(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6124110
(24)【登録日】2017年4月14日
(45)【発行日】2017年5月10日
(54)【発明の名称】マルチフェーズコンバータ用の複合リアクトル及びそれを用いたマルチフェーズコンバータ
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20170424BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20170424BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20170424BHJP
【FI】
H01F37/00 A
H02M3/155 Y
H01F37/00 M
H01F27/24 K
H01F27/24 J
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-224741(P2012-224741)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-78577(P2014-78577A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】芦谷 直樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 徹
【審査官】
池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−150255(JP,A)
【文献】
特開2010−258395(JP,A)
【文献】
特開2010−016234(JP,A)
【文献】
特開平04−355906(JP,A)
【文献】
特表2011−517088(JP,A)
【文献】
特開平11−204355(JP,A)
【文献】
実開平05−036821(JP,U)
【文献】
特開平10−163046(JP,A)
【文献】
特開2005−080442(JP,A)
【文献】
特開平09−237722(JP,A)
【文献】
特開2012−065453(JP,A)
【文献】
特開2008−004780(JP,A)
【文献】
特開2010−027975(JP,A)
【文献】
特開2008−060441(JP,A)
【文献】
特開2012−204454(JP,A)
【文献】
特開平10−135054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/24
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリアクトルを一体化した複合リアクトルであって、
第1コイルが配置された第1リアクトル用の第1磁心と、第2コイルが配置された第2リアクトル用の第2磁心と、各リアクトルに共有の共用磁心とを備え、
前記第1磁心及び前記第2磁心は共に連結部と前記連結部の両側に脚部を備えたU字型の形態を成し、
前記第1磁心と前記第2磁心とは前記共用磁心を挟んで対向し、
前記第1磁心及び前記第2磁心は、それぞれの両端が磁気ギャップ部を介して前記共用磁心と当接し、
もって、第1磁心と共用磁心とで磁気ギャップが分散した第1磁路を構成し、第2磁心と共用磁心とで磁気ギャップが分散した第2磁路を構成し、
前記第1コイルと前記第2コイルとが同相の電流による励磁にて、前記共用磁心において逆方向の磁束が生じるように巻回され、
前記第1磁心及び前記第2磁心は、前記共用磁心よりも飽和磁束密度が大きい軟磁性体材料を用いた圧粉磁心で構成され、前記共用磁心が前記第1磁心及び前記第2磁心よりも実効透磁率が大きいフェライト磁心で構成されたことを特徴とするマルチフェーズコンバータ用の複合リアクトル。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチフェーズコンバータ用の複合リアクトルであって、
前記第1磁心及び前記第2磁心に、飽和磁束密度が0.8T以上のFe系軟磁性合金を用い、前記共用磁心として飽和磁束密度が0.45T以上のMn系フェライトを用いることを特徴とするマルチフェーズコンバータ用の複合リアクトル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマルチフェーズコンバータ用の複合リアクトルであって、
前記第1コイル及び前記第2コイルが巻枠に設けられ、前記巻枠は第1磁心又は第2磁心を通す貫通孔部を有することを特徴とするマルチフェーズコンバータ用の複合リアクトル。
