(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記排ガスと接触した加湿用液の少なくとも一部からニトロシル硫酸を除去する除去工程を更に含み、前記ニトロシル硫酸が除去された液を前記水分として用いる、請求項3に記載の脱硫方法。
前記排ガスと接触した加湿用液の少なくとも一部からニトロシル硫酸を除去する除去工程を更に含み、前記ニトロシル硫酸が除去された液を前記希硫酸とともに前記濃硫酸生成工程の前記硫酸水溶液に混ぜる、請求項3に記載の脱硫方法。
ニトロシル硫酸を除去する除去工程が、過酸化水素及びオゾンのうちの一方もしくは両方を添加する手段、又は空気を導入しながら活性炭と接触させる手段である、請求項5又は6に記載の脱硫方法。
前記脱硫手段は、前記排ガスを加湿用液に接触させて加湿する加湿手段と、該加湿手段で加湿された排ガスを受け入れる脱硫塔と、該脱硫塔に収容された活性炭系触媒と、前記脱硫塔に取り付けられ、前記活性炭系触媒に水分を供給する給水管とからなる、請求項9に記載の脱硫装置。
前記排ガスと接触した加湿用液の少なくとも一部を加温する加温手段を含み、加温された液が前記加湿手段により前記加湿用液として使用される、請求項10に記載の脱硫装置。
前記混合手段は、前記排ガスと接触した加湿用液の少なくとも一部を前記希硫酸とともに前記濃硫酸生成手段の前記硫酸水溶液に混ぜる、請求項14に記載の硫酸製造プラント。
【背景技術】
【0002】
硫酸は各種化学工業の基幹薬品として古くから大量に製造されており、その製造法は、大別すると鉛室法と接触法の2種類に分類することができる。鉛室法は、硫化鉱などの金属の硫化物を焙焼して得られる亜硫酸ガス(SO
2)を空気と共にグローバー塔及び鉛室に導入し、窒素酸化物、硝酸などを触媒とする反応により硫酸を生成する方法である。一方、接触法は、非特許文献1に記載されているように、硫黄の燃焼や硫化物などの焙焼によって亜硫酸ガスを発生させた後、五酸化バナジウム(V
2O
5)を触媒とする酸化反応により亜硫酸ガスから三酸化硫黄ガス(無水硫酸ガス(SO
3))を生成し、これをSO
3吸収塔内で硫酸水溶液に吸収させて濃硫酸を生成する方法である。
【0003】
上記した鉛室法は、中間生成物として生成される硫酸水素(窒素オキシド)(HSO
4・NO)の残留により硫酸に着色が生じることがあり、また製造できる硫酸の濃度が低いので、近年は効率的に濃硫酸を製造できる接触法がもっぱら採用されている。なお、硫酸水素(窒素オキシド)はニトロシル硫酸、硫酸ニトロシル、硫酸水素ニトロシルとも呼ばれているものである(以降、ニトロシル硫酸と称する)。また、硫化物の焙焼などによってガス中に窒素酸化物が共存する場合、接触法においても濃硫酸にニトロシル硫酸が含まれることがあるが、その含有量は低濃度であるため、製品としての濃硫酸の品質において問題になることはほとんどない。
【0004】
近年、環境保全に配慮したいわゆる環境に優しい設備が重要視される傾向にあり、硫酸の製造設備においてもこれを受けて各種の対策が講じられている。たとえば、上記したSO
3吸収塔を2段にして除去率を高めたり、SO
3吸収塔の充填物を改良して気液接触効率を向上させたりすることが行われている。また、触媒の改良研究や操作温度の最適化などにより亜硫酸ガスの酸化率を向上させて、SO
3吸収塔で吸収できない亜硫酸ガスの残留を少なくしつつ硫酸製造装置の運転効率を高めることが行われている。
【0005】
更に、SO
3吸収塔の後段に脱硫装置を設けて硫酸製造工程で生じた亜硫酸ガスやSO
3などの硫黄酸化物をより低濃度まで除去することも行われている。脱硫装置を設ける場合、
図1に示すように、従来はSO
