(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コアに添加した前記正のドーパントは半径方向に濃度分布を持ち、その最大値は、純シリカガラスを基準とした比屈折率差が0.30〜0.45%となるように添加されている請求項8又は9に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
前記母材は中心軸対称の屈折率分布を持ち、この母材を線引きした光ファイバの波長1310nmにおける推定モードフィールド直径がこの屈折率分布に基づいて算出され、この推定モードフィールド直径の母材サイズ換算値MPが、
2r2/MP≧2.6
である請求項8から22の何れか1項に記載の光ファイバ用シリカガラス母材。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
実施例1−1
先ず、VAD法により、コアおよび中間層からなる多孔質ガラス母材を一体合成した。コアには屈折率を上昇させるためのゲルマニウムをドープした。この多孔質ガラス母材を塩素雰囲気ガス中にて約1200℃に加熱し、含まれる水酸基(−OH基)の除去を行ない、引きつづき四フッ化シランガスを毎分0.5リットルとヘリウムガスを毎分4リットルの混合ガス流雰囲気中にて約1400℃に加熱し、中間層に屈折率を低下させるフッ素をドープすると同時に中実な透明ガラスコア母材とした。なお、四フッ化シランガスに代えて、四フッ化メタンや六フッ化エタンなどを使用してもよい。
【0014】
この透明ガラスコア母材をガラス旋盤にて所定径に延伸して長手方向の外径を揃えた。このとき、ガラス旋盤の酸水素火炎の影響で表面にOH基が取り込まれるが、この透明ガラスコア母材をフッ化水素酸水溶液に浸漬して表面を溶かすことによってこれを除去した。なお、ガラス旋盤で延伸する際、その加熱源にアルゴンプラズマ火炎を用いてもよい。その場合は、コア母材の表面にOH基が混入しないため、フッ化水素酸による処理を省略することができる。
【0015】
次に、この透明ガラスコア母材に、さらにVAD法によってシリカガラス微粒子を堆積し、第3コアに相当する多孔質層を形成した。これを塩素雰囲気ガス中にて約1200℃に加熱し、多孔質ガラス層に含まれるOH基の除去を行ない、引続き毎分1リットルの四フッ化シランガス及び毎分2リットルのヘリウムガスを含有する混合ガス流雰囲気中にて約1400℃に加熱し、多孔質ガラス層へのフッ素添加を行いつつ、多孔質ガラス層を中実化して屈折率の低い透明ガラス層とし、低屈折率トレンチ部を形成した。なお、四フッ化シランガスに代えて、四フッ化メタンや六フッ化エタンなどを使用してもよい。
【0016】
こうして作製した、コア、中間層および低屈折率トレンチ部からなる透明コア母材を、中間クラッド用のシリカガラス製チューブに挿入し、チューブの内部を真空ポンプで減圧しながら約2000℃に加熱し、中間クラッドとコア部とを一体化させて、光ファイバ用の透明ガラス母材を作製した。さらにその外側に、VAD法によって多孔質シリカガラス層を堆積し、それをヘリウム雰囲気ガス中で約1600℃程度に加熱し、透明ガラス化することにより光ファイバ母材を作製した。得られた母材を約2100℃に加熱し紡糸することによって、直径125μmの光ファイバを得た。作製した光ファイバの屈折率分布を
図2に示した。なお、
図1は、光ファイバの構造を説明する概略図である。
【0017】
図2に作製した光ファイバの屈折率分布形状が示され、中心部に半径r
1のコア、該コアに隣接してその外周を覆う最外半径r
2の中間層、該中間層に隣接してその外周を覆う最外半径r
3の低屈折率トレンチ層、及び該低屈折率トレンチ層に隣接してその外周を覆うクラッドを有しており、中間層の屈折率は、コア側からクラッド側に向かって連続的になだらかに低下し、半径位置r
1で最大値を示し、半径位置r
2で最小値を示している。さらに、コアは最大屈折率n
0を有し、中間層は半径位置r
1において屈折率n
1及び半径位置r
2において屈折率n
2を有し、低屈折率トレンチ部は最小屈折率n
3を有し、外側クラッド部は最小屈折率n
4を有し、n
0>n
1>n
2>n
3、n
3<n
4となっているのが認められる。
【0018】
実施例1−2
VAD法で作製した多孔質ガラス母材を実施例1と同様に塩素雰囲気中で処理してOH基の除去を行なった後、四フッ化メタン毎分0.3リットルとヘリウムガスを毎分4リットルの雰囲気中にて約1400℃に加熱処理して中実な透明ガラス母材とし、その後は、実施例1と同様の方法で光ファイバを作製した。光ファイバの屈折率分布ならびに屈折率の半径位置に対する二回微分値の分布を
図3に示した。なお、同図の下段側に、中間層付近の二回微分値を40倍に拡大して破線で示した。この二回微分値が「正」→「負」→「正」と変化していることから、中間層の屈折率形状分布が「下に凸」→「上に凸」→「下に凸」と変化しており、中間層に突出部を有することが認められる。また、r=r
2付近やや外側において、二回微分値が「負」→「正」に変化していることから、ここに屈折率の変曲点があることがわかる。
