特許第6123991号(P6123991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6123991
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】熱線遮蔽用合わせ構造体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20170424BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20170424BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
   B32B27/18 Z
   B32B27/20 A
   C03C27/12 K
   C03C27/12 L
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-38986(P2013-38986)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-166701(P2014-166701A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100090136
【弁理士】
【氏名又は名称】油井 透
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(72)【発明者】
【氏名】町田 佳輔
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 佳世
(72)【発明者】
【氏名】東福 淳司
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/149974(WO,A1)
【文献】 特開2008−044609(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/054051(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/040444(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
C03C 27/00 − 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の中間膜を有する中間層を、板ガラスあるいはプラスチックから選ばれた2枚の合わせ板間に介在させてなる熱線遮蔽用合わせ構造体であって、
前記中間層あるいは前記プラスチックのうち少なくとも1枚が熱線遮蔽機能を有する微粒子を含有し、かつ、前記中間層あるいは前記プラスチックのうち少なくとも1枚が選択波長吸収材料を含有し、
前記熱線遮蔽機能を有する微粒子は、一般式MYWOZ(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、M元素がCs、Rb、K、Tlのうちの1種類以上であり、且つ六方晶の結晶構造を持ち、粒子直径が1nm以上、800nm以下である複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記選択波長吸収材料は、イソインドリン化合物、イソインドリノン化合物、キノキサリン化合物、キノフタロン化合物、縮合ジアゾ化合物、ニッケルアゾ化合物、アゾ・クロム錯体化合物、バナジン酸ビスマス化合物から選択される少なくとも1種類であって、前記選択波長吸収材料自体の波長550nmにおける光の透過率が90%以上のときに、波長400nmにおける光の透過率が40%以下である透過プロファイルを有するものであり、
前記熱線遮蔽用合わせ構造体の色味値bが0≦b≦80であることを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体。
【請求項2】
前記選択波長吸収材料が、キノフタロン化合物、ニッケルアゾ化合物から選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽用合わせ構造体。
【請求項3】
前記選択波長吸収材料が、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ソルベントイエロー33、C.I.ソルベントイエロー114から選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の熱線遮蔽用合わせ構造体。
【請求項4】
前記熱線遮蔽用合わせ構造体中における前記熱線遮蔽機能を持つ微粒子と前記選択波長吸収材料の重量比が、[熱線遮蔽機能を持つ微粒子]/[選択波長吸収材料]=99.5/0.5〜70/30の範囲であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の熱線遮蔽用合わせ構造体。
【請求項5】
前記板ガラスは、透明板ガラス、赤外線吸収性ガラス、グリーンガラスから選択されるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の熱線遮蔽用合わせ構造体。
【請求項6】
前記プラスチックは、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂の、シートまたはフィルムから選択されるものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の熱線遮蔽用合わせ構造体。
【請求項7】
前記中間層は、
樹脂フィルム基板の面上に前記熱線遮蔽機能を有する微粒子、前記選択波長吸収材料のうち少なくとも1種類が含まれる吸収層が形成されてなる吸収フィルム基板、または/および、樹脂フィルム基板の内部に前記熱線遮蔽機能を有する微粒子、前記選択波長吸収材料のうち少なくとも1種類が含まれてなる吸収フィルム基板を、
2層以上の前記中間膜の間に介在させてなるものであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の熱線遮蔽用合わせ構造体。
【請求項8】
前記中間膜を構成する樹脂が、ビニル系樹脂であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の熱線遮蔽用合わせ構造体。
【請求項9】
前記中間膜を構成するビニル系樹脂が、ポリビニルブチラールまたはエチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする請求項8に記載の熱線遮蔽用合わせ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両用、建築用の窓材などとして用いられる熱線遮蔽用合わせ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線は、近赤外光(熱線)、可視光、紫外光の3つに大きく分けられる。熱線は熱エネルギーとして人体に感じる波長領域であり、夏季の室内の温度上昇の原因となる。また、紫外光は日焼けや皮膚ガン等人体へ悪影響を及ぼすことが指摘されている。可視光はその透過率を制御することで、窓ガラス等の透明基材にプライバシー保護機能をもたせることができる。
近年、熱線としての近赤外線を遮蔽し、保温及び断熱の性能を付与するために、ガラス、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の透明基材に近赤外線吸収能を付与することが求められている。
【0003】
他方、自動車用などに用いられる安全ガラスとして、対向する複数枚(例えば2枚)の板ガラス間にポリビニルアセタール樹脂等を含む中間層を挟み込んで合わせガラスを構成したものが用いられている。そして、当該中間層に熱線遮蔽機能を持たせた合わせガラスにより、車内に入射する太陽エネルギーを遮断して、冷房負荷や人の熱暑感の軽減を目的としたものが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、2枚の対向する板ガラス間に、0.1μm以下の微細な粒径の酸化錫あるいは酸化インジウムから成る熱線遮蔽性金属酸化物を含有した軟質樹脂層を挟んだ合わせガラスが開示されている。
また、特許文献2には、少なくとも2枚の対向する板ガラスの間に、Sn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moという金属、当該金属の酸化物、当該金属の窒化物、当該金属の硫化物、当該金属へのSbやFのドープ物、または、これらの複合物を分散した中間層を挟んだ合わせガラスが開示されている。
また、特許文献3には、TiO、ZrO、SnO、Inから成る微粒子と、有機ケイ素または有機ケイ素化合物から成るガラス成分とを、対向する透明板状部材の間に挟んだ自動車用窓ガラスが開示されている
さらに、特許文献4には、少なくとも2枚の対向する透明ガラス板状体の間に、3層から成る中間層を設け、当該中間層の第2層にSn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moの金属、当該金属の酸化物、当該金属の窒化物、当該金属の硫化物、当該金属へのSbやFのドープ物、または、これらの複合物を分散させ、第1層および第3層の中間層を樹脂層とした合わせガラスが開示されている。
しかし、特許文献1〜4に開示されている従来の合わせガラスは、いずれも高い可視光透過率が求められたときの熱線遮蔽機能が十分でない、という問題点が存在した。
【0005】