2酸化塔1aとSO
3吸収塔1bとからなる硫酸製造装置1の出口ガスを脱硫処理する脱硫塔2を設け、ここでNaOHやMg(OH)
2を用いたアルカリ中和法や石灰石を用いて石膏を副生する石灰石膏法が採用されてきた。しかしこれらの方法は、中和用アルカリなどの薬剤が必要となるうえ、硫酸塩が廃棄物として発生するため、その利用や廃棄処理の際に固体ハンドリングなどの煩雑な操作及び運転管理が必要となり、多くの費用を要する。また、これが二次汚染を生じることもあった。
【0006】
そこで、これら以外に、活性炭を用いて排煙脱硫する方法が提案されている。たとえば、特許文献1や特許文献2には、硫黄酸化物を含む排ガスを触媒に接触させて硫黄酸化物を希硫酸にして回収除去する方法が提案されている。ここで使用する触媒には、活性炭粉末にフッ素樹脂を加えて剪断力を掛けて混練した後、所定の形状に成形したものが用いられている。
【0007】
また、特許文献3には、亜硫酸ガスを含む排ガスを2段階で処理する排煙脱硫方法が示されており、1段目の工程で排ガス中の亜硫酸ガスを石灰石のスラリーからなる吸収液で吸収し、残留する亜硫酸ガスを活性炭触媒を用いた2段目の工程で処理している。この2段目の工程において生成される希硫酸は、1段目の工程の吸収液に混ぜることで処分している。
【0008】
また、特許文献4には、排ガス中の硫黄酸化物を除去する排煙脱硫装置の後段に浄化塔を設ける技術が提案されている。この浄化塔内には活性炭素繊維層で形成された触媒層が設けられており、排煙脱硫装置で処理された排ガスを水と共にこの触媒層に導入することにより、硫黄酸化物から希硫酸を生成することが示されている。なお、生成した希硫酸は排煙脱硫装置に供給して処分することが示されている。
【0009】
更に、特許文献5には、亜硫酸ガスを含む排ガスを増湿及び冷却した後、活性炭系触媒に導入することにより排ガス中の亜硫酸ガスから希硫酸を生成する排煙脱硫方法が示されており、希硫酸の濃度を排ガスの熱量を利用して濃縮する技術も示されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の脱硫方法は、亜硫酸ガスを酸化して得られた三酸化硫黄ガスを硫酸水溶液に水を供給しながら吸収させて90wt%以上99wt%未満の高濃度硫酸(以降、単に濃硫酸とも称する)を製造する濃硫酸生成工程を含む硫酸製造装置から排出された、硫黄酸化物を含む排ガスの脱硫方法であって、該排ガスから前記硫黄酸化物を除去しつつ該硫黄酸化物から希硫酸を生成する脱硫工程と、上記濃硫酸生成工程において希硫酸を硫酸水溶液に混ぜる混合工程とを含むことを特徴としている。
【0019】
以下、本発明の脱硫方法を好適に実施できる硫酸製造プラントの一具体例について、
図2を参照しながら説明する。この
図2に示す硫酸製造プラント1は、硫酸製造装置10と、その後段に位置する脱硫装置20から構成される。先ず、硫酸製造装置10について説明する。硫酸製造装置10は、五酸化バナジウム(V
2O
5)触媒11aが充填されたSO
2酸化塔11と、その後段に位置し、気液接触用の充填物で構成される充填層13aを備えたSO
3吸収塔13とで主に構成されている。
【0020】
SO
2酸化塔11には、硫黄の燃焼や硫化物などの焙焼によって生じた亜硫酸ガスを含む高温のガスが原料ガスとして供給され、当該原料ガスに含まれる亜硫酸ガスが酸化されて三酸化硫黄ガス(無水硫酸ガス:SO
3)が生成する。得られた三酸化硫黄を含む生成ガスはSO
3吸収塔13の塔底部に送られる。SO
3吸収塔13の充填層13aには、例えばカスケードミニリング(登録商標)などの充填物が充填されており、ここで上記三酸化硫黄を含む生成ガスと塔頂部から供給された硫酸水溶液とが向流気液接触する。これにより、該生成ガス中の三酸化硫黄が硫酸水溶液に吸収される。