【0019】
比較例1−1、1−2
VAD法で作製した多孔質ガラス母材を実施例1と同様に塩素雰囲気中で処理してOH基の除去を行なった後、フッ素系ガスを含まないヘリウムガス毎分4.5リットルの雰囲気で約1500℃に加熱して中実な透明ガラス母材とし、その後は実施例1と同様の方法で光ファイバを作製した。光ファイバの屈折率分布は
図4に示した通りであり、中間層の屈折率がほぼ平坦になっているのが認められる。上記実施例1−1および1−2、比較例1−1および1−2で作製した光ファイバの光学特性を表1にまとめて示した。
【0021】
実施例2−1
トレンチ型光シングルモード光ファイバは、半径位置中心から正のドーパントを添加して屈折率を高めたコアが形成される。そして、コアに隣接してその半径方向外側にコアを囲むように設けられた中間層(内側クラッド層)が形成される。そして、内側クラッド層に隣接してその半径方向外側に中間層を囲むように設けられ、負のドーパントを添加して屈折率を低下させたトレンチ層が形成される。そして、さらに、トレンチ層に隣接してその半径方向外側を囲むようにクラッド層(外側クラッド層)が形成された構造となっている。通信用光ファイバはシリカガラスで形成されており、例えばITU−T G.652規格等ではその直径は125μmとされている。このような光ファイバの作製は、直径が数十mm程度で,目的とする光ファイバと相似形の屈折率分布を持つ光ファイバ用母材を準備して、それを加熱し軟化させて線引きすることによって作製する。出来上がった光ファイバは、線引きする際の張力や加熱冷却速度等による残留応力によって、その屈折率絶対値が微妙に異なるものの、コアやクラッド等の母材における半径方向の位置関係は保持される。
【0022】
このような光ファイバ用母材では、コアにはゲルマニウムなどの屈折率を高めるための正のドーパントを添加し、トレンチ部分にはフッ素などの屈折率を低めるための負のドーパントを添加する。クラッド層の屈折率は純シリカガラスの屈折率レベルとする。
【0023】
VAD法を用いて、中心部バーナに酸素、水素を導入して酸水素火炎とし、そこに四塩化ケイ素(SiCl
4)ならびに四塩化ゲルマニウム(GeCl
4)を導入して加水分解反応により、ゲルマニウム(Ge)が添加されたシリカ(SiO
2)ガラス微粒子を生成させ、このガラス微粒子をターゲットに堆積させ多孔質ガラス母材の中心部を形成した。同時に,外周部バーナにも同様に酸素、水素を導入して酸水素火炎とし、そこに四塩化ケイ素を導入して加水分解反応によって、ゲルマニウムを含まない純シリカガラス微粒子を生成させ、多孔質ガラス母材の外周部を形成した。ゲルマニウムはシリカガラスの屈折率を高める正のドーパントの一例である。ここで,中心部は光ファイバ用母材のコアとなる領域であり、外周部は光ファイバ用母材の中間層となる部分である。
【0024】
この多孔質ガラス母材を塩素ガス(Cl
2)含有雰囲気で約1200℃で加熱して多孔質シリカガラス中のOH基を除去する「脱水」を行い、引続き四フッ化メタン(CF
4)等のフッ素含有ガスを混入させたヘリウム(He)ガス雰囲気で約1400℃で加熱して透明ガラス化をする。こうして,中心に屈折率が純シリカガラスより高いコア、その周囲にフッ素が添加されたシリカガラスの中間層をもつ第1中間母材を得る。フッ素はシリカガラスの屈折率を低下させる負のドーパントの一例である。
【0025】
ここで、脱水時に、中心部の多孔質ガラス中に含まれるゲルマニウムに塩素ガスが作用して塩化ゲルマニウム(GeCl
X)を生成し、多孔質ガラス母材の外周方向に向かってわずかに拡散する。これにより、コア内のゲルマニウム濃度は若干低下し、中間層にはゲルマニウムが半径方向に不均一に添加される。
【0026】
中心部バーナへの四塩化ゲルマニウムの導入量,多孔質ガラス母材の嵩密度ならびに脱水時の塩素ガスの分圧、加熱温度、処理時間を適宜調整することによって、コア内のゲルマニウムの濃度および中間層のゲルマニウムの濃度分布を調整することができる。コア内のゲルマニウムの濃度を純シリカガラスに対する比屈折率差で0.3〜0.45%となるように調整することによって、目標とする光ファイバの光学特性を満足しうる中間母材となる。ゲルマニウムの濃度が小さくなると、コアの比屈折率が低下するので光ファイバにした際の光の閉じ込め効果が弱くなり、曲げ損失が上昇する要因となる。また、ゲルマニウムの濃度が大きくなると、光ファイバにした際のレーリー散乱損失が増加する傾向がある。このため、コア内には必要以上のゲルマニウムを添加しないのが好ましく、屈折率を合わせるために余計なゲルマニウム添加を不要とすることを目的として、コア内にはフッ素等の屈折率を低下させる負のドーパントを添加しないのが好ましい。コア内に添加されるゲルマニウムの濃度は、より好ましくは純シリカガラスに対する比屈折率差で0.33〜0.40%、さらに好ましくは純シリカガラスに対する比屈折率差で0.34〜0.39%となるように調整することによって、この母材から作製した光ファイバの曲げ損失、カットオフ波長、MFDなどの特性を目標値に合致しかつ、低損失となる。
【0027】