【請求項4】
請求項3に記載のマルチフェーズコンバータ用の複合リアクトルであって、
前記第1磁心及び前記第2磁心は、それぞれ分割された磁心片を組み合わせて形成され、
前記巻枠に前記磁心片の位置決めを設けたことを特徴とするマルチフェーズコンバータ用の複合リアクトル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のマルチフェーズコンバータ用の複合リアクトルを用いたことを特徴とするマルチフェーズコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源回路に用いられるリアクトルに関し、特にはインターリーブ方式の力率改善回路に用いられ複数のリアクトルを一体化した複合リアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源回路は、電力回路において回路電圧を昇圧あるいは降圧する電圧変換器であって、昇圧回路を例にとれば、走行用のモータを備えたハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)等において、電源電圧と走行用のモータを駆動するインバータとの間のAC/DCあるいはDC/DCの電圧変換に用いられている。
一般的に用いられるスイッチング電源回路として、
図10に示す昇圧チョッパタイプのスイッチング電源回路がある。PFC(power factor correction:力率補正)回路として用いられ、リアクトル101、出力コンデンサ102、ダイオード103、スイッチング用のトランジスタ104、及び制御回路105から構成される。図中、リアクトル101と磁気結合する検出コイル120を示すが、インダクタ電流ILのピーク電流やゼロ電流を検出する必要が無い場合には検出コイル120を用いなくても構わない。
【0003】
交流電源108からノイズフィルタ107、整流回路106を経て、電流はリアクトル101を通じてダイオード103又はトランジスタ104へと流れる。トランジスタ104がOFF状態である場合には、ダイオード103側に流れる電流Idによって出力コンデンサ102が充電され、ON状態であればトランジスタ104に電流Idsが流れ、ダイオード103には出力コンデンサ102からの逆バイアス電流が流れる。前記トランジスタ104をON状態/OFF状態にスイッチングすることで、交流電源からの入力電圧Vinを所定の出力電圧Voutに昇圧して負荷(インバータ)RLへ供給する。トランジスタ104の一般的なスイッチング周波数は、小電力用途であれば50kHz〜1MHz、大電力用途であれば10kHz〜20kHz程度である。以下の説明では、昇圧回路が一つの電源回路をシングル方式のスイッチング電源回路と呼ぶ。
【0004】
シングル方式のスイッチング電源回路は構成が簡単であるものの、出力電流のリップルが大きい、大電力に対応できないという短所がある。この様な短所を改善するスイッチング電源回路として、複数の昇圧回路を互いに異なる位相で多相(マルチフェーズ)動作させるインターリーブ方式のスイッチング電源回路が知られている。
図11にその構成例を示す。ここに示すスイッチング電源回路は、リアクトル101a、ダイオード103a、トランジスタ104aとでなる第1昇圧回路と、リアクトル101b、ダイオード103b、トランジスタ104bとでなる第2昇圧回路と、各昇圧回路に共通の出力コンデンサ102とで構成される。
【0005】
図12はマルチフェーズ動作でのリアクタンスへの電流波形を示す。制御回路105からの制御信号に基づいてトランジスタへの駆動パルスにより、各昇圧回路のトランジスタ104a,104bをON/OFF状態を制御することで、各昇圧回路を180°の逆位相で動作させる。リアクトル101a、101bの電流IL1,IL2は逆位相で互いに打ち消し合うので、インダクタ電流ILのリップルが小さくなる。
【0006】
スイッチング電源回路の動作モードとしては、回路に流れる電流(ダイオード電流あるいはインダクタ電流)が零になる前にトランジスタをON状態とする電流連続モードと、前記電流が零になってからトランジスタをON状態とする電流臨界モードと、前記電流が零になり、電流が零の期間を経てからトランジスタをON状態とする電流不連続モードとがある。
図12では臨界モードでの動作時での電流波形を示している。