出願人は、熱線遮蔽機能を有する中間層を2枚の板ガラス間に存在させて成り、この中間層が、六ホウ化物微粒子単独、または、六ホウ化物微粒子とITO微粒子および/またはATO微粒子と、ビニル系樹脂とを含有する熱線遮蔽膜により構成された熱線遮蔽用合わせガラス、または、前記中間層が、少なくとも一方の板ガラスの内側に面する面上に形成された上記微粒子が含まれる熱線遮蔽膜と、上記2枚の板ガラス間に介在されるビニル系樹脂を含有する熱線遮蔽膜とで構成された熱線遮蔽用合わせガラスを特許文献5として開示している。
特許文献5に記載したように、六ホウ化物微粒子単独、または、六ホウ化物微粒子とITO微粒子および/またはATO微粒子が、適用された熱線遮蔽用合わせガラスの光学特性は、可視光領域に透過率の極大を持つと共に、近赤外領域に強い吸収を発現して透過率の極小を持つ。この結果、当該熱線遮蔽用合わせガラスは、特許文献1〜4に記載された従来の合わせガラスに比べて、可視光透過率70%以上のときの日射透過率が50%台となる迄改善された。
【0006】
一方、近赤外線領域の遮蔽機能を有する微粒子として、上述したITO微粒子、ATO微粒子や六ホウ化物微粒子の他に、複合タングステン酸化物微粒子が知られている。出願人は、ポリビニルアセタール樹脂を紫外線硬化樹脂に代替し、当該紫外線硬化樹脂に複合タングステン化合物と六ホウ化物とを含有させた熱線遮蔽膜を中間層とした熱線遮蔽用合わせガラスを特許文献6に開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−217500号公報
【特許文献2】特開平8−259279号公報
【特許文献3】特開平4−160041号公報
【特許文献4】特開平10−297945号公報
【特許文献5】特開2001−89202号公報
【特許文献6】特開2010−202495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが更なる検討を行った結果、以下の課題が見出された。
即ち、特許文献1〜4に記載された従来の技術に係る合わせガラスでは、上述したように、いずれも高い可視光透過率が求められたときの熱線遮蔽機能が十分でない。さらに透明基材の曇り具合を示すヘイズ値は、車両用窓材で1%以下、建築用窓材で3%以下とする必要があるのに対し、例えば、特許文献5に記載された熱線遮蔽用合わせガラスにおいても、未だ改善の余地を有していた。また、特許文献6に係る熱線遮蔽用合わせガラス等は、熱線遮蔽特性を持つ微粒子が青い色味を持つため用途によっては意図する色調から外れてしまうという課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に着目してなされたものである。そして、その解決しようとする課題は、熱線遮蔽効果の高い複合タングステン酸化物微粒子を用い、優れた光学的特性と良好な色調とを実現する熱線遮蔽用合わせ構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明者らは研究を行った。その結果、近赤外線吸収材料である複合タングステン酸化物微粒子と樹脂バインダーとを混合し、さらに可視光短波長から紫外光にかけての波長の光を吸収する選択波長吸収材料を混合することで、可視光領域に透過率の極大を持つとともに近赤外領域に強い吸収を持ちながら、青い色調を持たない熱線遮蔽用合わせ構造体を得られることを知見し本発明を完成したものである。
【0011】
即ち、本発明者らは、複合タングステン酸化物微粒子の高い可視光透過率を維持しつつ、熱線遮蔽特性を向上させる方法、つまり、熱線遮蔽用合わせ構造体の日射透過率は低下させながら、同時に色調は青色から、グレーまたは緑色へ補整する方法について鋭意研究を行ったものである。
そして、本発明者らは、JIS R 3106に記載されている可視光透過率算出に使用される重価係数の波長分布、ならびに、JIS Z 8729およびJIS Z 8701により規定される透過率の波長依存性からの色味値bの算出方法に着目した。そして、複合タングステン酸化物微粒子と、当該複合タングステン酸化物微粒子だけでは十分に遮蔽しきれない可視光短波長から紫外光にかけての波長の光を吸収し、かつ可視光透過率算出に大きく寄与する波長領域、すなわち波長550nm付近に光の吸収を持たない選択波長吸収材料とを併用する構成に想到したものである。
【0012】
すなわち、本発明の第1の熱線遮蔽用合わせ構造体は、
少なくとも1層の中間膜を有する中間層を、板ガラスあるいはプラスチックから選ばれた2枚の合わせ板間に介在させてなる熱線遮蔽用合わせ構造体であって、
前記中間層あるいは前記プラスチックのうち少なくとも1枚が熱線遮蔽機能を有する微粒子を含有し、かつ、前記中間層あるいは前記プラスチックのうち少なくとも1枚が選択波長吸収材料を含有し、
前記熱線遮蔽機能を有する微粒子は、一般式MYWOZ(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、M元素がCs、Rb、K、Tlのうちの1種類以上であり、且つ六方晶の結晶構造を持ち、粒子直径が1nm以上、800nm以下である複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記選択波長吸収材料は、イソインドリン化合物、イソインドリノン化合物、キノキサリン化合物、キノフタロン化合物、縮合ジアゾ化合物、ニッケルアゾ化合物、アゾ・クロム錯体化合物、バナジン酸ビスマス化合物から選択される少なくとも1種類であって、前記選択波長吸収材料自体の波長550nmにおける光の透過率が90%以上のときに、波長400nmにおける光の透過率が40%以下である透過プロファイルを有するものであり、
前記熱線遮蔽用合わせ構造体の色味値b*が0≦b*≦80であることを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体である。
本発明の第2の熱線遮蔽用合わせ構造体は、
前記選択波長吸収材料が、キノフタロン化合物、ニッケルアゾ化合物から選択される少なくとも1種類であることを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体である。
本発明の第3の熱線遮蔽用合わせ構造体は、
前記選択波長吸収材料が、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ソルベントイエロー33、C.I.ソルベントイエロー114から選択される少なくとも1種類であることを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体である。
本発明の第4の熱線遮蔽用合わせ構造体は、
前記熱線遮蔽用合わせ構造体中における前記熱線遮蔽機能を持つ微粒子と前記選択波長吸収材料の重量比が、[熱線遮蔽機能を持つ微粒子]/[選択波長吸収材料]=99.5/0.5〜70/30の範囲であることを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体である。
本発明の第5の熱線遮蔽用合わせ構造体は、
前記板ガラスは、透明板ガラス、赤外線吸収性ガラス、グリーンガラスから選択されるものであることを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体である。
本発明の第6の熱線遮蔽用合わせ構造体は、
前記プラスチックは、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂の、シートまたはフィルムから選択されるものであることを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体である。
本発明の第7の熱線遮蔽用合わせ構造体は、
前記中間層は、
樹脂フィルム基板の面上に前記熱線遮蔽機能を有する微粒子、前記選択波長吸収材料のうち少なくとも1種類が含まれる吸収層が形成されてなる吸収フィルム基板、または/および、樹脂フィルム基板の内部に前記熱線遮蔽機能を有する微粒子、前記選択波長吸収材料のうち少なくとも1種類が含まれてなる吸収フィルム基板を、
2層以上の前記中間膜の間に介在させてなるものであることを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体である。
本発明の第8の熱線遮蔽用合わせ構造体は、
前記中間膜を構成する樹脂が、ビニル系樹脂であることを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体である。
本発明の第9の熱線遮蔽用合わせ構造体は、
前記中間膜を構成するビニル系樹脂が、ポリビニルブチラールまたはエチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする熱線遮蔽用合わせ構造体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体は、一般式MWOで表記される複合タングステン酸化物と、可視光短波長から紫外光にかけての波長を吸収する選択波長吸収材料が併用されることで、複合タングステン酸化物のみを含有する熱線遮蔽用合わせ構造体よりも高い熱線遮蔽効果を持つ。
また、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体は、複合タングステン酸化物に可視光短波長から紫外光にかけての波長を吸収する選択波長吸収材料が併用されることで、グレーから緑色にかけての色調を選択することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、本発明者らが、従来技術が有する下記課題に想到してなされたものである。
