特許第6124051号(P6124051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6124051細胞培養シート、およびその製造方法、並びにこれを用いた細胞培養容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6124051
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】細胞培養シート、およびその製造方法、並びにこれを用いた細胞培養容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20170424BHJP
【FI】
   C12M3/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-18062(P2013-18062)
(22)【出願日】2013年2月1日
(65)【公開番号】特開2014-147342(P2014-147342A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年12月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電気学会センサ・マイクロマシン部門大会 第29回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム論文集、第685〜688頁、一般社団法人電気学会、平成24年10月22日発行
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安田 隆
(72)【発明者】
【氏名】山中 誠
(72)【発明者】
【氏名】森迫 勇
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−521951(JP,A)
【文献】 特開2007−187531(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/123655(WO,A1)
【文献】 特開2007−075034(JP,A)
【文献】 特開平04−152885(JP,A)
【文献】 特開2011−155865(JP,A)
【文献】 特開2009−000012(JP,A)
【文献】 特開2012−115262(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/108373(WO,A1)
【文献】 特表2009−508322(JP,A)
【文献】 特開2009−229809(JP,A)
【文献】 特開2003−294975(JP,A)
【文献】 ZHANG, S. et al.,"Microfabricated silicon nitride membranes for hepatocyte sandwich culture",Biomaterials,2008年,Vol. 29,pp. 3993-4002
【文献】 MA, S. H. et al.,"An endothelial and astrocyte co-culture model of the blood-brain barrier utilizing an ultra-thin, nanofabricated silicon nitride membrane",Lab Chip,2005年,Vol. 5,pp. 74-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な無機材料を含む第1の無機層を有する、細胞培養シートであって、
前記第1の無機層が、少なくとも1つの微小孔を有し、
前記第1の無機層の培養面が、平面視において少なくとも一部に曲線を含む形状を有し、
前記微小孔を構成する任意の2点のうち、最大となる部分の長さが5〜10μmである、細胞培養シート。
【請求項2】
前記第1の無機層における開孔率が、1〜70%である、請求項1に記載の細胞培養シート。
【請求項3】
透明な無機材料を含む第1の無機層を有する、細胞培養シートであって、
前記第1の無機層が、少なくとも1つの微小孔を有し、
前記第1の無機層の培養面が、平面視において少なくとも一部に曲線を含む形状を有し、
前記微小孔を構成する任意の2点のうち、最大となる部分の長さが0.1〜5μmであり(ただし、前記微小孔を構成する任意の2点のうち、最大となる部分の長さが5μmである場合を除く)、
前記第1の無機層における開孔率が、20%以下である、細胞培養シート。
【請求項4】
前記微小孔を構成する任意の2点のうち、最大となる部分の長さが0.5〜3μmである、請求項3に記載の細胞培養シート。
【請求項5】
前記無機材料が、窒化ケイ素または酸化ケイ素である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞培養シート。
【請求項6】
前記第1の無機層の膜厚が、0.1〜5μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養シート。
【請求項7】
前記第1の無機層の表面粗さ(Ra)が、10nm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の細胞培養シート。
【請求項8】
前記第1の無機層の外周上に配置された外周層をさらに有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の細胞培養シート。
【請求項9】
前記第1の無機層上に仕切り層をさらに有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の細胞培養シート。
【請求項10】
シリコンウエハの一方の面上に透明な無機材料を含む第1の層を形成する工程(1)と、
前記シリコンウエハの他方の面上に透明な無機材料を含む第2の層を形成する工程(2)と、
前記第1の層に、微小孔を形成する工程(3)と、
前記第2の層にエッチング窓を形成する工程(4)と、
前記第2の層の方向から結晶異方性エッチングを行う工程(5)と、
を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の細胞培養シートの製造方法。
【請求項11】
前記第2の層が、前記シリコンウエハの(100)面に形成される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記結晶異方性エッチングが、水酸化テトラメチルアンモニウムおよび界面活性剤を含むエッチング液を用いて行われる、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜のいずれか1項に記載の細胞培養シート
前記細胞培養シートの外周縁に接触する、または隙間を隔てて向かい合う内壁面を備える筒状部材と、
を含む、細胞培養容器。
【請求項14】
前記細胞培養シートが、前記筒状部材の底面に配置される、請求項13に記載の細胞培養容器。
【請求項15】
前記細胞培養シートが、前記筒状部材の中央部に配置される、請求項13に記載の細胞培養容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養シート、およびその製造方法、並びにこれを用いた細胞培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ医薬に係る技術や、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)に係る技術等の研究が盛んに行われている。これらの技術の研究においては、細胞、組織、器官等を効率良く培養、解析することが求められている。
【0003】
これまで、効率良く細胞等の培養、解析を行うためのいくつかの手法が報告されている。当該手法としては、例えば、細胞等を培養する際に細胞等の足場となる機能を有する細胞培養シートを工夫する方法が提案されている。なお、細胞培養シートは、一般に、微小孔を有しており、例えば、微小孔から培地の栄養素が供給される等により、細胞等の好適な培養環境を実現することができる。
【0004】