中間層内のゲルマニウム添加は、脱水時の拡散現象によって、容易にコアと中間層の界面におけるゲルマニウムの濃度変化を連続的に形成することができる。このようにコアと中間層の界面でのゲルマニウム濃度変化を連続的に形成すると、線引きする際のコアと中間層との界面における粘度変化が緩やかになり、構造欠陥が生じにくくなるので好ましい。中間層内のゲルマニウム濃度は内側ほど高濃度で、外側ほど低濃度となり、中間層の最外層ではゲルマニウム濃度は実質ゼロとなるようにするのが好ましい。コアの半径の概ね2倍以上の半径位置においてゲルマニウム濃度がゼロとなるとより好ましい。
【0028】
また、透明ガラス化時に導入するフッ素含有ガスの分圧、加熱温度、処理時間を適宜調整することによって、中間層にフッ素(F)を半径方向に不均一に添加することができる。光ファイバにした際に信号光は中間層にも滲み出す状態で伝送されるのであるが、これら滲み出した光に対して作用するレーリー散乱損失を低減するためには中間層に添加するドーパントは少ないほど良い。一方、中間層の外側に形成されるトレンチ層との界面においてフッ素濃度を高濃度にすると、中間層とトレンチ層との界面におけるフッ素濃度の変化が緩やかとなり、線引きする際のこの部分での粘度変化が緩やかになり、構造欠陥が生じにくくなる。従って、中間層内のフッ素の濃度分布は、中間層の外側ほど高濃度で、内側ほど低濃度となり、中間層とコアとが隣接する界面近傍ではフッ素濃度は実質ゼロとなるのが好ましい。フッ素濃度は中間層の最外部で最大値を取るのが好ましく、純シリカガラスに対する比屈折率差でが−0.25〜−0.10%となるように添加されているのが好ましい。より好ましくは−0.20〜−0.15%である。
【0029】
次に、この第1中間母材の外径ならびに中間層の厚みを所定の値になるように加工を行ない、この外側にトレンチ層を形成して第2中間母材を作製する。具体的には、第1中間母材のコア径が長手方向に均一になるようにロッド全体を延伸し、中間層の厚みが所定厚みとなるように中間層の表面を機械研削や薬液溶解除去などによって削った後、その表面に多孔質シリカガラスのトレンチ層を堆積させる。すなわち、酸水素火炎バーナに四塩化ケイ素を導入してシリカガラス微粒子を生成させ、これを回転するロッド上に往復堆積させるとよい。次いで、このロッドに堆積した多孔質シリカガラストレンチ層を塩素ガス含有雰囲気で約1200℃で加熱して多孔質シリカガラス中のOH基を除去する脱水を行い、引続き四フッ化シラン(SiF
4)等のフッ素含有ガスを混入させたヘリウムHeガス雰囲気で約1400℃で加熱して透明ガラス化をする。こうして、中心にコア、その周囲に中間層、その周囲にフッ素が添加されたトレンチ層をもつ第2中間母材となる。なお、トレンチ層にも、屈折率を合わせるために余計なフッ素添加を不要とすることを目的として、ゲルマニウム等の屈折率を高める正のドーパントを添加しないのが好ましい。
【0030】
ここで、トレンチ層の多孔質シリカガラス層を堆積するのに先立ち、ロッド表面にガラス構造緩和ドーパントを導入するのが好ましい。ガラス構造緩和ドーパントは例えばOH基であり、ロッド表面を、ガラス原料を含まない酸水素火炎で炙ることによって容易に導入可能である。これにより、中間層とトレンチ層の界面付近のガラス構造緩和が促進されるため、界面での発泡が抑制され、かつ光ファイバの構造不整損失が低減される効果がある。OH基の場合、ロッド表面近傍に0.5〜5重量ppmの濃度で導入すれば良い。濃度が高すぎると、線引き後の光ファイバの伝送損失が悪化する要因となりうる。
【0031】
さらに、第1中間母材の加工に先立って第1中間母材の屈折率分布形状を計測し、この屈折率分布形状に基づいて光ファイバのサイズに線引きした際の半径方向サイズとした場合の推定モードフィールド直径を算出すると良い。推定モードフィールド直径はコアの比屈折率とコア径から光波理論によって解析近似的に算出しても良いが、屈折率分布形状から特性行列方程式を有限要素法などの数値計算で解いて伝搬光の電界分布を算出すると精度が高まる。また、線引き条件によって異なる光ファイバ内の残留応力の影響を低減するために、類似の光ファイバ母材を実際に線引きしたファイバのモードフィールド直径の実測値との推定値を比較して比例係数等により適宜補正を加えることによってさらに推定値の精度を高めることができる。こうして算出した推定モードフィールド直径を光ファイバ用母材のサイズに換算したM
P(mm)を算出して、加工後の中間層の外側半径r
2(mm)に対して、2r
2/M
P≧2.6となるようにr
2を設定すると好ましく、さらに好ましくは2r
2/M
P≧2.7、さらに好ましくは2r
2/M
P≧2.75とすると良い。こうすることにより、ガラス構造緩和ドーパントによる伝送損失の増加を抑制することができる。
【0032】