【0021】
上記三酸化硫黄を吸収した硫酸水溶液は、吸収前の硫酸水溶液に比べて硫酸濃度が高い濃硫酸としてSO
3吸収塔13の塔底部から抜き出される。この抜き出される濃硫酸の内、一部は前述した塔頂部から供給される硫酸水溶液として使用されるため除かれ、残りは製品として硫酸製造装置10から系外に排出される。なお、吸収前の硫酸水溶液と濃硫酸はSO
3吸収塔13内で吸収のため液循環しているものであり、それらの濃度差は小さくほぼ同一の濃度である。
【0022】
上記除かれた一部の濃硫酸は濃硫酸循環ポンプ15で昇圧された後、インラインミキサーなどの希硫酸混合装置29において、希釈用ライン16を介して供給される希釈液が加えられて上記塔頂部から供給される硫酸水溶液となる。この希釈液には、後述する希硫酸及び必要に応じて供給される工業用水が使用され、上記製品として系外に排出される濃硫酸の量にバランスするように該希釈液の供給量が調整される。このようにして接触法により濃硫酸を製造する。
【0023】
硫酸水溶液との接触を終えた上記生成ガスは、SO
3吸収塔13の塔頂部から排ガスとして排出される。この排ガスには、亜硫酸ガスが酸化される際に酸化されずに残った亜硫酸と、三酸化硫黄が硫酸水溶液に吸収される際に吸収されずに残った三酸化硫黄とが含まれている。このように前記排ガスには亜硫酸及び三酸化硫黄からなる硫黄酸化物が含まれているため、前記排ガスが後段の脱硫装置20に送られて該硫黄酸化物の脱硫処理が行われる。
【0024】
この一具体例の硫酸製造プラント1では、以下に説明するように脱硫装置20において活性炭系触媒を用いた希硫酸副生型の脱硫処理が行われるが、脱硫方法はかかる活性炭系触媒を用いた方法に限定されるものではない。上記の例では、前記排ガスに亜硫酸及び三酸化硫黄の双方が含まれているが、これに代え、前記排ガスに亜硫酸及び三酸化硫黄のいずれか一方が含まれていてもよい。
【0025】
脱硫装置20における脱硫処理では、処理されるガスの湿度が高く且つ100℃以下の温度範囲では温度も高い方が脱硫性能が高くなるため、酸素と水蒸気の存在下で30〜60℃程度の通常のガス温度で処理が行われる。これに対して、前述したSO
3吸収塔13の出口ガスは、温度が約85℃以下(一般的には50〜80℃)であって酸素が含まれているものの水蒸気はほとんど含まれていないので、そのままでは効率よく脱硫することができない。
【0026】
そこで、この脱硫装置20には、硫酸製造装置10の排ガスである上記低湿度のSO
3吸収塔13の出口ガスに対して水蒸気を含有させる加湿工程が脱硫工程の前段に設けられている。ガスに水蒸気を含有させる方法に限定はなく、例えば塔内にカスケードミニリング(登録商標)などの充填物が充填された充填層を設けた充填塔を用いてガスと水を向流接触させることによりガスに効率よく水蒸気を含有させることができる。
【0027】
図2の加湿塔21ではかかる充填層21aを備えた充填塔が用いられており、ここで塔底部から上記排ガスを導入すると共に塔頂部から加湿用液としての水を降らせることにより、充填層21aで気液を向流接触させて排ガスを加湿している。なお、上記の充填塔などの気液接触手段を用いることにより、排ガス中の不純物を除去することも可能となる。
【0028】
