなる充填部が充填された、静電チャック装置。
第二の態様の装置は、第一の態様の装置の好ましい例や好ましい条件を、同様に好ましく含むことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長寿命化が可能な静電チャック装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る静電チャック装置の好ましい例を示す断面図である。
図2】変形例1の静電チャック装置の好ましい例を示す部分断面図である。
図3】変形例2の静電チャック装置の好ましい例を示す部分断面図である。
図4】変形例3の静電チャック装置の好ましい例を示す部分断面図である。
図5】第1実施形態に係る静電チャック装置の好ましい別の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に説明する例は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数や位置やサイズや部材等などについて、省略、追加、変更、置換、交換、その他の変更が可能である。
(第1実施形態)
以下、図1を参照しながら、本発明の好ましい例である第1実施形態の静電チャック装置1について説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。従って、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0018】
図1は、静電チャック装置1の断面図である。本実施形態の静電チャック装置1は、平面視円形状を有している。静電チャック装置1は、上面が半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面19とされた静電チャック部2と、静電チャック部2を所望の温度に調整する温度調節用ベース部3と、静電チャック部2と温度調節用ベース部3とを接着一体化する接着層8と、給電用端子15と、有機絶縁層(第2有機絶縁層)7と、を備えている。
以下の説明においては、載置面19側を「上」、温度調節用ベース部3側を「下」として示し、各構成の相対位置を表すことがある。また、静電チャック装置1の上下方向に延びる中心軸に対し径方向を基準として「外側(又は径方向外側)」および「内側(又は径方向内側)」として、各部の位置を説明する。
【0019】
静電チャック部2は、一方の面(上面)を半導体ウエハ等の板状試料Wを載置する載置面19とする載置板(セラミックプレート)11と、載置板11の載置面19とは反対側の面(他方の面)に設けられた静電吸着用電極13と、載置板11と静電吸着用電極13との間に設けられた第1有機絶縁層14と、を有している。
【0020】
静電チャック部2の載置面19には、直径が板状試料Wの厚さより小さい突起部30が複数個形成されている。静電チャック装置1は、複数の突起部30が板状試料Wを支える構成になっている。載置面19の周縁には、周縁壁17が形成されている。周縁壁17は、突起部30と同じ高さに形成されており、突起部30とともに板状試料Wを支持する。
【0021】
載置板11は、載置面19の反対側の下面11aの周縁から温度調節用ベース部3側(すなわち下側)に延びる堤部5を有する。堤部5は、載置板11の下面11a側に位置する第1有機絶縁層14および静電吸着用電極13を径方向外側から囲む。本実施形態において、堤部5の平面視形状は、円環形状である。堤部5を有する載置板11は、例えば、セラミックプレートを座繰り加工して、凹部11cを形成することで成形可能である。堤部5の厚さ(すなわち、静電チャック装置1の径方向の幅寸法)は、0.3mm以上1.0mm以下とすることが好ましい。このような厚さとすることで、十分な機械的強度を確保しつつ、載置板11の熱容量を抑えて載置板11の温度応答性を高めることができる。
【0022】
堤部5が設けられていることにより、第1有機絶縁層14および静電吸着用電極13の側面側は、電極を包囲する接着層8を介して、プラズマに対する耐久性が接着層8よりも高いセラミックスで覆われることになる。そのため、堤部5がない場合と比較して、第1有機絶縁層14および静電吸着用電極13がプラズマから確実に保護される。この構造により、静電吸着用電極13に高電圧を印加した場合に、第1有機絶縁層14および静電吸着用電極13の側面から放電しにくく、装置全体の耐電圧を向上できる。
【0023】
堤部5の下側の先端部5aは、温度調節用ベース部3の上面3aに設けられた溝部6に収容される。すなわち、堤部5の先端部5aは、温度調節用ベース部3の上面3aより下側まで達している。堤部5の下側の先端部5aには、面取り5bが施されている。セラミックからなる載置板11は、角部が亀裂の起点となりやすい。堤部の先端部5aに面取りを施すことで、鋭利な角部を除去して、載置板11に亀裂が生じることを抑制できる。堤部5の先端部5aの面取り寸法は、一例として、0.05mm以上0.1mm以下とすることが好ましい。なお、図示例の面取り5bは、直線的な面取り加工が例示されているが、丸みを帯びた面取りを施してもよい。
【0024】