次いで、この第2中間母材のトレンチ層の厚みが所定量になるように加工を行ない、この外側にクラッド層を形成して最終母材を作製する。具体的には、第2中間母材のトレンチ層の厚みが所定厚みとなるようにトレンチ層の表面を機械研削や薬液溶解除去などによって削った後、その表面に多孔質シリカガラスのクラッド層を堆積させる。すなわち、酸水素火炎バーナに四塩化ケイ素を導入してシリカガラス微粒子を生成させ、これを回転するロッド上に往復堆積させればよい。このロッドに堆積した多孔質シリカガラストレンチ層を塩素ガス含有雰囲気で約1200℃で加熱して多孔質シリカガラス中のOH基を除去する脱水を行い、ヘリウムHeガス雰囲気で約1500℃で加熱して透明ガラス化をする。こうして,中心にコア、その周囲に中間層、その周囲にフッ素が添加されたトレンチ層、その外側に純シリカガラスからなるクラッド層をもつ最終母材となる。
【0033】
ここで、クラッド層の多孔質シリカガラス層を堆積するのに先立ち、ロッド表面にガラス構造緩和ドーパントを導入するのが好ましい。これにより、トレンチ層とクラッド層の界面付近のガラス構造緩和が促進されるため、界面での発泡が抑制される効果がある。OH基の場合、ロッド表面近傍に0.5〜50重量ppmの濃度で導入すれば良い。濃度が高すぎると、線引き後の光ファイバの伝送損失が悪化する要因となりうる。尚、このようにして作製した光ファイバ用シリカガラス母材には、脱水の際の塩素が0.1〜0.3重量%ほど混入した状態にあるが、屈折率分布や光ファイバの光学特性への影響が無視できる程度であることを付言する。
【0034】
図5は、実施例2−1に係る光ファイバ用母材の屈折率分布を示す。ここで、コアと中間層の界面の半径位置r
1は11mm、中間層とトレンチ層の界面の半径位置r
2は38mm、トレンチ層とクラッド層の界面位置r3は49mmである。このように、中間層の半径方向の厚みは、トレンチ層の厚みよりも大きくしている。コアはほぼステップ形状の屈折率分布となっており、クラッドの純シリカガラスを基準とした比屈折率差は中心部で0.34%、最大で0.38%である。また、中間層の比屈折率差は、半径位置r
1で最大値0.19%であり、外周方向に向かってなだらかに低下して、半径位置r
2で最小値−0.20%である。トレンチ層はほぼステップ形状の屈折率分布となっており、最小値−0.585%である。
【0035】
図6は、
図5に示した光ファイバ用シリカガラス母材の半径方向の各位置のゲルマニウム濃度およびフッ素濃度を示す。ゲルマニウム濃度およびフッ素濃度は、光ファイバ用シリカガラス母材を切り出して表面を鏡面研磨し、EPMA分析機を用いてゲルマニウム濃度およびフッ素濃度を計測した。なお、
図3に示すゲルマニウム濃度およびフッ素濃度は重量%であり、ゲルマニウム濃度は二酸化ゲルマニウム(GeO
2)重量%換算値である。
【0036】
ここで、半径位置11mm〜38mmの中間層において、ゲルマニウムおよびフッ素がそれぞれ半径方向に不均一にドープされている。中間層のゲルマニウム濃度は半径位置r
1=11mmにおいて最大で、半径方向外側に向かって連続的に徐々に減少し、半径位置31mmでゼロとなり、そこから外側に向かってクラッド層までゼロである。すなわち、中間層のコアに近い領域には、正のドーパントであるゲルマニウムが多く添加されており、半径位置r
2において、ゲルマニウム濃度はゼロである。また、フッ素濃度は半径位置r
2=38mmにおいて最大で、半径方向内側に向かって徐々に減少し、半径位置13mmでゼロとなり、そこから内側に向かってコアまでゼロである。すなわち、中間層のトレンチ層に近い領域には、負のドーパントが多く添加されており、半径位置r
1において、フッ素濃度はゼロである。したがって、中間層は、半径方向に3層から構成されており、半径方向内側より、ゲルマニウムを含有しフッ素を含有しない領域、ゲルマニウムとフッ素のどちらも含有する領域、フッ素を含有しゲルマニウムを含有しない領域を有する。また、コアと中間層の境界部r
1=11mmにおいてゲルマニウムはコアから中間層に向けて連続的に濃度変化している。一方、中間層とクラッド層との境界部r
2=38mmにおいてフッ素は不連続的に濃度変化している。
【0037】
図7は、
図5に示した光ファイバ用シリカガラス母材の半径方向の各位置のOH基の濃度を示す。OH基の濃度は、光ファイバ用シリカガラス母材を長手方向に100mmの長さで切り出して、両端面を鏡面研磨し、FTIR分析機を用いて測定した。なお、測定は、赤外光の入射側と出射側とに1.5mm角の正方アパーチャを設けて測定し、各測定点の積算回数は60,000回とした。
図7に示すように、OH基の濃度は、中間層とトレンチ層との境界部において局所的に1.2重量ppmとなっており、トレンチ層とクラッド層との境界部において局所的に6.2重量ppmとなっている。
【0038】
この母材を線引きして、コア半径が3.42μmの光ファイバを作製する場合を想定して、
図5に示した屈折率分布に基づいて光ファイバの波長1310nmにおける推定モードフィールド直径を算出したところ、8.73μmであった。この推定モードフィールド直径を線引き前の母材サイズに換算するとM
Pは28.1mmであり、中間層とトレンチ層の界面位置直径との比2r
2/M
Pは2.70となっている。このように、2r
2/M