充填層21aから滴下する加湿用の水は、加湿塔21の塔底部から抜き出された後、水循環ポンプ22で昇圧されて再び加湿塔21の塔頂部に送られる。このように、加湿用水を循環させることにより、効率よく排ガスを加湿することができる。なお、加湿塔21を循環する加湿用水(以降、循環水とも称する)は、上記排ガスの加湿や加湿塔21から排出されるガスへの同伴(エントレメント)、更には後述する脱硫塔25への水移送ライン24を介した液移送により徐々に減少する。その補給のため、減少する量に見合う量の工業用水が、工水供給ライン23から加湿塔21に供給される。
【0029】
上記したように、循環する加湿用水に排ガスを気液接触させて排ガスの加湿を行う場合は、加湿用水から蒸発潜熱が奪われるため、循環する加湿用水の温度及び加湿塔21の塔頂部から排出される加湿されたガスの温度が、5℃〜35℃程度まで低下する。これをそのまま放置した場合、水の蒸発速度が低下して十分な水蒸気分圧(相対湿度)が得られなかったり、後段の脱硫塔での脱硫性能が低下したりすることがある。
【0030】
この問題を緩和するため、加湿用水もしくはこれに気液接触させるガスを加温しながら加湿を行うのが好ましい。加湿用水の加温方法としては、例えば加湿用水の循環系に電熱ヒーターや熱交換器を設けて加温する方法を挙げることができる。あるいは、スーパーヒート度合いが小さいスチームなどをガスに直接供給してもよい。熱交換器で加温する場合は、熱源に蒸気などの加熱媒体を使用してもよいし、他の装置の高温流体を使用してもよい。
【0031】
たとえば、上流の硫酸製造装置10における亜硫酸ガスの酸化反応は発熱を伴うので、これによって得られる高温のプロセス流体を熱源として用いることが考えられる。具体的には、SO
3吸収塔13の塔底部から製品として排出される高温の濃硫酸やその塔頂部から排出される出口ガスとの直接的もしくは熱媒を介した間接的な熱交換が特に効率的である。
【0032】
加湿塔21で加湿されたガスは、次に活性炭系触媒層25aを備えた脱硫塔25の塔頂部に送られる。脱硫塔25では、上記加湿されたガスが活性炭系触媒層25aを上から下に向かって流通する。その際、加湿されたガスに含まれる未反応の亜硫酸ガスが、活性炭系触媒の作用を受けて三酸化硫黄に酸化される。当該酸化された三酸化硫黄と元々含まれていた三酸化硫黄とが、活性炭表面に吸着している水分と反応して硫酸(H
2SO
4)になり、更にこの硫酸は、塔頂部のスプレー管26から連続的に放散される洗浄液によって洗い流されると共に希釈され、希硫酸となって脱硫塔25の塔底部から抜き出される。これにより、加湿されたガスの脱硫が行われる。活性炭系触媒層25aを出たガスは脱硫済みガスとして脱硫塔25の塔底部から排出された後、煙突などから大気に放出される。
【0033】
上記活性炭系触媒層25aに使用する活性炭系触媒は、吸着した亜硫酸ガスを酸化させた後、吸着した水と反応させて希硫酸を生成しうるものであれば活性炭原料、賦活条件、形状などに関して特に限定はないが、撥水性及び酸化力が高いものが好ましい。例えば活性炭粉をテトラフルオロエチレンと混合したものや活性炭繊維類などが好適に使用される。これを球形、円柱形、ハニカム形などの形状に成型して、金網や格子状支持材の上に積み重ねて使用する。
【0034】
円柱状の場合は、直径0.1〜20mm、高さ0.1〜20mm程度のサイズのものが好適に使用される。このサイズが小さすぎると、活性炭系触媒層25a内で生成した希硫酸が流下しにくくなり、圧力損失が増加するので好ましくない。一方、このサイズが大きすぎると、活性炭系触媒層25a内の有効接触表面が小さくなって効率が悪くなる上、活性炭系触媒の内部からの希硫酸の流出が円滑に行われなくなる。
【0035】