各動作モードによって長所短所があり要求仕様によって使い分けられるが、電力に着目すれば、シングル方式のスイッチング電源回路であれば、臨界モードや不連続モードは300W以下の小電力用途に、連続モードは300W〜1kW程度の中電力用途に用いられ、インターリーブ方式であれば、不連続モードは600W以下の小〜中電力用途に、臨界モードは300W〜1kW程度の中電力用途に、連続モードは1kWを超える大電力用途に用いられる。
【0007】
スイッチング電源回路におけるリアクトルの一般的な要求性能は、小型で、損失が小さく、低騒音であり、さらに大電流に対応可能な直流重畳特性に優れるものが求められる。リアクトルを構成する磁心は、リアクトルへの要求性能に基づいて磁性体材料が選定され、構造設計される。磁性体材料あるいは磁心として、飽和磁束密度が大きく、比抵抗が高く、保磁力が小さく、ヒステリシスループの直線性に優れた磁場変化に対する透磁率の変化が小さい恒透磁率性に優れるものが要求される。この為、リアクトルの磁心には、Fe−Al−Si系合金、Fe−Ni系合金、Fe−B−Si−C系合金、Fe−B−Si−Cu−Nb系合金等の磁性体材料を用いて粉末とし、これを加圧成形することにより構成される圧粉磁心やフェライト磁心が主に用いられていた。
【0008】
マルチフェーズ方式のスイッチング電源回路では、単純には、シングル方式と比べて昇圧回路の数に応じて部品点数が増え、コストの増加、回路の大型化を招いてしまう。特にリアクトルは磁心とコイルで構成され、要求されるインダクタンスに応じて形状は大型化する。回路を構成するスイッチング素子等の半導体部品と比べると、回路に占める体積が非常に大きいために、各電源回路に個別のリアクトルを用いることは体積増加を招き、スイッチング電源回路の小型化を図る上で最大の制約となっている。この為、各相のリアクトルを一つの部品として複合化することで部品点数の低下、回路の大型化を防ぐことが検討されてきた。以下、複数のリアクトルを一体化した構成の部品を複合リアクトルと呼ぶこととする。
【0009】
以下、従来の複合リアクトルの幾つかの構成例を説明する。
特許文献1には一対のE形磁心とI形磁心とを含む構成の複合リアクトルが開示されている。
図13にその外観斜視図を、
図14にその断面図を示す。複合リアクトル1の磁心部分は、一対のE形磁心212と、2つのI形磁心234とを含む。E形磁心212は略直線状の基部226と、その中央部から突出した中央脚部228と、前記基部226の両端側に前記中央脚部228と同じ方向に延びた端脚要素230を備える。磁心部分において、一対のE形磁心212は前記中央脚部228がギャップ空間232を介して互いに向き合うように対向する。端脚要素230は中央脚部228よりも短く形成されており、互いに対向する端脚要素230の間の空間には、I形磁心234がギャップ板218を介して磁気ギャップを構成する間隔をもって対向する。各I形磁心234の周囲にはコイル216が巻装されて、互いに磁気結合する2つのリアクトルを構成している。
【0010】
E形磁心212とI形磁心234とは異なる磁性体材料が用いられ、I形磁心234は磁束密度の上昇に対する磁心損失の上昇度が低い、アモルファス等の低損失材が用いられ、E形磁心212には鉄を基材とする磁性粉末を加圧成形することにより構成する圧粉磁心が用いられる。
【0011】
また特許文献2では、同一の軸線に2つのコイルを並べて配置した複合リアクトルが開示されている。
図15にその磁心部分を平面図として示し、
図16にはコイルを巻設した状態の複合リアクトルを示す。磁心部分は複数の磁心からなり、平面視で矩形の枠部と、前記枠部の対向する輪郭350a,350bと繋がり、枠内の空間を分ける横断部340を備えたフェライト材からなる日の字形状磁心350と、前記枠部の他の輪郭350c,350dを繋ぐ軸線上にあって、輪郭350c,350dと横断部340との間であって、少なくとも横断部340との間に間隔Gを持って柱状磁心311,321を備える。前記柱状磁心311,321のそれぞれに第1及び第2リアクトル用のコイル314,324と電流検出用の検出コイル315,325が巻設されている。前記日の字形状磁心350にはMn系フェライトを、前記柱状磁心311,321には、前記日の字形状磁心350よりも飽和磁束密度が高い、FeSi合金等の金属系軟磁性合金を用いている。
【0012】
図16にて環状破線は、コイル314,324に流れる電流i1,i2により発生する磁束の経路を示す。コイル314よって発生する磁束は経路313を通過し、コイル324による磁束は経路323を通過する。磁心部分の横断部340においては、各電流i1,i2に起因する磁束は逆方向となる。他方のコイルに変成作用を起こす様な経路328を通過する磁束は、磁気ギャップとして機能する間隔Gによって防がれてコイル間の結合は抑制され、磁心部分とコイル314,324とによって各相において独立したリアクトルを構成する。また、検出コイル315,325による各コイル314,324に流れる電流i1、i2の検出を容易としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2012−65453号公報