即ち、従来の技術に係る合わせガラスでは、いずれも高い可視光透過率が求められたときの熱線遮蔽機能が十分でない。さらに透明基材の曇り具合を示すヘイズ値は、車両用窓材で1%以下、建築用窓材で3%以下とすることが求められる。
また、車両用窓材である自動車フロントガラス用合わせ構造体にはしばしばグリーンガラスが基材として用いられる。グリーンガラスが基材として用いられると、複合タングステン酸化物の色調が当該グリーンガラスの色調と異なるため、結果として合わせ構造体自体の色調が変化し意匠性を損なうという課題に想到した。
【0015】
さらに本発明者らは、下記課題に想到した。
即ち、各種窓材に用いられる熱線遮蔽用合わせガラス等には、光学的特性に加えて機械的特性も求められることである。具体的には、安全ガラス等の合わせガラス等には、貫通への耐性が求められる。従来、合わせガラス等に貫通耐性を付与する為、中間層には、ポリビニルアセタール樹脂等のビニル系樹脂が用いられてきた。ところが、ポリビニルアセタール樹脂等のビニル系樹脂へ複合タングステン酸化物微粒子を含有させると光学特性が低下することが知見された。そこで、次善の策として、例えば特許文献6に記載するように、ポリビニルアセタール樹脂を紫外線硬化樹脂に代替し、紫外線硬化樹脂に複合タングステン化合物と六ホウ化物とを含有させた熱線遮蔽膜を開示した。
しかし、安全ガラス等の機械的強度充足の観点からは、中間層用の樹脂としてポリビニルアセタール樹脂等のビニル系樹脂が好ましいと考えられることである。
【0016】
本発明は、上記課題に想到してなされたものである。そして、その解決しようとする課題は、熱線遮蔽効果の高い複合タングステン酸化物微粒子を用い、優れた光学的特性と良好な色調を実現する熱線遮蔽用合わせ構造体を提供することである。
さらに本発明が解決しようとする課題は、本発明の熱線遮蔽用合わせ構造体における中間膜の主成分として、ポリビニルアセタール樹脂等のビニル系樹脂を用いた場合においても、優れた光学的特性と高い耐候性とを発揮する熱線遮蔽用合わせ構造体を提供することである。
【0017】
上述の課題を解決する本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体は、複合タングステン酸化物微粒子と選択波長吸収材料とを有し、可視光透過率が高く、熱線遮蔽性に優れ、好ましい色調を有する。
以下、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体について、熱線遮蔽機能を有する微粒子、選択波長吸収材料、熱線遮蔽用合わせ構造体、熱線遮蔽用合わせ構造体の形態例、および、熱線遮蔽用合わせ構造体の製造方法、の順で詳細に説明する。
尚、本発明において、熱線遮蔽機能を持つ微粒子と選択波長吸収材料とを総称して、便宜的に「吸収材料」と記載する場合がある。
【0018】
(熱線遮蔽機能を有する微粒子)
一般に、自由電子を含む物質は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmの太陽光線の領域周辺にある電磁波に反射吸収応答を示すことが知られている。このような物質の粉末を光の波長より小さい微粒子とすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱が低減されて可視光領域の透明性が得られる。
【0019】
一般に、三酸化タングステン中には有効な自由電子が存在しないため、近赤外線領域の遮蔽、反射特性が少なく、熱線遮蔽材料としては有効ではない。一方、酸素欠損を持つ三酸化タングステンや、三酸化タングステンにNa等の陽性元素を添加したいわゆるタングステンブロンズは、導電性材料であり、自由電子を持つ材料である。そして、これら材料の単結晶等を分析した結果からは、赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。
【0020】
本発明者等は、当該タングステンと酸素との組成範囲が特定範囲にあるとき、熱線遮蔽材料として特に有効なものとなることを見出した。具体的には、熱線遮蔽機能を有する微粒子が、一般式MWO(0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子である。上記複合タングステン酸化物微粒子は、熱線遮蔽用合わせ構造体に適用された場合、熱線遮蔽成分として有効に機能する。
上記一般式MWOで示され、且つ六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子としては、例えばM元素が、Cs、Rb、K、Tlのうちの1種類以上を含むような複合タングステン酸化物微粒子が挙げられる。添加元素Mの添加量は、0.001以上、1.0以下、好ましくは0.1以上0.5以下、更に好ましくは0.33付近である。これは六方晶の結晶構造から理論的に算出される値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。典型的な例としてはCs0.33WO、Rb0.33WO、K0.33WO、Tl0.33WOなどを挙げることができるが、Y, Zが上記の範囲に収まるものであれば、有用な熱線遮蔽特性を得ることができる。
【0021】
更に、意匠性を考慮すると、透明性を保持したまま熱線の効率良い遮蔽を行うことが必要となる。本発明に係る複合タングステン酸化物微粒子を含有する熱線遮蔽成分は近赤外線領域、特に波長900〜2200nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0022】
当該微粒子の粒子径が800nmよりも小さい場合、光を遮蔽しないため、可視光領域の透明性を保持したまま効率良く熱線を遮蔽することが出来る。特に、可視光領域の透明性を重視する場合には、粒子径は200nm以下がよく、好ましくは100nm以下がよい。微粒子の粒子径が小さいと、幾何学散乱もしくは回折散乱によって400〜780nmの可視光領域の光を散乱して曇りガラスのようになることが回避出来、鮮明な透明性を得ることが可能だからである。粒子径が200nm以下になると、上記散乱が低減してミー散乱もしくはレイリー散乱領域になる。特に、レイリー散乱領域まで粒子径が減少すると、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。更に100nm以下になると散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、粒子径が小さい方が好ましく、粒子径が1nm以上であれば工業的な製造は容易である。
【0023】
また、複合タングステン酸化物微粒子の単位重量あたりの熱線遮蔽能力は非常に高く、ITOやATOと比較して、4〜10分の1程度の使用量でその効果を発揮する。熱線遮蔽用合わせ構造体に含まれる複合タングステン酸化物微粒子の量は、単位面積あたり0.2g/m〜2.5g/mが望ましい。含有量が0.2g/m以上であると、期待される熱線遮蔽効果が得られる。また、含有量が2.5g/mを以下であれば、熱線遮蔽用合わせ構造体の透明性が保たれ、樹脂の物性も保たれる。
【0024】
(選択波長吸収材料)
本発明において選択波長吸収材料を適用する第1の目的は、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体の持つ熱線遮蔽特性を向上させるためである。
JIS R 3106に記載されている可視光透過率算出に使用される重価係数の波長分布を考慮すると、上記複合タングステン酸化物微粒子だけでは十分に遮蔽しきれない波長450nm付近の光を強く吸収し、且つ、可視光透過率算出に大きく寄与する波長領域である550nm付近の光に吸収を持たない選択波長吸収材料を、複合タングステン酸化物微粒子と併用することで、複合タングステン酸化物微粒子を単独で使用する場合と比較して、より日射透過率を低減することが出来るからである。
【0025】
本発明において選択波長吸収材料を適用する第2の目的は、上記複合タングステン酸化物微粒子の持つ青い色調を補整することにある。
自動車フロントガラス用合わせ構造体には、しばしばグリーンガラスが用いられる。しかしながら、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体においてグリーンガラスを基材として用いると、複合タングステン酸化物の色調がグリーンガラスの色調と異なるために、結果として熱線遮蔽用合わせ構造体自体の色調が変化し、意匠性を損なうという課題が知見された。
具体的には、JIS Z 8729およびJIS Z 8701に基づき算出される色味値bの値が、透過率の波長依存性に起因して、グリーンガラスでは0≦b≦1程度なのに対し、複合タングステン酸化物を含有し波長選択吸収材料を含有しない熱線遮蔽用合わせ構造体の場合、−20≦b≦−0.5程度となった。
【0026】
本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体において、複合タングステン酸化物と、可視光短波長から紫外光にかけての波長の光を吸収する選択波長吸収材料とを併用することで、グレーから緑色にかけての色調を選択することを可能にしたものである。具体的には、色味値を0≦b≦80程度の範囲において選択することを可能にした。そして、当該色味値bを、好ましくは0≦b≦6、さらに好ましくは0≦b≦2の色調に選択することが出来れば、グリーンガラスを基材として用いた熱線遮蔽用合わせ構造体であっても、色調が損なわれなくなることに想到した。