脱硫塔25の塔底部から抜き出された希硫酸は、希硫酸循環ポンプ27で昇圧された後、一部を除いて希硫酸循環ポンプ27の吐出側ラインを経て脱硫塔25の塔頂部に送られる。この吐出側ラインは活性炭系触媒層25aに水分を供給する給水管としての役割を担っており、その先端部は脱硫塔25の頂部の側壁を貫通して活性炭系触媒層25aの上方で開口している。これにより、脱硫塔25の塔底部から抜き出された希硫酸は、一部を除いて前述した洗浄液として再び使用される。
【0036】
上記除かれた一部の希硫酸は、希硫酸循環ポンプ27の吐出側ラインから分岐する希硫酸移送ライン28を介して上流の硫酸製造装置10に送られる。硫酸製造装置10に送られた該一部の希硫酸は、前述した希釈用ライン16からの工業用水の供給がある場合はこれと合流した後、SO
3吸収塔13の塔底部から抜き出される一部の濃硫酸と希硫酸混合装置29において混ぜられて前述した吸収前の硫酸水溶液となり、SO
3吸収塔13の塔頂部に供給される。
【0037】
このように、脱硫塔25で回収した硫黄酸化物を希硫酸として希硫酸移送ライン28を介してSO
3吸収塔13に供給することにより、SO
3吸収塔13での水バランスに応じてSO
3吸収塔13に系外から供給される工業用水の一部もしくは全部を脱硫塔25で生成した希硫酸で代替することが可能となり、活性炭を用いた希硫酸副生型脱硫設備の利点を活かすことができる。
【0038】
すなわち、脱硫装置まで含めた硫酸製造プラント全体として考慮したとき、工業用水の消費量を減らすことができる上、中和用アルカリなどの薬剤や硫酸塩のような廃棄物を取り扱うことなくより簡便に排ガスに含まれる硫黄酸化物を脱硫することができ、薬剤の購入費用や廃棄物の処理費用を要することなく経済的な脱硫が可能となる。しかも、脱硫により得られる希硫酸が濃硫酸の生成に寄与するようにできるので、製品としての濃硫酸の収率を高めることが可能となる。
【0039】
ところで、上記したように脱硫塔25の塔底部から希硫酸を一部抜き出してSO
3吸収塔13に送るため、
図2では当該希硫酸の抜き出し量に相当する量の水を水移送ライン24を介して加湿塔21から脱硫塔25に導入している。このプロセスでSO
3吸収塔13からの出口ガスを脱硫し続けたところ、脱硫性能が徐々に低下する場合があることを本発明の発明者らは確認した。
【0040】
その原因を追及した結果、SO
3吸収塔13の出口ガスに含まれる硫酸ミストに溶解するニトロシル硫酸が触媒の活性を低下させる原因物質であることを突き止めた。さらに、ニトロシル硫酸が低濃度であれば触媒の劣化速度は遅くなるものの、時間の経過とともに触媒の性能劣化が発現することを確認した。ニトロシル硫酸は硝酸系の物質であり、鉛室法ではもともと硫酸の製造に利用されていたが、鉛室法に用いる触媒の活性を低下させる原因物質である。
【0041】
接触法ではSO
3吸収塔13の出口ガスに含まれるニトロシル硫酸の濃度は亜硫酸ガスを含む原料ガスの種類、操作条件によって異なり、原料ガスに含まれる窒素酸化物濃度が高い場合に高濃度となる傾向がある。たとえば、各種設備から製造される硫黄を燃焼して亜硫酸ガスを含む原料ガスを製造する場合には低濃度となり、硫化鉱を焙焼した場合には高濃度になる傾向がある。また、ニトロシル硫酸は、SO
3吸収塔13の塔頂部のダクトやSO
3吸収塔13のミストエリミネーターなどの機器の液だまりにより多く存在することがあった。
【0042】
この液だまりは硫酸からなり、それに含まれるニトロシル硫酸の濃度は、亜硫酸ガスの原料だけでなく装置構造によって異なるものの、数百mg/Lと高濃度になることが分かった。また、液だまり中には同類の硝酸系物質として硝酸や亜硝酸も含まれ得るが、これらは触媒被毒物質ではなく、よってニトロシル硫酸に対してだけ処置を施せばよいことが分かった。
【0043】