細胞培養シートの構造を工夫する方法の具体的な例として、例えば特許文献1には、可視または赤外領域の波長の光に対して透明な微小孔あきシートの形態の固体材料であって、シートが無孔の状態で透明な材料からなり、シートの両面において隣接する2孔間の平均距離が5μm以上、好ましくは7μm以上であることを特徴とする、微小孔あき固体シート材料(細胞培養シート)に係る発明が記載されている。特許文献1に係る細胞培養シートによれば、微小孔の間の平均距離を所定の値以上にすることにより、可視光線および赤外領域の波長に対して完全に透明であることが記載されている。これにより、例えば、顕微鏡で細胞等を観察する際に鮮明な観察画像を得ることができ、培養した細胞等の解析を効率良く行うことが可能となりうる。
【0005】
なお、特許文献1に記載の細胞培養シートは、可撓性合成ポリマーを材料とし、当該材料に重イオン照射による損傷の痕跡の付与(いわゆる、「トラック(損傷)エッチング」)を行った後、当該損傷を化学処理による浸食(いわゆる「ケミカルエッチング」)を施すという、従来一般に適用される細胞培養シートの製造方法により製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−295145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の細胞培養シートをはじめとする従来の細胞培養シートは、通常、高分子(可撓性ポリマー)を原料としている。しかしながら、高分子を原料とし、トラックエッチングおよびケミカルエッチングを施すことにより製造された細胞培養シートは優れた透明性が得られない場合があることが判明した。また、一定の透明性が得られうる場合であっても、細胞培養シートが有する微小孔の配置等に制約が生じ、所望の培養環境が実現できないことがある。このような場合には、細胞等の培養、解析を効率良く行うことができない可能性がある。
【0008】
これに対し、本発明者らは、透明な無機材料を含み、少なくとも1つの微小孔を有する、矩形板状細胞培養シートを提案している(電気学会センサ・マイクロマシン部門大会 第29回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム論文集、第685〜688頁)。前記矩形板状細胞培養シートは、透明な無機材料を原料としていることから、透明な無機材料に起因する優れた透明性を実現することができる。また、透明性を実現するための微小孔の配置等についての制約がなく、またはほとんどなく、所望の培養環境を実現することができる。その結果、細胞等の培養、解析を効率良く行うことが可能となりうる。
【0009】
本発明者らは、効率良く細胞等の培養、解析を行うため、さらに詳細な検討を行ったところ、上記矩形板状細胞培養シートにおいては、培養した細胞等が細胞培養シート上で不均一に分布する場合があることが判明した。このような場合、細胞等を効率良く培養、解析することができない可能性がある。
【0010】
そこで、本発明は、細胞等をより効率良く培養、解析することができる細胞培養シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究を行った結果、細胞培養シートの材料として透明な無機材料を使用し、かつ、細胞培養シートが平面視において少なくとも一部に曲線を含む形状を有することにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、透明な無機材料を含む第1の無機層を有する細胞培養シートに関する。この際、前記第1の無機層は、少なくとも1つの微小孔を有する。また、前記細胞培養シートは、平面視において少なくとも一部に曲線を含む形状を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞等を効率良く培養、解析することができる細胞培養シートを提供できる。
【0014】
より詳細には、本発明によれば、透明性に優れた細胞培養シートを提供できる。
【0015】
また、本発明によれば、培養した細胞が均一に分布する細胞培養シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本発明の一実施形態に係る細胞培養シートの斜視図である。
図1B図1Aの細胞培養シートの垂直断面図である。
図2A】本発明の一実施形態に係る外周層を有する細胞培養シートの斜視図である。
図2B図2Aの細胞培養シートの垂直断面図である。
図3A】本発明の一実施形態に係る仕切り層を有する細胞培養シートの斜視図である。
図3B図3Aの細胞培養シートの垂直断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る細胞培養シートの製造工程を示す模式図である。
図5】本発明の一実施形態に係る細胞培養装置の斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係る細胞培養装置の斜視図である。
図7】実施例および比較例の細胞培養シートを対比した光線透過率の差異を示す図である。
図8】実施例において、孔径を一定にした場合における微小孔の面積率(開孔率)が光線透過率の及ぼす影響を示す図である。
図9】実施例および比較例の細胞培養シートを使用した場合における、培養細胞の分布の差異を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0018】
<細胞培養シート>
本発明に係る細胞培養シートは、透明な無機材料を含む第1の無機層を有する。この際、前記第1の無機層は、少なくとも1つの微小孔を有する。また、本発明に係る細胞培養シートは、平面視において少なくとも一部に曲線を含む形状を有する。なお、本明細書において、「平面視において少なくとも一部に曲線を含む形状」とは、膜厚を有する板状の形状であって、上面および/または下面が平面視において少なくとも一部の曲線を含む形状を意味する。具体例としては、円板形状、卵形状、長円板形状、楕円板形状、角部にアール部を設けた多角形の板形状等を例示できる。これらのうち、前記「平面視において少なくとも一部に曲線を含む形状」は、円板形状であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る細胞培養シートによれば、細胞、組織、器官等(本願では、これらをまとめて「細胞」と称することがある)を効率良く培養、解析することができる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る細胞培養シートについて、図面を参照しながら説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0021】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る細胞培養シートの斜視図である。図1の細胞培養シート100は円板形状を有する。当該細胞培養シートは、透明な無機材料(例えば、窒化ケイ素)から構成される第1の無機層(窒化ケイ素から構成される無機層)1を有する。この際、第1の無機層1は円形の微小孔2を有する。
【0022】
図1Bは、上記図1Aの細胞培養シートの断面図である。図1Bに示されるように、細胞培養シート100が有する微小孔2は、第1の無機層1を垂直方向(厚み方向)に貫通した構成を有している。
【0023】
以下、本発明に係る細胞培養シートの各構成について説明する。
【0024】
[第1の無機層]
第1の無機層は、細胞を培養する際に細胞の足場となる機能を有する。当該第1の無機層は、透明な無機材料を含む。
【0025】
第1の無機層は透明であることが好ましい。なお、本明細書において、「透明」とは、光線透過率が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることを意味する。この際、前記光線透過率の値は、実施例の方法で測定した値のうち、波長500nm〜600nmにおける光線透過率の値を採用するものとする。
【0026】
第1の無機層の膜厚は、0.1〜5μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることがより好ましい。第1の無機層の膜厚が0.1μm以上であると、細胞の足場としての機械的強度が十分に得られうることから好ましい。一方、第1の無機層の膜厚が5μm以下であると、第1の無機層が高い透明性を有しうることから好ましい。
【0027】
第1の無機層の表面粗さ(Ra)は、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。第1の無機層の表面粗さが10nm以下であると、第1の無機層が高い透明性を有しうることから好ましい。なお、本明細書において、「表面粗さ(Ra)」の値は、JIS B0601(2001)に準拠した方法で測定された値を採用するものとする。