載置板11は任意に選択される材料で形成することができるが、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al−SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y)焼結体等の、機械的な強度を有し、かつ腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有する絶縁性のセラミックス焼結体からなることが好ましい。
【0025】
セラミックス焼結体中のセラミックス粒子の平均粒径は任意に選択できるが、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましい。静電チャック部2の載置面19に設けられる突起部30の形成過程では、サンドブラスト加工を行う。サンドブラスト工程は、載置面19の表面に研磨剤等を吹き付けて、掘削する工程である。このため、突起部30の内部にクラックが残留することがある。クラックは、サンドブラスト工程の後に行われるバフ研磨によって、強制的に進行され、事前に除去される。
【0026】
クラックは、セラミック焼結体中のセラミック粒子の粒界に形成されやすい。したがって、セラミック粒子の粒径が大きい場合には、バフ研磨を経ることで、粒界に沿って大きく角部が除去される。セラミック粒子の粒径が大きくなるほど、突起部30はより丸みを帯びた形状となる。後段において説明するように、本実施形態の突起部30は、高さ方向に断面積の変化がないことが好ましい。このため、突起部30は丸みを帯びていないことが好ましい。セラミックス粒子の平均粒径は10μm以下(より好ましくは2μm以下)とすることで、高さ方向に沿った断面積の変化を抑制した突起部30を載置面19に形成することができる。
【0027】
載置板11の上面から静電吸着用電極13の下面までの厚さ、即ち、静電チャック部2の厚さは任意に選択できるが、0.3mm以上かつ5.0mm以下が好ましい。静電チャック部2の厚さが0.3mm以上であると、静電チャック部2の機械的強度を十分確保することができる。一方、静電チャック部2の厚さが5.0mm以下であると、静電チャック部2の熱容量が大きくなり過ぎることがなく、載置される板状試料Wの熱応答性が劣化しない。
また、静電チャック装置によっては、静電吸着用電極13と温度調節用ベース部3の間に、複数のゾーンに分割されたヒータを設けて、板状試料Wの面内の温度分布を制御する構成を採用することがある。このような静電チャック装置においては、静電チャック部2の厚さが5.0mmを上回ると、静電チャック部2の横方向の熱伝導の増加により、板状試料Wの面内温度を所望の温度パターンに維持することが困難になる場合がある。
【0028】
載置板11の厚さは任意に選択できるが、0.3mm以上かつ1.0mm以下が好ましい。載置板11の厚さが0.3mm以上であると、静電吸着用電極13に印加された電圧により載置板11の絶縁が破られて放電することがない。また、載置板11の厚さが0.3mm以上であると、加工時に破損し亀裂が発生しない。一方、1.0mm以下であると、板状試料Wを所望の強さで十分に吸着固定することができる。
【0029】
第1有機絶縁層14は、絶縁性および耐電圧性を有する樹脂層である。第1有機絶縁層14は、フィルム状またはシート状の形成材料を接着して形成することが好ましい。第1有機絶縁層14は、不図示の接着層を介して載置板11の下面に接着されている。なお、第1有機絶縁層14と載置板11の間の黒線を接着層として見ることもできる。静電吸着用電極13に印加される高電圧に対して、載置板11と第1有機絶縁層14とが協働して、絶縁破壊されないような耐電圧(絶縁破壊電圧、(単位:kV))を示す。
【0030】
第1有機絶縁層14の厚さは任意に選択できるが、0.05mm以上かつ0.2mm以下が好ましい。この第1有機絶縁層14の厚さは、第1有機絶縁層14と載置板11とを接着する接着層、および第1有機絶縁層14と静電吸着用電極13とを接着する接着層を含む厚さである。第1有機絶縁層14の厚さが0.05mm以上であると、静電吸着用電極13に印加された電圧により静電吸着用電極13と載置板11との絶縁が破られ、放電することがない。一方、0.2mm以下であると、静電吸着用電極13と板状試料Wとの距離が離れすぎず、板状試料Wを所望の強さで十分に吸着固定することができる。
【0031】
第1有機絶縁層14の絶縁破壊電圧は、5kV以上であることが好ましい。第1有機絶縁層14の形成材料としては、例えば、上述した第1有機絶縁層14の厚さにおいて、所望の絶縁破壊電圧を実現できる絶縁破壊の強さ(単位:kV/mm)を示す材料を用いることが好ましい。また、静電チャック装置1の使用環境における温度で、劣化や変形を生じないだけの耐熱性を有するものであればよい。第1有機絶縁層14の形成材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0032】
一般に、第1有機絶縁層14のこれらの形成材料は、載置板11の形成材料であるセラミックスよりも絶縁破壊の強さが大きい。例えば、ポリイミド樹脂の絶縁破壊の強さは、300kV/mmであり、載置板11の形成材料であるAl−SiCの絶縁破壊の強さ(10kV/mm)と比べると非常に強い。そのため、載置板11と第1有機絶縁層14との積層体を用いた場合、載置板11のみを用いた場合と比べ、これらが同じ厚さであっても、より大きい絶縁破壊電圧とすることができる。