【0027】
そこで、本発明者らは、JIS R 3106に記載されている可視光透過率算出に使用される重価係数の波長分布、ならびに、JIS Z 8729およびJIS Z 8701により規定される透過率の波長依存性からの色味値bの算出方法に着目し研究を行った。また、上述の色調を実現する材料について研究を行った。
その結果、媒体や基材の吸収を除いた材料自体の、波長550nmの光に対する透過率が90%以上のときに、波長400nmの光に対する透過率が40%以下である選択波長吸収材料、好ましくは波長550nmの光に対する透過率が90%以上のときに、波長400nmの光に対する透過率が10%以下の選択波長吸収材料を、複合タングステン酸化物と併用することで、上記、第1第2の目的を同時に達成できることに想到した。
【0028】
つまり、上記選択波長吸収材料において、波長550nmの光に対する透過率が90%以上であると、可視光透過率が担保される。また、波長400nmの光に対する透過率が40%以下になると、波長400nm付近における光の吸収が十分に得られる。その結果、上記複合タングステン酸化物微粒子単独で使用した場合と比較して日射透過率が低減し、十分な熱線遮蔽特性が得られるのであると考えられる。
【0029】
上述の研究から、本発明に係る具体的な選択波長吸収材料としては、イソインドリン化合物、イソインドリノン化合物、キノキサリン化合物、キノフタロン化合物、縮合ジアゾ化合物、ニッケルアゾ化合物、アゾ・クロム錯体化合物、バナジン酸ビスマス化合物等が好ましいことに想到した。とりわけキノフタロン化合物およびニッケルアゾ化合物は、波長550nmの光に対する透過率は高く、波長400nmの光に対する透過率は低く、また熱線遮蔽用合わせ構造体に適用したときの耐候性も高いため、好ましいことが判明した。例えば、バナジン酸ビスマス化合物は、波長550nmの光に対する透過率が90%のとき、波長400nmの光に対する透過率は約16%である。
さらに、具体的なキノフタロン化合物としては、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ソルベントイエロー33およびC.I.ソルベントイエロー114が入手容易性、吸収特性(光透過率の波長依存性)、耐候性ともに好ましい。
ニッケルアゾ化合物としては、C.I.ピグメントイエロー150が入手容易性、吸収特性、耐候性ともに好ましい。
【0030】
次に、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体において、選択波長吸収材料と複合タングステン酸化物微粒子との混合割合は、重量比で複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料=99.5/0.5〜70/30の範囲であることが望ましい。当該選択波長吸収材料と複合タングステン酸化物微粒子との混合割合において、選択波長吸収材料の添加量が70/30より少なければ、選択波長吸収材料による可視光領域の光の吸収は抑制され、可視光透過率が担保される。その結果、上記複合タングステン酸化物微粒子を単独で使用した場合と比較して、日射透過率が低減し、熱線遮蔽特性が担保される。
また、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体において、複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料=99.5/0.5より選択波長吸収材料の添加量が多ければ、可視光短波長から紫外光にかけての光に対し十分な吸収が得られ、色調、熱線遮蔽特性ともに複合タングステン酸化物微粒子単独使用のときよりも向上する。さらに、複合タングステン酸化物微粒子/選択波長吸収材料=99.5/0.5〜98.0/2.0の範囲であると、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体の色調がグリーンガラスに近くなり、より好ましい。
【0031】
(熱線遮蔽用合わせ構造体)
少なくとも1層の中間膜を有する中間層を、板ガラス、プラスチックから選ばれた複数(例えば、2枚)の合わせ板間に介在させてなる、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体について、合わせ板、中間層の順で説明する。
【0032】
〈合わせ板〉
合わせ板は、後述する中間層をその両側から挟み合わせる板であり、可視光領域において透明な、板ガラス、板状のプラスチックが用いられる。このとき、板ガラス、板状のプラスチックから選ばれる複数(例えば、2枚)の合わせ板とは、板ガラスと板ガラスとの場合、板ガラスとプラスチックとの場合、プラスチックとプラスチックとの場合の各構成を含むものである。
【0033】
合わせ板としてプラスチックを用いる場合、当該プラスチックの材質は、熱線遮蔽用合わせ構造体の用途に合わせて適宜に選択され、特に限定されるものではない。例えば、自動車等の輸送機器に用いる場合は、当該輸送機器の運転者や搭乗者の透視性を確保する観点から、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂といった透明樹脂が好ましいが、他にも、PET樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、等が使用可能である。
【0034】
合わせ板として板ガラスを用いる場合、当該板ガラスは熱線遮蔽用合わせ構造体の用途に併せて適宜に選択され、特に限定されるものではない。合わせ板として、通常の無機の透明板ガラスを用いることもでき、グリーンガラスを用いることもでき、銅およびリンを成分として含むことを特徴とする熱線吸収ガラスを用いることもできる。
【0035】
〈中間層〉
本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体の中間層は、少なくとも1層の中間膜を積層してなるものである。当該中間膜を構成する材料としては、光学的特性、力学的性質、材料コストの観点から合成樹脂であることが好ましく、ビニル系樹脂であることがさらに好ましい。
ビニル系樹脂としては、例えばポリビニルブチラールに代表されるポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、塩化ビニル−エチレン−グリシジルアクリレート共重合体、塩化ビニル−グリシジルメタクリレート共重合体、塩化ビニル−グリシジルアクリレート共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリ酢酸ビニルエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール−ポリビニルブチラール混合物等が挙げられるが、ガラスやプラスチックとの接着性、透明性、安全性などの観点から、ポリビニルブチラールに代表されるポリビニルアセタールやエチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0036】
尤も、ビニル系樹脂以外であっても、透明樹脂であれば使用は可能である。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、アラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォンなどが挙げられる。
【0037】
(熱線遮蔽用合わせ構造体の製造方法)
本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体の製造方法について、中間膜としてビニル系樹脂を用いた場合を例としながら、A.中間膜の形成方法、B.熱線遮蔽用合わせ構造体に用いられる可塑剤、C.熱線遮蔽用合わせ構造体の製造に適用される添加液や塗布液とその製造方法、D.樹脂フィルム基板上に、熱線遮蔽体用微粒子を含有する塗布液、選択波長吸収材料を含有する塗布液、熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する塗布液から選択される塗布液を塗布し、中間膜を得る手法、E.樹脂フィルム基板の内部に、熱線遮蔽体用微粒子を含有する添加液、選択波長吸収材料を含有する添加液、熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する添加液から選択される添加液を添加し、中間膜を得る手法、F.その他の添加剤、の順で説明する。
【0038】
〈A.中間膜の形成方法〉
吸収材料を含まない中間膜、または、後述する吸収材料を含む中間膜の形成方法には、公知の方法が用いられる。例えば、カレンダーロール法、押出法、キャスティング法、インフレーション法等を用いることができる。特に、吸収材料とビニル系樹脂組成物とが含まれる中間膜は、後述する吸収材料が可塑剤に分散もしくは溶解された添加液をビニル系樹脂に添加し、混練して上記吸収材料が均一に分散もしくは溶解して成るものである。このように調製されたビニル系樹脂組成物は、容易にシート状に成形することができる。
なお、ビニル系樹脂組成物をシート状に成形する際には、必要に応じて、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線遮蔽材等を配合してもよい。
【0039】