【0028】
(透明な無機材料)
用いられうる透明な無機材料としては、透明な無機の材料であれば特に制限されない。例えば、ケイ素、チタン、亜鉛、スズ、アルミニウムの窒化物、酸化物、酸化窒化物等のうち、透明なものが挙げられる。具体的には、窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化窒化ケイ素(SiON)、酸化窒化チタン(TiON)等が挙げられる。なお、透明でないという観点から、例えば、酸化アルミニウム等については透明な無機材料には含まれない。これらのうち、透明な無機材料は、窒化ケイ素、二酸化ケイ素であることが好ましく、窒化ケイ素であることがより好ましい。上述の透明な無機材料は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
(微小孔)
第1の無機層は少なくとも1つの微小孔を有する。微小孔は、細胞培養シートが担持する細胞に培地の栄養素を供給する等により、細胞の好適な培養環境を実現する機能を有する。なお、本明細書において「微小孔」とは、孔を構成する任意の2点のうち、最大となる部分の長さ(直径)が20μm以下、好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.5〜5μmである孔を意味する。
【0030】
微小孔の形状は、特に制限されないが、円形、楕円形、三角形、四角形、五角形、六角形等でありうる。微小孔の形状は、1種のみであっても、2種以上が混合したものであってもよい。微小孔の形状は、培養しようとする細胞や、培養の目的等に応じて適宜設定されうる。
【0031】
微小孔の角度、すなわち、第1の無機層の垂直断面において、第1の無機層の面に対する微小孔の断面がなす角度は、80〜100度であることが好ましく、85〜95度であることがより好ましく、90度であることがさらに好ましい。前記微小孔の角度が上記範囲内にあると、光の散乱や吸収を防止することができ、細胞培養シートが高い透明性を有することから好ましい。
【0032】
第1の無機層における微小孔の面積率は、微小孔の孔径によっても異なるが、10〜70%であることが好ましく、10〜50%であることがより好ましく、10〜20%であることがさらに好ましい。微小孔の面積率が10%以上であると、微小孔を通じた栄養素の供給が円滑に行われうることから好ましい。一方、微小孔の面積率が70%以下であると、高い透明性が得られうることから好ましい。この際、微小孔の孔径が大きいほど、面積率が高値となっても高い透明性を実現できる傾向がある。
【0033】
微小孔の分布は、細胞培養シート上の細胞を同等の条件で培養できる観点から、均一であることが好ましい。しかし、培養の目的等に応じて、微小孔の分布を不均一なものとしてもよい。
【0034】
(表面修飾)
前記第1の無機層は、培養の目的等に応じて、その表面が機能性分子で修飾(表面修飾)されていてもよい。第1の無機層の表面が機能性分子で修飾されることにより、例えば、細胞培養シート上に配置される細胞を細胞培養シートに高い接着性で固定させること、細胞の増殖を促進させること等が可能となる。
【0035】
前記機能性分子は、通常、第1の無機層を構成する無機材料に導入された官能基を介して化学的に結合する。すなわち、表面修飾された細胞培養シートは、第1の無機層上に官能基を介して機能性分子が結合した構成を有しうる。
【0036】
前記機能性分子としては、特に制限されず、適宜選択されうる。具体的な機能性分子としては、コラーゲン、プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン、エラスチン、ヒアルロン酸、テネイシン等の細胞外マトリクス;アルギニン−グリシン−アスパラギン酸、ロイシン−アスパラギン酸−バリン、アルギニン−グルタミン酸−アスパラギン酸−バリン等の細胞接着ペプチド;ポリ−L−リジン、ポリ−L−オルニチン等の合成分子が挙げられる。
【0037】
前記官能基としては、前記機能性分子と結合を形成しうるものであれば特に制限されないが、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、チオール基、活性化エステル基、マレイミド基等が挙げられる。これらのうち、前記機能性分子との結合形成が容易であるという観点から、前記官能基は、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、活性化エステル基であることが好ましく、アミノ基、カルボキシ基であることがより好ましい。なお、前記官能基は、例えば、第1の無機層をプラズマ処理等した後に、前期官能基を有するシランカップリング剤等を作用させることで、透明な無機材料に導入することができる。
【0038】
[外周層]
細胞培養シートは、第1の無機層の外周上に外周層をさらに有していてもよい。外周層は、基材層を含む。前記外周層は、必要に応じて、透明な無機材料を含む第2の無機層やその他の任意の層をさらに有してもよい。
【0039】
細胞培養シートが外周層を有することにより、細胞培養シートの外周面の機械的強度が向上しうる。また、後述する細胞培養容器を形成する際、円筒部材に細胞培養シートを好適に配置することができる。
【0040】
図2Aには、本発明の一実施形態に係る外周層を有する細胞培養シートの斜視図を示す。図2Aの細胞培養シート200は円板形状を有し、微小孔2が形成された第1の無機層1の外周円上に外周層3を有する。当該外周層3は、基材層(例えば、シリコンウエハ)4と第2の無機層(例えば、窒化ケイ素の無機層)5を有する。
【0041】
図2Bには、上記図2Aの細胞培養シート200の垂直断面図を示す。図2Bによれば、外周層3は、第1の無機層1の面に対して基材層4の露出面(例えば、シリコンウエハの(111)面)がなす傾斜角θを有するように形成されている。その結果、第1の無機層1と接する基材層4の幅mは、第2の無機層5と接する基材層4の幅nよりも大きくなっている。
【0042】
外周層は、上記図2Bに示すように、第1の無機層の面に対して基材層の露出面がなす傾斜角を有することが好ましい。当該傾斜角は、0度超90度以下であることが好ましく、45〜90度であることがより好ましい。ただし、本形態に係る細胞培養シートはこれに限定されず、傾斜角が90度超であってもよい。傾斜角が90度超である場合には、上記図2Bにおける第1の無機層1と接する基材層4の幅mは、第2の無機層5と接する基材層4の幅nよりも小さくなる。
【0043】
(基材層)
基材層は、外周層の必須の構成要素である。
【0044】
基材層を構成する材料としては、特に制限されないが、シリコンウエハ、シリコンカーバイドウエハ、サファイアウエハ、リン化ガリウムウエハ、ヒ化ガリウムウエハ、リン化インジウムウエハ、窒化ガリウムウエハ、ガラス、石英、セラミック等が挙げられる。
【0045】
基材層の膜厚は、200μm以上であることが好ましく、250〜350μmであることがより好ましい。
【0046】
第1の無機層と接する面における基材層の幅は、0.5〜3mmであることが好ましく、1〜2mmであることがより好ましい。
【0047】
また、基材層の第1の無機層が配置された面とは反対の面(基材層上に第2の無機層を有する場合には、第2の無機層と接する面)における基材層の幅は、0.1〜2mmであることが好ましく、0.5〜1.5mmであることがより好ましい。
【0048】
(第2の無機層)
第2の無機層は、外周層の任意の構成要素である。前記第2の無機層は、透明な無機材料を含む。
【0049】
前記無機材料は、上記第1の無機層と同様のものが用いられうることからここでは説明を省略する。なお、第2の無機層を構成する透明な無機材料は、第1の無機層を構成する透明な無機材料と同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0050】
第2の無機層の膜厚は、0.5μm以上であることが好ましく、1〜2μmであることがより好ましい。
【0051】
[仕切り層]
細胞培養シートは、第1の無機層上に仕切り層をさらに有していてもよい。仕切り層は、基材層を含む。前記仕切り層は、必要に応じて、透明な無機材料を含む第2の無機層やその他の任意の層をさらに有してもよい。なお、本明細書において「仕切り層」とは、第1の無機層を少なくとも2つの領域に分離する層を意味する。