【0033】
さらに、載置板11において、仮にピンホール欠陥を生じやすい脆弱箇所が存在していた場合、載置板11のみを用いた構成では、静電吸着用電極13に高電圧を印加すると、前記脆弱箇所にピンホールが生じやすく、その結果、絶縁破壊しやすい。
【0034】
一方、載置板11と第1有機絶縁層14との積層体を用いた場合には、絶縁破壊しにくい。すなわち、載置板11の脆弱箇所と、第1有機絶縁層14の脆弱箇所とが、偶発的に平面的に重なって、脆弱箇所の重なりが生じた場合にはじめて、積層体全体として、ピンホール欠陥が生じやすい箇所が形成される。そのため、載置板11や第1有機絶縁層14に脆弱箇所があったとしても、問題が生じにくい。
【0035】
第1有機絶縁層14の面内の厚さのバラツキは50μm以内が好ましく、10μm以内がより好ましい。第1有機絶縁層14の面内の厚さのバラツキが50μm以下であると、厚さの大小により温度分布に高低の差が生じにくい。その結果、第1有機絶縁層14の厚さ調整による温度制御に悪影響を与えにくく、好ましい。また、吸着力が載置面19の面内で不均一となりにくく好ましい。
【0036】
第1有機絶縁層14の熱伝導率は、0.05W/mk以上が好ましく、0.1W/mk以上がより好ましい。熱伝導率が0.05W/mk以上であると、静電チャック部2から温度調節用ベース部3への第2有機絶縁層7を介しての熱伝導が容易であり、冷却速度が低下せず好ましい。また、第1有機絶縁層14の熱伝導率は、載置板11と静電吸着用電極13との熱伝達率が>750W/mK、より好ましくは>4000W/mKとなるように制御されているとよい。
【0037】
静電吸着用電極13は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料Wを固定するための静電チャック用電極として用いられる。用途によって、電極の形状や、大きさが、適宜調整される。例えば、静電吸着用電極13は、静電吸着用電極13が形成される階層部分に、所定のパターンを有する電極として設けられる。なお、静電吸着用電極13は、パターンを有しない、いわゆるベタ電極として設けられていても、機能する。
【0038】
静電吸着用電極13は、任意の方法で形成してよい。例えば、静電吸着用電極13は、第1有機絶縁層14に、静電吸着用電極13の形成材料である非磁性の金属箔を接着すること、またはスパッタや蒸着により成膜することでも形成することができる。他にも、静電吸着用電極13の形成材料である導電性材料と、有機物との複合材料を、スクリーン印刷等の塗工法を用いて塗布することにより、形成することができる。また、静電吸着用電極13は、載置板11の内部に設置されていてもよい。
【0039】
静電吸着用電極13は、任意に選択される材料で形成されて良い。例えば、この電極は、酸化アルミニウム−炭化タンタル(Al−Ta)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−タングステン(Al−W)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al−SiC)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タングステン(AlN−W)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タンタル(AlN−Ta)導電性複合焼結体、又は、酸化イットリウム−モリブデン(Y−Mo)導電性複合焼結体等の導電性セラミックス、あるいは、タングステン(W)、タンタル(Ta)、及び、モリブデン(Mo)等の高融点金属により形成することができる。また、静電吸着用電極13は、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、又は、炭素(C)により形成することもできる。これらは単体、あるいは2つ以上を組み合わせて使用しても良い。
【0040】
静電吸着用電極13の厚さは任意に選択でき、特に限定されるものではないが、0.1μm以上かつ50μm以下が好ましい。厚さが0.1μm以上であると、充分な導電性を確保することができる。一方、厚さが50μm以下であると、静電吸着用電極13と載置板11との接合界面に、静電吸着用電極13と載置板11との間の熱膨張率差に起因するクラックが入りにくい。
【0041】
静電吸着用電極13の大きさは任意に選択できる。例えば、平面視において第1有機絶縁層14と同じ大きさであってもよいが、平面視において第1有機絶縁層14よりも小さい構成としてもよい。静電吸着用電極13を第1有機絶縁層14よりも小さい構成とすることで、静電吸着用電極13の端部から装置外側に向けた斜め上方にも第1有機絶縁層14が存在する構造になる。そのため、静電吸着用電極13の鉛直上方のみならず、静電吸着用電極13の斜め上方にも第1有機絶縁層14を設けることによって、耐電圧の向上の効果を得ることができ、絶縁破壊を抑制することができる。
【0042】
給電用端子15は、静電吸着用電極13に直流電圧を印加するために設けられた棒状の端子である。給電用端子15の形成材料は、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではなく、金属材料や導電性有機材料を用いることができる。給電用端子15の電気伝導率は、10Ω・cm以下であると好ましい。
