(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レーザ加工ステップでは、被加工物の仕上げ厚さよりも被加工物裏面側の前記所定の高さ位置に前記改質層が形成されるとともに該改質層から被加工物表面に伸長するクラックが形成され、
該レーザ加工ステップを実施して全ての加工予定ラインに沿って改質層が形成された後、被加工物の裏面側を研削して該仕上げ厚さへと薄化することで、被加工物を加工予定ラインに沿って個々のチップへと分割する研削ステップをさらに備えること
を特徴とする請求項1または2に記載の加工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のレーザ加工にあっては、レーザ照射ヘッドユニット等のレーザビーム照射手段の構成要素が温度変化により膨張または収縮することに起因して、レーザ照射位置が狙い位置からずれてしまうというおそれがあった。レーザ照射位置がずれると、デバイス対応位置に改質層が形成されるといったことが起こり、こうなると被加工物に外力を付与して分割する際に、所望位置で被加工物が分割されずに異形チップが発生したり、デバイスを損傷させたりしてしまうという不具合を招く。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その主な技術的課題は、加工予定ラインに沿ってレーザビームを照射して被加工物にレーザ加工を施すにあたり、レーザ照射位置のずれを低減し得る加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の加工方法は、表面の交差した複数の加工予定ラインで区画される各領域にそれぞれデバイスが形成された被加工物にレーザ加工を施す加工方法であって、被加工物の表面側を保持手段で保持して被加工物の裏面を露出させる保持ステップと、該保持手段で保持された被加工物の裏面側から前記加工予定ラインを検出して該加工予定ラインとレーザビームとを整列させるアライメントステップと、該アライメントステップを実施した後、被加工物に対して透過性を有する波長のレーザビームの集光点を被加工物の内部に位置付けて該レーザビームを被加工物の裏面側から前記加工予定ラインに沿って照射することを繰り返し、被加工物内部に複数の該加工予定ラインに沿った改質層を形成するレーザ加工ステップと、該レーザ加工ステップの実施中、所定のタイミングで被加工物の裏面側から被加工物に形成された前記改質層を撮像手段で撮像し、前記加工予定ラインと該改質層との位置ずれを検出して補正値を算出し、前記レーザビームの照射位置データに該補正値を加算して該レーザビームの照射位置と該加工予定ラインとを一致させる位置ずれ補正ステップと、を備
え、前記レーザ加工ステップでは、被加工物の表面から所定の高さ位置に改質層を形成し、前記位置ずれ補正ステップでは、該所定の高さ位置に該改質層が形成された前記加工予定ラインに沿って前記レーザビームを照射して該改質層より被加工物の裏面側に補正用改質層を形成し、該補正用改質層を前記撮像手段で撮像して、該加工予定ラインと該補正用改質層との位置ずれを検出して前記補正値を算出することを特徴とする。
【0007】
本発明の加工方法では、レーザ加工ステップでレーザ加工を実施中において、加工予定ラインと、レーザ加工により被加工物内部に形成された改質層との位置ずれを、所定のタイミングで検出し、検出結果に基づいて補正値を算出する。そしてその補正値を、レーザビームの照射位置データに加算し、以降のレーザビームの照射位置を加工予定ラインに一致させる位置合わせを行う。これにより、レーザ照射位置のずれを低減させることができる。
【0009】
また、本発明によると、補正用改質層を、正規に形成する改質層と加工予定ラインとの位置ずれ検出のための指標としており、補正用改質層は正規に形成する改質層より被加工物の裏面側に形成するため、改質層に反射した電磁波による改質層の像がより鮮明に得られ、高精度な位置合わせが可能となる。また、同一の加工予定ラインにおいて正規の改質層より被加工物裏面側に補正用改質層を形成した後、補正用改質層より被加工物表面側に改質層を形成しようとしても、補正用改質層にレーザビームが阻害されて正規の改質層が形成されないおそれがあるが、本発明では正規の改質層を形成した後、補正用改質層を形成するようにしたため、正規の改質層を確実に形成することができる。
【0010】
また、本発明では、前記補正用改質層は、前記加工予定ラインの伸長方向に沿って局所的に形成されることを特徴とする(請求項
2)。この形態によると、補正用改質層を局所的に形成することで、被加工物の強度低下を抑えることができる。