【0052】
細胞培養シートが仕切り層を有することにより、細胞培養シートの膜強度が向上しうる。
【0053】
図3Aには、本発明の一実施形態に係る仕切り層を有する細胞培養シートの斜視図を示す。図3Aの細胞培養シート300は円板形状を有し、微小孔2が形成された第1の無機層1上に、縦方向に2つ、横方向に1つの仕切り層6を有する。当該仕切り層6は、基材層4と第2の無機層5を有する。
【0054】
図3Bには、上記図3Aの細胞培養シート300の垂直断面図を示す。図3Bによれば、仕切り層6は、外周層と同様に、第1の無機層1の面に対して基材層4の露出面(例えば、シリコンウエハの(111)面)がなす傾斜角θを有するように形成されている。その結果、第1の無機層1と接する基材層4の幅mは、第2の無機層5と接する基材層4の幅nよりも大きくなっている。
【0055】
仕切り層は、上記図3Bに示すように、第1の無機層の面に対して基材層の露出面がなす傾斜角を有することが好ましい。当該傾斜角は、0度超90度以下であることが好ましく、45〜90度であることがより好ましい。ただし、上記外周層と同様に、本形態に係る細胞培養シートはこれに限定されず、傾斜角が90度超であってもよい。
【0056】
仕切り層の数は、特に制限されず、所望の細胞培養シートに応じて適宜設定されうる。
【0057】
仕切り層の形状は、特に制限されず、直線状であっても、曲線状であってもよい。
【0058】
仕切り層の配置についても特に制限されないが、中央部に配置しても、端部に配置してもよい。なお、2以上の仕切り層を有する場合には、当該仕切り層が、格子状、ひし形状の形態で配置されることが好ましい。
【0059】
なお、本発明の一実施形態において、細胞培養シートは、外周層および仕切り層をともに有することが好ましい。
【0060】
(基材層)
基材層は、仕切り層の必須の構成要素である。
【0061】
基材層は、上述と同様のものが用いられうることから、ここでは説明を省略する。
【0062】
基材層の膜厚は、200μm以上であることが好ましく、250〜350μmであることがより好ましい。
【0063】
第1の無機層と接する面における基材層の幅は、10〜800μmであることが好ましく、50〜350μmであることがより好ましい。
【0064】
また、基材層の第1の無機層が配置された面とは反対の面(基材層上に第2の無機層を有する場合には、第2の無機層と接する面)における基材層の幅は、10〜200μmであることが好ましく、50〜100μmであることがより好ましい。
【0065】
(第2の無機層)
第2の無機層は、仕切り層の任意の構成要素である。
【0066】
第2の無機層は、上述と同様のものが用いられうることから、ここでは説明を省略する。
【0067】
第2の無機層の膜厚は、0.5μm以上であることが好ましく、1〜2μmであることがより好ましい。
【0068】
本発明の一実施形態において、細胞培養シートの培養面は、10mm以上であることが好ましく、20〜500mmであることがより好ましい。培養面が10mm以上であると、培養可能な細胞数が多くなることから好ましい。なお、「培養面」とは、細胞が配置可能な第1の無機層の表面積を意味する。例えば、細胞培養シートが外周層を備える場合には、外周層が形成された部分を除く第1の無機層の表面積である。本発明の一実施形態において、前記培養面は、円形、長円形、楕円形、角部にアール部を設けた多角形の形状であることが好ましく、円形であることがより好ましい。
【0069】
本発明に係る細胞培養シートによれば、細胞を効率良く培養、解析することができる。
【0070】
具体的には、本発明に係る細胞培養シートは、透明性に優れる。その結果、例えば、細胞を解析するために、細胞を細胞培養シートの裏面から観察した細胞観察像が鮮明に得られうることから、細胞の解析を効率良く行うことが可能となりうる。
【0071】
従来の細胞培養シートは、高分子を材料とするものが多く、通常、10μm以上の膜厚を有するため、細胞培養シートが有する微小孔内で光の散乱や吸収が起こりやすい。特に、所望とする培養を実現する等の目的で、微小孔の孔径を小さく、および/または微小孔の面積率を大きくするほど、前記光の散乱や吸収がより起こりやすくなる。また、高分子を材料とする細胞培養シートは、その表面粗さが大きくなり、細胞培養シート面においても光の散乱や吸収が起こりやすい。さらに、高分子を材料とする細胞培養シートは、その製造方法において、通常、トラックエッチングおよびケミカルエッチングを施すことにより製造されている。よって、上記微小孔の形成方法に起因して、微小孔の角度(細胞培養シートの垂直断面において、細胞培養の表面に対する微小孔の断面がなす角度)が垂直ではなく斜めに形成されることがあり、その結果として、微小孔内における光の散乱や吸収をより増大しうる。したがって、高分子を材料とする細胞培養シートは、優れた透明性を実現することが困難である。そのため、優れた透明性を得るためには、特許文献1のように、微小孔の配置等を適宜規定する必要がある。しかし、これらの透明性を得るために規定された微小孔を有する細胞培養シートでは、培養しようとする細胞や、細胞培養の目的によっては適用できないこともありうる。
【0072】
一方、本形態に係る細胞培養シートによれば、細胞を配置することとなる第1の無機層は、それ自体優れた透明性を有する無機材料を含む。また、第1の無機層は、上述のように、薄膜であり、表面粗さも低値である。さらに、微小孔の角度も垂直またはこれに近い形状で構成されうる。よって、本発明の一実施形態によれば、微小孔等を特別に規定することなく、透明性に優れる細胞培養シートが得られうる。その結果、培養しようとする細胞や、細胞培養の目的に応じて微小孔の密度や配置等を適宜調節することができる。
【0073】
また、本発明に係る細胞培養シートは、表面修飾により好適に機能性分子を配置することができる。その結果、細胞培養シートは、細胞を高い接着性で固定させること、細胞の増殖を促進させること等が可能となりうる。
【0074】
従来の高分子を材料とする細胞培養シートは、機能性分子(例えば、コラーゲン)を物理吸着させることによって表面処理されていた。その結果、機能性分子の細胞培養シート表面への結合が弱く、機能性分子が剥離することがあった。また、物理吸着による表面処理の場合、機能性分子の細胞培養シート上における分布は不均一となることがあり、細胞の培養や解析において、例えば、再現性が得られないという不都合が生じることがあった。なお、高分子表面を親水化する方法や、プラズマ照射等でポリマーに官能基を形成して、化学結合により機能性分子を導入する試みも行われている。しかしながら、高分子に存在する官能基は、熱力学的安定性等の観点から、ポリマー内部に位置する構造をとりやすく、官能基を介して機能性分子を導入しても、配置された機能性分子の状態が不安定となりうる。
【0075】
一方、本発明に係る細胞培養シートによれば、第1の無機層が透明な無機材料を含む。そのため、透明な無機材料表面には、容易に官能基を導入することができ、また、導入された官能基も第1の無機層の外側に位置している。その結果、機能性分子を化学結合により導入することができ、導入された機能性分子も第1の無機層表面に安定に存在することができる。また、導入された機能性分子は均一な分布を有しうる。
【0076】
その他、本発明に係る細胞培養シートは、高分子を材料とする従来の細胞培養シートと対比して、高い耐熱性、耐薬品性を有する。その結果、細胞の培養前に、オートクレーブ滅菌(高圧蒸気滅菌)や感熱滅菌(160〜200℃、30分〜2時間)等を行うことができ、好適な培養環境を提供することができる。また、薬物等を使用した細胞の培養、解析等を好適に行うことができる。
【0077】
また、本発明に係る細胞培養シートは、高分子を材料とする従来の細胞培養シートと対比して、自家発光が少ない。その結果、細胞を蛍光観察する場合において、バックグラウンドが少なく、高いS/N比の観察画像を得ることができる。
【0078】
本発明に係る細胞培養シートはまた、平面視において少なくとも一部に曲線を含む形状を有していることから、細胞を効率良く培養、解析することができる。
【0079】
本発明者らが報告した矩形板状細胞培養シートは、細胞を培養する表面が矩形であるため、細胞培養シート上に配置される培養成分が四隅において生じうる屈曲(凹型メニスカス等)等の影響により、培養した細胞の分布が不均一になりうる。