【0043】
給電用端子15は、その熱膨張係数が、静電吸着用電極13の熱膨張係数に近似したものが好ましい。例えば、静電吸着用電極13を構成している導電性セラミックス、あるいは、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、コバール合金等の金属材料が好適に用いられる。給電用端子15は、絶縁性を有する碍子23により温度調節用ベース部3に対して絶縁されている。
【0044】
温度調節用ベース部3は、静電吸着用電極13の載置板11側とは反対側(静電吸着用電極13の下方)に配置され、載置板11を冷却して所望の温度に調整する。温度調節用ベース部3は、厚さのある円板状を有している。また、温度調節用ベース部3は、上方からの平面視において静電チャック部2(静電吸着用電極13および第1有機絶縁層14)よりも大きく形成されている。
【0045】
温度調節用ベース部3としては、例えば、その内部に水を循環させる流路(図示略)が形成された水冷ベース等が好適である。
【0046】
温度調節用ベース部3には、載置板11の堤部5の下側に位置する先端部5aを収容する溝部6が設けられている。溝部6は、平面視で堤部5と重なる位置に配置され、堤部5より幅広に形成されている。溝部6と堤部5との間には、隙間が設けられており、この隙間には、接着層8の一部である充填部8aが設けられている。
なお前記充填部8aの外部に露出する部分には、図5に示すように、オーリングが設けられても良い。前記充填部の外部に露出する部分が、オーリングで覆われることで、さらにプラズマの侵入を防ぎ、充填部のエッチング速度が低下し、静電チャック装置の寿命を長くすることができる。オーリングの素材やサイズや断面形状は任意で選択でき、好ましくはゴム又はエラストマー樹脂などの弾性体からなる、環状のシール部材が使用される。なお、本実施形態においては、シール部材として断面が円形のオーリングを採用した場合を例示したが、これに限定されない。特に、本実施形態に示すようにシール部材が収容される空間の断面形状が矩形状である場合には、断面矩形状のパッキンを用いることで、接触面積を増加させて、プラズマの侵入をより効果的に抑制してもよい。
【0047】
溝部6の深さは任意に選択できるが、0.5mm以上12.0mm以下とすることが好ましい。また、溝部6の幅(すなわち静電チャック装置1の径方向に沿う幅寸法)も任意に選択できるが、0.5mm以上1.2mm以下とすることが好ましい。さらに、溝部6の深さ方向において、堤部5は先端部5aから0.3mm以上10.0mm以下の部分が、溝部6の内側に、すなわち溝部の内部に、位置していることが好ましい。
このような寸法とすることにより、溝部6と堤部5との間に充填された充填部8aの厚さを十分に確保し、後段において説明するように静電チャック装置1の長寿命化を図ることができる。
【0048】
なお、本実施形態において、温度調節用ベース部3の上面3aであって、溝部6の内側に位置する部分と、外側に位置する部分との高さは、互いに一致している。しかしながら、これらの一方の部分が上側、他方の部分が下側に位置していてもよい。すなわち、温度調節用ベース部3の上面は、互いに高さ異なる複数の上面を有していても良い。
【0049】
温度調節用ベース部3を構成する材料としては、熱伝導性、導電性、及び加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば好ましく使用でき、特に制限はない。例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)、チタン等が好適に用いられる。温度調節用ベース部3の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、あるいはアルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
【0050】
第2有機絶縁層7は任意に選択できるが、絶縁性および耐電圧性を有するフィルム状またはシート状の樹脂であることが好ましく、温度調節用ベース部3と静電吸着用電極13との間に設けられている。本実施形態においては、第2有機絶縁層7は、不図示の接着層を介して、温度調節用ベース部3の上面に接着されている。なお第2有機絶縁層7と温度調節用ベース部3の間の黒線を接着層として見ても良い。
【0051】
本実施形態の静電チャック装置1において、強い静電吸着力を得るために静電吸着用電極13に高電圧を印加した場合、静電吸着用電極13から上方については、載置板11と第1有機絶縁層14とが協働して、高い耐電圧を実現している。一方で、静電吸着用電極13から下方については、静電吸着用電極13に高電圧を印加すると、耐電部材が無い場合、静電吸着用電極13と温度調節用ベース部3との間で絶縁破壊し、放電する可能性が生じる。しかしながら、本実施形態の静電チャック装置1では、第2有機絶縁層7が設けられている。第2有機絶縁層7を設けることで、静電吸着用電極13に印加される高電圧により、静電吸着用電極13と温度調節用ベース部3との間で放電がおこらないように、絶縁している。
【0052】