また、中間膜の貫通性制御のために、中間膜へ接着力調整剤を配合してもよい。当該接着力調整剤は、特に限定されないが、アルカリ金属塩および/又はアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。当該金属塩を構成する酸は、特に限定されず、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸、又は、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。アルカリ金属塩および/又はアルカリ土類金属塩の中でも、炭素数2〜16のカルボン酸マグネシウム塩や、炭素数2〜16のカルボン酸カリウム塩が好ましい。
当該炭素数2〜16の有機酸のカルボン酸マグネシウム塩や、カリウム塩は、特に限定されないが、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カリウム、2−エチルブタン酸マグネシウム、2−エチルブタン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カリウム等が好適に用いられる。
これらの接着力調整剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、接着力調整剤として、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、セリウムのカルボン酸塩を用いた場合は、本来の接着力調整剤としての作用と、複合タングステン酸化物微粒子の耐候性向上の作用とを兼ね備えることができる。
また、本発明の合わせ構造体の製造方法は、上述した合わせ構造体の構成をとる方法であれば、限定されるものではない。
【0040】
〈B.熱線遮蔽用合わせ構造体に用いられる可塑剤〉
本発明に係るビニル系樹脂が適用された熱線遮蔽用合わせ構造体に用いられる可塑剤は、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤や、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系である可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系である可塑剤が挙げられる。いずれも室温で液状であることが好ましい。特に、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物である可塑剤が好ましい。
【0041】
多価アルコールと脂肪酸とから合成されたエステル化合物とは特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られた、グリコール系エステル化合物が挙げられる。また、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールと、上記一塩基性有機とのエステル化合物等も挙げられる。
なかでも、トリエチレングリコールジヘキサネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−オクタネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノネート等のトリエチレングリコールの脂肪酸エステルが好適である。トリエチレングリコールの脂肪酸エステルは、ポリビニルアセタールとの相溶性や耐寒性など様々な性質をバランスよく備えており、加工性、経済性にも優れている。
可塑剤の選択にあたっては、加水分解性に留意する。当該観点からは、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサネートが好ましい。
【0042】
〈C.熱線遮蔽用合わせ構造体の製造に適用される塗布液および添加液と、その製造方法〉
熱線遮蔽用合わせ構造体の製造に適用される塗布液および添加液と、その製造方法について説明する。
まず、熱線遮蔽用合わせ構造体の製造に適用される塗布液とは、樹脂フィルム基板上に吸収材料を含む吸収層を形成し中間膜を得る際に用いる樹脂フィルム基板上への塗布液のことである。
一方、熱線遮蔽用合わせ構造体の製造に適用される添加液とは、樹脂フィルム基板の内部に吸収材料を含む吸収層を形成し中間膜を得る際に用いる樹脂フィルム基板への添加液のことである。
そして、当該塗布液および添加液において、熱線遮蔽用微粒子を含有するもの、選択波長吸収材料を含有するもの、熱線遮蔽用微粒子と選択波長吸収材料とを含有するものが、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体の製造に適用出来る。
以下、a.熱線遮蔽体用微粒子を含有する塗布液とその製造方法、b.選択波長吸収材料を含有する塗布液とその製造方法、c.熱線遮蔽体用微粒子を含有する添加液とその製造方法、d.選択波長吸収材料を含有する添加液とその製造方法、e.熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する塗布液とその製造方法、f.熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する添加液とその製造方法、の順に説明する。
【0043】
《a.熱線遮蔽体用微粒子を含有する塗布液とその製造方法》
本発明に係る熱線遮蔽体用微粒子を含有する塗布液は、溶媒と本発明に係る熱線遮蔽用微粒子とを含有し、当該熱線遮蔽用微粒子が当該溶媒中に分散している熱線遮蔽体形成用分散液である。
当該熱線遮蔽用微粒子を溶媒へ分散させる方法は、均一に分散できる方法であれば特に限定されず、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどを用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。これらの器材を用いた分散処理によって、微粒子の溶媒中への分散と同時に微粒子同士の衝突等による微粒子化も進行し、粒子をより微粒子化して分散させることができる(すなわち、粉砕・分散処理される)。
【0044】
また、熱線遮蔽体用微粒子を含有する塗布液は、無機バインダーまたは/及び樹脂バインダーを含む構成とすることができる。無機バインダーや樹脂バインダーの種類は特に限定されるものではない。例えば、無機バインダーとして、珪素、ジルコニウム、チタン、または、アルミニウムの金属アルコキシドやこれらの部分加水分解縮重合物、または、オルガノシラザンが挙げられる。また、樹脂バインダーとして、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などが利用できる。
【0045】
一方、当該熱線遮蔽体用微粒子を含有する塗布液において、熱線遮蔽体の微粒子を分散する溶媒は特に限定されるものではなく、塗布・練り込み条件、塗布・練り込み環境、さらに、無機バインダーや樹脂バインダーを含有させたときはバインダーに合わせて適宜選択すればよい。
当該溶媒としては、例えば、水やエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテルなどのエーテル類、エステル類、アセトン、メチルエチフケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、インブチルケトンなどのケトン類といった各種の有機溶媒が使用可能である。または必要に応じて酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。さらに、分散液中の微粒子の分散安定性を一層向上させるためには、各種の界面活性剤、カップリング剤などの添加も勿論可能である。
また、熱線遮蔽体の微粒子を樹脂バインダー中に直接分散したものは、樹脂フィルム等の基体表面上にコーティングした後、溶媒を蒸発させる必要がないため、環境的にも工業的にも好ましい。
【0046】
《b.選択波長吸収材料を含有する塗布液とその製造方法》
本発明に係る選択波長吸収材料を含有する塗布液は、溶媒と、本発明に係る選択波長吸収材料とを含有し、当該選択波長吸収材料が当該溶媒中に分散もしくは溶解している分散液もしくは溶液である。
【0047】
当該選択波長吸収材料が溶媒に可溶の場合、当該選択波長吸収材料を単に可塑剤および/または溶媒に添加することで、選択波長吸収材料溶液を作製することができる。
一方、当該選択波長吸収材料が溶媒に不溶の場合、選択波長吸収材料を溶媒へ分散させる方法は、前記熱線遮蔽体形成用分散液の製造方法と同様である。すなわち均一に分散もしくは溶解できる方法であれば特に限定されず、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどを用いた粉砕・分散処理方法から選択することができる。
【0048】
当該選択波長吸収材料を含有する塗布液は、さらに無機バインダーまたは/及び樹脂バインダーを含む構成とすることができる。当該無機バインダーや樹脂バインダーの種類は、上述した《a.熱線遮蔽体用微粒子を含有する塗布液とその製造方法》にて説明したものと同様である。
【0049】
《c.熱線遮蔽体用微粒子を含有する添加液とその製造方法》
本発明に係る熱線遮蔽体用微粒子を含有する添加液は、可塑剤および/または溶媒と、本発明に係る熱線遮蔽用微粒子とを含有し、当該熱線遮蔽用微粒子が当該溶媒中に分散している熱線遮蔽体形成用分散液である。
当該熱線遮蔽用微粒子を可塑剤および/または溶媒へ分散させる方法は、均一に分散できる方法であれば特に限定されず、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどを用いた粉砕・分散処理方法が挙げられる。これらの器材を用いた分散処理によって、微粒子の溶媒中への分散と同時に微粒子同士の衝突等による微粒子化も進行し、粒子をより微粒子化して分散させることができる(すなわち、粉砕・分散処理される)。