【0080】
一方、本発明に係る細胞培養シートによれば、細胞を培養する表面は平面視において少なくとも一部に曲線を含むことから、培養成分が均一となり、培養した細胞の分布も均一となりうる。
【0081】
また、本発明のように、細胞培養シートが平面視において少なくとも一部に曲線を含む形状を有することによって、矩形状の形状と比べて、細胞培養シートに付与されうる内部応力を好適に緩和することができ、高い耐久性が得られうる。
【0082】
<細胞培養シートの製造方法>
本発明に係る細胞培養シートは、特に制限されず、種々の方法により製造することができる。例えば、ガラス上に微小孔を形成するためのマスクを形成した後、透明な無機材料を蒸着して無機層を形成し、次いで、形成された無機層を剥離させることにより細胞培養シートを製造する方法;シリコンウエハ上に透明な無機材料を蒸着して無機層を形成し、パターニングしたレジストを用いて無機層をドライエッチングすることにより微小孔を形成し、次いで、形成された無機層を剥離することにより細胞培養シートを製造する方法等が挙げられる。この際、少なくとも一部に曲線を含む表面を有するガラス、シリコンウエハを使用する方法;形成された無機層を加工する方法等を適宜行うことにより、細胞培養シートが、平面視において少なくとも一部に曲線を含む形状を有することとなりうる。
【0083】
以下の説明では、本発明において、好ましい実施形態に係る細胞培養シートの製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0084】
図4は、本発明の一実施形態に係る細胞培養シートの製造工程を示す模式図である。図4によると、(1)はじめにシリコンウエハ7の下面に無機材料(例えば、窒化ケイ素)を含む第1の層(例えば、窒化ケイ素の層)8を形成する。次に、(2)シリコンウエハ7の上面に第2の層(例えば、窒化ケイ素の層)9を形成する。そして、(3)形成した第1の層をエッチングすることにより、微小孔2を形成する。この際、微小孔2が形成された第1の層8が、細胞培養シートにおける第1の無機層に対応する。その後、(4)第2の層9をエッチングすることにより、エッチング窓10を形成する。この際、エッチング窓10が形成された第2の層9が、細胞培養シートにおける外周層を構成する第2の無機層に対応する。最後に、(5)第2の層の方向から、すなわち、エッチング窓10により露出したシリコンウエハ7の表面に対して、結晶異方性エッチングを行う。この際、エッチングが行われた後のシリコンウエハ7が、細胞培養シートの外周層を構成する基材層に対応する。なお、本実施形態においては、図示されていないが、使用したシリコンウエハが円板状であるため、当該シリコンウエハ表面に形成された第1の層も円板状の形状を有している。よって、本実施形態により製造された細胞培養シートは、上述の図2Aおよび図2Bの実施形態に係る細胞培養シートと同様の構成を有する。
【0085】
すなわち、本発明の好ましい一形態においては、細胞培養シートの製造方法が提供される。当該細胞培養シートの製造方法は、シリコンウエハの一方の面上に透明な無機材料を含む第1の層を形成する工程(1)と、前記シリコンウエハの他方の面上に透明な無機材料を含む第2の層を形成する工程(2)と、前記第1の層に微小孔を形成する工程(3)と、前記第2の層にエッチング窓を形成する工程(4)と、前記第2の層の方向から結晶異方性エッチングを行う工程(5)と、を含む。
【0086】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0087】
[工程(1)]
工程(1)は、シリコンウエハの一方の面上に透明な無機材料を含む第1の層を形成する工程である。
【0088】
(シリコンウエハ)
シリコンウエハとしては、特に制限されないが、本形態においては、単結晶構造を有するシリコンウエハを用いる。この際、シリコンウエハが(100)面を表面に有することが好ましい。
【0089】
シリコンウエハの形状は、特に制限されないが、生産性の観点から円板状であることが好ましい。
【0090】
(透明な無機材料)
透明な無機材料としては、上述したものと同様のものが用いられうることからここでは説明を省略する。
【0091】
(第1の層)
第1の層は、通常、シリコンウエハの面上に配置される。この際、第1の層は透明な無機材料を含む。前記第1の層が形成される面は、シリコンウエハの(100)面であることが好ましい。
【0092】
第1の層の膜厚は、0.1〜5μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることがより好ましい。
【0093】
(第1の層の形成方法)
第1の層の形成方法としては、特に制限されず、公知の手法が適用されうる。具体例としては、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等の物理的気相成長法;熱CVD法、触媒化学気相成長法、光CVD法、プラズマCVD法等の化学気相成長法が挙げられる。これらのうち、プラズマCVD法により第1の層を形成することが好ましい。
【0094】
プラズマCVD法の条件は特に制限されず、所望とする第1の層に応じて適宜設定されうる。
【0095】
例えば、第1の層として窒化ケイ素の層を形成する場合、原料ガスとしては、シラン(SiH)ガスと、アンモニア(NH)ガスおよび/または窒素(N)ガスを混合して使用する。これらのガスは、例えば、水素(H)ガス等で希釈してもよい。形成しようとする層の構成に応じて、使用する原料ガスは異なる。例えば、第1の層として窒化酸化ケイ素の層を形成しようとする場合、上記原料ガスに加えてさらに一酸化二窒素(NO)ガスを混合した原料ガスを使用する。
【0096】
また、ガスの混合比や濃度、放電電力、ガスの圧力、シリコンウエハの温度等を適宜設定することで、形成される第1の層の性能、例えば内部応力や屈折率を制御することができる。
【0097】
[工程(2)]
工程(2)は、シリコンウエハの他方の面(第1の層が形成された面とは反対側の面)上に透明な無機材料を含む第2の層を形成する工程である。
【0098】
本工程は、通常、工程(1)と同様の方法で行われる。
【0099】
第2の層が形成される面は、工程(5)において好適に結晶異方性エッチングを行う観点から、シリコンウエハの(100)面であることが好ましい。
【0100】
また、生産性の観点からは、第1の層を構成する透明な無機材料と、第2の層を構成する透明な無機材料と、は同じ材料であることが好ましい。
【0101】
[工程(3)]
工程(3)は、前記第1の層に微小孔を形成する工程である。
【0102】
本発明の一実施形態において、本工程は、より詳細には、第1の層の表面にレジスト層を形成する工程(a)と、工程(a)で形成されたレジストをパターニングする工程(b)と、第1の層をエッチングする工程(c)と、を含む。
【0103】
工程(a)
工程(a)は第1の層の表面にレジスト層を形成する工程である。
【0104】
レジスト層は、レジストを含み、当該レジストはポジ型であっても、ネガ型であってもよい。これらのうち、ポジ型レジストを使用することが好ましい。なお、本明細書において、「ポジ型」とは、露光によって現像液の溶解性が増加するものを意味する。また、「ネガ型」とは、露光によって現像液の溶解性が低下するものを意味する。
【0105】
用いられうるポジ型レジストとしては、特に制限されないが、ジアゾナフトキノン−ノボラック型レジスト、化学増幅ポジ型レジストが挙げられる。ポジ型レジストは、市販品を使用してもよく、当該市販品としては、OFPR800(東京応化工業株式会社製)、AZ1350、AZ1500シリーズ(クラリアントジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0106】
用いられうるネガ型レジストとしては、特に制限されないが、化学増幅ネガ型レジスト、光カチオン重合型レジスト、光ラジカル重合型レジスト、ポリヒドロキシスチレン−ビスアジド型レジスト、環化ゴム−ビスアジド型レジスト、ポリケイ皮酸ビニル型レジスト等が挙げられる。ネガ型レジストは、市販品を使用してもよく、当該市販品としては、ZPN−1150(日本ゼオン株式会社製)等が挙げられる。
【0107】
レジスト層は、溶液状のレジストを塗布法によって塗布し、得られた塗膜を乾燥させることにより形成することができる。
【0108】