【0011】
また、上記請求項
1または
2においては、前記レーザ加工ステップでは、被加工物の仕上げ厚さよりも被加工物裏面側の前記所定の高さ位置に前記改質層が形成されるとともに該改質層から被加工物表面に伸長するクラックが形成され、該レーザ加工ステップを実施して全ての加工予定ラインに沿って改質層が形成された後、被加工物の裏面側を研削して該仕上げ厚さへと薄化することで、被加工物を加工予定ラインに沿って個々のチップへと分割する研削ステップをさらに備える形態を含む(請求項
3)。この形態によると、研削ステップを実施することで、補正用改質層と改質層が除去されるため、形成されるチップには改質層が残存せず、チップの抗折強度をこれら改質層が残存した場合に比べて向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加工予定ラインに沿ってレーザビームを照射して被加工物にレーザ加工を施すにあたり、レーザ照射位置のずれを低減し得る加工方法が提供されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るウェーハ(被加工物)の斜視図である。
【
図2】ウェーハを粘着テープを介して環状フレームに支持した状態ならびに一実施形態に係る加工方法の保持ステップを示す斜視図である。
【
図4】同加工方法のアライメントステップを示す平面図である。
【
図5】同加工方法のレーザ加工ステップを示す側面図である。
【
図6】レーザ加工ステップでウェーハ内に形成される改質層を示す断面図である。
【
図7】同加工方法の位置ずれ補正ステップを示す側面図である。
【
図9】同加工方法の研削ステップを示す斜視図である。
【
図10】位置ずれ補正ステップの他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
(1)ウェーハ
図1は、一実施形態の被加工物である半導体ウェーハ等のウェーハ1を示している。シリコン等からなるこのウェーハ1は、厚さが例えば700μm程度の円板状に形成されている。ウェーハ1の表面1aには、複数のデバイス2が形成されている。これらデバイス2は、表面1aに格子状に設定された複数の交差する分割予定ライン3で区画された複数の矩形領域4に、LSI等の電子回路を設けることで形成されている。本実施形態は、ウェーハ1にレーザ加工および研削加工を施すことで、各領域4に分割して複数のチップを得る加工方法である。
【0015】
ウェーハ1は、
図2に示すように粘着テープ8を介して環状フレーム9に支持された状態で加工に供される。粘着テープ8は、伸縮性を有する基材の片面に粘着層が形成されたもので、外周部の粘着層に環状フレーム9が貼着される。また、ウェーハ1は、表面1a側を粘着層に合わせることで裏面1bが露出し、かつ、環状フレーム9の円形状の内周縁と同心状に貼着される。ウェーハ1は、環状フレーム9をハンドリングすることで搬送される。以下、加工方法を手順にしたがって説明する。
【0016】
(2)加工方法
(2−1)保持ステップ
図2〜
図4に示すように、レーザ加工手段20が上方に配設され、回転可能な保持手段30に粘着テープ8を介して表面1a側を保持し、ウェーハ1の裏面1b側を露出させる保持ステップを行う。
【0017】
保持手段30は水平な上面に負圧吸引作用でウェーハ1を吸引保持する円形状の保持面31が形成されており、ウェーハ1は、保持面1に同心状に載置され、吸引保持される。また、環状フレーム9は、保持手段30の周囲に配設された複数のクランプ機構35に固定される。
図3に示すように、環状フレーム9は保持面31より下側で固定され、粘着テープ8はある程度のテンションがかかった状態とされる。
【0018】
レーザ加工手段20は、レーザビームを下方に向けて照射する照射部21と、照射部21に固定されておりウェーハ1の分割予定ライン3を検出する顕微鏡カメラ22を有している。照射部21から照射されるレーザビームの波長はウェーハ1に対し透過性を有し、ウェーハ1の内部に改質層を形成し得るものである。カメラ22は、表面1a側の分割予定ライン3を撮像可能なもので、ウェーハ1を透過する波長の電磁波(例えば赤外線)をウェーハ1に照射するものが用いられる。レーザ加工手段20と保持手段30とは、
図4に示すX方向の加工送り方向と、Y方向の割り出し送り方向に相対的に移動可能に設けられている。
【0019】
(2−2)アライメントステップ
次に、レーザ加工手段20のカメラ22により、保持手段30で保持されたウェーハ1の裏面1b側から分割予定ライン3を検出し、分割予定ライン3と、照射部21から照射されるレーザビームとを整列させるアライメントステップを実施する。