【特許文献2】特開2010−16234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1の複合リアクトルの動作について詳述する。
複合リアクトルには、例えば商用周波数に基づく低周波成分の電流に重畳して、スイッチング周波数に基づく高周波成分の電流が流れる。2相マルチフェーズ方式のスイッチング電源回路では、低周波成分の電流は各コイルにおいて同相の電流として流れ、高周波成分の電流は各逆相の電流として流れる。
【0015】
この様な電流により複合リアクトルの磁心部分に生じる磁束の経路を
図14に示す。E形磁心212の中央脚部228〜基部226〜端脚要素230とI形磁心224を通る経路α1,α2は各コイル216から生じる磁束を示し、中央脚部228を通らない経路βは各コイル216から生じる磁束が干渉しあうことを表す干渉磁束である。
【0016】
特許文献1の複合リアクトルにおいては、各コイルに流れる電流によって、中央脚部228において同じ方向に磁束が生じる様に各コイル216が巻回されており、各コイル216による磁束は磁気ギャップを介して経路α1,α2を通過する。中央脚部228において、高周波成分の電流による磁束が互いに干渉し打消し合うので、高周波成分の電流によるリップルは減少する。ここで打消し合うとは、打ち消し合う前のリップル成分よりも減少する状態を言い、リップル成分が零となる理想的な状態を含む。
【0017】
引用文献1の複合リアクトルは、磁心部分の大半を占める一対のE形磁心212が、高い飽和磁束密度の磁性材体料を用いて構成される圧粉磁心で、各コイル216が巻設されるI形磁心234を低損失のアモルファスあるいはケイ素鋼板の積層体を用いる。E形磁心212とI形磁心234との間にはギャップ板218が配置されて磁気ギャップGが構成されている。また、E形磁心212の中央脚部228には磁気飽和を防ぐため、大きなギャップ空間232(磁気ギャップG)を介して対向する。この様な構成においては、各コイル216が磁気ギャップGと近接するので、各磁気ギャップGで発生する漏れ磁束はコイル216と鎖交し、誘導加熱によって発熱を生じやすく損失も増加する問題があり、また磁束の鎖交を防ぐ様にするには、中央脚部228と各コイル216とを間隔をもって配置することが必要であるため、複合リアクトルの外形が増すこととなる。また、E形磁心212は金属磁性粉末を加圧成形することにより構成する圧粉磁心が用いられるが、形状が複雑であり一体の圧粉磁心として構成するのは容易では無く、アモルファスあるいはケイ素鋼板の積層体を用いるI形磁心234は、用いられる磁性体材料が高く、層間絶縁が必要であることなど、複合リアクトルのコストが増すという問題もある。さらに、各コイル216は相互に結合するので、各リアクトルの磁気回路設計が容易で無い。
【0018】
引用文献2の複合リアクトルでは、磁心部分の中央脚部(柱状磁心311,321)にコイルが設けられるため、その外周側に位置する外脚部(輪郭350a,350)間の間隔は少なくともコイルの外形サイズによって限定される。コイルと磁心との間は絶縁を確保するために樹脂製のボビンを用いることが多く、コイルを含めた容積が更に増す。また、複数相のリアクタンスを独立して動作させるために外形が大きくなり易い、小型化において複数相のリアクタンスを一体化するメリットが薄い構造である。
【0019】
中央脚部には間隔G1、G2が設けられるが、そこで発生する漏れ磁束がコイルと鎖交して誘導加熱によって発熱を生じやすく損失も増加する問題がある。
【0020】
そこで本発明では、磁心部分の構造が簡単で、磁心の形成が容易で、小型化可能であり、損失が少ない複合リアクトルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、複数のリアクトルを一体化した複合リアクトルであって、第1コイルが
配置された第1リアクトル用の第1磁心と、第2コイルが
配置された第2リアクトル用の第2磁心と、各リアクトルに共有の共用磁心とを備え、
前記第1磁心及び前記第2磁心は共に連結部と前記連結部の両側に脚部を備えたU字型の形態を成し、前記第1磁心と前記第2磁心とは前記共用磁心を挟んで対向し、