第2有機絶縁層7は、上述した第1有機絶縁層14と同様の構成(形成材料、厚さ)とすることができる。しかしながら、第1有機絶縁層14および第2有機絶縁層7は、同じ構成であってもよく、異なる構成であってもよい。
【0053】
第1有機絶縁層14および第2有機絶縁層7を形成している接着材は任意に選択できる。例えば、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、及びエポキシ樹脂等からなる、耐熱性および絶縁性を有するシート状またはフィルム状の接着性樹脂が好ましく使用でき、厚さは5μm〜100μmが好ましく、より好ましくは10μm〜50μmである。
【0054】
接着材の面内の厚さのバラツキは10μm以内であることが好ましい。接着材の面内の厚さのバラツキが10μm以内であると、温度調節用ベース部3による静電チャック部2の温度制御の精度が、面内で許容範囲に収まり、静電チャック部2の載置面19における面内温度を均一とすることができる。
【0055】
接着層8は、静電チャック部2の下面と温度調節用ベース部3の上面との間に介在する。この接着層8は、第1有機絶縁層14、静電吸着用電極13、及び第2有機絶縁層7の側面を覆っており、静電チャック部2と温度調節用ベース部3とを接着一体化している。また、接着層8は、熱応力の緩和作用を有する。
【0056】
接着層8は、位置によって、充填部8aと介在部8bと電極包囲部8cとの、3つの領域に分類される。
すなわち、接着層8は、充填部8a、介在部8b、および電極包囲部8cを有する。接着層8の各部(すなわち、充填部8a、介在部8bおよび電極包囲部8c)の厚さは、特に限定されるものではなく任意に選択できるが、100μm以上かつ200μm以下が好ましい。
【0057】
充填部8aは、温度調節用ベース部3の溝部6の内部に充填され、溝部6と堤部5との間の隙間を満たしている。より具体的には、充填部8aは、堤部5の先端部5aの下側、並びに堤部5に対し径方向内側および径方向外側に位置している。
【0058】
充填部8aは、堤部5の外側において外部に露出する露出部8dを有する。接着層8は、半導体製造工程のプラズマが照射されることで露出部8dがエッチングされ、露出部8dが後退する、すなわち下側へと露出部が移動する。充填部8aは、堤部5の先端部5aの近傍を囲んで入り組んだ、形状を有する。この為に、エッチング経路を長くすることができ、充填部8aが完全に消失するのに要する時間を長くすることができる。すなわち、例えば、エッチングが進行して静電吸着用電極13が露出する迄の時間を長くすることができ、静電チャック装置1を長寿命化できる。
【0059】
加えて、充填部8aでは、エッチングが進み露出部8dが後退するにつれて、露出部8dにプラズマが到達しにくくなる。例えば、接着層8において充填部8aの当初の露出部分がエッチングされて消失していくと、溝部6と堤部5によって形成されたU字状の経路の奥に、露出部8dが形成された状態となる。この状態においては、U字状の経路を経て移動するプラズマは、U字状の経路の内側に沿って、下側、径方向内側、上側と、順に進行方向を変えて、露出部8dに到達しなければ、露出部8dのエッチングを行うことができない。このため、エッチングの速度が著しく低下して、結果として、静電チャック装置1の寿命を長くすることができる。
【0060】
また、充填部8aは、堤部5を、径方向内外から挟み込むように、かつ下部で連結するように、配置されている。この配置により、充填部8aの熱膨張又は熱収縮による応力を互いに打ち消し合って、堤部5に与える負荷を軽減できる。
【0061】
介在部8bは、静電吸着用電極13と温度調節用ベース部3との間に位置している。介在部8bは、静電チャック部2と温度調節用ベース部3との接着一体化、熱応力の緩和、並びに熱の伝達を主な機能とする。介在部8bは、その内部、静電チャック部2との界面および温度調節用ベース部3との界面に、空隙や欠陥がないことや少ないことが望ましい。空隙や欠陥の形成がない、または少ないと、熱伝導性が低下せず、板状試料Wの面内温度分布が均一になり好ましい。
【0062】
電極包囲部8cは、静電吸着用電極13の周縁と堤部5との間に位置し、静電吸着用電極13を包囲する。電極包囲部8cは、充填部8aの上方に位置している。電極包囲部8cは、静電吸着用電極13の周囲を囲む。電極包囲部8cが設けられていることで、接着層8のエッチングが進んで静電吸着用電極13が露出するまでの時間を長くすることができる。加えて電極包囲部8cは、第1有機絶縁層14および静電吸着用電極13の側面からの放電を抑制して、装置全体の耐電圧を向上させる。
【0063】
接着層8は任意に選択される材料で形成することができるが、例えば、シリコーン系樹脂組成物を加熱硬化した硬化体またはアクリル樹脂で形成される。接着層8は、流動性ある樹脂組成物を静電チャック部2と温度調節用ベース部3の間に、これを充填した後に加熱硬化させることで形成することが好ましい。
接着層8は、単一の樹脂材料から構成してもよいが、互いに異なる部位に区分された2種類以上の樹脂材料から構成してもよい。この場合、例えば、以下の構成が、好ましい例として挙げられる。