【0020】
カメラ22はレーザビームの走査ラインに一致する基準線を有しており、この基準線は加工送り方向(
図4のX方向)と平行に設定されている。アライメントは、保持手段30を回転させ、直交する分割予定ライン3の、一方向側の分割予定ライン3をX方向と平行に位置付け、かつ、他方向側の分割予定ライン3をY方向と平行に位置付けるという作業である。上記のようにカメラ22からはウェーハ1を透過する波長の電磁波がウェーハ1に向けて照射され、ウェーハ1の表面1a側で反射した反射光で形成される像に基づいてアライメントを実施する。
【0021】
(2−3)レーザ加工ステップ
次に、
図5に示すように、レーザ加工手段20の照射部21から、集光点をウェーハ1の内部に位置付けてレーザビームLを裏面1b側から各分割予定ライン3に沿って照射することを繰り返し、ウェーハ1の内部に分割予定ライン3に沿った改質層1cを形成する。改質層1cは、ウェーハ1内の他の部分よりも強度が低下した特性を有し、ウェーハ1の表裏面と平行な一定の層厚で形成される。
【0022】
改質層1cの形成は、
図4でのY方向の一端側のX方向に延びる分割予定ライン3に対してカメラ22の基準線を割り出し送りで合わせた後、X方向に加工送りしながらレーザビームを照射し、次いで、予め入力した分割予定ライン3間の間隔である割り出し送り量に基づく割り出し送りと、加工送りとを交互に繰り返し、X方向に延びる分割予定ライン3に沿ってレーザビームLを照射することで行う。
【0023】
X方向に延びる全ての分割予定ライン3にレーザビームLを照射したら、保持手段30を90°回転させて未加工の分割予定ライン3をX方向と平行に位置付け、同じ要領でそれらの分割予定ライン3にレーザビームLを照射し、改質層1cを形成する。
【0024】
改質層1cが形成されるレーザビーム
Lの集光点は、
図6に示すように、後の研削ステップで実施する裏面研削後のウェーハ1の仕上げ厚さt(例えば50〜100μm程度)より裏面1b側に距離d(例えば5〜20μm程度)離れた位置に設定される。同図に示すように、本実施形態では、改質層1cの形成とともに、改質層1cから表面1aに伸長するクラック1dが同時に形成されるようにする。
【0025】
(2−4)位置ずれ補正ステップ
上記レーザ加工ステップの実施中において、所定のタイミングで位置ずれ補正ステップを複数回実施する。位置ずれ補正は、
図7に示すように、ウェーハに形成した改質層1cをウェーハ1の裏面1b側からカメラ22で撮像し、
図8に示すようにカメラ22の基準線22aと実際に形成した改質層1cとのY方向の位置ずれ量を検出して位置ずれを補正する補正値を算出し、その補正値を、レーザビームLの照射位置データに加算することで、レーザビームLの照射位置と分割予定ライン3とを一致させる作業である。
【0026】
位置ずれ補正ステップを行うタイミングは、例えば5本の分割予定ライン3に改質層1cを形成した直後とし、5本目ごとに、形成した改質層1cに対して行う。
図8の右側の図は、左側の図のカメラ撮像領域Pの像であって、ウェーハ1の内部にX方向に沿って形成した改質層1cが、カメラ22の基準線22aに対しY1方向に距離aずれていることを示している。この場合には、レーザビームLの照射位置がY2方向に距離aずれるようにレーザビームLの照射位置データを補正する。なお、割り出し送りされる基準線22aが分割予定ライン3の中央からずれている場合には、基準線22aと分割予定ライン3を予め位置合わせしておくことで、レーザビームL照射位置と分割予定ライン3とを一致させる。
【0027】
位置ずれ補正ステップは、一方向およびこれに直交する他方向に延びる分割予定ライン3に改質層1cを形成する際のいずれの場合にも行う。また、実施するタイミングは任意であるが、回数を多くすれば位置ずれ量を小さく抑えることができる。
【0028】
(2−5)研削ステップ
上記のように、位置ずれ補正ステップを実施しながらレーザ加工ステップを実施し、全ての分割予定ライン3に沿って改質層1cが形成されたら、ウェーハ1を保持手段30から搬出する。そして、ウェーハの裏面1b側を研削して仕上げ厚さへと薄化すると同時に、ウェーハ1を改質層1cすなわち分割予定ライン3に沿って各領域4に分割して個々のチップへと分割する研削ステップを実施する。
【0029】
研削ステップは、
図9に示すように、粘着テープ8を研削テーブル45に合わせてウェーハ1を研削テーブル45で保持し、上方に露出するウェーハ1の裏面1bを研削手段40で研削してウェーハ1を仕上げ厚さに薄化する。
【0030】