Pを2.6以上、好ましくは2.7以上とすることによって、中間層とトレンチ層との界面に0.5〜5重量ppmのOH基が存在していても光ファイバの伝送損失への影響を抑制することができ、良好な伝送損失の光ファイバを線引き可能な母材とできる。
【0039】
ここで、モードフィールド直径の母材サイズ換算値Mpの算出方法について説明する。母材から光ファイバを作製するときは、一般に母材の一端から加熱して軟化した母材を所定の光ファイバ直径になるように延伸する。例えば、IEC 60793−2−50国際規格(副題 Optical Fibres−Part2−50:Product specifications−Sectional specification for classB singlemode fibres)に記載のclassBシングルモードファイバの場合は、その直径は125μmである。このとき、母材のコア、クラッド等の屈折率分布構造の半径方向の相対的な位置関係が、光ファイバになった後も保持されるように延伸される事が肝要であり、母材の半径方向の屈折率分布と光ファイバのそれとは相似形となっている。
【0040】
一方、光ファイバに特定の波長の光を入射したしたときの光の電界分布パターンは、原理的に光ファイバの屈折率分布によって決定される。そして、その電界分布パターンから計測されるモードフィールド直径もまた、光ファイバの屈折率分布を反映したものとなる。従って、母材の屈折率分布に基づいて、それを所定の外径の(つまり、所定のコア半径の)光ファイバに延伸したときのモードフィールド直径を推定することが可能ということになる。母材の屈折率分布形状から、光ファイバのモードフィールド直径を算出するには、次のような手法による。まず、目標とする光ファイバの外径とそれに対応するコア半径を設定する。例えば、コアの比屈折率差が0.3〜0.45%の場合、このコア半径は概ね3〜4.5μmに設定すると、前述のIEC classBに規定された光ファイバの光学特性に合致する。
【0041】
次に、母材の半径方向の屈折率分布形状に設定したコア半径を適用し、伝搬する光波のマックスウェル方程式をあてはめて電界分布を計算する。有限要素法等による数値計算を行うと精度良く計算でき、例えば、Katsunari Okamoto,"Comparison of calculated and measured impulse responses of optical fibers,"Applied Optics, vol.18, No.13 (1979), pp.2199−2206に記載の計算手法を適用することができる。
【0042】
こうして求めた電界分布計算値からモードフィールド直径を算出する。この算出方法は、K.Petermann,"CONSTRAINTS FOR FUNDAMENTAL−MODE SPOT SIZE FOR BROADBAND DISPERSION−COMPENSATED SINGLEMODE FIBERS,"Electronics Letters, vol.19, No.18(1983),pp.712−714に示されたスポットサイズ(=モードフィールド半径)の定義式に従って計算するとよい。この様にして、母材の屈折率分布、所定のコア半径および所定の光の波長から、光ファイバにおけるモードフィールド直径の推定値が一義的に決定される。こうして求めたモードフィールド直径は、母材のサイズに換算することができる。すなわち、上記計算時に設定した光ファイバのコア半径と母材のコア半径実測値との比率で割り戻せば良い。例えば、実施例2−1の場合、母材コア半径r
1=11mmを光ファイバコア半径3.42μmにした際のモードフィールド直径を推定計算すると8.73μmであった。これを母材サイズに換算して8.73μm×(11mm/3.42μm)=28.1mmというように、Mpを計算できる。
【0043】
実際にこの母材を約2100℃に加熱軟化させて線引きを行い、コア半径が3.42μmの光ファイバを作製した。軟化した母材はその屈折率分布の位置関係を保ったまま変形して光ファイバに延伸されるため、出来上がった光ファイバの屈折率分布は母材の屈折率分布とほぼ相似形となる。この光ファイバの波長1310nmにおけるモードフィールド直径の実測値は8.71μmとほぼ推定通りであった。このファイバの伝送損失は波長1310nmにおいて0.324dB/km、1383nmにおいて0.302dB/km、1550nmにおいて0.182dB/kmと良好であった。
【0044】
光ファイバ中にOH基が存在していると、波長1383nmに吸収ピークが出現するために、伝送損失に影響を及ぼすことが知られているが、2r
2/M
Pを2.70とした効果で、OH基の影響は小さかった。また、このファイバの22mでのカットオフ波長は1208nm、波長1550nmにおける半径5mmの曲げ損失は0.126dB/turnであった。零分散波長は1322nmであった。
【0045】
このように、零分散波長が一般の長距離系の用途に用いられるシングルモード光ファイバと同等の1300〜1324nmの範囲にあると好ましい。これは、長距離系とアクセス系とに別々の光ファイバを用いるのではなく、アクセス系に用いる光ファイバをそのまま長距離系にも援用したいという市場要求があるためである。