【0050】
《d.選択波長吸収材料を含有する添加液とその製造方法》
本発明に係る選択波長吸収材料を含有する塗布液は、可塑剤および/または溶媒と、本発明に係る選択波長吸収材料とを含有し、当該選択波長吸収材料が当該溶媒中に分散もしくは溶解している分散液もしくは溶液である。
【0051】
当該選択波長吸収材料が可塑剤および/または溶媒に可溶の場合、当該選択波長吸収材料を単に可塑剤および/または溶媒に添加することで、選択波長吸収材料溶液を作製することができる。
一方、当該選択波長吸収材料が可塑剤および/または溶媒に不溶の場合、選択波長吸収材料を溶媒へ分散させる方法は、前記熱線遮蔽体形成用分散液の製造方法と同様である。すなわち均一に分散もしくは溶解できる方法であれば特に限定されず、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどを用いた粉砕・分散処理方法から選択することができる。
【0052】
《e.熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する塗布液とその製造方法》
本発明に係る熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する塗布液は、溶媒と、本発明に係る熱線遮蔽用微粒子および選択波長吸収材料とを含有し、当該熱線遮蔽用微粒子が当該溶媒中に分散している熱線遮蔽体形成用分散液である。
【0053】
熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する塗布液の製造においては、溶媒へ不溶な選択波長吸収材料を用いる場合、熱線遮蔽用微粒子の分散処理の際、当該選択波長吸収材料を適切な割合で添加することで、熱線遮蔽用微粒子と選択波長吸収材料とに対して同時に粉砕・分散処理を行うことが出来る。この結果、選択波長吸収材料の分散液を別途製造する工程を省くことが出来る。
また、溶媒に可溶な選択波長吸収材料を用いる場合、上述した熱線遮蔽用微粒子の分散処理の際または分散処理後に、当該選択波長吸収材料を添加することで、当該選択波長吸収材料溶液を別途製造する工程を省くこともできる。
【0054】
当該熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する塗布液は、さらに無機バインダーまたは/及び樹脂バインダーを含む構成とすることができる。当該無機バインダーや樹脂バインダーの種類は、上述した《a.熱線遮蔽体用微粒子を含有する塗布液とその製造方法》にて説明したものと同様である。
【0055】
《f.熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する添加液とその製造方法》
本発明に係る熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する添加液は、溶媒と、本発明に係る熱線遮蔽用微粒子および選択波長吸収材料とを含有し、当該熱線遮蔽用微粒子が当該溶媒中に分散している熱線遮蔽体形成用分散液である。
【0056】
本発明に係る熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する添加液の製造方法は、上述した「熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する塗布液とその製造方法」と同様である。
【0057】
〈D.樹脂フィルム基板上に、熱線遮蔽体用微粒子を含有する塗布液、選択波長吸収材料を含有する塗布液、熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する塗布液から選択される塗布液を塗布し、中間膜を得る手法〉
樹脂フィルム基板上へのコーティング方法としては、均一にコートできれば特に制限はなく、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、ブレードコート法などを用いることができる。これらのコーティング方法により形成された熱線遮蔽体用微粒子および/または選択波長吸収材料を含有する膜は、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法および化学気相成長法(CVD法)などの乾式法や、スプレー法で作製した場合に比べて、光の干渉効果を用いなくても熱線を効率よく吸収し、同時に可視光領域の光を透過させることができる。
【0058】
また、前記熱線遮蔽体形成用分散液中に無機バインダーとして、珪素、ジルコニウム、チタン、もしくはアルミニウムの金属アルコキシド及びその加水分解重合物を含む場合、分散液の塗布後の基材加熱温度を100℃以上とすることで、塗膜中に含まれるアルコキシドまたはその加水分解重合物の重合反応を殆ど完結させることができる。重合反応を殆ど完結させることで、水や有機溶媒が膜中に残留して加熱後の膜の可視光透過率の低減の原因となることを回避できることから、前記加熱温度は100℃以上が好ましく、さらに好ましくは分散液中の溶媒の沸点以上である。
【0059】
熱線遮蔽体形成用分散液が、樹脂バインダーまたは無機バインダーを含まない場合、樹脂フィルム基板上に得られる被膜は、タングステン酸化物の微粒子のみが堆積した膜構造になる。そして当該被膜はこのままでも熱線遮蔽効果を示す。しかし、この膜上へ、さらに珪素、ジルコニウム、チタン、またはアルミニウムの金属アルコキシドやこれらの部分加水分解縮重合物などの無機バインダー、または樹脂バインダーを含む塗布液を塗布して被膜を形成して多層膜とするとよい。当該構成を採ることにより、前記塗布液成分が第1層のタングステン酸化物の微粒子の堆積した間隙を埋めて成膜されるため、膜のヘイズが低減して可視光透過率が向上し、また微粒子の樹脂フィルム基板への結着性が向上する。
当該樹脂フィルム基板上に吸収層を形成する際、樹脂フィルム表面に対し、樹脂バインダーとの結着性向上を目的として、予めコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、プライマー層コート処理などによる表面処理を施してもよい。
【0060】
〈E.樹脂フィルム基板の内部に、熱線遮蔽体用微粒子を含有する添加液、選択波長吸収材料を含有する添加液、熱線遮蔽体用微粒子および選択波長吸収材料を含有する添加液から選択される添加液を添加し、中間膜を得る手法〉
ビニル系樹脂を初めとする上述した熱可塑性樹脂を、その融点付近の温度(例えば、200〜300℃前後)で加熱し、熱線遮蔽体用微粒子を含有する添加液および/または選択波長吸収材料を含有する添加液混合する。そして、当該樹脂と吸収材料との混合物をペレット化し、所定の方式でフィルムを形成し吸収フィルム基板を得る。当該形成には、例えば、押し出し成形法、インフレーション成形法、溶液流延法、キャスティング法などにより形成可能である。この時の中間膜の厚さは、使用目的に応じて適宜選定すればよい。当該樹脂に添加する吸収材料量は、中間膜の厚さや必要とされる光学特性、機械特性に応じ適宜設定すれば良いが、一般的に樹脂に対して50重量%以下が好ましい。
【0061】
以上〈D.〉〈E.〉の手法は、所望によりそれぞれ任意に選択することができる。熱線遮蔽機能を持つ微粒子と選択波長吸収材料との双方を〈E.〉の手法で、吸収フィルム基板の内部に含有させることもできる。また、〈E.〉の手法で一方の吸収材料を含有させた吸収フィルム基板の少なくとも片面上に、〈D.〉の手法で他方の吸収材料を含有する吸収膜を形成してもよい。また、樹脂フィルム基板の一方の面上に〈D.〉の手法で吸収材料の一方を含有する吸収膜を形成し、当該樹脂フィルムの他方の面上に〈D.〉の手法で他方の吸収材料を含有する吸収膜を形成してもよい。また、樹脂フィルムや吸収フィルムの少なくとも片面上に〈D.〉の手法で熱線遮蔽微粒子を持つ微粒子と選択波長吸収材料の双方を同時に含有する吸収膜を形成してもよい。
【0062】
一方、中間膜のシートを複数枚(例えば、2枚)準備する。そして、上述した、少なくとも片面上に吸収層が形成された樹脂フィルム基板、または/および、内部に吸収材料を含む樹脂フィルム基板(吸収フィルム基板)、を当該複数枚の中間膜のシートの間に介在させて中間層とすることが好ましい。
当該構成を採ることで、前記少なくとも片面に熱線遮蔽層が形成された樹脂フィルム基板または内部に熱線遮蔽機能を有する微粒子を含む吸収フィルム基板と、合わせ板との間で接着性に関する問題が起きるのを回避できるからである。ここで、2層以上の積層した中間膜の内の1層以上に、他の吸収材料や、UVカット、色調調整、等の効果を有する適宜な添加剤を含有させても勿論よい。該中間層を板ガラス、プラスチックから選ばれた2枚の合わせ板の間に挟み込んで貼り合わせることにより、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体を実現することができる。
【0063】
〈F.その他の添加剤〉
本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体へは、さらに所望により、一般的な添加剤を配合することも可能である。
例えば、所望により、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体へ波長選択吸収材料の添加のみによっては実現しきれない任意の色調を与えたい場合、アゾ系染料、シアニン系染料、キノリン系、ペリレン系染料、カーボンブラック等、一般的に熱可塑性樹脂の着色に利用されている染料、顔料を添加しても良い。