前記第1磁心及び前記第2磁心は、それぞれの両端が磁気ギャップ部を介して前記共用磁心と当接し、もって、第1磁心と共用磁心とで
磁気ギャップが分散した第1磁路を構成し、第2磁心と共用磁心とで
磁気ギャップが分散した第2磁路を構成し、前記第1コイルと前記第2コイルとが同相の電流による励磁にて、前記共用磁心において逆方向の磁束が生じるように巻回され、前記第1磁心及び前記第2磁心は、前記共用磁心よりも飽和磁束密度が大きい軟磁性体材料を用いた圧粉磁心で構成され、前記共用磁心が前記第1磁心及び前記第2磁心よりも実効透磁率が大きいフェライト磁心で構成されたことを特徴とするマルチフェーズコンバータ用の複合リアクトルである。
【0022】
本発明においては、前記第1磁心及び前記第2磁心に、飽和磁束密度が0.8T以上のFe系軟磁性合金を用いるのが好ましい。第1磁心と第2磁心に用いる磁性体材料としては、FeNi系合金、FeAlSi系合金、FeBSiC系アモルファス合金、FeBSiCuNb系ナノ結晶合金等が挙げられる。これ等の磁性体材料は、最大磁束密度Bsと振幅透磁率μaが大きい。これ等を絶縁処理された粉末として、前記粉末を高圧でプレス成形して圧粉磁心として用いれば、渦電流損失を低減して高周波での磁心損失を低減する。またその実効透磁率μeは45〜85と実用的な特性を得ることが出来る。
【0023】
前記第1コイル及び前記第2コイルが巻枠に設けられ、前記巻枠は第1磁心又は第2磁心を通す貫通孔部を有するのが好ましい。また、前記第1磁心及び前記第2磁心を、分割された磁心片を組み合わせて形成しても良い。磁心片はL字形やI字形等の形状に構成するのが好ましく、それぞれの端部を突き当てて、例えばU字形等の所定形状の第1磁心及び第2磁心として形成する。第1磁心及び第2磁心にはそれぞれコイルが巻設されるため、磁心片の突き当て部分は磁気ギャップとしないのが好ましい。
前記巻枠には前記磁心片の位置決めを設けるのが好ましい。
【0024】
第1磁心及び前記第2磁心は、それぞれの両端が磁気ギャップを介して共用磁心と当接するのが好ましい。
【0025】
前記共用磁心には低損失のMn系フェライトを用いるのが好ましい。Mn系フェライトとしては、
飽和磁束密度が0.45T以上、室温23℃、磁束密度200mT、周波数100kHzにおける振幅透磁率μaが4000以上で、磁心損失Pcvが450kW/m
3以下であって、80℃〜120℃の間にて最小となる磁気特性を有するのが好ましい。Mn系フェライトは他のNi系フェライト等と比べて比抵抗が小さいが、コイルとの絶縁抵抗を考慮する場合には、樹脂でコーティングするのがいっそう好ましい。
【0026】
第2の発明は、第1の発明のマルチフェーズコンバータ用の複合リアクトルを用いたことを特徴とするコンバータである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、磁心部分の構造が簡単で、磁心の形成が容易で、小型化可能であり、損失が少ない複合リアクトルを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施例に係る複合リアクトルの基本構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施例に係る複合リアクトルの構成を説明する為の平面図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る複合リアクトルの磁路を説明する為の図である。
【
図4】本発明の一実施例に係る複合リアクトルの励磁動作を説明する為の図である。
【
図5】本発明の一実施例に係る複合リアクトルを用いたインターリーブ方式のスイッチング電源回路における各リアクトルへの電流波形を説明する為の図である。
【
図6】本発明の他の実施例に係る複合リアクトルの斜視図である。
【
図7】本発明の他の実施例に係る複合リアクトルの分解斜視図である。
【
図8】本発明の他の実施例に係る複合リアクトルの磁路に平行な断面での平面図である。
【
図9】本発明の他の実施例に係る複合リアクトルの直流重畳特性を示す図である。
【
図10】一般的なスイッチング電源回路を説明するための図である。
【
図11】インターリーブ方式のスイッチング電源回路を説明するための図である。
【
図12】インターリーブ方式のスイッチング電源回路の各リアクトルへの電流波形を説明する為の図である。
【
図13】従来の複合リアクトルの外観斜視図である。
【
図14】従来の複合リアクトルの構成を示す断面図である。
【
図15】従来の他の複合リアクトルの磁心部分の構成を示す平面図である。