【0046】
この光ファイバに対し、室温(約25℃)で水素(H
2)1気圧の雰囲気下に40時間晒す水素エージング試験を行なった。エージングの前後で光ファイバの伝送損失スペクトルを測定したが、異常は認められなかった。このことから、当該光ファイバには、パーオキシラジカル等の構造欠陥が存在しないことが判明した。
【0047】
実施例2−1と同様の母材を、コア半径が3.53μmの光ファイバを想定して、波長1310nmの推定モードフィールド直径を算出したところ8.85μmであった。この推定モードフィールド直径を線引き前の母材サイズに換算するとM
Pは27.5mmであり、中間層とトレンチ層の界面位置直径との比2r
2/M
Pは2.76となる。このように、2r
2/M
Pを2.75以上とすることによって、中間層とトレンチ層との界面に存在するOH基の光ファイバの伝送損失への影響をさらに抑制することができ、さらに良好な伝送損失の光ファイバを線引き可能な母材とできる。
【0048】
実際に母材を線引きしてコア半径が3.53μmの光ファイバを作製した。波長1310nmにおけるモードフィールド直径の実測値は8.85μmと推定通りであった。このファイバの伝送損失は波長1310nmにおいて0.321dB/km、1383nmにおいて0.295dB/km、1550nmにおいて0.180dB/kmとなり、2r
2/M
Pを2.76とした効果で、OH基の影響はほとんど見られなかった。また、このファイバの22mでのカットオフ波長は1231nm、零分散波長は1319nm、波長1550nmにおける半径5mmの曲げ損失は0.086dB/turnであった。
【0049】
実施例2−2
実施例2−1と同様にVAD法を用いて、中心部には正のドーパントとしてゲルマニウムを添加し、外周部には正のドーパントを含まない純シリカガラスからなる、中心部・外周部の構造の多孔質ガラス母材を形成した。ここで,中心部は光ファイバ用母材のコアとなる領域であり、外周部は光ファイバ用母材の中間層となる部分である。
【0050】
この多孔質ガラス母材を塩素ガス(Cl
2)含有雰囲気で約1150℃で加熱して多孔質シリカガラス中のOH基を除去する「脱水」を行い、引続き四フッ化シラン(SiF
4)を混入させたヘリウム(He)ガス雰囲気で約1420℃で加熱して透明ガラス化をする。こうして,中心に屈折率が純シリカガラスより高いコア、その周囲にフッ素が添加されたシリカガラスの中間層をもつ第1中間母材を得た。
【0051】
ここで、脱水時に、中心部の多孔質ガラス中に含まれるゲルマニウムに塩素ガスが作用して塩化ゲルマニウム(GeCl
X)を生成し、多孔質ガラス母材の外周方向に向かってわずかに拡散する。これにより、コア内のゲルマニウム濃度は若干低下し、中間層にはゲルマニウムが半径方向に不均一に添加された。また、透明ガラス化時に導入する四フッ化シランによって、中間層にフッ素(F)を半径方向に不均一に添加した。
【0052】
次に、実施例2−1と同様に、この第1中間母材の外径ならびに中間層の厚みを所定の値になるように加工を行ない、この外側にトレンチ層を形成して第2中間母材を作製した。具体的には、第1中間母材のコア径が長手方向に均一になるようにロッド全体を延伸し、中間層の厚みが所定厚みとなるように中間層の表面をフッ化水素酸(HF)水溶液によって削った後、その表面に多孔質シリカガラスのトレンチ層を堆積させた。トレンチ層の多孔質ガラスを堆積するのに先立ち、ロッド表面をガラス原料を含まない酸水素火炎で炙り、OH基を導入した。そして、このロッドに堆積した多孔質シリカガラストレンチ層を塩素ガス含有雰囲気で約1200℃で加熱して多孔質シリカガラス中のOH基を除去する脱水を行い、引続き四フッ化シラン(SiF
4)等のフッ素含有ガスを混入させたヘリウムHeガス雰囲気で約1400℃で加熱して透明ガラス化をした。こうして,中心にコア、その周囲に中間層、その周囲にフッ素が添加されたトレンチ層をもつ第2中間母材とした。中間層とトレンチ層の界面にガラス構造緩和ドーパントを導入した効果で、界面付近のガラス構造緩和が促進され、界面での発泡が抑制された。
【0053】
次いで、この第2中間母材のトレンチ層の厚みが所定量になるようにフッ化水素酸で表面を削る加工を行ない、その外周にクラッド層を形成した。第2中間母材を、クラッド用のシリカガラス製チューブに挿入し、チューブの内部を真空ポンプで減圧しながら約2000℃に加熱し、中間クラッドとコア部とを一体化させて、光ファイバ用の透明ガラス母材を作製した。これにより、トレンチ層とクラッド層の界面にはOH基がほとんど含有しない。こうして,中心にコア、その周囲に中間層、その周囲にフッ素が添加されたトレンチ層、その外側に純シリカガラスからなるクラッド層をもつ最終母材とした。母材のトレンチ層とクラッド層の界面付近に部分的に0.5〜1mm程度の大きさの発泡が散見された。
【0054】
図8は、実施例2−2に係る光ファイバ用母材の屈折率分布を示す。ここで、コアと中間層の界面の半径位置r
1は2.6mm、中間層とトレンチ層の界面の半径位置r