また、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体への吸収材料の添加とは別に、紫外線吸収剤としてヒンダードフェノール系、リン系等の安定剤、離型剤、ヒドロキシベンゾフェノン系、サリチル酸系、HALS系、トリアゾール系、トリアジン系等の有機紫外線、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機紫外線吸収剤を添加しても良い。さらに、添加剤としてカップリング剤、界面活性剤、帯電防止剤、安定剤、酸化防止剤等を添加しても良い。
【0064】
(まとめ)
以上、詳細に説明したように、本発明に係る熱線遮蔽用合わせ構造体では、可視光の大半を透過しつつ太陽光からの近赤外線を強く吸収する複合タングステン酸化物微粒子と、複合タングステン酸化物微粒子が吸収しきれない可視光短波長から紫外光にかけての波長を吸収する選択波長吸収材料とを含有させることで、優れた光学的特性と、グレーから緑色にかけて選択可能な色調を有する。
さらに、本発明の熱線遮蔽用合わせ構造体における中間膜の主成分として、ポリビニルアセタール樹脂等のビニル系樹脂を用いた場合においても、優れた光学的特性と高い耐候性とを発揮した。
この結果、本発明の熱線遮蔽用合わせ構造体は、自動車のはめ込みガラス、サイドガラスおよびリヤガラス、鉄道車両の扉ガラスや窓ガラスおよび室内ドアガラス、ビル等の建物における窓ガラスおよび室内ドアガラス等、室内展示用ショーケースおよびショーウィンドー等、種々の用途に使用することができる。
特に、当該熱線遮蔽合わせ構造体をフロントガラスとして自動車に搭載することで、夏場の車内温度上昇を抑制し、エアコンの負荷軽減が可能となる。その結果、自動車の燃費向上、温室効果ガス排出量削減に寄与することが期待できる。さらに、今後、急速な普及が見込まれる電気自動車に当該熱線遮蔽合わせ構造体を搭載することで、エアコンに消費される電力の削減が可能となり、飛躍的な走行距離の増加が期待出来ることから、自動車の設計上、将来的に必須の部材となることが予想される。
【実施例】
【0065】
以下、実施例と比較例とによって、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
本実施例において、可視光透過率、日射透過率は、日立製作所製の分光光度計を用いて波長200〜2500nmの光の透過率により測定し、JIS R 3106に従って算出した。なお、当該日射透過率は、熱線遮蔽用合わせ構造体の熱線遮蔽性能を示す指標である。また色味b値は、同様に測定した200〜2500nmの光の透過率から、JIS Z 8729およびJIS Z 8701に従って算出した。
【0066】
(実施例1)
Cs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.75重量部、選択波長吸収材料としてC.I.ピグメントイエロー138(波長550nmの光に対する透過率が90%のときの、波長400nmの光に対する透過率は約3%;本明細書において「キノフタロン化合物A」と記載する場合がある。)を0.25重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃)である微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行い、平均分散粒子径80nmのCs0.33WO微粒子とキノフタロン化合物Aの分散液を作製した(A液)。このときA液中に含まれる熱線遮蔽機能を有する微粒子と選択波長吸収材料の重量割合は、[熱線遮蔽機能を有する微粒子]/[選択波長吸収材料]=98.8/1.2である。
このA液と熱硬化性アクリル樹脂(固形分100%)と4−メチル−2−ペンタノンを十分混合し塗布液とした。この塗布液を、バーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)上に塗布、成膜し、この膜を130℃/30分加熱硬化させ、熱線遮蔽層Aを得た。
当該熱線遮蔽層Aを2枚の中間膜用エチレン−酢酸ビニル共重合体シート間に配置し、これを2枚の対向する無機の透明板ガラスで挟み込み、公知の方法で張り合わせ一体化して、実施例1に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Aを得た。作製された構造体Aの光学特性を表1に示す。
また、表1には下記の実施例2〜20および比較例1〜5で得られた結果についても示す。
【0067】
(実施例2)
分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.9重量部、キノフタロン化合物Aを0.1重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Bを得た。作製された構造体Bの光学特性を表1に示す。
【0068】
(実施例3)
分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.5重量部、キノフタロン化合物Aを0.5重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Cを得た。作製された構造体Cの光学特性を表1に示す。
【0069】
(実施例4)
分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を18重量部、キノフタロン化合物Aを2重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Dを得た。作製された構造体Dの光学特性を表1に示す。
【0070】
(実施例5)
分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を14重量部、キノフタロン化合物Aを6重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例5に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Eを得た。作製された構造体Eの光学特性を表1に示す。
【0071】
(実施例6)
Cs0.33WO微粒子をRb0.33WO微粒子(比表面積20m/g)で代替した以外は実施例1と同様にして、実施例6に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Fを得た。作製された構造体Fの光学特性を表1に示す。
【0072】
(実施例7)
Cs0.33WO微粒子をK0.33WO微粒子(比表面積20m/g)で代替した以外は実施例1と同様にして、実施例7に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Gを得た。作製された構造体Gの光学特性を表1に示す。
【0073】
(実施例8)
Cs0.33WO微粒子をTl0.33WO微粒子(比表面積20m/g)で代替した以外は実施例1と同様にして、実施例8に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Hを得た。作製された構造体Hの光学特性を表1に示す。
【0074】
(実施例9)
選択波長吸収材料を、キノフタロン化合物Aから、C.I.ソルベントイエロー33(波長550nmの光に対する透過率が90%のときの、波長400nmの光に対する透過率は約0%;本明細書において「キノフタロン化合物B」と記載する場合がある。)に代替した。
そして、分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を98.7重量部、キノフタロン化合物Bを1.3重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Iを得た。作製された構造体Iの光学特性を表1に示す。
【0075】
(実施例10)
選択波長吸収材料を、キノフタロン化合物Aから、C.I.ソルベントイエロー114(波長550nmの光に対する透過率が90%のときの、波長400nmの光に対する透過率は約0%;本明細書において「キノフタロン化合物C」と記載する場合がある。)に代替した。
そして、分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.7重量部、キノフタロン化合物Cを0.3重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例10に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Jを得た。作製された構造体Jの光学特性を表1に示す。
【0076】
(実施例11)
選択波長吸収材料を、キノフタロン化合物Aから、C.I.ピグメントイエロー150(波長550nmの光に対する透過率が90%のときの、波長400nmの光に対する透過率は約12%;本明細書において「ニッケルアゾ化合物」と記載する場合がある。)に代替した。
そして、分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.8重量部、ニッケルアゾ化合物を0.2重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例11に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Kを得た。作製された構造体Kの光学特性を表1に示す。