【
図16】従来の他の複合リアクトルの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1〜
図6を基に本発明の複合リアクトルについて説明する。実施例の複合リアクトルは、スイッチング電源回路のインターリーブ方式マルチフェーズコンバータを用いられる。マルチフェーズコンバータの構成は
図11で既に示した回路と同じであるので、説明を省略する。また、以下の説明では各相のリアクトルに流れる電流の対称性が保たれていることを前提とするが、不均一であったとしても、それに応じた構成の変更は発明の範囲内で適宜可能である。
【0030】
本発明の複合リアクトル1の基本構成を
図1及び
図2に示す。また、
図3は磁心部分に各コイルにより生じる磁束の経路を説明する為の図であり、
図4は複合リアクトルの励磁動作を説明する為の図である。第1リアクトル用の第1磁心10a及び第2リアクトル用の第2磁心10bと、各リアクトルに共有の共用磁心20と、前記第1磁心10aに設けられた第1コイル40aと、前記第2磁心10bに設けられた第2コイル40bとを備える。各コイルに用いる導線は、単線、多芯の区別は無いが、線径は電流値で決定され、発熱等の低減を考慮すれば、導体として単線のエナメル線よりも多芯のエナメル線を用いるのが好ましい。各コイルの巻始めS1,S2と巻終りF1,F2の位置は同じ方向にある。また、絶縁の為、複合リアクトル全体をワニス処理しても良い。
【0031】
構成可能な磁路は、第1コイル40aと第1磁心10aとで形成される磁路α1と、第2コイル40bと第2磁心10bとで形成される磁路α2と、第1磁心10aと第2磁心10bとで形成される磁路βとなる。各コイル40a,40bによる磁路α1,α2の磁束が、共用磁心20において互いに逆方向となるように回されている。
図4には任意のタイミングにおける励磁磁界の方向や大きさを、矢印の方向と大きさで示している。共用磁心20においては、特許文献1の複合リアクタンスの様に各コイルによる磁束が強め合わない為、相対的に磁路断面積を小さく構成することが出来、また、共用磁心20に磁気ギャップを設ける必要が無い。
【0032】
第1磁心10aと第2磁心10bは全体として同じ外形及び寸法に構成され、U字状で一体であっても良いし、L字状やI字状に分割された磁心片(ブロック)を組み合わせて形成しても良い。第1磁心110aと第2磁心10bは、第1コイル40aと第2コイル40bが巻設される連結部12aと、前記連結部12aの両側に脚部12bを備え、その断面は四角形あるいは円形となっている。ここで同じ外形及び寸法とは互いが全く同じ構成を含み、各リアクトル間の対称性が得られる構成を意味するが、配線等を含めて見ると各昇圧回路が対称とならない場合もある。昇圧回路のアンバランスによれば、各リアクトル間の電流が平衡せず、一方側のリアクトルの電流と損失の増加を招く。この様な昇圧回路の非対称性への耐量を確保するように、本発明においては、第1磁心10aと第2磁心10bの寸法形状を多少異ならせる変更も許容する。
【0033】
前記第1磁心10a及び前記第2磁心10bには、飽和磁束密度Bsが0.8T以上のFeNi系合金、FeAlSi系合金、FeSiCB系アモルファス合金、FeSiCuNbB系ナノ結晶合金等のFe系軟磁性合金が用いられる。これ等の磁性体材料は、飽和磁束密度Bsと振幅透磁率μaが大きく、絶縁処理された粉末で供することで、渦電流損失を低減して高周波での磁心損失を低減する。また、高圧でプレス成形して焼結した圧粉磁心の実効透磁率μeは45〜85と実用的なものが得られる。
【0034】
共用磁心20には、第1、第2磁心10a,10bと比べて磁心損失が小さい磁性体材料が用いられる。この様な磁性体材料としては、形状の自由度が高く、安価なソフトフェライトが用いられ、ソフトフェライトの中でも低磁心損失であるMn系フェライトを用いるのが好ましい。Mn系フェライトとしては、室温23℃における飽和磁束密度Bsが0.45T以上であり、室温23℃、磁束密度200mT、周波数100kHzにおける振幅透磁率μaが4000以上、実効透磁率μeが2400以上で、磁心損失Pcvが450kW/m
3以下であって、80℃〜120℃の間にて磁心損失Pcvが最小となる磁気特性を有するのが好ましい。
【0035】