2は8.9mm、トレンチ層とクラッド層の界面位置r
3は11.8mmである。コアはほぼステップ形状の屈折率分布となっており、クラッドの純シリカガラスを基準とした比屈折率差は中心部で0.36%、最大で0.42%である。また、中間層の比屈折率差は、半径位置r
1で最大値0.16%であり、外周方向に向かってなだらかに低下して、半径位置r
2で最小値−0.16%である。トレンチ層はほぼステップ形状の屈折率分布となっており、最小値−0.595%である。
【0055】
図9は、
図8に示した光ファイバ用シリカガラス母材の半径方向の各位置のゲルマニウム濃度およびフッ素濃度を示す。ゲルマニウム濃度およびフッ素濃度は、光ファイバ用シリカガラス母材を切り出して表面を鏡面研磨し、EPMA分析装置を用いて、ゲルマニウム濃度およびフッ素濃度を計測した。なお、
図6に示すゲルマニウム濃度およびフッ素濃度は重量%であり、ゲルマニウム濃度は二酸化ゲルマニウム(GeO
2)重量%換算値である。
【0056】
ここで、半径位置2.6mm〜8.9mmの中間層において、ゲルマニウムおよびフッ素がそれぞれ半径方向に不均一にドープされている。中間層のゲルマニウム濃度は半径位置r
1=2.6mmにおいて最大で、半径方向外側に向かって連続的に徐々に減少し、半径位置5.5mmでゼロとなり、そこから外側に向かってクラッド層までゼロである。また、フッ素濃度は半径位置r
2=8.9mmにおいて最大で、半径方向内側に向かって徐々に減少し、半径位置5.5mmでゼロとなり、そこから内側に向かってコアまでゼロである。したがって、中間層は、半径方向に3層から構成されており、半径方向内側より、ゲルマニウムを含有しフッ素を含有しない領域、ゲルマニウムとフッ素のどちらも含有しない領域、フッ素を含有しゲルマニウムを含有しない領域を有する。また、コアと中間層の境界部r
1=2.6mmにおいてゲルマニウムはコアから中間層に向けて連続的に濃度変化している。一方、中間層とクラッド層との境界部r
2=8.9mmにおいてフッ素は不連続的に濃度変化している。
【0057】
図10は、
図8に示した光ファイバ用シリカガラス母材の半径位置2.6mm〜8.9mmの中間層における屈折率分布の半径方向の1次微分値および2次微分値を示す。1次微分値は中間層において負の値をとっており、これは屈折率が半径方向に連続的に減少していることを示している。一方、2次微分値は半径位置3.7mm付近と7.8mm付近においてその符号が正から負に変化する変曲点が存在する。これら2カ所はそれぞれコアから中間層へ、中間層からトレンチ層への屈折率遷移によるものである。一方、半径位置6mm付近において、そこを境にその符号が負から正に変化しており、ここにも屈折率の変曲点が存在している。中間層のこの半径位置6mmにおける変曲点よりも内側では正のドーパントであるゲルマニウムの濃度が次第に減少して変曲点付近から外側では濃度がゼロになるのに対応しており、同時に変曲点の外側では外側から内側に向かって負のドーパントであるフッ素の濃度が次第に減少して変曲点付近から内側では濃度がゼロになるのに対応している。
【0058】
図11は、
図8に示した光ファイバ用シリカガラス母材の半径方向の各位置のOH基の濃度を示す。OH基の濃度は、光ファイバ用シリカガラス母材を100mmの長さで輪切りにして、両端面を鏡面研磨し、FTIR分析機を用いて測定した。なお、測定は、赤外光の入射側と出射側とに1.5mm角の正方アパーチャを設けて測定し、各測定点の積算回数は60,000回とした。
図8に示すように、OH基の濃度は、中間層とトレンチ層との境界部において局所的に0.9重量ppmとなっており、トレンチ層とクラッド層との境界部において局所的に0.2重量ppmとなっていた。
【0059】
この母材から、コア半径が3.58μmの光ファイバを作製する場合を想定して、
図8に示した屈折率分布に基づいて光ファイバの波長1310nmにおける推定モードフィールド直径を算出したところ、8.38μmであった。この推定モードフィールド直径を線引き前の母材サイズに換算するとM
Pは6.1mmであり、中間層とトレンチ層の界面位置直径との比2r
2/M
Pが2.92となるように中間層の厚みが調整されている。中間層とトレンチ層との界面に0.9重量ppmのOH基が存在しているものの光ファイバの伝送損失への影響を抑制することができる。
【0060】
実際にこの母材を約2100℃に加熱軟化させて線引きを行い,コア半径が3.58μmの光ファイバを作製した。波長1310nmにおけるモードフィールド直径の実測値は8.43μmとほぼ推定通りであった。このファイバの伝送損失は波長1310nmにおいて0.331dB/km、1383nmにおいて0.296dB/km、1550nmにおいて0.184dB/kmと良好であった。また、このファイバの22mでのカットオフ波長は1250nm、零分散波長は1320nm、波長1550nmにおける半径5mmの曲げ損失は0.040dB/turnであった。
【0061】
比較例2−1