塗布方法としては、特に制限されないが、ロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法等の公知の方法が用いられうる。
【0109】
乾燥温度としては、使用するレジストによっても異なるが、80〜150℃であることが好ましい。
【0110】
乾燥時間としては、使用するレジストによっても異なるが、40〜120秒であることが好ましく、60〜90秒であることがより好ましい。
【0111】
工程(b)
工程(b)は、工程(a)で形成されたレジストをパターニングする工程である。
【0112】
パターニングの方法は特に制限されず、公知の手法が適用されうる。当該パターニングの方法としては、例えば、パターニングが施されたマスクを、第1の層上に配置した後、露光を行い、現像する方法が挙げられる。
【0113】
用いられうるマスクとしては、特に制限されないが、ガラス、シリコンウエハ、銅、クロム、鉄、アルミニウム等が挙げられる。
【0114】
露光は、特に制限されないが、紫外線、エキシマレーザー、電子線、X線等が挙げられる。
【0115】
露光方法としては、マスクをレジストへ圧着させて露光する密着露光;マスクとレジストを圧着した後、圧着部を減圧して露光するバキュームコンタクト露光等の方法によって行われうる。
【0116】
現像は、通常、現像液を浸漬することによって行われる。この際、上記レジストとしてポジ型レジストを使用した場合、露光した部分が現像される。他方、レジストとしてネガ型レジストを使用した場合、露光した部分が残存する。
【0117】
用いられうる現像液としては、有機現像液、無機現像液のいずれを用いてもよい。
【0118】
有機現像液に含有されうる有機材料としては、特に制限されないが、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、エチレンジアミンピロカテコール(EDP)等が挙げられる。
【0119】
無機現像液に含有されうる無機材料としては、特に制限されないが、水酸化カリウム、ヒドラジン等が挙げられる。
【0120】
これらの現像液は、使用するレジストに応じて適宜選択されうる。また、現像液には、適宜界面活性剤等の公知の添加剤が添加されうる。
【0121】
現像後は、通常、超純水等のリンス液により洗浄して、加熱することによってリンス液等を除去する。
【0122】
工程(c)
工程(c)は第1の層をエッチングする工程である。
【0123】
エッチングは、通常、ドライエッチングで行われる。前記エッチングは、エッチングガス、イオン、ラジカルなどを用いて行うことができる。当該ドライエッチングとしては、反応性ガスエッチング、反応性イオンエッチング(RIE)、反応性イオンビームエッチング(RIBE)、イオンビームエッチング(IBE)、反応性レーザービームエッチングなどが挙げられる。これらのうち、ドライエッチングは、反応性ガスエッチングまたは反応性イオンエッチングで行うことが好ましく、反応性イオンエッチングで行うことがより好ましい。
【0124】
反応性ガスエッチングに用いられうる反応性ガスとしては、二フッ化キセノン(XeF)ガス等が挙げられる。
【0125】
反応性イオンエッチングに用いられうる反応性ガスとしては、四フッ化炭素(CF)ガス、トリフルオロメタン(CHF)ガス、六フッ化硫黄(SF)ガス等が挙げられる。
【0126】
なお、エッチングにおけるエッチングガスの流量、圧力、エッチング時間等の条件は、第1の層を構成する透明な無機材料の種類、膜厚等に応じて適宜設定されうる。
【0127】
[工程(4)]
工程(4)は、前記第2の層にエッチング窓を形成する工程である。
【0128】
エッチング窓の形成方法は、原則として工程(3)と同様の方法で行われる。ただし、エッチング窓は、後述する工程(5)において、シリコンウエハを露出させて結晶異方性エッチングを行うために形成されるものである。よって、エッチング窓は、微小孔を形成する場合とは異なり、通常、第2の層がシリコンウエハの外周上に残存するような形態でエッチングされうる(すなわち、例えば、シリコンウエハが円板状である場合、エッチング窓は円形であり、シリコンウエハ上の第2の層はドーナツ状の形状を有する)。
【0129】
なお、残存する第2の層は、最終的に細胞培養シートの構成要素となりうる。具体的には、上記のように外周上に残存する第2の層は、最終的に外周層の構成要素となる。また、第2の層が、シリコンウエハを少なくとも2つの領域に分離するように残存している場合には、当該第2の層は仕切り層の構成要素となりうる。
【0130】
[工程(5)]
工程(5)は、第2の層の方向から結晶異方性エッチングを行う工程である。この際、前記第2の層がエッチングマスク層として機能する。
【0131】
結晶異方性エッチングは、通常、工程(4)で得られた積層体を、アルカリ系のエッチング液に浸漬することにより行われる。
【0132】
用いられうるエッチング液としては、特に制限されないが、水酸化カリウム(KOH)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、エチレンジアミンピロカテコール(EDP)等が挙げられる。
【0133】
ここで、好ましい実施形態において、第2の層は、シリコンウエハの(100)面に形成されている。よって、本実施形態においては、工程(4)によってエッチング窓が形成されることにより、露出したシリコンウエハの表面は(100)面となる。
【0134】
一般に、シリコンウエハの(100)面では、Si原子の4つの結合のうち2つの結合が切れており、2つの結合を介してSi原子が連結された構成を有している。他方、シリコンウエハの(100)面に直交する(111)面では、Si原子の4つの結合のうち1つの結合が切れており、3つの結合を介してSi原子が連結された構成を有している。その結果、(100)面と対比して、(111)面は、エッチング速度が遅く、エッチングされにくい。そのため、(100)面の方向からエッチングを行うと、(100)面の方向に対して、約55度の傾斜角を有する(111)面が残留するようにシリコンウエハがエッチングされる。
【0135】
この際、通常のエッチング液を使用してエッチングを行う場合には、残留する複数の(111)面が、エッチングによって露出した第1の層と交差して形成する面、すなわち、細胞を配置する培養面は矩形となり、少なくとも一部に曲線を含む形状とすることができない。
【0136】
そこで、当該培養面を少なくとも一部に曲線を含む形状とするために、上述のエッチング液、好ましくは水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を含むエッチング液に所定の界面活性剤を添加したエッチング液を使用することが好ましい。
【0137】
前記界面活性剤としては、特に制限されないが、(イソオクチルフェノキシ)ポリエトキシエタノール等のアルキルフェノール系界面活性剤(例えば、Triton(登録商標)X-100:GEヘルスケアバイオサイエンス製)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(例えば、NCW-1002:和光純薬工業株式会社製)、ノニルフェノール系界面活性剤(例えば、NC-200:ライオン株式会社製)、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらのうち、Triton(登録商標)X-100を用いることが好ましい。
【0138】
エッチング液中の界面活性剤の含有量としては、特に制限されないが、エッチング液全量に対して、0.01〜0.1質量%であることが好ましく、0.01〜0.05質量%であることがより好ましい。
【0139】
上記エッチング液を使用することにより、エッチングによって露出した第1の層、すなわち、細胞を配置する培養面を少なくとも一部に曲線を含む形状にすることができる。
【0140】
[工程(6)]
本発明の一実施形態において、本形態に係る製造方法は、培養面を表面処理する工程(6)をさらに含んでいてもよい。当該工程(6)は、プラズマ処理により培養面に官能基を導入する工程と、前記官能基に機能性分子を導入する工程と、を含む。
【0141】
<細胞培養容器>
本発明に係る細胞培養シートは、細胞培養容器に好適に使用される。
【0142】
すなわち、本発明の一形態によれば、細胞培養容器が提供される。前記細胞培養容器は、細胞培養シートと、前記細胞培養シートの外周縁に接触する、または隙間を隔てて向かい合う内壁面を備える筒状部材と、を含む。