研削テーブル45は、水平な円形状の保持面上に、負圧吸引作用によってウェーハ1を吸引保持するもので、図示せぬ回転駆動機構により軸回りに回転させられる。研削手段40は、鉛直方向に延び、図示せぬモータによって回転駆動されるスピンドル41の先端に、フランジ42を介して研削ホイール43が固定されたもので、研削テーブル45の上方に上下動可能に配設されている。研削ホイール43の下面外周部には砥石44が固着されている。砥石44はウェーハ1の材質に応じたものが用いられ、例えば、ダイヤモンドの砥粒をメタルボンドやレジンボンド等の結合剤で固めて成形したダイヤモンド砥石等が用いられる。
【0031】
ウェーハ1の裏面研削は、研削テーブル45を所定速度で一方向に回転させながら研削手段40を下降させ、回転する研削ホイール43の砥石44をウェーハ1の裏面1bに押し付けることによってなされ、裏面1b全面が研削される。
【0032】
裏面研削により仕上げ厚さまでウェーハ1が研削されると、形成された改質層1cは除去され、クラック1dが形成された層まで研削される。クラック1dによってウェーハ1の表面1a側は分割予定ライン3に沿って分割されているため、クラック1dが形成された層まで研削されることで、ウェーハ1は個々のチップ5へと分割される。あるいは、ウェーハ1には研削によって外力が付与されるため、改質層1cが除去される以前に、改質層1cを起点としてチップ5に分割される場合もある。この場合、チップ5に分割された状態でさらにウェーハ1を仕上げ厚さまで研削することになる。
【0033】
(3)実施形態の作用効果
上記一実施形態の加工方法によれば、ウェーハ1の内部に改質層1cを形成するレーザ加工ステップの実施中において、所定のタイミングで分割予定ライン3と改質層1cとの位置ずれを逐一検出し、検出結果に基づいて算出した補正値をレーザビームLの照射位置データに加算することで、以降のレーザビームLの照射位置を分割予定ライン3に一致させることができる。これにより、レーザ照射位置のずれを低減させることができる。
【0034】
また、研削ステップを実施してウェーハ1をチップ5に分割した際に、裏面研削により改質層1cが除去される。このため、得られた各チップ5には改質層1cが残存せず、チップ5の抗折強度を改質層1cが残存した場合に比べて向上させることができる。
【0035】
(4)他の実施形態
図10は、位置ずれ補正ステップの他の実施形態を示している。この場合の位置ずれ補正ステップは、上記改質層1cが形成された分割予定ライン3に沿って、この改質層1cよりも裏面1b側のウェーハ1内に補正用改質層1hを分割予定ライン3の伸長方向に沿って局所的に形成する。そして、この補正用改質層1hをカメラ22で撮像して、分割予定ライン3と補正用改質層1hとの位置ずれ量を検出し、この位置ずれ量から位置ずれを補正する補正値を算出し、その補正値を、レーザビームLの照射位置データに加算する。これにより、以降のレーザビームLの照射位置と分割予定ライン3とを一致させる。補正用改質層1hは、位置ずれ補正を行うタイミングごとに形成し、その長さb1は例えば10mm程度、裏面1bからの深さは例えば100〜200μmとする。
【0036】
この実施形態の位置ずれ補正ステップでは、補正用改質層1hを、正規に形成する改質層1cと分割予定ライン3との位置ずれ検出のための指標としている。補正用改質層1hは正規に形成する改質層1cよりも裏面1bに近い位置に形成するため、カメラ22による補正用改質層1hの像、すなわち補正用改質層1hに反射した電磁波による補正用改質層1hの像が、より鮮明に得られる。このため、レーザ照射位置と分割予定ライン3とを、より高精度に位置合わせすることができる。補正用改質層1hは、分割予定ライン3との位置ずれを検出することができる長さがあれば十分であり、できるだけ短いものを局所的に形成することで、ウェーハ1の強度低減を抑えることができる。
【0037】
また、同一の分割予定ライン3において正規の改質層1cより裏面1b側に補正用改質層1hを形成した後、補正用改質層1hより表面1a側に正規の改質層1cを形成しようとしても、補正用改質層1hにレーザビームLが阻害されて正規の改質層1cが形成されないおそれがあるが、正規の改質層1cを形成した後に補正用改質層1hを形成するため、正規の改質層1cを確実に形成することができる。なお、この場合も上記一実施形態と同様に裏面研削を行ってウェーハ1を複数にチップ5に分割する研削ステップが実施される。研削ステップが実施されることで、補正用改質層1hおよび改質層1cは除去されてウェーハ1内には残存せず、チップ5の抗折強度をこれら改質層1c,1hが残存した場合に比べて向上させることができる。