そこで、ニトロシル硫酸による触媒活性の低下を防いで脱硫性能を安定化及び向上させ、上記した希硫酸副生型の脱硫設備の効果及び利点を享受するための方法について鋭意研究を行ったところ、ニトロシル硫酸が活性炭触媒層に極力流入しないようにシステムを構築することが経済的な対策として有効であることが分かった。
【0044】
具体的には、
図2に示すように加湿塔21を経て循環する水を一部抜き出して脱硫塔25に移送する代わりに、
図3に示すように当該一部抜き出した液を上流の硫酸製造装置10のSO
3吸収塔13に移送し、脱硫塔25から抜き出した希硫酸と共に希釈液として利用するのが上記ニトロシル硫酸による触媒活性の低下の抑制に対して効果的であることが分かった。この場合、脱硫塔25には当該抜き出される希硫酸の量に見合う量の工業用水を系外から供給することが必要となる。加えて、加湿塔21の塔頂部にミストエリミネーター(図示せず)を設けて、加湿塔21から脱硫塔25に送られるガスにニトロシル硫酸を含んだミストが同伴しないようにするのがより効果的である。
【0045】
更に、加湿塔21の塔頂部から脱硫塔25の塔頂部に接続するライン上に水洗塔を設けたり、加湿塔21の上部にバルブトレイなどからなる水洗用の棚段を数段設けたりして加湿されたガスに含まれ得るニトロシル硫酸の蒸気を効果的に除去してもよい。なお、この場合は、前述した工水供給ライン23から供給される工業用水を、上記水洗塔や棚段で水洗用水として使用してから加湿塔21に供給するのが好ましい。
【0046】
工水供給ライン23から供給される工業用水の供給量は、前述したように加湿塔21における水バランスを考慮して定められるが、その結果、加湿塔21の循環水中のニトロシル硫酸や硫酸の濃度が十分に低く、よって、ガスの蒸気圧分や同伴による脱硫塔25へのニトロシル硫酸の混入や、水移送ライン24を介した水の移送に伴う脱硫塔25へのニトロシル硫酸の混入が実質的に問題にならないのであれば、上記水洗等や棚段を省くことができるし、水移送ライン24を介した水の移送についても少なくとも部分的には移送することが可能となる。
【0047】
なお、水バランス上は、脱硫塔25の希硫酸を逆に加湿塔21に流入させることも考えられるが、この場合はニトロシル硫酸の流入は抑制できるものの、加湿塔21の硫酸濃度が高濃度になって水の蒸発速度が遅くなり、その結果、脱硫塔25での脱硫性能が低下することを実験によって確認した。このことからも、加湿塔21から脱硫塔25へのニトロシル硫酸の流入の防止と加湿塔21の循環水中の硫酸の高濃度化の抑制を両方とも達成することが望ましいことが分かる。
【0048】
図3に示す方法は、触媒活性の低下を抑制すべくニトロシル硫酸が脱硫塔25に混入しないシステムを構築するものであったが、これに代えて、あるいはこれと並行して加湿塔21の循環水に含まれるニトロシル硫酸を分解する処理を行ってもよい。ニトロシル硫酸を分解する方法としては、例えば
図4に示すように、加湿塔21から脱硫塔25に送る水移送ライン24にニトロシル硫酸の分解槽30を設けて、移送される水に酸化剤を添加して触媒被毒物質であるニトロシル硫酸を分解する方法を挙げることができる。
【0049】
この方法を採用することにより水バランスをとる際のシステムの自由度が増えるうえ、運転や制御が容易になってより簡便な脱硫設備を実現することができる。ニトロシル硫酸を分解する酸化剤には、過酸化水素、次亜鉛素酸、オゾン、過硫酸などを使用することができる。これらの中では製品としての濃硫酸に残留しない薬剤である、過酸化水素やオゾンが好ましい。経済性を重視する場合は、活性炭などの触媒の存在下で、被処理水に空気などの酸素を含むガスを吹き込んで酸化分解してもよい。
【0050】