共用磁心20は平板でI字形の磁心として構成するのが好ましい。第1、第2磁心10a,10bは共用磁心20を挟んで配置され、その脚部12bの端部が、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)等の樹脂部材をスペーサーとする磁気ギャップGを介して共用磁心20と突き合わされる。磁気ギャップGの寸法はリアクタンスに要求される直流重畳特性によって適宜設定されるが、2箇所に分散して構成することが出来るので、磁気ギャップ部での漏洩磁束を低減できる。各構成部材は接着剤、粘着テープ、金具等で固定されて一体化される。
【0036】
複合リアクトルとしたときに、共用磁心20は脚部12bの断面全体と重なるように構成され、その長さlfは、第1、第2磁心10a,10bのそれぞれの2つの脚部12bで規定される長さld以上、好ましくは長さldよりも大きい寸法で、幅Wfは第1、第2磁心10a,10bの幅Wd以上、好ましくは幅Wdよりも大きい寸法となる。
【0037】
各コイル40a、40bの巻始めS1,S2からの全波整流された電流ILには、商用周波数に基づく低周波成分の電流に、スイッチング周波数に基づく高周波成分の電流が重畳する。複合リアクタンスの使用においては、各電流IL1,IL2(IL=IL1+IL2)のピーク電流において磁心部分で磁気飽和が生じないことが必要であり、磁心部分の各部の寸法、磁性体材料、磁気ギャップが選定される。
【0038】
図5は電流連続モード動作でのリアクタンスへの電流波形を示す。Vacは入力電圧、Iacは平均入力電流、IL1はインダクタ電流である。また、PILTはインダクタ電流の上端電流値であり、PILBは下端電流値であり、PIacは平均入力電流の上端電流値である。なお、ここでは一方側のリアクタンスへの波形を示すが、他方側のリアクタンスへの電流波形は、インダクタンス電流が180°の逆位相となる他は同じなので省略する。ここで、平均入力電流Iacが低周波成分の電流に相当し、インダクタ電流IL1が高周波成分の電流に相当する。
【0039】
インダクタ電流が上端電流値PILTとなる条件において磁心部分が磁気飽和せず、かつ、共用磁心20における磁束の相殺を抑える為には、次式(1)の関係を満足することが必要である。
Sd×Bsd>Sf×Bsf>Sf×Bfipl≧2×Sd×Bdipl…(1)
Sf:共用磁心の磁路断面積
Sd:第1及び第2磁心の磁路断面積
Bsf:共用磁心に用いられる磁性体材料をトロイダル形状試料とした時の飽和磁束密度
Bsd:第1及び第2磁心に用いられる磁性体材料の粉末をトロイダル形状試料とした時の飽和磁束密度
Bfipl:インダクンス電流の上端電流値PILTに相当する磁界における共用磁心に用いられる磁性体材料をトロイダル形状試料とした時の磁束密度
Bdipl:インダクンス電流の上端電流値PILTに相当する磁界における第1及び第2磁心に用いられる磁性体材料の粉末をトロイダル形状試料とした時の磁束密度
【0040】
本発明の複合リアクトルにおいては、第1及び第2磁心10a,10b用の磁性体材料の飽和磁束密度Bsは、共用磁心20用の磁性体材料の飽和磁束密度Bsよりも大きいが、共用磁心20の磁束密度Bfiplは、第1及び第2磁心10a,10bの磁束密度Bdiplよりも大きいので、第1及び第2磁心10a,10bが磁気飽和しない条件で、かつ磁路α1、α2を確保しながら、磁路断面積Sdよりも、共用磁心20の磁路断面積Sfを小さく出来て、複合リアクトルは小型に構成される。
【0041】
また、共用磁心20の透磁率が第1及び第2磁心10a,10bよりも大きく、各磁心間に磁気ギャップGを設けたことで、各コイル40a、40bによる磁束は専ら磁路α1、α2を通過し、磁路βを通過することが殆ど無く、リアクトルを複合して一体化しても結合が抑えられて、実質的に独立したルアクトルとすることが出来る。共用磁心20に磁気損失が小さい磁性体材料を用いることで、各リアクトルの磁気損失を全体として低減させることが出来る。
【0042】
(実施例)
以下、
図6〜9を参照しながら本発明の実施形態を詳述する。なお、基本的な構成は
図1〜5で示した複合リアクトルの構成及び動作と同じであるので、同じ要素には符号を同じとし、重複した説明は適宜省略する。この複合リアクトルでは15Aでインダクタンス値が250μHとなる様に構成した。
【0043】
図6の外観斜視図、
図7の分解構成図に示す様に、本発明の複合リアクトル1は、第1リアクトル用の第1磁心10a及び第2リアクトル用の第2磁心10bとしてのU字形磁心と、共用磁心20といしてのI字形磁心と、各コイル40a,40bが巻設された巻枠(ボビン)とを備えている。
図6においては、各コイルの端部が自由端であり、放熱と取付の為のアルミプレート15に載置する例を示すが、後述するボビンにピンを設けて各コイルの端部を接続し、前記ピンを用いて回路基板に実装する構成としても良い。