【0077】
(実施例12)
選択波長吸収材料を、キノフタロン化合物Aから、C.I.ピグメントイエロー139(波長550nmの光に対する透過率が90%のときの、波長400nmの光に対する透過率は約35%;本明細書において「イソインドリン化合物」と記載する場合がある。)に代替した。
そして、分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.88重量部、イソインドリン化合物を0.12重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例12に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Lを得た。作製された構造体Lの光学特性を表1に示す。
【0078】
(実施例13)
選択波長吸収材料を、キノフタロン化合物Aから、C.I.ピグメントイエロー110(波長550nmの光に対する透過率が90%のときの、波長400nmの光に対する透過率は約20%;本明細書において「イソインドリノン化合物」と記載する場合がある。)に代替した。
そして、分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.82重量部、イソインドリノン化合物を0.18重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例13に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Mを得た。作製された構造体Mの光学特性を表1に示す。
【0079】
(実施例14)
選択波長吸収材料を、キノフタロン化合物Aから、C.I.ピグメントイエロー213(波長550nmの光に対する透過率が90%のときの、波長400nmの光に対する透過率は約25%;本明細書において「キノキサリン化合物」と記載する場合がある。)に代替した。
そして、分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.84重量部、キノキサリン化合物を0.16重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例14に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Nを得た。作製された構造体Nの光学特性を表1に示す。
【0080】
(実施例15)
選択波長吸収材料を、キノフタロン化合物Aから、C.I.ピグメントイエロー128(波長550nmの光に対する透過率が90%のときの、波長400nmの光に対する透過率は約35%;本明細書において「縮合ジアゾ化合物」と記載する場合がある。)に代替した。
そして、分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.86重量部、縮合ジアゾ化合物を0.14重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例15に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Oを得た。作製された構造体Oの光学特性を表1に示す。
【0081】
(実施例16)
選択波長吸収材料を、キノフタロン化合物Aから、C.I.ソルベントイエロー21(波長550nmの光に対する透過率が90%のときの、波長400nmの光に対する透過率は約6%;本明細書において「アゾ・クロム錯体化合物」と記載する場合がある。)に代替した。
そして、分散液を作製する際の組成をCs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.86重量部、アゾ・クロム錯体化合物を0.14重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例16に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Pを得た。作製された構造体Pの光学特性を表1に示す。
【0082】
(実施例17)
エチレン―酢酸ビニル共重合体をポリビニルブチラール樹脂で代替した以外は実施例1と同様にして、実施例17に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Qを得た。作製された構造体Qの光学特性を表1に示す。
【0083】
(実施例18)
2枚の無機の透明板ガラスのうち1枚をポリカーボネート板で代替した以外は実施例1と同様にして、実施例18に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Rを得た。作製された構造体Rの光学特性を表1に示す。
【0084】
(実施例19)
実施例1で作製したA液と、熱硬化性アクリル樹脂(固形分100%)と、4−メチル−2−ペンタノンを十分混合し塗布液とした。この塗布液を、バーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)上に塗布、成膜し、この膜を130℃/30分間、加熱硬化させ、熱線遮蔽層Sを得た。
当該熱線遮蔽層Sを2枚の中間膜用エチレン−酢酸ビニル共重合体シート間に配置し、これを1枚の無機の透明板ガラスと1枚のグリーンガラス(2mm厚)で挟み込み、公知の方法で張り合わせ一体化して、実施例19に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Sを得た。作製された構造体Sの光学特性を表1に示す。
【0085】
(実施例20)
2枚の無機の透明板ガラスのうち1枚を、CuおよびPを成分として含有する公知の熱線吸収ガラス(3mm厚、単独で測定された可視光透過率88.3%、単独で測定された日射透過率50.3%)で代替した以外は実施例1と同様にして、実施例20に係る熱線遮蔽用合わせ構造体Tを得た。作製された構造体Tの光学特性を表1に示す。
【0086】
(比較例1)
分散液を作製する際の組成を、Cs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を20重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とし、選択波長吸収材料を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る熱線遮蔽用合わせ構造体αを得た。作製された構造体αの光学特性を表1に示す。
【0087】
(比較例2)
分散液を作製する際の組成を、Cs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.98重量部、キノフタロン化合物Aを0.02重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る熱線遮蔽用合わせ構造体βを得た。作製された構造体βの光学特性を表1に示す。
【0088】
(比較例3)
分散液を作製する際の組成を、Cs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を12重量部、キノフタロン化合物Aを8重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、比較例3に係る熱線遮蔽用合わせ構造体γを得た。作製された構造体γの光学特性を表1に示す。
【0089】
(比較例4)
分散液を作製する際の組成を、Cs0.33WO微粒子(比表面積20m/g)を19.8重量部、酸化鉄(III)(波長550nmの光に対する透過率が90%のときの、波長400nmの光に対する透過率は約60%)を0.2重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とした以外は実施例1と同様にして、比較例4に係る熱線遮蔽用合わせ構造体δを得た。作製された構造体δの光学特性を表1に示す。
【0090】
(比較例5)
分散液を作製する際の組成を、キノフタロン化合物Aを20重量部、4−メチル−2−ペンタノンを70重量部、微粒子分散用分散剤10重量部とし、熱線遮蔽機能を有する微粒子を添加しなかった以外は実施例1と同様にして、比較例5に係る熱線遮蔽用合わせ構造体εを得た。作製された構造体ηの光学特性を表1に示す。
【0091】
[評価]
実施例1〜20においては、高い可視光透過性と、優れた熱線遮蔽特性とを有し、色味b値が0≦b≦80の範囲にある、即ちグレーから緑色の色調を有する熱線遮蔽用合わせ構造体A〜Tが得られた。
一方、比較例1、2は、選択波長吸収材料を添加しなかった、または、添加量が少なすぎたため、熱線遮蔽特性はほとんど向上せず、合わせ構造体の色調も青色を帯びたままだった。比較例3は、キノフタロン化合物Aの添加量が多すぎたため、可視光透過率を保つのに必要な波長550nm付近の可視光まで大きく吸収してしまい、結果として熱線遮蔽特性が悪化してしまった。比較例4は、熱線遮蔽特性の向上および色調の調整に必要な可視光短波長〜紫外光の吸収が、可視光透過率を保つのに必要な波長550nm付近の可視光の吸収に比して少ない酸化鉄(III)を波長選択吸収材料として用いたために、色調が十分に変化していない添加量であるにもかかわらず熱線遮蔽特性が悪化してしまった。比較例5は、可視光の大半を透過しつつ太陽光からの近赤外線を強く吸収する微粒子を添加しなかったために、合わせ構造体が熱線遮蔽機能をほとんど持たなかった。
【0092】
【表1】