なお、加湿塔21の循環系もしくはそのバイパスライン上にニトロシル硫酸の分解槽30を設け、該分解槽30に受け入れた循環水に酸化剤を添加して触媒被毒物質であるニトロシル硫酸を分解するようにしてもよい。また、
図4の方法は、分解槽30によってニトロシル硫酸が除去された液を脱硫塔25内の活性炭系触媒層25aに供給される水分として使用するものであるが、これに代えてあるいはこれと並行して当該ニトロシル硫酸が除去された液を脱硫塔25からの希硫酸とともに濃硫酸生成工程の硫酸水溶液に混ぜてもよい。
【0051】
以上、本発明に係る接触法硫酸製造装置向けの脱硫方法について硫酸製造プラントの一具体例を例示して説明したが、本発明はこの具体例に限定されるものではなく、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で種々の代替例や変形例を考えることができる。例えば、SO
3吸収塔13の出口ガスと脱硫塔25の入口ガスとをガスガスヒーターを用いて熱交換してもよく、これにより脱硫性能をより一層向上させることができる。
【0052】
また、煙突からの白煙防止や煙突までのダクトの腐食防止を目的としてSO
3吸収塔13の出口ガスと脱硫塔25の出口ガスとを熱交換してもよい。また、酸化工程と濃硫酸生成工程とからなる硫酸製造プラントに他のプラントで生成された希硫酸を受け入れ、ここで当該外部から受け入れた希硫酸を濃硫酸の一部に混ぜて硫酸水溶液の一部又は全部を生成してもよい。
【0053】
更に、硫黄の燃焼を亜硫酸ガス源とする場合は、ガス中の酸素濃度が低下することがあり、その場合には加湿塔21の上流部分もしくは塔内に空気を導入して酸素濃度を上昇させることもできる。また、上記説明では加湿塔21にミストエリミネーターを設ける例を示したが、それ以外のSO
3吸収塔13や脱硫塔25でも水溶液を取り扱うことから、そこで発生したミストがガスに伴って下流側へ同伴されることを抑制するため、ミストエリミネーターや電気集じん機などのミスト捕集手段を設けて、ミストの除去率を向上させてもよい。
【0054】
更に、上記一具体例の硫酸製造プラントでは、硫酸水溶液の希釈の際、SO
3吸収塔13の塔底部から塔頂部にリサイクルする硫酸水溶液に希硫酸を混合するものであったが、これに限定されるものではなく、利用可能な硫酸水溶液の濃度や必要とされる濃硫酸の濃度等に応じて様々な形態をとることができる。例えば、
図5(a)に示すように外部から導入される吸収前の硫酸水溶液に希硫酸を混合してもよいし、
図5(b)に示すように吸収後の硫酸水溶液に希硫酸を混合してもよい。あるいは、
図5(c)に示すように上記リサイクルによる硫酸水溶液の供給と並行して希硫酸をSO
3吸収塔13の塔頂部に直接供給してもよい。
【0055】
このように、
図2に示した例では、SO
3吸収塔13から抜き出された濃硫酸の一部である硫酸水溶液を希釈した後、希釈された硫酸水溶液に三酸化硫黄ガスを吸収させて濃硫酸を製造するが、これに代えて三酸化硫黄ガスを硫酸水溶液に吸収させた後、三酸化硫黄ガスを吸収した硫酸水溶液を希釈して濃硫酸を製造してもよいし(
図5(b))、硫酸水溶液を希釈しつつ硫酸水溶液に三酸化硫黄ガスを吸収させて濃硫酸を製造してもよい(
図5(c))。なお、
図5(a)〜(c)では必要に応じて添加される工業用水のフローは省略している。
【実施例】
【0056】
[実施例1]
図2に示すフローに従って試験装置を組み立てて、SO
3ガスを吸収して濃硫酸を生成するSO