接着層8を、互いに異なる部位を構成する、第1の樹脂材料と、第2の樹脂材料と、から形成する。第2の樹脂材料は、第1の樹脂材料と比較して耐プラズマ性に優れた材料からなる。第2の樹脂材料から構成される部位は、第1の樹脂材料から構成される部位よりも、接着層8が外部に露出する部分である露出部8dに近い側に位置する。その一例として、接着層8の充填部8aおよび電極包囲部8cが第2の樹脂材料から構成され、介在部8bが第1の樹脂材料から構成される構成が挙げられる。他の例として、接着層8の充填部8aのみが第2の樹脂材料から構成され、介在部8bおよび電極包囲部8cが第2の樹脂材料から構成される構成が挙げられる。さらに、他の例として、充填部8aの露出部8d側の一部のみが第2の樹脂材料から構成される例が挙げられる。すなわち、第2の樹脂材料からなる部位は、少なくとも露出部8dを含む、他の領域と連続した領域であることが好ましい。接着層8は、露出部8dを含む部位を第2の材料から構成することで、プラズマによるエッチングの進行を遅延させることができ、静電チャック装置1の寿命を長くすることができる。
第1の樹脂材料は、少なくとも介在部8bを含む部位を構成することが好ましい。この場合、第1の樹脂材料は、第2の樹脂材料と比較して、接着力が強い材料とすることが好ましい。この構成により、介在部8bにより静電チャック部2と温度調節用ベース部3とを強固に接着できる。
このように、接着層8を、それぞれ異なる機能を好ましく必要とする各部位に合わせた異なる材料から構成させることで、静電チャック装置1の長寿命化に寄与できる。
【0064】
温度調節用ベース部3の上面および静電チャック部2の下面は必ずしも平坦ではない。流動性の樹脂組成物を、溝部6を含む温度調節用ベース部3と静電チャック部2の間に充填させた後に硬化させて、接着層8を形成することで、すなわち、静電チャック部2と温度調節用ベース部3の形状に沿って形状を変える樹脂組成物を用いることで、静電チャック部2と温度調節用ベース部3の凹凸に起因して接着層8との間に空隙が生じることを抑制できる。これにより、空隙がない或いは少ないため、接着層8の熱伝導特性を面内で均一にすることが出来、静電チャック部2の均熱性を高めることが出来る。
【0065】
また、静電チャック装置1には、装置全体を厚さ方向に貫通する、冷却ガス導入孔(貫通孔)18が形成されている。冷却ガス導入孔18からは、He等の冷却ガスが供給される。冷却ガスは、静電チャック部2の載置面19と板状試料Wの下面との隙間を流れる。この流れによって載置面19と板状試料Wとの間の熱伝達率を挙げることにより、板状試料Wの温度を下げる働きをする。載置板11の周縁壁17は、載置面19と板状試料Wとの間に導入される冷却ガスの漏出を抑制する。冷却ガス導入孔18が形成されていることに伴い、載置板11にも、載置板11の厚さ方向に貫通する第1貫通孔11hが設けられている。静電吸着用電極13は、冷却ガス導入孔18を避けて形成されている。第1有機絶縁層14には、第1有機絶縁層14の厚さ方向に貫通し、第1貫通孔11hと連通する第2貫通孔14hが設けられている。第2貫通孔14hは、平面視で第1貫通孔11hよりも大きく形成されている。静電吸着用電極13の側面(図中、符号13hで示す)および第2貫通孔14hの側面は、接着層8により覆われている。さらに、第2有機絶縁層7には、第2有機絶縁層7の厚さ方向に貫通する貫通孔7hが設けられている。
【0066】
その他に静電チャック装置1は、板状試料Wを押し上げるリフトピンを挿通させるための複数の貫通孔が設けられていてもよい。さらに、載置板11の下面11aに取り付けられ、載置板11を加熱するためのヒータが設けられていてもよい。
本実施形態の静電チャック装置1は、以上のような構成となっている。
【0067】
本実施形態の静電チャック装置1によれば、温度調節用ベース部3の溝部6に載置板11の堤部5の先端部5aが収容されている。これにより、載置板11と温度調節用ベース部3との間の隙間に充填された接着層8の充填部8aが、堤部5の表面に沿って入り組んだラビリンス構造を有する。充填部8aは、堤部5の外側において、外部に露出する露出部8dを有している。半導体製造の工程において、充填部8aの露出部8dは、プラズマによりエッチングされて、徐々に後退する。本実施形態によれば、充填部8aのから静電吸着用電極13までの経路が長くなる。このため、エッチングが進んだ場合であっても、静電吸着用電極13が露出しにくく、静電吸着用電極13からの放電を防止できる。加えて、充填部8aが入り組んだラビリンス構造となっていることで、充填部8aの露出部8dが後退した場合に、入り組んだ先に露出部8dが位置することとなるためにプラズマが露出部8dに達しにくく、充填部8aのエッチングを遅延させることができる。
【0068】
堤部5は、閉環形状を有することが好ましい。また、溝部6は、堤部5に対応する閉環形状の溝であることが好ましい。堤部5および溝部6を閉環形状とすることで、載置板11と温度調節用ベース部3との間の接着層8を全周にわたって、入り組んだ形状とすることができる。この為、静電吸着用電極13の露出を確実に遅延させることができる。したがって、静電チャック装置1の寿命を長くすることができる。
【0069】
第一実施形態の好ましい例である変形例を以下に説明する。変形例の条件は、互いに組み合わせても良い。
(変形例1)
次に本発明の好ましい例である、変形例1の静電チャック装置101について説明する。