【0044】
一対のU字形磁心10a,10bは同一外形寸法、L字状の磁心片10a1,10a2,10b1,10b2を組み合わせて構成される。L字状の磁心片10a1,10a2のそれぞれの一端側を、磁気ギャップを介さずに突き合わせて、第1コイル40aが巻設される連結部12aと前記連結部12aの両側に脚部12bを備えたU字形磁心とする。L字状の磁心片10b1,10b2も同様にしてU字形磁心とする。磁心を構成する磁性体材料としてFe−5.5Al−9.5Si系合金を用いた。合金粉末にバインダーとしてシリコーン樹脂を混合し、乾燥後、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を添加した混合粉を金型に入れて圧力をかけてL字状に成形した後、圧粉成形体を、真空中で加熱して、所定形状の圧粉磁心を形成した。U字形磁心10a,10bとすると、Ld=47mm、Ed=21mm、Td=10mm、Wd=16.7mmの寸法と成る。磁路断面積は167mm
2で磁心全体において、どこで切断しても同じなる様にしている。この磁心の磁気特性は、飽和磁束密度Bsが0.8T(温度23℃)、実効透磁率μeが50(温度23℃)、磁心損失が850kW/m
3(磁束密度0.1T、周波数100kHz、温度100℃)である。
【0045】
I字形磁心20はMn系フェライトを用いて平板状に形成した。I字形磁心20の各部の寸法は、Lf=47mm、Tf=7.5mm、Wf=30mmで、磁路断面積Sfは225mm
2である。U字形磁心10a,10bと組み合わせた時に、U字形磁心10a,10bの端面を覆うとともに、上下に飛びだした状態となる。Mn系フェライトとしては、日立金属株式会社製のMB19Dを用いた。この磁性体材料の磁気特性は、飽和磁束密度Bsが0.53T(温度23℃)、実効透磁率μeが1900(温度23℃)、磁心損失が370kW/m
3(磁束密度0.2T、周波数100kHz、温度100℃)である。
【0046】
ボビンは絶縁樹脂であるフェノール系樹脂製であって、U字形磁心10a,10bを構成するL字形の磁心片が挿通される貫通孔部65が形成されている。貫通孔部65はL字形の磁心片と同じ矩形に形成されている。各コイル40a、40b用の導線30a、30bが巻回される巻枠部は鍔部14a、14bによって区画され、更に鍔部14a、14bには、L字形の磁心片を支持可能なように、支持枠62が設けられており、L字形の磁心片10a1,10a2,10b1,10b2を配置したときに、位置決め保持できる。巻枠部には、それぞれ線径0.23mm/34本のリッツ線が53ターン巻回されている。
【0047】
各要素を組み立てた状態では、U字形磁心10a,10bはI字形磁心20を挟んで連結部12aの両側の脚部12bどうしが相互に突き合わされている。各々の脚部12bとI字形磁心20との間には1.5mmの厚みのPETフィルムが挟まれており磁気ギャップGを構成している。絶縁樹脂製のボビンに巻回された各コイル40a,40bは、I字形磁心20を挟んで対向し左右対称に分かれて配置され、前記I字形磁心20によって第1コイル40aと第2コイル40bとの空間距離/沿面距離が確保されている。
【0048】
各要素を、
図8に示す様に、接着剤202と、磁路方向に複合リアクトルに巻き付けられた粘着固定テープ201で固定して、ボビンを含めた外形寸法が74mm×40mm×47mmの複合リアクトルを得た。得られた複合リアクトルとともに、比較の為に作成した複合リアクトルについて、直流重畳特性を評価した。比較例の試料では各部の寸法は実施例の構成と同じだが、共用磁心20をMn系フェライトから、第1、第2磁心10a,10bと同様の圧粉磁心として構成している。
図9に示す様に各磁心を圧粉磁心とすると、本発明の複合リアクトルに比べてインダクタンスの低下が早いことが分かる。更に各コイル40a,40bへ引用文献1の様に逆相とした場合には、共用磁心20の磁路断面積Sfを第1、第2磁心10a、10bの2倍以上とし、更に共用磁心20に磁気ギャップを設ける必要があった。
【0049】
作製した複合リアクトルを2相マルチフェーズ方式のスイッチング電源回路に搭載して、コンバータ効率を測定したところ97.3%であり、実用的な効率の電源回路が得られた。リアクトルを複合することで、スイッチング電源回路自体を小型化することが出来た。
【符号の説明】
【0050】
1 複合リアクトル
10a 第1磁心、U字形磁心
10b 第2磁心、I字形磁心
10a1,10a2,10b1,10b2 磁心片
20 共用磁心
40a,40b コイル
G 磁気ギャップ