第1中間母材を作製する時に、VAD工程の外側バーナに供給する酸素、水素の流量を増量して多孔質シリカガラスの嵩密度を高めにし、脱水は塩素含有雰囲気で1050℃で実施し、透明ガラス化はフッ素含有ガスを含まないヘリウムガスのみの雰囲気で約1500℃に加熱して行った。その後は実施例1と同様の方法でトレンチ層を形成して第2中間体とし,さらに実施例2−1と同様の方法でクラッド層を形成して光ファイバ用シリカガラス母材とした。
【0062】
図12は、比較例2−1に係る光ファイバ用シリカガラス母材の屈折率分布を示す。ここで、コアと中間層の界面の半径位置r
1=2.9mm、中間層とトレンチ層の界面の半径位置r
2=9.0mm、トレンチ層とクラッド層の界面位置r
3=12.1mmである。コアはほぼステップ形状の屈折率分布となっており、クラッドの純シリカガラスを基準とした比屈折率差は中心部で0.32%、最大で0.39%である。また、中間層の屈折率はほぼ平坦でその比屈折率差は、コア近傍で最大値0.03%となっているほかは全域にわたってほぼ0.0%である。トレンチ層はほぼステップ形状の屈折率分布となっており、−0.58%である。
【0063】
図13は、
図12に示した光ファイバ用シリカガラス母材の半径方向の各位置のゲルマニウム濃度およびフッ素濃度を示す。ゲルマニウム濃度およびフッ素濃度は、光ファイバ用シリカガラス母材を切り出して表面を鏡面研磨し、EPMA分析装置を用いて、ゲルマニウム濃度およびフッ素濃度を計測した。なお、
図13に示すゲルマニウム濃度およびフッ素濃度は重量%であり、ゲルマニウム濃度は二酸化ゲルマニウム(GeO
2)重量%換算値である。
【0064】
ここで、半径位置2.9mm〜9.0mmの中間層へ、ゲルマニウムは積極的に添加されていない。コアに含まれていたゲルマニウムが僅かに拡散しているのみである。中間層のゲルマニウム濃度は半径位置r
1=2.6mmにおいて最大で、半径方向外側に向かって急激に減少し、半径位置4.5mmでほぼゼロとなる。また、コアおよび中間層への積極的な負のドーパントの添加はされていない。フッ素濃度はコアと中間層の全域にわたってゼロである。
【0065】
この母材から、コア半径が3.63μmの光ファイバを作製する場合を想定して、
図9に示した屈折率分布に基づいて光ファイバの波長1310nmにおける推定モードフィールド直径を算出したところ、8.86μmであった。この推定モードフィールド直径を線引き前の母材サイズに換算するとM
Pは7.05mmであり、中間層とトレンチ層の界面位置直径との比2r
2/M
Pが2.55となるように中間層の厚みが調整されている。
【0066】
実際にこの母材を約2100℃に加熱軟化させて線引きを行い、コア半径が3.63μmの光ファイバを作製した。波長1310nmにおけるモードフィールド直径の実測値は8.87μmとほぼ推定通りであった。このファイバの伝送損失は波長1310nmにおいて0.341dB/km、1383nmにおいて0.364dB/km、1550nmにおいて0.201dB/kmであった。1383nmの値が大きいのはOH基による吸収損失である。また、1550nmの値が大きいのは構造不整損失の影響と推察される。
【0067】
このファイバの22mのカットオフ波長は1230nm、零分散波長は1315nm、波長1550nmにおける半径5mmの曲げ損失は0.179dB/turnであった。また、この光ファイバに対し、室温(約25℃)で水素(H
2)1気圧の雰囲気下に40時間晒す水素エージング試験を行なった。エージングの前後で光ファイバの伝送損失スペクトルを測定比較したところ、1520nm付近の損失増が認められたことから、パーオキシラジカル等の構造欠陥が存在することが判明した。
【0068】
パーオキシラジカル等の構造欠陥の原因は、中間層へのゲルマニウムの添加が殆ど無いことが一因と考えられる。比較例2−3では、コア部に添加したゲルマニウムが僅かに中間部に拡散しておりますが、実質的な添加量はほぼゼロとなっている。パーオキシラジカル欠陥は、母材が加熱軟化され光ファイバに延伸され固化するときに、コア部と中間部の界面、中間部とトレンチ部の界面、トレンチ部とクラッド部の界面、などのガラス組成が急激に変化する界面において、ガラス構造緩和が進みにくいために生じる。したがって、中間層へゲルマニウムやフッ素を添加して、コア部と中間層の界面および中間部とトレンチ部の界面のガラス組成の変化を緩和することによって、ガラス構造緩和を進めることができ、パーオキシラジカル等の構造欠陥を抑制できる。
【0069】
以上、説明したように本実施例に示した光ファイバ用シリカガラス母材から作成された光ファイバは、コアと低屈折率クラッド部との間の中間層の屈折率をなだらかに低下させることにより、急激な屈折率変動による母材中の泡またはパーオキシラジカル等の構造欠陥の発生を抑制する。これにより、伝搬光の曲げ損失を低減して、零分散波長を1300〜1324nmに調整できる。さらに、中間層の途中に屈折率の突出部を設けることにより、モードフィールド直径を広げる効果が得られ、通常のシングルモード光ファイバとの接続損失を低減できる。
【0070】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。