【0143】
図5には、本発明の一実施形態に係る細胞培養容器の斜視図を示す。図5の細胞培養容器400は、筒状部材として中空円筒部材11を有する。そして、前記細胞培養容器400は、前記中空円筒部材11を構成する円柱の底面の一方に、本発明に係る細胞培養シート100が配置された構成を有する。図5の細胞培養容器において、細胞培養シート100の培養面には、細胞が配置される。そして、中空円筒部材11によって提供されたウェル部には、培養液や薬剤等が導入されうる。これにより、細胞を好適に培養、解析することができる。
【0144】
また、図6には、本発明の別の一実施形態に係る細胞培養容器の斜視図を示す。図6の細胞培養容器500は、筒状部材として中空円筒部材11を有する。そして、前記細胞培養容器500は、前記中空円筒部材11を構成する円柱の軸線方向中央部の水平面に、本発明に係る細胞培養シートが配置された構成を有する。図6の細胞培養容器において、細胞培養シート100の上面または上下両面に細胞が配置される。そして、中空円筒部材によって提供された2つのウェル部には、培養液や薬剤等が導入されうる。これにより、細胞を好適に培養、解析することができる。
【0145】
以下、細胞培養容器の各構成について説明する。
【0146】
[筒状部材]
筒状部材は、細胞培養シートを保持するとともに、ウェルを提供する機能を有する。
【0147】
筒状部材の材料としては、特に制限されないが、ステンレス等の金属;ガラス;シリコン等の無機材料;ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、シクロオレフィンポリマー等の樹脂が挙げられる。
【0148】
筒状部材の形状は、細胞培養シートを保持できるものであれば特に制限されないが、中空円筒部材であることが好ましい。
【0149】
筒状部材の高さとしては、培養しようとする細胞や、培養の目的等に応じて異なり、特に制限されないが、2〜30mmであることが好ましく、8〜20mmであることがより好ましい。
【0150】
筒状部材の底面の大きさとしては、使用する細胞培養シートに応じて適宜設定され、細胞培養シートの外周縁に接触する、または隙間を隔てて向かい合う内壁面を備えるものであれば特に制限はないが、前記筒状部材は、細胞培養シートの外周縁に接触する内壁面を有することが好ましい。
【0151】
筒状部材は単一の材料からなっていてもよいが、2種以上の材料からなっていてもよい。筒状部材が、2種以上の材料、例えば、内筒および外筒から構成される場合には、これらの材料は、螺合、嵌合等によって接続することができる。
【0152】
[細胞培養シート]
細胞培養シートは、筒状部材の筒部に配置される。
【0153】
細胞培養シートは、上述したものが用いられうる。
【0154】
前記培養シートが外周層を有する場合には、筒状部材等と接する面が大きくなることから、細胞培養シートを好適に嵌合することができる。
【0155】
本発明の一実施形態において、前記培養シートは、筒状部材の底面に配置されることが好ましい。
【0156】
また、本発明の別の一実施形態において、前記培養シートは、筒状部材の中央部に配置されることが好ましい。本実施形態に係る細胞培養容器によれば、複数細胞の共培養、物質輸送や細胞移動の評価、薬剤の細胞透過性の評価、細胞の輸送能の評価、細胞間相互作用の評価等の解析がより好適に行うことができる。なお、本明細書において、「筒状部材の中央部」とは、筒状部材の高さに対して、筒状部材の底面から1/7〜6/7の位置、好ましくは3/7〜4/7の位置、さらに好ましくは1/2(すなわち、筒状部材の高さの中央部)の位置を意味する。
【0157】
[その他の部材等]
細胞培養シートや、これを構成する筒状部材は適宜改変を施してもよいし、その他の部材を適宜使用してもよい。例えば、筒状部材を有底筒状に形成してもよい。また、筒状部材の内壁面に取り付けられ、細胞培養シートを筒状部材に対してより好適に固定するための支持部材を設けてもよい。この支持部材は、細胞培養シートの周囲が載置される形態、細胞培養シートの周縁を挟持して支持する形態等、種々の形態が採用されうる。さらに、培養した細胞を細胞培養シートの裏面(培養面とは反対の面)から観察するための観察部材を設けてもよい。これらのその他の部材等については、公知の技術が適宜採用されうる。
【0158】
なお、本形態に係る細胞培養容器は、ディッシュやマイクロタイタープレート等に細胞培養シートを配置することにより構成してもよい。市販品のディッシュやマイクロタイタープレートを使用することにより、簡便に細胞培養容器を製造することができる。
【実施例】
【0159】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0160】
<実施例1>
外周層を有する細胞培養シートを製造した。
【0161】
[工程(1)]
はじめに円板状のシリコンウエハ(直径約50mm)を準備した。
【0162】
次に、シリコンウエハの(100)面に、プラズマCVDにより第1の層としての窒化ケイ素の層を形成した。具体的には、原料ガスとして、シランガスとアンモニアガスの混合ガス(混合比:シランガス/アンモニアガス=10/1)を用い、放電電力100W、ガスの圧力120Pa、シリコンウエハの温度300℃に設定してシリコンウエハの(100)面に窒化ケイ素の層を形成した。形成した窒化ケイ素の層の膜厚は、1μmであった。
【0163】
[工程(2)]
シリコンウエハの第1の層と対向する面上に、工程(1)と同様の方法で、第2の層としての窒化ケイ素の層を形成した。形成した窒化ケイ素の層の膜厚は、1μmであった。
【0164】
[工程(3)]
工程(a)
第1の層の表面に、ポジ型レジストであるOFPR−800LB 23CP(東京応化工業株式会社製)をスピンコート法により塗布し、90℃で90秒乾燥させることによりレジスト層を形成した。
【0165】
工程(b)
予め、微小孔の孔径が9μm、微小孔間のピッチが12μm、微小孔の面積率が56%の微小孔が形成されるようにパターニングされたガラスマスクを、工程(a)で形成したレジスト層上に配置した。ガラスマスクを圧着させてレジスト層に密着させ、紫外線(波長:436nm)によりレジスト層を露光した。次に、現像液であるNMD−3(水酸化テトラメチルアンモニウムの2.38%水溶液、東京応化工業株式会社製)に、上記露光後のシリコンウエハ積層体を浸漬し、レジスト層を現像することで、レジストをパターニングした。
【0166】
工程(c)
残存したレジスト層をマスクとして、ドライエッチングを行うことにより第1の層に微小孔を形成した。より詳細には、反応性ガスとして四フッ化炭素(CF)ガスのプラズマにより、第1の層をエッチングした。この際、エッチングガスの流量は、50mL/min、圧力は50Pa、エッチング時間は360秒であった。次いで、アセトンに浸漬することにより、ポジ型レジストをすべて除去した。なお、形成された微小孔は孔径が9μm、微小孔間のピッチが12μmであった。また、微小孔の角度は90度であった。
【0167】
[工程(4)]
工程(5)における結晶異方性エッチングにより培養面の直径が7.1mm、面積が39.6mmとなるようにパターニングしたガラスマスクを用いたことを除いては、上記工程(3)と同様の方法で、第2の層に円形のエッチング窓を形成した。
【0168】
[工程(5)]
工程(4)において形成したエッチング窓から結晶異方性エッチングを行うことにより、外周層を有する細胞培養シートを形成した。
【0169】
より詳細には、エッチング液として、25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に、界面活性剤であるTriton X−100を添加した。この際、前記Triton X−100は、現像液中の濃度が0.01質量%となる量で添加した。
【0170】
上記エッチング液を80度に加熱し、シリコンウエハ積層体を浸漬することでシリコンウエハの結晶異方性エッチングを行った。当該結晶異方性エッチングは、シリコンウエハの第2の層と対向する面に形成された第1の層が露出するまで行い、外周層を有する細胞培養シートを製造した。この際、結晶異方性エッチングは、円形のエッチング窓から露出した(100)面が選択的にエッチングされ、逆円錐台形状の窪みを形成しながら進行した。円形状に露出した第1の層、すなわち培養面は、直径が7.1mm、面積が39.6mmであった。また、第1の層の面に対して、エッチングによって露出した(111)面がなす傾斜角は、約45度であった。