図2は、静電チャック装置101の部分断面図である。変形例1の静電チャック装置101は、上述の実施形態の静電チャック装置1と比較して、主に堤部および溝部の構成が異なる。なお、上述の実施形態と同一態様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略することがある。
【0070】
静電チャック装置101は、静電チャック部102と温度調節用ベース部103と接着層108と第2有機絶縁層7とを備えている。静電チャック部102は、板状試料Wを載置する載置板(セラミックプレート)111と、静電吸着用電極13と、第1有機絶縁層14と、を有している。載置板111は、下面111aの周縁から温度調節用ベース部103側(すなわち下側)に延びる堤部105を有する。温度調節用ベース部103には、載置板111の堤部105の下側に位置する先端部105aを収容する溝部106が設けられている。
【0071】
堤部105には、温度調節用ベース部103側の先端部105aに向かって、堤部の幅(断面から見た堤部の厚さ)を段階的に薄くさせる段差が形成されており、それに伴い、2つの堤部側段差面105cが設けられている。本例では、断面からみて、3つの段差が設けられている。堤部側段差面の数は任意に選択でき、例えば、1や2や3や4などが例として挙げられる。なお、ここでは、先端部105aは、堤部側段差面に含めない。本変形例において、2つの堤部側段差面105cは、堤部105の先端部105aに対して、堤部105の内側部分に位置し、階段状の構造を堤部に与える。2つの堤部側段差部105cは、それぞれ下側を向く面である。堤部側段差面の幅、堤部側段差面間の距離、及び段差の数は、任意に選択できる。
【0072】
溝部106には、2つの堤部側段差面105cに対応して、底側に向かって溝部の幅を狭くさせる、2つの溝部側段差面106cが設けられている。溝部側段差面106cは、それぞれ上側を向く面である。溝部側段差面106cは、堤部側段差面105cと上下方向に対向している。
【0073】
溝部106と堤部105との間には、隙間が設けられている。この隙間には、接着層108の一部である充填部108aが設けられている。本変形例によれば、堤部105および溝部106に、互いに対向する段差面105c、106cが設けられているために、充填部108aが充填されている隙間が作る経路が長くなる。これにより、充填部108aが完全に消失するまでに要する時間を長くすることができ、静電チャック装置101を長寿命化できる。
【0074】
本変形例において、温度調節用ベース部103の上面の一部であって、溝部106の外側に位置する外側上面103bは、溝部106の内側に位置する内側上面103aに対して、上側に位置する。これにより、堤部105より外側において、充填部108aの経路をより長くすることができる。しかしながら、静電チャック装置101は、このような形態のみに限定されることない。外側上面103bは、同じ高さや低い高さに設けられても良い。例えば、図2に二点鎖線で示すように、内側上面103aより下側に位置する外側上面103cを設けてもよい。
【0075】
(変形例2)
次に本発明の好ましい例である、変形例2の静電チャック装置201について説明する。
図3は、静電チャック装置201の部分断面図である。変形例2の静電チャック装置201は、変形例1の静電チャック装置101と同様に、堤部側段差面および溝部側段差面の組み合わせを、具体的には堤部側段差面205cおよび溝部側段差面206cを有しているが、設けられた位置と向きが異なる。なお、上述の実施形態および変形例と同一態様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略することがある。
【0076】
静電チャック装置201は、静電チャック部202と温度調節用ベース部203と接着層208と第2有機絶縁層7とを備えている。静電チャック部202は、板状試料Wを載置する載置板(セラミックプレート)211と、静電吸着用電極13と、第1有機絶縁層14と、を有している。載置板211は、先端部205a側に2つの堤部側段差面205cが設けられた堤部205を有する。温度調節用ベース部203には、1つの溝部側段差面206cが設けられた溝部が形成されている。段差の数は任意に選択できる。
【0077】
本変形例において、堤部側段差面205cは、2つ設けられている。2つの堤部側段差面205cは、堤部205の先端部205aに対し堤部205の外側部分に位置している。堤部側段差面205cは、下側を向く面であり、上側を向く溝部側段差面206cとは、互いに対向している。
【0078】
本変形例において、温度調節用ベース部203の上面の一部であって、溝部206の外側に位置する外側上面203bは、溝部206の内側に位置するベース部203の内側上面203aに対して、下側に位置する。また、外側上面203bの一部は、下側を向く1つの堤部側段差面205cと、対向している。
【0079】
溝部206と堤部205との間には、隙間が設けられており、この隙間には、接着層208の一部である充填部208aが設けられている。充填部208aは、堤部205の外周面と温度調節用ベース部の外側上面203bの間から、外部に露出する露出部208dを有する。本変形例の露出部208dの露出面は、静電チャック装置201の径方向外側を向いている。