3吸収塔13から排出された出口ガスを、加湿塔21と脱硫塔25とからなる希硫酸副生型の脱硫装置20に導いて連続的に脱硫する試験を行った。活性炭系触媒層25aには、活性炭粉にポリテトラフルオロエチレン分散液を混ぜて混練した後、シート状に加工すると共にその一部を更に波状に加工し、これらシート状のものと波状のものを交互に重ねたものを使用した。脱硫試験時の運転条件を下記の表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
上記条件で脱硫試験を行ったところ、亜硫酸ガスの除去率(平均値)の経時変化は、試験直後78%、10時間後75%、200時間後65%、及び400時間後58%となった。脱硫塔25から抜き出される希硫酸は硫酸濃度が5〜7wt%になるよう制御しながら抜き出した。
【0059】
400時間経過後、加湿塔21への工業用水の供給及び加湿用水の循環を停止したところ、脱硫率が上記より早いペースで低下することを確認した。また、劣化した活性炭系触媒を全量抜き取って水に浸漬して洗浄したものを再度充填して脱硫性能を確認したところ、試験開始初期の脱硫率より大幅に低い性能であった。
【0060】
[実施例2]
図3に示すフローに示すように、水循環ポンプ22の吐出側ラインから抜き出した加湿塔21の循環水の供給先を脱硫塔25に代えて希硫酸混合装置29にした以外は実施例1と同じ条件で脱硫試験を実施した。その結果、脱硫率(平均値)は数十時間以降は安定し、400時間経過後でも75%前後で低下は認められなかった。
【0061】
400時間経過後、ニトロシル硫酸の試薬を脱硫塔25の循環液中に濃度15mg/L相当となるように添加したところ、脱硫性能はすぐに低下した。このことから、ニトロシル硫酸が触媒の劣化因子であることを確認できた。
【0062】
[実施例3]
加湿塔21の循環水をヒーターで45℃前後に加温した以外は実施例2と同じ条件で脱硫試験を行った。その結果、脱硫率(平均値)は400時間経過後で84〜88%前後であった。すなわち、加湿塔21で使用する加湿用水を加温することによって、脱硫塔25での脱硫性能をより高いレベルで維持できることが分かった。
【0063】
[実施例4]
図4に示すフローに従って水移送ライン24に代表径3mmの活性炭を0.5L充填した分解槽30を設け、加湿塔21の水を分解処理してから脱硫塔25に移送するようにした。分解槽30には加湿塔21の水循環ポンプ22の吐出側ラインから1.5L/hで抜き出した水を導入すると共に下部から空気を0.5L/minの流量で吹き込んでニトロシル硫酸の分解処理を行った。これ以外は実施例1と同じ条件で脱硫試験を行った。
【0064】
その結果、400時間経過後のニトロシル硫酸の分解率は84〜88%であった。なお、加湿塔21から分解槽30に導入する水に含まれるニトロシル硫酸の濃度は50mg/L、硫酸の濃度は0.2wt%であった。このように、加湿塔21の水に含まれるニトロシル硫酸を分解処理してから脱硫塔25に移送することにより、ニトロシル硫酸による触媒の劣化を防止することができ、脱硫塔25での脱硫性能をより高いレベルで維持できることが分かった。
【0065】
[実施例5]
加湿塔21から分解槽30に導入する水に含まれるニトロシル硫酸の濃度を50mg/Lに代えて10mg/Lとし、加湿塔21の水循環ポンプ22の吐出側ラインから抜き出した水のうちの一部を分解槽30に供給して分解後に排出される5mg/hの液を脱硫塔25に添加し、抜き出した水の残りを希硫酸混合装置29に供給したこと以外は実施例4と同様にして脱硫試験を行った。
【0066】
その結果、400時間後の脱硫率(平均値)は70%以上を維持した。このように、加湿塔21の循環水から抜き出した水のうち、一部を分解処理して脱硫塔25に供給し、残りをSO
3吸収塔に移送する場合においても触媒の劣化を防ぐことができ、長時間にわたって脱硫性能を維持できることが分かった。