【0171】
<実施例2>
微小孔の孔径が5μm、微小孔間のピッチが12μm、微小孔の面積率が17%の微小孔が形成されるようにパターニングされたガラスマスクを使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、外周層を有する細胞培養シートを製造した。
【0172】
<実施例3>
微小孔の孔径が6μm、微小孔間のピッチが12μm、微小孔の面積率が1%の微小孔が形成されるようにパターニングされたガラスマスクを使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、外周層を有する細胞培養シートを製造した。
【0173】
<実施例4>
微小孔の孔径が6μm、微小孔間のピッチが12μm、微小孔の面積率が13%の微小孔が形成されるようにパターニングされたガラスマスクを使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、外周層を有する細胞培養シートを製造した。
【0174】
<実施例5>
微小孔の孔径が6μm、微小孔間のピッチが12μm、微小孔の面積率が66%の微小孔が形成されるようにパターニングされたガラスマスクを使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、外周層を有する細胞培養シートを製造した。
【0175】
<実施例6>
微小孔の孔径が3μm、微小孔間のピッチが12μm、微小孔の面積率が2%の微小孔が形成されるようにパターニングされたガラスマスクを使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、外周層を有する細胞培養シートを製造した。
【0176】
<実施例7>
微小孔の孔径が3μm、微小孔間のピッチが12μm、微小孔の面積率が14%の微小孔が形成されるようにパターニングされたガラスマスクを使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、外周層を有する細胞培養シートを製造した。
【0177】
参考例8>
微小孔の孔径が3μm、微小孔間のピッチが12μm、微小孔の面積率が38%の微小孔が形成されるようにパターニングされたガラスマスクを使用したことを除いては、実施例1と同様の方法で、外周層を有する細胞培養シートを製造した。
【0178】
<比較例1>
市販品のMillicell(登録商標)セルカルチャーインサート(孔径:8μm、微小孔間のピッチ:不規則、微小孔の面積率:不明、ポリカーボネート製、日本ミリポア株式会社性)を使用した。
【0179】
<比較例2>
市販品のMillicell(登録商標)セルカルチャーインサート(孔径:0.4μm、微小孔間のピッチ:不規則、微小孔の面積率:13%、ポリカーボネート製、日本ミリポア株式会社性)を使用した。
【0180】
<比較例3>
エッチング液に、Triton X−100を添加せず、培養面の一辺の長さが6.3mm、面積が39.7mmとなるように条件を調節したことを除いては、実施例2と同様の方法で、培養面が矩形の細胞培養シートを製造した。
【0181】
実施例および比較例において製造した細胞培養シートは下記表1の通りである。
【0182】
【表1】
【0183】
<性能評価>
実施例1〜7、参考例8および比較例1〜3の細胞培養シートを用いて透明性および培養細胞の分布に係る性能評価を行った。
【0184】
[透明性]
細胞培養シートを、DMEM/F12培養液に浸漬させた。次いで、マルチチャンネル分光器PMA−12 C10027−01(浜松ホトニクス株式会社製)を使用し、培養液中における細胞培養シート(培養面)の波長域400〜800nmにおける光透過率を求めた。
【0185】
(1)実施例および比較例の対比
まず、実施例1および2と、比較例1および2とを対比した。得られた結果を図7に示す。
【0186】
図7の結果から、実施例1および2の結果から、本発明に係る細胞培養装置は、400〜800nmの全波長域にわたって90%以上の高い光線透過率を示した。
【0187】
一方、比較例1および2の結果から、孔径が小さくなるにつれて、光線透過率の値も低下し、透明性が悪くなった。
【0188】
以上の結果から、本発明に係る細胞培養シートは、透明性に優れることが理解される。このことは、特に、実施例2および比較例1の結果を対比すると、実施例2の細胞培養シートは、比較例1の細胞培養シートよりも孔径が小さいにもかかわらず、高い透明性を有していることからも明らかである。
【0189】
(2)孔径6μmおよび孔径3μmの場合における微小孔の面積率の透明性への寄与
実施例3〜5および実施例6〜8について、それぞれ孔径を6μmおよび3μmに設定し、微小孔の面積率(開孔率)を適宜変更した場合における細胞培養シートの光線透過率を対比した。得られた結果を図8に示す。
【0190】
実施例3〜5においては、孔径が6μmと大きい場合、開孔率が66%と高値であっても85%以上の極めて高い透明性を示した。
【0191】
また、実施例6および7、参考例8において、孔径が3μmと小さい場合であっても、開孔率2%、14%、38%で70%以上と実用上問題ない高い透明性を示した。
【0192】
なお、特許文献1には、微小孔の孔径が3μm、5μm、8μmの場合に高い透明性を得るためには、開孔率をそれぞれ7.1%以下、13.6%以下、22.3%以下に抑える必要があることが記載されている。よって、従来の高分子を原料とする細胞培養シートと対比して、本発明に係る細胞培養シートは透明性に優れることが理解される。
【0193】
[細胞培養の分布]
次に実施例2および比較例3の細胞培養シートを用いて、細胞培養をした場合における細胞の分布について試験した。
【0194】
はじめに、実施例2および比較例3の細胞培養シートをポリスチレン製のディッシュの底部に配置して細胞培養シートを製造した。
【0195】
次に、カルセインで蛍光染色した接着性細胞HeLaを、10%の濃度でウシ胎児血清を含むDMEM/F12培養液に添加した。この際、培養液の細胞密度は、4×10cells/mLであった。当該培養液を細胞培養容器のウェル内に200μL添加した。この際の播種細胞数は、8×10cells/mLであり、平均細胞培養密度は、200cells/mmである。
【0196】
細胞が培養面に十分接着するように、37℃、6時間インキュベータで静置培養した。
【0197】
培養後、倒立顕微鏡TE2000−U(株式会社ニコン製)を用いて蛍光観察を行い、得られた画像を用いて細胞分布を評価した。得られた結果を図9に示す。
【0198】
図9のA−1(実施例2)およびB−1(比較例3)には培養面の写真が示されている。この際、培養面の点は、蛍光染色された培養細胞に対応する。
【0199】
図9のA−2およびB−2は、上記の細胞分布を細胞密度比として数値化したものである。具体的には、培養面を一定区画に区分し、各区画の細胞数を測定した。次いで、すべての区画のうちで最小の細胞数となる区画(基準区画)の細胞数を基準として、各区画の細胞数の相対値(細胞密度比)を算出した。すなわち、図9のA−2およびB−2に記載された各区画における数値は、下記式により算出される。
【0200】
【数1】
【0201】
図9のA−3およびB−3は、上記A−2およびB−2に記載のA−A’の細胞密度比をグラフで示したものである。
【0202】
図9からも明らかなように、培養面が円形の細胞培養シートにおいては、培養面全面において均一に培養細胞が分布していることが分かる。
【0203】
一方、培養面が矩形の細胞培養シートにおいては、培養面が中央部から端部にいくにつれて培養細胞の分布が多くなっていることが分かる。特に、B−2およびB−3からも明らかなように、培養面の4つの角では培養細胞の密度が特に高値となっていることが分かる。
【0204】
よって、培養面を円形にすることにより、細胞を均一に培養することができることが理解される。
【符号の説明】
【0205】
100、200、300 細胞培養シート、
1 第1の無機層、
2 微小孔、
3 外周層、
4 基材層、
5 第2の無機層、
6 仕切り層、
7 シリコンウエハ、
8 第1の層、
9 第2の層、
10 エッチング窓、
400、500 細胞培養装置、
11 中空円筒部材。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9