【0080】
本変形例によれば、上述の変形例1と同様に、充填部208aが充填される隙間の経路を長くして、静電チャック装置201を長寿命化できる。
【0081】
(変形例3)
次に本発明の好ましい例である、変形例3の静電チャック装置301について説明する。
図4は、静電チャック装置301の部分断面図である。変形例3の静電チャック装置301は、変形例1および変形例2の静電チャック装置101、201と同様に、堤部側段差面および溝部側段差面の組み合わせを、具体的には堤部側段差面305cおよび溝部側段差面306cを、有するが、その位置や形状等の構成が異なる。なお、上述の実施形態および変形例と同一態様の構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略することがある。
【0082】
静電チャック装置301は、静電チャック部302と温度調節用ベース部303と接着層308と第2有機絶縁層7とを備えている。静電チャック部302は、板状試料Wを載置する載置板(セラミックプレート)311と、静電吸着用電極13と、第1有機絶縁層14と、を有している。載置板311は、先端部305a側に堤部側段差面305cが設けられた堤部305を有する。温度調節用ベース部303には、堤部側段差面305cに対応する、すなわち対面する、溝部側段差面306cが設けられた溝部が形成されている。段差の数は任意に選択できる。
【0083】
本変形例において、堤部側段差面305cは、2つ設けられている。2つの堤部側段差面305cは、堤部305の先端部305aに対し堤部305の内側と外側にそれぞれ位置している。堤部側段差面305cは、下側を向く面であり、温度調節用ベース部303の溝部側段差面306cとは、上下方向に、対向している。なお堤部側段差面305cの高さは互いに異なっているが、同じであっても良い。
【0084】
溝部306と堤部305との間には、隙間が設けられており、この隙間には、接着層308の一部である充填部308aが設けられている。本変形例によれば、上述の変形例1および変形例2と同様に、充填部308aの樹脂材料が充填される隙間の経路を長くして、静電チャック装置301を長寿命化できる。
【0085】
本変形例において、温度調節用ベース部303の上面の一部であって、溝部306の外側に位置する外側上面303bは、溝部306の内側に位置する、温度調節用ベース部303の内側上面203aと、同じ高さを有する。また、溝部306の外側周縁には、外側上面303bから上側に延びる突出部303dが設けられている。突出部303dが設けられていることにより、堤部305より外側における、充填部308aの経路をより長くすることができ、静電チャック装置301を長寿命化できる。突出部は、他の例においても、好ましく使用してよい。
【0086】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
長寿命化が可能な静電チャック装置を提供できる。
【符号の説明】
【0088】
1、101、201、301・・・静電チャック装置
2、102、202、302・・・静電チャック部
3、103、203、303・・・温度調節用ベース部
3a、103a、203a・・・温度調節用ベース部の上面
5、105、205、305・・・堤部
5a、105a、205a・・・堤部の先端部
5b、5d・・・面取り
6、106、206、306・・・溝部
7・・・第2有機絶縁層
7h・・・第2有機絶縁層の貫通孔
8、108、208、308・・・接着層
8a、108a、208a、308a・・・充填部
8b・・・介在部
8c・・・電極包囲部
8d、208d・・・露出部
11、111、211、311・・・載置板(セラミックプレート)
11a、111a・・・載置板の下面
11c・・・凹部
11h・・・載置板の第1貫通孔
13・・・静電吸着用電極
13h・・・静電吸着用電極の側面
14・・・第1有機絶縁層
14h・・・第1有機絶縁層の第2貫通孔 15・・・給電用端子
17・・・載置面の周縁壁
18・・・冷却ガス導入孔
19・・・載置面
19a・・・載置面の溝部
23・・・碍子
24・・・オーリング
30・・・載置面の突起部
103b、203b、303b・・・温度調節用ベース部の外側上面
103c・・・温度調節用ベース部の外側上面
105c、205c、305c・・・堤部側段差面
106c、206c、306c・・・溝部側段差面
303d・・・外側上面の突出部
W・・・板状試料
【要約】
静電チャック部と、温度調節用ベース部とを備え、前記静電チャック部は、一方の面が、板状試料を載置する載置面であるセラミックプレートと、前記セラミックプレートの前記載置面とは他方の面側に設けられた静電吸着用電極とを有し、前記温度調節用ベース部は、前記静電吸着用電極の前記セラミックプレート側とは他方の面側に配置され、前記静電チャック部を冷却するベース部であり、前記セラミックプレートは、前記温度調節用ベース部側に延び、かつ前記静電吸着用電極の周縁を囲む堤部を有し、前記温度調節用ベース部は、前記堤部の先端部を収容する溝部を有し、前記溝部と前記堤部との間には樹脂材料からなる充填部が充填された、静電チャック装置。
図1
図2
図3
図4
図5